説明

車高調整装置

【課題】車体におけるバネ下重量の増加を抑制する小型軽量化した車高調整装置を提供する。
【解決手段】車体とバネ下部材との間に介挿されるスプリングを当該スプリングの一端側から伸縮させて車体の車高を調整する車高調整装置であって、車高調整装置は、車体又はバネ下部材に固定され、ステータを保持するステータ保持部材と、ステータ保持部材の外周に沿って回転可能に設けられ、スプリングの外径よりも大径のロータを保持する円筒形状のロータ保持部材と、ロータ保持部材の内周面とボールネジ機構を構成する外周面とスプリングと当接するスプリングシートとを有するロアーリングとを備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車高調整装置に関し、特にバネ下重量の増加を抑制し、小型軽量化した車体の車高調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体の車高を調整する装置の1つにモータを駆動して車高を調整する車高調整装置が知られている。
モータの駆動により車高を調整する車高調整装置には、例えば、車体とサスペンションアームとの間に上下方向に配設され、車両の重量を弾性的に支持する支持機能と弾性的な支持を減衰させる減衰機能を有する懸架装置と、懸架装置に対して直列に配設され、懸架装置の上端部と車体との間に車高調整装置を介在させ、車高調整装置を車体に固定する本体部と、本体部に相対的に上下動可能に配設され、車両懸架装置の上端に固定されるロッドと、本体部の内部に収容され、ロッドを本体部に対して相対的に上下動させる駆動機構と、駆動機構に連結する減速機構と、減速機構に連結する電動駆動手段とからなり、電動駆動手段が減速機構を介して駆動機構を駆動することによりロッドが本体部に対して無段階に上下動する車体の車高調整装置がある。
また、懸架装置において、ショックアブソーバとサスペンションアームとの間に配設され、ショックアブソーバを構成するショックアブソーバ本体のケース外周にボールネジ機構を介して筒状体からなる第1の筒部を連結し、サスペンションアーム側へ連結される第2の筒部の内側に第1の筒部をベアリングを介して相対回転可能に支持するとともに、第1の筒部を回転駆動する駆動モータを設け、駆動モータによって第1の筒部を回転駆動しボールネジ機構を介してショックアブソーバ本体の第2の筒部に対する相対高さを調整可能に構成し、車体とサスペンションアーム側との相対高さを調整する車高調整装置がある。
【0003】
しかし、前者の場合、車高調整装置を懸架装置に対して直列に配設しているため、車高調整装置を含む懸架装置の全長が長くなり、車体への取付位置を高くするか、懸架装置のストロークを短くする等の設計上の対策を行わなければならないという問題がある。
また、後者の場合、車高調整装置をショックアブソーバ本体下部のケース外周面に配設し、サスペンションアームと連結しているため、懸架装置とサスペンションアームとの連結に関する設計に困難さが生じ、さらにバネ下重量を増加させるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−247126号公報
【特許文献2】特開2004−338490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために、車体におけるバネ下重量の増加を抑制する小型軽量化した車高調整装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の構成として、車体とバネ下部材との間に介挿されるスプリングを当該スプリングの一端側から伸縮させて車体の車高を調整する車高調整装置であって、車高調整装置は、車体又はバネ下部材に固定され、ステータを保持するステータ保持部材と、ステータ保持部材の外周に沿って回転可能に設けられ、スプリングの外径よりも大径のロータを保持する円筒形状のロータ保持部材と、ロータ保持部材の内周面とボールネジ機構を構成する外周面とスプリングと当接するスプリングシートとを有するロアーリングとを備える構成とした。
本発明によれば、スプリングの外径よりも大径にロータを構成し、ロータがステータの外周に沿って回転するアウターロータモータとすることでモータの回転径を大きくすることにより、1回転当たりの回転力を増加させ、モータを小型・薄型化することができ、バネ下重量をほとんど増加させることなく車高調整装置を車体に設けることができる。
【0007】
本発明の第2の構成として、ロータが永久磁石であり、ステータが電磁石であるように構成した。
本発明によれば、回転するロータに電力を供給する必要がないので複雑な構造をすることなくモータを構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明にかかる懸架装置を備える車体の概略図及び懸架装置の構成図。
【図2】本発明にかかる車高調整ユニットの断面図及び平面図。
【0009】
以下、発明の実施形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明される特徴の組合わせのすべてが発明の解決手段に必須であるとは限らず、選択的に採用される構成を含むものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1(a)は、懸架装置1の一例としてのマクファーソン式サスペンションを備えた車体2の一部の概略図を示す。図1(b)は、懸架装置1の構成図を示す。
図1(a)に示すように、懸架装置1は、ダンパーユニット3と、スプリング4と、本発明にかかる車高調整ユニット5とにより構成される。
ダンパーユニット3は、円筒のシェルケース31内部に減衰機構を内部に備え、シェルケース31の延長方向に減衰機構を構成するピストンと一体に形成されるダンパーロッド32が、シェルケース31の一端側31aから突出し、ダンパーロッド32が突出する側のシェルケース外周面31bには、スプリング4が着座するロアースプリングシート33を備える。
ダンパーロッド32の先端側には、後述の車高調整ユニット5を固定するためのダンパーロッド32の直径よりも小径のネジ部32aが形成される。
【0011】
スプリング4は、コイルスプリングからなり、一端側がロアースプリングシート33に着座可能な直径に、他端側が後述の車高調整ユニット5を構成するロアーリング53のアッパースプリングシート53aに着座可能な直径に形成され、懸架装置1を装着する車体2に適したバネ定数となるように自由長及び線径が設定され、ダンパーロッド32をスプリング4の内径部分に内挿させてダンパーユニット3のロアースプリングシート33に一端側を着座させて配設される。
【0012】
図2(a)は、車高調整ユニット5の断面図を示し、図2(b)は、車高調整ユニット5の平面図を示す。
図2(a),(b)に示すように、車高調整ユニット5は、固定部材のアッパーリング51と、回転部材のアジャストリング52と、ガイド部材のロアーリング53とにより構成される。
【0013】
アッパーリング51は、筒体54の両端に円形のフランジ55,56を形成した略断面コ字のボビン形状の環状部材からなり、フランジ55,56間に複数のステータ57を備える。
ステータ57は、ヨーク軸にコイルを巻付け、車体2から供給される電力をコイルに通電して電磁石を構成し、ヨーク軸が筒体の中心から放射状にフランジ55,56間に配置される。ヨーク軸の端面は、後述のロータ67の間に適当な距離離間するように、フランジ外周面55a,56aから突出する。筒体54の内周面54aには、筒体54の中心方向に突出し、筒体54の軸方向に延長する凸状キー58が対面するように形成される。また、各フランジ外周面55a,56aには、ベアリング60,61の内周面60a,61aが嵌装される。
ベアリング60,61には、例えば、スラスト,ラジアルの力を支持することができるベアリングが用いられる。ベアリング外周面60b,61bには、アジャストリング52が嵌装される。
また、アッパーリング51の上側のフランジ55の上面は、車体2と当接する当接面55bが形成され、フランジ外周面55aに嵌挿されたベアリング60よりも上側に突出し、当該当接面55bには、懸架装置1を車体2に固定する固定ボルト59が車体2のアッパーサポート6に形成された取付孔と対応する本数,位置に複数本突設される。
【0014】
アジャストリング52は、アッパーリング51よりも大径かつ車高の調整範囲を設定する厚さの環状の円筒体63を基体とし、円筒体63の内周面63aには円筒中心方向に円形に突出する円板部64,65が形成され、円板部64,65の内周面はそれぞれアッパーリング51のベアリング外周面60b,61bに嵌合する。円板部64,65の間には、ロータ67としての永久磁石が円筒体63の内周面63aに沿って磁極を交互に入れ替えた状態で環状に固定される。さらに、円筒体63の内周面63aの下側には、延長方向に沿ってボールネジ機構を構成するための螺旋状のボール溝66が形成される。上記構成によれば、ステータ57とロータ67とによりアウターロータモータを構成し、アッパーリング51の複数のステータ57に車体2から電力を供給してステータ57を励磁することにより、アジャストリング52がロータ67とともにアッパーリング51の周りを回転する。
【0015】
また、図2(a)に示すように、ロアーリング53は、アジャストリング52よりも小径な円板体69を基体とし、円板体69の中心には、円板体69を上下に貫通する筒部70と外周側69aには円環部71とが形成される。
円板体69の上面よりも上側に突出する筒部70の外周面70aには、アッパーリング51の凸状キー58と対応する凹溝73が形成され、凸状キー58と凹溝73により係合部を構成し、アッパーリング51とロアーリング53の回転動作を規制する。これにより、アッパーリング51とロアーリング53は凸状キー58の延長する方向にのみ移動可能に規制される。また、筒部70の下端面には、中心が開口するダンパーロッド固定部75が形成され、前述のダンパーロッド32が挿通される。
【0016】
円環部71には、アジャストリング52のボール溝66とともにボールネジ機構を構成するボール溝76が外周面71aに螺旋状に形成される。また、円環部71の内周面70bと円板体69の下面69bは、スプリング4が着座するアッパースプリングシート53aを形成する。つまり、アッパースプリングシート53aに対して、スプリング4の上端側の外径部分が円環部71の内周面70bに支持され、スプリング4の上端部分が円板体69の下面69bに着座する。
【0017】
上記構成の車高調整ユニット5は、アッパーリング51の外周面に沿ってアジャストリング52が回転し、アジャストリング52とボールネジ機構により螺合するロアーリング53をアッパーリング51の凸状キー58の延長方向に沿って移動させて車高を調整する。
つまり、アジャストリング52のボール溝66とロアーリング53のボール溝76との間に介在するボールを転動させるボールネジ機構により、アジャストリング52の回転がロアーリング53に伝達される。一方、ロアーリング53は、アッパーリング51の凸状キー58とロアーリング53の凹溝73と係合しているため、ロアーリング53自体が回転することなく凸状キー58の延長方向に沿って移動可能となり、アッパーリング51とロアーリング53が互いに近接、又は、離間する。
【0018】
また、アジャストリング52の回転力は、アッパーリング51に配置されたステータ57とアジャストリング52のロータ67からなるアウターロータモータとして構成されるロータ67の回転により得られるので、同サイズのインナーロータモータと比べて大きな回転力を得ることができる。つまり、インナーロータモータと同じ回転力を得るには、アウターロータモータとして構成することで、モータを小型化、軽量化することが可能となる。さらに、荷重を支持するスプリング4の外径よりもロータ67が大径となるため、より大きな回転力が得られ、モータを大出力、軽量薄型に構成することができる。これにより、スプリング4の支持する荷重により、ギア等の減速機構を車高調整装置に設けることなくアジャストリング52をモータの一部として直接駆動することが可能となる。
【0019】
以下、車高調整ユニット5の懸架装置1への組み付けを説明する。
図1(b)に示すように、シェルケース31のロアースプリングシート33にスプリングコンプレッサ等によりあらかじめ圧縮したスプリング4を着座させる。次に、ダンパーロッド32の先端側に形成された段部32bと内径が係合するように形成されたワッシャ11と、ワッシャ11に当接するようにドーナツ状のブッシュ12を挿入する。次に、車高調整ユニット5のダンパーロッド固定部75の開口にダンパーロッド固定部75の下面がブッシュ12に接触するまでダンパーロッド32を介挿する。次に、ダンパーロッド32の先端からドーナツ状のブッシュ13をダンパーロッド固定部75の上面に接触するまで挿入し、ワッシャ14を挿入してブッシュ13の上に当接させ、固定ナット15をネジ部32aと螺合させて締め付ける。次に、スプリングコンプレッサを開放し、ロアースプリングシート33と車高調整ユニット5のアッパースプリングシートにスプリング4を着座させることにより車高調整ユニットが懸架装置1を構成する構成要素の一つとして組み付けられる。
【0020】
次に、懸架装置1を車体2に組み付ける。
図1(a)に示すように、懸架装置1は、アッパーリング51の備える固定ボルト59を車体2のアッパーサポート6に形成された取付孔に介挿させ、固定ボルト59をナットにより固定する。
次に、車体2から延長するサスペンションアーム7の先端に取り付けられ、タイヤを回転可能に支持するハブを有するナックル8の上部に形成されるシェルケース結合部8aにシェルケース31の下部を挿入し、締付ボルトを締め付けることにより懸架装置1が車体2に取り付けられる。
次に、車体2側から延長する図外の配線をステータ57から延長する配線と接続する。
これにより、車体2側から電力として供給される信号に基づいてステータ57を磁化させ、ロータ67に回転力を付与してアジャストリング52をR方向(図2(b)参照)に回転させ、ロアーリング53をアッパーリング51に対して近接又は離間するように相対移動させることで車高を調整することができる。
【0021】
以上、説明したように本発明にかかる車高調整ユニット5は、マクファーソン式サスペンションにおける従来のアッパースプリングシートに換えて、懸架装置1に組み付け可能な小型薄型に構成できる。
【0022】
上記車高調整ユニット5を各輪に設けられる懸架装置1に組み付けることで、例えば、4輪の乗用車であれば、4輪の車高を個別に調整できるようになり、次のように車高の調整を制御するように構成すれば良い。
具体的には、上記車高調整ユニット5のロアーリング53のスプリング4が着座する面、又は、アッパーリング51が車体2に固定される面に荷重センサを配設してスプリング4に作用する荷重を荷重センサにより測定し、荷重センサとステータ57とに接続される制御装置を車体2に設けて荷重センサの測定した荷重に基づいてステータ57を制御し、車高調整ユニット5のロータ67とともにアジャストリング52を回転させて車高調整を行えば良い。このように構成することにより、例えば、荷物の積載時や人の乗車時等により生じる車高の変化が車体にとって最適となるように自動で制御することができる。
また、ステータ57とロータ67とにより構成されるアウターロータモータの回転角を検出する回転角検出センサを配設して制御装置と接続し、回転角検出センサの出力する角度に基づいてステータ57を制御することによりロータ67の回転を精度良く制御できるので、より精度の良い車高調整を行うことが可能となる。
【0023】
以上、本発明にかかる車高調整ユニット5をマクファーソン式ストラットの車体側に設けたが、ダンパーユニット3のロアースプリングシート側に設けても良い。また、懸架装置としてのマクファーソン式ストラットに対して適用した例を示したが、上記例に限定されず、他の懸架装置に対しても適用することができる。
例えば、ショックアブソーバとスプリングが別体に構成される懸架装置の場合は、車体を支持するスプリングと車体の間、又は、車体から延長し、車輪を支持するアームとスプリングとの間に本発明の車高調整ユニットの固定ボルトと取り外した状態で配設すれば良い。このように構成することにより、バネ下重量を増やすことなく既存の懸架装置に車高調整ユニットを適用することができる。
【0024】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0025】
1 懸架装置、2 車体、3 ダンパーユニット、4 スプリング、
5 車高調整ユニット、6 アッパーサポート、31 シェルケース、
31a 一端側、31b シェルケース外周面、32 ダンパーロッド、
33 ロアースプリングシート、51 アッパーリング、52 アジャストリング、
53 ロアーリング、54 筒体、55;56 フランジ、
55a;56a フランジ外周面、57 ステータ、58 凸状キー、
59 固定ボルト、60;61 ベアリング、60a,61a ベアリング内周面、
60b,61b ベアリング外周面、63 円筒体、63a 内周面、63b 下側、
64;65 円形板、66 ボール溝、67 ロータ、69 円板体、
69a 外周側、69b 下面、70 筒部、70a 外周面、70b 内周面、
71 円環部、71a 外周面、73 凹溝、75 ダンパーロッド固定部、
76 ボール溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体とバネ下部材との間に介挿されるスプリングを当該スプリングの一端側から伸縮させて車体の車高を調整する車高調整装置であって、
前記車高調整装置は、
前記車体又は前記バネ下部材に固定され、ステータを保持するステータ保持部材と、
前記ステータ保持部材の外周に沿って回転可能に設けられ、前記スプリングの外径よりも大径のロータを保持する円筒形状のロータ保持部材と、
前記ロータ保持部材の内周面とボールネジ機構を構成する外周面と前記スプリングと当接するスプリングシートとを有するロアーリングとを備えることを特徴とする車高調整装置。
【請求項2】
前記ロータが永久磁石であり、前記ステータが電磁石であることを特徴とする請求項1に記載の車高調整装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−148340(P2011−148340A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9321(P2010−9321)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】