説明

車両用操舵装置

【課題】車両用操舵装置において、伝達比制御モータの焼損の発生を未然に防止でき、フェイルセーフの確実性を増す。
【解決手段】操舵制御部30の起動に伴う初期診断において、ロック解除モードであることを確認した(ステップS2)後、伝達比制御モータ14をロック時の遊び量Bを超える第1の所定角度A1だけ回転変位させる(ステップS4)。これに応じた実際の回転位置変化量Δθが上記第1の所定角度A1未満の場合(ステップS7でYESの場合)、ロック解除モードであるにもかかわらずロック機構がロック状態にあることになる。これを第1の異常であるとして第1の異常信号を出力する(ステップS8)。車両の走行開始前に、第1の異常を検出し、これに応じた修理等の対処を走行開始前に可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
操舵部材と転舵機構とを連結する操舵軸の中途に回転伝達比の変更が可能な遊星ギヤ機構からなる伝達機構を備えた車両用操舵装置において、回転伝達比を変更する伝達比制御モータ等に異常が発生したときに、回転伝達比の変更を不可にロックするロック機構を備えた車両用操舵装置が提案されている(例えば特許文献1,2)。
また、入力部材と出力部材の相対回転角度が予め定めた設定角度以下であるときに、ロック部材を、遊星ギヤ機構の構成要素の回転を許容する回転許容位置に配置し、上記相対回転角度が上記設定角度を超えるときに、ロック部材を、上記構成要素の回転を阻止する回転阻止位置に配置する車両用操舵装置が提案されている(特許文献3)。
【0003】
特許文献1では、エンジンの停止に伴ってロックピンをねじ歯車のスロットに挿入し、伝達比制御モータをロックする。また、エンジン始動時に、モータ軸に最大トルクを発生させて、伝達比制御モータが動かないことを確認し、これにより、ロックが正常であると判断する診断回路を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平2006−521957号公報
【特許文献2】特開2008−24058号公報
【特許文献3】特開2002−145102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の診断回路では、ロックピンが正常にロックされていることを診断することはできるが、ロックピンのロックの解除が正常に行われるか否かの診断はできない。したがって、ECUがロック解除指令信号を出力していても、ロックピンがロックされた状態となっている場合が考えられる。その場合に、ECUが伝達比制御モータの回転制御を実施しようとすると、伝達比制御モータに通常よりも大きな電流が流れ、その結果、伝達比制御モータが焼損するおそれがある。
【0006】
一方、タイヤの切れ角が最大の状態でタイヤが何かの縁石等の障害物に乗り上げているときに、さらにハンドル(操舵部材)を回転させると、タイヤの角度は変化せずに、ハンドルのみが空転する現象が発生する。この場合、運転者は多大な違和感を感じる。
また、高μ路(路面の摩擦係数が高い、例えば石畳などの悪路)を走行(特に登坂走行)しているときに、伝達比制御モータの負荷が大きくなり、伝達比制御モータが焼損するおそれがある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、伝達比制御モータの焼損の発生を未然に防止でき、フェイルセーフの確実性を増すことができる車両用操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、操舵部材(2)の操作に応じて回転する入力軸(3a)と転舵機構(9)の動作に連動して回転する出力軸(3b)との間に介在し、入力軸および出力軸間の伝達比を変更可能な伝達比可変機構(13)と、上記伝達比可変機構の上記伝達比を変更可能な伝達比制御モータ(14)と、上記伝達比制御モータの回転をロック可能なロック機構(29)と、上記伝達比制御モータのロータの回転位置(θ)を検出する回転位置検出装置(34)と、上記伝達比制御モータおよび上記ロック機構を制御する制御部(30)と、を備え、上記制御部は、ロック機構をロックさせるロックモードおよび上記ロックを解除するロック解除モードを設定可能なモード設定部(40)と、当該制御部の起動に伴って上記ロック機構の動作を診断する初期診断部(41)と、を含み、上記初期診断部は、上記ロック解除モードに設定されていることを確認した後、上記伝達比制御モータの上記ロータを、上記ロック機構によりロックされたときの上記ロータの遊び量(B)を超える第1の所定角度(A1)だけ回転させる回転変位指令を出力し、その回転変位指令の出力に伴う上記回転変位検出装置の検出値の変化量(Δθ)が上記第1の所定角度未満であるときに、上記ロック機構の第1の異常を検出する車両用操舵装置(1)を提供する。
【0009】
本発明では、制御部の起動に伴う初期診断において、ロック解除モードであるにもかかわらず、ロック機構がロック状態にある場合に、これを第1の異常であるとして検出することができる。ロック解除モードであるのにロック機構がロック状態にあるときに、仮に、制御部が伝達比制御モータの回転制御を実施しようとすると、伝達比制御モータに通常よりも大きな電流が流れ、その結果、伝達比制御モータが焼損するおそれがある。これに対して、本発明では、制御部の起動に伴う初期診断時に、すなわち車両の走行を開始する前に、第1の異常を検出することができるので、これに応じた修理等の対処が可能となる。したがって、可及的に、伝達比制御モータの焼損の発生を未然に防止することができ、その結果、確実なフェイルセーフを実現することができる。
【0010】
また、上記初期診断部は、上記ロックモードに設定されていることを確認した後、上記伝達比制御モータの上記ロータを、上記ロック機構によりロックされたときの上記ロータの遊び量を超える第2の所定角度(A2)だけ回転させる回転変位指令を出力し、その回転変位指令に伴う上記回転変位検出装置の検出値の変化量が、上記遊び量を超えるときに、上記ロック機構の第2の異常を検出する場合がある(請求項2)。上記初期診断において、ロックモードであるにもかかわらず、ロック機構がロック状態にない場合に、これを第2の異常であるとして検出することができる。制御部の起動に伴う初期診断時に、すなわち車両の走行を開始する前に、第2の異常を検出することができるので、これに応じた修理等の対処が可能となる。したがって、確実なフェイルセーフを実現することができる。
【0011】
また、上記ロック機構は、上記ロータの周方向に等しい間隔で配置された複数のロック位置で上記ロータをロック可能であり、上記制御部は、上記初期診断部によって、上記ロック機構の第2の異常が検出されたときに、上記伝達比制御モータのロータを上記間隔に相当する回転角度以上の第3の所定角度だけ回転させる回転変位指令を出力する場合がある(請求項3)。ロックモードであるにもかかわらず、ロック機構がロック状態にないという第2の異常が検出されたときに、伝達比制御モータのロータをロック位置の配置間隔に相当する回転角度以上の第3の所定角度変位させる。これにより、ロック機構が正常に作動していれば、隣接するロック位置でロック機構のロックが達成されることになる。一時的なロック不良を自然に解消することが可能となる。
【0012】
また、上記伝達比制御モータの温度を検出する温度検出装置(35)と、上記伝達比制御モータの電流を検出する電流検出装置(36)と、を備え、上記制御部は、上記温度検出装置による検出温度(T)および上記電流検出装置による検出電流(i)に基づいて、上記伝達比制御モータの異常を判定し、その異常の判定に応じて上記ロック機構にロック指令信号を出力するとともに、上記伝達比制御モータの電流を零にするフェイルセーフ機能を有する場合がある(請求項4)。この場合、伝達比制御モータの状態の監視がより確実となり、したがって、高μ路(路面の摩擦係数が高い、例えば石畳などの悪路)を走行(特に登坂走行)する条件であっても、伝達比制御モータの過熱焼損の発生を未然に防止することができ、その結果、確実なフェイルセーフを実現することができる。
【0013】
また、上記操舵軸に負荷されるトルク(P)を検出するトルクセンサ(32)を備え、上記制御部は、上記フェイルセーフ機能が実行されているときに、上記トルクセンサの出力値が所定値(P1)以下であることを条件として、フェイルセーフ機能を解除し、伝達比制御モータを通常制御する機能を有する場合がある(請求項5)。フェイルセーフによりロック機構がロック状態にあるとき、運転者が操舵軸に多大な操舵入力を及ぼしている場合(トルクセンサの出力値が所定値以上の場合)には、運転者が冷静さを失っていると判断し、安全確保のためにロック機構によるロックを維持する。一方、運転者による操舵入力が低い場合(トルクセンサの出力値が所定値未満の場合)には、運転者が平静を取り戻していると判断し、ロック機構によるロックを解除して、伝達比制御モータを通常制御する状態(すなわち伝達比制御する状態)に戻す。すなわち、緊急状態回避のためのフェイルセーフ機能が実行されていても、安全な操舵が可能な状態に戻っていると判断したときには、通常制御に戻す。
【0014】
なお、上記において、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態の車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】伝達比可変機構の概略断面図である。
【図3】図3(a)はロック機構とロックされる出力ギヤの概略図であり、図3(b)はロック時にロックされる出力ギヤの遊び量を説明する概略図である。
【図4】フェイルセーフ動作およびフェイルセーフ動作からの復帰動作の流れを示すフローチャートである。
【図5】初期診断の動作を示すフローチャートである。
【図6】伝達比制御モータの焼損防止の動作の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の好ましい実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の一実施の形態に係る車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
図1を参照して、車両用操舵装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結しているステアリングシャフト3とステアリングシャフト3に自在継手4を介して連結された中間軸5と、中間軸5に自在継手6を介して連結されたピニオン軸7と、ピニオン軸7の端部近傍に設けられたピニオン7aに噛み合うラック8aを有し、自動車の左右方向に延びる転舵軸としてのラック軸8とを有している。ピニオン軸7およびラック軸8によりラックアンドピニオン機構からなる転舵機構9が構成されている。
【0017】
ラック軸8は、車体に固定されるハウジング(図示せず)内に、複数の軸受(図示せず)を介して、軸方向X1に沿って直線往復動可能に支持されている。ラック軸8の各端部には、それぞれタイロッド10が結合されている。各タイロッド10は対応するナックルアーム(図示せず)を介して対応する転舵輪11に連結されている。
操舵部材2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、この回転がピニオン7aおよびラック8aによって、ラック軸8の軸方向X1の直線運動に変換される。これにより、転舵輪11の転舵が達成される。
【0018】
また、車両用操舵装置1は、ラック軸8に操舵補助力を付与することのできる、電動ポンプ式の操舵補助機構12と、操舵部材2の操舵角に対する転舵輪11の転舵角の比(伝達比)を変更することのできる伝達比可変機構13とを備えている。伝達比可変機構13は、伝達比を変更することのできる伝達比制御モータ14を含んでいる。また、伝達比可変機構13には、操舵部材2に操舵反力を付与することのできる反力制御モータ15が一体に設けられている。
【0019】
ステアリングシャフト3は、操舵部材2の側の入力軸3aと、転舵機構9の側の出力軸3bとの2軸に分割構成されている。
操舵補助機構12について具体的に説明する。ピニオン軸7の途中部には、操舵部材2に加えられた操舵トルクの方向および大きさに応じてねじれを生ずるトーションバー16と、このトーションバー16のねじれの方向および大きさに応じて開度が変化する油圧制御弁17が介装されている。
【0020】
この油圧制御弁17は、転舵機構9に操舵補助力を与えるパワーシリンダ18に接続されている。パワーシリンダ18は、ラック軸8に一体に設けられたピストン19と、ピストン19によって区画された一対の油室20,21とを有している。一対の油室20,21は、それぞれ、対応する油路22,23を介して、油圧制御弁17に接続されている。油圧制御弁17は、操舵補助力発生用の油圧ポンプ24およびリザーバタンク25と、それぞれ対応する油路26,27を介して接続されている。
【0021】
油圧ポンプ24は、例えばギヤポンプからなり、電動モータ28によって駆動され、リザーバタンク25に貯蔵されている作動油をくみ出して油圧制御弁17に供給する。油圧制御弁17は、トーションバー16のねじれの方向に応じて、油圧ポンプ24を油室20,21の何れか一方に接続するとともに、リザーバタンク25を油室20,21の何れか他方に接続するように、内部の油路を切り換える。油圧制御弁17、パワーシリンダ18、油圧ポンプ24および電動モータ28によって、上記の操舵補助機構12が構成されている。
【0022】
車両用操舵装置1は、伝達比制御モータ14の回転をロック可能なロック機構29を備えている。また、車両用操舵装置1は、伝達比制御モータ14、反力制御モータ15およびロック機構29の動作を制御することにより操舵を制御する操舵制御部30と、操舵補助機構12の油圧ポンプ24の電動モータ28の動作を制御する操舵補助制御部31とを備えている。操舵制御部30および操舵補助制御部31は、それぞれ電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)により構成され、例えば車載ネットワークを介して互いに信号伝達可能に接続されている。
【0023】
操舵制御部30には、操舵部材2に負荷される操舵トルクを検出するトルクセンサ32と、ステアリングシャフト3の出力軸3bの回転角を検出する回転角センサ33と、伝達比制御モータ14のロータの回転位置を検出する回転位置検出装置としての例えばレゾルバからなる回転角センサ34と、伝達比制御モータ14の例えばモータハウジングの温度を検出する温度センサ35と、伝達比制御モータ14に流れる電流を検出する電流検出装置としての電流センサ36と、車両の走行状態(車速、転舵角等)を検出する走行状態センサ37がそれぞれ接続されており、各センサ32〜37からの検出信号が、操舵制御部30に入力されるようになっている。
【0024】
操舵制御部30は、伝達比制御モータ14を伝達比制御するべく駆動制御する伝達比制御部38と、反力制御モータ15を反力制御するべく駆動制御する反力制御部39と、ロック機構29をロックするロックモードおよびロックを解除するロック解除モードを設定するモード設定部40と、システムの起動に伴ってロック機構29の異常を診断する初期診断部41とを含んでいる。
【0025】
図2は伝達比可変機構13の概略断面図である。図2に示すように、ステアリングシャフト3の入力軸3aおよび出力軸3bは、互いの先端を相対向させて同軸上に回転可能に支持されている。
伝達比可変機構13は、入力サンギヤ42aおよび出力サンギヤ42bと、両ギヤ42a,42bに、それぞれ噛合する複数の入力遊星ギヤ43aおよび出力遊星ギヤ43bと、これらの入力遊星ギヤ43aおよび出力遊星ギヤ43bを対応する支軸44を介して同行回転可能に支持しているキャリア45と、このキャリア45を軸回りに回転させる上記伝達比制御モータ14とを備えている。
【0026】
入力サンギヤ42aおよび出力サンギヤ42bは、入力軸3aおよび出力軸3bの相対向する端部に、それぞれ、設けられている。入力サンギヤ42aは入力軸3aと同行回転し、出力サンギヤ42bは出力軸3bと同行回転する。図示のように、入力サンギヤ42aの外径と出力サンギヤ42bの外径とは異なっている。入力サンギヤ42aおよび出力サンギヤ42bの外周には、互いに異なる数の歯がそれぞれ形成されている。
【0027】
入力サンギヤ42aには、複数の入力遊星ギヤ43aが、それぞれ噛み合わされており、出力サンギヤ42bには、複数の出力遊星ギヤ43bが、それぞれ噛み合わされている。各入力遊星ギヤ43aとそれぞれ対応する出力遊星ギヤ43bとは、共通の支軸44によって支持されている。複数の入力遊星ギヤ43aおよび複数の出力遊星ギヤ43bは、中空円筒形のキャリア45の内部に収容されている。
【0028】
キャリア45は、両側の端壁45a,45bの軸心をそれぞれ貫通する支持孔を有し、各支持孔にそれぞれ支持された軸受を介して入力軸3aおよび出力軸3bが、それぞれ支持されている。キャリア45と両軸3a,3bとは、両軸3a,3bの同軸上に相対回転可能である。キャリア45の外周には、伝動ギヤ46が全周に亘って形成されており、この伝動ギヤ46には、伝達比制御モータ14の出力ギヤ47が噛み合わされている。
【0029】
このように構成された車両用操舵装置1において、操舵のために操舵部材2が回転操作された場合、この操舵部材2に連結された入力軸3aが回転し、伝達比可変機構13の入力サンギヤ42aが回転する。伝達比制御モータ14が非駆動状態にある場合、入力サンギヤ42aの回転により、これに噛合する入力遊星ギヤ43aが、支軸44を共通とする出力遊星ギヤ43bと共に支軸44回りに回転する。この回転により、出力遊星ギヤ43bに噛合する出力サンギヤ42bに回転力が加わり、この出力サンギヤ42bが設けてある出力軸3bが回転することとなり、この回転に応じて前述した操舵がなされる。
【0030】
このとき、入力軸3aから出力軸3bへの回転伝達は、入力サンギヤ42a、入力遊星ギヤ43a、出力遊星ギヤ43bおよび出力サンギヤ42bの歯数によって定まる固有の回転比にてなされる。この結果、転舵輪11は、操舵部材2の操作方向に、この操舵部材2の操舵角に前記回転比を乗じた角度相当分だけ転舵されることになり、操舵部材2から操舵用の転舵輪11への伝達比は一定値となる。
【0031】
一方、伝達比制御モータ14を駆動してキャリア45を回転させた場合、入力軸3aの回転は、キャリア45と共に入力サンギヤ42aおよび出力サンギヤ42bの回りを回転しつつ、それぞれの支軸44回りに回転する入力遊星ギヤ43aおよび出力遊星ギヤ43bを介して出力サンギヤ42bおよび出力軸3bに伝達される。
このとき、入力軸3aから出力軸3bへの回転伝達は、前述した固有の回転比からキャリア45の回転分だけ増減された回転比にてなされ、入力軸3aおよび出力軸3b間の回転比、すなわち操舵部材2から転舵輪11への伝達比を無段階に変更することができることになる。
【0032】
一方、車両走行中、操舵部材2には、転舵輪11のセルフアライメントトルク及び外乱入力が伝達比可変機構13を経て伝達されており、これらの力が運転者が操舵を行う際の反力トルクとして作用している。そして前述したように伝達比可変機構13の伝達比を変更した場合、操舵部材2に作用する反力トルクは、この伝達比の変更に応じて変化する。例えば、伝達比制御モータ14を駆動して伝達比を大に変更すると、操舵部材2に作用する反力トルクは大きくなるため、急に操舵部材2が重くなり、運転者に違和感を与えるおそれがある。
【0033】
このような運転者への違和感を軽減するために、上記の反力制御モータ15が設けられている。すなわち、入力軸3aの中途には、図2に示すように、反力ギヤ48が嵌着固定されており、この反力ギヤ48には、反力制御モータ15の出力ギヤ49が噛合させてある。反力制御モータ15は、伝達比制御モータ14の駆動に応じて駆動され、操舵部材2に作用する反力トルクの増減に応じて、この増減分を打ち消すように反力ギヤ48を介して入力軸3aに反力トルクを付加するように構成してある。
【0034】
反力ギヤ48よりも上位置の入力軸3aには、図1に示すように、操舵部材2に加えられる操舵トルクを検出する上記トルクセンサ32が入力軸3aに設けてある。このトルクセンサ32としては、軸倍角(極数の1/2)が異なる2つのレゾルバを備える公知のツインレゾルバを用いることができる。
ツインレゾルバは、入力軸3aをトーションバーにより連結された上下の2軸に分割し、両軸のそれぞれにレゾルバを取付けて構成されている。これら2つのレゾルバにより上記2軸の回転角度をそれぞれ検出して、トーションバーの捩れに応じて上記2軸間に生じる相対角変位を算出し、操舵トルクを算出する構成となっている。なお、これら2つのレゾルバによる検出信号は、1回転内に軸倍角と同数の波形がそれぞれ現れる信号として得られ、これら2つの信号を組み合わせることにより、前述の操舵トルクが求められると共に、入力軸3aの回転角度が得られる。
【0035】
このようなトルクセンサ32により検出される操舵トルクおよび入力軸3aの回転角度は、図1に示すように操舵制御部30に与えられている。また、出力軸3bの回転角度を検出する上記回転角センサ33は、伝達比可変機構13よりも下位置の出力軸3bに取り付けられており、この回転角センサ33により検出される出力軸3bの回転角度も操舵制御部30に与えられている。また、操舵制御部30には、走行状態センサ37により検出された車速、転舵角等、操舵に影響を及ぼす種々の走行状態の検出結果も与えられている。
【0036】
操舵制御部30は、操舵部材2の回転操作に応じた操舵を行わせるべく伝達比制御モータ14に動作指令を発し、伝達比制御モータ14を回転駆動する伝達比制御動作を行う(伝達比制御部38の機能に相当)。この伝達比制御動作は、トルクセンサ32から得られる操舵部材2の操舵角を予め定めた制御マップに適用して目標伝達比を求め、この目標伝達比を得るべく、伝達比制御モータ14を駆動制御することによりなされる。走行状態センサ37により検出される走行状態は、目標伝達比を与えるこめの制御マップの選定に用いられる。
【0037】
また、操舵制御部30は、操舵角に応じた操舵反力を操舵部材2に付与するために反力制御モータ15に動作指令を発し、反力制御モータ15を回転駆動する反力制御動作を行う(反力制御部39の機能に相当)。この反力制御動作は、例えば、予め定めた制御マップに従って目標操舵反力を求め、この目標操舵反力を発生すべく反力制御モータ15を駆動制御することによりなされる。走行状態センサ37により検出される走行状態は、目標操舵反力を与えるための制御マップの選定に用いられる。
【0038】
伝達比制御モータ14は、操舵制御部30から図示しないモータ駆動回路を介して与えられる動作指令に従って駆動され、前述したように伝達比可変機構13に作用して、操舵部材2から転舵輪11への伝達比を無段階に変更する動作をなす。
反力制御モータ15は、トルクセンサ32による検出結果に基づき操舵制御部30から図示しないモータ駆動回路を介して与えられる制御指令に従って駆動され、前述したように入力軸3aに作用し、操舵部材2に回転力を加えて、前記伝達比の変更に応じて操舵部材2に作用する反力トルクの変化を補償する動作をなす。
【0039】
伝達比制御モータ14は、例えば、走行状態センサ37による検出結果の1つである車速の遅速に応じて、回転速度が高低になるように操舵制御部30により速度制御されている。前述したように、操舵部材2から転舵輪11への伝達比は、伝達比制御モータ14の回転速度の高低に応じて大小になるから、低速走行時には操舵部材2の操舵角に対する転舵角変化を大きくし、運転操作を容易に行わせることができる。また、高速走行時には操舵部材2の操作に対する転舵角変化を小さくし、急激な操舵による車両の不安定な挙動を未然に防止して走行安定性を向上させることができる。
【0040】
なお、トルクセンサ32により検出された入力軸3aの回転角度および回転角センサ33により検出された出力軸3bの回転角度は、伝達比制御モータ14の制御のためのフィードバック情報として用いられる。
反力制御モータ15は、伝達比制御モータ14の回転速度の遅速に応じて、入力軸3aに付加する反力トルクを増減するように操舵制御部30により駆動制御されている。この結果、低速走行時に伝達比を大きくした時には、入力軸3aに作用する反力トルクを小さくし、高速走行時に伝達比を小さくした時には、操舵部材2に付加する反力トルクを大きくすることにより、操舵部材2に作用する反力トルクを伝達比の変更の如何に拘わらず一定に維持することができる。これにより伝達比を変更した場合にも運転者に違和感を与えずに済む。
【0041】
なお、トルクセンサ32により検出された操舵トルクは、操舵部材2を操作する運転者が体感する反力トルクを示す情報として、反力制御モータ15の制御のためのフィードバック情報として用いられる。
以上のような伝達比可変機構13には、入力軸3aと出力軸3bとの間の差動を拘束する上記のロック機構29が備えられている。ロック機構29は、キャリア45の外面に対向するように配置されたソレノイドである。ロック機構29は、車体に固定された本体50と、本体50から突出する出力ロッド51とを有している。
【0042】
図3(a)および(b)に示すように、ロック機構29は、励磁に応じて出力ロッド51を伸長させ、伸長した出力ロッド51の先端を、伝達比制御モータ14のロータと同行回転する上記出力ギヤ47の外周47a(のギヤ歯を形成していない部分)に設けられた複数のロック孔52の何れかに嵌合させ、伝達制御モータ14の回転を拘束する。ロック孔52は、出力ギヤ47の外周47aの周方向に等間隔に配置されている。例えば、伝達比制御モータ14のロータ(すなわち出力ギヤ47)の回転角度C(例えば45°)に相当する配置間隔で配置されている。ロック機構29が出力ギヤ47(伝達比制御モータ14)の回転を拘束すると、これに伴って、キャリア45の回転が拘束される。
【0043】
なお、図3(b)に示すように、ロック機構29の出力ロッド51がロック孔52に係合した状態で、出力ギヤ47は、回転方向に遊び量Bを有している。
このようにロック機構29の動作によりキャリア45の回転が拘束された状態で操舵部材2が回転操作された場合、操舵部材2に連結された入力軸3aが回転し、伝達比可変機構13の入力サンギヤ42aが回転する。この回転により、入力サンギヤ42aに噛み合う入力遊星ギヤ43aが支軸44を共通とする出力遊星ギヤ43bと共に回転する。この回転により、出力遊星ギヤ43bに噛み合う出力サンギヤ42bに回転力が加わり、出力サンギヤ42bを備える出力軸3bが回転することになり、この回転に応じた操舵がなされる。
【0044】
このとき、入力軸3aから出力軸3bへの回転伝達は、入力サンギヤ42a、入力遊星ギヤ43a、出力遊星ギヤ43bおよび出力サンギヤ42bの歯数によって定まる固有の回転伝達比にてなされ、転舵輪11は、操舵部材2の操作方向に、操舵部材2の操作量(操舵角)に回転伝達比を乗じた角度(転舵角)相当分だけ転舵されることになる。すなわち、操舵部材2から転舵輪11への機械的な伝動による操舵がなされる。
【0045】
伝達比制御モータ14に対する伝達比制御および反力制御モータ15に対する反力制御の実施中に、図4のフローチャートのステップS1に示すように、操舵制御部30は、入力側の各センサ、並びに出力側の上記伝達比制御モータ14及び反力制御モータ15のフェイル発生の有無を調べる異常診断を行っており、この異常診断の結果、フェイルが発生していると診断された場合(図4のステップS1においてYESの場合)、図4のステップS2において、フェイル発生下での誤った伝達比制御および反力制御を停止すると共に、伝達比可変機構13のロック機構29に動作指令を発するフェイルセーフ動作を実行する。
【0046】
具体的には、伝達比制御モータ14および反力制御モータ15のそれぞれの制御電流を零にすることにより、伝達比制御および反力制御を停止する。また、ロック機構29をロック状態にするためのロックモードを設定し、そのロックモードの設定に応じて、ロック機構29にロック指令信号を出力し、ロック機構29の出力ロッド51をロック孔52に係合させる。
【0047】
これにより、伝達比可変機構13の伝達比制御モータ14の出力ギヤ47とともにキャリア45の回転が拘束される。その結果、操舵部材2の回転操作が、伝達比可変機構13による減速を経て転舵機構9に伝わる。従って、フェイル発生に伴う操舵制御及び反力制御の停止時における緊急の操舵を、操舵部材2から転舵機構9への機械的な伝動によるマニュアル操舵によって行わせることができる。
【0048】
このとき、ロック機構29は、伝達比可変機構13の上記出力ギヤ47とともに上記キャリア45の回転を拘束するが、この回転拘束には、大きな力は必要ない。ロック機構29としては、上述したソレノイド等、小型で簡素な構成のアクチュエータを用いることができ、複雑な構成を必要とせずに確実に実現することができる。
上記のようにフェイルセーフ動作を実行した後、図4のステップS3において、トルクセンサ32から操舵トルクPを取り込み、ステップS4において、その操舵トルクPが所定値P1未満になるか否かが監視される。
【0049】
そのステップS4において、操舵トルクPが所定値P1以上である場合(ステップS4においてNOの場合)には、フェイルセーフ動作を継続し、ステップS4において、操舵トルクPが所定値P1未満と判定された場合(ステップS4においてYES)には、フェイルセーフ動作を停止し、ステップS5に示すように、伝達比制御および反力制御を開始するとともに、ロック解除モードに設定し、伝達比制御モータ14(出力ギヤ47およびキャリア45)の回転拘束を解除する。
【0050】
これは、下記のような場面で特に効果がある。すなわち、例えば、転舵輪11が縁石に乗り上げた状態で、フェイルセーフが実行され、運転者が操舵部材2を最大の操舵角で操舵しているような場合である。
このように、フェイルセーフによりロック機構29がロック状態にあるとき、運転者が操舵軸に多大な操舵入力を及ぼしている場合(操舵トルクPが所定値P1以上の場合)には、運転者が冷静さを失っていると判断し、安全確保のために、伝達比制御および反力制御を停止するとともに、ロック機構29によるロックを維持する。
【0051】
一方、運転者による操舵入力が低い場合(操舵トルクPが所定値P1未満の場合)には、運転者が平静を取り戻していると判断し、ロック機構29によるロックを解除して、伝達比制御モータ14を通常制御する状態(すなわち伝達比制御する状態)に戻すとともに、反力制御モータ15を通常制御する状態(すなわち反力制御する状態)に戻し、また、ロック機構29によるロックを解除し、伝達比可変機構13の伝達比が可変な状態とする。すなわち、緊急状態回避のためのフェイルセーフ機能が実行されていても、安全な操舵が可能な状態に戻っていると判断したときには、通常制御に戻す。
【0052】
なお、以上のフェイルセーフ動作によりマニュアル操舵に移行させる場合、操舵部材2を操作する運転者に体感される操舵感が変化する。したがって、操舵制御部30は、ロック機構29への動作指令の出力に併行して、警報音の鳴動、音声メッセージの発生等の警報動作を行わせ、操舵感が変化することを運転者に報知することが好ましい。
また、伝達比制御モータ14および反力制御モータ15の一方又は両方をダイレクトドライブモータとし、それぞれに対応する入力軸3a及び出力軸3bに直接回転力を伝達するようにしてもよい。
【0053】
また、上記の操舵制御部30は、システムの起動時に、すなわちイグニッションスイッチがオンされたときに、ロック機構29の異常を初期診断する機能(初期診断部41の機能に相当)を有している。
具体的には、図5のフローチャートに示すように、システムの起動に伴って、ステップS1において、フェイルフラッグFFが0に初期設定される。次いで、ステップS2において、ロック解除モードにあるか否かが判定される。ロック解除モードにあると確認されると(ステップS2においてYES)、ステップS3において、伝達比制御モータ14の回転角センサ34(例えばレゾルバ)の信号に基づいて伝達比制御モータ14のロータの回転位置θを取り込み、前回取得値として記憶する。
【0054】
次いで、ステップS4において、伝達比制御モータ14のロータを第1の所定角度A1だけ回転変位させる。第1の所定角度A1は、ロック機構29によりロックされたときの伝達比制御モータ14のロータの遊び量B(例えばB=1°)を超える角度であり(A1>B)、例えば5°である(A1=5°)。
このようにロータを第1の所定角度A1だけ回転変位させた後、ステップS5において、再び、伝達比制御モータ14のロータの回転位置θを取り込み、ステップS6において、今回取り込んだ回転位置θと前回取得した回転位置θとの間の回転位置変化量Δθを算出する。
【0055】
算出された回転位置変化量Δθが、第1の所定角度A1未満である(Δθ<A1)場合(ステップS7においてYESの場合)には、ロック解除モードであるにもかかわらず、ロック機構29がロックされた状態にあると判断し、ステップS8において、第1の異常信号を出力した後、ステップS9において、フェイルフラッグFFを1(フェイル発生に相当)に設定し、処理を終了する。
【0056】
一方、算出された回転位置変化量Δθが第1の所定角度A1以上である場合(ステップS7においてNOの場合であり、Δθ≧A1である場合)には、ロック解除モードにおいて、ロック機構29が正常に機能していて、ロック機構29のロックが解除された状態にあると判断し、ステップS10において、正常信号を出力した後、初期診断の処理を終了する。
【0057】
また、ステップS2において、ロック解除モードにないと判定された場合(ステップS2においてNOの場合)には、ステップS11に進み、伝達比制御モータ14のレゾルバの信号に基づいて伝達比制御モータ14のロータの回転位置θを取り込み、前回取得値として記憶する。
次いで、ステップS12において、伝達比制御モータ14のロータを第2の所定角度A2だけ回転変位させる。第2の所定角度A2は、ロック機構29によりロックされたときのロータの遊び量B(例えばB=1°)を超える角度であり(A2>B)、例えば5°である(A2=5°)。
【0058】
このようにロータを第2の所定角度A2だけ回転変位させた後、ステップS13において、再び、伝達比制御モータ14のロータの回転位置θを取り込み、今回取り込んだ回転位置θと前回取得した回転位置θとの間の回転位置変化量ΔθをステップS14において算出する。
ステップS14において算出された回転位置変化量Δθが、ステップS15において、上記遊び量B(ロック機構29によってロックされたときの、伝達比制御モータ14のロータの遊び量)以下である(Δθ≦B)と判断された場合(ステップS15においてNOの場合)には、ステップS10に進み、ロック機構29が正常である旨の正常信号を出力した後、初期診断の処理を終了する。
【0059】
一方、ステップS14において算出された回転位置変化量Δθが、ステップS15において上記遊び量Bを超えている(B<Δθ)と判断された場合(ステップS15においてYESの場合)には、次のステップS16に進む。
そのステップS16では、伝達比制御モータ14のロータを第3の所定角度A3だけ回転変位させる。第3の所定角度A3は、ロック機構29によるロック位置の配置間隔に相当する回転角度C(例えば45°)以上の角度である(A3≧C)。
【0060】
一時的な異常でロック機構29のロックが達成されていない場合に、ステップS16において、上記第2の所定角度A3だけ、伝達比制御モータ14のロータを回転変位させ、これにより、伝達比制御モータ14が、隣接するロック位置でロックされるか否かを再検査する。
すなわち、ステップS11〜ステップS15と同じ処理であるステップS17〜ステップS21を実行し、ロック機構29がロック状態にあるか否かを再判定する。再判定の結果、回転位置変化量Δθが遊び量B以下である(Δθ≦B)場合(ステップS21においてNOの場合)には、ロック機構29が正常にロックされた状態にあると判断し、ステップS10において、正常信号を出力した後、初期診断の処理を終了する。
【0061】
再判定の結果、回転位置変化量Δθが、依然として遊び量Bを超えている(B<Δθ)場合(ステップS21においてYESの場合)には、ステップS22において、ロックモードにあるにもかかわらずロック機構29がロック状態にない旨の、第2の異常信号を出力した後、ステップS23において、フェイルフラッグFFを1に設定し、初期診断の処理を終了する。
【0062】
本実施の形態によれば、操舵制御部30の起動に伴う初期診断において、ロック解除モードであるにもかかわらず、ロック機構29がロック状態にある場合に、これを第1の異常であるとして検出することができる。
ロック解除モードであるのにロック機構29がロック状態にあるときに、仮に、操舵制御部30が伝達比制御モータ14の回転制御を実施しようとすると、伝達比制御モータ14に通常よりも大きな電流が流れ、その結果、伝達比制御モータ14が焼損するおそれがある。これに対して、本実施の形態では、操舵制御部30の起動に伴う初期診断時に、すなわち車両の走行を開始する前に、第1の異常(ロック解除モードであるにもかかわらず、ロック機構29がロックされている異常)を検出することができるので、これに応じた修理等の対処が走行前に可能となる。したがって、可及的に、伝達比制御モータ14の焼損の発生を未然に防止することができ、その結果、確実なフェイルセーフを実現することができる。
【0063】
また、上記初期診断部41は、ロックモードに設定されていることを確認した後、伝達比制御モータ14を、ロック機構29によりロックされたときのロータ(出力ギヤ47)遊び量Bを超える第2の所定角度A2だけ回転させる回転変位指令を出力し、その回転変位指令に伴う回転角センサ34の検出による回転位置変化量Δθが、遊び量Bを超えているときに、上記ロック機構29の第2の異常を検出する。すなわち、初期診断において、ロックモードであるにもかかわらず、ロック機構29がロック状態にない場合に、これを第2の異常であるとして検出することができる。したがって、車両の走行を開始する前に、第2の異常を検出することができるので、これに応じた修理等の対処が可能となり、その結果、確実なフェイルセーフを実現することができる。
【0064】
また、上記のようにロックモードであるにもかかわらず、ロック機構29がロック状態にないという上記第2の異常が検出されたときに、伝達比制御モータ14をロック位置の配置間隔に相当する回転角度C以上の第3の所定角度A3だけ回転変位させる。これにより、ロック機構29が正常に作動していれば、隣接するロック位置でロック機構29のロックが達成されることになる。これにより、一時的なロック不良を自然に解消することが可能となる。
【0065】
また、操舵制御部30は、伝達比制御モータ14の焼損を防止する機能を有している。具体的には、図6のフローチャートを参照して、ステップS1において、温度センサ35により検出された温度Tを取り込み、ステップS2において、温度Tが予め定めた所定温度T1以上であるか否かが判定される。温度Tが所定温度T1以上である場合には、ステップS14に進み、フェイルフラッグFFを1に設定する。
【0066】
一方、ステップS2において、温度Tが所定温度T1未満である(T<T1)と判定された場合(ステップS2においてNOの場合)には、タイマー(タイマーカンウト)をスタートした(ステップS3)後、ステップS6において、タイムアップ(タイマーカウントアップ)するまでの間(例えば30秒間)、電流センサ36により検出された電流iを取り込み(ステップS4)、電流積算値Wを算出する(ステップS5)という動作を繰り返す。
【0067】
次いで、ステップS7では、タイムアップするまでの間に積算された電流積算値Wが予め定めた所定値W1以上であるか否かが判定される。ステップS7において、電流積算値Wが所定値W1以上であると判定された場合(ステップS7においてYESの場合)には、ステップS14に進み、フェイルフラッグFFを1に設定する。
ステップS7において、電流積算値Wが所定値W1未満であると判定された場合(ステップS7においてNOの場合)には、タイマー(タイマーカンウト)をスタートした(ステップS8)後、ステップS12において、タイムアップ(タイマーカウントアップ)するまでの間(例えば30秒間)、電流センサ36により検出された電流iを取り込み(ステップS9)、今回取得した電流iの値と前回の取得値との偏差Δiを算出する(ステップS10)という動作を繰り返す。
【0068】
偏差Δiが予め定めた所定値Δi1未満(i<Δi1)のままで、タイムアップ(タイマーカウントアップ)した場合(ステップS12でYESの場合)には、ステップS13に進んで、フェイルフラッグFFを0に設定する。
一方、タイムアップする前に、偏差Δiが所定値Δi1以上になった場合(ステップS11においてYESの場合)には、ステップS14に進み、フェイルフラッグFFを1に設定する。
【0069】
本実施の形態によれば、伝達比制御モータ14の温度、電流、および電流積算値の何れか一つでも対応する条件に該当すると、フェイルセーフを実行するようにしたので、伝達比制御モータ14の状態の監視が確実である。したがって、特に、高μ路(路面の摩擦係数が高い、例えば石畳などの悪路)を走行(特に登坂走行)するような条件であっても、伝達比制御モータ14の過熱焼損の発生を未然に防止することができ、その結果、確実なフェイルセーフを実現することができる。
【0070】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、例えば上記の実施の形態では、ロック機構29は、伝達比制御モータ14と同行回転する出力ギヤ47をロックしたが、これに限らず、伝達比制御モータ14のロータをロックするようにしてもよいし、また、伝達比可変機構13のキャリア45をロックするようにしてもよいし、また、伝達比可変機構13の他の伝達要素をロックするようにしてもよい。その他、本発明の特許請求の範囲で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0071】
1…車両用操舵装置、2…操舵部材、3…ステアリングシャフト、3a…入力軸、3b…出力軸、9…転舵機構、11…転舵輪、12…操舵補助機構、13…伝達比可変機構、14…伝達比制御モータ、15…反力制御モータ、17…油圧制御弁、18…パワーシリンダ、24…油圧ポンプ、28…電動モータ、29…ロック機構、30…操舵制御部、31…操舵補助制御部、32…トルクセンサ、33…回転角センサ、34…回転角センサ(回転位置検出装置)、35…温度センサ(温度検出装置)、36…電流センサ(電流検出装置)、37…走行状態センサ、38…伝達比制御部、39…反力制御部、40…モード設定部、41…初期診断部、47…出力ギヤ、47a…外周、50…本体、51…出力ロッド、52…ロック孔、θ…回転位置、Δθ…回転位置変化量、A1…第1の所定角度、A2…第2の所定角度、A3…第3の所定角度、B…遊び量、C…(配置間隔に相当する)回転角度、i…電流、Δi…偏差、T…温度、P…操舵トルク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材の操作に応じて回転する入力軸と転舵機構の動作に連動して回転する出力軸との間に介在し、入力軸および出力軸間の伝達比を変更可能な伝達比可変機構と、
上記伝達比可変機構の上記伝達比を変更可能な伝達比制御モータと、
上記伝達比制御モータの回転をロック可能なロック機構と、
上記伝達比制御モータのロータの回転位置を検出する回転位置検出装置と、
上記伝達比制御モータおよび上記ロック機構を制御する制御部と、を備え、
上記制御部は、ロック機構をロックさせるロックモードおよび上記ロックを解除するロック解除モードを設定可能なモード設定部と、当該制御部の起動に伴って上記ロック機構の動作を診断する初期診断部と、を含み、
上記初期診断部は、上記ロック解除モードに設定されていることを確認した後、上記伝達比制御モータの上記ロータを、上記ロック機構によりロックされたときの上記ロータの遊び量を超える第1の所定角度だけ回転させる回転変位指令を出力し、その回転変位指令の出力に伴う上記回転変位検出装置の検出値の変化量が上記第1の所定角度未満であるときに、上記ロック機構の第1の異常を検出する、車両用操舵装置。
【請求項2】
請求項1において、上記初期診断部は、上記ロックモードに設定されていることを確認した後、上記伝達比制御モータの上記ロータを、上記ロック機構によりロックされたときの上記ロータの遊び量を超える第2の所定角度だけ回転させる回転変位指令を出力し、その回転変位指令に伴う上記回転変位検出装置の検出値の変化量が、上記遊び量を超えるときに、上記ロック機構の第2の異常を検出する、車両用操舵装置。
【請求項3】
請求項1または2において、上記ロック機構は、上記ロータの周方向に等しい間隔で配置された複数のロック位置で上記ロータをロック可能であり、
上記制御部は、上記初期診断部によって、上記ロック機構の第2の異常が検出されたときに、上記伝達比制御モータのロータを上記間隔に相当する回転角度以上の第3の所定角度だけ回転させる回転変位指令を出力する、車両用操舵装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項において、上記伝達比制御モータの温度を検出する温度検出装置と、
上記伝達比制御モータの電流を検出する電流検出装置と、を備え、
上記制御部は、上記温度検出装置による検出温度および上記電流検出装置による検出電流に基づいて、上記伝達比制御モータの異常を判定し、その異常の判定に応じて上記ロック機構にロック指令信号を出力するとともに、上記伝達比制御モータの電流を零にするフェイルセーフ機能を有する、車両用操舵装置。
【請求項5】
請求項4において、上記操舵軸に負荷されるトルクを検出するトルクセンサを備え、
上記制御部は、上記フェイルセーフ機能が実行されているときに、上記トルクセンサの出力値が所定値以下であることを条件として、フェイルセーフ機能を解除し、伝達比制御モータを通常制御する機能を有する、車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−31638(P2011−31638A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176793(P2009−176793)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】