説明

車載機器遠隔制御装置

【課題】スマートエントリ/スタートシステムで、車載機の送信アンテナの同時送信を出来るようにして、通信回数を低減することで、全体の通信時間を短縮し、応答性の優れたシステムを得る。
【解決手段】携帯機50に対して低周波電波の質問信号を車載機10の送信アンテナ11、12から送信し、質問信号を受信した携帯機から返送される応答信号で確認手続きがなされたとき車載機器の作動状態を制御する作動制御手段を有する車載機器遠隔制御装置において、車載機の複数の送信アンテナ11a〜11c、12a〜12dから同時に送信する場合、通信領域の一部が重なる送信アンテナ対は、互いの位相をずらした搬送波で質問信号を送信するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車載機器遠隔制御装置に関し、車両と携帯機との双方向通信による確認結果に基づいて車両の使用許可または不許可の制御を行う車載機器遠隔制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車載機器遠隔制御装置において、携帯機の操作部を操作して車両のドアの施錠/解錠を行う遠隔操作機能に加えて、前記操作部を操作することなく、車両側からの質問信号に対して回答信号を返送し、回答内のコードを照合することによりドアの施錠/解錠を行うスマートエントリシステムが従来から知られている。例えば特許文献1(特開平5−106376号公報)には、第1の受信手段で呼出信号が受信されると、応答信号を送信する第1の送信手段を備えた携帯無線装置と、第2の送信手段から所定の時間間隔で送信された呼出信号を受信して送信された応答信号が第2の受信手段で受信されると、車両のドアを解錠するための信号を出力し、応答信号が受信されなければ、所定時間経過後に車両のドアを施錠するための信号を出力する制御手段を備えた車両無線装置とから構成されたシステムが記載されている。
【0003】
また、車載機器遠隔制御装置において、車両側からの送信要求信号に対して返送コード信号を返送し、コードを照合することによりステアリングロック機構の解錠とエンジン始動禁止装置の解除を行い、機械的キーを使用しないエンジン始動操作を可能にしたスマートスタートシステムが従来から知られている。例えば特許文献2(特開昭63−1765号公報)には、携帯無線機に呼出信号を送信して、携帯無線機からの暗証コード信号を受信し、内部コードと照合し一致したときにはステアリングロック機構の解錠動作、エンジンスイッチのスイッチング動作およびアクセサリスイッチのスイッチング動作を各々許可する手段から構成されたシステムが記載されている。
【0004】
上記両方のシステムを合わせたシステムの名称として以下、スマートエントリ/スタートシステムと称す。スマートエントリ/スタートシステムの制御論理では、携帯無線機が車内にあるか、車外にあるかが重要な情報となる。特にエンジンスイッチのスイッチング動作を行うスマートスタートシステムにおいては、携帯無線機が車内にある場合のみエンジンの始動許可を行う必要がある。車内外判定を行う手段として、距離の3乗で減衰する低周波の近傍磁界を使用することでアンテナから半径1m程度の狭い通信領域生成と、電磁遮蔽に優れた車両の鋼板を利用して、複数のアンテナを配置して車外にはほとんど漏れずに車内全域を通信領域とすることが実施されている。
【0005】
しかし、車内全域をカバーするために、隣接するアンテナの通信領域の一部が重なり、同時送信すると干渉のため、通信できない程度に弱い磁界になる極小空間が発生する。このため、通信エリアが重なるアンテナからは同時送信できなないため、アンテナ毎に時間をずらして別々に送信しているので、送信回数が増え、全体の通信時間が掛かっている。
【0006】
ここで、干渉発生について、図9、図10により説明する。図9は、アンテナ(磁流源M、M)が自由空間に間隔dで並列に配置された場合の解析用座標である。非特許文献1によればループアンテナの近傍界での磁界は、極座標のR方向成分のHとθ方向成分のHθで、それぞれ数式1、数式2で表される。
【数1】



【数2】

【数3】

但し、μe:実効透磁率、n:巻数、I:電流、S:ループ面積
【0007】
とHθの角αと磁界H=H+Hθの大きさは、数式4および数式5になる。
【数4】

【数5】

【0008】
2つのアンテナ(磁流源M、M)の合成磁界が定常的に0になる点(以下Null点と称す)では、各アンテナからの磁界の大きさが等しく向きが180度異なる。これを式で表現すると、数式6および数式7になる。
【数6】

θ+α+θ+α=π (7)
【0009】
数式6、数式7を満足する点がNull点となる。Null点の例として、M=M、且つR=R条件では
=R=0.866d、θ1=θ2=0.304π 又は0.696πとなる。
また、アンテナ位相が180度異なるM=−M、且つR=R条件では、Null点は、R=R=0.5d、θ1=θ2=π/2となる。
【0010】
図10は、アンテナ(磁流源M、M)が自由空間に間隔dで直列に配置された場合の解析用座標である。
この場合、数式7に代わって数式8が条件式になる。
π−θ+α+θ+α=π (8)
数式6、数式8を満足する点がNull点となる。Null点の例として、M=M、且つR=R条件では
=R=0.866d、θ1=0.696π、θ2=0.304πとなる。
また、アンテナ位相が180度異なるM=−M、且つR=R条件では、Null点は、R=R=0.5d、θ1=π、θ2=0となる。
【0011】
なお、実際の車両に取り付けられたアンテナでは、自由空間と異なり周囲からの反射波や、遮蔽があり計算は簡単ではないが、Null点は発生する。
この干渉を回避する方法として、例えば特許文献3(特開2000―255381号公報)にあるように、互いの磁界が直交するように2つの磁界発生手段を配置し、この2つの磁界発生手段から発生される磁界の位相が90度の位相差を有するようにして回転磁界を車両室内のみに発生せるようにしたアンテナを使用することが考えられる。
【0012】
【特許文献1】特開平5−106376号公報
【特許文献2】特開昭63−1765号公報
【特許文献3】特開2000−255381号公報
【非特許文献1】三輪 進著 東京電機大学出版局発行 「高周波電磁気学」189頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のように従来の車載機器遠隔制御装置は、複数の車載アンテナを用いて質問信号などを送信する場合、隣接するアンテナの通信領域の一部が重なるものにおいては、干渉を回避するため、アンテナ毎に時間をずらして別々に送信する必要があるので、送信回数が増え、全体の通信時間が掛かかるという問題点があった。
また干渉を回避するため、回転磁界を発生するアンテナを使用することも考えられるが、アンテナと同駆動回路のコストアップ、アンテナの占有体積が大きくなるという問題点があった。
【0014】
この発明は、上記したような問題点に鑑みなされたもので、通信回数を低減してシステムの応答性向上を実現するとともに、コスト・占有体積でほぼ同等となる車載機器遠隔制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明の車載機器遠隔制御装置は、携帯機に対して低周波電波の質問信号を車載機の送信アンテナから送信し、質問信号を受信した携帯機から返送される応答信号で確認手続きがなされたとき車載機器の作動状態を制御する作動制御手段を有する車載機器遠隔制御装置において、車載機の複数の送信アンテナから同時に送信する場合、通信領域の一部が重なる送信アンテナ対は、互いの位相をずらした搬送波で質問信号を送信するようにしたものである。
【0016】
またこの発明の車載機器遠隔制御装置は、携帯機に対して認証用および存否確認用の質問信号を送信する車載機の送信手段と、車載機の送信手段から送信された質問信号を受信する携帯機の受信手段と、携帯機の受信手段で受信された質問信号に基づき応答信号を車載機に返送する携帯機の送信手段と、携帯機の送信手段により返送される応答信号を受信する車載機の受信手段と、車載機に返送された応答信号の応答コードのコード照合がなされたとき、車載機器の作動状態を制御する作動制御手段とを有する車載機器遠隔制御装置であって、車載機の送信手段は送信部と複数の送信アンテナを有し、複数の送信アンテナの通信領域の一部が重なるものは、複数の送信アンテナから送信される質問信号の搬送波の位相が互いに異なるように送信部で制御するようにしたものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明は、通信領域の重なるアンテナ対の搬送波を異なる位相のものとしたので、車内送信1回で車内全域に送信できることにより、全体の通信時間が大幅に短縮できて、応答性の良いシステムを実現できると共に、従来品に比べ、ほとんどコスト増がなく、また従来品と同じ大きさで出来るという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1における車載機器遠隔制御装置を示す図1〜図6について説明する。図1は車載機のブロック図、図2は携帯機のブロック図、図3は車載アンテナと携帯機の通信の模式図、図4は車載機の送信部の駆動回路図、図5は車載機と携帯機間の通信における信号の構成例を示す図、図6は施錠タイミングチャートの一例を示す図である。
【0019】
この発明の実施の形態1における車載機のブロック図を示す図1において、車載機10は、車内用アンテナ11として第1〜第3車内送信アンテナ11a〜11cの3つのアンテナを有し、車外用アンテナ12として第1〜第4車外送信アンテナ12a〜12dの4
つのアンテナを有し、合計7つの送信アンテナを有している。図3(b)に示すように、第1車内送信アンテナ11aは車室内のセンターコンソールに、第2車内送信アンテナ11bは後部座席下付近に、第3車内送信アンテナ11cはトランク室内に設置されている。一方、図3(a)に示すように、第1〜第4車外送信アンテナ12a〜12dはそれぞれ車両(4輪車)の例えばドアの取手に設けられている。車内用アンテナ11および車外用アンテナ12は送信部17に接続され、送信部17はECU(電子制御装置)20に接続されている。
【0020】
ECU20は、送信部17に送信コードと送信用アンテナ11、12のうちの少なくとも一つを指定する信号を供給し、この送信コードが変調された周波数、例えば134kHzのコード要求信号としての質問信号が、指定されたアンテナから後述する携帯機50に対して送信される。また、車両には受信アンテナ18が設けられており、この受信アンテナ18で受信された携帯機50よりの周波数、例えば315MHzの信号は受信部19で復調されてECU20に供給される。
【0021】
ECU20にはメモリ24が内蔵されており、このメモリ24には後述する質問信号用、イモビライザ用のIDコードと、イモビライザ用、回答コードの復号用の暗号キーが格納されている。メモリ24はEEPROM等の不揮発性メモリであり、電源が遮断されてもその記憶内容は保持される。操作検出部21はユーザによる各種スイッチ操作を検出するものであり、例えば各アウタドアハンドルに設置された起動スイッチ(認証用質問信号の送信を開始するための信号源)や、エンジンスイッチを押すことでロック解除のための交信を起動するためのキーノブスイッチや、エンジンスイッチの(始動、イグニッションオン、アクセサリオン、オフそしてロックなどの)位置を検出し、その操作検出信号をECU20に供給する。
【0022】
ドア開閉検出部22は全ドアの個別の開閉および全ドアの個別の施錠/解錠状態を検出し、その検出信号をECU20に供給する。センサ群23は、車速や変速位置やエンジン運転状態を検出する各種センサであり、これらの各種センサの検出信号はECU20に供給される。報知部25はドアロック/アンロックをした場合のいわゆるアンサーバックとしての車両のライト点灯やホーン吹鳴を行うアンサーバック装置や、各種警報のためのブザーの発音する警報装置や、状態表示のための表示装置を含んでいる。
【0023】
また、ECU20には、ステアリングロック部32、イモビライザ部34、ドアロック部36、シフトロック部38が接続されている。ステアリングロック部32はエンジンスイッチのLock位置からの回動ロック機構を解除すると同時に、ステアリング操作の機械的ロック機構も解除する。エンジンスイッチがロック位置に戻されると両ロック機構はロック状態になる。イモビライザ部34はエンジン40への燃料供給及びイグニッション動作を禁止する機構である。ドアロック部36は全てのドアのロック/アンロックを行う機構である。シフトロック部38は変速機ギアシフト機構でパーキングレンジからその他のレンジへの移行を禁止するロック装置で、ECU20からロック解除の許可/不許可の信号を出す。また、ECU20はエンジン制御部30が接続されており、エンジン制御部30はセルモータを利用してエンジン40の始動を制御すると共に、エンジン40の駆動停止も制御できる。
ここで、エンジン制御部30、ステアリングロック部32、イモビライザ部34、ドアロック部36、シフトロック部38などは車載機器を構成し、ECU20はこれら車載機器の作動状態を制御する作動制御手段を構成する。
【0024】
この発明の実施の形態1における携帯機のブロック図を示す図2において、携帯機50は、ECU52を有しており、このECU52にはメモリ53が内蔵されている。このメモリ53には、正規であれば上記した車載機のメモリ24に格納されているのと同じ、IDコード、暗号キーが格納されている。また携帯機50は、送信アンテナ56と受信アンテナ58を有している。これらのアンテナ56、58はそれぞれ送信部55および受信部57に接続され、送信部55および受信部57はECU52に接続されている。
【0025】
受信アンテナ58で受信された車載機10よりの周波数、例えば134kHzの質問信号は受信部57で復調されてECU52に供給される。また、ECU52は前記質問信号に対応した暗号キーをメモリ53から読み出し、前記質問信号中の質問コードを暗号化して、応答信号を作成して送信部55に供給し、送信部55で変調されて、周波数例えば315MHzの信号として送信アンテナ56から車載機10に対して送信される。また携帯機50には、キーレスエントリ機能としての、ドアのロック/アンロックの遠隔操作をするLOCKキー/UNLOCKキーなどがあって、これらの信号は操作検出部51よりECU52に入力される。報知部54は、車載機10から送信されてくる各種警報のためのブザーなどの警報装置や、状態表示のための表示装置を含んでいる。
【0026】
次に、車内用送信アンテナ11および車内用送信アンテナ12と携帯機50との通信を模式的に示す図3について説明する。図3(a)は携帯機50が車外にある場合、図3(b)は携帯機50が車内にある場合の説明図である。
携帯機50が正規登録機かどうかを確認する方式(相手認証方式)は、例としていわゆるチャレンジ・レスポンス方式(秘密鍵暗号ベース相手認証方式)で説明している。
図3中、車載機10の各送信アンテナ11、12からは、周波数134kHzの質問コードを含む認証用質問信号が送信され、携帯機50はこの認証用質問信号を受信すると、受信した質問信号に応じた暗号キーと質問コード(平文)から作成した応答コード(暗号文)で変調した周波数315MHzの認証用応答信号を返送する。
【0027】
車載機10の受信アンテナ18で受信された周波数315MHzの認証用応答信号は、受信部19で復調されてECU20に供給され、ECU20は上記応答信号を受信する。車載機10は、送信した質問コード(平文)を対応した暗号キーで作成した暗号文と受信した応答コードを照合して、携帯機50が正規登録機であるかどうかを確認する。
車載機10の各送信用アンテナ11、12から携帯機50へは、低周波(以下LFと略す)を使用しているのは、携帯機50の位置を確認しやすいように電磁波の内でその強度が距離の3乗に逆比例する磁界成分を利用するためで,通常通信距離は1m前後である。一方、携帯機50から車載機10の受信アンテナ18への通信はUHF帯が使用されてい
て、通常5〜20mの通信距離である。
【0028】
図3(b)において、車内全域をカバーするために、第1車内送信アンテナ11aの通信領域A11aと第2車内送信アンテナ11bの通信領域A11bの境界部分には通信領域が一部重なる領域11abが生じる。また、第2車内送信アンテナ11bの通信領域A11bと第3車内送信アンテナ11cの通信領域A11cの境界部分には通信領域が一部重なる領域11bcが生じる。したがって第1車内送信アンテナ11aと第2車内送信アンテナ11bが同時送信すると干渉のため、通信できない程度に弱い磁界になる極小空間が発生する。同様に、第2車内送信アンテナ11bと第3車内送信アンテナ11cが同時送信すると干渉のため、通信できない程度に弱い磁界になる極小空間が発生する。
【0029】
この発明は、隣接するアンテナの通信領域の一部が重なり、これらのアンテナが同時送信すると、干渉のため通信できない程度に弱い磁界になる極小空間が発生するのを防止するために、2つのアンテナの合成磁界が0になるNull点を解消するようにしたものである。
【0030】
アンテナ(磁流源M、M)は同相で正弦波振動(sinωt)している場合、Null点での合成磁界の式に時間項(sinωt)を含めて表示すると
|H|sinωt−|H|sinωt=0 (9)
で、常に磁界が0になっている。
時間的にアンテナ(磁流源M、M)の位相をπ/2ずらすと、下記の数式10
【数7】

となり、Null点ではなくなる。
このように通信領域の一部が重なるアンテナから送信される信号の位相をπ/2(90度)ずらすとNull点が解消されるので、車内送信1回で車内全域に送信できることになり、システムの応答時間が大幅に短縮され、応答性に優れたシステムが実現できる。
【0031】
図4は車載機10の送信部17の駆動回路図と車内送信アンテナ11a〜11cおよび車外送信アンテナ12a〜12dを示したもので、以下、この図4に基づき、通信領域の一部が重なるアンテナから送信される信号が干渉するのを防ぐ方法について説明する。
図4に示す駆動回路において、定電圧電源80は、アンテナ駆動回路のための電源であり、この電源80に各トランジスタ83a〜83cが接続され、また各トランジスタ83a〜83cと直列にそれぞれトランジスタ84a〜84cが接続されている。
各トランジスタ83a〜83cとトランジスタ84a〜84cは、ハーフブリッジ出力回路を構成している。ハーフブリッジ出力回路は、限流抵抗85a〜85c、コンデンサ86a〜86cとインダクタンスからなる車内送信アンテナ11a〜11cとでLC共振回路を構成して、ハーフブリッジ出力の矩形波の基本波(例えば134kHz)に共振して、車内送信アンテナ11a〜11cに正弦波電流を流す。
【0032】
各AND素子81a、81cは、矩形波の搬送波1(例えば134kHz)を2進情報信号(例えば2kbps)でASK(振幅偏移変調)する機能と、出力したいアンテナを選択する(選択信号が「1」でこの駆動回路は動作、選択信号が「0」でこの駆動回路は停止する)機能を果たしている。AND素子81bは搬送波1の代わりに、搬送波1と位相が90度異なる搬送波2が入力される以外は、AND素子81a、81cと同じ機能である。
このように構成することにより、第1車内送信アンテナ11aと第2車内送信アンテナ
11bが、また第2車内送信アンテナ11bと第3車内送信アンテナ11cが同時に送信しても信号の干渉が生じない。したがって、車内送信アンテナ11a〜11cから同時に車内送信1回で、干渉が生じることなく車内全域に送信できることになる。
【0033】
以上は、車内用アンテナ11での干渉およびそれを防ぐ方法について説明したが、車外用アンテナ12についても同様である。
図3(a)に示すように、第1車外送信アンテナ12aと第2車外送信アンテナ12bとで、また第3車外送信アンテナ12cと第4車外送信アンテナ12dとで通信領域の一部が重なる領域がある。したがって、これら通信領域の一部が重なるアンテナにおいては、搬送波の位相を互いに90度異なるようにすることにより、干渉を防ぐことができる。
図4の駆動回路では、車外用アンテナ12の駆動回路88a〜88dは簡略化しているが、車内用アンテナ11の駆動回路と同様に構成されている。通信領域が重なる第1車外送信アンテナ12aと第2車外送信アンテナ12bにおいては、駆動回路88aに搬送波1を、駆動回路88bに搬送波2を入力することにより、干渉を防いでいる。また、通信領域が重なる第3車外送信アンテナ12cと第4車外送信アンテナ12dにおいては、駆動回路88cに搬送波1を、駆動回路88dに搬送波2を入力することにより、干渉を防いでいる。
【0034】
図4の駆動回路では、変調方式がASKとして説明したが、2つのアンテナの干渉でNull点を発生させないためには、2つの搬送波の位相を略々90度ずらすことにあって、変調方式が、FSK(周波数偏移変調)でもPSK(位相偏移変調)でも同じ効果が得られることは明白である。また、2つの搬送波の位相のずれ量は90度でなくても,例えば45度や30度でも同様の効果が得られることも明白である。
なお、図4に示す搬送波1及び搬送波2は、ECU20のマイコンの内蔵周辺回路であるタイマ回路で生成できるので、ほとんどコスト増もなく、大きさも従来と同じで実現できるという利点がある。
【0035】
次に、この発明の実施の形態1における車載機器遠隔制御装置の動作を図5および図6に基づいて説明する。
車載機10と携帯機50間の通信における信号の構成例を示す図5において、図5(a)(b)は存否確認用の質問信号と応答信号を、図5(c)(d)は認証用の質問信号と応答信号を、図5(e)は携帯機の操作部を操作して車両のドアの施錠/解錠を行う遠隔制御信号をそれぞれ示す。
【0036】
図5(a)は車載機10から携帯機50への存否確認用の質問信号の構成で、プリアンブル(例えば5ms程度のバースト信号)、固定長のID情報からなる固定IDコード(例えば20ビット)、呼出信号であることを示すビットと受信監視モード用ビット情報を含む付加コード(例えば4ビット)、及びパリティビットから構成される。
図5(b)は携帯機50から車載機10への応答信号の構成で、プリアンブル、固定IDコード、携帯機番号等の情報を含む付加コード(例えば4ビット)、及びパリティビットから構成される。
【0037】
図5(c)は車載機10から携帯機50への認証用の質問信号の構成で、プリアンブル、固定IDコード、質問信号であることを示すビットと応答すべき携帯機の番号を含む付加コード、毎回ランダムに生成される平文(例えば32ビット)である質問コード、及びパリティビットから構成される。
図5(d)は携帯機50から車載機10への応答信号の構成で、プリアンブル、固定IDコード、回答信号を示すビットと携帯機番号等の情報を含む付加コード、受信した質問コードを暗号キーで暗号化した暗号文である回答コード、及びパリティビットから構成される。
【0038】
なお、携帯機50に設けてあるボタンを押すことで、車両のドアのロック/アンロックを制御するキーレスエントリを行う場合の遠隔制御信号は、図5(e)に示すように回答コードの代わりにローリングコードを設定する。ローリングコードは携帯機50が電波を送信する毎にカウントアップされる値であり、車載機10側では前回において携帯機50から受信した所定のコードに含まれるローリングコードを記憶しておき、今回受信した所定のコードに含まれるローリングコードが前回のローリングコードの値から所定の範囲内であるとき、今回のローリングコードは正しいと判別し、受信した所定のコードが特定コードに一致すると判別する。この付加コードには応答信号と遠隔制御信号の識別情報が含まれている。
【0039】
この発明における遠隔制御装置の車載機10のECU20が実行する携帯機50との通信に係わる部分の実施例の施錠操作時のタイミングチャートを図6に示し、対応する従来例のタイミングチャートを図7に示す。
【0040】
まずこの発明の図6において、携帯機50を持った人が運転席より降車してドアを閉じた後、同ドアハンドルにある起動スイッチを押すことで発生するトリガ60から通信のシーケンスが開始する。車載機10は、操作された起動スイッチの位置に対応した車外送信アンテナ12aより認証用質問信号61を送信する。この信号を受信した携帯機50は暗号処理を行い、返信コードを作成して認証用応答信号62を返信する。
【0041】
車載機10は、前記質問信号61を送信後適当な通信間隔(この場合2ms)をおいて、他の携帯機が車内に存在するかどうかを確認するために、3本の車内用アンテナ(11a、11b、11c)から同時に存否用質問信号63〜65を3回送信する。3本の車内用アンテナ11から同時に存否用質問信号63〜65を送信しても、前述したように信号は干渉することはない。
車載機10は、認証用応答信号62を受信して照合できて、且つ、全ての存否確認質問信号63〜65に対して応答信号がなかったら、車内に置忘れの携帯機50が無く、正規の携帯機所持者による施錠指示と判断して、ドアロック部36に対して、施錠指令66を送信する。存否確認用質問信号63〜65の送信を3回実施するのは、応答信号がないこと(=車内に置忘れ携帯機のないこと)を高い確度で確認するためである。
【0042】
次に、従来の図7においては、携帯機50を持った人が運転席より降車してドアを閉じた後、同ドアハンドルにある起動スイッチを押すことで発生するトリガ70から通信のシーケンスが開始する。車載機10は、操作された起動スイッチの位置に対応した車外送信アンテナ12aより認証用質問信号71を送信する。この信号を受信した携帯機50は暗号処理を行い、返信コードを作成して認証用応答信号72を返信する。
【0043】
車載機10は、前記質問信号71を送信後適当な通信間隔(この場合2ms)をおいて、他の携帯機が車内に存在するかどうかを確認するために、3本の車内用アンテナ(11a、11b、11c)を干渉しない(通信領域が重ならない)2つのグループ、すなわち第1車内アンテナ11a、第3車内アンテナ11cと第2車内アンテナ11bとに分けて、各グループ3回ずつ存否確認用質問信号73〜78を送信する。
車載機10は、認証用応答信号72を受信して照合できて、且つ、全ての存否確認質問信号73〜78に対して応答信号がなかったら、車内に置忘れの携帯機50が無く、正規の携帯機所持者による施錠指示と判断して、ドアロック部36に対して、施錠指令79を送信する。存否確認用質問信号送信を3回実施するのは、応答信号がないこと(=車内に置忘れ携帯機のないこと)を高い確度で確認するためである。
【0044】
このようにこの発明では、3本の車内用アンテナ(11a、11b、11c)間の信号
の干渉がないので、存否確認用質問信号63〜65の送信は3本まとめて同時に送信することができる。したがって、従来のものでは人の操作によるトリガ70から施錠指令79までの所要時間が217msに対し、この発明の実施例では、人の操作によるトリガ60から施錠指令66までの所要時間が130msで、操作制御時間を大幅(約60%)に短縮できる。
【0045】
以上説明したように、この発明の実施の形態1による車載機器遠隔制御装置は、車載機の送信手段(送信部と複数の送信アンテナ)は、各送信用アンテナ11、12の通信領域の一部が重なる送信アンテナ対は、位相が互いに異なる搬送波としたことより、重なり部分での干渉による通信不能をなくしたので、同時に送信できることにより、全体の通信時間を短縮できる構成になっている。
【0046】
実施の形態2.
次にこの発明の実施の形態2における車載機器遠隔制御装置を示す図8について説明する。図8は車載機から携帯機への存否確認用信号の構成例と車内送信アンテナの送信タイミング図の例である。
車載機10の各送信用アンテナ11、12から携帯機50へは、低周波(LF)を使用しており、これら送信用アンテナ11、12の通信領域は局在的で、これを利用して携帯機50の位置を確認できるという特長がある。
【0047】
今までは携帯機が車内にあるか、車外にあるかの情報で車載機器を制御する説明をしていたが、携帯機50が車内の内部のいずれの位置にあるかを検出し、その位置に基づいて車両の状態をきめ細かに制御可能なものにすることが行われている。例えば特許3752939号では、複数の受信機(受信アンテナと受信部を含む)を車室内の互いに隔たった位置に設け、どの受信機で受信したかで、携帯機50の位置を検出している。
この発明の実施の形態2は、車載機10の各送信用アンテナ11、12からの同時送信を実施した場合も、携帯機50が、各送信アンテナ(第1〜第3車内送信アンテナ11a〜11c及び第1〜第4車外送信アンテナ12a〜12d)の通信領域内の携帯機有無を
検出が出来るようにしたものである。
【0048】
図8において、存否確認用の質問信号は、図4に示した駆動回路の2進情報信号として、例えば、図5(a)の質問信号(存否確認用)の構成に、送信アンテナ識別用にATT1〜ATT3のブロックを追加したもので、各ブロックATT1〜ATT3は1〜2ビット程度の長さとする。また、図4に示した駆動回路のアンテナ選択信号11a〜11cの出力タイミングは、それぞれ異なるようにする。
すなわち、アンテナ選択信号11aは質問信号のブロックATT1まで「1」(駆動回路動作)とする信号とし、質問信号はプリアンブルからブロックATT1までの通信長とする。アンテナ選択信号11bは質問信号のブロックATT2まで「1」(駆動回路動作)とする信号とし、質問信号はプリアンブルからブロックATT2までの通信長とする。アンテナ選択信号11cは質問信号のブロックATT3まで「1」(駆動回路動作)とする信号とし、質問信号はプリアンブルからブロックATT3までの通信長とする。このようにして、車載機10の送信用アンテナ11a〜11cにより送信される質問信号の通信長を互いに異なるようにする。
質問信号の通信長を変えることは、ECU20のマイコンのソフトウェアで実現できるもので、コストはほとんど変わらないで、従来の携帯機位置検出機能を維持すると共に、同時送信による全体の通信時間の大幅短縮ができる利点がある。
【0049】
アンテナ選択信号11a〜11cを図8に示すような出力タイミングで出力すると、例えば、送信アンテナ11bの通信エリアにあって、送信アンテナ11cの通信エリアにない携帯機50は、図8の2進情報信号の内、ブロックATT2までの長さの通信文を受信
することで、送信アンテナ11bからの信号を受信したと判断して、図5(b)の応答信号(存否確認用)の例えば付加コードに、送信アンテナ11bからの送信を受信した情報を乗せて返信することで、車載機10のECU20は、当該携帯機50が送信アンテナ11bの通信エリアにあって、送信アンテナ11cの通信エリアにないことを認識することになる。
【0050】
以上説明したように、この発明の実施の形態2による車載機器遠隔制御装置は、車載機の各送信用アンテナ11、12により質問信号の通信長さを異なるものとしたので、従来の車載送信アンテナの通信エリア毎に送信して通信エリア内の携帯機の有無および位置を検知できる機能と、同時送信による応答性能向上を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明の実施の形態1における車載機器遠隔制御装置の車載機のブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1における車載機器遠隔制御装置の携帯機のブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態1における車載機器遠隔制御装置の車載アンテナと携帯機の通信の模式図である。
【図4】この発明の実施の形態1における車載機器遠隔制御装置の車載機の送信部の駆動回路図である。
【図5】この発明の実施の形態1における車載機器遠隔制御装置の車載機と携帯機間の通信における信号の構成例を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態1における車載機器遠隔制御装置の施錠タイミングチャートの一例を示す図である。
【図7】従来の車載機器遠隔制御装置の施錠タイミングチャート図の例である。
【図8】この発明の実施の形態2における車載機器遠隔制御装置の車載機から携帯機への存否確認用信号の構成例と車内送信アンテナの送信タイミング図の例である。
【図9】2つのアンテナが並列に配置された場合の干渉磁場解析用座標を示す図である。
【図10】2つのアンテナが直列に配置された場合の干渉磁場解析用座標を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
10:車載機 11、11a〜11c:車内送信アンテナ
12、12a〜12d:車外送信アンテナ 17:送信部
18:受信アンテナ(車載機) 19:受信部
20:ECU(車載機) 21:操作検出部(車載機)
22:ドア開閉検出部 23:センサ群
25:報知部(車載機) 30:エンジン制御部
32:ステアリングロック部 34:イモビライザ部
36:ドアロック部 38:シフトロック部
40:エンジン
50:携帯機 51:操作検出部(携帯機)
52:ECU(携帯機) 54:報知部(携帯機)
55:送信部 56:送信アンテナ(携帯機)
57:受信部 58:受信アンテナ(携帯機)
61:認証用質問信号 62:認証用応答信号
63〜65:存否用質問信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯機に対して低周波電波の質問信号を車載機の送信アンテナから送信し、前記質問信号を受信した前記携帯機から返送される応答信号で確認手続きがなされたとき車載機器の作動状態を制御する作動制御手段を有する車載機器遠隔制御装置において、前記車載機の複数の送信アンテナから同時に送信する場合、通信領域の一部が重なる前記送信アンテナ対は、互いの位相をずらした搬送波で前記質問信号を送信することを特徴とする車載機器遠隔制御装置。
【請求項2】
携帯機に対して認証用および存否確認用の質問信号を送信する車載機の送信手段と、前記車載機の送信手段から送信された前記質問信号を受信する前記携帯機の受信手段と、前記携帯機の受信手段で受信された前記質問信号に基づき応答信号を前記車載機に返送する携帯機の送信手段と、前記携帯機の送信手段により返送される前記応答信号を受信する前記車載機の受信手段と、前記車載機に返送された前記応答信号の応答コードのコード照合がなされたとき、車載機器の作動状態を制御する作動制御手段とを有する車載機器遠隔制御装置であって、前記車載機の送信手段は送信部と複数の送信アンテナを有し、前記複数の送信アンテナの通信領域の一部が重なるものは、前記複数の送信アンテナから送信される質問信号の搬送波の位相が互いに異なるように前記送信部で制御するようにした車載機器遠隔制御装置。
【請求項3】
通信領域の一部が重なる車載機の送信アンテナ対は、互いの位相を90度ずらした搬送波で質問信号を送信するようにした請求項1または請求項2に記載の車載機器遠隔制御装置。
【請求項4】
通信領域の一部が重なる車載機の送信アンテナ対は、互いの位相を45度または30度ずらした搬送波で質問信号を送信するようにした請求項1または請求項2に記載の車載機器遠隔制御装置。
【請求項5】
車載機の複数の送信アンテナにより送信される質問信号の通信長を互いに異なるようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の車載機器遠隔制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−278360(P2009−278360A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127360(P2008−127360)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】