説明

車両用制振装置

【課題】車両重量の大幅な増加を招くことなく、低周波数域を含む広い周波数域において振動部材の共振による振動状態の悪化を有効に防ぐことが出来る、新規な構造の車両用制振装置を提供する。
【解決手段】車両の振動部材12に取り付けられる制振装置10であって、振動部材12に対して併設されるマグネシウム製の制振用ロッド部材14を有していると共に、制振用ロッド部材14を長手方向の複数箇所において振動部材12に対して固定する固定手段16が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフレーム等の振動部材に対して取り付けられて、内部摩擦に基づく減衰効果によって該振動部材の振動を抑える車両用制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のフレーム等の振動部材(制振対象部材)において問題となる共振時の振動を低減する方法としては、例えば、特許文献1(特開2004−28124号公報)にも記載されているように、所定の質量を有するマス部材をばね部材によって振動部材に対して弾性的に連結したダイナミックダンパを配設する方法が、一般的に知られている。
【0003】
ところで、最近では、衝突時における衝撃力の吸収や自動車の軽量化等を目的として、比較的に低剛性の部材が自動車に採用される場合がある。このような低剛性の部材では、従来から採用されていた高剛性の部材に比して、固有振動数が小さくなることから、共振時における振幅が大きくなり易い。そのため、低剛性部材の共振時における振動は、乗員に体感される程度に大きなものとなるおそれがあり、有効な制振が必要であると考えられている。
【0004】
しかしながら、制振対象振動が低周波数域の振動であることから、目的とする制振効果を従来構造のダイナミックダンパによって実現しようとすると、ばね部材のばね定数を充分に小さくするか、或いはマス部材の質量を充分に大きくする必要があり、ばね部材の耐久性や車両重量の増加が問題となり易かった。
【0005】
【特許文献1】特開2004−28124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、車両重量の大幅な増加を招くことなく、低周波数域を含む広い周波数域において振動部材の共振による振動状態の悪化を有効に防ぐことが出来る、新規な構造の車両用制振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意な組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0008】
すなわち、本発明は、車両の振動部材に取り付けられる制振装置であって、前記振動部材に対して併設されるマグネシウム製の制振用ロッド部材を有していると共に、該制振用ロッド部材を長手方向の複数箇所において該振動部材に対して固定する固定手段が設けられていることを特徴とする。
【0009】
このような本発明に従う構造とされた車両用制振装置においては、制振用ロッド部材が、減衰能を有するマグネシウム製とされており、制振用ロッド部材が振動部材に対して固定手段で連結固定されるようになっている。これにより、振動部材に振動が入力されると、振動部材に固定された制振用ロッド部材が入力荷重の作用によって変形して、制振用ロッド部材における内部摩擦等に基づいた減衰効果が発揮されるようになっている。従って、振動部材の振動が制振用ロッド部材の減衰効果によって抑えられて、車両における乗り心地や静粛性の向上を効果的に図ることが出来る。
【0010】
また、制振用ロッド部材として、マグネシウム製のロッドを採用することにより、有効な制振効果を発揮する制振用ロッド部材を、比較的に軽量で実現することが出来る。従って、制振装置を装着することによる車両重量の増加を抑えつつ、目的とする制振性能を得ることが出来る。
【0011】
さらに、マグネシウムは、比重に対する強度の比が大きく、軽量のロッド部材であっても充分な強度を得ることが出来る。それ故、振動の非入力下において撓みを抑えることが出来て、振動の入力時における制振用ロッド部材の変形を安定して生ぜしめることが出来る。
【0012】
なお、制振用ロッド部材がマグネシウム製であるとは、制振用ロッド部材がマグネシウム単体(純マグネシウム)で形成されている場合だけをいうものではなく、制振用ロッド部材が、マグネシウムを主成分としてアルミニウム等の他の金属材料を混合したマグネシウム合金や、純マグネシウム或いはマグネシウム合金に各種の添加剤等を加えたもので形成されている場合も含む。
【0013】
また、本発明に係る車両用制振装置においては、前記振動部材が自動車のフレームとされていても良い。
【0014】
このように自動車のフレームに対して本発明に係る車両用制振装置を装着することにより、自動車のフレームにおいて問題となる低周波数振動の入力に際して、制振装置によってフレームの共振を効果的に抑えて、良好な乗り心地や優れた静粛性を提供することが出来る。
【0015】
また、本発明に係る車両用制振装置においては、前記制振用ロッド部材における少なくとも長さ方向両端部にそれぞれ前記固定手段が設けられていると共に、該制振用ロッド部材の長さ方向の中間部分には、該制振用ロッド部材を前記振動部材に対して変位可能に連結する変位許容支持手段が設けられていることが望ましい。
【0016】
これによれば、制振用ロッド部材の長さ方向の中間部分が振動部材に対して変位可能に連結されていることにより、振動の入力に際して、制振用ロッド部材の変形が充分に惹起されて、制振用ロッド部材の変形によって発揮される減衰性能を有効に得ることが出来る。しかも、制振用ロッド部材の長さ方向中間部分における変形乃至は変位が、変位許容支持手段によってある程度制限されることにより、制振用ロッド部材の過大な変位や変形を防いで、制振用ロッド部材が他部材に干渉するのを防止することが出来る。
【0017】
さらに、制振用ロッド部材の長さ方向の中間部分が振動部材に対して連結されていることにより、制振用ロッド部材の自重による撓みを抑えて、振動の入力時における所期の変形を有効に生ぜしめて、目的とする減衰効果を発揮させることが出来る。
【0018】
また、本発明に係る車両用制振装置においては、前記制振用ロッド部材の長さが、前記振動部材の振動モード方向における自由長の1/10以上とされていることが望ましい。
【0019】
このように制振用ロッド部材が振動部材の長さに対して充分な長さを有することにより、制振用ロッド部材を支持する固定手段の離間距離を充分に大きく確保することが出来て、制振用ロッド部材の変形を許容された部分の長さ(自由長)を長くとることが出来る。従って、振動の入力に際して、制振用ロッド部材の変形を感度よく生ぜしめることが出来て、制振性能をより効果的に得ることが出来る。
【0020】
また、本発明に係る車両用制振装置においては、互いに異なる方向に延びる複数の前記制振用ロッド部材が一つの前記振動部材に対して各々複数の前記固定手段で連結固定されていても良い。
【0021】
このような複数のロッド部材をそれぞれ複数の固定手段で振動部材に対して弾性連結した構造を採用することにより、振動部材において相互に異なる複数方向での共振が問題となる場合にも、各方向での共振現象に対して制振用ロッド部材の内部摩擦等による振動減衰効果を有効に得ることが出来る。
【0022】
さらに、本発明に係る車両用制振装置において、複数の制振用ロッド部材が一つの振動部材に対して各々複数の固定手段で連結固定された構造を採用する場合には、前記振動部材の一つの面上で互いに交差する方向に複数の前記制振用ロッド部材を配設しても良い。
【0023】
このように同一面上において、互いに交差する方向に延びる複数のロッド部材を設けることによっても、振動部材の複数方向での共振に対してそれぞれ有効な制振効果を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0025】
先ず、図1,図2には、本発明の第一の実施形態としての自動車用制振装置10が示されている。この制振装置10は、振動部材としての自動車のフレーム12に対して取り付けられている。なお、以下の説明において、上下方向とは、車両上下方向となる図2中の上下方向を言うものとする。また、左右方向とは、車両左右方向となる図2中の左右方向を言うものとする。
【0026】
より詳細には、制振装置10は、制振用ロッド部材としてのマグネシウムロッド14を備えている。マグネシウムロッド14は、略一定の円形断面で直線的に延びる中実の円形棒状を有している。また、マグネシウムロッド14は、例えば、マグネシウム合金を、砂型や金型を用いた鋳造や、押出し鍛造,展伸,圧延等の手段によって所定の形状に成形することで、好適に形成される。特に本実施形態では、マグネシウムロッド14がダイカストによって形成されている。
【0027】
また、本実施形態におけるマグネシウムロッド14は、純度99.9%の純マグネシウムや、純マグネシウムに近いM1合金,K1A合金、更にはアルミニウムや亜鉛,ジルコニウム等を添加したMg−Al系合金(例えば、AM50やAZ31,AZ91等)やMg−Zr系合金(EZ33やZK51A等)を含む一般的なマグネシウム合金等によって形成されている。なお、以下の説明においては、マグネシウムロッドの材料をマグネシウム合金として説明するが、マグネシウム合金とは、マグネシウムを主体として適当な金属や添加剤等を配合したものを言うのであって、純マグネシウムも微量の不純物を含むことから、ここで言うマグネシウム合金に含まれるものとする。更に、マグネシウムロッド14の表面に防食処理(防食剤によるコーティング等)が施されていても良い。
【0028】
また、マグネシウムロッド14は、装着対象となるフレーム12を構成する部材(後述する主材34又は横材35)よりも短い所定の長さで延びていると共に、フレーム12を構成する部材に比して充分に軽量とされている。なお、マグネシウムロッド14は、後述する制振効果を有効に得るために、フレーム12の長手方向での長さに対して、10分の1以上の長さとされていることが望ましい。また、マグネシウムロッド14は、重量の増加や過剰な変形等を防ぐために、フレーム12の3分の2以下の長さとされていることが望ましい。本実施形態では、後述するフレーム12の主材34に併設されるマグネシウムロッド14の長さが主材34の長さの5分の1程度とされていると共に、フレーム12の横材35に併設されるマグネシウムロッド14の長さが横材35の長さの3分の2程度とされている。
【0029】
さらに、マグネシウムロッド14の固有振動数は、フレーム12の固有振動数とは異なる振動数とされており、特に、後述するマグネシウムロッド14のフレーム12への装着下、マグネシウムロッド14の共振が、自動車の乗室内環境に悪影響(振動や異音等)を及ぼさないようになっていることが望ましい。
【0030】
また、マグネシウムロッド14の長手方向の両端部には、それぞれ固定手段としての連結ブラケット16が取り付けられている。この連結ブラケット16は、マグネシウムロッド14をフレーム12に対して連結する金具であって、本実施形態では、第一の分割金具18と第二の分割金具20を含んで構成されている。
【0031】
第一の分割金具18は、略矩形ブロック形状を有しており、本実施形態では、鉄やアルミニウム合金等の金属材で形成された高剛性の部材となっている。また、第一の分割金具18の左右方向一方の端部(図2中、左端部)には、端面に開口する第一の支持凹溝22が形成されている。第一の支持凹溝22は、略一定の半円形断面で直線的に延びており、本実施形態では、後述する連結ブラケット16のフレーム12への装着状態において車両前後方向に延びるように形成されている。また、第一の支持凹溝22を挟んで上下両側には、内周面に雌ねじを刻設された螺着穴23が所定距離を隔ててそれぞれ形成されている。
【0032】
また、第一の分割金具18の左右方向他方の端部(図2中、右端部)には、上下方向両側に広がる一対の取付フランジ24,24が一体形成されている。取付フランジ24は、略矩形板形状であって、第一の分割金具18の図2中における右側端部において上下方向外側に向かって延び出すように形成されている。また、取付フランジ24の中央部分には、厚さ方向で貫通する取付用ボルト孔26が形成されている。
【0033】
一方、第二の分割金具20は、略矩形ブロック形状を有しており、第一の分割金具18と同様に、鉄やアルミニウム合金等の金属材で形成された高剛性の部材とされている。また、第二の分割金具20の左右方向他方の端部(図2中、右端部)には、端面に開口する第二の支持凹溝28が形成されている。第二の支持凹溝28は、第一の支持凹溝22と略対応する半円形断面を有しており、第一の支持凹溝22と同じ方向で直線的に延びるように形成されている。また、第二の分割金具20において第二の支持凹溝28を挟んで上下両側には、それぞれボルト挿通孔30が所定距離を隔てて形成されている。
【0034】
そして、第一の分割金具18と第二の分割金具20は、左右方向で相互に重ね合わされる。また、第一の分割金具18と第二の分割金具20の重ね合わせ状態において、第一の分割金具18に形成された螺着穴23と第二の分割金具20に形成されたボルト挿通孔30が相互に位置合わせされており、ボルト挿通孔30に挿通せしめられた固定用ボルト32が螺着穴23に螺着されて締め付けられることによって、第一の分割金具18と第二の分割金具20が相互に固定されて、連結ブラケット16が形成されるようになっている。
【0035】
また、第一の分割金具18と第二の分割金具20の組合わせ下、第一の分割金具18と第二の分割金具20によって、マグネシウムロッド14が支持されている。即ち、マグネシウムロッド14は、第一の支持凹溝22と第二の支持凹溝28に嵌め込まれて第一の分割金具18と第二の分割金具20の間で挟持されるようになっている。これにより、マグネシウムロッド14の長手方向両端部にそれぞれ連結ブラケット16が固定されており、本実施形態に従う構造の制振装置10が構成されている。なお、第一の支持凹溝22と第二の支持凹溝28は、マグネシウムロッド14が確実に支持されるように、例えば、マグネシウムロッド14よりも曲率半径が大きく、且つ最大深さがマグネシウムロッド14の半径よりも小さい断面を有する溝形状とされていることが望ましい。また、マグネシウムロッド14は、第一の分割金具18や第二の分割金具20に対して接着されていても良い。
【0036】
このような本実施形態に係る制振装置10は、連結ブラケット16がフレーム12に固定されることにより、フレーム12に対して取り付けられるようになっている。フレーム12は、フルフレーム構造の自動車におけるメインフレームや、モノコック構造の自動車におけるサブフレーム等を構成する部材であって、本実施形態では自動車のメインフレームとされている。より詳細には、フレーム12は、図1,2に示されているように、略溝形状の断面をもって直線的に延びる鋼材を組み合わせて形成されており、図3に示されているように、車両左右方向で離隔して略車両前後方向に延びる一対の主材34が、略車両左右方向に延びる複数の横材35によって相互に連結された略梯子形の構造を有している。また、フレーム12には、制振装置10の取付箇所において内周面に雌ねじが形成された複数の取付用穴36が形成されている。なお、図3に示されている制振装置10およびフレーム12は、概略である。
【0037】
そして、連結ブラケット16を構成する第一の分割金具18の取付フランジ24が、図2中の右側に開口する略溝形状とされたフレーム12の底壁部分(図2における左側壁部)に対して、図2中の左側から重ね合わされる。そして、取付フランジ24に形成された取付用ボルト孔26に対して取付用ボルト38が挿通せしめられると共に、取付用ボルト38が、フレーム12に形成されて内周面に雌ねじを形成された取付用穴36に対して螺着されることにより、連結ブラケット16がフレーム12に対して固定されるようになっている。これによって、マグネシウムロッド14が連結ブラケット16を介してフレーム12に固定されており、マグネシウムロッド14がフレーム12を構成する主材34及び横材35に併設されている。
【0038】
なお、本実施形態では、図3に示されているように、車両左右方向で所定距離を隔てて車両前後方向に延びる二本の主材34,34と、車両左右方向に延びてそれら二本の主材34,34を相互に連結する三本の横材35,35,35によって、フレーム12が形成されている。そして、二本の主材34,34と、車両の前方側に位置する横材35に対して各一つの制振装置10がそれぞれ複数の連結ブラケット16によって固定されており、主材34,34に取り付けられるマグネシウムロッド14,14と、横材35に取り付けられるマグネシウムロッド14が、互いに異なる方向に延びている。また、本実施形態では、主材34に対して車両左右方向の内側に位置するように制振装置10が装着されていると共に、横材35に対して車両前後方向の前側に位置するように制振装置10が装着されている。
【0039】
かくの如き制振装置10のフレーム12への装着下、フレーム12に振動が入力されると、入力荷重に基づいてマグネシウムロッド14が撓み変形(曲げ変形)せしめられる。そこにおいて、マグネシウムは、内部摩擦等に起因するエネルギー損失に基づいた減衰能を有しており、振動入力に際してマグネシウムロッド14の変形による減衰効果が有効に発揮されて、入力された振動を低減することが出来る。なお、減衰能とは、疲労限界応力以下の応力サイクル(要するに振動)が入力された場合に、振動エネルギーを熱に変換して吸収乃至は発散する性能を言う。
【0040】
また、本実施形態に従う構造の制振装置10では、比較的に小さな質量で充分な制振効果を得ることが出来ると共に、ロッド14の材料として軽量のマグネシウムを主とするマグネシウム合金を採用することで、全体の重量を抑えることが出来る。それ故、車両重量の著しい増加を防止することが出来る。
【0041】
特に、フレーム12を鉄鋼製とすることで、充分な強度を有するフレーム12を安価且つ製造容易に得ると共に、小型のマグネシウムロッド14をフレーム12に対して別体で装着することにより、フレーム12に対して減衰性能を付与することが出来るようになっている。従って、鉄鋼に比して高価なマグネシウムの使用量を抑えてコストの増大を防ぎ、更には、充分な強度を得つつ、制振性能を大幅に向上させることが出来るのである。
【0042】
さらに、比重に対する強度の比率が大きいマグネシウム製のロッド14を採用することにより、小径で軽量のマグネシウムロッド14であっても、充分な強度を得ることが出来る。それ故、自重による撓みを抑えて、振動の入力に際してマグネシウムロッド14に所期の変形が高精度に惹起されるようになっている。従って、振動入力時に目的とする減衰効果が安定して発揮される。
【0043】
また、本実施形態では、フレーム12の主材34に対してそれぞれ制振装置10が装着されていると共に、横材35には、主材34に装着された制振装置10とは異なる方向で制振装置10が装着されている。これにより、互いに異なる方向で入力される複数の振動の何れに対しても、有効な制振効果が発揮されるようになっている。
【0044】
次に、図4,5には、本発明の第二の実施形態としての自動車用制振装置40が示されている。なお、以下の説明において、前記実施形態と実質的に同一の部材乃至部位については、同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
【0045】
すなわち、本実施形態に係る制振装置40では、マグネシウムロッド14の長さ方向中間部分に変位許容支持手段としての弾性連結体42が装着されている。より詳細には、弾性連結体42は、図4に示されているように、マグネシウムロッド14の長さ方向中央部分に取り付けられており、図5に示されているように、連結ゴム弾性体44と、連結ゴム弾性体44をフレーム12に取り付けるための取付金具46を備えている。
【0046】
連結ゴム弾性体44は、略板形状を有しており、装着状態における車両左右方向一方の側(図5中、左側)の端面が円弧状の湾曲面とされていると共に、他方の側(図5中、右側)の端面が上下方向および前後方向に広がる略平坦な面とされている。また、連結ゴム弾性体44の略中央部分には、厚さ方向で貫通する嵌着孔48が形成されている。この嵌着孔48は、マグネシウムロッド14の直径と等しい内径を有する円形の貫通孔とされている。
【0047】
そして、連結ゴム弾性体44は、嵌着孔48にマグネシウムロッド14が挿通された状態で固着されることにより、マグネシウムロッド14の長手方向両端部分にそれぞれ取り付けられている。特に本実施形態では、連結ゴム弾性体44の取付け部分において、マグネシウムロッド14の外周面が嵌着孔48の内周面に対して接着されている。
【0048】
なお、マグネシウムロッド14に対する連結ゴム弾性体44の固着は、マグネシウムロッド14と嵌着孔48の重ね合せ面に接着剤を塗布する等して実現することも可能であるが、本実施形態では、連結ゴム弾性体44の成形時にマグネシウムロッド14を加硫接着せしめることにより実現されている。以上より明らかなように、本実施形態では、連結ゴム弾性体44がマグネシウムロッド14を一体的に備えた一体加硫成形品として形成されている。また、マグネシウムロッド14は、必ずしも連結ゴム弾性体44に対して固着されていなくても良く、例えば、連結ゴム弾性体44に形成された嵌着孔48の直径をマグネシウムロッド14の直径よりも小さくして、嵌着孔48に対してマグネシウムロッド14を押し込むことにより、連結ゴム弾性体44の弾性力を利用して連結ゴム弾性体44がマグネシウムロッド14に対して非接着で取り付けられるようになっていても良い。
【0049】
また、連結ゴム弾性体44には、取付金具46が組み付けられている。取付金具46は、薄肉の金属板によって形成されており、連結ゴム弾性体44における湾曲面で構成された側の側面および上下両端面に重ね合わされた状態で、連結ゴム弾性体44に対して組み付けられている。また、取付金具46の上下両端縁部には、上下方向で外側に向かって延び出す一対の固定片50,50が一体形成されており、各固定片50には、厚さ方向で貫通するボルト孔52が形成されている。かかる取付金具46が連結ゴム弾性体44に取り付けられることにより、弾性連結体42が構成されており、弾性連結体42がマグネシウムロッド14の長さ方向中央部分に装着されている。なお、取付金具46は、連結ゴム弾性体44に対して接着されていても良いし、非接着で組み付けられていても良い。
【0050】
一方、マグネシウムロッド14の長さ方向両端部分には、前記第一の実施形態と同様に、それぞれ連結ブラケット16が装着されている。これにより、本実施形態における制振装置40が形成されている。
【0051】
かくの如き構造とされた制振装置40は、フレーム12に対して装着される。即ち、前記第一の実施形態と同様に連結ブラケット16がフレーム12に対してボルト固定されると共に、弾性連結体42が、取付金具46のボルト孔52に挿通された装着用ボルト54をフレーム12に対して螺着せしめることにより、フレーム12に取り付けられている。これにより、マグネシウムロッド14は、長さ方向の両端部分がフレーム12に対して変位不能に連結されていると共に、長さ方向の中央部分が、連結ゴム弾性体44の弾性変形によってフレーム12に対する相対的な変位を許容された状態で、フレーム12に連結されている。
【0052】
このような本実施形態に従う構造の自動車用制振装置40においても、フレーム12への装着下での振動入力に際して、マグネシウムロッド14の変形による減衰を利用した制振効果が有効に発揮されるようになっており、自動車の乗り心地や静粛性の向上を図ることが出来る。
【0053】
しかも、本実施形態では、振動の入力によってマグネシウムロッド14が変形せしめられると、弾性連結体42の連結ゴム弾性体44が弾性変形せしめられて、連結ゴム弾性体44の内部摩擦等に起因する減衰効果が発揮されるようになっている。このように、マグネシウムロッド14の変形による減衰効果に加えて、連結ゴム弾性体44の変形による減衰効果が発揮されることにより、より効果的な制振効果を得ることが出来て、自動車の振動状態を一層有利に改善することが出来る。
【0054】
なお、本実施形態においては、マグネシウムロッド14の周囲を取り囲むように連結ゴム弾性体44が配設されており、連結ゴム弾性体44が、直接に或いは取付金具46を介して間接的にマグネシウムロッド14とフレーム12の間に介在せしめられている。それ故、マグネシウムロッド14が何れの方向に曲げ変形せしめられた場合にも連結ゴム弾性体44の弾性変形による減衰効果が安定して発揮されるようになっている。
【0055】
さらに、本実施形態では、マグネシウムロッド14の長さ方向中央部分が弾性連結体42によってフレーム12に対して弾性的に連結されているが、マグネシウムロッド14の長さ方向中央部分における変形や変位は、連結ゴム弾性体44の弾性変形によって充分に許容されるようになっており、マグネシウムロッド14の変形が弾性連結体42によって阻害されることなく有効に生ぜしめられるようになっている。
【0056】
また、本実施形態では、マグネシウムロッド14の長さ方向中央部分に弾性連結体42が装着されていることにより、例えば、衝撃的な大荷重の入力に際して、マグネシウムロッド14の中央部分に過大な変形や変位が生ぜしめられるような場合には、マグネシウムロッド14の変形乃至は変位が、弾性連結体42によって制限されるようになっている。これにより、マグネシウムロッド14が、過大な変形によって他部材に干渉するのを防ぐことが出来て、通常の振動入力時において目的とする制振効果を実現しつつ、大荷重の入力時において他部材およびマグネシウムロッド14の当接による損傷を防止することが出来る。
【0057】
また、本実施形態においては、マグネシウムロッド14の周囲を取り囲むように連結ゴム弾性体44が配設されており、連結ゴム弾性体44が直接に、或いは取付金具46を介して間接的にマグネシウムロッド14とフレーム12の間に介在せしめられており、マグネシウムロッド14がフレーム12に弾性支持されている。これにより、マグネシウムロッド14が自重によって撓むのを防止して、振動の非入力状態において初期の形状に保持されるようになっている。それ故、振動入力時においてマグネシウムロッド14の変形を安定して生ぜしめることが出来る。特に本実施形態では、マグネシウムロッド14の撓みが最大となる長さ方向の中央部分を弾性連結体42でフレーム12に弾性支持せしめることにより、マグネシウムロッド14の初期形状をより有利に保持することが出来る。
【0058】
また、図8には、本発明の第三の実施形態として、自動車用の制振装置56の要部が示されている。制振装置56は、丸棒形状とされた制振用ロッド部材としてのマグネシウムロッド58の両端部に板形状の取付片60,60が一体形成されていると共に、各取付片60の中央部分に厚さ方向で貫通するボルト挿通孔62が形成されている。また、制振装置56が装着される振動部材としてのフレーム64は、マグネシウムロッド58の取付片60に対応する部分が、マグネシウムロッド58側に突出する台座部66となっていると共に、台座部66の略中央部分にボルト挿通孔62に対応する取付用孔68が貫通形成されている。
【0059】
そして、取付片60が台座部66に重ね合わされて、取付片60に形成されたボルト挿通孔62と台座部66に形成された取付用孔68に取付用ボルト70が挿通されると共に、取付用ボルト70に対してナット72が螺着されることにより、取付片60と台座部66が相互に固定されるようになっている。なお、取付片60と台座部66の協働により、本実施形態における固定手段が構成されている。
【0060】
これによって、マグネシウムロッド58がフレーム64に対して併設されるようになっている。このような本態様に従う構造を採用した場合にも、マグネシウムロッド58の内部におけるエネルギー損失を利用して、有効な減衰効果を得ることが出来る。なお、本態様において、マグネシウムロッド58の材料や、フレーム64の形状および材料等は、何れも前記第一の実施形態と同様である。
【0061】
このように、制振用ロッド部材を振動部材に固定する固定手段は、特に限定されるものではなく、前記第一,第二の実施形態に示されているように、制振用ロッド部材が振動部材に対して連結ブラケット16等の他部材を介して間接的に固定されるようになっていても良いし、本実施形態に示されているように、制振用ロッド部材が振動部材に対して直接にボルト等で固定されるようになっていても良い。
【0062】
なお、本発明に従う構造の車両用制振装置によって有効な制振効果を得ることが出来ることは、実測結果によっても確認されている。即ち、図7に示されているような振動部材としてのフレーム74に本発明に係る制振装置10を装着して振動状態を測定した結果が、図8に示されている。
【0063】
より詳細には、フレーム74は、図7に示されているような梯子形のメインフレームであって、鉄鋼によって形成されており、車両前後方向(図7中の左右方向)の長さが5m、車両左右方向(図7中の上下方向)の幅が2mとなっている。また、制振装置10のマグネシウムロッド14は、直径が35mmで長さが1mの丸棒形状であって、純マグネシウム製のものを採用した。そして、図7に示されているように、制振装置10をフレーム74の車両左右方向の右側部分に取り付けて、車両後方側(図7中、右側)に位置する連結ブラケット16の取付位置において振動状態を測定した。なお、実測においては、前記第一の実施形態と略同一の構造を有する制振装置10を使用していることから、ここでは構造の詳細な説明を省略する。また、図7においては、分かり易さのために、フレーム74に対して制振装置10が誇張されている。
【0064】
そして、制振装置10を装着した実施例と、制振装置10を装着していない比較例を、それぞれ図示しない加振台によって加振して、周波数に対してフレーム74の加速度の加振台の加速度に対する比を測定した。その実測結果が図8に示されており、フレーム74に対して本発明に係る制振装置10を装着した場合の実測結果が、実施例として実線で示されていると共に、フレーム74に対して制振装置を装着しない場合の実測結果が、比較例として破線で示されている。
【0065】
これによれば、本発明に係る制振装置10をフレーム74に装着することによって、フレーム74の共振が問題となる12Hz〜18Hzの周波数域において、3dB程の極めて効果的な制振効果が発揮されて、フレーム74の振動状態が改善されていることが、実測結果からも確認された。また、図8に示されているように、数Hzから30Hzの振動に対して有効な制振効果が発揮されていると共に、図8には示されていないが、30Hzよりも高い周波数域の振動(例えば、100Hz程度の高周波振動)に対しても広い周波数域に亘って有効な制振効果が発揮され得ることが、実測によって確認された。なお、図8のグラフにおいて、横軸が入力振動の周波数を示すと共に、縦軸が加振台の加速度に対するフレーム74の加速度の比を示す。
【0066】
以上、本発明の幾つかの実施形態について説明してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0067】
例えば、前記第一乃至第三の実施形態では、長手形状とされた一つの振動部材に対して一つの制振装置が装着されるようにした例が示されているが、互いに異なる方向に延びる複数の制振用ロッド部材を一つの振動部材に対して装着することで、一つの振動部材に対して複数の制振装置が装着されるようにしても良い。具体的には、例えば、図9に示されているように、複数のマグネシウムロッド14,14が相互に交差するように互いに異なる方向に延びており、それらマグネシウムロッド14,14が、それぞれ複数の連結ブラケット16,16によって、振動部材としてのフレーム76の一つの面に対して取り付けられることにより、一つのフレーム76に対して複数の制振装置10,10が装着されるようにしても良い。
【0068】
このように複数の制振装置10,10を互いに異なる方向で各マグネシウムロッド14が延びるように装着することにより、制振装置10の装着面に対して平行な方向に振動が入力された場合において、複数の異なる方向で有効な制振効果を得ることが出来る。また、制振装置10の装着面に対して直交する方向に振動が入力された場合には、各制振装置10において発揮される減衰効果に基づいて、制振効果を一層効果的に得ることが出来る。
【0069】
また、前記第一乃至第三の実施形態では、マグネシウムロッド14,58が直線的に延びる形状とされているが、制振用ロッド部材は、配設スペースや要求される性能等に応じて、その形状が適当に設定され得る。具体的には、例えば、制振用ロッド部材は、その長さ方向の中間部分が部分的に湾曲乃至は屈曲していても良いし、全体が湾曲していても良い。
【0070】
また、前記第二の実施形態において、マグネシウムロッド14の長さ方向中央部分に変位許容支持手段としての弾性連結体42を設けた構造が示されているが、変位許容支持手段は、前記第二の実施形態に示された構造に限定されるものではない。具体的には、例えば、制振用ロッド部材に対して軸直角方向で所定距離だけ離間するように拘束リングを配設して、大荷重の入力に際して、制振用ロッド部材の該拘束リングへの当接によって、制振用ロッド部材の変形が制限されるようになっていても良い。更に、前記第二の実施形態では、変位許容支持手段が連結ゴム弾性体44を有する弾性連結体によって構成されているが、変位許容支持手段は、必ずしもゴム弾性体を含んで形成されていなくても良い。
【0071】
また、前記第一,第二の実施形態では、自動車用の制振装置が示されているが、本発明は、自動車だけでなく、列車や自転車等の各種車両にも適用することが出来る。
【0072】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第一の実施形態としての制振装置の車両への装着状態を示す図2のI−I断面図。
【図2】図1のII−II断面図。
【図3】同制振装置の車両への装着状態を示す平面図。
【図4】本発明の第二の実施形態としての制振装置の車両への装着状態を示す図5のIV−IV断面図。
【図5】図4のV−V断面図。
【図6】本発明の第三の実施形態としての制振装置の車両への装着状態を示す断面図。
【図7】本発明に係る制振装置を車両に装着した実施例を示す平面図。
【図8】図7の実施例による制振性能の実測結果を示すグラフ。
【図9】本発明の別の一実施形態としての制振装置の車両への装着状態を示す平面図。
【符号の説明】
【0074】
10,40,56:自動車用制振装置,12,64,74,76:フレーム,14,58:マグネシウムロッド,16:連結ブラケット,42:弾性連結体,60:取付片,66:台座部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の振動部材に取り付けられる制振装置であって、
前記振動部材に対して併設されるマグネシウム製の制振用ロッド部材を有していると共に、該制振用ロッド部材を長手方向の複数箇所において該振動部材に対して固定する固定手段が設けられていることを特徴とする車両用制振装置。
【請求項2】
前記振動部材が自動車のフレームとされている請求項1に記載の車両用制振装置。
【請求項3】
前記制振用ロッド部材における少なくとも長さ方向両端部にそれぞれ前記固定手段が設けられていると共に、該制振用ロッド部材の長さ方向の中間部分には、該制振用ロッド部材を前記振動部材に対して変位可能に連結する変位許容支持手段が設けられている請求項1又は2に記載の車両用制振装置。
【請求項4】
前記制振用ロッド部材の長さが、前記振動部材の振動モード方向における自由長の1/10以上とされている請求項1乃至3の何れか一項に記載の車両用制振装置。
【請求項5】
互いに異なる方向に延びる複数の前記制振用ロッド部材が一つの前記振動部材に対して各々複数の前記固定手段で連結固定されている請求項1乃至4の何れか一項に記載の車両用制振装置。
【請求項6】
前記振動部材の一つの面上で互いに交差する方向に複数の前記制振用ロッド部材を配設した請求項5に記載の車両用制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−204048(P2009−204048A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45678(P2008−45678)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】