説明

車両用衝撃軽減構造

【課題】衝突物の衝突を感知する高度なセンサや複雑な制御を必要とせず、衝突物が車両に衝突したときの衝撃を確実に軽減することができる車両用衝撃軽減構造を提供する。
【解決手段】車両1の制御部は、エンジンの始動等に伴い、コンプレッサCに流体の供給を開始させる。コンプレッサCによって流体供給穴11から流体が供給されると、表面部材7は、ボディ3の外側に向かって膨出する。そして、表面部材7とボディ3との間に、衝突物等が車両1に衝突したときの衝撃を軽減させる流体層5が形成される。また、車両1の走行前または走行中は、コンプレッサCが流体を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突物保護を目的とした車両用衝撃軽減構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に衝突物が衝突したときの衝撃を軽減する仕組みとして、例えば、車両に衝突物が衝突したことを感知するセンサと、センサからの信号で作動するインフレータとを備え、車体の一部に車両用衝撃吸収体が形成されるものが知られている(特許文献1参照)。形成された車両用衝撃吸収体は、衝突物が車両に衝突したときの衝撃を緩衝する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−217903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された仕組みにおいて、例えば、バンパにセンサが設置され、ボンネット上に車両用衝撃吸収体が形成される場合を考える。衝突物がパンパに衝突してからボンネット上に移動するまでの時間は非常に短時間であるため、センサが感知して、インフレータが作動し、車両用衝撃吸収体が形成される前に、衝突物がボンネットに衝突してしまう場合がある。この場合、衝撃を吸収することはできない。また、センサが感知してから車両用衝撃吸収体が形成されるまでの時間を短くしようとすると、高度なセンサや複雑な制御が必要となる。更に、衝突物がセンサの設置部以外に衝突した場合、衝突を感知することができず、車両用衝撃吸収体が形成されることもなく、衝突物の衝突を吸収することができない。
【0005】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、衝突物の衝突を感知する高度なセンサや複雑な制御を必要とせず、衝突物が車両に衝突したときの衝撃を確実に軽減することができる車両用衝撃軽減構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するために第1の発明は、ボディと、流体の供給によりボディの外側に形成される流体層とを備える車両用衝撃軽減構造であって、前記流体層は前記流体を密閉保持する表面部材によって覆われ、前記ボディと前記表面部材との間に、車両走行前または車両走行中に前記流体を供給し、前記流体層を維持させる流体供給手段を備えることを特徴とする車両用衝撃軽減構造である。第1の発明によって、衝突物の衝突を感知する高度なセンサの設置や複雑な制御を行わなくても、衝突物が車両に衝突したときの衝撃を確実に軽減することができる。
【0007】
第1の発明における前記ボディは、流体供給穴を有し、前記流体供給手段は、前記流体供給穴から前記流体を供給するものである。
【0008】
また、第1の発明における前記表面部材は、例えば、前記ボディの外側に取付手段によって取り付けられ、前記流体供給手段による前記流体の供給に伴って、前記ボディの外側に向かって膨出する。
【0009】
また、第1の発明における前記表面部材は、例えば、前記ボディの内側に取付手段によって取り付けられ、前記流体供給手段による前記流体の供給に伴って、前記流体供給穴から前記車両用ボディの外側に向かって膨出する。
【0010】
また、第1の発明における前記取付手段は、前記表面部材の外縁に形成され、前記車両用ボディに対して摺動可能であることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、衝突物の衝突を感知する高度なセンサや複雑な制御を必要とせず、衝突物が車両に衝突したときの衝撃を確実に軽減することができる車両用衝撃軽減構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施の形態に係る停止時の車両1の概観図
【図2】第1の実施の形態に係る走行時の車両1の概観図
【図3】第1の実施の形態に係る停止時の車両1の一部断面の概要図
【図4】第1の実施の形態に係る走行時の車両1の一部断面の概要図
【図5】第1の実施の形態に係るボディ3の表面の一部概要図
【図6】第1の実施の形態に係るボディ3の表面の一部概要図
【図7】第2の実施の形態に係る停止時の車両1の一部断面の概要図
【図8】第2の実施の形態に係る走行時の車両1の一部断面の概要図
【図9】第3の実施の形態に係る停止時の車両1の一部断面の概要図
【図10】第3の実施の形態に係る走行時の車両1の一部断面の概要図
【図11】第4の実施の形態に係る停止時の車両1の一部断面の概要図
【図12】第4の実施の形態に係る走行時の車両1の一部断面の概要図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0014】
<第1の実施の形態>
図1は、停止時の車両1の概観図である。第1の実施形態に係る車両1は、ボディ3を備え、ボディ3の表面は表面部材7に覆われている。表面部材7は、フロントバンパ、ボンネット、フロントフェンダー、ドア、フロントピラー、ルーフ、リアピラー、リアフェンダー、リアバンパー等を覆っている。
【0015】
図2は、走行時の車両1の概観図である。図2では、ボディ3を点線で示し、表面部材7を実線で示している。車両1は、流体の供給によりボディ3の外側に形成される流体層5を備える。流体層5は、流体を密閉保持する表面部材7とボディ3との間に形成される。流体層5は、車両1の乗員の視界を妨げないように、フロントガラス等の表面には形成しない。流体層5は、図2の実線で示したように、ボディ3の各部(フロントバンパ、ボンネット等)に分割して形成されるようにしても良い。また、流体層5は、ボディ3全体を覆うように、一体形成されるようにしても良い。
【0016】
表面部材7は、伸縮性を有する弾性材料であって、例えば、弾性ゴム等である。エアバック等に用いられるナイロン繊維等の軽く柔らかい素材では、走行中に風を受けると、ばたつきが発生する。弾性ゴムであれば、走行中に風を受けても、ばたつきが少ない。
【0017】
図3は、停止時の車両1の一部断面の概要図である。ボディ3は、複数の流体供給穴11を有する。ボディ3の内側には、流体を供給する手段であるコンプレッサCが配置される。コンプレッサCは、車両1の走行前または走行しているときに流体供給穴11から、圧縮空気を供給する。一旦、流体層5を形成すれば、流体層5に含まれる流体が流出しないように、流体供給穴11を弁(図示しない)で閉じることで、流体層5の形状を維持することができる。従って、車両停止時であっても流体層5の形状は維持できる。また、弁を開放すれば、流体層5の流体が流出し、表面部材7は元に戻る。尚、流体を供給する手段は、コンプレッサCに代えて、流体供給穴11から、空気を流入させる送風機であっても良い。また、流体を供給する手段は、車両1の排気ガスの一部を流入させるものであっても良い。以下では、流体を供給する手段は、コンプレッサCとして説明する。
【0018】
表面素材7は、ボディ3の外側に取付部材9によって取り付けられる。取付部材9は、例えば、接着剤等であって、表面部材7の外縁に形成される。
【0019】
車両1は、コンプレッサC等の制御を行う制御部(図示しない)を有する。制御部は、エンジンの始動等に伴い、コンプレッサCに流体の供給を開始させる。
【0020】
図4は、走行時の車両1の一部断面の概要図である。図4では、コンプレッサCによって流体供給穴11から流体が供給され、表面部材7とボディ3との間に流体層5が形成されている。
【0021】
車両1の制御部は、エンジンの始動等に伴い、コンプレッサCに流体の供給を開始させる。コンプレッサCによって流体供給穴11から流体が供給されると、表面部材7は、ボディ3の外側に向かって膨出する。そして、表面部材7とボディ3との間に、衝突物等が車両1に衝突したときの衝撃を軽減させる流体層5が形成される。また、車両1の走行前または走行中は、コンプレッサCが流体を供給する。車両1が走行を開始する前に流体層5を形成し、車両1の走行中は流体層5を維持することで、衝突物等が車両1に衝突したときの衝撃を確実に軽減させることができる。
【0022】
コンプレッサCによる流体の供給量を調整することで、車速に応じて流体層5の厚さを変えることもできる。例えば、高車速の場合には流体の供給量を増加させ、流体層5を厚くして衝撃を十分軽減できるようにする。また、例えば、低車速の場合には流体の供給量を減少させ、流体層5を薄くして乗員の視界を確保する。
【0023】
図5、図6は、ボディ3の表面の一部概要図である。ボディ3が有する流体供給穴11は、例えば、図5に示すように、略正方形であって、ボディ3に格子状に形成される。また、流体供給穴11は、例えば、図6に示すように、略長方形であって、ボディ3に並列に形成される。
【0024】
<第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態について説明する。図7は、停止時の車両1の一部断面の概要図である。図8は、走行時の車両1の一部断面の概要図である。以下、図1〜図6に示す第1の実施の形態と同一の機能を果たす構成要素には、同一の番号を付し、重複した説明を避ける。第2の実施の形態では、表面部材7がボディ3の内側に取付部材9によって取り付けられる。
【0025】
図7に示すように、 表面素材7は、ボディ3の内側に取付部材9によって取り付けられる。取付部材9は、例えば、接着剤等であって、表面部材7の外縁に形成される。
【0026】
図8では、コンプレッサCによって表面部材7の下部から流体が供給され、表面部材7が流体供給穴11からボディ3の外側に向かって膨出し、表面部材7とボディ3との間に流体層5が形成されている。
【0027】
車両1の制御部は、エンジンの始動等に伴い、コンプレッサCに流体の供給を開始させる。コンプレッサCによって表面部材7の下部から流体が供給されると、表面部材7は、流体供給穴11からボディ3の外側に向かって膨出する。そして、表面部材7とボディ3との間に、衝突物等が車両1に衝突したときの衝撃を軽減させる流体層5が形成される。また、車両1の走行前または走行中は、コンプレッサCが流体を供給する。車両1が走行を開始する前に流体層5を形成し、車両1の走行中は流体層5を維持することで、衝突物等が車両1に衝突したときの衝撃を確実に軽減させることができる。
【0028】
第1の実施の形態と同様に、流体供給穴11の弁の開閉により流体層5の形成を調節できる。また、車速に応じて流体層5の厚さを変えることもできる。
【0029】
<第3の実施の形態>
次に、第3の実施の形態について説明する。図9は、停止時の車両1の一部断面の概要図である。図10は、走行時の車両1の一部断面の概要図である。以下、図1〜図6に示す第1の実施の形態と同一の機能を果たす構成要素には、同一の番号を付し、重複した説明を避ける。第3の実施の形態では、表面部材7がボディ3の外側に取付部材9aによって取り付けられる。
【0030】
図9に示すように、表面部材7の外縁には、取付部材9aが形成される。取付部材9aによって、ボディ3の外側に表面部材7が取り付けられる。取付部材9aは、ボディ3に対して摺動可能に構成される。
【0031】
図10では、コンプレッサCによって表面部材7の下部から流体が供給され、表面部材7が流体供給穴11からボディ3の外側に向かって膨出し、表面部材7とボディ3との間に流体層5が形成されている。
【0032】
車両1の制御部は、エンジンの始動等に伴い、コンプレッサCに流体の供給を開始させるとともに、取付部材9aをスライドさせる。コンプレッサCによって流体供給穴11から流体が供給されると、表面部材7は、ボディ3の外側に向かって膨出する。そして、表面部材7とボディ3との間に、衝突物等が車両1に衝突したときの衝撃を軽減させる流体層5が形成される。また、車両1の走行前または走行中は、コンプレッサCが流体を供給する。車両1が走行を開始する前に流体層5を形成し、車両1の走行中は流体層5を維持することで、衝突物等が車両1に衝突したときの衝撃を確実に軽減させることができる。
【0033】
また、取付部材9aを任意の位置に摺動可能に構成することで、車両1が停止したときには表面部材7を元に戻すことができる。すなわち、車両1の制御部は、エンジンの停止等に伴い、コンプレッサCを停止するとともに、取付部材9aを元の位置にスライドさせる。
【0034】
また、取付部材9aを任意の位置に摺動可能に構成することで、車速に応じて流体層5の厚さを変えることができる。すなわち、車両1の制御部は、車速センサ(図示しない)からの信号によって車速を検知し、検知した車速に対応した位置に取付部材9aをスライドさせる。
【0035】
<第4の実施の形態>
次に、第4の実施の形態について説明する。図11は、停止時の車両1の一部断面の概要図である。図12は、走行時の車両1の一部断面の概要図である。以下、図1〜図6に示す第1の実施の形態と同一の機能を果たす構成要素には、同一の番号を付し、重複した説明を避ける。第4の実施の形態では、表面部材7がボディ3の内側に取付部材9aによって取り付けられる。
【0036】
図11に示すように、表面部材7の外縁には、取付部材9aが形成される。取付部材9aによって、ボディ3の内側に表面部材7が取り付けられる。取付部材9aは、第3の実施の形態と同様に、ボディ3に対して摺動可能に構成される。
【0037】
図12では、コンプレッサCによって表面部材7の下部から流体が供給され、表面部材7が流体供給穴11からボディ3の外側に向かって膨出し、表面部材7とボディ3との間に流体層5が形成されている。
【0038】
車両1の制御部は、エンジンの始動等に伴い、コンプレッサCに流体の供給を開始させるとともに、取付部材9aをスライドさせる。コンプレッサCによって表面部材7の下部から流体が供給されると、表面部材7は、流体供給穴11からボディ3の外側に向かって膨出する。そして、表面部材7とボディ3との間に、衝突物等が車両1に衝突したときの衝撃を軽減させる流体層5が形成される。また、車両1の走行前または走行中は、コンプレッサCが流体を供給する。車両1が走行を開始する前に流体層5を形成し、車両1の走行中は流体層5を維持することで、衝突物等が車両1に衝突したときの衝撃を確実に軽減させることができる。
【0039】
また、第3の実施の形態と同様に、取付部材9aを任意の位置に摺動可能に構成することで、車両1が停止したときには表面部材7を元に戻すことができる。また、車速に応じて流体層5の厚さを変えることができる。
【0040】
以上説明したように、第1の実施の形態から第4の実施の形態では、車両1が走行している間、ボディ3の外側に形成される流体層5を備える衝撃軽減構造となっており、衝突物の衝突を感知する高度なセンサの設置や複雑な制御を行うことなく、衝突物の衝撃を確実に軽減することができる。
【0041】
第1の実施の形態から第4の実施の形態のように、車両1が走行している間、流体層5を維持することで、車両1全体の軽量化を図ることができる。すなわち、本発明では、従来はボディ3の領域であった空間に流体層5を形成するので、鋼材等の重い材質を有するボディ3の領域を減らすことができる。また、車両1が停止している間は流体層5を形成しないことも可能であり、従来よりも、車両1が停止している間の車両1全体の小型化を図ることができる。また、表面部材7を元に戻すことが可能であるので、エアバック等とは異なり、恒久的に利用することができる。
【0042】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る車両用衝撃軽減構造等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0043】
1………車両
3………ボディ
5………流体層
7………表面部材
9、9a………取付部材
11………流体供給穴
C………コンプレッサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディと、流体の供給によりボディの外側に形成される流体層とを備える車両用衝撃軽減構造であって、
前記流体層は前記流体を密閉保持する表面部材によって覆われ、
前記ボディと前記表面部材との間に、車両走行前または車両走行中に前記流体を供給し、前記流体層を維持させる流体供給手段を備えることを特徴とする車両用衝撃軽減構造。
【請求項2】
前記ボディは、流体供給穴を有し、
前記流体供給手段は、前記流体供給穴から前記流体を供給することを特徴とする請求項1に記載の車両用衝撃軽減構造。
【請求項3】
前記表面部材は、前記ボディの外側に取付手段によって取り付けられ、前記流体供給手段による前記流体の供給に伴って、前記ボディの外側に向かって膨出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用衝撃軽減構造。
【請求項4】
前記表面部材は、前記ボディの内側に取付手段によって取り付けられ、前記流体供給手段による前記流体の供給に伴って、前記流体供給穴から前記車両用ボディの外側に向かって膨出することを特徴とする請求項2に記載の車両用衝撃軽減構造。
【請求項5】
前記取付手段は、前記表面部材の外縁に形成され、前記車両用ボディに対して摺動可能であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の車両用衝撃軽減構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−158918(P2010−158918A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−653(P2009−653)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】