較正曲線取得方法
【課題】軸受荷重測定のための較正曲線を効率よく取得するための較正曲線取得方法を提供すること。
【解決手段】内輪21と外輪20の間を転動するボール22を有する軸受の所定箇所(軸受ハウジング7と外輪20の嵌合部や外輪20とボール22の接触部)に対して、超音波探触子1から超音波を照射し、所定箇所からの反射波の強度を測定し、予め求めた反射波の強度とボール支持荷重との関係を表す較正曲線データに基づいてボール支持荷重の大きさを算出するに際して使用される較正曲線取得方法であって、ボール22が各超音波探触子1の直下に来たときに検出される反射波の強度と、静荷重に基づくボール支持荷重との関係に基づいて較正曲線データを取得するステップを有する。
【解決手段】内輪21と外輪20の間を転動するボール22を有する軸受の所定箇所(軸受ハウジング7と外輪20の嵌合部や外輪20とボール22の接触部)に対して、超音波探触子1から超音波を照射し、所定箇所からの反射波の強度を測定し、予め求めた反射波の強度とボール支持荷重との関係を表す較正曲線データに基づいてボール支持荷重の大きさを算出するに際して使用される較正曲線取得方法であって、ボール22が各超音波探触子1の直下に来たときに検出される反射波の強度と、静荷重に基づくボール支持荷重との関係に基づいて較正曲線データを取得するステップを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内輪と外輪の間を転動する転動体を有する軸受の所定箇所に対して、超音波探触子から超音波を照射し、前記所定箇所からの反射波の強度を測定し、予め求めた反射波の強度と転動体支持荷重との関係を表す較正曲線データに基づいて転動体支持荷重の大きさを算出するに際して使用される較正曲線の取得方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸受は、回転する軸を支持する機械要素としてよく知られている。軸受の一般的な構成として、内輪と外輪と内輪と外輪に挟持されて転動するボール(転動体に相当)を備えている。外輪の外径部分が軸受ハウジングに形成された嵌合孔に嵌合され、内輪の内径部分に回転軸が嵌合される。
【0003】
かかる軸受の寿命を知る方法として、軸受に作用する荷重を測定する方法が知られている。一般的に機械は運転中に振動や衝撃を伴うことが多く、また、組み立て状態や使用環境下での軸との嵌め合いの程度を知ることは難しいため、転動体に加わっている実際の荷重(または、軸受に作用する荷重)を把握できない。軸受に作用する荷重を知ることができれば、軸受の寿命(余寿命)を正しく推定することができると考えられる。
【0004】
そこで、軸受に作用する軸受荷重を非接触で計測する方法として、超音波探触子を用いた計測技術が知られている(例えば、下記特許文献1)。超音波探触子は、自ら超音波を照射し、調査対象物に反射して跳ね返ってきた反射波(エコー)を受信する。具体的には、超音波探触子は軸受ハウジングに取り付けられ、軸受外輪に向けて超音波を照射し、軸受ハウジングと軸受外輪との嵌合部からの反射波を受信する。そして、この嵌合部における面圧が高くなると固体接触面積が大きくなり、発せられた超音波はこの固体接触部分から透過し、この透過率は上記接触面積に比例する。
【0005】
ここで軸受荷重が大きくなると、面圧が大きくなり接触面積も大きくなるので超音波の透過率が大きくなる。透過率が大きくなるということは、反射波の大きさは小さくなる。逆に、軸受荷重が小さいときは、反射波の大きさは大きくなる。従って、この反射波の強度を測定することにより、軸受荷重の大きさを推定することができる。
【0006】
上記のような超音波探触子を用いて軸受荷重の推定を行う場合、予め、軸受荷重と反射波の強度との関係を表す較正曲線データを取得しておく必要がある。かかる較正曲線データを取得しておけば、反射波の強度を測定することで、軸受荷重を推定することができる。
【特許文献1】特開2002−257796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
較正曲線データを取得するためには、軸受に作用する外的な荷重を変化させながら反射波の強度を測定する必要があるが、軸受が使用される場所や構造等により、荷重を変化させてデータを取得することが難しい場合もある。また、荷重を変化させながらデータを取得するのは、効率が悪く時間もかかるという問題がある。さらに、得られた較正曲線は、はめ合い面の塑性変形や外輪の微動、更にはフレッティング等により変化するため、常に最新の較正曲線を用いる必要がある。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、転動体支持荷重測定のための較正曲線を効率よく取得するための較正曲線取得方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明に係る較正曲線取得方法は、
内輪と外輪の間を転動する転動体を有する軸受の所定箇所に対して、超音波探触子から超音波を照射し、前記所定箇所からの反射波の強度を測定し、予め求めた反射波の強度と転動体支持荷重との関係を表す較正曲線データに基づいて転動体支持荷重の大きさを算出するに際して使用される較正曲線の取得方法であって、
転動体が各超音波探触子の直下に来たときに検出される反射波の強度と、静荷重に基づく転動体支持荷重との関係に基づいて前記較正曲線データを取得するステップを有することを特徴とするものである。
【0010】
かかる較正曲線取得方法の作用・効果を説明する。超音波探触子からの超音波は、所定箇所に向けて発せられる。例えば、外輪と軸受ハウジングの嵌合部や外輪と転動体の接触部に向けて超音波を照射する。このような嵌合部や接触部の接触面積は、転動体支持荷重(軸受荷重)の大きさに応じて変動する。すなわち、転動体支持荷重が大きければ面圧が大きくなるので接触面積が大きくなり、逆に転動体支持荷重が小さくなれば接触面積も小さくなる。そして、超音波照射領域内のこの接触面積の大きさに応じて、反射波の強度が変化するため、転動体支持荷重の推定が可能になる。
【0011】
反射波の強度を検出することで、予め求めておいた較正曲線データに基づいて、転動体支持荷重の大きさを知ることができる。この較正曲線データは、反射波の強度と転動体支持荷重の大きさの関係を予め測定したものである。なお、反射波の強度を測定する場合の物理量として、例えば、特許文献1に開示されているエコー高さ比を用いることができる。エコー高さ比Hは、次式で定義される。
【0012】
H=(1−h/h0)×100
hは外的な軸受荷重が作用しているときのエコー高さであり、h0は外的な軸受荷重が作用していないとき(無負荷時)のエコー高さに相当する値である。なお、100倍しているのは%表示するためであり、必ずしも必要なものではない。軸受荷重が大きいほどhは小さくなるため(反射波の大きさは小さくなる)、エコー高さ比(H)は大きくなる。従って、エコー高さ比から転動体支持荷重を推定することができるので、予めエコー高さ比と転動体支持荷重との関係式や関数等を較正曲線データとして求めておくことにより、転動体支持荷重の測定を行うことができる。
【0013】
また軸受荷重と個々の転動体に作用する転動体支持荷重との関係は予め求めておくことができるので、転動体支持荷重が求まれば軸受荷重の推定を行うことができる。例えば、2個以上の超音波探触子を用いて測定したエコー高さから、軸受荷重を推定可能である。
【0014】
本発明においては、較正曲線データを求める場合に、静荷重(回転軸が支持する機器等の自重)を使用する。すなわち、外的な荷重の大きさを変化させながらデータを取得するのではなく、静荷重を作用させた状態で較正曲線を取得する。軸受に設けられた多数の転動体は、軸受の回転軸中心周りを公転しており、転動体が支持する荷重は、転動体の角位置により異なる。従って、軸受に作用する荷重を変化させなくても、種々の異なる転動体の位置において、反射波の強度(前述のエコー高さを用いることができる。)を測定することで、転動体支持荷重と反射波の強度との関係(較正曲線)を予め取得することができる。その結果、軸受荷重測定のための較正曲線を効率よく取得するための較正曲線取得方法を提供することができる。
【0015】
本発明において、軸受ハウジング又は外輪の円周方向に沿って所定間隔で所定の位置に、複数の超音波探触子を配置しておくことが好ましい。
【0016】
複数の超音波探触子を円周方向に沿って配置することで、転動体の異なる位置での反射波の強度測定を同タイミングで(あるいは同時に)行うことができる。角位置の違いによる転動体支持荷重を効率よく測定でき、更に効率よく較正曲線データを取得することができる。
【0017】
本発明において、転動体の回転移動に連動して、反射波を検出すべき超音波探触子を順次切り替えるステップを有していることが好ましい。
【0018】
多数の転動体のうちの特定の転動体に注目し、その転動体の回転移動に連動して、超音波探触子も切り替えることで、転動体の位置に応じた反射波の強度を測定することができる。また、超音波探触子を順次切り替えることで、較正曲線を作成するために必要な、超音波探触子直下に転動体が位置する場合の反射波の強度のみを取得することができる。
【0019】
本発明において、微小の振動素子を多数接合して構成されるアレイ型探触子を前記複数の超音波探触子として機能させることが好ましい。
【0020】
複数の超音波探触子を円周方向に沿って配置するために、アレイ型探触子を用いる方法がある。アレイ型探触子は、微小の振動素子(振動素子の1個が超音波探触子として機能しうる)を多数接合して構成され、より細かい転動体支持荷重の変化について較正を行うことができる。例えば、転動体の公転に連動して振動素子を順次切り換えていくことで、支持荷重の変化と反射波の強度の関係を取得することができる。
【0021】
本発明において、前記複数の超音波探触子間の感度ばらつきを調整するため、各超音波探触子の直下に転動体が位置しないときの反射波強度を測定し、この測定データに基づいて調整を行うステップを有することが好ましい。
【0022】
複数の超音波探触子を使用する場合、探触子間のばらつきを調整しておく必要がある。そのため、各探触子を用いて、例えば、探触子直下(音軸上)から等しい距離に転動体が存在するときのエコー高さ比を求める。音軸近傍に転動体が存在しないときは、はめ合い面からの超音波の透過がないので、接触部の状態に関係のない基準データを取得でき、ばらつきを調整するのには都合が良い。各探触子を用いてエコー高さ比を求め、例えば、いずれか1つの超音波探触子で取得したデータ値を基準値とし、他の超音波探触子については、この基準値にあうように電気的な調整を行うことができる。また、各超音波探触子からのエコー高さについて、夫々の超音波探触子のh0で標準化を行ってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る較正曲線取得方法の好適な実施形態を図面を用いて説明する。図1は、較正曲線取得方法が用いられる転動体支持荷重推定装置の構成を示す模式図である。
【0024】
<転動体支持荷重推定装置の構成>
本発明において測定対象となる軸受2は、外輪20と、内輪21と、外輪20と内輪21との間に挟持される多数個のボール22(転動体)とを備えている。内輪21の内径部分には回転軸3が圧入等の適宜の方法により固定される。軸受2は、軸受ハウジング7に形成された嵌合孔7aに、その外輪20が嵌合されることで支持される。軸受ハウジング7の外周には、回転軸3と同心に形成される円筒面7bが形成され、そこに超音波探触子1が適宜の方法で取り付けられる。なお、超音波探触子1の取付面は円筒面7bでなくてもよい。
【0025】
超音波探触子1は、取り付け面である円筒面7bに対して垂直な方向に超音波を発生する。図1の例だと、発生した超音波は回転軸3の回転中心に向かって進行する。この超音波は、外輪20の外周部分20aと軸受ハウジング7の嵌合孔7aとの嵌合部(はめあい面)で反射するか、ボール22が音軸近くに来ているときは、この嵌合部で反射もしくは透過する。超音波探触子1は、接触部で反射した反射波を受信する機能も有している。なお、音軸は超音波が進行する軸のことであるが、本実施形態においては、超音波探触子1の中心と回転軸3の中心とを結ぶ直線Lとして設定されている。
【0026】
超音波探触子1は超音波探傷器4(反射波検出手段に相当)と接続されている。超音波探傷器4には、超音波探触子1を駆動する駆動回路や、反射波を受信するための受信回路等が組み込まれている。また、超音波探傷器4はパソコン5(コンピュータ)に接続されており、超音波探触子1により受信した信号はA/D変換されてパソコン5に送信される。パソコン5には、受信した反射波の信号からボール支持荷重及び軸受荷重を推定するコンピュータプログラムが組み込まれている。
【0027】
<原理の説明>
次に、超音波探触子1を用いてボール支持荷重を推定する方法の原理を図2により説明する。図2(a)は超音波探触子1の直下(音軸上)にボール22が位置している状態、(b)は超音波探触子1の直下にボール22とボール22の間が位置している状態である。超音波探触子1から発せられた超音波は、軸受ハウジング7と外輪20との嵌合部に向かい、一部はその嵌合部から透過し、残りは嵌合部で反射する。この反射波を超音波探触子1により受信する。
【0028】
そして、軸受ハウジング7と外輪20との嵌合部における固体接触面積が大きいと発せられた超音波は嵌合部から透過しやすくなり、この透過率は上記接触面積にほぼ比例する。図2(a)のように、ボール22が超音波探触子1の直下に位置するときは、外輪20と軸受ハウジング7間の接触面圧は、ボール22直下でほぼ最大となり、その周辺ではガウス分布的に低下する。従って、外輪20と軸受ハウジング7の音軸付近の嵌合部における固体接触面積が大きくなり反射波の大きさは小さくなる。
【0029】
図2(b)に示すように、ボール22とボール22の中間付近の面圧は、軸受荷重が増加してもほとんどゼロであり、非接触状態に近くなる。これは外輪20の弾性変形に基づいて接触状態が決まるからであり、ボール22が音軸から離れるに従って、音軸近傍の嵌合部における隙間を大きくする方向に変形するためである。このような状態だと、超音波は透過しにくくなり、反射波の大きさは大きくなる。
【0030】
本発明において、上記反射波の大きさを定量的に表すために、エコー高さ比と呼ばれる物理量を用いる。エコー高さ比(H)とは、次式により定義される。
【0031】
H=(1−h/h0)×100
hは外的な軸受荷重(図1にWで示す)が作用している時のエコー高さである。h0は外的な軸受荷重が作用していない時(無負荷時)のエコー高さ(基準エコー高さ)であり、実際には隣接する転動体の中央に探触子が位置するときのエコー高さを用いる。なお、100倍しているのは%表示するためであり、必ずしも必要とされるものではない。軸受荷重が大きいほど外輪20とボール22の接触面積は大きくなり、hは小さくなる(反射波の大きさは小さくなる)ため、エコー高さ比(H)は大きくなる。
【0032】
図2(b)に示すような状態で嵌合部の隙間に油が存在しない場合には、超音波は縦波でも横波でも、軸受ハウジング7から外輪20への超音波の透過がほとんどない。従って、ボール支持荷重を推定するときの基準エコー高さとして、上記h0を用いることができる。
【0033】
ただし、嵌合部に油が存在する場合は、油中を伝播しない横波を用いることが好ましい。また、図2(b)に示すように隣接するボール22の中間位置付近での音軸近傍の嵌合部の油膜の厚さに経時変化がほとんどない場合は、高周波の縦波を用いて基準エコー高さh0を測定することができる。この場合、図2(a)に示すような状態でのエコー高さは、ボール支持荷重による固体接触面積の変化のほかに、嵌合部の薄膜の膜厚変化の影響を受けるが、これらはボール支持荷重(軸受荷重)により変化する。従って、エコー高さの変動からボール支持荷重を推定することができる。
【0034】
なお、ボール22が超音波探触子1の直下を通過するときのエコー高さで、h≒0となる角度θ1(図2(b)参照)はボール支持荷重が変化してもほとんど変わることはなく、一定の値を維持する。換言すれば、ボール22が探触子直下付近にあるとき(エコー高さが支持荷重と共に変動する領域)の面圧は、ボール支持荷重にほぼ比例すると考えられる。
【0035】
<パソコンの機能>
次に、パソコン5に組み込まれるコンピュータプログラムの機能について説明する。図3に示すように、パソコン5には、超音波探触子1により受信した反射波信号に基づいて、軸受荷重を算出するためのソフトウェアとして軸受荷重推定プログラム10がインストールされている。
【0036】
エコー高さ比算出手段10aは、受信した反射波の強度に基づいて、エコー高さ比を算出する機能を有する。ボール支持荷重算出手段10bは、算出されたエコー高さ比に基づいて、ボール支持荷重や軸受荷重を算出する機能を有する。エコー高さ比とボール支持荷重との関係式は、較正曲線として予め求めておき、較正曲線データ保存手段11に保存しておく。較正曲線データが分かっておれば、エコー高さ比から軸受荷重(ボール支持荷重)を求めることができる。較正曲線算出手段10cは、エコー高さ比と予め分かっているボール支持荷重の大きさから較正曲線を算出する機能を有する。
【0037】
表示データ生成手段10dは、受信したデータや算出したボール支持荷重などをモニター19に表示させるための表示データを生成する機能を有する。
【0038】
<較正曲線について>
エコー高さ比を求めて軸受荷重を推定するためには、予め較正曲線を求めておく必要がある。図4は、較正曲線の一例を示す図である。縦軸がエコー高さ比(H)であり、横軸がボール支持荷重wである。回転軸に作用する静荷重の大きさが既知であれば、各ボール22により分担して支持される荷重の大きさは、ボール22の角位置θに応じて計算で求めることができる。従って、較正曲線を求める場合には、数種類の既知の大きさの荷重を作用させて、そのときのエコー高さ比を求めることができる。本発明においては、後述するように、静荷重の作用のみで較正曲線を取得する方法を提供する。
【0039】
図4において、θ=0は、ちょうどボール22が音軸上にある状態を示しており、図4に示すように、音軸Lを基準にθ座標を取っている。通常はボール22の中心が音軸上にあるときに、エコー高さ比が最も大きくなり、θが大きくなるにつれてエコー高さ比は小さくなる傾向がある。
【0040】
なお、図5に示すようにボール22の位置を検出するためのセンサー6を設けておけば、ボール22がセンサー位置に来たときの信号を検出することができる。すなわち、音軸上にセンサー6を設けておけば、θ=0にボール22が来たときのエコー高さ比を求めることができる。θが0でない時のエコー高さ比については、ボール22が公転する速度が予めわかっているため、センサー6でボール22を検出したタイミングから所定時間後のエコー高さ比を求めることで、得ることができる。
【0041】
なお、エコー高さ比が最大となるのは常にθ=0の時とは限らず、θが有限の時にエコー高さ比が最大になることもある。特に変動荷重下では、θ=0以外の位置でエコー高さ比が最大になることは良く見られる。かかる場合を考慮して、ボールを検出するセンサー6(図5,6を参照)を設けて、ボール22の位置とエコー高さ比との対応関係を予め求めておくことが好ましい。
【0042】
<較正曲線を求める新手法1>
較正曲線を求めるためには、荷重を変化させていく必要がある。荷重を変化させて、各荷重におけるエコー高さ比を求めることで較正曲線が得られるからである。しかしながら、現実的には、荷重を変化させてデータを取ることが難しいことが多い。
【0043】
そこで、ボール22に作用する自重のみで較正曲線を求める方法を提供する。回転軸3に上述のような較正のための荷重を新たに付加しなくても、回転軸3やその他の部材の自重が各ボール22に作用している。すなわち、回転軸3は、通常は軸周りの機器等の自重を支持しており、例えば、圧延機のローラやタービン翼を支える軸が例としてあげられ、この軸を支持する軸受は、それら(軸を含む)の自重を支えている。かかる自重を較正時に使用することができる。また、ボール22の位置によって、ボール22に作用する荷重は異なっている。この点に着目して、図6に示すような方法により較正曲線を求める。
【0044】
図6に示すように、φ軸を基準として多数の超音波探触子1を外輪20の外周部分20aに取り付ける。なお、何個設けるかは任意に設定することができる。図6では設置角度φ1〜φ9の9つが図示されており、夫々の超音波探触子1からは異なるエコー高さ比H1〜H9を検出することができる。また、夫々のボール22に作用する支持荷重はw1〜w9であり、これは回転軸3や回転軸3が支持する機器の重量等から計算で求めることができる。従って、図4に示すように支持荷重とエコー高さ比との関係を表すグラフを求めることができる。図7は、円周方向の角度φとエコー高さ比Hとの関係を示すグラフであり、各φ位置における検出されたエコー高さ比のグラフを示しており、エコー高さ比曲線の包絡線を取ることで、φとエコー高さ比Hとの関係グラフを求めることができる。φの位置と支持荷重wとの関係は、一義的に定まるため、最終的には図7に示すような較正曲線データ(包絡線データ)を取得することができる。
【0045】
超音波探触子1の配列ピッチは、図例ではボール22の配列ピッチのちょうど2倍となっている。もちろん、これに限定されるものではない。
【0046】
超音波探触子1の直下にボール22が来た場合のエコー高さ比からボール22の支持荷重を測定する際に、角度の基準を検出するために、ボール22の到来を検出するセンサー6を設ける。このセンサー6による検出位置を基準として、各超音波探触子1からの信号取りこみタイミングを決めることができる。センサー6は図6に示すように2箇所(いずれも音軸上)に設けているが、センサー6の設置個所及び個数は適宜決めることができる。センサー6は、任意のタイプのものを使用することができ、例えば、非接触でボール22の検出が可能な光センサーや渦電流式の変位計、そして超音波センサーを用いることができる。
【0047】
図6のように複数の超音波探触子1を用いる場合、各超音波探触子1の感度ばらつきをなくすように調整しておく必要がある。このようなばらつきは、超音波探触子1の取り付け状態のばらつき等により生じるものである。取り付け状態をできるだけ同じ状態にするためには、例えば、本願発明者による特開2002−257796号公報に開示される超音波探触子の入射波調整方法を用いることができる。取り付け状態の調整を行ったのち、超音波探傷器4で各超音波探触子1が受信する信号のゲイン調整により、外輪20と軸受ハウジング7の固体接触が生じない箇所からの各探触子の反射エコー高さh0をできるだけ同じにする。
【0048】
そして更なる微調整として、基準エコー高さh0での標準化を行う。すなわち、外輪20と軸受ハウジング7の固体接触が生じない箇所(ボール22の数が20個以下程度なら図2(b)に示すようにボール22とボール22の間に音軸が位置する時)でのエコー高さh0により標準化したエコー高さ比Hを用いることができる。これにより、各超音波探触子1の取り付け状態に依存することなく、正確な測定を行うことが可能となる。
【0049】
図6に示すように超音波探触子1を多数設ける場合、図1に示すような超音波探傷器4を各超音波探触子1にそれぞれ設けて、個別に測定しても良いが、コストアップの要因となる。そこで、図6に示すようにセンサー6からの検出信号に基づいて、ボール22の位置を検出するボール位置検出部10を設け、これに基づいて、どの超音波探触子1からの信号を超音波探傷器4に送信するかを切り替える切り換え機構11を設けている(使用される探触子1は、他の探触子1からの干渉を防ぐため、常に1個とする。)。これにより、逐次探触子1を切り替えて較正曲線を得ることができる。この構成によれば、超音波探傷器4は1台ですむのでコストメリットを有する。
【0050】
そのほかに、1台の超音波探触子1と1台の超音波探傷器4との組み合わせで、超音波探触子1を逐次移動させながら、較正曲線を取得してもよい。この場合、超音波探触子1の取り付け状態を一定にするための調整機構を利用することが好ましい。
【0051】
なお、嵌合部(はめあい面)では、粗さ突起のクリープによる面圧の低下や、外輪20の円周方向ならびに軸方向の微動、フレッティングの発生などにより、嵌合部の面圧や固体接触面積が時間と共に変化する。従って、基準エコー高さh0や、ボール支持荷重とエコー高さとの関係は、できるだけ実際に軸受荷重の推定を行うときに近い時点での較正曲線を用いる必要がある。従って、較正曲線の取得は、逐次行う必要がある。
【0052】
また、円周方向に複数個の超音波探触子1を配置する場合、ある超音波探触子1から照射された超音波が拡散して、嵌合部で反射して他の超音波探触子1に受信されることがある。複数の超音波探触子1を同時に使用する場合には、各探触子間の干渉を防ぐために、超音波探触子1同士の間隔を所定以上あけて配置することが重要である。
【0053】
かかる配置ができない場合には、各探触子1において受信される第1反射波を評価の対象とすることが必要である。この場合、第1反射波の先頭の半波長か一波長(図8の符号Sで示す領域)でのエコー高さhを評価対象とすることが好ましい。それ以後の波には、他の探触子1からの影響が含まれる恐れがある。
【0054】
<斜角探触子を用いた構成例>
図9は、斜角探触子を用いて較正曲線を取得する場合の構成例を示す図である。斜角探触子1は、軸受ハウジング7の側面に配置してボール支持荷重の測定を行う。図9(b)の側断面図に示すように、ハウジング7の両側面に発信用探触子1Bと受信用探触子1Aを配置して、一対の探触子1によりボール支持荷重の測定を行う。ただし、一対ではなく1個の斜角探触子1を送信用と受信用で兼用することもできる。隣接する斜角探触子1からの超音波の影響を防ぐため、使用する斜角探触子1は常に1個とするか、互いに干渉をしない2個(複数個)の探触子1を切り替えて使用する。
【0055】
また、斜角探触子を使用する場合、探触子1の円周方向の間隔や、軸中心からの半径距離を使用する軸受の大きさやボールの個数に合わせて容易に変更できるような治具を予め用意しておくことが好ましい。
【0056】
<較正曲線を求める新手法2>
次に、較正曲線を取得するための別の方法を図10により説明する。この図10では、軸受ハウジング7の円筒面7bに沿って、アレイ型の探触子12を配置している。アレイ型の探触子12は、図11に示すような構造を有しており、円周方向長さが80〜100μmサイズの微小な角柱の振動素子12aを多数並べて配置しており、振動素子12aの間には高分子材料が埋め込まれている。これにより、柔軟性を有する構造となり、図10に示すような円周方向に沿って自由に曲げて配置することができる。振動素子12aの両側に+電極12bと−電極12cとが配置される。電極12b,12cは、所定個数分の振動素子毎に設けられる。電極面積内の複数の振動素子12aが同時に送受信を行うため、同じ電極内の振動素子12a全体は、図4で示した超音波探触子1の1つと同じ機能をするものと考えて良い。そのため、このようなコンポジット素子上に複数の電極を設けて、アレイ型の探触子を構成することが可能になる。
【0057】
この構成は、図6においてさらに多数の超音波探触子1を配置したものと考えることができる。すなわち、ボール22の公転に合わせて、常に目的とするボール22の直上(音軸上)の振動素子12aで計測が行えるようにする。アレイ型探触子12を用いることで、細かな荷重ステップでの較正曲線を取得することができる。
【0058】
この場合、振動素子12aの角度間隔にあわせ、常に振動素子直下にボール22が来たときにパルス超音波を発信させるようにする必要がある。また、アレイ型探触子12の軸受ハウジング7への取り付け状態が、円周方向に僅かに変化している可能性もあるため、外輪20と軸受ハウジング7の固体接触が生じない箇所(ボール22の数が20個以下程度なら図2(b)に示すようにボール22とボール22の間に音軸が位置する時)での振動素子12aを用いて、エコー高さの円周方向の基準値を測定しておく必要がある。これにより、各振動素子12a間のばらつきをなくすことができる。この点は、図6に示す構造で説明したのと同じ考え方である。
【0059】
アレイ型探触子12の取り付け状態は、温度や時間と共に変化する可能性があるので、常時基準状態を観測しておく必要がある。また、使用中のはめ合い面の接触状態の変化により較正曲線も変わる可能性がある。従って、軸受の実際の運転中に基準状態(自重のみが作用可能な状態)を設定できるようにしておき、基準値と較正を頻繁に取りながらボール支持荷重(軸受荷重)の測定を行う。
【0060】
実際の変動荷重下でのボール支持荷重や荷重ベクトルを求める際には、ある角度(例えば図10のβ)隔てて配置された一対の振動素子12aのみを作動させ、ボール22がその振動素子12aの直下に来た時のエコー高さ比Hと、較正曲線とから、その時点での各ボールの支持荷重を求めることができ、荷重ベクトルの算出が可能となる。図10に示す振動素子200と201から夫々エコー高さ比H(ボール支持荷重)を測定し、得られた支持荷重のベクトル和を計測し続けることで、変動荷重を取得することができる。もちろん、ボール22の配置角度で設置された複数対の探触子によるエコー高さ比の同時測定から、より正確な荷重ベクトルの推定が可能になる。なお、1個のボール22の支持荷重変化だけを求めるのであれば、一方の振動素子12aのみで計測を行えばよい。
【0061】
以上説明したのは、ある特定の振動素子12aの直下にボール22が来たその瞬間での荷重変動しか捉えることができない。一方、使用する振動素子12aを固定しないで、較正時と同様に、ボール22の公転速度に合わせて、常に1個のボール22の荷重を監視するようにすれば、荷重変動の詳細を計測することができる。ただし、較正時と同様に、パルス超音波は、振動素子12aの直下にボール22が来たときに発信させるようにする。ボール22が来たことの検出は、数個の非接触式のセンサー6等を用いて行うことができ、その他の振動素子12aについては、ボール22の公転速度と振動素子12aの配置間隔に基づいて、予め計算しておくことで、超音波発信のタイミングを決めることができる。
【0062】
このアレイ型探触子12のような構造の超音波探触子を用い、隣接する複数の振動素子を同時に使用することで、円周方向に長い超音波照射・受信領域を有する超音波探触子を形成することができる。
【0063】
このアレイ型探触子12の場合も図12に示すように斜角探触子を用いることができる。アレイ型の場合も、隣接する振動素子12aからの超音波の干渉を防ぐため、使用する振動素子12aは常に1個(1組)とするか、干渉のない距離を隔てた複数の振動素子12aを電気的に切り替えて使用する。
【0064】
<変動荷重下における計測>
次に、ボールの位置から計算で求まる探触子音軸上での支持荷重(較正時荷重)w0と、それに伴い発生する嵌合面での面圧分布fθ、超音波照射領域での音圧分布pθ、静荷重下でのボール通過時に計測されるエコー高さ比Hθ0を基に、変動荷重下で計測されるHθから、その時のボール支持荷重wθを推定する方法を説明する。
【0065】
図13に示すように、ボール22が左から右へ移動する状態であるとする。なお、ボール22は、下から上に上がりながら、ボール支持荷重が増大する方向に公転していると仮定する。音軸中心に座標軸θを取り、右側を+θの領域、左側を−θの領域とする。超音波探触子1により、超音波が照射される領域をΘとする。このとき(自重のみが作用している状態)、ボール22の支持荷重wは、w1からw2へと変化する。すなわち、ボール22が軸受の上側(負荷側)に位置するほど、支持荷重は大きくなる。支持荷重wは、厳密には直線的には変化しないが、ボール22の配置角度がそれほど大きくないため、近似的に直線的に変化するものと考えても良い。直線近似した場合、ボール22が音軸上にある場合の支持荷重はw0で表される。
【0066】
静荷重が作用しているときの、嵌合面(接触部)における面圧fθ0を図13に示すが、ボール22の移動に伴い、面圧分布も移動する。ボール支持荷重が大きくなれば面圧fθ0も大きくなる。しかし、前述したように、エコー高さh≒0となる角度θ1(図2(b)参照)はボール支持荷重が変化してもほとんど変わることはないので、面圧の発生する領域(fθ>0)もほぼ同じと考えることができる。従って、変動荷重が作用するときの面圧は以下のように表される。
【0067】
fθ=(wθ/wθ0)fθ0
ここでwθ0は静荷重が作用しているときのθ位置でのボール支持荷重を表し、wθは同位置での変動荷重が作用しているときのボール支持荷重を表す。
【0068】
一方、超音波探触子1によりはめ合い面に照射される超音波の音圧分布pθは、図13に示すように(図5と同じ)、音軸上が最も高くなり、周辺に行くほどなだらかに小さくなる。静荷重下(自重のみが作用している状態)におけるエコー高さ比Hθ0と、変動荷重下におけるエコー高さ比Hθを示す。実際に機械が稼動している状態では、荷重が変動するため、図13に示すような不規則的なエコー高さ比Hθとなる。
【0069】
まず、超音波の伝播に寄与する固体接触面積Aと支持荷重wとの関係は、
A∝wα
で表される。接触面積Aは、支持荷重が大きくなれば大きくなる。ここでαの値であるが、
α=2/3(球体と平面の接触)
α=1/2(円柱と平面の接触)
α=1.0(突起と平面の接触)
で表される。
【0070】
また、照射された超音波は、固体接触部を透過していくため、反射波の大きさは、接触面積Aの大きさに比例するということができる。従って、エコー高さ比Hと接触面積Aとの間には、
H∝A
なお、ある位置θにボールが来た時のエコー高さ比Hθは、超音波照射領域内での固体接触面積の分布Aθのほかに、音圧分布pθの影響も受ける。さらにAθはボール支持荷重で決まる面圧fθ(従って、wθ)のα乗に比例するので、
Hθ∝∫Aθ×pθdθ=∫fθα×pθdθ
ただし、Aθ、pθ、fθは、軸方向の分布の影響も考慮された値である。
【0071】
また、静的荷重下におけるボール支持荷重wθ0は、図13に示すような直線近似を行うことができるので、
wθ0=w0+(Δw/Θ)θ
従って、変動荷重下でのボール支持荷重wθは、前述したように、(wθ/wθ0)がθ方向に一定と考えることができることを考慮して、
Hθ/Hθ0=∫fθα×pθdθ/∫fθ0α×pθdθ
=∫{(wθ/wθ0)fθ0}α×pθdθ/∫fθ0α×pθdθ
=(wθ/wθ0)α
の関係式で表すことができる。これらの式から、
wθ=(Hθ/Hθ0)1/α×{w0+(Δw/Θ)θ}
この式において、超音波探触子の超音波照射領域が狭い場合は、Δw<<w0となるので、Δwの項が消え、
wθ=(Hθ/Hθ0)1/α×w0
となる。
【0072】
先ほど述べたαであるが、実際に確認する必要がある。
【0073】
そこで、軸受荷重(すなわち、ボール支持荷重wθ)を変えて、ある角度位置θ(例えば0゜)にボール22が来た時のエコー高さ比H0を測定する。2種類の荷重w01,w02でのエコー高さ比H01,H02を用いて、前述の式から、
α={ln(H01/H02)}{ln(w01/w02)}
により、αを算出する。低荷重から高荷重までの、数種類での荷重下でのHを用いて、αの平均値を求めることが好ましい。αを求めるために荷重を変化させる必要はあるが、αについては経時変化が少ないため、常時測定することはない。
【0074】
以上は、1つの超音波探触子を用いた場合の求め方であるが、2つ以上の超音波探触子を円周方向に配置したり、アレイ型探触子において使用する振動素子を限定して多数個の探触子化したものを円周方向に配置した場合は、各探触子でのボール支持荷重が異なるため、軸受荷重を変化させず、自重の負荷のみでαを求めることができる。
【0075】
ただし、超音波探触子の音圧分布pθが探触子により異ならないことが条件であるが、探触子の音軸上にボールが来る場合のデータを用いる場合には、各探触子での基準値(外輪と軸受ハウジングの間に隙間が形成される領域でのH)を同じとなるようにしておくことで、上記問題を回避できる。この場合、探触子の個数を多くする必要があるので、アレイ型探触子の使用が好ましい。
【0076】
この図13に示す方法は、嵌合部での粗さ突起のクリープによる面圧の低下や、外輪20の円周方向ならびに軸方向の微動、フレッティングの発生などにより、嵌合部の面圧や固体接触面積が時間と共に変化して、初期状態とは異なってきた場合にも適用することができる。つまり、自重だけが作用する(例えば、圧延機のローラやタービン翼の重量)条件があれば、その場で較正曲線が得られる。従って、その使用環境下での最新の較正曲線を基に、変動荷重の推定を行うことができる。すなわち、図13に示す方法は、変動荷重を推定する方法を提供するものであるが、較正曲線を求める方法でもある。図13に示す方法は、超音波探触子が1個で済む点に有利さがある。
【0077】
図6や図10で説明した較正曲線を求める方法は、そのままの状態で変動荷重を測定する主走査方向としても用いることができる。すなわち、超音波探触子直下にボールが来たときのエコー高さ比と、自重を用いたり、軸受荷重を変化させて測定した較正曲線から変動荷重の推定を行うことができる。
【0078】
<ハウジングがない軸受構造の場合の較正曲線の取得方法>
以上、較正曲線を取得する方法について種々説明してきたが、いずれも軸受ハウジングを有する軸受構造に関するものである。一方、近年においては、外輪と軸受ハウジングを一体化したような軸受構造が知られている。すなわち、ハウジングを外輪に、軸を内輪に見立ててレース面の加工を施し、ユニット化した軸受構造が用いられている。
【0079】
かかる場合は、超音波探触子を外輪に取り付けるようにし、超音波探触子からの超音波は、軸受外輪とボールとの接触部に向けて発せられる。軸受外輪とボールとの接触面積は、ボール支持荷重(軸受荷重)の大きさに応じて変動する。すなわち、ボール支持荷重が大きければ弾性変形に伴う接触面積は大きくなり、ボール支持荷重が小さくなれば接触面積も小さくなる。従って、超音波照射領域内のこの面積の大きさに応じて、反射波の強度が変化するため、軸受外輪と軸受ハウジングとの境界が存在しなくても、ボール支持荷重の推定が可能になる。
【0080】
図7に示す較正曲線取得方法に対応する構成図は、図14に示される。図14に示すように、φ軸を基準として多数の超音波探触子1を外輪20の外周部分20aに円周方向に沿って取り付ける。図10に対応する構成図は、図15に示される。外輪20の外周部分20aに円周方向に沿って、アレイ型の探触子12を配置している。較正曲線を取得するときの基本的な考え方は、図7や図10で説明したのと同じである。図14や図15に示す超音波探触子は、斜角探触子を用いて構成することもできる。
【0081】
次に、図13に対応する構成を図16に示す。超音波探触子1により照射される超音波の音圧分布pθは、図16に示すように、音軸上が最も高くなり、周辺に行くほどなだらかに小さくなる。静荷重下(自重のみが作用している状態)におけるエコー高さ比Hθ0と、変動荷重下におけるエコー高さ比Hθを示す。実際に機械が稼動している状態では、荷重が変動するため、図16に示すような不規則的なエコー高さ比Hθとなる。
【0082】
まず、接触面積Aと支持荷重wとの関係は、
A∝wα
で表される。接触面積Aとは、EHL部(弾性流体潤滑部)の面積に相当し、支持荷重が大きくなれば接触面積Aの大きさも大きくなる。ここでαの値は、前述の通りである。
【0083】
また、照射された超音波は、EHL部を透過していくため、反射波の大きさは、接触面積Aの大きさに比例するということができる。従って、エコー高さ比Hと接触面積Aとの間には、
H∝A
また、θ方向のエコー高さ比Hは、音圧分布pθの影響を受けるので、
Hθ∝wθα×pθ
また、静的荷重下におけるボール支持荷重wθ0は、図16に示すような直線近似を行うことができるので、
wθ0=w0+(Δw/Θ)θ
従って、変動荷重下でのボール支持荷重wθは、
Hθ/Hθ0=(wθ/wθ0)α
の関係式で表すことができる。これらの式から、
wθ=(Hθ/Hθ0)1/α×{w0+(Δw/Θ)θ}
この式において、超音波探触子の超音波照射領域が狭い場合は、Δw<<w0となるので、Δwの項が消え、
wθ=(Hθ/Hθ0)1/α×w0
となる。
【0084】
先ほど述べたαであるが、ハウジングを有しない軸受の場合、外輪20の内周部分20bとボール22との接触である。そこで、外輪20の内周部分20bの曲率をボール22の方に上乗せする形とすれば、球体と平面との接触であると考えることができる。従って、α=2/3ということができるが、実際に確認する必要がある。具体的手順は、段落0073,74と同じである。
【0085】
この図16に示す方法は、軸受のなじみや劣化に伴う、形状寸法の変化やレース面の粗さが異なった場合、探触子そのものの特性が時間や温度によって初期状態とは異なってきた場合にも適用することができる。つまり、自重だけが作用する(例えば、圧延機のローラやタービン翼の重量)条件があれば、その場で較正曲線が得られる。従って、その使用環境下での最新の較正曲線を基に、変動荷重の推定を行うことができる。すなわち、図16に示す方法は、変動荷重を推定する方法を提供するものであるが、較正曲線を求める方法でもある。図16に示す方法は、超音波探触子が1個で済む点に有利さがある。
【0086】
図14や図15で説明した較正曲線を求める方法は、そのままの状態で変動荷重を測定する主走査方向としても用いることができる。すなわち、超音波探触子直下にボールが来たときのエコー高さ比と、自重を用いたり、軸受荷重を変化させて測定した較正曲線から変動荷重の推定を行うことができる。
【0087】
<別実施形態>
本実施形態では転動体の一例としてボール(球体)を説明したが、これに限定されるものではなく、円柱形の転動体等を使用する場合にも本発明は応用できるものである。
【0088】
超音波探触子の取り付け位置は、第1,2象限だけでなく、第3,4象限にも取り付けることができる。この場合、回転荷重の測定も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】軸受荷重推定装置の構成を示す模式図
【図2】超音波探触子を用いて軸受荷重を推定するときの原理を説明する図
【図3】軸受荷重推定プログラムの機能を示す図
【図4】ボール支持荷重とエコー高さ比との関係を示す図
【図5】超音波探触子、音圧分布、面圧分布の関係を説明する図
【図6】較正曲線を求める方法を示す構成図
【図7】円周方向の角度とエコー高さ比の関係を示す図
【図8】受信したエコー高さ信号と時間との関係を示す図
【図9】斜角探触子を用いた構成例を示す図
【図10】較正曲線を求める方法を示す構成図
【図11】アレイ型探触子の構成を示す図
【図12】斜角探触子を用いた構成例を示す図
【図13】変動荷重を求める方法を示す図
【図14】較正曲線を求める方法を示す構成図(ハウジングがない場合)
【図15】較正曲線を求める方法を示す構成図(ハウジングがない場合)
【図16】変動荷重を求める方法を示す図(ハウジングがない場合)
【符号の説明】
【0090】
1 超音波探触子
2 軸受
3 回転軸
4 超音波探傷器
5 パソコン
6 センサー
7 軸受ハウジング
10 軸受荷重推定プログラム
10a エコー高さ比算出手段
10b 軸受荷重算出手段
10c 較正曲線算出手段
10d 表示データ生成手段
11 較正曲線データ保存手段
12 アレイ型探触子
19 モニター
20 外輪
20a 外周部分
21 内輪
22 ボール
H エコー高さ比
w ボール支持荷重
【技術分野】
【0001】
本発明は、内輪と外輪の間を転動する転動体を有する軸受の所定箇所に対して、超音波探触子から超音波を照射し、前記所定箇所からの反射波の強度を測定し、予め求めた反射波の強度と転動体支持荷重との関係を表す較正曲線データに基づいて転動体支持荷重の大きさを算出するに際して使用される較正曲線の取得方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸受は、回転する軸を支持する機械要素としてよく知られている。軸受の一般的な構成として、内輪と外輪と内輪と外輪に挟持されて転動するボール(転動体に相当)を備えている。外輪の外径部分が軸受ハウジングに形成された嵌合孔に嵌合され、内輪の内径部分に回転軸が嵌合される。
【0003】
かかる軸受の寿命を知る方法として、軸受に作用する荷重を測定する方法が知られている。一般的に機械は運転中に振動や衝撃を伴うことが多く、また、組み立て状態や使用環境下での軸との嵌め合いの程度を知ることは難しいため、転動体に加わっている実際の荷重(または、軸受に作用する荷重)を把握できない。軸受に作用する荷重を知ることができれば、軸受の寿命(余寿命)を正しく推定することができると考えられる。
【0004】
そこで、軸受に作用する軸受荷重を非接触で計測する方法として、超音波探触子を用いた計測技術が知られている(例えば、下記特許文献1)。超音波探触子は、自ら超音波を照射し、調査対象物に反射して跳ね返ってきた反射波(エコー)を受信する。具体的には、超音波探触子は軸受ハウジングに取り付けられ、軸受外輪に向けて超音波を照射し、軸受ハウジングと軸受外輪との嵌合部からの反射波を受信する。そして、この嵌合部における面圧が高くなると固体接触面積が大きくなり、発せられた超音波はこの固体接触部分から透過し、この透過率は上記接触面積に比例する。
【0005】
ここで軸受荷重が大きくなると、面圧が大きくなり接触面積も大きくなるので超音波の透過率が大きくなる。透過率が大きくなるということは、反射波の大きさは小さくなる。逆に、軸受荷重が小さいときは、反射波の大きさは大きくなる。従って、この反射波の強度を測定することにより、軸受荷重の大きさを推定することができる。
【0006】
上記のような超音波探触子を用いて軸受荷重の推定を行う場合、予め、軸受荷重と反射波の強度との関係を表す較正曲線データを取得しておく必要がある。かかる較正曲線データを取得しておけば、反射波の強度を測定することで、軸受荷重を推定することができる。
【特許文献1】特開2002−257796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
較正曲線データを取得するためには、軸受に作用する外的な荷重を変化させながら反射波の強度を測定する必要があるが、軸受が使用される場所や構造等により、荷重を変化させてデータを取得することが難しい場合もある。また、荷重を変化させながらデータを取得するのは、効率が悪く時間もかかるという問題がある。さらに、得られた較正曲線は、はめ合い面の塑性変形や外輪の微動、更にはフレッティング等により変化するため、常に最新の較正曲線を用いる必要がある。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、転動体支持荷重測定のための較正曲線を効率よく取得するための較正曲線取得方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明に係る較正曲線取得方法は、
内輪と外輪の間を転動する転動体を有する軸受の所定箇所に対して、超音波探触子から超音波を照射し、前記所定箇所からの反射波の強度を測定し、予め求めた反射波の強度と転動体支持荷重との関係を表す較正曲線データに基づいて転動体支持荷重の大きさを算出するに際して使用される較正曲線の取得方法であって、
転動体が各超音波探触子の直下に来たときに検出される反射波の強度と、静荷重に基づく転動体支持荷重との関係に基づいて前記較正曲線データを取得するステップを有することを特徴とするものである。
【0010】
かかる較正曲線取得方法の作用・効果を説明する。超音波探触子からの超音波は、所定箇所に向けて発せられる。例えば、外輪と軸受ハウジングの嵌合部や外輪と転動体の接触部に向けて超音波を照射する。このような嵌合部や接触部の接触面積は、転動体支持荷重(軸受荷重)の大きさに応じて変動する。すなわち、転動体支持荷重が大きければ面圧が大きくなるので接触面積が大きくなり、逆に転動体支持荷重が小さくなれば接触面積も小さくなる。そして、超音波照射領域内のこの接触面積の大きさに応じて、反射波の強度が変化するため、転動体支持荷重の推定が可能になる。
【0011】
反射波の強度を検出することで、予め求めておいた較正曲線データに基づいて、転動体支持荷重の大きさを知ることができる。この較正曲線データは、反射波の強度と転動体支持荷重の大きさの関係を予め測定したものである。なお、反射波の強度を測定する場合の物理量として、例えば、特許文献1に開示されているエコー高さ比を用いることができる。エコー高さ比Hは、次式で定義される。
【0012】
H=(1−h/h0)×100
hは外的な軸受荷重が作用しているときのエコー高さであり、h0は外的な軸受荷重が作用していないとき(無負荷時)のエコー高さに相当する値である。なお、100倍しているのは%表示するためであり、必ずしも必要なものではない。軸受荷重が大きいほどhは小さくなるため(反射波の大きさは小さくなる)、エコー高さ比(H)は大きくなる。従って、エコー高さ比から転動体支持荷重を推定することができるので、予めエコー高さ比と転動体支持荷重との関係式や関数等を較正曲線データとして求めておくことにより、転動体支持荷重の測定を行うことができる。
【0013】
また軸受荷重と個々の転動体に作用する転動体支持荷重との関係は予め求めておくことができるので、転動体支持荷重が求まれば軸受荷重の推定を行うことができる。例えば、2個以上の超音波探触子を用いて測定したエコー高さから、軸受荷重を推定可能である。
【0014】
本発明においては、較正曲線データを求める場合に、静荷重(回転軸が支持する機器等の自重)を使用する。すなわち、外的な荷重の大きさを変化させながらデータを取得するのではなく、静荷重を作用させた状態で較正曲線を取得する。軸受に設けられた多数の転動体は、軸受の回転軸中心周りを公転しており、転動体が支持する荷重は、転動体の角位置により異なる。従って、軸受に作用する荷重を変化させなくても、種々の異なる転動体の位置において、反射波の強度(前述のエコー高さを用いることができる。)を測定することで、転動体支持荷重と反射波の強度との関係(較正曲線)を予め取得することができる。その結果、軸受荷重測定のための較正曲線を効率よく取得するための較正曲線取得方法を提供することができる。
【0015】
本発明において、軸受ハウジング又は外輪の円周方向に沿って所定間隔で所定の位置に、複数の超音波探触子を配置しておくことが好ましい。
【0016】
複数の超音波探触子を円周方向に沿って配置することで、転動体の異なる位置での反射波の強度測定を同タイミングで(あるいは同時に)行うことができる。角位置の違いによる転動体支持荷重を効率よく測定でき、更に効率よく較正曲線データを取得することができる。
【0017】
本発明において、転動体の回転移動に連動して、反射波を検出すべき超音波探触子を順次切り替えるステップを有していることが好ましい。
【0018】
多数の転動体のうちの特定の転動体に注目し、その転動体の回転移動に連動して、超音波探触子も切り替えることで、転動体の位置に応じた反射波の強度を測定することができる。また、超音波探触子を順次切り替えることで、較正曲線を作成するために必要な、超音波探触子直下に転動体が位置する場合の反射波の強度のみを取得することができる。
【0019】
本発明において、微小の振動素子を多数接合して構成されるアレイ型探触子を前記複数の超音波探触子として機能させることが好ましい。
【0020】
複数の超音波探触子を円周方向に沿って配置するために、アレイ型探触子を用いる方法がある。アレイ型探触子は、微小の振動素子(振動素子の1個が超音波探触子として機能しうる)を多数接合して構成され、より細かい転動体支持荷重の変化について較正を行うことができる。例えば、転動体の公転に連動して振動素子を順次切り換えていくことで、支持荷重の変化と反射波の強度の関係を取得することができる。
【0021】
本発明において、前記複数の超音波探触子間の感度ばらつきを調整するため、各超音波探触子の直下に転動体が位置しないときの反射波強度を測定し、この測定データに基づいて調整を行うステップを有することが好ましい。
【0022】
複数の超音波探触子を使用する場合、探触子間のばらつきを調整しておく必要がある。そのため、各探触子を用いて、例えば、探触子直下(音軸上)から等しい距離に転動体が存在するときのエコー高さ比を求める。音軸近傍に転動体が存在しないときは、はめ合い面からの超音波の透過がないので、接触部の状態に関係のない基準データを取得でき、ばらつきを調整するのには都合が良い。各探触子を用いてエコー高さ比を求め、例えば、いずれか1つの超音波探触子で取得したデータ値を基準値とし、他の超音波探触子については、この基準値にあうように電気的な調整を行うことができる。また、各超音波探触子からのエコー高さについて、夫々の超音波探触子のh0で標準化を行ってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る較正曲線取得方法の好適な実施形態を図面を用いて説明する。図1は、較正曲線取得方法が用いられる転動体支持荷重推定装置の構成を示す模式図である。
【0024】
<転動体支持荷重推定装置の構成>
本発明において測定対象となる軸受2は、外輪20と、内輪21と、外輪20と内輪21との間に挟持される多数個のボール22(転動体)とを備えている。内輪21の内径部分には回転軸3が圧入等の適宜の方法により固定される。軸受2は、軸受ハウジング7に形成された嵌合孔7aに、その外輪20が嵌合されることで支持される。軸受ハウジング7の外周には、回転軸3と同心に形成される円筒面7bが形成され、そこに超音波探触子1が適宜の方法で取り付けられる。なお、超音波探触子1の取付面は円筒面7bでなくてもよい。
【0025】
超音波探触子1は、取り付け面である円筒面7bに対して垂直な方向に超音波を発生する。図1の例だと、発生した超音波は回転軸3の回転中心に向かって進行する。この超音波は、外輪20の外周部分20aと軸受ハウジング7の嵌合孔7aとの嵌合部(はめあい面)で反射するか、ボール22が音軸近くに来ているときは、この嵌合部で反射もしくは透過する。超音波探触子1は、接触部で反射した反射波を受信する機能も有している。なお、音軸は超音波が進行する軸のことであるが、本実施形態においては、超音波探触子1の中心と回転軸3の中心とを結ぶ直線Lとして設定されている。
【0026】
超音波探触子1は超音波探傷器4(反射波検出手段に相当)と接続されている。超音波探傷器4には、超音波探触子1を駆動する駆動回路や、反射波を受信するための受信回路等が組み込まれている。また、超音波探傷器4はパソコン5(コンピュータ)に接続されており、超音波探触子1により受信した信号はA/D変換されてパソコン5に送信される。パソコン5には、受信した反射波の信号からボール支持荷重及び軸受荷重を推定するコンピュータプログラムが組み込まれている。
【0027】
<原理の説明>
次に、超音波探触子1を用いてボール支持荷重を推定する方法の原理を図2により説明する。図2(a)は超音波探触子1の直下(音軸上)にボール22が位置している状態、(b)は超音波探触子1の直下にボール22とボール22の間が位置している状態である。超音波探触子1から発せられた超音波は、軸受ハウジング7と外輪20との嵌合部に向かい、一部はその嵌合部から透過し、残りは嵌合部で反射する。この反射波を超音波探触子1により受信する。
【0028】
そして、軸受ハウジング7と外輪20との嵌合部における固体接触面積が大きいと発せられた超音波は嵌合部から透過しやすくなり、この透過率は上記接触面積にほぼ比例する。図2(a)のように、ボール22が超音波探触子1の直下に位置するときは、外輪20と軸受ハウジング7間の接触面圧は、ボール22直下でほぼ最大となり、その周辺ではガウス分布的に低下する。従って、外輪20と軸受ハウジング7の音軸付近の嵌合部における固体接触面積が大きくなり反射波の大きさは小さくなる。
【0029】
図2(b)に示すように、ボール22とボール22の中間付近の面圧は、軸受荷重が増加してもほとんどゼロであり、非接触状態に近くなる。これは外輪20の弾性変形に基づいて接触状態が決まるからであり、ボール22が音軸から離れるに従って、音軸近傍の嵌合部における隙間を大きくする方向に変形するためである。このような状態だと、超音波は透過しにくくなり、反射波の大きさは大きくなる。
【0030】
本発明において、上記反射波の大きさを定量的に表すために、エコー高さ比と呼ばれる物理量を用いる。エコー高さ比(H)とは、次式により定義される。
【0031】
H=(1−h/h0)×100
hは外的な軸受荷重(図1にWで示す)が作用している時のエコー高さである。h0は外的な軸受荷重が作用していない時(無負荷時)のエコー高さ(基準エコー高さ)であり、実際には隣接する転動体の中央に探触子が位置するときのエコー高さを用いる。なお、100倍しているのは%表示するためであり、必ずしも必要とされるものではない。軸受荷重が大きいほど外輪20とボール22の接触面積は大きくなり、hは小さくなる(反射波の大きさは小さくなる)ため、エコー高さ比(H)は大きくなる。
【0032】
図2(b)に示すような状態で嵌合部の隙間に油が存在しない場合には、超音波は縦波でも横波でも、軸受ハウジング7から外輪20への超音波の透過がほとんどない。従って、ボール支持荷重を推定するときの基準エコー高さとして、上記h0を用いることができる。
【0033】
ただし、嵌合部に油が存在する場合は、油中を伝播しない横波を用いることが好ましい。また、図2(b)に示すように隣接するボール22の中間位置付近での音軸近傍の嵌合部の油膜の厚さに経時変化がほとんどない場合は、高周波の縦波を用いて基準エコー高さh0を測定することができる。この場合、図2(a)に示すような状態でのエコー高さは、ボール支持荷重による固体接触面積の変化のほかに、嵌合部の薄膜の膜厚変化の影響を受けるが、これらはボール支持荷重(軸受荷重)により変化する。従って、エコー高さの変動からボール支持荷重を推定することができる。
【0034】
なお、ボール22が超音波探触子1の直下を通過するときのエコー高さで、h≒0となる角度θ1(図2(b)参照)はボール支持荷重が変化してもほとんど変わることはなく、一定の値を維持する。換言すれば、ボール22が探触子直下付近にあるとき(エコー高さが支持荷重と共に変動する領域)の面圧は、ボール支持荷重にほぼ比例すると考えられる。
【0035】
<パソコンの機能>
次に、パソコン5に組み込まれるコンピュータプログラムの機能について説明する。図3に示すように、パソコン5には、超音波探触子1により受信した反射波信号に基づいて、軸受荷重を算出するためのソフトウェアとして軸受荷重推定プログラム10がインストールされている。
【0036】
エコー高さ比算出手段10aは、受信した反射波の強度に基づいて、エコー高さ比を算出する機能を有する。ボール支持荷重算出手段10bは、算出されたエコー高さ比に基づいて、ボール支持荷重や軸受荷重を算出する機能を有する。エコー高さ比とボール支持荷重との関係式は、較正曲線として予め求めておき、較正曲線データ保存手段11に保存しておく。較正曲線データが分かっておれば、エコー高さ比から軸受荷重(ボール支持荷重)を求めることができる。較正曲線算出手段10cは、エコー高さ比と予め分かっているボール支持荷重の大きさから較正曲線を算出する機能を有する。
【0037】
表示データ生成手段10dは、受信したデータや算出したボール支持荷重などをモニター19に表示させるための表示データを生成する機能を有する。
【0038】
<較正曲線について>
エコー高さ比を求めて軸受荷重を推定するためには、予め較正曲線を求めておく必要がある。図4は、較正曲線の一例を示す図である。縦軸がエコー高さ比(H)であり、横軸がボール支持荷重wである。回転軸に作用する静荷重の大きさが既知であれば、各ボール22により分担して支持される荷重の大きさは、ボール22の角位置θに応じて計算で求めることができる。従って、較正曲線を求める場合には、数種類の既知の大きさの荷重を作用させて、そのときのエコー高さ比を求めることができる。本発明においては、後述するように、静荷重の作用のみで較正曲線を取得する方法を提供する。
【0039】
図4において、θ=0は、ちょうどボール22が音軸上にある状態を示しており、図4に示すように、音軸Lを基準にθ座標を取っている。通常はボール22の中心が音軸上にあるときに、エコー高さ比が最も大きくなり、θが大きくなるにつれてエコー高さ比は小さくなる傾向がある。
【0040】
なお、図5に示すようにボール22の位置を検出するためのセンサー6を設けておけば、ボール22がセンサー位置に来たときの信号を検出することができる。すなわち、音軸上にセンサー6を設けておけば、θ=0にボール22が来たときのエコー高さ比を求めることができる。θが0でない時のエコー高さ比については、ボール22が公転する速度が予めわかっているため、センサー6でボール22を検出したタイミングから所定時間後のエコー高さ比を求めることで、得ることができる。
【0041】
なお、エコー高さ比が最大となるのは常にθ=0の時とは限らず、θが有限の時にエコー高さ比が最大になることもある。特に変動荷重下では、θ=0以外の位置でエコー高さ比が最大になることは良く見られる。かかる場合を考慮して、ボールを検出するセンサー6(図5,6を参照)を設けて、ボール22の位置とエコー高さ比との対応関係を予め求めておくことが好ましい。
【0042】
<較正曲線を求める新手法1>
較正曲線を求めるためには、荷重を変化させていく必要がある。荷重を変化させて、各荷重におけるエコー高さ比を求めることで較正曲線が得られるからである。しかしながら、現実的には、荷重を変化させてデータを取ることが難しいことが多い。
【0043】
そこで、ボール22に作用する自重のみで較正曲線を求める方法を提供する。回転軸3に上述のような較正のための荷重を新たに付加しなくても、回転軸3やその他の部材の自重が各ボール22に作用している。すなわち、回転軸3は、通常は軸周りの機器等の自重を支持しており、例えば、圧延機のローラやタービン翼を支える軸が例としてあげられ、この軸を支持する軸受は、それら(軸を含む)の自重を支えている。かかる自重を較正時に使用することができる。また、ボール22の位置によって、ボール22に作用する荷重は異なっている。この点に着目して、図6に示すような方法により較正曲線を求める。
【0044】
図6に示すように、φ軸を基準として多数の超音波探触子1を外輪20の外周部分20aに取り付ける。なお、何個設けるかは任意に設定することができる。図6では設置角度φ1〜φ9の9つが図示されており、夫々の超音波探触子1からは異なるエコー高さ比H1〜H9を検出することができる。また、夫々のボール22に作用する支持荷重はw1〜w9であり、これは回転軸3や回転軸3が支持する機器の重量等から計算で求めることができる。従って、図4に示すように支持荷重とエコー高さ比との関係を表すグラフを求めることができる。図7は、円周方向の角度φとエコー高さ比Hとの関係を示すグラフであり、各φ位置における検出されたエコー高さ比のグラフを示しており、エコー高さ比曲線の包絡線を取ることで、φとエコー高さ比Hとの関係グラフを求めることができる。φの位置と支持荷重wとの関係は、一義的に定まるため、最終的には図7に示すような較正曲線データ(包絡線データ)を取得することができる。
【0045】
超音波探触子1の配列ピッチは、図例ではボール22の配列ピッチのちょうど2倍となっている。もちろん、これに限定されるものではない。
【0046】
超音波探触子1の直下にボール22が来た場合のエコー高さ比からボール22の支持荷重を測定する際に、角度の基準を検出するために、ボール22の到来を検出するセンサー6を設ける。このセンサー6による検出位置を基準として、各超音波探触子1からの信号取りこみタイミングを決めることができる。センサー6は図6に示すように2箇所(いずれも音軸上)に設けているが、センサー6の設置個所及び個数は適宜決めることができる。センサー6は、任意のタイプのものを使用することができ、例えば、非接触でボール22の検出が可能な光センサーや渦電流式の変位計、そして超音波センサーを用いることができる。
【0047】
図6のように複数の超音波探触子1を用いる場合、各超音波探触子1の感度ばらつきをなくすように調整しておく必要がある。このようなばらつきは、超音波探触子1の取り付け状態のばらつき等により生じるものである。取り付け状態をできるだけ同じ状態にするためには、例えば、本願発明者による特開2002−257796号公報に開示される超音波探触子の入射波調整方法を用いることができる。取り付け状態の調整を行ったのち、超音波探傷器4で各超音波探触子1が受信する信号のゲイン調整により、外輪20と軸受ハウジング7の固体接触が生じない箇所からの各探触子の反射エコー高さh0をできるだけ同じにする。
【0048】
そして更なる微調整として、基準エコー高さh0での標準化を行う。すなわち、外輪20と軸受ハウジング7の固体接触が生じない箇所(ボール22の数が20個以下程度なら図2(b)に示すようにボール22とボール22の間に音軸が位置する時)でのエコー高さh0により標準化したエコー高さ比Hを用いることができる。これにより、各超音波探触子1の取り付け状態に依存することなく、正確な測定を行うことが可能となる。
【0049】
図6に示すように超音波探触子1を多数設ける場合、図1に示すような超音波探傷器4を各超音波探触子1にそれぞれ設けて、個別に測定しても良いが、コストアップの要因となる。そこで、図6に示すようにセンサー6からの検出信号に基づいて、ボール22の位置を検出するボール位置検出部10を設け、これに基づいて、どの超音波探触子1からの信号を超音波探傷器4に送信するかを切り替える切り換え機構11を設けている(使用される探触子1は、他の探触子1からの干渉を防ぐため、常に1個とする。)。これにより、逐次探触子1を切り替えて較正曲線を得ることができる。この構成によれば、超音波探傷器4は1台ですむのでコストメリットを有する。
【0050】
そのほかに、1台の超音波探触子1と1台の超音波探傷器4との組み合わせで、超音波探触子1を逐次移動させながら、較正曲線を取得してもよい。この場合、超音波探触子1の取り付け状態を一定にするための調整機構を利用することが好ましい。
【0051】
なお、嵌合部(はめあい面)では、粗さ突起のクリープによる面圧の低下や、外輪20の円周方向ならびに軸方向の微動、フレッティングの発生などにより、嵌合部の面圧や固体接触面積が時間と共に変化する。従って、基準エコー高さh0や、ボール支持荷重とエコー高さとの関係は、できるだけ実際に軸受荷重の推定を行うときに近い時点での較正曲線を用いる必要がある。従って、較正曲線の取得は、逐次行う必要がある。
【0052】
また、円周方向に複数個の超音波探触子1を配置する場合、ある超音波探触子1から照射された超音波が拡散して、嵌合部で反射して他の超音波探触子1に受信されることがある。複数の超音波探触子1を同時に使用する場合には、各探触子間の干渉を防ぐために、超音波探触子1同士の間隔を所定以上あけて配置することが重要である。
【0053】
かかる配置ができない場合には、各探触子1において受信される第1反射波を評価の対象とすることが必要である。この場合、第1反射波の先頭の半波長か一波長(図8の符号Sで示す領域)でのエコー高さhを評価対象とすることが好ましい。それ以後の波には、他の探触子1からの影響が含まれる恐れがある。
【0054】
<斜角探触子を用いた構成例>
図9は、斜角探触子を用いて較正曲線を取得する場合の構成例を示す図である。斜角探触子1は、軸受ハウジング7の側面に配置してボール支持荷重の測定を行う。図9(b)の側断面図に示すように、ハウジング7の両側面に発信用探触子1Bと受信用探触子1Aを配置して、一対の探触子1によりボール支持荷重の測定を行う。ただし、一対ではなく1個の斜角探触子1を送信用と受信用で兼用することもできる。隣接する斜角探触子1からの超音波の影響を防ぐため、使用する斜角探触子1は常に1個とするか、互いに干渉をしない2個(複数個)の探触子1を切り替えて使用する。
【0055】
また、斜角探触子を使用する場合、探触子1の円周方向の間隔や、軸中心からの半径距離を使用する軸受の大きさやボールの個数に合わせて容易に変更できるような治具を予め用意しておくことが好ましい。
【0056】
<較正曲線を求める新手法2>
次に、較正曲線を取得するための別の方法を図10により説明する。この図10では、軸受ハウジング7の円筒面7bに沿って、アレイ型の探触子12を配置している。アレイ型の探触子12は、図11に示すような構造を有しており、円周方向長さが80〜100μmサイズの微小な角柱の振動素子12aを多数並べて配置しており、振動素子12aの間には高分子材料が埋め込まれている。これにより、柔軟性を有する構造となり、図10に示すような円周方向に沿って自由に曲げて配置することができる。振動素子12aの両側に+電極12bと−電極12cとが配置される。電極12b,12cは、所定個数分の振動素子毎に設けられる。電極面積内の複数の振動素子12aが同時に送受信を行うため、同じ電極内の振動素子12a全体は、図4で示した超音波探触子1の1つと同じ機能をするものと考えて良い。そのため、このようなコンポジット素子上に複数の電極を設けて、アレイ型の探触子を構成することが可能になる。
【0057】
この構成は、図6においてさらに多数の超音波探触子1を配置したものと考えることができる。すなわち、ボール22の公転に合わせて、常に目的とするボール22の直上(音軸上)の振動素子12aで計測が行えるようにする。アレイ型探触子12を用いることで、細かな荷重ステップでの較正曲線を取得することができる。
【0058】
この場合、振動素子12aの角度間隔にあわせ、常に振動素子直下にボール22が来たときにパルス超音波を発信させるようにする必要がある。また、アレイ型探触子12の軸受ハウジング7への取り付け状態が、円周方向に僅かに変化している可能性もあるため、外輪20と軸受ハウジング7の固体接触が生じない箇所(ボール22の数が20個以下程度なら図2(b)に示すようにボール22とボール22の間に音軸が位置する時)での振動素子12aを用いて、エコー高さの円周方向の基準値を測定しておく必要がある。これにより、各振動素子12a間のばらつきをなくすことができる。この点は、図6に示す構造で説明したのと同じ考え方である。
【0059】
アレイ型探触子12の取り付け状態は、温度や時間と共に変化する可能性があるので、常時基準状態を観測しておく必要がある。また、使用中のはめ合い面の接触状態の変化により較正曲線も変わる可能性がある。従って、軸受の実際の運転中に基準状態(自重のみが作用可能な状態)を設定できるようにしておき、基準値と較正を頻繁に取りながらボール支持荷重(軸受荷重)の測定を行う。
【0060】
実際の変動荷重下でのボール支持荷重や荷重ベクトルを求める際には、ある角度(例えば図10のβ)隔てて配置された一対の振動素子12aのみを作動させ、ボール22がその振動素子12aの直下に来た時のエコー高さ比Hと、較正曲線とから、その時点での各ボールの支持荷重を求めることができ、荷重ベクトルの算出が可能となる。図10に示す振動素子200と201から夫々エコー高さ比H(ボール支持荷重)を測定し、得られた支持荷重のベクトル和を計測し続けることで、変動荷重を取得することができる。もちろん、ボール22の配置角度で設置された複数対の探触子によるエコー高さ比の同時測定から、より正確な荷重ベクトルの推定が可能になる。なお、1個のボール22の支持荷重変化だけを求めるのであれば、一方の振動素子12aのみで計測を行えばよい。
【0061】
以上説明したのは、ある特定の振動素子12aの直下にボール22が来たその瞬間での荷重変動しか捉えることができない。一方、使用する振動素子12aを固定しないで、較正時と同様に、ボール22の公転速度に合わせて、常に1個のボール22の荷重を監視するようにすれば、荷重変動の詳細を計測することができる。ただし、較正時と同様に、パルス超音波は、振動素子12aの直下にボール22が来たときに発信させるようにする。ボール22が来たことの検出は、数個の非接触式のセンサー6等を用いて行うことができ、その他の振動素子12aについては、ボール22の公転速度と振動素子12aの配置間隔に基づいて、予め計算しておくことで、超音波発信のタイミングを決めることができる。
【0062】
このアレイ型探触子12のような構造の超音波探触子を用い、隣接する複数の振動素子を同時に使用することで、円周方向に長い超音波照射・受信領域を有する超音波探触子を形成することができる。
【0063】
このアレイ型探触子12の場合も図12に示すように斜角探触子を用いることができる。アレイ型の場合も、隣接する振動素子12aからの超音波の干渉を防ぐため、使用する振動素子12aは常に1個(1組)とするか、干渉のない距離を隔てた複数の振動素子12aを電気的に切り替えて使用する。
【0064】
<変動荷重下における計測>
次に、ボールの位置から計算で求まる探触子音軸上での支持荷重(較正時荷重)w0と、それに伴い発生する嵌合面での面圧分布fθ、超音波照射領域での音圧分布pθ、静荷重下でのボール通過時に計測されるエコー高さ比Hθ0を基に、変動荷重下で計測されるHθから、その時のボール支持荷重wθを推定する方法を説明する。
【0065】
図13に示すように、ボール22が左から右へ移動する状態であるとする。なお、ボール22は、下から上に上がりながら、ボール支持荷重が増大する方向に公転していると仮定する。音軸中心に座標軸θを取り、右側を+θの領域、左側を−θの領域とする。超音波探触子1により、超音波が照射される領域をΘとする。このとき(自重のみが作用している状態)、ボール22の支持荷重wは、w1からw2へと変化する。すなわち、ボール22が軸受の上側(負荷側)に位置するほど、支持荷重は大きくなる。支持荷重wは、厳密には直線的には変化しないが、ボール22の配置角度がそれほど大きくないため、近似的に直線的に変化するものと考えても良い。直線近似した場合、ボール22が音軸上にある場合の支持荷重はw0で表される。
【0066】
静荷重が作用しているときの、嵌合面(接触部)における面圧fθ0を図13に示すが、ボール22の移動に伴い、面圧分布も移動する。ボール支持荷重が大きくなれば面圧fθ0も大きくなる。しかし、前述したように、エコー高さh≒0となる角度θ1(図2(b)参照)はボール支持荷重が変化してもほとんど変わることはないので、面圧の発生する領域(fθ>0)もほぼ同じと考えることができる。従って、変動荷重が作用するときの面圧は以下のように表される。
【0067】
fθ=(wθ/wθ0)fθ0
ここでwθ0は静荷重が作用しているときのθ位置でのボール支持荷重を表し、wθは同位置での変動荷重が作用しているときのボール支持荷重を表す。
【0068】
一方、超音波探触子1によりはめ合い面に照射される超音波の音圧分布pθは、図13に示すように(図5と同じ)、音軸上が最も高くなり、周辺に行くほどなだらかに小さくなる。静荷重下(自重のみが作用している状態)におけるエコー高さ比Hθ0と、変動荷重下におけるエコー高さ比Hθを示す。実際に機械が稼動している状態では、荷重が変動するため、図13に示すような不規則的なエコー高さ比Hθとなる。
【0069】
まず、超音波の伝播に寄与する固体接触面積Aと支持荷重wとの関係は、
A∝wα
で表される。接触面積Aは、支持荷重が大きくなれば大きくなる。ここでαの値であるが、
α=2/3(球体と平面の接触)
α=1/2(円柱と平面の接触)
α=1.0(突起と平面の接触)
で表される。
【0070】
また、照射された超音波は、固体接触部を透過していくため、反射波の大きさは、接触面積Aの大きさに比例するということができる。従って、エコー高さ比Hと接触面積Aとの間には、
H∝A
なお、ある位置θにボールが来た時のエコー高さ比Hθは、超音波照射領域内での固体接触面積の分布Aθのほかに、音圧分布pθの影響も受ける。さらにAθはボール支持荷重で決まる面圧fθ(従って、wθ)のα乗に比例するので、
Hθ∝∫Aθ×pθdθ=∫fθα×pθdθ
ただし、Aθ、pθ、fθは、軸方向の分布の影響も考慮された値である。
【0071】
また、静的荷重下におけるボール支持荷重wθ0は、図13に示すような直線近似を行うことができるので、
wθ0=w0+(Δw/Θ)θ
従って、変動荷重下でのボール支持荷重wθは、前述したように、(wθ/wθ0)がθ方向に一定と考えることができることを考慮して、
Hθ/Hθ0=∫fθα×pθdθ/∫fθ0α×pθdθ
=∫{(wθ/wθ0)fθ0}α×pθdθ/∫fθ0α×pθdθ
=(wθ/wθ0)α
の関係式で表すことができる。これらの式から、
wθ=(Hθ/Hθ0)1/α×{w0+(Δw/Θ)θ}
この式において、超音波探触子の超音波照射領域が狭い場合は、Δw<<w0となるので、Δwの項が消え、
wθ=(Hθ/Hθ0)1/α×w0
となる。
【0072】
先ほど述べたαであるが、実際に確認する必要がある。
【0073】
そこで、軸受荷重(すなわち、ボール支持荷重wθ)を変えて、ある角度位置θ(例えば0゜)にボール22が来た時のエコー高さ比H0を測定する。2種類の荷重w01,w02でのエコー高さ比H01,H02を用いて、前述の式から、
α={ln(H01/H02)}{ln(w01/w02)}
により、αを算出する。低荷重から高荷重までの、数種類での荷重下でのHを用いて、αの平均値を求めることが好ましい。αを求めるために荷重を変化させる必要はあるが、αについては経時変化が少ないため、常時測定することはない。
【0074】
以上は、1つの超音波探触子を用いた場合の求め方であるが、2つ以上の超音波探触子を円周方向に配置したり、アレイ型探触子において使用する振動素子を限定して多数個の探触子化したものを円周方向に配置した場合は、各探触子でのボール支持荷重が異なるため、軸受荷重を変化させず、自重の負荷のみでαを求めることができる。
【0075】
ただし、超音波探触子の音圧分布pθが探触子により異ならないことが条件であるが、探触子の音軸上にボールが来る場合のデータを用いる場合には、各探触子での基準値(外輪と軸受ハウジングの間に隙間が形成される領域でのH)を同じとなるようにしておくことで、上記問題を回避できる。この場合、探触子の個数を多くする必要があるので、アレイ型探触子の使用が好ましい。
【0076】
この図13に示す方法は、嵌合部での粗さ突起のクリープによる面圧の低下や、外輪20の円周方向ならびに軸方向の微動、フレッティングの発生などにより、嵌合部の面圧や固体接触面積が時間と共に変化して、初期状態とは異なってきた場合にも適用することができる。つまり、自重だけが作用する(例えば、圧延機のローラやタービン翼の重量)条件があれば、その場で較正曲線が得られる。従って、その使用環境下での最新の較正曲線を基に、変動荷重の推定を行うことができる。すなわち、図13に示す方法は、変動荷重を推定する方法を提供するものであるが、較正曲線を求める方法でもある。図13に示す方法は、超音波探触子が1個で済む点に有利さがある。
【0077】
図6や図10で説明した較正曲線を求める方法は、そのままの状態で変動荷重を測定する主走査方向としても用いることができる。すなわち、超音波探触子直下にボールが来たときのエコー高さ比と、自重を用いたり、軸受荷重を変化させて測定した較正曲線から変動荷重の推定を行うことができる。
【0078】
<ハウジングがない軸受構造の場合の較正曲線の取得方法>
以上、較正曲線を取得する方法について種々説明してきたが、いずれも軸受ハウジングを有する軸受構造に関するものである。一方、近年においては、外輪と軸受ハウジングを一体化したような軸受構造が知られている。すなわち、ハウジングを外輪に、軸を内輪に見立ててレース面の加工を施し、ユニット化した軸受構造が用いられている。
【0079】
かかる場合は、超音波探触子を外輪に取り付けるようにし、超音波探触子からの超音波は、軸受外輪とボールとの接触部に向けて発せられる。軸受外輪とボールとの接触面積は、ボール支持荷重(軸受荷重)の大きさに応じて変動する。すなわち、ボール支持荷重が大きければ弾性変形に伴う接触面積は大きくなり、ボール支持荷重が小さくなれば接触面積も小さくなる。従って、超音波照射領域内のこの面積の大きさに応じて、反射波の強度が変化するため、軸受外輪と軸受ハウジングとの境界が存在しなくても、ボール支持荷重の推定が可能になる。
【0080】
図7に示す較正曲線取得方法に対応する構成図は、図14に示される。図14に示すように、φ軸を基準として多数の超音波探触子1を外輪20の外周部分20aに円周方向に沿って取り付ける。図10に対応する構成図は、図15に示される。外輪20の外周部分20aに円周方向に沿って、アレイ型の探触子12を配置している。較正曲線を取得するときの基本的な考え方は、図7や図10で説明したのと同じである。図14や図15に示す超音波探触子は、斜角探触子を用いて構成することもできる。
【0081】
次に、図13に対応する構成を図16に示す。超音波探触子1により照射される超音波の音圧分布pθは、図16に示すように、音軸上が最も高くなり、周辺に行くほどなだらかに小さくなる。静荷重下(自重のみが作用している状態)におけるエコー高さ比Hθ0と、変動荷重下におけるエコー高さ比Hθを示す。実際に機械が稼動している状態では、荷重が変動するため、図16に示すような不規則的なエコー高さ比Hθとなる。
【0082】
まず、接触面積Aと支持荷重wとの関係は、
A∝wα
で表される。接触面積Aとは、EHL部(弾性流体潤滑部)の面積に相当し、支持荷重が大きくなれば接触面積Aの大きさも大きくなる。ここでαの値は、前述の通りである。
【0083】
また、照射された超音波は、EHL部を透過していくため、反射波の大きさは、接触面積Aの大きさに比例するということができる。従って、エコー高さ比Hと接触面積Aとの間には、
H∝A
また、θ方向のエコー高さ比Hは、音圧分布pθの影響を受けるので、
Hθ∝wθα×pθ
また、静的荷重下におけるボール支持荷重wθ0は、図16に示すような直線近似を行うことができるので、
wθ0=w0+(Δw/Θ)θ
従って、変動荷重下でのボール支持荷重wθは、
Hθ/Hθ0=(wθ/wθ0)α
の関係式で表すことができる。これらの式から、
wθ=(Hθ/Hθ0)1/α×{w0+(Δw/Θ)θ}
この式において、超音波探触子の超音波照射領域が狭い場合は、Δw<<w0となるので、Δwの項が消え、
wθ=(Hθ/Hθ0)1/α×w0
となる。
【0084】
先ほど述べたαであるが、ハウジングを有しない軸受の場合、外輪20の内周部分20bとボール22との接触である。そこで、外輪20の内周部分20bの曲率をボール22の方に上乗せする形とすれば、球体と平面との接触であると考えることができる。従って、α=2/3ということができるが、実際に確認する必要がある。具体的手順は、段落0073,74と同じである。
【0085】
この図16に示す方法は、軸受のなじみや劣化に伴う、形状寸法の変化やレース面の粗さが異なった場合、探触子そのものの特性が時間や温度によって初期状態とは異なってきた場合にも適用することができる。つまり、自重だけが作用する(例えば、圧延機のローラやタービン翼の重量)条件があれば、その場で較正曲線が得られる。従って、その使用環境下での最新の較正曲線を基に、変動荷重の推定を行うことができる。すなわち、図16に示す方法は、変動荷重を推定する方法を提供するものであるが、較正曲線を求める方法でもある。図16に示す方法は、超音波探触子が1個で済む点に有利さがある。
【0086】
図14や図15で説明した較正曲線を求める方法は、そのままの状態で変動荷重を測定する主走査方向としても用いることができる。すなわち、超音波探触子直下にボールが来たときのエコー高さ比と、自重を用いたり、軸受荷重を変化させて測定した較正曲線から変動荷重の推定を行うことができる。
【0087】
<別実施形態>
本実施形態では転動体の一例としてボール(球体)を説明したが、これに限定されるものではなく、円柱形の転動体等を使用する場合にも本発明は応用できるものである。
【0088】
超音波探触子の取り付け位置は、第1,2象限だけでなく、第3,4象限にも取り付けることができる。この場合、回転荷重の測定も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】軸受荷重推定装置の構成を示す模式図
【図2】超音波探触子を用いて軸受荷重を推定するときの原理を説明する図
【図3】軸受荷重推定プログラムの機能を示す図
【図4】ボール支持荷重とエコー高さ比との関係を示す図
【図5】超音波探触子、音圧分布、面圧分布の関係を説明する図
【図6】較正曲線を求める方法を示す構成図
【図7】円周方向の角度とエコー高さ比の関係を示す図
【図8】受信したエコー高さ信号と時間との関係を示す図
【図9】斜角探触子を用いた構成例を示す図
【図10】較正曲線を求める方法を示す構成図
【図11】アレイ型探触子の構成を示す図
【図12】斜角探触子を用いた構成例を示す図
【図13】変動荷重を求める方法を示す図
【図14】較正曲線を求める方法を示す構成図(ハウジングがない場合)
【図15】較正曲線を求める方法を示す構成図(ハウジングがない場合)
【図16】変動荷重を求める方法を示す図(ハウジングがない場合)
【符号の説明】
【0090】
1 超音波探触子
2 軸受
3 回転軸
4 超音波探傷器
5 パソコン
6 センサー
7 軸受ハウジング
10 軸受荷重推定プログラム
10a エコー高さ比算出手段
10b 軸受荷重算出手段
10c 較正曲線算出手段
10d 表示データ生成手段
11 較正曲線データ保存手段
12 アレイ型探触子
19 モニター
20 外輪
20a 外周部分
21 内輪
22 ボール
H エコー高さ比
w ボール支持荷重
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と外輪の間を転動する転動体を有する軸受の所定箇所に対して、超音波探触子から超音波を照射し、前記所定箇所からの反射波の強度を測定し、予め求めた反射波の強度と転動体支持荷重との関係を表す較正曲線データに基づいて転動体支持荷重の大きさを算出するに際して使用される較正曲線の取得方法であって、
転動体が各超音波探触子の直下に来たときに検出される反射波の強度と、静荷重に基づく転動体支持荷重との関係に基づいて前記較正曲線データを取得するステップを有することを特徴とする較正曲線取得方法。
【請求項2】
軸受ハウジング又は外輪の円周方向に沿って所定間隔で所定の位置に、複数の超音波探触子を配置しておくことを特徴とする請求項1に記載の較正曲線取得方法。
【請求項3】
転動体の回転移動に連動して、反射波を検出すべき超音波探触子を順次切り替えるステップを有していることを特徴とする請求項2に記載の較正曲線取得方法。
【請求項4】
微小の振動素子を多数接合して構成されるアレイ型探触子を前記複数の超音波探触子として機能させることを特徴とする請求項2又は3に記載の較正曲線取得方法。
【請求項5】
前記複数の超音波探触子間の感度ばらつきを調整するため、各超音波探触子の直下に転動体が位置しないときの反射波強度を測定し、この測定データに基づいて調整を行うステップを有することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の較正曲線取得方法。
【請求項1】
内輪と外輪の間を転動する転動体を有する軸受の所定箇所に対して、超音波探触子から超音波を照射し、前記所定箇所からの反射波の強度を測定し、予め求めた反射波の強度と転動体支持荷重との関係を表す較正曲線データに基づいて転動体支持荷重の大きさを算出するに際して使用される較正曲線の取得方法であって、
転動体が各超音波探触子の直下に来たときに検出される反射波の強度と、静荷重に基づく転動体支持荷重との関係に基づいて前記較正曲線データを取得するステップを有することを特徴とする較正曲線取得方法。
【請求項2】
軸受ハウジング又は外輪の円周方向に沿って所定間隔で所定の位置に、複数の超音波探触子を配置しておくことを特徴とする請求項1に記載の較正曲線取得方法。
【請求項3】
転動体の回転移動に連動して、反射波を検出すべき超音波探触子を順次切り替えるステップを有していることを特徴とする請求項2に記載の較正曲線取得方法。
【請求項4】
微小の振動素子を多数接合して構成されるアレイ型探触子を前記複数の超音波探触子として機能させることを特徴とする請求項2又は3に記載の較正曲線取得方法。
【請求項5】
前記複数の超音波探触子間の感度ばらつきを調整するため、各超音波探触子の直下に転動体が位置しないときの反射波強度を測定し、この測定データに基づいて調整を行うステップを有することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の較正曲線取得方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2006−214905(P2006−214905A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28841(P2005−28841)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(392000110)オートマックス株式会社 (16)
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(392000110)オートマックス株式会社 (16)
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【Fターム(参考)】
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