説明

転がり軸受

【課題】転がり軸受の潤滑性を高めると共に、油漏れを防止することを目的とする。
【解決手段】グリース溜り60を、外輪10と転動体30との接触部Pに微小流路62を介して連通する。これにより、微小流路62の毛細管力によりグリースの油分を接触部Pに供給して、軸受の潤滑性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、あるいは玉軸受等の転がり軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に示されている円筒ころ軸受は、図5に示すように、外輪210と、内輪220と、これらの間に配された複数の円筒ころ230とを備え、グリースポケット242を凹設した端面部材240を、軸受の両端面に隣接させて配置している。このグリースポケット242のグリースに含有された油分を軸受内に供給することにより、軸受の潤滑を行っている。
【0003】
グリースポケット242のグリースから軸受内に供給される油分は微量であるため、この円筒ころ軸受では、外輪210のつば部212の内径面と端面部材240のグリースポケット242の内周面とを面一にすることで、グリースの油分を軸受内に供給しやすくしている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−291667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、グリースの油分が少なくなったときや、低温環境下で使用することによりグリースから油分が分離しにくくなったとき等は、上記のような構成であっても軸受内に十分な油を供給することができるとは言えず、さらなる改良が求められている。
【0006】
また、上記の軸受では、グリースポケット242が開放された空間であり、且つ、端面部材240と内輪220との間に隙間が形成されているため、この隙間からグリースポケット242に保持されたグリースや油が漏れ出す恐れがある。
【0007】
本発明は、転がり軸受の潤滑性を高めると共に、油漏れを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、外輪と、内輪と、両軌道輪の間に転動自在に介在された複数の転動体と、軸受内部に供給される潤滑剤を保持する潤滑剤溜りとを備えた転がり軸受において、潤滑剤溜りと、一方の軌道輪と転動体との接触部とを、微小流路を介して連通したことを特徴とする。
【0009】
このように、潤滑剤溜りを、一方の軌道輪と転動体との接触部に微小流路を介して連通することにより、微小流路の毛細管力により潤滑剤を外輪又は内輪と転動体との接触部に供給することができる。従って、潤滑剤溜りに保持された潤滑剤が極微量である場合も、軸受内の摺動部に潤滑剤を確実に供給することができるため、潤滑性を高めることができる。また、潤滑剤溜りと軸受内部とを微小流路を介して連通することで、潤滑剤溜りを閉塞空間とすることができるため、潤滑剤溜りからの潤滑剤の漏れ出しを回避することができる(図2参照)。
【0010】
このような潤滑剤溜りは、例えば一方の軌道輪に固定した潤滑剤保持部材で形成することができる。この場合、潤滑剤保持部材の外周面と一方の軌道輪の内周面とを当接させ、これらの面の少なくとも一方に溝を設け、この溝で前記微小流路を形成することができる。
【0011】
例えば鉄道車両の主電動機では、主電動機の電流が転がり軸受を通って車輪やレールに流れることがある。このように軸受に電流が流れると、軸受の転動体と軌道輪との間でスパークが生じ、軸受寿命が縮まる恐れがある。このような事態を回避するために、外輪のハウジングへの取り付け面を樹脂による絶縁層で被覆したものが提案されている(例えば、特開2007−170673号公報参照)。上記のように潤滑剤保持部材を設けた場合、この潤滑剤保持部材を介して電流が流れる恐れがあるため、潤滑剤保持部材のハウジングへの取り付け面に樹脂被覆を施すことが好ましい。あるいは、潤滑剤保持部材自体を樹脂で形成してもよい。
【0012】
このように、潤滑剤保持部材に樹脂被覆を施すことにより、あるいは潤滑剤保持部材を樹脂で形成することにより、以下のような効果を得ることもできる。すなわち、軸受の運転、あるいは軸受が装着された装置(例えば、主電動機など)の運転時には、これらの発熱により潤滑剤溜りに保持された潤滑剤の温度が上昇し、粘性が低下して軸受内に供給されやすくなる。特に、潤滑剤がグリースである場合は、温度上昇によりグリースから油分が分離しやすくなり、供給される油量が増す。このとき、上記のように潤滑剤保持部材に樹脂被覆を施し、あるいは潤滑剤保持部材を樹脂で形成すれば、潤滑剤溜りの保温性能が向上し、潤滑剤の温度を比較的高温に維持することができるため、潤滑剤が軸受内に供給されやすい状態を保つことができる。
【0013】
上記のような転がり軸受は、例えば鉄道車両の主電動機の回転軸支持用として好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、転がり軸受の潤滑性を高めると共に、油漏れを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1に、本発明の実施形態に係る転がり軸受1を示す。この軸受1は、鉄道車両の主電動機の回転軸支持用として使用される円筒ころ軸受であり、外輪10と、内輪20と、外輪10と内輪20との間に配された転動体としての複数の円筒ころ30と、複数の円筒ころ30を円周方向等間隔に保持する保持器40と、潤滑剤保持部材としてのグリース保持部材50とを備える。
【0017】
外輪10は、内周面に軌道面12を有し、軌道面12の軸方向両側につば部14を備える。外輪10はハウジング2に圧入嵌合され、外輪10のうち、ハウジング2への取り付け面、すなわち外周面及び軸方向両側の端面は、樹脂被服層16が形成される。また、外輪10の両端面の内径端には、グリース保持部材50の芯出しを行うための段部18が設けられる。内輪20は、外周面に軌道面22を有し、図示しない回転軸の外周面に嵌合固定される。
【0018】
グリース保持部材50は、外輪10の内周面の軸方向両端部に取り付けられ、内部にグリースが満たされたグリース溜り60を形成する(図2の散点はグリースを表している。)。具体的には、図2に示すように、グリース溜り60を囲むように設けられたリング部52と、リング部52から軸方向に延びた先端部54とを有する。
【0019】
リング部52は、外輪10の端面から軸方向で軸受外部側(図2の右側)に延びた大径円筒部52aと、大径円筒部52aの軸受外部側の端部から内径へ延びた外端面部52bと、外端面部52bの内径端から軸方向で軸受内部側(図2の左側)に延びた小径円筒部52cと、小径円筒部52cの軸受内部側の端部から外径へ延びた内端面部52dと、内端面部52dの外径端から軸受内部側へ向けて漸次縮径しながら延びたテーパ部52eとを有する。リング部52のうち、ハウジング2への取り付け面となる外周面(大径円筒部52aの外周面)及び軸受外部側端面(外端面部52bの外部側端面)に樹脂被服層56を有する。樹脂被服層56は、例えばリング部52の母材と別体に形成された後、接着等の手段により母材に固定される。この状態でハウジング2の内周面に圧入嵌合され、グリース保持部材50がハウジング2に固定される。このとき樹脂被服層56は、リング部52の母材とハウジング2との間に挟まれて若干潰された形となる。リング部52の端部(大径円筒部52aの軸受内部側端部)は、外輪10の段部18に嵌合され、これにより外輪10とグリース保持部材50との芯出しが行われる。
【0020】
グリース保持部材50の先端部54の外周面は、外輪10のつば部14の内周面と当接している。先端部54の外周面には、円周方向等間隔の複数箇所に軸方向の溝58が形成され、この溝58と、外輪10のつば部14の内周面とで軸方向の微小流路62が形成される。この微小流路が、グリース溜り60と、外輪10のつば部14と円筒ころ30との接触部(図2にPで示す)とを連通している。溝58は、グリース溜り60と接触部Pとを連通する限り軸方向に限られず、例えば円周方向に傾斜させて形成したり、ローレット状に形成しても良い。
【0021】
軸受1が回転すると、軸受1自身の発熱、あるいは主電動機の発熱により、グリース溜り60のグリースから油分が分離し、この油分が微小流路62の毛細管力により引き込まれて接触部Pに供給されることにより、軸受1の潤滑が行われる。このように、グリース溜り60と接触部Pとを微小流路62で連通することにより、微小流路62の毛細管力を利用して軸受内に油を供給することができるため、より潤沢な油を供給することができる。また、微小流路62を介して油の供給を行うことにより、グリース溜り60を、周囲をリング部52で囲んだ閉塞空間とすることができるため、グリースの外部へ漏れ出しを回避できる。
【0022】
また、外輪10及びグリース保持部材50のハウジング2への取り付け面に、樹脂被服層16及び56を設けることにより、軸受1の内部に電流が流れる事態を防止し、通電による軸受寿命の低下を回避できる。また、グリース保持部材50に樹脂被覆層56を設けることにより、グリース溜り60の保温性が高められ、グリースからの油分の供給を促進することができる。
【0023】
このような軸受1において、グリース保持部材50のリング部52の径方向寸法を大きくすれば、内部のグリース溜り60の容積も大きくなるため、より多くのグリースを保持することができる。また、リング部52を内径側に延ばせば、リング部52と内輪20との間の隙間(図1にLで示す)を小さくすることができるため、軸受内から外部への油の漏れ出しや、軸受内への外部からの異物の侵入を防止することができる。従って、リング部52は、内輪20や他の部材と干渉しない範囲内で、できるだけ内径側まで、すなわち隙間Lをなるべく小さくするように設定することが好ましい。
【0024】
本発明は、上記の実施形態に限られない。図3に本発明の他の実施形態に係る軸受を示す。この軸受100は、外輪110と、内輪120と、外輪と内輪との間に介在させた円すいころ130と、複数の円すいころ130を円周方向等間隔に保持する保持器140と、グリース保持部材150と、シール装置170とを備える。シール装置170は、外輪110の内周面に固定されたシール座金172と、シール座金172の内周に配されたシール部材174とを備え、軸受内部からの油の漏れ出しを防止している。
【0025】
グリース保持部材150は、例えば樹脂で形成され、シール座金172の内周に固定される。詳しくは、断面略コの字状を成し、シール座金172との間にグリース溜り160を形成する屈曲部152と、屈曲部152から軸方向に延びた先端部154とを備える。屈曲部152の端面はシール座金172に接着等により固定され、これにより、グリース保持部材150がシール座金172を介して外輪110に取り付けられる。先端部の外周面には、円周方向等間隔の複数箇所に軸方向(厳密には外輪110の軌道面方向)の溝156が形成される。この溝156と外輪110の内周面とで微小流路162が形成され、この微小流路162が、グリース溜り160と、外輪110と円すいころ130との接触部Pとの間を連通する。
【0026】
本実施形態では、グリース保持部材150がシール座金172に接着により固定されるため、圧入嵌合のように大きな力が加わることはなく、グリース保持部材150を樹脂で形成することが可能となる。このように、グリース保持部材150全体を樹脂で形成することで、上記実施形態のような樹脂被服層を設けることなく、上記と同様に絶縁性、保温性等の効果を得ることができる。
【0027】
以上の実施形態では、グリース保持部材の先端部に形成した溝により微小流路を構成した場合を示したが、これに限られない。例えば、外輪側に溝を形成して、あるいは外輪側とグリース保持部材側の双方に溝を形成して、微小流路を形成することもできる。また、先端部の外周面と外輪の内周面とを共に円筒面状(テーパ面状)に形成し、これらの面を微小隙間を介した非接触状態とすることで、微小流路を構成することもできる。あるいは、外輪とグリース保持部材との当接面のうち、何れか一方、あるいは双方に微小な凸部を形成し、この凸部と対向する面とを当接させて微小隙間を形成し、これにより微小流路を形成することもできる。
【0028】
また、以上の実施形態では、内輪が回転軸に装着されるため、固定側となる外輪側に潤滑剤保持部材を取り付けた場合を示したが、例えば外輪側が回転側となる場合は、内輪側に潤滑剤保持部材を取り付ける構成としても良い。また、固定力等の問題が無ければ、回転側に潤滑剤保持部材を取り付けても良い。
【0029】
また、以上の実施形態では、潤滑剤としてグリースを使用した場合を示したが、これに限らず、油等の他の潤滑剤を使用することもできる。
【0030】
また、以上の実施形態では、本発明を円筒ころ軸受、及び円すいころ軸受に適用した場合を示したが、これに限らず、玉軸受等の他の転がり軸受にも適用することができる。さらに、本発明の転がり軸受は、鉄道車両に限らず、自動車や産業機器等の他の用途にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る円筒ころ軸受の断面図である。
【図2】潤滑剤保持部材を拡大して示す断面図である。
【図3】本発明に係る円すいころ軸受の断面図である。
【図4】潤滑剤保持部材を拡大して示す断面図である。
【図5】従来の転がり軸受の断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 軸受
2 ハウジング
10 外輪
20 内輪
30 転動体
40 保持器
50 グリース保持部材(潤滑剤保持部材)
52 リング部
54 先端部
56 樹脂被服層
58 軸方向溝
60 グリース溜り(潤滑剤溜り)
62 微小流路
P 接触部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、内輪と、両軌道輪の間に転動自在に介在された複数の転動体と、軸受内部に供給される潤滑剤を保持する潤滑剤溜りとを備えた転がり軸受において、
潤滑剤溜りと、一方の軌道輪と転動体との接触部とを、微小流路を介して連通したことを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
一方の軌道輪に潤滑剤保持部材を取り付け、この潤滑保持部材で前記潤滑剤溜りを形成した請求項1記載の転がり軸受。
【請求項3】
潤滑剤保持部材の外周面と一方の軌道輪の内周面とを当接させ、これらの面の少なくとも一方に溝を設け、この溝で前記微小流路を形成した請求項2記載の転がり軸受。
【請求項4】
潤滑剤保持部材の表面に樹脂被服層を形成した請求項2記載の転がり軸受。
【請求項5】
潤滑剤保持部材を樹脂で形成した請求項2記載の転がり軸受。
【請求項6】
鉄道車両の回転軸支持用として使用される請求項1〜5の何れかに記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−192056(P2009−192056A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36213(P2008−36213)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】