説明

車載システム

【課題】アクセルペダル踏み間違いドライバ車両の挙動を制御する技術において、踏切等の特定の場所に車両が閉じ込められてしまった状況で、ドライバが慌ててしまい、踏み込み方が異常となる程にアクセルペダルを踏み込んでしまった場合でも、車両がその場所から移動できるようにする。
【解決手段】異常な踏み込み操作が行われたタイミング(25)の後の所定の期間(T1)においては、車両のブレーキ機構に発生させるブレーキ圧をゼロとすることで車両の前進を許可し、所定の期間(T1)の経過後に、車両のブレーキ機構に発生させるブレーキ圧をゼロから増加させることで車両を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクセルペダルの踏み間違いを検出して車両の挙動を制御する車載システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両において、ブレーキペダルを踏み込むつもりで誤ってアクセルペダルを踏み込んでしまうという行為(アクセルペダル踏み間違い)の発生が問題視され、対策が種々提案されている。
【0003】
例えば、アクセルペダルの踏み込み方が異常であることに基づいて、アクセルペダル踏み間違いを検出し、その検出のタイミングで制動装置を作動させて車両の前進を禁止する技術が、引用文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−278092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のように、アクセルペダル踏み間違いを検出したタイミングで車両の前進を禁止してしまえば、以下のような場面で問題が発生する。
【0006】
例えば、車両が側溝に脱輪したり、踏切内に閉じ込められたりしたときのように、ドライバが慌ててしまうと、その状況から脱出するため、踏み込み方が異常となる程にアクセルペダルを踏み込んでしまうことがある。このとき、車両の前進が禁止されることを解除できるよう、リセットスイッチを設けることが考えられる。しかしながら、常用しないスイッチであるがため、ドライバによっては、その存在や位置を忘れてしまう可能性もある。
【0007】
本発明は上記点に鑑み、アクセルペダル踏み間違いを検出したことに基づいて車両の挙動を制御する技術において、踏み込み方が異常となる程にアクセルペダルを踏み込んでしまった場合、リセットスイッチに依らなくとも、車両がその場所から移動できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、車両に搭載され、車両のアクセルペダルに対して異常な踏み込み操作が行われたか否かを判定する誤操作判定手段(220)と、前記誤操作判定手段により異常な踏み込み操作と判定されたことに基づいて、車両の制動を制御する誤操作対応手段(335、340、345、350)と、を備える車載システムであって、前記誤操作対応手段は、異常な踏み込み操作が行われたと前記誤操作判定手段(220)が判定した後のあらかじめ定められた移動距離に応じて設定された所定の期間(T1)においては、前記車両の発進を許可し、前記所定の期間(T1)の経過後に、前記車両のブレーキ機構に発生させる制動力を増加させることで車両を停止させる誤操作対応手段(335、340、345、350)と、を備えた車載システムである。
【0009】
このように、異常な踏み込み操作が行われたタイミング(25)の後のあらかじめ定められた移動距離に応じて設定された所定の期間(T1)において車両の前進を許可し、所定の期間(T1)の経過後に車両を停止させれば、仮に、踏切等の特定の場所に車両が閉じ込められてしまった状況で、ドライバが慌ててしまい、踏み込み方が異常となる程にアクセルペダルを踏み込んでしまった場合でも、車両は少し前進して停止する。そのため、アクセルペダル踏み間違いにより、車両が急加速して走行してしまうことを防止しつつ、ドライバがその状況から脱出するため、踏み込み方が異常となる程のアクセル操作を繰り返してしまった場合でも、その場所から車両を移動させることが可能となる。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記車両の進行方向の所定の制動開始距離以内に障害物があることに基づいて、前記制動開始距離以内に障害物があると判定した時点で前記車両の前進を禁止し、所定の機能解除操作が行われたことに基づいて前記車両の前進の禁止を解除する障害物回避手段(320、325、330)を備えたことを特徴とする請求項1に記載の車載システムである。
【0011】
このように、車載システムが、障害物の手前にいる場合に対処する障害物回避手段(110〜160、320、325、330)と、アクセルペダルに異常な踏み込み操作が行われた場合に対処する誤操作対応手段の両方を備えている場合、障害物回避手段が働いているときは、制動開始距離以内に障害物があると判定した時点で前記車両の前進を禁止される一方、誤操作対応手段が働いているときは、アクセルペダルに異常な踏み込み操作が行われた後の所定の期間(T1)において車両の前進を許可し、所定の期間(T1)の経過後に車両を停止させるので、両者の挙動が異なる。したがって、ドライバは、障害物回避手段と誤操作対応手段のどちらが今働いているかを容易に区別することができる。
【0012】
もし、これら障害物回避手段と誤操作対応手段の挙動が同じでドライバが区別不能な場合、以下のような事態となる可能性がある。車両停止中に、障害物回避手段が働いているとき、ドライバが障害物回避手段の解除操作を行った後に、踏み込み方が異常となる程にアクセルペダルを踏み込んでしまったとする。そのような場合、誤操作対応手段が働き、障害物回避手段が働いたのと同じように車両の挙動が制限される。すると、ドライバは、障害物回避手段の解除操作を行った筈なのに障害物回避手段が働いたままなのではないかと混乱してしまう。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、前記車両の進行方向の所定の制動開始距離以内に障害物があり、かつ、車両のアクセルペダルに対して異常な踏み込み操作が行われた場合に、前記障害物回避手段よりも前記誤操作対応手段を優先して作動させる競合制御手段(305、310、315)を備えたことを特徴とする請求項2に記載の車載システムである。
【0014】
このようにすることで、ドライバに対し、アクセルペダルに異常な踏み込み操作を行ったことを優先的に知らせることができ、これにより、ドライバに通常の操作をより迅速に促すことができる。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、前記誤操作対応手段は、前記所定の期間(T1)においては、前記車両のブレーキ機構に発生させる制動力を最小とすると共に、車両駆動力発生機関へのエネルギー供給量を、時間の経過と共に低減させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車載システムである。このようにすることで、所定の期間(T1)においても、車両が過度に加速してしまうことがなくなる。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、前記誤操作対応手段は、前記アクセルペダルに前回異常な踏み込み操作が行われてから所定の期間以上が過ぎた後で前記アクセルペダルに異常な踏み込み操作が行われたことに基づいて、または、当該車載システムの作動開始以後まったく異常な踏み込み操作が行われていない状態で前記アクセルペダルに異常な踏み込み操作が行われたことに基づいて、直ちに前記車両の走行を禁止し、前回異常な踏み込み操作が行われてから所定期間経過前に、新たな異常な踏み込み操作が行われたことに基づいて、当該新たな異常な踏み込み操作が行われたと判定した後の前記所定の期間(T1)においては、前記車両のブレーキ機構に発生させる制動力を最小とすることで前記車両の前進を許可し、前記所定の期間(T1)の経過後に、前記車両のブレーキ機構に発生させる制動力を最小から増加させることで車両を停止させることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車載システムである。
【0017】
このようにするのは、アクセルペダルに対する異常な踏み込み操作をドライバが複数回繰り返すということは、車両を前進させようとして焦っている可能性が高いからである。車両を少し前進させてから停止させるという制御は、そのような場合を選んで行い、1回目の異常な踏み込み操作の検出時は、安全面を重視して、検出後直ちに車両を停止させるようにすることで、安全性が高まる。
【0018】
また、請求項6に記載の発明は、前記誤操作判定手段が前記アクセルペダルに対して異常な踏み込み操作が行われたと判定した後に前記車両のブレーキペダルが踏みこまれたことに基づいて、前記誤操作対応手段の作動を禁止することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の車載システムである。このようにすることで、ユーザのブレーキ操作によって誤操作対応手段をキャンセルすることができる。
【0019】
なお、上記および特許請求の範囲における括弧内の符号は、特許請求の範囲に記載された用語と後述の実施形態に記載される当該用語を例示する具体物等との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る車載システム100の構成図である。
【図2】衝突軽減/回避制御装置7が実行する処理のフローチャートである。
【図3】アクセルペダル誤操作検知装置8が実行する処理のフローチャートである。
【図4】競合制御装置9が実行する処理のフローチャートである。
【図5】第1の事例の概要を示す図である。
【図6】第2の事例の手順を示すフローチャートである。
【図7】第2の事例の概要を示す図である。
【図8】アクセル異常操作時のブレーキ圧およびスロットル開度の変化を示す図である。
【図9】本発明に対する比較例を示す図である。
【図10】本発明の他の実施形態における手順を示すフローチャートである。
【図11】本発明の他の実施形態の概要を示す図である。
【図12】本発明の車載システム100の他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について説明する。図1に、本実施形態に係る車載システム100の構成を示す。車載システム100は、車両に搭載され、アクセル開度センサ1、速度センサ2、障害物検知センサ3等のセンサを備え、また、警報装置4、ブレーキ制御装置5、エンジン制御装置6、衝突軽減/回避制御装置7、アクセルペダル誤操作検知装置8、競合制御装置9等の制御装置を備えている。これら車載システム100の構成要素2〜9は、車内の通信線(例えば車内LAN)を介して互いに信号を送受信できるようになっている。
【0022】
アクセル開度センサ1は、ドライバによるアクセルペダルの開度を検出して出力する装置である。速度センサ2は、車両の走行速度に応じた信号を出力する装置である。障害物検知センサ3は、車両の前方および後方の所定の検出範囲内における障害物がある場合、当該障害物までの距離を検出して出力する装置(例えば、レーザーレーダ、ミリ波レーダ、ソナーセンサ)である。
【0023】
警報装置4は、車両のドライバに警告用の画像を表示する画像表示装置、および、車両のドライバに警告用の音声を出力する音声出力装置を備えている。
【0024】
ブレーキ制御装置5は、ブレーキ機構(例えば液圧式でもよいし空気式でもよい。また、ディスクブレーキ方式でもよいしドラムブレーキ方式でもよい)を制御し、ブレーキペダルの踏み込み量に応じたブレーキ圧を車両の各輪のホイールシリンダに発生させることで、車両に制動力を発生させる装置である。ただし、このブレーキ制御装置5は、競合制御装置9から制動指示を受けた場合、その制動指示に従ったブレーキ圧を車両の各輪のホイールシリンダに発生させるようになっている。
【0025】
エンジン制御装置6は、車両のエンジンの作動を制御する装置である。具体的には、エンジン制御装置2は、アクセル開度(アクセルペダルの踏み込み量)に応じたスロットル開度を算出し、算出したスロットル開度を実現するよう、エンジンスロットルを制御する。ただし、このエンジン制御装置6は、競合制御装置9からスロットル開度の指示を受けた場合、車両状況を判断し、その指示に添ったスロットル開度を実現するようになっている。たとえば、車両を停車状態としたいために競合制御装置9からスロットル全閉指示をエンジン制御装置6へ送った場合、エンジン制御装置6はエンジンストップさせないため、アイドリング程度のエンジン稼動状態となるようにスロットル開度を調整する。
【0026】
衝突軽減/回避制御装置7は、車両が低速走行中または停止中の場面において、車両が障害物に衝突する危険性の有無を検出する装置であり、その検知結果を、低速PCSイネーブルフラグの値として、競合制御装置9に出力するようになっている。
【0027】
アクセルペダル誤操作検知装置8は、アクセルペダルに対して異常な踏み込み操作が行われたことを検出し、検出結果を、アクセルペダル誤操作検知フラグとして競合制御装置9に出力するようになっている。アクセルペダル誤操作検知装置8の基本的な目的は、ドライバがブレーキペダルを踏み込むつもりで誤ってアクセルペダルを踏み込んでしまうという行為(アクセルペダル踏み間違い)を検出することである。
【0028】
競合制御装置9は、衝突軽減/回避制御装置7およびアクセルペダル誤操作検知装置8から受けた低速PCSイネーブルフラグおよびアクセルペダル誤操作検知フラグに基づいて、あるときは障害物回避のために、またあるときはアクセルペダル誤操作対応のために、警報装置4、ブレーキ制御装置5、エンジン制御装置6を制御する装置である。
【0029】
なお、衝突軽減/回避制御装置7、アクセルペダル誤操作検知装置8、競合制御装置9は、それぞれ、CPU、RAM、ROMを備えた制御回路、上記通信線を介して通信するための通信インターフェース等を備えたECUとして構成される。
【0030】
以下、衝突軽減/回避制御装置7、アクセルペダル誤操作検知装置8、競合制御装置9のより具体的な作動内容について説明する。
【0031】
まず、衝突軽減/回避制御装置7の作動について説明する。衝突軽減/回避制御装置7の制御回路のCPUは、ROMに記録されたプログラムを実行することで、図2に示す処理を、繰り返し(例えば、定期的に100ミリ秒周期で)実行するようになっている。
【0032】
図2の処理においては、まずステップ110で、車両の進行方向に障害物があるか否かを、障害物検知センサ3の出力信号に基づいて判定する。具体的には、障害物検知センサ3が進行方向への障害物までの距離を出力していれば、車両の進行方向に障害物があると判定する。なお、車両の進行方向が前方であるか後方であるかは、図示しない車両のシフト位置センサが出力するシフト位置の検出結果に基づいて判定する。ステップ110で障害物があると判定した場合は、ステップ120に進み、障害物がないと判定した場合は、ステップ160に進む。
【0033】
ステップ110で障害物があると判定した場合は、続いてステップ120で、速度センサ2の出力信号に基づいて、車両の車速が基準速度(例えば30km/h)以下であるか否かを判定し、基準速度以下であればステップ130に進み、基準速度を超えていればステップ160に進む。
【0034】
ステップ130では、障害物検知センサ3の出力信号に基づいて、車両から当該障害物までの距離が所定の制動開始距離(≒衝突までの時間相当の距離で、TTC:衝突予測時間1.4秒とした場合、例えば30km/hで11.7メートル相当)以下であるか否かを判定し、制動開始距離以下であれば続いてステップ140に進み、制動開始距離を超えていれば続いてステップ160に進む。
【0035】
なお、ステップ110→120→130→140と進むということは、車速が低速かつ障害物が制動開始距離内にあると判定したことになる。このような場合は、車両が障害物に衝突する恐れが高いことになる。
【0036】
ステップ140では所定の機能解除操作が行われたか否かを判定する。機能解除操作が行われたか否かは、衝突軽減/回避制御装置7の制御回路のRAM中の所定の機能解除操作フラグがオンになっているか否かで判定する。
【0037】
そして、この機能解除操作フラグは、車両の主電源(IG)オン時にオフにリセットされ、前回の図2の処理の実行タイミングから今回の図2の処理の実行タイミングまでの期間に、機能解除操作があった場合は、オンにセットされる。したがって、機能解除操作によって一度機能解除操作フラグがオンになれば、その後、車両の主電源がオフになるまで、あるいは機能設定処理が実施されるまでは、機能解除操作フラグがオンであり続ける。ここで機能設定処理が実施される条件としては、機能設定操作(例えばスイッチの操作)が行われたという条件であってもよいし、機能解除されて一定時間(例えば30分)経過したという条件であってもよい。
【0038】
ステップ140で機能解除操作が行われたと判定した場合は、続いてステップ150に進み、機能解除操作が行われていないと判定した場合は、続いてステップ160に進む。
【0039】
ステップ150では、低速PCSイネーブルフラグをオンに設定し、この低速PCSイネーブルフラグの値を競合制御装置9に送信する。競合制御装置9では、衝突軽減/回避制御装置7から受信した最新の低速PCSイネーブルフラグを制御回路のRAMに保持するようになっている。
【0040】
ステップ160では、低速PCSイネーブルフラグをオフに設定し、この低速PCSイネーブルフラグの値を競合制御装置9に送信する。競合制御装置9では、衝突軽減/回避制御装置7から受信した最新の低速PCSイネーブルフラグを制御回路のRAMに保持するようになっている。ステップ150、160の後、図2の今回の処理を終了する。
【0041】
次に、アクセルペダル誤操作検知装置8の作動について説明する。アクセルペダル誤操作検知装置8の制御回路のCPUは、ROMに記録されたプログラムを実行することで、図3に示す処理を、繰り返し(例えば、定期的に100ミリ秒周期で)実行するようになっている。
【0042】
図3の処理においては、まずステップ210で、アクセル開度センサ1の出力信号に基づいて、アクセルペダルの開度のデータを取得する。続いてステップ220では、今回および前回以前のステップ210で取得したアクセルペダル開度データに基づいて、車両のアクセルペダルに対して異常な踏み込み操作が行われているか否かを判定する。
【0043】
アクセルペダル開度データをどのように用いて車両のアクセルペダルに対して異常な踏み込み操作が行われているか否かについては、周知のアクセルペダル踏み間違いの検出方法のうちいずれを採用してもよい。例えば、アクセル開度の単位時間当たりの増加量が所定の閾値を超えている場合に、車両のアクセルペダルに対して異常な踏み込み操作が行われていると判定するようになっていてもよい。
【0044】
ステップ220で異常な踏み込み操作が行われていると判定した場合は、続いてステップ230に進み、異常な踏み込み操作が行われていないと判定した場合は、続いてステップ240に進む。
【0045】
ステップ230では、アクセルペダル誤操作検知フラグをオンに設定し、この低速PCSイネーブルフラグの値を競合制御装置9に送信する。ステップ240では、アクセルペダル誤操作検知フラグをオフに設定し、このアクセルペダル誤操作検知フラグの値を競合制御装置9に送信する。
【0046】
競合制御装置9では、衝突軽減/回避制御装置7から受信した最新のアクセルペダル誤操作検知フラグを制御回路のRAMに保持するようになっている。ステップ230、240の後、今回の図3の処理を終了する。
【0047】
次に、競合制御装置9の作動について説明する。競合制御装置9の制御回路のCPUは、ROMに記録されたプログラムを実行することで、図4に示す処理を、繰り返し実行するようになっている。
【0048】
なお以下では、衝突軽減/回避制御装置7、アクセルペダル誤操作検知装置8、競合制御装置9のそれぞれの制御回路のCPUが実行する処理は、単に衝突軽減/回避制御装置7、アクセルペダル誤操作検知装置8、または競合制御装置9が実行する処理として説明する。
【0049】
競合制御装置9は、図4の処理においては、低速PCSイネーブルフラグおよびアクセルペダル誤操作検知フラグの値に応じて、ブレーキ制御装置5、エンジン制御装置6を適宜制御するようになっている。
【0050】
以下では、この図4の処理内容について、複数の事例に沿って、衝突軽減/回避制御装置7およびアクセルペダル誤操作検知装置8の作動と共に、説明していく。
【0051】
[第1の事例]
まず、第1の事例について、図5を用いて説明する。この事例では、まず、図5(a)に示すように、車載システム100を搭載した車両10が停止しており、車両10から前方の障害物(壁)11までの距離が所定の制動開始距離以内であったとする。そして、ドライバの足12、まだアクセルペダル13を踏んでいないとする。また、シフト位置は、前進用のシフト位置になっているとする。
【0052】
この状態において、衝突軽減/回避制御装置7は、図2のステップ110で進行方向に障害物があると判定してステップ120に進み、ステップ120で車速が基準速度以下であると判定してステップ130に進み、ステップ130で障害物11までの距離が制動開始距離以下であると判定してステップ140に進む。この段階では、まだドライバが機能解除操作を行っていないとする。したがって、機能解除操作フラグがオフになっているので、ステップ140では機能解除操作が行われていないと判定し、ステップ150に進み、低速PCSイネーブルフラグをオンにして競合制御装置9に送信する。
【0053】
また、アクセルペダル誤操作検知装置8は、図3のステップ210、220と処理を進め、ステップ220で、アクセルペダルの異常操作がないと判定し、ステップ240でアクセルペダル誤操作検知フラグをオフとして競合制御装置9に送信する。したがって、競合制御装置9では、低速PCSイネーブルフラグがオンとなり、アクセルペダル誤操作検知フラグはオフのままである。
【0054】
これにより、競合制御装置9は、図4のステップ305で、低速PCSイネーブルフラグがオンであると判定してステップ315に進み、ステップ315でアクセルペダル誤操作検知フラグがオフであると判定してステップ320に進む。
【0055】
そしてステップ320では、車両が停止しているか否かを判定する。本事例では、車両が停止中なので、停止していると判定し、ステップ330に進む。ステップ330では、警報装置4を制御してドライバに警報B(例えば、「ピーッピーッピーッ」という音および「障害物あり」という文字)を報知し、かつ、エンジン制御装置6に対してスロットル全閉の指示を出力することで車両のエンジンの作動をアイドリング状態にさせ、かつ、ブレーキ制御装置5へ制動指示を出力することで、車両10の各輪のホイールシリンダに発生させるブレーキ圧(制動力に対応する)を最小値(ゼロ)から増加させる。
【0056】
この制御により、エンジン制御装置6は、アクセル開度に関わらず、スロットルをほぼ全閉状態に制御し、エンジンの作動を抑制し、かつ、ブレーキ制御装置5は各輪のブレーキ圧を増加させることにより、車両の前進が禁止される。
【0057】
ここで、図5(b)に示すように、ドライバの足12がアクセルペダル13を、通常のアクセル操作の範囲内で踏み込んだとする。この場合も、衝突軽減/回避制御装置7の作動は図5(a)の場合と同じなので、競合制御装置9における低速PCSイネーブルフラグはオンのままであり、また、アクセルペダル誤操作検知装置8においても、ステップ220で異常操作がないと判定するので、競合制御装置9におけるアクセルペダル誤操作検知フラグはオフのままである。
【0058】
したがって、競合制御装置9の作動も、図5(a)の場合の場合と同様、ステップ330を実行する。したがって、ドライバが通常のアクセル操作の範囲内で踏み込んだとしても、スロットルは全閉状態、かつ、ブレーキ圧がON状態(ゼロより大きい状態)で前進が禁止されているので、車両は全く動かない。なお、競合制御装置9は、警報Bについては、図5(a)、(b)に示すように、アクセルペダルが踏み込まれないときは、警報Bの報知を行わず、アクセルペダルが踏み込まれたときに、警報Bの報知を開始するようになっていてもよい。
【0059】
次に、ドライバが、図5(c)に示すように、所定の機能解除操作を行ったとする。図5(c)の例では、所定の機能解除操作は、踏み込んでいるアクセルペダル13から足12を離してアクセルペダル13を元のホームポジションに戻す操作である。
【0060】
この場合、衝突軽減/回避制御装置7は、処理をステップ110→120→130→140と進め、ステップ140で、アクセル開度センサ1からの出力信号に基づいて、アクセル開度がゼロ以外からゼロに戻ったことに基づき、機能解除操作があったと判定する。したがって、ステップ140では、機能解除操作があったと判定してステップ160に進み、低速PCSイネーブルフラグをオフに設定して競合制御装置9に送信する。これにより、競合制御装置9でも、低速PCSイネーブルフラグがオフになる。なお、アクセルの異常操作はないので、アクセルペダル誤操作検知フラグはオフのままである。
【0061】
これにより、競合制御装置9は、図4のステップ305で、低速PCSイネーブルフラグがオフであると判定してステップ310に進み、ステップ310でアクセルペダル誤操作検知フラグがオフであると判定して図4の1回分の処理を終了する、という処理を繰り返すようになる。この場合、競合制御装置9は、ブレーキ制御装置5にもエンジン制御装置6にも指令を出力しない。したがって、各ホイールシリンダのブレーキ圧は、ドライバのブレーキペダルの踏み込み量に応じたものとなっており、ドライバがブレーキペダルを踏み込まない場合、ブレーキ圧は最小(ゼロ)となっている。また、スロットル開度は、ドライバのアクセル開度に応じたものとなっており、ドライバがアクセルペダルを踏み込まない場合、スロットル開度はアイドル状態と同じになっている。したがって、図5(c)の段階で、車両10はクリープ力によって僅かに前進し始める。
【0062】
その後、図5(d)に示すように、ドライバが再度アクセルペダル13を通常のアクセル操作の範囲内で踏み込んだとする。この場合、衝突軽減/回避制御装置7は、処理をステップ110→120→130→140と進め、ステップ140では、すでに機能解除フラグがオンになっているので、機能解除操作があったと判定してステップ160に進み、低速PCSイネーブルフラグをオフに設定して競合制御装置9に送信する。これにより、競合制御装置9でも、低速PCSイネーブルフラグがオフのままである。なお、アクセルの異常操作はないので、アクセルペダル誤操作検知フラグはオフのままである。
【0063】
したがって、競合制御装置9は、図4のステップ305で、低速PCSイネーブルフラグがオフであると判定してステップ310に進み、ステップ310でアクセルペダル誤操作検知フラグがオフであると判定して図4の1回分の処理を終了する、という処理を繰り返すので、車両は、アクセル開度に応じた駆動力で前進する。
【0064】
[第2の事例]
次に、第2の事例について、図6および図7を用いて説明する。この事例は、車両が踏切に閉じこめられた場合に関するものである。
【0065】
この事例では、図7(a)に示すように、車載システム100を搭載した車両が走行速度30km以下で前進走行して踏切内に進入した後、踏切の出口から出る前に、出口側の遮断機の遮断棹14が下りてしまったとする。そして、この時点では、車両10から遮断棹14までの距離は制動開始距離を超えているとする。
【0066】
この状態において、まず衝突軽減/回避制御装置7は、図2のステップ110、120、130と順に処理を進め、ステップ130で、障害物11までの距離が制動開始距離を超えていると判定し、ステップ160で低速PCSイネーブルフラグをオフにして競合制御装置9に出力する。また、アクセルペダル誤操作検知装置8は、図3のステップ210、220と処理を進め、ステップ220で、アクセルペダルの異常操作がないと判定し、アクセルペダル誤操作検知フラグをオンにせずオフのままとする。したがって、競合制御装置9では、低速PCSイネーブルフラグもアクセルペダル誤操作検知フラグもオフのままである。
【0067】
これにより、競合制御装置9は、図4のステップ305で、低速PCSイネーブルフラグがオフであると判定してステップ310に進み、ステップ310でアクセルペダル誤操作検知フラグがオフである判定して図4の1回分の処理を終了する、という処理を繰り返すので、車両10は、アクセル開度に応じた駆動力で前進する(図6のステップ410参照)。
【0068】
その後、車両が前進し、走行速度30km以下のまま、前方の遮断棹14から所定の制動開始距離以内に近づいたとする(図6のステップ420参照)。このとき、衝突軽減/回避制御装置7は、図2のステップ110、120、130と順に処理を進め、ステップ130で、前方の障害物である遮断棹14までの距離が制動開始距離以内になったと判定してステップ140に進む。この段階では、まだドライバが機能解除操作を行っていないとする。したがって、機能解除操作フラグがオフになっているので、ステップ140では機能解除操作が行われていないと判定し、ステップ150に進み、低速PCSイネーブルフラグをオンにして競合制御装置9に送信する。したがって、競合制御装置9では、低速PCSイネーブルフラグがオンになり、アクセルペダル誤操作検知フラグはオフのままとなる。
【0069】
これにより、競合制御装置9は、図4のステップ305で、低速PCSイネーブルフラグがオンであると判定してステップ315に進み、ステップ315でアクセルペダル誤操作検知フラグがオフであると判定してステップ320に進む。
【0070】
そしてステップ320では、車両10が停止しているか否かを判定する。本事例では、まだ車両10が走行中なので、停止していないと判定し、ステップ325に進む。ステップ325では、警報装置4を制御してドライバに警報B(ステップ330の警報Bと同じ警報)を報知し、かつ、エンジン制御装置6に対してスロットル全閉の指示を出力することで車両10のエンジンの作動をアイドリング状態とさせ、かつ、ブレーキ制御装置5へ制動指示を出力することで、車両10の各輪のホイールシリンダに発生させるブレーキ圧を最小値(ゼロ)から増加させる(図6のステップ430参照)。
【0071】
この制御により、エンジン制御装置6は、アクセル開度に関わらず、スロットルを全閉状態に制御し、エンジンの作動を抑制する。また、ブレーキ制御装置5が各輪のホイールシリンダ圧を上昇させることで、各輪に制動力が発生し、車両10は減速して遮断棹14の手前で急停止する。
【0072】
そして、車両10が停止した後、競合制御装置9は、ステップ305→315→320と処理を進め、ステップ320で、車両10が停止していると判定し、ステップ330に進み、ドライバに警報Bを報知し、かつ、エンジン制御装置2に対してスロットル全閉の指示を出力することでエンジンの作動をアイドリング状態とさせ続ける。この制御により、エンジン制御装置6は、アクセル開度に関わらず、スロットルをほぼ全閉状態に制御しエンジンの作動を抑制し、かつ、ブレーキ制御装置5は各輪のブレーキ圧を増加させることにより、車両10の前進が禁止される。
【0073】
次に、ドライバが、図7(c)に示すように、所定の機能解除操作を行ったとする(図6のステップ440参照)。すると、図5(c)の例で説明した通り、衝突軽減/回避制御装置7は、ステップ140で機能解除操作があったと判定してステップ160に進み、低速PCSイネーブルフラグをオフに設定して競合制御装置9に送信する。これにより、競合制御装置9でも、低速PCSイネーブルフラグがオフになる。なお、この段階でアクセルの異常操作はないので、アクセルペダル誤操作検知フラグはオフのままである。
【0074】
これにより、競合制御装置9は、図4のステップ305で、低速PCSイネーブルフラグがオフであると判定してステップ310に進み、ステップ310でアクセルペダル誤操作検知フラグがオフである判定して図4の1回分の処理を終了する、という処理を繰り返すようになる。この場合、各ホイールシリンダのブレーキ圧は、ドライバのブレーキペダルの踏み込み量に応じたものとなり、スロットル開度は、アクセル開度に応じたものとなる。
【0075】
その後、ドライバは、慌てて踏切内から出ようとするあまり、図7(d)に示すように、踏み込み方が異常となる程にアクセルペダル13を踏み込んでしまったとする(ステップ450、460参照)。
【0076】
すると、衝突軽減/回避制御装置7は、既に機能解除フラグがオフとなっているので、ステップ110→120→130→140→160と進み、低速PCSイネーブルフラグをオフとする。したがって、競合制御装置9でも、低速PCSイネーブルフラグがオフのままとなる。
【0077】
しかし、アクセルペダル誤操作検知装置8は、ステップ210に続くステップ220で異常操作ありと判定し、続いてステップ230で、アクセルペダル誤操作検知フラグをオンに設定して競合制御装置9に送信する。これにより、競合制御装置9でも、アクセルペダル誤操作検知フラグがオンとなる。
【0078】
すると、競合制御装置9は、ステップ305で低速PCSイネーブルフラグがオフであると判定してステップ310に進み、ステップ310でアクセルペダル誤操作検知フラグがオンであると判定して、続いてステップ335、340の処理を実行する。
【0079】
ここで、図8に、ステップ335、340の制御に従ったアクセル開度21、スロットル開度22、ブレーキ圧23、車速24の経時変化を例示する。
【0080】
具体的には、まずステップ335では、今回の図4の処理の開始時(アクセルペダル誤操作検知フラグがオンになった時点25とほぼ同じである)から起算して所定の期間T1内においては、ブレーキ制御装置5に制動指示を出力せず、エンジン制御装置2に指令するスロットル開度を徐々に低下させ、かつ、ドライバに上記警報Bとは異なる警報A(例えば、「ピッピッピッピッ」という音および「アクセルをゆっくり踏んでください」という文字)を報知する。
【0081】
このように、ブレーキ制御装置5に制動指示を出力しないことで、ドライバがブレーキペダルを踏まない限り、各車輪のホイールシリンダに発生させるブレーキ圧は最小((ゼロ)とする。ただし、ドライバがブレーキペダルを踏めば、ブレーキ圧が最小から増加し、車輪が制動力を発生する。つまり、競合制御装置9単体としては、車両の前進を許可する。
【0082】
また、エンジン制御装置6に指令するスロットル開度を徐々に低下させることで、エンジン制御装置6は、図8のように、アクセル開度21が期間T1において最大に維持されていたとしても、アクセル開度を無視し、競合制御装置9からの指令に従って、スロットル開度22を時間経過と共に低下させる。
【0083】
このような制御により、期間T1においても、車速24は増加が抑制され、車両10が過度に加速してしまうことがなくなる。ただし、ドライバがブレーキペダルを押下しない限り、ブレーキ圧が最小なので、車両が制動で停止することはなく、図7(d)に示すように、車両10は前進する。
【0084】
なお、期間T1の長さは、固定値(例えば1秒)でもよいし、可変長(例えば、進行方向の障害物の有無に応じて変化する長さ)でもよいし、車両があらかじめ定められた移動距離(例えば2m)走行するまでの期間であってもよい。期間T1が経過した時点26において、競合制御装置9は、処理をステップ335から340に進める。
【0085】
ステップ340では、エンジン制御装置6に対してスロットル全閉の指示を出力する。これにより、エンジン制御装置6は、指示に従って急激にスロットル開度22を低下させてスロットルをほぼ全閉とし、これにより、エンジンの作動を抑制する。
【0086】
更にステップ340では、ブレーキ制御装置5へ制動指示を出力し始める。これにより、ブレーキ制御装置5は、ブレーキペダルの踏み込み量に関わらず、各ホイールシリンダのブレーキ圧23を最小値から増大させ、これにより、図7(e)に示すように、車両10を停止させる。車両10が停止すると、ステップ340を終了し、今回の図4の処理を終了する。
【0087】
このように、競合制御装置9は、アクセルの異常な踏み込みがあると、ステップ335、340で、車両を少し前進させた後で停止させる(図6のステップ480参照)。
【0088】
このように、アクセルペダル13に対して異常な踏み込み操作が行われたタイミング25の後の所定の期間T1において車両10の前進を許可し、所定の期間T1の経過後に車両10を停止させれば、上記のように踏切等の特定の場所に車両が閉じ込められてしまった状況で、ドライバが慌ててしまい、踏み込み方が異常となる程にアクセルペダルを踏み込んでしまった場合でも、車両は少し前進して停止する。そのため、ドライバがその状況から脱出するため、踏み込み方が異常となる程のアクセル操作を繰り返した場合であっても(図6のステップ450、460、480のループ参照)、その場所から車両10を移動させ、踏切内から脱出することができる。
【0089】
また、このように、車載システム1が、衝突軽減/回避制御装置7の検出に基づいて障害物14の手前にいる場合に対処する障害物回避機能と、アクセルペダル誤操作検知装置8の検出に基づいてアクセルペダル13に異常な踏み込み操作が行われている場合に対処する誤操作対応機能の両方を備えている場合、障害物回避機能が働いているときは、障害物14の手前で停止している場合に車両10の前進が禁止される(図5(b)参照)一方、誤操作対応機能が働いているときは、アクセルペダル13に異常な踏み込み操作が行われた後の所定の期間T1において車両の前進を許可し、所定の期間T1の経過後に車両10を停止させる(図7(d)、(e)参照)ので、両者の挙動が異なる。したがって、ドライバは、障害物回避機能と誤操作対応機能のどちらが今働いているかを容易に区別することができる。
【0090】
もし、これら障害物回避機能と誤操作対応機能の挙動が同じでドライバが区別不能な場合、図9に示すような事態となる可能性がある。車両10が低速走行中に、踏切内に入り、出口側の遮断機の遮断棹14が下りてしまった場合(図9(a))、進行方向の遮断棹14から制動開始距離内に車両10が入ったとき、低速PCSイネーブルフラグがオンとなり、障害物回避機能により、車両10に制動が働き、車両が急停止する(図9(b))。
【0091】
この車両停止中に、ドライバが障害物回避機能の解除操作を行うと、低速PCSイネーブルフラグがオフになって障害物回避機能が作動しなくなる(図9(c))。
【0092】
その後、ドライバが踏切内を早く出ようと慌ててしまい、踏み込み方が異常となる程にアクセルペダルを踏み込んでしまったとする(図9(d))。そのような場合、アクセルペダル誤操作検知フラグがオンとなり、誤操作対応機能が働き、障害物回避機能が働いたのと同じように車両の挙動が制限される。すると、ドライバは、障害物回避機能の解除操作を行った筈なのに障害物回避機能がまだ働いたままなのではないかと更に混乱してしまい、アクセルペダルの異常踏み込みを何度も繰り返してしまう恐れがある(図9(e)(f))。
【0093】
これに対し、本実施形態では、障害物回避機能の作動時の車両の挙動と、誤操作対応機能の作動時の車両の挙動が異なるので、ドライバは、今どちらの機能が働いているかを容易に区別することができる。したがって、誤操作対応機能が働いたときは、自分がアクセルペダル13を踏みすぎたと判断して、図7(f)のように一端アクセルペダル13を戻し、その後、通常の範囲内でアクセルペダル13を踏み込む。
【0094】
すると、衝突軽減/回避制御装置7は、ステップ140で機能解除フラグがオンのままなので、機能解除操作ありとはんていしてステップ160に進み、低速PCSイネーブル
フラグをオフとして競合制御装置9に送信する。そして、アクセルペダル誤操作検知装置8は、ステップ220でアクセルペダルに異常操作が行われていないと判定し、ステップ240に進んでアクセルペダル誤操作検知フラグをオフとして競合制御装置9に送信する。これにより、競合制御装置9では、ステップ305、ステップ310の処理が繰り返されるのみで、ブレーキ制御装置5にもエンジン制御装置6にも指令を出力しない。したがって、車両10は、アクセル開度に応じた駆動力で前進し、図7(g)に示すように、遮断棹14を押しのけて踏切を脱出することができる(図6のステップ4770参照)。
【0095】
なお、競合制御装置9において低速PCSイネーブルフラグとアクセルペダル誤操作検知フラグが共にオンとなる場合もある。例えば、図7(b)のように、低速PCSイネーブルフラグがオンとなってアクセルペダル誤操作検知フラグがオフとなっている状況で、ドライバが所定の機能解除操作を行ないまま、図7(d)のように、踏み込み方が異常となる程にアクセルペダル13を踏み込んでしまった場合は、アクセルペダル誤操作検知装置8が、図3のステップ220からステップ230に進み、低速PCSイネーブルフラグをオンにして競合制御装置9に送信するので、競合制御装置9では、アクセルペダル誤操作検知フラグがオンになる。
【0096】
このように、低速PCSイネーブルフラグもアクセルペダル誤操作検知フラグもオンとなった場合、競合制御装置9は、図4のステップ305で低速PCSイネーブルフラグがオンであると判定してステップ315に進み、ステップ315でアクセルペダル誤操作検知フラグがオンであると判定してステップ345に進む。ステップ345、350の処理内容は、ステップ335、340の処理内容と同じである。つまり、低速PCSイネーブルフラグとアクセルペダル誤操作検知フラグのうちアクセルペダル誤操作検知フラグのみがオンの場合に対応したアクセルペダル誤操作対応機能を働かせる。
【0097】
このように、競合制御装置9は、車両の進行方向の所定の制動開始距離以内に障害物があり、車速が基準速度以下である結果、低速PCSイネーブルフラグがオンとなっており、かつ、車両のアクセルペダルに対して異常な踏み込み操作が行われた結果、アクセルペダル誤操作検知フラグがオンとなっている場合に、障害物回避機能よりも誤操作対応機能を優先して作動させる。
【0098】
このようにすることで、ドライバに対し、アクセルペダルに異常な踏み込み操作を行ったことを優先的に知らせることができ、これにより、ドライバに通常の操作をより迅速に促すことができる。
【0099】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の各発明特定事項の機能を実現し得る種々の形態を包含するものである。例えば、以下のような形態も許容される。
【0100】
(1)上記実施形態では、競合制御装置9は、アクセルペダル13に対して異常な踏み込み操作があったことに応じてアクセルペダル誤操作検知フラグがオンになると、ステップ335、340(または、ステップ345、350)の処理を実行するようになっている。しかし、車載システム100の作動中、まず1回目にアクセルペダル13に対して異常な踏み込み操作が行われてアクセルペダル誤操作検知フラグがオフからオンになった場合、ステップ335(または334)ではなくステップ320以降の処理を実行して直ちに車両の走行を禁止するようになっており、2回目以降にアクセルペダル13に対して異常な踏み込み操作が行われてアクセルペダル誤操作検知フラグがオフからオンになった場合、ステップ335、340(または、ステップ345、350)の処理を実行するようになっていてもよい。ただし、その場合のステップ320に続くステップ325、330では、警報Bではなく警報Aを報知する。
【0101】
つまり、車両の進行方向に障害物が存在し、ドライバがアクセルペダルを踏み間違い操作した場合、1回目の踏み間違い検出時は車両が動かないという挙動を行い、2回目以降の踏み間違い検出時は少し動かして後、停止させるという車両挙動を発生させる。
【0102】
したがって、図10の手順および図11の模式図に示すように、車両が低速走行中または停止中(図10のステップ510参照)、アクセルペダル13に対する異常な踏み込みがあった場合(ステップ520、530参照)、それが1回目であれば(ステップ550)、警報Aを報知して車両10の走行を禁止する(図11(a)、ステップ560参照)。
【0103】
そして、ドライバが一端アクセルペダル13を戻し(図11(b)参照)、その後、2回目以降にアクセルペダル13に対する異常な踏み込みがあった場合(ステップ520、530参照)、警報Aを報知して車両10を少し前進させた後停止させる(図11(c)〜(h)、ステップ570参照)。
【0104】
このようにするのは、アクセルペダルに対する異常な踏み込み操作をドライバが複数回繰り返すということは、車両を前進させようとして焦っている可能性が高いからである。車両を少し前進させてから停止させるという制御は、そのような場合を選んで行い、1回目の異常な踏み込み操作の検出時は、安全面を重視して、検出後直ちに車両を停止させるようにすることで、安全性が高まる。
【0105】
なお、競合制御装置9は、1回目と2回目以降の操作を決めるための回数カウンタをRAM等の記憶媒体に記憶している。この回数カウンタは、車載システムが起動する際に0にセットされ、アクセルペダルに対する異常な踏み込み操作をドライバが1回行う度に1だけ増加する。ただし、アクセルペダルに対して正常な(すなわち異常でない)踏み込み操作を行った場合、回数カウンタは0にリセットされる。また、アクセルペダルに対する異常な踏み込み操作が最後にあってから所定時間(例えば30秒)経過した場合も、回数カウンタは0にリセットされる。
【0106】
そして、競合制御装置9は、アクセルペダルに対する異常な踏み込み操作があり、それに応じて回数カウンタを1だけ増加させた際、回数カウンタの値が1ならば、1回目の踏み間違いを検出したと判定し、回数カウンタの値が2以上ならば、2回目以降の踏み間違いを検出したと判定するようになっている。
【0107】
つまり、「1回目に異常な踏み込み操作が行われる」とは、アクセルペダルに正常な踏み込み操作が行われた後まったく異常な踏み込み操作が行われていない状態で異常な踏み込み操作が行われること、前回異常な踏み込み操作が行われてから所定の期間以上が過ぎた後で異常な踏み込み操作が行われること、および、車載システム1の作動開始以後まったく異常な踏み込み操作が行われていない状態で異常な踏み込み操作が行われることのいずれかに該当する。
【0108】
また、「2回目に異常な踏み込み操作が行われる」とは、1回目の異常な踏み込み操作が行われた後、正常なアクセルペダルの踏み込みがなく、車載システムの起動もなく、かつ、1回目の異常な踏み込み操作が行われてから所定期間の経過前に、新たな異常な踏み込み操作が行われたことに該当する。
【0109】
(2)また、上記実施形態では、アクセル開度センサ1は、衝突軽減/回避制御装置7、アクセルペダル誤操作検知装置8、競合制御装置9という3つのECUを備えているが、それに代えて、衝突軽減/回避制御装置7、アクセルペダル誤操作検知装置8、競合制御装置9の機能を具有する1つのECUを有するようになっていてもよい。
【0110】
その場合、図12に示すように、アクセル開度センサ1が、1つのECU20を備え、このECU20の制御部のCPUが、ROMに記録されたプログラムを実行することで、図2、図3、図4の処理を行うようになっていればよい。この場合、図2の処理を行っているときのECU20が衝突軽減/回避制御装置7の機能を代替し、衝突軽減/回避制御部として機能する。また、図3の処理を行っているときのECU20がアクセルペダル誤操作検知装置8の機能を代替し、アクセルペダル誤操作検知部として機能する。また、図4の処理を行っているときのECU20が競合制御装置9の機能を代替し、競合制御部として機能する。
【0111】
(3)また、車載システム100は、衝突軽減/回避制御装置7の機能を備えておらずともよい。その場合、競合制御装置9は、ステップ305で、常に低速PCSイネーブルフラグがオフであると判定するようになっていればよい。更に、車載システム100は、衝突軽減/回避制御装置7も競合制御装置9も備えておらずともよい。その場合、競合制御装置9は、図3のステップ230で、図4のステップ335、340と同じ制御を行うようになっていればよい。
【0112】
(4)また、上記実施形態では、車両駆動力発生機関として、内燃機関であるエンジンを例示したが、車両駆動力発生機関としては、車両駆動用のモータでもよい。その場合、上記におけるスロットル開度は、車両駆動用のモータへの供給電力に置き換えればよい。スロットル開度も、車両駆動用のモータへの供給電力も、車両駆動力発生機関へのエネルギー供給量という点では同じである。
【0113】
(5)また、上記実施形態では、所定の機能解除操作は、踏み込んでいるアクセルペダル13から足12を離してアクセルペダル13を元のホームポジションに戻す操作であったが、所定の機能解除操作は、そのようなものに限らない。例えば、ブレーキペダルを踏む操作であってもよいし、専用の機能解除ボタン操作であってもよい。
【0114】
(6)また、上記実施形態においては、アクセルペダル誤操作検知装置8がステップ220でアクセルペダル13の異常操作があると判定し、ステップ230でアクセルペダル誤操作検知フラグをオンにするようになっている。しかし、ステップ230では、アクセルペダル誤操作検知キャンセル状態であるか否かを判定し、アクセルペダル誤操作検知キャンセル状態でないときにのみ、アクセルペダル誤操作検知フラグをオンにして競合制御装置9に送信し、アクセルペダル誤操作検知キャンセル状態である場合は、ステップ240に進んでアクセルペダル誤操作検知フラグをオフにして競合制御装置9に送信することで、誤操作対応機能(ステップ335、340、345、350)を禁止するようになっていてもよい。
【0115】
ここで、アクセルペダル誤操作検知キャンセル状態について説明する。車両の主電源(IG)オン時は、アクセルペダル誤操作検知キャンセル状態ではない。そして、アクセルペダル13の異常操作があると判定した後の一定時間(例えば30秒)以内にブレーキペダルが踏みこまれた場合に、アクセルペダル誤操作検知キャンセル状態となる。
【0116】
そして、一旦アクセルペダル誤検知キャンセル状態となった後は、アクセルペダル誤検知キャンセル状態となってから所定時間(例えば30分)経過時、所定のイネーブルスイッチ操作時、および、車両の主電源(IG)がオフからオンになった時に、アクセルペダル誤検知キャンセル状態でなくなり、誤操作検知機能がイネーブルされる。
【0117】
(7)また、上記実施形態において、衝突軽減/回避制御装置7、アクセルペダル誤操作検知装置8、競合制御装置9のそれぞれの制御回路のCPUがプログラムを実行することで実現している各機能は、それらの機能を有するハードウェア(例えば回路構成をプログラムすることが可能なFPGA)を用いて実現するようになっていてもよい。
【符号の説明】
【0118】
1 アクセル開度センサ
2 速度センサ
3 障害物検知センサ
4 警報装置
5 ブレーキ制御装置
6 エンジン制御装置
7 衝突軽減/回避制御装置
8 アクセルペダル誤操作検知装置
9 競合制御装置
10 車両
13 アクセルペダル
14 遮断棹
100 車載システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、
車両のアクセルペダルに対して異常な踏み込み操作が行われたか否かを判定する誤操作判定手段(220)と、
前記誤操作判定手段により異常な踏み込み操作と判定されたことに基づいて、車両の制動を制御する誤操作対応手段(335、340、345、350)と、を備える車載システムであって、
前記誤操作対応手段は、異常な踏み込み操作が行われたと前記誤操作判定手段(220)が判定した後のあらかじめ定められた移動距離に応じて設定された所定の期間(T1)においては、前記車両の発進を許可し、前記所定の期間(T1)の経過後に、前記車両のブレーキ機構に発生させる制動力を増加させることで車両を停止させる誤操作対応手段(335、340、345、350)と、を備えた車載システム。
【請求項2】
前記車両の進行方向の所定の制動開始距離以内に障害物があることに基づいて、前記制動開始距離以内に障害物があると判定した時点で前記車両の発進を禁止し、所定の機能解除操作が行われたことに基づいて前記車両の発進の禁止を解除する障害物回避手段(320、325、330)を備えたことを特徴とする請求項1に記載の車載システム。
【請求項3】
前記車両の進行方向の所定の制動開始距離以内に障害物があり、かつ、車両のアクセルペダルに対して異常な踏み込み操作が行われた場合に、前記障害物回避手段よりも前記誤操作対応手段を優先して作動させる競合制御手段(305、310、315)を備えたことを特徴とする請求項2に記載の車載システム。
【請求項4】
前記誤操作対応手段は、前記所定の期間(T1)においては、前記車両のブレーキ機構に発生させる制動力を最小とすると共に、車両駆動力発生機関へのエネルギー供給量を、時間の経過と共に低減させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車載システム。
【請求項5】
前記誤操作対応手段は、
前記アクセルペダルに前回異常な踏み込み操作が行われてから所定の期間以上が過ぎた後で前記アクセルペダルに異常な踏み込み操作が行われたことに基づいて、または、当該車載システムの作動開始以後まったく異常な踏み込み操作が行われていない状態で前記アクセルペダルに異常な踏み込み操作が行われたことに基づいて、直ちに前記車両の走行を禁止し、
前回異常な踏み込み操作が行われてから所定期間経過前に、新たな異常な踏み込み操作が行われたことに基づいて、当該新たな異常な踏み込み操作が行われたと判定した後の前記所定の期間(T1)においては、前記車両のブレーキ機構に発生させる制動力を最小とすることで前記車両の前進を許可し、前記所定の期間(T1)の経過後に、前記車両のブレーキ機構に発生させる制動力を最小から増加させることで車両を停止させることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車載システム。
【請求項6】
前記誤操作判定手段が前記アクセルペダルに対して異常な踏み込み操作が行われたと判定した後に前記車両のブレーキペダルが踏みこまれたことに基づいて、前記誤操作対応手段の作動を禁止することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の車載システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−153164(P2012−153164A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11255(P2011−11255)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】