説明

透光性セラミックス焼結体及びその製造方法

【課題】本発明は、酸化イットリウム、酸化スカンジウム結晶粒界へ析出し易いアルミニウムを用いずに、しかも珪素含有量を特に低減した特殊な原料を使用したり、或いは原料を微粉砕する等の必要もなく、汎用の原料を用いて厚さ1mm時の可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率が60%以上となる透光性セラミックス焼結体を得ることを課題とする。
【解決手段】酸化イットリウムと酸化スカンジウムの固溶体を主成分とし、厚さ1mm時の可視光帯波長400〜800nmにおける直線透過率が60%以上であることを特徴とする透光性セラミックス焼結体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ用ホスト材、放電灯用管体、半導体製造装置のプラズマ監視用耐食窓材等に使用される透光性セラミックス焼結体及びこの焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化イットリウムと酸化スカンジウムの固溶体からなる透光性セラミックス焼結体に関する技術については報告されていない。しかし、透光性酸化イットリウム焼結体、透光性酸化スカンジウム焼結体に関する技術については報告されている。
【0003】
透光性酸化イットリウム焼結体を作製する方法としては、例えば次の(1)、(2)の例が知られている。
(1)アルミニウム含有量を金属換算で5〜100wtppm、珪素含有量を金属換算で10wtppm以下とした成形体を、水素,希ガスあるいは水素希ガス混合雰囲気もしくは真空中で、1450℃以上1700℃以下で0.5時間以上焼結する方法(特許文献1)。
【0004】
(2)酸化イットリウムに対して、熱分解で100ppm〜4%の範囲の熱分解で酸化カルシウムになるカルシウム化合物あるいは酸化イットリウムに対して、200ppm〜10%の範囲の酸化ジルコニウム化合物と、一次粒子の平均粒径が0.5μm以下の酸化イットリウムとの混合物を成形し焼結する方法(特許文献2)。
【0005】
また、透光性酸化スカンジウム焼結体を作製する方法としては、(3)アルミニウム含有量を金属管算で5〜100wtppm、珪素含有量を金属換算で30wt ppm以下とする方法が開示されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2003−89578号公報(請求項7)
【特許文献2】特許第2939535号公報(請求項1,2)
【特許文献3】特開2003−128465号公報(請求項1,3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,3記載のアルミニウム含有量を金属管算で5〜100wtppm以下とする方法では、確かに透光性酸化イットリウム焼結体が得られるものの、焼成中にアルミニウムが酸化イットリウム焼結粒界へ析出しやすく、これを防止するために焼成温度を1700℃以下にすることが必要である。1700℃以下の焼成温度は、高融点である酸化イットリウムに対しては低い焼成温度である。従って、この温度で充分に緻密化させるためには、例えば市販されている汎用の酸化イットリウム粉末ではなく、硫酸イットリウムや硝酸イットリウム、蓚酸イットリウム等の水溶液を制御された温度及び速度で中和して水酸化イットリウムを生成させ、これを制御された雰囲気、温度にて焙焼し、解砕する等の処理をして、焼結性のよい原料を特別に用意する必要がある。これは一般に容易なことではない。また、特許文献1のように10wtppm以下の珪素含有量とするためには低珪素濃度の特別な原料を用意する必要があり、容易なことではない。
【0007】
一方、特許文献2の方法では、酸化イットリウムの一次粒径が0.5μm以下である必要があり、微粉砕工程や特別な原料合成等が必要となるために汎用的な酸化イットリウム粉末を使用することができない。また、特許文献2の方法では、厚さが1mmの透明酸化イットリウム焼結体の直線透過率は、波長が500nmの光に対して40〜60%間でしか得られておらず、透明性は充分ではない。更に、アルカリ土類金属であるカルシウムを含有する酸化イットリウムはコンタミネーションの問題から半導体製造装置用の窓材には適用することができないといった問題があった。さらには、CaO及びZrOは焼結する際、Y格子中に入るが、イオン化された状態ではYと電荷が異なるため、Yの格子欠陥を生じる。この影響により、着色等の透光性セラミックスの光学的性質の低下が生じる。
【0008】
本発明はこうした事情を考慮してなされたもので、酸化イットリウム、酸化スカンジウム結晶粒界へ析出し易いアルミニウムを用いずに、しかも珪素含有量を特に低減した特殊な原料を使用したり、或いは原料を微粉砕する等の作業が必要なく、汎用の原料を用いて厚さ1mm時の可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率が60%以上となる透光性セラミックス焼結体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の透光性セラミックス焼結体は、酸化イットリウムと酸化スカンジウムの固溶体を主成分とし、厚さ1mm時の可視光帯波長400〜800nmにおける直線透過率が60%以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明の透光性セラミックス焼結体の製造方法は、イットリウム、イットリウム化合物の少なくとも何れか1種類以上とスカンジウム、スカンジウム化合物の何れか1種類以上を混合して混合物とし、この混合物を成形してイットリウムとスカンジウムを含有する成形体を作製した後、これを1750℃以上の真空若しくは水素雰囲気下において焼成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、焼成中にアルミニウムが酸化イットリウム、酸化スカンジウム結晶粒界に析出することがなく、しかも厚さ1mmでの可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率を60%以上とすることができる。また、本発明によれば、珪素含有量を10wt ppmとした特殊な原料を使用することがない。更に、本発明によれば、原料の酸化イットリウムの粒径を0.5μm以下としなくとも、厚さ1mmの時の可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率を60%以上とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明の透光性セラミックス焼結体は、上述したように、酸化イットリウムと酸化スカンジウムの固溶体を主成分とし、厚さ(焼結体の厚さ)1mm時の可視光帯波長400〜800nmにおける直線透過率が60%以上である(請求項1)。ここで、酸化イットリウムに対し、酸化スカンジウムを金属単体換算で1wt%以上40wt%以下の範囲で含有し、厚さ1mm時の可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率が78%以上である(請求項2)ことが好ましい。
【0013】
また、本発明の透光性セラミックス焼結体の製造方法は、上述したように、イットリウム、イットリウム化合物の少なくとも何れか1種類以上とスカンジウム、スカンジウム化合物の何れか1種類以上を混合して混合物とする工程と、この混合物を成形してイットリウムとスカンジウムを含有する成形体を作製する工程と、これを1750℃以上の真空若しくは水素雰囲気下において焼成する工程とを有している(請求項3)。ここで、混合する前記イットリウム、イットリウム化合物と前記スカンジウム、スカンジウム化合物の割合が、イットリウムに対し、スカンジウムを金属単体換算で1wt%以上40wt%以下である(請求項4)ことが好ましい。
【0014】
上記焼結体において、酸化イットリウムと酸化スカンジウムの固溶体を形成することにより、セラミックス焼結体の透光性が向上するが、その原理は明らかではない。しかし、酸化イットリウムと酸化スカンジウムが固溶することにより酸化イットリウム、酸化スカンジウム中のイオン、欠陥の拡散を促進して結晶構造の均質化を促すためと考えられる。また、酸化イットリウムと酸化スカンジウムは全域固溶するため、結晶粒界へ析出は少ない。これらの作用により、得られる酸化イットリウム、酸化スカンジウム固溶体が、厚さ1mm時の可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率を60%以上とすることを可能にする。
【0015】
上記焼結体において、酸化イットリウムと酸化スカンジウムの固溶体を得るためには、特に平均粒径が小さな酸化イットリウム原料粉末や酸化スカンジウム原料粉末を用意する必要はなく、汎用的な粉末で差し支えない。しかし、焼結体中に気孔を残留させないようにするためには焼成前の成形体段階における気孔径が小さい方が好ましい。このような、小さな気孔径を有する成形体とするために、夫々平均粒径2μm以下の酸化イットリウム原料粉末と酸化スカンジウム原料粉末を用いることが好ましい。
【0016】
また、酸化イットリウム原料粉末、酸化スカンジウム原料粉末中のアルミニウム、珪素含有量も厳密に制御される必要はない。しかし、アルミニウムは焼成中に酸化イットリウム、酸化スカンジウム固溶体の結晶粒界へ析出して異相を形成し易いために透光性向上の妨げになり、珪素は酸化イットリウム、酸化スカンジウム固溶体の粒子成長を助長する働きがあり、急速な粒成長により気孔排出が十分に行えない。そこで、焼成前の酸化イットリウム成形体中のアルミニウム濃度、珪素濃度は、共に20ppm以下とすることが好ましい。
【0017】
更に、本焼結体をレーザーホスト材として用いる場合は、Nd,Yb等のランタノイド元素を発光元素として添加し作製することとなるが、これら発光元素を添加した場合においても、添加しない場合と同様に透光性の高いセラミックス焼結体が作製可能である。
【0018】
特に、上述したように、酸化イットリウムに対し、酸化スカンジウムを金属単体換算で1wt%以上40wt%以下の範囲で含有させた場合、酸化イットリウム焼結体の厚さ1mm時の可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率は78%以上とすることが可能となり、極めて透光性の高い酸化イットリウム−酸化スカンジウム固溶体を得ることが可能となる。
【0019】
ここで、スカンジウムが金属単体還元で1wt%未満あるいは40wt%を超えた場合は、酸化イットリウム、酸化スカンジウム固溶体生成による透明化作用が十分ではないため、厚さ1mm時の可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率で78%以上の透光性の高いセラミックス焼結体とはならない。
【0020】
以下に、本発明の具体的な実施例及び比較例について説明する。
(実施例1〜9、比較例1〜4)
まず、平均粒径1μm、純度99.9%(アルミニウム(Al)濃度<1ppm、珪素濃度18ppm)の酸化イットリウム粉末と平均粒径1.2μm、純度99.9%(Al濃度<1ppm、珪素濃度17ppm)のボールミルによって12時間の混合を行った。次に、これによって得られたスラリーからスプレードライヤを用いて平均粒径40μmの造粒粉を作製した。つづいて、この造粒粉を用いて20MPaで一軸金型成形を行った後、これを150MPaで冷間静水圧成形(CIP)を行って成形体とし、これを大気中1000℃で脱脂処理を行い、脱脂体とした。ひきつづき、この脱脂体を下記表1に示す温度及び雰囲気にて、焼成を行い焼結体とした。なお、表1中、「Sc」とは「スカンジウム」を示す。
【0021】
この焼結体は、直径20mm、厚さ1mmで両面光学研磨品へと加工し、分光光度計を用いて400〜800nmにおける直線透過率を測定した。ここで、測定結果は、600nmにおける直線透過率及び記号で示した。表1の欄で、記号「◎」は400〜800nmにおいて直線透過率が80%以上のもの、記号「○」は400〜800nmにおいて直線透過率が60%以上のもの、記号「×」は400〜800nmにおいて直線透過率が60%未満の部分があるものを表している。また、測定後の焼結体は、洗浄を行ってからICP発光分光分析法にてアルミニウム濃度、珪素濃度、スカンジウム濃度を測定した。測定結果を下記表1に併せて示した。
【表1】

【0022】
表1から明らかのように、本発明の透光性セラミックス焼結体によれば、アルミニウム含有量を金属換算で5〜100wtppm、珪素含有量を金属換算で10wt ppmとしなくとも、厚さ1mm時の可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率を60%以上とすることができる。また、酸化スカンジウムを金属管算で1wt%以上40wt%以下の範囲で含有させることにより、厚さ1mm時の可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率を78%以上とすることができる。更に、焼結するY格子中にYとは異なる電荷で固溶し、格子欠陥により光学的性質を低下させる酸化カルシウムや酸化ジルコニウムを添加しなくとも、厚さ1mm時の可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率を60%以上とすることができる。
【0023】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合せてもよい。具体的には、混合するイットリウム、イットリウム化合物とスカンジウム、スカンジウム化合物の割合(Sc混合量金属単体換算)や焼成温度は表1に開示された数値に限定されず、[発明を実施するための最良の形態]の欄に記載された事項の範囲内であればよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化イットリウムと酸化スカンジウムの固溶体を主成分とし、厚さ1mm時の可視光帯波長400〜800nmにおける直線透過率が60%以上であることを特徴とする透光性セラミックス焼結体。
【請求項2】
酸化イットリウムに対し、酸化スカンジウムを金属単体換算で1wt%以上40wt%以下の範囲で含有し、厚さ1mm時の可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率が78%以上であることを特徴とする請求項1記載の透光性セラミックス焼結体。
【請求項3】
イットリウム、イットリウム化合物の少なくとも何れか1種類以上とスカンジウム、スカンジウム化合物の何れか1種類以上を混合して混合物とし、この混合物を成形してイットリウムとスカンジウムを含有する成形体を作製した後、これを1750℃以上の真空若しくは水素雰囲気下において焼成することを特徴とする透光性セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項4】
混合する前記イットリウム、イットリウム化合物と前記スカンジウム、スカンジウム化合物の割合が、イットリウムに対し、スカンジウムを金属単体換算で1wt%以上40wt%以下であることを特徴とする請求項3記載の透光性セラミックス焼結体の製造方法。

【公開番号】特開2007−254166(P2007−254166A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−77019(P2006−77019)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000221122)東芝セラミックス株式会社 (294)
【Fターム(参考)】