説明

車載診断装置及び触媒層の浄化性能の劣化判定方法

【課題】 車両の速度の変動時においても、触媒層の浄化性能の劣化判定を、劣化判定の信頼度を損なわずに行うことが可能な車載診断装置を提供する。
【解決手段】 ステップS110において、CPU301は、浄化率算出前期間中央浄化率が測定浄化率よりも小さいか否かを判断する。この処理において、CPU301は、ステップS108の処理において記憶された浄化率算出前期間中央浄化率と、ステップS101の処理において記憶された測定浄化率とを比較し、浄化率算出前期間中央浄化率が測定浄化率よりも小さいと判断した場合には、オゾン浄化触媒層105が正常であると判定して、本サブルーチンを終了する。また、CPU301は、浄化率算出前期間中央浄化率が測定浄化率よりも小さいと判断しなかった場合には、オゾン浄化触媒層105が異常であると判定して、ステップS112に処理を移す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中のオゾン(O)等の化学物質を浄化するための触媒層が劣化しているか否かについて判定する車載診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの国では、車両から排出されるガス(排出ガス)の各種規制を行っている。例えば、米国のカリフォルニア州では、排出ガス中の非メタン有機ガス(NMOG;Non−Methane Organic Gases)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOX)等の排出規制を行っている。この規制により、カリフォルニア州で車両を販売している各メーカは、NMOG等の排出規制値(車両毎の規制値/メーカ平均としての規制値)を守ることが義務付けられている。このため各メーカは、低排出ガス車両(LEV;Low Emission Vehicle)や排出ガスのない車両(ZEV;Zero Emission Vehicle)の開発を盛んに行っている。
【0003】
ところで、このような排出規制は、近年における環境に対する意識の高まりから徐々に規制を厳しくする方向になっている。その一方で、排出ガス低減の技術開発が間に合わない場合のこと等を考慮した制度を設けている例もある。例えば、カリフォルニア州の排出ガス規制のうちNMOGに関しては、車両に直接オゾン還元技術(DOR;Direct Ozone Reduction)を使用するメーカや車両は、NMOG認定を受けることができるとされている。つまり(図11参照)、光化学スモッグ(オゾン;O)は、NOXやNMOGが太陽光により化学変化して発生することから、カリフォルニア州では、直接オゾン還元技術としてのオゾン分解触媒(オゾン浄化触媒)によりオゾンを分解(浄化)しながら走行する車両やこのような車両を販売しているメーカに、NMOGの排出量を削減したとみなす所定の特典(NMOGクレジット)を与えることとしている。このため、メーカは、DORを使用したオゾン浄化装置として、例えば車両のラジエータの表面(ラジエータフィンの表面)にオゾン浄化触媒層を設けたオゾン浄化装置(例えば、特許文献1、2参照。)付きの車両の販売を行ったりしている。
【0004】
ところが、このようなオゾン浄化装置のオゾン浄化性能は一定ではなく、触媒の劣化や触媒層の剥離等により低減する。このため、NMOGクレジットは、15万マイル(約24万km)走行後、もしくは15年走行後のオゾン分解性能(オゾン浄化性能)に応じて与えられる。よって、各メーカは、15万マイル走行後、もしくは15年走行後のオゾン浄化性能の値を各種試験により車種ごと、モデルごとに求めて、その値か、その値よりも低い申請値でNMOGクレジットの適用申請を当局に行っている。とはいえ、新車のときには申請値を満たしていても、車両の使用状況によっては、15万マイル走行前、もしくは15年走行前に申請値を下回る不適切な事態が生じうる。このような事態に対して保守・点検等の対策が適切に行えるようにするため、メーカは、車両の全有効使用期間中、オゾン浄化装置のオゾン浄化性能と耐久性能を実証しなければならず、オゾン浄化装置のオゾン浄化性能をモニタする車載診断装置(OBD)を車両に搭載して、しかるべき排気制御保証を行わなければならない。このため、各メーカはOBDの開発を行っている。
【0005】
従来、オゾン浄化装置のオゾン浄化性能をモニタする方法としては、オゾンセンサを用いてオゾン浄化触媒層を通流する空気のオゾン濃度を測定する方法がある。この方法では、オゾン浄化触媒層が設けられたラジエータの前後にオゾンセンサを配置し、浄化前後のオゾン濃度を計測することにより、オゾン浄化触媒層のオゾン浄化性能の劣化判定を行う(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
上記のように、オゾン浄化触媒層のオゾン浄化性能は、ラジエータを通過する空気流の速度と、オゾンセンサから測定されたオゾン濃度から算出するオゾン浄化率(測定浄化率)とから劣化判定することが可能である。すなわち、触媒のオゾン浄化性能を劣化判定するためには、ラジエータを通過する空気流の速度に対応する劣化判定閾値(後述する“ηc”)を求め、図12に示すようなオゾン浄化触媒層を通過する空気流の速度とオゾン浄化率との関係図を用いて、劣化判定閾値と測定浄化率(後述する“η”)とを比較すればよい。
【0007】
具体的なオゾン浄化触媒層のオゾン浄化性能の劣化判定(以下、適宜劣化判定という)フローは、以下のようになる。
【0008】
まず、オゾンセンサから測定された濃度からオゾン浄化率を算出する。この測定浄化率を“η”とする。この測定のとき、オゾン浄化触媒層を通過する空気流の速度を風速“V”とする。風速Vを求める手法としては、車両の速度(車速)から推測する手法、あるいは風速計を用いて直接測定する手法がある。
【0009】
次に、図12に示す関係図を用いて、風速Vに対応する劣化判定閾値を求め、この値を“ηc”とする。
【0010】
そして、測定浄化率ηと劣化判定閾値ηcを比較し、η<ηcのときに、オゾン浄化触媒層のオゾン浄化性能が劣化したと判定する。
【特許文献1】特開2001−247017号公報
【特許文献2】特開2001−347829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、図13に示すように、オゾンセンサを用いたオゾン浄化率の測定はオゾンセンサの特性上、風速の変動、すなわち、車速の変動に対して応答遅れが発生するため、リアルタイムな測定をすることが困難であった。すなわち、真の浄化率は、車速変動に対してリアルタイムに変動するが、測定浄化率ηは、車速変動に対して応答遅れが発生する。このため、車速変動時に劣化判定を行うと、オゾン浄化触媒層のオゾン浄化性能が劣化していないにもかかわらず、η>ηcとなって誤った判定が下されてしまう場合があった。従って、オゾン浄化触媒層のオゾン浄化性能の劣化判定を行う場合には、応答遅れが収束するまで、車速を一定に保持して走行する必要があった。
【0012】
しかし、実際の路上では、図14に示すように、車速を何度も変動させて走行する必要があるため、オゾンセンサの応答遅れが収束するまで一定車速で走行する状況は、高速道路上を走行するというような状況を除き、考えづらい。
【0013】
上記の対策として、劣化判定閾値ηcを小さくすることが考えられるが、劣化判定閾値ηcを小さくすると、劣化判定の信頼度が損なわれることになる。
【0014】
このように、従来のOBDでは、車速変動があることを理由として、オゾン浄化触媒のオゾン浄化性能の劣化判定を行える状況が非常に限られていた。
【0015】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両の速度の変動が起こった場合にも、触媒層の浄化性能の劣化判定を、劣化判定の信頼度を損なわずに行うことが可能な車載診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
以上のような目的を達成するために、本発明は、以下のようなものを提供する。
【0017】
(1) 車両の速度変動に対応して、通流する空気中の化学物質を浄化する触媒層の浄化性能の劣化判定を行う車載診断装置であって、前記車両の速度を測定する車両速度測定手段と、前記車両速度測定手段によって測定された前記車両の速度を記憶する車両速度記憶手段と、当該車両速度記憶手段によって記憶された前記車両の速度から、前記触媒層の浄化性能である浄化率を算出する前における最高速度である浄化率算出前期間最高速度、及び前記触媒層の浄化性能である浄化率を算出する前における最低速度である浄化率算出前期間最低速度を抽出する車両速度抽出手段と、前記触媒層を通過する前後の前記空気中の化学物質濃度を検出する濃度検出手段と、前記濃度検出手段の検出結果に基づいて触媒層の浄化率を算出する浄化率算出手段と、前記浄化率に基づいて、前記触媒層の浄化性能の劣化判定を行う劣化判定手段と、を備える車載診断装置であって、前記触媒層の浄化性能に応じて前記車両の速度毎に対応した暫定浄化率範囲を記憶している暫定浄化率範囲記憶手段と、前記浄化率算出前期間最高速度に対応した最高速度暫定浄化率範囲、及び前期浄化率算出前期間最低速度に対応した最低速度暫定浄化率範囲を抽出し、最高速度暫定浄化率範囲と最低速度暫定浄化率範囲の重複範囲を浄化率重複範囲として算出するとともに、当該浄化率重複範囲の中央値を算出する中央値算出手段を備え、前記劣化判定手段は、前記浄化率重複範囲の中央値よりも、前記浄化率が小さい場合に、前記触媒層が劣化していると判定する車載診断装置。
【0018】
ここで、「浄化率算出前期間最高速度」とは、触媒層の浄化性能である浄化率を算出する前の最高速度(車速)である。また、「浄化率算出前期間最低速度」とは、触媒層の浄化性能である浄化率を算出する前の最低速度である。
【0019】
(1)によれば、浄化率算出前期間最高速度に対応する暫定浄化率範囲と、浄化率算出前期間最低速度に対応する暫定浄化率範囲の重複範囲である浄化率重複範囲の中央値を、触媒層の浄化性能の劣化判定の基準とする。車両の速度の変動による濃度検出手段の応答遅れによって検出される浄化率は、浄化率算出前の車両の速度変動に対応して検出されるものである。ただし、浄化率算出時を基準にして、濃度検出手段の応答遅れの時間以前の車速変動は、浄化率算出結果に影響を与えるものではない。従って、浄化率算出前期間の長さを濃度検出手段の応答遅れの時間よりも長い時間に設定した場合には、触媒層の浄化性能の劣化判定の基準を、浄化率算出前期間最高速度と浄化率算出前期間最低速度に対応可能な浄化率重複範囲の中央値とすることで、触媒層の浄化性能が本当に劣化している場合を除いて、測定浄化率が浄化率重複範囲の中央値よりも小さくなることはない。すなわち、(1)によれば、車両の速度の変動が起こった場合にも、触媒層の浄化性能の劣化判定の信頼度を損なわずに、触媒層の浄化性能の劣化判定を行うことが可能な車載診断装置を提供することが可能である。
【0020】
(2) 車両の速度変動に対応して、通流する空気中の化学物質を浄化する触媒層の浄化性能の劣化判定方法であって、前記触媒層の劣化の実測として実測浄化率の算出をするとともに、前記触媒層の浄化率の算出をする以前の所定の単位期間内の最高速度に対応した暫定浄化率範囲と、前記触媒層の浄化率の算出をする以前の所定の単位期間内の最低速度に対応した暫定浄化率範囲との重複範囲を浄化率重複範囲として算出し、前記浄化率重複範囲の中央値を算出し、前記測定浄化率が前記浄化率重複範囲の中央値よりも小さいときには、前記触媒層が劣化していると判定する触媒層の浄化性能の劣化判定方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、車両の速度の変動が起こった場合にも、触媒層の浄化性能の劣化判定の信頼度を損なわずに、触媒層の浄化性能の劣化判定を行うことが可能な車載診断装置を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明に好適な実施形態について図面に基づいて説明する。
【0023】
以下、本発明に係る車載診断装置(以下、OBD(Onboard Diagnostic Device)という)を乗用車に適用した場合を例に挙げ、図面を参照して説明する。図1は、本発明に係るOBDが適用される自動車の全体図、図2(a)は、図1中のラジエータを拡大して示す斜視図、図2(b)は、図2(a)中のラジエータを拡大して示す部分拡大図である。
【0024】
図1、図2(a)及び図2(b)に示すように、車両である乗用車101の前部側には熱交換器としてのラジエータ102が設置されている。このラジエータ102は、上下方向に延び内部をエンジン(図示せず)の冷却液が上方から下方へと下向きに流れる複数の冷却管103,103,…と、各冷却管103の間に固着して設けられた多数の放熱フィン104とによって大略構成されている。そして、ラジエータ102は、乗用車101の走行時等に熱くなったエンジンの冷却液の熱を空気中に放出し、冷却液を常時適温に保つものである。
【0025】
ここで、ラジエータ102を構成する冷却管103の外表面および放熱フィン104の外表面には、オゾン浄化触媒層105が有機バインダ(図示せず)等の接着手段を用いて全面に亘って塗布されている。そして、このオゾン浄化触媒層105は、走行時にラジエータ102の各放熱フィン104間を通流する空気中の化学物質であるオゾン(O)を、酸素(O)に分解(浄化)し、空気中のオゾンを低減するものである。
【0026】
なお、本発明において、上記オゾン浄化触媒層105は、車両の走行により空気中のオゾンを酸素に浄化処理可能であれば特に限定されるものではない。すなわち、図1に示す通り、オゾン浄化触媒層105の上流側からの空気がオゾン浄化触媒層105を通過することによって空気中のオゾンが酸素に浄化処理可能であれば特に限定されるものではない。このように、オゾン浄化触媒層105は、車両に搭載され、通流する空気中の化学物質を浄化する触媒層の一例であり、車両に搭載され、通流する空気中の化学物質を浄化する触媒層としては、その他の化学物質を浄化する触媒層であってもよい。
【0027】
図1に示すOBD106は、オゾン浄化触媒層105の触媒の浄化能をモニタするための検出装置である。すなわち、オゾン浄化触媒層105は、走行距離等の増加に伴って徐々に剥離していくため、OBD106によって、オゾン浄化触媒層105の劣化判定を行う必要がある。
【0028】
図1に示すように、OBD106は、ラジエータ102の近傍に固定して取り付けられたオゾンセンサ201,202と、オゾンセンサ201,202による出力値に基づいて所定の処理(例えば、アラーム信号を生成する処理等)を行う処理装置であるECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)205と、このECU205によって生成されるアラーム信号に基づいて点灯、消灯するミルイルミネーション(以下、ミルという)215とによって構成されているが、その他の部材を含む構成にしてもよい。
【0029】
次に、図3を用いて、本発明に係るOBDのオゾン浄化率の測定手法について説明する。図3は、本発明に係るOBDの略式概略図である。
【0030】
OBD106は、図3に示す通りオゾン浄化触媒層105の上流側に、空気を採取するための上流側管体203を介して(第1の)オゾン濃度検出手段であるオゾンセンサ201とオゾン浄化触媒層105の下流側に、空気を採取するための下流側管体204を介して(第2の)オゾン濃度検出手段であるオゾンセンサ202を設けている。なお、ミル215もOBD106を構成しているが、図3においては、省略されている。
【0031】
オゾンセンサ201、202は、例えば図4に示すように、基板51の一方の片面(図4においては上面)に導線52を介してセンサ層53が配置され、そして反応性を向上させる目的で基板51の他方の片面にヒータ54が配置されている。センサ層53は、例えばインジウム−スズ酸化物(ITO)粒子の焼結体等の半導体粒子から形成されている。この半導体粒子は、数ミクロンオーダの二次粒子の表面に数ナノメートルオーダの結晶粒子が析出している。このような結晶中に酸化ガス(オゾン)が吸着すると、結晶中に含まれる自由電子の欠乏層が発生し、電気抵抗が増加すると考えられる。
【0032】
オゾンセンサ201から検出されたオゾンを浄化していない上流側の空気のオゾン濃度に対応するオゾンセンサ201の出力値(X1)と、オゾンセンサ202から検出されたオゾン浄化触媒層105によりオゾンが浄化された下流側のオゾン濃度に対応するオゾンセンサ202の出力値(X2)とは、電気信号としてECU205に送られる。すなわち、オゾンセンサ201、202は、オゾンの濃度に応じて抵抗値を変え、この抵抗値に基づいて電圧をオゾン濃度の電気信号としてECU205に送る構成を有している。そして、ECU205は、これらの出力値に基づいてオゾン浄化率をリアルタイムまたは間欠的に測定する装置である。
【0033】
[OBDの電気的な構成]
次に、図5を用いて、OBD106の電気的な構成について説明する。図5は、OBD106の電気的な構成を示したブロック図である。
【0034】
図5に示すように、OBD106は、濃度検出手段の一例であるオゾンセンサ201,202と、処理手段の一例として機能するECU205と、報知手段の一例であるミル215と、車両速度測定手段の一例である速度センサ220が有線によって接続される構成となっているが、通信手段を備えることによって、無線によって接続されるようにしてもよい。
【0035】
オゾンセンサ201は、上流側の空気のオゾン濃度に対応する出力値(X1)を、オゾンセンサ202は、下流側のオゾン濃度に対応する出力値(X2)を、電気信号として、後述するECU205に送る。CPU301は、送られたオゾン濃度に対応する出力値に基づいて、浄化率を算出する。このように、オゾンセンサ201,オゾンセンサ202は、触媒層を通過する前後の空気中の化学物質の濃度を検出する濃度検出手段の一例として機能する。
【0036】
車両速度測定手段の一例として機能する速度センサ220は、車両の速度(車速)に対応する出力値を、電気信号として、後述するECU205に送る。CPU301は、送られた車両の速度に対応する出力値に基づいて、車速を算出する。
【0037】
ECU205は、制御手段の一例であるCPU301、CPU301に所定の動作を行わせるためのプログラムや後述するミル点灯開始浄化率範囲のデータ等が記憶されているROM303、オゾン浄化率のデータ、車速のデータなどの測定値等を一時的に記憶するRAM305等で構成される。ここで、後述するように、ROM303は、暫定浄化率範囲記憶手段の一例として機能する。また、RAM305は、車両速度記憶手段の一例として機能する。
【0038】
なお、本実施形態において、プログラム等を記憶する記憶手段として、ROM303、RAM305を用いるように構成したが、これに限らず、制御手段であるCPU301により読み取り可能な記憶媒体であれば別態様であってもよく、例えば、ハードディスク装置、CD−ROM及びDVD−ROM、ROMカートリッジ等の記憶媒体に、プログラム等が記録されていてもよい。
【0039】
[ミル点灯開始浄化率範囲の設定]
次に、オゾン浄化触媒層105のオゾン浄化性能の劣化判定において、オゾン浄化触媒層105(図1参照)が劣化している場合に、ミル215(図5参照)の点灯を開始するNMOGクレジット(大気浄化クレジット値)の範囲又は浄化率の範囲(ミル点灯開始浄化率範囲)について図6を用いて説明する。図6は、Fresh時と申請値における大気浄化クレジット値を示す特性図である。
【0040】
アメリカ(例えばカルフォルニア州)の法規(例えば、Manufacturer’s Advisory Correspondence)上では、NMOGクレジット(大気浄化クレジット値)の適用申請を当局に行うに当って、オゾン浄化触媒層105の浄化性能が劣化した場合に劣化検出を行うことが義務付けられている。このため、OBD106(図5参照)を用いてオゾン浄化触媒層105のオゾン浄化性能の劣化判定を的確に行う必要がある。
【0041】
図6において、縦軸はオゾン浄化触媒層105のオゾン浄化性能の一つの目安(指標)である大気浄化クレジット値(NMOGクレジット)の一例を示す。この大気浄化クレジット値は、以下の式1によって定められるものである。
【0042】
【数1】

【0043】
一方、上記法規に従うと、取得する大気浄化クレジット値に応じて、ミル215の点灯を開始させる範囲(以下、ミル点灯開始クレジット範囲)が設定される。
【0044】
例えば、オゾン浄化触媒層105が新品(Fresh)な状態で走行試験を行った場合の大気浄化クレジット値がa(mg/マイル)とする。また、通常運転で15万マイルもしくは15年を走行する試験を行った場合の大気浄化クレジット値を、オゾン浄化触媒層105の製品保証を行うための大気浄化クレジット値の申請値b(mg/マイル)とする。理想的には、オゾン浄化性能としての大気浄化クレジット値が申請値b(mg/マイル)を下回ったときに警告灯であるミルを点灯すべきであるが、大気浄化クレジット値を厳密に測定することは非常に困難であるため、法規では、申請値b(mg/マイル)をミル点灯開始クレジット範囲の上限として設定するように記載されている。すなわち、オゾン浄化触媒層105の大気浄化クレジット値がb以上である場合には、オゾン浄化触媒層105の浄化性能は劣化しておらず、性能を維持しているものとし、このときには、OBD106のミル215(図1参照)は消灯状態に保持しなければならない。
【0045】
一方、ミル点灯開始クレジット範囲の下限c(mg/マイル)(図6参照)は、当該車両の排出規制への適合レベルと申請値b(mg/マイル)から設定できることが法規に記載されている。すなわち、オゾン浄化触媒層105の大気浄化クレジット値がc以下である場合には、オゾン浄化触媒層105の浄化性能は劣化しているとし、このときには、OBD106のミル215(図1参照)は点灯状態に保持しなければならない。このように、オゾン浄化触媒層105の浄化性能が劣化した場合は、大気浄化クレジット値がbを下回ってから、大気浄化クレジット値がcを下回るまでにミル215(図1参照)を点灯させて、運転者にオゾン浄化触媒層が劣化していることを警告する必要がある。
【0046】
上述したように、大気浄化クレジット値は、オゾン浄化率とラジエータ通過風量の積に比例するため、オゾン浄化率とラジエータ通過風量をモニターする必要がある。通過風量については、ラジエータ102(図1参照)の放熱量から測定する方法や、熱線式風速計を用いて測定する方法がある。またラジエータ102(図1参照)の機能不全状態、所謂オーバーヒート状態になったかどうかを監視することによりラジエータの風量をモニターしても良い。このような方法でミル点灯開始風量範囲を設定することが可能であり、ミル点灯開始風量範囲を設定すれば、ミル点灯開始浄化率範囲も決まる。
【0047】
ここで、ミル点灯開始浄化率範囲は、オゾン浄化触媒層の浄化性能(の指標である大気浄化クレジット)に応じて所定の速度毎に対応した暫定浄化率範囲の一例と言える。
【0048】
なお、車速とオゾン浄化率の関係及び風量は車両の種類(車種)によって変化するので、ミル点灯開始浄化率範囲と、車速の関係は車種毎に求める必要がある。
【0049】
次に、図7(a)、図7(b)及び図8を用いて、オゾン浄化触媒層のオゾン浄化性能の劣化判定の基準(クライテリア)となる浄化率算出前期間中央浄化率、及び浄化率算出前期間中央浄化率を算出するために必要な浄化率算出前期間中央浄化率範囲の算出方法について説明する。
【0050】
ここで、「浄化率算出前期間最高速度」とは、オゾン浄化触媒層のオゾン浄化率を算出する以前の所定の期間の最高速度である。また、「浄化率算出前期間最低速度」とは、オゾン浄化触媒層のオゾン浄化率を算出する以前の所定の期間の最低速度である。これら「所定の期間」は、任意に設定できる。そして後述するように、浄化率算出時を基準としてオゾンセンサ201,202の応答遅れの時間以上前から、浄化率算出までの期間を浄化率算出前期間とすることにより、更に正確な劣化判定を行うことが可能となる。加えて、浄化率算出時を基準としてオゾンセンサ201,202の応答遅れの時間とほぼ同じ時間前から、浄化率算出までの期間を浄化率算出前期間とすることにより、更に、劣化判定までに要する時間を短縮することが可能となる。
【0051】
浄化率算出前期間中央浄化率、および浄化率算出前期間浄化率範囲を求めるにあたり、図7(b)に示すように、オゾン浄化触媒層105のオゾン浄化性能のオゾン浄化率を算出する以前の車速をデータとして取得する。この車速のデータは、後述するように、ECU205を構成するRAM305(図5参照)に記憶される。この記憶された車速のうち、浄化率算出前期間の最高速度を浄化率算出前期間最高速度Vmax、浄化率算出前期間の最低速度を浄化率算出前期間最低速度Vminとして抽出する。本実施形態においては、オゾンセンサ201,202(図5参照)の応答速度から換算することにより、車速変動による浄化率変動が起こった場合の応答遅れの時間を60秒として、浄化率算出60秒前から浄化率算出までの車速のうちの最高速度を浄化率算出前期間最高速度Vmaxとして抽出し、浄化率算出60秒前から浄化率算出までの車速のうちの最低速度を浄化率算出前期間最低速度Vminとして抽出する。そして、浄化率算出前期間最高速度Vmax及び浄化率算出前期間最低速度Vminに対応しているミル点灯開始浄化率範囲を抽出する。ミル点灯開始浄化率範囲は、ROM303(図5参照)に予め記憶されている。すなわち、ROM303は、触媒層の浄化性能に応じて定められる車両の速度毎に対応したミル点灯開始浄化率範囲を記憶している暫定浄化率範囲記憶手段の一例として機能する。
【0052】
次に、浄化率算出前期間最高速度Vmaxにおけるミル点灯開始浄化率範囲Δηmax、並びに浄化率算出前期間最低速度Vminにおけるミル点灯開始浄化率範囲Δηminを抽出する。具体的には、浄化率算出前期間最高速度Vmaxにおけるミル点灯開始浄化率範囲下限以上ミル点灯開始浄化率範囲上限以下の範囲(Δηmax)を定めるとともに、浄化率算出前期間最低速度Vminにおけるミル点灯開始浄化率範囲下限以上ミル点灯開始浄化率範囲上限以下の範囲(Δηmin)を定める。
【0053】
次に、浄化率算出前期間最高速度Vmaxにおけるミル点灯開始浄化率範囲Δηmaxと浄化率算出前期間最低速度Vminにおけるミル点灯開始浄化率範囲Δηminとの重複範囲を中央浄化率範囲として算出する。すなわち、浄化率算出前期間最高速度Vmaxにおけるミル点灯開始浄化率範囲上限又は浄化率算出前期間最低速度Vminにおけるミル点灯開始浄化率範囲上限のうち、値が小さい方を最大浄化率ηmaxとする。また、浄化率算出前期間最高速度Vmaxにおけるミル点灯開始浄化率範囲下限又は浄化率算出前期間最低速度Vminにおけるミル点灯開始浄化率範囲下限のうち、値が大きい方を最小浄化率ηminとする。そして、最小浄化率ηmin以上最大浄化率ηmax以下の浄化率の範囲を浄化率算出前期間中央浄化率範囲Δηmidとする。このように、ΔηmaxとΔηminの重複範囲を浄化率算出前期間中央浄化率範囲(Δηmid)とする。
【0054】
具体的には、図7(a)を用いて説明すると、浄化率算出前期間最高速度Vmaxにおけるミル点灯開始浄化率範囲上限と、浄化率算出前期間最低速度Vminにおけるミル点灯開始浄化率範囲上限とでは、浄化率算出前期間最高速度Vmaxにおけるミル点灯開始範囲上限の方が小さい。また、浄化率算出前期間最高速度Vmaxにおけるミル点灯開始浄化率範囲下限と、浄化率算出前期間最低速度Vminにおけるミル点灯開始浄化率範囲下限とでは、浄化率算出前期間最低速度Vminにおけるミル点灯開始浄化率範囲下限の方が大きい。従って、浄化率算出前期間最高速度Vmaxにおけるミル点灯開始浄化率範囲上限を最大浄化率ηmaxとするとともに、浄化率算出前期間最低速度Vminにおけるミル点灯開始浄化率範囲下限を最小浄化率ηminとして、最小浄化率ηmin以上最大浄化率ηmax以下の浄化率の範囲を浄化率算出前期間中央浄化率範囲Δηmidとする。
【0055】
[OBDシステムのオゾン浄化率測定精度について]
なお、車速変動によっては、浄化率算出前期間中央浄化率範囲ΔηmidがOBD106の測定精度よりも狭くなる場合があり、誤検知の可能性がある。例えば、このような車速変動時には検知を行わないようにしなければならない。
【0056】
次に、浄化率算出前期間中央浄化率範囲Δηmidの中央値、すなわち、最小浄化率ηminと最大浄化率ηmaxの間の中央の値を、オゾン浄化触媒層105の劣化判定の基準(クライテリア)となる浄化率算出前期間中央浄化率ηmidとして算出する。
【0057】
ここで、車速の変動時には、オゾンセンサ201、202の応答遅れを原因としたオゾン浄化率の検出の応答時間の遅れが生じる。このような状況において、オゾン浄化触媒層105のオゾン浄化率を算出し、浄化率算出時の車速に対応するミル点灯開始浄化率範囲の中央浄化率(以下、浄化率算出時中央浄化率)を判定基準として、オゾン浄化性能の劣化判定を行った場合、オゾン浄化率の検出の応答時間の遅れのために、本来劣化していないのにもかかわらず、算出したオゾン浄化率が浄化率算出時中央浄化率以下となってしまい、ミル215が点灯されてしまう場合がある。または、本来劣化しているにもかかわらず、算出したオゾン浄化率が浄化率算出時中央浄化率以上となってしまい、ミル215が点灯しない場合がある。このように、オゾン浄化触媒層105のオゾン浄化性能の劣化判定を正しく行えない場合がある。
【0058】
そこで、浄化率算出前における車両の速度変化を考慮していない浄化率算出時中央浄化率を、劣化判定の基準にする代わりに、車両の速度変化に対する浄化率の検出の応答時間遅れを考慮した浄化率算出前期間中央浄化率ηmidを、オゾン浄化触媒層105の浄化性能の劣化判定の基準とすることで、車速の変動時にもオゾン浄化触媒層105のオゾン浄化性能の劣化判定を行うことができる。
【0059】
具体的に、図8に基づいて説明する。図8には、車速、浄化率算出時中央浄化率、実測されたオゾン浄化率、浄化率算出前期間中央浄化率ηmidが記載されている。本実施形態の場合、オゾンセンサ201,202の応答遅れが約60秒のため、浄化率算出前期間の長さを60秒としてある。また、OBDシステムの浄化率測定精度は真の浄化率に対して−12%としてある。
【0060】
図8に示すように、車速変動がされた場合、オゾンセンサ201,202を用いたオゾン浄化率の測定はオゾンセンサの特性上、真の浄化率に対して応答遅れが発生する。このため、測定された浄化率(以下、測定浄化率又は実測浄化率)と真の浄化率との間に誤差が生じる。特に、130秒から150秒の間のような大きな車速変動がされた場合は、測定浄化率と真の浄化率との間に大きな誤差を生じるので、測定浄化率が浄化率測定時中央浄化率より低くなってしまう。例えば、140秒付近では、測定浄化率が30.1%であるのに対し、浄化率測定時中央浄化率は32.9%となり、対策を講じない場合には、140秒付近でミル215が点灯してしまうため、車両の乗員に対して間違った警告が行われてしまう。
【0061】
そこで、上記のように、浄化率算出前期間中央浄化率ηmidを、オゾン浄化触媒層105の浄化性能の劣化判定の基準とすることで、車速の変動時にもオゾン浄化触媒層105の浄化性能の劣化判定を行うことができる。例えば、140秒付近での浄化率算出前期間中央浄化率は28.0%であり、測定浄化率の30.1%よりも小さい値となるため、ミル215が点灯することはない。ただし、車速変動が大きすぎると、浄化率算出前期間中央浄化率範囲ΔηmidがOBDシステムの浄化率測定精度よりも狭くなるため、誤った判定を行う可能性がある。したがって、浄化率算出前期間中央浄化率範囲ΔηmidがOBDシステムの浄化率測定精度よりも狭くなるような車速変動の場合は、検知を中断しなければならない。
【0062】
車両の速度の変動によるオゾンセンサ201,202の応答遅れによって本来よりも遅れて測定される測定浄化率は、測定前の車速の影響を受けるものである。ただし、測定時を基準として応答遅れの時間以前の車速の影響は受けない。そこで、オゾン浄化触媒層105のオゾン浄化性能の劣化判定の基準を、浄化率算出前期間における最高速度に対応するミル点灯開始範囲と浄化率算出前期間における最低速度に対応するミル点灯開始範囲の重複範囲の浄化率算出前期間中央浄化率ηmidとして、かつ浄化率算出前期間の長さをオゾンセンサ201,202の応答遅れの時間よりも長くし、かつ浄化率算出前期間中央浄化率範囲ΔηmidがOBDシステムの測定精度よりも狭くない場合、オゾン浄化触媒層105のオゾン浄化性能が本当に劣化している場合を除いて、測定浄化率が浄化率算出前期間中央浄化率ηmidよりも小さくなることはなく、かつオゾン浄化触媒層105のオゾン浄化性能が本当に劣化している場合は、測定浄化率が浄化率算出前期間中央浄化率ηmidよりも大きくなることはない。このように、車速の変動が起こった場合にも、オゾン浄化触媒層105のオゾン浄化性能の劣化判定の信頼度を損なわずに劣化判定を行うことが可能なOBD106を提供することが可能である。
【0063】
具体的には、高速道路のような一定の車速を維持できる場所ばかりでなく、市街地を含む一般道のように、速度の起伏が存在する状況においても、誤判定を防止して、オゾン浄化触媒層105のオゾン浄化性能の劣化判定を可能とする。
【0064】
また、上述したように、浄化率算出時を基準としてオゾンセンサ201,202の応答遅れの時間以上前から、浄化率算出直前までの最高速度を浄化率算出前期間最高速度Vmaxとし、最低速度を浄化率算出前期間最低速度Vminとした場合は、車速変動に伴う浄化率変動によって、オゾンセンサ201,202の応答遅れが生じたとしても、VmaxからVminの間の車速変動に対応可能な浄化率算出前期間中央浄化率ηmidを基準として劣化判定が行われるため、誤判定を特に防止することができる。さらに、浄化率算出時を基準としてオゾンセンサ201,202の応答遅れの時間とほぼ同じ時間前から、浄化率算出直前までの最高速度を浄化率算出前期間最高速度Vmaxとし、最低速度を浄化率算出前期間最低速度Vminとした場合(例えば、浄化率算出の60秒前から浄化率算出直前の車速のうちの最高速度をVmax、最低速度をVminとした場合)は、誤判定の防止に加えて、劣化判定までに要する時間を特に短縮することができる。
【0065】
[劣化判定処理フロー]
次に、OBD106で実行される処理を図9に示す。図9は、オゾン浄化触媒層のオゾン浄化性能の劣化判定処理のフローチャートである。
【0066】
図9に示すように、まず、ステップS100において、ECU205を構成する制御手段の一例であるCPU301(図5参照)は、車速算出記憶処理を行う。この処理において、CPU301は、速度センサ220(図5参照)から電気信号として送られる車両の速度に対応する出力値に基づいて、車速を算出し、算出した車速をRAM305(図5参照)に記憶させる。すなわち、CPU301及び速度センサ220は、車両の速度を測定する車両速度測定手段の一例として機能する。また、RAM305は、測定された車両の速度を記憶する車両速度記憶手段の一例に相当する。この処理が終了した場合は、ステップS101に処理を移す。
【0067】
ステップS101において、CPU301は、浄化率算出処理を実行する。この処理において、CPU301は、測定期間中において、オゾンセンサ201,202から電気信号として送られた出力値に基づいて浄化率を算出し、この算出された浄化率を測定浄化率としてRAM305に記憶させる。この処理が終了した場合は、ステップS102に処理を移す。このように、浄化率を算出するCPU301は、触媒層を通過する前後の空気中の化学物質の濃度を検出し、この検出結果に基づいて所定時間内の触媒層の浄化率を算出する浄化率算出手段の一例として機能する。また、RAM305は、算出された浄化率を記憶する浄化率記憶手段の一例として機能する。
【0068】
ステップS102において、CPU301は、浄化率算出前期間最高速度及び浄化率算出前期間最低速度の抽出処理を行う。この処理において、CPU301は、ステップS100の処理においてRAM305(図5参照)に記憶された車速から、浄化率算出前期間における最高車速である浄化率算出前期間最高速度Vmax及び浄化率算出前期間における最低車速である浄化率算出前期間最低車速Vminを抽出する。このように、CPU301は、車両速度記憶手段によって記憶された車両の速度から、触媒層のオゾン浄化率を算出する以前における最高速度である浄化率算出前期間最高速度、及び最低車速である浄化率算出前期間最低車速を抽出する車両速度抽出手段の一例として機能する。この処理が終了した場合は、ステップS103に処理を移す。
【0069】
ステップS103において、CPU301は、浄化率算出前期間最高速度におけるミル点灯開始浄化率範囲と浄化率算出前期間最低速度におけるミル点灯開始浄化率範囲を抽出する。この処理において、CPU301は、ROM303(図5参照)に予め記憶されている各速度におけるミル点灯開始浄化率範囲のデータを読み出し、浄化率算出前期間最高速度Vmaxにおけるミル点灯開始浄化率範囲及び浄化率算出前期間最低速度Vminにおけるミル点灯開始浄化率範囲を抽出し、RAM305に記憶させる。この処理が終了した場合は、ステップS104に処理を移す。このように、CPU301は、浄化率算出前期間最高速度に対応しているミル点灯開始浄化率範囲、及び浄化率算出前期間最低速度に対応しているミル点灯開始浄化率範囲を抽出するミル点灯開始浄化率範囲抽出手段の一例として記憶する。
【0070】
ステップS104において、CPU301は、浄化率算出前期間中央浄化率範囲算出記憶処理を実行する。この処理において、CPU301は、浄化率算出前期間最高速度Vmaxにおけるミル点灯開始浄化率範囲上限、及び浄化率算出前期間最低速度Vminにおけるミル点灯開始浄化率範囲上限を抽出し、値の小さい方を最大浄化率ηmaxとしてRAM305に記憶させる。また、浄化率算出前期間最高速度Vmaxに対応しているミル点灯開始浄化率範囲下限、及び浄化率算出前期間最低速度Vminにおけるミル点灯開始浄化率範囲下限を抽出し、値の大きい方を暫定最小浄化率ηminとしてRAM305に記憶させる。
【0071】
更に、ステップS104において、CPU301は、最小浄化率ηmin以上最大浄化率ηmax以下の浄化率の範囲を浄化率算出前期間中央浄化率範囲(Δηmid)としてRAM305に記憶させる。この処理が終了した場合は、ステップS106に処理を移す。このように、CPU301は、浄化率算出前期間最高速度Vmaxに対応しているミル点灯開始浄化率範囲と、浄化率算出前期間最低速度Vminに対応しているミル点灯開始浄化率範囲との重複範囲を浄化率重複範囲として算出する浄化率算出前期間中央浄化率範囲算出手段の一例として機能する。
【0072】
ステップS106において、CPU301は、浄化率算出前期間中央浄化率範囲がOBDシステム測定精度よりも狭いか否かを判断する。この処理において、CPU301は、ステップS104の処理において記憶された浄化率算出前期間中央浄化率範囲とRAM305に記憶されていたOBDシステム測定精度を比較し、浄化率算出前期間中央浄化率範囲がOBDシステム測定精度よりも狭いと判断した場合には、ステップS100に処理を移し、浄化率算出前期間中央浄化率範囲がOBDシステム測定精度よりも狭いと判断しなかった場合には、ステップS108に処理を移す。ここで、浄化率算出前期間中央浄化率範囲は、浄化率重複範囲の一例である。
【0073】
ステップS108において、CPU301は、浄化率算出前期間中央浄化率算出記録処理を実行する。この処理において、CPU301は、RAM305に記憶された最小浄化率ηminと最大浄化率ηmaxとの中央値(平均値)、すなわち、浄化率算出前期間中央浄化率範囲の中央値を浄化率算出前期間中央浄化率ηmidとして算出し、算出された浄化率算出前期間中央浄化率ηmidをRAM305に記憶させる。この処理が終了した場合は、ステップS110に処理を移す。ここで、浄化率算出前期間中央浄化率範囲の中央値は、浄化率重複範囲の中央値の一例である。このように、CPU301は、浄化率重複範囲の中央値を算出する中央値算出手段の一例として機能する。また、RAM305は、浄化率重複範囲の中央値を記憶する中央浄化率記憶手段の一例として機能する。
【0074】
ステップS110において、CPU301は、浄化率算出前期間中央浄化率が測定浄化率よりも小さいか否かを判断する。この処理において、CPU301は、ステップS108に記憶された浄化率算出前期間中央浄化率ηmidとステップS101の処理において記憶された測定浄化率を比較し、浄化率算出前期間中央浄化率ηmidが測定浄化率よりも小さいと判断した場合には、オゾン浄化触媒層105が正常であると判定して、本サブルーチンを終了する。また、CPU301は、浄化率算出前期間中央浄化率ηmidが測定浄化率ηよりも小さいと判断しなかった場合には、オゾン浄化触媒層105が異常であると判定して、ステップS112に処理を移す。このように、CPU301は、浄化率に基づいて、触媒層の浄化性能の劣化判定を行う劣化判定手段の一例として機能する。
【0075】
更には、CPU301は、測定浄化率が、浄化率重複範囲の中央値よりも浄化率が小さい場合に、触媒層が劣化していると判定する劣化判定手段の一例として機能する。
【0076】
ステップS112において、CPU301は、ミル点灯制御処理を実行する。この処理において、CPU301は、ミル215を点灯させる制御を行う。この処理が終了した場合は、本サブルーチンを終了する。
【0077】
上記のように、OBD106によって、車両の速度変動に対応して、通流する空気中の化学物質を浄化する触媒層の浄化性能の劣化判定が行われる。具体的には、浄化率算出以前の期間における最高速度に対応したミル点灯開始浄化率範囲と浄化率算出以前の期間における最低速度に対応したミル点灯開始浄化率範囲の重複範囲を浄化率重複範囲として算出するとともに、浄化率重複範囲の中央値を算出し、実測浄化率が浄化率重複範囲の中央値よりも小さいときには、触媒層が劣化していると判定する触媒層の浄化性能の劣化判定が行われる。
【0078】
なお、本実施形態においては、車両として乗用車を一例として記載したが、これに限らず、車両としては、普通自動車、小型自動車、及び軽自動車ばかりではなく、大型自動車、特殊自動車等でもよい。
【実施例】
【0079】
所定の車種が所定の運転モードで走行した場合に、上記に説明したオゾン浄化触媒層のオゾン浄化性能の劣化判定を行った。浄化率算出前期間=60s、OBDシステム検知測定精度=24%における検知可能領域を、図10に示す。
【0080】
その結果、従来のOBDの検知可能領域は0%であるのに対し、図10に示すように、本発明に係るOBD106の検知可能領域は100%となり、検知可能領域が大幅に増加した。したがって、車速の変動が起こった場合にも、オゾン浄化触媒層105の浄化性能の劣化判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施形態に係る車載診断装置が適用される自動車の全体図である。
【図2】本実施形態に係る車載診断装置に適用するオゾン浄化触媒層の一例を示す図面である。
【図3】本実施形態に係る車載診断装置を示す略式概略図である。
【図4】本実施形態に係る車載診断装置に適用されるオゾンセンサの一例を示す図面である。
【図5】本実施形態に係る車載診断装置の電気的な回路を示すブロック図である。
【図6】Fresh時と申請値における大気浄化クレジット値を示す特性図である。
【図7】(a)は、変化する車速に対応するミル点灯開始範囲下限と、ミル点灯開始範囲上限とを示した関係図である。(b)は、車速の変動を示した説明図である。
【図8】経過時間に対応して実測されたオゾン浄化率と、真の浄化率、算出時中央浄化率、及び算出前期間中央浄化率とを追加した関係図である。
【図9】本実施形態に係る車載診断装置において実行される制御処理を示すフローチャートである。
【図10】本発明に係る車載診断装置の実施例を示す図面である。
【図11】従来技術による光化学スモッグの発生原因とオゾン浄化触媒を備えた乗用車を示す説明図である。
【図12】従来技術によるオゾン浄化触媒層を通過する空気流の速度と、オゾン浄化率との関係図である。
【図13】車速における測定浄化率と真の浄化率を示す特性図である。
【図14】時間における車速と、測定浄化率と真の浄化率を示す特性図である。
【符号の説明】
【0082】
101 乗用車
102 ラジエータ
103 冷却管
104 放熱フィン
105 オゾン浄化触媒層
106 OBD
201,202 オゾンセンサ
203 上流側管体
204 下流側管体
205 ECU
215 ミル
220 速度センサ
301 CPU
303 ROM
305 RAM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の速度変動に対応して、通流する空気中の化学物質を浄化する触媒層の浄化性能の劣化判定を行う車載診断装置であって、
前記車両の速度を測定する車両速度測定手段と、
前記車両速度測定手段によって測定された前記車両の速度を記憶する車両速度記憶手段と、
当該車両速度記憶手段によって記憶された前記車両の速度から、前記触媒層の浄化性能である浄化率を算出する前における最高速度である浄化率算出前期間最高速度、及び前記触媒層の浄化性能である浄化率を算出する前における最低速度である浄化率算出前期間最低速度を抽出する車両速度抽出手段と、
前記触媒層を通過する前後の前記空気中の化学物質濃度を検出する濃度検出手段と、
前記濃度検出手段の検出結果に基づいて触媒層の浄化率を算出する浄化率算出手段と、
前記浄化率に基づいて、前記触媒層の浄化性能の劣化判定を行う劣化判定手段と、を備える車載診断装置であって、
前記触媒層の浄化性能に応じて前記車両の速度毎に対応した暫定浄化率範囲を記憶している暫定浄化率範囲記憶手段と、
前記浄化率算出前期間最高速度に対応した最高速度暫定浄化率範囲、及び前記浄化率算出前期間最低速度に対応した最低速度暫定浄化率範囲を抽出し、最高速度暫定浄化率範囲と最低速度暫定浄化率範囲の重複範囲を浄化率重複範囲として算出するとともに、当該浄化率重複範囲の中央値を算出する中央値算出手段を備え、
前記劣化判定手段は、前記浄化率重複範囲の中央値よりも、前記浄化率が小さい場合に、前記触媒層が劣化していると判定する車載診断装置。
【請求項2】
車両の速度変動に対応して、通過する空気中の化学物質を浄化する触媒層の浄化性能の劣化判定方法であって、
前記触媒層の劣化の実測として実測浄化率の算出をするとともに、前記触媒層の浄化率の算出をする以前の所定の単位期間内の最高速度に対応した暫定浄化率範囲と、前記触媒層の浄化率の算出をする以前の所定の単位期間内の最低速度に対応した暫定浄化率範囲との重複範囲を浄化率重複範囲として算出するとともに、前記浄化率重複範囲の中央値を算出し、前記実測浄化率が前記浄化率重複範囲の中央値よりも小さいときには、前記触媒層が劣化していると判定する触媒層の浄化性能の劣化判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−69749(P2007−69749A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−259209(P2005−259209)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】