車体構造
【課題】 安価に車両の各部の諸元を変更でき、高強度連結と歪み補正制御により軽量ボディの車両の試験をも可能とした車体構造を提供する。
【解決手段】 サスペンション形式の違い、ホイールベース、トレッド、重量配分、車両重心位置、ロール慣性、ヨー慣性等の車両諸元を異にする複数の分割モジュール10、20、30を組み合わせてなる軽量金属を用いた車体構造において、これら分割モジュール間にモジュールと同材の連結材22から構成される連結部を設けるとともに、前記連結材22に高強度管23を圧入したことにより、車体を構成する分割モジュールをアルミ等の軽量金属から構成した場合でも、分割モジュール間の連結部を高い強度で連結して車体を構成することができる。
【解決手段】 サスペンション形式の違い、ホイールベース、トレッド、重量配分、車両重心位置、ロール慣性、ヨー慣性等の車両諸元を異にする複数の分割モジュール10、20、30を組み合わせてなる軽量金属を用いた車体構造において、これら分割モジュール間にモジュールと同材の連結材22から構成される連結部を設けるとともに、前記連結材22に高強度管23を圧入したことにより、車体を構成する分割モジュールをアルミ等の軽量金属から構成した場合でも、分割モジュール間の連結部を高い強度で連結して車体を構成することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体構造、特に車両諸元を異にする複数の分割モジュールを組み合わせてなる軽量金属を用いた車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車体はモノコック構造が主流であり、車体全体の部材で強度・剛性が確保されていた。したがって、このようなモノコック構造の車両を開発する際に、操縦安定性、乗心地、振動・騒音等に関する各種データを採るために、車体の剛性等が異なる様々な諸元のボディを準備する必要があって、コストアップを招いていた。そこで、特に走行中に車体の剛性を変更する技術が提案されている(例えば下記特許文献1および2参照)。
【特許文献1】特開平5−679号公報(請求項1、図1、図2参照)
【特許文献2】実開昭63−15276号公報(第1図参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、図10および図11に示したような前記従来例にあって、剛性可変装置を車両の開発のための試験車両として用いるとしても、特定部分の剛性のみを調整するのみに留まり、車両の前部、中間部、後部における各重量配分、重心位置、ロール特性、ヨー特性等の様々な諸元に基づく剛性等の追求試験に対応させることは、膨大な諸元のボディ構造を準備する必要があって到底不可能であった。
【0004】
そこで本発明は、このような従来の剛性可変車両等の諸課題を解決して、安価に車両の各部の諸元を変更でき、高強度連結と歪み補正制御を可能とした車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため本発明は、複数の分割モジュールを組み合わせてなる車体構造において、これら分割モジュール間にモジュールと同材の連結材から構成される連結部を設けるとともに、前記連結材に高強度管を圧入したことを特徴とする。また本発明は、前記高強度管の外周に螺子部を刻設したことを特徴とする。また本発明は、前記高強度管の相手側端部にフランジを形成したことを特徴とする。また本発明は、前記各分割モジュールにおける適宜のブラケット間を長さ調整自在なリンクにて連結したことを特徴とする。また本発明は、前記リンクの両端部にボールジョイントが設置されたことを特徴とする。また本発明は、前記分割モジュールの歪みを検出し、車両の運動性能に効果を成す曲げおよびねじりの剛性を独立に制御する制御手段を車両に設けたことを特徴とする。また本発明は、前記制御手段が、分割モジュールの歪みによる操舵のずれを補正すべく操舵装置を制御するように構成されたことを特徴とするもので、これらを課題解決のための手段とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、複数の分割モジュールを組み合わせてなる車体構造において、これら分割モジュール間にモジュールと同材の連結材から構成される連結部を設けるとともに、前記連結材に高強度管を圧入したことにより、車両を構成する分割モジュールをアルミ等の軽量金属から構成した場合でも、分割モジュール間の連結部を高い強度で連結して車両を構成することが可能となる。その車両による各種研究・解析を行う際には、車両の運動特性に影響を与えるサスペンション形式の違い、ホイールベース、トレッド、重量配分、車両重心位置、ロール慣性、ヨー慣性を異にする分割モジールを準備して適宜組み合わせて試験車両を構成し、また、バラストの搭載位置を変更する等して、車両の操縦安定性、乗心地、振動・騒音の研究・解析が低コストで行える。
【0007】
また、前記高強度管の外周に螺子部を刻設した場合は、分割モジュール間を連結する連結部に剪断力が作用する場合でも、車両を構成する分割モジュールをアルミ等の軽量金属から構成して、分割モジュール間の連結部をより高い強度で連結して軽量ボディの車両を構成することができる。さらに、前記高強度管の相手側端部にフランジを形成した場合は、分割モジュール間を連結する連結部に引張力および圧縮力が作用する場合に、車両を構成する分割モジュールをアルミ等の軽量金属から構成して、分割モジュール間の連結部をより高い強度で確実に連結して軽量ボディの車両を構成することができる。
【0008】
さらにまた、前記各分割モジュールにおける適宜のブラケット間を長さ調整自在なリンクにて連結した場合は、各分割モジュールにおける剛性を自在に調整して、各分割モジュール毎の剛性を変更調整して曲げ、ねじり特性を調整し、車両の操縦安定性、乗心地、振動・騒音の研究・解析が低コストで行える。また、前記リンクの両端部にボールジョイントが設置された場合は、長さ調整自在なリンクの調整がブラケットに過大な負担を掛けることなく円滑に行える。
【0009】
さらに、前記分割モジュールの歪みを検出し、車両の運動性能に効果を成す曲げおよびねじりの剛性を独立に制御する制御手段を車両に設けた場合は、軽量ボディにより車両を構成して歪みが発生してもこれを補正して、厚みを大きくする等の高い剛性を確保することなく、柔軟に車両の走行を行うことができる。さらにまた、前記制御手段が、分割モジュールの歪みによる操舵のずれを補正すべく操舵装置を制御するように構成された場合は、厚みを大きくする等の高い剛性を確保せずとも、操舵のずれに煩わされることなく、オーバーステアリング特性等のスポーティ走行等の走行を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1(A)は本発明の車体構造の第1実施例を示す全体分解斜視図、図1(B)2は同、分割モジュール間の連結部を示す要部拡大斜視図、図2は連結部の第2実施例を示す要部拡大斜視図、図3は連結部の第3実施例を示す要部拡大斜視図、図4は本発明の車体構造の第4実施例を示す全体分解斜視図、図5は本発明の車体構造の第5実施例を示す全体分解斜視図、図6は操舵時の車体歪みの説明図、図7は本発明の車体構造の第6実施例を示す概略平面図、図8は同、補正制御説明図である。図9は補正制御フローチャート図である。
【0011】
本発明の基本的な構造は、図1に示すように、車両諸元を異にする複数の分割モジュール10、20、30を組み合わせてなる軽量金属を用いた車体構造において、これら分割モジュール10、20、30間にモジュールと同材の連結材22から構成される連結部11、12、21、22を設けるとともに、前記連結材22に高強度管23を圧入したことを特徴とする。
【実施例1】
【0012】
実施例について以下に詳述する。本発明の車両は、図1(A)に示すように、エンジンルームとなる前部分割モジュール10、居室となる中間部分割モジュール20、トランクルームとなる後部分割モジュール30が連結されて構成される。各分割モジュールはアルミ等の軽金属により構成される。各分割部に対応する分割モジュールを複数備え、それぞれに車両の運動特性に影響を与えるサスペンション形式の違い、ホイールベース、トレッド、重量配分、車両重心位置、ロール慣性、ヨー慣性等の様々な異なった特性を有させ、また、バラストの搭載位置を変更するように構成することもできる。これらの分割モジュールを適宜に種々組み合わせて目的の車両特性の研究・開発を行うための試験車両を構成することも可能である。
【0013】
分割モジュール間の連結部については、図1(B)に示すように、例えば、前部分割モジュール10の後端部材11と中間部分割モジュール20の前端部材21との間に構成される連結部において、中間部分割モジュール20の前端部材21の前面に母材と同材のアルミから構成される連結材(図示の例では管材)22が溶接される。この連結材22に鉄製等の高強度管23が圧入され、該高強度管23が前部分割モジュール10の後端部材11に形成された連結孔12に圧入される。
【実施例2】
【0014】
図2は連結部の第2実施例を示す要部拡大斜視図である。本実施例のものは、分割モジュールの連結部において、前記第1実施例のものの、連結材22に圧入される高強度管22の外周に螺子部24を刻設したものである。この高強度管22を、相手方である前部分割モジュール10の後端部材11の連結孔12に挿入した後、ナット等の連結部材13によって緊締したものである。かくして、分割モジュール間を連結する連結部に剪断力が作用する場合等であっても、ナット等の連結部材13により強固に連結され、車両を構成する分割モジュールをアルミ等の軽量金属から構成しても、分割モジュール間の連結部をより高い強度で連結して軽量ボディの車両を構成することができる。
【実施例3】
【0015】
図3は連結部の第3実施例を示す要部拡大斜視図である。本実施例のものは、前記高強度管の相手側端部にフランジを形成したものである。中間部モジュール20の前端部材21に溶接等により固定したアルミ等の連結材22に、フランジ26を前端部に形成した高強度管25を圧入する。そして、相手方である前部分割モジュール10の後端部材11に穿設したボルト孔14と、前記フランジ26に穿設したボルト27とに連結ボルト15を挿入して、前部モジュール10の後端部材11と中間部モジュール20の前端部材21とが連結される。かくして、分割モジュール間を連結する連結部に引張力および圧縮力が作用する場合に、車両を構成する分割モジュールをアルミ等の軽量金属から構成しても、分割モジュール間の連結部をより高い強度で確実に連結して軽量ボディの車両を構成することができる。
【実施例4】
【0016】
図4は本発明の車両ボディ構造の第4実施例を示す全体分解斜視図である。本実施例のものは、前部、中間部、後部の分割モジュール10、20、30に加えて延長分割モジュール40を追加したものである。このような構成により、車輪の取付位置を異にする分割モジュールを準備せずとも、他の各種諸元をそのままにして、単にホイールベースを変更する場合に有効である。なお、図示の例では、前部モジュール10において、符号19は駆動系取付孔あるいはバラスト取付孔を示し、重量配分を選択することができる。また、符号18はフロントサスペンション取付部を示し、適宜の方式にてサスペンション取付位置を上下に移動することができる。後部モジュール30において、符号35はバラスト取付孔を示し、重量配分を選択することができる。また、符号34はリヤサスペンション取付部を示し、適宜の方式にてサスペンション取付位置を上下に移動することができる。
【実施例5】
【0017】
図5は本発明の車両ボディ構造の第5実施例を示す全体分解斜視図である。本実施例のものは、前記各分割モジュール10、20、30におけるブラケット間を長さ調整自在なリンク16、17、28、29、31、32、33により連結して、各分割モジュールにおける剛性を自在に調整できるように構成したものである。かくして、各分割モジュール毎の剛性を適宜に変更調整することで、車両の曲げ、ねじり特性を調整し、車両の操縦安定性、乗心地、振動・騒音の研究・解析が低コストで行える。また、前記リンクの両端部にはボールジョイントが設置されて、各ブラケットとの間を接続され、長さ調整自在なリンクの調整がブラケットに過大な負担を掛けることなく円滑に行える。
【0018】
図6は操舵時の車体歪みの説明図である。図6(A)に示すように、操舵時においては一般に、フロントタイヤのスリップ角をβf、リヤタイヤのスリップ角をβrとすると、定性的に、βf=βrではニュートラルステアを、βf>βrではアンダーステアを、βf<βrではオーバーステア特性を示す。このような特性を示すものにおいて、車体の剛性が低下した場合には、図6(B)に示すように車体が撓んで、後輪側が前輪側に対して置いていかれるため、後輪側にトー角δrが発生する。このことは、仮に、βf=βrのニュートラルステア特性を示す車両にあっても、βf<βr+δrとなり、オーバーステア特性を示すことになる。
【0019】
そこで、前記分割モジュールの歪みを検出し、車両の運動性能に効果を成す曲げおよびねじりの剛性を独立に制御する制御手段を車両に設けて、軽量ボディにより車両を構成して歪みが発生してもこれを補正して、厚みを大きくする等の高い剛性を確保することなく、柔軟に車両の走行を行うようにした。
【実施例6】
【0020】
図7は本発明の車体構造の第6実施例を示す概略平面図である。本実施例では、前記制御手段として、分割モジュールの歪みによる操舵のずれを補正すべく操舵装置を制御するように構成したものである。比較的撓み易いアルミ等の軽金属から構成される車体の、例えば中間部分割モジュール20等の適宜部位の左右縁部に微小歪みを検出できる歪みゲージεlおよびεrを設置する。これら歪みゲージεl、εrの検出値を把握することにより、旋回方向が分かる。εl>εrなら右旋回(図7(A))、εl<εrなら左旋回(図7(B))である。
【0021】
図8は補正制御説明図である。ボディの変位と後輪のトー角に相関関係があるとすれば、このときのεの大きさにより、後輪のトー角δr’を求める。トー角δrが付いた分、後輪トー角をδr’戻すことによって、βf=βr+(δr−δr’)が成立する。これにより、比較的撓み易いボディを使用しても、当初目標のニュートラルステア特性を示す試験車両とすることができる。このことは、補正制御における補正係数を適宜選択すれば、厚みを大きくする等の高い剛性を確保せずとも、操舵のずれに煩わされることなく、例えば、オーバーステアリング特性等のスポーティ走行等の走行を行うこともできる。
【0022】
図9は補正制御フローチャート図である。ステップS1の初期設定時からステップS2に移行して、操舵時の右旋回か左旋回かが判別される。E=εl−εrについて、E<0すなわちεl<εrなら左旋回が判別されてステップS4へ移行し、E>0すなわちεl>εrなら右旋回が判別されてステップS3へ移行する。E=0すなわちεl=εrなら直進が判別されてステップS2以前に戻る。ステップS4では、後輪補正角δr’=εr×V(Vは速度関数を持った定数)が算出される。この算出値にもとづいて、図示省略の適宜の制御装置により、後輪の操舵角が補正制御される。ステップS3では、後輪補正角δr’=εl×V(Vは速度関数を持った定数)が算出され、この算出値にもとづいて、制御装置により、後輪の操舵角が補正制御される。
【0023】
以上、本発明の各実施の形態について説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、分割モジュールの形状(フレーム、ブラケットの配設形態、慣性モーメント等)、形式(サスペンション取付部形式、その取付位置調整形態等)、材質(アルミ等の軽金属)および数(前、中間、後、延長の他適宜)ならびに車両諸元(ホイールベース、トレッド、重量配分、車両重心位置、ロール特性、ヨー特性、バラスト搭載位置調整形態等)、連結材の形状(円管状、円柱状、角形等)、形式および材質(分割モジュールと同材が好適であるが、適宜の材質も採用し得る)、高強度管の形状(連結材に対応する形状)、形式および材質(鉄等)ならびに連結材への圧入等の固定形態(圧入では強度不足の場合は適宜の手段にて固定してもよい)等については適宜選定することができる。
【0024】
また、高強度管の外周螺子部の刻設形態(必要部位のみへの刻設等)、フランジの形成形態、ボールジョイントの形状、形式を含むリンクの形状、形式およびそのブラケットへの連結形態ならびに長さ調整形態(ターンバックル、ラックとピニオン等)、分割モジュールの歪みの検出形態(歪み計の形式)、曲げおよびねじりの剛性制御手段の形式、操舵補正制御手段の形式(車載の操舵装置へのフィードバックが好適であるが、別途適宜の制御手段を設けてもよい)等についても適宜選定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の車体構造の第1実施例を示すもので、図1(A)は全体分解斜視図、図1(B)は分割モジュール間の連結部を示す要部拡大斜視図である。
【図2】本発明の車体構造の連結部の第2実施例を示す要部拡大斜視図である。
【図3】本発明の車体構造の連結部の第3実施例を示す要部拡大斜視図である。
【図4】本発明の車体構造の第4実施例を示す全体分解斜視図である。
【図5】本発明の車体構造の第5実施例を示す全体分解斜視図である。
【図6】操舵時の車体歪みの説明図である。
【図7】本発明の車体構造の第6実施例を示す概略平面図である。
【図8】同、補正制御説明図である。
【図9】同、補正制御フローチャート図である。
【図10】第1従来例の剛性可変車体の全体斜視図および要部平断面図である。
【図11】第2従来例のパフォーマンスロッド構造を示す平面図である。
【符号の説明】
【0026】
10 前部分割モジュール
11 連結部(後端部材)
12 連結部(連結孔)
18 フロントサスペンション取付部
19 駆動系取付孔(バラスト取付孔兼用)
20 中間部分割モジュール
21 連結部(前端部材)
22 連結部
23 連結部(高強度管)
30 後部分割モジュール
34 リヤサスペンション取付部
35 バラスト取付孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体構造、特に車両諸元を異にする複数の分割モジュールを組み合わせてなる軽量金属を用いた車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車体はモノコック構造が主流であり、車体全体の部材で強度・剛性が確保されていた。したがって、このようなモノコック構造の車両を開発する際に、操縦安定性、乗心地、振動・騒音等に関する各種データを採るために、車体の剛性等が異なる様々な諸元のボディを準備する必要があって、コストアップを招いていた。そこで、特に走行中に車体の剛性を変更する技術が提案されている(例えば下記特許文献1および2参照)。
【特許文献1】特開平5−679号公報(請求項1、図1、図2参照)
【特許文献2】実開昭63−15276号公報(第1図参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、図10および図11に示したような前記従来例にあって、剛性可変装置を車両の開発のための試験車両として用いるとしても、特定部分の剛性のみを調整するのみに留まり、車両の前部、中間部、後部における各重量配分、重心位置、ロール特性、ヨー特性等の様々な諸元に基づく剛性等の追求試験に対応させることは、膨大な諸元のボディ構造を準備する必要があって到底不可能であった。
【0004】
そこで本発明は、このような従来の剛性可変車両等の諸課題を解決して、安価に車両の各部の諸元を変更でき、高強度連結と歪み補正制御を可能とした車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため本発明は、複数の分割モジュールを組み合わせてなる車体構造において、これら分割モジュール間にモジュールと同材の連結材から構成される連結部を設けるとともに、前記連結材に高強度管を圧入したことを特徴とする。また本発明は、前記高強度管の外周に螺子部を刻設したことを特徴とする。また本発明は、前記高強度管の相手側端部にフランジを形成したことを特徴とする。また本発明は、前記各分割モジュールにおける適宜のブラケット間を長さ調整自在なリンクにて連結したことを特徴とする。また本発明は、前記リンクの両端部にボールジョイントが設置されたことを特徴とする。また本発明は、前記分割モジュールの歪みを検出し、車両の運動性能に効果を成す曲げおよびねじりの剛性を独立に制御する制御手段を車両に設けたことを特徴とする。また本発明は、前記制御手段が、分割モジュールの歪みによる操舵のずれを補正すべく操舵装置を制御するように構成されたことを特徴とするもので、これらを課題解決のための手段とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、複数の分割モジュールを組み合わせてなる車体構造において、これら分割モジュール間にモジュールと同材の連結材から構成される連結部を設けるとともに、前記連結材に高強度管を圧入したことにより、車両を構成する分割モジュールをアルミ等の軽量金属から構成した場合でも、分割モジュール間の連結部を高い強度で連結して車両を構成することが可能となる。その車両による各種研究・解析を行う際には、車両の運動特性に影響を与えるサスペンション形式の違い、ホイールベース、トレッド、重量配分、車両重心位置、ロール慣性、ヨー慣性を異にする分割モジールを準備して適宜組み合わせて試験車両を構成し、また、バラストの搭載位置を変更する等して、車両の操縦安定性、乗心地、振動・騒音の研究・解析が低コストで行える。
【0007】
また、前記高強度管の外周に螺子部を刻設した場合は、分割モジュール間を連結する連結部に剪断力が作用する場合でも、車両を構成する分割モジュールをアルミ等の軽量金属から構成して、分割モジュール間の連結部をより高い強度で連結して軽量ボディの車両を構成することができる。さらに、前記高強度管の相手側端部にフランジを形成した場合は、分割モジュール間を連結する連結部に引張力および圧縮力が作用する場合に、車両を構成する分割モジュールをアルミ等の軽量金属から構成して、分割モジュール間の連結部をより高い強度で確実に連結して軽量ボディの車両を構成することができる。
【0008】
さらにまた、前記各分割モジュールにおける適宜のブラケット間を長さ調整自在なリンクにて連結した場合は、各分割モジュールにおける剛性を自在に調整して、各分割モジュール毎の剛性を変更調整して曲げ、ねじり特性を調整し、車両の操縦安定性、乗心地、振動・騒音の研究・解析が低コストで行える。また、前記リンクの両端部にボールジョイントが設置された場合は、長さ調整自在なリンクの調整がブラケットに過大な負担を掛けることなく円滑に行える。
【0009】
さらに、前記分割モジュールの歪みを検出し、車両の運動性能に効果を成す曲げおよびねじりの剛性を独立に制御する制御手段を車両に設けた場合は、軽量ボディにより車両を構成して歪みが発生してもこれを補正して、厚みを大きくする等の高い剛性を確保することなく、柔軟に車両の走行を行うことができる。さらにまた、前記制御手段が、分割モジュールの歪みによる操舵のずれを補正すべく操舵装置を制御するように構成された場合は、厚みを大きくする等の高い剛性を確保せずとも、操舵のずれに煩わされることなく、オーバーステアリング特性等のスポーティ走行等の走行を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1(A)は本発明の車体構造の第1実施例を示す全体分解斜視図、図1(B)2は同、分割モジュール間の連結部を示す要部拡大斜視図、図2は連結部の第2実施例を示す要部拡大斜視図、図3は連結部の第3実施例を示す要部拡大斜視図、図4は本発明の車体構造の第4実施例を示す全体分解斜視図、図5は本発明の車体構造の第5実施例を示す全体分解斜視図、図6は操舵時の車体歪みの説明図、図7は本発明の車体構造の第6実施例を示す概略平面図、図8は同、補正制御説明図である。図9は補正制御フローチャート図である。
【0011】
本発明の基本的な構造は、図1に示すように、車両諸元を異にする複数の分割モジュール10、20、30を組み合わせてなる軽量金属を用いた車体構造において、これら分割モジュール10、20、30間にモジュールと同材の連結材22から構成される連結部11、12、21、22を設けるとともに、前記連結材22に高強度管23を圧入したことを特徴とする。
【実施例1】
【0012】
実施例について以下に詳述する。本発明の車両は、図1(A)に示すように、エンジンルームとなる前部分割モジュール10、居室となる中間部分割モジュール20、トランクルームとなる後部分割モジュール30が連結されて構成される。各分割モジュールはアルミ等の軽金属により構成される。各分割部に対応する分割モジュールを複数備え、それぞれに車両の運動特性に影響を与えるサスペンション形式の違い、ホイールベース、トレッド、重量配分、車両重心位置、ロール慣性、ヨー慣性等の様々な異なった特性を有させ、また、バラストの搭載位置を変更するように構成することもできる。これらの分割モジュールを適宜に種々組み合わせて目的の車両特性の研究・開発を行うための試験車両を構成することも可能である。
【0013】
分割モジュール間の連結部については、図1(B)に示すように、例えば、前部分割モジュール10の後端部材11と中間部分割モジュール20の前端部材21との間に構成される連結部において、中間部分割モジュール20の前端部材21の前面に母材と同材のアルミから構成される連結材(図示の例では管材)22が溶接される。この連結材22に鉄製等の高強度管23が圧入され、該高強度管23が前部分割モジュール10の後端部材11に形成された連結孔12に圧入される。
【実施例2】
【0014】
図2は連結部の第2実施例を示す要部拡大斜視図である。本実施例のものは、分割モジュールの連結部において、前記第1実施例のものの、連結材22に圧入される高強度管22の外周に螺子部24を刻設したものである。この高強度管22を、相手方である前部分割モジュール10の後端部材11の連結孔12に挿入した後、ナット等の連結部材13によって緊締したものである。かくして、分割モジュール間を連結する連結部に剪断力が作用する場合等であっても、ナット等の連結部材13により強固に連結され、車両を構成する分割モジュールをアルミ等の軽量金属から構成しても、分割モジュール間の連結部をより高い強度で連結して軽量ボディの車両を構成することができる。
【実施例3】
【0015】
図3は連結部の第3実施例を示す要部拡大斜視図である。本実施例のものは、前記高強度管の相手側端部にフランジを形成したものである。中間部モジュール20の前端部材21に溶接等により固定したアルミ等の連結材22に、フランジ26を前端部に形成した高強度管25を圧入する。そして、相手方である前部分割モジュール10の後端部材11に穿設したボルト孔14と、前記フランジ26に穿設したボルト27とに連結ボルト15を挿入して、前部モジュール10の後端部材11と中間部モジュール20の前端部材21とが連結される。かくして、分割モジュール間を連結する連結部に引張力および圧縮力が作用する場合に、車両を構成する分割モジュールをアルミ等の軽量金属から構成しても、分割モジュール間の連結部をより高い強度で確実に連結して軽量ボディの車両を構成することができる。
【実施例4】
【0016】
図4は本発明の車両ボディ構造の第4実施例を示す全体分解斜視図である。本実施例のものは、前部、中間部、後部の分割モジュール10、20、30に加えて延長分割モジュール40を追加したものである。このような構成により、車輪の取付位置を異にする分割モジュールを準備せずとも、他の各種諸元をそのままにして、単にホイールベースを変更する場合に有効である。なお、図示の例では、前部モジュール10において、符号19は駆動系取付孔あるいはバラスト取付孔を示し、重量配分を選択することができる。また、符号18はフロントサスペンション取付部を示し、適宜の方式にてサスペンション取付位置を上下に移動することができる。後部モジュール30において、符号35はバラスト取付孔を示し、重量配分を選択することができる。また、符号34はリヤサスペンション取付部を示し、適宜の方式にてサスペンション取付位置を上下に移動することができる。
【実施例5】
【0017】
図5は本発明の車両ボディ構造の第5実施例を示す全体分解斜視図である。本実施例のものは、前記各分割モジュール10、20、30におけるブラケット間を長さ調整自在なリンク16、17、28、29、31、32、33により連結して、各分割モジュールにおける剛性を自在に調整できるように構成したものである。かくして、各分割モジュール毎の剛性を適宜に変更調整することで、車両の曲げ、ねじり特性を調整し、車両の操縦安定性、乗心地、振動・騒音の研究・解析が低コストで行える。また、前記リンクの両端部にはボールジョイントが設置されて、各ブラケットとの間を接続され、長さ調整自在なリンクの調整がブラケットに過大な負担を掛けることなく円滑に行える。
【0018】
図6は操舵時の車体歪みの説明図である。図6(A)に示すように、操舵時においては一般に、フロントタイヤのスリップ角をβf、リヤタイヤのスリップ角をβrとすると、定性的に、βf=βrではニュートラルステアを、βf>βrではアンダーステアを、βf<βrではオーバーステア特性を示す。このような特性を示すものにおいて、車体の剛性が低下した場合には、図6(B)に示すように車体が撓んで、後輪側が前輪側に対して置いていかれるため、後輪側にトー角δrが発生する。このことは、仮に、βf=βrのニュートラルステア特性を示す車両にあっても、βf<βr+δrとなり、オーバーステア特性を示すことになる。
【0019】
そこで、前記分割モジュールの歪みを検出し、車両の運動性能に効果を成す曲げおよびねじりの剛性を独立に制御する制御手段を車両に設けて、軽量ボディにより車両を構成して歪みが発生してもこれを補正して、厚みを大きくする等の高い剛性を確保することなく、柔軟に車両の走行を行うようにした。
【実施例6】
【0020】
図7は本発明の車体構造の第6実施例を示す概略平面図である。本実施例では、前記制御手段として、分割モジュールの歪みによる操舵のずれを補正すべく操舵装置を制御するように構成したものである。比較的撓み易いアルミ等の軽金属から構成される車体の、例えば中間部分割モジュール20等の適宜部位の左右縁部に微小歪みを検出できる歪みゲージεlおよびεrを設置する。これら歪みゲージεl、εrの検出値を把握することにより、旋回方向が分かる。εl>εrなら右旋回(図7(A))、εl<εrなら左旋回(図7(B))である。
【0021】
図8は補正制御説明図である。ボディの変位と後輪のトー角に相関関係があるとすれば、このときのεの大きさにより、後輪のトー角δr’を求める。トー角δrが付いた分、後輪トー角をδr’戻すことによって、βf=βr+(δr−δr’)が成立する。これにより、比較的撓み易いボディを使用しても、当初目標のニュートラルステア特性を示す試験車両とすることができる。このことは、補正制御における補正係数を適宜選択すれば、厚みを大きくする等の高い剛性を確保せずとも、操舵のずれに煩わされることなく、例えば、オーバーステアリング特性等のスポーティ走行等の走行を行うこともできる。
【0022】
図9は補正制御フローチャート図である。ステップS1の初期設定時からステップS2に移行して、操舵時の右旋回か左旋回かが判別される。E=εl−εrについて、E<0すなわちεl<εrなら左旋回が判別されてステップS4へ移行し、E>0すなわちεl>εrなら右旋回が判別されてステップS3へ移行する。E=0すなわちεl=εrなら直進が判別されてステップS2以前に戻る。ステップS4では、後輪補正角δr’=εr×V(Vは速度関数を持った定数)が算出される。この算出値にもとづいて、図示省略の適宜の制御装置により、後輪の操舵角が補正制御される。ステップS3では、後輪補正角δr’=εl×V(Vは速度関数を持った定数)が算出され、この算出値にもとづいて、制御装置により、後輪の操舵角が補正制御される。
【0023】
以上、本発明の各実施の形態について説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、分割モジュールの形状(フレーム、ブラケットの配設形態、慣性モーメント等)、形式(サスペンション取付部形式、その取付位置調整形態等)、材質(アルミ等の軽金属)および数(前、中間、後、延長の他適宜)ならびに車両諸元(ホイールベース、トレッド、重量配分、車両重心位置、ロール特性、ヨー特性、バラスト搭載位置調整形態等)、連結材の形状(円管状、円柱状、角形等)、形式および材質(分割モジュールと同材が好適であるが、適宜の材質も採用し得る)、高強度管の形状(連結材に対応する形状)、形式および材質(鉄等)ならびに連結材への圧入等の固定形態(圧入では強度不足の場合は適宜の手段にて固定してもよい)等については適宜選定することができる。
【0024】
また、高強度管の外周螺子部の刻設形態(必要部位のみへの刻設等)、フランジの形成形態、ボールジョイントの形状、形式を含むリンクの形状、形式およびそのブラケットへの連結形態ならびに長さ調整形態(ターンバックル、ラックとピニオン等)、分割モジュールの歪みの検出形態(歪み計の形式)、曲げおよびねじりの剛性制御手段の形式、操舵補正制御手段の形式(車載の操舵装置へのフィードバックが好適であるが、別途適宜の制御手段を設けてもよい)等についても適宜選定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の車体構造の第1実施例を示すもので、図1(A)は全体分解斜視図、図1(B)は分割モジュール間の連結部を示す要部拡大斜視図である。
【図2】本発明の車体構造の連結部の第2実施例を示す要部拡大斜視図である。
【図3】本発明の車体構造の連結部の第3実施例を示す要部拡大斜視図である。
【図4】本発明の車体構造の第4実施例を示す全体分解斜視図である。
【図5】本発明の車体構造の第5実施例を示す全体分解斜視図である。
【図6】操舵時の車体歪みの説明図である。
【図7】本発明の車体構造の第6実施例を示す概略平面図である。
【図8】同、補正制御説明図である。
【図9】同、補正制御フローチャート図である。
【図10】第1従来例の剛性可変車体の全体斜視図および要部平断面図である。
【図11】第2従来例のパフォーマンスロッド構造を示す平面図である。
【符号の説明】
【0026】
10 前部分割モジュール
11 連結部(後端部材)
12 連結部(連結孔)
18 フロントサスペンション取付部
19 駆動系取付孔(バラスト取付孔兼用)
20 中間部分割モジュール
21 連結部(前端部材)
22 連結部
23 連結部(高強度管)
30 後部分割モジュール
34 リヤサスペンション取付部
35 バラスト取付孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の分割モジュールを組み合わせてなる車体構造において、これら分割モジュール間にモジュールと同材の連結材から構成される連結部を設けるとともに、前記連結材に高強度管を圧入したことを特徴とする車体構造。
【請求項2】
前記高強度管の外周に螺子部を刻設したことを特徴とする請求項1に記載の車体構造。
【請求項3】
前記高強度管の相手側端部にフランジを形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の車体構造。
【請求項4】
前記各分割モジュールにおける適宜のブラケット間を長さ調整自在なリンクにて連結したことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の車体構造。
【請求項5】
前記リンクの両端部にボールジョイントが設置されたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の車体構造。
【請求項6】
前記分割モジュールの歪みを検出し、車両の運動性能に効果を成す曲げおよびねじりの剛性を独立に制御する制御手段を車両に設けたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の車体構造。
【請求項7】
前記制御手段が、分割モジュールの歪みによる操舵のずれを補正すべく操舵装置を制御するように構成されたことを特徴とする請求項6に記載の車体構造。
【請求項1】
複数の分割モジュールを組み合わせてなる車体構造において、これら分割モジュール間にモジュールと同材の連結材から構成される連結部を設けるとともに、前記連結材に高強度管を圧入したことを特徴とする車体構造。
【請求項2】
前記高強度管の外周に螺子部を刻設したことを特徴とする請求項1に記載の車体構造。
【請求項3】
前記高強度管の相手側端部にフランジを形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の車体構造。
【請求項4】
前記各分割モジュールにおける適宜のブラケット間を長さ調整自在なリンクにて連結したことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の車体構造。
【請求項5】
前記リンクの両端部にボールジョイントが設置されたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の車体構造。
【請求項6】
前記分割モジュールの歪みを検出し、車両の運動性能に効果を成す曲げおよびねじりの剛性を独立に制御する制御手段を車両に設けたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の車体構造。
【請求項7】
前記制御手段が、分割モジュールの歪みによる操舵のずれを補正すべく操舵装置を制御するように構成されたことを特徴とする請求項6に記載の車体構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−298121(P2006−298121A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121845(P2005−121845)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
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