説明

軸受状態検査装置および軸受状態検査方法

【課題】 回転側輪や転動体に対して非接触の状態で、転がり軸受における潤滑膜の状態を、軸受温度、回転速度によって潤滑膜厚さが変化する場合に正確にかつ簡単に判定することができる軸受状態検査装置および軸受状態検査方法を提供する。
【解決手段】 温度、回転速度をパラメータとして、演算により求めた潤滑膜厚さから計算上の静電容量を求めておき、この計算上の静電容量と実際に測定した静電容量との比較結果から軸受の潤滑状態を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、鉄道車両、自動車、産業機械などの装置に組み込まれた転がり軸受の内部の潤滑剤の劣化状態を検出する軸受状態検査装置および軸受状態検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受において、内部の潤滑状態を確認することは、軸受寿命にとって極めて重要である。潤滑不良が発生し、軸受の転動体の転動面と内外輪の軌道面の間に形成された潤滑剤による潤滑膜の厚さが通常より薄くなった場合、転動面と軌道面が金属接触を起こし、軸受寿命が短くなることが知られている。
そこで、潤滑膜の状態を観察して軸受寿命を予測することが望まれるが、潤滑膜の状態は直接観察することが不可能なため、潤滑膜の状態を測定する各種の方法が従来より提案されている。その一つの方法は潤滑膜の状態を直流抵抗として測定するもの(特許文献1)であり、他の一つの方法は潤滑膜の厚さを電気容量として測定するもの(特許文献2)である。
また、本件出願人は、非接触で電気容量を測定し、1つの軸受の潤滑膜の状態を推定する方法を提案している。
【特許文献1】特開2001−311427号公報
【特許文献2】特開2003−214810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の潤滑膜の状態を直流抵抗として測定する方法の場合、軸受内外輪のいずれかが回転しているため、被測定箇所以外の場所に電気接点が必要となり、その接点の電気抵抗が測定誤差の要因となったり測定結果を不安定なものにするという問題がある。
また、特許文献2の潤滑膜の厚さを電気容量として測定する方法の場合、軸受外輪に孔を開けて電極を取り付ける必要があり、一般の軸受には適用できない。
前述の非接触で電気容量を測定する技術では、温度、回転速度によって潤滑膜厚さは変化するため、静電容量を検出するだけでは、潤滑状態を正確に判定することができない。
【0004】
この発明の目的は、回転側輪や転動体に対して非接触の状態で、転がり軸受における潤滑膜の状態を、軸受温度、回転速度によって潤滑膜厚さが変化する場合に正確にかつ簡単に判定することができる軸受状態検査装置および軸受状態検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の軸受状態検査装置は、それぞれ導電性の外輪と内輪と転動体とを有する転がり軸受において、前記内外輪のうちの回転側輪の表面にすき間を隔てて非接触で対向する電極を設け、前記内外輪のうちの固定側輪と前記電極との間に接続されて前記電極と回転側輪との間、回転側輪と転動体との間、および転動体と固定側輪との間の各静電容量の合計値を測定する静電容量測定手段と、前記内輪または外輪の温度を測定する温度測定手段と、前記回転側輪の回転速度を測定する回転速度測定手段と、前記温度測定手段により測定される温度、および前記回転速度測定手段により測定される回転速度を設定して、転動体と内外輪との接触面積および潤滑膜厚さを導出し、導出した接触面積および潤滑膜厚さから静電容量を求め、この求めた静電容量と、前記静電容量測定手段により測定した各静電容量の合計値とを比較して、前記転がり軸受の潤滑状態を判定する判定手段とを有することを特徴とする。
【0006】
この構成によると、静電容量測定手段は、前記電極と回転側輪との間の静電容量、回転側輪と転動体との間の静電容量、および転動体と固定側輪との間の各静電容量の合計値を測定する。また、温度測定手段は内輪または外輪の温度を測定し、回転速度測定手段は回転側輪の回転速度を測定する。判定手段は、前記測定される温度および回転速度等を設定して、転動体と内外輪との接触面積および潤滑膜厚さを導出し、この導出した接触面積および潤滑膜厚さから静電容量を求める。さらに、判定手段は、求めた静電容量と、前記測定した各静電容量の合計値とを比較することで、複雑な構造、加工等を用いることなく潤滑状態を判定する。
特に、温度、回転速度をパラメータとして、演算により求めた潤滑膜厚さから計算上の静電容量を求めておき、この計算上の静電容量と実際に測定した静電容量との比較結果から軸受の潤滑状態を正確にかつ簡単に判定することができる。前記判定手段は、計測器や、CPUの他、閾値と比較するだけの簡単な電子回路等によって実現できる。
【0007】
この発明において、前記判定手段は、測定される温度および回転速度を設定すると共に、この軸受で使用する潤滑剤の粘度、および予圧量を設定して前記接触面積および潤滑膜厚さを導出しても良い。潤滑剤の粘度、予圧量により潤滑状態は変化するが、これら潤滑剤の粘度、予圧量をも考慮して接触面積および潤滑膜厚さを導出する場合、軸受の潤滑状態をより正確に判定することができる。
【0008】
この発明において、前記電極は、リング状のスリップリングからなるものであっても良い。この場合、汎用品であるスリップリングを適用することができ、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0009】
前記内外輪のうちの回転側輪の表面にすき間を隔てて非接触で対向する電極と、固定側輪と電気的に導通する電極と、これら電極間に電気的に絶縁された絶縁体とが一体の固定側ユニットを前記固定側輪に取付けたものであっても良い。この場合、軸受状態検査装置の組立が容易となり、製造コストの低減を図ることができる。また、固定側ユニットを固定側輪に取付けるだけで、電極は回転側輪の表面に所定すき間を隔てることが可能である。この場合、固定側ユニットの調整、交換等を容易にし、作業工数の低減を図ることができる。
【0010】
この発明において、内輪または外輪の温度を測定する温度測定手段と、軸受の回転速度を測定する回転速度測定手段のうちの少なくともいずれか1つが前記固定側ユニットと一体に設けられても良い。この場合、軸受状態検査装置の組立をさらに容易化することができる。
【0011】
この発明の軸受状態検査方法は、それぞれ導電性の外輪と内輪と転動体とを有する転がり軸受の潤滑状態を検査する軸受状態検査方法において、前記内外輪のうちの回転側輪の表面にすき間を隔てて非接触で対向する電極を設け、前記内外輪のうちの固定側輪と前記電極との間に接続されて前記電極と回転側輪との間、回転側輪と転動体との間、および転動体と固定側輪との間の各静電容量の合計値を測定し、前記内輪または外輪の温度を測定し、前記回転側輪の回転速度を測定し、前記測定される温度および回転速度を設定して、転動体と内外輪との接触面積および潤滑膜厚さを導出し、導出した接触面積および潤滑膜厚さから静電容量を求め、この求めた静電容量と、前記測定した各静電容量の合計値とを比較して、前記転がり軸受の潤滑状態を判定することを特徴とする。
【0012】
この構成によると、温度、回転速度をパラメータとして、演算により求めた潤滑膜厚さから計算上の静電容量を求めておき、この計算上の静電容量と実際に測定した静電容量との比較結果から軸受の潤滑状態を正確にかつ簡単に判定することができる。これにより、装置のメンテナンス時期を正確に判断することができ、潤滑剤の潤滑状態の異常を予測、または検知することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
この発明の軸受状態検査装置は、内外輪のうちの固定側輪と前記電極との間に接続されて電極と回転側輪との間、回転側輪と転動体との間、および転動体と固定側輪との間の各静電容量の合計値を測定する静電容量測定手段と、前記内輪または外輪の温度を測定する温度測定手段と、前記回転側輪の回転速度を測定する回転速度測定手段と、前記温度測定手段により測定される温度、および前記回転速度測定手段により測定される回転速度を設定して、転動体と内外輪との接触面積および潤滑膜厚さを導出し、導出した接触面積および潤滑膜厚さから静電容量を求め、この求めた静電容量と、前記静電容量測定手段により測定した各静電容量の合計値とを比較して、前記転がり軸受の潤滑状態を判定する判定手段とを有するため、回転側輪や転動体に対して非接触の状態で、転がり軸受における潤滑膜の状態を、軸受温度、回転速度によって潤滑膜厚さが変化する場合に正確にかつ簡単に判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の一実施形態を図1ないし図4と共に説明する。この実施形態は、例えば、鉄道車両、自動車、二輪車、産業機械、工作機械などの装置に組み込まれた転がり軸受の内部の潤滑剤の劣化状態を検出する軸受状態検査装置に適用される。ただし、前記装置に限定されるものではない。以下の説明は、軸受状態検査方法についての説明をも含む。
【0015】
内輪回転の場合について説明する。
この軸受状態検査装置は、転がり軸受が回転軸に取り付けられた軸受使用装置1において、転がり軸受2の潤滑膜の潤滑状態を判定するものである。前記軸受状態検査装置は、静電容量測定手段3と、温度測定手段としての温度センサ4と、回転速度測定手段としての回転センサ5と、後述する判定手段6とを有する。
転がり軸受2は、固定側輪である外輪7と、回転軸に嵌合する回転側輪である内輪8と、外輪7の内周面に形成された軌道面7aと内輪8の外周面に形成された軌道面8aとの間に介在する複数個の転動体9とを有する。この場合の転がり軸受2は、前記転動体がボールからなる玉軸受である。
【0016】
この転がり軸受2が正常に回転、つまり内輪回転している場合、外輪7と転動体9との接触面には、1μm以下の厚さの潤滑膜つまり油膜が形成され、外輪7と転動体9とは直接接触することなく潤滑膜10を介して荷重を伝えることが知られている。内輪8と転動体9の接触面にも同様の潤滑膜11が形成される。ここで潤滑膜10を誘電体と考え、外輪7と転動体9を電極と考えると、ここに1つのコンデンサ12が形成される。同様に内輪8と転動体9、潤滑膜11の関係においても、もう1つのコンデンサ13が形成される。
【0017】
これを模式的に表現すると、図2に示すように、2つのコンデンサCa、Cbが直列に接続された回路構成となる。軸受1個あたりの転動体の個数をnとして、それぞれの転動体9での静電容量が等しいとすると、それらの等しい静電容量のコンデンサCa、Cbが並列に接続された場合を考え、転動体1個当たりの静電容量Ccとすると、軸受全体の静電容量Cおよび静電容量Ccは、次のように表される。
C=n・Cc ……(1)
Cc=Ca・Cb/(Ca+Cb) ……(2)
【0018】
したがって、外輪7から内輪8までの経路の静電容量を測定すれば、1箇所の静電容量Ccを推定することができる。
また、外輪7、転動体9間および転動体9、内輪8間のそれぞれの潤滑膜厚さをda´、db´、接触楕円面積をSa´、Sb´、誘電率をεとすると、転動体1個当たりの静電容量Ca、Cbは次式(3)、(4)のように表される。
Ca=εSa´/da´ ……(3)
Cb=εSb´/db´ ……(4)
【0019】
潤滑膜厚さは軸受の荷重、回転速度、潤滑剤などの影響により変化する。本実施形態では、弾性流体潤滑理論つまりEHL理論を用いて、予め潤滑膜厚さと静電容量との関係を求めておくことで、潤滑膜厚さを推定することができる。
具体的にEHL理論では、使用する潤滑剤の粘度、使用回転数、予圧量(荷重)、温度範囲を設定して、転動体9と外輪7および内輪8との接触面積、および潤滑膜厚さを導出している。この求めた接触面積と潤滑膜厚さとを、上記式(3)、(4)に代入することで、転動体1個当たりの静電容量Ca、Cbを求める。
【0020】
この求めた静電容量Ca、Cbと、測定した静電容量とを比較することで、転がり軸受の潤滑状態を判定する。また、実測した静電容量値を上記式(3)、(4)に代入することで、潤滑膜厚さの推定を行うことが可能となる。
具体的に、図4に示すように、実線L1で示す計算値と実際のセンサ出力とを比較し、このセンサ出力と前記計算値との差が少なければ軸受が正常に動作していると判断する。つまり、点線L2,L3が閾値となり、これら点線L2,L3の間に、センサ出力があれば、軸受が正常に動作していると判断する。
センサ出力が点線L2よりも上方にあると、潤滑膜厚さが薄いと判断する。この場合、内外輪とボールとが接触する可能性があり、また異物が軸受内に混入した可能性もある。センサ出力が点線L3よりも下方にあると、潤滑膜厚さが厚いと判断する。この場合、軸受内に異物が混入した可能性がある。
【0021】
前述の静電容量を測定する静電容量測定手段3として、例えば、電気容量計等の市販の計測器を適用しても良い。必要時にこの計測器を、回転側輪である内輪端面に所定すき間δを隔てて設けた電極14、外輪7に電気的に接続して測定する。前記電極14は、例えば、スリップリングによって実現される。なお、軸受専用の静電容量測定手段3を用いて恒常的に静電容量を測定するようにしても良い。
前述の潤滑剤の粘度、使用回転数、予圧量、温度範囲のうち、使用回転数は、この軸受状態検査装置の回転速度測定手段としての回転センサ5等によって測定される。また、前記温度範囲は、同軸受状態検査装置の温度測定手段としての温度センサ4等によって測定される。
【0022】
前記判定手段6は、例えば、計測器や、中央演算処理装置(略称CPU;Central Processing Unit)等の他、簡単な電子回路、例えば閾値と比較するだけの回路等によって実現される。市販の電気容量計等の計測器を適用する場合、この計測器を例の転がり軸受の潤滑状態の計測に使用することができ、計測器自体の兼用性を高めることができる。したがって、軸受状態検査装置の初期導入費用を極力抑えることができる。専用の電子回路等を適用する場合、転がり軸受の潤滑状態を常に判定することができ、潤滑剤の劣化状態をリアルタイムで監視することが可能となる。なお、前記判定手段6と前記静電容量測定手段3とを一体に設けてもよいし、別体に設けても良い。
【0023】
図3は、回転数と静電容量との関係を表す図である。同図において、実線は、前記EHL理論を用いた静電容量の計算値を表し、黒四角のプロットは、回転数等を考慮した静電容量値の実測値を表している。軸受の回転数が高くなるに従って、計算値および実測値とも静電容量は次第に小さくなっており、略一致している。計算値および実測値両者の関係から、前記EHL理論を用いた静電容量の計算値が正しいものと推定することができる。
【0024】
以上説明した軸受状態検査装置によると、特に、温度、回転速度をパラメータとして、演算により求めた潤滑膜厚さから計算上の静電容量を求めておき、この計算上の静電容量と実際に測定した静電容量との比較結果から軸受の潤滑状態を正確にかつ簡単に判定することができる。また、潤滑剤の粘度、予圧量により潤滑状態は変化するが、判定手段6は、これら潤滑剤の粘度、予圧量をも考慮して接触面積および潤滑膜厚さを導出しているので、軸受の潤滑状態をより正確に判定することができる。このような軸受状態検査装置、軸受状態検査方法により、装置のメンテナンス時期を正確に判断することができ、潤滑剤の潤滑状態の異常を予測、または検知することが可能となる。
【0025】
次に、この発明の他の実施形態を図5ないし図8と共に説明する。以下の説明においては、先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する場合がある。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0026】
本実施形態では、回転側輪の表面に所定すき間δを隔てて対向するリング状の検出リング15を設け、この検出リング15と固定側輪間の静電容量を測定することにより、非接触で軸受の静電容量を測定することができる。前記検出リング15の代わりに、リング状でない検出体を回転側輪の表面にすき間δを隔てて設けても良い。
図5に示した内輪回転の軸受で動作原理等を説明する。同図に示すように、転がり軸受の内輪8の側面にすき間δを隔てて対向する検出リング15と、この検出リング15に一方の電極3aが電気的に接続され、固定側輪である外輪7に他方の電極3bが電気的に接続されている。
【0027】
この場合、固定側輪である外輪7は、図示外の絶縁手段で適切に絶縁され、ハウジング等の他の部材と電気的に非導通状態とされている。この場合の軸受使用装置から検出リング15にまたがる経路の電気的な等価回路は、例えば、図7に示すようになる。すなわち、この場合の電気回路は、静電容量測定手段3の電極3bから軸受の外輪7→転動体9→内輪8→検出リング15→静電容量測定手段3の電極3aの経路で形成される。なお、軸受使用装置の転がり軸受が外輪回転の場合には、同軸受装置から検出リング15にまたがる経路の電気的な等価回路は、例えば、図8のようになる。すなわち、この場合の電気回路は、静電容量測定手段3の一方の電極3aから検出リング15→軸受の外輪7→転動体9→内輪8→静電容量測定手段3の他方の電極3bの経路で形成される。この等価回路は、図6の等価回路と比べて、静電容量Crの位置が内輪8側から外輪7側に入れ代わっているだけで、全体の静電容量Cは同じものとなる。
【0028】
前記内輪8と検出リング15の間でコンデンサが構成され、その静電容量Crは、リング間の対面する面積をS、リング間の距離をdとすれば、
Cr=εS/d ……(5)
となる。この静電容量Crの値は予め測定しておくことも可能である。また、転動体1個当たりの静電容量Ccは、
Cc=C・Cr/n(C−Cr) ……(6)
となり、この式(6)により、転動体1個当たりの静電容量Ccを求めることができる。
【0029】
全体の静電容量の測定には、例えば、電気容量計等の計測器を用いることができる。ただし、前述したように、潤滑膜厚さのパラメータに温度、回転数が含まれるため、温度センサ4を、固定側輪に取付けて軸受の固定側輪もしくは回転側輪等の温度を測定すると共に、回転センサ5を固定側輪に取付けて軸受の回転速度を測定する。それぞれの出力から潤滑膜厚さを推定する。このように、温度および回転数をパラメータとして含む潤滑膜厚さ等に基づいて静電容量を求め、この求めた静電容量と、前記計測器により測定した静電容量とを比較することにより、転がり軸受の潤滑状態を正確にかつ簡単に判定することができる。
【0030】
図9は、この発明のさらに他の実施形態に係る軸受状態検査装置等の要部を表す断面図である。本実施形態では、軸受状態検査装置は、回転側輪である内輪端面に所定すき間δを隔てて設けた電極14と、外輪7と電気的に導通する電極31と、これら電極14,31間に電気的に絶縁された絶縁体32とが一体の固定側ユニット33を備えている。この固定側ユニット33は、例えば、ハウジングHにおける転がり軸受2の嵌合孔Haに、段部を介して形成されるユニット嵌合孔Hbに嵌合され、固定側輪である外輪7に取り付けられる。
【0031】
前記固定側ユニット33のうち、半径方向外方側に配置される電極31が、ユニット嵌合孔Hbに嵌合され、かつ外輪端面に固着されて電気的に導通する。この電極31の内周に固着される絶縁体32は、例えば、樹脂等から成り、外輪端面に干渉しないように同外輪端面に軸方向すき間を隔てて設けられている。ただし、絶縁体材料は樹脂に限定されるものではない。この絶縁体32の内周に、前記電極14が固着されている。その他図1に示す実施形態と同様の構成となっている。
【0032】
図9に示す固定側ユニット33を設ける場合、軸受状態検査装置の組立が容易になり、製造コストの低減を図ることができる。また、固定側ユニット33を前述のように取付けるだけで、電極14は内輪端面に所定すき間δを隔てることが可能である。この場合、固定側ユニット33の調整、交換等を容易にし、作業工数の低減を図ることができる。その他図1に示す実施形態と同様の作用、効果を奏する。
また、図9の二点鎖線で示すように、前記温度センサ4および回転センサ5の少なくともいずれか一方または両方が、この固定側ユニット33と一体に設けられても良い。この場合、軸受状態検査装置の組立をさらに容易化することができる。
【0033】
図10は、軸受状態検査装置における判定手段の一例を表すブロック図である。
判定手段6は、静電容量測定手段3で測定した測定値から、この転がり軸受の潤滑状態を推定するCPU16を有する。前記静電容量測定手段3は、直列接続した発振器17と電流測定手段18とを備え、この電流測定手段18とCPU16とが電気的に接続されている。また、電流測定手段18が電極3aに電気的に接続され、発振器17が電極3bに電気的に接続されている。この軸受使用装置に交流電流を流すことによって、前述の全体の静電容量Cをインピーダンスに換算して測定するようにした例を示す。この場合、測定したインピーダンスから平均静電容量Caを求めることもできる。
【0034】
図11は、静電容量測定手段3AがOPアンプ19で構成した発振器20と、この発振器20の発振周波数から静電容量を推定する周波数対応容量推定手段21とでなり、測定した発振器20の周波数により、軸受使用装置全体の静電容量Cを推定するようにした例を示す。この場合の発振器20は、relaxation oscillorと呼ばれ、OPアンプ19に抵抗30Ra,30Rb,30Rt、およびコンデンサ30Ctを接続して構成される。抵抗30Ra,30Rb,30Rtの抵抗値をRa,Rb,Rt、コンデンサ30Ctの静電容量をCtとすると、発振周波数fは、およそ
f=1/(2Rt Ct)
となることが知られている。
ここでは、前記発振器20のコンデンサ30Ctが、軸受使用装置全体の静電容量Cに置き換えられることで、その静電容量Cが推定される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の一実施形態に係る軸受状態検査装置を用いた転がり軸受の検査を示す説明図である。
【図2】同転がり軸受の軸受構造を電気回路として表現した場合の模式図である。
【図3】回転数と静電容量との関係を表す図である。
【図4】回転数と静電容量との関係を表し、閾値判断により軸受が正常に動作しているか否かを説明する図である。
【図5】この発明の他の実施形態に係る軸受状態検査装置を用いた転がり軸受のうち回転側輪である内輪に、すき間を隔ててスリップリングを設けた構造を表す図である。
【図6】同転がり軸受のうち回転側輪である外輪に、すき間を隔ててスリップリングを設けた構造を表す図である。
【図7】一方の電極から他方の電極にわたる経路の電気的な等価回路図である。
【図8】この発明の他の実施形態の等価回路図である。
【図9】この発明のさらに他の実施形態に係る軸受状態検査装置等の要部を表す断面図である。
【図10】軸受状態検査装置における判定手段の一例を表すブロック図である。
【図11】判定手段の他の例を表すブロック図である。
【符号の説明】
【0036】
2…転がり軸受
3…静電容量測定手段
4…温度センサ
5…回転センサ
6…判定手段
7…外輪
8…内輪
9…転動体
14…電極
15…検出リング
33…固定側ユニット
δ…すき間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ導電性の外輪と内輪と転動体とを有する転がり軸受において、
前記内外輪のうちの回転側輪の表面にすき間を隔てて非接触で対向する電極を設け、前記内外輪のうちの固定側輪と前記電極との間に接続されて前記電極と回転側輪との間、回転側輪と転動体との間、および転動体と固定側輪との間の各静電容量の合計値を測定する静電容量測定手段と、
前記内輪または外輪の温度を測定する温度測定手段と、
前記回転側輪の回転速度を測定する回転速度測定手段と、
前記温度測定手段により測定される温度、および前記回転速度測定手段により測定される回転速度を設定して、転動体と内外輪との接触面積および潤滑膜厚さを導出し、導出した接触面積および潤滑膜厚さから静電容量を求め、この求めた静電容量と、前記静電容量測定手段により測定した各静電容量の合計値とを比較して、前記転がり軸受の潤滑状態を判定する判定手段と、
を有することを特徴とする軸受状態検査装置。
【請求項2】
請求項1において、前記判定手段は、測定される温度および回転速度を設定すると共に、この軸受で使用する潤滑剤の粘度、および予圧量を設定して前記接触面積および潤滑膜厚さを導出する軸受状態検査装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記電極は、リング状のスリップリングからなる軸受状態検査装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、内外輪のうちの回転側輪の表面にすき間を隔てて非接触で対向する電極と、固定側輪と電気的に導通する電極と、これら電極間に電気的に絶縁された絶縁体とが一体の固定側ユニットを前記固定側輪に取付けた軸受状態検査装置。
【請求項5】
請求項4において、内輪または外輪の温度を測定する温度測定手段と、軸受の回転速度を測定する回転速度測定手段のうちの少なくともいずれか1つが前記固定側ユニットと一体に設けられたことを特徴とする軸受状態検査装置
【請求項6】
それぞれ導電性の外輪と内輪と転動体とを有する転がり軸受の潤滑状態を検査する軸受状態検査方法において、
前記内外輪のうちの回転側輪の表面にすき間を隔てて非接触で対向する電極を設け、前記内外輪のうちの固定側輪と前記電極との間に接続されて前記電極と回転側輪との間、回転側輪と転動体との間、および転動体と固定側輪との間の各静電容量の合計値を測定し、
前記内輪または外輪の温度を測定し、
前記回転側輪の回転速度を測定し、
前記測定される温度および回転速度を設定して、転動体と内外輪との接触面積および潤滑膜厚さを導出し、導出した接触面積および潤滑膜厚さから静電容量を求め、この求めた静電容量と、前記測定した各静電容量の合計値とを比較して、前記転がり軸受の潤滑状態を判定する軸受状態検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−63397(P2009−63397A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231076(P2007−231076)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】