説明

車両用内装部材の放熱構造

【課題】 日射により蓄熱した内装部材の熱源を乗員から離すことにより、乗員に対する熱負荷軽減を促進できる車両用内装部材の放熱構造を提供する。
【解決手段】 インストルメントパネル3の基材6の表面を表面被覆材7で被覆し、インストルメントパネル3の裏面3aとダッシュパネル8との間にヒートパイプ10を取り付けて、日射により蓄熱した表面被覆材7の熱をヒートパイプ10を介してダッシュパネル8に輸送して車室外に放熱するにあたって、インストルメントパネル3の表面被覆材7の厚さtを、乗員側から遠ざかる方向に向かって徐々に薄肉化したので、表面被覆材7が保有する熱量を減少させることで輻射による移動熱量を抑制し、これによって乗員に影響する熱輻射を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直射日光によりインストルメントパネルなどの車両用内装部材に蓄熱した熱を外部に放熱するようにした車両用内装部材の放熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
炎天下に自動車を駐車しておくと車室内温度が上昇するが、この温度上昇の大きな要因の1つに、フロントウインドウ直下に配置されるインストルメントパネルの表面被覆材に蓄熱した熱を車室内空気中に輻射することが考えられ、この場合、インストルメントパネルの表面温度は90゜Cを超え、室内温度が70゜C近くに達する場合もある。
【0003】
このため、従来ではインストルメントパネルの蓄熱をヒートパイプを介して車室外に放熱することが提案され、例えば、ヒートパイプの一端部を空調装置のエバポレータに接続する一方、他端部をインストルメントパネルの裏面側へ伸延して、そのインストルメントパネルの緩衝材内に導熱板(高熱伝導材)に接触させた状態で埋設することにより、インストルメントパネルの蓄熱をヒートパイプを介してエバポレータに熱輸送して、そのエバポレータから大気中に放熱するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−138366号公報(第4頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、かかる従来の車両用内装部材の放熱構造では、インストルメントパネルの表面全面を被覆する表面被覆材は、その全面で均一な厚さに形成されているため、その表面被覆材での蓄熱量もインストルメントパネル全面でほぼ等しくなる。
【0005】
このため、表面被覆材が保有する熱量も全面でほぼ同等となるため、インストルメントパネルに蓄熱された熱の輻射が乗員に大きく影響し、乗員側に重きをおいた熱負荷低減の促進が困難になってしまう。
【0006】
そこで、本発明は日射により蓄熱した内装部材の熱源を乗員から離すことにより、乗員に対する熱負荷軽減を促進できる車両用内装部材の放熱構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両用内装部材の放熱構造は、車室内に配設される内装部材の表面被覆材に蓄熱した熱を、熱輸送手段を介して車室外方に設けたヒートシンクに輸送して車室外に放熱するにあたって、前記内装部材の表面被覆材の厚さを、乗員側から遠ざかる方向に向かって徐々に薄肉化したことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両用内装部材の放熱構造によれば、直射日光によりインストルメントパネルに蓄熱された熱は輻射によって移動し、その結果、乗員への熱負荷が増大することになるが、内装部材の表面被覆材の厚さを乗員側から遠ざかる方向に向かって徐々に薄肉化したことにより、表面被覆材が保有する熱量を減少させることで輻射による移動熱量を抑制し、これによって乗員に影響する熱輻射を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面と共に詳述する。
【0010】
図1〜図7は本発明の車両用内装部材の放熱構造の第1実施形態を示し、図1は本発明を適用する車両の全体斜視図、図2はインストルメントパネルの一般部分の拡大断面図、図3はインストルメントパネルの取付状態を示す側面図、図4はインストルメントパネルの取付状態を示す正面図、図5はインストルメントパネルに適用した放熱構造の底面図、図6は導熱板の底面図、図7は熱の流れを示すインストルメントパネルの底面図である。
【0011】
本実施形態の車両用内装部材の放熱構造1は、図1に示すように自動車2の車両用内装部材としてのインストルメントパネル3に適用され、炎天下に自動車2を駐車しておく場合に、フロントガラス4やフロントサイドガラス5から差込む太陽の直射日光によって、フロントガラス4の直下にある前記インストルメントパネル3、特に後述の表面被覆材7に太陽熱が蓄熱される。
【0012】
インストルメントパネル3は、図2に示すように骨格となる基材6の表面を表面被覆材7で被覆することにより構成され、インストルメントパネル3の裏面3aとヒートシンクとして用いるダッシュパネル8との間に熱輸送手段としてのヒートパイプ10を取り付けてある。
【0013】
前記表面被覆材7は、図2に示すように基材6の表面に添着される緩衝材7aと、該緩衝材7aの表面を薄膜状に被覆する表皮7bとで構成される。
【0014】
前記ヒートパイプ10は、一般に知られるように冷媒として用いる液体の蒸発と凝縮の潜熱を利用して局部の熱を他部で放熱するように形成された閉ループ構造体で、例えば中空の密閉された管状体内に水やアルコールなどの液体を封入し、その密閉管状体の一端側に伝達された熱で蒸発した封入液体を他端側のヒートシンクで放熱しつつ凝縮して液化させ、この液体を再度一端側に移送させるという循環サイクルを形成することが基本構造となるが、本実施形態のヒートパイプ10はその基本構造を用いて構成した各種ヒートパイプを用いることができる。
【0015】
前記ヒートパイプ10は、図3に示すようにインストルメントパネル3への取付け側端部10aが受熱側となり、ダッシュパネル8への取付け側端部10bが放熱側となる。
【0016】
ここで、本発明では前記インストルメントパネル3の表面被覆材7の厚さt(図2,図3参照)を、乗員側から遠ざかる方向、つまり車両前方に向かって徐々に薄肉化してある。
【0017】
前記ヒートパイプ10は、図4に示すように複数本が設けられ、それぞれの受熱側端部10aをインストルメントパネル3の乗員から遠ざかる側、つまり車両前方側に予め固定してある。
【0018】
前記ヒートパイプ10は直線状に形成して短縮化し、後述する導熱板12からダッシュパネル8に熱の漏洩を少なくして効率良く輸送できるようになっており、また、ヒートパイプ10の放熱側端部10bは、車体組み付け時にダッシュパネル8に設けた差込み金具11(図3参照)に挿入して取り付けるようになっている。
【0019】
前記インストルメントパネル3の裏面には、図3,図5,図6に示すように前記ヒートパイプ10の受熱側端部10aに接触する導熱板12を備え、該導熱板12とインストルメントパネル3とは、共通の締結部材としての取付けボルト13を介して前記ダッシュパネル8に共締めされる。
【0020】
尚、前記取付けボルト13は図1,図4に示すように車幅方向に所定間隔を設けて2箇所取り付けられる。
【0021】
前記導熱板12は、図5,図6に示すようにフロントガラス4の車幅方向曲率に沿って円弧状に形成されたインストルメントパネル3の上面部3bの形状に沿って弓形に形成され、かつ、この上面部3bの裏面3aのほぼ全面を覆う形状となっている。
【0022】
尚、インストルメントパネル3の上面部3bおよび導熱板12には、それぞれ対応する位置に空調装置の吹出口14が形成されている。
【0023】
従って、インストルメントパネル3に蓄熱された熱は前記導熱板12で集熱され、その熱は導熱板12の下側に結合された前記ヒートパイプ10を介してダッシュパネル8に輸送されて、そのダッシュパネル8からエンジンルームに、および該ダッシュパネルに接続した車体外板より大気中へと放出される。
【0024】
前記インストルメントパネル3の基材6や前記表面被覆材7には良熱伝導物質を含有または積層してあり、その良熱伝導物質とは金属粉、金属繊維、金属ネット、金属板、カーボン粉、カーボンファイバー、セラミック粉、セラミック繊維、セラミックマットの単体若しくは複合体からなっている。
【0025】
また、前記導熱板12は、銅、アルミニウム、鉄などの良熱伝導体で形成してある。
【0026】
以上の構成により本実施形態の車両用内装部材の放熱構造によれば、図7に示すように太陽Sからの直射日光がフロントガラス4を通してインストルメントパネル3に照射されることにより、該インストルメントパネル3の表面被覆材7に蓄熱された熱は導熱板12に集熱された後、該導熱板12の熱は図中矢印に示すようにヒートパイプ10へと熱輸送される熱勾配が発生し、該ヒートパイプ10からヒートシンクとなるダッシュパネル8へと輸送されて車体外方に放熱される。
【0027】
このとき、本実施形態では直射日光によりインストルメントパネル3に蓄熱された熱は輻射によって移動し、その結果、乗員への熱負荷が増大することになるが、本発明ではインストルメントパネル3の表面被覆材7の厚さtを乗員側から遠ざかる方向に向かって徐々に薄肉化したことにより、表面被覆材7が保有する熱量を減少させることで輻射による移動熱量を抑制し、これによって乗員に影響する熱輻射を抑制することができる。
【0028】
また、本実施形態では前記ヒートパイプ10を複数本設けて、それぞれの受熱側端部10aをインストルメントパネル3の乗員側から遠ざかる側に予め固定しておくことにより、乗員側から遠ざかる方向に集中させた熱を効率良くダッシュパネル8に輸送して外気に放熱できるとともに、ヒートパイプ10でインストルメントパネル3の乗員側から遠ざかる側を補強できるので、表面被覆材7を車両前方で薄肉化したことによる強度不足を補うことができる。
【0029】
更に、前記インストルメントパネル3の裏面に設けた導熱板12とインストルメントパネル3とを、共通の締結部材としての取付けボルト13を介して前記ダッシュパネル8に共締めしたので、インストルメントパネル3の取り付けと同時に導熱板12をダッシュパネル8に固定することができ、取付け作業を簡素化して迅速な組み付けが可能になるとともに、インストルメントパネル3と導熱板12との接触面積を確保することができる。
【0030】
更にまた、前記インストルメントパネル3の基材6や前記表面被覆材7に、金属粉、金属繊維、金属ネット、金属板、カーボン粉、カーボンファイバー、セラミック粉、セラミック繊維、セラミックマットの単体若しくは複合体からなる良熱伝導物質を含有または積層したので、通常基材6や表面被覆材7を構成する合成樹脂の熱抵抗値を変更して熱勾配を発生させて熱移動を積極的に行うことができるようになり、ひいては放熱効果を向上させることができる。
【0031】
また、前記導熱板12は、銅、アルミニウム、鉄などの良熱伝導体で形成したので、インストルメントパネル3に蓄熱した熱を導熱板12によって効率良く輸送できるようになり、ひいては、その導熱板12に温度勾配を効率良く発生させることができる。
【0032】
図8は本発明の第2実施形態を示し、前記第1実施形態と同一構成部分に同一符号を付して重複する説明を省略して述べるものとし、図8はインストルメントパネルの底面図である。
【0033】
本実施形態の車両用内装部材の放熱構造は、図8に示すように基本的に第1実施形態と同様の構成となり、特に第1実施形態と異なる点は導熱板12の車幅方向両端部に跨って熱輸送手段としてのヒートパイプ20を取り付けたことにある。
【0034】
前記ヒートパイプ20は第1実施形態に用いたヒートパイプ10と同様の構成となり、そのヒートパイプ20によって導熱板12の車幅方向両端部を直線状に連結してある。
【0035】
従って、本実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏するのは勿論のこと、導熱板12の車幅方向両端部分間を、ヒートパイプ20によって接続したので、太陽Sが自動車2に対して側方に大きく傾いて偏日射状態となった場合に、前記ヒートパイプ20の車幅方向端部の一方が放熱部となるため、前記導熱板12には温度勾配が常に発生することになり、効率良く放熱システムを機能させることができる。
【0036】
また、導熱板12はダッシュパネル8にインストルメントパネル2とともに共締めするのみでは、それら導熱板12とダッシュパネル8との接触面積が十分ではなく、また、太陽光の偏日射の影響で導熱板12の表面が一定温度になった場合は、その導熱板12の温度勾配が減少して熱輸送の効果が低減されるが、前記ヒートパイプ20を設けたことにより導熱板12の両端部間に熱勾配を効率良く発生させることができる。
【0037】
ところで、本発明は前記第1,第2実施形態に例をとって説明したが、これら実施形態に限ることなく本発明の要旨を逸脱しない範囲で他の実施形態を各種採用することができ、ヒートパイプ10,20の数などを適宜設定することができ、また、本発明を適用する車両用内装部材としてインストルメントパネル3を例示したが、これ以外の内装部材、例えばリヤパーセルシェルフにあっても本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明を適用する車両の全体斜視図。
【図2】本発明の第1実施形態におけるインストルメントパネルの一般部分の拡大断面図。
【図3】本発明の第1実施形態におけるインストルメントパネルの取付状態を示す側面図。
【図4】本発明の第1実施形態におけるインストルメントパネルの取付状態を示す正面図。
【図5】本発明の第1実施形態におけるインストルメントパネルに適用した放熱構造の底面図。
【図6】本発明の第1実施形態における導熱板の底面図。
【図7】本発明の第1実施形態における熱の流れを示すインストルメントパネルの底面図。
【図8】本発明の第2実施形態におけるインストルメントパネルの底面図。
【符号の説明】
【0039】
1 放熱構造
2 自動車
3 インストルメントパネル(車両用内装部材)
6 機材
7 表面被覆材
8 ダッシュパネル(ヒートシンク)
10 ヒートパイプ(熱輸送手段)
10a ヒートパイプの受熱側端部
12 導熱板
13 取付けボルト(締結部材)
20 ヒートパイプ(熱輸送手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内に配設される内装部材の表面被覆材に蓄熱した熱を、熱輸送手段を介して車室外方に設けたヒートシンクに輸送して車室外に放熱する車両用内装部材の放熱構造において、
前記内装部材の表面被覆材の厚さを、乗員側から遠ざかる方向に向かって徐々に薄肉化したことを特徴とする車両用内装部材の放熱構造。
【請求項2】
熱輸送手段を1本若しくは複数本設け、それぞれの受熱側端部を内装部材の乗員側から遠ざかる側に予め固定しておくことを特徴とする請求項1に記載の車両用内装部材の放熱構造。
【請求項3】
内装部材の裏面若しくは内部に前記熱輸送手段の受熱側端部に接触する導熱板を備え、該導熱板と内装部材とを共通の締結部材を介して車体側取付部に共締めしたことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用内装部材の放熱構造。
【請求項4】
内装部材の基材および/または前記表面被覆材に、金属粉、金属繊維、金属ネット、金属板、カーボン粉、カーボンファイバー、セラミック粉、セラミック繊維、セラミックマットの単体若しくは複合体からなる良熱伝導物質を含有または積層したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の車両用内装部材の放熱構造。
【請求項5】
導熱板は、銅、アルミニウム、鉄などの良熱伝導体で形成したことを特徴とする請求項3または4に記載の車両用内装部材の放熱構造。
【請求項6】
導熱板の車幅方向両端部に跨って熱輸送手段を取り付けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の車両用内装部材の放熱構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−341686(P2006−341686A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−168237(P2005−168237)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】