説明

軸流圧縮機

【課題】ロータ及びロータ軸部の嵌合部の加工に要するコストを抑えつつ、ロータ軸部に対してロータを強固に嵌合できるようにする。
【解決手段】軸流圧縮機10は、動翼34を有するロータ31と、ロータ31の一端面に接合される第1押え部材41と、ロータ31の他端面に接合される第2押え部材42と、第1押え部材41、ロータ31及び第2押え部材42を貫通するロータ軸部46と、第1押え部材41及び第2押え部材42によってロータ31を挟み込んだ状態で第1押え部材41及び第2押え部材42をロータ軸部46に固定するナット43と、を備える。ロータ軸部46は、ロータ31の少なくとも一部を構成する材質よりも低い線膨張係数を有する材質で構成されている。ロータ31の少なくとも一部を構成する材質は、アルミニウム又はアルミニウム合金であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸流圧縮機、例えば水蒸気を圧縮する軸流圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸流圧縮機等の圧縮機に用いられるロータは、駆動時にロータ軸部に対して周方向に変位しないように軸部に強固に嵌合させる必要がある。例えば、下記特許文献1には、ロータとロータ軸部との嵌合をキー結合、ツースカップリング又はポリゴンフィットを用いて行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−21200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、キー結合では、前記特許文献1の中でも指摘されているように嵌合穴の拡がりに起因してロータ軸部の振動が生じてしまう。また、ツースカップリング又はポリゴンフィットを用いた嵌合では、カップリングの加工作業に手間がかかるため、製造コスト上不利となる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、ロータ及びロータ軸部の嵌合部の加工に要するコストを抑えつつ、ロータ軸部に対してロータを強固に嵌合できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するため、本発明は、作動流体を圧縮するための軸流圧縮機であって、動翼を有するロータと、前記ロータの一端面に接触する第1押え部材と、前記ロータの他端面に接触する第2押え部材と、前記第1押え部材、前記ロータ及び前記第2押え部材を貫通するロータ軸部と、前記第1押え部材及び前記第2押え部材によって前記ロータを挟み込んだ状態で前記第1押え部材及び前記第2押え部材を前記ロータ軸部に固定する固定部と、を備え、前記ロータ軸部は、前記ロータの少なくとも一部を構成する材質よりも低い線膨張係数を有する材質で構成されている軸流圧縮機である。
【0007】
本発明の軸流圧縮機では、第1押え部材と第2押え部材とによってロータをロータ軸部の軸方向両側から挟み込んでいる。この軸流圧縮機においては、作動流体を圧縮する駆動時に生ずる熱によってロータが膨張するが、ロータ軸部が、ロータの少なくとも一部を構成する材質よりも低い線膨張係数を有する材質で構成されているので、ロータ軸部の軸方向の膨張量に比べてロータの軸方向の膨張量の方が大きい。このため、ロータの膨張によってロータと第1押え部材との間の押圧力が増大するとともに、ロータと第2押え部材との間の押圧力が増大する。したがって、駆動時にはロータの組み付け時に比べて固定部による結合力が増大するため、ロータと押え部材との嵌め合いとして、ツースカップリング、キー結合等による嵌め合いを用いなくても周方向の相対変位を生じないようにすることができる。このため、嵌合部の加工に要するコストを抑えることができる。しかも、ロータ軸部へのロータの組み付け時における組み付け作業が煩雑にならないようにしつつ、駆動時にはロータがロータ軸部に対して周方向に回動しない程度の結合力を得ることができる。
【0008】
ここで、 前記作動流体は、水蒸気であってもよい。また、前記ロータの少なくとも一部を構成する材質は、アルミニウム又はアルミニウム合金であってもよい。
【0009】
前記ロータは、前記動翼を前記ロータ軸部の軸方向に複数有し、少なくとも最上流段の動翼を除いた動翼がアルミニウム製又はアルミニウム合金製であるのが好ましい。この態様では、最上流段の動翼での作動流体(水蒸気など)によるエロージョンを回避しつつロータの軽量化を図ることができる。
【0010】
また、前記最上流段の動翼は、アルミニウム製又はアルミニウム合金製であり、かつ陽極酸化被膜処理が施されていてもよい。この態様では、作動流体が水蒸気であれば、最上流段の動翼のエロージョンを防止しつつロータのさらなる軽量化を図ることができる。
【0011】
また、前記最上流段の動翼は、チタン製、チタン合金製、ステンレス製又はステンレス合金製であってもよい。この態様では、作動流体が水蒸気であれば、エロージョンを防止しつつ最上流段の動翼の耐久性を確保することができる。
【0012】
また、前記ロータは、軸方向に配置される複数の動翼と、隣り合う前記動翼間にそれぞれ配置されるスペーサとを有していてもよく、この場合には、前記スペーサと前記動翼とは別体に形成されるとともに互いに嵌合されているのが好ましい。この態様では、軸流圧縮機の駆動時におけるロータの膨張量とロータ軸部の膨張量との差に応じて増大する押え部材の押圧力により、スペーサと動翼とが互いに周方向に相対的に回動しない程度の結合力を得ることができる。また、動翼とスペーサとが別体に構成されているので、動翼とスペーサを別個に成形加工することができる。このため、小さな加工用素材を用いることができ、ロータの加工性を向上することができる。
【0013】
また、前記ロータ軸部が貫通している前記ロータの内側空間には円板状部材が設けられ、前記ロータ軸部はこの円板状部材を貫通していてもよい。この態様では、ロータ軸部が配設されるロータの内側空間をロータ軸部に比べて大径に形成し、この内側空間に円板状部材が配設される。このため、ロータの中央部を中空状に形成できるので、ロータの軽量化を図ることができる。しかも、円板状部材によってロータ軸部の中間部を支持することができるので、ロータ軸部の固有振動数を上げることができる。
【0014】
また、前記ロータ軸部は、チタン製又はチタン合金製であってもよい。この態様では、駆動時におけるロータの熱膨張量とロータ軸部の熱膨張量との差を確保し易くなり、しかもロータ軸部の剛性を上げることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、ロータ及びロータ軸部の嵌合部の加工に要するコストを抑えつつ、ロータ軸部に対してロータを強固に嵌合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る軸流圧縮機の概略構成を示す図である。
【図2】動翼と第1押え部材との嵌合部を主として示す断面図である。
【図3】動翼とスペーサとの嵌合部を主として示す断面図である。
【図4】本発明のその他の実施形態に係る軸流圧縮機における動翼及びスペーサの嵌合部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施形態に係る軸流圧縮機10は、冷凍機に設けられる圧縮機として構成されるものであり、蒸発器12及び凝縮器13を有する冷媒回路14に設けられている。この軸流圧縮機10は、蒸発器12で蒸発した作動流体(冷媒)としての水蒸気を圧縮する。この水蒸気は、比較的低温、低圧の水蒸気である。本実施形態の軸流圧縮機10で圧縮される作動流体たる水蒸気は、その軸流圧縮機10の入り口から吐出口において、例えば大気圧以下の圧力で5℃から150℃の範囲の温度、動翼が7段程度の複数段となる場合は、例えば、5℃から250℃の範囲の温度となる。この冷媒回路14では、軸流圧縮機10で圧縮された作動流体が凝縮器13に送られ、凝縮器13において凝縮される。作動流体が相変化を伴って冷媒回路14を循環する。そして、蒸発器12において冷媒が蒸発することにより、2次側熱媒体に冷熱を供給することができる。この2次側熱媒体は、図外の利用側装置に供給されて冷却対象としての室内空気等を冷却する。
【0019】
軸流圧縮機10は、作動流体を圧縮する圧縮空間CSを有する圧縮部20と、圧縮部20を駆動するための電動機22と、圧縮空間CSから吐出された作動流体の流速を減速するための減速部24と、を備えている。軸流圧縮機10のケーシング26は、圧縮部20に配置される円筒状の第1ケース部27と、圧縮部20の一端側(上流側)に配置される第2ケース部28と、圧縮部20の他端側(下流側)となる減速部24に配置される第3ケース部29とを備えている。
【0020】
圧縮部20は、第1ケース部27と、第1ケース部27内に配置されたロータ31とを備えている。第1ケース部27とロータ31との間の空間が、作動流体を圧縮するための圧縮空間CSとして機能する。この圧縮空間CSは、図1の左側が吸入口CS1となり、右側が吐出口CS2となる。したがって、蒸発器12で蒸発した作動流体は図1の左側の吸入口CS1を通して圧縮空間CS内に吸入され、この作動流体は圧縮空間CS内を図1の左から右に移動するにつれて圧縮されて吐出口CS2から吐出される。
【0021】
第1ケース部27の内周面には、複数の静翼33が軸方向に間隔をおいて固定されている。この第1ケース部27は、軸方向が水平になるように設置される。
【0022】
ロータ31は、複数の動翼34と複数のスペーサ35とを備えている。これらの複数の動翼34は、静翼33と交互に位置するように軸方向に間隔をおいて配置されている。スペーサ35は、円筒状に形成される部材であり、静翼33の径方向内側に配置されるとともに、隣り合う動翼34の間にそれぞれ配置されている。図例では、4つの動翼34と4つのスペーサ35が設けられた構成を示しているがこれに限られるものではない。
【0023】
動翼34は、円筒状のボス部37と、このボス部37の周囲に一体的に形成された翼部38とを備えている。すなわち、動翼34は、後述するように、何れもアルミニウム製又はアルミニウム合金製であり、1つの素材から削り出して成形した一体成形品である。翼部38はボス部37の周方向に複数形成されている。ボス部37の外周面及び内周面はスペーサ35の外周面及び内周面と面一の状態となっている。
【0024】
圧縮部20は、駆動軸40と、第1押え部材41と、第2押え部材42と、固定部の一例としてのナット43と、円板状部材44とを備えている。駆動軸40は、ロータ軸部46と、ロータ軸部46の両端部にそれぞれ配置された2つのエンド軸部47,47とを備えている。
【0025】
ロータ軸部46は、第1ケース部27の軸心上に配置されており、第1ケース部27の軸方向に沿って延びている。ロータ軸部46の両端部は、軸方向において動翼34及びスペーサ35の外側に位置しており、この両端部にはそれぞれ雄ねじ部46a(図2参照)が設けられている。
【0026】
第1押え部材41は、最上流段の動翼34に接触するように配置され、また第2押え部材42は、最下流段の動翼34の外側に位置するスペーサ35に接触するように配置されている。第1押え部材41と第2押え部材42とは、同じ構成の部材であるが、軸方向において逆向きに配設される。
【0027】
第1押え部材41は、円板状に形成されており、該押え部材41には、ロータ軸部46を挿通させる中央貫通孔41aが形成されている。中央貫通孔41aは、図2に拡大して示すように、中間部に段差部が形成された段付き孔となっている。この中央貫通孔41aの小径部はロータ軸部46を挿通可能であるがナット43を挿通できない内径を有しており、大径部はナット43を挿入可能な内径を有している。
【0028】
第1押え部材41には、外周端部における軸方向の一方の端面から突出するロータ側嵌合部41bと、外周端部における軸方向のもう一方の端面から突出するエンド側嵌合部41cとが一体的に設けられている。
【0029】
ロータ側嵌合部41bは、軸方向に見て中央貫通孔41aと同心状の円環状に形成されており、軸方向端面が平坦面となっている。ロータ側嵌合部41bは、動翼34のボス部37に形成された端部嵌合部37aと嵌合される。
【0030】
ボス部37の端部嵌合部37aは、最上流段の動翼34において、吸入口CS1側の端面(ロータ31における軸方向外側の端面)に形成されている。そして、ボス部37の端部嵌合部37aは、ボス部37と同心状の円環状に形成されており、軸方向の端面が平坦面となっている。この端部嵌合部37aは第1押え部材41のロータ側嵌合部41bの内側に圧入等によって入り込んで該ロータ側嵌合部41bに嵌合する。そして、第1押え部材41のロータ側嵌合部41bと動翼34の端部嵌合部37aとが嵌合されることにより、第1押え部材41の軸心と最上流段の動翼34の軸心とが一致するようになっている。端部嵌合部37a及びロータ側嵌合部41bは、何れも軸方向端面が平坦面に形成されているので、ボス部37及び第1押え部材41の加工に要するコストを抑えることができる。この点は、第2押え部材42についても同様である。
【0031】
エンド側嵌合部41cは、軸方向に見て円環状に形成されており、このエンド側嵌合部41cには、エンド軸部47の端部に形成されたフランジ部47aが嵌合される。フランジ部47aはエンド側嵌合部41cと同心状の円環状に形成されており、フランジ部47aがエンド側嵌合部41cに嵌合することにより、エンド軸部47と第1押え部材41とが同軸状となる。この状態で、エンド軸部(第1エンド軸部)47と第1押え部材41とがボルト49によって互いに固定される。なお、エンド軸部47には、ナット43及びロータ軸部46の端部を受入れ可能な凹部47bがフランジ部47a側の端面から内側に延びるように形成されている。
【0032】
第2押え部材42も第1押え部材41と同様に、段付き孔からなる中央貫通孔が形成されるとともに、ロータ側嵌合部とエンド側嵌合部を備えている。第2押え部材42のロータ側嵌合部は最下流段の動翼34の外側に位置するスペーサ35の端部嵌合部に嵌合している。この端部嵌合部は、スペーサ35の吐出口CS2側の端面(ロータ31における軸方向外側の端面)に形成されており、最上流段の動翼34に形成されている端部嵌合部37aと同じ形状のものである。第2押え部材42のエンド側嵌合部は、吐出部側のエンド軸部(第2エンド軸部)47のフランジ部に嵌合している。このフランジ部は、第1エンド軸部47のフランジ部47aと同じ形状である。
【0033】
第1押え部材41及び第2押え部材42において、中央貫通孔41aに挿通されたロータ軸部46の雄ねじ部46aにナット43を螺合することにより、ロータ31(動翼34及びスペーサ35)を挟み込んだ状態でナット43によって第1押え部材41及び第2押え部材42を軸方向の両側から締め付けることができる。ナット43を螺合する際には、第1押え部材41及び第2押え部材42は予め定められたトルク値で締め付けられる。なお、ここでいう「予め定められたトルク値」は、後述するとおり、ロータ31とロータ軸部46との線膨張係数の相違、ひいては両者の駆動時の膨張量の相違に基づき、ロータ31の組み付け時よりも駆動時のほうがナット43による結合力が増大することを考慮して定められる。これにより、互いに隣り合う動翼34とスペーサ35とは互いに嵌合されている。
【0034】
図3に示すように、互いに隣り合う動翼34とスペーサ35とは互いに嵌合されている。すなわち、動翼34のボス部37には、スペーサ35に対向する端面において軸方向に突出する第1嵌合部37bが形成されている。ボス部37は円筒状に形成されており、第1嵌合部37bは、このボス部37の内周部に沿うように、ボス部37と同心状の円環状に形成されており、第1嵌合部37bの軸方向端面は平坦面となっている。一方、スペーサ35には、動翼34のボス部37と対向する端面において軸方向に突出する第2嵌合部35aが形成されている。第2嵌合部35aはスペーサ35の外周部に沿うように、スペーサ35と同心状の円環状に形成されており、第2嵌合部35aの軸方向端面は平坦面となっている。第2嵌合部35aの内径は第1嵌合部37bの外径に対応しているので、両嵌合部37b,35aを嵌合させることにより動翼34とスペーサ35とを同心状に互いに結合することができる。すなわち、動翼34とスペーサ35とは別体に構成され、その後に互いに嵌合される。ボス部37の第1嵌合部37b及びスペーサ35の第2嵌合部35aは、何れも軸方向端面が平坦面に形成されているので、ボス部37及びスペーサ35の加工に要するコストを抑えることができる。
【0035】
スペーサ35及びボス部37の内径は、ロータ軸部46の外径よりも十分大きい。このため、スペーサ35及びボス部37が繋がって形成される円筒部とロータ軸部46との間には軸方向に延びる空間が形成されている。この空間すなわちロータ31の内側空間31aには、円板状部材44が設けられている。スペーサ35には、第2嵌合部35aよりも内側の部位に、円板状部材44の厚みに対応する幅の凹部35bが形成されており、この凹部35bに円板状部材44の外周部が挿入され、この状態で円板状部材44とスペーサ35とがボルト51によって締結されている。すなわち、円板状部材44は動翼34のボス部37とスペーサ35との間に隙間なく挟み込まれている。
【0036】
円板状部材44は、ロータ軸部46に対して垂直になる姿勢で配設されており、その中央部には厚み方向に貫通する貫通孔44aが形成されている。この貫通孔44aにはロータ軸部46が挿通されている。したがって、ロータ軸部46は、その中間部位の複数個所で円板状部材44に支持されている。
【0037】
上流段の動翼34と下流段の動翼34とでは、運転中に温度差が生ずる。このため、動翼34及びそれに接するスペーサ35の熱膨張により、軸方向において、円板状部材44とロータ軸部46との相対的な位置関係が変化する。したがって、長期期間、運転を行うためには、ロータ軸部46は円板状部材44に対して軸方向に動き易くなっているのが好ましい。このため、円板状部材44の貫通孔44aの内周面及びロータ軸部46の外周面が、研磨や他の手段などの表面処理により、滑らかな面となっていてもよい。
【0038】
動翼34は、何れもアルミニウム製又はアルミニウム合金製であり、またスペーサ35は、何れもアルミニウム製又はアルミニウム合金製である。言い換えるとロータ31は、アルミニウム製又はアルミニウム合金製である。一方、ロータ軸部46はチタン製又はチタン合金製である。したがって、ロータ軸部46は、アルミニウムよりも低い線膨張係数を有する材質で構成されている。このため、軸流圧縮機10の駆動時に発生する熱によりロータ31及びロータ軸部46が膨張する際には、ロータ軸部46よりもロータ31の方がより軸方向に膨張する。なお、動翼34の材質は前記の材質と異なる材質で構成されていてもよい。
【0039】
また、第1押え部材41及び第2押え部材42は、ステンレス製又はステンレス合金製である。なお、円板状部材44は、アルミニウム製又はアルミニウム合金製である。なお、第1押え部材41、第2押え部材42及び円板状部材44の材質は前記の材質と異なる材質で構成されていてもよい。
【0040】
本実施形態では、最上流段の動翼34も含めて、動翼34はアルミニウム製又はアルミニウム合金製となっている。なお、少なくとも最上流段の動翼34については、陽極酸化被膜処理が施されていてもよい。この場合には、動翼34の軽量化を図りながら動翼34のエロージョンを効果的に防止することができる。また、最上流段の動翼34は、チタン製、チタン合金製、ステンレス製又はステンレス合金製としてもよい。この場合には、エロージョンを防止しつつ最上流段の動翼34の耐久性を確保することができる。
【0041】
図1に示すように、両端部のエンド軸部47,47は、それぞれ軸受け55,55によって支持されており、ロータ軸部46と同軸上に配置されている。軸受け55は、エンド軸部47の主部47cにおいてエンド軸部47を回転可能に支持する。主部47cはフランジ部47aとは反対側にロータ軸部46と同軸上に延びる部分である。
【0042】
両軸受け55,55は、それぞれハウジング56,57に収められている。一端部側の軸受け55を収納する上流側のハウジング56は、第2ケース部28との間に円筒状の空間を形成するように設けられ、この空間は、圧縮空間CSに導入される作動流体が流れる上流側空間USとなる。一方、他端部側の軸受け55を収納する下流側のハウジング57は、第3ケース部29との間に円筒状の空間を形成するように設けられ、この空間は、圧縮空間CSから導出された作動流体が流れる下流側空間DSとなる。
【0043】
各ハウジング56,57は複数の支持部材59,59を介して第2ケース部28又は第3ケース部29に支持されている。各支持部材59は、棒状に形成されるとともに、周方向に放射状に配設されている。支持部材59,59は上流側空間US及び下流側空間DSに配置されているが、断面が流線形となっていることにより、作動流体の流れを阻害しないようになっている。なお、図例では、下流側空間DSの支持部材59がハウジング57の内側まで入り込んだ構成となっているが、このハウジング57の内側に入り込んでいる部位については棒状に形成されていなくてもよい。
【0044】
支持部材59には、潤滑剤を供給及び排出するための給排通路59aが形成されている。潤滑剤は、第2ケース部28及び第3ケース部29の外部から導入され、この給排通路59aの1つを通って軸受け55に供給され、他の給排通路59aを通って軸受け55から排出される。
【0045】
吐出口CS2側のエンド軸部47は、下流側のハウジング57内に配置されており、このエンド軸部47には、フレキシブルカップリング61を介して電動機22の回転軸22aが接続されている。圧縮部20の駆動軸40と電動機22の回転軸22aとが増速機を介することなく接続されているので、電動機22の回転数とロータ31の回転数とは同じ回転数となっている。
【0046】
前記減速部24は、第3ケース部29によって形成された下流側空間DSを有している。第3ケース部29は、第1ケース部27の軸方向一端部に繋がる外周面部29aと、外周面部29aの内側に配置されて軸方向に延びる内周面部29bと、外周面部29a及び内周面部29bの軸方向端部同士を接続する端面部29cと、を備えている。
【0047】
外周面部29aには、排出ポート65が設けられている。この排出ポート65には、下流側空間DS内で減速された作動流体を凝縮器13に導くための配管が接続されている。
【0048】
内周面部29bには、ハウジング57との接続部から径方向内側に延出されるように電動機支持部66が設けられている。電動機22は、減速部24の内周面部29bの内側に配置されるとともに、電動機支持部66に取り付けられている。
【0049】
本実施形態に係る軸流圧縮機10では、電動機22の回転軸22aが回転すると、圧縮部20の駆動軸40も同じ回転数で回転し、ロータ31が軸回りに回転する。これに伴い、上流側空間US内の作動流体が吸入口CS1を通して圧縮空間CSに吸入され、圧縮空間CS内では作動流体が圧縮されながら図1の右方向に送られ、吐出口CS2を通して下流側空間DSに吐出される。この作動流体は減速部24内において減速されるとともに圧力回復し、排出ポート65を通して排出される。
【0050】
以上説明したように、本実施形態では、第1押え部材41と第2押え部材42とによってロータ31を軸方向両側から挟み込んでいる。この軸流圧縮機10においては、水蒸気を圧縮する駆動時に生ずる熱によってロータ31が膨張するが、ロータ軸部46が、ロータ31を構成するアルミニウムよりも低い線膨張係数を有する材料で構成されているので、ロータ軸部46の軸方向の膨張量に比べてロータ31の軸方向の膨張量の方が大きい。このため、ロータ31の膨張によってロータ31と第1押え部材41との間の押圧力が増大するとともに、ロータ31と第2押え部材42との間の押圧力が増大する。したがって、駆動時にはロータ31の組み付け時に比べてナット43による結合力が増大するため、ロータ31と押え部材41,42との嵌め合いとして、ツースカップリング、キー結合等による嵌め合いを用いなくても周方向の相対変位を生じないようにすることができる。このため、嵌合部の加工に要するコストを抑えることができる。特に、その嵌合部の軸方向の端面(例えば、ロータ側嵌合部41bや端部嵌合部37aの軸方向の端面)を略平坦面とすることができるので、嵌合部の加工に要するコストを抑えることができる効果は大きい。しかも、ロータ軸部46へのロータ31の組み付け時における組み付け作業が煩雑にならないようにしつつ、駆動時にはロータ31がロータ軸部46に対して周方向に回動しない程度の結合力を得ることができる。なお、第1押え部材41のロータ側嵌合部41bは、ロータ31の最上流段の動翼34のボス部37に形成された端部嵌合部37aと嵌合される。第1押え部材41は、ロータ31を構成するアルミニウムよりも低い線膨張係数を有する材料(ステンレス)で構成されているので、駆動時の第1押え部材41の径方向の膨張量よりもロータ31の径方向の膨張量の方が大きい。したがって、駆動時にはロータ31の組み付け時に比べてロータ側嵌合部41b(第1押え部材41)と端部嵌合部37a(ロータ31)との嵌合がより強固となる。このことは第2押え部材42とロータ31との嵌合についても同様である。また、ロータ31をアルミニウム製又はアルミニウム合金製としているので、その分ロータ31の軽量化を図ることができる。すなわち、作動流体として水蒸気が用いられるとともに、軸流圧縮機10に導入されるときの水蒸気の温度が例えば大気圧以下の圧力で150℃以下に設定されているので、ロータ31をアルミニウム製又はアルミニウム合金製にすることができる。したがって、ロータ31の軽量化を図るとともに、ロータ31の加工精度を向上させることができる。そして、ロータ31と押え部材41,42との嵌め合いとして(及び動翼34とスペーサ35との嵌め合いとして)、軸方向端面が周方向に平坦な円環状の接触面での嵌め合い構造を採用しても、周方向の相対変位を生じないようにすることができる。したがって、ツースカップリング、キー結合等による嵌め合い構造を用いなくてもいいので、嵌合部の加工に要するコストを抑えることができる。なお、動翼を7段程度の複数段とした場合、下流側の温度が250℃程度になるため、下流側をチタン製又はチタン合金製のロータとしてもよい。
【0051】
さらに本実施形態では、スペーサ35と動翼34とが別体に形成されるとともに互いに嵌合される構成となっているので、軸流圧縮機10の駆動時におけるロータ31の膨張量とロータ軸部46の膨張量との差に応じて増大する押え部材41,42の押圧力により、スペーサ35と動翼34とが互いに周方向に相対的に回動しない程度の結合力を得ることができる。また、動翼34とスペーサ35とが別体に構成されているので、動翼34とスペーサ35を別個に成形加工することができる。このため、小さな加工用素材を用いることができ、ロータ31の加工性を向上することができる。
【0052】
また本実施形態では、ロータ軸部46が配設されるロータ31の内側空間31aをロータ軸部46に比べて大径に形成し、この内側空間31aに円板状部材44が配設される。このため、ロータ31の中央部を中空状に形成できるので、ロータ31の軽量化を図ることができる。しかも、円板状部材44によってロータ軸部46の中間部を支持することができるので、ロータ軸部46の固有振動数を上げることができる。
【0053】
また本実施形態では、ロータ軸部46がチタン製又はチタン合金製であり、円板状部材44がステンレス製又はステンレス合金製であるので、駆動時におけるロータ31の熱膨張量とロータ軸部46の熱膨張量との差を確保し易くなり、しかもロータ軸部46の剛性を上げることができる。
【0054】
なお、本発明は、前記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。例えば、前記実施形態では、冷凍機に用いられる軸流圧縮機10として構成した例について説明したが、これに限られるものではない。例えば、軸流圧縮機10を例えば、冷却水を得るためのチラー、空調装置、濃縮機等に用いられる圧縮機として構成してもよい。
【0055】
作動流体は、水蒸気に限定されるものではない。例えば、空気、酸素、窒素、炭化水素系のプロセスガス等の種々の流体を作動流体として適用することができる。
【0056】
また前記実施形態では、第1押え部材41が動翼34に接触する一方で第2押え部材42がスペーサ35に接触する構成としたがこれに限られるものではなく、各押え部材41,42は動翼34及びスペーサ35の何れに接触する構成であってもよい。すなわち、両押え部材41,42の何れもが動翼34に接触する構成、両押え部材41,42の何れもがスペーサ35に接触する構成、又は、第1押え部材41がスペーサ35に接触する一方で第2押え部材42が動翼34に接触する構成であってもよい。
【0057】
また前記実施形態では、ロータ31が複数の動翼34を有する構成としたが、これに限られるものではなく、1つの動翼34を有する構成としてもよい。
【0058】
また前記実施形態では、動翼34とスペーサ35とを別体に構成するとともにこれらを互いに嵌合させる構成としたが、これに限られるものではなく、動翼34とスペーサ35が一体的に構成されていてもよい。
【0059】
また前記実施形態では、円板状部材44がボルト51によってスペーサ35に締結される構成としたが、これに限られるものではない。例えば、図4に示すように、円板状部材44がスペーサ35に対してロータ軸部46の軸方向に変位可能に配置される構成であってもよい。具体的には、円板状部材44が円錐台形状に形成されていてもよい。この場合、円板状部材44の外周面44bは、軸方向に対して傾斜するとともにスペーサ35の凹部35b内に配置されている。凹部35bの内周面35cも円板状部材44の外周面44bの傾斜に対応するように傾斜している。そして、凹部35bの内周面35cと円板状部材44の外周面44bとが互いに接触している。また、ロータ軸部46の軸方向における凹部35の幅は、円板状部材44の厚みよりも大きい。このため、遠心力又は熱によるスペーサ35の変形に応じて、円板状部材44が軸方向に移動することができる。したがって、この構成では、スペーサ35の変形に対応することができる。
【符号の説明】
【0060】
31 ロータ
31a 内側空間
33 静翼
34 動翼
35 スペーサ
40 駆動軸
41 第1押え部材
42 第2押え部材
43 ナット(固定部の一例)
44 円板状部材
46 ロータ軸部
47 エンド軸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体を圧縮するための軸流圧縮機であって、
動翼を有するロータと、
前記ロータの一端面に接触する第1押え部材と、
前記ロータの他端面に接触する第2押え部材と、
前記第1押え部材、前記ロータ及び前記第2押え部材を貫通するロータ軸部と、
前記第1押え部材及び前記第2押え部材によって前記ロータを挟み込んだ状態で前記第1押え部材及び前記第2押え部材を前記ロータ軸部に固定する固定部と、を備え、
前記ロータ軸部は、前記ロータの少なくとも一部を構成する材質よりも低い線膨張係数を有する材質で構成されている軸流圧縮機。
【請求項2】
前記作動流体は水蒸気である請求項1に記載の軸流圧縮機。
【請求項3】
前記ロータの少なくとも一部を構成する材質は、アルミニウム又はアルミニウム合金である請求項1に記載の軸流圧縮機。
【請求項4】
前記ロータは、前記動翼を前記ロータ軸部の軸方向に複数有し、
少なくとも最上流段の動翼を除いた動翼がアルミニウム製又はアルミニウム合金製である請求項1から3の何れか1項に記載の軸流圧縮機。
【請求項5】
前記最上流段の動翼は、アルミニウム製又はアルミニウム合金製であり、かつ陽極酸化被膜処理が施されている請求項4に記載の軸流圧縮機。
【請求項6】
前記最上流段の動翼は、チタン製、チタン合金製、ステンレス製又はステンレス合金製である請求項4に記載の軸流圧縮機。
【請求項7】
前記ロータは、軸方向に配置される複数の動翼と、隣り合う前記動翼間にそれぞれ配置されるスペーサとを有し、
前記スペーサと前記動翼とは別体に形成されるとともに互いに嵌合されている請求項1から6の何れか1項に記載の軸流圧縮機。
【請求項8】
前記ロータ軸部が貫通している前記ロータの内側空間には円板状部材が設けられ、前記ロータ軸部はこの円板状部材を貫通している請求項1から7の何れか1項に記載の軸流圧縮機。
【請求項9】
前記ロータ軸部は、チタン製又はチタン合金製である請求項8に記載の軸流圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−196188(P2011−196188A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60579(P2010−60579)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(507385785)ダニッシュ テクノロジカル インスティテュート (7)
【出願人】(507385796)
【Fターム(参考)】