説明

車載装置

【課題】製造コストを抑えつつ、自車両において発生した複数種類の異常についての解析を確実に行うことができる車載装置を提供する。
【解決手段】ディーゼルエンジンを制御するエンジンECUでは、噴射供給された燃料が正常に燃焼しない失火異常や、DPFを通過した排ガスが高温となるDPF過昇温異常等の検知が行われる。また、クランクの回転に同期したタイミングで、エンジン回転数,コモンレール圧,排気温等といった車両状態が検出され、該車両状態を示す車両データがRAMに保存される。そして、失火異常またはDPF過昇温異常が検知されると、その原因等の解析に供するため、検知された異常に応じた保存期間,検出周期での車両状態の変化を示す車両データが選択され、EEPROMに保存される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常を検知する機能を有する車載装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されているECUでは、様々な種類の異常検知が行われる。具体的には、例えば、エンジンを制御するエンジンECUでは、シリンダ内に噴射された燃料ガスが正常に燃焼しない失火異常や、エンジンにおいて振動や金属音が生じるノッキング等の異常検知が行われる。
【0003】
また、特許文献1に記載の車両用データ収集装置は、定期的に他のECUから各種センサ値やアクチュエータの出力値等の車両データを取得してリングバッファに保存し、エンジン回転数の急落が生じると、リングバッファに保存された車両データを専用に設けられた記憶エリアに保存する。これにより、記憶エリアに保存された車両データを用いて、エンジン回転数が急落した原因等を解析することが可能となる。
【0004】
ここで、特許文献1に記載の車両用データ収集装置において、記憶エリアとしてEEPROM等の不揮発性メモリを用いることで、車両用データ収集装置への電力供給の有無に拘らず長期間にわたり車両データを保存することが可能となる。このため、急落の原因等の解析をより確実に行うことが可能となるが、その一方で、車両用データ収集装置の製造コストが増加してしまうという問題が発生する。
【0005】
これに対し、特許文献2には、定期的に得られる各種測定データをRAMに保存すると共に、連続して得られた測定データの変化量等に基づきRAMに保存された測定データを選択し、選択した測定データのみをハードディスク等の記憶装置に保存することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−26380号公報
【特許文献2】特開平10−143543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載の発明を上述の車両用データ収集装置に適用することで、車両データを保存するための記憶エリアの容量を低下させることができ、記憶エリアとして不揮発性メモリを用いる場合であっても、製造コストの増加を抑えることができる。
【0008】
しかしながら、複数種類の異常の検知がなされるエンジンECU等では、各種類の異常についての解析に共通して用いられる車両データ(共通車両データ)が存在することが想定されるが、異常の種類毎に、解析を行ううえで必要となる共通車両データに係るセンサ値等の検出周期が異なる場合が考えられる。また、解析を行うためには、所定の保存期間においてセンサ値等がどのように変化したかを把握することが必要となるが、異常の種類毎にこの保存期間が異なる場合が考えられる。
【0009】
このため、エンジンECU等において、共通車両データを用いて全種類の異常について解析を行うためには、各種類に対応する保存期間を全て包含する期間において、各種類に対応する検出周期のうちの最短の検出周期で検出されたセンサ値等についての共通車両データが必要となる。そして、これらの共通車両データを全て不揮発性メモリに保存するとなると、不揮発性メモリの容量が増加してしまうおそれがある。
【0010】
本願発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、製造コストを抑えつつ、自車両において発生した複数種類の異常についての解析を確実に行うことができる車載装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題に鑑みてなされた請求項1に記載の車載装置は、自車両において発生した複数種類の異常を検知する検知手段と、自車両、或いは、自車両周辺の状態を車両状態とし、予め定められた取得タイミングが到来する度に、該タイミングにおける車両状態を示す車両データであって、複数の種類の異常についての解析に共通して用いられる共通車両データを生成し、揮発性の記憶装置に記憶させる生成手段と、を備える。また、自装置への電力供給が停止した後も記憶されたデータを保持することが可能なデータ記憶手段と、検知手段によりいずれかの種類の異常が検知された後に、記憶装置に記憶されている共通車両データのうち、検知された異常の種類に応じて定められる取得タイミングである保存タイミングにおける車両状態を示す共通車両データを、データ記憶手段に記憶させる保存手段と、を備える。
【0012】
このような構成によれば、異常が発生した場合に、該異常の原因等についての解析を行ううえで必要となる車両データのみがデータ記憶手段に保存され、解析に不要な車両データがデータ記憶手段に保存されることは無い。このため、解析の精度を低下させること無く車両データの保存に要するデータ記憶手段の容量を低下させることができ、製造コストを抑えつつ、自車両において発生した複数種類の異常についての解析を確実に行うことが可能となる。
【0013】
また、共通車両データのみでは、異常についての解析を適切に行うことができないという場合も想定される。
そこで、請求項2に記載の車載装置では、生成手段は、取得タイミングが到来する度に、さらに、いずれか一つの種類の異常についての解析に用いられる車両データである特定車両データを生成し、記憶装置に記憶させ、保存手段は、いずれかの種類の異常が検知されると、さらに、記憶装置に記憶されている該種類の異常についての解析に用いられる特定車両データのうち、該種類についての保存タイミングにおける車両状態を示す特定車両データを、データ記憶手段に記憶させる。
【0014】
こうすることにより、共通車両データに加え、特定の種類の異常にのみ対応する特定車両データを用いて解析を行うことが可能となり、異常についての解析をより適切に行うことが可能となる。
【0015】
また、特定車両データに関しても、解析に必要となるもののみがデータ記憶手段に保存されるため、データ記憶手段の容量の増加を抑えることができ、製造コストを抑えつつ、異常についての解析をより適切に行うことが可能となる。
【0016】
なお、データ記憶手段に保存される共通車両データや特定車両データは、次のようにして選択されても良い。
すなわち、請求項3に記載されているように、それぞれの種類の異常について、解析に用いられる車両状態が検出された期間を保存期間とすると共に、該保存期間において、解析に用いられるそれぞれの車両状態が検出された各タイミングが到来する周期を検出周期とする。そして、保存タイミングは、検知された異常の種類に応じた保存期間に発生した取得タイミングのうちの全部であるか、或いは、これらの取得タイミングのうちから、該種類に応じた検出周期に関する条件を満たすように選択されたものであっても良い。
【0017】
こうすることにより、記憶装置に保存されている車両データのうち、保存期間における車両状態を示すものがデータ記憶手段に記憶されるか、或いは、これらの車両データのうち、異常の種類に対応する周期での車両状態の変化を示すものとして選択された車両データのみがデータ記憶手段に記憶される。このため、データ記憶手段の容量を抑えつつ、データ記憶手段に記憶された共通車両データや特定車両データを用いて、異常についての解析を適切に行うことができる。
【0018】
また、車両のエンジンを制御する車載装置が知られているが、このような車載装置では、エンジンのクランクの角度の変化に同期したタイミングで各種処理が行われる。
そこで、請求項4に記載の車載装置は、自車両のエンジンを制御するよう構成されており、取得タイミングとは、エンジンのクランクの回転に同期したタイミングである。
【0019】
こうすることにより、エンジンを制御するための各種処理の各実行タイミングにおける車両状態の変化を把握することが可能となる。このため、エンジンを制御する車載装置において発生した異常についての解析をより適切に行うことができる。
【0020】
ところで、エンジンにおける異常として、噴射供給された燃料が正常に燃焼しない失火異常が知られており、失火異常の原因等についての解析を行うためには、クランクの回転に同期して行われる燃料の噴射制御等の実行タイミング毎の車両状態を把握することが求められる。
【0021】
一方、ディーゼルエンジンにおける異常として、排ガス中に含まれるPM(粒子状物質)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)を通過した排ガスが高温となるDPF過昇温異常が知られている。このDPF過昇温異常の原因等についての解析を行うためには、失火異常に比べ長周期での車両状態の変化を把握すれば足りるが、失火異常に比べて長い期間にわたる車両状態の変化を把握することが求められる。
【0022】
すなわち、失火異常とDPF過昇温異常とでは、解析を行ううえで要求される上述の保存期間,検出周期が異なっており、DPF過昇温異常は、失火異常に比べより長い保存期間が求められるが、その反面、失火異常よりもより長い検出周期で足りる。
【0023】
そして、仮に、本願発明の車載装置にて、失火異常とDPF過昇温異常についての解析に用いる車両データを保存するとした場合には、失火異常に対応する取得タイミングで(すなわち短周期で)車両状態が検出され、該車両状態を示す車両データが記憶装置に保存される。また、異常検知時には、記憶装置に保存されている車両データのうち、検知された異常に対応する検出周期,保存期間での車両状態の変化を示す車両データのみが、データ記憶手段に保存される。
【0024】
ここで、失火異常についての検出周期とDPF過昇温異常についての保存期間のうちの重複しない期間(非重複期間)に検出された車両状態を示す車両データは、DPF過昇温異常についての解析にしか用いられないが、車両状態は失火異常に対応する検出周期で検出されている。このため、非重複期間に対応する車両データには、いずれの異常についての解析にも用いられないものが含まれている。
【0025】
そこで、請求項5に記載の車載装置は、記憶装置に記憶された車両データのうち、異常の全ての種類についての保存タイミングとならない取得タイミングにおける車両状態を示す車両データを消去する消去手段をさらに備える。
【0026】
こうすることにより、いずれの種類の異常についての解析にも用いられない車両データを記憶装置から消去することができ、車両データを保存するために必要な記憶装置の容量を低減させることができる。このため、異常についての解析を適切に行うことを可能としつつ、車載装置の製造コストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】エンジン制御システムの構成を示すブロック図である。
【図2】エンジンECUの構成と、車両データの構成を示すブロック図である。
【図3】異常検知時に、RAMに設けられたバッファに保存された車両データをEEPROMに設けられた車両データ保存領域に保存する処理についての説明図である。
【図4】車両データ生成処理についてのフローチャートである。
【図5】車両データ保存処理についてのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0029】
[構成の説明]
まず、図1に記載のブロック図を用いて、本実施形態のエンジン制御システム1について説明する。エンジン制御システム1は、車内LAN70に接続されたエンジンECU100(図2参照)を中枢として、車両に搭載されたディーゼルエンジン10における燃料噴射制御等を実施するよう構成されている。なお、図1では、1つの気筒のみを代表して記載している。
【0030】
ディーゼルエンジン10において、吸気管11には、DCモータ等のアクチュエータによって開度調節されるスロットルバルブ12と、スロットル開度を検出するためのスロットル開度センサ13とが設けられている。吸気管11は、図示しないが、EGR弁36の下流にて分岐され、ディーゼルエンジン10の各気筒の吸気ポートに接続されている。
【0031】
また、吸気管11には、吸気圧センサ14が取り付けられており、吸気管11内の吸気圧力を検出してエンジンECU100に出力する。
ディーゼルエンジン10には、気筒ごとにインジェクタ15が配設されている。インジェクタ15は各気筒共通のコモンレール16に接続され、コモンレール16には高圧ポンプ17が接続されている。高圧ポンプ17が駆動されると図示しない燃料タンクから燃料が汲み上げられ、高圧の燃料がコモンレール16に連続的に蓄圧される。また、コモンレール16にはコモンレール16内の燃料圧力(コモンレール圧)を検出するコモンレール圧センサ18が設けられている。
【0032】
ディーゼルエンジン10の吸気ポート及び排気ポートには、それぞれ吸気バルブ21及び排気バルブ22が設けられている。吸気バルブ21の開動作により吸入空気が燃焼室23内に導入され、インジェクタ15より噴射供給された燃料と共に燃焼に供される。燃焼後の排ガスは排気バルブ22の開動作により排気管31に排出される。
【0033】
排気管31の下流には排ガス中に含まれるPM(粒子状物質)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)32と、リーン・NOx・トラップ(LNT)33が設けられている。LNT33は、リーン燃焼のときには排出されたNOxを吸蔵し、吸蔵したNOxが所定値以上となった場合にリッチ燃焼を実施することで、吸蔵したNOxをパージして排出されたNOxの再吸蔵を可能とする。また、NOxは放出時に排気中のHCやCOと還元反応し、O2およびN2に還元される。
【0034】
ディーゼルエンジン10には、排ガスの一部をEGRガスとして吸気系に再循環させるための排ガス再循環装置(EGR装置)が設けられている。すなわち、吸気管11のスロットルバルブ12の下流部と排気管31との間にEGR配管34が設けられている。EGR配管34には環流されるEGRガスを冷却するEGRクーラ35が設けられ、EGR配管34と吸気管11の連結部にはEGRガスの環流量を調節するEGR弁36が設けられている。EGRガスを吸気系に環流することにより燃焼温度が低下し、NOxの発生が抑制される。EGR弁36の開度制御は、エンジン負荷やエンジン回転数などのエンジン運転状態に基づいてエンジンECU100が実行する。
【0035】
ディーゼルエンジン10の燃焼室23内には、燃焼室23内の圧力を検出する筒内圧センサ51が設置されている。この他、エンジン制御システム1には、DPF32の排気入口側と排気出口側で排ガスの温度を検出する排気温センサ52,53、DPF32の排気入口と排気出口の差圧を検出する差圧センサ54、ディーゼルエンジン10の所定クランク角毎に(例えば30°CA周期で)矩形状のクランク角信号を出力するクランク角度センサ55、運転者によるアクセル操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ56、ディーゼルエンジン10の冷却水の温度を検出する水温センサ57等が備えられている。
【0036】
また、図2(a)に記載されているように、エンジンECU100は、CPU、ROM、RAM111等よりなる周知のマイクロコンピュータ等からなり、ROMに記憶された制御プログラムを実行することでエンジンECU100を統括制御する制御部110と、車内LAN70を介して他のECUと通信を行う通信部120と、各種情報を記憶する不揮発性メモリであるEEPROM130等から構成されている。
【0037】
なお、EEPROM130は、シリアルバス型のものとして構成されていても良いし、フラッシュメモリとして構成されていても良い。また、EEPROM130に替えて、ハードディスク等を用いても良い。
【0038】
エンジンECU100には、スロットル開度センサ13,吸気圧センサ14,コモンレール圧センサ18,筒内圧センサ51,排気温センサ52,53,差圧センサ54,クランク角度センサ55,アクセル開度センサ56,水温センサ57等からの検出信号が入力される。そして、制御部110は、これらの検出信号に基づきディーゼルエンジン10の動作状態等を判別し、判別結果に基づき周知の方法により燃料噴射制御処理等を行い、ディーゼルエンジン10のトルクの制御等を実施する。この燃料噴射制御処理は、クランク角度センサ55からの検出信号から判別されるクランク角の変化に同期したタイミングで実行される。
【0039】
[動作の説明]
次に、本実施形態のエンジンECU100の動作について説明する。
既に述べたように、エンジンECU100の制御部110は、燃料噴射制御処理等を実行するが、この燃料噴射制御処理では、インジェクタ15より噴射供給された燃料が正常に燃焼しない失火異常や、DPF32を通過した排ガスが高温となるDPF過昇温異常等の検知処理が行われる。そして、これらの異常が検知された際には、対策として周知のフェールセーフ処理等が行われる。
【0040】
なお、失火異常は、クランク角度センサ55からの検出信号から判別されるクランク角の変化から算出されたエンジン回転数の変動等に基づき、周知の方法により検知される。また、DPF過昇温異常は、DPF32の排気出口側に設けられた排気温センサ53からの信号に基づき検出された排気温が、所定値を超えるか否かにより検出される。
【0041】
ここで、エンジン回転数,ディーゼルエンジン10の冷却水の温度,車速等といった自車両の状態や、車外温度,大気圧等の自車両周辺の状態を、併せて車両状態と呼ぶ。
失火異常が生じた場合には、失火異常が生じた時点の付近の期間での、燃料噴射制御処理の各実行タイミングにおける車両状態の変化に基づき、その原因等を解析することができる。また、DPF過昇温異常に関しても、DPF過昇温異常が生じた時点の付近の期間において、定期的に(燃料噴射制御処理の実行周期よりも長い周期で)検出された車両状態に基づき、その原因等を解析することができる。
【0042】
なお、各異常の解析に用いられる車両状態が検出された期間を保存期間、解析に用いられる車両状態を検出する各タイミングが到来する周期を検出周期と記載する。
制御部110は、一例として、これらの二つの異常の原因等の解析に供するため、自車両の運転中、クランク角の変化に同期した燃料噴射制御処理の実行タイミング(例えば、クランク角が720°変化する度に到来するタイミング)を取得タイミングとし、該取得タイミングにおける車両状態を検出する。そして、検出した車両状態を示す車両データを生成し、生成した車両データを時系列データとしてRAM111に設けられたバッファ111aに保存する。
【0043】
図2(b)には、車両データの構成を示すブロック図が記載されている。図2(b)に記載されているように、車両データは、失火異常及びDPF過昇温異常についての解析に共通して用いられる共通車両データと、特定の一つの異常についての解析に用いられる特定車両データとから構成されている。
【0044】
この共通車両データは、エンジン回転数や、ディーゼルエンジン10の冷却水の水温や、車速や、車外の気温である車外温度や、自車両周辺の大気圧等を示すデータとして構成されている。
【0045】
一方、特定車両データとして、失火異常についての解析に用いられるものと、DPF過昇温異常についての解析に用いられるものが存在する。
失火異常についての解析に用いられる特定車両データは、コモンレール圧や、インジェクタ15からの1回の噴射における燃料の噴射量や、インジェクタ15からの燃料の噴射タイミングや、アクセル開度等を示すデータとして構成されている。
【0046】
また、DPF過昇温異常についての解析に用いられる特定車両データは、DPF32を通過した排ガスの温度である排気温や、自車両の累積走行距離や、DPF32の排気入口と排気出口の差圧等を示すデータとして構成されている。
【0047】
そして、失火異常やDPF過昇温異常が検知された際には、バッファ111aに保存された車両データのうち、発生した異常の種類に応じた検出周期,保存期間に対応する取得タイミングにおける車両状態を示す車両データが選択され、選択された車両データのみが、EEPROM130の車両データ記憶領域131に保存される。
【0048】
具体的には、失火異常に関しては、失火異常が検知された時点を終点とするTa(ms)にわたる期間が保存期間(失火異常保存期間)となり、また、車両状態の各取得タイミング(燃料噴射制御処理の実行タイミング)が到来する周期が、検出周期となる。このため、図3(a)に記載されているように、失火異常が検知された場合には、バッファ111aに保存されている車両データのうち、失火異常保存期間に検出された車両状態についての車両データが全て選択される。そして、選択された車両データにおける共通車両データ及び失火異常に対応する特定車両データが、車両データ記憶領域131に保存される。なお、失火異常保存期間に到来した取得タイミングが、特許請求の範囲における保存タイミングに相当する。
【0049】
一方、DPF過昇温異常に関しては、DPF過昇温異常が検知された時点を終点とするTa(ms)よりも長いTb(ms)にわたる期間が、保存期間(DPF過昇温異常保存期間)となる。また、車両状態の検出がなされる取得タイミング(燃料噴射制御処理の実行タイミング)が到来する時間間隔として想定される最長値よりも長い一定の時間(例えば、100ms)が、検出周期の下限値(DPF過昇温異常検出周期)となる。
【0050】
そして、図3(b)に記載されているように、各車両データが示す車両状態の取得タイミングの時間間隔がDPF過昇温異常検出周期以上の長さとなり、且つ、なるべく多くの車両データを保存するという条件を満たすように、DPF過昇温異常保存期間に対応する車両データの中から、保存するものが選択される。そして、選択された車両データにおける共通車両データ、及び、DPF過昇温異常に対応する特定車両データが、車両データ記憶領域131に保存される。
【0051】
より詳しく説明すると、DPF過昇温異常が検知されると、最新の車両データに対応する取得タイミングが保存タイミングとして設定されると共に、該保存タイミングを終点とするDPF過昇温異常検出周期の長さの無効期間に到来した取得タイミングに対応する車両データが無効化される。そして、該無効期間が開始される直前に到来した取得タイミングが、新たに保存タイミングとして選択される(なお、これらの一連の処理を選択処理と記載する)。
【0052】
さらに、新たに選択された保存タイミングを無効期間の終点として同様の選択処理が行われ、DPF過昇温異常保存期間に到来した全ての取得タイミングに対する無効化或いは保存タイミングの設定がなされるまで、該選択処理が繰り返し行われる。そして、最終的に、保存タイミングにおける車両状態を示す車両データにおける共通車両データ及びDPF過昇温異常に対応する特定車両データが、車両データ記憶領域131に保存される。
【0053】
次に、車両データを生成してバッファ111aに保存する車両データ生成処理について、図4に記載のフローチャートを用いて説明する。なお、本処理は、クランク角の変化に同期した取得タイミング(例えば、クランク角が720°変化する度に到来するタイミング)で実行される。
【0054】
S205では、エンジンECU100の制御部110は、クランク角度センサ55から出力されるクランク角信号に基づくエンジン回転数の算出や、水温センサ57からの信号に基づく冷却水の水温の検出や、コモンレール圧センサ18からの信号に基づくコモンレール圧の検出を行う。また、アクセル開度センサ56からの信号に基づくアクセル開度の検出や、DPF32の排気出口側に設けられた排気温センサ53からの信号に基づく排気温の検出や、差圧センサ54からの信号に基づくDPF32の排気入口と排気出口の差圧の検出を行う。そして、S210に処理を移行する。
【0055】
S210では、制御部110は、車内LAN70を介して、他の装置から、自車両の現在の車速や、自車両周辺の車外温度や、自車両周辺の大気圧や、累積走行距離等を取得する。なお、これらの情報を新たに取得できなかった場合には、前回取得した情報を最新情報として用いても良い。そして、S215に処理を移行する。
【0056】
S215では、制御部110は、当該車両データ生成処理と並行して実行されている燃料噴射制御処理に用いられるメモリを参照し、燃料の噴射量や噴射タイミングを検出し、S220に処理を移行する。
【0057】
S220では、制御部110は、S205〜S215にて検出された情報を示す車両データ(図2(b)参照)を生成すると共に、RAM111のバッファ111aに保存し、本処理を終了する。
【0058】
次に、失火異常やDPF過昇温異常が検知された際に、バッファ111aに保存されている車両データをEEPROM130の車両データ記憶領域131に保存する車両データ保存処理について、図5に記載のフローチャートを用いて説明する。なお、本処理は定期的なタイミングで実行される。
【0059】
S305では、制御部110は、バッファ111aに保存されている車両データのうち、失火異常とDPF過昇温異常の双方の解析に不要な車両データ(失火異常やDPF過昇温異常が検知された際に、車両データ記憶領域131に保存されることの無い車両データ)を特定し、特定した車両データをバッファ111aから消去する。
【0060】
具体的には、現時点でDPF過昇温異常が検知されたと仮定し、現時点を終点とするTb(ms)にわたるDPF過昇温異常保存期間を設定すると共に、現時点で失火異常が検知されたと仮定し、現時点を終点とするTa(ms)にわたる失火異常保存期間を設定する。
【0061】
また、DPF過昇温異常保存期間の始点よりも前の取得タイミングに対応する車両データを、バッファ111aから消去すると共に、DPF過昇温異常保存期間のうち、失火異常保存期間と重複しない期間を非重複期間とする。そして、非重複期間における車両データのうちの最新の車両データを残す前提で、残された車両データに対応する取得タイミングの時間間隔がDPF過昇温異常検出周期以上の長さとなり、且つ、なるべく多くの車両データを残すという条件を満たすように、非重複期間に対応する車両データをバッファ111aから消去する(より詳しくは、上述の選択処理と同様の処理を繰り返し行うことで、消去する車両データが設定される)。
【0062】
車両データの消去が終了すると、制御部110は、S310に処理を移行する。
S310では、制御部110は、燃料噴射制御処理において失火異常或いはDPF過昇温異常が検知されたか否かを判定し、肯定判定が得られた場合には(S310:Yes)、S315に処理を移行すると共に、否定判定が得られた場合には(S310:No)、本処理を終了する。
【0063】
S315では、制御部110は、失火異常が検知されたか否かを判定し、肯定判定が得られた場合には(S315:Yes)、S320に処理を移行すると共に、否定判定が得られた場合には(S315:No)、S325に処理を移行する。
【0064】
S320では、制御部110は、上述したように、バッファ111aに保存された車両データのうち、失火異常保存期間における取得タイミングに対応する全ての車両データを選択する。そして、選択した車両データにおける共通車両データ及び失火異常に対応する特定車両データを車両データ記憶領域131に保存し、本処理を終了する。
【0065】
一方、S325では、制御部110は、上述した選択処理を行い、DPF過昇温異常に対応する保存タイミングを設定する。そして、保存タイミングに対応する車両データにおける共通車両データ及びDPF過昇温異常に対応する特定車両データを車両データ記憶領域131に保存し、本処理を終了する。
【0066】
[効果]
本実施形態のエンジンECU100によれば、失火異常、或いは、DPF過昇温異常が発生した場合に、発生した異常の原因等についての解析を行ううえで必要となる共通車両データ及び特定車両データのみがEEPROM130に保存され、解析に不要な車両データがEEPROM130に保存されることは無い。このため、解析の精度を低下させること無く、車両データの保存に要するEEPROM130の容量を低下させることができ、製造コストを抑えつつ、失火異常やDPF過昇温異常についての解析を確実に行うことが可能となる。
【0067】
[他の実施形態]
(1)本実施形態では、エンジンECU100において、失火異常とDPF過昇温異常の2種類の異常が検知された際に、各異常についての解析に必要な車両データをEEPROM130に保存する場合を例に挙げて説明を行った。しかしながら、3種類以上の異常が検知され、各異常についての解析に必要な車両データを保存する場合であっても、同様の処理を行うことができる。また、エンジンECU100以外の他のECUや、ハイブリッド車両や電気自動車に搭載されたECUにおいても、同様の処理を行うことができる。
【0068】
なお、例えば3種類の異常が検知され、各異常に対応する車両データを保存する場合には、各異常をA〜C異常とすると、いずれかの2種類の異常についての解析に共通して用いられる車両データを共通車両データとしても良いし、A〜C異常の3種類の異常についての解析に共通して用いられる車両データを共通車両データとしても良い。
【0069】
また、異なる種類の異常の解析に用いられる複数の共通車両データを生成してバッファ111aに保存しても良い。そして、異常が検知された際には、同様にして異常の種類に応じて保存タイミングを設定し、該保存タイミングに対応する共通車両データのうち、検知された異常の種類に応じた共通車両データをEEPROM130の車両データ記憶領域131に保存しても良い。
【0070】
このような場合であっても、解析の精度を低下させること無く、車両データの保存に要するEEPROM130の容量を低下させることができ、製造コストを抑えつつ、異常についての解析を確実に行うことが可能となる。
【0071】
(2)また、本実施形態のエンジンECU100では、クランクの回転に同期したタイミングが車両状態についての取得タイミングとなっているが、これに限定されることは無く、例えば、一定の時間を周期として到来するタイミングを取得タイミングとしても良い。
【0072】
また、本実施形態では、各異常についての保存期間として、異常が検知された時点以前の期間が設定されているが、異常が検知された時点以後の期間を含む保存期間を設定しても良い。なお、このような保存期間が設定された異常が検知された場合には、例えば、異常検知時点から所定時間が経過し、該保存期間に対応する車両データがバッファ111aに保存された後に車両データ保存処理を実行することが考えられる。
【0073】
このような場合であっても、同様の効果を得ることができる。
[特許請求の範囲との対応]
上記実施形態の説明で用いた用語と、特許請求の範囲の記載に用いた用語との対応を示す。
【0074】
エンジンECU100が車載装置に相当する。
また、エンジンECU100における制御部110におけるRAM111が記憶装置に、EEPROM130がデータ記憶手段に相当する。
【0075】
また、車両データ生成処理が生成手段に相当し、車両データ保存処理におけるS310,S315が検知手段に、S320,S325が保存手段に、S305が消去手段に相当する。
【符号の説明】
【0076】
1…エンジン制御システム、10…ディーゼルエンジン、11…吸気管、12…スロットルバルブ、13…スロットル開度センサ、14…吸気圧センサ、15…インジェクタ、16…コモンレール、17…高圧ポンプ、18…コモンレール圧センサ、21…吸気バルブ、22…排気バルブ、23…燃焼室、31…排気管、32…DPF、33…LNT、34…EGR配管、35…EGRクーラ、36…EGR弁、51…筒内圧センサ、52…排気温センサ、53…排気温センサ、54…差圧センサ、55…クランク角度センサ、56…アクセル開度センサ、57…水温センサ、70…車内LAN、100…エンジンECU、110…制御部、111…RAM、111a…バッファ、120…通信部、130…EEPROM、131…車両データ記憶領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両において発生した複数種類の異常を検知する検知手段と、
自車両、或いは、自車両周辺の状態を車両状態とし、予め定められた取得タイミングが到来する度に、該タイミングにおける前記車両状態を示す車両データであって、複数の種類の前記異常についての解析に共通して用いられる共通車両データを生成し、揮発性の記憶装置に記憶させる生成手段と、
自装置への電力供給が停止した後も記憶されたデータを保持することが可能なデータ記憶手段と、
前記検知手段によりいずれかの種類の前記異常が検知された後に、前記記憶装置に記憶されている前記共通車両データのうち、検知された前記異常の種類に応じて定められる前記取得タイミングである保存タイミングにおける前記車両状態を示す前記共通車両データを、前記データ記憶手段に記憶させる保存手段と、
を備えることを特徴とする車載装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車載装置において、
前記生成手段は、前記取得タイミングが到来する度に、さらに、いずれか一つの種類の前記異常についての解析に用いられる前記車両データである特定車両データを生成し、前記記憶装置に記憶させ、
前記保存手段は、いずれかの種類の前記異常が検知されると、さらに、前記記憶装置に記憶されている該種類の前記異常についての解析に用いられる前記特定車両データのうち、該種類についての前記保存タイミングにおける前記車両状態を示す前記特定車両データを、前記データ記憶手段に記憶させること、
を特徴とする車載装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車載装置において、
それぞれの種類の前記異常について、解析に用いられる前記車両状態が検出された期間を保存期間とすると共に、該保存期間において、解析に用いられるそれぞれの前記車両状態が検出された各タイミングが到来する周期を検出周期とし、
前記保存タイミングは、検知された前記異常の種類に応じた前記保存期間に発生した前記取得タイミングのうちの全部であるか、或いは、これらの取得タイミングのうちから、該種類に応じた前記検出周期に関する条件を満たすように選択されたものであること、
を特徴とする車載装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載の車載装置において、
前記車載装置は、自車両のエンジンを制御するよう構成されており、
前記取得タイミングとは、前記エンジンのクランクの回転に同期したタイミングであること、
を特徴とする車載装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の車載装置において、
前記記憶装置に記憶された前記車両データのうち、前記異常の全ての種類についての前記保存タイミングとならない前記取得タイミングにおける前記車両状態を示す前記車両データを消去する消去手段をさらに備えること、
を特徴とする車載装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−251521(P2012−251521A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126477(P2011−126477)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】