説明

軸受用保持器

【課題】潤滑作用を有しており、しかも使用初期の段階における潤滑不足を解消することができる軸受用保持器を提供する。
【解決手段】軸受用保持器14は、転動体を保持する複数のポケット15を備え自己潤滑作用を有するポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる。各ポケット15のポケット面15aに、転動体との摩擦により早期に磨耗することにより、潤滑剤を玉に供給することができ、使用初期の潤滑作用を行うための突起16が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂製の軸受用保持器に関する。この保持器は、特に、真空環境で使用される転がり軸受に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置の真空チャンバ内などに用いられる転がり軸受では、転動体を保持する複数のポケットを備え自己潤滑作用を有する樹脂製の保持器を用いるようになっている。
【特許文献1】特開2002−39189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1の軸受用保持器では、真空環境下でグリースが不要という利点がある。しかしながら、保持器自体の自己潤滑作用によって適正な潤滑が行われるためには、ある程度の期間使用されることが必要であり、使用初期の段階では潤滑作用が不十分となる可能性がある。
【0004】
この発明は、潤滑作用を有しており、しかも使用初期の段階における潤滑不足を解消することができる軸受用保持器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明による軸受用保持器は、転動体を保持する複数のポケットを備え自己潤滑作用を有する樹脂製の軸受用保持器であって、各ポケットのポケット面に、転動体との摩擦により早期に磨耗して使用初期の潤滑作用を行う突起が設けられていることを特徴とするものである。
【0006】
保持器は、固体潤滑剤からなるものとしてもよく、母材に固体潤滑剤が含有されているものとしてもよい。突起は、ポケットに一体に設けられる。
【0007】
保持器が固体潤滑剤からなる場合の材質は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂とされる。この保持器は、削り出し加工によって形成される。また、母材に固体潤滑剤が含有されている保持器では、母材として、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)アロイまたは熱可塑性ポリイミド(TPI)が使用され、固体潤滑剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)単独、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と二硫化モリブデンとの二種配合またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と二硫化モリブデンと黒鉛との三種配合などが使用される。保持器には、必要に応じて、チタン酸カリウムウィスカーなどの強化繊維が配合される。この保持器は、射出成形で製作することができる。
【0008】
ポケットの径は、従来と同様に形成され、例えば、転動体の径の1.02〜1.09倍で形成される。
【0009】
突起は、三角錐形状であってもよく、四角柱形状であってもよく、半球形状や円錐形状であってもよい。
【0010】
玉軸受において、軸受回転時に玉は保持器に保持されて公転しながら自転しているが、玉の周速は玉の自転軸上線上で最も小さく、自転軸線から最大距離だけ離れた位置で最も大きいことが知られている。すなわち玉軸受用保持器においては、玉の自転軸線から最大距離だけ離れた各ポケット面上のポケット中心を介して対向する2箇所の部分において玉が最大周速を有する。したがって、各ポケット面のポケット中心を介して対向する2箇所の部分に突起を設けると、突起の受ける接触面圧が大きくなって突起が早期に磨耗し、より早い段階で十分な潤滑作用を得ることができる。
【0011】
玉軸受用保持器の場合、突起は、例えば、玉の自転軸線から最大距離だけ離れポケット中心を介して対向する2箇所のうちの1箇所に、1つのポケット面に付き1つ設けられる。好ましくは、突起は、各ポケット面の軸方向中央部分に、ポケット中心を介して対向するように1つのポケット面に付き2つ設けられて、その対向する突起の先端面間距離Bが転動体の径Cにほぼ等しくされる。この場合、突起がない場合のポケット径をAとして、A=1.02〜1.09×CでかつB≧Cとされることが好ましい。突起の数は、1つのポケット面に付き3つ以上としてもよく、この場合には、突起の先端部に内接する円の径をBとして、A=1.02〜1.09×CでかつB≧Cとされる。このようにすると、転動体は、複数の突起に挟まれた状態で転動することにより、突起の受ける接触面圧が大きくなって、突起が早期に磨耗し、より早い段階で十分な潤滑作用を得ることができる。玉軸受以外の軸受用保持器の場合でも同様であり、例えば、各ポケット面の軸方向中央部分に、所定間隔をおいて1つのポケット面に付き2つ以上の突起が設けられて、突起がない場合のポケット径をA、突起の先端面に内接する円の径をB、転動体の径をCとして、A=1.02〜1.09×CでかつB≧Cを満たすことにより、上記の潤滑作用を得ることができる。すなわち、突起は、冠型保持器の場合、例えば、ポケット面の最底部と両爪端部との間であって、ポケット面の曲率中心を通り軸受の回転軸と平行な線からの距離が最大となる2箇所の位置や、もみ抜き型保持器の場合、例えば、ポケット面において、保持器の回転軸方向(幅方向)の中心線を通りポケットの中心を介して対向する2箇所の位置に設けられる。
【0012】
突起の数、形状および位置は、適宜変更可能であるが、1つのポケット面に付き突起の数が多すぎると転動体との接触面圧が相対的に低くなり突起が磨耗しにくくなるので、突起の数は2つまたは3つであることが好ましい。
【0013】
軸受の形式は、例えば、深溝玉軸受のほかに、アンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受、針状ころ軸受、円錐ころ軸受、球面ころ軸受とすることができる。これらの軸受形式に応じて、保持器のタイプとしては、例えば、冠型やもみ抜き型のタイプが使用され、いずれのタイプにも本発明を適用できる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の軸受用保持器によると、各ポケットのポケット面に設けられた突起が、転動体との摩擦により早期に磨耗して使用初期の潤滑作用を行うので、潤滑不良を解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0016】
図1から図4にこの発明の1実施形態を示す。
【0017】
図1は、この発明の保持器(14)を備えた転がり軸受(1)の縦断面の一部を、図2は、この発明の保持器(14)を備えた転がり軸受(1)の横断面の一部を、図3は、この発明による軸受用保持器(14)を示している。また、図4は、この発明の保持器(14)が有しているポケット(15)を示している。
【0018】
図1および図2に示すように、転がり軸受(1)は、深溝玉軸受であり、外輪(12)と、内輪(11)と、内・外輪(11)(12)の間に周方向一定間隔に介在する複数の玉(転動体)(13)と、複数の玉(13)を円周等間隔に保持する保持器(14)とから構成されている。
【0019】
図3に示す保持器(14)は、いわゆる冠型保持器と呼ばれるものであり、玉(13)の相似形状を有する凹面球面状ポケット面(15a)を持った複数のポケット(15)を備えている。
【0020】
保持器(14)は、固体潤滑剤であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなり、保持器(14)のポケット面(15a)が玉(13)との摩擦により磨耗することにより、潤滑剤を玉(13)に供給することができる。この保持器(14)は、削り出し加工によって形成されている。
【0021】
保持器(14)の各ポケット面(15a)には、ポケット(15)の内方に突出した突起(16)が設けられている。
【0022】
図1および図2に示すように、突起(16)は、各ポケット面(15a)の軸方向中央部分に、ポケット(15)中心を介して対向するように1つのポケット面(15a)に付き2つ設けられている。
【0023】
突起(16)は、各ポケット(15)に一体に設けられており、保持器(14)の径方向および軸方向のいずれの方向から見ても台形状となっている。
【0024】
図4に示すように、ポケット(15)の径は、玉(13)の径の1.02〜1.09倍で形成されている。
【0025】
対向する突起(16)の先端面間距離Bは、玉(13)の径Cにほぼ等しくされている。この場合、突起(16)がない場合のポケット(15)の径をAとしてA=1.02〜1.09×CでかつB≧Cとされている。
【0026】
突起が設けられていない従来の軸受用保持器では、保持器が潤滑作用を有していても、玉の球面がポケット面の広範囲に接触するので、玉との接触面圧が相対的に低く保持器のポケット面が磨耗しにくい。これにより、使用初期の段階では、潤滑作用が不十分となり玉や内外輪の軌道みぞに磨耗が生じる場合がある。この発明の保持器(14)が用いられている軸受(1)では、玉(13)が2つの突起(16)に挟まれた状態で転動することにより、突起(16)の受ける接触面圧は大きくなって、突起(16)が早期に磨耗しやすくなっている。これにより、使用初期の段階で、突起(16)が磨耗して潤滑剤を玉(13)に供給することができる。したがって、使用初期の段階の潤滑不良を解消することができる。突起(16)が磨耗により消滅すると、保持器(14)が従来と同様の形状となり、玉(13)との摩擦により保持器(14)のポケット面(15a)が微量ずつ磨耗し潤滑剤を玉(13)に継続して供給することができる。
【0027】
上記の実施形態では、転がり軸受(1)を深溝玉軸受とした例で説明しているが、これに限定されるものではなく、例えばアンギュラ玉軸受や円筒ころ軸受とすることができる。また、上記の実施形態では、保持器(14)を冠型とした例で説明しているが、例えばもみ抜き型の保持器であってもこの発明を適用することができる。
【0028】
上記実施形態の転がり軸受は、半導体製造装置のほか、例えば、自動車エンジンの過給器、ガスタービン、工作機械などに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明の1実施形態に係る保持器を備えた転がり軸受の部分縦断面図である。
【図2】図2は、同部分横断面図である。
【図3】図3は、本発明の1実施形態に係る軸受用保持器の斜視図である。
【図4】図4は、この発明の保持器におけるポケットの拡大側面図である。
【符号の説明】
【0030】
(1) 転がり軸受
(13) 玉(転動体)
(14) 保持器
(15) ポケット
(15a) ポケット面
(16) 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動体を保持する複数のポケットを備え自己潤滑作用を有する樹脂製の軸受用保持器であって、各ポケットのポケット面に、転動体との摩擦により早期に磨耗して使用初期の潤滑作用を行う突起が設けられていることを特徴とする軸受用保持器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−138863(P2009−138863A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316509(P2007−316509)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】