説明

車両用走行制御装置

【課題】自動変速モードを選択したオートクルーズ制御中に手動変速モードへの切換が指令されたときに、それに応じて変速制御モードの切換とオートクルーズ制御の作動状態とを適切に連係でき、もって運転者の意志を反映した適切な車両の走行を実現できる車両用走行制御装置を提供する。
【解決手段】オートクルーズ制御中に手動変速レンジ(A/Mレンジ、+−レンジ)への切換操作がなされたとき(S24がYes)、運転者の加減速要求であると見なし、オートクルーズを解除して手動変速モードを選択することで任意の手動変速を可能とし(S26,28)、一方、オートクルーズ制御中にNレンジへの切換操作がなされたときには誤操作と見なし(S24がNo)、オートクルーズを解除して自動変速モードを選択し不適切な変速を防止する(S14,16)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用走行制御装置に係り、詳しくは自動変速モードと手動変速モードとを切換可能な変速制御機能、及び運転者が設定した車速を維持する定速走行機能を備えた車両用走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では乗用車のみならずトラックやバスなどの大型車両においても、運転者のアクセル操作量や車速などから求めた目標変速段に基づき変速段を自動的に切り換える自動変速機が普及している。
この種の自動変速機の形式としては、例えばトルクコンバータに遊星歯車機構を組み合わせた自動変速機やベルト式などの無段変速機の他に、従来からの手動変速機をベースとして変速操作及び変速に伴うクラッチ操作をアクチュエータにより自動化した自動変速機なども存在する。
【0003】
何れの形式の自動変速機でも、近年ではより運転者の希望に沿った変速動作を実現するために、自動変速モードに加えて変速段を手動で切換可能な手動変速モードが追加された自動変速機が実用化されている。この種の自動変速機では、運転者が自動変速モードによる目標変速段に関係なく変速段を任意に切り換えたい場合、例えば自動変速モードで高速道路を走行中に先行車を追い越すために急加速を要する場合などに手動変速モードに切り換えている。手動変速モードへの切換により低ギヤ側の任意の変速段を選択可能となるため、車両を迅速に加速させて短時間で先行車を追い越し可能となる。
【0004】
一方、近年の高速道路網の発達に伴って長距離を走行するときの運転者の疲労軽減を目的として、運転者が任意にセットした設定車速を自動的に維持する定速走行(オートクルーズ)装置が普及している。
この種のオートクルーズ装置では、例えば、車両が平坦路から登坂路にさしかかって一時的に車速が低下するとエンジン出力を増加させ、それに伴って自動変速機側で適宜ダウンシフトして車両の駆動トルクを増加させることにより、低下した車速を設定車速まで増加させる。また、登坂路から平坦路に戻って一時的に車速が増加すると、エンジン出力を低下させると共にアップシフトを行い、増加した車速を設定車速まで低下させる。
このような制御を繰り返すことにより走行路に応じて変動する車速を常に設定車速に維持でき、運転者のアクセル操作に起因する疲労を軽減している。
【0005】
ところで、車両を運転者の意図に従って円滑に走行させるには、自動変速機側の変速制御とオートクルーズ装置側のオートクルーズ制御とを運転者の操作に応じて如何に連係させるかが重要となる。
このような観点に立った提案として特許文献1の技術を挙げることができる。当該特許文献1に記載された車両用走行制御装置では、自動変速モードを選択したオートクルーズ制御中において、シフトユニットよりアップシフト信号或いはダウンシフト信号が入力されると、オートクルーズ制御を継続したまま手動変速モードに切り換えてアップシフト或いはダウンシフトを実行している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−193656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の車両用走行制御装置により行われる制御は、必ずしも運転者の操作に対して適切なものとは言い難かった。
即ち、自動変速モードを選択したオートクルーズ制御中には、上記のように路面勾配などに応じて変速段を適宜切り換えながら設定車速を目標として車速が調整されているが、この状況において運転者がシフトユニットをアップシフト操作或いはダウンシフト操作することは、オートクルーズ制御中の車両を加速または減速させたいという意志表示であると見なせる。
【0008】
このような場合、特許文献1の車両用走行制御装置では、アップシフト信号或いはダウンシフト信号に応じて変速機をアップシフト或いはダウンシフトする一方で、設定車速を目標としたオートクルーズ制御を継続している。このため、エンジン回転速度がアップシフト時には低下しダウンシフト時には上昇し、それに応じて車両の駆動トルクが増減するものの、車速は設定車速に維持されることから運転者が意図する肝心の加減速が行われないという矛盾が生じる。よって、このような状況において、運転者の意志を反映した適切な車両の走行を実現できないという問題があった。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、自動変速モードを選択したオートクルーズ制御中において、運転者により手動変速モードへの切換が指令されたときに、それに応じて変速制御モードの切換とオートクルーズ制御の作動状態とを適切に連係させることができ、もって運転者の意志を反映した適切な車両の走行を実現することができる車両用走行制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、チェンジレバーの自動変速レンジ及び手動変速レンジ間の切換操作に応じて変速機を自動変速モードと手動変速モードとの間で切り換えるモード切換手段、及び運転者が設定した車速を維持する定速走行制御を実行可能な定速走行手段を備えた車両用走行制御装置において、予め設定された定速走行制御の開始条件が成立したときに定速走行手段に定速走行制御を開始させると共に、チェンジレバーの切換操作に関わらずモード切換手段に自動変速モードを選択させる定速走行制御開始手段と、定速走行制御開始手段の指示に基づく自動変速モードを選択した定速走行制御の実行中において、運転者によりチェンジレバーが手動変速レンジに切り換えられたときに、定速走行手段に定速走行制御を解除させて通常走行に復帰させると共に、モード切換手段に手動変速モードを選択させる連係制御手段とを備えたものである。
【0010】
従って、定速走行制御の開始条件が成立すると、定速走行制御開始手段からの指示に基づき定速走行制御が開始されると共に、チェンジレバーの切換操作に関わらず自動変速モードが選択される。このため、自動変速モードにより変速段が自動的に切り換えられながら、定速走行制御により運転者の設定車速に車速が維持されて車両の走行が行われる。そして、このような状況でチェンジレバーが手動変速レンジに切り換えられると、連係制御手段により手動変速モードに切り換えられると共に、定速走行制御が解除されて通常走行に復帰する。
チェンジレバーの手動変速レンジへの切換操作は、任意に変速段を切り換えて車両を加減速させたいという意思表示であると見なせる。そして、このチェンジレバーの切換操作に応じて手動変速モードに切り換えるだけでは、変速段を手動切換したとしても、定速走行制御が継続されることにより運転者が意図する加減速が行われないが、本発明では、定速走行制御が解除されて通常走行に復帰するため、アクセル操作に応じた車両の加減速が可能となる。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1において、連係制御手段が、自動変速モードを選択した定速走行制御の実行中において、運転者によりチェンジレバーがニュートラルレンジに切り換えられたときに、定速走行手段に定速走行制御を解除させて通常走行に復帰させると共に、モード切換手段に自動変速モードを選択させるものである。
従って、自動変速モードを選択した定速走行制御の実行中にチェンジレバーがニュートラルレンジに切り換えられると、定速走行制御が解除されて通常走行に復帰すると共に、自動変速モードが継続される。定速走行制御中のニュートラルレンジへの切換は運転者の誤操作の可能性があるが、車両の加減速を意図していると推測できることから、定速走行制御が解除されることにより誤操作に気付いた運転者がドライブレンジに切り換えた後は、アクセル操作に応じて車両を任意に加減速可能となる。
【0012】
そして、誤操作に気付いた運転者はチェンジレバーをニュートラルレンジから他のレンジに切換操作するが、この時点では路面勾配などに応じた車両の加減速により車速が大きく変動している場合があるため、他のレンジとして手動変速レンジに切換操作されると、不適切な変速段により走行継続不能に陥ったり、或いはエンジンを過回転させたりする不具合が生じる。このとき本発明では、自動変速モードを継続することから、車速に応じた適切な変速段に切り換えられ、上記不具合が未然に回避される。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように請求項1の発明の車両用走行制御装置によれば、定速走行制御の開始条件の成立に基づき定速走行制御が開始されたときに、チェンジレバーの切換操作に関わらず自動変速モードを選択し、変速段を自動的に切り換えて車速を設定車速に維持しながら車両を走行させ、一方、このような状況でチェンジレバーが手動変速レンジに切り換えられると、手動変速モードを選択するだけでなく定速走行制御を解除して通常走行に復帰することから、変速段の手動切換に応じて車両の駆動力が増減すると共に、その駆動力により運転者がアクセル操作に応じて車両を任意に加減速可能となり、もって運転者の意志を反映した適切な車両の走行を実現することができる。
【0014】
請求項2の発明の車両用走行制御装置によれば、請求項1に加えて、自動変速モードを選択した定速走行制御の実行中にチェンジレバーがニュートラルレンジに切り換えられたときには、自動変速モードを継続しながら定速走行制御を解除して通常走行に復帰することから、誤操作に気付いた運転者がチェンジレバーをニュートラルレンジから他のレンジに切換操作した場合でも、自動変速モードにより車速に応じた適切な変速段に切り換えることができ、不適切な変速段に起因する走行継続不能やエンジンの過回転などの不具合を未然に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態の車両用変速機のチェンジレバー装置が適用されたトラックの駆動系を示す全体構成図である。
【図2】チェンジレバーのレンジ配置を示す模式図である。
【図3】ECUが実行するオートクルーズ制御開始ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】ECUが実行する連係制御ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した車両用変速機のチェンジレバー装置の一実施形態を説明する。
図1は本実施形態の車両用変速機のチェンジレバー装置が適用されたトラックの駆動系を示す全体構成図である。但し、本発明の車両用変速機のチェンジレバー装置の適用対象はトラックに限ることはなく、例えばバスや乗用車に適用してもよい。
【0017】
車両には走行用動力源としてディーゼルエンジン(以下、エンジンという)1が搭載されている。エンジン1は、加圧ポンプによりコモンレールに蓄圧した高圧燃料を各気筒の燃料噴射弁に供給し、各燃料噴射弁の開弁に伴って筒内に噴射する所謂コモンレール式機関として構成されている。
なお、エンジン1の形式はこれに限ることはなく、コントロールラックの作動に応じて各気筒への燃料噴射を制御する従来形式のディーゼル機関としてもよいし、ガソリンエンジンとしてもよい。
【0018】
エンジン1の出力軸1bにはクラッチ装置2を介して自動変速機(以下、単に変速機という)3の入力軸3aが接続され、クラッチ装置2の接続時にエンジン1の回転が変速機3に伝達されるようになっている。当該変速機3は、前進12段(1速段〜12速段)及び後退1段を備えた手動式変速機をベースとしたものであり、以下に述べるように、その変速操作及び変速に伴うクラッチ装置2の断接操作を自動化したものである。言うまでもないが、変速機3の変速段は上記に限ることなく任意に変更可能である。
【0019】
クラッチ装置2は、フライホイール4にクラッチ板5をプレッシャスプリング6により圧接させて接続される一方、フライホイール4からクラッチ板5を離間させることにより切断される摩擦式クラッチとして構成されている。クラッチ板5にはアウタレバー7を介してエアシリンダ8が連結され、エアシリンダ8には電磁弁9が介装されたエア通路10を介して圧縮エアを充填したエアタンク11が接続されている。
電磁弁9の開弁時にはエアタンク11からエア通路10を介してエアシリンダ8に圧縮エアが供給され、エアシリンダ8が作動してアウタレバー7を介してクラッチ板5をフライホイール4から離間させ、これによりクラッチ装置2が接続状態から切断状態に切り換えられる。一方、電磁弁9が閉弁すると、圧縮エアの供給中止によりエアシリンダ8が作動しなくなることから、クラッチ板5はプレッシャスプリング6によりフライホイール4に圧接され、これによりクラッチ装置2は切断状態から接続状態に切り換えられる。このように電磁弁9の開閉に応じてエアシリンダ8が作動して、クラッチ装置2を自動的に断接操作可能になっている。
【0020】
車両の運転席にはチェンジレバー13が設けられ、このチェンジレバー13のレンジ配置を図2に従って説明する。Pレンジ(パーキングレンジ)、Nレンジ(ニュートラルレンジ)、Rレンジ(リバースレンジ)は前後方向に一直線上に配置され、Nレンジの左側にDレンジ(ドライブレンジ)が設けられている。これらのPレンジ、Nレンジ、Rレンジ及びDレンジ間においてチェンジレバー13は任意に移動操作でき、移動操作後のレンジに保持されるようになっている。
なお、一般的なチェンジレバー装置と同様に、エンジン始動はPレンジ及びNレンジでのみ可能となっている。
【0021】
Dレンジの前側には+レンジ(アップシフトレンジ)が設けられ、Dレンジの後側には−レンジ(ダウンシフトレンジ)が設けられ、Dレンジの左側にはA/Mレンジ(モード切換レンジ)が設けられている。そして、これらの+レンジ、−レンジ及びA/Mレンジは、Dレンジをバネによる復帰位置として傾動操作可能となっており、傾動操作後にはバネの付勢力により自動的にDレンジに戻るようになっている。
【0022】
後に詳述するが、A/Mレンジは自動変速モードと手動変速モードとを切り換えるためのモード切換レンジとして機能し、チェンジレバー13をDレンジからA/Mレンジに傾動操作する毎に、自動変速モードと手動変速モードとの間で切換が行われるようになっている。また、+レンジ及び−レンジは手動変速モードにおいてアップシフトやダウンシフトを行うためのレンジであり、チェンジレバー13をDレンジから+レンジまたは−レンジに傾動操作する毎に、現在の変速段から1段アップシフトまたは1段ダウンシフトされるようになっている。
ここで、本実施形態では、チェンジレバー13のDレンジからA/Mレンジへの傾動操作、及びDレンジから+レンジまたは−レンジへの傾動操作が、本発明の自動変速レンジ及び手動変速レンジ間の切換操作に相当する。
【0023】
変速機3には変速段を切り換えるためのギヤシフトユニット14が設けられ、図示はしないがギヤシフトユニット14は、変速機3内の各変速段に対応するシフトフォークを作動させる複数のエアシリンダ、及び各エアシリンダを作動させる複数の電磁弁を内蔵している。ギヤシフトユニット14はエア通路12を介して上記したエアタンク11と接続されており、各電磁弁の開閉に応じてエアタンク11からの圧縮エアが対応するエアシリンダに供給され、そのエアシリンダが作動して対応するシフトフォークを切換操作すると、切換操作に応じて変速機3の変速段が切り換えられる。このようにギヤシフトユニット14の電磁弁の開閉に応じてエアシリンダが作動して、変速機3を自動的に変速操作可能になっている。
【0024】
車室内には、図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAMなど)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタなどを備えたECU(制御ユニット)21が設置されており、エンジン1、クラッチ装置2、変速機3の総合的な制御を行う。
ECU21の入力側には、エンジン1の回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサ22、変速機3の入力軸3aの回転速度(クラッチ回転速度)を検出するクラッチ回転速度センサ23、チェンジレバー13の切換位置を検出するレバー位置センサ24、変速機3のギヤ位置を検出するギヤ位置センサ25、アクセルペダル26の操作量Accを検出するアクセルセンサ27、変速機3の出力軸3bに設けられて車速Vを検出する車速センサ28、及びステアリングホイールに設けられたオートクルーズスイッチ29などのセンサ類が接続されている。
【0025】
また、ECU21の出力側には、上記したクラッチ装置2の電磁弁9、ギヤシフトユニット14の各電磁弁などが接続されると共に、図示はしないが、コモンレール蓄圧用の加圧ポンプや各気筒の燃料噴射弁などが接続されている。
なお、このように単一のECU21で総合的に制御することなく、例えばECU21とは別にエンジン制御専用のECUを備えるようにしてもよい。
【0026】
そして、例えばECU21は、エンジン回転速度センサ22により検出されたエンジン回転速度Ne及びアクセルセンサ27により検出されたアクセル操作量Accに基づき、図示しないマップから加圧ポンプにより蓄圧されるコモンレールのレール圧や各気筒への燃料噴射量を算出すると共に、エンジン回転速度Ne及び燃料噴射量Qに基づき図示しないマップから燃料噴射時期を算出する。そして、これらの算出値に基づき加圧ポンプを駆動制御すると共に、各気筒の燃料噴射弁を駆動制御しながらエンジン1を運転させる。
また、ECU21は、レバー位置センサ24によりチェンジレバー13のDレンジへの切換が検出されているとき、アクセル操作量Acc及び車速センサ28により検出された車速Vに基づき、図示しないシフトマップから目標変速段tgtGを算出する。そして、クラッチ装置2の電磁弁を開閉してエアシリンダ11によりクラッチ装置を断接操作させながら、ギヤシフトユニット14の所定の電磁弁を開閉してエアシリンダにより対応するシフトフォークを切換操作して目標変速段tgtGを達成し、これにより常に適切な変速段をもって車両を走行させる。
【0027】
また、ECU21は、レバー位置センサ24によりチェンジレバー13のDレンジからA/Mレンジへの切換が検出されたとき、その検出毎に自動変速モードと手動変速モードとの間で変速制御モードを切り換える。本実施形態では、このA/Mレンジへの切換に応じて変速制御モードの切換処理を実行するときのECU21がモード切換制御手段として機能する。そして、自動変速モードでは上記のように目標変速段tgtGに基づき変速制御を実行し、手動変速モードではシフトマップとは関係なくDレンジで達成されていた現在の変速段を維持する。
また、ECU21は、レバー位置センサ24によりチェンジレバー13のDレンジから+レンジまたは−レンジへの切換が検出されたとき、その検出毎に現在の変速段から1段アップシフトまたはダウンシフトする。
【0028】
また、ECU21は、オートクルーズスイッチ29により設定車速がセットされてオン操作されるとオートクルーズ制御を開始し、エンジン1を出力調整して車速Vを運転者の設定車速に維持すると共に、変速制御モードを自動変速モードに切り換えて目標変速段tgtGに基づく変速制御を行う。一方、ECU21は、オートクルーズスイッチ26のオフ操作やブレーキペダルの踏込み操作時などには、オートクルーズ制御を解除して通常走行に復帰させる。
本実施形態では、この車速Vを設定車速に維持するオートクルーズ制御を実行するときのECU21が定速走行手段として機能する。
【0029】
ところで、[発明が解決しようとする課題]で述べたように、特許文献1の車両用走行制御装置では、自動変速モードを選択したオートクルーズ制御中にアップシフト操作やダウンシフト操作が行われると、不適切な制御状態に陥るという問題があった。そこで、本実施形態では、オートクルーズ制御中における運転者の操作に応じて、変速制御モードの切換とオートクルーズ制御の作動状態とを最適に制御しており、以下、当該対策について詳述する。
図3はECU21が実行するオートクルーズ制御開始ルーチンであり、ECU21は車両の走行開始と共に当該ルーチンを所定の制御インターバルで実行し始める。
まず、ステップS2でオートクルーズスイッチ29からの入力情報に基づき、オートクルーズ制御の開始条件が成立したか否かを判定する。オートクルーズ制御の開始条件は、以下の1)〜5)の全ての要件が満たされたときに成立する。
【0030】
1)オートクルーズスイッチ29がオン。
2)チェンジレバー13がDレンジ。
3)アクセルペダル26がオフ。
4)フットブレーキがオフ。
5)車速Vが閾値以上。
ステップS2の判定がNo(否定)のときにはステップS4に移行し、チェンジレバー13により選択された変速制御モードに切り換えた後、一旦ルーチンを終了する。
また、ステップS2の判定がYes(肯定)のときにはステップS6に移行してオートクルーズ制御を開始し、続くステップS8でチェンジレバー13の切換操作に関わらず変速制御モードを自動変速モードに切り換えてルーチンを終了する。
【0031】
オートクルーズ制御の開始条件が成立したときには、要件2)に基づきチェンジレバー13はDレンジに位置しているが、A/Mレンジへの切換に応じて変速制御モードが自動変速モードの場合の場合のみならず手動変速モードの場合もあり得る。このようなときにはステップS8の処理により自動変速モードへの切換がなされる。
以上のECU21の処理により、オートクルーズ制御の開始条件が成立していないときには、オートクルーズ制御が開始されないことから運転者のアクセル操作に応じた通常走行が行われると共に、チェンジレバー13の操作に応じて変速制御モードが切り換えられる。一方、オートクルーズ制御の開始条件が成立したときには、オートクルーズ制御が開始されて車速Vが設定車速に維持されると共に、変速制御モードが自動変速モードに切り換えられてシフトマップに基づく変速制御が行われる。
【0032】
本実施形態では、このオートクルーズ制御を開始条件の成立に基づいて開始するときのECU21が定速走行制御開始手段として機能する。
一方、このようにしてオートクルーズ制御を開始すると、ECU21は図4に示す連係制御ルーチンを所定の制御インターバルで実行し始める。当該ルーチンは、オートクルーズ制御中に行われる運転者の操作に応じて、変速制御モードの切換とオートクルーズ制御の作動状態(オンオフ)を適切に制御するものである。
まず、ステップS12ではオートクルーズ制御の解除条件が成立したか否かを判定する。オートクルーズ制御の解除条件は、上記1)〜5)の何れかの要件が満たされなくなったときに成立する。ステップS12でYesの判定を下したときにはステップS14でオートクルーズ制御を解除し、続くステップS16で変速制御モードを自動変速モードに切り換えた後、一旦ルーチンを終了する。
【0033】
また、オートクルーズ制御の解除条件が成立せずにステップS12でNoの判定を下したときには、ステップS18に移行してチェンジレバー13がDレンジから他の何れかのレンジに操作されたか否かを判定する。起こり得る操作状態としては、以下のa)〜c)が考えられる。
a)+レンジまたは−レンジへの傾動操作。
b)A/Mレンジへの傾動操作。
c)Nレンジへの移動操作。
この内、レバー操作a),b)は、運転者が手動変速モードへの切換を意図している場合であり、レバー操作c)はオートクルーズ制御を機能させた走行中には意味のない操作のため、誤操作の可能性があると見なすことができる。
【0034】
ECU21はチェンジレバー13が操作されないとしてステップS18でNoの判定を下したときには、ステップS20に移行してオートクルーズ制御を継続し、続くステップS22で変速制御モードを自動変速モードに切り換える。
一方、チェンジレバー13が操作されているとしてステップS18でYesの判定を下したときには、ステップS24に移行してチェンジレバーの操作がa)またはb)に相当するものであるか否かを判定する。判定がYesのときにはステップS26に移行してオートクルーズ制御を解除し、続くステップS28で変速制御モードを手動変速モードに切り換える。
また、チェンジレバーの操作がc)に相当するものであるとしてステップS24でNoの判定を下したときには、上記ステップS14でオートクルーズ制御を解除し、続くステップS16で変速制御モードを自動変速モードに切り換える。
【0035】
本実施形態では、このチェンジレバーの操作に応じてオートクルーズ制御の解除及び手動変速モードへの切換(ステップS26,28)、或いはオートクルーズ制御の解除及び自動変速モードへの切換(ステップS14,16)を行うときのECU21が連係制御手段として機能する。
以上のECU21の処理により、自動変速モードを選択したオートクルーズ制御中において、運転者によりチェンジレバーがDレンジから他のレンジに切換操作されたとき、変速制御モードの切換とオートクルーズ制御の作動状態とは以下のように制御される。
【0036】
まず、オートクルーズ制御の解除条件が成立せず、且つチェンジレバーの操作もないときには、ステップS12,18を経てステップS20でオートクルーズ制御が継続されると共に、ステップS22で自動変速モードが継続される。従って、このときにはオートクルーズ制御の開始当初からの状態が維持され、車速Vを設定車速に維持しながら自動変速モードによる変速制御が行われる。
また、オートクルーズ制御の解除条件が成立したときには、ステップS12を経てステップS14でオートクルーズ制御が解除されると共に、ステップS16で自動変速モードが継続される。従って、通常走行に復帰することになり運転者のアクセル操作に応じて車両が走行する。なお、以上の2種の制御状態は、通常の走行制御装置により行われるものと相違ない。
【0037】
一方、オートクルーズ制御の解除条件が成立せず、且つチェンジレバーの操作として上記a)のA/Mレンジへの傾動操作、またはb)の+レンジまたは−レンジへの傾動操作の何れかが行われたときには、ステップS12,18,24を経てステップS26でオートクルーズ制御が解除されると共に、ステップS28で手動変速モードに切り換えられる。
上記したようにレバー操作a),b)は手動変速モードへの切換を意図したものであり、ひいては手動変速モードにより任意に変速段を切り換えて車両を加速または減速させたいという運転者の意志表示であると見なせる。この要求に対応するためには手動変速モードへの切換だけでなく、通常走行に復帰してアクセル操作に応じて車両を加減速可能な状態としなければ、例えば、このような状況でオートクルーズ制御を継続する特許文献1の技術のように、運転者が意図する肝心の加減速が行われないという矛盾が生じてしまう。
【0038】
本実施形態では、上記のように手動変速モードへの切換と共にオートクルーズ制御が解除されるため、通常走行に復帰してアクセル操作に応じた車両の加減速が可能となる。従って、例えば+レンジや−レンジへのレバー操作に応じたアップシフトやダウンシフトにより車両の駆動力が増減するだけでなく、その駆動力により運転者がアクセル操作に応じて車両を任意に加減速可能となり、もって運転者の意志を反映した適切な車両の走行を実現することができる。
また、オートクルーズ制御の解除条件が成立せず、且つチェンジレバーの操作として上記c)のNレンジへの移動操作が行われたときには、ステップS12,18,24を経てステップS14でオートクルーズ制御が解除されると共に、ステップS16で自動変速モードが継続される。
【0039】
上記したようにレバー操作c)はオートクルーズ制御での走行中には意味がなく、誤操作の可能性があると見なせる。しかし、仮に誤操作であったとしても、上記レバー操作a),b)と同様に運転者は車両の加減速を意図していると推測できる。このときオートクルーズ制御が解除されて通常走行に復帰することから、誤操作に気付いた運転者がDレンジに切り換えた後は、アクセル操作に応じて車両を任意に加減速可能となる。
そして、誤操作に気付いたとき運転者はチェンジレバーをNレンジからDレンジに戻すが、この時点では路面勾配などに応じた車両の加減速の結果、Nレンジへの誤操作が行われたときから車速Vが大きく変動している場合もある。このときに手動変速モードが選択されていると、Dレンジへの復帰と同時に不適切な変速段に切り換えられてしまい、車両の走行を継続不能に陥ったり、或いはエンジン1を過回転させたりする不具合が生じる。
【0040】
そこで、このような点を配慮して、レバー操作c)が行われたときにはa),b)とは異なり自動変速モードを継続している。従って、Dレンジへの復帰時には自動変速モードに基づき車速Vに応じた適切な変速段に切り換えられ、上記走行不能やエンジン1の過回転などの不具合を未然に回避した上で、運転者の意志を反映した適切な車両の走行を実現することができる。
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、手動式変速機をベースとして変速操作及び変速に伴うクラッチ装置2の断接操作を自動化した変速機3を用いたが、変速機3の種別はこれに限ることはない。例えば、所謂デュアルクラッチ式変速機、或いはトルクコンバータに遊星歯車機構を組み合わせた自動変速機やベルト式などの無段変速機に適用してもよい。
【0041】
なお、デュアルクラッチ式変速機は、奇数段と偶数段とに分けた歯車機構をそれぞれクラッチを介してエンジン側と連結して構成され、一方の歯車機構のクラッチを接続して動力伝達しているとき、他方の歯車機構のクラッチを切断して次に予測される変速段に予め切り換えておき、変速タイミングになると両クラッチの断接状態を逆転させて他方の歯車機構による動力伝達を開始するものである。これらの変速機においても、自動変速モードと手動変速モードとを切換可能な変速制御機能、及び運転者が設定した車速を維持するオートクルーズ機能を備えている場合には、本実施形態の構成を適用することにより同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0042】
3 変速機
13 チェンジレバー
21 ECU(定速走行手段、変速制御手段、定速走行制御開始手段、連係制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェンジレバーの自動変速レンジ及び手動変速レンジ間の切換操作に応じて変速機を自動変速モードと手動変速モードとの間で切り換えるモード切換手段、及び運転者が設定した車速を維持する定速走行制御を実行可能な定速走行手段を備えた車両用走行制御装置において、
予め設定された上記定速走行制御の開始条件が成立したときに上記定速走行手段に定速走行制御を開始させると共に、上記チェンジレバーの切換操作に関わらず上記モード切換手段に自動変速モードを選択させる定速走行制御開始手段と、
上記定速走行制御開始手段の指示に基づく上記自動変速モードを選択した定速走行制御の実行中において、運転者により上記チェンジレバーが手動変速レンジに切り換えられたときに、上記定速走行手段に定速走行制御を解除させて通常走行に復帰させると共に、上記モード切換手段に手動変速モードを選択させる連係制御手段と
を備えたことを特徴とする車両用走行制御装置。
【請求項2】
上記連係制御手段は、上記自動変速モードを選択した定速走行制御の実行中において、運転者により上記チェンジレバーがニュートラルレンジに切り換えられたときに、上記定速走行手段に定速走行制御を解除させて通常走行に復帰させると共に、上記モード切換手段に自動変速モードを選択させることを特徴とする請求項1記載の車両用走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−56431(P2012−56431A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201110(P2010−201110)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】