説明

車載用レーダ装置及び車載用レーダシステム

【課題】多周波変調異常を検出する機能を有する車載用レーダ装置を提供する。
【解決手段】2周波CW変調処理部101のように、送受信信号のIF信号に位相差が発生するような変調処理方式と、FM変調処理部102のように、送受信信号から得られるドップラ周波数がターゲット距離に応じて変動するような特性を持つ変調方式を有し、前記位相差から算出されるターゲット距離と、前記ドップラ周波数の変動量から算出されるターゲット距離の差分が所定値以上になった場合、多周波変調処理が異常であると判断することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載する車載用レーダ装置及び車載用レーダシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の安全運転支援システムとして、車間距離警報システム,アダプティブクルーズコントロールシステム,プリクラッシュシステム等が挙げられるが、上記システムを構築する際に、先行路上のターゲットまでの距離や相対速度等を計測する装置として、車載用レーダ装置がある。
【0003】
この車載用レーダ装置に用いられる変調方式には様々なものがあるが、その一つに2周波CW(Continuous Wave)方式がある(特許文献1)。2周波CW方式は、2つの周波数を交互に送信する変調方式である。これによって、受信信号から得られるIF信号は、2つの周波数が混在する受信信号より生成されるので、各周波数によるIF信号の間に位相差が発生する。この位相差は、ターゲットまでの距離に応じて一義的な値になっているので、位相差を検出することで、ターゲットまでの距離を算出することができる。
【0004】
また、車載用レーダ装置で用いられる別の変調方式として、FM−CW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式(特許文献2)や、StepFM(Step Frequency Modulated)方式等のFM変調方式がある。FM変調方式では、周波数を時間軸上で直線的に増減させるような変調を信号にかけて、同信号を送信させている。ここで、送信信号がターゲットで反射し、その反射信号を受信するまでの間に伝播往復時間がある。これにより、送受信信号の間には時間軸上で周波数シフトが発生する。この周波数シフト量は伝播往復時間に対応するので、ターゲットまでの距離に対しても一義的に決まる値になる。よって、FM変調方式では、周波数シフト量からターゲットまでの距離を算出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−292530号公報
【特許文献2】特開2006−292576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
2周波CW方式において、2つの周波数を切り替える機構に異常が発生し、周波数切り替えが実行されなくなった場合、IF信号における位相差が発生されなくなるため、ターゲットまでの距離を演算することができなくなる。
【0007】
車間距離警報システム等の安全運転支援システムでは、ターゲットまでの距離や相対速度の情報を元に制御しているので、その異常が発生すると、システムの信頼性を維持することが困難となる。
【0008】
本発明の目的は、複数の周波数変調方式を切り替える周波数切替処理部に異常が発生している状態を、精度良く検知する車載用レーダ計測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の車載用レーダ装置は、複数の送信周波数の変調方式を切り替える変調切替処理部と、切り替えられた複数の送信周波数の変調方式を、それぞれ処理する複数の変調処理部と、変調処理部から出力される変調電圧に基づいて周波数変調された送信周波数を生成する発振部と、発振部で生成された送信信号を送信する送信部と、送信信号が測定対象物に反射して生成された受信信号を受信する受信部と、送信信号と受信信号とを混合してビート信号を生成するビート信号生成部と、変調方式によって異なる距離算出方法を有し、ビート信号の変調方式に対応する距離算出方法に基づいて測定対象物までの距離を算出する距離算出部と、距離算出部によって異なる距離算出方法で算出された複数の距離の差分に基づいて変調異常判定を行う異常判定処理部と、を有する構成とする。
【0010】
また、本発明の車載用レーダ装置を用いた車載用レーダシステムは、複数の送信周波数の変調方式を切り替える変調切替処理部と、切り替えられた複数の送信周波数の変調方式を、それぞれ処理する複数の変調処理部と、変調処理部から出力される変調電圧に基づいて周波数変調された送信周波数を生成する発振部と、発振部で生成された送信信号を送信する送信部と、送信信号が測定対象物に反射して生成された受信信号を受信する受信部と、送信信号と受信信号とを混合してビート信号を生成するビート信号生成部と、変調方式によって異なる距離算出方法を有し、ビート信号の変調方式に対応する距離算出方法に基づいて測定対象物までの距離を算出する距離算出部と、を有する車載用レーダ装置と、距離算出部によって異なる距離算出方法で算出された複数の距離の差分に基づいて変調異常判定を行い、変調異常判定の結果、異常と判定された場合は変調異常発生情報を出力する異常判定処理部を有する処理装置と、を有する構成とする。
【発明の効果】
【0011】
複数の周波数変調方式を切り替える周波数切替処理部に異常が発生している状態を、精度良く検知する車載用レーダ計測装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る車載用レーダ装置のブロック構成を示す図である。
【図2】本発明の車載用レーダ装置の2周波CW方式とFM変調方式を使用した場合の周波数変調波形を示す図である。
【図3】2周波CW方式における送受信信号の周波数変調波形及び位相波形を示す図である。
【図4】2周波CW方式において2周波変調が異常になった場合の送受信信号の周波数波形及び位相波形を示す図である。
【図5】FM変調方式における波形を示す図である。
【図6】2周波CW方式及びFM変調方式におけるFFTスペクトラムを示す図である。
【図7】本発明に係る車載用レーダ装置の信号処理部及び異常判定処理部のフローチャートを示す図である。
【図8】本発明の車載用レーダ装置の変調方式として、2周波CW方式とStepFM方式を使用した場合の一例の周波数波形を示す図である。
【図9】本発明の車載用レーダ装置の変調方式として、StepFM方式とCW方式を使用した場合の一例の周波数波形を示す図である。
【図10】本発明に係る車載用レーダシステムのブロック構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に関する実施例を、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
本発明の車載用レーダ装置1は、ターゲットまでの距離算出手段を複数持つことで、周波数切替処理部の異常を検出することを特徴とする。
【0015】
本発明を実現する車載用レーダ装置1のうち代表的な一つは、電波変調の方式として、2周波CW方式と、時間経過とともに周波数が増加または減少するFM変調方式と、がある。2周波CW方式では、送受信信号の各周波数のIF信号から得られる位相差よりターゲットまでの距離を算出する手段を有し、FM変調方式では、ターゲットの距離に応じたドップラ周波数のシフト量から、ターゲットまでの距離を算出する手段を有していることを特徴とする。
【0016】
2周波CW方式におけるIF信号の位相差は、ターゲットまでの距離に応じて変化するので、位相差を検出することで距離に換算することが可能となる。2周波CW方式は、図3(a)のように、2つの周波数を交互に送信する変調方式である。これによって、受信信号から得られるIF信号は図3(b)のようになる。ここでIF信号は、2つの周波数が混在する受信信号より生成されるので、各周波数によるIF信号の間に位相差が発生する。この位相差は、ターゲットまでの距離に応じて一義的な値になっているので、位相差を検出することで、ターゲットまでの距離を算出することができる。
【0017】
しかし、2周波変調の切り替えがされない異常が発生した場合、2周波の各周波数間のIF信号が同位相になるので位相差が発生しなくなり、その結果、距離を算出できなくなる。
【0018】
その一方で、FM変調方式では、送信信号と受信信号の周波数差によって生成されるビート信号の周波数が、送受信間の伝播往復時間に応じて変化する特性を利用することで、ターゲットまでの距離を算出することができる。2周波CW方式のように、固定の周波数を切り替えるような変調方式では、ビート信号の周波数は、ターゲットの相対速度に応じた周波数に発生する。FM変調方式の信号波形の一例を図4に示す。図5のようにFM変調方式では、周波数を時間軸上で直線的に増減させるような変調を信号にかけて、同信号を送信させている。ここで、送信信号がターゲットで反射し、その反射信号を受信するまでの間に伝播往復時間がある。これにより、送受信信号の間には時間軸上で周波数シフトが発生する。この周波数シフト量は伝播往復時間に対応するので、ターゲットまでの距離に対しても一義的に決まる値になる。よって、FM変調方式では、周波数シフト量からターゲットまでの距離を算出することができる。
【0019】
しかし、FM−CW方式やStepFM方式のようなFM変調方式では、ある一定の周期で周波数が掃引されているので、送受信間の伝播往復時間が変化すると、送受信信号間の周波数のシフト量も変化する。伝播往復時間は距離に換算できるので、周波数のシフト量と距離を相関付けることができる。
【0020】
ここで周波数のシフト量は、シフト量が無い2周波CW方式のドップラ周波数と、シフト量が発生するFM変調方式のビート周波数の差分から算出することが可能である。これより、2つ変調方式の周波数の差分から、距離を算出することができる。
【0021】
ここで、2周波変調異常で位相差による算出距離が異常値になっている一方、周波数の差分からの算出距離は、2周波変調異常によらず算出可能であるので、両者の算出距離の差分を確認することで、2周波変調異常の有無を検出することが可能となる。
【0022】
図1は、本発明の一実施例に関する車載用レーダ装置1のブロック構成図である。なお、本実施例では、複数の送信周波数の変調方式のうち、第1の変調方式として2周波CW方式を使用し、第2の変調方式としてFM変調方式を使用する。即ち、図2のように、2周波CW方式とFM変調方式を交互に繰り返すような周波数変調を使用する。なお、これらの変調方式は、測定対象物であるターゲットまでの距離算出方法が異なる。本実施例では、2周波CW方式は、第1の距離算出方法として位相差から距離を算出し、FM変調方式は、第2の距離算出方法として、周波数差から距離を算出する。
【0023】
車載用レーダ装置1は、複数の送信周波数の変調方式を切り替える変調切替処理部100と、変調切替処理部100で切り替えられた、複数の変調方式を、それぞれ処理する複数の変調処理部(第1の変調処理部である2周波CW変調処理部101、第2の変調処理部であるFM変調処理部102)と、2周波CW変調処理部101又はFM変調処理部102から出力される変調電圧に基づいて周波数変調された送信周波数を生成する電圧制御型発振器103と、電圧制御型発振器103で生成された送信信号を送信する送信部である送信アンテナ104と、送信信号が測定対象物であるターゲットに反射して生成された受信信号を受信する受信部である受信アンテナ105と、送信信号と受信信号を混合、つまりミキシングされ、ビート信号を生成するミキサ106と、復調処理部107と、A/D変換部108と、信号処理部109と、異常判定処理部110と、を備え、更に外に報知装置111を備えている。
【0024】
変調切替処理部100によって、2周波CW変調が選択された場合、2周波CW変調処理部101は、変調電圧を生成して電圧制御型発振器103に出力し、電圧制御型発振器103では、図3(a)のように、一定時間間隔で、周波数f1または周波数f2に交互に変調された送信信号Txを生成する。送信アンテナ104に入力された送信信号は、送信電波として空間中に放射され、ターゲットに反射することで、受信電波として受信アンテナ105にて受信され、図3(a)の受信信号Rxが得られる。
【0025】
ミキサ106において、送信信号Txと受信信号Rxとがミキシングされ、ビート信号が生成される。
【0026】
生成されたビート信号は、復調処理部107にて復調処理をされ、A/D変換部108にてデジタル信号に変換される。
【0027】
変換されたデジタル信号は、信号処理部109に入力される。信号処理部109では、後述の流れで演算処理がなされ、ターゲットまでの距離,相対速度,方位角,ビート信号のドップラ周波数、等が求まる。
【0028】
また、変調切替処理部100によって、FM変調方式が選択された場合、FM変調処理部102は、変調電圧を生成して電圧制御型発振器103に出力し、電圧制御型発振器103では、図5のように、FM変調周期TFM毎にΔFの差分がある2つの周波数帯を切り替えつつ、徐々に周波数が減少していくような送信信号Txを生成する。
【0029】
その後、2周波CW変調の場合と同様に、送信信号Txは送信アンテナ104で放射し、ターゲットからの反射信号を受信アンテナ105で受信した後、ミキサ106,復調処理部107,A/D変換部108を経て、信号処理部109においてターゲットまでの距離,相対速度,方位角,ビート信号の周波数、等が求まる。
【0030】
以上処理を経て、2周波CW変調波によって算出された、ターゲットまでの距離と、ビート信号のドップラ周波数、およびFM変調波によって算出された、ターゲットまでの距離と、ビート信号のドップラ周波数と、の情報を異常判定処理部110に入力し、後述の流れで、変調に異常があるか判断する。変調に異常があると判断された場合、異常判定処理部110は報知装置111に変調異常発生情報を出力する。
【0031】
報知装置111に変調異常発生情報が入力された場合、運転者に異常が発生している旨を警告する。警告方法として、LED等のディスプレイ表示や、ビープ音などの警告音が挙げられる。
【0032】
なお、上記は、車載用レーザ装置1に異常判定処理部110を設けた構成としたが、この異常判定処理部110を例えば、図10に示すように、車両側の処理装置300であるECU等に搭載した車載用レーザシステムの構成としても良い。
【0033】
次に、2周波CW変調処理における2周波変調に異常が発生した場合の影響について説明する。
【0034】
2周波CW変調の受信波を受信した時に、復調処理部107によって生成されるIF信号は、図3(b)のような波形を示す。2周波CW変調において、図3(a)のように、f1,f2という2つの周波数を切り替えて送信信号が生成された場合、そのIF信号は図3(b)のように、2つの周波数の間には、距離に応じた位相差が発生する。この位相差を計測することで、ターゲットまでの距離を数式1で算出することができる。
【0035】
【数1】

【0036】
CWはターゲット距離、cは光速、Δfはf1とf2の周波数差、φはΔfに起因する位相差を表す。
【0037】
ここで、2周波CW変調処理において異常が発生し、f1,f2の2つの周波数の切り替えが実行されなくなった場合、送信信号Tx、および受信信号Rxは、図4(a)のように、周波数変調がされていない信号となってしまう。その結果、図4(b)のように、IF信号において位相差が発生しない状態となり、ターゲットまでの距離を数式1から算出できなくなる。
【0038】
次に、ビート信号の周波数の差分から、ターゲット距離を算出方法について説明する。
【0039】
FM変調方式では、図5のような送信信号Txが生成され、ターゲットからの反射波を受信すると、受信信号Rxが得られる。FM変調方式は、時間に応じて周波数を徐々に変化させているので、ターゲットまでの距離が変われば、送受信信号間の伝播往復時間も変動する。これにより、送受信信号間の周波数差は、ドップラシフトfdのみでなく、伝播往復時間τによる周波数変動量ΔfRも加味される。
【0040】
ここで、信号処理部109においてFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)処理されて得られるFFTスペクトラムを表すと、図6のようになる。2周波CW変調のように、時間に応じて徐々に周波数が変化しない場合、FFTスペクトラムは図6(a)のように、周波数fdにピーク信号が発生する。しかし、FM変調のように、時間に応じて周波数が変化している場合、送受信信号間の周波数差は図5のようにΔfR+fdだけあるので、FFTスペクトラムのピーク信号は、図6(b)のように、周波数:ΔfR+fdに発生する。つまり、FM変調時のFFTスペクトラムのピーク信号は、2周波CW変調時のピーク信号よりΔfRだけシフトされた周波数に発生する。
【0041】
このΔfRは、ターゲットまでの距離によって一義的に決まるものなので、ターゲットまでの距離は、ΔfRより算出することができる。ここで、ΔfRは数式2で表すことができる。
【0042】
【数2】

【0043】
ここで、TFMは時間に応じて周波数が変化するFM変調周期、ΔRampはTFMの間の周波数変化量、τは送信信号を送信してから、受信信号を受信するまでの伝播往復時間を意味する。
【0044】
また、伝播往復時間τは、数式3のようになる。
【0045】
【数3】

【0046】
ここで、cは光速、Rはターゲットまでの距離を意味する。
【0047】
よって、数式2,数式3より、ターゲットまでの距離Rは、数式4のように表すことができる。
【0048】
【数4】

【0049】
ΔfRは、2周波CW変調時のドップラ周波数と、FM変調時のビート周波数の差分を取ることで導出できるので、数式4でターゲットまでの距離を算出可能となる。
【0050】
以上のような距離算出方式から、2周波CW変調異常を判定する処理手順について、図7のフローチャートを用いて説明する。
【0051】
信号処理部109では、まずビート信号に対してステップ200のフーリエ変換手段であるFFT処理を実行する。つまりビート信号にフーリエ変換処理を行い、フーリエ変換スペクトラムを得る。次にステップ201の変調方式判断手段である変調方式判断処理において、入力されたビート信号が2周波CW変調波かFM変調波か、変調方式を判断する。次に、距離算出手段によって、判断された変調方式の距離計算方法にて、フーリエ変換スペクトラムから測定対象物までの距離を算出する。具体的には、2周波CW変調波と判断された場合は、ステップ202の2周波CW物理値変換処理において、FFT処理で得られるFFTスペクトラムからターゲット情報の物理値に変換する。FM変調波と判断された場合は、ステップ203のFM変調物理値変換処理において、FFT処理で得られるFFTスペクトラムからターゲット情報の物理値に変換する。以上で算出された物理値をもって、2周波変調異常判定を行う。なお、ここでの物理値とは、上述したターゲットまでの距離,相対速度,方位角,ビート信号のドップラ周波数、等である。
【0052】
異常判定処理部110では、信号処理部109から得られる、2周波CW変調波およびFM変調波における、それぞれのビート信号の周波数の差分ΔfRをステップ204で算出する。
【0053】
ステップ204で算出されたΔfRを用いて、数式4より、ターゲット距離をステップ205で算出する。
【0054】
一方、信号処理部109の物理値変換処理において、位相差を用いてターゲット距離が算出されるので、その位相差から算出した距離と、ステップ205における、周波数差から算出した距離の差分をステップ206において算出する。
【0055】
ここで、2周波変調に異常がなかった場合、位相差から算出される距離は正しく求められるので、ステップ206で算出される距離差は小さくなる。しかし、2周波変調に異常が発生して位相差が異常値になった場合、位相差から算出される距離値は変動してしまうので、ステップ206の距離差の値は大きくなる。
【0056】
よって、この距離差の値を確認することで、2周波変調異常を判定することができる。すなわち、ステップ207において、位相差から算出した距離と周波数差から算出した距離の差分が所定値以上だった場合、2周波変調異常と判断し、ステップ208においてエラー判定処理を行う。また、その距離の差分が所定値以下だった場合は正常と判断し、エラー判定処理を実行しない。
【0057】
ここで、ステップ207における所定値は、位相差から算出した距離、および周波数差から算出した距離の算出精度を勘案して、予め導出される値であり、レーダのハード仕様によって異なるが、ここでは19.8〔m〕とする。
【0058】
ステップ208にてエラー判定処理が実行された場合、報知装置111に異常発生警告信号を出力し、報知装置111によって、運転者に異常発生状態にあることを報知する。なお、エラー判定処理が実行されない場合は、異常発生警告信号が出力されないようにする。
【0059】
一方で、FM変調に異常が発生した場合においても、その異常を検出することができる。FM変調に異常が発生した場合、伝播往復時間τによる周波数変動量ΔfRが変動し、ステップ205で演算される、周波数差から算出した距離に誤差が生じる。その結果、ステップ207における位相差から算出した距離と周波数差から算出した距離の差分が所定値以上となり、ステップ208においてエラー判定される。よって、FM変調異常においても、検出が可能となる。
【0060】
このような構成により、複数の周波数を切り替える変調処理において異常が発生し、複数の周波数間の位相差を用いてターゲット距離を算出できなくなっている状態を精度良く検出し、より信頼性の高い安全運転システムを提供できる車載用レーダ装置を提供することができる。
【0061】
なお、本発明は上記実施例のみに限らず、変調方式として、2周波CW方式とStepFM方式を使用した場合や、StepFM方式とCW方式を使用した場合でも実現可能である。
【0062】
2周波CW方式とStepFM方式を使用した場合、一例として図8のような周波数波形が挙げられる。ここで、StepFM方式とは、図8のStepFM変調の周波数波形のように、時間に応じて段階的に周波数を減少または増加させる変調方式のことである。
【0063】
図1の上記実施例のブロック構成において、FM変調処理部102の箇所に、StepFM変調処理部を代わりに設けることで、上記実施例と同じ手法を実現することができる。
【0064】
また、StepFM方式とCW方式を使用した場合、一例として図9のような周波数波形が挙げられる。
【0065】
図1の上記実施例のブロック構成において、2周波CW変調処理部101およびFM変調処理部102の箇所で、StepFM変調処理部およびCW変調処理部を代わりに設けることで、上記実施例と同じ手法を実現することができる。
【0066】
このように図8,図9のような変調方式の組み合わせでも、位相差から算出した距離と周波数差から算出した距離の差分が所定値以上だった場合、2周波変調異常やFM変調異常と判断し、ステップ208においてエラー判定処理を行い、異常判定をすることができ、変調処理における周波数切替処理部に異常が発生している状態を、精度良く検知する車載用レーダ計測装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0067】
100 変調切替処理部
101 2周波CW変調処理部
102 FM変調処理部
103 電圧制御型発振器
104 送信アンテナ
105 受信アンテナ
106 ミキサ
107 復調処理部
108 A/D変換部
109 信号処理部
110 異常判定処理部
111 報知装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の送信周波数の変調方式を切り替える変調切替処理部と、
前記変調切替処理部に基づいて切り替えられ、複数の送信周波数の変調方式を、それぞれ処理する複数の変調処理部と、
前記変調切替処理部にて切り替えられた変調処理部から出力される変調電圧に基づいて周波数変調された送信周波数を生成する発振部と、
前記発振部で生成された前記送信信号を送信する送信部と、
送信信号が測定対象物に反射して生成された受信信号を受信する受信部と、
前記送信信号と前記受信信号とを混合してビート信号を生成するビート信号生成部と、
前記変調方式によって異なる距離算出方法を有し、前記ビート信号の変調方式に対応する前記距離算出方法に基づいて前記測定対象物までの距離を算出する距離算出部と、
前記距離算出部によって前記異なる距離算出方法で算出された複数の距離の差分に基づいて変調異常判定を行う異常判定処理部と、を有する車載用レーダ装置。
【請求項2】
請求項1記載の車載用レーダ装置において、
前記異なる距離算出方法は、位相差を用いて前記測定対象物までの距離を算出する第1の距離算出方法と、周波数差を用いて前記測定対象物までの距離を算出する第2の距離算出方法と、を有する車載用レーダ装置。
【請求項3】
請求項2記載の車載用レーダ装置において、
前記複数の変調処理部は、前記第1の距離算出方法で距離を算出する第1の変調方式の送信周波数を処理する第1の変調処理部と、前記第2の距離算出方法で距離を算出する第2の変調方式の送信周波数を処理する第2の変調処理部と、を有する車載用レーダ装置。
【請求項4】
請求項3記載の車載用レーダ装置において、
前記複数の送信周波数の変調方式は、前記第1の変調方式である多周波CW方式と、前記第2の変調方式であるFM変調方式と、を有する車載用レーダ装置。
【請求項5】
請求項1記載の車載用レーダ装置において、
前記距離算出部は、
前記ビート信号にフーリエ変換処理を行い、フーリエ変換スペクトラムを得るフーリエ変換手段と、
前記ビート信号に基づいて変調方式を判断する変調方式判断手段と、
前記変調方式判断手段で判断された変調方式の距離計算方法にて、前記フーリエ変換スペクトラムから前記測定対象物までの距離を算出する距離算出手段と、を有する車載用レーダ装置。
【請求項6】
請求項5記載の車載用レーダ装置において、
前記距離算出手段は、位相差を用いて前記測定対象物までの距離を算出する第1の距離算出手段と、周波数差を用いて前記測定対象物までの距離を算出する第2の距離算出手段と、を有し、
前記異常判定処理部は、前記第1の距離算出手段で算出された前記距離と前記第2の距離算出手段で算出された前記距離との差に基づいて変調異常判定を行う車載用レーダ装置。
【請求項7】
請求項1記載の車載用レーダ装置において、
前記異常判定処理部は、前記異なる距離算出方法で算出された複数の距離の差が予め定めた所定値以上の場合、変調異常であると判定を行う車載用レーダ装置。
【請求項8】
請求項7記載の車載用レーダ装置において、
前記異常判定処理部は、変調異常であると判定された場合、異常発生警告信号を出力するエラー判定手段を有する車載用レーダ装置。
【請求項9】
請求項1記載の車載用レーダ装置において、
前記ビート信号生成部は、
前記送信信号と前記受信信号とを混合してビート信号を生成する混合部と、
前記ビート信号を復調する復調処理部と、
復調されたアナログ信号の前記ビート信号をデジタル信号に変換するA/D変換部と、を有する車載用レーダ装置。
【請求項10】
請求項4記載の車載用レーダ装置において、
前記第1の変調方式である多周波CW方式は、2つの周波数を交互に送信する2周波CW方式である車載用レーダ装置。
【請求項11】
請求項3記載の車載用レーダ装置において、
前記複数の送信周波数の変調方式は、前記第1の変調方式である多周波CW方式と、前記第2の変調方式であって、時間に応じて段階的に周波数を減少又は増加させるStepFM変調方式と、を有する車載用レーダ装置。
【請求項12】
請求項3記載の車載用レーダ装置において、
前記複数の送信周波数の変調方式は、前記第1の変調方式であって、時間に応じて段階的に周波数を減少又は増加させるStepFM変調方式と、前記第2の変調方式であるCW変調方式と、を有する車載用レーダ装置。
【請求項13】
複数の送信周波数の変調方式を切り替える変調切替処理部と、前記変調切替処理部に基づいて切り替えられ、複数の送信周波数の変調方式を、それぞれ処理する複数の変調処理部と、前記変調切替処理部にて切り替えられた変調処理部から出力される変調電圧に基づいて周波数変調された送信周波数を生成する発振部と、前記発振部で生成された前記送信信号を送信する送信部と、送信信号が測定対象物に反射して生成された受信信号を受信する受信部と、前記送信信号と前記受信信号とを混合してビート信号を生成するビート信号生成部と、前記変調方式によって異なる距離算出方法を有し、前記ビート信号の変調方式に対応する前記距離算出方法に基づいて前記測定対象物までの距離を算出する距離算出部と、を有する車載用レーダ装置と、
前記距離算出部によって前記異なる距離算出方法で算出された複数の距離の差分に基づいて変調異常判定を行い、変調異常判定の結果、異常と判定された場合は変調異常発生情報を出力する異常判定処理部を有する処理装置と、
を有する車載用レーダシステム。
【請求項14】
請求項13記載の車載用レーダシステムにおいて、
前記異なる距離算出方法は、位相差を用いて前記測定対象物までの距離を算出する第1の距離算出方法と、周波数差を用いて前記測定対象物までの距離を算出する第2の距離算出方法と、を有する車載用レーダシステム。
【請求項15】
請求項14記載の車載用レーダシステムにおいて、
前記複数の変調処理部は、前記第1の距離算出方法で距離を算出する第1の変調方式の送信周波数を処理する第1の変調処理部と、前記第2の距離算出方法で距離を算出する第2の変調方式の送信周波数を処理する第2の変調処理部と、を有する車載用レーダシステム。
【請求項16】
請求項15記載の車載用レーダシステムにおいて、
前記複数の送信周波数の変調方式は、前記第1の変調方式である多周波CW方式と、前記第2の変調方式であるFM変調方式と、を有する車載用レーダシステム。
【請求項17】
請求項13記載の車載用レーダシステムにおいて、
前記異常判定処理部は、前記異なる距離算出方法で算出された複数の距離の差が予め定めた所定値以上の場合、変調異常であると判定を行う車載用レーダシステム。
【請求項18】
請求項17記載の車載用レーダシステムにおいて、
前記異常判定処理部は、変調異常であると判定された場合、異常発生警告信号を出力するエラー判定手段を有する車載用レーダシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−232115(P2011−232115A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101599(P2010−101599)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】