説明

透明ガスバリア性フィルム及びその利用

【課題】水蒸気バリア性、透明性及び寸法安定性に優れる透明ガスバリア性フィルムを提供する。
【解決手段】プラズマガン40の放電電流とターゲット・バイアス電圧値を個別に制御し、プラズマガン40で発生した円柱状のアルゴンプラズマを磁場でシート状に成形した高プラズマ密度のシートプラズマ装置100を用いて、透明プラスチックフィルムの少なくとも片面に少なくとも一層の無機膜を有する透明ガスバリア性フィルムを製造する。この透明ガスバリア性フィルムは、有機エレクトロルミネッセンス素子の部材として好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明ガスバリア性フィルムに関し、さらに詳しくは、少なくとも片面に少なくとも一層の無機膜を有してなる、水蒸気バリア性、透明性及び寸法安定性に優れる透明ガスバリア性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック基板やフィルムの表面に酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化珪素等の金属酸化物の薄膜を形成したガスバリア性フィルムは、酸素や水蒸気の遮断を必要とする物品の包装、食品や工業用品および医薬品等の変質を防止するための包装用途に多く用いられている。また、包装用途以外にも、液晶表示素子、太陽電池、エレクトロルミネッセンス(EL)基板等での使用が検討されている。特に、液晶表示素子やEL素子等への応用が進んでいる透明基材に関しては、軽量化、大型化という要求に加え、長期信頼性や形状の自由度が高いこと、曲面表示が可能であること等の高度な要求が加わり、重くて割れやすく大面積化が困難なガラス基板に代わって透明プラスチック等のフィルム基材が注目されており、液晶表示素子においては一部採用され始めている。また、プラスチックフィルムは上記要求に応えるだけでなく、ロール・トゥ・ロール方式が可能であることから、ガラス基板よりも生産性が良く、コストダウンの点でも有利である。
【0003】
しかしながら、透明プラスチック等のフィルム基板は、ガラス基板に対してガスバリア性が劣るという問題がある。このようなガスバリア性に劣る基材を上記の用途に用いると、ガスが浸透して問題が生じる。例えば液晶セル内の液晶が劣化したり、有機EL素子が劣化したりして、表示欠陥となって表示品位が劣化する。
【0004】
このような問題を解決するために、フィルム基板上に金属酸化物薄膜を形成してガスバリア性フィルム基材とすることが知られている。包装部材や液晶表示素子に使用されるガスバリアフィルムとしては、樹脂フィルム上にガスバリア無機質層として窒素を含む酸化珪素膜、無機質層として炭素を含む酸化珪素膜が積層されてなるガスバリアフィルム基板(特許文献1)が知られている。また、基材フィルムに無機酸化物層と、酸化窒化炭化珪素層もしくは酸化炭化珪素層をこの順に有するガスバリア性積層体(特許文献2)が知られている。また、透明プラスチックフィルムに窒化珪素膜が成膜されている透明バリアフィルム(特許文献3)が知られている。しかしながら、使用環境により、そりなどが生じる問題が発生していた。
【0005】
一方、無機膜との界面において剥離や剥離に伴う欠陥が生じにくく、密着性が高くかつ脱ガスが低い有機膜を用いたガスバリア積層体が知られている(特許文献4)。しかしながら、より高いガスバリア性を必要とする用途に使用される場合には、未だ不充分なものであった。
【0006】
プラスチックフィルム上に無機薄膜等を成膜する方法としては、高周波によるイオンプレーティング法、又はホローカソードガンを用いたイオンプレーティング法、プラズマ発生装置を用いたイオンビームミキシング法、シートプラズマ法が知られている。(例えば、特許文献5参照)しかしながら、上記方法で成膜したフィルム基板は光学素子として使用する場合には、全光線透過率が不充分なものであった。
【0007】
【特許文献1】特開2007−216435号公報
【特許文献2】特開2006−297730号公報
【特許文献3】特開2005−342975号公報
【特許文献4】特開2005−335067号公報
【特許文献5】特開平1−139247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、透明性が高く、寸法安定性に優れ、高い水蒸気バリア性を有するフィルムを形成することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、透明プラスチックフィルムの少なくとも片面に少なくとも一層の無機膜を有する透明ガスバリア性フィルムであって、該無機膜が、特定の装置を用いたスパッタイオンプレーティング法によって無機膜を形成することにより、上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明によれば、以下(1)〜(7)が提供される。
(1)透明プラスチックフィルムの少なくとも片面に少なくとも一層の無機膜を有する透明ガスバリア性フィルムであって、該無機膜が、
プラズマの輸送方向の中心に対して略等密度分布するソースプラズマを放電により形成して、前記ソースプラズマを前記輸送方向に向けて放出可能なプラズマガンと、
前記輸送方向に延びた輸送空間を有するシートプラズマ変形室と、
互いに同極同士を向き合わせて、前記輸送空間を挟むように配置される第1の磁界発生手段の対と、
前記輸送空間に連通した成膜空間を有する成膜室と、
互いに異極同士を向き合わせて、前記成膜空間を挟むように配置される第2の磁界発生手段の対と、を備え、
前記ソースプラズマは、前記輸送空間を移動する間に、前記第1の磁界発生手段の対の磁界により前記中心を含む主面に沿ってシート状に拡がり、
前記シート状のプラズマは、前記成膜空間を移動する間に、前記第2の磁界発生手段の対の磁界により前記主面から凸状に偏倚する装置を用いたスパッタイオンプレーティング法によって形成されることを特徴とする透明ガスバリア性フィルム。
(2)前記透明プラスチックフィルムが、120℃以上のガラス転移温度を有する高分子材料で形成されている前記(1)記載の透明ガスバリア性フィルム。
(3)前記無機膜が酸化珪素、酸化窒化珪素及び窒化珪素のいずれかからなるものであることを特徴とする前記(1)または(2)記載の透明ガスバリア性フィルム。
(4)前記透明プラスチックフィルムが、0.05重量%以下の吸水率を有する高分子材料で形成されている前記(1)〜(3)のいずれかに記載の透明ガスバリア性フィルム。
(5)前記透明プラスチックフィルムが、環状オレフィンポリマーを成分として形成される前記(1)〜(4)のいずれかに記載の透明ガスバリア性フィルム。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の透明ガスバリアフィルムを用いた光学素子。
(7)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の透明ガスバリアフィルムを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明の透明ガスバリア性フィルムは、透明性が高く、寸法安定性に優れ、高い水蒸気バリア性を有するフィルムである。
このフィルムは、内容物の品質を変化させる原因となる水蒸気をほとんど透過させないので、高いガスバリア性が要求される用途、例えば食品や医薬品等の包装材料やパッケージ材料、有機エレクトロルミネッセンス表示素子や液晶表示素子などの光学素子等に好ましく用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の透明プラスチックフィルムは、少なくとも片面に少なくとも一層の無機膜を有する透明ガスバリア性フィルムであって、該無機膜が、プラズマの輸送方向の中心に対して略等密度分布するソースプラズマを放電により形成して、前記ソースプラズマを前記輸送方向に向けて放出可能なプラズマガンと、前記輸送方向に延びた輸送空間を有するシートプラズマ変形室と、互いに同極同士を向き合わせて、前記輸送空間を挟むように配置される第1の磁界発生手段の対と、前記輸送空間に連通した成膜空間を有する成膜室と、互いに異極同士を向き合わせて、前記成膜空間を挟むように配置される第2の磁界発生手段の対と、を備え、前記ソースプラズマは、前記輸送空間を移動する間に、前記第1の磁界発生手段の対の磁界により前記中心を含む主面に沿ってシート状に拡がり、前記シート状のプラズマは、前記成膜空間を移動する間に、前記第2の磁界発生手段の対の磁界により前記主面から凸状に偏倚する装置を用いたスパッタイオンプレーティング法によって形成されることを特徴とする。
【0013】
本発明の透明プラスチックフィルムを構成する材料、及びその形成方法について説明する。
【0014】
(透明プラスチックフィルム)
本発明の透明ガスバリア性フィルムを構成する透明プラスチックフィルム(以下、基材フィルムという)は、透明樹脂を成形して得られるものである。
透明樹脂としては、その利用される分野の要求性能に従い、適宜選択すればよい。光学素子に要求される性能は、耐熱性、光学特性等であり、従って、この用途に適した基材フィルムの樹脂としては、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アリレート(PAR)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)ポリカーボネート(PC)、環状オレフィンポリマー、ポリシクロヘキセン、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリシロキサン系、エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、三フッ化塩化エチレン(PFA)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニル(PVF)、パーフルオロエチレン−パーフロロプロピレン−パーフロロビニルエーテル−共重合体(EPA)等のフッ素系樹脂等を挙げることができる。耐熱性、寸法安定性、吸水率及び低水蒸気透過性の観点から、基材フィルムとして用いる樹脂としては環状オレフィンポリマーが好ましい。例えば、PES、PENなどの吸水率の高い樹脂を基材フィルムとして用いた場合、恒温恒湿条件下で反りなどが発生するおそれがある。
【0015】
本発明の基材フィルム材料として好適な環状オレフィンポリマーについて、以下に詳述する。
本発明で用いる環状オレフィンポリマーは、脂環式構造を含有してなる繰り返し単位を有する重合体である。環状オレフィンポリマー中の脂環式構造としては、飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和環状炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が最も好ましい。脂環式構造は主鎖にあっても良いし、側鎖にあっても良いが、機械強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環式構造を含有するものが好ましい。脂環式構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械強度、耐熱性、及びフィルムの成形性の特性が高度にバランスされる。
【0016】
環状オレフィンポリマー中の脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合がこの範囲にあるとフィルムの透明性および耐熱性の観点から好ましい。
この環状オレフィンポリマーの具体例としては、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン系重合体、(3)環状共役ジエン系重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素系重合体、及び(1)〜(4)の水素化物などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性、機械的強度等の観点から、ノルボルネン系重合体の水素化物、ビニル脂環式炭化水素重合体及びその水素化物が好ましい。
【0017】
(1)ノルボルネン系重合体
ノルボルネン系重合体は、ノルボルネン系モノマーを開環重合によって得られるものと、付加重合によって得られるものに大別される。
ノルボルネン系モノマーとしては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名メタノテトラヒドロフルオレン:1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)等の脂環化合物及びこれらに置換基(アルキル基、アルキレン基、アルキリデン基、アルコキシカルボニル基等)を有するものが挙げられる。
開環重合によって得られる重合体としては、ZEONEX(登録商標;日本ゼオン社製)、ZEONOR(登録商標;日本ゼオン社製)、ARTON(登録商標;JSR社製)などの、ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素添加物が挙げられ、付加重合体としては、APEL(登録商標;三井化学社製)、TOPAS(登録商標;ポリプラスチック社製)などのノルボルネン系モノマーとエチレンとの付加重合体が挙げられる。
これらの中でも、全光線透過率の高さなどから開環重合体水素添加物が好ましく、特に極性基を有しない開環重合体(ZEONEX、ZEONOR)が好ましい。
(2)単環の環状オレフィン系重合体
単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体の付加重合体を用いることができる。
(3)環状共役ジエン系重合体
環状共役ジエン系重合体としては、例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの環状共役ジエン系単量体を1,2−または1,4−付加重合した重合体及びその水素化物などを用いることができる。
【0018】
(4)ビニル脂環式炭化水素重合体
ビニル脂環式炭化水素重合体としては、例えば、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサンなどのビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体及びその水素化物;スチレン、α−メチルスチレンなどのビニル芳香族系単量体の重合体の芳香環部分の水素化物;などが挙げられ、ビニル脂環式炭化水素重合体やビニル芳香族系単量体と、これらの単量体と共重合可能な他の単量体とのランダム共重合体、ブロック共重合体などの共重合体及びその水素化物など、いずれでもよい。ブロック共重合体としては、ジブロック、トリブロック、またはそれ以上のマルチブロックや傾斜ブロック共重合体などが挙げられ、特に制限はない。
【0019】
本発明における基材フィルムとして用いることのできる樹脂のガラス転移温度(Tg)としては、120℃以上が好ましく、140℃以上であることがさらに好ましく、160℃以上であることが特に好ましい。ガラス転移温度がこのような範囲にある樹脂からなる基材は、高温下での使用における変形や応力が生じることがなく耐久性に優れる。基材の膜厚は、機械的強度などの観点から、好ましくは30〜300μm、より好ましくは50〜200μmである。
基材フィルムのガラス転移温度は、JIS K 7121に準じて測定する。
【0020】
本発明における基材フィルムとして用いることのできる樹脂の吸水率としては、0.05%以下が好ましく、0.03%以下であることがさらに好ましく、0.01%以下であることが特に好ましい。吸水率が0.01重量%を超えると、無機化合物からなる層やその他の層と樹脂フィルム基材との密着性が低くなり、長期間の使用において前記層の剥離が生じやすくなる。さらに、水分により真空排気に時間を要したり、無機化合物からなる層やその他の層が変質したりして、生産性や歩留まりが低下するおそれがある。
基材フィルムの吸水率は、JIS K 7209に準じて測定する。
【0021】
前記基材フィルムは、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、塩素捕捉剤、難燃剤、結晶化核剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、離型剤、顔料、有機又は無機の充填材、中和剤、滑剤、分解剤、金属不活性化剤、汚染防止材、抗菌剤やその他の樹脂、熱可塑性エラストマ−などの公知の添加剤を発明の効果が損なわれない範囲で含有することができる。これらの添加剤は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、それぞれ、通常0〜5重量部、好ましくは0〜3重量部の範囲で配合される。
【0022】
前記基材フィルムとして、片面又は両面に表面改質処理を施したものを使用してもよい。表面改質処理を行うことにより、有機膜や無機膜との密着性を向上させることができる。表面改質処理としては、エネルギー線照射処理や薬品処理などが挙げられる。
エネルギー線照射処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、電子線照射処理、紫外線照射処理などが挙げられ、処理効率の点等から、コロナ放電処理及びプラズマ処理、特にコロナ放電処理が好ましい。
【0023】
基材フィルムは、溶液流延法又は溶融押出成形法によってして得ることができる。中でも、透明樹脂フィルム基材中の揮発性成分の含有量や厚さムラを少なくできる点から、溶融押出成形法が好ましい。さらに溶融押出成形法としては、ダイスを用いる方法やインフレ−ション法などが挙げられるが、厚さ精度や生産性に優れる点でダイス、特にTダイを用いる方法が好ましい。
【0024】
(無機膜の構成)
本発明の透明ガスバリア性フィルムを構成する無機膜の構成について説明する。無機膜としては、透明性を有しかつ酸素、水蒸気等のガスバリア性を有する物であればよく、例えば、酸化アルミニウム、酸化硅素、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ホウ素、酸化ハフニウム、酸化バリウム、酸化炭化珪素、二酸化珪素等の酸化物であり、特に、バリア性、生産性の点などから、酸化珪素、酸化窒化珪素、窒化珪素のいずれか好ましい。
【0025】
無機膜の膜厚は、用いる無機化合物の種類や構成により適宜、選択すればよいが、一般的には5〜300nmが好ましく、望ましい。300nmを超えると、薄膜のフレキシビリティ性が低下し、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外力で、薄膜に亀裂を生じる恐れがあり、透明性が低下したりし、また、材料自身の応力が大きくなり、フレキシビリティが損なわれたり、着色したりする、また、生産性を著しく低下させるので好ましくない。5nm以下では、透明性がよいが、均一な膜が得られにくく、膜厚が充分ではないことがあり、ガスバリア性の機能を十分に果たすことができない。上記の点から、10〜100nmの膜厚がさらに好ましい。なお、金属蒸着膜の膜厚はリガク社製の蛍光X線分析装置:RIX−3000を用いて測定した。
【0026】
無機膜の形成は1又は複数回繰り返してもよく、両面に形成してもよい。両面に層を形成することにより、片側だけ膜を形成した際に発生する応力を相殺或いは緩和して、加熱を含む後加工工程、使用環境での歪み、反り(湾曲、カールともいう)などを防止することができるので、直角精度、寸法精度、部分場所における寸法精度が向上されることができる。さらに、フレキシブル性の偏りがなくなり、利用上の不具合がなくなる。
【0027】
(透明ガスバリアフィルムの形成方法)
本発明における透明ガスバリア性フィルムの形成方法について説明する。本発明におけるガスバリア層は、シートプラズマ装置を用いたスパッタイオンプレーティング法で、無機膜を成膜して得られる。シートプラズマ装置としては、特開2007−154265号公報に詳述される、プラズマガンの放電電流とターゲット・バイアス電圧値を個別に制御し、プラズマガンで発生した円柱状のアルゴンプラズマを磁場でシート状に成形した高プラズマ密度のシートプラズマ装置が採用される。
シートプラズマ装置を用いたスパッタイオンプレーティング法は、プラズマの輸送方向の中心に対して略等密度分布するソースプラズマを放電により形成して、前記ソースプラズマを前記輸送方向に向けて放出可能なプラズマガンと、前記輸送方向に延びた輸送空間を有するシートプラズマ変形室と、互いに同極同士を向き合わせて、前記輸送空間を挟むように配置される第1の磁界発生手段の対と、前記輸送空間に連通した成膜空間を有する成膜室と、互いに異極同士を向き合わせて、前記成膜空間を挟むように配置される第2の磁界発生手段の対と、を備えて構成された装置を用いる。前記ソースプラズマは、前記輸送空間を移動する間に、前記第1の磁界発生手段の対の磁界により前記中心を含む主面に沿ってシート状に拡がり、前記シート状のプラズマは、前記成膜空間を移動する間に、前記第2の磁界発生手段の対の磁界により前記主面から凸状に偏倚する。シートプラズマをその主面から磁界に基づき凸状に偏倚させることにより、従来の成膜法によって成膜した場合と比較して、フィルム基材に対するプラズマダメージを大幅に減少させることができ、フィルムの透明性などを向上させることができる。
【0028】
(透明ガスバリア性フィルム)
次に本発明における透明ガスバリア性フィルムについて説明する。
本発明における透明ガスバリア性フィルムは、上述したフィルム基材上に、無機層を形成したプラスチックフィルムである。本発明によれば、フィルム基材上に上記装置を用いたシートプラズマを用いたスパッタイオンプレーティング法で無機ターゲットを使用し、アルゴンガス雰囲気下でガスバリア層を形成すると、透明性が高く、寸法安定性に優れ、高い水蒸気バリア性を有するフィルムの形成が可能である。
【0029】
このような本発明の透明ガスバリア性フィルムの透明度としては、ASTM D1003に基づく全光線透過率が、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である。全光線透過率が低すぎると透明用途に使用しにくくなるおそれがある。
【0030】
このような本発明の透明ガスバリア性フィルムは、極めて優れた水蒸気バリア性を発揮する。水蒸気透過率としては、0.3g/m/day以下、より好ましくは水蒸気透過率が0.1g/m/day以下が好ましい。本発明のガスバリア性フィルムは、内容物の品質を変化させる原因となる水蒸気をほとんど透過させないので、高いガスバリア性が要求される用途、例えば食品や医薬品等の包装材料やパッケージ材料、有機エレクトロルミネッセンス表示素子や液晶表示素子などの光学素子等に好ましく用いることができる。
【0031】
(光学素子)
本発明の光学素子は、上記透明ガスバリア性フィルムを用いて作製することができる。すなわち、上記透明ガスバリア性フィルム基板の上に電圧または電流の変化によって光学的な特性が変化する素子を形成して、光学素子を作製することができる。また、上記透明ガスバリア性フィルム基板の上に、透明電極層、発光層、および陰極層を順次積層して、エレクトロルミネッセンス表示素子を作製することができる。
【0032】
(エレクトロルミネッセンス素子)
次に、本発明のエレクトロルミネッセンス素子の構造と作製法について説明する。図2および図3は、それぞれ本発明のエレクトロルミネッセンス素子の一例の模式的断面図である。図2において、エレクトロルミネッセンス素子は、透明ガスバリア性フィルム基板21上に、透明電極層22、発光層23、陰極層24が順次積層され、その積層体が金属材料、プラスチック等で形成された封止材25aによって密閉された空間に封止された構造を有している。また、図3においては、図2に示したものと同一の構成を有する積層体が透明ガスバリア性フィルム等の樹脂材料よりなる封止材25bによって封止されている。
本発明のエレクトロルミネッセンス表示素子において、透明ガスバリア性フィルム基板21としては、上記した本発明の透明ガスバリア性フィルム基板が使用される。
【0033】
透明電極層は、発光層に正孔を供給する陽極としての機能を有するものであって、例えば、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物や金、銀、アルミニウム等の金属を用いることができ、その形状、構造、大きさ等についても特に制限されるものではない。透明電極層の作製法は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法、プラズマCVD法等の中から前記材料との適性を考慮して適宜選択すればよい。透明電極層のパターニングは、フォトリソグラフィーによる化学的エッチング法、レーザー等による物理的エッチング法、マスクを用いる真空蒸着法やスパッタリング法、又はリフトオフ法や印刷法等により行うことができる。厚さは、10nm〜5μmの範囲が適当である。
【0034】
発光層は、少なくとも1種の発光材を含有するものであり、必要に応じて、正孔や電子の発生や移動を容易にする正孔注入材、正孔輸送材、電子注入材、電子輸送材等を含有させてもよい。また、正孔注入材、正孔輸送材、電子注入材、電子輸送材等は、発光層とは別の層に含有させて、発光層に積層された状態であっても構わない。発光材としては、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、スチリルベンゼン誘導体、ポリフェニル誘導体、ジフェニルブタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、ナフタルイミド誘導体、クマリン誘導体、ペリレン誘導体、ペリノン誘導体、オキサジアゾール誘導体、アルダジン誘導体、ピラリジン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ビススチリルアントラセン誘導体、キナクリドン誘導体、ピロロピリジン誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、スチリルアミン誘導体、芳香族ジメチリデン誘導体、8−キノリール誘導体の金属錯体や希土類錯体に代表される各種金属錯体、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などの高分子化合物があげられる。これらは一種又は二種以上を混合して用いることができる。
【0035】
正孔注入材および正孔輸送材としては、低分子正孔輸送材および高分子正孔輸送材のいずれも使用可能であり、陽極から正孔を注入する機能、正孔を輸送する機能、及び陰極から注入された電子を障壁する機能のいずれかを有していれば特に限定されるものではない。正孔輸送材としては、例えば、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリデン系化合物、ポルフィリン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)誘導体、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子オリゴマー、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等の高分子化合物等があげられる。これらは一種または二種以上を併用してもよい。
【0036】
電子注入材および電子輸送材としては、電子を輸送する機能、陽極から注入された正孔を障壁する機能のいずれかを有しているものであれば制限されることはなく、例えば、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体、メタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールおよびベンゾジアゾールを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等の高分子化合物があげられる。これらは一種または二種以上を併用してもよい。
【0037】
発光層の製膜は、蒸着やスパッタリング等の乾式法、ディッピング、スピンコーティング、ディップコーティング、キャスティング、ダイコーティング、ロールコーティング、バーコーティング、グラビアコーティング等の湿式法等のいずれかによって好適に行うことができる。これらの製膜法は、発光層の材料に応じて適宜選択することができる。発光層の膜厚は、一般に1nm〜10μm、好ましくは10nm〜1μmの範囲に設定される。正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層も発光層の場合と同様の方法で作製することができる。陰極層は、形状、構造、大きさ等に特に制限はなく、発光層に電子を注入する電極として機能すればよい。その形状、構造、大きさ等も特に制限はないが、厚さは、10nm〜5μmの範囲が適当である。陰極層用の材料としては、アルカリ金属(例えばLi、Na、K、Cs等)、アルカリ土類金属(例えばMg、Ca等)、金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−銀合金、インジウム、イッテルビウム等の希土類金属等が挙げられる。これらのなかから、二種以上併用しても構わない。陰極層の形成には、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、CVD、プラズマCVD等の手段を用いることができ、陰極の材料との適性を考慮して適宜選択すればよい。陰極のパターニングは、フォトリソグラフィー、レーザー等による物理的エッチング、マスクを用いる真空蒸着法やスパッタリング法、又はリフトオフ法や印刷法等を採用することができる。封止材としては、金属材料、プラスチック等で形成された封止材、例えばアルミニウム管など、公知のものが使用されるが、本発明における上記ガスバリアフィルム基板を封止材として使用してもよい。
【0038】
上記で述べたエレクトロルミネッセンス表示素子以外にも、本発明の透明ガスバリア性フィルム基板は、それがもつ諸特性により、多くの製品に利用することができる。例えば、液晶表示素子、電子ペーパー用基板、電子デバイス用封止フィルム、レンズフィルム、導光板用フィルム、プリズムフィルム、位相差板・偏光板用フィルム、視野角補正フィルム、PDP用フィルム、LED用フィルム、光通信用部材、タッチパネル用フィルム、各種機能性フィルムの基板、内部が透けて見える構造の電子機器用フィルム、ビデオディスク・CD/CD−R/CD−RW/DVD/MO/MD・相変化ディスク・光カードを含む光記録メディア用フィルム、燃料電池用封止フィルム、太陽電池用フィルム等に使用することができる。
【0039】
得られた透明ガスバリア性フィルムについて、水蒸気透過度測定を行って水蒸気バリア性を評価した。水蒸気透過度は、JIS K 7129(A法)に基づいて温度:40℃、湿度:90%RHの条件下の水蒸気透過度を水蒸気透過度テスター(L80−5000型、LYSSY社製)で測定した。
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明するが、本願発明はこれら実施例に限定されるものではない。
本実施例における評価は、以下の方法によって行う。
(1)ガラス転移温度
成膜前のフィルムを用い、JIS K 7121に従い、DSC法により測定した。
(2)飽和吸水率
JIS K 7209に従い測定した。成膜前のフィルムを50℃で24時間乾燥し、デシケータ中で放冷し、次いでフィルムの乾燥質量(M1)を測定した。温度23℃、相対湿度50%の室内で、質量変化が無くなるまで(飽和するまで)フィルムを水に浸漬し、次いでフィルムの飽和吸水質量(M2)を測定した。これらの測定値から次式により飽和吸水率を求めた。
飽和吸水率(%)=[(M2−M1)/M1]×100
(3)水蒸気透過度
水蒸気透過度は、成膜後のフィルムを用い、JIS K7129(A法)に基づいて温度:40℃、湿度:90%RHの条件下の水蒸気透過度を水蒸気透過度テスター(L80−5000型、LYSSY社製)で測定した。
水蒸気透過度(g・m−2・day−1)が小さいと水蒸気バリア性が良好であることを示す。
(4)全光線透過率
ASTM D1003に準拠して、成膜後のフィルムを用い、日本電色工業社製、「濁度計NDH−2000」にて測定した。
なお、任意の5箇所について測定を行い、その算術平均値を全光線透過率の代表値とした。
(5)膜厚
金属蒸着膜の膜厚は成膜後のフィルムを用い、リガク社製の蛍光X線分析装置:RIX−3000を用いて測定した。
【0041】
実施例1
透明樹脂フィルム基材として、ゼオノア1600(メタノテトラヒドロフルオレンとジシクロペンタジエンとの開環重合体水素添加物;Tg160℃)で作成された厚さ100μmの環状オレフィンポリマーフィルム(日本ゼオン社製)を用い、図1のシートプラズマ成膜装置(新明和工業社製)を用いたスパッタイオンプレーティング法により成膜を行った。装置の真空槽内に前記フィルムをセットし10−4Pa台まで真空引きした。前記シクロオレフィンポリマーフィルムのガラス転移温度は163℃、飽和吸水率は0.01重量%以下であった。
(1)表側第一層の形成
放電ガスとしてアルゴンを分圧で0.04Pa導入、反応ガスとして酸素を分圧で0.04Pa導入した。雰囲気圧力が安定したところで放電を開始しシリコンターゲット上にシートプラズマを発生させ、スパッタリングプロセスを開始した。プロセスが安定したところでシャッターを開きフィルムへの酸化珪素の形成を開始した。500Åの膜が堆積したところでシャッターを閉じて表側第一層を形成した。
(2)表側第二層の形成
反応ガスとして窒素を分圧で0.04Pa、酸素を分圧で0.04Pa導入した以外は上記(1)と同様にして表側第二層を形成した。
(3)裏側第一層の形成
前記フィルムを反転させて、反応ガスとして窒素を分圧で0.04Pa、酸素を窒素を分圧で0.04Pa導入した以外は上記(1)と同様にして裏側第一層を形成した。
その後、真空槽内に大気を導入し、表側第一層に酸化珪素、表側第二層に酸化窒化珪素、裏側に酸化窒化珪素からなる層を形成し蒸着フィルムを得た。表側の膜厚は1000Å、裏側の膜厚は500Åであった。
【0042】
実施例2
表側第二層に窒化珪素、表側第三層に酸化窒化珪素からなる層を形成した以外は実施例1と同様にして蒸着フィルムを得た。表側の膜厚は1500Å、裏側の膜厚は500Åであった。
【0043】
実施例3
裏側に成膜を行わなかったこと以外は実施例2と同様にして蒸着フィルムを得た。表側の膜厚は1000Åであった。
【0044】
実施例4
(1)表側第一層の形成
放電ガスとしてアルゴンを分圧で0.04Pa導入、反応ガスとして酸素を分圧で0.04Pa導入した。雰囲気圧力が安定したところで放電を開始しアルミニウムターゲット上にシートプラズマを発生させ、スパッタリングプロセスを開始した。プロセスが安定したところでシャッターを開きフィルムへの酸化アルミニウムの形成を開始した。500Åの膜が堆積したところでシャッターを閉じて表側第一層を形成した。
(2)表側第二層の形成
ターゲットとしてチタンを使用した以外は上記(1)と同様にして表側第二層を形成した。
(3)裏側第一層の形成
前期フィルムを反転させて、ターゲットとしてアルミニウムを使用した以外は上記(1)と同様にして裏側第一層を形成した。
その後、真空槽内に大気を導入し、表側第一層に酸化アルミニウム、表側第二層に酸化チタン、裏側に酸化アルミニウムからなる層を形成した以外は実施例1と同様にして蒸着フィルムを得た。表側の膜厚は1000Å、裏側の膜厚は500Åであった。
【0045】
実施例5
透明樹脂フィルム基材として厚さ100μmのポリエーテルスルホンフィルムを用い、実施例2と同様にして蒸着フィルムを得た。表側の膜厚は1500Å、裏側の膜厚は500Åであった。前記ポリエーテルスルホンフィルムのガラス転移温度は220℃、飽和吸水率は0.4重量%であった。
【0046】
実施例6
透明樹脂フィルム基材として厚さ100μmのポリエチレンナフタレートフィルムを用い、実施例2と同様にして蒸着フィルムを得た。表側の膜厚は1500Å、裏側の膜厚は500Åであった。前記ポリエチレンナフタレートフィルムのガラス転移温度は118℃、飽和吸水率は0.2重量%であった。
【0047】
比較例1
厚さ100μmのシクロオレフィンポリマーフィルム(日本ゼオン社製:ゼオノア1600で作成したフィルム)をそのまま用いて、水蒸気透過度および全光線透過率を測定した。
【0048】
比較例2
透明樹脂フィルム基材として、ゼオノア1600(メタノテトラヒドロフルオレンとジシクロペンタジエンとの開環重合体水素添加物)で作成された厚さ100μmの環状オレフィンポリマーフィルム(日本ゼオン社製)を用い、ロードロックを介して平行平板方式のプラズマCVD装置内のサンプルホルダーへと導入し、5×10-7Torrにまで排気を行った。続いて、サンプルホルダーを150℃にまで加熱し、1時間放置することにより脱ガスを行った。
(1)表側第一層の形成
に、サンプルホルダー温度を150℃に保ったまま、SiH4 、O2 をそれぞれ10、400sccm導入し、チャンバー内の圧力を2×10−2torrに保ち、13.56MHzの高周波電源を用い、投入電力を300Wでフィルム上に酸化珪素膜を形成した。
(2)表側第二層の形成
次に、サンプルホルダー温度を150℃に保ったまま、SiH、NH、H、Oをそれぞれ10、20、400sccm導入し、チャンバー内の圧力を2×10−2torrに保ち、13.56MHzの高周波電源を用い、投入電力を300Wでフィルム上に窒化珪素膜を形成した。
(3)表側第三層の形成
次に、サンプルホルダー温度を150℃に保ったまま、SiH、NH、H、Oをそれぞれ10、20、400、400sccm導入し、チャンバー内の圧力を2×10−2torrに保ち、13.56MHzの高周波電源を用い、投入電力を300Wでフィルム上に酸化窒化珪素膜を形成した。
(4)裏側第一層の形成
前期フィルムを反転させて、サンプルホルダー温度を150℃に保ったまま、SiH、NH、H、Oをそれぞれ10、20、400、400sccm導入し、チャンバー内の圧力を2×10−2torrに保ち、13.56MHzの高周波電源を用い、投入電力を300Wでフィルム上に酸化窒化珪素膜を形成した。
その後、真空槽内に大気を導入し、表側第一層に酸化珪素、表側第二層に窒化珪素、表側第三層に酸化窒化珪素、裏側に酸化窒化珪素からなる層を形成し蒸着フィルムを得た。表側の膜厚は1500Å、裏側の膜厚は500Åであった。
【0049】
比較例3
透明樹脂フィルム基材として厚さ100μmのポリエーテルスルホンフィルムを用いた以外は、比較例2と同様にして蒸着フィルムを得た。表側の膜厚は1500Å、裏側の膜厚は500Åであった。
【0050】
比較例4
透明樹脂フィルム基材として厚さ100μmのポリエチレンナフタレートフィルムを用いた以外は、比較例2と同様にして蒸着フィルムを得た。表側の膜厚は1500Å、裏側の膜厚は500Åであった。
【0051】
実施例1〜6、比較例1〜4について、測定したデータを表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
実施例1〜4では、環状オレフィンポリマー製フィルムに特定の装置を用いたスパッタイオンプレーティング法によって無機膜を形成することにより、いずれも良好な水蒸気透過度と、高い全光線透過率を示した。一方、比較例1では無機層が無いため、良好な水蒸気透過度が得られなかった。また、比較例2では、本発明の要件を満たさないプラズマCVD法を用いたので、高い全光線透過率を得ることが出来なかった。ポリエーテルサルホン製フィルムやポリエチレンナフタレート製フィルムは、環状オレフィンポリマー製フィルムに比べて水蒸気透過性が高いが、特定の装置を用いたスパッタイオンプレーティング法を採用すると、プラズマCVD法を採用した場合に比べて、水蒸気透過度を低くすることができる(実施例4、5、比較例3、4)。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態に係る成膜装置の構成例を示す概略図である。
【図2】本発明のエレクトロルミネッセンス素子の一例の模式的断面図である。
【図3】本発明のエレクトロルミネッセンス素子の一例の模式的断面図である。
【符号の説明】
【0055】
11 フランジ
12 第1の電磁コイル
20 シートプラズマ変形室
21 輸送空間
22 円柱プラズマ
23 第2の電磁コイル
24A、24B 棒磁石
25、36 真空ポンプ
26、37 バルブ
27 シートプラズマ
27A 湾曲部
27B 頂点部
28 ボトルネック部
29 通路
30 真空成膜室
31 成膜空間
32 第3の電磁コイル
33 第4の電磁コイル
32A、33A コイル面
32B、33B 法線
34A 基板ホルダ
34B 基板
35A ターゲットホルダ
35B ターゲット
38 永久磁石
40 プラズマガン
50 配線溝
51 Cu堆積膜
52 空孔
100 シートプラズマ成膜装置
A アノード
K カソード
P 輸送中心
S 主面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明プラスチックフィルムの少なくとも片面に少なくとも一層の無機膜を有する透明ガスバリア性フィルムであって、該無機膜が、
プラズマの輸送方向の中心に対して略等密度分布するソースプラズマを放電により形成して、前記ソースプラズマを前記輸送方向に向けて放出可能なプラズマガンと、
前記輸送方向に延びた輸送空間を有するシートプラズマ変形室と、
互いに同極同士を向き合わせて、前記輸送空間を挟むように配置される第1の磁界発生手段の対と、
前記輸送空間に連通した成膜空間を有する成膜室と、
互いに異極同士を向き合わせて、前記成膜空間を挟むように配置される第2の磁界発生手段の対と、を備え、
前記ソースプラズマは、前記輸送空間を移動する間に、前記第1の磁界発生手段の対の磁界により前記中心を含む主面に沿ってシート状に拡がり、
前記シート状のプラズマは、前記成膜空間を移動する間に、前記第2の磁界発生手段の対の磁界により前記主面から凸状に偏倚する装置を用いたスパッタイオンプレーティング法によって形成されたことを特徴とする透明ガスバリア性フィルム。
【請求項2】
透明プラスチックフィルムが、120℃以上のガラス転移温度を有する高分子材料で形成されている請求項1記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項3】
上記無機膜が酸化珪素、酸化窒化珪素及び窒化珪素のいずれかからなるものであることを特徴とする請求項1または2記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項4】
透明プラスチックフィルムが、0.05重量%以下の吸水率を有する高分子材料で形成されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項5】
透明プラスチックフィルムが、環状オレフィンポリマーを成分として形成される請求項1〜4のいずれか一項に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の透明ガスバリアフィルムを用いた光学素子。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の透明ガスバリアフィルムを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−178956(P2009−178956A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20578(P2008−20578)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】