説明

透明部材の製造方法及び透明部材の製造装置

【目的】透明樹脂とガラス板の積層透明部材を簡便に得るための製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】所定の閉空間の一内側面に設けられた成形型上にガラス板を配置し、前記閉空間内において、前記成形型及び前記ガラス板と対向するとともに、前記閉空間を前記成形型が位置する第1の空間と、前記成形型が位置しない第2の空間とに分離するようにして、樹脂シートを配置する。次いで、前記第1の空間及び前記第2の空間内の圧力を大気圧未満の圧力下に設定し、前記樹脂シートを加熱軟化させるとともに、前記第2の空間内の圧力を上昇させ、前記樹脂シートを前記成形型及び前記ガラス板に圧接して、前記ガラス板と前記樹脂シートとが接合してなる透明部材を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばポリカーボネート樹脂などの透明樹脂とガラス板の積層透明部材を簡便に得るための製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の乗員から外部前方を見る場合、ウインドシールドの左右両端、上端にあるそれぞれの支柱(Aピラー)、フロントルーフレールによって部分的に視界が遮られる。また、外部後方を直接もしくはルームミラーを通して見る場合には、バックウィンドウの左右両端にある支柱(Cピラー)、上端にあるルーフ復縁部のリヤルーフレールによって部分的に視界が遮られる。これらの視界遮蔽領域を効果的に縮小する方法の一つとして、現行のウインドシールドやバックウィンドウの左右両端、上端を、それぞれ車両側面、ルーフ面に回り込むようにすることが望まれている。
【0003】
これを実現する方法のひとつとして、ガラス板と透明樹脂シートを積層・接合し、透明樹脂部分を窓材の曲げ部分にまで延長した構造とすることが考えられる。
【0004】
このような、ガラス板と透明樹脂シートを積層した例としては、たとえば特開平6−99547号公報に、ガラス板とアクリル樹脂/ポリカーボネート樹脂の共押出積層シートが、ポリビニルブチラール樹脂を介して接合している積層体が開示されている。さらに、特開2000−1345号公報にはガラス板と複数枚の同種または異種の樹脂シートを重ね合せてなる樹脂板とが一体化した異層合せガラスが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平6−99547号公報
【特許文献2】特開2000−1345号公報
【0006】
上述した従来技術においては、例えば、透明樹脂シートを予め射出成形などにより成形体としておき、予め曲げ加工を行ったガラス板と、ポリビニルブチラールシート等の接着層を介して積層し、熱ローラによって層間の脱気を行うとともに予備的な熱接着を行った後、オートクレーブ中で加熱圧着する方法などが開示されている。
【0007】
しかしながら、このような従来の方法では、目的とする部材を得るまでに上記の如く複数の工程が必要であり、また予備成形した樹脂成形体と曲げ加工を行ったガラス板の合わせ精度も要求され、コスト的に不利である。また上述のような透明樹脂部分を窓材の曲げ部分にまで延長した構造とする場合、予備成形体の樹脂延長部分の、後加熱による成形戻りも考慮する必要があり、難度の高い成形型設計が要求される。
【0008】
また、上記従来技術においては、予め曲げ加工を行った複数枚のガラス板の間に透明樹脂シートを挟み、これを層間脱気しながら加熱・加圧して接合する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、上述のような透明樹脂部分を窓材の曲げ部分にまで延長した構造を得るのは難しく、また透明樹脂シートが十分加熱されない可能性があり、合わせ精度が低下する恐れがある。
【0009】
したがって、透明樹脂とガラス板の積層方法についてはいくつかの検討が成されているが、未だ決定的な方法は確立されておらず、簡便で低コストな方法の検討が必要であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであり、例えばポリカーボネート樹脂などの透明樹脂とガラス板の積層透明部材を簡便に得るための製造方法及び製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成すべく、本発明は、
所定の閉空間の一内側面に設けられた成形型上にガラス板を配置する工程と、
前記閉空間内において、前記成形型及び前記ガラス板と対向するとともに、前記閉空間を前記成形型が位置する第1の空間と、前記成形型が位置しない第2の空間とに分離するようにして、樹脂シートを配置する工程と、
前記第1の空間及び前記第2の空間内の圧力を大気圧未満の圧力下に設定する工程と、
前記樹脂シートを加熱軟化させるとともに、前記第2の空間内の圧力を上昇させ、前記樹脂シートを前記成形型及び前記ガラス板に圧接して、前記ガラス板と前記樹脂シートとが接合してなる透明部材を作製する工程と、
を具えることを特徴とする、透明部材の製造方法に関する。
【0012】
また、本発明は、
所定の筐体と、
前記筐体内の一内側面に設けられた成形型と、
所定の樹脂シートを、前記筐体内において、前記成形型と対向するとともに、前記筐体を前記成形型が位置する第1の空間と、前記成形型が位置しない第2の空間とに分離するようにして保持する樹脂シート保持手段と、
前記第1の空間及び前記第2の空間内の圧力を大気圧未満の圧力下に設定するとともに、前記第2の空間のみの圧力を上昇させるようにした圧力調整手段と、
前記樹脂シートを加熱軟化させるための加熱手段と、
を具えることを特徴とする、透明部材の製造装置に関する。
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、熱成形法の一種である真空圧空成形法を応用して、上記のような射出成形による透明樹脂体の予備成形などの複数の予備的工程を省略可能で、かつ合わせ精度に優れた、透明樹脂とガラス板の積層部材の簡便な製造方法を見出した。
【0014】
具体的には、閉空間を形成する所定の筐体内において、この筐体を、成形型が配置された第1の空間と前記成形型が配置されていない第2の空間とに分割するようにして樹脂シートを配置し、前記第1の空間及び前記第2の空間内を例えば真空排気して、内部圧力を大気圧未満とし、その後、第2の空間のみの圧力を上昇させ、この圧力上昇によって加熱軟化させた前記樹脂シートを前記成形型に圧接し、前記成形型上に配置したガラス板と前記樹脂シートとが接合してなる透明部材を作製するものである。
【0015】
したがって、樹脂シートの予備成形が不要であり、全体の工程数を少なくできるので、目的とする、ガラス板と樹脂シートとが接合した透明部材を簡易に形成することができるようになる。また、予備成形のための設備・成形型が不要となるので、全体の装置構成が簡略化され、上記製造工程の簡略化を相伴って、前記透明部材の製造コストを低減することができる。
【0016】
また、上述した製造方法及び製造装置の構成に基づき、樹脂シートとガラス板との合わせ精度を向上させることができ、厚みムラや部分的な層剥離の問題が生じることがない。さらに、部材周囲に樹脂のみの領域を簡便に設けられるとともに、後加熱による成形戻りを考慮する必要がなく、成形型設計が容易になる。
【0017】
本発明の一態様において、前記第2の空間内の圧力上昇は、前記第2の空間を大気開放する、あるいは前記第2の空間内に圧縮ガスを導入することによって実施することができる。このような態様によれば、前記第2の空間内の圧力上昇を簡易に実行することができ、目的とする透明部材をより簡易に製造することができるようになる。なお、前記圧縮ガスとしては、圧縮空気や所定の不活性ガスなどを用いることができる。
【0018】
また、本発明の他の態様においては、前記第2の空間内の圧力を上昇させる際に、所定の駆動手段によって前記成形型を前記樹脂シートに向けて駆動させ、前記第2の空間内の圧力上昇と前記成形型の押圧とを利用して、前記樹脂シートを前記成形型及び前記ガラス板に圧接するようにすることができる。この場合、前記樹脂シートと前記ガラス板(及び前記成形型)との圧接の際の圧力が増大するため、前記樹脂シートと前記ガラス板との接合を確実に行うことができるようになる。
【0019】
さらに、本発明のその他の態様においては、前記ガラス板の前記樹脂シートと対向する側の面に、透明接着剤を塗布する。これによって、前記樹脂シートと前記ガラス板との接合を確実に行うことができるようになる。この場合、前記透明接着剤は、樹脂シートとガラス板とが接合する際、その接着効果を十分に発現するように、その軟化点以上に保持されている必要がある。
【0020】
したがって、前記成形型内にヒータを内蔵し、前記ガラス板を介して前記透明接着剤を加熱するなどの操作が必要になるが、好ましくは前記樹脂シートを前記接合の際に、前記透明接着剤をその軟化点以上の温度にまで加熱できるように、予め加熱軟化させておく。この場合、前記成形型にヒータなどを内蔵させておく必要がなく、成形型、したがって製造装置全体の構成を簡易化することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明しましたように、本発明の製造方法及び製造装置によれば、透明性や層間接着強度に優れた、樹脂とガラス板の積層透明部材を簡便に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明のその他の特徴及び利点を、発明を実施するための最良の形態に基づいて説明する。
【0023】
図1は、本発明の透明部材の製造装置の一例を示す概略図である。図1に示す製造装置10は、閉空間を構成する筐体11と、その下方に位置する内側面上に設けられた成形型12と、筐体11に設けられた圧力調整手段としてのバルブ16及び17とを有している。また、筐体11には上下方向に2つの格納部11Aが設けられ、加熱手段であるヒータ19がそれぞれ格納されている。また、2つの格納部11Aの中間部並びにバルブ16,17間には、樹脂シートを保持するためのクランプ15が設けられている。成形型12は成形型駆動テーブル13上に設けられ、バルブ16及び17の後方には真空ラインを通じて真空ポンプ18が接続されている。
【0024】
成形型12は、例えば例えば鉄系及び非鉄系の金属、セラミック系材料、並びに熱硬化性樹脂材料などを用いて作製することができる。また、クランプ15の、少なくとも樹脂シートTRと係合する部分はゴム系シートあるいはスポンジ材から構成し、そのシール特性を向上させることが好ましい。
【0025】
ヒータ部19は、最大エネルギー波長が4μm近傍にある遠赤外線ヒータ、最大エネルギー波長が1−3μm近傍にある短波長あるいは中波長ヒータなどを用いることができる。好ましくは、一般的な熱可塑性樹脂と吸収波長が一致する遠赤外線ヒータを用いる。また、このような熱線ヒータの代わりに熱風ヒータなどを用いることができる。
【0026】
次に、図1に示す装置を用いた本発明の透明部材の製造方法について説明する。図2〜図6は、本発明の透明部材の製造方法における工程図である。
【0027】
最初に、図2に示すように、成形型12の上面にガラス板GLを配置するとともに、このガラス板GL上に透明接着剤ADを塗布する。次いで、クランプ15によって、樹脂シートTRを成形型12及びガラス板GLに対向するとともに、筐体11を成形型11が位置する第1の空間S1及び成形型12が位置しない第2の空間S2に分割するようにして固定し、配置する。なお、図からも明らかなように、第1の空間S1及び第2の空間S2は、樹脂シートTRによって互いに連通することなく、独立に形成されている。
【0028】
なお、透明接着剤ADは本発明の必須要素ではないが、透明接着剤ADを用いることにより、以下に詳述する圧接において、樹脂シートTRとガラス板GLとの接合を確実に行うことができるようになる。
【0029】
透明接着剤ADとしては、好適にはポリビニルブチラールやエチレン酢酸ビニル共重合体またはその部分ケン化物などのホットメルト系接着剤が用いられるが、それに限定されるものではない。特にポリビニルブチラールは耐貫通性に優れるため、ウインドシールドなどの自動車用窓材を作製する場合にはこれを用いるのが好ましい。
【0030】
次いで、図3に示すように、バルブ16及び17を開にするとともに真空ポンプ18を駆動させ、第1の空間S1及び第2の空間S2内を真空に排気する。なお、第1の空間S1及び第2の空間S2内の圧力は大気圧より低ければ特に限定されるものではないが、好ましくは10Torr以下の圧力に設定する。
【0031】
また、第1の空間S1及び第2の空間S2内の圧力は同一であることが好ましい。第1の空間S1及び第2の空間S2内の圧力が互いに異なるようになると、それぞれの空間内で内圧が偏り、以下に詳述する加熱軟化工程において、樹脂シートTRの加熱軟化を均一に行うことができなくなる。また、加熱軟化時において、樹脂シートTRが低圧側に急激に撓み、樹脂シートTRの破損や筐体11の内壁の接触などによる樹脂シートTRの破損及び前記内壁の汚染などを生じてしまう可能性が生じる。
【0032】
なお、本例においては、1台の真空ポンプ18で第1の空間S1及び第2の空間S2内を排気するようにしているので、第1の空間S1及び第2の空間S2内の圧力は、通常の真空排気操作を行うのみで、ほぼ同一に維持することができる。
【0033】
次いで、図4に示すように、ヒータ19を筐体11の格納部11Aから引出し、樹脂シートTRを挟むようにして配置し、ヒータ19をオンにすることによって樹脂シートTRを上下方向から加熱し、軟化させる。この加熱軟化工程は、バルブ16及び17を開にし、第1の空間S1及び第2の空間S2内を真空排気した状態で行うこともできるし、バルブ16及び17を閉にし、第1の空間S1及び第2の空間S2内の真空排気を中断した状態で行うこともできる。好ましくは、加熱軟化に伴って、樹脂シートTRから排出される不純物ガスなどによる第1の空間S1及び第2の空間S2内の圧力変動を抑制すべく、これらの空間内を真空排気した状態で加熱軟化操作を行う。
【0034】
なお、図4から明らかなように、上述した加熱軟化に伴い、樹脂シートTRは自重で下方にある程度撓むようになる。
【0035】
次いで、樹脂シートTRが所定温度に到達して加熱軟化が終了した後、ヒータ19をオフするとともに、格納部11A内に収納する。次いで、バルブ16を開、バルブ17を閉とし、図示しないガス源(ボンベ)より圧縮ガスを第1の空間S1内に導入し、内部圧力を上昇させる。これによって、図5に示すように、第1の空間S1内の圧力が第2の空間S2内の圧力よりも高くなり、これに伴って樹脂シートTRは下方に大きく撓む。
【0036】
なお、図示しない切り替えスイッチなどによって、真空ポンプ18及びボンベとの連通を逐次切り替えることができる場合においては、バルブ17を開にし、第2の空間S2内を真空排気した状態で、第1の空間S1内に圧縮ガスを導入するようにすることもできる。
【0037】
一方、前記圧縮ガスの導入と同時及び/又は前記圧縮ガスの導入に先立って、成形型駆動テーブル13を駆動させ、成形型12を上方へ移動させる。したがって、樹脂シートTRは前記圧縮ガスによる圧力上昇に起因した押圧と、成形型12の上方移動に起因した押圧とによって、成形型12及びガラス板GLに圧接するようになる。したがって、樹脂シートTRとガラス板GL(及び成形型12)との圧接の際の圧力が増大するため、樹脂シートTRとガラス板GLとの接合を確実に行うことができるようになる。
【0038】
なお、本発明において、成形型駆動テーブル13を駆動による成形型12の上方移動は、必須の要素ではなく、前記圧縮ガスの導入に起因した押圧のみで、樹脂シートTRとガラス板GLとの接合を行うことができる。但し、成形型12の上方移動を利用することにより、上述した作用効果を得ることができる。
【0039】
また、前述した圧縮ガスを導入する代わりに、バルブ16を開にし、第1の空間S1内を大気に開放するのみでも同様な作用効果を得ることができる。但し、この場合においては、第1の空間S1内を加圧状態にすることができないので、上述した押圧を十分行えるように、第2の空間S2内の圧力を十分に低減しておく。
【0040】
また、本例では、ガラス板GL上に透明接着剤ADが塗布されているので、ガラス板GLと樹脂シートTRとが接合する際に、透明接着剤ADが軟化点以上の温度に保持されていることが好ましい。この場合、透明接着剤ADの接着剤としての機能を増大させることができ、ガラス板GLと樹脂シートTRとの接合強度を増大させることができる。
【0041】
具体的には、成形型12内にヒータを内蔵し、ガラス板GLを介して透明接着剤ADを加熱するなどの操作が必要になるが、好ましくは樹脂シートTRを前記接合の際に、透明接着剤ADをその軟化点以上の温度にまで加熱できるように、ヒータ19によって予め加熱軟化させておく。この場合、前記成形型にヒータなどを内蔵させておく必要がなく、成形型、したがって製造装置全体の構成を簡易化することができる。
【0042】
但し、本発明においては、成形型12内にヒータを内蔵することを削除するものではない。樹脂シートTR自体の加熱と、成形型12の前記ヒータによる加熱効果とを組み合わせることにより、より良好な状態で樹脂シートTRとガラス板GLとの接合を行うことができるようになる。
【0043】
樹脂シートTR及びガラス板GLとの接合が完了した後、図6に示すように、成形型駆動デーブル13を駆動し、成形型12を下方に移動させて、ガラス板GLを成形型12より剥離する。その後、クランプ15を開放するとともに、樹脂シートTRの不要部分を除去し、ガラス板GL及び樹脂シートTRが積層して接合した、目的とする透明部材Pを得ることができる。
【0044】
なお、本発明は透明部材の製造方法及び製造装置に関するものであるので、樹脂シートTRも当然に透明であることが要求される。したがって、樹脂シートTRとしては、透明性に優れ、熱可塑性樹脂でリサイクルがし易く、更に汎用性が高いことからアクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂が特に好適に用いられる。しかしそれらに限定されるものではなく、他の樹脂も適宜使用することができる。
【0045】
透明部材Pは、上述した自動車用窓材として使用することができ、その他建築用部材などに好適に用いることができる。但し、これらの用途に限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
図1に示す製造装置を用い、ポリカーボネート樹脂シート及びガラス板とが接合されてなる透明部材の製造を試みた。成形型は温度調節機構を有するアルミ製(ZAS)のものを用い、ヒータには遠赤外線ヒータを用いた。
【0047】
樹脂シートにはポリカーボネートシート(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製:ユーピロンシートNF−2000U、厚み5mm)を用い、また透明接着剤としては厚さ0.8mmのポリビニルブチラールシート(積水化学工業(株)製、商品名S−LEC(登録商標)Film)を用いた。ガラス板には予め自重式曲げ加工を行った厚さ2mmのものを用いた。
【0048】
上述したように、上記のガラス板、ポリビニルブチラールシートを成形型上に設置し、またポリカーボネートシートをクランプで挟持し、筐体内の第1の空間及び第2の空間を仕切るように設置した。次いで、真空ポンプを用いて前記第1の空間及び前記第2の空間の内圧を1Torrまで減圧し、遠赤外線ヒータの設定温度を400℃とし、前記ポリカーボネートシートの表面温度が170℃となるまで加熱を行った。なお、前記温度は、図示しない、非接触式温度計を用いて測定した。
【0049】
次いで、成形型駆動テーブルを上昇させ、ポリカーボネートシートと成形型が接触し始める位置となった時、前記第1の空間に連通したバルブのみを開とし、大気開放した。なお、成形型温度は120℃に設定しており、またポリカーボネートシートが成形型に接触した際の表面温度は150℃であった。
【0050】
上述のような操作を経て、ポリカーボネートシートとガラス板とを接合し、これらが積層された透明部材を作製した。前記透明部材は、透明性に優れ、透視像ムラもなく、また層間の接着強度も十分なものであった。
【0051】
なお、アクリル系樹脂などのその他の透明樹脂シートを用いた場合にも、同様な透明部材を得ることができた。
【0052】
以上、具体例を挙げながら発明の実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明してきたが、本発明は上記内容に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【0053】
例えば、上記具体例においては、ヒータ19により樹脂シートTRを上下面から加熱し、軟化させるようにしているが、上面又は下面のみから加熱するようにすることもできる。
【0054】
また、樹脂シートTRには、必要に応じて、所定の粒子状あるいは繊維状、又は高アスペクト比の充填材、酸化防止剤及び熱安定剤(例えば、ヒンダードフェノール、ヒドロキノン、チオエーテル、ホスファイト類及びこれらの置換体及びその組み合わせを含む)、紫外線吸収剤(例えばレゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン等)、滑剤、離型剤(例えばシリコン樹脂、モンタン酸及びその塩、ステアリン酸及びその塩、ステアリルアルコール、ステアリルアミド等)、染料(例えばニトロシン等)、顔科(例えば硫化カドミウム、フタロシアニン等)を含む着色剤、添加剤添着液(例えばシリコンオイル等)、及び結晶核剤(例えばタルク、カオリン等)などを単独又は適宜組み合わせて添加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の透明部材の製造装置の一例を示す構成図である。
【図2】本発明の透明部材の製造方法における一工程図である。
【図3】図2に示す工程の次の工程を示す図である。
【図4】図3に示す工程の次の工程を示す図である。
【図5】図4に示す工程の次の工程を示す図である。
【図6】図5に示す工程の次の工程を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
10 透明部材の製造装置
11 (閉空間を構成する)筐体
12 成形型
13 成形型駆動テーブル
15 クランプ
16、17 バルブ
18 真空ポンプ
19 ヒータ
S1 第1の空間
S2 第2の空間
TR 樹脂シート
GL ガラス板
AD 透明接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の閉空間の一内側面に設けられた成形型上にガラス板を配置する工程と、
前記閉空間内において、前記成形型及び前記ガラス板と対向するとともに、前記閉空間を前記成形型が位置する第1の空間と、前記成形型が位置しない第2の空間とに分離するようにして、樹脂シートを配置する工程と、
前記第1の空間及び前記第2の空間内の圧力を大気圧未満の圧力下に設定する工程と、
前記樹脂シートを加熱軟化させるとともに、前記第2の空間内の圧力を上昇させ、前記樹脂シートを前記成形型及び前記ガラス板に圧接して、前記ガラス板と前記樹脂シートとが接合してなる透明部材を作製する工程と、
を具えることを特徴とする、透明部材の製造方法。
【請求項2】
前記第1の空間及び前記第2の空間内の圧力を大気圧未満の圧力下に設定する工程において、
前記第1の空間及び前記第2の空間内の圧力は、同一に保持することを特徴とする、請求項1に記載の透明部材の製造方法。
【請求項3】
前記第2の空間内の圧力上昇は、前記第2の空間内を大気開放することによって実施することを特徴とする、請求項1又は2に記載の透明部材の製造方法。
【請求項4】
前記第2の空間内の圧力上昇は、前記第2の空間内に圧縮ガスを導入することによって実施することを特徴とする、請求項1又は2に記載の透明部材の製造方法。
【請求項5】
前記第2の空間内の圧力を上昇させる際に、前記成形型を前記樹脂シートに向けて駆動させ、前記第2の空間内の圧力上昇と前記成形型の押圧とを利用して、前記樹脂シートを前記成形型及び前記ガラス板に圧接して前記透明部材を作製するようにしたことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の透明部材の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂シートが透明樹脂シートであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の透明部材の製造方法。
【請求項7】
前記ガラス板の前記樹脂シートと対向する側の面に、透明接着剤を塗布する工程を具えることを特徴とする、請求項6に記載の透明部材の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂シートは、前記成形型及び前記ガラス板に対する圧接時に、前記透明接着剤の軟化温度以上となるようにして加熱軟化させることを特徴とする、請求項7に記載の透明部材の製造方法。
【請求項9】
前記透明接着剤は、ポリビニルブチラール、エチレン酢酸ビニル共重合体及びこれら重合体の部分ケン化物の少なくとも1つであることを特徴とする、請求項7又は8に記載の透明部材の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一に記載の方法で製造された透明部材を含むことを特徴とする、自動車用窓材。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一に記載の方法で製造された透明部材を含むことを特徴とする、建築用窓材。
【請求項12】
閉空間を構成する筐体と、
前記筐体内の一内側面に設けられた成形型と、
所定の樹脂シートを、前記筐体内において、前記成形型と対向するとともに、前記筐体を前記成形型が位置する第1の空間と、前記成形型が位置しない第2の空間とに分離するようにして保持する樹脂シート保持手段と、
前記第1の空間及び前記第2の空間内の圧力を大気圧未満の圧力下に設定するとともに、前記第2の空間のみの圧力を上昇させるようにした圧力調整手段と、
前記樹脂シートを加熱軟化させるための加熱手段と、
を具えることを特徴とする、透明部材の製造装置。
【請求項13】
前記圧力調整手段は、前記第1の空間及び前記第2の空間内の圧力を、大気圧未満の圧力下において、同一の圧力に保持することを特徴とする、請求項12に記載の透明部材の製造装置。
【請求項14】
前記圧力調整手段は単一の真空ポンプを有し、前記第1の空間及び前記第2の空間は前記単一のポンプを用いて真空排気することを特徴とする、請求項13に記載の透明部材の製造装置。
【請求項15】
前記圧力調整手段は、前記第2の空間内を大気開放することによって、その圧力を上昇させるようにしたことを特徴とする、請求項12〜14のいずれか一に記載の透明部材の製造装置。
【請求項16】
前記圧力調整手段は、前記第2の空間内に圧縮ガスを導入することによって、その圧力を上昇させるようにしたことを特徴とする、請求項12〜14のいずれか一に記載の透明部材の製造装置。
【請求項17】
前記第2の空間内の圧力を上昇させる際に、前記成形型を前記樹脂シートに向けて駆動させるための成形型駆動手段を具えることを特徴とする、請求項12〜16のいずれか一に記載の透明部材の製造装置。
【請求項18】
前記筐体は、前記樹脂シートから離隔するようにして設けられた、前記加熱手段を格納するための格納部を有し、前記加熱手段は、前記樹脂シートの加熱軟化の際に、前記樹脂シートと対向するようにして配置し、前記樹脂シートの加熱軟化前後においては、前記格納部に収納するようにしたことを特徴とする、請求項12〜17のいずれか一に記載の透明部材の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−225229(P2006−225229A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44193(P2005−44193)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】