説明

車両用内装材の製造方法

【課題】深絞り成形で成形された部位の薄肉化を抑制可能な車両用内装材の製造方法を得ることを目的とする。
【解決手段】温度制御手段62は、ドアトリム12を構成する基材30のうち、ドアアームレスト部26となる深絞り部30Bの加熱温度が、トリム本体部12Aとなる基材本体部30Aの加熱温度よりも低くなるように、各加熱器46A,46Bの加熱ブロックの加熱温度を制御する。更に、温度制御手段62は、基材本体部30Aのうち、深絞り部30Bと隣接する部位(以下、「隣接部位30AR」という)の加熱温度が、基材本体部30Aの他の部位の加熱温度(基準温度)よりも高くなるように、各加熱器46A,46Bの加熱ブロックの加熱温度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用内装材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用内装材の基材として、架橋された樹脂発泡シート材の表面及び裏面に、樹脂シート材をそれぞれ重ね合わせた3層構造の積層シートを用いたものが知られている。(例えば、特許文献1)。特許文献1に開示された技術では、加熱された積層シートにプレス成形で凹凸を付けることにより、所定形状の内装材が成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−227129号公報
【0004】
しかしながら、前述したプレス加工において、例えば、深絞り成形される部位(深絞り成形部)では、他の部位と比較して積層シートの伸び量が大きくなるため、成形された内装材の肉厚が薄くなり易く、剛性の低下や破れ等の原因となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事実を考慮し、深絞り成形で成形された部位の薄肉化を抑制可能な車両用内装材の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る車両用内装材の製造方法は、架橋熱可塑性発泡樹脂製の発泡シート材を有する基材を加熱器で加熱し、軟化させた状態で成形装置によりプレス成形することにより、車両用内装材を製造する車両用内装材の製造方法に用いられ、前記加熱器が、深絞り成形される前記基材の深絞り部を該基材における前記深絞り部以外の部位である本体部よりも低い温度で加熱する。
【0007】
請求項1に係る車両用内装材の製造方法によれば、加熱器が、深絞り成形される基材の深絞り部を、基材における深絞り部以外の部位である本体部よりも低い温度で加熱する。このように、深絞り部の加熱温度を本体部の加熱温度よりも低くすることにより、深絞り部の溶融張力が本体部の溶融張力よりも大きくなり、深絞り部を所定量伸ばすのに必要となる力が、本体部を所定量伸ばすのに必要なる力よりも大きくなる。換言すると、深絞り部の伸び率が本体部の伸び率よりも小さくなる。
【0008】
従って、例えば、基材をプレス成形したときに、深絞り部と本体部の伸び量が同一になるように、加熱器で深絞り部と本体部との間に温度差を設けることにより、深絞り部を深絞り成形した成形部(深絞り成形部)の薄肉化を抑制することができる。これにより、深絞り成形部の剛性の低下や破れが防止されるため、車両用内装材の品質が向上する。
【0009】
また、深絞り成形部の薄肉化を抑制することにより、絞り元の基材の板厚を薄くすることが可能となるため、車両用内装材の軽量化や材料コストの削減を図ることができる。
【0010】
請求項2に係る車両用内装材の製造方法は、架橋熱可塑性発泡樹脂製の発泡シート材を有して構成され、深絞り成形される深絞り部と該深絞り部以外の部位である本体部とを備えた基材における前記深絞り部を前記本体部よりも低い温度で加熱し、前記本体部及び前記深絞り部を軟化させる加熱工程と、軟化された前記本体部及び前記深絞り部を成形装置によりプレス成形し、前記深絞り部に深絞り成形部を成形する成形工程と、を備えている。
【0011】
請求項2に係る車両用内装材の製造方法によれば、加熱工程において、加熱器が基材の深絞り部を、基材における深絞り部以外の部位である本体部よりも低い温度で加熱する。このように、深絞り部の加熱温度を本体部の加熱温度よりも低くすることにより、深絞り部の溶融張力が本体部の溶融張力よりも大きくなり、深絞り部を所定量伸ばすのに必要となる力が、本体部を所定量伸ばすのに必要なる力よりも大きくなる。換言すると、深絞り部の伸び率が本体部の伸び率よりも小さくなる。
【0012】
従って、加熱工程において、深絞り部と本体部の伸び量が同一になるように、加熱器で深絞り部と本体部との間に温度差を設けることにより、成形工程において、深絞り部に形成された深絞り成形部の薄肉化を抑制することができる。これにより、深絞り成形部の剛性の低下や破れが防止されるため、車両用内装材の品質が向上する。
【0013】
また、深絞り成形部の薄肉化を抑制することにより、絞り元の基材の板厚を薄くすることが可能となるため、車両用内装材の軽量化や材料コストの削減を図ることができる。
【0014】
請求項3に係る車両用内装材の製造方法は、請求項1又は請求項2に記載の車両用内装材の製造方法において、前記加熱器が、前記本体部における前記深絞り部に隣接する部位を、該本体部における他の部位の温度よりも高い温度で加熱する。
【0015】
請求項3に係る車両用内装材の製造方法によれば、加熱器によって、基材の本体部における深絞り部に隣接する部位(以下、「隣接部位」という)を、本体部における他の部位よりも高い温度で加熱することにより、深絞り部と本体部の隣接部位との間の温度差を大きくすることができる。従って、深絞り部と本体部の隣接部位の間の温度差の調整が容易となるため、深絞り成形された深絞り成形部の板厚の調整が容易となる。
【0016】
請求項4に係る車両用内装材の製造方法は、請求項1〜3の何れか1項に記載の車両用内装材の製造方法において、前記加熱器が、前記発泡シート材の融点以上の温度で前記本体部を加熱し、前記発泡シート材の融点よりも低い温度で前記深絞り部を加熱する。
【0017】
請求項4に係る車両用内装材の製造方法によれば、加熱器が、発泡シート材の融点以上の温度で本体部を加熱し、発泡シート材の融点よりも低い温度で深絞り部を加熱する。ここで、基材の伸び率は、発泡シート材の融点を境に大きく変動する。従って、本発明のように、発泡シート材の融点以上の温度で本体部を加熱し、発泡シート材の融点よりも低い温度で深絞り部を加熱することにより、本体部の伸び量と深絞り部の伸び量との差を大きくすることができる。従って、本体部及び深絞り部の伸び量の調整が容易となるため、深絞り成形された深絞り成形部の板厚の調整が容易となる。
【0018】
請求項5に係る車両用内装材の製造方法は、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の車両用内装材の製造方法において、前記基材が、前記発泡シート材の表面に重ねられた樹脂製の第1シート材と、前記発泡シート材の裏面に重ねられた樹脂製の第2シート材と、を有する。
【0019】
請求項5に係る車両用内装材の製造方法によれば、発泡シート材の表面及び裏面に、樹脂製の第1シート材及び樹脂製の第2シート材をそれぞれ重ねることにより、車両用内装材の剛性が増加すると共に、車両用内装材の意匠性が向上する。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明に係る車両用内装材の製造方法によれば、深絞り成形で成形された部位の薄肉化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用内装材の製造方法によって製造されたドアトリムを備えたフロントサイドドアを示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるドアトリムを示す図1の拡大断面図である。
【図3】本発明の一実施形態における真空成形装置において、ドアトリムを構成する基材を加熱器で加熱する状態を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施形態におけるドアトリムを構成する基材と真空成形装置の下型との位置関係を示す図3の一部を拡大した拡大図である。
【図5】本発明の一実施形態における真空成形装置において、ドアトリムを構成する基材から加熱器が退避した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る車両用内装材の製造方法について説明する。なお、図1及び図2に示される矢印UPは車両上下方向上側を示し、矢印INは車両幅方向内側(車室内側)を示している。
【0023】
図1には、一例として、本実施形態に係る車両用内装材の製造方法によって製造されたフロントサイドドア10のドアトリム12が示されている。
【0024】
車両用ドアとしてのフロントサイドドア10は、ドアアウタパネル14と、ドアアウタパネル14の車両幅方向内側に配置されるドアインナパネル16を備えている。ドアアウタパネル14とドアインナパネル16とは車両幅方向に対向すると共に、車両上下方向下側の端部でヘミング加工により結合されている。また、ドアアウタパネル14及びドアインナパネル16における車両上下方向上側の端部の間には、図示しないドアガラスが昇降するための隙間18が設けられている。更に、ドアアウタパネル14の車両上下方向上側の端部における車両幅方向内側には、ドアアウタリインホースメント20が接合されており、これにより、ドアアウタパネル14の車両上下方向上側の端部が補強されている。これと同様に、ドアインナパネル16の車両上下方向上側の端部における車両幅方向外側には、ドアインナリインホースメント22が接合されており、これにより、ドアインナパネル16の車両上下方向上側の端部が補強されている。
【0025】
ドアインナパネル16に車両幅方向内側には、車両用内装材としてのドアトリム12が取り付けられている。このドアトリム12は、車両幅方向から見て略矩形形状に形成されており、その長手方向を車両前後方向(図1における紙面奥行き方向)にして配置されると共に、ドアインナパネル16と車両幅方向に対向している。ドアトリム12の車両上下方向上側の端部には、膨出部24が設けられている。膨出部24は絞り成形(浅絞り成形)によって成形され、トリム本体部12Aから車両幅方向内側へ凸状に膨出している。
【0026】
また、ドアトリム12の車両上下方向の中央部には、深絞り成形部としてのドアアームレスト部26が設けられている。ドアアームレスト部26は膨出部24よりも絞り深さが深い深絞り成形によって形成され、トリム本体部12Aから車両幅方向内側へ凸状に突出している。このドアアームレスト部26の上側壁部26Aは略水平とされ、図示しない乗員の腕が載置し易くなっている。一方、ドアアームレスト部26の下側壁部26Bは、トリム本体部12Aからドアアームレスト部26の底壁部26Cへ向かって車両幅方向内側へ傾斜している。
【0027】
図2には、ドアトリム12を構成する基材30を拡大した拡大断面図が示されている。基材30は、中層を構成する発泡シート材32と、表層を構成する2枚の表皮シート材34,36とを積層した3層構造の積層シートで構成されている。発泡シート材32は、架橋構造を有する熱可塑性発泡樹脂(架橋熱可塑性発泡樹脂)製で、例えば、ポリプロピレン系樹脂を主成分とした樹脂に対し、架橋補助剤、発泡剤を添加して溶融混合したものをシート状に成形し、得られたシート材に電解性放射線等を照射して架橋したものである。
【0028】
なお、発泡シート材32を構成する樹脂は、熱可塑性を有し、かつ架橋可能であれば良く、ポリプロピレン系樹脂に限らない。また、架橋補助剤及び発泡剤は、従来周知のものを適宜用いることができる。また、発泡シート材32のゲル分率は、深絞り成形部としてのドアアームレスト部26の伸び量を考慮し、50%以上であることが好ましい。なお、ここでいうゲル分率とは、次のものをいう。即ち、発泡シート材片を所定温度(例えば、100℃)のキシレンに浸けて溶解させたものを濾過し、不溶解物を採取する。この不溶解物の重量を発泡シート材片の重量で除した値を百分率(%)で表したものである。また、発泡シート材32の目付(目付け量)は、150g/m〜500g/mが好ましい。
【0029】
発泡シート材32の表面及び裏面には、第1シート材,第2シート材としての2枚の表皮シート材34,36がそれぞれ重ねられている。これらの表皮シート材34,36は、例えば、ポリプロピレン系樹脂を主成分する樹脂製のシート材で、発泡シート材32よりも板厚が薄くなっている。なお、本実施形態では、一例として、発泡シート材32の板厚が3mm〜5mmとされ、表皮シート材34,36の板厚が100μm〜300μmとされている。また、基材30は、後述する深絞り部30Bと、深絞り部30B以外の部位である基材本体部30Aを備えている。
【0030】
次に、本実施形態に係る車両用内装材の製造方法に用いられる真空成形装置について説明する。
【0031】
図3に示されるように、成形装置としての真空成形装置40は、下型42と、上型44と、一対の加熱器46A,46Bを備えている。下型42は、図示しない昇降装置によって上下方向(矢印Z方向)に移動可能に支持されている。下型42の上面は、ドアトリム12の車両幅方向内側の面(以下、「内面」という)を形成する成形面42Aとされている。この成形面42Aの一端側(図3において、左側)には、ドアトリム12の膨出部24を形成する凹部48が設けられ、成形面42Aの略中央部には、ドアアームレスト部26を成形する凹部50が設けられている。また、成形面42Aには、複数の吸引孔52が形成されている。これらの吸引孔52は成形面42Aから下方へ延び、下型42の下部に設けられた吸引管54を介して図示しない真空ポンプ等の吸引手段に接続されている。この吸引手段を駆動し、吸引孔52から空気を吸引することにより、基材30が成形面42Aに吸着されるようになっている。
【0032】
下型42の上方に設けられた上型44は、図示しない昇降装置によって上下方向(矢印Z方向)に移動可能に支持されている。上型44の下面は、ドアトリム12の車両幅方向外側の面(以下、「外面」という)を形成する成形面44Aとされている。この成形面44Aにおける下型42の凹部48,50と対向する部位には、ドアトリム12の膨出部24を形成する凸部56、ドアアームレスト部26を成形する凸部58がそれぞれ設けられている。なお、本実施形態では、一例として、凸部58の突出量Kが約80mmとされている。
【0033】
下型42及び上型44の左右両側には、基材30の端部を挟持する上下一対の固定クランプ60がそれぞれ設けられている。これらの固定クランプ60によって、基材30が上型44と下型42の間で保持されるようになっている。
【0034】
一対の加熱器46A,46Bは、略水平に配置されたハロゲンヒータ等で構成されている。各加熱器46A,46Bは、固定クランプ60で保持された基材30の上下方向両側に配置され、図示しない移動装置によって水平方向(矢印X方向)に移動可能に支持されている。これらの加熱器46A,46Bで基材30の内面及び外面を加熱し、基材30を軟化させた状態で、下型42と上型44との間で基材30がプレス成形される。このプレス成形によって、基材30にトリム本体部12A、膨出部24、及びドアアームレスト部26が成形される。
【0035】
ここで、深絞り成形されるドアアームレスト部26の上側壁部26Aでは、基材30の伸び量が大きく、板厚が薄くなり易いため、剛性の低下や破れの原因となる。そこで、本実施形態では、基材30の温度よる溶融張力の差を利用して、トリム本体部12Aとドアアームレスト部26の板厚が同一又は略同一(本実施形態では、±2%以下)となるように、加熱器46A,46Bによる基材30の加熱温度を制御している。具体的には、各加熱器46A,46Bは、平面視にて格子状に分割された複数の加熱ブロック(図示省略)を有し、加熱ブロック毎に加熱温度が変更可能になっている。これらの加熱ブロックの加熱温度は、加熱器46A,46Bにそれぞれ接続された温度制御手段62によって制御可能になっている。
【0036】
温度制御手段62には、基材30のうち、ドアアームレスト部26となる深絞り部30Bの加熱温度が、トリム本体部12Aとなる基材本体部30Aの加熱温度よりも低くなるように、各加熱器46A,46Bにおける加熱ブロックの加熱温度が設定されている。更に、温度制御手段62には、図4に示されるように、基材本体部30Aのうち、深絞り部30Bと隣接する部位(以下、「隣接部位30AR」という)の加熱温度が、基材本体部30Aの他の部位の加熱温度(基準温度)よりも高くなるように、各加熱器46A,46Bにおける加熱ブロックの加熱温度が設定されている。
【0037】
本実施形態では、一例として、基材本体部30Aの隣接部位30AR以外の部位を加熱する加熱温度(以下、「基準温度」という)が、基材30の発泡シート材32(図2参照)の融点付近の温度(約160℃)に設定され、深絞り部30Bの加熱温度が、発泡シート材32の融点よりも低い温度(約150℃)に設定され、隣接部位30ARの加熱温度が、基材本体部30Aの他の部位の加熱温度(基準温度)よりも高い温度(約170℃)に設定されている。
【0038】
なお、図4において、深絞り部30Bと基材本体部30Aの隣接部位30ARとの間の部位は、深絞り部30Bと隣接部位30ARとの温度差を吸収する吸収部位とされており、この吸収部位によって、深絞り部30Bから隣接部位30ARに向かって温度が徐々に高くなるようになっている。なお、この吸収部位は適宜省略可能である。
【0039】
ここで、本実施形態における深絞り成形部とは、絞り成形によって成形された成形部であって、その側壁部の絞り深さをDとし、当該側壁部を絞り元の基材に投影した投影長さをLとしたときに、絞り比D/Lが3以上(D/L≧3)となる側壁部を含む成形部を意味する。ドアアームレスト部26を例に具体的に説明すると、図4の二点差線で示されるように、下側壁部26Bの絞り深さはDであり、下側壁部26Bの投影長さは、当該下側壁部26Bを絞り元の基材である基材30に投影した長さLとなる。この下側壁部26Bでは、絞り比D/Lが3よりも小さいくなっているが、ドアアームレスト部26の上側壁部26Aでは、絞り比D/Lは3以上になっている。従って、ドアアームレスト部26は、絞り比D/Lが3以上の上側壁部26Aを含むため、深絞り成形部となる。
【0040】
なお、本実施形態では、ドアアームレスト部26全体を深絞り成形部としているが、絞り比D/Lが3以上となるドアアームレスト部26の上側壁部26Aのみを深絞り成形部としても良い。この場合、基材30では、ドアアームレスト部26の上側壁部26Aとなる部位が深絞り部となり、他の底壁部26C及び下側壁部26Bとなる部位は基材本体部となる。
【0041】
次に、本実施形態に係るドアトリムの製造方法の一例について説明する。
【0042】
先ず、図3に示されるように、上型44と下型42との間に基材30を略水平にした状態で配置し、固定クランプ60に保持させる。次に、図示しない移動装置によって各加熱器46A,46Bを水平方向(矢印X方向)に移動し、基材30と上型44との間、及び基材30と下型42の間に加熱器46A,46Bそれぞれ配置する。
【0043】
次に、加熱工程において、加熱器46A,46Bで基材30の内面及び外面を加熱し、基材30を軟化させる。この際、温度制御手段62で各加熱器46A,46Bの加熱ブロック(図示省略)の加熱温度を制御し、基材30の深絞り部30Bを基材本体部30Aの基準温度(約160℃)よりも低い温度(約150℃)で加熱する。更に、図4に示されるように、深絞り部30Bに隣接する基材本体部30Aの隣接部位30ARを、基材本体部30Aの基準温度よりも高い温度(約170℃)で加熱する。
【0044】
次に、図示しない移動装置によって各加熱器46A,46Bを水平方向(矢印X方向)に移動し、図5に示されるように、基材30と上型44の間、及び基材30と下型42との間から退避させる。
【0045】
次に、成形工程において、図示しない吸引手段を駆動し、吸引孔52から空気を吸引しながら、図示しない昇降装置によって下型42を上昇(矢印Z方向)させると共に、上型44を下降(矢印Z方向)させる。これにより、吸引手段の吸引力によって基材30が下型42側へ凸状に緩やかに湾曲した後、下型42の凹部48,50内に上型44の凸部56,58をそれぞれ挿入され、下型42の成形面42Aと上型44の成形面44Aとの間で基材30がプレス成形される。これにより、下型42の凹部48と上型44の凸部56との間で、ドアトリム12の膨出部24(図1参照)が浅絞り成形されると共に、下型42の凹部50と上型44の凸部58との間で、ドアトリム12のドアアームレスト部26(図1参照)が深絞り成形される。
【0046】
次に、図示しない昇降装置によって下型42を下降させると共に、上型44を上昇させ、プレス成形されたドアトリム12を脱型し、冷却する。これにより、ドアトリム12が製造される。
【0047】
次に、本実施形態に係る車両用内装材の製造方法の作用及び効果について説明する。
【0048】
本実施形態では、前述したように、加熱工程において、トリム本体部12A及びドアアームレスト部26の板厚が同一又は略同一となるように、基材30の加熱温度が制御される。具体的には、基材30の深絞り部30Bが基材本体部30Aの加熱温度(基準温度)よりも低い温度で加熱される。更に、深絞り部30Bに隣接する基材本体部30Aの隣接部位30ARが、基材本体部30Aの他の部位の加熱温度(基準温度)よりも高い加熱温度で加熱される。このように、深絞り部30Bと隣接部位30ARとの間に温度差を設けることにより、深絞り部30Bの溶融張力が基材本体部30Aの隣接部位30ARの溶融張力よりも大きくなり、深絞り部30Bを所定量伸ばすのに必要となる力が、隣接部位30ARを所定量伸ばすのに必要なる力よりも大きくなる。換言すると、深絞り部30Bの伸び率が隣接部位30ARの伸び率よりも小さくなる。
【0049】
従って、成形工程において、下型42の凹部50と上型44の凸部58との間で、深絞り部30Bを深絞り成形したときに、深絞り部30Bの伸び量が相対的に小さくなる一方で、隣接部位30ARの伸び量が相対的に大きくなる。これにより、プレス成形されたトリム本体部12Aとドアアームレスト部26の板厚が同一又は略同一となる。従って、ドアトリム12の品質が向上する。また、深絞り部30Bと隣接部位30ARとの間に温度差がない場合と比較して、ドアアームレスト部26の薄肉化が抑制され、剛性の低下や破れが防止される。特に、絞り比D/Lが3以上(D/L≧3)となるドアアームレスト部26の上側壁部26Aの薄肉化が抑制される。
【0050】
このように、ドアアームレスト部26の薄肉化を抑制することにより、絞り元の基材30の板厚を薄くすることが可能となるため、ドアトリム12の軽量化や材料コストの削減を図ることができる。更に、本実施形態では、図示しない吸引手段を駆動して吸引孔52から空気を吸引し、基材30を下型42側へ凸状に緩やかに湾曲させた状態で、下型42の成形面42Aと上型44の成形面44Aとの間で基材30をプレス成形する。このように、下型42の成形面42Aと上型44の成形面44Aとの間で基材30をプレス成形する前に、基材30を下型42側へ凸状に緩やかに湾曲させることにより、基材30の偏伸び等が抑制されるため、ドアトリム12の板厚をより均一にすることができる。
【0051】
また、深絞り部30Bに隣接する基材本体部30Aの隣接部位30ARを、基材本体部30Aの他の部位の加熱温度(基準温度)よりも高い加熱温度で加熱することにより、深絞り部30Bと隣接部位30ARの温度差を大きくすることができる。従って、深絞り部30Bと隣接部位30ARの温度差の調整が容易となるため、深絞り成形されたドアアームレスト部26の板厚の調整が容易となる。
【0052】
更に、基材本体部30Aは、発泡シート材32の融点付近の温度で加熱され、深絞り部30Bは、発泡シート材32の融点よりも低い温度で加熱される。ここで、基材30の伸び率は、発泡シート材32の融点を境に大きく変動する。従って、本実施形態のように、基材本体部30Aの加熱温度(基準温度)を発泡シート材32の融点付近の温度に設定し、深絞り部30Bの加熱温度を発泡シート材32の融点よりも低い温度に設定することにより、基材本体部30Aの伸び量と深絞り部30Bの伸び量との差が大きくなる。従って、基材本体部30A及び深絞り部30Bの伸び量の差の調整が容易となるため、深絞り成形されたドアアームレスト部26の板厚の調整が容易となる。
【0053】
また、本実施形態では、基材30の中層(コア層)を構成する発泡シート材32を架橋熱可塑性発泡樹脂で構成している。このように発泡シート材32を架橋された熱可塑性発泡樹脂で構成することにより、架橋されていない熱可塑性発泡樹脂で構成する場合と比較して、発泡シート材32の伸び率が大きくなると共に、偏伸びが抑制される。従って、ドアトリム12の板厚をより均一にすることができる。
【0054】
更に、基材30は、発泡シート材32の表面及び裏面に表皮シート材34,36をそれぞれ積層した3層構造の積層シートで構成されている。このように、表皮シート材34,36で発泡シート材32の表面及び裏面を覆うことにより、ドアトリム12の剛性が増加すると共に、ドアトリム12の意匠性が向上する。
【0055】
なお、上記実施形態では、基材本体部30Aの隣接部位30ARの加熱温度を基材本体部30Aの他の部位の加熱温度(基準温度)よりも高くしたが、隣接部位30ARの加熱温度は、基材本体部30Aの加熱温度と同じでも良い。この場合、加熱器46A,46Bの温度制御が単純化されるため、ドアトリム12の製造コストを削減することができる。
【0056】
また、上記実施形態では、深絞り部30Bの加熱温度を基材30を構成する発泡シート材32の融点よりも低い温度で加熱したが、これに限らない。深絞り部30Bの加熱温度は、基材本体部30Aの加熱温度(基準温度)よりも低ければ良く、発泡シート材32(図2参照)の融点よりも高い温度で加熱しても良い。更に、深絞り部30B、基材本体部30Aにおける隣接部位30AR、及び基材本体部30Aの他の部位の加熱温度は、基材30の板厚や、基材30を構成する樹脂等に応じて適宜変更可能である。
【0057】
また、上記実施形態では、下型42に形成された吸引孔52から空気を吸引し、基材30を下型42側へ凸状に湾曲させながら下型42の成形面42Aと上型44の成形面44Aとの間で基材30をプレス成形したが、これに限らない。例えば、上型44の成形面44Aに形成された噴出孔から空気を噴出し、基材30を下型42の成形面42Aに押し付けながら、下型42の成形面42Aと上型44の成形面44Aとの間で基材30をプレス成形しても良い。また、上記吸引孔52による真空成形、及び上記噴出孔による圧空成形を組み合わせて用いても良いし、真空成形及び圧空成形を省略しても良い。
【0058】
また、上記実施形態では、基材30を3層構造の積層シートで構成したが、例えば、表皮シート材34,36の一方を省略して2層構造にしても良いし、表皮シート材34,36の両方を省略し、発泡シート材32のみで基材30を構成しても良い。これとは逆に、他のシート材を更に積層し、4層構造以上の積層シートで基材30を構成しても良い。
【0059】
更に、上記実施形態に係る車両用内装材の製造方法は、フロントサイドドア10のドアトリム12に限らず、例えば、リアサイドドアのドアトリム、クォータトリム、スライドドアトリム等の車両用内装材にも適用可能である。
【0060】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0061】
次に、比較例と対比しながら、本実施形態の実施例について説明する。
【0062】
本実施形態に係る車両用内装材の製造方法によって製造されたドアトリムと、比較例に係る製造方法によって製造された従来のドアトリムについて、ドアアームレスト部の上側壁部の板厚t(図1参照)を比較した。実施例におけるドアトリムと、比較例におけるドアトリムで用いた基材の構成を表1に示す。なお、実施例における基材と比較例における基材との相違点は、発泡シート材の架橋構造の有無である。
【0063】
【表1】

【0064】
また、実施例における基材では、一対の加熱器により深絞り部を150℃、深絞り部に隣接する基材本体部の隣接部位を170℃、基材本体部の他の部位を160℃(基準温度)で加熱し、軟化させた状態で真空成形装置40(図3参照)によりプレス成形した。一方、比較例における基材では、一対の加熱器により深絞り部、隣接部位、及び基材本体部の他の部位の何れも160℃(基準温度)で加熱し、軟化させた状態で、実施例と同じ真空成形装置40でプレス成形した。プレス成形時における下型の成形面と上型の成形面とのクリアランスは、実施例及び比較例の何れも4.0mmとした。
【0065】
以上のようにして製造された実施例及び比較例のドアトリムのドアアームレスト部における上側壁部の板厚t(図1参照)の測定結果を表2に示す。なお、ドアアームレスト部の上側壁部の板厚tは、図1に示すドアアームレスト部の車両幅方向の中央部に設けられた測定範囲S(S=50mm)で複数回測定した。表2には、測定された板厚tの最小値と最大値が示されている。
【0066】
【表2】

【0067】
表2に示されるように、実施例に係るドアトリムでは、ドアアームレスト部の上側壁部の板厚tが3.9mm〜4.1mmの範囲となり、プレス形成時における下型の成形面と上型の成形面とのクリアランス(4.0mm)にほぼ一致していることが分かる。なお、板厚tの最大値は4.1mmとなり、上記クリアランスの4.0mmを超えているが、これは、発泡シート材を構成する架橋ポリプロピレンフォームの復元力(弾性力)によるものと考えられる。
【0068】
一方、比較例に係るドアトリムでは、ドアアームレスト部の上側壁部の板厚tが2.5mm〜3.6mmとなり、プレス形成時における上型の成形面と下型の成形面のクリアランス(4.0mm)よりも薄くなっていることが分かる。これは、ドアアームレスト部となる深絞り部の加熱温度をトリム本体部となる基材本体部の加熱温度とを同じしたことにより、深絞り成形による深絞り部の伸び量が過大になったためと考えられる。
【符号の説明】
【0069】
12 ドアトリム(車両用内装材)
26 ドアアームレスト部(深絞り成形部)
30 基材
30A 基材本体部(本体部)
30AR 隣接部位(深絞り部に隣接する部位)
30B 深絞り部
32 発泡シート材
34 表皮シート材(第1シート材)
36 表皮シート材(第2シート材)
40 真空成形装置(成形装置)
46A 加熱器
46B 加熱器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋熱可塑性発泡樹脂製の発泡シート材を有する基材を加熱器で加熱し、軟化させた状態で成形装置によりプレス成形することにより、車両用内装材を製造する車両用内装材の製造方法に用いられ、
前記加熱器が、深絞り成形される前記基材の深絞り部を該基材における前記深絞り部以外の部位である本体部よりも低い温度で加熱する車両用内装材の製造方法。
【請求項2】
架橋熱可塑性発泡樹脂製の発泡シート材を有して構成され、深絞り成形される深絞り部と該深絞り部以外の部位である本体部とを備えた基材における前記深絞り部を前記本体部よりも低い温度で加熱し、前記本体部及び前記深絞り部を軟化させる加熱工程と、
軟化された前記本体部及び前記深絞り部を成形装置によりプレス成形し、前記深絞り部に深絞り成形部を成形する成形工程と、
を備える車両用内装材の製造方法。
【請求項3】
前記加熱器が、前記本体部における前記深絞り部に隣接する部位を、該本体部における他の部位の温度よりも高い温度で加熱する請求項1又は請求項2に記載の車両用内装材の製造方法。
【請求項4】
前記加熱器が、前記発泡シート材の融点以上の温度で前記本体部を加熱し、前記発泡シート材の融点よりも低い温度で前記深絞り部を加熱する請求項1〜3の何れか1項に記載の車両用内装材の製造方法。
【請求項5】
前記基材が、前記発泡シート材の表面に重ねられた樹脂製の第1シート材と、前記発泡シート材の裏面に重ねられた樹脂製の第2シート材と、を有する請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の車両用内装材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−126349(P2012−126349A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281942(P2010−281942)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】