説明

透明導電フィルムおよびその製造方法

【課題】 有機高分子フィルム基材上に、ZnO系薄膜を形成した透明導電フィルムであって、ZnO系薄膜の膜厚が薄くなった場合(特に膜厚が150nm程度以下の場合)にも、低抵抗値であり、かつ湿熱環境下においても抵抗値の変化率が小さい、透明導電フィルムを提供すること。
【解決手段】 有機高分子フィルム基材上に、Al薄膜が形成されており、その上にAlをドープしたZnOであるAZO薄膜が形成されていることを特徴とする透明導電フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電フィルムおよびその製造方法に関する。本発明の透明導電フィルムは、例えば、タッチパネル用透明電極やフィルム太陽電池用電極などの電極用途に利用できる。その他、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイなどの新しいディスプレイ方式の透明電極、透明物品の帯電防止や電磁波遮断等に用いられる。
【背景技術】
【0002】
近年、タッチパネル、液晶ディスプレイパネル、有機EL(OLED)パネル、エレクトロクロミックパネル、電子ペーパー素子などにおいては、従来の透明電極付ききガラス基板を用いた素子から透明プラスチックフィルム上に透明電極を設けてなるフィルム基板を用いた素子へと需要が変化しつつある。さらに、透明電極材料としては、現在、ITO薄膜(In・Sn複合酸化物)が主流であるが、主材料であるIn元素の枯渇問題があり資源的に豊富なZnO系の透明導電膜に注目が集まっている。
【0003】
透明電極用途のZnO系薄膜は、ZnOにGaをドープしたGZO膜と、ZnOにAlをドープしたAZO膜が主流であり、これら成膜方法としては、マグネトロンスパッタ法、パルスレーザーデポジション(PLD)法、反応性プラズマ蒸着(RPD)法、スプレー法などが検討されている。このような方法により、得られたZnO系薄膜の特性は、ITO膜に徐々に近づいて来ており、比抵抗値は10‐5Ω・cm台の良好な値も報告されている。耐熱性・耐湿熱性などの耐久性も徐々にITO膜に近づいて来た。しかし、これらの報告の殆どは、ガラス板などの耐熱性を有する基板上に300℃程度の高温でZnO系薄膜が成膜されたものであり、しかも、検討されたZnO系薄膜の膜厚は200〜500nmとかなり厚い膜である。
【0004】
一方、ZnO系薄膜を形成する基板として、汎用の有機高分子フィルム基材を用いることも検討されているが、有機高分子フィルム基材の加熱可能温度は180℃以下である。また、この基板温度でZnO系薄膜を成膜した場合、成膜直後から150nm程度の膜厚までは結晶膜が得られる。しかし、こうして得られる薄膜は多結晶化しており、移動度(μ)もキャリア密度(n)も小さい膜になってしまう。また、この結晶膜を加湿熱試験して、抵抗値の変化を調査すると、膜厚が200nm以上の厚い膜と比べ比抵抗値が高く、加湿熱試験時の抵抗変化も非常に大きい膜しか得られないと言う問題が有った(非特許文献1)。これらの問題点に対して、ZnOにGa、Al、Bの3属元素以外にもInを添加したZnO系薄膜の提案がなされている(特許文献1)。しかし、特許文献2では、In元素を用いることに変りはなく、In元素の枯渇問題の先送りにしかならない。また、特許文献2では、得られた膜厚200nmのZnO系薄膜について、耐湿熱試験により抵抗値の変化率が評価されている。しかし、特許文献2のZnO系薄膜では、耐湿熱試験の抵抗変化率が大きく耐湿熱が不十分であり、従って、ZnO系薄膜がより薄膜になった場合には、さらに抵抗値の変化率の増大が懸念される。
【0005】
また、有機高分子フィルム基材(例えば、ポリエチレンテレフタレート基板:PET基板)にAZO膜を形成する場合、PET基板とAZO膜の間にガラスライク層(Al膜)を形成し比抵抗値を低減する提案がなされている(非特許文献2)。しかし、非特許文献3のガラスライク層(Al膜)はパルスレーザーデポジッション法(PLD)で成膜され、表面が平滑なガラスライク薄膜を得るのに200nm以上390nmの厚い膜が必要であり生産性が悪い。しかも、その上に成膜されるAZO膜の厚みは225nmと厚く、薄膜での効果に疑問が残る。
【0006】
【非特許文献1】第67回応用物理学会学術講演会予稿集・31P‐ZE‐8「ZnO系透明導電膜の電気的特性の耐湿性の膜厚依存性」
【特許文献1】特開平11−297640号公報
【非特許文献2】第67回応用物理学会学術講演会予稿集・31P‐ZE‐19「PLD法によりPET基板上に作製した酸化亜鉛系透明導電膜」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、有機高分子フィルム基材上に、ZnO系薄膜を形成した透明導電フィルムであって、ZnO系薄膜の膜厚が薄くなった場合(特に膜厚が150nm程度以下の場合)にも、低抵抗値であり、かつ湿熱環境下においても抵抗値の変化率が小さい、透明導電フィルムおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するために、鋭意検討した結果、下記に示す、透明導電フィルムおよびその製造方法により、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、有機高分子フィルム基材上に、反応性マグネトロンスパッタ成膜法にてAl薄膜が形成されており、その上にAlをドープしたZnOであるAZO薄膜が形成されていることを特徴とする透明導電フィルム、に関する。
【0010】
前記透明導電フィルムにおいて、Al薄膜の厚みは20nm〜100nmであることが好ましい。
【0011】
また、前記透明導電フィルムにおいて、AZO薄膜の厚みは20nm〜150nmであることが好ましい。
【0012】
また本発明は、前記透明導電フィルムのAZO薄膜が設けられている面とは反対の有機高分子フィルム基材面に、透明粘着剤層を介して、透明基体が貼り合わされていることを特徴とする積層透明導電フィルム、に関する。
【0013】
また本発明は、前記透明導電フィルムの製造方法であって、
有機高分子フィルム基材上に、反応性マグネトロンスパッタ成膜法にてAl薄膜を形成する工程、および
前記Al薄膜上に、AlをドープしたZnOであるAZO薄膜を形成する工程を有することを特徴とする透明導電フィルムの製造方法、に関する。
【0014】
前記透明導電フィルムの製造方法は、有機高分子フィルム基材上に、Al薄膜とAZO薄膜を形成する前の真空装置内の到達真空度が1×10‐4Pa以下であり、Al薄膜とAZO薄膜を形成する際の有機高分子フィルム基材の加熱温度が80℃〜180℃であることが好ましい。
【0015】
前記透明導電フィルムの製造方法において、Al薄膜を形成する反応性マグネトロンスパッタ成膜法は、反応性デュアルマグネトロンスパッタ成膜法であることが好ましい。
【0016】
前記透明導電フィルムの製造方法において、AZO薄膜は、酸化物ターゲットであるZnO‐Alから、アルゴンガスを主ガスとするアルゴンガス雰囲気下に、マグネトロンスパッタ成膜法により形成することができる。
【0017】
前記透明導電フィルムの製造方法において、AZO薄膜は、メタルターゲットであるZn‐Alから、酸素を含むアルゴンガス雰囲気下に、反応性マグネトロンスパッタ成膜法により形成することができる。
【0018】
前記透明導電フィルムの製造方法において、アルゴンガス雰囲気下における酸素導入量は、プラズマエミッションモニター(PEM)を用いて制御することが好ましい。
【0019】
本発明の透明導電フィルムの製造方法では、AZO薄膜を形成する工程の後に、得られた透明導電フィルムを、さらに、80℃〜180℃の温度でアニールする工程を有することができる。
【発明の効果】
【0020】
有機高分子フィルム基材上に、直接、AlをドープしたZnOであるAZO薄膜を形成した透明導電フィルムはAZO薄膜の厚みが200nm以上の厚い膜になるとC軸結晶成長がなされ、低抵抗値であり、かつ湿熱環境下においても抵抗値の変化率が小さく、耐湿熱特性はかなり改善される。一方、基板温度が低いこともあるが、AZO薄膜の厚みが150nm程度までは、十分なC軸結晶成長が得られず、抵抗値が大きく、湿熱環境下においても抵抗値の変化率が大きく耐湿熱性が著しく悪い。
【0021】
本発明の透明導電フィルムは、有機高分子フィルム基材上に、AZO薄膜を形成したものであるが、当該AZO薄膜は、反応性マグネトロンスパッタ成膜法にて成膜したAl薄膜を介して形成されており、AZO薄膜厚みが150nm以下の薄膜においても、低抵抗値を満足でき、かつ湿熱環境下においても抵抗値の変化率が小さく耐湿熱性が良好である。
【0022】
例えば、反応性マグネトロンスパッタ成膜法にて成膜したAl薄膜を有機高分子フィルム基材とAZO薄膜の間に形成した場合、AZO薄膜の抵抗値は、同じ膜厚で有機高分子フィルム基材上に、直接、AZO薄膜を形成した場合よりも抵抗値が約30%低下する。有機高分子フィルム基材上に、直接、AZO薄膜を形成する場合よりも、反応性マグネトロンスパッタ成膜法にて成膜したAl薄膜上へAZO薄膜を形成することで、AZO薄膜の移動度(μ)・キャリア密度(n)の両方共増大していることから、AZO薄膜は、C軸へ結晶方位が揃って、C軸配向が強い結晶膜になっており、これにより、低抵抗値、耐湿熱性を向上させていると考えられる。また、アニールすることで移動度(μ)・キャリア密度(n)の両方共に大きくなることから、さらに膜内部の構造が改善されていると考えられる。特に、AZMターゲット(メタルターゲットであるZn‐Al)から反応性スパッタ法で成膜したAZO薄膜は、AZO酸化物ターゲット(酸化物ターゲットであるZnO‐Al)から成膜したAZO薄膜と比べ、薄膜内部に酸素空孔がより多く含まれていると考えられ、この酸素空孔を介して結晶の再配列が促進されるので、低抵抗値化や耐湿熱性を向上させていると考えられる。
【0023】
なお、反応性マグネトロンスパッタ成膜法にて得られた厚み50nmのAl薄膜の表面と、有機高分子フィルム基材(例えば、PETフィルム)表面について、それぞれAFM(原子間力顕微鏡)分析したところ、両者ともRaが1.2nm程度であり、Al薄膜を形成することで、表面がガラスライクな平滑な面になっているわけではない。比較に、ゾルーゲル法で形成したSiO薄膜と反応性デュアルマグネトロンスパッタ成膜法で形成したSiO薄膜も評価した。ゾルーゲル法で形成したSiO薄膜のRaは0.3nmで非常に平滑だが、反応性デュアルマグネトロンスパッタ成膜法で形成したSiO薄膜のRaは1.4nmであった。これらの表面性が異なる基板(SiO2薄膜上)にAZO膜を形成すると、ゾルーゲル法で形成したSiO薄膜の場合は低抵抗値、耐湿熱性の効果は見られなかった。反応性デュアルマグネトロンスパッタ成膜法で形成したSiO薄膜の場合は、低抵抗値の効果は見られたが、耐湿熱性の効果は不十分であった。これらの結果より、AZO薄膜に対して、アンダーコート層として反応性マグネトロンスパッタ成膜法にて成膜したAl薄膜を選択して設けることの効果が認められる。また、反応性マグネトロンスパッタ成膜法にて成膜したAl薄膜を選択して設けることで低抵抗値、耐湿熱性の効果が得られる理由は、基板表面の平滑性ではなく、一種のエピタキシー成長や、膜へのAl原子の取り込みなどが考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に本発明の透明導電フィルムを、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の透明導電フィルムの一例を示す概略断面図であり、有機高分子フィルム基材3の一方の面に、Al薄膜2が形成されており、さらにAl薄膜2にAZO薄膜1が形成されている。
【0025】
また、図2は、図1の透明導電フィルムにおいて有機高分子フィルム基材3にAZO薄膜1が設けられている面とは反対の面に、透明粘着層4を介して、透明基体5が貼り合わされている、積層透明導電フィルムの一例を示す概略断面図である。図2では、透明基体5は、1層の場合が例示されているが、透明基体5は、2枚以上の透明な基体フィルムを、透明粘着剤層を介して積層体ものを用いることができる。また、図2では、透明基体5の外表面に、ハードコート処理層(樹脂層)を設けた場合を例示している。
【0026】
一般電極用として使用する場合は、通常、図1の構成で用いられる。タッチパネル用透明電極やフィルム太陽電池用電極などの曲げに対して信頼性が要求される用途に対しては、透明基体を貼り合せて用いるのが好ましい。特に図2の構成にするのが好ましい。タッチパネル用として使用する場合は、ペン耐久性向上や書き味が向上する。
【0027】
本発明に使用される有機高分子フィルム基材としては、透明性・耐熱性・表面平滑性に優れたフィルムが好ましく用いられる。例えば、その材料として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系高分子、ポリオレフィン系高分子、ポリカーボネート、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、ポリイミド、ノルボルネンなどの単一成分の高分子、共重合高分子があげられる。また有機高分子フィルム基材としては、エポキシ系フィルムなどが用いられる。
【0028】
有機高分子フィルム基材の厚みは成膜条件や用途にもよるが、一般的には、16μm〜200μmの厚みのものが使用される。当該厚みは、25〜125μmであるのが好ましい。
【0029】
有機高分子フィルム基材上に形成される、Al薄膜は、スパッタ成膜法により好ましく形成される。スパッタ膜が形成される、有機高分子フィルム基材の表面平滑性は、凹凸がない方が好ましい。従って、有機高分子フィルム基材において、Al2O3薄膜が形成される側の面は、AFM(原子間力顕微鏡)による1μm角の表面粗さ(Ra)が1.5nm以下であるのが好ましい。
【0030】
また記有機高分子フィルム基材上には、Al薄膜を形成する前に、フィルムの種類によって、アルゴンガス、窒素ガスなどの不活性ガスの雰囲気下にプラズマ処理等の表面改質工程(前処理)を施すこともできる。また、有機高分子フィルム基材には、反射防止等を目的として、SiO薄膜等のアンダーコート膜を介して、Al薄膜を設けることができる。
【0031】
一方、有機高分子フィルム基材のAl薄膜が設けられない面は、その表面に予めスパッタリング、コロナ放電、火炎、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化などのエッチング処理や下塗り処理を施して、透明基体を貼り合せる場合に用いる粘着剤層との密着性を向上させることができる。また、Al薄膜が設けられない側の面に背面コート層、ハードコート層を設けることができる。
【0032】
有機高分子フィルム基材面へのAl薄膜の形成方法は、各種の成膜方法が考えられるが、Al薄膜を形成することで低抵抗値、耐湿熱性の効果が得られる理由が、基板表面の平滑性でなく一種のエピタキシー成長または膜中へのAl原子の取り込みなどが考えられるので、Al薄膜の成膜方法としては、真空中成膜法が好ましい。なかでも、メタルターゲットであるAlから、酸素を含むアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下に成膜を行う、反応性マグネトロンスパッタ成膜法が成膜速度や基板へのダメージの観点から好ましい。
【0033】
また、マグネトロンスパッタ成膜法は、ターゲット1枚をマグネット電極上に装着するシングルマグネトロンスパッタ成膜法と、ターゲット2枚を各マグネット電極上に装着するデュアルマグネトロンスパッタ成膜法とがあるが、本発明では、デュアルマグネトロンスパッタ成膜法を採用するのが好ましい。デュアルマグネトロンスパッタ成膜法は、ターゲット2枚を各マグネット電極上に装着したものを、MF(中波)電源で交互に放電する成膜方式であり、片側のターゲットが放電し成膜している時、もう片方のターゲットは弱い逆電荷になって、ターゲット表面のチャージを解消しており、Alなどの酸化によってターゲット表面の導通がとり難い成膜の時に安定して成膜ができる。以上から、本発明では、反応性デュアルマグネトロンスパッタ成膜法により、Al薄膜を形成するのが好ましい。
【0034】
以下、反応性マグネトロンスパッタ成膜法による、Al薄膜の成膜について説明する。反応性マグネトロンスパッタ成膜法では、メタルターゲットであるAlからAl薄膜を成膜する際、酸素を含むアルゴンガス雰囲気下に行うが、酸素ガスの装置内への供給は、通常、プラズマエミッションモニターコントローラー(PEM)を用いて、放電のプラズマ強度を検知して、導入している反応ガス(酸素ガス)量をフィードバックしコントロールするプラズマ制御方式、または、同じPEMを用いるが、放電のインピーダンス(放電の抵抗値)を感知しそれをある一定値にガス(酸素ガス)導入量を変動させるインピーダンス制御方式により行われる。PEM装置としては、ドイツ、アルデンヌ社製のPEM05を用いることができる。当該装置は、プラズマ制御方式、インピーダンス制御方式のいずれにも用いることができる。Al成膜においては、インピーダンス制御法を用いて成膜した方が安定制御できる点で好ましい。
【0035】
有機高分子フィルム基材にAl薄膜をスパッタ成膜する場合、フィルムからの発生ガス・吸着水分を極力少なすため、Al薄膜の成膜にあたっては、有機高分子フィルム基材を加熱し、装置内の排気・脱ガスを行う。例えば、有機高分子フィルム基材へのAl薄膜の成膜は、加熱装置を備えた真空装置内で行うことができる。真空装置内での、到達真空度は1×10‐4Pa以下、好ましくは2×10‐5Pa以下で行われる。有機高分子フィルム基材の加熱は、80℃〜180℃程度が好ましく、100〜150℃が好ましい。加熱装置としては、例えば、加熱ロールがあげられる。なお、成膜気圧は、通常、0.01〜1Pa程度であり、好ましくは0.1〜0.6Paである。
【0036】
Al薄膜の膜厚は、通常、20〜100nm程度であるのがよい。Al薄膜の生産性、膜質安定性、割れ性の点からは、40〜70nmの範囲とするのが好ましい。
【0037】
前記Al薄膜上には、AlをドープしたZnOであるAZO薄膜を形成して、本発明の透明導電フィルムを製造する。AZO薄膜の成膜方法としては、マグネトロンスパッタ法、パルスレーザーデポジション(PLD)法、反応性プラズマ蒸着(RPD)法などの真空成膜法が採用される。これらのなかでも、生産性・特性を考えるとマグネトロンスパッタ法が一般的であると考えられる。
【0038】
マグネトロンスパッタ成膜法によるAZO薄膜の形成は、2通りの手法を採用できる。一つは、酸化物ターゲットであるZnO‐Al焼結体から、アルゴンガスを主ガスとするアルゴンガス雰囲気下にスパッタ成膜を行う方法である。アルゴンガス雰囲気としては、アルゴンガスのみ、または、少量の水素ガスを混合したアルゴンガスが用いられる。ZnO‐Al焼結体におけるAlの割合は、適宜に決定されるが、通常は、当該燒結体において、得られた膜の低比抵抗化の点から、通常、0.5〜8重量%程度、好ましくは、1〜5重量%である。
【0039】
他の一つは、メタルターゲットであるZn‐Alから、酸素を含むアルゴンガス雰囲気下にスパッタ成膜を行う、反応性マグネトロンスパッタ成膜法である。メタルターゲットであるZn‐Alは、Zn‐Al合金が用いられる。Zn‐Al合金における、Alの割合は、適宜に決定されるが、通常は、Zn‐Alにおいて、酸化物ターゲット同様に低比抵抗化の点から、通常、0.2〜4重量%程度、好ましくは、0.5〜2.5重量%である。
【0040】
AZO薄膜の成膜は、有機高分子フィルム基材を用いていることから、低温成膜であり、膜厚150nm以下の薄い膜であっても、低抵抗値かつ抵耐湿熱性(抵抗値の変動率が小さいこと)を向上させるためには、AZO薄膜を形成する基材界面からC軸結晶配向が成長すること、また、XY方向には六方晶が連続的に成長すること、ZnO結晶サイトのZnとAlとの置換が多くなされてドナーが放出されていることが望まれる。かかる観点から、本発明のAZO薄膜の形成は、酸素空孔を多く導入できるメタルターゲットであるZn‐Alを使用した反応性マグネトロンスパッタ成膜法を採用するのが好ましい。
【0041】
なお、酸化物ターゲットであるZnO‐Al焼結体から、アルゴンガスを主ガスとするアルゴンガス雰囲気下に、マグネトロンスパッタ成膜法により行うのが一般的である。しかし、現状の酸化物ターゲットは酸素含有量が多くアルゴンガスのみで成膜しても、酸素が多く含まれるAZO薄膜しか得ることができない。アルゴンガス雰囲気に、水素ガスを導入して酸素成分を除去したとしても多少改善するのみである。得られたAZO薄膜が、特に150nm以下の膜厚の場合には、多結晶体で割れやすく、キャリア濃度(n)が小さい膜になってしまう。酸化物ターゲットを用いて低温で成膜した膜は酸素過多膜であるので、酸素空孔が少なく原子が動きにくく、反応性マグネトロンスパッタ成膜法に比べると、理想の構造には成り難いと考えられる。
【0042】
以下、反応性マグネトロンスパッタ成膜法により、AZO膜を成膜する場合について説明する。AZO薄膜の成膜においては、ターゲット1枚をマグネット電極上に装着する、反応性シングルマグネトロンスパッタ成膜法が好適である。すなわち、メタルターゲットであるZn‐Alを作成し、DC電源による放電によりプラズマエミッションモニタコントローラー(PEM)のプラズマ制御により、酸素導入量を調整しながらAZO薄膜が成膜される。PEMのプラズマ制御は、プラズマ強度を検出し(Znについて)、酸素ガス量をコントロールすることでプラズマ強度をある設定値に制御する。PEMのプラズマ制御は、一種の膜厚コントローラであり、酸化することで成膜速度を制御でき、膜質により成膜速度が決まる。
【0043】
PEMのセットポイント(SP)は、45〜70で制御するのが好ましく、さらには50〜60、さらには52〜58で制御するのが好ましい。なお、SPは、アルゴンガスのみで放電した場合のZn発光プラズマピークをPEMのプラズマモニターで、SP=90に設定した場合を基準として、同様に酸素を含むアルゴンガス雰囲気で放電した場合のZn発光プラズマピークを示し、酸素導入量の指標になる。
【0044】
PEM装置としては、ドイツ、アルデンヌ社製のPEM05を用いることができる。なお、SPの設定は、到達真空度が悪いと予め酸素ガスが入っていることになり、アルゴンガスのみの値が正確にSP=90に合わせられなくなるため、成膜前のチャンバー内部の到達真空度が下記に示すような到達真空度で行われる。
【0045】
有機高分子フィルム基材にAZO薄膜をスパッタ成膜する場合、フィルムからの発生ガス・吸着水分を極力少なくした方が成膜したAZO薄膜の特性(抵抗値の耐湿熱性)が良くなる。そこで、AZO薄膜の成膜前に、により有機高分子フィルム基材を加熱しながら排気・脱ガスを行うのが好ましい。例えば、有機高分子フィルム基材へのAZO薄膜の成膜は、加熱装置を備えた真空装置内で行うことが好ましい。真空装置内での、到達真空度は1×10‐4Pa以下、好ましくは2×10‐5Pa以下にして、ガス成分、とりわけ水分を除去して行うのが好ましい。有機高分子フィルム基材の加熱は、80℃〜180℃程度が好ましく、100〜150℃が好ましい。加熱装置としては、例えば、加熱ロールがあげられる。なお、成膜気圧は、通常、0.01〜1Pa程度であり、好ましくは0.1〜0.6Paである。
【0046】
AZO薄膜の膜厚は、通常、20〜150nm程度であるの好ましく、膜厚150nm以下においても好適である。AZO薄膜は、タッチパネル用途としては透過率、抵抗値の点からは、30〜80nmの範囲とするのが好ましい。
【0047】
なお、有機高分子フィルム基材上への、Al薄膜の形成、次いでAZO薄膜の形成は、それぞれ、個別の工程として施すことができる他、連続工程として施すことができる。図3は、同一の真空装置内において、有機高分子フィルム基材上へ、Al薄膜の形成、次いでAZO薄膜の形成を連続して施す場合を示す。
【0048】
図3では、スパッタ成膜装置(真空装置27)内において、有機高分子フィルム基材1に、デュアルマグネトロンスパッタ装置11において、反応性マグネトロンスパッタ成膜により、Al薄膜が施され、次いで、シングルマグネトロンスパッタ装置12において、反応性マグネトロンスパッタ成膜法により、AZO薄膜を形成する場合の例である。有機高分子フィルム基材3は、真空装置27内において、送り出しロール23から送り出され、ガイドロール25を経て、加熱ロール電極22により搬送されて、ガイドロール26を経て、巻き取りロール24で巻き取られる。有機高分子フィルム基材3の片側が、表面処理されている場合には、易滑処理面でない平滑面上に、Al薄膜を成膜できるように、有機高分子フィルム基材3は、送り出される。真空装置27内は、所定の圧力以下になるように排気されている(排気手段は図示せず)。加熱ロール22は、所定の温度になるように制御されている。
【0049】
デュアルマグネトロンスパッタ装置11は、2枚のAlターゲット13が各マグネット電極13´上に装着されており、MF電源15で交互に放電がなされ、Al薄膜2が有機高分子フィルム基材3に形成される。デュアルマグネトロンスパッタ装置11内へは、プラズマエミッションモニターコントローラー(PEM)17aにより、MF電源15の放電のインピーダンスを感知して、アルゴンガス21および酸素ガス20が、所定のSPになるように、ピエゾバルブ18aにて放電の設定インピーダンスに制御されている。アルゴンガス21は、マスフローコントローラー(MFC)19aにより制御されている。
【0050】
次いで、シングルマグネトロンスパッタ装置12は、1枚のZn‐Alターゲット14がマグネット電極14´上に装着されており、DC電源16により放電がなされ、AZO薄膜1がAl1薄膜2に形成される。シングルマグネトロンスパッタ装置12内へは、プラズマエミッションモニターコントローラー(PEM)17bにより、DC電源16のプラズマ制御を行い、アルゴンガス21および酸素ガス20は、所定のSPになるように、ピエゾバルブ18bにて制御されている。アルゴンガス21は、マスフローコントローラー(MFC)19bにより制御されている。
【0051】
また、上記のようにして得られた、有機高分子フィルム基材上に、Al薄膜、次いで、AZO薄膜が形成されている透明導電フィルムは、さらに、80℃〜180℃の温度でアニールする工程を施すことができる。アニール工程は130〜160℃の温度とするのが好ましい。アニール工程時間は、通常、30分間〜24時間程度であるのが好ましく、1〜10時間であるのがより好ましい。なお、アニール工程は、通常、大気中で行われるが、減圧または真空の雰囲気下で行うこともできる。
【0052】
アニール工程を施した場合には、湿熱環境下においても抵抗値の変化率を低く抑えることができ、耐湿熱性を向上することができる。特に、メタルターゲットであるZn‐Alから反応性マグネトロンスパッタ法で成膜されたAZO薄膜に、アニール工程を施した場合には、AZO薄膜の抵抗上昇は殆ど無く、また耐湿熱性について著しい向上が見られる。これは、メタルターゲットであるZn‐AlからのAZO薄膜は酸素欠乏状態が多い膜になっており、空孔を介して結晶の再配列が起こっていると推測される。
【0053】
また、上記で得られた透明導電フィルムは、図2に示すように、有機高分子フィルム基材3面に、透明粘着層4を介して、透明基体5を貼り合わすことができる。
【0054】
この貼り合わせは、透明基体5の方に粘着剤層4を設けておき、これに有機高分子フィルム基材3を貼り合わせるようにしてもよいし、逆に有機高分子フィルム基材3の方に上記の粘着剤層4を設けておき、これに透明基体5を貼り合わせてもよい。後者の方法では、粘着剤層4の形成を、有機高分子フィルム基材3をロール状にして連続的に行うことができ、生産性の面でより有利である。
【0055】
粘着剤層は、透明性を有するものであればよく、例えば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤などが用いられる。粘着剤層は、透明基体の接着後そのクッション効果により、フィルム基材の一方の面に設けられた導電性薄膜の耐擦傷性やタッチパネル用としての打点特性を向上させる機能を有する。この機能をより良く発揮させるため、粘着剤層の弾性係数を1〜100N/cm2の範囲、厚さを1μm以上、通常5〜100μmの範囲に設定するのが望ましい。
【0056】
粘着剤層の弾性係数が1N/cm2未満となると、粘着剤層は非弾性となるため、加圧により容易に変形してフィルム基材ひいては導電性薄膜に凹凸を生じさせ、また加工切断面からの粘着剤のはみ出しなどが生じやすく、さらに導電性薄膜の耐擦傷性やタッチパネルとしての打点特性の向上効果が低減する。また、100N/cm2を超えると、粘着剤層が硬くなり、そのクッション効果を期待できなくなり、導電性薄膜の耐擦傷性やタッチパネルとしての打点特性を向上できない。
【0057】
粘着剤層の厚さが1μm未満となると、そのクッション効果を期待できなくなるため、導電性薄膜の耐擦傷性やタッチパネルとしての打点特性の向上を望めない。また、粘着剤層を厚くしすぎると、透明性を損なったり、粘着剤層の形成や透明基体の貼り合わせ作業性、さらにコストの面で好結果が得られにくい。
【0058】
このような粘着剤層を介して貼り合わされる透明基体は、フィルム基材に対して良好な機械的強度を付与し、特にカールなどの発生防止に寄与するものである。
【0059】
透明基体5は、図2のように、単層構造にすることができるほか、2枚以上の透明な基体フィルムを透明な粘着剤層により貼り合わせた複合構造として、積層体全体の機械的強度などをより向上させることができうる。例えば、透明基体5として、2枚以上の透明な基体フィルムを透明な粘着剤層により貼り合わせることができる。
【0060】
前記透明基体として単層構造を採用する場合について説明する。単層構造の透明基体を貼り合わせたのちでも透明導電性フィルムが、可撓性であることが要求される場合は、透明基体の厚さは、通常、6〜300μm程度のプラスチックフィルムが用いられる。可撓性が特に要求されない場合は、透明基体の厚さは、通常、0.05〜10mm程度のガラス板やフィルム状ないし板状のプラスチックが用いられる。プラスチックの材質としては、前記したフィルム基材と同様のものが挙げられる。
【0061】
一方、前記透明基体として複数構造を採用する場合にも、透明基体の厚さは、前記と同様である。複数構造の透明基体の厚さは、2枚以上の透明な基体フィルムを透明な粘着剤層により貼り合わせた合計厚さである。すなわち、複数構造の透明基体を貼り合わせたのちでも透明導電性フィルムが、可撓性であることが要求される場合は、複数構造の透明基体の厚さは、通常、6〜300μm程度である。この場合、2枚以上の透明な基体フィルムとしては、フィルム基材と同様のプラスチックフィルムが用いられる。可撓性が特に要求されない場合の透明基体の厚さは、通常、0.05〜10mm程度である。この場合、2枚以上の透明な基体フィルムとしては、ガラス板やフィルム状ないし板状のプラスチックが用いられる。これらは組み合わせることもできる。プラスチックの材質としては、前記したフィルム基材と同様のものが挙げられる。
【0062】
複数構造の透明基体において、2枚以上の透明な基体フィルムの貼り合せに用いる透明な粘着剤層には、透明基体とフィルム基材の貼り合わせで説明したものと同様の材料が好適に用いられる。
【0063】
なお、必要により、上記した透明基体の外表面(粘着剤層とは反対側の面)に、視認性の向上を目的とした防眩処理層や反射防止層を設けたり、外表面の保護を目的としたハードコート層を設けるようにしてもよい。後者のハードコート層としては、例えば、メラニン系樹脂、ウレタン系樹脂、アルキド系樹脂、アクリル系樹脂、シリコン系樹脂などの硬化型樹脂からなる硬化被膜が好ましく用いられる。
【0064】
ハードコート層の厚さは、これが薄いと硬度不足となり、一方厚すぎるとクラックが発生する場合がある。また、カールの防止特性等も考慮すれば、好ましいハードコート層の厚さは0.1〜30μm程度である。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下に、本発明の実施例を記載して、より具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
実施例1
(有機高分子フィルム基材)
有機高分子フィルム基材として、有機三菱樹脂(株)製の0300E(厚み100μm)のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。
【0067】
(前処理)
上記PETフィルムの易滑処理面でない、平滑面上へ、Al薄膜を成膜できるように、上記PETフィルムを、図3に示すスパッタ成膜装置へ装着した。120℃に加熱したロール電極を使用し、巻取りながら、クライオコイルとターボポンプの排気系で脱ガス処理を行い、到達真空度1.5×10‐6Paを得た。その後、アルゴンガスを導入し13.56MHzのプラズマ放電中を通し、PET表面の前処理を行った。
【0068】
(Al薄膜:アンダーコート層の形成)
その後、図3のデュアルマグネトロンスパッタ装置の電極上に、ターゲットとしてAlを装着し、アルゴンガス150sccm(大気圧換算ガス流量 cc/min)導入中、3kwのMF放電でPEMインピーダンス制御により酸素ガスを導入し、Al薄膜を成膜した。成膜気圧は0.3Paであり、SPは22とした。得られたAl薄膜の膜厚は約50nmであった。
【0069】
(GZO薄膜の形成)
その後、シングルマグネトロンスパッタ装置の電極上に、メタルターゲットとしてZn‐1.5重量%Al(Gaを1.5重量%含有するZn−Ga)をセットし、3kwのDC電力放電で、PEMプラズマ制御にてAZO薄膜を形成して、透明導電フィルムを得た。アルゴンガス導入量は300sccm、PEMのSPは54とした。成膜気圧は0.33Paであり、AZO薄膜の膜厚は約40nmであった。
【0070】
実施例2
実施例1において、AZO薄膜の形成を下記方法により行ったこと以外は、実施例1と同様にして、透明導電フィルムを得た。
【0071】
(AZO薄膜の形成)
AZO薄膜を成膜するターゲットを、酸化物ターゲットであるZnO‐3重量%Al(Alを3重量%含有するZnO‐Al)に換え、アルゴンガスのみでDC3kwにて成膜した。アルゴンガス導入量は300sccmで、成膜気圧は0.3Paとした。AZO薄膜の膜厚は約40nmであった。
【0072】
実施例3
(透明導電フィルムの作成)
実施例1において、有機高分子フィルム基材として、厚み23μmのPETフィルムを用いたことと成膜後大気中で150℃10時間のアニール処理をした以外は実施例1と同様にして、透明導電フィルムを得た。
【0073】
(積層透明導電フィルムの作成)
厚み125μmのPETフィルムの片面に、厚み7μmの紫外線硬化型のハードコート層を形成したPETフィルムを透明基体として用いた。当該透明基体(PETフィルム)のハードコート層の形成されていない側の面に、アクリル系透明粘着剤を塗工して厚み25μmの粘着剤層を形成した。当該粘着剤層に、上記透明導電フィルム(厚み23μmのPETフィルムのAl薄膜、AZO薄膜の設けられていない面)をラミネートロールにより貼り合わせて、積層透明導電フィルムを得た。
【0074】
比較例1
実施例1において、Al薄膜の形成工程をなくしたこと以外は実施例1と同様にして、透明導電フィルムを得た。
【0075】
比較例2
実施例2において、Al薄膜の形成工程をなくしたこと以外は実施例2と同様にして、透明導電フィルムを得た。
【0076】
比較例3
実施例1において、Al薄膜の換わりに、下記方法によりSiO薄膜を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、透明導電フィルムを得た。
【0077】
(SiO薄膜の形成)
実施例1において、Alターゲットの換わりにSiターゲットを用いて、アルゴンガス150sccm導入中、6kwのMF放電でPEMインピーダンス制御により酸素ガスを導入しSiO薄膜を成膜した。成膜気圧は0.3Paであり、SPは40とした。得られたSiO薄膜の膜厚は約50nmであった。
【0078】
比較例4
実施例2において、Al薄膜の換わりに、下記方法によりSiO薄膜を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、透明導電フィルムを得た。
【0079】
(SiO薄膜の形成)
実施例1において、Alターゲットの換わりにSiターゲットを用いて、アルゴンガス150sccm導入中、6kwのMF放電でPEMインピーダンス制御により酸素ガスを導入しSiO薄膜を成膜した。成膜気圧は0.3Paであり、SPは40とした。得られたSiO薄膜の膜厚は約50nmであった。
【0080】
実施例および比較例で得られた透明導電フィルム(積層透明導電フィルムを含む)について下記評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
(初期抵抗値)
透明導電フィルムの抵抗値(Ro:Ω/□)を三菱油化製ロレスタにより測定した。
【0082】
(耐湿熱性)
透明導電フィルムを150℃の環境下に1時間または10時間放置した後の抵抗値を上記方法にて測定した。さらに、これらのサンプルを85℃85%RHの恒温恒湿器に250時間へ投入して抵抗値を上記方法にて測定して、加湿熱下での抵抗変動を評価した。加湿熱下での抵抗変動は、初期抵抗値に対して、加湿熱下に放置した後の抵抗値が大きくなったか割合を、初期抵抗値に対する倍率で示す。
【0083】
実施例3で得られた積層透明導電フィルムについては、当該積層透明導電フィルムをガラスITO基板と積層透明導電フィルムの導電膜(AZO薄膜)が対抗するようにスペーサーで貼り合わせ、タッチパネルを形成し0.8φのデルリンペンで文字入力耐久性試験を行った。両方のタッチパネル基板として、ガラスITO基板を用いた場合のタッチパネルについて行った同耐久性試験と比べなんら遜色は見られなかった。
【0084】
【表1】

【0085】
表1に示すように、実施例では、低抵抗値であり、かつ、加熱下、加湿熱下においても、抵抗値の変動が小さく、耐熱性・耐湿熱性共に良好であることが分かる。また、実施例では、150℃の環境下に置くアニール工程により、耐湿熱性が良好になっていることが分かる。
【0086】
図4は、実施例1と同様の方法(SPのみを変動)と比較例1と同様の方法(SPのみを変動)により形成したAZO薄膜について、SPと抵抗値との関係を示すグラフを示す。図4からも、Al薄膜上に、AZO薄膜を形成した場合に、抵抗値が大きく下がることを認められる。また、Al薄膜のアンダーコート層のない場合には、酸素導入量が多くなるに従って、AZO薄膜の酸素空孔が減少するため、酸素空孔からのキャリア電子放出が減るので、抵抗値は上昇するが、Al薄膜がある場合には、SPが60までは抵抗値が上昇するが、その後、SPが54までは抵抗値が低下する。これは、膜構造が変化していると考えられる。なお、SP60を超える場合には、透過率が50%以下になり、透明性の点で好ましくない。かかる点から、SPは、50〜60、さらには52〜58であるのが好ましい。かかるSPの範囲は、透明性も良好である。また、かかるSPの範囲は、アニールによる耐湿熱性の改善効果が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の透明導電フィルムの一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の積層透明導電フィルムの一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の透明導電フィルムの製造方法の一例を説明する装置の概略図である。
【図4】AZO薄膜の抵抗値とSPとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0088】
1…GZO薄膜
2…Al
3…有機高分子フィルム基材
4…粘着剤層
5…有機高分子フィルム基材
6…ハードコート層
11…デュアルマグネトロンスパッタ装置
12…シングルマグネトロンスパッタ装置
13…A1ターゲット
14…Zn‐Gaターゲット
15 …MF電源
16 …DC電源
17…プラズマエミッションモニターコントローラー(PEM)
18…ピエゾバルブ
19…マスフローコントローラー(MFC)
20…酸素ガス
21…アルゴンガス
22…加熱ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機高分子フィルム基材上に、反応性マグネトロンスパッタ成膜法にてAl薄膜が形成されており、その上にAlをドープしたZnOであるAZO薄膜が形成されていることを特徴とする透明導電フィルム。
【請求項2】
Al薄膜の厚みが20nm〜100nmであることを特徴とする請求項1記載の透明導電フィルム。
【請求項3】
AZO薄膜の厚みが20nm〜150nmであることを特徴とする請求項1または2記載の透明導電フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の透明導電フィルムのAZO薄膜が設けられている面とは反対の有機高分子フィルム基材面に、透明粘着剤層を介して、透明基体が貼り合わされていることを特徴とする積層透明導電フィルム。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかの記載の透明導電フィルムの製造方法であって、
有機高分子フィルム基材上に、反応性マグネトロンスパッタ成膜法にてAl薄膜を形成する工程、および
前記Al薄膜上に、AlをドープしたZnOであるAZO薄膜を形成する工程を有することを特徴とする透明導電フィルムの製造方法。
【請求項6】
有機高分子フィルム基材上に、Al薄膜とAZO薄膜を形成する前の真空装置内の到達真空度が1×10‐4Pa以下であり、Al薄膜とAZO薄膜を形成する際の有機高分子フィルム基材の加熱温度が80℃〜180℃であることを特徴とする請求項5記載の透明導電フィルムの製造方法。
【請求項7】
Al薄膜を形成する反応性マグネトロンスパッタ成膜法が、反応性デュアルマグネトロンスパッタ成膜法であることを特徴とする請求項5または6記載の透明導電フィルムの製造方法。
【請求項8】
AZO薄膜は、酸化物ターゲットであるZnO‐Alから、アルゴンガスを主ガスとするアルゴンガス雰囲気下に、マグネトロンスパッタ成膜法により形成することを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の透明導電フィルムの製造方法。
【請求項9】
AZO薄膜は、メタルターゲットであるZn‐Alから、酸素を含むアルゴンガス雰囲気下に、反応性マグネトロンスパッタ成膜法により形成することを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の透明導電フィルムの製造方法。
【請求項10】
アルゴンガス雰囲気下における酸素導入量を、プラズマエミッションモニター(PEM)を用いて制御することを特徴とする請求項9記載の透明導電フィルムの製造方法。
【請求項11】
AZO薄膜を形成する工程の後に、得られた透明導電フィルムを、さらに、80℃〜180℃の温度でアニールする工程を有することを特徴とする請求項5〜10のいずれかに記載の透明導電フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−192460(P2008−192460A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25780(P2007−25780)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】