車両用防振装置
【課題】トルクロッドの軸方向の剛体共振を精度よく検出できる車両用防振装置を提供する。
【解決手段】一端部12がエンジン1に固定され、他端部13が車体に固定されるロッド11と、前記ロッドに支持された慣性マス15を含み、前記慣性マスを前記ロッドの軸方向に往復動させるアクチュエータ17と、前記ロッドの軸方向の振動を検出する振動検出手段21と、を有する車両用防振装置において、前記振動検出手段は、前記ロッドの前記一端部と前記他端部との間に配置されている。
【解決手段】一端部12がエンジン1に固定され、他端部13が車体に固定されるロッド11と、前記ロッドに支持された慣性マス15を含み、前記慣性マスを前記ロッドの軸方向に往復動させるアクチュエータ17と、前記ロッドの軸方向の振動を検出する振動検出手段21と、を有する車両用防振装置において、前記振動検出手段は、前記ロッドの前記一端部と前記他端部との間に配置されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動源であるエンジンから車体側へ伝達される振動を抑制する車両用防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンから車体側へ伝達される振動を抑制する防振装置として、トルクロッドの剛体共振周波数をエンジンの共振周波数より低く設定するとともに、トルクロッドの軸方向変位の速度に比例した力をアクチュエータに発生させるように構成した防振装置が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−12757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の防振装置では、トルクロッドの軸方向の剛体共振を検出する振動加速度検出センサが、トルクロッドのピッチ方向の剛体共振成分も検出する構成となっているため、共振成分の検出精度が悪く、予定した制御効果が得られないという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、トルクロッドの軸方向の剛体共振を精度よく検出できる車両用防振装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エンジン及び車体にそれぞれ固定されるトルクロッドの両端部の間に振動検出手段を配置することによって、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
トルクロッドの両端部の間にトルクロッドのピッチ方向の剛体共振の節があり、本発明ではこの範囲に振動検出手段を設けるので、振動検出手段がピッチ方向の剛体共振を検出するのを抑制でき、その結果、ロッドの軸方向の剛体共振を精度よく検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1A】本発明の一実施の形態に係る防振装置を車両のエンジンに適用した例を示す正面図である。
【図1B】図1Aの平面図である。
【図2】図1A及び図1Bの分解斜視図である。
【図3】図1Bのアッパトルクロッドを示す断面図である。
【図4A】図1Bのアッパトルクロッドを示す斜視図である。
【図4B】図4Aのアッパトルクロッドを反対側から見た斜視図である。
【図5】図4A,Bのアッパトルクロッドを示す四面図(正面図,左側面図,右側面図,平面図)である。
【図6A】図4A,Bのアッパトルクロッドのエンジンへの装着例を示す平面図である。
【図6B】図4A,Bのアッパトルクロッドのエンジンへの他の装着例を示す平面図である。
【図7】エンジンの振動状態を説明するための図である。
【図8】本発明の他の実施の形態に係る防振装置を示す断面図である。
【図9】2重防振の効果が得られる構成による伝達力の周波数特性図である。
【図10】トルクロッドのブッシュの剛性の設定例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
最初に本発明の一実施の形態に係る車両用防振装置を適用する、いわゆるペンデュラム方式エンジンについて説明する。ペンデュラム方式によるエンジン1の支持構造とは、図1A及び図1Bに示すように、エンジン1の慣性主軸Lを、車両の幅方向(進行方向と直交する方向,車両左右方向ともいう)と平行に向けて配置された、いわゆる横置きエンジン1に対して、エンジン1を支持する2個の支持点P1,P2が、図1Bの平面視においては、エンジン1の慣性主軸Lの近傍の、重心Gを挟んで互いに軸方向反対側に位置し、図1Aの側面視においては、ともに慣性主軸Lの車両上方に位置するように設けられた支持構造である。なお、2個の支持点P1,P2は、図2に示すように左右それぞれのエンジンマウント3,4により構成される。
【0010】
ペンデュラム方式エンジンの支持構造は、エンジン1を振り子のように吊り下げて支持するとともに、それらの支持点P1,P2を結ぶ直線の周りを揺動するエンジン重心Gを、車体に取り付けられたトルクロッドアッセンブリ5,6のような棒状部材で抑えるよう構成され、少ない点数の部品で従来と同様の制振効果が得られるといったメリットがある。すなわち、ペンデュラム方式でマウントされたエンジン1では、エンジン1の運転時に回転慣性力によって2つの支持点P1,P2を結んだ軸の回りにエンジン1が傾く。この傾きを防止してエンジン1を支持するため、エンジン1のほぼ上半分と車体側部材とを連結する第1のトルクロッド(アッパトルクロッド)5と、エンジン1の残り下半分と車体側部材とを連結する第2のトルクロッド(ロアトルクロッド)6とを備える。アッパトルクロッド5が車両右上側からエンジン1に、もう一つのロアトルクロッド6が車両下側からエンジン1に連結され、これら2つのトルクロッド5,6により、ペンデュラム方式のエンジン1が傾くことを防止している。
【0011】
上記のエンジン1は、たとえば2次バランサつきの直列4気筒やV型6気筒エンジンである。2次バランサつきの4気筒エンジンやV型6気筒エンジンでは、エンジン回転の基本次数で不平衡慣性力が小さいので、主にエンジントルク変動の反力がエンジン1に作用する。したがってエンジン回転の基本次数では、トルクを支持している上記2つのトルクロッド5,6からの入力によって主に車内音・車内振動が発生することが本発明者によって知見されている。さらに、車両の主に加速時に、基本次数の高次数で構成される約1000Hzまでの車内音が乗員にとって問題となることが知られている。
【0012】
既述したとおり、本例の車両用防振装置は、2つのトルクロッド5,6を備える。アッパトルクロッド5は、図1Bに示すようにエンジン1の上部と車体との間に装着される。これに対し、ロアトルクロッド6は、図1A,図1B及び図2に示すように、エンジン1の下部とサブフレーム2との間に装着される。本例のアッパトルクロッド5とロアトルクロッド6とは基本構成が同じであるため、アッパトルクロッド5の構成について説明し、ロアトルクロッド6の構成はこれを援用して省略する。
【0013】
アッパトルクロッド5は、図2及び図3に示すように、一端部のブッシュ12がエンジン1の上部に固定され、他端部のブッシュ13が車体に固定されるロッド11と、ロッド11に支持された慣性マス15と、慣性マス15をロッド11の軸方向に往復動させるアクチュエータ17とを有する。
【0014】
図3はアッパトルクロッド5の要部断面図であり、棒状のロッド11の両端に一対のブッシュ12,13が溶接により固定されている。エンジン側に固定されるブッシュ12は、円筒状の外筒12aと、外筒12aと同心の円筒状の内筒12bと、これら外筒12aと内筒12bとを連結する弾性体(防音材)12cとからなる。内筒12bに対して図3で紙面に直交する向きに挿通されるボルト(図示しない)によってブッシュ12はエンジン1に固定される。
【0015】
一方、車体側に固定されるブッシュ13も、上記ブッシュ12と同様に、円筒状の外筒13aと、外筒13aと同心の円筒状の内筒13bと、これら外筒13aと内筒13bとを連結する弾性体(防音材)13cとからなる。内筒13bに対して図3で紙面に直交する向きに挿通されるボルト(図示しない)によってブッシュ13は車体側の部材に固定される。
【0016】
なお、図示する実施形態は、ブッシュ12をエンジン1に固定し、ブッシュ13を車体側に固定する構成であるが、これに限らず、ブッシュ12を車体側に固定し、ブッシュ13をエンジン1に固定してもよい。また、図3に示すアッパトルクロッド5は、ブッシュ12,13の内筒12b,13bに挿通される2つのボルトが平行に配置される例を示すが、図2,図4A,4B,図5に示すアッパトルクロッドは、ブッシュ12,13の内筒12b,13bに挿通される2つのボルト18,19が互いに直交する向きに配置された例を示す。車体側の固定部及びエンジンの固定部の形状に応じて適宜変更することができる。
【0017】
本例の弾性体(防音材)12c,13cは、ばねと減衰の機能を兼ね備えた部材であり、例えば弾性ゴムを用いることができる。
【0018】
図2,図3,図4A,4B及び図5に示す本例のアッパトルクロッド5では、ブッシュ12,13の外筒及び内筒の径を相違させている。すなわち、ブッシュ13の外筒13a、内筒13bの径を、対応するブッシュ12の外筒12a、内筒12bの径よりも相対的に小さくすると共に、さらに、ブッシュ13の弾性体13cの剛性を、ブッシュ12の弾性体12cの剛性よりも相対的に大きくする。一対のブッシュ12、13の弾性体12c、13cの剛性を異ならせることで、2つの異なる周波数において2重防振に適したロッド軸方向のエンジン剛体共振とロッド剛体共振とを生じさせている。
【0019】
すなわち、図9に実線で示したように、ブッシュ12の弾性体12cの剛性から定まるロッド軸方向のエンジン剛体共振Aがほぼゼロに近い周波数f1[Hz]で生じ、ブッシュ13の弾性体13cの剛性から定まるロッド軸方向のロッド剛体共振Bが200Hzに近い周波数f2[Hz]で生じている。分かり易さのため、エンジン剛体共振とロッド剛体共振を極めて単純化したばねマス系に基づいて説明すれば、エンジン剛体共振Aは、エンジン質量と、ブッシュ12の弾性体12cの剛性(ばね定数)で決まり、ロッド剛体共振Bは、ブッシュ12の弾性体12cとブッシュ13の弾性体13cの間の質量であるロッド11(および各ブッシュの外筒部分)の質量と、ブッシュ13の弾性体13cの剛性(ばね定数)で決まる。
【0020】
エンジン1単体での曲げ、捩りの1次の共振周波数f3は、一般的な車両用エンジンでは280Hz〜350Hz程度なので、本例のようにエンジン剛体共振Aをほぼゼロ(0Hz)とし、ロッド剛体共振Bを約200Hzとすれば、エンジン1の曲げ、捩りの共振振動の車体への伝達が、高周波数側(防振域内)で効果的に抑えられる(2重防振される)ことになる。
【0021】
以上より、エンジン剛体共振Aおよびロッド剛体共振Bが、エンジンの曲げ、捩りの共振周波数f3より小さな周波数となるように、ブッシュ12の弾性体12cの剛性(ばね定数)、およびブッシュ12の弾性体12cとブッシュ13の弾性体13cの間の質量であるロッド11(および各ブッシュの外筒部分)の質量、ブッシュ13の弾性体13cの剛性(ばね定数)を定めればよい。このように、エンジン剛体共振Aおよびロッド剛体共振Bを2つの異なる周波数で、つまり低周波域の周波数f1と、中周波数域の周波数f2との2箇所で生じさせてエンジン1から車体側に伝達される振動を防止する効果が得られるのが2重防振の効果である。ただし、本発明の防振装置ではブッシュ12,13の外筒及び内筒の径を相違させるのは必須ではなく、後述するようにブッシュ12,13を同じ構造としてもよい。
【0022】
本例のアッパトルクロッド5は、磁性を有する金属等からなる慣性マス15と、アクチュエータ17と、加速度センサ21と、バンドパスフィルタ22と、電圧増幅回路23とを備える。
【0023】
慣性マス15は、ロッド11の周囲にロッド11と同軸で設けられている。ロッド11の軸方向に見た慣性マス15の断面は、ロッド11の中心(重心)を中心にした点対称な形であると共に、慣性マス15の重心がロッド11の中心に一致している。慣性マス15は、図2,図4A,4B及び図5にも示されているように角筒型とされ、慣性マス15のロッド軸方向の両端(図3で上下端)がそれぞれ弾性支持バネ16を介してロッド11に連結されている。弾性支持バネ16は、たとえば比較的小さな剛性を有する板バネである。慣性マス15の内壁15aはその一部が後述するアクチュエータ17の永久磁石17cに向けて凸設されている。
【0024】
本例のアッパトルクロッド5は、図3に示すように慣性マス15とロッド11との間の空間にアクチュエータ17が設けられている。アクチュエータ17は、角筒状のコア17aと、コイル17bと、永久磁石17cとを含むリニアタイプ(直線運動型)のアクチュエータで、慣性マス15をロッド11の軸方向に往復動するものである。
【0025】
コイルの磁路を構成するコア17aは積層鋼鈑から構成されており、ロッド11に固設されている。コア17aは、アッパトルクロッド5の組立前には複数個の部材に分割されており、これら複数個の部材を接着剤で棒状のロッド11の周囲に接着することにより、全体として角筒状のコア17aを形成している。コイル17bは、この角筒状のコア17aに巻装されている。永久磁石17cは、コア17aの外周面に設けられている。
【0026】
アクチュエータ17は、このような構成であるので、コイル17bと永久磁石17cとが発生する磁界によるリアクタンストルクによって慣性マス15をリニアに、つまり慣性マス15をロッド11の軸方向に往復動するように駆動することとなる。
【0027】
ブッシュ12,13の間であってロッド11の軸心を通る水平面と平行な面上には、ロッド11の略軸心位置での軸方向の振動の加速度を、エンジン1からロッド11に伝達される振動の加速度として検出する加速度センサ21が取り付けられている。そして、加速度センサ21からのロッド軸方向加速度の信号は、バンドパスフィルタ22を介して電圧増幅回路23に入力され、この電圧増幅回路23で増幅された信号はアクチュエータ17のコイル17bに印加される(電圧の制御を行なう)。電圧増幅回路23は例えばオペアンプから構成することができる。加速度センサ21の詳細は後述する。
【0028】
慣性マス15は比較的柔らかい板バネ(弾性支持バネ16)で支持され、例えば慣性マス15のロッド11に対するロッド軸方向の共振は10Hzから100Hzまでの低い周波数で生じるものとされている。例えば4気筒エンジンのアイドル回転速度2次の振動周波数は約20Hzであることから、慣性マス15の共振周波数を10Hzにすることができれば、エンジン1の運転条件によらず慣性マス15が共振するのを抑えることができる。
【0029】
一方、慣性マス15の共振周波数を10Hzといったこのような低周波数に設定しようとすると、慣性マス15が大きくなりすぎてそのような設定が困難な場合には、抑制しようとするロッド剛性共振B(実施形態では200Hz)の約1/2の周波数より低く設定しておけば、互いの共振周波数が十分に離れ、振動伝達の抑制が十分に行なわれる。
【0030】
また、加速度センサ21で検出した加速度信号をバンドパスフィルタ22に通すことによって、余分な周波数での制御を行なわないようにして、制御安定性を高めるとともに、余分な電力消費を抑えつつ狙いの周波数範囲での確実な伝達力の抑制を図ることができる。ロッド剛体共振Bに対する防振域は、図9に示したようにロッド剛体共振Bの共振周波数f2に対して所定値(≒1.4)を乗じて求まる周波数f5以上の周波数範囲であるので、バンドパスフィルタ22としては、慣性マス15のロッド軸方向の共振周波数(10Hzから100Hzまでの低い周波数)を含みこの共振周波数より、ロッド剛体共振Bに対する防振域の周波数範囲までの信号を通過するフィルタであって、防振域のうち制御が発散しない範囲の上限(例えば400Hzとする)までの信号を通過するフィルタを選定する。
【0031】
そして、制御対象であるロッド11の減衰を増大する速度フィードバック制御が行われるように、バンドパスフィルタ22で通過している周波数帯において、加速度センサ21により検出した振動のロッド軸方向速度に略比例した力を逆符合とした力をアクチュエータ17から発生させる。
【0032】
次に加速度センサ21について説明する。
本例の加速度センサ21は、図3に示すようにロッド11に直接設けるほか、図4Aに示すようにロッド11及びブッシュ12,13を覆うハウジング18に設けてもよい。ハウジング20は、ブッシュ12,13の外筒12a,13aに固定又は一体形成された剛体からなるので、ロッド11の軸方向及びピッチ方向の振動が同等に伝達される。
【0033】
本例の加速度センサ21は、ブッシュ12,13の間であって、ロッド11の軸心(トルクを支持する軸)を通る水平面と平行な面上に設けられている。4気筒エンジン等は、図7に示すように、上下方向に不平衡慣性力が作用した振動が発生し、ロッド11のトルクを支持する軸方向に対して上方にずれた位置にセンサを配置すると、エンジン1の上下振動によって、トルクロッドにはピッチ方向の振動が発生するが、本例では、加速度センサ21を、トルク支持軸を通り水平面と平行な面に配置しているので、ピッチ方向の振動に感度が小さくなる。すなわち、軸方向の振動検出精度が向上する。その結果、図10に示すようにロッド11の軸方向の剛体共振を大幅に下げた場合であっても、ピッチ方向の剛体共振のノイズは殆んど検出しないので、従来のように、ピッチ方向の剛体共振が常用域まで下がるのを加速度センサ21が検出し、これにより制御電力を増大させるといった不具合現象を抑制することができる。
【0034】
特に、加速度センサ21をブッシュ12,13の間に配置しているので、ロッド11のピッチ方向の剛体共振の節が存在する領域に加速度センサ21を配置することになり、ピッチ方向の感度がより小さくなる。
【0035】
また、本例の車両用防振装置において、ロッド11の両端に固定したブッシュ12,13の剛性比を一定の値に設定し、加速度センサ21又はアクチュエータ17の少なくとも一方を、ロッド11のピッチ方向の剛体共振の節に配置してもよい。加速度センサ21又はアクチュエータ17を剛体共振モードの節に配置することで、ピッチ方向の剛体共振の検出がより抑制され、これによって生じるアクチュエータ17の制御電力を低減することができる。
【0036】
なお、上述した車両用防振装置では、ブッシュ12,13の外形を相違させているが、ロッド11の両端に固定したブッシュ12,13の剛性比を一定の値に設定したうえで、図8の右図に示すように2つのブッシュ12,13を同じ形状にしてもよい。こうすることで、運転条件が変わってもピッチ方向の剛体共振の節を加速度センサ21又はアクチュエータ17の設置位置と等しくすることができ、左図に示す例に比べてより検出精度が高くなる。
【0037】
また、本例の加速度センサ21は、図6Bに示すようにブッシュ12がボルト18により固定されるエンジン1のブラケット1aに対し、エンジン1側の面に固定することができる。ただし、図6Aに示すようにエンジン1のブラケット1aに対し、エンジン1とは反対側のエンジン1から離れた側の側面に固定することがより好ましい。
【0038】
本例の車両用防振装置では、図10に示すようにアッパトルクロッド5の車体側ブッシュ12の剛性を従来のアッパトルクロッドと比較して大幅に下げているため、例えば車両旋回時においてアッパトルクロッド自身の加速度によりアッパトルクロッドが車両の左右方向に対して大きく揺動する。したがって、従来のアッパトルクロッドと比較し、エンジン1とアッパトルクロッド5とのクリアランスCを大きく設定する必要がある。
【0039】
一方で、不平衡慣性力に起因する力は、エンジン1の重心Gよりエンジン前方に作用し、モーメントを発生させる。したがって、エンジン1の先端の方が、エンジンの上下変位の振動が大きくなる。したがって、図6Aに示す例のように、加速度センサ21の配置位置をエンジン1とは反対側のエンジン1から離れた側のアッパトルクロッド5のハウジング20の面に配置する方が、アッパトルクロッド5とエンジン1とのクリアランスCを短くでき、アッパトルクロッド5に伝わるエンジン1の上下振動を小さくできる。同様に、アッパトルクロッド5とエンジン1とのクリアランスCを短くできるため、エンジン1側のトルクロッドの締結に関係する部品を小さくでき、締結に関係する部品の固有値を高めることができる。
【0040】
また、本例の車両用防振装置では、アッパトルクロッド5が熱源であるアクチュエータ17を備え、加速度センサ21への熱伝達が問題になるが、エンジン1とは反対側で、車両前方からの風が流れる位置に加速度センサ21を配置できるため、放熱性能も有利となる。
【0041】
本例の加速度センサ21では、図5の左側面図及び平面図に示すように、装着されるハウジング20の面との間に空間Sが設けられている。エンジンルーム内の風が流れる方向に空間Sを設けることで、加速度センサ21の放熱性能が向上し、さらに熱源であるアクチュエータ17からの熱伝達を抑制できる。
【0042】
加速度センサ21を上述した構成とすることはロアトルクロッド6についても同様であるが、アッパトルクロッド5はロアトルクロッド6に比べてパワートレインの重心から遠い位置に取り付けられるため、アッパトルクロッド5の方が効果は大きい。
【0043】
上記加速度センサ21は本発明に係る振動検出手段に相当する。
【符号の説明】
【0044】
1…エンジン
2…サブフレーム
3,4…エンジンマウント
P1,P2…支持点
5…アッパトルクロッド
6…ロアトルクロッド
11…ロッド
12,13…ブッシュ
15…慣性マス
17…アクチュエータ
18,19…ボルト
20…ハウジング
21…加速度センサ
22…バンドパスフィルタ
23…電圧増幅回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動源であるエンジンから車体側へ伝達される振動を抑制する車両用防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンから車体側へ伝達される振動を抑制する防振装置として、トルクロッドの剛体共振周波数をエンジンの共振周波数より低く設定するとともに、トルクロッドの軸方向変位の速度に比例した力をアクチュエータに発生させるように構成した防振装置が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−12757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の防振装置では、トルクロッドの軸方向の剛体共振を検出する振動加速度検出センサが、トルクロッドのピッチ方向の剛体共振成分も検出する構成となっているため、共振成分の検出精度が悪く、予定した制御効果が得られないという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、トルクロッドの軸方向の剛体共振を精度よく検出できる車両用防振装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エンジン及び車体にそれぞれ固定されるトルクロッドの両端部の間に振動検出手段を配置することによって、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
トルクロッドの両端部の間にトルクロッドのピッチ方向の剛体共振の節があり、本発明ではこの範囲に振動検出手段を設けるので、振動検出手段がピッチ方向の剛体共振を検出するのを抑制でき、その結果、ロッドの軸方向の剛体共振を精度よく検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1A】本発明の一実施の形態に係る防振装置を車両のエンジンに適用した例を示す正面図である。
【図1B】図1Aの平面図である。
【図2】図1A及び図1Bの分解斜視図である。
【図3】図1Bのアッパトルクロッドを示す断面図である。
【図4A】図1Bのアッパトルクロッドを示す斜視図である。
【図4B】図4Aのアッパトルクロッドを反対側から見た斜視図である。
【図5】図4A,Bのアッパトルクロッドを示す四面図(正面図,左側面図,右側面図,平面図)である。
【図6A】図4A,Bのアッパトルクロッドのエンジンへの装着例を示す平面図である。
【図6B】図4A,Bのアッパトルクロッドのエンジンへの他の装着例を示す平面図である。
【図7】エンジンの振動状態を説明するための図である。
【図8】本発明の他の実施の形態に係る防振装置を示す断面図である。
【図9】2重防振の効果が得られる構成による伝達力の周波数特性図である。
【図10】トルクロッドのブッシュの剛性の設定例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
最初に本発明の一実施の形態に係る車両用防振装置を適用する、いわゆるペンデュラム方式エンジンについて説明する。ペンデュラム方式によるエンジン1の支持構造とは、図1A及び図1Bに示すように、エンジン1の慣性主軸Lを、車両の幅方向(進行方向と直交する方向,車両左右方向ともいう)と平行に向けて配置された、いわゆる横置きエンジン1に対して、エンジン1を支持する2個の支持点P1,P2が、図1Bの平面視においては、エンジン1の慣性主軸Lの近傍の、重心Gを挟んで互いに軸方向反対側に位置し、図1Aの側面視においては、ともに慣性主軸Lの車両上方に位置するように設けられた支持構造である。なお、2個の支持点P1,P2は、図2に示すように左右それぞれのエンジンマウント3,4により構成される。
【0010】
ペンデュラム方式エンジンの支持構造は、エンジン1を振り子のように吊り下げて支持するとともに、それらの支持点P1,P2を結ぶ直線の周りを揺動するエンジン重心Gを、車体に取り付けられたトルクロッドアッセンブリ5,6のような棒状部材で抑えるよう構成され、少ない点数の部品で従来と同様の制振効果が得られるといったメリットがある。すなわち、ペンデュラム方式でマウントされたエンジン1では、エンジン1の運転時に回転慣性力によって2つの支持点P1,P2を結んだ軸の回りにエンジン1が傾く。この傾きを防止してエンジン1を支持するため、エンジン1のほぼ上半分と車体側部材とを連結する第1のトルクロッド(アッパトルクロッド)5と、エンジン1の残り下半分と車体側部材とを連結する第2のトルクロッド(ロアトルクロッド)6とを備える。アッパトルクロッド5が車両右上側からエンジン1に、もう一つのロアトルクロッド6が車両下側からエンジン1に連結され、これら2つのトルクロッド5,6により、ペンデュラム方式のエンジン1が傾くことを防止している。
【0011】
上記のエンジン1は、たとえば2次バランサつきの直列4気筒やV型6気筒エンジンである。2次バランサつきの4気筒エンジンやV型6気筒エンジンでは、エンジン回転の基本次数で不平衡慣性力が小さいので、主にエンジントルク変動の反力がエンジン1に作用する。したがってエンジン回転の基本次数では、トルクを支持している上記2つのトルクロッド5,6からの入力によって主に車内音・車内振動が発生することが本発明者によって知見されている。さらに、車両の主に加速時に、基本次数の高次数で構成される約1000Hzまでの車内音が乗員にとって問題となることが知られている。
【0012】
既述したとおり、本例の車両用防振装置は、2つのトルクロッド5,6を備える。アッパトルクロッド5は、図1Bに示すようにエンジン1の上部と車体との間に装着される。これに対し、ロアトルクロッド6は、図1A,図1B及び図2に示すように、エンジン1の下部とサブフレーム2との間に装着される。本例のアッパトルクロッド5とロアトルクロッド6とは基本構成が同じであるため、アッパトルクロッド5の構成について説明し、ロアトルクロッド6の構成はこれを援用して省略する。
【0013】
アッパトルクロッド5は、図2及び図3に示すように、一端部のブッシュ12がエンジン1の上部に固定され、他端部のブッシュ13が車体に固定されるロッド11と、ロッド11に支持された慣性マス15と、慣性マス15をロッド11の軸方向に往復動させるアクチュエータ17とを有する。
【0014】
図3はアッパトルクロッド5の要部断面図であり、棒状のロッド11の両端に一対のブッシュ12,13が溶接により固定されている。エンジン側に固定されるブッシュ12は、円筒状の外筒12aと、外筒12aと同心の円筒状の内筒12bと、これら外筒12aと内筒12bとを連結する弾性体(防音材)12cとからなる。内筒12bに対して図3で紙面に直交する向きに挿通されるボルト(図示しない)によってブッシュ12はエンジン1に固定される。
【0015】
一方、車体側に固定されるブッシュ13も、上記ブッシュ12と同様に、円筒状の外筒13aと、外筒13aと同心の円筒状の内筒13bと、これら外筒13aと内筒13bとを連結する弾性体(防音材)13cとからなる。内筒13bに対して図3で紙面に直交する向きに挿通されるボルト(図示しない)によってブッシュ13は車体側の部材に固定される。
【0016】
なお、図示する実施形態は、ブッシュ12をエンジン1に固定し、ブッシュ13を車体側に固定する構成であるが、これに限らず、ブッシュ12を車体側に固定し、ブッシュ13をエンジン1に固定してもよい。また、図3に示すアッパトルクロッド5は、ブッシュ12,13の内筒12b,13bに挿通される2つのボルトが平行に配置される例を示すが、図2,図4A,4B,図5に示すアッパトルクロッドは、ブッシュ12,13の内筒12b,13bに挿通される2つのボルト18,19が互いに直交する向きに配置された例を示す。車体側の固定部及びエンジンの固定部の形状に応じて適宜変更することができる。
【0017】
本例の弾性体(防音材)12c,13cは、ばねと減衰の機能を兼ね備えた部材であり、例えば弾性ゴムを用いることができる。
【0018】
図2,図3,図4A,4B及び図5に示す本例のアッパトルクロッド5では、ブッシュ12,13の外筒及び内筒の径を相違させている。すなわち、ブッシュ13の外筒13a、内筒13bの径を、対応するブッシュ12の外筒12a、内筒12bの径よりも相対的に小さくすると共に、さらに、ブッシュ13の弾性体13cの剛性を、ブッシュ12の弾性体12cの剛性よりも相対的に大きくする。一対のブッシュ12、13の弾性体12c、13cの剛性を異ならせることで、2つの異なる周波数において2重防振に適したロッド軸方向のエンジン剛体共振とロッド剛体共振とを生じさせている。
【0019】
すなわち、図9に実線で示したように、ブッシュ12の弾性体12cの剛性から定まるロッド軸方向のエンジン剛体共振Aがほぼゼロに近い周波数f1[Hz]で生じ、ブッシュ13の弾性体13cの剛性から定まるロッド軸方向のロッド剛体共振Bが200Hzに近い周波数f2[Hz]で生じている。分かり易さのため、エンジン剛体共振とロッド剛体共振を極めて単純化したばねマス系に基づいて説明すれば、エンジン剛体共振Aは、エンジン質量と、ブッシュ12の弾性体12cの剛性(ばね定数)で決まり、ロッド剛体共振Bは、ブッシュ12の弾性体12cとブッシュ13の弾性体13cの間の質量であるロッド11(および各ブッシュの外筒部分)の質量と、ブッシュ13の弾性体13cの剛性(ばね定数)で決まる。
【0020】
エンジン1単体での曲げ、捩りの1次の共振周波数f3は、一般的な車両用エンジンでは280Hz〜350Hz程度なので、本例のようにエンジン剛体共振Aをほぼゼロ(0Hz)とし、ロッド剛体共振Bを約200Hzとすれば、エンジン1の曲げ、捩りの共振振動の車体への伝達が、高周波数側(防振域内)で効果的に抑えられる(2重防振される)ことになる。
【0021】
以上より、エンジン剛体共振Aおよびロッド剛体共振Bが、エンジンの曲げ、捩りの共振周波数f3より小さな周波数となるように、ブッシュ12の弾性体12cの剛性(ばね定数)、およびブッシュ12の弾性体12cとブッシュ13の弾性体13cの間の質量であるロッド11(および各ブッシュの外筒部分)の質量、ブッシュ13の弾性体13cの剛性(ばね定数)を定めればよい。このように、エンジン剛体共振Aおよびロッド剛体共振Bを2つの異なる周波数で、つまり低周波域の周波数f1と、中周波数域の周波数f2との2箇所で生じさせてエンジン1から車体側に伝達される振動を防止する効果が得られるのが2重防振の効果である。ただし、本発明の防振装置ではブッシュ12,13の外筒及び内筒の径を相違させるのは必須ではなく、後述するようにブッシュ12,13を同じ構造としてもよい。
【0022】
本例のアッパトルクロッド5は、磁性を有する金属等からなる慣性マス15と、アクチュエータ17と、加速度センサ21と、バンドパスフィルタ22と、電圧増幅回路23とを備える。
【0023】
慣性マス15は、ロッド11の周囲にロッド11と同軸で設けられている。ロッド11の軸方向に見た慣性マス15の断面は、ロッド11の中心(重心)を中心にした点対称な形であると共に、慣性マス15の重心がロッド11の中心に一致している。慣性マス15は、図2,図4A,4B及び図5にも示されているように角筒型とされ、慣性マス15のロッド軸方向の両端(図3で上下端)がそれぞれ弾性支持バネ16を介してロッド11に連結されている。弾性支持バネ16は、たとえば比較的小さな剛性を有する板バネである。慣性マス15の内壁15aはその一部が後述するアクチュエータ17の永久磁石17cに向けて凸設されている。
【0024】
本例のアッパトルクロッド5は、図3に示すように慣性マス15とロッド11との間の空間にアクチュエータ17が設けられている。アクチュエータ17は、角筒状のコア17aと、コイル17bと、永久磁石17cとを含むリニアタイプ(直線運動型)のアクチュエータで、慣性マス15をロッド11の軸方向に往復動するものである。
【0025】
コイルの磁路を構成するコア17aは積層鋼鈑から構成されており、ロッド11に固設されている。コア17aは、アッパトルクロッド5の組立前には複数個の部材に分割されており、これら複数個の部材を接着剤で棒状のロッド11の周囲に接着することにより、全体として角筒状のコア17aを形成している。コイル17bは、この角筒状のコア17aに巻装されている。永久磁石17cは、コア17aの外周面に設けられている。
【0026】
アクチュエータ17は、このような構成であるので、コイル17bと永久磁石17cとが発生する磁界によるリアクタンストルクによって慣性マス15をリニアに、つまり慣性マス15をロッド11の軸方向に往復動するように駆動することとなる。
【0027】
ブッシュ12,13の間であってロッド11の軸心を通る水平面と平行な面上には、ロッド11の略軸心位置での軸方向の振動の加速度を、エンジン1からロッド11に伝達される振動の加速度として検出する加速度センサ21が取り付けられている。そして、加速度センサ21からのロッド軸方向加速度の信号は、バンドパスフィルタ22を介して電圧増幅回路23に入力され、この電圧増幅回路23で増幅された信号はアクチュエータ17のコイル17bに印加される(電圧の制御を行なう)。電圧増幅回路23は例えばオペアンプから構成することができる。加速度センサ21の詳細は後述する。
【0028】
慣性マス15は比較的柔らかい板バネ(弾性支持バネ16)で支持され、例えば慣性マス15のロッド11に対するロッド軸方向の共振は10Hzから100Hzまでの低い周波数で生じるものとされている。例えば4気筒エンジンのアイドル回転速度2次の振動周波数は約20Hzであることから、慣性マス15の共振周波数を10Hzにすることができれば、エンジン1の運転条件によらず慣性マス15が共振するのを抑えることができる。
【0029】
一方、慣性マス15の共振周波数を10Hzといったこのような低周波数に設定しようとすると、慣性マス15が大きくなりすぎてそのような設定が困難な場合には、抑制しようとするロッド剛性共振B(実施形態では200Hz)の約1/2の周波数より低く設定しておけば、互いの共振周波数が十分に離れ、振動伝達の抑制が十分に行なわれる。
【0030】
また、加速度センサ21で検出した加速度信号をバンドパスフィルタ22に通すことによって、余分な周波数での制御を行なわないようにして、制御安定性を高めるとともに、余分な電力消費を抑えつつ狙いの周波数範囲での確実な伝達力の抑制を図ることができる。ロッド剛体共振Bに対する防振域は、図9に示したようにロッド剛体共振Bの共振周波数f2に対して所定値(≒1.4)を乗じて求まる周波数f5以上の周波数範囲であるので、バンドパスフィルタ22としては、慣性マス15のロッド軸方向の共振周波数(10Hzから100Hzまでの低い周波数)を含みこの共振周波数より、ロッド剛体共振Bに対する防振域の周波数範囲までの信号を通過するフィルタであって、防振域のうち制御が発散しない範囲の上限(例えば400Hzとする)までの信号を通過するフィルタを選定する。
【0031】
そして、制御対象であるロッド11の減衰を増大する速度フィードバック制御が行われるように、バンドパスフィルタ22で通過している周波数帯において、加速度センサ21により検出した振動のロッド軸方向速度に略比例した力を逆符合とした力をアクチュエータ17から発生させる。
【0032】
次に加速度センサ21について説明する。
本例の加速度センサ21は、図3に示すようにロッド11に直接設けるほか、図4Aに示すようにロッド11及びブッシュ12,13を覆うハウジング18に設けてもよい。ハウジング20は、ブッシュ12,13の外筒12a,13aに固定又は一体形成された剛体からなるので、ロッド11の軸方向及びピッチ方向の振動が同等に伝達される。
【0033】
本例の加速度センサ21は、ブッシュ12,13の間であって、ロッド11の軸心(トルクを支持する軸)を通る水平面と平行な面上に設けられている。4気筒エンジン等は、図7に示すように、上下方向に不平衡慣性力が作用した振動が発生し、ロッド11のトルクを支持する軸方向に対して上方にずれた位置にセンサを配置すると、エンジン1の上下振動によって、トルクロッドにはピッチ方向の振動が発生するが、本例では、加速度センサ21を、トルク支持軸を通り水平面と平行な面に配置しているので、ピッチ方向の振動に感度が小さくなる。すなわち、軸方向の振動検出精度が向上する。その結果、図10に示すようにロッド11の軸方向の剛体共振を大幅に下げた場合であっても、ピッチ方向の剛体共振のノイズは殆んど検出しないので、従来のように、ピッチ方向の剛体共振が常用域まで下がるのを加速度センサ21が検出し、これにより制御電力を増大させるといった不具合現象を抑制することができる。
【0034】
特に、加速度センサ21をブッシュ12,13の間に配置しているので、ロッド11のピッチ方向の剛体共振の節が存在する領域に加速度センサ21を配置することになり、ピッチ方向の感度がより小さくなる。
【0035】
また、本例の車両用防振装置において、ロッド11の両端に固定したブッシュ12,13の剛性比を一定の値に設定し、加速度センサ21又はアクチュエータ17の少なくとも一方を、ロッド11のピッチ方向の剛体共振の節に配置してもよい。加速度センサ21又はアクチュエータ17を剛体共振モードの節に配置することで、ピッチ方向の剛体共振の検出がより抑制され、これによって生じるアクチュエータ17の制御電力を低減することができる。
【0036】
なお、上述した車両用防振装置では、ブッシュ12,13の外形を相違させているが、ロッド11の両端に固定したブッシュ12,13の剛性比を一定の値に設定したうえで、図8の右図に示すように2つのブッシュ12,13を同じ形状にしてもよい。こうすることで、運転条件が変わってもピッチ方向の剛体共振の節を加速度センサ21又はアクチュエータ17の設置位置と等しくすることができ、左図に示す例に比べてより検出精度が高くなる。
【0037】
また、本例の加速度センサ21は、図6Bに示すようにブッシュ12がボルト18により固定されるエンジン1のブラケット1aに対し、エンジン1側の面に固定することができる。ただし、図6Aに示すようにエンジン1のブラケット1aに対し、エンジン1とは反対側のエンジン1から離れた側の側面に固定することがより好ましい。
【0038】
本例の車両用防振装置では、図10に示すようにアッパトルクロッド5の車体側ブッシュ12の剛性を従来のアッパトルクロッドと比較して大幅に下げているため、例えば車両旋回時においてアッパトルクロッド自身の加速度によりアッパトルクロッドが車両の左右方向に対して大きく揺動する。したがって、従来のアッパトルクロッドと比較し、エンジン1とアッパトルクロッド5とのクリアランスCを大きく設定する必要がある。
【0039】
一方で、不平衡慣性力に起因する力は、エンジン1の重心Gよりエンジン前方に作用し、モーメントを発生させる。したがって、エンジン1の先端の方が、エンジンの上下変位の振動が大きくなる。したがって、図6Aに示す例のように、加速度センサ21の配置位置をエンジン1とは反対側のエンジン1から離れた側のアッパトルクロッド5のハウジング20の面に配置する方が、アッパトルクロッド5とエンジン1とのクリアランスCを短くでき、アッパトルクロッド5に伝わるエンジン1の上下振動を小さくできる。同様に、アッパトルクロッド5とエンジン1とのクリアランスCを短くできるため、エンジン1側のトルクロッドの締結に関係する部品を小さくでき、締結に関係する部品の固有値を高めることができる。
【0040】
また、本例の車両用防振装置では、アッパトルクロッド5が熱源であるアクチュエータ17を備え、加速度センサ21への熱伝達が問題になるが、エンジン1とは反対側で、車両前方からの風が流れる位置に加速度センサ21を配置できるため、放熱性能も有利となる。
【0041】
本例の加速度センサ21では、図5の左側面図及び平面図に示すように、装着されるハウジング20の面との間に空間Sが設けられている。エンジンルーム内の風が流れる方向に空間Sを設けることで、加速度センサ21の放熱性能が向上し、さらに熱源であるアクチュエータ17からの熱伝達を抑制できる。
【0042】
加速度センサ21を上述した構成とすることはロアトルクロッド6についても同様であるが、アッパトルクロッド5はロアトルクロッド6に比べてパワートレインの重心から遠い位置に取り付けられるため、アッパトルクロッド5の方が効果は大きい。
【0043】
上記加速度センサ21は本発明に係る振動検出手段に相当する。
【符号の説明】
【0044】
1…エンジン
2…サブフレーム
3,4…エンジンマウント
P1,P2…支持点
5…アッパトルクロッド
6…ロアトルクロッド
11…ロッド
12,13…ブッシュ
15…慣性マス
17…アクチュエータ
18,19…ボルト
20…ハウジング
21…加速度センサ
22…バンドパスフィルタ
23…電圧増幅回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部がエンジンに固定され、他端部が車体に固定されるロッドと、
前記ロッドに支持された慣性マスを含み、前記慣性マスを前記ロッドの軸方向に往復動させるアクチュエータと、
前記ロッドの軸方向の振動を検出する振動検出手段と、を有する車両用防振装置において、
前記振動検出手段は、前記ロッドの前記一端部と前記他端部との間に配置されている車両用防振装置。
【請求項2】
前記振動検出手段は、前記エンジンとは離れた側の前記ロッドに配置されている請求項1に記載の車両用防振装置。
【請求項3】
前記振動検出手段と前記ロッドの配置面との間に、車体の前後方向の空間が設けられている請求項1又は2に記載の車両用防振装置。
【請求項4】
前記ロッドの一端部に設けられたブッシュと他端部に設けられたブッシュとは所定の剛性比に設定され、
前記振動検出手段又は前記アクチュエータの少なくとも一方が、前記ロッドのピッチ方向の剛体共振の節に配置されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用防振装置。
【請求項5】
前記一端部のブッシュと前記他端部のブッシュとが、同じ形状に形成されている請求項4に記載の車両用防振装置。
【請求項6】
前記エンジンの上部と前記車体との間に固定される請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両用防振装置。
【請求項1】
一端部がエンジンに固定され、他端部が車体に固定されるロッドと、
前記ロッドに支持された慣性マスを含み、前記慣性マスを前記ロッドの軸方向に往復動させるアクチュエータと、
前記ロッドの軸方向の振動を検出する振動検出手段と、を有する車両用防振装置において、
前記振動検出手段は、前記ロッドの前記一端部と前記他端部との間に配置されている車両用防振装置。
【請求項2】
前記振動検出手段は、前記エンジンとは離れた側の前記ロッドに配置されている請求項1に記載の車両用防振装置。
【請求項3】
前記振動検出手段と前記ロッドの配置面との間に、車体の前後方向の空間が設けられている請求項1又は2に記載の車両用防振装置。
【請求項4】
前記ロッドの一端部に設けられたブッシュと他端部に設けられたブッシュとは所定の剛性比に設定され、
前記振動検出手段又は前記アクチュエータの少なくとも一方が、前記ロッドのピッチ方向の剛体共振の節に配置されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用防振装置。
【請求項5】
前記一端部のブッシュと前記他端部のブッシュとが、同じ形状に形成されている請求項4に記載の車両用防振装置。
【請求項6】
前記エンジンの上部と前記車体との間に固定される請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両用防振装置。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−28299(P2013−28299A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166467(P2011−166467)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】
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