説明

車両用電子安定プログラムのための、レーザダイオードをベースにした自己混合センサ

本発明は、簡単にした車両安定制御のための、レーザダイオードをベースにした自己混合レーザセンサに関する。自己混合レーザセンサから、車両のサイドスリップ角、前輪及び後輪スリップ角、ヨーレート並びに横方向加速度が、はっきりと導き出される。ヨーレート、旋回半径及びタイヤスリップ角の分析に基づく3つの基準が、アンダーステア又はオーバーステアの発生を検出するのに用いられ、これは、簡単にした車両用電子安定プログラムを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広くは、車両動特性(vehicle dynamics)の測定に関する。より詳細には、本発明は、電子安定システムのための光学センサに関する。
【背景技術】
【0002】
車両安定性は、タイヤの牽引力及び車両のトルクモーメント及び遠心力の間のバランスによって決定される。車両安定限界を破ることは、車両の横方向スリップをもたらす。
【0003】
DE 3 25 639 A1は、自動車の横方向ドリフト又はその本当の対地速度を検出するためにレーザ・ドップラー・センサを用いる自動車のための横滑り防止システムを開示している。しかしながら、車両安定性の危機的な状況は、車体サイドスリップ角並びに前輪及び後輪スリップ角が、或るしきい値を上回る場合に生じ得る。現在の電子安定プログラム(ESP)センサクラスタでは、まだ、これらの3つのパラメータのいずれも入手できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
それ故、本発明の目的は、電子安定制御システムを改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、独立請求項の内容によって解決される。本発明の有利な改善点は、従属請求項において規定されている。
【0006】
本発明による装置の自己混合レーザセンサから、車両のサイドスリップ角、前輪及び後輪スリップ角、ヨーレート並びに横方向加速度が、はっきりと導き出され得る。
【0007】
更に、ヨーレート、旋回半径及びタイヤスリップ角の分析に基づく3つの基準が、アンダーステア又はオーバーステアの発生を検出するのに用いられることができ、これは、簡単にした車両用電子安定プログラムを可能にする。
【0008】
この目的のため、車両の動的状態(vehicle dynamic conditions)を決定するための光学センサ装置であり、
− レーザ光が路面に斜めの角度で当たるように車両上の第1位置に取り付けられる少なくとも1つのレーザダイオードを備える第1レーザ装置と、
− レーザ光が前記路面に斜めの角度で当たるように車両上の第2位置に取り付けられる少なくとも1つのレーザダイオードを備える第2レーザ装置とを有する光学センサ装置であって、前記第1位置と、前記第2位置とが、前記路面に沿って横方向に間隔をおいて配置される光学センサ装置が、提供される。前記光学センサ装置は、
− 前記レーザダイオードのレーザ強度の自己混合振動を検出するための少なくとも1つの検出器と、
− 前記レーザダイオードの各々の前記自己混合レーザ強度振動から前進速度、横方向速度及び/又は垂直速度を計算し、
− 車体サイドスリップ角、
− タイヤスリップ角
− 前記車両のヨーレート、
− 前記車両のピッチ又はロールレート、
− 旋回半径、
− オーバーステア又はアンダーステア状態といったパラメータのうちの少なくとも1つを決定するためのデータ処理装置とを更に有する。
【0009】
従来のESPは、少なくとも4つのタイプのセンサ、即ち、ステアリング角センサ、横方向加速度センサ、車両ヨーレートセンサ及び車輪回転センサからの入力を必要とする。本発明は、車体スリップ角及びタイヤスリップ角をはっきりと測定することができる、レーザダイオードをベースにした、好ましくは、VCSELをベースにした自己混合干渉レーザセンサに関する。これらのパラメータは、現在のESPセンサでははっきりと測定されることができない。
【0010】
好ましくは、各レーザ装置は、長手方向若しくは前進速度成分、横方向速度成分及び/又は垂直速度成分を測定する。この目的のため、各レーザ装置は、少なくとも2つのレーザダイオード、好ましくは、VCSELを有する。前記レーザダイオードは、前記レーザダイオードのビームが、前記ビームが、駆動方向に沿った方向の成分及び前記駆動方向に対して垂直な成分を持つように、前記レーザ装置から、異なる方位角の下で放射されように、配置される。前記路面に異なる方位角の下で当たる少なくとも2つのビームが用いられるので、前記データ処理装置が、前記レーザ装置の各々のために前記前進速度及び横方向速度を計算することができるように、前記検出器によって、前記レーザダイオードの前記自己混合振動から、前記前進速度成分及び横方向速度成分が抽出され得る。
【0011】
レーザ自己混合は、外部キャビティが得られるようにレーザの光路内に外部反射面が配設される場合に生じる。前記外部キャビティの調整は、レーザ平衡状態の再調節をもたらし、従って、レーザ出力の変化を検出可能にする。一般に波動又は振動の形態のこれらの変化は、レーザ半波長の距離にわたって前記外部反射面の変位の関数のように反復する。それによって、波動周波数は、前記外部反射器の速度に比例する。
【0012】
前記車両の前進方向に沿って間隔をおいた異なる位置に前記第1及び第2レーザ装置を取り付けることは更に好ましい。例えば、或るレーザ装置は、前記車両の前部又はその前車軸に取り付けられてもよく、他のレーザ装置は、前記車両の重心に若しくは近くに、又は広くは、前記車両の前記前車軸と後車軸との間に取り付けられてもよい。前記ヨーレートなどの或る特定のパラメータに対するこの構成の感度は、距離とともに増大するので、前記センサを、前車軸と後車軸との間の距離の少なくとも4分の1、とりわけ好ましくは、少なくとも3分の1離して取り付けることが好ましい。
【0013】
他の改善によれば、前記車両の前記前進方向に沿って間隔をおいて配置される3つのレーザ装置が用いされる。例えば、或るセンサは、前記車両の前部又は前車軸に又は近くに、取り付けられてもよく、他のレーザ装置は、前記重心の近くに又は前記車軸の間に、取り付けられてもよく、第3レーザ装置は、前記車両の後部又はその後車軸に、取り付けられてもよい。
【0014】
両方のレーザ装置の前記横方向速度が、前記データ処理装置によって計算され得る場合には、前記データ処理装置は、前記横方向速度の差から前記ヨーレートを更に決定することができる。とりわけ、前車軸操作車両が、所与のヨーレートにおいて旋回を引き起こしている場合には、前部横方向速度は、後部横方向速度より大きい。前記横方向速度における差は、2つのレーザ装置が、前記前進方向に対して横方向に異なる位置に、例えば、前記車両の左側及び右側に、取り付けられる場合にも、生じるであろう。
【0015】
本発明の他の改善によれば、2つ以上の前記レーザ装置のうちの1つが、前輪進行方向に結合され、それに応じて、そのレーザビームの向きが、前輪進行方向に結合される。これは、前記レーザ装置を前輪懸架装置に取り付けることによって達成される。この構成は、ステアリング角センサを必要とすることなく、前輪スリップ角の直接的な決定を可能にする。
【0016】
この点に関して、2つのレーザダイオードを、前記レーザダイオードのうちの一方が、前記前輪進行方向に沿った方向の成分を持つビームを放射し、前記レーザダイオードのうちの他方が、前記前輪進行方向に対して横方向に成分を持つビームを放射するように、備えるレーザ装置を用いることは有利である。その場合、前記データ処理装置は、両方のダイオードのレーザ強度のドップラー誘導自己混合振動から、前記前輪進行方向に沿った速度Vと、前記前輪進行方向に対して横方向の速度Vとを決定することができる。前記前輪スリップ角αを決定するため、次いで、前記データ処理装置によって、式
【数1】

が計算され得る。
【0017】
本発明の改善によれば、前記データ処理装置は、前記車両の横方向速度、サイドスリップ角及びヨーレートから前記前輪スリップ角又は前記後輪スリップ角を決定するようセットアップされる。前記計算は、下でより詳細に説明する。前記スリップ角は、重要な車両の動的状態を決定するための重要なパラメータである。前記スリップ角は、なかでも、アンダーステア又はオーバーステア状態に関する。詳細には、前記車両の後輪スリップ角αは、前記データ処理装置によって、関係
【数2】

又は
【数3】

に従って計算されてもよく、ここで、Vは、前記車両の前進速度を示し、dΨ/dtは、前記車両のヨーレートを示し、βは、前記車両の車体スリップ角を示す。前記車体スリップ角βは、前記データ処理装置によって、関係
【数4】

を用いて計算されることができ、ここで、V及びVは、各々、前記車両の中央及び後方における前記車両の横方向速度又は横速度を示す。パラメータbは、前記レーザ装置間の長手方向距離を示す。好ましくは、後方に取り付けたレーザ装置と、例えば、前記重心にある、又はより広くは、長手方向において、前記前車軸と前記後車軸との間にある、中央に取り付けたレーザ装置とが用いられる。この場合には、前記レーザ装置から、中央及び後部の横方向速度が、直接、検出され得る。
【0018】
例えば、別個のステアリング角センサによって、前記ステアリング角がパラメータとして前記データ処理装置に供給される場合には、更に、前記車両の前記前輪スリップ角αが、前記データ処理装置によって、式
【数5】

又は
【数6】

に従って計算されることができ、ここで、Vは、前記車両の前進速度を示し、βは、前記車両の車体スリップ角を示す。
【0019】
及びVは、各々、中央及び前方に取り付けたレーザ装置によって検出される前記車両の横方向速度を示す。前記中央に取り付けたレーザ装置は、広くは、前記車両の前記前車軸と前記後車軸との間に取り付けられる。好ましくは、前記中央に取り付けたレーザ装置は、前記重心に若しくは近くに(好ましくは、前記重心の位置から長手方向車軸距離の15%未満しか外れていない長手方向位置に)、又は前記車軸間の長手方向距離の半分の近くに(好ましくは、前記車軸間の距離の半分から前記長手方向車軸距離の15%未満しか外れていない長手方向位置に)取り付けられる。
【0020】
前記後輪スリップ角の計算のための上記の式における前記パラメータbと同様に、パラメータaは、前記レーザ装置間の長手方向距離を示す。
【0021】
上記のように、前記検出器によって検出される前記自己混合振動の検出から、前記車両の車体サイドスリップ角、前輪及び後輪スリップ角、並びにヨーレートは、はっきりと導き出され得る。
【0022】
更に、前記車両のヨーレート及び前記長手方向又は前進速度から、前記データ処理装置によって、前記車両の旋回半径が計算され得る。
【0023】
本発明によるセンサ装置を備える車両のための電子安定システムのための他の有用なパラメータは、横方向加速度である。本発明の他の改善によれば、前記車両の重心における前記横方向加速度は、前記データ処理装置によって、前記ヨーレート及び前記サイドスリップ角の変化率の和と、長手方向速度又は前進速度の積を計算することによって、決定され得る。
【0024】
ヨーレート、旋回半径及びタイヤスリップ角の分析に基づく3つの基準が、アンダーステア又はオーバーステアの発生を検出し、ブレーキ介入が必要とされるかどうかを決定するのに用いられ得る。この目的のため、前記データ処理装置は、オーバーステア又はアンダーステアの大きさを、しきい値と比較し得る。その場合、前記電子安定システムの制御装置は、前記大きさの前記しきい値との比較に基づいてブレーキ又はトルク介入を引き起こし得る。前記ブレーキ又はトルク介入は、前記オーバーステア又はアンダーステアの状態を表すパラメータに依存して、前記パラメータが、前記しきい値を上回る又は下回る場合に引き起こされ得る。
【0025】
詳細には、本発明の改善による車両用電子安定システムは、有利には、以下のように動作し得る。前記データ処理装置は、前記車両の実際のヨーレートを、ニュートラルなステアリングのヨーレートと比較し、前記車両の実際の旋回半径を、アッカーマン旋回半径と比較し、前記前輪スリップ角を、前記後輪スリップ角と比較する。アンダーステア状態は、前記車両の実際のヨーレートが、前記ニュートラルなステアリングのヨーレートより小さく、前記車両の実際の旋回半径が、前記アッカーマン旋回半径より大きく、且つ前記前輪スリップ角が、前記後輪スリップ角より大きい場合に、前記データ処理装置によって検出される。他方、前記データ処理装置は、前記車両の実際のヨーレートが、前記ニュートラルなステアリングのヨーレートより大きく、前記車両の実際の旋回半径が、前記アッカーマン旋回半径より小さく、且つ前記前輪スリップ角が、前記後輪スリップ角より小さい場合に、オーバーステア状態を検出する。
【0026】
本発明の上記及び他の目的、態様及び利点は、図面に関する以下の詳細な説明からより良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】車両の動的状態を決定するための光学センサ装置を備える車両の概略図である。
【図2】レーザ装置の細部を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、多数のレーザ装置を備える光学センサ装置をベースにした車両安定制御システム(ESP)を備えている車両2の概略図を示している。路面からレーザビームに沿ってレーザダイオードの各々のキャビティ内へ後方反射又は散乱されるレーザ光が、自己混合干渉による対地速度の測定のために用いられる。図1に示されているように、異なる車両位置にレーザ装置1、3、5、7が取り付けられる。
【0029】
は、長手方向車両速度である。V、V及びVは、各々、中央に取り付けたレーザ装置3、前方に取り付けたレーザ装置1及び後方に取り付けたレーザ装置5の横方向速度である。βは、車体サイドスリップ角を示す。α及びαは、各々、前輪及び後輪スリップ角である。
【0030】
簡単にするために、パラレル・ステアリング・ジオメトリが仮定される。δは、前輪ステアリング角を示す。a及びbは、各々、中央に取り付けたレーザ装置3と、前方に取り付けたレーザ装置1及び後方に取り付けたレーザ装置5との間の距離である。
【0031】
図1は、4つのレーザ装置1、3、5、7を備える例を示している。しかしながら、安定制御システムのための車両の動的パラメータの決定は、より少ないレーザ装置に基づいてもよい。いかなる場合においても、少なくとも2つのレーザ装置が用いられる。
【0032】
例えば、車両の前部のレーザ装置1及び7のうちの1つは、最終的に省かれてもよい。レーザ装置1の検出方向(破線)は、長手方向速度V及び横速度Vを測定するために、車両の長手方向軸に固定される。
【0033】
レーザ装置7の検出方向は、V及びVを導き出すために、前車軸タイヤ10の瞬間タイヤ指向方向に固定される。Vは、タイヤ10の車輪進行方向であり、Vは、タイヤ指向方向又は車輪進行方向に対する横速度である。
【0034】
車両2の横方向スリップは、車体サイドスリップ角β及びタイヤスリップ角αによって特徴付けられる。図1に示されているように、前輪スリップ角αは、タイヤ指向方向と実際のタイヤ進行方向との間の角度として規定され、
【数7】

ここで、Vは、長手方向速度であり、Vは、前方に取り付けたレーザ装置1及び後方に取り付けたレーザ装置5の横方向速度であり、δは、前輪ステアリング角を示している。
【0035】
従来のESPセンサクラスタは、一般に、ステアリング角δを測定するステアリング角センサと、横方向加速度を測定する加速度センサと、車両のヨーレートdΨ/dtを検出するヨーレートセンサとを有する。
【0036】
しかしながら、車体サイドスリップ角及びタイヤスリップ角が、車両動特性の最も重要なパラメータのうちの2つであるにもかかわらず、これらのパラメータのいずれも、現在のESPセンサでは、はっきりと導き出されることができない。
【0037】
この問題は、本発明によるレーザセンサ装置で解決される。この目的のため、図1に図示されているように、少なくとも2つのレーザ装置が、各々、車両の前進方向又は長手方向に沿って間隔をおいた異なる位置に取り付けられる。例えば、或るレーザ装置3は、車両の重心の近くに取り付けられ、別のレーザ装置は、前方又は後方のホイールベースの近くに取り付けられる(即ち、レーザ装置1及び5)。前方に取り付けたレーザ装置1と中央に取り付けたレーザ装置3との間の距離、及び後方に取り付けたレーザ装置5と中央に取り付けたレーザ装置3との間の距離は、各々、a及びbと示されている。
【0038】
各レーザ装置は、ドップラー位相シフトにより自己混合レーザ強度振動を検出する少なくとも1つの検出器を用いて、対応する取り付け位置において、横方向及び長手方向車両速度の両方を測定する。例えば、検出器は、レーザ装置の各々に組み込まれ得る。
【0039】
データ処理装置6は、レーザ装置に接続され、検出した自己混合振動又はそれからもたらされる速度に対応するデータを取り出す。
【0040】
車体サイドスリップ角βは、例えば、中央に取り付けたレーザ装置3から測定される前進速度V及び横方向速度Vを評価することにより、
【数8】

によって導き出される。
【0041】
車体サイドスリップ角βと、車両の横方向加速度aと、タイヤスリップ角αとの間の関係は、
【数9】

及び
【数10】

によって表される。
【0042】
車両のヨーレートは、横方向速度勾配の観点からデータ処理装置によって計算されることができる。この目的のため、データ処理装置は、一対のレーザ装置、例えば、装置1及び3の横方向速度を計算し、これらの横方向速度の差からヨーレートを計算する。
【0043】
ヨーレートdΨ/dtを決定するため、以下の関係が、レーザ装置1から測定される測定横方向速度V、及びレーザ装置3からの横方向速度Vを用いて、且つ/又はレーザ装置5から測定される測定横方向速度V、及びレーザ装置3からの横方向速度Vを用いて、
【数11】

に従って、データ処理装置によって評価され得る。
【0044】
レーザ装置が、異なる方位角の下で放射されるビームを生成する3つ以上のレーザダイオードを有する場合には、前進速度及び横方向速度以外の車両の垂直速度が、対応するドップラー周波数ベクトルから導き出され得る。
【0045】
車両のピッチレートdθ/dtを決定するため、以下の関係が、各々、レーザ装置1、3、5から測定される車両垂直速度V、V及び/又はVを用いて、
【数12】

に従って、データ処理装置によって評価され得る。パラメータaは、前方に取り付けたレーザ装置1と中央に取り付けたレーザ装置3との間の距離を示している。同様に、パラメータbは、中央に取り付けたレーザ装置3と後方に取り付けたレーザ装置5との間の距離を示している。
【0046】
同様に、車両のロールレートが、他のレーザ装置1、3、5に対するレーザ装置7のような、車両の横軸に沿って間隔をおいて配置される、即ち、長手方向又は前進方向に対して横方向に間隔をおいて配置されるレーザ装置によって測定される垂直車両速度から導き出され得る。
【0047】
車両のサイドスリップ角及びヨーレートが分かったら、既に上で記述した以下の式
【数13】

及び
【数14】

を評価することによって、データ処理装置によって、前輪スリップ角α及び後輪スリップ角αの両方が決定され得る。
【0048】
更に、横方向に間隔をおいて配置されたレーザ装置の対地速度信号を用いて、横方向加速度が決定され得る。車両の重心における横方向加速度aは、
【数15】

によって計算され得る。 従って、横方向加速度を決定するために、データ処理装置は、上記のように計算されたヨーレートと、サイドスリップ角βの変化率とを加算し、この合計に、レーザ装置1、3、5のいずれかから得られる長手方向速度を乗算する。従って、横方向加速度は、別個の加速度センサを必要とすることなく、完全に、光学的な対地速度測定に基づいて、データ処理装置によって決定され得る。
【0049】
更に、ヨーレート及び前進速度が決定される場合には、これらのパラメータから、データ処理装置によって、車両2の旋回半径Rが決定され得る。詳細には、実際の旋回半径は、以下の関係
【数16】

に従って計算され得る。
【0050】
他の例においては、又は更に、旋回半径はまた、横方向加速度a及び前進速度Vから、関係
【数17】

に従って決定され得る。
【0051】
タイヤのスリップを伴わない理想的な車両の旋回は、アッカーマンステアリング条件によって記載されており、対応するヨーレート及びアッカーマン旋回半径Rは、ステアリング角δと、
【数18】

と、
【数19】

とによって決定される。
【0052】
しかしながら、実際の旋回は、一般に、前輪スリップと後輪スリップとの両方を伴う。前輪スリップ角が、後輪スリップ角より大きい場合、車両は、アンダーステアと言われる。後輪スリップ角が、前輪スリップ角より大きい場合、車両は、オーバーステアと呼ばれる。車両安定制御の最初の作業は、オーバーステア状態とアンダーステア状態とを区別することである。次いで、対応するアンダーステア又はオーバーステアの大きさを減らすために、ブレーキ又はトルク介入が行われるであろう。
【0053】
少なくとも2つの、多数のレーザ装置を備える光学センサ装置は、以下に示されているような、ヨーレート、旋回半径及びタイヤスリップ角の分析に基づいて、アンダーステア及びオーバーステアの発生を正確に検出することができる。第1に、車両の実際のヨーレートが、ニュートラルなステアリングのヨーレートと比較される。第2に、車両の旋回半径Rが、アッカーマン旋回半径Rと比較される。第3に、前輪スリップ角が、後輪スリップ角と比較される。このようにして、オーバーステア又はアンダーステアの大きさが、レーザ装置からはっきりと導き出され得る。従って、アンダーステア及びオーバーステアは、
a)アンダーステアは、(14)dΨ/dt<dΨ/dt、R>R且つα>αという条件が満たされる場合に、検出され、
b)オーバーステアは、(15)dΨ/dt>dΨ/dt、R<R且つα<αという条件が満たされる場合に、検出されるという条件に従って、電子安定システムによって検出される。
【0054】
オーバーステア又はアンダーステアの大きさは、例えば、アッカーマン動的パラメータに対する実際の動的パラメータの偏差の加重加算によって計算され得る。従って、例えば、合計
【数20】

が計算され得る。ここで、d、e、fは、重み付け係数である。結果は、次いで、オーバーステア及びアンダーステアのしきい値と比較され得る。
【0055】
アンダーステア又はオーバーステアの大きさがしきい値を上回る場合には、電子安定システムは、車両を制御下に置き続けるためにブレーキ介入を開始するであろう。
【0056】
レーザ装置1の代わりに、又はレーザ装置1に加えて、瞬間ステアリング角に従って動的に回転するレーザ装置7が用いられてもよい。換言すれば、レーザ装置7の向きは、前車軸タイヤ10のうちの1つの車輪進行方向に結合される。レーザ装置7の検出方向を実際のタイヤ指向方向に結合するために、レーザ装置は、車輪懸架装置に取り付けられてもよい。特に、スノーモービルの場合には、この実施例は有利であり得る。なぜなら、レーザセンサが、そのレーザビームを妨害する雪片から容易に保護され得る、雪の近くの、車両の前方スキーに直接配置され得るからである。
【0057】
この場合には、以下の式に示されているように、前輪スリップ角αは、タイヤ指向方向における長手方向速度Vと、横速度Vとによって、はっきりと決定され得る。このようにして取り付けられるレーザ装置はまた、従来のステアリング角センサに取って代わることができる。
【0058】
前輪スリップ角αは、レーザ装置7から得られる横方向及び長手方向速度を用いて、式
【数21】

に従って、簡単に計算され得る。
【0059】
ステアリング角は、以下のように導き出され得る。Rに、レーザ装置3とレーザ装置7を接続するベクトルを示させ、それによって、3が、車体の重心に配設される。車体は堅いという事実により、レーザ装置7によって測定される速度ベクトルVは、ベクトルRの方向において、重心においてレーザ装置3によって測定される速度Vと同じ成分を持つ。従って、ベクトルのスカラー積は、
【数22】

をもたらす。
【0060】
この式は、速度ベクトルV及びRの間の角度の決定を可能にする。前進駆動方向とベクトルRとの間の既知の一定の角度、及び式(17)から分かる前輪スリップ角αから、ステアリング角δは、容易に得られ得る。
【0061】
左側又は右側ステアリング角の間の区別をするために、センサ装置3に対して回転するセンサ装置7の横方向速度V7,latが用いられ得る。遠心力は、外側に向けられている。従って、V7,latは、右側に向けられ、ステアリング角は、左側に向けられ、またこの逆も成立する。
【0062】
要約すると、回転するセンサの前進速度及び横方向速度の間の比から、前輪スリップが決定される。後輪軸におけるセンサの横方向速度及び前進速度の間の比から、後輪スリップが決定される。2つのセンサの間の既知の間隔から、ハンドル角度が決定される。これらの3つのパラメータから、自動車がアンダーステア状態にあるのかオーバーステア状態にあるのかを決定することが可能である。車両の速度及びステアリング角に依存する臨界値が超えられる場合には、アンダーステア状態又はオーバーステア状態に依存する適切なブレーキング動作が実施され得る。
【0063】
レーザ装置の位置における各々の横方向速度及び長手方向速度を決定するため、用いられる全てのレーザ装置は、好ましくは、異なる方位角の下でビームを放射し、それによって、方位角が、路面の垂線のまわりの回転を指す少なくとも2つのレーザダイオードを有する。図2は、レーザ装置1の例をより詳細に示している。
【0064】
レーザ装置1は、チップ15であって、その上に、チップ基板上のメサ構造として形成される2つのVCSEL17、19を備えるチップ15を有する。従って、VCSELは、チップ表面に対して垂直な方向に放射している。VCSEL15、17の各々は、統合監視フォトダイオードを有する。
【0065】
この実施例においては、例示的に、自己混合強度振動を検出するための検出器は、レーザ装置1に組み込まれる。検出器は、フォトダイオードと、線23、25及び共通線27を介してフォトダイオードに接続される検出器回路21とを有する。共通線27は、メサ構造を備える面とは反対側の、チップ15の基板の裏面に接続される。VCSELのレーザビーム32、24を、両ビームが、VCSEL17、19の光軸に対して垂直な方向の成分を持つように、偏向する偏向構造部が設けられる。例として、偏向素子の役割を果たすレンズ30が、チップ15に取り付けられる。レンズ15は、その中心軸が、VCSEL17、19の光軸に対して中心を外れた状態で、配置される。この配置により、ビームは、チップ表面の方へ幾らか偏向される。図2の上面図に見られるように、ビームは、ビーム32、34の垂直成分が平行ではないように偏向される。換言すれば、ビームは、異なる方位角の下で放射される。
【0066】
とりわけ、図2の実施例においては、ビーム32、34の横成分は、直角を含む。従って、レーザ装置が、VCSEL17、19が路面に面する状態で車両に取り付けられる場合には、装置は、一方のレーザビーム、例えば、ビーム34が、その横成分を、前進方向に沿って(即ち、Vに沿って)持ち、他方のビームが、その横成分を、前進方向に対して横方向に(即ち、Vに沿って)持つように方向づけられ得る。レーザ装置7の場合には、一方のレーザビーム、例えば、ビーム34は、横成分を、車輪進行方向Vに沿って持ち、他方のビームは、成分をVに沿って持つ。
【0067】
更に、改善点として、垂直速度成分を横方向速度及び長手方向速度と区別することを可能にする他のビームを生成する第3レーザダイオード18が、チップ15に組み込まれ得る。例えば、更なるレーザダイオードのビームは、他方のビーム32に対して異なる方位角の下で放射される。他の例においては、ビームは、このレーザダイオード18から得られるドップラー信号が、路面に対する車体の垂直速度に直接対応するように、路面に対して垂直に放射され得る。上記のように、垂直速度は、ピッチ及び/又はロールレートを決定するのに用いられ得る。
【0068】
検出器回路21は、データ処理装置に接続される。検出器回路21によって生成され、データ処理装置6に送信されるデータは、処理され、増幅された振動信号であり得る。他の例においては、検出器回路は、(例えば、周波数−電圧変換器によって)速度に対応する信号を処理し、この信号を送信してもよい。
【0069】
本発明の好ましい実施例が、添付の図面において図示され、上記の説明において記載されているが、本発明が、開示されている実施例に限定されず、以下の請求項において開示されているような本発明の範囲から逸脱せずに非常に多くの修正が可能であることは、理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の動的状態を決定するための光学センサ装置であり、
レーザ光が路面に斜めの角度で当たるように車両上の第1位置に取り付けられる少なくとも1つのレーザダイオードを備える第1レーザ装置と、
レーザ光が前記路面に斜めの角度で当たるように車両上の第2位置に取り付けられる少なくとも1つのレーザダイオードを備える第2レーザ装置とを有する光学センサ装置であって、前記第1位置と、前記第2位置とが、前記路面に沿って横方向に間隔をおいて配置され、前記光学センサ装置が、
前記レーザダイオードのレーザ強度の自己混合振動を検出するための少なくとも1つの検出器と、
前記レーザダイオードの各々の前記自己混合レーザ強度振動から前進速度、横方向速度及び/又は垂直速度を計算し、
車体サイドスリップ角、
タイヤスリップ角
前記車両のヨーレート、
前記車両のピッチ又はロールレート、
旋回半径、
オーバーステア又はアンダーステア状態といったパラメータのうちの少なくとも1つを決定するためのデータ処理装置とを更に有する光学センサ装置。
【請求項2】
各レーザ装置が、少なくとも2つのレーザダイオードを有し、前記レーザダイオードのビームが、前記レーザ装置から、異なる方位角の下で放射され、駆動方向に沿った方向の成分及び前記駆動方向に対して垂直な成分を持ち、それによって、前記データ処理装置が、前記レーザ装置の各々のために前記前進速度、横方向速度及び/又は垂直速度を計算するようセットアップされる請求項1に記載の光学センサ装置。
【請求項3】
前記車両の前進方向に沿って間隔をおいて配置される2つ又は3つのレーザ装置を有する請求項1に記載の光学センサ装置。
【請求項4】
前記データ処理装置が、前記レーザ装置の各々のために前記前進速度、横方向速度及び/又は垂直速度を計算し、式
【数23】

【数24】

に従って、前記横方向速度の差からの前記ヨーレートdΨ/dt、及び前記垂直速度の差からの前記ピッチ又はロールレートdθ/dtのうちの少なくとも1つを計算し、ここで、V、V及びVは、各々、中央、前方及び後方に取り付けたレーザ装置によって検出される前記車両の横方向速度を示し、V、V及びVは、各々、前記中央、前方及び後方に取り付けたレーザ装置によって検出される前記車両の垂直速度を示し、aは、前記前方に取り付けたレーザ装置と前記中央に取り付けたレーザ装置との間の長手方向距離を示し、bは、前記中央に取り付けたレーザ装置と前記後方に取り付けたレーザ装置との間の長手方向距離を示す請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光学センサ装置。
【請求項5】
前記データ処理装置が、前記車両の横方向速度、サイドスリップ角及びヨーレートから前輪スリップ角又は後輪スリップ角を決定する請求項1に記載の光学センサ装置。
【請求項6】
前記レーザ装置のうちの1つが、レーザビームの向きが、前輪進行方向に結合されるように、前輪懸架装置に取り付けられる請求項1に記載の光学センサ装置。
【請求項7】
前記レーザ装置が、前輪懸架装置に取り付けられ、2つのレーザダイオードを有し、前記レーザダイオードの一方が、前輪進行方向に沿った方向の成分を持つビームを放射し、前記レーザダイオードの他方が、前記前輪進行方向に対して横方向に成分を持つビームを放射し、それによって、前記データ処理装置が、前記前輪進行方向に沿った速度Vと、前記前輪進行方向に対して横方向の速度Vとを決定し、式
【数25】

に従って、前輪スリップ角αを計算する請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光学センサ装置。
【請求項8】
前記データ処理装置が、関係
【数26】

に従って、前記車両の後輪スリップ角αを計算し、ここで、Vは、前記車両の前進速度を示し、bは、前記第1レーザ装置と前記第2レーザ装置との間の長手方向距離を示し、βは、前記車両の車体スリップ角を示し、前記車体スリップ角は、前記データ処理装置によって、関係
【数27】

から計算され、ここで、V及びVは、各々、中央及び後方に取り付けたレーザ装置によって検出される前記車両の横方向速度を示し、dΨ/dtは、前記車両のヨーレートを示す請求項1に記載の光学センサ装置。
【請求項9】
前記車両の前輪スリップ角αが、前記データ処理装置によって、式
【数28】

に従って計算され、ここで、V及びVは、各々、中央及び前方に取り付けたレーザ装置によって検出される前記車両の横方向速度を示し、aは、前記中央に取り付けたレーザ装置と前記前方に取り付けたレーザ装置との間の長手方向距離を示し、βは、前記車両の車体スリップ角を示し、前記車体スリップ角は、前記データ処理装置によって、関係
【数29】

から計算され、ここで、Vは、前記車両の横方向速度を示し、dΨ/dtは、前記車両のヨーレートを示し、δは、前記ステアリング角を示す請求項1に記載の光学センサ装置。
【請求項10】
前記データ処理装置が、前記ヨーレート及び前記サイドスリップ角の変化率の和と、長手方向速度又は前進速度の積を計算することによって、前記車両の重心における横方向加速度を決定する請求項1に記載の光学センサ装置。
【請求項11】
前記データ処理装置が、前記車両のヨーレート及びその前進速度から前記車両の旋回半径を決定する請求項1に記載の光学センサ装置。
【請求項12】
請求項1に記載のセンサ装置を有する、車両用電子安定システム。
【請求項13】
前記データ処理装置が、オーバーステア又はアンダーステアの大きさを、しきい値と比較し、前記電子安定システムが、前記大きさの前記しきい値との比較に基づいてブレーキ又はトルク介入を引き起こす制御装置を有する請求項12に記載の車両用電子安定システム。
【請求項14】
前記データ処理装置が、前記車両の実際のヨーレートを、ニュートラルなステアリングのヨーレートと比較し、前記車両の実際の旋回半径を、アッカーマン旋回半径と比較し、前輪スリップ角を、後輪スリップ角と比較し、
前記データ処理装置は、前記車両の実際のヨーレートが、前記ニュートラルなステアリングのヨーレートより小さく、前記車両の実際の旋回半径が、前記アッカーマン旋回半径より大きく、且つ前記前輪スリップ角が、前記後輪スリップ角より大きい場合に、アンダーステア状態を検出し、
前記データ処理装置は、前記車両の実際のヨーレートが、前記ニュートラルなステアリングのヨーレートより大きく、前記車両の実際の旋回半径が、前記アッカーマン旋回半径より小さく、且つ前記前輪スリップ角が、前記後輪スリップ角より小さい場合に、オーバーステア状態を検出する請求項12乃至13のいずれか一項に記載の車両用電子安定システム。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−525581(P2012−525581A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507861(P2012−507861)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際出願番号】PCT/IB2010/051763
【国際公開番号】WO2010/125501
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】