説明

車両用障害物衝突回避システム

【課題】車両後退時などの近距離停止時における障害物衝突回避を円滑に図ることができるようにする。
【解決手段】車両用障害物衝突回避システム1は、車両2に搭載され、制御装置3と、音波ソナー4と、ステアリングセンサ5と、表示装置6と、ブレーキ制御部7とを備えて構成されている。音波ソナー4は車両2後方周辺における障害物の存在を検出して当該障害物までの距離を検出することが可能であり、制御装置3は、ステアリングセンサ5からのステアリング角度検出信号に基づいて車両2の進路領域を予測し、障害物までの距離と予測進路領域とに基づいて自車両2と障害物との衝突の危険度を判定し、この危険度に応じて車速を設定し、さらに当該設定車速となるようにブレーキ制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両周辺の障害物を検出して適切に減速制御することが可能な車両用障害物衝突回避システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両周囲の障害物を検出し車両の衝突回避を実現とする技術はある(例えば特許文献1、2)。
特許文献1においては、車両周囲の障害物をレーダにより検出し、この障害物の位置と種類から危険度を推定し、運転者に警告あるいはブレーキ制御する構成としている。
【0003】
また、特許文献2においては、車両の進行方向を撮影する赤外センサと該進行方向の障害物までの距離、方向を検出するレーダ距離計を備え、自車両の前方車両、歩行者までの距離を検出して警報、ブレーキ制御により衝突回避を図る構成としている。
【特許文献1】特開平6−160516号公報
【特許文献2】特開平11−16099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の後退時において障害物との衝突を回避する場合、滑らかにブレーキング制御することが要望されている。しかし、前述した特許文献1及び2に記載のものでは、いずれも車両前方の障害物検出を前提としており、ブレーキングも後続車両を考慮すると急ブレーキになることもあって、使用者に不安感を与えるおそれがあった。また、危険度に応じたブレーキング速度設定もなされておらず、総じて、車両後退時(近距離停止時)における障害物衝突回避システムとしては実際上適用困難な技術であった。
【0005】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両後退時などの近距離停止時における障害物衝突回避を円滑に図ることができる車両用障害物衝突回避システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、請求項1の発明は、車両周辺における障害物の存在を検出して当該障害物までの距離を検出することが可能な障害物検出手段と、車両の進路領域を予測する進路予測手段と、前記障害物検出手段による当該障害物検出手段から前記障害物までの距離と前記進路予測手段による予測進路領域とに基づいて自車両と前記障害物との衝突の危険度を判定する危険度判定手段と、この危険度判定手段による危険度に応じて車速を設定する車速設定手段と、この車速設定手段による設定車速となるようにブレーキ制御を行うブレーキ制御手段とを備えてなるところに特徴を有するものである。
【0007】
この請求項1の発明によれば、障害物までの距離と車両の予測進路領域とに基づいて危険度を判定するから危険度の判定精度が向上し、そして、この危険度に応じて車速を設定し、この設定車速となるようにブレーキ制御を行うから、障害物の危険度(衝突危険度)に応じて適正にブレーキ制御がなされて、障害物があった場合に車両を滑らかに停止することができ、総じて、車両後退時における障害物衝突回避を円滑に図ることができる。さらにこの請求項1の発明によれば、車両後退時における障害物検出手段としては、障害物の有無及び当該障害物までの距離を検出できれば良いので、測長距離の長いレーダなどコストの高い障害物検出手段でなく、音波ソナーや超音波ソナーのような、測長距離の短くてコストの安い障害物検出手段を使用することが可能となり、コスト低廉化にも寄与できる。
【0008】
この場合、前記危険度判定手段は、該障害物検出手段が検出した前記障害物までの距離に応じて当該障害物存在エリアを検出し、前記予測進路領域に対する前記障害物存在エリアの重なり割合が大きいほど危険度が大であると判定するようにしても良い(請求項2の発明)。このようにすると、障害物衝突の危険度をさらに精度良く判定することができる。
【0009】
また、前記危険度判定手段は、前記予測進路領域に対する前記障害物存在エリアの重なり割合を演算し、この演算値を危険度とし、前記車速設定手段は、前記障害物までの距離に応じた目標車速を有し、この目標車速を前記演算値の危険度により除した値を設定車速とするようにしても良い(請求項3の発明)。例えば、危険度が一定であると仮定すると、障害物までの距離が短くなるにつれて車速を遅い値に設定することが好ましい。従って、この請求項3の発明のように、前記障害物までの距離に応じた目標車速を有することは適切である。この場合、前記危険度は実際には逐次変化するものであるから、当該請求項3の発明のように、この目標車速を前記演算値で示される危険度により除した値を設定車速とすることにより、危険度の変化分も見越した設定車速とすることができ、設定車速を、障害物までの距離及び危険度に応じて最適な値に設定できるものである。
【0010】
また、前記進路予測手段はステアリングセンサを含んで構成しても良く(請求項4の発明)、このようにすると、進路予測精度が向上する。また、前記障害物検出手段は音波または超音波を送出して車両周辺における障害物の存在を検出する音波ソナーまたは超音波ソナーから構成しても良く(請求項5)、このようにすると、車両後退時における障害物検出及び距離検出を充分に達成しながらコスト安も実現できる。
【0011】
また、前記障害物検出手段は車両周辺を撮影する撮影手段を含んで構成しても良く(請求項6の発明)、このようにすると、障害物までの距離検出について検出可能距離をさらに長くすることが可能で、車両後退時において障害物を比較的離れた位置から検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の第1の実施例について図1ないし図5を参照して説明する。まず、図1には、システムの全体構成を概略的に示している。車両用障害物衝突回避システム1は車両2に搭載され、制御装置3と、音波ソナー4と、ステアリングセンサ5と、表示装置6と、ブレーキ制御部7とを備えて構成されている。
前記制御装置3は、CPU、RAM、ROM、I/Oバスなどを備えて構成され、制御プログラムを実行することによりシステムの動作全般を制御するものであり、進路予測手段、危険度判定手段、車速設定手段、ブレーキ制御手段として機能する。
【0013】
音波ソナー4は、障害物検出手段たるものであり、近距離での障害物検出及び距離測定に適しており、コスト的にも安いものであり、車両2の後側下部の2箇所に取付けられている。この音波ソナー4は、車両2の後方へ平面的にはある程度の拡がり(その拡がり角度をαとする)をもって音波を送出するようになっており、音波を送出してから反射波が受けられたか否かに基づいて障害物が存在するか否かを検出し、その検出結果を制御装置3に出力する。この場合、音波ソナー4は、障害物(図3に符号Qをもって示している)を検出した場合には、音波を送出してから反射波が受けられるまでの時間に応じて距離Dを検出(算出)して制御装置3に出力する。
【0014】
前記ステアリングセンサ5は自車両2のステアリング角度を検出してステアリング角度検出信号を前記制御装置3に出力する。このとき制御装置3はこのステアリング角度検出信号に基づいて自車両2の進路領域を予測するものである。この予測進路領域の一例を図4に符号S1、S2、SEで示している。この予測進路S1、S2の内側領域が自車両2の後端2aの予測進路領域SEである。上記ステアリングセンサ5と制御装置3とで進路予測手段が構成されている。
【0015】
表示装置6は、車室内にあって運転手が見易い位置に配置されており、種々の表示機能を有すると共に運転手の操作をタッチパネルにより受付ける操作受付機能を有して構成されている。
ブレーキ制御部7は、車両2におけるブレーキ装置を駆動するためのものであり、制御装置3から指令を受けてブレーキ装置を駆動制御するようになっており、当該制御装置3とでブレーキ制御手段を構成している。
【0016】
前記制御装置3の制御内容について、図2のフローチャートを参照して説明する。車両2の後退時において、音波ソナー4から障害物検出が有ったか否かを判断し(ステップP1)、障害物検出が有ると、当該音波ソナー4で検出した距離Dを取得すると共に、障害物存在エリアQEを検出する(ステップP2)。この障害物存在エリアQEは、音波ソナー4の拡がり角度αが既知であって、距離Dが判明していることから、距離Dを半径とする円弧状の障害物存在エリアQEが検出されるものである。
【0017】
そして、ステアリングセンサ5からのステアリング角度検出信号に基づいて進路領域SEを予測する(ステップP3)。この場合、予め、各ステアリング角度に対応する当該予測進路S1、S2がデータとして記憶されており、上記ステアリング角度信号で示されるステアリング角度から、予測進路S1、S2を取得し予測進路領域SEを取得するものである。
【0018】
そして、前記距離Dを元に検出された障害物存在エリアQEと、予測進路領域SEとに基づいて危険度Kを判定する。すなわち、この危険度Kの考え方は、図4に示すように、前記予測進路領域SEに対する前記障害物存在エリアQEの重なり割合が大きいほど危険度が大であると判定するものである。具体的には、予測進路領域SEに対する前記障害物存在エリアQEの重なり割合を演算し(L2/L)、この演算値を危険度Kとする。なお、符号L1は障害物存在エリアQEにおいて予測進路領域SEから外れた部分を示している。図4の場合には、この危険度Kはほぼ「0.7」となっている。この図4の状態から、車両2がさらに後退した状態の図5では、障害物存在エリアQE全域Lが、予測進路領域SE内に存在し、つまり、前記障害物存在エリアQE全域Lに対し、予測進路領域SE内に存在するエリア部分L2とが同じとなり、その割合(演算値)は「1」となっており、危険度Kは「1」である。
【0019】
次に車速設定を行う(ステップP5)。すなわち、制御装置3は、衝突までの時間を例えば2秒[sec]に設定しており、障害物Qまでの距離がD[m]であると、目標車速Mを、
M=D/2[m/sec] =1.8D[km/h]で求めるようにしている。つまり、制御装置3は、障害物Qまでの距離Dに応じた目標車速Mを有するものである。そして、この目標車速Mを前記危険度Kにより除して車速Rを設定する。つまり、
R=M/K[km/h] により車速Rを設定する。
【0020】
例えば前記障害物Qまでの距離Dが1[m]であるときには目標車速Mは1.8[km/h]となり、
そして、危険度Kが「0.7」の時には、設定車速Rは1.8/0.7=2.57[km/h]となる。このようにして設定車速Rが求められる。また、危険度Kが「1」の時には設定車速Rは1.8[km/h]となる。
【0021】
このステップP5の後、設定車速が7[km/h]以上であれば(ステップP6で判断)、車速を7[km/h]とする(上限設定速度を7[km/h]とする)。設定車速が7[km/h]未満であれば、現在の車速が設定車速を上回っているか否かを判断し(ステップP8)、上回っていれば、ブレーキ制御部7を介してブレーキ制御して車速を設定速度まで減速する(ステップP9)。
【0022】
この請求項1の発明によれば、音波ソナー4により障害物の検出を行うと共に障害物までの距離を検出し、当該距離と車両2の予測進路領域とに基づいて危険度を判定するから危険度の判定精度が向上し、そして、この危険度に応じて車速を設定し、この設定車速となるようにブレーキ制御を行うから、障害物の危険度(衝突危険度)に応じて適正にブレーキ制御がなされて、障害物があった場合に車両を滑らかに停止することができ、総じて、車両後退時における障害物衝突回避を円滑に図ることができる。
【0023】
また、本実施例によれば、車両後退時における障害物検出手段としては、障害物の有無及び当該障害物までの距離を検出できれば良いので、測長距離の長いレーダなどコストの高い障害物検出手段でなく、本実施例で用いた音波ソナー4や超音波ソナーのような、測長距離の短くてコストの安い障害物検出手段を使用することが可能となり、コスト低廉化にも寄与できる。
【0024】
また、本実施例によれば、前記障害物までの距離に応じて当該障害物存在エリアを検出し、前記予測進路領域に対する前記障害物存在エリアの重なり割合が大きいほど危険度が大であると判定するようにしたから、障害物衝突の危険度をさらに精度良く判定することができる。特に、前記予測進路領域に対する前記障害物存在エリアの重なり割合を演算し、この演算値を危険度とし、前記障害物までの距離に応じた目標車速を予め有し、この目標車速を前記演算値の危険度により除した値を設定車速とするようにしたから、危険度の変化分も見越した設定車速とすることができ、設定車速を、障害物までの距離及び危険度に応じて最適な値に設定できるものである。
【0025】
また、本実施例によれば、進路予測手段としてステアリングセンサ5を用いたから、進路予測精度が向上する。また、本実施例によれば、障害物検出手段を音波を送出して車両2周辺における障害物の存在を検出する音波ソナー4から構成したから、車両2後退時における障害物検出及び距離検出を充分に達成しながらコスト安も実現できる。この場合、音波ソナーに代えて超音波ソナーでも良い。
【0026】
図6は本発明の第2の実施例を示しており、この実施例においては、障害物検出手段として、音波ソナー4の他に車両2周辺を撮影する撮影手段である車載カメラ8を含んで構成している。この実施例においては音波ソナー4と車載カメラ8とで障害物を検出することができて障害物検出精度の向上を図ることができ、さらには、車載カメラ8により比較的遠い部分の障害物を検出することが可能であり、障害物検出可能距離が長くなる。従って、車両2の後退時において障害物を比較的離れた位置から検出して、障害物回避をさらに滑らかに行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施例を示し、車両用障害物衝突回避システムの全体構成を概略的に示す図
【図2】制御内容を示すフローチャート
【図3】音波ソナーの音波送出範囲を示すための図
【図4】車両後退の様子を示す図
【図5】車両がさらに後退した様子を示す図
【図6】本発明の第2の実施例を示す図1相当図
【符号の説明】
【0028】
図面中、1は車両用障害物衝突回避システム、2は車両、3は制御装置(進路予測手段、危険度判定手段、車速設定手段、ブレーキ制御手段)、4は音波ソナー(障害物検出手段)、5はステアリングセンサ(進路予測手段)、7はブレーキ制御部(ブレーキ制御手段)、8は車載カメラ(障害物検出手段)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両周辺における障害物の存在を検出して当該障害物までの距離を検出することが可能な障害物検出手段と、
車両の進路領域を予測する進路予測手段と、
前記障害物検出手段による当該障害物検出手段から前記障害物までの距離と前記進路予測手段による予測進路領域とに基づいて自車両と前記障害物との衝突の危険度を判定する危険度判定手段と、
この危険度判定手段による危険度に応じて車速を設定する車速設定手段と、
この車速設定手段による設定車速となるようにブレーキ制御を行うブレーキ制御手段と
を備えてなる車両用障害物衝突回避システム。
【請求項2】
前記請求項1に記載の車両用障害物衝突回避システムにおいて、
前記危険度判定手段は、該障害物検出手段が検出した前記障害物までの距離に応じて当該障害物存在エリアを検出し、前記予測進路領域に対する前記障害物存在エリアの重なり割合が大きいほど危険度が大であると判定することを特徴とする車両用障害物衝突回避システム。
【請求項3】
前記請求項2に記載の車両用障害物衝突回避システムにおいて、
前記危険度判定手段は、前記予測進路領域に対する前記障害物存在エリアの重なり割合を演算し、この演算値を危険度とし、
前記車速設定手段は、前記障害物までの距離に応じた目標車速を有し、この目標車速を前記演算値の危険度により除した値を設定車速とすることを特徴とする車両用障害物衝突回避システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の車両用障害物衝突回避システムにおいて、
前記進路予測手段はステアリングセンサを含んで構成されていることを特徴とする車両用障害物衝突回避システム。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の車両用障害物衝突回避システムにおいて、
前記障害物検出手段は音波または超音波を送出して車両周辺における障害物の存在を検出する音波ソナーまたは超音波ソナーから構成されていることを特徴とする車両用障害物衝突回避システム。
【請求項6】
請求項5に記載の車両用障害物衝突回避システムにおいて、
前記障害物検出手段は車両周辺を撮影する撮影手段を含んで構成されていることを特徴とする車両用障害物衝突回避システム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−112297(P2007−112297A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305801(P2005−305801)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】