説明

車両用冷却装置

【課題】クロスフローファンをファンが抵抗にならない領域で確実に作動させる。
【解決手段】エンジンルーム5内の前部に配置した熱交換器12の後方下部にクロスフローファン13を設置し、これら相互間に設けたシュラウド17に開閉ドア19を設ける。ファン13のファンモータ13aに流れる電流値が、所定時間におけるあらかじめ定めた上昇率未満で、かつ、前記電流値が、ファン13の特性から所定値以上の上昇率となる電流値未満のときに、開閉ドア19を閉じ状態としてファン13を駆動し、前記電流値があらかじめ定められた上昇率以上、もしくは、所定値以上の上昇率となる電流値以上のときに、開閉ドア19を開放してファン13の前部を覆う状態とし、ファン13を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部に搭載した熱交換器と、この熱交換器の車両前方と同後方との少なくともいずれか一方に配置したクロスフローファンと、熱交換器とクロスフローファンとの間で、車両前方から同後方に向けて空気が流れる空気流路を形成する空気案内部材とを備え、車両前方から空気流路に向けて流れる空気流によって熱交換器を冷却する車両用冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両前部には、エンジン冷却水を冷却する熱交換器(ラジエータ)やエアコンの冷媒を冷却液化する熱交換器(コンデンサ)を配置している。これらの熱交換器は車両走行風によって冷却されるが、車両が低速で走行しているとき(特に渋滞時など)には走行風が充分でなく、熱交換器を充分に冷却できない場合がある。このため、熱交換器の後部にファンを設置し、このファンを駆動して熱交換器の冷却を促進させている。
【0003】
この際、通常使用されている軸流ファンに対して上下高さを低く抑えることができるクロスフローファンを用いる場合がある。クロスフローファンは、流速が高まる(風量が多くなる)と静圧が急激に低下し、ファン自体が通気抵抗となってしまうという特徴がある。これはファンに押し込まれる走行風によって、ファンが自ら回る以上に強制的に回されてしまうために発生する。
【0004】
このため、車両が高速走行している場合などは、熱交換器の冷却効率が低下してしまうことが懸念されるので、従来では、車両が一定速度以上の高速走行時に、クロスフローファンの回転を妨げるような空気流の発生を阻止するファン覆い部分を設け、アイドル運転時や低速走行時にはファン覆い部分をクロスフローファンから遠ざけるようにして、クロスフローファンを、ファンが抵抗にならない領域で作動させるようにしている(下記特許文献1参照)。
【特許文献1】実開昭59−73522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ファンに流れ込む空気流は、例えば強い向い風といった外乱により、車両の速度に比例しない場合があり、このため、上記した従来技術のように、車両の速度によってクロスフローファンの作動領域を設定した場合には、例えばアイドル運転時や低速走行時に前方から強風が吹き付けたときに、ファン自体が通気抵抗となってしまうので、本来はファン覆い部分によりクロスフローファンを覆うべきところ、ファン覆い部分をクロスフローファンから遠ざけてクロスフローファンを作動させてしまうことになる。
【0006】
このように、従来の車両用冷却装置では、クロスフローファンをファンが抵抗にならない領域で確実に作動させることが困難となっている。
【0007】
そこで、本発明は、クロスフローファンをファンが抵抗にならない領域で確実に作動させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車両前部に搭載した熱交換器と、この熱交換器の車両前方と同後方との少なくともいずれか一方に配置したクロスフローファンと、前記熱交換器と前記クロスフローファンとの間で、車両前方から同後方に向けて空気が流れる空気流路を形成する空気案内部材とを備え、車両前方から前記空気流路に向けて流れる空気流によって前記熱交換器を冷却する車両用冷却装置において、前記空気案内部材に設けられ、車両前方からの空気流を前記クロスフローファンに導く導入状態と、前記空気流の少なくとも一部を前記クロスフローファンに対して回避させる回避状態とに切り替える流路切替手段と、前記クロスフローファンが、その駆動部への通電によって自ら回転し、前記空気流を発生させる第1のファン駆動状態と、その駆動部への通電によって自ら回転する以上に、車両前方からの空気流によって回転する第2のファン駆動状態とを判別するファン駆動状態判別手段と、
前記ファン駆動状態判別手段の判別結果に応じて前記流路切替手段を切替制御する制御手段とを有することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、クロスフローファンの駆動状態によって、流路切替手段を、車両前方からの空気流をクロスフローファンに導く導入状態と、空気流の少なくとも一部をクロスフローファンに対して回避させる回避状態とに切り替えるようにしたので、例えばアイドル運転時や低速走行時に前方から強風が吹き付け、実際の走行風量が多くなったときであっても、流路切替手段を回避状態としてファンが抵抗とならない状態に切り替えることで、クロスフローファンをファンが抵抗にならない領域で確実に作動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0011】
図1は、本発明の第1の実施形態に係わる車両用冷却装置を備えた車両前部の簡略化した断面図である。なお、図1中の矢印Fで示す方向が車体前方である。図1において、車体1の前部に設けてあるバンパー3の車両後方側のエンジンルーム5内には、車体前方側からコンデンサ7とラジエータ11とを順次配置している。
【0012】
コンデンサ7は、車室内を空調するためのエアコンの冷媒を液化させる熱交換器であり、ラジエータ11は、エンジン9の冷却水を冷却する熱交換器である。これらの熱交換器12は、通常は車両の走行時に前方から受ける走行風で冷却される。しかし、渋滞で車両が停止しているときや低速走行時などでは、走行風が発生していなかったり走行風の風量が充分でなかったりすることがあり、このような場合には強制的に熱交換器12を冷却するためのファン13を、これら各熱交換器12とエンジン9との間のエンジンルーム5の下部に設置している。
【0013】
本実施形態のファン13はクロスフローファンであり、全体として円筒形状を呈し、駆動部としてのファンモータ13aによって回転する回転軸13bの外周に多数のフィン13cを備えている。上記した回転軸13bは、車幅方向に延長するよう配置しており、複数のフィン13cも車幅方向に延長されている。
【0014】
上記したファン13と、コンデンサ7およびラジエータ11からなる熱交換器12との間には、車両前方から同後方に向けて空気が流れる空気流路15を形成する空気案内部材としてのシュラウド17を設けている。
【0015】
シュラウド17は、熱交換器12の上部とファン13の上部とを繋ぐ上部壁17aと、熱交換器12の下部とファン13の下部とを繋ぐ下部壁17bと、これら上部壁17a,下部壁17bで囲まれる空間(空気流路15)の車幅方向両側を覆い、かつ熱交換器12の車幅方向両側縁とファン13の車幅方向両側縁とを繋ぐ左右両側の側壁17cとを備えている。
【0016】
シュラウド17の上部壁17aは、熱交換器12の上部から下方の車体後方に向けて傾斜しており、この傾斜している部分のファン13側に設けた開口部17dに、流路切替手段としての開閉部材である開閉ドア19を設けている。
【0017】
開閉ドア19は、ファン13側に設けてある車幅方向に延びる回転支持軸21を中心として、図1の全閉状態から矢印Dで示す開放方向に回転可能である。この開閉ドア19の駆動手段としては、特に図示していないが、電動モータに限らず油圧による作動するものであってもよい。
【0018】
また、シュラウド17の下部壁17bは、ファン13から車体後方かつ上方に向けて突出する下部突出壁17eを備え、これに対応して開閉ドア19の下端の回転支持軸21付近から車体後方かつ上方に向けて突出する上部突出壁17fを備えている。これら各下部突出壁17e,上部突出壁17fで囲まれる空間の下流側の端部が、空気流路15の排出口15aとなり、該排出口15aは後方のエンジン9に指向している。
【0019】
そして、前記したファンモータ13aには、該ファンモータ13aに流れる電流の値を検出する電流センサ23を設け、電流センサ23の検出値は、例えばマイクロコンピュータで構成されるECU25に入力される。ECU25は、電流センサ23の検出電流値の入力を受けて、前記した開閉ドア19に対して開閉駆動制御するとともに、ファンモータ13aに対しても駆動制御する。
【0020】
図2は、ファン13が吐出する風量Vと、ファンモータ13aにおける電流値Aとの関係を示すもので、風量Vがある一定の値V1を越えた時点で静圧が急激に低下してファンの能力が低下していることがわかる。一方、電流値Aについては、この風量値V1を起点として風量の増加とともに逆に急激に上昇している。
【0021】
すなわち、上記したファンモータ13aにおける電流値Aは、風量V1に対応する電流値A1未満では、ほぼ一定であるのに対し、電流値A1以上では、風量Vの低下に反比例するように急激に上昇しており、ここでの電流値A1は、クロスフローファン(ファン13)の特性から所定値以上の上昇率となる電流値に対応している。
【0022】
この電流値A1以上のときには、ファン13は、ファンモータ13aに供給される電流によってファン13が自ら回転する以上に、車両前方からの走行風や外乱による風によって強制的に回されることになり、これとともに電流値が急激に上昇するのである。
【0023】
また、電流値Aが急激に上昇して電流値A2まで達すると、静圧は負圧側となってファン13は送風機として機能しなくなる。
【0024】
一方図3は、ファン13が作動しているときのファンモータ13aにおける電流値Aの変化を、時間Tの経過とともに示すもので、時間T1からT2までの所定時間の間に電流値AがA3からA4まで上昇していることを示す。
【0025】
上記図3での電流値Aの上昇率[電流変化(A4―A3)÷所定時間(T2−T1)]が、あらかじめ定めた上昇率Au未満のときは、ファン13が、走行風や外乱の風によって回されることなく、ファンモータ13aに供給された電流によってファン13が自力で回転する状態に相当する。
【0026】
ここでECU25は、ファン13が、走行風や外乱の風によって回されることなく、ファンモータ13aに供給される電流つまり駆動部への通電によって自ら回転して空気流を発生させる第1のファン駆動状態と、ファン13が、ファンモータ13aに供給された電流によって自ら回転する以上に、車両前方からの走行風や外乱による風(空気流)によって強制的に回される第2の駆動状態とを判別するファン駆動状態判別手段と、該ファン駆動状態判別手段の判別結果に応じて流路切替手段である開閉ドア19を切替制御する制御手段とを含んでいる。
【0027】
図4は、ECU25の制御動作を示すフローチャートであり、これに基づき第1の実施形態の作用を説明する。
【0028】
ここで、第1の実施形態では、上記図3での電流値Aの上昇率(電流変化÷所定時間)が、あらかじめ定めた上昇率Au未満で(ステップS1でYES)、かつ、前記図2での電流値Aが、ファン13の特性から所定値以上の電流上昇率となる電流値A1未満のとき(ステップS2でYES)には、ファン13が、走行風や外乱の風によって回されることなく、ファンモータ13aに供給された電流によって自ら回転する第1のファン駆動状態となる。
【0029】
この際、ECU25は、電流センサ23によって検出した電流値と内蔵するタイマの計測時間に基づき電流上昇率を演算し、この演算した電流上昇率と、前記したあらかじめ定めた図3の上昇率Auとを比較するとともに、電流センサ23によって検出した電流値Aが図2の電流値A1未満であるか否かを判断する。
【0030】
この状態では、エンジン9が低負荷運転領域にあり、熱交換器12を冷却するに際し、走行風だけで充分な場合(ファン13は駆動しない)と、エンジン9の運転負荷がある程度高く、走行風だけでは充分でない場合(ファン13は駆動する)がある。
【0031】
そこで、ECU25は、エンジン9の運転負荷Lを検出し、この運転負荷Lがある程度高くなる所定値以上のときに(ステップS3でYES)、開閉ドア19を、図1のように開口部17dが閉塞する(全閉)状態とし、かつファン13を駆動する(ステップS4)。
【0032】
ファン13の駆動により車両前方からの空気を空気流路15に取り入れ、これによりコンデンサ7やラジエータ11からなる熱交換器12を冷却するとともに、排出口15aから冷却風を排出してエンジン9の冷却も行う。
【0033】
すなわち、このとき、開閉ドア19を、車両前方からの空気流をファン13に導く導入状態とする。
【0034】
エンジン9の運転負荷Lが所定値未満のときには、開閉ドア19は、図5のように開口部17dが開放する(全開)状態とするとともに、この開放した開閉ドア19によりファン13の前部を覆うようにし、かつファン13を停止させる(ステップS5)。
【0035】
すなわち、このとき、開閉ドア19を、車両前方からの空気流をファン13に対して回避させる回避状態とする。
【0036】
また、第1の実施形態では、上記図3での電流値Aの上昇率(電流変化÷所定時間)が、あらかじめ定めた上昇率Au以上(ステップS1でNO)と、前記図2での電流値Aが、ファン13の特性から所定値以上の上昇率となる電流値A1以上(ステップS2でNO)との少なくともいずれか一方のときに、開閉ドア19を、図6のように開口部17dに対して半開状態とするなどして開度調整を行う(ステップS6)。
【0037】
すなわち、この場合は、ファンモータ13aにおける電流値Aが急激に上昇する心配があるか、またはファン13がファンモータ13aに供給された電流によって自ら回転する以上に走行風や外乱の風によって回されてしまう第2のファン駆動状態である。
【0038】
このような場合に、前記したように開閉ドア19の開度調整を行って、空気流路15を流れる冷却風を、ファン13に流れる量と、開口部17dを流れる量とを調整し、電流値Aの上昇率(電流変化÷所定時間)が、あらかじめ定めた上昇率Au未満となるようにするか、あるいは電流値Aが、ファン13の特性から所定値以上の上昇率となる電流値A1未満となるようにする。
【0039】
すなわち、このとき、開閉ドア19を、空気流の少なくとも一部をファン13に対して回避させる回避状態としている。
【0040】
また、本実施形態では、上記のように電流値Aを調整する過程において、該電流値Aが、図2での静圧が負圧側となってファン13が送風機として機能しなくなるA2以上となったときには(ステップS7でYES)、前記した図5のように、開閉ドア19を、開口部17dに対して全開状態としてファン13の前部を覆うようにするとともに、ファン13を停止させる(ステップS5)。
【0041】
これにより、車両前方からの走行風や外乱による風がコンデンサ7およびラジエータ11を通過して冷却した後、空気流路15から開口部17dを経て後方のエンジン9に向けて流れ、ファン13による冷却は行わない。
【0042】
以上より、第1の実施形態によれば、例えばアイドル運転時や低速走行時に前方から強風が吹き付け、実際の走行風量が多くなったときであっても、開閉ドア19を回避状態として冷却風をファン13に対して回避させ、ファン13が抵抗とならない状態に切り替えるので、クロスフローファン13を該ファン13が抵抗にならない領域で確実に作動させることが可能となる。
【0043】
また、前記流路切替手段を、前記空気案内部材に設けた開口部を開閉可能に設けた開閉部材で構成し、前記導入状態では前記開口部を閉塞する一方、前記回避状態では前記開口部を開放するようにしたので、簡単な構成でクロスフローファンを該ファンが抵抗にならない領域で確実に作動させることが可能となる。
【0044】
また、車両に搭載するエンジンの運転負荷が所定値以上のときに、前記開閉部材は前記開口部を全閉として前記流路切替手段を前記導入状態とするとともに、前記クロスフローファンを駆動するようにしたので、クロスフローファンの送風によって熱交換器を効率よく冷却することができる。
【0045】
また、車両に搭載するエンジンの運転負荷が所定値未満のときに、前記開閉部材は前記開口部を全開として前記流路切替手段を前記回避状態とするとともに、前記クロスフローファンを停止するようにしたので、走行風のみによって熱交換器を効率よく冷却することができる。
【0046】
さらに、前記駆動部の電流値が、前記クロスフローファンの回転により発生する静圧が負圧になる電流値となったときに、前記開閉部材は前記開口部を全開として前記流路切替手段を前記回避状態とするとともに、前記クロスフローファンを停止させるようにしたので、クロスフローファンが送風機として機能しない状態での無駄な駆動を防止することができる。
【0047】
図7は、本発明の第2の実施形態に係わる車両用冷却装置を備えた車両前部の簡略化した断面図である。なお、図7においては、図1と同様に矢印Fで示す方向が車体前方であり、図1と同一の構成要素には同一の符号を付してある。
【0048】
第2の実施形態は、図1に示した第1の実施形態における開閉ドア19に代えて、動圧開放部材としての動圧フラッパ27をシュラウド17の上部壁17aに複数設けるとともに、動圧フラッパ27の下端部とファン13との間にスライド部材としてのスライドドア29を設けている。これら動圧フラッパ27およびスライドドア29により流路切替手段を構成している。その他の構成は第1の実施形態と同様である。
【0049】
動圧フラッパ27は、上部壁17aの傾斜に沿って3箇所に設けてあり、それぞれに対応して設けてある開口部17gに対し、上端の回転支持部31を中心として図8,図9のように空気流路15を流れる空気流の動圧によって押されて開放可能である。
【0050】
一方、スライドドア29は、上部壁17aの下部に位置する上部突出壁17fの上部において、渦巻き状に巻き回した状態で後退位置として収容配置しているシャッター形状を呈し、ECU25によって駆動制御される図示しないモータなどの駆動手段によって図8,図9のように前進移動させた前進位置としてファン13の前部の一部もしくは全部を覆う状態となる。
【0051】
この際スライドドア29は、上部壁17aの下部に設けたドア挿入孔17hを通して前後移動し、また移動する際には、車幅方向両側に設けてあるガイド部33にガイドされて、図8,図9の状態を確保する。
【0052】
上記した第2の実施形態における図7に示す状態、すなわち動圧フラッパ27が全閉状態でかつスライドドア29が収納状態(後退位置)のときは、第1の実施形態における開閉ドア19が全閉となっている図1の状態に相当する。
【0053】
すなわち、図7の状態は、前記した図3での電流値Aの上昇率(電流変化÷所定時間)が、あらかじめ定めた上昇率Au未満で(ステップS1でYES)、かつ、前記図2での電流値Aが、ファン13の特性から所定値以上の上昇率となる電流値A1未満のとき(ステップS2でYES)で、さらにエンジン9が所定値以上の運転負荷領域(ステップS3でYES)で走行風だけの冷却では充分でない場合(ファン13は駆動する)に相当する。
【0054】
エンジン9が所定値未満の運転負荷領域では、図8に示すように、スライドドア29がファン13の前方のほぼ全域を覆う状態(前進位置)としてファン13を停止させ(ステップS5に相当)、動圧フラッパ27を前方からの空気流の動圧によって大きく開放させて走行風のみの冷却を行う。
【0055】
また、図9に示すように、スライドドア29が途中位置まで前進した状態は、第1の実施形態における開閉ドア19の開度を調整する図6に相当する。すなわち、図9の状態では、前記した図3での電流値Aの上昇率(電流変化÷所定時間)が、あらかじめ定めた上昇率Au以上(ステップS1でNO)と、前記図2での電流値Aが、ファン13の特性から所定値以上の上昇率となる電流値A1以上(ステップS2でNO)との少なくともいずれか一方のときに相当する。
【0056】
この場合には、スライドドア29の前進位置を調整することで、ファン13によって送風される空気量を調整し、またこの調整作業により空気流路15内の圧力が変化して動圧フラッパ27の開度が変化する。具体的には、スライドドア29をより前進位置とすることで、空気流路15内の圧力が高くなるので、動圧フラッパ27の開度が大きくなる。
【0057】
このとき調整するスライドドア29の前進位置は、図3での電流値Aの上昇率(電流変化÷所定時間)が、あらかじめ定めた上昇率Au未満となるようにするとともに、図2での電流値Aが、ファン13の特性から所定値以上の上昇率となる電流値A1未満となるようにする。
【0058】
また、第2の実施形態においても、上記のように電流値Aを調整する過程において、該電流値Aが、図2での静圧が負圧側となってファン13が送風機として機能しなくなるA2以上となったときには(ステップS7でYES)、前記した図8のように、スライドドア29を、最前進位置としてファン13の前方のほぼ全域を覆うようにするとともに、ファン13を停止させる(ステップS5に相当)。
【0059】
これにより、車両前方からの走行風や外乱による風がコンデンサ7およびラジエータ11を通過して冷却した後、空気流路15から開口部17gを経て後方のエンジン9に向けて流れ、ファン13による冷却は行わない。
【0060】
以上より、第2の実施形態においても、例えばアイドル運転時や低速走行時に前方から強風が吹き付け、実際の走行風量が多くなったときであっても、スライドドア29を回避状態(前進位置)として冷却風をファン13に対して回避させ、ファン13が抵抗とならない状態に切り替えるので、クロスフローファン13を該ファン13が抵抗にならない領域で確実に作動させることが可能となるなど、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0061】
また、第2の実施形態では、走行風によって動圧フラッパ27の開度が変化するので、走行風量に応じた冷却を効率よく行うことができる。
【0062】
なお、ファンモータ13aにおける電流値Aが、前記図2における電流値A1以上のときには、ファン13は、ファンモータ13aに供給される電流によって自ら回転する以上に、車両前方からの走行風や外乱による風によって回されることになることは前述したとおりであるが、このときの電流値A1、すなわちファン13が車両前方からの走行風や外乱による風によって回され始める時点では、図2に示すように、ファン13の静圧が最大でありファン13が最高の効率で作動していることになる。
【0063】
第3の実施形態では、このファン13による最高の効率点での電流値A1をあらかじめ求めておき、該電流値A1未満で、かつ、図4のフローチャートと同様にエンジン9の運転負荷Lが所定値以上のときに、第1の実施形態の開閉ドア19を前記図1のように全閉状態とし、第2の実施形態のスライドドア29を前記図7のように収納状態(後退位置)とする。このとき、ファン13を駆動してファン13による冷却を行う。
【0064】
エンジン9の運転負荷Lが所定値未満のときには、第1の実施形態の図5や第2の実施形態の図8と同様に、開閉ドア19やスライドドア29によりファン13を覆った状態としてファン13を停止させ、走行風のみの冷却を行う。
【0065】
また、ファンモータ13aにおける電流値AがA1以上のときには、第1の実施形態における開閉ドア19を図6のように開度調整してファン13に流れる空気流量を調整し、第2の実施形態のスライドドア29は図9のように前進途中位置としてファン13に流れる空気流量を調整する。
【0066】
これにより、第3の実施形態においても、クロスフローファン13を該ファン13が抵抗にならない領域で確実に作動させることが可能となる。
【0067】
また、第3の実施形態では、ファン13(ファンモータ13aを含む)個々の製造誤差などにより、最高効率点が微妙に異なることがあるので、この最高効率点をあらかじめ求めておくことで、製造誤差などがあっても、ファン13を自身が抵抗にならない領域で確実に作動させることが可能となる。
【0068】
なお、前記図4のフローチャートにおけるステップS3では、エンジン負荷(エンジン冷却水温)に代えてエアコン負荷に基づき判断するようにしてもよい。
【0069】
また、上記した各実施形態では、ファン13を、熱交換器12であるコンデンサ7およびラジエータ11の車両後方に配置しているが、ファン13を、これら熱交換器12の車両前方に配置した上で、前方のファン13と後方の熱交換器12との間にシュラウド17を設けるようにしてもよい。
【0070】
すなわち、この場合の熱交換器12,シュラウド17およびファン13の配置構成は、これらを図1または図7にて紙面裏側から見たものと同等となる。但し、図7の例では、動圧フラッパ27が車両前方からの走行風によって開放するように、車両後方側に変位する構造とする必要があり、この場合、動圧が作用しない自然状態では自重により開放してしまうので、閉方向(車両前方側)に向けてスプリングなどによって押圧して閉じ状態を確保し、動圧が作用したときに該スプリングの弾性力に抗して開放させるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の第1の実施形態に係わる車両用冷却装置を備えた車両前部の簡略化した断面図である。
【図2】図1の車両用冷却装置に使用するファンが吐出す風量と、ファンモータにおける電流値との相関図である。
【図3】図1の車両用冷却装置に使用するファンが作動しているときのファンモータにおける電流値の変化特性図である。
【図4】図1の車両用冷却装置におけるECUの制御動作を示すフローチャートである。
【図5】図1に対し開閉ドアの全開状態を示す動作説明図である。
【図6】図1に対し開閉ドアを開度調整している状態を示す動作説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係わる車両用冷却装置を備えた車両前部の簡略化した断面図である。
【図8】図7に対しスライドドアが最前進位置まで移動した状態を示す動作説明図である。
【図9】図7に対しスライドドアの前進位置を調整している状態を示す動作説明図である。
【符号の説明】
【0072】
7 コンデンサ(熱交換器)
11 ラジエータ(熱交換器)
13 ファン(クロスフローファン)
13a ファンモータ(駆動部)
17 シュラウド(空気案内部材)
17d,17g シュラウドに設けた開口部
19 開閉ドア(開閉部材,流路切替手段)
25 ECU(ファン駆動状態判別手段,制御手段)
27 動圧フラッパ(動圧開放部材,流路切替手段)
29 スライドドア(スライド部材,流路切替手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部に搭載した熱交換器と、この熱交換器の車両前方と同後方との少なくともいずれか一方に配置したクロスフローファンと、前記熱交換器と前記クロスフローファンとの間で、車両前方から同後方に向けて空気が流れる空気流路を形成する空気案内部材とを備え、車両前方から前記空気流路に向けて流れる空気流によって前記熱交換器を冷却する車両用冷却装置において、
前記空気案内部材に設けられ、車両前方からの空気流を前記クロスフローファンに導く導入状態と、前記空気流の少なくとも一部を前記クロスフローファンに対して回避させる回避状態とに切り替える流路切替手段と、
前記クロスフローファンが、その駆動部への通電によって自ら回転し、前記空気流を発生させる第1のファン駆動状態と、その駆動部への通電によって自ら回転する以上に、車両前方からの空気流によって回転する第2のファン駆動状態とを判別するファン駆動状態判別手段と、
前記ファン駆動状態判別手段の判別結果に応じて前記流路切替手段を切替制御する制御手段とを有することを特徴とする車両用冷却装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記ファン駆動状態判別手段が前記第1のファン駆動状態と判別したときに、前記流路切替手段を前記導入状態とする一方、前記第2のファン駆動状態と判別したときに、前記流路切替手段を前記回避状態とすることを特徴とする請求項1に記載の車両用冷却装置。
【請求項3】
前記ファン駆動状態判別手段は、前記第1のファン駆動状態を、前記クロスフローファンの駆動部に流れる電流値が、所定時間におけるあらかじめ定められた上昇率未満で、かつ、前記電流値が、前記クロスフローファンの特性から所定値以上の上昇率となる電流値未満かどうかで判別する一方、前記第2のファン駆動状態を、前記電流値が、前記所定時間におけるあらかじめ定められた上昇率以上か、もしくは、前記電流値が、前記クロスフローファンの特性から所定値以上の上昇率となる電流値以上の少なくともいずれか一方かどうかで判別することを特徴とする請求項2に記載の車両用冷却装置。
【請求項4】
前記ファン駆動状態判別手段は、前記第1のファン駆動状態を、前記クロスフローファンが、その駆動部への通電によって自ら回転する以上に、車両前方からの空気流によって回転し始めるときの前記駆動部の電流値未満かどうかで判別する一方、前記第2のファン駆動状態を、前記クロスフローファンが、車両前方からの空気流によって回転し始めるときの前記駆動部の電流値以上かどうかで判別することを特徴とする請求項2に記載の車両用冷却装置。
【請求項5】
前記流路切替手段を、前記空気案内部材に設けた開口部を開閉可能に設けた開閉部材で構成し、前記導入状態では前記開口部を閉塞する一方、前記回避状態では前記開口部を開放することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の車両用冷却装置。
【請求項6】
車両に搭載するエンジンの運転負荷が所定値以上のときに、前記開閉部材は前記開口部を全閉として前記流路切替手段を前記導入状態とするとともに、前記クロスフローファンを駆動することを特徴とする請求項5に記載の車両用冷却装置。
【請求項7】
車両に搭載するエンジンの運転負荷が所定値未満のときに、前記開閉部材は前記開口部を全開として前記流路切替手段を前記回避状態とするとともに、前記クロスフローファンを停止することを特徴とする請求項5または6に記載の車両用冷却装置。
【請求項8】
前記駆動部の電流値が、前記クロスフローファンの回転により発生する静圧が負圧になる電流値となったときに、前記開閉部材は前記開口部を全開として前記流路切替手段を前記回避状態とするとともに、前記クロスフローファンを停止させることを特徴とする請求項5に記載の車両用冷却装置。
【請求項9】
前記流路切替手段を、前記クロスフローファンの前部に位置して前記空気流の少なくとも一部を前記クロスフローファンに対して回避させる前進位置と、この前進位置から後退して前記空気流を前記クロスフローファンに導入する後退位置との間を移動可能なスライド部材および、前記空気案内部材に設けた開口部を前記空気流の動圧によって開放可能な動圧開放部材で構成し、前記導入状態では、前記スライド部材を前記後退位置として、前記動圧開放部材が前記開口部を閉塞し、前記回避状態では、前記スライド部材を前記前進位置として、前記動圧開放部材が前記開口部を動圧によって開放することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の車両用冷却装置。
【請求項10】
車両に搭載するエンジンの運転負荷が所定値以上のときに、前記スライド部材は前記後退位置として前記流路切替手段を前記導入状態とするとともに、前記クロスフローファンを駆動することを特徴とする請求項9に記載の車両用冷却装置。
【請求項11】
車両に搭載するエンジンの運転負荷が所定値未満のときに、前記スライド部材は前記前進位置として前記流路切替手段を前記回避状態とするとともに、前記クロスフローファンを停止することを特徴とする請求項9または10に記載の車両用冷却装置。
【請求項12】
前記駆動部の電流値が、前記クロスフローファンの回転により発生する静圧が負圧になる電流値となったときに、前記スライド部材は前記前進位置として前記流路切替手段を前記回避状態とするとともに、前記クロスフローファンを停止させることを特徴とする請求項9に記載の車両用冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−190451(P2008−190451A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26782(P2007−26782)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】