説明

車両用画像処理装置および車両用画像処理方法

【課題】カメラにより取得された画像から路面の位置を求める。
【解決手段】車両用画像処理装置10は、記憶部13、路面検出部27、近似平面作成部31および路面データ更新部32を備える。記憶部13は、設定路面上の点についてカメラ座標系における画像上の座標値と光軸方向座標値とを関連付けた路面データを記憶する。路面検出部27は、スケールファクタつき相対並進成分と自車の並進成分とを用いてカメラ座標系における対象物の光軸方向座標値を算出するとともに、路面データにおいて対象物の画像上の座標値と関連付けられた光軸方向座標値を記憶部13から取得し、これらの光軸方向座標値の差が所定の路面閾値以下であると対象物を路面と判定する。近似平面作成部31は、複数の対象物のなす近似平面を表す式を立て、この近似平面上の点について近似平面データを求める。路面データ更新部32は、記憶部13の路面データを近似平面データで更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、車両用画像処理装置および車両用画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、自動車などの車両の運転を支援するための技術として、車両と対象物との衝突可能性を判定する技術の開発が望まれている。この種の技術には、たとえば、車両に搭載されたカメラにより撮像された画像にもとづいて車両と対象物との衝突可能性を判定する技術などがある。車両に搭載されたカメラにより撮像された画像を用いる場合、レーダを用いる場合に比べてデジタル化された画像データを利用することができることから、対象物の接近角度などの複雑な判断が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−56763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、カメラにより撮像された画像にもとづいて車両と対象物との衝突可能性を判定する従来の技術は、カメラにより撮像される路面が車両底面と平行であること(路面平面モデル)が前提となっており、カメラにより撮像される路面と車両底面とが平行でない場合を考慮していない。このため、カメラにより撮像される路面と車両底面とが平行でない場合には、画像から対象物との距離を求めることや移動体を特定することが難しい。
【0005】
カメラにより撮像される路面と車両底面とが平行でない状況としては、たとえば路面の勾配が変化しており車両直下の路面とカメラにより撮像される路面とで勾配の変化がある状況や、路面が平坦であっても車両積載荷重の多寡や乗車人員の変動による車両傾きがある状況などが挙げられる。これらの状況は、実際の車両の運転において遭遇する可能性が高いものと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係る車両用画像処理装置は、上述した課題を解決するために、カメラと、スケールファクタ付き並進成分算出部と、記憶部と、路面検出部と、近似平面作成部と、路面データ更新部と、を備える。カメラは、車両に設けられ車両の周辺を撮像する。スケールファクタ付き並進成分算出部は、カメラにより撮像された画像に含まれる対象物に対応する動きベクトルと車両の回転成分とにもとづいて、スケールファクタ付き相対並進成分を算出する。記憶部は、所定の設定路面上の点についてカメラ座標系における画像上の座標値と光軸方向座標値とを関連付けたデータである路面データを記憶する。路面検出部は、スケールファクタつき相対並進成分と自車の並進成分とを用いてカメラ座標系における対象物の光軸方向座標値を算出するとともに、路面データにおいて対象物の画像上の座標値と関連付けられた光軸方向座標値を記憶部から取得し、これらの光軸方向座標値の差が所定の路面閾値以下であると対象物を路面と判定する。近似平面作成部は、路面と判定された複数の対象物のカメラ座標系における三次元座標値の共分散行列の固有ベクトルを用いて複数の対象物のなす近似平面を表す式を立てることにより、この近似平面上の点についてカメラ座標系における画像上の座標値と光軸方向座標値とを関連付けた近似平面データを求める。路面データ更新部は、所定の設定路面を近似平面とするよう、記憶部の路面データを近似平面データで更新する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車両用画像処理装置の一例を示す全体構成図。
【図2】カメラ座標系におけるカメラ投影面と路面との関係を示す説明図。
【図3】第1実施形態に係る画像処理ECUのCPUが、カメラにより取得された画像からリアルタイムに路面の位置を求める際の手順を示すフローチャート。
【図4】本発明の第2実施形態に係る車両用画像処理装置の一例を示す全体構成図。
【図5】第2実施形態に係る画像処理ECUのCPUが、カメラにより取得された画像からリアルタイムに路面の位置を求める際の手順を示すフローチャート。
【図6】本発明の第3実施形態に係る車両用画像処理装置の一例を示す全体構成図。
【図7】第3実施形態に係る画像処理ECUのCPUが、カメラにより取得された画像からリアルタイムに路面の位置を求める際の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る車両用画像処理装置および車両用画像処理方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
【0009】
図1は、本発明の第1実施形態に係る車両用画像処理装置10の一例を示す全体構成図である。
【0010】
車両用画像処理装置10は、カメラ11、画像処理ECU(Electronic Control Unit)12および記憶部13を有する。
【0011】
カメラ11は、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサにより構成され、自家用自動車等の車両周囲の画像を取り込んで画像信号を生成して画像処理ECU12に与える。
【0012】
たとえば後方を監視する場合、カメラ11は車両後部のナンバープレート付近に路面と平行な線からやや下向きに配設される。カメラ11には、より広範な車両外画像が取得可能なように広角レンズや魚眼レンズが取り付けられてもよい。また、車両の側方を監視する場合、カメラ11はサイドミラー付近に配設される。もちろん、複数のカメラ11を用いることにより広範な車外周囲画像を取り込むようにしてもよい。
【0013】
画像処理ECU12は、CPU、RAMおよびROMなどの記憶媒体などにより構成される。画像処理ECU12のCPUは、ROMなどの記憶媒体に記憶された画像処理プログラムおよびこのプログラムの実行のために必要なデータをRAMへロードし、このプログラムに従って、カメラ11により取得された画像にもとづいて、カメラ11により取得された画像からリアルタイムに路面の位置を求める。
【0014】
画像処理ECU12のRAMは、CPUが実行するプログラムおよびデータを一時的に格納するワークエリアを提供する。画像処理ECU12のROMなどの記憶媒体は、画像処理プログラムや、これらのプログラムを実行するために必要な各種データを記憶する。
【0015】
なお、ROMをはじめとする記憶媒体は、磁気的もしくは光学的記録媒体または半導体メモリなどの、CPUにより読み取り可能な記録媒体を含んだ構成を有し、これら記憶媒体内のプログラムおよびデータの一部または全部は図示しないネットワーク接続部を介して電子ネットワークを介してダウンロードされるように構成してもよい。
【0016】
なお、この場合、ネットワーク接続部は、ネットワークの形態に応じた種々の情報通信用プロトコルを実装し、この各種プロトコルに従って画像処理ECU12と他の車両のECUなどの電気機器とを電子ネットワークを介して接続する。この接続には、電子ネットワークを介した電気的な接続などを適用することができる。ここで電子ネットワークとは、電気通信技術を利用した情報通信網全般を意味し、無線/有線LAN(Local Area Network)やインターネット網のほか、電話通信回線網、光ファイバ通信ネットワーク、ケーブル通信ネットワークおよび衛星通信ネットワークなどを含む。
【0017】
記憶部13は、画像処理ECU12によるデータの読み書きが可能な不揮発性のメモリであり、あらかじめ、消失点(FOE:Focus of Expansion)の情報FOE(x0、y0)および路面データz2=z(x、y)、路面閾値zth、第1の固有値閾値λth1、第2の固有値閾値λth2、カメラ高さHおよび角度閾値ψthを記憶している。これらの情報は、電子ネットワークを介してまたは光ディスクなどの可搬型記憶媒体を介して更新されてもよい。
【0018】
路面データz2=z(x、y)は、所定の設定路面上の点について、画像上の座標値と光軸方向座標値とを関連付けたデータをいうものとする。すなわち、画像処理ECU12は、記憶部13に記憶された路面データを参照することにより、画像上の座標値(x、y)に表示された対象物について、この対象物が所定の設定路面上にあるものと仮定した場合における光軸方向座標値z2を取得することができる。
【0019】
図1に示すように、画像処理ECU12のCPUは、画像処理プログラムによって、少なくともスウィング角補正部21、動きベクトル算出部22、回転成分算出部23、移動体検出部24、スケールファクタ付き並進成分算出部25、自車並進成分算出部26、路面検出部27、路面上点座標算出部28、固有値・固有ベクトル算出部29、定点設定部30、近似平面作成部31、路面データ更新部32およびスウィング角算出部33として機能する。この各部21〜33は、RAMの所要のワークエリアを、データの一時的な格納場所として利用する。なお、これらの機能実現部は、CPUを用いることなく回路などのハードウエアロジックによって構成してもよい。
ここで、カメラ座標系について簡単に説明する。
【0020】
図2は、カメラ座標系におけるカメラ投影面41と路面42との関係を示す説明図である。
【0021】
本実施形態に係る車両用画像処理装置10は、カメラ座標系のみを用い、世界座標系を併用しないため、座標系の相互変換等の処理が不要である。
【0022】
カメラ座標系(x、y、z)は、カメラ11の中心を原点とする左手座標系である。カメラ座標系のz軸は、カメラ11の光軸に一致するよう設定される。
【0023】
カメラ投影面41は、カメラ座標系においてz=fの面である。fはカメラ11の焦点距離である。カメラ11は、このカメラ投影面41に投影される車両周囲を撮像する。
【0024】
対象物のある点Pのカメラ座標系の三次元座標をP(X、Y、Z)とし、点Pのカメラ投影面41に投影された点pの座標をp(x、y、f)とする。このとき点Pのz座標(光軸方向座標)をzと定義すると(Z=z)、X=(z/f)・x、Y=(z/f)・y、Z=zと書ける。ここで、x、yは投影面41上のxy座標値であり、zは対象物のz座標値であることに注意する。投影面41上のxy座標値は、カメラ11の画素と対応するものであるため、画像から容易に取得することができる。
【0025】
カメラ高さHは、タイヤが接地する車両直下の路面(以下、車両直下平面という)43から見たカメラ11の中心の高さをいうものとする。
【0026】
本実施形態では、カメラ11の中心から下ろした鉛直線と車両直下平面43との交点が定点P0(α、β、γ)であるとともに、このP0から原点までの距離であるカメラ高さHが定数であるものとする。また、本実施形態では、カメラ11により撮像される路面42は定点P0を通るものとする。
【0027】
スウィング角補正部21は、スウィング角算出部33から受けた角度ずれψを補正するよう、カメラ11により撮像された画像をz軸を中心として回転補正する。この結果、カメラ11で撮像された画像はカメラ11のz軸回りの取り付け角誤差を補正され、たとえば地平線が水平な位置に表示されるようになる。このスウィング角補正部21による回転補正は、たとえばカメラ11の取り付け時の初期設定において使用されてもよい。
【0028】
動きベクトル算出部22は、ブロックマッチング法や勾配法などを用いて、カメラ11により撮像された複数の画像から画素ごとに動きベクトル(u、v)を算出する。
【0029】
回転成分算出部23は、動きベクトル(u、v)および消失点情報FOE(x0、y0)にもとづいて回転成分R、R、Rを算出する。以下、より具体的に説明する。
【0030】
カメラ投影面41上の動きベクトル(u、v)は、次のように書けることが知られている。
u = xy(1/f)Rx−(x2+f2)(1/f)Ry+yRz−f(Tx/z)+x(Tz/z) (1)
v = (y2+f2)(1/f) Rx−xy(1/f)Ry−xRz−f(Ty/z)+y(Tz/z) (2)
【0031】
ここで、x、yは投影面41上のxy座標値、zは対象物のz座標値をあらわす。また、R、R、R、T、T、Tは運動パラメータであり、R、R、Rは車両の回転成分をあらわし、T、T、Tは自車と対象物との相対並進成分をあらわす。
【0032】
車両の回転成分Rはx軸中心の回転成分であり、自車のピッチング成分をあらわす。また、Rはy軸中心の回転成分であり、自車のヨーイング成分をあらわす。ヨーイングは、主に舵角時(自車の曲進時)に発生する。Rはz軸中心の回転成分であり自車のローリング成分をあらわす。
【0033】
対象物が静止物である場合には、回転成分で補正した対象物の動きベクトルの延長線がFOE(x0、y0)に収束することが知られている(崎本隆志ら、火の国情報シンポジウム2003講演論文集、「拡張焦点を用いた移動車両検出及び追跡に関する研究」(2003))。このため、次の式(3)が導かれる。
[u−xy(1/f)Rx+(x2+f2)(1/f)Ry−yRz]/[ v−(y2+f2)(1/f) Rx+xy(1/f)Ry+xRz]
= [x-x0]/[y-y0] (3)
【0034】
したがって、R、R、Rを3つの未知数と考えれば、静止物に対応する少なくとも3つの画素の動きベクトルを得ることができればR、R、Rを算出できる。
【0035】
そこで、回転成分算出部23は、消失点情報FOE(x0、y0)を記憶部13から取得し、静止物に対応する3つ以上の画素の動きベクトル(u、v)についての式(3)にもとづいて回転成分R、R、Rを算出する。すなわち、回転成分算出部23は、カメラ11が取得した画像から回転成分を算出することができる。
【0036】
なお、回転成分は、車速データや舵角データなどの車両情報やジャイロセンサなどから求めることもできる。
【0037】
移動体検出部24は、消失点FOEに収束しない対象物については自車と異なる移動をしている移動体と判定するとともに、消失点FOEに収束する対象物については静止物と判定する。移動体検出部24は、静止物と判定した対象物の情報を回転成分算出部23および自車並進成分算出部26に与える。このため、回転成分算出部23は、静止物と判定された対象物に対応する3つ以上の画素の動きベクトル(u、v)についての式(3)にもとづいて回転成分R、R、Rを算出することができる。
【0038】
スケールファクタ付き並進成分算出部25は、画像に含まれる対象物に対応する動きベクトル(u、v)と車両の回転成分R、R、Rとにもとづいて、対象物のスケールファクタ付きの相対並進成分(以下、スケールファクタ付き並進成分という)T/z、T/z、T/zを算出する。
【0039】
スケールファクタ付き並進成分T/z、T/z、T/zは、対象物の相対並進成分T、T、Tを対象物のz座標値で除したものである。このため、相対並進成分T、T、Tが同一であれば、遠くにある(z座標値が大きい)ものほどスケールファクタ付き並進成分が小さくなる。対象物の点Pが静止しているか移動しているかによらず、点Pはスケールファクタ付き並進成分T/z、T/z、T/zで運動していると画像上において観測される。以下、より具体的に説明する。
【0040】
式(1)および式(2)は、それぞれ次のように変形できる。
u−xy(1/f)Rx+(x2+f2)(1/f)Ry−yRz = −f(Tx/z)+x(Tz/z) (4)
v−(y2+f2)(1/f) Rx+xy(1/f)Ry+xRz = −f(Ty/z)+y(Tz/z) (5)
【0041】
式(4)および式(5)において、左辺は動きベクトル(u、v)を回転成分で補正したものである。
【0042】
式(4)および式(5)から、画像に含まれる対象物に対応する動きベクトル(u、v)と車両の回転成分R、R、Rとにもとづいて、対象物のスケールファクタ付き並進成分T/z、T/z、T/zを算出することができる。
【0043】
また、自車回転成分で補正した静止物(自車と平行移動する移動体を含む)の動きベクトルの傾きは、画素(x、y)からFOEへ向かうベクトルの傾きに等しくなる。この関係から、次式(6)−(9)が導かれる。
(x−x0)/(y−y0) = { −f(Tx/z)+x(Tz/z)}/{ −f(Ty/z)+y(Tz/z)}
= (x−fTx/Tz)/(y−fTy/Tz) (6)
x0/f=Tx/Tz (7)
yo/f=Ty/Tz (8)
【0044】
式(7)および式(8)を用いてTおよびTをTに置換することにより、式(4)および式(5)はそれぞれ次のように変形できる。
{u−xy(1/f)Rx +(x2+f2)(1/f)Ry −yRz}=(−x0+x)(Tz/z) (9)
{v−(y2+f2)(1/f) Rx+xy(1/f)Ry+xRz} =(−y0+y)(Tz/z) (10)
【0045】
したがって、スケールファクタ付き並進成分算出部25は、式(9)および式(10)にもとづいてスケールファクタ付き並進成分T/zを算出することができる。
【0046】
自車並進成分算出部26は、記憶部13に記憶された路面データから画像上の座標値(x、y)に表示された対象物n(ただし、nは対象物を識別するための添え字であるものとする)が所定の設定路面上にあるものと仮定した場合における光軸方向座標値z2nを取得し、対象物nのスケールファクタ付き並進成分(T/z)nに対してz2nを乗じることにより自車並進成分Tzを算出する。
【0047】
対象物nが静止物である場合、(T/z)n・z2nを算出すれば、見かけ上の自車並進成分になる。m個の自車並進成分の平均をTaveとするとTaveは次の式から求めることができる。
Tzave=(1/m)Σ(Tz/z)n・z2n (n=1,2,・・・m-1,m) (11)
【0048】
路面検出部27は、自車並進成分の平均Taveと、対象物nのスケールファクタ付き並進成分(T/z)nとから次式を用いて対象物nの光軸方向座標値z1nを算出する。
z1n= (z/Tz)n・Tzave (12)
【0049】
また、路面検出部27は、式(12)を用いて求めた対象物nの光軸方向座標値z1nと、記憶部13に記憶された路面データにおいて対象物nの画像上の座標値(xn、yn)に関連付けられた光軸方向座標値z2n=z(xn、yn)と、を比較し、両者の差の絶対値が所定の路面閾値zth以下であると、対象物nを路面と判定し、この対象物nの情報を路面上点座標算出部28に与える。
【0050】
路面上点座標算出部28は、路面検出部27により路面と判定された対象物nの画像上の座標値(xn、yn)と光軸方向座標値z1nとを用いて、対象物nのカメラ座標系における三次元座標値を求める。
【0051】
対象物nに対応する点Pnの三次元座標値Pn(Xn、Yn、Zn)は、xn、yn、z1nと次の関係を満たす。
Xn=(z1n/f)・xn (13)
Yn=(z1n/f)・yn (14)
Z=z1n (15)
【0052】
路面上点座標算出部28は、この式(13)−(15)を用いて点Pnのカメラ座標系における三次元座標値を求める。
【0053】
ここで、z1nはスケールファクタ付き並進成分T/zと画像から推定した自車並進成分の平均Taveから求められており、Taveはスケールファクタ付き並進成分T/zと過去の路面データz2=z(x、y)から求められているため、何らかの誤差を持っている。しかしながら、この誤差は式(13)−(15)から明らかなようにXn、Yn、Znに対して同じだけ影響を及ぼす。したがって、複数の点Pが乗る面として導出される平面の傾きには影響しない。
【0054】
固有値・固有ベクトル算出部29は、Pn(Xn、Yn、Zn)から次の共分散行列Sを作成する。
S=(1/N)Σ(Xn,Yn,Zn)T(Xn,Yn,Zn) (16)
ただし、Nは対象物の総数を表し、Σは複数画素N個についての総和を表す。
【0055】
また、固有値・固有ベクトル算出部29は、共分散行列Sの固有値λ1、λ2、λ3、固有ベクトルη1、η2、η3を求める。ただし、固有値の大きい順にλ1、λ2、λ3とし、各固有値に対応する固有ベクトルをそれぞれη1、η2、η3とする。
【0056】
複数の点の分布を平面近似した場合、η1、η2の張る平面は最小2乗最適解を与えることが知られている。また、共分散行列Sの固有値λ1、λ2が大きいほど、η1、η2の張る平面方向に多数の点が分散していると考えられる。また、λ3が小さいほど、η1、η2の張る平面に直交する方向には点の分散が小さいと考えられる。
【0057】
そこで、固有値・固有ベクトル算出部29は、固有値λ1、λ2が第1の固有値閾値λth1以上であり、かつ固有値λ3が第2の固有値閾値λth2以下である場合に、現在画像内に存在している路面42をη1、η2の張る平面で近似できると判定し、固有値λ1、λ2、λ3、固有ベクトルη1、η2、η3の情報を近似平面作成部31に与える。一方、固有値・固有ベクトル算出部29は、固有値λ1、λ2が第1の固有値閾値λth1より小さいか、固有値λ3が第2の固有値閾値λth2より大きい場合には、得られたデータが路面42を近似する平面を求めるには不十分と判定して廃棄する。
【0058】
定点設定部30は、カメラ高さHおよび消失点FOEの情報を用いて定点P0を次のように設定する。なお、本実施形態において、カメラ高さHおよび消失点FOEはあらかじめ記憶部13に記憶された既知の定数である。
α=0 (17)
β=−Hf/√(f2+y02) (18)
γ=Hy0/√(f2+y02) (19)
【0059】
近似平面作成部31は、共分散行列Sの固有ベクトルを用いて路面検出部27により路面と判定された対象物nのなす近似平面を表す式を立てる。
【0060】
具体的には、近似平面を表す式は、次の2つの方法で立てることができる。なお、以下の説明では、η1=(η11、η12、η13)、η2=(η21、η22、η23)、η1=(η31、η32、η33)であるものとする。
【0061】
第1の方法は、固有ベクトルη3を用いて近似平面を表す式を作成する方法である。固有ベクトルη3は、近似平面の法線ベクトルである(近似平面は固有ベクトルη3に直交する)。この場合、近似平面が定点P0(α、β、γ)を通るとすれば、近似平面を表す式は次のように書ける。
η31(X−α)+η32(Y−β)+η33(Z−γ)=0 (20)
【0062】
式(17)−(19)を式(20)に代入することにより、次の式が得られる。
η31(xz−αf)+η32(yz−βf)+η33(fz−γf)=0 (21)
【0063】
ここで、(x、y)は近似平面上の点P(X、Y、Z)の画像上の座標値であり、zは近似平面上の点P(X、Y、Z)の光軸方向座標値である。このため、式(21)を次のように変形することにより、画像上の座標値(x、y)に表示された対象物について、この対象物が近似平面上にある場合における光軸方向座標値zと画像上の座標値(x、y)とを関連付けることができる。
z =f(η31α+η32β+η33γ)/(η31x+η32y+η33f)
= Hf(−η32f+η33y0)/{(η31x+η32y+η33f)√(f2+yo2)} (22)
【0064】
第2の方法は、固有ベクトルη1×η2を用いて近似平面を表す式を作成する方法である。この場合、近似平面が定点P0(α、β、γ)を通るとすれば、近似平面を表す式は次のように書ける。
(η13η22−η23η12)(X−α)+(η11η23−η13η21)(Y−β)
+ (η21,η12−η11,η22) (Z−γ)=0 (23)
【0065】
したがって、第1の方法と同様に、式(23)を次のように変形することにより、画像上の座標値(x、y)に表示された対象物について、この対象物が近似平面上にある場合における光軸方向座標値zと画像上の座標値(x、y)とを関連付けることができる。
z=f{(η13η22−η23η12)α+(η11η23−η13η21)β+η33γ}
/{(η13η22−η23η12)x+(η11η23−η13η21)y+ (η21η12−η11η22)f} (24)
【0066】
式(22)や式(24)により関連付けられた光軸方向座標値zと画像上の座標値(x、y)のデータ(以下、近似平面データという)は、記憶部13に記憶された路面データにくらべ現在カメラ11が撮像する画像に含まれる路面により近いデータであるといえる。
【0067】
なお、このとき、原点から近似平面上の点Pまでの距離rは次式で与えられる
r2=X2+Y2+Z2=(x2+y2+f2)(z2/f2) (25)
【0068】
したがって、画像上の座標値(x、y)が得られれば、この座標値(x、y)に表示された対象物が近似平面上にあるものと仮定した場合における三次元座標値を式(22)や式(24)から求めることができるとともに、距離rを式(25)から一義的に求めることができる。
【0069】
路面データ更新部32は、近似平面作成部31から近似平面データを受け、記憶部13の路面データを近似平面データで更新する。
【0070】
スウィング角算出部33は、近似平面の法線ベクトルη3を基準として画像上(投影面41上の)xy軸との角度ずれψを求める。具体的には、スウィング角算出部33は、投影面41に投影した法線ベクトルη3の方向とx軸(またはy軸)との角度を算出し、この角度の0度(または90度)からのずれψを求める。また、スウィング角算出部33は、角度ずれψが角度閾値ψth以下であるとこの角度ずれψの情報をスウィング角補正部21に与える。
【0071】
この角度ずれψは、本実施形態における立体物と路面との判定には直接影響しない。しかし、撮像画像の地平線が水平になるようにカメラ11を車両に取り付けるのは手間がかかるため、カメラ11の画像は取り付け時のz軸回りの回転誤差を含んでしまう場合がある。スウィング角算出部33によれば、容易に角度ずれψの情報を取得することができ、スウィング角補正部21によって撮像画像の回転誤差をソフトウエア的に容易に補正することができる。
【0072】
次に、本実施形態に係る車両用画像処理装置10の動作の一例について説明する。
【0073】
図3は、第1実施形態に係る画像処理ECU12のCPUが、カメラ11により取得された画像からリアルタイムに路面の位置を求める際の手順を示すフローチャートである。図3において、Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
【0074】
まず、ステップST1において、スウィング角補正部21は、カメラ11から撮像画像の画像データを取得する。
【0075】
次に、ステップST2において、スウィング角補正部21は、スウィング角算出部33から受けた角度ずれψを補正するよう、カメラ11により撮像された画像をz軸を中心として回転補正する。
【0076】
次に、ステップST3において、動きベクトル算出部22は、取得した画像データにもとづき、カメラ11により撮像された複数の画像間の動きベクトル(u、v)を画素ごとに求める。
【0077】
次に、ステップST4において、回転成分算出部23は、消失点情報FOE(x0、y0)を記憶部13から取得し、静止物に対応する3つ以上の動きベクトル(u、v)についての式(3)にもとづいて回転成分R、R、Rを算出する。
【0078】
次に、ステップST5において、移動体検出部24は、消失点FOEに収束しない対象物については自車と異なる移動をしている移動体と判定するとともに、消失点FOEに収束する対象物については静止物と判定する。なお、ステップST4およびST5は所定回数繰り返し行われてもよい。この場合、移動体検出部24により抽出された静止物の情報にもとづいて、回転成分算出部23は、ステップST4において回転成分R、R、Rを算出する。
【0079】
次に、ステップST6において、スケールファクタ付き並進成分算出部25は、車両の回転成分R、R、Rと、対象物の動きベクトル(u、v)と、にもとづいて式(4)および式(5)から対象物のスケールファクタ付き並進成分T/z、T/z、T/zを算出する。また、スケールファクタ付き並進成分算出部25は、式(9)および式(10)にもとづいてスケールファクタ付き並進成分T/zを算出する。
【0080】
次に、ステップST7において、自車並進成分算出部26は、記憶部13に記憶された路面データから画像上の座標値(x、y)に表示された対象物nが所定の設定路面上にあるものと仮定した場合における光軸方向座標値z2nを取得する。
【0081】
次に、ステップST8において、自車並進成分算出部26は、複数個の対象物についてスケールファクタ付き並進成分(T/z)に対してz2を乗じることにより、複数の自車並進成分Tzを算出して、これらの平均Taveを算出する。
【0082】
次に、ステップST9において、路面検出部27は、自車並進成分の平均Taveと、対象物nのスケールファクタ付き並進成分(T/z)nとから、式(12)を用いて対象物nの光軸方向座標値z1nを算出する。
【0083】
次に、ステップST10において、路面検出部27は、対象物nの光軸方向座標値z1nと、記憶部13に記憶された路面データにおいて対象物nの画像上の座標値(xn、yn)に関連付けられた光軸方向座標値z2n=z(xn、yn)との差の絶対値|z1n−z2n|が所定の路面閾値zth以下であるか否かを判定する。|z1n−z2n|がzth以下である場合は、対象物nが路面であると判定し、この対象物nの情報を路面上点座標算出部28に与えてステップS11に進む。一方、|z1n−z2n|がzthより大きい場合は、対象物nは路面ではなく立体物であると判定し、他の対象物についてこのステップST10を繰り返す。
【0084】
次に、ステップST11において、路面上点座標算出部28は、路面検出部27により路面と判定された対象物nの画像上の座標値(xn、yn)と光軸方向座標値z1nとを用いて、式(13)−(15)にもとづき対象物nのカメラ座標系における三次元座標値Pn(Xn、Yn、Zn)を求める。
【0085】
次に、ステップST12において、固有値・固有ベクトル算出部29は、Pn(Xn、Yn、Zn)から共分散行列Sを作成する(式(16)参照)。
【0086】
次に、ステップST13において、固有値・固有ベクトル算出部29は、共分散行列Sの固有値λ1、λ2、λ3、固有ベクトルη1、η2、η3を求める。ただし、固有値の大きい順にλ1、λ2、λ3とし、各固有値に対応する固有ベクトルをそれぞれη1、η2、η3とする。
【0087】
次に、ステップS14において、固有値・固有ベクトル算出部29は、固有値λ1、λ2が第1の固有値閾値λth1以上であり、かつ固有値λ3が第2の固有値閾値λth2以下であると、現在画像内に存在している路面42をη1、η2の張る平面で近似できると判定し、固有値λ1、λ2、λ3、固有ベクトルη1、η2、η3の情報を近似平面作成部31に与えてステップST15に進む。一方、固有値λ1、λ2が第1の固有値閾値λth1より小さいか、固有値λ3が第2の固有値閾値λth2より大きいと、固有値・固有ベクトル算出部29は、得られたデータが路面42を近似する平面を求めるには不十分と判定して廃棄し、一連の手順は終了となる。
【0088】
次に、ステップST15において、定点設定部30は、カメラ高さHおよび消失点FOEの情報を用いて定点P0(α、β、γ)を式(17)−(19)を用いて設定する。なお、本実施形態において、カメラ高さHおよび消失点FOEはあらかじめ記憶部13に記憶された既知の定数である。
【0089】
次に、ステップST16において、近似平面作成部31は、共分散行列Sの固有ベクトルを用いて路面検出部27により路面と判定された対象物nのなす近似平面を表す式(21)または式(23)を立て、式(22)または式(24)を導く。
【0090】
次に、ステップST17において、路面データ更新部32は、近似平面作成部31から式(22)または式(24)で定義される近似平面データを受け、記憶部13の路面データをこの近似平面データで更新する。
【0091】
次に、ステップST18において、スウィング角算出部33は、近似平面の法線ベクトルη3を基準として画像上(投影面41上の)xy軸との角度ずれψを求め、角度ずれψが角度閾値ψth以下であるとこの角度ずれψの情報をスウィング角補正部21に与える。
【0092】
以上の手順により、カメラ11により取得された画像からリアルタイムに路面の位置を求めることができる。
【0093】
本実施形態に係る車両用画像処理装置10は、カメラ11により取得された画像からリアルタイムに路面の位置を求めることができる。このため、カメラ11により撮像される路面と車両底面とが平行でない場合にも、容易に画像から対象物との距離を求めることができるとともに、移動体を特定することができる。
【0094】
したがって、本実施形態に係る車両用画像処理装置10によれば、たとえば路面の勾配が変化しており車両直下の路面とカメラにより撮像される路面とで勾配の変化がある場合や、路面が平坦であっても車両積載荷重の多寡や乗車人員の変動による車両傾きがある場合にも、容易に画像から路面との距離を求めることができるとともに、移動体を特定することができる。
【0095】
また、本実施形態に係る車両用画像処理装置10は、リアルタイムに取得した路面の法線ベクトルの情報を用いることにより、容易にカメラ11のz軸回りの取り付け角誤差をソフトウエア的に補正することができる。
【0096】
また、本実施形態に係る車両用画像処理装置10は、カメラ11により撮像された画像データのみを用いて記憶部13の路面データを更新することができる。
(第2の実施形態)
【0097】
次に、本発明に係る車両用画像処理装置および車両用画像処理方法の第2実施形態について説明する。
【0098】
図4は、本発明の第2実施形態に係る車両用画像処理装置10Aの一例を示す全体構成図である。
【0099】
この第2実施形態に示す車両用画像処理装置10Aは、車速パルスや加速度センサの出力を取得することで自車の速度を検出する自車速度検出部51とカメラ高さHを校正するためのカメラ高さ校正部52を備え、記憶部13にカメラ高さHがあらかじめ記憶されなくてもよい点で第1実施形態に示す車両用画像処理装置10と異なる。他の構成および作用については図1に示す車両用画像処理装置10と実質的に異ならないため、同じ構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0100】
自車速度検出部51は、車速パルスや加速度センサの出力を取得することにより、自車の速度を検出し、自車並進成分Tを取得する。この自車並進速度Tは、画像とは独立して得られる情報である。自車並進成分Tは、第1実施形態における自車並進成分の平均Taveにかえて路面検出部27に用いられる。なお、自車速度検出部51は、自車速度の所定期間の平均から自車並進成分Tを算出してもよい。
【0101】
カメラ高さ校正部52は、スケールファクタつき相対並進成分T/z、T/z、T/zと自車速度検出部51により検出された自車並進成分Tとを用いて路面検出部27により算出されたカメラ座標系における対象物nの光軸方向座標値z1nを取得する。また、カメラ高さ校正部52は、式(22)に対して定点P0(α、β、γ)の式(17)−(19)を代入した式を近似平面作成部31から取得する。ここで、本実施形態において、定点P0(α、β、γ)の式(17)−(19)におけるカメラ高さHは未知数として扱われる。
【0102】
そして、カメラ高さ校正部52は、式(22)に対して定点P0(α、β、γ)の式(17)−(19)を代入した式に対して、複数の対象物の光軸方向座標値z1を代入することにより、複数のHの値を求め、この求めた複数のHの値の平均をカメラが取り付けられた高さHとし、記憶部13に記憶させる。
【0103】
次に、本実施形態に係る車両用画像処理装置10Aの動作の一例について説明する。
【0104】
図5は、第2実施形態に係る画像処理ECU12のCPUが、カメラ11により取得された画像からリアルタイムに路面の位置を求める際の手順を示すフローチャートである。図5において、Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。図3と同等のステップには同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0105】
ステップS21において、自車速度検出部51は、車速パルスや加速度センサの出力を取得することにより、自車の速度を検出し、自車並進成分Tを取得する。
【0106】
ステップS22において、カメラ高さ校正部52は、路面検出部27から対象物nの光軸方向座標値z1nを、近似平面作成部31から式(22)に対して定点P0(α、β、γ)の式(17)−(19)を代入した式を、それぞれ取得する。カメラ高さ校正部52は、式(22)に対して定点P0(α、β、γ)の式(17)−(19)を代入した式に対して、複数の対象物の光軸方向座標値z1を代入することにより、複数のHの値を求める。そして、カメラ高さ校正部52は、求めた複数のHの値の平均をカメラが取り付けられた高さHとし、記憶部13に記憶させる。
【0107】
本実施形態に係る車両用画像処理装置10Aもまた、カメラ11により取得された画像からリアルタイムに路面の位置を求めることができる。このため、カメラ11により撮像される路面と車両底面とが平行でない場合にも、容易に画像から対象物との距離を求めることができるとともに、移動体を特定することができる。
【0108】
したがって、本実施形態に係る車両用画像処理装置10Aによれば、たとえば路面の勾配が変化しており車両直下の路面とカメラにより撮像される路面とで勾配の変化がある場合や、路面が平坦であっても車両積載荷重の多寡や乗車人員の変動による車両傾きがある場合にも、容易に画像から路面との距離を求めることができるとともに、移動体を特定することができる。
【0109】
また、本実施形態に係る車両用画像処理装置10Aは、リアルタイムに取得した路面の法線ベクトルの情報を用いることにより、容易にカメラ11のz軸回りの取り付け角誤差をソフトウエア的に補正することができる。
【0110】
また、本実施形態に係る車両用画像処理装置10Aは、自車速度検出部51を備え、自車並進速度Tとして正確な値を用いることができる。このため、この正確な自車並進速度Tを用いてカメラ11の取り付け高さHを校正することができる。
(第3の実施形態)
【0111】
次に、本発明に係る車両用画像処理装置および車両用画像処理方法の第3実施形態について説明する。
【0112】
図6は、本発明の第3実施形態に係る車両用画像処理装置10Bの一例を示す全体構成図である。
【0113】
この第2実施形態に示す車両用画像処理装置10Bは、車速パルスや加速度センサの出力を取得することで自車の速度を検出する自車速度検出部51と、路面検出部27により路面上の点と判定された点について別の条件を用いて路面上の点であるか否かを判定する路面上点信頼性評価部61を備え、記憶部13に信頼性閾値Rthがさらにあらかじめ記憶されており、近似平面が定点P0を通る必要がない点で第1実施形態に示す車両用画像処理装置10と異なる。他の構成および作用については図1に示す車両用画像処理装置10と実質的に異ならないため、同じ構成には同一符号を付して説明を省略する。また、自車速度検出部51は第2実施形態に示す車両用画像処理装置10Aと実質的に異ならないため、同一符号を付して説明を省略する。
【0114】
路面上点信頼性評価部61は、路面検出部27により路面と判定された複数の対象物間のベクトルと固有ベクトルη3との内積が所定の信頼性閾値Rth以下である対象物を抽出し、抽出した対象物の情報を近似平面作成部31に与える。
【0115】
ここで、複数の対象物間のベクトルと固有ベクトルη3との内積を算出することは、KL変換のη3の係数算出と同様の意味を持つ。すなわち、この内積は、複数の対象物間のベクトルのη3成分の大きさを表しており、η1、η2の張る平面との差異を示しているといえる。したがって、この内積が大きな値をとるものは平面との差異が大きいと判断できる。理想的に平面上に位置すればこの内積はゼロになる。
【0116】
近似平面作成部31は、固有値・固有ベクトル算出部29から法線ベクトルη3(またはη1×η2)を受けて、未知定数dを用いてη3に直交する次の近似平面式を定義する。
η31X+η32Y+η33Z=d (26)
【0117】
また、近似平面作成部31は、路面上点信頼性評価部61から受けた対象物の三次元座標値Pn(Xn、Yn、Zn)を式(26)に代入することにより、未知定数dの値を求める。このとき、可能な限り多数の対象物を用いてdの平均値daveを算出するとよい。このdaveを用いることにより、式(26)は次のように書ける。
η31X+η32Y+η33Z=dave (27)
【0118】
そして、近似平面作成部31は、式(13)−(15)を用いて式(27)を整理し、z=z2として、近似平面データをあらわす次の式(28)を得る。
z2=fdave/(η31x+η32y+η33f) (28)
【0119】
路面データ更新部32は、近似平面作成部31から式(28)で表される近似平面データを受け、記憶部13の路面データをこの近似平面データで更新する。
【0120】
次に、本実施形態に係る車両用画像処理装置10Bの動作の一例について説明する。
【0121】
図7は、第3実施形態に係る画像処理ECU12のCPUが、カメラ11により取得された画像からリアルタイムに路面の位置を求める際の手順を示すフローチャートである。図7において、Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。図3および図5と同等のステップには同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0122】
ステップST31において、近似平面作成部31は、未知定数dを用いてη3に直交する近似平面を表す式(26)を立てる。
【0123】
次に、ステップST32において、路面上点信頼性評価部61は、路面検出部27により路面と判定された複数の対象物間のベクトルと固有ベクトルη3との内積が所定の信頼性閾値Rth以下である対象物を抽出し、抽出した対象物の情報を近似平面作成部31に与える。
【0124】
次に、ステップST33において、近似平面作成部31は、路面上点信頼性評価部61から受けた対象物の三次元座標値Pn(Xn、Yn、Zn)を式(26)に代入することにより、未知定数dの値を求める。そして、近似平面作成部31は、式(13)−(15)を用いて式(27)を整理し、近似平面データをあらわす式(28)を立てる。
【0125】
次に、ステップST34において、路面データ更新部32は、近似平面作成部31から式(28)で表される近似平面データを受け、記憶部13の路面データをこの近似平面データで更新する。
【0126】
本実施形態に係る車両用画像処理装置10Bもまた、カメラ11により取得された画像からリアルタイムに路面の位置を求めることができる。このため、カメラ11により撮像される路面と車両底面とが平行でない場合にも、容易に画像から対象物との距離を求めることができるとともに、移動体を特定することができる。
【0127】
したがって、本実施形態に係る車両用画像処理装置10Bによれば、たとえば路面の勾配が変化しており車両直下の路面とカメラにより撮像される路面とで勾配の変化がある場合や、路面が平坦であっても車両積載荷重の多寡や乗車人員の変動による車両傾きがある場合にも、容易に画像から対象物との距離を求めることができるとともに、移動体を特定することができる。
【0128】
また、本実施形態に係る車両用画像処理装置10Bは、リアルタイムに取得した路面の法線ベクトルの情報を用いることにより、容易にカメラ11のz軸回りの取り付け角誤差をソフトウエア的に補正することができる。
【0129】
また、本実施形態に係る車両用画像処理装置10Bは、路面上点信頼性評価部61を備え、路面検出部27により路面と判定された対象物をさらに選定する。このため、より実際の路面に近い近似平面を表す式を立てることができる。
【0130】
また、近似平面作成部31により立てられる近似平面を表す式には、定点P0の情報が含まれていない。このため、カメラ11からみた斜面の開始位置によらず、カメラ11に撮像される路面が定点P0を通らない平面である場合にも、正確に路面を近似した平面を表す式を立てることができる。また、記憶部13に記憶された路面データをこの路面に対応する路面データ(近似平面データ)で更新することができる。したがって、第1実施形態および第2実施形態に係る車両用画像装置10および10Aに比べ、より正確に路面との距離を求めることができるとともに、より正確に移動体、立体物、路面の特定を行うことができる。
【0131】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0132】
また、本発明の実施形態では、フローチャートの各ステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理の例を示したが、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別実行される処理をも含むものである。
【符号の説明】
【0133】
10 車両用画像処理装置
11 カメラ
12 画像処理ECU
13 記憶部
21 スウィング角補正部
22 動きベクトル算出部
23 回転成分算出部
24 移動体検出部
25 スケールファクタ付き並進成分算出部
26 自車並進成分算出部
27 路面検出部
28 路面上点座標算出部
29 固有値・固有ベクトル算出部
30 定点設定部
31 近似平面作成部
32 路面データ更新部
33 スウィング角算出部
41 カメラ投影面
42 路面
43 車両直下平面
51 自車速度検出部
52 カメラ高さ校正部
61 路面上点信頼性評価部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられ前記車両の周辺を撮像するカメラと、
前記カメラにより撮像された画像に含まれる対象物に対応する動きベクトルと前記車両の回転成分とにもとづいて、スケールファクタ付き相対並進成分を算出するスケールファクタ付き並進成分算出部と、
所定の設定路面上の点についてカメラ座標系における前記画像上の座標値と光軸方向座標値とを関連付けたデータである路面データを記憶する記憶部と、
前記スケールファクタつき相対並進成分と自車の並進成分とを用いて前記カメラ座標系における前記対象物の光軸方向座標値を算出するとともに、前記路面データにおいて前記対象物の前記画像上の座標値と関連付けられた光軸方向座標値を前記記憶部から取得し、これらの光軸方向座標値の差が所定の路面閾値以下であると前記対象物を路面と判定する路面検出部と、
を備えた車両用画像処理装置。
【請求項2】
前記路面と判定された複数の前記対象物の前記カメラ座標系における三次元座標値の共分散行列の固有ベクトルを用いて前記複数の対象物のなす近似平面を表す式を立てることにより、この近似平面上の点について前記カメラ座標系における前記画像上の座標値と光軸方向座標値とを関連付けた近似平面データを求める近似平面作成部と、
前記所定の設定路面を前記近似平面とするよう、前記記憶部の前記路面データを前記近似平面データで更新する路面データ更新部と、
をさらに備えた請求項1記載の車両用画像処理装置。
【請求項3】
前記共分散行列は、
値が大きい順に第1、第2および第3の固有値を有するとともに、各固有値にそれぞれ対応する第1、第2および第3の固有ベクトルを有し、
前記近似平面作成部は、
前記共分散行列の前記第1および前記第2の固有値が第1の固有値閾値以上であり、かつ前記第3の固有値が第2の固有値閾値以下であると、前記近似平面を表す式として前記第3の固有値に対応する前記第3の固有ベクトルに直交する平面を表す式を立てる、
請求項2記載の車両用画像処理装置。
【請求項4】
前記近似平面作成部は、
前記近似平面を表す式と、前記車両直下の路面からみた前記カメラが取り付けられた高さと、前記カメラの中心から下ろした鉛直線と前記車両直下の路面との交点と、を用いて前記近似平面データを求める、
請求項3記載の車両用画像処理装置。
【請求項5】
前記記憶部に記憶された前記路面データから前記対象物の前記画像上の座標値と関連付けられた光軸方向座標値を取得し、この光軸方向座標値を前記スケールファクタ付き相対並進成分に乗ずることにより、前記画像にもとづいて前記自車の並進成分を算出して前記路面検出部に与える自車並進成分算出部、
をさらに備えた請求項4に記載の車両用画像処理装置。
【請求項6】
前記自車の並進成分を検出して前記路面検出部に与える自車速度検出部と、
前記スケールファクタつき相対並進成分と前記自車速度検出部により検出された前記自車の並進成分とを用いて算出された前記カメラ座標系における前記対象物の光軸方向座標値を前記路面検出部から取得するとともに、前記第3の固有ベクトルに直交する平面を表す式に対して前記カメラの中心から下ろした鉛直線と前記車両直下の路面との交点であって前記カメラ座標系における三次元座標値を前記車両直下の路面からみた前記カメラが取り付けられた高さを未知数として表された交点の前記三次元座標値を代入した式を前記近似平面作成部から取得し、この式に対して前記複数の対象物の前記光軸方向座標値を代入することにより複数の前記未知数の値を求め、この求めた複数の値の平均を前記カメラが取り付けられた高さとする高さ校正部と、
をさらに備え、
前記近似平面作成部は、
前記近似平面を表す式と、前記高さ校正部により算出された前記カメラが取り付けられた高さと、前記カメラの中心から下ろした鉛直線と前記車両直下の平面との交点と、を用いて前記近似平面データを求める、
請求項3記載の車両用画像処理装置。
【請求項7】
前記自車の並進成分を検出して前記路面検出部に与える自車速度検出部と、
前記路面と判定された複数の前記対象物間のベクトルと前記第3の固有ベクトルとの内積が所定の信頼性閾値以下である前記対象物を抽出する路面上点信頼性評価部と、
をさらに備え、
前記近似平面作成部は、
前記近似平面を表す式として前記第3の固有値に対応する前記第3の固有ベクトルに直交するとともに1つの未知定数を有する平面を表す式を立て、この式に対して前記路面上点信頼性評価部により抽出された複数の前記対象物の前記三次元座標値を代入して前記未知定数の値を求めることにより前記近似平面データを求める、
請求項3記載の車両用画像処理装置。
【請求項8】
前記車両の前記回転成分で補正した前記対象物に対応する前記動きベクトルが前記画像上で消失点に向かう場合、前記対象物を静止物と判定する移動体検出部、
をさらに備え、
前記スケールファクタ付き並進成分算出部は、
前記移動体検出部により前記静止物と判定された前記対象物について前記スケールファクタ付き相対並進成分を算出し、
前記路面検出部は、
前記移動体検出部により前記静止物と判定された前記対象物について前記判定を行う、
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の車両用画像処理装置。
【請求項9】
前記カメラにより撮像された画像内に投影した前記第3の固有ベクトルの方向に応じて、前記カメラにより撮像された画像を回転補正するスウィング角補正部、
をさらに備えた請求項3ないし8のいずれか1項に記載の車両用画像処理装置。
【請求項10】
車両に設けられたカメラが前記車両の周辺を撮像するステップと、
前記カメラにより撮像された画像に含まれる対象物に対応する動きベクトルと前記車両の回転成分とにもとづいて、スケールファクタ付き相対並進成分を算出するステップと、
所定の設定路面上の点についてカメラ座標系における前記画像上の座標値と光軸方向座標値とを関連付けたデータである路面データを記憶部に記憶させるステップと、
前記スケールファクタつき相対並進成分と自車の並進成分とを用いて前記カメラ座標系における前記対象物の光軸方向座標値を算出するとともに、前記路面データにおいて前記対象物の前記画像上の座標値と関連付けられた光軸方向座標値を前記記憶部から取得し、これらの光軸方向座標値の差が所定の路面閾値以下であると前記対象物を路面と判定するステップと、
前記路面と判定された複数の前記対象物の前記カメラ座標系における三次元座標値の共分散行列の固有ベクトルを用いて前記複数の対象物のなす近似平面を表す式を立てることにより、この近似平面上の点について前記カメラ座標系における前記画像上の座標値と光軸方向座標値とを関連付けた近似平面データを求めるステップと、
前記所定の設定路面を前記近似平面とするよう、前記記憶部の前記路面データを前記近似平面データで更新するステップと、
を有する車両用画像処理方法。
【請求項11】
前記共分散行列は、
値が大きい順に第1、第2および第3の固有値を有するとともに、各固有値にそれぞれ対応する第1、第2および第3の固有ベクトルを有し、
前記近似平面データを求めるステップは、
前記共分散行列の前記第1および前記第2の固有値が第1の固有値閾値以上であり、かつ前記第3の固有値が第2の固有値閾値以下であると、前記近似平面を表す式として前記第3の固有値に対応する前記第3の固有ベクトルに直交する平面を表す式を立てるステップである、
請求項10記載の車両用画像処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−123750(P2012−123750A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276270(P2010−276270)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(504113008)東芝アルパイン・オートモティブテクノロジー株式会社 (110)
【Fターム(参考)】