説明

透明導電性非晶質膜の製造方法、及び透明導電性非晶質膜

【課題】高真空容器を使用しない簡便な方法によって透明導電性非晶質膜を製造する方法、および導電性、透明性、及び表面平滑性が従来のスパッタリング法によって得られる膜と同等以上である透明導電性非晶質膜の提供。
【解決手段】亜鉛元素および錫元素を含む透明導電性非晶質膜の製造方法であって、加熱した基板に、亜鉛化合物および錫化合物を含有する霧状の溶液又は分散液を吹き付けて成膜することを特徴とする透明導電性非晶質膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性非晶質膜の製造方法、及び透明導電性非晶質膜に関する。詳しくは、タッチパネル用に適した透明導電性非晶質膜の製造方法、及び該製造方法によって得られた透明導電性非晶質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、無機ELディスプレイ等のディスプレイの電極、タッチパネルの電極、窓ガラスの熱線反射膜、帯電防止膜などに広く用いられている。
そのような透明導電膜としては、ZnO−SnO2系の膜が知られている。例えば特許文献1には、ZnOとSnO2を混合・焼成して得られた焼成粉末をターゲットとし、スパッタリングにより成膜して、ZnO−SnO2系の透明導電性非晶質膜を得る技術が記載されている。
【0003】
従来の透明導電膜の一般的な製法として、真空蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーティング法などが用いられている。これらの方法は、透明性や導電性に優れる透明導電膜を作成することができるが、成膜装置には高価な真空容器が不可欠であり製造コストに問題がある。また、従来の透明導電膜であるITO膜の安価な製法として塗布法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−314364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の塗布法によって得られるITO膜には溶媒や未分解原料が残留するため、スパッタリング法などによって得られる透明導電膜と比較して、導電性、透明性、及び表面平滑性に劣るという問題がある。さらに、ZTO(Zinc Tin Oxide)膜に関しては、塗布法によって成膜した従来例は知られていない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高真空容器を使用しない簡便な方法によって、導電性、透明性、及び表面平滑性が従来のスパッタリング法によって得られる膜と同等以上である透明導電性非晶質膜を製造する方法の提供を課題とする。
また、本発明は、導電性、透明性、及び表面平滑性が従来のスパッタリング法によって得られる膜と同等以上である透明導電性非晶質膜の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ね、本発明に至った。
すなわち本発明は、
<1>亜鉛元素および錫元素を含む透明導電性非晶質膜の製造方法であって、加熱した基板に、亜鉛化合物および錫化合物を含有する霧状の溶液又は分散液を吹き付けて成膜することを特徴とする透明導電性非晶質膜の製造方法、
<2>前記霧状の溶液又は分散液の粒径が0.01μm〜1000μmの範囲であることを特徴とする前記<1>に記載の透明導電性非晶質膜の製造方法、
<3>スプレー法または超音波霧化を用いた常圧CVD法によって、前記霧状の溶液又は分散液を吹き付けることを特徴とする前記<1>又は<2>に記載の透明導電性非晶質膜の製造方法、
<4>前記亜鉛化合物および錫化合物が分解する温度以上に前記基板を加熱することを特徴とする前記<1>〜<3>のいずれかに記載の透明導電性非晶質膜の製造方法、
<5>前記霧状の溶液又は分散液が亜鉛化合物および錫化合物を主成分として含有し、さらにIn,Al、Ga、Sb、F、Ti、Ir、Ru、W、Mo、Nb、及びTaから選ばれるいずれか一種類以上の元素を含む化合物を含有することを特徴とする<1>〜<4>に記載の透明導電性非晶質膜の製造方法、
<6>前記基板に成膜した透明導電性非晶質膜を、不活性又は還元性雰囲気において100℃以上で加熱処理することを特徴とする前記<1>〜<5>のいずれかに記載の透明導電性非晶質膜の製造方法、
<7>前記<1>〜<6>のいずれかに記載の製造方法で得られた透明導電性非晶質膜、
<8>前記透明導電性非晶質膜がタッチパネル用である前記<7>に記載の透明導電性非晶質膜、である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の透明導電性非晶質膜の製造方法によれば、従来方法で使用されていた高真空容器を使用せず、より簡便で製造コストに優れ、常圧で透明導電性非晶質膜を製造することができる。本発明の導電性非晶質膜は従来品と同等以上の優れた導電性、透明性、及び表面平滑性を有するので、特にタッチパネル用に適している。すなわち、本発明の製造方法及び該製造方法によって得られた透明導電性非晶質膜は工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳しく説明する。
本発明の透明導電性非晶質膜の製造方法は、加熱した基板に、亜鉛化合物および錫化合物を含有する霧状の溶液又は分散液を吹き付けて成膜する方法である。
【0010】
前記亜鉛化合物とは、亜鉛元素を含む化合物を意味する。前記亜鉛化合物としては、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、燐酸亜鉛、ピロ燐酸亜鉛、塩化亜鉛、フッ化亜鉛、ヨウ化亜鉛、臭化亜鉛、カルボン酸亜鉛(酢酸亜鉛、蓚酸亜鉛など)、塩基性炭酸亜鉛、亜鉛元素を含むアルコキシド、およびそれらの水和塩などを挙げることができる。これらの原料は、溶媒に溶解するか、分解中間体もしくは酸化物微粒子として溶媒に均一分散していることが好ましく、溶媒に溶解することがより好ましい。以下では、前記亜鉛化合物、該亜鉛化合物の分解中間体および該亜鉛化合物の酸化物微粒子をまとめて「亜鉛化合物」と呼ぶ。
前記亜鉛化合物の純度は高ければ高いほど良く、具体的には、99重量%以上であることが好ましい。
【0011】
前記分解中間体としては、例えば亜鉛元素を含むアルコキシドのゾル状加水分解物、硝酸亜鉛にアルカリを加えて得られるゾル状水酸化物が挙げられる。前記酸化物微粒子としては、例えば亜鉛酸化物のナノ粒子が挙げられる。
【0012】
前記錫化合物とは、錫元素を含む化合物を意味する。前記錫化合物としては、酸化錫(SnO2、SnO)、水酸化錫、硝酸錫、硫酸錫、塩化錫、フッ化錫、ヨウ化錫、臭化錫、カルボン酸錫(酢酸錫、蓚酸錫など)、錫元素を含むアルコキシド、およびそれらの水和塩などを挙げることができる。これらの原料は、溶媒に溶解するか、分解中間体もしくは酸化物微粒子として溶媒に均一分散していることが好ましく、溶媒に溶解することがより好ましい。以下では、前記錫化合物、該錫化合物の分解中間体および該錫化合物の酸化物微粒子をまとめて「錫化合物」と呼ぶ。
前記錫化合物の純度は高ければ高いほど良く、具体的には、99重量%以上であることが好ましい。
【0013】
前記分解中間体としては、例えば錫元素を含むアルコキシドのゾル状加水分解物、硝酸錫にアルカリを加えて得られるゾル状水酸化物が挙げられる。前記酸化物微粒子としては、例えば錫酸化物のナノ粒子が挙げられる。
【0014】
溶媒は、特に限定されるものではないが、前記亜鉛化合物および前記錫化合物を溶解可能なものが好ましく、たとえば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール等の一価アルコール類、エチレングリコール等の二価アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ベンジル等のエステル類、メトキシエタノール、エトキシエタノール等のエーテルアルコール類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、N,Nジメチルホルムアミド等の酸アミド類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0015】
また、前記溶媒はそのpHを調整して用いてもよい。前記pHの範囲としては0〜5が好ましく、0〜2がより好ましい。
上記範囲にpHを調整することによって、前記亜鉛化合物および前記錫化合物の溶解性を高めることができる。また、前記亜鉛化合物および前記錫化合物を溶解した溶液の経時安定性を高めることもできる。
pH調整に用いる溶液は特に限定されるものではないが、たとえば、塩酸や硝酸、硫酸、酢酸、しゅう酸、燐酸などの酸性溶液、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、アンモニア水などの塩基性溶液を挙げることができる。
【0016】
前記霧状の溶液又は分散液は、亜鉛化合物および錫化合物を主成分として含有し、さらにIn,Al、Ga、Sb、F、Ti、Ir、Ru、W、Mo、Nb、及びTaから選ばれるいずれか一種類以上の元素を含む化合物を補成分として含有することが好ましい。
これらの元素(ドーピング元素)の化合物を含有する前記霧状の溶液又は分散液を用いることによって、前記元素がドーピングされて形成される透明導電性非晶質膜の導電性および透明性を一層高めうる。
【0017】
前記ドーピング元素の化合物としては、ドーピング元素を含有する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、燐酸塩、ピロ燐酸塩、塩化物、フッ化物、ヨウ化物、臭化物、カルボン酸塩(酢酸塩、蓚酸塩など)、アルコキシド、およびそれらの水和塩などを挙げることができる。これらの原料は、溶媒に溶解するか、分解中間体もしくは酸化物微粒子として溶媒に均一分散していることが好ましく、溶媒に溶解することがより好ましい。以下では、前記ドーピング元素の化合物、該化合物の分解中間体および該化合物の酸化物微粒子をまとめて「ドーピング元素の化合物」と呼ぶ。
前記ドーピング元素の化合物の純度は高ければ高いほど良く、具体的には、99重量%以上であることが好ましい。
前記霧状の溶液又は分散液は、本発明の効果を阻害しない限り、前記ドーピング元素以外の元素を有する化合物を含んでいてもよい。
【0018】
前記分解中間体としては、例えばドーピング元素を含むアルコキシドのゾル状加水分解物、ドーピング元素の硝酸塩にアルカリを加えて得られるゾル状水酸化物が挙げられる。前記酸化物微粒子としては、例えばドーピング元素の酸化物のナノ粒子が挙げられる。
【0019】
前述の各化合物を溶解又は分散した溶液は、霧状の溶液又は分散液にして前記基板に吹き付けられる。
前記霧状の溶液又は分散液に含有される亜鉛化合物および錫化合物の含有比は、製造する透明導電性非晶質膜の用途によって適宜調整することができ、特に限定されるものではない。より比抵抗(導電性)に優れる透明導電性非晶質膜を得る観点から、SnモルとZnモルの和に対するSnモルの比(Sn/(Sn+Zn))が、0.50以上0.90以下の範囲である事が好ましく、0.60以上0.80以下の範囲である事がさらに好ましい。
【0020】
前記霧状の溶液又は分散液に前記ドーピング元素を含有する場合、前記亜鉛化合物と前記錫化合物との和の含有量に対する前記ドーピング元素の含有量のモル比(亜鉛化合物+錫化合物:ドーピング元素)は、60:40〜99.5:0.5が好ましく、75:25〜99:1がより好ましく、90:10〜99:1がさらに好ましい。
上記範囲であると、ドーピング元素の添加によって得られる透明導電性非晶質膜の導電性および透明性を一層高めうる。
なお、前記霧状の溶液又は分散液中における亜鉛、錫および必要に応じて用いるドーピング元素の組成(モル比)は、得られる透明導電性非晶質膜中の亜鉛、錫、及びドーピング元素の組成に反映される。
【0021】
前記霧状の溶液又は分散液に含有される亜鉛化合物、錫化合物、及びドーピング元素の化合物を合わせた濃度としては、0.01〜1Mの範囲が好ましい。
上記範囲であると、成膜速度に優れ、且つ膜質を十分に均質で平滑にすることができる。なお、成膜速度をより速めるという観点では高濃度溶液が適し、膜質をより均質で平滑にするという観点では低濃度が適する。
【0022】
本発明において、基板とは、前記霧状の溶液又は分散液を吹き付けて透明導電性非晶質膜を成膜する基材(成膜先)のことを意味する。
前記基板としては、ガラス、石英ガラスなどの無機材料の他に、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などの有機物フィルム(たとえば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PC(ポリカーボネート)等)を用いることができる。このうち、後述するように、前記基板を加熱して成膜するので、該基板は加熱によって破損しない材質からなるものが好ましい。例えば、石英ガラス、Al23(サファイア)、MgO、YSZ(ZrO2−Y23)、CaF2、SrTiO3からなる基板が、耐熱性に優れるため好ましい。石英ガラスは、軟化点が高く1200℃程度まで、加熱することができる。
【0023】
前記基板に成膜した透明導電性非晶質膜を透明電極として用いる場合には、前記基板は透明であることが好ましい。
また、前記基板は結晶性基板であってもよい。例えば、Al23(サファイア)、MgO、YSZ(ZrO2−Y23)、CaF2、SrTiO3等の基板を挙げることができる。
【0024】
前記基板を加熱する温度としては、該基板の材質の耐熱温度に応じて適宜調整しうるが、該基板に吹き付けられた前記霧状の溶液又は分散液の溶媒が速やかに揮発し、前記亜鉛化合物および前記錫化合物が分解する温度以上が好ましい。より具体的には、50〜1200℃の範囲が好ましく、100〜600℃の範囲がより好ましく、300〜500℃が特に好ましい。
上記温度範囲で加熱することによって、前記溶媒を速やかに揮発させることができると共に、前記溶液中の亜鉛化合物および錫化合物の分解を促して、反応性に富んだ状態にさせ、導電性、透明性、及び表面平滑性に優れた膜を成膜できる。
【0025】
前記基板を加熱する方法としては、基板面を均一に加熱できる方法であれば特に制限されない。例えば、基板をホットプレート上に設置して所定の温度で加熱する方法が挙げられる。
【0026】
加熱した前記基板に、前記霧状の溶液又は分散液を吹き付ける方法としては、該霧状の溶液又は分散液を該基板面に均一に吹き付けられる方法であれば特に制限されないが、該霧状の溶液又は分散液の粒径を適切に制御して基板に吹き付けられる方法が望ましい。
前記粒径とは、面積平均径(ザウター平均径)のことである。面積平均径は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定できる。
【0027】
前記粒径の範囲としては、0.01μm〜1000μmが好ましく、0.05μm〜500μmがより好ましく、0.1μm〜100μmがさらに好ましい。
前記霧状の溶液又は分散液の粒径が上記範囲であると、該溶液中に前記亜鉛化合物および前記錫化合物を十分量保持させて空気中を移動させることができ、基板にムラなく吹き付けることができる。また、基板に到達する前もしくは到達後速やかに溶媒を気化させることができる。その結果、当該基板上により均質で、より平滑な(化合物の塊が散在しない)透明導電性非晶質膜を形成することができる。
【0028】
前記粒径の範囲に制御された前記霧状の溶液又は分散液を吹き付ける方法としては、スプレー法または超音波霧化を用いた常圧CVD法(Chemical Vapor Deposition法)が好ましい。
【0029】
前記スプレー法とは、溶液に圧力を掛けてノズル(ハス口)から噴霧することによって、0.1μm〜100μmμm程度の粒径を有する霧状の溶液又は分散液を発生させる方法である。溶液に圧力をかける際、酸素を含むキャリアガスを用いることが好ましい。該酸素によってノズルから基板へ吹き付けられる霧状の溶液又は分散液に含まれる酸素濃度を高めることができる。この結果、前記溶液中の亜鉛化合物および錫化合物の酸化熱分解を促進し、導電性、透明性により優れた透明導電性非晶質膜を形成することができる。
【0030】
前記キャリアガスとしては、例えば空気や酸素ガスが挙げられる。スプレーガン(エアブラシ)等のノズルから、圧縮したキャリアガスと共に粒径が制御された霧状の溶液又は分散液を、前記加熱した基板に吹き付けることによって透明導電性非晶質膜を該基板の吹き付け面に形成することができる。
【0031】
前記超音波霧化とは、超音波を発生する振動子(振動板)を前記溶液に接触させることによって、0.1μm〜100μm程度の粒径を有する霧状の溶液又は分散液を発生させる方法である。この場合、発生させた前記霧状の溶液又は分散液をキャリアガスによって前記加熱した基板に吹き付ける方法が好ましい。該キャリアガスに酸素を含むガス(例えば空気や酸素ガス)を用いることによって、前記霧状の溶液又は分散液に含まれる酸素濃度を高めることができる。この結果、前記溶液中の亜鉛化合物および錫化合物の酸化熱分解を促進し、導電性、透明性により優れた透明導電性非晶質膜を形成することができる。
前記超音波霧化を可能とする装置は市販品を用いることができる。
【0032】
前記霧状の溶液又は分散液を基板に吹き付ける際の圧力、基板とノズルとの距離、吹き付け時間等は、使用するエアブラシや超音波霧化装置の種類によって適宜調整すればよい。
【0033】
前記基板に吹き付ける前記霧状の溶液又は分散液の量は、該基板に成膜する透明導電性非晶質膜の膜厚によって所望に調整することができる。
前記基板に成膜する透明導電性非晶質膜の膜厚としては、透明導電性非晶質膜の用途によって所望に調整することができ、5nm〜5000nmが好ましく、10nm〜3000nmがより好ましく、20nm〜1000nmがさらに好ましい。この膜厚の範囲であると、本発明によって、導電性、透明性、および表面平滑性に充分に優れた透明導電性非晶質膜を成膜することができる。
なお、前記透明導電性非晶質膜がタッチパネル用途である場合には、その膜厚は通常20nm〜250nmの範囲で成膜すればよい。
【0034】
前記基板に成膜した透明導電性非晶質膜を、不活性又は還元性雰囲気において100℃以上で加熱処理してもよい。該加熱処理によって該透明導電性非晶質膜の抵抗率がさらに低下する(導電性がさらに高まる)ことがある。
前記加熱処理の温度としては、形成した透明導電性非晶質膜を結晶化させない温度であることが好ましい。具体的には100℃以上500℃以下が好ましく、250℃以上450℃以下がより好ましい。
前記不活性又は還元性雰囲気としては、窒素やアルゴンなどの不活性ガス中、水素などの還元性ガス中、又は不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス中が挙げられる。
【0035】
本発明の透明導電性非晶質膜の製造方法によって得られた透明導電性非晶質膜は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、無機ELディスプレイ等のディスプレイの電極、タッチパネルの電極、窓ガラスの熱線反射膜、帯電防止膜などに適用可能であるが、シート抵抗(導電性)や透過率(透明性)、表面平滑性、打鍵耐久性、及び摺動筆記耐久性に優れるのでタッチパネルの電極として用いることが好ましい。
【実施例】
【0036】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、得られた透明導電性非晶質膜の電気特性、光学特性、及び結晶構造については、次の評価によりおこなった。
【0037】
電気特性の評価は、JIS K 7149に準拠した4探針法による測定方法により、表面抵抗(シート抵抗)を測定し、触針式膜厚計により、膜厚を測定し、この表面抵抗の値と膜厚の値を用いて、以下の式(1)により膜の抵抗率を求めることにより行った。
抵抗率(Ωcm)=表面抵抗(Ω/□)×膜厚(cm) (1)
【0038】
光学特性の評価は、可視分光光度計を用いて、JIS R 1635に規定された方法により、可視光透過率を測定することにより行った。
【0039】
形成した膜の結晶構造の評価は、該膜に電子線を照射して、電子線回折図形を得て非晶質であることを同定することにより行った。
【0040】
形成した膜の表面平滑性の評価は、三次元非接触表面形状測定システム(株式会社菱化システム製MM557−M100型)を用いて、351μm×351μmの異なる5視野を観察し、算術平均高さが5nm以下である場合を「○」、上回る場合を「×」として評価した。
【0041】
[実施例1]
ホットプレート(株式会社八光電気製作所製、HS−15C)上にアルミナ製板を設置しさらにその上に5cm×5cmのガラス基板(コーニング社製、EagleXG)を設置し、アルミナ製板の表面温度が460℃になるように加熱した。
塩化亜鉛粉末(ZnCl、株式会社高純度化学製、純度99.9%)および塩化錫粉末(SnCl2・xHO、株式会社高純度化学製、純度99.9%up)をモル比Zn:Snが20:80となるように秤量し、脱水エタノール(EtOH、関東化学株式会社製、Water0.005%Max)を用いて濃度0.6Mに調製した溶液(透明導電膜形成用塗布液)を得た。
エアブラシ(アネスト岩田株式会社製、HP−BC2P)に圧縮エア0.3MPaを接続して用いて、霧状の溶液(ミスト)の面積平均粒子径が100μm以下となるようにプリセットハンドルの調整を行った。調整したエアブラシを用いて加熱しているガラス基板へ向けて透明導電膜形成用塗布液を10秒間噴霧した。
<評価>
得られた透明導電性非晶質膜の電気特性を測定したところ、抵抗率は4.6×10-3Ω・cmであった。得られた透明導電性非晶質膜の光学特性を測定したところ、透過率は90%であった。得られた透明導電性非晶質膜の電子線回折を測定したところ、得られた膜は非晶質であった。表面平滑性の評価は「○」であった。これらの結果を表1に併記した。
【0042】
[実施例2]
実施例1で得られた透明導電性非晶質膜を内容積13.4Lの管状型電気炉〔(株)モトヤマ製〕中で、窒素ガスを1.5L/分の流量で流通させながら、昇温速度300℃/時間で室温(約25℃)から300℃まで昇温し、300℃で1時間保持することにより加熱処理した。
<評価>
加熱処理後に得られた透明導電性非晶質膜の電気特性を測定したところ、抵抗率は2.4×10-3Ω・cmであった。得られた透明導電性非晶質膜の光学特性を測定したところ、透過率は90%であった。得られた透明導電性非晶質膜の電子線回折を測定したところ、得られた膜は非晶質であった。表面平滑性の評価は「○」であった。これらの結果を表1に併記した。
【0043】
[実施例3]
実施例1で得られた透明導電性非晶質膜を内容積13.4Lの管状型電気炉〔(株)モトヤマ製〕中で、水素ガスを1.5L/分の流量で流通させながら、昇温速度300℃/時間で室温(約25℃)から300℃まで昇温し、300℃で1時間保持することにより加熱処理した。
<評価>
加熱処理後に得られた透明導電性非晶質膜の電気特性を測定したところ、抵抗率は2.1×10-3Ω・cmであった。得られた透明導電性非晶質膜の光学特性を測定したところ、透過率は90%であった。得られた透明導電性非晶質膜の電子線回折を測定したところ、得られた膜は非晶質であった。表面平滑性の評価は「○」であった。これらの結果を表1に併記した。
【0044】
[実施例4;(ドーピング元素:Al)]
ホットプレート(株式会社八光電気製作所製、HS−15C)上にアルミナ製板を設置しさらにその上にガラス基板(コーニング社製、EagleXG)を設置し、アルミナ製板の表面温度が460℃になるように加熱した。
塩化亜鉛粉末(ZnCl、株式会社高純度化学製、純度99.9%)および塩化錫粉末(SnCl2・xHO、株式会社高純度化学製、純度99.9%up)および塩化アルミニウム粉末(AlCl・6HO、株式会社高純度化学製、純度99.9%up)をモル比Zn:Sn:Alが18.5:78.5:3となるように秤量し、脱水エタノール(EtOH、関東化学株式会社製、Water0.005%Max)を用いて濃度0.6Mに調製した溶液(透明導電膜形成用塗布液)を得た。
エアブラシ(アネスト岩田株式会社製、HP−BC2P)に圧縮エア0.3MPaを接続して用いて、霧状の溶液(ミスト)の面積平均粒子径が100μm以下となるようにプリセットハンドルの調整を行った。調整したエアブラシを用いて加熱しているガラス基板へ向けて透明導電膜形成用塗布液を10秒間噴霧した。
<評価>
得られた透明導電性非晶質膜の電気特性を測定したところ、抵抗率は3.2×10-3Ω・cmであった。得られた透明導電性非晶質膜の光学特性を測定したところ、透過率は90%であった。得られた透明導電性非晶質膜の電子線回折を測定したところ、得られた膜は非晶質であった。表面平滑性の評価は「○」であった。これらの結果を表1に併記した。
【0045】
[実施例5]
ホットプレート(株式会社八光電気製作所製、HS−15C)上にアルミナ製板を設置しさらにその上に5cm×5cmのガラス基板(コーニング社製、EagleXG)を設置し、アルミナ製板の表面温度が460℃になるように加熱した。
塩化亜鉛粉末(ZnCl、株式会社高純度化学製、純度99.9%)および塩化錫粉末(SnCl2・xHO、株式会社高純度化学製、純度99.9%up)をモル比Zn:Snが20:80となるように秤量し、塩酸を用いてpH=1に調整した水溶液を用いて濃度0.6Mに調製した溶液(透明導電膜形成用塗布液)を得た。
超音波ネブライザー(オムロン株式会社製、NE−U17)を用いて透明導電膜形成用塗布液を、面積平均粒子径が100μm以下となるようにミスト化し、ミストを均一に基板へ吹き付けられるよう拡散器を使って加熱しているガラス基板へ向けて透明導電膜形成用塗布液を180秒間噴霧した。
<評価>
得られた透明導電性非晶質膜の電気特性を測定したところ、抵抗率は5.9×10-3Ω・cmであった。得られた透明導電性非晶質膜の光学特性を測定したところ、透過率は88%であった。得られた透明導電性非晶質膜の電子線回折を測定したところ、得られた膜は非晶質であった。表面平滑性の評価は「○」であった。これらの結果を表1に併記した。
【0046】
[実施例6]
実施例5で得られた透明導電性非晶質膜を内容積13.4Lの管状型電気炉〔(株)モトヤマ製〕中で、窒素ガスを1.5L/分の流量で流通させながら、昇温速度300℃/時間で室温(約25℃)から300℃まで昇温し、300℃で1時間保持することにより加熱処理した。
<評価>
加熱処理後に得られた透明導電性非晶質膜の電気特性を測定したところ、抵抗率は3.5×10-3Ω・cmであった。得られた透明導電性非晶質膜の光学特性を測定したところ、透過率は88%であった。得られた透明導電性非晶質膜の電子線回折を測定したところ、得られた膜は非晶質であった。表面平滑性の評価は「○」であった。これらの結果を表1に併記した。
【0047】
[実施例7]
実施例5で得られた透明導電性非晶質膜を内容積13.4Lの管状型電気炉〔(株)モトヤマ製〕中で、水素ガスを1.5L/分の流量で流通させながら、昇温速度300℃/時間で室温(約25℃)から300℃まで昇温し、300℃で1時間保持することにより加熱処理した。
<評価>
加熱処理後に得られた透明導電性非晶質膜の電気特性を測定したところ、抵抗率は2.3×10-3Ω・cmであった。得られた透明導電性非晶質膜の光学特性を測定したところ、透過率は88%であった。得られた透明導電性非晶質膜の電子線回折を測定したところ、得られた膜は非晶質であった。表面平滑性の評価は「○」であった。これらの結果を表1に併記した。
【0048】
[比較例1]
酸化亜鉛粉末(ZnO、株式会社高純度化学製、純度99.99%)および酸化錫粉末(SnO2、株式会社高純度化学製、純度99.99%)を、Zn:Snが20:80が0.80となるように秤量し、直径5mmのジルコニア製ボールを用いて乾式ボールミルにより混合した。得られた混合粉末をアルミナ製ルツボに入れて空気雰囲気中において900℃で5時間保持して仮焼した後、さらに直径5mmのジルコニア製ボールを用いて乾式ボールミルにより粉砕した。得られた粉末を、金型を用いて一軸プレスにより500kgf/cm2の圧力で円板状に成形した。さらに成形体を冷間静水圧プレス(CIP)を用いて2000kgf/cm2の圧力で加圧した後、酸素雰囲気中において常圧で1200℃で5時間保持して焼成して焼結体を得た。
該焼結体を加工して直径3インチのスパッタリング用ターゲットとして用い、スパッタリング装置(徳田製作所製、CFS−4ES−231)内に設置し、さらに支持体として5cm×5cmのガラス基板を用い、該基板をスパッタリング装置内に設置した。Ar−酸素混合ガス(酸素濃度0.2体積%)雰囲気中で、圧力0.5Pa、基板温度265℃、電力50Wの条件でスパッタリングを行い、基板上に形成された透明導電膜を得た。
<評価>
得られた透明導電性非晶質膜の電気特性を測定したところ、抵抗率は3.4×10-3Ω・cmであった。得られた透明導電性非晶質膜の光学特性を測定したところ、透過率は85%であった。得られた透明導電性非晶質膜の電子線回折を測定したところ、得られた膜は非晶質であった。表面平滑性の評価は「○」であった。これらの結果を表1に併記した。
【0049】
【表1】

【0050】
以上の結果から、本発明にかかる実施例1〜7の透明導電性非晶質膜は、比較例1の透明導電性非晶質膜と比べて、導電性、透明性、及び表面平滑性において同等以上に優れていることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛元素および錫元素を含む透明導電性非晶質膜の製造方法であって、
加熱した基板に、亜鉛化合物および錫化合物を含有する霧状の溶液又は分散液を吹き付けて成膜することを特徴とする透明導電性非晶質膜の製造方法。
【請求項2】
前記霧状の溶液又は分散液の粒径が0.01μm〜1000μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の透明導電性非晶質膜の製造方法。
【請求項3】
スプレー法または超音波霧化を用いた常圧CVD法によって、前記霧状の溶液又は分散液を吹き付けることを特徴とする請求項1又は2に記載の透明導電性非晶質膜の製造方法。
【請求項4】
前記亜鉛化合物および錫化合物が分解する温度以上に前記基板を加熱することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の透明導電性非晶質膜の製造方法。
【請求項5】
前記霧状の溶液又は分散液が亜鉛化合物および錫化合物を主成分として含有し、さらにIn,Al、Ga、Sb、F、Ti、Ir、Ru、W、Mo、Nb、及びTaから選ばれるいずれか一種類以上の元素を含む化合物を含有することを特徴とする請求項1〜4に記載の透明導電性非晶質膜の製造方法。
【請求項6】
前記基板に成膜した透明導電性非晶質膜を、不活性又は還元性雰囲気において100℃以上で加熱処理することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の透明導電性非晶質膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法で得られた透明導電性非晶質膜。
【請求項8】
前記透明導電性非晶質膜がタッチパネル用である請求項7に記載の透明導電性非晶質膜。

【公開番号】特開2011−210422(P2011−210422A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74897(P2010−74897)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】