説明

車輪支持装置

【課題】車輪支持装置の組み付け時の作業性をより向上させる。
【解決手段】ある態様の車輪支持装置においては、ナックル12の挿通部の側壁の一部が開放されており、ベアリングユニットをその軸線方向と交わる方向に挿抜可能に構成されている。このため、キャリパ30を取り外すことによりベアリングユニットひいてはドライブシャフト10をナックル12から容易に取り外すことができる。このとき、ナックル12そのものは実質的に分解されず、そのジオメトリを維持したままドライブシャフト10を再度組み付けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を支持する車輪支持装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪の支持装置は一般に、車輪へ回転駆動力を伝達するドライブシャフト、ドライブシャフトに連結される車輪が取り付けられるアクスルハブ、アクスルハブをベアリングを介して回転可能に支持するナックル等を備えている。ナックルは、例えば一方でロアアームを介して車体に連結され、他方でショックアブソーバを介して車体に連結されている。ナックルには、アクスルハブに一体化されたベアリングを挿通して固定する挿通孔が形成されている。また、ナックルには、車両に搭載されたステアリング装置から延びるタイロッドが連結され、その操舵力が伝達されることにより車輪の操舵角を変化させる。ドライブシャフトの回転駆動力は、その先端に接続されたアクスルハブを介して車輪に伝達される(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の車輪支持装置においては、ドライブシャフトとアクスルハブとが一体に形成される一方で、ナックルが複数のナックル構成部に分割されて構成されている。それにより、車輪支持装置の高剛性化を図るとともに組み付け性を向上させている。
【特許文献1】特開2000−71710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両を組み立てる際には、ナックルの車体への組み付け角度を含むホイールアライメントを厳密に調整する必要がある。しかしながら、このようにナックルを分割する構成では、ドライブシャフトをナックルに組み付けた後にそのアライメントを調整することになる。このため、特に車輪支持装置の点検・修理時等においてドライブシャフトを取り外し、再度組み付けるような場合、その度にアライメントの調整を行う必要があり、作業性が悪いといった問題がある。
【0005】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、車輪支持装置の組み付け時の作業性をより向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の車輪支持装置は、ディスクブレーキにより制動力が付与される車輪を支持するものである。この車輪支持装置は、車輪へ回転駆動力を伝達するドライブシャフトと、ドライブシャフトに連結される車輪が取り付けられるアクスルハブと、アクスルハブをベアリングを介して回転可能に支持するナックルと、を備える。ベアリングは、そのインナレース部がアクスルハブに一体に設けられ、アクスルハブと一体のベアリングユニットの形でナックルに着脱可能に構成されている。ナックルは、ベアリングユニットを挿通する挿通部の側壁の一部が開放され、ベアリングユニットをその軸線方向と交わる方向に挿抜可能に構成されている。そして、ディスクブレーキを構成するキャリパのボディが、ナックルの開放部を閉じるように着脱可能に取り付けられることにより、ナックルの側壁の一部を形成するように構成されている。
【0007】
ここで、ベアリングのインナレース部は、ベアリングを形成した後にアクスルハブに固定されるものでもよいし、アクスルハブの外周面の一部がインナレース部として機能するようにアクスルハブに一体成形されたものでもよい。
【0008】
この態様によると、ナックルの挿通部の側壁の一部が開放されており、ベアリングユニットをその軸線方向と交わる方向に挿抜可能に構成されているため、キャリパを取り外すことによりベアリングユニットひいてはドライブシャフトをナックルから容易に取り外すことができる。このとき、ナックルそのものは実質的に分解されず、そのジオメトリを維持したままドライブシャフトを再度組み付けることができる。その結果、そのアライメントの調整を繰り返し行う必要がなくなり、作業性を高く維持できる。また、キャリパがナックルの側壁の一部を形成するため、ナックルとしての剛性を高く保持することができる。さらに、キャリパの組み付けと同時にナックルの形成とキャリパの固定が実現されるため、引用文献1に示されるようにナックルの組み付けとキャリパの組み付けとを別々に行う場合よりも作業工数が減り、その組み付け用の部品点数も削減できる。
【0009】
この場合、アクスルハブがドライブシャフトの一部を構成するように、ドライブシャフトとアクスルハブとが一体に形成されていれば、両者間にガタが生じることもなく、車輪支持装置の剛性をより高く保持でき、締結部品等の部品点数を少なくすることができる。また、ドライブシャフトとアクスルハブとが一体に形成されることで、ベアリングユニットがドライブシャフトに一体化され、結果的にナックルからドライブシャフトをその軸線方向に取り外すことがより困難になる。このため、ナックルに開放部を設けてドライブシャフト等を軸線方向と交わる方向に取り外す有効性がより顕著となる。
【0010】
具体的には、ナックルを車体に連結するロアアームと、ナックルと車体との間に配置されてロアアームの揺動を減衰するショックアブソーバと、車体に搭載されたステアリング装置から延びるタイロッドと、をさらに備えてもよい。ナックルは、ロアアームが連結される第1連結部と、ショックアブソーバが連結される第2連結部と、タイロッドが連結される第3連結部とを有し、各連結部が、ナックルが開放される方向とは異なる方向に延出するように構成されていてもよい。
【0011】
この態様においても、ナックルが車体から取り外されない限り、車体と各連結部との位置関係を保持することができ、また、第1連結部,第2連結部および第3連結部の相対的な位置関係も変化しない。このため、アライメントの再調整が実質的に不要となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車輪支持装置の組み付け時の作業性をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明を実施するための最良の形態について説明する。本実施の形態にかかる車輪支持装置は、ディスクブレーキにより制動力が付与される車輪を支持する装置として構成されている。図1は、車輪支持装置の主要部およびその周辺の構成を示す斜視図である。
【0014】
本実施の形態の車輪支持装置は、ストラット式サスペンションとして構成されている。この車輪支持装置は、車輪に回転駆動力を伝達するドライブシャフト10、車輪を回転自在に支持するナックル12、ナックル12を車体に連結するロアアーム14、およびショックアブソーバ16を備える。
【0015】
ナックル12の中央部には車輪を支持するアクスルハブが挿通され、また、ナックル12によりそのアクスルハブを回転可能に支持するためのベアリングユニットが取り付けられている。ナックル12の側部には、その挿通部の一部を構成するようにキャリパ30が固定されている。キャリパ30は、作動用の液圧が導入されるホイールシリンダ、そのホイールシリンダに供給された液圧によって駆動されるブレーキパッド等を含み、そのブレーキパッドによりディスクロータ32を挟圧して制動力を発生させる。
【0016】
ロアアーム14の基端部は車体に枢支され、その基端部から車幅方向外側に延びる先端部はナックル12にボールジョイントを介して枢支されている。また、ナックル12には、車体に搭載された図示しないステアリング装置から延びるタイロッド18が接続されており、キングピン軸を中心に車輪を回転操作できるように構成されている。
【0017】
ショックアブソーバ16は、作動液が封入されたハウジング20内に図示しないピストンを収容しており、ピストンに形成されたオリフィスを作動液が通過する際の粘性抵抗によって減衰力を発生させる。ハウジング20の下端部は、ナックル12の上端部に連結されている。ハウジング20から突出したピストンロッドの上端部にはアッパースプリングシート22が取り付けられ、ハウジング20の軸方向中央部にはロアースプリングシート24が取り付けられている。アッパースプリングシート22とロアースプリングシート24との間には、コイルスプリング23が介装されている。ピストンロッドの先端にはアッパーマウント21が取り付けられ、ショックアブソーバ16はこのアッパーマウント21を介して車体に取り付けられる。
【0018】
図示しないステアリングホイールから入力される操舵トルクは、図示しないステアリングコラムを介してギヤボックスに伝達される。ギヤボックスにおいては、ステアリングホイールの回転運動が車幅方向の直線運動に変換されて、タイロッド18に伝達される。タイロッド18は、ボールジョイントを介してナックル12に結合されている。運転者がステアリングホイールを操舵すると、そのタイロッド18の運動によってナックル12が揺動し、車輪が転舵される。
【0019】
また、車体にはスタビライザリンク33を介してスタビライザ34が連結されている。スタビライザ34は、略コの字状のトーションバーであり、そのねじれに対する復元力によって車体のロール剛性が高められ、車両旋回時のロールが抑制される。
【0020】
図2は、車輪支持装置の主要部の構成をドライブシャフトの軸線に沿って示す部分断面図である。なお、同図においては便宜上、図1に示した車輪支持装置とは左右反対側の構成が示されている。
【0021】
ドライブシャフト10は、その先端部において等速ジョイント40を介してアクスルハブ11に一体に設けられている。図示のように、アクスルハブ11の一端が拡径されており、その拡径部が等速ジョイント40のアウタレース部を構成している。このため、アクスルハブ11をドライブシャフト10に締結するためのボルト等が不要となっている。
【0022】
アクスルハブ11の軸線方向中央の外周面にはベアリング42が一体に組み付けられ、ベアリングユニットが形成されている。すなわち、アクスルハブ11の外周面によりベアリング42のインナレース部44が構成され、ボール46を介してアウタレース部48が組み付けられている。ベアリング42は、そのアウタレース部48から延びる取付部が複数のボルト50を介してナックル12に着脱可能に固定される。ナックル12の中央に設けられた挿通孔52には、ベアリング42のアウタレース部48およびアクスルハブ11が挿通されている。このような構成により、アクスルハブ11は、ベアリング42を介してナックル12に回転可能に支持されている。アクスルハブ11の等速ジョイント40と反対側には、ディスクロータ32が複数のボルト54を介して車輪(図示せず)とともに締結固定されている。
【0023】
図3は、車輪支持装置の組み付け構成の主要部を概略的に表す分解斜視図である。図4は、キャリパの取付状態を表す説明図である。同図は車輪の内側、つまり図3の左方からみた図に相当するが、説明の便宜上、ドライブシャフトの図示を省略している。
図3に示すように、ナックル12は、円板状のボディ60から下方に延出する第1連結部62、上方に延出する第2連結部64、および車両後方(図の左方)に延出する第3連結部66を有する。第1連結部62には、ボールジョイントを介してロアアーム14が連結される。第2連結部64にはボールジョイントを介してタイロッド18が連結される。第3連結部66には一対のねじ挿通孔68が設けられ、このねじ挿通孔68にボルトを挿通することによりショックアブソーバ16が連結される。
【0024】
一方、ナックル12は、挿通孔52を形成する挿通部の側壁の一部が、車両前方(図の右方)、つまり第3連結部66と反対側に図示のように開放された横溝構造となっている。この開放部53の上下幅はベアリング42の外径とほぼ等しくなっており、ドライブシャフト10の先端部に設けられたベアリングユニットを、その軸線と交わる図中矢印の方向に挿抜可能に構成されている。一方、キャリパ30は、そのボディ70の端部72が開放部53を閉じるようにナックル12に着脱可能に構成されている。
【0025】
図4に示すように、キャリパ30は、そのボディ70の端部72の上下にそれぞれ設けられたフランジ部74にボルト76を挿通し、そのボルト76をナックル12に対してドライブシャフト10(同図には図示せず)の軸線方向に交わる方向(本実施の形態では直角方向)に螺合させることにより締結固定される。それにより、ボディ70がナックル12の側壁の一部を形成するように構成されている。変形例においては、ボルト76をドライブシャフト10の軸線方向と平行な方向に螺合させて締結する構成としてもよい。
【0026】
以上説明したように、本実施の形態の車輪支持装置においては、ナックル12の挿通部の側壁の一部が開放されており、ベアリングユニットをその軸線方向と交わる方向に挿抜可能に構成されている。このため、キャリパ30を取り外すことによりベアリングユニットひいてはドライブシャフト10をナックル12から容易に取り外すことができる。このとき、ナックル12そのものは実質的に分解されず、そのジオメトリを維持したままドライブシャフト10を再度組み付けることができる。その結果、そのアライメントの調整を繰り返し行う必要がなくなり、作業性を高く維持できる。また、キャリパ30がナックル12の側壁の一部を形成するため、ナックル12としての剛性を高く保持することができる。さらに、キャリパ30の組み付けと同時にナックル12の形成とキャリパ30の固定が実現されるため、部品点数や作業工数を削減することができる。
【0027】
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能である。
【0028】
上記実施の形態では、車輪支持装置をストラット式サスペンションとして構成した例を示したが、アクスルを2部品以上のアーム等で支えるその他の独立懸架方式のサスペンションとして構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】車輪支持装置の主要部およびその周辺の構成を示す斜視図である。
【図2】車輪支持装置の主要部の構成をドライブシャフトの軸線に沿って示す部分断面図である。
【図3】車輪支持装置の組み付け構成の主要部を概略的に表す分解斜視図である。
【図4】キャリパの取付状態を表す説明図である。
【符号の説明】
【0030】
10 ドライブシャフト、 11 アクスルハブ、 12 ナックル、 14 ロアアーム、 16 ショックアブソーバ、 18 タイロッド、 30 キャリパ、 32 ディスクロータ、 34 スタビライザ、 40 等速ジョイント、 42 ベアリング、 44 インナレース部、 48 アウタレース部、 52 挿通孔、 53 開放部、 60 ボディ、 62 第1連結部、 64 第2連結部、 66 第3連結部、 68 ねじ挿通孔、 70 ボディ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキにより制動力が付与される車輪を支持する車輪支持装置において、
車輪へ回転駆動力を伝達するドライブシャフトと、
前記ドライブシャフトに連結される車輪が取り付けられるアクスルハブと、
前記アクスルハブをベアリングを介して回転可能に支持するナックルと、を備え、
前記ベアリングは、そのインナレース部が前記アクスルハブに一体に設けられ、前記アクスルハブと一体のベアリングユニットの形で前記ナックルに着脱可能に構成され、
前記ナックルは、前記ベアリングユニットを挿通する挿通部の側壁の一部が開放され、前記ベアリングユニットをその軸線方向と交わる方向に挿抜可能に構成され、
前記ディスクブレーキを構成するキャリパのボディが、前記ナックルの開放部を閉じるように着脱可能に取り付けられることにより、前記ナックルの側壁の一部を形成するように構成されていることを特徴とする車輪支持装置。
【請求項2】
前記アクスルハブが前記ドライブシャフトの一部を構成するように、前記ドライブシャフトと前記アクスルハブとが一体に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車輪支持装置。
【請求項3】
前記ナックルを車体に連結するロアアームと、
前記ナックルと車体との間に配置されて前記ロアアームの揺動を減衰するショックアブソーバと、
車体に搭載されたステアリング装置から延びるタイロッドと、をさらに備え、
前記ナックルは、前記ロアアームが連結される第1連結部と、前記ショックアブソーバが連結される第2連結部と、前記タイロッドが連結される第3連結部とを有し、各連結部が、前記ナックルが開放される方向とは異なる方向に延出するように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車輪支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−89559(P2010−89559A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259340(P2008−259340)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】