説明

車輪用軸受装置

【課題】 軸受を大型化することなく各種軸受情報を検出できる車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】 車輪用軸受装置1は、それぞれ外周に単列の転走面5を有し軸方向に並んで配置されて互いに端面で突き合わせられた2個の内輪3Aと、これら2個の内輪3A,3Aの各転走面5に対向する複列の転走面4を内周に有する外輪2と、これら内外輪の転走面5,4間に介在した複列の転動体6とを備える。2個の内輪3A,3Aの互いに突き合わせられる端面間には、これら2個の内輪3A,3A間に作用する軸力、軸受温度、内外輪間の相対的な回転速度のうちの少なくとも一つの特性を検出するセンサ10を介在させる。センサ10は、センサ素子取付リング11とセンサ素子14とでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受異常、固定状態、回転速度などの各種軸受情報を検出する機能を備えた車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車輪用軸受装置として、図10に示すように、転がり軸受31の内外輪32,33間の軸受空間の両端をシールするシール手段34に、軸受内の温度を測定する温度センサ37を取付けたものが提案されている(例えば特許文献1)。この場合の転がり軸受31は、外輪回転型である複列の円すいころ軸受であり、固定輪である内輪32は軸方向に並ぶ一対の分割内輪32A,32Aを互いに端面で付き合わせた分割型とされ、図示しない軸の外周に嵌合して固定される。シール手段34は、内輪32に取付けたシール部材35と、外輪33に取付けたシール部材36とで構成され、固定輪である内輪32側のシール部材35に温度センサ37が設けられている。転がり軸受31の両端の温度センサ37の配線38を、いずれか片方へまとめて引き出せるように、片方の温度センサ37の配線38は、内輪32の内径面に設けた軸方向溝39を通して引き出される。
【特許文献1】特開2002−130263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、軸受情報として検出することが望まれるものは軸受温度に限らず、軸受固定状態など他の軸受異常情報や回転速度などの情報があり、上記構成の車輪用軸受装置ではこれらの情報は検出できない。また、上記構成の車輪用軸受装置では、温度センサ37をシール部材35に取付けているが、温度センサ以外のセンサを取付ける場合、軸受を大型化することなく取付けることができる構造が求められる。
【0004】
この発明の目的は、軸受を大型化することなく各種軸受情報を検出できる車輪用軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の車輪用軸受装置は、それぞれ外周に単列の転走面を有し軸方向に並んで配置されて互いに端面で突き合わせられた2個の内輪と、これら2個の内輪の各転走面に対向する複列の転走面を内周に有する外輪と、これら内外輪の転走面間に介在した複列の転動体とを備えた車輪用軸受装置であって、前記2個の内輪の互いに突き合わせられる端面間に、これら2個の内輪間に作用する軸力、軸受温度、内外輪間の相対的な回転速度のうちの少なくとも一つの特性を検出するセンサを介在させたことを特徴とする。
この構成によると、2個の内輪の互いに突き合わせられる端面間に、これら2個の内輪間に作用する軸力、軸受温度、内外輪間の相対的な回転速度のうちの少なくとも一つの特性を検出するセンサを介在させたため、軸受を大型化することなく、前記軸力、軸受温度、回転速度などの各種軸受情報を検出することができる。
【0006】
この発明において、前記センサが、前記2個の内輪の互いに突き合わせられる端面間に介在するリング状のセンサ素子取付リングと、このセンサ素子取付リングに取付けられたセンサ素子とでなるものであっても良い。この構成の場合、軸受へのセンサの組付を容易に行うことができる。
【0007】
この発明において、前記内輪の内径面に、前記センサの配線を引き出す配線溝を設けても良い。この構成の場合、センサの配線が内輪と軸との間に強く押し付け状態に挟まるのを防止できる。
【0008】
この発明において、前記内輪が軸の外周に嵌合し、この軸の外径面における前記内輪と嵌合する部分に、前記センサの配線を引き出す配線溝を設けても良い。この構成の場合も、センサの配線が内輪と軸との間に強く押し付け状態に挟まるのを防止できる。
【0009】
上記のように配線を内輪等の配線溝内に配置する場合に、前記配線を前記内輪に配線固定手段で固定しても良い。このように配線を配線固定手段で内輪に固定すると、配線が緩むのを防止できる。
【0010】
上記のように配線固定手段を用いる場合に、この前記配線固定手段として接着剤を用いて配線を固定しても良い。
【0011】
この発明において、前記センサが、前記2個の内輪の互いに突き合わせられる端面間に介在するリング状のセンサ素子取付リングと、このセンサ素子取付リングに取付けられたセンサ素子とでなり、前記内輪の内径面に前記センサの配線を引き出す配線溝を設け、前記センサ素子取付リングの前記内輪に対する相対回転を阻止する回り止め手段を設けても良い。この構成の場合、センサの配線が上記相対回転で引っ張られて断線するなどの不具合の発生を防止できる。
【0012】
この発明において、前記回り止め手段が、前記配線溝とは別に内輪に設けた係止溝と、前記センサ素子取付リングに設けられて前記係止溝に係合する係止突部とでなるものとしても良い。この構成の場合、軸受を大型化することなく、センサ素子取付リングの内輪に対する相対回転、すなわちクリープを阻止することができる。
【0013】
この発明において、前記軸力を検出するセンサ素子は歪みゲージ、前記軸受温度を検出するセンサ素子は熱電対ゲージ、前記内外輪間の相対的な回転速度を検出するセンサ素子は磁気センサであっても良い。
【発明の効果】
【0014】
この発明の車輪用軸受装置は、それぞれ外周に単列の転走面を有し軸方向に並んで配置されて互いに端面で突き合わせられた2個の内輪と、これら2個の内輪の各転走面に対向する複列の転走面を内周に有する外輪と、これら内外輪の転走面間に介在した複列の転動体とを備えた車輪用軸受装置であって、前記2個の内輪の互いに突き合わせられる端面間に、これら2個の内輪間に作用する軸力、軸受温度、内外輪間の相対的な回転速度のうちの少なくとも一つの特性を検出するセンサを介在させたため、軸受を大型化することなく、軸受に関する各種の状態の情報を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明の一実施形態を図1ないし図5に基づいて説明する。この車輪用軸受装置1は、第2世代型に分類される複列の円すいころ軸受型であり、外輪回転タイプでかつ従動輪支持用のものである。この車輪用軸受装置1は、内周に複列の転走面4を有するハブ輪兼用の外輪2と、これら転走面4にそれぞれ対向する転走面5を有する内輪組3と、これら複列の転走面4,5間に介在する複列の転動体6とを備える。外輪2は一体型のものであり、外周にホイール取付用のハブフランジ2aを有する。内輪組3は、単列の転走面5をそれぞれ有する2個の内輪3A,3Aが軸方向に並んで配置されて、互いに端面で突き合わせられた分割型とされ、各内輪3Aは両鍔付きとされている。内輪組3は、図示しない軸の外周に嵌合して固定される。転動体6は各列毎に保持器7で保持されている。内外輪3,2間に形成される環状空間の両端は一対のシール手段8,9により密封されている。
【0016】
前記内輪組3を構成する2個の内輪3A,3Aの互いに突き合わせられる端面間には、これら2個の内輪3A,3A間に作用する軸力(内輪組3の幅方向の固定力)、軸受温度、内外輪2,3間の相対的な回転速度の各特性を検出するセンサ10が介在させてある。なお、センサ10は、前記軸力、軸受温度、回転速度の各特性のうちの少なくとも一つの特性を検出するものであっても良い。センサ10は、2個の内輪3Aの互いに突き合わせられる端面間に介在するリング状のセンサ素子取付リング11と、このセンサ素子取付リング11に取付けられたセンサ素子12,13,14(図1,図2)とでなる。ここでは、軸力を検出するセンサ素子12として歪みゲージが、軸受温度を検出するセンサ素子13として熱電対ゲージが、回転速度を検出するセンサ素子14(図1)として磁気センサがそれぞれ用いられる。磁気センサからなるセンサ素子14のセンサターゲットとして、外輪2の内周におけるセンサ10と径方向に対向する位置には、リング状の磁気エンコーダ15が取付けられる。磁気エンコーダ15は、円周方向に磁極N,Sを交互に設けた多極磁石である。
【0017】
軸受温度を検出するセンサ素子13は、図2のように、センサ素子取付リング11の外周部における前記センサ素子14とは異なる周方向位置に取付けられる。軸力を検出するセンサ素子12は、センサ素子取付リング11の内周部に、その両端面から若干軸方向に突出するように取付けられる。磁気センサからなるセンサ素子14は、センサ素子取付リング11の外周部に取付けられる。
【0018】
前記2個の内輪3Aのうち一方の内輪3Aには、前記センサ10の配線16を引き出すための軸方向配線溝17と径方向配線溝18が設けられている。軸方向配線溝17は、内輪3Aの内径面に軸方向に延びて形成される。この軸方向配線溝17は、例えば図1の矢印Pで示す方向から見た正面図を示す図3(A),(B)のように、断面半円形や断面方形とされる。径方向配線溝18は、内輪3Aの外側の端面における前記軸方向配線溝17が臨む周方向位置において、径方向に延びて形成される。径方向配線溝18も、軸方向配線溝17と同様の断面形状とされる。センサ10の配線16の端部には、外部の回路と接続するためのコネクタ19が接続されている。センサ10の配線16は、図4のように軸方向配線溝17に沿わせて内輪3Aの外側端面に向けて引き出し、図5のように径方向配線溝18に沿わせて外側端面の外径側に引き出す。これにより、センサ10の配線16が内輪組3と図示しない軸との間に強く押し付け状態に挟まるのを防止できる。
【0019】
この構成の車輪用軸受装置1によると、2個の内輪3A,3Aの互いに突き合わせられる端面間に、これら2個の内輪3A,3A間に作用する軸力、軸受温度、内外輪3,2間の相対的な回転速度のうちの少なくとも一つの特性を検出するセンサ10を介在させたため、軸受を大型化することなく、前記軸力(軸受の固定状態)、軸受温度、回転速度などの各種軸受情報を検出することができる。
【0020】
また、前記センサ10は、前記2個の内輪3A,3Aの互いに付き合わせられる端面間に介在するリング状のセンサ素子取付リング11に、センサ素子12,13,14を取付けて構成されるので、軸受へのセンサ10の組付を容易に行うことができる。
【0021】
図6は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態では、図1〜図5に示す車輪用軸受装置1において、配線16を配線固定手段20で内輪3Aに固定して、配線16が緩むのを防止するようにしている。ここでは、配線固定手段20として接着剤を用いて、前記径方向配線溝18に配線16を固定している。
【0022】
図7は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、図1〜図5に示す車輪用軸受装置1において、センサ10を構成するセンサ素子取付リング11の内輪3Aに対する相対回転を阻止する回り止め手段21を設けている。ここでは、回り止め手段21が、前記軸方向配線溝17および径方向配線溝18とは別に内輪3Aに設けた係止溝22と、センサ素子取付リング11に設けられて前記係止溝22に係合する係止突部23とでなる。前記係止溝22は、センサ素子取付リング11に突き合わせられる内輪3Aの端面の周方向の複数箇所に設けられる。センサ素子取付リング11は、リング状芯金11Bの外周にセンサ素子取付リング本体11Aを固定してなり、そのリング状芯金11Bの前記内輪3Aに突き合わせられる端面の周方向の複数箇所に前記係止突部23が設けられる。
【0023】
このように、センサ素子取付リング11の内輪3Aに対する相対回転を阻止する回り止め手段21を設けることにより、センサ10の配線16が上記相対回転で引っ張られて断線するなどの不具合の発生を防止できる。また、内輪3Aに設けた係止溝22と、センサ素子取付リング11に設けた係止突部23で回り止め手段21を構成することにより、軸受を大型化することなく上記相対回転を阻止することができる。
【0024】
図8は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この車輪用軸受装置1Aは、図1〜図5に示す車輪用軸受装置1の構成を、第1世代型に分類される複列の円すいころ軸受型であり、外輪回転タイプでかつ従動輪支持用の軸受に起用したものである。すなわち、この車輪用軸受装置1Aでは、外輪2はハブ輪兼用ではなくハブフランジを有しない。その他の構成は図1〜図5の車輪用軸受装置1と同様である。
【0025】
図9は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、図1〜図5に示す車輪用軸受装置1において、内輪3Aの内径面に軸方向配線溝17を設けるのに替えて、内輪組3が嵌合する軸26の外径面における1個の内輪3Aと嵌合する部分に、センサ10の配線16を引き出す軸方向配線溝27を軸方向に延ばして設けている。その他の構成は図1〜図5の車輪用軸受装置1と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の一実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図2】同車輪用軸受装置における他の周方向位置での断面図である。
【図3】(A)は図1における矢印P方向から見た軸方向配線溝の断面形状の一例を示し、(B)は他の例の断面形状を示す。
【図4】同車輪用軸受装置におけるセンサ配線の引き出し処理の説明図である。
【図5】同車輪用軸受装置におけるセンサ配線の引き出し処理完了の説明図である。
【図6】この発明の他の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図7】この発明のさらに他の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図8】この発明のさらに他の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である.
【図9】この発明のさらに他の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図10】従来例の断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1,1A…車輪用軸受装置
2…外輪
3…内輪組
3A…内輪
4,5…転走面
6…転動体
10…センサ
11…センサ素子取付リング
12〜14…センサ素子
16…配線
17…軸方向配線溝
18・・・径方向配線溝
19・・・コネクタ
20…配線固定手段
21…回り止め手段
22…係止溝
23…係止突部
26…軸
27…軸方向配線溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ外周に単列の転走面を有し軸方向に並んで配置されて互いに端面で突き合わせられた2個の内輪と、これら2個の内輪の各転走面に対向する複列の転走面を内周に有する外輪と、これら内外輪の転走面間に介在した複列の転動体とを備えた車輪用軸受装置であって、前記2個の内輪の互いに突き合わせられる端面間に、これら2個の内輪間に作用する軸力、軸受温度、内外輪間の相対的な回転速度のうちの少なくとも一つの特性を検出するセンサを介在させたことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
請求項1において、前記センサが、前記2個の内輪の互いに突き合わせられる端面間に介在するリング状のセンサ素子取付リングと、このセンサ素子取付リングに取付けられたセンサ素子とでなる車輪用軸受装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記内輪の内径面に、前記センサの配線を引き出す配線溝を設けた車輪用軸受装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、前記内輪が軸の外周に嵌合し、この軸の外径面における前記内輪と嵌合する部分に、前記センサの配線を引き出す配線溝を設けた車輪用軸受装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4において、前記配線を前記内輪に配線固定手段で固定した車輪用軸受装置。
【請求項6】
請求項5において、前記配線を、前記配線固定手段として接着剤を用いて固定した車輪用軸受装置。
【請求項7】
請求項1において、前記センサが、前記2個の内輪の互いに突き合わせられる端面間に介在するリング状のセンサ素子取付リングと、このセンサ素子取付リングに取付けられたセンサ素子とでなり、前記内輪の内径面に前記センサの配線を引き出す配線溝を設け、前記センサ素子取付リングの前記内輪に対する相対回転を阻止する回り止め手段を設けた車輪用軸受装置。
【請求項8】
請求項7において、前記回り止め手段が、前記配線溝とは別に内輪に設けた係止溝と、前記センサ素子取付リングに設けられて前記係止溝に係合する係止突部とでなる車輪用軸受装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記軸力を検出するセンサ素子は歪みゲージ、前記軸受温度を検出するセンサ素子は熱電対ゲージ、前記内外輪間の相対的な回転速度を検出するセンサ素子は磁気センサである車輪用軸受装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−156269(P2009−156269A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331438(P2007−331438)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】