説明

車載用レーダ

【課題】車載レーダは、内部に位相差と水平角度のテーブルを持ち、計測された位相差と当該に基づいてターゲットの方位角度を算出する。従って、計測される位相差と角度の関係が波うっていると、一つの位相差に対して水平角度が複数点得られることになり、角度を一義的に決めることができない現象が発生する。
【解決手段】直線偏波を放射する一つ又は複数の放射素子を有した平面アンテナと、前記アンテナ面法線方向に複数のスリットを設けた金属とを備えた車載レーダ装置において、当該スリットの間隔を送信アンテナ若しくは受信アンテナの中心から外側に向かって、大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に搭載される車載用レーダに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に搭載されるセンサとして、自車周辺の障害物の方位、自車との相対距離、相対速度等を検出する車載用レーダがある。この中でもミリ波を用いた車載用レーダは超音波レーダやレーザレーダと比較して、雨、霧、雪などの気象条件や、埃、騒音の影響を受けにくいため、自動車の衝突防止や追従走行などに好適なレーダとして注目されている。
【0003】
上述の用途では、図8に示すように、ミリ波車載用レーダ20は移動体21の前面に設置され、アンテナからメインローブmbによって送信信号をターゲット車両22に向かって放射し、ターゲット車両22で反射した信号の送信信号との周波数差、位相差、時間差などを観測することにより、ターゲット車両22までの距離とターゲット車両の速度等を求めることができる。このようなミリ波レーダは、移動体21が停止している時はノイズが小さく、良好な検知性能を持つ。
【0004】
しかし、移動体21の走行時、例えば、矢印24方向に移動速度Vrで走行しているとすると、路面23に角度θで入射されるサイドローブsbからの反射波は次式の相対速度Vsを持つためクラッタノイズとして受信される。
【0005】
【数1】

【0006】
したがって、メインローブmbによるターゲット車両22からの信号がノイズに埋もれ、検知距離劣化や誤検知を引き起こす可能性がある。
【0007】
このような問題を解決するための従来技術として、給電線路がトリプレート構造のパッチアンテナについて、パッチ素子の上部にスリット付の放射窓を設けたスリット板をアンテナ前面に設置し、地導体でアンテナとスリット板を覆うことが知られている(特開平9−51225号公報)。また、平面アンテナの前面にストリップ線路で構成されたスリット板を配置し、平面アンテナと、スリット板とを、その平面アンテナの端部に設けた金属壁を介して接続することが知られている(特開2001−326530号公報)。
【0008】
【特許文献1】特開平9−51225号公報
【特許文献2】特開2001−326530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
車載レーダは、内部に位相差と水平角度のテーブルを持ち、計測された位相差と当該に基づいてターゲットの方位角度を算出する。従って、計測される位相差と角度の関係が波うっていると、一つの位相差に対して水平角度が複数点得られることになり、角度を一義的に決めることができない現象(以後、「水平角度アンビギュイティ」と記載する)が発生する。
【0010】
上記従来技術では、スリット板が等間隔に設けられているため、電波的な特性において、レーダ装置のアンテナの中心から見て外側に向かうほどスリットの開口部の幅が狭くなっているのと等価になる。このため、検出される位相差と角度の関係が波うってしまい、上述した水平角度アンビギュイティの問題が発生する。
【0011】
特に、車載レーダの検知角度範囲を水平方向に広げようとする場合、アンテナに対して斜め方向から入ってくる電波も利用する必要があるため、この水平角度アンビギュイティの問題が顕著となる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、直線偏波を放射する一つ又は複数の放射素子を有する平面アンテナと、前記アンテナ面の法線方向に複数のスリットを設けた金属とを備えた車載レーダにおいて、当該スリットの間隔を送信アンテナ若しくは受信アンテナの中心から外側に向かって増加する構成とする。
【0013】
より好ましくは、
・アンテナ面法線と主偏波方向がつくる面内において、送信または/及び受信アンテナ中心から概等角度にスリットの空隙または/及び金属を設けることを特徴とする。
・アンテナ面法線と主偏波方向がつくる面内において、送信または/及び受信アンテナ中心からの距離が(1/4+n/2)λの距離にあるスリットは空隙とすることを特徴とする。(n=1,2,3,…/λ:波長)
・送信側のアンテナにのみスリットを設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
路面からのクラッタノイズを低減しつつ、アンテナ水平広角度特性における角度アンビギュイティを低減することができ、レーダ装置として優れた検知性能が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0016】
図1及び図2は本発明による車載用レーダの第1の実施形態を表す構成図である。
【0017】
図1は車載用レーダ全体の構成を図2はフロントエンド7のレドーム4が無い状態でアンテナ正面11の方向からみたときの図である。図2(a)はスリットが無い状態のとき、図2(b)はスリットが有る状態のときを示している。
【0018】
まず、フロントエンド7の構成及び本発明の特徴及び効果について詳細を説明する。アンテナ基板10上に構成された送信パッチアンテナ3、受信パッチアンテナ6a、6bは誘電体から成るレドーム4に覆われている。
【0019】
送信パッチアンテナ3、受信パッチアンテナ6a、6bは図3に示すような構造である(なお、ここでは簡略化のため受信パッチアンテナ6a、6bを分けて描画していない)。パッチアンテナは底面に接地導体25を持つ誘電体基板50上に構成される。そしてTEMモードが給電点28から同軸線路等により給電され、マイクロストリップ給電線路26を伝搬し、放射器であるパッチ素子27に電力分配される構造である。パッチ素子27上の矢印12は主偏波の向きで、この向きの偏波が空間を伝搬される。なおパッチアンテナは誘電体基板のケミカルエッチングで加工できることから低コスト、薄型であり、ミリ波レーダとして有望である。
【0020】
図4に戻り、レドームには金属でなる複数のスリット5を設けている。金属は導電性のペーストを印刷したものでもよい。スリット5は電波長に対して十分薄くなっており、長さについては波長に対して十分な長さをとって、スリット5での電波共振によるアンテナ放射パターンの劣化を防止する必要がある。アンテナの主偏波方向は矢印12で表され、スリット5の長手方向が主偏波方向12と直交するように構成することでスリット5は主偏波のみを通過させ、交差偏波を反射させる特性を持つ。次式にスリット5の長手方向と平行な偏波のスリット5の反射係数を示す。
【0021】
スリット幅:Lスリット周期Pとすると
【0022】
【数2】

【0023】
スリット5の長手方向と垂直な偏波のスリット5の反射係数は次式で表される。
【0024】
【数3】

【0025】
なお、λは使用周波数における自由空間波長を表す。
【0026】
上記の2つの式により、交差偏波のみ反射させる本目的においてはP/λ=0.1〜0.3、L/P=0.4〜0.7程度が妥当である。
【0027】
しかし、スリット幅L及びスリット周期Pを一定とすると、アンテナからみたときのスリットの周期は送信及び受信アンテナの中心から外側に向かってスリットの厚みが見えてくるためにL/Pが小さく見える。すなわち、アンテナの中心からみると、外側ほどスリット同士の間の隙間が狭くなっているのと等価になる。これに伴いRverticalとRhorizontalが最適値からはずれてしまい、主偏波の反射を小さくして、交差偏頗の反射を大きくするといった目的を達成できなくなる。
【0028】
この場合のレーダの水平角度特性を図4に示す。図4は受信アンテナを2つ有したレーダについて、アンテナ面法線からの水平角度θにおける受信波A及び受信波Bの位相差ΔLを計測したグラフである。ここで横軸は水平角度θ、縦軸は位相差ΔLである。また、スリット板の搭載の有無に関して、波線が「無」、実線が「有」のときの結果を示している。スリット板を搭載することにより角度θが約15度おきに位相差が波うっており、前述のような角度アンビギュイティが発生していることがわかる。
【0029】
従来のレーダ装置は車間距離制御等の遠距離(数十m〜百数十m)を検知することを目的としており、レーダの検知角度が±8度程度(アンテナの法線方向を0度とする)であったため、前述の角度アンビギュイティの影響は実質的に車輌制御に影響の無い範囲におさまっていた。
【0030】
しかしながら、近年では衝突被害軽減等の、より高度な車輌制御のために、検知角度を±40程度まで拡大することが要求されている。そして検知角度を±40度程度にまで拡大した場合、前述の角度アンビギュイティの影響が無視できないレベルとなる。すなわち、ターゲットの角度の検知誤差が許容できないレベルまで大きくなる場合がある。
【0031】
そこで、本発明のようにスリット5の間隔を送信または/及び受信アンテナの中心から外側に向かって大きくとるようにする。これによればアンテナの中心から外側に向かってスリット5の厚みが見えてきてもL/Pは一定に見える。
【0032】
したがって、図4に示すグラフの破線のように広角度域まで水平角度アンビギュイティが発生しない。さらに、送信アンテナ若しくは受信アンテナ中心から概等角度にスリットの空隙若しくは金属を設けることによりL/Pは概一定とすることができる。
【0033】
また、パッチアンテナの主偏波方向12を路面と水平にすることで、パッチ素子単体の指向性最小になる角度が路面方向となることから、路面からの反射波を低減してクラッタノイズを低減できるので優れている。
【0034】
以下、上記の本発明の原理を適用した車載レーダ装置の実施形態を説明する。
【0035】
図1及び2に戻って、発振器1のミリ波信号は電力増幅器2、給電点9を経て送信パッチアンテナ3に加えられる。ミリ波信号は障害物で反射し、受信パッチアンテナ6a及び6bで受信する。受信信号は給電点9を介し、それぞれがミキサ13a及び13bにより発振器1の出力信号と混合される。混合された信号は、中間周波信号に変換され、信号処理回路8によって構成される信号処理部に入力される。信号処理回路8は、ミキサ13a及び13bにより周波数変換された信号を用いて被検出体の方位を検出する方位検出部30と、被検出体の速度を検出する速度検出部31、距離などを検出する距離検出部32とを含む。これらの検出結果は検出信号として出力され、必要に応じて、表示装置33などの出力装置に適した信号に変換され、出力装置に出力される。
【0036】
また、これらの検出信号は、車両制御に適用される。例えば、追従制御(Adaptive Cruise Control)やプリクラッシュ制御などの機能を有する制御装置やエンジン制御装置へ入力され、先行車に追従した走行制御や障害物を検出して警報を発すること、又は、走行進路を変更すること等で衝突回避を行う衝突回避制御、プリクラッシュ制御に用いられる。
【0037】
更に、これらは、上述の制御とも関係するエンジン制御、制動制御、ステアリング制御へも適用される。エンジン制御は、エンジン制御装置によって、エンジンの吸入空気量、燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期、トルク制御、エンジン回転数などを制御するものである。制動制御はモータによる電動ブレーキ装置、モータなどの電動又は屋の駆動力で駆動されるポンプによって油圧を発生させる油圧ブレーキ装置又は電動ブレーキと油圧ブレーキとを組み合わせたハイブリッド制動装置を制御するものである。ステアリング制御は、ステアリングをモータなどの電動で駆動するもの、油圧を発生するポンプを駆動するものを制御するものである。
【実施例2】
【0038】
図5は本発明による車載用レーダの第2の実施形態を表す構成図である。第1の実施例のアンテナ面法線と主偏波方向12がつくる面内において、送信または/及び受信アンテナ中心からの距離が(1/4+n/2)λの距離にあるスリット5は空隙としている。(n=1,2,3,…/λ:自由空間波長)
(1/4+n/2)λの距離にスリット5の金属部が存在する場合、その金属の存在する方位における障害物をレーダが検知しようとすると受信波は受信パッチアンテナ6a及び6bの中心からスリット5までの伝播距離が往復で(1/2+n)λとなり、本来受信すべき信号は、受信アンテナ6a及び6bの中心とスリット5の金属の間で多重反射して位相が180°反転した反射波と合成され、信号レベルは小さく、位相情報もずれ、図4に示すグラフの実線のように水平角度アンビギュイティが発生するといった問題が発生する。ここで、本発明のように(1/4+n/2)λの距離にあるスリット5を空隙とすることにより、このような不具合を抑制することができ、図4に示すグラフの破線のように広角度域まで水平角度アンビギュイティが発生しないという効果が得られる。
【実施例3】
【0039】
図6は本発明による車載用レーダの第3の実施形態を表す構成図である。第2の実施例のスリット板5を送信パッチアンテナ3側だけに設けている。このとき、受信パッチアンテナ6a及び6bにはスリット5の影響が表れず、かつ、送信パッチアンテナ3のサイドローブは低減してクラッタノイズを抑制できるので優れている。
【実施例4】
【0040】
図7は本発明のスリット5の製造方法を示している。レドーム4を平面部だけ分割し、導電ペーストを平面部に印刷することによりスリット5を設ける。これにより前述の実施例に比べてスリット5のアンテナの法線方向の厚みをより薄くすることができる。
【0041】
図1の実施例で示したようにスリット5の厚みがあると水平角度特性に水平角度アンビギュイティが発生するが、本製造方法によれば、上述の実施例に比べてさらにスリット5の厚みが薄くできるので、アンテナ中心から外側に向かうスリット幅の変化率をより小さくしても、同様に水平角度アンビギュイティを低減することができる。
【0042】
本発明は、レーダ装置の検知の制度、信頼度を高めることができるので、これらの検知結果を用いた制御の信頼性の向上、安定、確実な制御に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1の実施例。
【図2】本発明の第1の実施例のアンテナ正面から見た図。
【図3】従来のパッチアンテナの説明図。
【図4】本発明の課題を表す説明図。
【図5】本発明の第2の実施例。
【図6】本発明の第3の実施例。
【図7】本発明の製造方法を示した図。
【図8】従来の車載用レーダの説明図。
【符号の説明】
【0044】
1…発振器、2…電力増幅器、3…送信パッチアンテナ、4…レドーム、5…スリット、6a…受信パッチアンテナa、6b…受信パッチアンテナb、7…フロントエンド、8…信号処理回路、9,28…給電点、10…アンテナ基板、11…アンテナ正面、12…主偏波方向、13a…ミキサa、13b…ミキサb、30…方位検出部、31…速度検出部、32…距離検出部、33…表示装置、20…ミリ波車載用レーダ、21…移動体、22…ターゲット車両、23…路面、24…移動体の進行方向、25…接地導体、26…マイクロストリップ給電線路、27…パッチ素子、50…誘電体基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線偏波を放射する一つ又は複数の放射素子を有する平面アンテナと、
前記アンテナ面の法線方向に複数のスリットを設けた金属とを備え、
当該スリットの間隔を送信アンテナ若しくは受信アンテナの中心から外側に向かって増加する構成とする車載レーダ。
【請求項2】
前記複数のスリットの長手方向と前記放射素子の主偏波方向とが垂直となるように構成したことを特徴とする請求項1記載の車載レーダ。
【請求項3】
請求項1において、
前記平面アンテナは電波を放射する送信アンテナと、当該放射された電波が物体により反射された反射波を受信する受信アンテナとを構成し、
前記複数のスリットは、前記アンテナ面の法線と前記放射素子の主偏波方向とにより規定される面内において、前記送信アンテナ若しくは前記受信アンテナの中心から概等角度にスリットの空隙若しくは導電性物質を設けて成ることを特徴とする車載レーダ。
【請求項4】
請求項1において、
前記平面アンテナは電波を放射する送信アンテナと、当該放射された電波が物体により反射された反射波を受信する受信アンテナとを構成し、
前記複数のスリットは、前記アンテナ面の法線と前記放射素子の主偏波方向とにより規定される面内において、前記送信アンテナ若しくは前記受信アンテナの中心からの距離が(1/4+n/2)λの位置を空隙とすることを特徴とする車載レーダ。
(n=自然数…/λ:自由空間における電波長)
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項において、
前記スリットは前記送信アンテナに対してのみ設けることを特徴とする車載レーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−58130(P2008−58130A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−234858(P2006−234858)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】