車両用操舵制御装置および車両用操舵制御方法
【課題】車両のヨー方向への回転変位を抑制可能とすること。
【解決手段】補助舵角演算部9が、左右の車輪間の制動力の差によって車両にヨーモーメントが発生する場合、車両に当該ヨーモーメントを打ち消す制御ヨーモーメントを発生させるために必要な操向輪の転舵角である補助舵角δ*を算出する。そして、ヨーモーメント変化速度演算部10および補助舵角補正演算部11が、その算出した補助舵角δ*を補正し、補正補助舵角δ*'として出力する。その際、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値が大きい場合には、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値が小さい場合に比べて、補助舵角δ*の補正量である補助舵角補正量δ'の絶対値を大きくする。
【解決手段】補助舵角演算部9が、左右の車輪間の制動力の差によって車両にヨーモーメントが発生する場合、車両に当該ヨーモーメントを打ち消す制御ヨーモーメントを発生させるために必要な操向輪の転舵角である補助舵角δ*を算出する。そして、ヨーモーメント変化速度演算部10および補助舵角補正演算部11が、その算出した補助舵角δ*を補正し、補正補助舵角δ*'として出力する。その際、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値が大きい場合には、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値が小さい場合に比べて、補助舵角δ*の補正量である補助舵角補正量δ'の絶対値を大きくする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操向輪を操舵する車両用操舵制御装置および車両用操舵制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては、例えば、特許文献1に記載の技術がある。
この特許文献1に記載の技術では、スプリットμ路を走行しているときに、車両が制動を行った場合、まず、左右の車輪が走行する路面の路面μを検出する。続いて、その検出結果に基づいて、左右の車輪間の制動力差によって車両に発生するヨーモーメントを算出する。続いて、そのヨーモーメントを打ち消す制御ヨーモーメントを発生させるために必要な操向輪の転舵角を算出する。そして、その転舵角に実際の転舵角が一致するように操向輪を転舵することで、車両に制御ヨーモーメントを発生させ、左右の車輪間の制動力差によって車両に発生するヨーモーメントを打ち消すようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−247056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載の技術では、左右の車輪間の制動力差によって車両に発生するヨーモーメントを制御ヨーモーメントが完全に打ち消せなかった場合、それらの差分を打ち消すヨーモーメントが発生するように、運転者が操舵を行う必要が有る。
しかしながら、例えば、スプリットμ路を走行しているときに、車両が急制動を行い、左右輪の制動力差によって車両に大きなヨーモーメントの変化が発生した場合、運転者の操舵が遅れる可能性があった。その結果、運転者の操舵によって実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメントとの差分を充分に打ち消すことができず、車両にヨー方向への回転変位が生じる可能性があった。
本発明は、上記のような点に着目し、車両のヨー方向への回転変位を抑制可能とすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明では、まず、補助舵角算出手段が、左右の車輪間の制動力の差によって車両にヨーモーメントが発生する場合、車両に当該ヨーモーメントを打ち消す制御ヨーモーメントを発生させるために必要な操向輪の転舵角である補助舵角を算出する。そして、補助舵角補正手段が、その算出した補助舵角を補正する。その際、ヨーモーメントの変化速度の絶対値が大きい場合には、当該ヨーモーメントの変化速度の絶対値が小さい場合に比べて、補助舵角の補正量の絶対値を大きくする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、例えば、左右輪の制動力差によって車両に大きなヨーモーメントの変化が発生した場合、補助舵角をより絶対値の大きな値に補正できる。それゆえ、当該ヨーモーメントの変化の発生後、直ぐに制御ヨーモーメントを増大できる。そのため、実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメントとの差分を低減できる。
したがって、車両のヨー方向への回転変位を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1実施形態の車両用操舵制御装置を装備した車両の構成図である。
【図2】舵角制御コントローラ7が実行する演算処理の内容を表すブロック図である。
【図3】ヨーモーメント演算部8の構成を示すブロック図である。
【図4】補助舵角補正演算部11の構成を示すブロック図である。
【図5】補助舵角補正量マップを示す図である。
【図6】補正補助舵角演算部16が実行する演算処理の内容を表すフローチャートである。
【図7】想定する場面の一例を示す平面図である。
【図8】補正補助舵角δ*'およびヨーモーメント変化速度dMG/dtの変化を説明するためのグラフである。
【図9】想定する場面の一例を示す平面図である。
【図10】補正補助舵角δ*'およびヨーモーメント変化速度dMG/dtの変化を説明するためのグラフである。
【図11】応用例の補助舵角補正量マップを示す図である。
【図12】応用例の補助舵角補正量マップを示す図である。
【図13】第2実施形態の補正補助舵角演算部16が実行する演算処理の内容を表すフローチャートである。
【図14】補正補助舵角δ*'およびヨーモーメント変化速度dMG/dtの変化を説明するためのグラフである。
【図15】補正補助舵角δ*'およびヨーモーメント変化速度dMG/dtの変化を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の車両用操舵制御装置を装備した車両の構成図である。
図1に示すように、本実施形態の車両は、前輪操舵の車両である。
まず、車両は、液圧センサ1を備える。
液圧センサ1は、前輪2FL、2FRそれぞれに設ける。液圧センサ1は、前輪2FL、2FRそれぞれのホイールシリンダのブレーキ液圧PFL、PFRを検出する。そして、その検出結果を舵角制御コントローラ7に出力する。
また、車両は、前輪操舵コントローラ3、前輪操舵アクチュエータ4、制動制御コントローラ5、およびブレーキアクチュエータ6FL〜6RRを備える。
【0009】
前輪操舵コントローラ3は、舵角制御コントローラ7が出力する補正補助舵角δ*"(後述)および前輪操舵アクチュエータ4が出力する前輪モータ回転角(後述)に基づいて角度指令値を算出する。角度指令値とは、補正補助舵角δ*"に前輪2FL、2FRの転舵角を一致させる指令値である。例えば、PWM(Pulse Width Modulation)方式により前輪操舵アクチュエータ4を駆動する駆動電流を利用可能である。そして、前輪操舵コントローラ3は、その算出した角度指令値を前輪操舵アクチュエータ4に出力する。
【0010】
前輪操舵アクチュエータ4は、前輪操舵コントローラ3が出力する角度指令値に応じて、前輪2FL、5FRの転舵角を制御する。前輪操舵アクチュエータ4としては、例えば、ステアリングホイールの操舵角に対する前輪2FL、5FRの転舵角の比をモータと減速機とで変更する可変ギヤ比機構を利用可能である。このモータと減速機とにより、前輪操舵角に関わらず、前輪2FL、5FRの転舵角の変更を可能とする。
【0011】
また、前輪操舵アクチュエータ4は、前輪モータ回転角を検出する。前輪モータ回転角とは、前輪2FL、5FRの転舵角の比を変更するモータの回転角である。そして、前輪操舵アクチュエータ4は、その検出結果を前輪操舵コントローラ3に出力する。
制動制御コントローラ5は、ブレーキペダルの操作量に基づいて目標ブレーキ液圧を算出する。そして、その目標ブレーキ液圧に基づいて、車輪2FL〜2RRそれぞれのホイールシリンダ内のブレーキ液圧PFL〜PRRを制御する。
【0012】
また、制動制御コントローラ5は、ABS(antilocked braking system)制御を実行する。ABS制御とは、ホイールシリンダ内のブレーキ液圧PFL〜PRRの増大により、車輪2FL〜2RRのいずれかがロックした場合に、ロックした車輪2FL〜2RRのホイールシリンダに対し、ブレーキ液圧PFL〜PRRの低減および増大を繰り返す制御である。このABS制御により、車輪2FL〜2RRのロックを解除し、車輪2FL〜2RRそれぞれにブレーキ液圧PFL〜PRRに応じた制動力を発生させる。
【0013】
これによって、例えば、スプリットμ路を走行しているときに、車両が急制動を行った場合には、まず、低μ路側の車輪がロックし、低μ路側の車輪でABS制御、つまり、ブレーキ液圧の低減及び増大が始まる。続いて、高μ路側の車輪がロックし、高μ路側の車輪でABS制御が開始する。その結果、低μ路側の車輪のブレーキ液圧が比較的低い数値で変動し、高μ路側の車輪のブレーキ液圧が比較的高い数値で変動する。
【0014】
ブレーキアクチュエータ6FL〜6RRは、ホイールシリンダを備える。ホイールシリンダは、車輪2FL〜2RRそれぞれに設ける。そして、制動制御コントローラ5によるブレーキ液圧PFL〜PRRの制御に応じて、車輪2FL〜2RRそれぞれに制動力を発生させる。ブレーキアクチュエータ6FL〜6RRとしては、例えば、ディスクブレーキやドラムブレーキを利用可能である。
また、車両は、舵角制御コントローラ7を備える。
舵角制御コントローラ7は、前輪2FL、2FRそれぞれの液圧センサ1が出力するブレーキ液圧PFL、PFRに基づき、演算処理を行って補正補助舵角δ*"を算出する。そして、その算出結果である補正補助舵角δ*"を前輪操舵コントローラ3に出力する。舵角制御コントローラ7としては、例えば、マイクロプロセッサを利用可能である。
【0015】
次に、舵角制御コントローラ7が実行する演算処理の内容を、ブロック図を用いて説明する。
図2は、舵角制御コントローラ7が実行する演算処理の内容を表すブロック図である。
図2に示すように、このブロック図は、ヨーモーメント演算部8、補助舵角演算部9、ヨーモーメント変化速度演算部10、および補助舵角補正演算部11を備える。
【0016】
図3は、ヨーモーメント演算部8の構成を示すブロック図である。
図3に示すように、ヨーモーメント演算部8は、右輪制動力演算部12、左輪制動力演算部13、および左右制動力差ヨーモーメント換算部14を備える。
右輪制動力演算部12は、右前輪2FRの液圧センサ1が出力するブレーキ液圧PFRに基づき、下記(1)式に従って右輪2FRが発生する制動力FRHを算出する。そして、その算出結果を左右制動力差ヨーモーメント換算部14に出力する。
FRH=2(μB・PFR・S・RB)/RT ………(1)
但し、μBはブレーキパッド摩擦係数、Sはホイールシリンダ面積、RBはブレーキロータ有効半径、RTはタイヤ半径である。
【0017】
左輪制動力演算部13は、左前輪2FLの液圧センサ1が出力するブレーキ液圧PFLに基づき、下記(2)式に従って左輪2FLが発生する制動力FLHを算出する。そして、その算出結果を左右制動力差ヨーモーメント換算部14に出力する。
FLH=2(μB・PFL・S・RB)/RT ………(2)
ここで、上述したように、例えば、スプリットμ路を走行しているときに、車両が急制動を行い、ABS制御が作動した場合には、低μ路側の車輪のブレーキ液圧が比較的低い数値で変動し、高μ路側の車輪のブレーキ液圧が比較的高い数値で変動する。そのため、上記(1)式と(2)式より、低μ路側の前輪の制動力の算出結果が比較的小さい値となり、高μ路側の前輪の制動力の算出結果が比較的大きい値となる。
【0018】
左右制動力差ヨーモーメント換算部14は、右輪制動力演算部12が出力する右前輪2FRが発生する制動力FRH、および左輪制動力演算部13が出力する左前輪2FLが発生する制動力FLHに基づき、下記(3)式に従ってヨーモーメント推定値MGを算出する。ヨーモーメント推定値MGとは、車両の制動時に、左右の前輪2FL、2FR間の制動力FLH、FRHの差によって車両の重心周りに発生するヨーモーメントの推定値である。そして、ヨーモーメント演算部8は、そのヨーモーメント推定値MGを補助舵角演算部9、ヨーモーメント変化速度演算部10および補助舵角補正演算部11に出力する。
MG=Tf(FRH-FLH)/2 ………(3)
但し、Tfはフロントトレッドである。
ここで、ヨーモーメント推定値MGは、車両を上方から見た場合に車両をヨー軸周りに右回転させるものを正値とし、左回転させるものを負値とする。
【0019】
図2に戻り、補助舵角演算部9は、左右制動力差ヨーモーメント換算部14が出力するヨーモーメント推定値MGに基づき、下記(4)式に従って補助舵角δ*を算出する。補助舵角δ*とは、車両にヨーモーメント推定値MGを打ち消す制御ヨーモーメントを発生させるために必要な前輪2FL、2FRの転舵角である。そして、補助舵角演算部9は、その補助舵角δ*を補助舵角補正演算部11に出力する。
δ*=-1/2・MG/(Kf・Lf) ………(4)
但し、Kfは前輪コーナリングパワー、Lfは重心-前輪軸間距離である。
ここで、補助舵角δ*は、前輪2FL、2FRを右方向に転舵させるものを正値とし、前輪2FL、2FRを左方向に転舵させるものを負値とする。
【0020】
ヨーモーメント変化速度演算部10は、左右制動力差ヨーモーメント換算部14が出力するヨーモーメント推定値MGに基づき、下記(5)式に従ってヨーモーメント変化速度dMG/dtを算出する。ヨーモーメント変化速度dMG/dtとは、ヨーモーメント推定値MGの変化速度である。そして、ヨーモーメント変化速度演算部10は、そのヨーモーメント変化速度dMG/dtを補助舵角補正演算部11に出力する。
dMG/dt=(MG-MG(-1))/Δt ………(5)
但し、Δtは設定時間、MG(-1)は現在から設定時間Δt前に左右制動力差ヨーモーメント換算部14が算出したヨーモーメント推定値MGである。
【0021】
図4は、補助舵角補正演算部11の構成を示すブロック図である。
図4に示すように、補助舵角補正演算部11は、補助舵角補正量演算部15および補正補助舵角演算部16を備える。
補助舵角補正量演算部15は、ヨーモーメント変化速度演算部10が出力するヨーモーメント変化速度dMG/dtに基づき、補助舵角補正量δ'を算出する。補助舵角補正量δ'とは、補助舵角δ*の補正に用いる補正量の絶対値である。
【0022】
図5は、補助舵角補正量マップを示す図である。
具体的には、補助舵角補正量演算部15は、ヨーモーメント変化速度dMG/dtに基づいて、図5に示す補助舵角補正量マップを参照し、補助舵角補正量δ'を算出する。補助舵角補正量マップとは、ヨーモーメント変化速度dMG/dtと補助舵角補正量δ'との関係を表すマップである。補助舵角補正量マップでは、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値|dMG/dt|が0以上で且つ設定値α(>0)以下の範囲では補助舵角補正量δ'を「0」とする。また、|dMG/dt|が設定値αより大きい範囲では、|dMG/dt|が大きくなるにつれて、補助舵角補正量δ'を直線的に大きくする。これによって、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値|dMG/dt|が大きい場合には、|dMG/dt|が小さい場合に比べて、補助舵角補正量δ'を大きくする。そして、このように算出した補助舵角補正量δ'を補正補助舵角演算部16に出力する。
補正補助舵角演算部16は、ヨーモーメント変化速度演算部10、左右制動力差ヨーモーメント換算部14、および補助舵角補正量演算部15からの出力に基づき、演算処理を行って補助舵角演算部9が出力する補助舵角δ*を補正する。
【0023】
次に、補正補助舵角演算部16が実行する演算処理の内容を、フローチャートを用いて説明する。
図6は、補正補助舵角演算部16が実行する演算処理の内容を表すフローチャートである。
なお、図6の演算処理は、一定の周期で繰り返し実行する。
図6に示すように、まず、そのステップS1で、車両の制動時に、左右の前輪2FL、2FR間の制動力FLH、FRHの差によって車両の重心周りに発生するヨーモーメントが、車両をヨー軸周りに右回転させるものであるか否かを判定する。
【0024】
具体的には、ヨーモーメント推定値MGが「0」以上であるか否かを判定する。ヨーモーメント推定値MGが「0」以上である場合には(Yes)、ヨーモーメントが車両を右周りに回転させるものであると判定し、ステップS2に移行する。一方、ヨーモーメント推定値MGが「0」より小さいと判定した場合には(No)、ヨーモーメントが車両を左周りに回転させるものであると判定し、ステップS7に移行する。
前記ステップS2では、車両に発生しているヨーモーメントの絶対値が増加しているか否かを判定する。
【0025】
具体的には、ヨーモーメント変化速度dMG/dtが「0」以上であるか否かを判定する。ここで、前記ステップS1の判定結果より、ヨーモーメント推定値MGは正値である。そのため、ヨーモーメント変化速度dMG/dtが「0」以上である場合には(Yes)、ヨーモーメントの絶対値が増加していると判定し、ステップS3に移行する。一方、ヨーモーメント変化速度dMG/dtが「0」より小さい場合には(No)、ヨーモーメントの絶対値が減少していると判定し、ステップS4に移行する。
【0026】
前記ステップS3では、補助舵角δ*を、補助舵角δ*よりも補助舵角δ*の方向に大きくする。ここで、前記ステップS1の判定結果および前記(4)式より、補助舵角δ*は負値である。そのため、補助舵角δ*の方向は負方向となる。
具体的には、補助舵角δ*から補助舵角補正量δ’を減算し、その減算結果(δ*−δ')を補正補助舵角δ*'とする。そして、その補正補助舵角δ*'を前輪操舵コントローラ3に出力した後、この処理を終了する。
【0027】
一方、前記ステップS4では、補助舵角補正量δ’が補助舵角δ*の絶対値以下であるか否かを判定する。
具体的には、補助舵角δ*に補助舵角補正量δ’を加算し、その加算結果(δ*+δ')が「0」以下であるか否かを判定する。ここで、前記ステップS1の判定結果および前記(4)式より、補助舵角δ*は負値である。そのため、加算結果(δ*+δ')が「0」以下である場合には(Yes)、補助舵角補正量δ’が補助舵角δ*の絶対値以下であると判定し、ステップS5に移行する。一方、加算結果(δ*+δ')が「0」より大きい場合には(No)、補助舵角補正量δ’が補助舵角δ*の絶対値より大きいと判定し、ステップS6に移行する。
【0028】
前記ステップS5では、補助舵角δ*を、補助舵角δ*よりも補助舵角δ*の方向と反対方向の転舵角とする。ここで、前記ステップS1の判定結果および前記(4)式より、補助舵角δ*は負値である。そのため、補助舵角δ*と反対方向は正方向となる。
具体的には、補助舵角δ*に補助舵角補正量δ’を加算し、その加算結果(δ*+δ')を補正補助舵角δ*'とする。そして、その補正補助舵角δ*'を前輪操舵コントローラ3に出力した後、この処理を終了する。
【0029】
一方、ステップS6では、補正補助舵角δ*'を「0」に設定する。そして、その補正補助舵角δ*'を前輪操舵コントローラ3に出力した後、この処理を終了する。
また、一方、ステップS7では、車両に発生しているヨーモーメントの絶対値が増加しているか否かを判定する。
具体的には、ヨーモーメント変化速度dMG/dtが「0」より小さいか否かを判定する。ここで、前記ステップS1の判定結果より、ヨーモーメント推定値MGは負値である。ヨーモーメント変化速度dMG/dtが「0」より小さい場合には(Yes)、ヨーモーメントの絶対値が増加していると判定し、ステップS8に移行する。一方、ヨーモーメント変化速度dMG/dtが「0」以上である場合には(No)、ヨーモーメントの絶対値が減少していると判定し、ステップS9に移行する。
【0030】
前記ステップS8では、補助舵角δ*を、補助舵角δ*よりも補助舵角δ*の方向に大きくする。ここで、前記ステップS1の判定結果および前記(4)式より、補助舵角δ*は正値である。そのため、補助舵角δ*の方向は正方向となる。
具体的には、補助舵角δ*に補助舵角補正量δ’を加算し、その加算結果(δ*+δ')を補正補助舵角δ*'とする。そして、その補正補助舵角δ*'を前輪操舵コントローラ3に出力し、この処理を終了する。
【0031】
一方、前記ステップS9では、補助舵角補正量δ’が補助舵角δ*の絶対値以下であるか否かを判定する。
具体的には、補助舵角δ*から補助舵角補正量δ’を減算し、その減算結果(δ*−δ')が「0」以下であるか否かを判定する。ここで、前記ステップS1の判定結果および前記(4)式より、補助舵角δ*は正値である。そのため、減算結果(δ*−δ')が「0」以上であるか否かを判定する。そして、減算結果(δ*−δ')が「0」以上である場合には(Yes)、補助舵角補正量δ’が補助舵角補正量δ’以下であると判定し、ステップS10に移行する。一方、減算結果(δ*−δ')が「0」より小さい場合には(No)、補助舵角補正量δ’が補助舵角補正量δ’より大きいと判定し、ステップS11に移行する。
【0032】
前記ステップS10では、補助舵角δ*を、補助舵角δ*よりも補助舵角δ*の方向と反対方向の転舵角とする。ここで、前記ステップS1の判定結果および前記(4)式より、補助舵角δ*は正値である。そのため、補助舵角δ*と反対方向は負方向となる。
具体的には、補助舵角δ*から補助舵角補正量δ’を減算し、その減算結果(δ*−δ')を補正補助舵角δ*'とする。そして、その補正補助舵角δ*'を前輪操舵コントローラ3に出力した後、この処理を終了する。
一方、ステップS11では、補正補助舵角δ*'を「0」に設定する。そして、その補正補助舵角δ*'を前輪操舵コントローラ3に出力した後、この処理を終了する。
【0033】
(動作)
次に、本実施形態の車両用操舵制御装置の動作を具体的状況に基づいて説明する。
図7は、想定する場面の一例を示す平面図である。
図8は、補正補助舵角δ*'およびヨーモーメント変化速度dMG/dtの変化を説明するためのグラフである。
まず、図1に示すように、舵角制御コントローラ7が、右前輪2FRおよび左前輪2FLの液圧センサ1が出力するブレーキ液圧PFL、PFRを定期的に取得する。
【0034】
ここで、図7に示すように、車両がスプリットμ路を走行している状態を考える。このスプリットμ路では、左輪2FL、2RLが低μ路側に接地しており、右輪2FR、2RRが高μ路側に接地している。そして、このようなスプリットμ路を走行しているときに、車両が急制動を行ったとする。すると、まず、全車輪2FL〜2RRのブレーキ液圧PFL〜PRRが増大し、全車輪2FL〜2RRの制動力が増大する。続いて、そのブレーキ液圧PFL〜PRRの増大によって、低μ路側に接地している左輪2FL、2RLがロックし、左輪2FL、2RLでABS制御が作動する。これにより、左輪2FL、2RLのブレーキ液圧PFL、PRLが比較的低い数値で減少及び増大を繰り返し、右輪2FR、2RRのブレーキ液圧PFR、PRRのみが増大するようになる。そのため、左右の車輪2FL〜2RRにブレーキ液圧PFL〜PRR差が発生し、左右の車輪2FL〜2RRに制動力差が増大するようになる。そして、その制動差によって、車両を高μ路側、つまり、車両をヨー軸周りに右回転させるヨーモーメントが増大する。
【0035】
すると、図2に示すように、ヨーモーメント演算部8が、左前輪2FLおよび右前輪2FRそれぞれの液圧センサ1が出力するブレーキ液圧PFL、PFRに基づいてヨーモーメント推定値MGを算出する。このヨーモーメント推定値MGは、左右の前輪2FL、2FRのブレーキ液圧PFL、PFR間の差が負方向に増大することで正値となる。そして、ヨーモーメント演算部8が、その算出したヨーモーメント推定値MGを補助舵角演算部9、ヨーモーメント変化速度演算部10、および補助舵角補正演算部11に出力する。
【0036】
続いて、補助舵角演算部9が、ヨーモーメント演算部8が出力するヨーモーメント推定値MGに基づいて、ヨーモーメント推定値MGを打ち消す制御ヨーモーメントを発生させるために必要な前輪2FL、2FRの転舵角である、補助舵角δ*を算出する。この補助舵角δ*は、図8(a)の時刻t1に破線で示すように、負値となる。そして、補助舵角演算部9が、その算出した補助舵角δ*を補助舵角補正演算部11に出力する。
【0037】
また、ヨーモーメント変化速度演算部10が、ヨーモーメント演算部8が出力するヨーモーメント推定値MGに基づいて、ヨーモーメント変化速度dMG/dtを算出する。このヨーモーメント変化速度dMG/dtは、図8(b)の時刻t1に示すように、正値となる。そして、ヨーモーメント変化速度演算部10が、その算出したヨーモーメント変化速度dMG/dtを補助舵角補正演算部11に出力する。
【0038】
ここで、算出したヨーモーメント変化速度dMG/dtが設定値αより大きいとする。
すると、図4に示すように、補助舵角補正演算部11において、補助舵角補正量演算部15が、ヨーモーメント変化速度演算部10が出力するヨーモーメント変化速度dMG/dtに基づいて、補助舵角補正量δ'を算出する。この補助舵角補正量δ'は、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値|dMG/dt|が大きいほど大きい正値となる。そして、補助舵角補正量演算部15が、その算出結果を補正補助舵角演算部16に出力する。
【0039】
続いて、補正補助舵角演算部16が、ヨーモーメント変化速度演算部10、左右制動力差ヨーモーメント換算部14、および補助舵角補正量演算部15からの出力に基づき、図6の演算処理を実行する。ここで、ヨーモーメント推定値MGおよびヨーモーメント変化速度dMG/dtの両方が正値(MG≧0、dMG/dt≧0)となっている。そのため、補正補助舵角演算部16が、図6の演算処理で、まず、左右の前輪2FL、2FR間の制動力FLH、FRHの差によって車両の重心周りに発生するヨーモーメントが、車両をヨー軸周りに右回転させるものであると判定する(ステップS1「Yes」)。続いて、ヨーモーメントの絶対値が増加していると判定する(ステップS2「Yes」)。続いて、(δ*-δ')を補正補助舵角δ*'として算出する(ステップS3)。これにより、補助舵角δ*が補助舵角δ*の方向、つまり、負方向に大きくなる。そして、補正補助舵角演算部16が、その算出した補正補助舵角δ*'を前輪操舵コントローラ3に出力する。
【0040】
そして、前輪操舵コントローラ3が、補正補助舵角演算部16が出力する補正補助舵角δ*"に基づいて角度指令値を算出し、その算出結果を前輪操舵アクチュエータ4に出力する。続いて、前輪操舵アクチュエータ4が、その角度指令値に応じて前輪2FL、2RRを転舵する。これにより、前輪操舵角θが補正補助舵角δ*"に一致する。
以上のフローを繰り返し実行する。
これによって、左右の車輪2FL〜2RRの制動力差によって車両にヨーモーメントが発生してから、早いタイミングに制御ヨーモーメントを増大できる。それゆえ、実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメントとの差分を低減でき、車両のヨー方向への回転変位を抑制できる。これにより、良好な走行安定性を確保できる。
【0041】
また、以上のフローを繰り返すうちに、車両が制動を停止したとする。すると、左右の車輪2FL〜2RRのブレーキ液圧PFL〜PRRが低減し、左右の車輪2FL〜2RRの制動力が低減する。続いて、そのブレーキ液圧PFL〜PRRの低減によって、左右の車輪2FL〜2RRのロックが解除し、左右の車輪2FL〜2RRでABS制御の作動が停止する。そのため、左右の車輪2FL〜2RRのブレーキ液圧PFL〜PRR差が低減し、左右の車輪2FL〜2RRの制動力差が低減する。そして、その制動差の低減によって、車両を高μ路側、つまり、車両をヨー軸周りに右回転させるヨーモーメントが低減する。
【0042】
すると、操舵角制御コントローラ7が、上記のフローを実行することにより、まず、ヨーモーメント推定値MGが負値となる。また、補助舵角δ*が、図8(a)の時刻t2に破線で示すように、負値となる。さらに、ヨーモーメント変化速度dMG/dtが、図8(b)の時刻t2に示すように、負値となる。
ここで、算出したヨーモーメント変化速度dMG/dtが(−α)より小さいとする。
すると、補助舵角補正量δ'が、|dMG/dt|が大きいほど大きい正値となる。
【0043】
ここで、ヨーモーメント推定値MGが正値、ヨーモーメント変化速度dMG/dtが負値(MG≧0、dMG/dt<0)となっている。そのため、図6の演算処理により、左右の前輪2FL、2FR間の制動力FLH、FRHの差によって車両の重心周りに発生するヨーモーメントが、車両をヨー軸周りに右回転させるものであると判定する(ステップS1「Yes」)。続いて、ヨーモーメントの絶対値が減少していると判定する(ステップS2「No」)。続いて、(δ*+δ')が「0」以下である場合には、(δ*+δ')を補正補助舵角δ*'として算出する(ステップS5)。これにより、補正補助舵角δ*'が、補助舵角δ*よりも当該補助舵角δ*の方向と反対方向、つまり、正方向に大きい転舵角となる。そして、その算出した補正補助舵角δ*'を前輪操舵コントローラ3に出力する。
【0044】
一方、(δ*+δ')が「0」より大きい場合には、補正補助舵角δ*'として「0」を算出する(ステップS6)。これにより、図8(a)の時刻t3に示すように、補正補助舵角δ*'が、補助舵角δ*よりも当該補助舵角δ*の方向と反対方向に大きい転舵角となる。そして、その算出した補正補助舵角δ*'を前輪操舵コントローラ3に出力する。
以上のフローを繰り返し実行する。
これによって、車両に発生していたヨーモーメントが低減してから、早いタイミングに制御ヨーモーメントの低減量を増大できる。それゆえ、実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメントとの差分を低減することができ、車両のヨー方向への回転変位を抑制できる。
【0045】
図9は、想定する場面の一例を示す平面図である。
図10は、補正補助舵角δ*'およびヨーモーメント変化速度dMG/dtの変化を説明するためのグラフである。
なお、スプリットμ路を走行しているときに、左輪2FL、2RLが低μ路側に接地しており、右輪2FR、2RRが高μ路側に接地している状態を例に説明してきたが、低μ路側と高μ路側との配置が逆であってもよい。すなわち、図9に示すように、右輪2FR、2RRが低μ路側に接地しており、左輪2FL、2RLが高μ路側に接地している状態であっても、図10に示すように、車両のヨー方向への回転変位を抑制できる。
【0046】
ここで、本実施形態では、図1の舵角制御コントローラ7、図2のヨーモーメント演算部8、および図3の左右制動力差ヨーモーメント換算部14がヨーモーメント算出手段を構成する。以下同様に、図1の舵角制御コントローラ7、および図2の補助舵角演算部9が補助舵角算出手段を構成する。また、図1の舵角制御コントローラ7、図2のヨーモーメント変化速度演算部10、補助舵角補正演算部11、図4の補助舵角補正量演算部15、および補正補助舵角演算部16が補助舵角補正手段を構成する。図1の前輪操舵コントローラ3、および前輪操舵アクチュエータ4が転舵制御手段を構成する。
【0047】
(本実施形態の動作)
(1)本実施形態では、まず、補助舵角算出手段が、左右の車輪間の制動力の差によって車両にヨーモーメントが発生する場合、車両に当該ヨーモーメントを打ち消す制御ヨーモーメントを発生させるために必要な操向輪の転舵角である補助舵角を算出する。そして、補助舵角補正手段が、その算出した補助舵角を補正する。その際、ヨーモーメントの変化速度の絶対値が大きい場合には、当該ヨーモーメントの変化速度の絶対値が小さい場合に比べて、補助舵角の補正量の絶対値を大きくする。
そのため、例えば、左右輪の制動力差によって車両に大きなヨーモーメントの変化が発生した場合、補助舵角をより絶対値の大きな値に補正できる。それゆえ、当該ヨーモーメントの変化の発生後、直ぐに制御ヨーモーメントを増大できる。そのため、実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメントとの差分を低減できる。
したがって、車両のヨー方向への回転変位を抑制できる。
【0048】
(2)補助舵角補正手段が、ヨーモーメントの算出結果の絶対値が減少している場合には、補助舵角の補正量の絶対値を、当該補助舵角の絶対値以下に制限した。
そのため、例えば、車両に発生していたヨーモーメントが低減した場合に、補助舵角を、転舵角の中立位置を超えて、補正前の補助舵角の方向と反対方向の転舵角に補正することを防止できる。それゆえ、補正後の補助舵角によって車両にヨー方向への回転変位が発生することを抑制でき、運転者の意図しない方向の車両挙動を抑制できる。
【0049】
(応用例)
(1)なお、本実施形態では、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値|dMG/dt|が設定値αより大きい範囲では、|dMG/dt|が大きくなるにつれて、補助舵角補正量δ'を直線的に大きくする例を示したが、他の構成も採用できる。例えば、|dMG/dt|が大きいほど、|dMG/dt|の増加量に対する補助舵角補正量δ’の増加量を大きくしてもよい。
図11は、応用例の補助舵角補正量マップを示す図である。
【0050】
具体的には、補助舵角補正量演算部15は、ヨーモーメント変化速度dMG/dtに基づいて、図11に示す補助舵角補正量マップを参照し、補助舵角補正量δ'を算出する。補助舵角補正量マップでは、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値|dMG/dt|が大きいほど、補助舵角補正量δ'を大きくする。また、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値|dMG/dt|が大きいほど、その絶対値|dMG/dt|の増加量に対する補助舵角補正量δ'の増加量を大きくする。これによって、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値|dMG/dt|が大きいほど、補助舵角補正量δ'を指数関数的に大きくする。
このように、本応用例では、補助舵角補正手段が、ヨーモーメントの変化速度の絶対値が大きいほど、ヨーモーメントの変化速度の絶対値の増加量に対する補助舵角の補正量の絶対値の増加量を大きくする。
【0051】
そのため、例えば、補助舵角の補正量の絶対値を指数関数的に増加できる。それゆえ、ヨーモーメントの変化が緩やかであり、実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメント、つまり、補助舵角によって発生するヨーモーメントとの差が小さくなる場合に、補助舵角に対する補正を抑制できる。また、ヨーモーメントの変化が急であり、補助舵角に応じた転舵制御のみでは実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメントとの差が大きくなる場合に、制御ヨーモーメントを増大できる。したがって、ヨーモーメントの変化が急であっても、実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメントとの差分を低減できる。
【0052】
(2)また、例えば、ヨーモーメント変化速度の絶対値|dMG/dt|が設定値α以上である場合には、|dMG/dt|が大きいほど補助舵角補正量δ’を大きくし、|dMG/dt|が大きいほど|dMG/dt|の増加量に対する補助舵角補正量δ’の増加量を小さくしてもよい。
図12は、応用例の補助舵角補正量マップを示す図である。
具体的には、補助舵角補正量演算部15は、ヨーモーメント変化速度dMG/dtに基づいて、図12に示す補助舵角補正量マップを参照し、補助舵角補正量δ'を算出する。補助舵角補正量マップでは、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値|dMG/dt|が0以上で且つ設定値α(>0)以下の範囲では補助舵角補正量δ'を「0」とする。また、|dMG/dt|が設定値αより大きい範囲では、設定値αで|dMG/dt|の増加量に対する補助舵角補正量δ’の増加量を最大値とし、設定値αより|dMG/dt|が大きくなるにつれて、|dMG/dt|の増加量に対する補助舵角補正量δ’の増加量を小さくする。すなわち、補助舵角補正量δ'を急勾配で増大し、その後、その勾配を徐々に低減する。
【0053】
このように、本応用例では、補助舵角補正手段が、ヨーモーメントの変化速度の絶対値が大きいほど、ヨーモーメントの変化速度の絶対値の増加量に対する補助舵角の補正量の絶対値の増加量を小さくするようにした。
そのため、例えば、ヨーモーメントの変化速度の絶対値が所定値以上になった場合に、前記補助舵角補正量を急勾配で大きくし、徐々にその勾配を小さくすることができる。それゆえ、ヨーモーメントの変化が緩やかであり、実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメント、つまり、補助舵角によって発生するヨーモーメントとの差が小さくなる場合に、補助舵角に対する補正を抑制できる。また、ヨーモーメントの変化が急であり、運転者の修正操舵の遅れによる実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメントとの差が大きくなる場合に、制御ヨーモーメントをより増大できる。したがって、ヨーモーメントの変化が急であっても、実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメントとの差分を低減できる。
【0054】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、上記各実施形態と同様な構成などについては同一の符号を使用する。
この実施形態は、ヨーモーメント推定値MGの絶対値|MG|が減少している場合に、補助舵角補正量δ’を、補助舵角δ*の絶対値|δ*|以下に制限しない点が前記第1実施形態と異なる。これにより、補助舵角δ*を転舵角の中立位置を超えて補正可能とする。
【0055】
図13は、第2実施形態の補正補助舵角演算部16が実行する演算処理の内容を表すフローチャートである。
具体的には、図13に示すように、補正補助舵角演算部16が実行する図6の演算処理について、ステップS4およびS6を省略し、ステップS2の判定が「No」である場合にはステップS5に移行するようにした。また、ステップS8およびS9を省略し、ステップS7の判定が「No」である場合にはステップS10に移行するようにした。
【0056】
図14は、スプリットμ路を走行しているときに、左輪2FL、2RLが低μ路側に接地しており、右輪2FR、2RRが高μ路側に接地している状態において、補正補助舵角δ*'およびヨーモーメント変化速度dMG/dtの変化を説明するためのグラフである。
図15は、スプリットμ路を走行しているときに、右輪2FR、2RRが低μ路側に接地しており、左輪2FL、2RLが高μ路側に接地している状態において、補正補助舵角δ*'およびヨーモーメント変化速度dMG/dtの変化を説明するためのグラフである。
【0057】
これによって、図14および図15の時刻t4に示すように、例えば、左右の車輪2FL〜2RRの制動力差によって車両に発生していたヨーモーメントが低減した場合に、補助舵角δ*を、転舵角の中立位置を超えて、補正前の補助舵角δ*の方向と反対方向の転舵角に補正することができる。それゆえ、制御ヨーモーメントの低減量をより大きくすることができる。したがって、実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメントとの差分を低減することができ、車両のヨー方向への回転変位を抑制できる。これにより、スプリットμ路で車両が制動を解除した場合でも、良好な走行安定性を確保できる。
【0058】
(応用例)
(1)なお、補助舵角補正量演算部15は、第1実施形態の応用例と同様に、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値|dMG/dt|が大きいほど、|dMG/dt|の増加量に対する補助舵角補正量δ’の増加量を大きくする構成としてもよい。
(2)また、例えば、ヨーモーメント変化速度の絶対値|dMG/dt|が設定値α以上である場合には、|dMG/dt|が大きいほど補助舵角補正量δ’を大きくし、|dMG/dt|が大きいほど|dMG/dt|の増加量に対する補助舵角補正量δ’の増加量を小さくしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
3は前輪操舵コントローラ(転舵制御手段)、4は前輪操舵アクチュエータ(転舵制御手段)、7は舵角制御コントローラ(ヨーモーメント算出手段、補助舵角算出手段、補助舵角補正手段)、8はヨーモーメント演算部(ヨーモーメント算出手段)、9は補助舵角演算部(補助舵角算出手段)、10はヨーモーメント変化速度演算部(補助舵角補正手段)、11は補助舵角補正演算部(補助舵角補正手段)、14は左右制動力差ヨーモーメント換算部(ヨーモーメント算出手段)、15は補助舵角補正量演算部(補助舵角補正手段)、16は補正補助舵角演算部(補助舵角補正手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、操向輪を操舵する車両用操舵制御装置および車両用操舵制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては、例えば、特許文献1に記載の技術がある。
この特許文献1に記載の技術では、スプリットμ路を走行しているときに、車両が制動を行った場合、まず、左右の車輪が走行する路面の路面μを検出する。続いて、その検出結果に基づいて、左右の車輪間の制動力差によって車両に発生するヨーモーメントを算出する。続いて、そのヨーモーメントを打ち消す制御ヨーモーメントを発生させるために必要な操向輪の転舵角を算出する。そして、その転舵角に実際の転舵角が一致するように操向輪を転舵することで、車両に制御ヨーモーメントを発生させ、左右の車輪間の制動力差によって車両に発生するヨーモーメントを打ち消すようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−247056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載の技術では、左右の車輪間の制動力差によって車両に発生するヨーモーメントを制御ヨーモーメントが完全に打ち消せなかった場合、それらの差分を打ち消すヨーモーメントが発生するように、運転者が操舵を行う必要が有る。
しかしながら、例えば、スプリットμ路を走行しているときに、車両が急制動を行い、左右輪の制動力差によって車両に大きなヨーモーメントの変化が発生した場合、運転者の操舵が遅れる可能性があった。その結果、運転者の操舵によって実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメントとの差分を充分に打ち消すことができず、車両にヨー方向への回転変位が生じる可能性があった。
本発明は、上記のような点に着目し、車両のヨー方向への回転変位を抑制可能とすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明では、まず、補助舵角算出手段が、左右の車輪間の制動力の差によって車両にヨーモーメントが発生する場合、車両に当該ヨーモーメントを打ち消す制御ヨーモーメントを発生させるために必要な操向輪の転舵角である補助舵角を算出する。そして、補助舵角補正手段が、その算出した補助舵角を補正する。その際、ヨーモーメントの変化速度の絶対値が大きい場合には、当該ヨーモーメントの変化速度の絶対値が小さい場合に比べて、補助舵角の補正量の絶対値を大きくする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、例えば、左右輪の制動力差によって車両に大きなヨーモーメントの変化が発生した場合、補助舵角をより絶対値の大きな値に補正できる。それゆえ、当該ヨーモーメントの変化の発生後、直ぐに制御ヨーモーメントを増大できる。そのため、実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメントとの差分を低減できる。
したがって、車両のヨー方向への回転変位を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1実施形態の車両用操舵制御装置を装備した車両の構成図である。
【図2】舵角制御コントローラ7が実行する演算処理の内容を表すブロック図である。
【図3】ヨーモーメント演算部8の構成を示すブロック図である。
【図4】補助舵角補正演算部11の構成を示すブロック図である。
【図5】補助舵角補正量マップを示す図である。
【図6】補正補助舵角演算部16が実行する演算処理の内容を表すフローチャートである。
【図7】想定する場面の一例を示す平面図である。
【図8】補正補助舵角δ*'およびヨーモーメント変化速度dMG/dtの変化を説明するためのグラフである。
【図9】想定する場面の一例を示す平面図である。
【図10】補正補助舵角δ*'およびヨーモーメント変化速度dMG/dtの変化を説明するためのグラフである。
【図11】応用例の補助舵角補正量マップを示す図である。
【図12】応用例の補助舵角補正量マップを示す図である。
【図13】第2実施形態の補正補助舵角演算部16が実行する演算処理の内容を表すフローチャートである。
【図14】補正補助舵角δ*'およびヨーモーメント変化速度dMG/dtの変化を説明するためのグラフである。
【図15】補正補助舵角δ*'およびヨーモーメント変化速度dMG/dtの変化を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の車両用操舵制御装置を装備した車両の構成図である。
図1に示すように、本実施形態の車両は、前輪操舵の車両である。
まず、車両は、液圧センサ1を備える。
液圧センサ1は、前輪2FL、2FRそれぞれに設ける。液圧センサ1は、前輪2FL、2FRそれぞれのホイールシリンダのブレーキ液圧PFL、PFRを検出する。そして、その検出結果を舵角制御コントローラ7に出力する。
また、車両は、前輪操舵コントローラ3、前輪操舵アクチュエータ4、制動制御コントローラ5、およびブレーキアクチュエータ6FL〜6RRを備える。
【0009】
前輪操舵コントローラ3は、舵角制御コントローラ7が出力する補正補助舵角δ*"(後述)および前輪操舵アクチュエータ4が出力する前輪モータ回転角(後述)に基づいて角度指令値を算出する。角度指令値とは、補正補助舵角δ*"に前輪2FL、2FRの転舵角を一致させる指令値である。例えば、PWM(Pulse Width Modulation)方式により前輪操舵アクチュエータ4を駆動する駆動電流を利用可能である。そして、前輪操舵コントローラ3は、その算出した角度指令値を前輪操舵アクチュエータ4に出力する。
【0010】
前輪操舵アクチュエータ4は、前輪操舵コントローラ3が出力する角度指令値に応じて、前輪2FL、5FRの転舵角を制御する。前輪操舵アクチュエータ4としては、例えば、ステアリングホイールの操舵角に対する前輪2FL、5FRの転舵角の比をモータと減速機とで変更する可変ギヤ比機構を利用可能である。このモータと減速機とにより、前輪操舵角に関わらず、前輪2FL、5FRの転舵角の変更を可能とする。
【0011】
また、前輪操舵アクチュエータ4は、前輪モータ回転角を検出する。前輪モータ回転角とは、前輪2FL、5FRの転舵角の比を変更するモータの回転角である。そして、前輪操舵アクチュエータ4は、その検出結果を前輪操舵コントローラ3に出力する。
制動制御コントローラ5は、ブレーキペダルの操作量に基づいて目標ブレーキ液圧を算出する。そして、その目標ブレーキ液圧に基づいて、車輪2FL〜2RRそれぞれのホイールシリンダ内のブレーキ液圧PFL〜PRRを制御する。
【0012】
また、制動制御コントローラ5は、ABS(antilocked braking system)制御を実行する。ABS制御とは、ホイールシリンダ内のブレーキ液圧PFL〜PRRの増大により、車輪2FL〜2RRのいずれかがロックした場合に、ロックした車輪2FL〜2RRのホイールシリンダに対し、ブレーキ液圧PFL〜PRRの低減および増大を繰り返す制御である。このABS制御により、車輪2FL〜2RRのロックを解除し、車輪2FL〜2RRそれぞれにブレーキ液圧PFL〜PRRに応じた制動力を発生させる。
【0013】
これによって、例えば、スプリットμ路を走行しているときに、車両が急制動を行った場合には、まず、低μ路側の車輪がロックし、低μ路側の車輪でABS制御、つまり、ブレーキ液圧の低減及び増大が始まる。続いて、高μ路側の車輪がロックし、高μ路側の車輪でABS制御が開始する。その結果、低μ路側の車輪のブレーキ液圧が比較的低い数値で変動し、高μ路側の車輪のブレーキ液圧が比較的高い数値で変動する。
【0014】
ブレーキアクチュエータ6FL〜6RRは、ホイールシリンダを備える。ホイールシリンダは、車輪2FL〜2RRそれぞれに設ける。そして、制動制御コントローラ5によるブレーキ液圧PFL〜PRRの制御に応じて、車輪2FL〜2RRそれぞれに制動力を発生させる。ブレーキアクチュエータ6FL〜6RRとしては、例えば、ディスクブレーキやドラムブレーキを利用可能である。
また、車両は、舵角制御コントローラ7を備える。
舵角制御コントローラ7は、前輪2FL、2FRそれぞれの液圧センサ1が出力するブレーキ液圧PFL、PFRに基づき、演算処理を行って補正補助舵角δ*"を算出する。そして、その算出結果である補正補助舵角δ*"を前輪操舵コントローラ3に出力する。舵角制御コントローラ7としては、例えば、マイクロプロセッサを利用可能である。
【0015】
次に、舵角制御コントローラ7が実行する演算処理の内容を、ブロック図を用いて説明する。
図2は、舵角制御コントローラ7が実行する演算処理の内容を表すブロック図である。
図2に示すように、このブロック図は、ヨーモーメント演算部8、補助舵角演算部9、ヨーモーメント変化速度演算部10、および補助舵角補正演算部11を備える。
【0016】
図3は、ヨーモーメント演算部8の構成を示すブロック図である。
図3に示すように、ヨーモーメント演算部8は、右輪制動力演算部12、左輪制動力演算部13、および左右制動力差ヨーモーメント換算部14を備える。
右輪制動力演算部12は、右前輪2FRの液圧センサ1が出力するブレーキ液圧PFRに基づき、下記(1)式に従って右輪2FRが発生する制動力FRHを算出する。そして、その算出結果を左右制動力差ヨーモーメント換算部14に出力する。
FRH=2(μB・PFR・S・RB)/RT ………(1)
但し、μBはブレーキパッド摩擦係数、Sはホイールシリンダ面積、RBはブレーキロータ有効半径、RTはタイヤ半径である。
【0017】
左輪制動力演算部13は、左前輪2FLの液圧センサ1が出力するブレーキ液圧PFLに基づき、下記(2)式に従って左輪2FLが発生する制動力FLHを算出する。そして、その算出結果を左右制動力差ヨーモーメント換算部14に出力する。
FLH=2(μB・PFL・S・RB)/RT ………(2)
ここで、上述したように、例えば、スプリットμ路を走行しているときに、車両が急制動を行い、ABS制御が作動した場合には、低μ路側の車輪のブレーキ液圧が比較的低い数値で変動し、高μ路側の車輪のブレーキ液圧が比較的高い数値で変動する。そのため、上記(1)式と(2)式より、低μ路側の前輪の制動力の算出結果が比較的小さい値となり、高μ路側の前輪の制動力の算出結果が比較的大きい値となる。
【0018】
左右制動力差ヨーモーメント換算部14は、右輪制動力演算部12が出力する右前輪2FRが発生する制動力FRH、および左輪制動力演算部13が出力する左前輪2FLが発生する制動力FLHに基づき、下記(3)式に従ってヨーモーメント推定値MGを算出する。ヨーモーメント推定値MGとは、車両の制動時に、左右の前輪2FL、2FR間の制動力FLH、FRHの差によって車両の重心周りに発生するヨーモーメントの推定値である。そして、ヨーモーメント演算部8は、そのヨーモーメント推定値MGを補助舵角演算部9、ヨーモーメント変化速度演算部10および補助舵角補正演算部11に出力する。
MG=Tf(FRH-FLH)/2 ………(3)
但し、Tfはフロントトレッドである。
ここで、ヨーモーメント推定値MGは、車両を上方から見た場合に車両をヨー軸周りに右回転させるものを正値とし、左回転させるものを負値とする。
【0019】
図2に戻り、補助舵角演算部9は、左右制動力差ヨーモーメント換算部14が出力するヨーモーメント推定値MGに基づき、下記(4)式に従って補助舵角δ*を算出する。補助舵角δ*とは、車両にヨーモーメント推定値MGを打ち消す制御ヨーモーメントを発生させるために必要な前輪2FL、2FRの転舵角である。そして、補助舵角演算部9は、その補助舵角δ*を補助舵角補正演算部11に出力する。
δ*=-1/2・MG/(Kf・Lf) ………(4)
但し、Kfは前輪コーナリングパワー、Lfは重心-前輪軸間距離である。
ここで、補助舵角δ*は、前輪2FL、2FRを右方向に転舵させるものを正値とし、前輪2FL、2FRを左方向に転舵させるものを負値とする。
【0020】
ヨーモーメント変化速度演算部10は、左右制動力差ヨーモーメント換算部14が出力するヨーモーメント推定値MGに基づき、下記(5)式に従ってヨーモーメント変化速度dMG/dtを算出する。ヨーモーメント変化速度dMG/dtとは、ヨーモーメント推定値MGの変化速度である。そして、ヨーモーメント変化速度演算部10は、そのヨーモーメント変化速度dMG/dtを補助舵角補正演算部11に出力する。
dMG/dt=(MG-MG(-1))/Δt ………(5)
但し、Δtは設定時間、MG(-1)は現在から設定時間Δt前に左右制動力差ヨーモーメント換算部14が算出したヨーモーメント推定値MGである。
【0021】
図4は、補助舵角補正演算部11の構成を示すブロック図である。
図4に示すように、補助舵角補正演算部11は、補助舵角補正量演算部15および補正補助舵角演算部16を備える。
補助舵角補正量演算部15は、ヨーモーメント変化速度演算部10が出力するヨーモーメント変化速度dMG/dtに基づき、補助舵角補正量δ'を算出する。補助舵角補正量δ'とは、補助舵角δ*の補正に用いる補正量の絶対値である。
【0022】
図5は、補助舵角補正量マップを示す図である。
具体的には、補助舵角補正量演算部15は、ヨーモーメント変化速度dMG/dtに基づいて、図5に示す補助舵角補正量マップを参照し、補助舵角補正量δ'を算出する。補助舵角補正量マップとは、ヨーモーメント変化速度dMG/dtと補助舵角補正量δ'との関係を表すマップである。補助舵角補正量マップでは、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値|dMG/dt|が0以上で且つ設定値α(>0)以下の範囲では補助舵角補正量δ'を「0」とする。また、|dMG/dt|が設定値αより大きい範囲では、|dMG/dt|が大きくなるにつれて、補助舵角補正量δ'を直線的に大きくする。これによって、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値|dMG/dt|が大きい場合には、|dMG/dt|が小さい場合に比べて、補助舵角補正量δ'を大きくする。そして、このように算出した補助舵角補正量δ'を補正補助舵角演算部16に出力する。
補正補助舵角演算部16は、ヨーモーメント変化速度演算部10、左右制動力差ヨーモーメント換算部14、および補助舵角補正量演算部15からの出力に基づき、演算処理を行って補助舵角演算部9が出力する補助舵角δ*を補正する。
【0023】
次に、補正補助舵角演算部16が実行する演算処理の内容を、フローチャートを用いて説明する。
図6は、補正補助舵角演算部16が実行する演算処理の内容を表すフローチャートである。
なお、図6の演算処理は、一定の周期で繰り返し実行する。
図6に示すように、まず、そのステップS1で、車両の制動時に、左右の前輪2FL、2FR間の制動力FLH、FRHの差によって車両の重心周りに発生するヨーモーメントが、車両をヨー軸周りに右回転させるものであるか否かを判定する。
【0024】
具体的には、ヨーモーメント推定値MGが「0」以上であるか否かを判定する。ヨーモーメント推定値MGが「0」以上である場合には(Yes)、ヨーモーメントが車両を右周りに回転させるものであると判定し、ステップS2に移行する。一方、ヨーモーメント推定値MGが「0」より小さいと判定した場合には(No)、ヨーモーメントが車両を左周りに回転させるものであると判定し、ステップS7に移行する。
前記ステップS2では、車両に発生しているヨーモーメントの絶対値が増加しているか否かを判定する。
【0025】
具体的には、ヨーモーメント変化速度dMG/dtが「0」以上であるか否かを判定する。ここで、前記ステップS1の判定結果より、ヨーモーメント推定値MGは正値である。そのため、ヨーモーメント変化速度dMG/dtが「0」以上である場合には(Yes)、ヨーモーメントの絶対値が増加していると判定し、ステップS3に移行する。一方、ヨーモーメント変化速度dMG/dtが「0」より小さい場合には(No)、ヨーモーメントの絶対値が減少していると判定し、ステップS4に移行する。
【0026】
前記ステップS3では、補助舵角δ*を、補助舵角δ*よりも補助舵角δ*の方向に大きくする。ここで、前記ステップS1の判定結果および前記(4)式より、補助舵角δ*は負値である。そのため、補助舵角δ*の方向は負方向となる。
具体的には、補助舵角δ*から補助舵角補正量δ’を減算し、その減算結果(δ*−δ')を補正補助舵角δ*'とする。そして、その補正補助舵角δ*'を前輪操舵コントローラ3に出力した後、この処理を終了する。
【0027】
一方、前記ステップS4では、補助舵角補正量δ’が補助舵角δ*の絶対値以下であるか否かを判定する。
具体的には、補助舵角δ*に補助舵角補正量δ’を加算し、その加算結果(δ*+δ')が「0」以下であるか否かを判定する。ここで、前記ステップS1の判定結果および前記(4)式より、補助舵角δ*は負値である。そのため、加算結果(δ*+δ')が「0」以下である場合には(Yes)、補助舵角補正量δ’が補助舵角δ*の絶対値以下であると判定し、ステップS5に移行する。一方、加算結果(δ*+δ')が「0」より大きい場合には(No)、補助舵角補正量δ’が補助舵角δ*の絶対値より大きいと判定し、ステップS6に移行する。
【0028】
前記ステップS5では、補助舵角δ*を、補助舵角δ*よりも補助舵角δ*の方向と反対方向の転舵角とする。ここで、前記ステップS1の判定結果および前記(4)式より、補助舵角δ*は負値である。そのため、補助舵角δ*と反対方向は正方向となる。
具体的には、補助舵角δ*に補助舵角補正量δ’を加算し、その加算結果(δ*+δ')を補正補助舵角δ*'とする。そして、その補正補助舵角δ*'を前輪操舵コントローラ3に出力した後、この処理を終了する。
【0029】
一方、ステップS6では、補正補助舵角δ*'を「0」に設定する。そして、その補正補助舵角δ*'を前輪操舵コントローラ3に出力した後、この処理を終了する。
また、一方、ステップS7では、車両に発生しているヨーモーメントの絶対値が増加しているか否かを判定する。
具体的には、ヨーモーメント変化速度dMG/dtが「0」より小さいか否かを判定する。ここで、前記ステップS1の判定結果より、ヨーモーメント推定値MGは負値である。ヨーモーメント変化速度dMG/dtが「0」より小さい場合には(Yes)、ヨーモーメントの絶対値が増加していると判定し、ステップS8に移行する。一方、ヨーモーメント変化速度dMG/dtが「0」以上である場合には(No)、ヨーモーメントの絶対値が減少していると判定し、ステップS9に移行する。
【0030】
前記ステップS8では、補助舵角δ*を、補助舵角δ*よりも補助舵角δ*の方向に大きくする。ここで、前記ステップS1の判定結果および前記(4)式より、補助舵角δ*は正値である。そのため、補助舵角δ*の方向は正方向となる。
具体的には、補助舵角δ*に補助舵角補正量δ’を加算し、その加算結果(δ*+δ')を補正補助舵角δ*'とする。そして、その補正補助舵角δ*'を前輪操舵コントローラ3に出力し、この処理を終了する。
【0031】
一方、前記ステップS9では、補助舵角補正量δ’が補助舵角δ*の絶対値以下であるか否かを判定する。
具体的には、補助舵角δ*から補助舵角補正量δ’を減算し、その減算結果(δ*−δ')が「0」以下であるか否かを判定する。ここで、前記ステップS1の判定結果および前記(4)式より、補助舵角δ*は正値である。そのため、減算結果(δ*−δ')が「0」以上であるか否かを判定する。そして、減算結果(δ*−δ')が「0」以上である場合には(Yes)、補助舵角補正量δ’が補助舵角補正量δ’以下であると判定し、ステップS10に移行する。一方、減算結果(δ*−δ')が「0」より小さい場合には(No)、補助舵角補正量δ’が補助舵角補正量δ’より大きいと判定し、ステップS11に移行する。
【0032】
前記ステップS10では、補助舵角δ*を、補助舵角δ*よりも補助舵角δ*の方向と反対方向の転舵角とする。ここで、前記ステップS1の判定結果および前記(4)式より、補助舵角δ*は正値である。そのため、補助舵角δ*と反対方向は負方向となる。
具体的には、補助舵角δ*から補助舵角補正量δ’を減算し、その減算結果(δ*−δ')を補正補助舵角δ*'とする。そして、その補正補助舵角δ*'を前輪操舵コントローラ3に出力した後、この処理を終了する。
一方、ステップS11では、補正補助舵角δ*'を「0」に設定する。そして、その補正補助舵角δ*'を前輪操舵コントローラ3に出力した後、この処理を終了する。
【0033】
(動作)
次に、本実施形態の車両用操舵制御装置の動作を具体的状況に基づいて説明する。
図7は、想定する場面の一例を示す平面図である。
図8は、補正補助舵角δ*'およびヨーモーメント変化速度dMG/dtの変化を説明するためのグラフである。
まず、図1に示すように、舵角制御コントローラ7が、右前輪2FRおよび左前輪2FLの液圧センサ1が出力するブレーキ液圧PFL、PFRを定期的に取得する。
【0034】
ここで、図7に示すように、車両がスプリットμ路を走行している状態を考える。このスプリットμ路では、左輪2FL、2RLが低μ路側に接地しており、右輪2FR、2RRが高μ路側に接地している。そして、このようなスプリットμ路を走行しているときに、車両が急制動を行ったとする。すると、まず、全車輪2FL〜2RRのブレーキ液圧PFL〜PRRが増大し、全車輪2FL〜2RRの制動力が増大する。続いて、そのブレーキ液圧PFL〜PRRの増大によって、低μ路側に接地している左輪2FL、2RLがロックし、左輪2FL、2RLでABS制御が作動する。これにより、左輪2FL、2RLのブレーキ液圧PFL、PRLが比較的低い数値で減少及び増大を繰り返し、右輪2FR、2RRのブレーキ液圧PFR、PRRのみが増大するようになる。そのため、左右の車輪2FL〜2RRにブレーキ液圧PFL〜PRR差が発生し、左右の車輪2FL〜2RRに制動力差が増大するようになる。そして、その制動差によって、車両を高μ路側、つまり、車両をヨー軸周りに右回転させるヨーモーメントが増大する。
【0035】
すると、図2に示すように、ヨーモーメント演算部8が、左前輪2FLおよび右前輪2FRそれぞれの液圧センサ1が出力するブレーキ液圧PFL、PFRに基づいてヨーモーメント推定値MGを算出する。このヨーモーメント推定値MGは、左右の前輪2FL、2FRのブレーキ液圧PFL、PFR間の差が負方向に増大することで正値となる。そして、ヨーモーメント演算部8が、その算出したヨーモーメント推定値MGを補助舵角演算部9、ヨーモーメント変化速度演算部10、および補助舵角補正演算部11に出力する。
【0036】
続いて、補助舵角演算部9が、ヨーモーメント演算部8が出力するヨーモーメント推定値MGに基づいて、ヨーモーメント推定値MGを打ち消す制御ヨーモーメントを発生させるために必要な前輪2FL、2FRの転舵角である、補助舵角δ*を算出する。この補助舵角δ*は、図8(a)の時刻t1に破線で示すように、負値となる。そして、補助舵角演算部9が、その算出した補助舵角δ*を補助舵角補正演算部11に出力する。
【0037】
また、ヨーモーメント変化速度演算部10が、ヨーモーメント演算部8が出力するヨーモーメント推定値MGに基づいて、ヨーモーメント変化速度dMG/dtを算出する。このヨーモーメント変化速度dMG/dtは、図8(b)の時刻t1に示すように、正値となる。そして、ヨーモーメント変化速度演算部10が、その算出したヨーモーメント変化速度dMG/dtを補助舵角補正演算部11に出力する。
【0038】
ここで、算出したヨーモーメント変化速度dMG/dtが設定値αより大きいとする。
すると、図4に示すように、補助舵角補正演算部11において、補助舵角補正量演算部15が、ヨーモーメント変化速度演算部10が出力するヨーモーメント変化速度dMG/dtに基づいて、補助舵角補正量δ'を算出する。この補助舵角補正量δ'は、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値|dMG/dt|が大きいほど大きい正値となる。そして、補助舵角補正量演算部15が、その算出結果を補正補助舵角演算部16に出力する。
【0039】
続いて、補正補助舵角演算部16が、ヨーモーメント変化速度演算部10、左右制動力差ヨーモーメント換算部14、および補助舵角補正量演算部15からの出力に基づき、図6の演算処理を実行する。ここで、ヨーモーメント推定値MGおよびヨーモーメント変化速度dMG/dtの両方が正値(MG≧0、dMG/dt≧0)となっている。そのため、補正補助舵角演算部16が、図6の演算処理で、まず、左右の前輪2FL、2FR間の制動力FLH、FRHの差によって車両の重心周りに発生するヨーモーメントが、車両をヨー軸周りに右回転させるものであると判定する(ステップS1「Yes」)。続いて、ヨーモーメントの絶対値が増加していると判定する(ステップS2「Yes」)。続いて、(δ*-δ')を補正補助舵角δ*'として算出する(ステップS3)。これにより、補助舵角δ*が補助舵角δ*の方向、つまり、負方向に大きくなる。そして、補正補助舵角演算部16が、その算出した補正補助舵角δ*'を前輪操舵コントローラ3に出力する。
【0040】
そして、前輪操舵コントローラ3が、補正補助舵角演算部16が出力する補正補助舵角δ*"に基づいて角度指令値を算出し、その算出結果を前輪操舵アクチュエータ4に出力する。続いて、前輪操舵アクチュエータ4が、その角度指令値に応じて前輪2FL、2RRを転舵する。これにより、前輪操舵角θが補正補助舵角δ*"に一致する。
以上のフローを繰り返し実行する。
これによって、左右の車輪2FL〜2RRの制動力差によって車両にヨーモーメントが発生してから、早いタイミングに制御ヨーモーメントを増大できる。それゆえ、実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメントとの差分を低減でき、車両のヨー方向への回転変位を抑制できる。これにより、良好な走行安定性を確保できる。
【0041】
また、以上のフローを繰り返すうちに、車両が制動を停止したとする。すると、左右の車輪2FL〜2RRのブレーキ液圧PFL〜PRRが低減し、左右の車輪2FL〜2RRの制動力が低減する。続いて、そのブレーキ液圧PFL〜PRRの低減によって、左右の車輪2FL〜2RRのロックが解除し、左右の車輪2FL〜2RRでABS制御の作動が停止する。そのため、左右の車輪2FL〜2RRのブレーキ液圧PFL〜PRR差が低減し、左右の車輪2FL〜2RRの制動力差が低減する。そして、その制動差の低減によって、車両を高μ路側、つまり、車両をヨー軸周りに右回転させるヨーモーメントが低減する。
【0042】
すると、操舵角制御コントローラ7が、上記のフローを実行することにより、まず、ヨーモーメント推定値MGが負値となる。また、補助舵角δ*が、図8(a)の時刻t2に破線で示すように、負値となる。さらに、ヨーモーメント変化速度dMG/dtが、図8(b)の時刻t2に示すように、負値となる。
ここで、算出したヨーモーメント変化速度dMG/dtが(−α)より小さいとする。
すると、補助舵角補正量δ'が、|dMG/dt|が大きいほど大きい正値となる。
【0043】
ここで、ヨーモーメント推定値MGが正値、ヨーモーメント変化速度dMG/dtが負値(MG≧0、dMG/dt<0)となっている。そのため、図6の演算処理により、左右の前輪2FL、2FR間の制動力FLH、FRHの差によって車両の重心周りに発生するヨーモーメントが、車両をヨー軸周りに右回転させるものであると判定する(ステップS1「Yes」)。続いて、ヨーモーメントの絶対値が減少していると判定する(ステップS2「No」)。続いて、(δ*+δ')が「0」以下である場合には、(δ*+δ')を補正補助舵角δ*'として算出する(ステップS5)。これにより、補正補助舵角δ*'が、補助舵角δ*よりも当該補助舵角δ*の方向と反対方向、つまり、正方向に大きい転舵角となる。そして、その算出した補正補助舵角δ*'を前輪操舵コントローラ3に出力する。
【0044】
一方、(δ*+δ')が「0」より大きい場合には、補正補助舵角δ*'として「0」を算出する(ステップS6)。これにより、図8(a)の時刻t3に示すように、補正補助舵角δ*'が、補助舵角δ*よりも当該補助舵角δ*の方向と反対方向に大きい転舵角となる。そして、その算出した補正補助舵角δ*'を前輪操舵コントローラ3に出力する。
以上のフローを繰り返し実行する。
これによって、車両に発生していたヨーモーメントが低減してから、早いタイミングに制御ヨーモーメントの低減量を増大できる。それゆえ、実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメントとの差分を低減することができ、車両のヨー方向への回転変位を抑制できる。
【0045】
図9は、想定する場面の一例を示す平面図である。
図10は、補正補助舵角δ*'およびヨーモーメント変化速度dMG/dtの変化を説明するためのグラフである。
なお、スプリットμ路を走行しているときに、左輪2FL、2RLが低μ路側に接地しており、右輪2FR、2RRが高μ路側に接地している状態を例に説明してきたが、低μ路側と高μ路側との配置が逆であってもよい。すなわち、図9に示すように、右輪2FR、2RRが低μ路側に接地しており、左輪2FL、2RLが高μ路側に接地している状態であっても、図10に示すように、車両のヨー方向への回転変位を抑制できる。
【0046】
ここで、本実施形態では、図1の舵角制御コントローラ7、図2のヨーモーメント演算部8、および図3の左右制動力差ヨーモーメント換算部14がヨーモーメント算出手段を構成する。以下同様に、図1の舵角制御コントローラ7、および図2の補助舵角演算部9が補助舵角算出手段を構成する。また、図1の舵角制御コントローラ7、図2のヨーモーメント変化速度演算部10、補助舵角補正演算部11、図4の補助舵角補正量演算部15、および補正補助舵角演算部16が補助舵角補正手段を構成する。図1の前輪操舵コントローラ3、および前輪操舵アクチュエータ4が転舵制御手段を構成する。
【0047】
(本実施形態の動作)
(1)本実施形態では、まず、補助舵角算出手段が、左右の車輪間の制動力の差によって車両にヨーモーメントが発生する場合、車両に当該ヨーモーメントを打ち消す制御ヨーモーメントを発生させるために必要な操向輪の転舵角である補助舵角を算出する。そして、補助舵角補正手段が、その算出した補助舵角を補正する。その際、ヨーモーメントの変化速度の絶対値が大きい場合には、当該ヨーモーメントの変化速度の絶対値が小さい場合に比べて、補助舵角の補正量の絶対値を大きくする。
そのため、例えば、左右輪の制動力差によって車両に大きなヨーモーメントの変化が発生した場合、補助舵角をより絶対値の大きな値に補正できる。それゆえ、当該ヨーモーメントの変化の発生後、直ぐに制御ヨーモーメントを増大できる。そのため、実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメントとの差分を低減できる。
したがって、車両のヨー方向への回転変位を抑制できる。
【0048】
(2)補助舵角補正手段が、ヨーモーメントの算出結果の絶対値が減少している場合には、補助舵角の補正量の絶対値を、当該補助舵角の絶対値以下に制限した。
そのため、例えば、車両に発生していたヨーモーメントが低減した場合に、補助舵角を、転舵角の中立位置を超えて、補正前の補助舵角の方向と反対方向の転舵角に補正することを防止できる。それゆえ、補正後の補助舵角によって車両にヨー方向への回転変位が発生することを抑制でき、運転者の意図しない方向の車両挙動を抑制できる。
【0049】
(応用例)
(1)なお、本実施形態では、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値|dMG/dt|が設定値αより大きい範囲では、|dMG/dt|が大きくなるにつれて、補助舵角補正量δ'を直線的に大きくする例を示したが、他の構成も採用できる。例えば、|dMG/dt|が大きいほど、|dMG/dt|の増加量に対する補助舵角補正量δ’の増加量を大きくしてもよい。
図11は、応用例の補助舵角補正量マップを示す図である。
【0050】
具体的には、補助舵角補正量演算部15は、ヨーモーメント変化速度dMG/dtに基づいて、図11に示す補助舵角補正量マップを参照し、補助舵角補正量δ'を算出する。補助舵角補正量マップでは、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値|dMG/dt|が大きいほど、補助舵角補正量δ'を大きくする。また、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値|dMG/dt|が大きいほど、その絶対値|dMG/dt|の増加量に対する補助舵角補正量δ'の増加量を大きくする。これによって、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値|dMG/dt|が大きいほど、補助舵角補正量δ'を指数関数的に大きくする。
このように、本応用例では、補助舵角補正手段が、ヨーモーメントの変化速度の絶対値が大きいほど、ヨーモーメントの変化速度の絶対値の増加量に対する補助舵角の補正量の絶対値の増加量を大きくする。
【0051】
そのため、例えば、補助舵角の補正量の絶対値を指数関数的に増加できる。それゆえ、ヨーモーメントの変化が緩やかであり、実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメント、つまり、補助舵角によって発生するヨーモーメントとの差が小さくなる場合に、補助舵角に対する補正を抑制できる。また、ヨーモーメントの変化が急であり、補助舵角に応じた転舵制御のみでは実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメントとの差が大きくなる場合に、制御ヨーモーメントを増大できる。したがって、ヨーモーメントの変化が急であっても、実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメントとの差分を低減できる。
【0052】
(2)また、例えば、ヨーモーメント変化速度の絶対値|dMG/dt|が設定値α以上である場合には、|dMG/dt|が大きいほど補助舵角補正量δ’を大きくし、|dMG/dt|が大きいほど|dMG/dt|の増加量に対する補助舵角補正量δ’の増加量を小さくしてもよい。
図12は、応用例の補助舵角補正量マップを示す図である。
具体的には、補助舵角補正量演算部15は、ヨーモーメント変化速度dMG/dtに基づいて、図12に示す補助舵角補正量マップを参照し、補助舵角補正量δ'を算出する。補助舵角補正量マップでは、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値|dMG/dt|が0以上で且つ設定値α(>0)以下の範囲では補助舵角補正量δ'を「0」とする。また、|dMG/dt|が設定値αより大きい範囲では、設定値αで|dMG/dt|の増加量に対する補助舵角補正量δ’の増加量を最大値とし、設定値αより|dMG/dt|が大きくなるにつれて、|dMG/dt|の増加量に対する補助舵角補正量δ’の増加量を小さくする。すなわち、補助舵角補正量δ'を急勾配で増大し、その後、その勾配を徐々に低減する。
【0053】
このように、本応用例では、補助舵角補正手段が、ヨーモーメントの変化速度の絶対値が大きいほど、ヨーモーメントの変化速度の絶対値の増加量に対する補助舵角の補正量の絶対値の増加量を小さくするようにした。
そのため、例えば、ヨーモーメントの変化速度の絶対値が所定値以上になった場合に、前記補助舵角補正量を急勾配で大きくし、徐々にその勾配を小さくすることができる。それゆえ、ヨーモーメントの変化が緩やかであり、実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメント、つまり、補助舵角によって発生するヨーモーメントとの差が小さくなる場合に、補助舵角に対する補正を抑制できる。また、ヨーモーメントの変化が急であり、運転者の修正操舵の遅れによる実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメントとの差が大きくなる場合に、制御ヨーモーメントをより増大できる。したがって、ヨーモーメントの変化が急であっても、実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメントとの差分を低減できる。
【0054】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、上記各実施形態と同様な構成などについては同一の符号を使用する。
この実施形態は、ヨーモーメント推定値MGの絶対値|MG|が減少している場合に、補助舵角補正量δ’を、補助舵角δ*の絶対値|δ*|以下に制限しない点が前記第1実施形態と異なる。これにより、補助舵角δ*を転舵角の中立位置を超えて補正可能とする。
【0055】
図13は、第2実施形態の補正補助舵角演算部16が実行する演算処理の内容を表すフローチャートである。
具体的には、図13に示すように、補正補助舵角演算部16が実行する図6の演算処理について、ステップS4およびS6を省略し、ステップS2の判定が「No」である場合にはステップS5に移行するようにした。また、ステップS8およびS9を省略し、ステップS7の判定が「No」である場合にはステップS10に移行するようにした。
【0056】
図14は、スプリットμ路を走行しているときに、左輪2FL、2RLが低μ路側に接地しており、右輪2FR、2RRが高μ路側に接地している状態において、補正補助舵角δ*'およびヨーモーメント変化速度dMG/dtの変化を説明するためのグラフである。
図15は、スプリットμ路を走行しているときに、右輪2FR、2RRが低μ路側に接地しており、左輪2FL、2RLが高μ路側に接地している状態において、補正補助舵角δ*'およびヨーモーメント変化速度dMG/dtの変化を説明するためのグラフである。
【0057】
これによって、図14および図15の時刻t4に示すように、例えば、左右の車輪2FL〜2RRの制動力差によって車両に発生していたヨーモーメントが低減した場合に、補助舵角δ*を、転舵角の中立位置を超えて、補正前の補助舵角δ*の方向と反対方向の転舵角に補正することができる。それゆえ、制御ヨーモーメントの低減量をより大きくすることができる。したがって、実際のヨーモーメントと制御ヨーモーメントとの差分を低減することができ、車両のヨー方向への回転変位を抑制できる。これにより、スプリットμ路で車両が制動を解除した場合でも、良好な走行安定性を確保できる。
【0058】
(応用例)
(1)なお、補助舵角補正量演算部15は、第1実施形態の応用例と同様に、ヨーモーメント変化速度dMG/dtの絶対値|dMG/dt|が大きいほど、|dMG/dt|の増加量に対する補助舵角補正量δ’の増加量を大きくする構成としてもよい。
(2)また、例えば、ヨーモーメント変化速度の絶対値|dMG/dt|が設定値α以上である場合には、|dMG/dt|が大きいほど補助舵角補正量δ’を大きくし、|dMG/dt|が大きいほど|dMG/dt|の増加量に対する補助舵角補正量δ’の増加量を小さくしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
3は前輪操舵コントローラ(転舵制御手段)、4は前輪操舵アクチュエータ(転舵制御手段)、7は舵角制御コントローラ(ヨーモーメント算出手段、補助舵角算出手段、補助舵角補正手段)、8はヨーモーメント演算部(ヨーモーメント算出手段)、9は補助舵角演算部(補助舵角算出手段)、10はヨーモーメント変化速度演算部(補助舵角補正手段)、11は補助舵角補正演算部(補助舵角補正手段)、14は左右制動力差ヨーモーメント換算部(ヨーモーメント算出手段)、15は補助舵角補正量演算部(補助舵角補正手段)、16は補正補助舵角演算部(補助舵角補正手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制動時に、左右の車輪間の制動力の差によって車両に発生するヨーモーメントを算出するヨーモーメント算出手段と、
前記ヨーモーメント算出手段が算出した前記ヨーモーメントに基づいて、車両に当該ヨーモーメントを打ち消す制御ヨーモーメントを発生させるために必要な操向輪の転舵角である補助舵角を算出する補助舵角算出手段と、
前記補助舵角算出手段が算出した前記補助舵角を補正する補助舵角補正手段と、
前記補助舵角補正手段が補正した前記補助舵角に基づいて前記操向輪の転舵角を制御する転舵制御手段と、を備え、
前記補助舵角補正手段は、前記ヨーモーメント算出手段が算出した前記ヨーモーメントの変化速度の絶対値が大きい場合には、当該ヨーモーメントの変化速度の絶対値が小さい場合に比べて、前記補助舵角の補正量の絶対値を大きくすることを特徴とすることを特徴とする車両用操舵制御装置。
【請求項2】
前記補助舵角補正手段は、
前記ヨーモーメント算出手段が算出した前記ヨーモーメントの変化速度の絶対値が大きいほど、前記補助舵角の補正量の絶対値を大きくし、且つ、
当該ヨーモーメントの変化速度の絶対値が大きいほど、当該ヨーモーメントの変化速度の絶対値の増加量に対する前記補助舵角の補正量の絶対値の増加量を大きくすることを特徴とする請求項1に記載の車両用操舵制御装置。
【請求項3】
前記補助舵角補正手段は、
前記ヨーモーメント算出手段が算出した前記ヨーモーメントの変化速度の絶対値が設定値以上である場合には、前記ヨーモーメント算出手段が算出した前記ヨーモーメントの変化速度の絶対値が大きいほど、前記補助舵角の補正量の絶対値を大きくし、且つ、
当該ヨーモーメントの変化速度の絶対値が大きいほど、当該ヨーモーメントの変化速度の絶対値の増加量に対する前記補助舵角の補正量の絶対値の増加量を小さくすることを特徴とする請求項1に記載の車両用操舵制御装置。
【請求項4】
前記補助舵角補正手段は、前記ヨーモーメント算出手段が算出した前記ヨーモーメントの絶対値が減少している場合には、前記補助舵角算出手段が算出した補助舵角の補正量の絶対値を、当該補助舵角の絶対値以下に制限したことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用操舵制御装置。
【請求項5】
車両の制動時に左右の車輪間の制動力の差によって車両に発生するヨーモーメントを算出し、その算出したヨーモーメントに基づいて、車両に当該ヨーモーメントを打ち消す制御ヨーモーメントを発生させるために必要な操向輪の転舵角である補助舵角を算出し、その算出した補助舵角を補正し、その補正した前記補助舵角に基づいて前記操向輪の転舵角を制御する車両用操舵制御方法であって、
算出した前記ヨーモーメントの変化速度の絶対値が大きい場合には、当該ヨーモーメントの変化速度の絶対値が小さい場合に比べて、前記補助舵角の補正量の絶対値を大きくすることを特徴とする車両用操舵制御方法。
【請求項1】
車両の制動時に、左右の車輪間の制動力の差によって車両に発生するヨーモーメントを算出するヨーモーメント算出手段と、
前記ヨーモーメント算出手段が算出した前記ヨーモーメントに基づいて、車両に当該ヨーモーメントを打ち消す制御ヨーモーメントを発生させるために必要な操向輪の転舵角である補助舵角を算出する補助舵角算出手段と、
前記補助舵角算出手段が算出した前記補助舵角を補正する補助舵角補正手段と、
前記補助舵角補正手段が補正した前記補助舵角に基づいて前記操向輪の転舵角を制御する転舵制御手段と、を備え、
前記補助舵角補正手段は、前記ヨーモーメント算出手段が算出した前記ヨーモーメントの変化速度の絶対値が大きい場合には、当該ヨーモーメントの変化速度の絶対値が小さい場合に比べて、前記補助舵角の補正量の絶対値を大きくすることを特徴とすることを特徴とする車両用操舵制御装置。
【請求項2】
前記補助舵角補正手段は、
前記ヨーモーメント算出手段が算出した前記ヨーモーメントの変化速度の絶対値が大きいほど、前記補助舵角の補正量の絶対値を大きくし、且つ、
当該ヨーモーメントの変化速度の絶対値が大きいほど、当該ヨーモーメントの変化速度の絶対値の増加量に対する前記補助舵角の補正量の絶対値の増加量を大きくすることを特徴とする請求項1に記載の車両用操舵制御装置。
【請求項3】
前記補助舵角補正手段は、
前記ヨーモーメント算出手段が算出した前記ヨーモーメントの変化速度の絶対値が設定値以上である場合には、前記ヨーモーメント算出手段が算出した前記ヨーモーメントの変化速度の絶対値が大きいほど、前記補助舵角の補正量の絶対値を大きくし、且つ、
当該ヨーモーメントの変化速度の絶対値が大きいほど、当該ヨーモーメントの変化速度の絶対値の増加量に対する前記補助舵角の補正量の絶対値の増加量を小さくすることを特徴とする請求項1に記載の車両用操舵制御装置。
【請求項4】
前記補助舵角補正手段は、前記ヨーモーメント算出手段が算出した前記ヨーモーメントの絶対値が減少している場合には、前記補助舵角算出手段が算出した補助舵角の補正量の絶対値を、当該補助舵角の絶対値以下に制限したことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用操舵制御装置。
【請求項5】
車両の制動時に左右の車輪間の制動力の差によって車両に発生するヨーモーメントを算出し、その算出したヨーモーメントに基づいて、車両に当該ヨーモーメントを打ち消す制御ヨーモーメントを発生させるために必要な操向輪の転舵角である補助舵角を算出し、その算出した補助舵角を補正し、その補正した前記補助舵角に基づいて前記操向輪の転舵角を制御する車両用操舵制御方法であって、
算出した前記ヨーモーメントの変化速度の絶対値が大きい場合には、当該ヨーモーメントの変化速度の絶対値が小さい場合に比べて、前記補助舵角の補正量の絶対値を大きくすることを特徴とする車両用操舵制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
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【図4】
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【図10】
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【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−195322(P2010−195322A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44855(P2009−44855)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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