説明

通信端末

【課題】アンテナどうしが近接して配置された携帯通信端末において、一方のアンテナが他のアンテナに与える干渉を軽減する。
【解決手段】非接触通信用のアンテナ12は、ループ状の芯線18と芯線18を被覆する絶縁チューブ20とを有しており、絶縁チューブ20の一部の外周を導電性シート14で被覆し、当該導電性シート14を接地する。被覆により非接触通信用アンテナ12の周波数特性が変化し、基地局通信用アンテナ22へ与える干渉を軽減することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非接触通信用のアンテナを含む複数のアンテナを備える通信端末に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、RFID(Radio Frequency IDentification)などの非接触通信の機能を備える携帯通信端末が広まりつつある。係る携帯通信端末は、外部のカードリーダライタと情報を通信することで、交通機関における乗降時の精算やレジの決済、入退室管理などにおける利用に供されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−266729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、携帯通信端末は多機能化に伴い、備えるアンテナの数も増加する傾向にある。例を挙げると、通話機能に要する基地局通信用アンテナ、TV視聴機能に要するTV受信用アンテナ、GPS機能に要するGPS受信用アンテナなどである。
このため携帯通信端末の比較的コンパクトな筐体内にアンテナどうしを近接して配置せざるを得ない状況が発生しており、非接触通信用のアンテナが有する共振周波数が、他のアンテナの共振周波数帯に干渉し、当該他のアンテナの通信性能を劣化させる問題が生じるおそれがある。
アンテナどうしを物理的に離間して配置することができれば、このような問題を抑制できる。しかし、コンパクトな筐体内に部品が密集している携帯通信端末においては、このような方策は採用し難い。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであって、アンテナどうしが近接して配置された通信端末において、一方のアンテナが他のアンテナに与える干渉を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る通信端末は、ループ状の芯線と前記芯線を被覆する絶縁チューブとを有し、筐体内に配された第1アンテナと、前記筐体内に配された第2アンテナと、前記絶縁チューブの一部の外周を被覆し、かつ接地された導電体と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
課題を解決するための手段に記載した構成によれば、絶縁チューブの一部の外周が接地された導電体で被覆されているため、第1アンテナが有する共振周波数を変化させて、この共振周波数が第2アンテナの共振周波数帯へ与える干渉を軽減することができ、両アンテナが近接配置されたとしても、第2アンテナが劣化を受けることを防ぐことが可能となる。
【0007】
なお、上記導電体についての接地とは、携帯通信端末において通信回路の基板上の基準電位(例えば、ゼロ電位)にある導電部材(プリント基板の導電パターン等)と接続すること、または容量が相対的に大きい導電部材に接続することを意味している。
また、前記第1アンテナの共振周波数は、13MHz〜14MHz帯の非接触通信用のアンテナであって、前記第2アンテナは、共振周波数が800MHz〜900MHz帯の符号分割多重接続(CD
MA)用アンテナである場合には、非接触通信用アンテナがCDMA用アンテナへ与える干渉を軽減させることができ、CDMA用アンテナを利用した通話品質の劣化を防ぐことができる。
【0008】
また、本発明に係る被覆範囲決定方法は、ループ状の芯線と前記芯線を被覆する絶縁チューブとを有すると共に筐体内に配された非接触通信用の第1アンテナと、当該第1アンテナの近傍に配置された第2アンテナとを備える通信端末における、前記絶縁チューブの一部を導電体で被覆するために当該被覆範囲を決定する被覆範囲決定方法であって、前記絶縁チューブの外周を、所定範囲にわたり導電体で被覆する被覆ステップと、前記導電体を接地する接地ステップと、前記接地ステップによる接地後、前記第1アンテナの周波数特性を測定する測定ステップと、前記第2アンテナの共振周波数帯における、前記測定された周波数特性に基づき、前記第1アンテナが第2アンテナへ与える干渉の程度を評価する評価ステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、好適に被覆する範囲を求めることができ、求められた範囲を利用することで第1アンテナが第2アンテナに与える悪影響を可及的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】携帯電話機2の外観を示す図
【図2】下部筐体6の底面を示す図
【図3】非接触通信用アンテナ12の平面図
【図4】図3のA′−Aにおける断面にグランドパターン15を追加した図
【図5】図2の下部の拡大図であり、アンテナどうしの位置関係を説明するための図
【図6】非接触通信用アンテナ12に巻回する導電性シートの有無を変更した場合の、基地局通信用アンテナ22の総放射電力の変化を調べた実験結果を示す表
【図7】導電性シートの有無による基地局通信用アンテナ22の周波数特性を調べた実験結果を示すグラフ(シート無しの場合)
【図8】導電性シートの有無による基地局通信用アンテナ22の周波数特性を調べた実験結果を示すグラフ(シート有りの場合)
【図9】被覆範囲決定方法を説明するフロー
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について、携帯通信端末である携帯電話機を例に挙げて説明する。
(実施の形態)
<構成>
図1は、携帯電話機2の外観を示す図である。
携帯電話機2は、筐体4を備える。筐体4は、下部筐体6と、下部筐体6に対して上下にスライドする機構を有する上部筐体8とを有する。図1(a)に、筐体4が閉じた状態(クローズ時)、図1(b)に筐体4が開いた状態(スライド時)を示している。スライド時には、下部筐体6の表面に備えられたテンキー群10が露出し、キー押下可能となる。
図2は、下部筐体6の底面を示す図である。
下部筐体6の底板6aの上方には、非接触通信用アンテナ12と、樹脂部材16に一体的に形成された板金状の基地局通信用アンテナ22が配置されている。この基地局通信用アンテナ22の材質は、例えばりん青銅である。
底板6a上のプリント基板(不図示)には、グランドパターン15がパターン形成されている。
【0012】
非接触通信用アンテナ12の共振周波数は、13MHz〜14MHz帯であり、基地局通信用アンテナ22は、共振周波数が800MHz〜900MHz帯のCDMAアンテナ
である。
次に、非接触通信用アンテナ12の構造について説明する。図3は、非接触通信用アンテナ12の平面図である。図4は、図3のA′−Aにおける断面にグランドパターン15を追加した図である。
【0013】
非接触通信用アンテナ12は、ループ状をした芯線18と、接続板16部分を除いた芯線18のほぼ全周を被覆する絶縁チューブ20を備える。芯線18は、3本の巻線18a〜18cのより線構造となっている。
絶縁チューブ20においては、チューブ長手方向の約20.5(mm)に渡って、その外周が導電性シート14により巻回されている。
【0014】
この巻回部分では、絶縁チューブ20の表面に貼着された導電性シート14が、絶縁チューブ20の周囲を約2.5周回ほど周回している。
導電性シート14は、銀ペーストフィルムの材質からなり、絶縁チューブ20側の面は、アクリル性粘着剤が使用されることで貼着可能となっている。シート厚みは約50μmであり、シート面に垂直な方向に導通可能である。
【0015】
絶縁チューブ20は、フッ素樹脂の材質からなり、その外径は、0.77mmである。
図5は、図2の下部の拡大図であり、アンテナどうしの位置関係を説明するための図である。
図5に示すように、非接触通信用アンテナ12と、基地局通信用アンテナ22との間は3.8mmと、両者は近接して配置されている。
【0016】
本実施の形態においては、非接触通信用アンテナ12の絶縁チューブ20の周囲に、導電性シート14が巻回され、かつ当該導電性シート14がグランドパターン15に接地されているため、非接触通信用アンテナ12の周波数特性を変化させることができる。特性の変化を通して、非接触通信用アンテナ12に近接する基地局通信用アンテナ22への干渉を軽減することができる。
【0017】
なお、実施の形態の絶縁チューブ20においては、導電性シート14を巻回する範囲は、チューブ長手方向の約20.5mmであったが、巻回範囲を接続板16側に延長して長さ約40mmとした場合であってもほぼ同様の効果的な結果が得られた。
次に、干渉の軽減効果を実証する実験結果について述べ、その後、干渉を軽減させるために適した被覆範囲の決定方法について説明する。
<実験>
図6は、非接触通信用アンテナ12に巻回する導電性シートの有無を変更した場合の、基地局通信用アンテナ22の総放射電力(単位はdBm)の変化を調べた実験結果を示す表
である。
【0018】
図6下部の差分に示すように、特にBC3の898.9MHz、915.95MHz、924.25MHzにおいて、総放射電力の顕著な向上が観察される。
図7,図8は、導電性シートの有無による基地局通信用アンテナ22の周波数特性を調べた実験結果を示すグラフである。図7は、非接触通信用アンテナ12が導電性シート14に巻回されていない場合(シート無しの場合)、図8は、導電性シート14が巻回された場合(シート有りの場合)である。
【0019】
図7(a)(c)、図8(a)(c)は基地局通信用アンテナ22のVSWR(電圧定在波比)を示すグラフ[縦軸: VSWR、横軸:周波数(MHz)]であり、図7(b)(d)、図8(b)(d)は、順に図7(a)(c)、図8(a)(c)に対応するス
ミスチャートである。
なお、図7,図8の全グラフにおいて、△(デルタ)1〜△5の各点の周波数は、△1=824MHz,△2=925MHz,△3=1.575GHz,△4=1.92GHz,△5=2.13GHzである。
【0020】
図7(a),(c)から明らかなように、シート無しの場合では、△2付近を中心に山なりのピークが観察される。
これに対して、図8(a),(c)に示すように、シート有りの場合では、△2付近の山なりのピークは消失していることがわかる。
これは、接地された導電性シート14を非接触通信用アンテナ12に巻回することで、アンテナ22の特性が変化したことの表れである。
【0021】
導電性シート14の巻回と、基地局通信用アンテナ22の特性との因果関係は判明していない部分が残るものの、1つの要因としては、導電性シート14を巻回することにより、非接触通信用アンテナ12の実質的なアンテナ長が変化したために、特性が変化したと考えられる。
なお、非接触通信用アンテナ12の周波数特性は、シート無しの場合は、13.8MHzであ
ったのに対して、シート有りの場合は、13.6MHzと本来の特性も若干変化したが、13MHz〜14MHz帯で使用する非接触通信用アンテナには実用上問題の無い範囲であった。
<被覆範囲決定方法>
以下、非接触通信用アンテナ12が基地局通信用アンテナ22へ与える干渉を効果的に抑制するために、非接触通信用アンテナ12に巻回する導電性シート14の範囲を決定する方法について図9のフローを用いて説明する。なお、この被覆範囲の決定は、携帯電話機の製造に先立った設計段階で行われる。
【0022】
まず、非接触通信用アンテナ12の所定範囲(任意の範囲)にわたって、導電性シート14を巻きつける(S11)。
次に、非接触通信用アンテナ12のインピーダンス特性を測定する(S12)。
基地局通信用アンテナ22の周波数特性に現れる非接触通信用アンテナ12の周波数特性を評価する(S13)。
【0023】
適否判断で適当と判断すれば、ステップS11で決めた所定範囲に決定し、不適と判断すればステップS11に戻り、前回以前の所定範囲とは異なる所定範囲を設定した上で、ステップS11〜S13を複数回実行する。
このステップS12〜S14においては、例えば、上述のように、インピーダンス特性を示すグラフを作成し、このグラフの基地局通信用アンテナ22の周波数特性900MHz帯に対応する帯域において存在するピーク値の有無やその程度に基づいて評価を行う。
【0024】
そして、評価結果を受け、基地局通信用アンテナ22の通信性能が所定の閾値を下回る程の干渉が有るかどうかに基づいて、適否を判断する。そして選ばれた被覆範囲(被覆位置)を携帯電話機の製造に利用する。なお、ステップS11〜S13を幾度も繰り返して、最終的に最適なものを選ぶとしても良い。
<補足>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記の内容に限定されず、本発明の目的を達成するためのいかなる形態においても実施可能であり、例えば、以下であってもよい。
【0025】
(1)実施の形態においては、非接触通信用アンテナ12の絶縁チューブ20に導電性
シート14を巻回するとして説明したが、必ずしも巻回でなくとも、絶縁チューブ20を接地することができれば効果を得ることができる。すなわち、例えば、円筒状をした導電体や多角筒状をした導電体で被覆しても構わないし、あるいはU字状に凹んだ導電体の凹部で絶縁チューブ20を挟むようにして被覆しても構わない。
【0026】
(2)実施の形態においては、非接触通信用アンテナ12に近接して配置されたアンテナの例として基地局通信用アンテナ22を例に挙げて説明しているが、このようなアンテナに限らず、非接触通信用アンテナに近接して配置された他のアンテナ(例えば、TV受信アンテナ、ラジオ受信アンテナ、GPS受信アンテナなど)への干渉防止にも本発明は適用し得る。
【0027】
(3)実施の形態においては、接地の態様を端的に説明するために、導電性シート14をグランドパターン15に接続することによって接地するとして説明したが、基板上のグランドパターン15に接続しなくとも、導電性シート14を容量が大きい導体に接続することによって接地するとしても同様な効果を得ることが可能である。
(4)実施の形態においては、スライド型の筐体を有する携帯電話機を例に挙げて説明したが、スライド型に限らず折り畳み型の筐体や、表示部と入力テンキーなどの操作部とが一体的に形成された筐体を有する携帯電話機であっても構わない。
【0028】
(5)実施の形態においては、携帯通信端末の一例として、携帯電話機を例に挙げて説明したが、これに限らずPDA(Personal Digital Assistant)などの携帯通信端末であ
っても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係る非接触通信用のアンテナが近接配置された他のアンテナに与える干渉を抑制することが可能となるため、携帯通信端末コンパクト性を維持しつつ、他のアンテナを良好に使用でき、携帯通信端末の使い勝手の向上に資する。
【符号の説明】
【0030】
2 携帯電話機
12 非接触通信用アンテナ
14 導電性シート
15 グランドパターン
20 絶縁チューブ
22 基地局通信用アンテナ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1アンテナと、
絶縁部材により形成され、前記第1アンテナの少なくとも一部を被膜する絶縁部と、
導電部材により形成され、前記絶縁部の少なくとも一部を被覆し、かつ接地された導電部と、を備えることを特徴とする通信端末。
【請求項2】
第1アンテナがループ状のアンテナである請求項1記載の通信端末。
【請求項3】
前記第1アンテナに近接する第2アンテナを備える、請求項1記載の通信端末。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−105365(P2012−105365A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−32841(P2012−32841)
【出願日】平成24年2月17日(2012.2.17)
【分割の表示】特願2007−295597(P2007−295597)の分割
【原出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】