説明

通信装置、位相同期ループ、移動体および通信方法

【課題】通信装置、位相同期ループ、移動体および通信方法を提供すること。
【解決手段】受信信号の同期保持を行うための位相同期ループ254を備え、前記位相同期ループは、n次の位相同期ループ用の回路構成nを包含する、m次の位相同期ループ用の回路構成m(m>n)、を有するループフィルタ109と、前記ループフィルタにおいて有効化される回路構成を、前記回路構成nと前記回路構成mとで切替える切替部と、を含む、通信装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信装置、位相同期ループ、移動体および通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工衛星から送信される航法メッセージを受信して現在位置を計算可能なGPS(Global Positioning System)受信機が、携帯電話やカーナビゲーションシステムに適用されるなど、広く普及している。
【0003】
具体的には、人工衛星から送信される航法メッセージには、人工衛星の軌道を示す軌道情報、信号の送信時刻などの情報が含まれる。GPS受信機は、4個以上の人工衛星から上記航法メッセージを受信し、航法メッセージに含まれる軌道情報から各人工衛星の位置を算出する。そして、GPS受信機は、各人工衛星の位置と、航法メッセージの送信時刻と受信時刻の差分に基づいて現在の3次元位置を連立方程式により計算することができる。なお、3次元位置を計算する際に4個以上の人工衛星から送信された航法メッセージが必要となるのは、GPS受信機に内蔵される時計と、人工衛星に設けられている原子時計とに誤差が存在するためである。
【0004】
また、人工衛星は、L1帯、C/Aコードと呼ばれる信号、すなわち、符号長が1,023でありチップレートが1.023MHzである疑似ランダム(PRN:Pseudo−Random Noise)符号で50bpsのデータをスペクトラム拡散し、スペクトラム拡散した信号で1,575.42MHzのキャリアをBPSK(Binary Phase Shift Keying)変調した信号により上記航法メッセージを送信する。
【0005】
したがって、GPS受信機が人工衛星からの信号を受信するには、PRN符号、キャリアおよびデータの同期をとる必要がある。受信信号のキャリアの同期のために、一般的なGPS受信機においては位相同期ループ(PLL:Phase−Locked Loop)が用いられる。
【0006】
このPLLは、ループ次数に応じ、同期保持の性能、すなわちトラッキング性能が異なる。例えば、2次のPLLは、加速度運動下において位相誤差が生じる(加速度追従性が悪い)が、ループとしての安定度が高い(ノイズに強い)。一方、3次のPLLは、加速度追従性が良いが、ループとしての安定度は2次のPLLと比較して低い(ノイズに弱い)。なお、特許文献1には、異なる次数のPLLを複数備え、複数のPLLからの出力に基づいて加速度などのパラメータを決定する電子ナビゲーション装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第99/50685号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、2次のPLLと3次のPLLの利点は異なるため、状況に応じて使い分けることが望まれる。しかし、特許文献1に記載の電子ナビゲーション装置のように異なる次数のPLLを別個に複数設けると、回路規模が増大してしまうという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、回路規模の増大を抑制しつつ、位相同期ループの次数を切替えることが可能な、新規かつ改良された通信装置、位相同期ループ、移動体および通信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、受信信号の同期保持を行うための位相同期ループを備え、前記位相同期ループは、n次の位相同期ループ用の回路構成nを包含する、m次の位相同期ループ用の回路構成m(m>n)、を有するループフィルタと、前記ループフィルタにおいて有効化される回路構成を、前記回路構成nと前記回路構成mとで切替える切替部と、を含む通信装置が提供される。
【0011】
前記通信装置は、前記通信装置の現在状態の変化に応じて前記切替部による前記回路構成の切替えを制御する制御部をさらに備えてもよい。
【0012】
前記制御部は、前記受信信号の信号強度測定に基づいて得られる値と閾値とを比較し、前記値が前記閾値以上になった場合、前記切替部に、前記ループフィルタにおいて有効化される回路構成を、前記回路構成nから前記回路構成mに切替えさせ、前記値が前記閾値未満になった場合、前記切替部に、前記ループフィルタにおいて有効化される回路構成を、前記回路構成mから前記回路構成nに切替えさせてもよい。
【0013】
前記制御部は、前記受信信号の信号強度測定に基づいて得られる値と前記閾値との比較を周期的に行なってもよい。
【0014】
前記制御部は、前記通信装置の加速度測定に基づいて得られる値と閾値とを比較し、前記値が前記閾値以上になった場合、前記切替部に、前記ループフィルタにおいて有効化される回路構成を、前記回路構成mから前記回路構成nに切替えさせ、前記値が前記閾値未満になった場合、前記切替部に、前記ループフィルタにおいて有効化される回路構成を、前記回路構成nから前記回路構成mに切替えさせてもよい。
【0015】
前記制御部は、前記受信信号の信号強度測定に基づいて得られる値と前記閾値との比較を周期的に行なってもよい。
【0016】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、n次の位相同期ループ用の回路構成nを包含する、m次の位相同期ループ用の回路構成m(m>n)、を有するループフィルタと、前記ループフィルタにおいて有効化される回路構成を、前記回路構成nと前記回路構成mとで切替える切替部と、を備える位相同期ループが提供される。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、受信信号の同期保持を行うための位相同期ループを備え、前記位相同期ループは、n次の位相同期ループ用の回路構成nを包含する、m次の位相同期ループ用の回路構成m(m>n)、を有するループフィルタと、前記ループフィルタにおいて有効化される回路構成を、前記回路構成nと前記回路構成mとで切替える切替部と、を含む通信装置が搭載された移動体が提供される。
【0018】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、受信信号の同期保持を行うための位相同期ループに含まれる、n次の位相同期ループ用の回路構成nを包含するm次の位相同期ループ用の回路構成m(m>n)を有するループフィルタにおいて、有効化される回路構成を、前記回路構成nと前記回路構成mとで切替えるステップ、を含む通信方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本発明にかかる通信装置、位相同期ループ、移動体および通信方法よれば、回路規模の増大を抑制しつつ、位相同期ループの次数を切替えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態にかかる人工衛星システムの構成を示した説明図である。
【図2】航法メッセージのフレーム構成を示した説明図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる受信機のハードウェア構成を示した説明図である。
【図4】本発明の実施形態にかかる受信機の動作例の流れを示したフローチャートである。
【図5】同期保持部の構成を示した説明図である。
【図6】PLLの詳細な構成を示した説明図である。
【図7】2次PLL用のループフィルタの回路構成の一例を示した説明図である。
【図8】3次PLL用のループフィルタの回路構成の一例を示した説明図である。
【図9】本発明の実施形態にかかるループフィルタの回路構成を示した説明図である。
【図10】ループフィルタの第1の例にかかる制御方法の流れを示したフローチャートである。
【図11】ループフィルタの第2の例にかかる制御方法の流れを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0022】
また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素を、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する場合もある。例えば、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成を、必要に応じて人工衛星10A、10Bおよび10Cのように区別する。ただし、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素の各々を特に区別する必要がない場合、同一符号のみを付する。例えば、人工衛星10A、10Bおよび10Cを特に区別する必要が無い場合には、単に人工衛星10と称する。
【0023】
また、以下に示す項目順序に従って当該「発明を実施するための形態」を説明する。
1.人工衛星システムの概要
1−1.GPSによる位置測位の概要
1−2.航法メッセージの構成
1−3.受信機の構成および動作
1−4.同期保持部の構成
2.背景
3.本発明の実施形態にかかるループフィルタの構成
4.ループフィルタの制御方法
4−1.第1の例
4−2.第2の例
5.まとめ
【0024】
<1.人工衛星システムの概要>
まず、図1〜図6を参照し、本発明の一実施形態にかかる人工衛星システム1について説明する。
【0025】
[1−1.GPSによる位置測位の概要]
図1は、本発明の一実施形態にかかる人工衛星システム1の構成を示した説明図である。図1に示したように、当該人工衛星システム1は、複数の人工衛星10A〜10Dと、受信機20と、を備える。
【0026】
人工衛星10(GPS衛星)は、測位衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)を構成しており、地球8の上空を周回している。図1には、4個の人工衛星10A〜10Dのみを示しているが、例えば、6軌道面に4個ずつで計24個の人工衛星が地球8の上空を周回する。
【0027】
また、人工衛星10は、人工衛星の軌道情報であるエフェメリス(Ephemeris)情報およびアルマナック(Almanac)情報や、航法メッセージの送信時刻をあらわすTOW(Time Of Week)などを含む航法メッセージ(詳細については[1−2.航法メッセージの構成]において説明する。)を送信する。人工衛星10には原子時計が設けられており、送信時刻は、人工衛星10に設けられている原子時計に従って例えば6秒単位で表現される。
【0028】
なお、人工衛星10は、L1帯、C/Aコードと呼ばれるスペクトラム拡散信号により上記航法メッセージを送信する。このスペクトラム拡散信号は、50bpsのデータを疑似ランダム系列の拡散符号(以下、PRN符号と称する。)でスペクトラム拡散し、スペクトラム拡散した信号で1,575.42MHzのキャリアをBPSK変調した信号である。また、PRN符号は、符号長が1,023でありチップレートが1.023MHzである。
【0029】
地球8に存在する受信機20は、人工衛星10A〜10Dから送信される航法メッセージを受信し、受信した航法メッセージに基づいて自装置の現在位置を計算することができる。
【0030】
より詳細には、受信機20は、人工衛星10A〜10Dから送信された航法メッセージを受信し、航法メッセージからエフェメリス情報を取得する。そして、受信機20は、エフェメリス情報から、人工衛星10A〜10Dの位置を算出する。また、受信機20は、エフェメリス情報に含まれる送信時刻と、航法メッセージの受信時刻の差分により、人工衛星10A〜10Dと受信機20の間の距離を算出する。その後、受信機20は、算出した人工衛星10A〜10Dの各々の位置と、人工衛星10A〜10Dの各々と受信機20の間の距離を利用し、受信機20の現在の3次元位置を未知数とした方程式を演算する。
【0031】
このように受信機20の現在の3次元位置を演算する際には、4個以上の人工衛星10から送信された航法メッセージが必要となる。これは、受信機20に内蔵される時計(RTC:Real Time Clock)と、人工衛星10に設けられている原子時計とに誤差が存在するためである。
【0032】
また、人工衛星10は、所定周期でエフェメリス情報を更新し、更新したエフェメリス情報を含む航法メッセージを送信する。ここで、人工衛星10は常に移動しているため、エフェメリス情報の更新時から時間が経過するにつれ、エフェメリス情報に基づいて算出される人工衛星10の位置と、実際の人工衛星10の位置との誤差が大きくなる。このため、航法メッセージに含まれるエフェメリス情報には例えば2時間程度の有効期限が設定されている。
【0033】
以上、図1を参照してGPSによる位置測位について概略的に説明した。なお、図1においては受信機20を通信装置の一例として丸印で示しているが、受信機20は、PC(Personal Computer)、家庭用映像処理装置(DVDレコーダ、ビデオデッキなど)、携帯電話、PHS(Personal Handyphone System)、携帯用音楽再生装置、携帯用映像処理装置、PDA(Personal Digital Assistants)、家庭用ゲーム機器、携帯用ゲーム機器、家電機器、および車載器などの情報処理装置であってもよい。
【0034】
また、受信機20は、人間や貨物などを乗せて移動可能な移動体に搭載されてもよい。例えば、移動体としては、二輪車や三輪車などの自動車や、自転車、バス、電車、新幹線、路面電車、飛行機、船、ボートなどの多様な乗り物があげられる。
【0035】
[1−2.航法メッセージの構成]
次に、図2を参照し、人工衛星10から送信される航法メッセージの構成について説明する。
【0036】
図2は、航法メッセージのフレーム構成を示した説明図である。図2に示したように、航法メッセージの1フレームは、5つのサブフレームから構成される。また、1フレーム長さは30秒であり、1500bitsの情報量を有する。各サブフレームには航法メッセージの送信時刻TOWが含まれる。また、最初のサブフレーム1から3つ目のサブフレーム3には、軌道長半径、離心率、平均近点角、昇降点経度、近地点引数、および軌道傾斜角などの要素を算出するためのパラメータであるエフェメリス情報が含まれる。一方、4つ目のサブフレーム4および5つ目のサブフレーム5には、全ての人工衛星10で共通のアルマナック(Almanac)情報が含まれる。アルマナック情報は、全ての人工衛星10の6要素や、いずれの人工衛星10が使用可能であるかを示す情報などが含まれる。
【0037】
また、各サブフレームには、固定パターンであるプリアンブルの後にデータが記載される。各サブフレームは、10ワードで構成され、長さが6秒であり、300bitsの情報量を有する。
【0038】
また、各ワードは、30ビットで構成され、長さが600msecである。また、各ビットの長さは、C/Aコード(拡散符号)の20周期分である20msecである。したがって、データの伝送速度は50bpsである。また、C/Aコードは、図2に示したように、1周期が1msecであり、PRN符号の1023チップで構成される。
【0039】
[1−3.受信機の構成および動作]
図3は、本発明の一実施形態にかかる受信機20のハードウェア構成を示した説明図である。図3に示したように、受信機20は、アンテナ212、周波数変換部220、同期捕捉部240、および同期保持部250を含む受信処理部210と、CPU(Central Processing Unit)260と、RTC(Real Time Clock)264と、タイマ268と、メモリ270と、XO(水晶発振器、X’tal Oscillator)272、TCXO(Temperature Compensated X’tal Oscillator)274と、逓倍/分周器276と、加速度センサ280と、を備える。
【0040】
XO272は、所定の周波数(例えば、32.768kHz程度)を有する信号D1を発振し、発振した信号D1をRTC264へ供給する。TCXO274は、XO272と異なる周波数(例えば、16.368MHz程度)を有する信号D2を発振し、発振した信号D2を逓倍/分周器276や周波数シンセサイザ228へ供給する。
【0041】
逓倍/分周器276は、TCXO274から供給された信号D2を、CPU260からの指示に基づいて、逓倍、分周またはその双方を行なう。そして、逓倍/分周器276は、逓倍、分周またはその双方を行った信号D4を、周波数変換部220の周波数シンセサイザ228、CPU260、タイマ268、メモリ270、同期捕捉部240、および同期保持部250へ供給する。
【0042】
アンテナ212は、人工衛星10から送信された航法メッセージなどの無線信号(例えば、1575.42MHzのキャリアが拡散されたRF信号)を受信し、該無線信号を電気信号D5に変換して周波数変換部220へ供給する。
【0043】
周波数変換部220は、LNA(Low Noise Amplifier)222と、BPF(Band Pass Filter)224と、増幅器226と、周波数シンセサイザ228と、乗算器230と、増幅器232と、LPF(Low Pass Filter)234と、ADC(Analog Digital Converter)236と、を備える。この周波数変換部220は、以下に示すように、アンテナ212により受信された1575.42MHzの高い周波数を有する信号D5を、デジタル信号処理の容易化のために、例えば1.023MHz程度の周波数を有する信号D14にダウンコンバージョンする。
【0044】
LNA222は、アンテナ212から供給された信号D5を増幅し、BPF224へ供給する。BPF224は、SAWフィルタ(Surface Acoustic Wave Filter)から構成され、LNAにより増幅された信号D6の周波数成分のうちで、特定の周波数成分のみを抽出して増幅器226へ供給する。増幅器226は、BPF224により抽出された周波数成分を有する信号D7(周波数FRF)を増幅し、乗算器230へ供給する。
【0045】
周波数シンセサイザ228は、TCXO274から供給される信号D2を利用し、CPU260からの指示D9に基づいて周波数FLOを有する信号D10を生成する。そして、周波数シンセサイザ228は、生成した周波数FLOを有する信号D10を乗算器230へ供給する。
【0046】
乗算器230は、増幅器226から供給される周波数FRFを有する信号D8と、周波数シンセサイザ228から供給される周波数FLOを有する信号D10を乗算する。すなわち、乗算器230は、高周波信号をIF(Intermediate Frequency)信号D11(例えば、1.023MHz程度の周波数を有する中間周波数信号)にダウンコンバージョンする。
【0047】
増幅器232は、乗算器230によりダウンコンバージョンされたIF信号D11を増幅し、LPF234へ供給する。
【0048】
LPF234は、増幅器232により増幅されたIF信号D12の周波数成分のうちで低周波成分を抽出し、抽出した低周波成分を有する信号D13をADC236へ供給する。なお、図3においては増幅器232とADC236の間にLPF234が配置される例を説明しているが、増幅器232とADC236の間にはBPFが配置されてもよい。
【0049】
ADC236は、LPF234から供給されたアナログ形式のIF信号D13をデジタル形式に変換し、デジタル形式に変換したIF信号D14を、同期捕捉部240および同期保持部250へ供給する。
【0050】
同期捕捉部240は、CPU260による制御に基づき、逓倍/分周器276から供給される信号D4を利用し、ADC236から供給されるIF信号D14のPRN符号の同期捕捉を行い、また、IF信号D14のキャリア周波数を検出する。同期捕捉には、例えば、スライディング相関器やマッチドフィルタなどの任意の構成を用いてもよい。そして、同期捕捉部240は、PRN符号の位相やIF信号D14のキャリア周波数などを同期保持部250およびCPU260へ供給する。
【0051】
同期保持部250は、CPU260による制御に基づき、逓倍/分周器276から供給される信号D4を利用し、ADC236から供給されるIF信号D14のPRN符号とキャリアの同期保持を行なう。より詳細には、同期保持部250は、同期捕捉部240から供給されるPRN符号の位相やIF信号D14のキャリア周波数を初期値として動作する。また、同期保持部250は、ADC236から供給されるIF信号D14に含まれる航法メッセージを復調し、CPU260へ供給する。
【0052】
CPU260は、同期保持部250から供給される航法メッセージに基づいて、各人工衛星10の位置や速度を算出し、受信機20の位置を計算する。また、CPU260は、航法メッセージに基づいてRTC264の時間情報の補正を行なったり、制御端子、I/O端子、および付加機能端子などに接続され各種制御を行なったりする。また、本発明の一実施形態にかかるCPU260は、同期保持部250のPLL254のループ次数を制御する制御部としての機能も有する。
【0053】
RTC264は、XO272から供給される所定の周波数を有する信号D1を利用して時間を計測する。RTC264が計測する時間は、CPU260により適宜補正される。
【0054】
タイマ268は、逓倍/分周器276から供給される信号D4を利用して計時する。かかるタイマ268は、CPU260による各種制御の開始タイミングを決定する際などに参照される。例えば、CPU260は、同期捕捉部240により捕捉されたPRN符号の位相に基づいて同期保持部250のPRN符号発生器の動作を開始させるタイミングを決定する際に、タイマ268を参照する。
【0055】
メモリ270は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read−Only Memory)などからなり、CPU260による作業空間、プログラムの記憶部、航法メッセージの記憶部などとしての機能を有する。メモリ270においては、CPU260等による各種処理を行う際のワークエリアとしてRAMが用いられる。また、入力された各種データをバッファリングする際や、同期保持部250より得られた人工衛星10の軌道情報であるエフェメリスおよびアルマナック、演算過程で生成される中間データ及び演算結果データの保持ためにもRAMが用いられる。また、メモリ270においては、各種プログラムや固定データ等を記憶する手段としてROMが用いられる。また、メモリ270においては、受信機20の電源が切られている間であっても、人工衛星10の軌道情報であるエフェメリスおよびアルマナック、および測位結果の位置情報、TCXO12の誤差量などを記憶する手段として不揮発メモリが用いられる場合がある。
【0056】
加速度センサ280は、受信機20の加速度を測定する。加速度センサ280により測定された受信機20の加速度はCPU260へ供給される。
【0057】
なお、図3に示した受信機20の構成のうちで、XO272,TCXO274、アンテナ212、LNA222およびBPF224を除く構成を、1チップからなる集積回路に実装することも可能である。
【0058】
続いて、図4を参照し、上述した受信機20の動作例を説明する。
【0059】
図4は、本発明の一実施形態にかかる受信機20の動作例の流れを示したフローチャートである。図4に示したように、受信機20が起動されると、CPU260が初期設定を行う(S42)。続いて、RTC264により1秒がカウントされると(S44)、CPU260は各チャンネルに対して人工衛星10を割当てる(S46)。
【0060】
その後、受信処理部210により航法メッセージが取得されると(S48)、CPU260は、同期保持中の人工衛星から実際に測位計算に利用する少なくとも4個以上の人工衛星10を選択する(S50)。そして、CPU260は、選択した人工衛星10の現在位置、および速度を算出し(S52)、算出された人工衛星10の現在位置、および速度に基づいて受信機20の現在位置、および速度を計算する(S54)。
【0061】
続いて、CPU260は、計算した受信機20の現在位置、および速度を表す出力メッセージを作成し(S56)、該出力メッセージに応じたコマンド処理を実行した後にS44の処理に戻る(S58)。
【0062】
[1−4.同期保持部の構成]
次に、図5および図6を参照し、同期保持部250の構成を説明する。
【0063】
図5は、同期保持部250の構成を示した説明図である。図5に示したように、同期保持部250は、複数の同期保持チャンネル回路252A、252B・・・を備える。ここで、各同期保持チャンネル回路252は1の人工衛星10から送信された無線信号の処理を行うので、複数の同期保持チャンネル回路252A、252B・・・を備える同期保持部250は、複数の人工衛星10から送信された無線信号を並列的に処理できる。
【0064】
また、同期保持チャンネル回路252は、PLL(Phase−Locked Loop)254と、DLL(Delay−locked Loop)256と、PRN符合発生成器258と、を備える。
【0065】
PLL254は、1の人工衛星10から送信された無線信号のIF信号D14のキャリアの同期保持を行い、トラッキング中の人工衛星10のキャリア周波数を出力する。得られたキャリア周波数はDLL256に供給され、測位計算に用いられる。また、PLL254においては航法メッセージの抽出も行われ、抽出された航法メッセージはCPU260に供給される。
【0066】
DLL256は、1の人工衛星10から送信された無線信号のIF信号D14のPRN符号の同期保持を行い、トラッキング中の人工衛星10のPRN符号の位相と周波数を出力する。得られたPRN符号位相はPLL254に供給され、測位計算に用いられる。また、DLL256において得られたPRN符号周波数はPRN符号発生器258に供給される。
【0067】
PRN符号発生器258は、DLL256において得られたPRN符号周波数に対応するPRN符号を生成する。PRN符号発生器258が生成するPRN符号の種類は同期保持すべき人工衛星10の種類に対応し、CPU260により指示される。
【0068】
図6は、PLL254の詳細な構成を示した説明図である。図6に示したように、PLL254は、ミキサー103、ミキサー104、およびミキサー105と、LPF106およびLPF107と、位相検出器108と、ループフィルタ109と、NCO110と、を備える。
【0069】
ミキサー103は、ADC236から供給されるIF信号D14と、PRN符号発生器258が出力するPRN符号の遅れ無し(PromptまたはPunctual)信号を乗算し、IF信号D14に含まれる特定の人工衛星10のPRN符号を逆拡散する。ミキサー103により逆拡散された信号は、ミキサー104およびミキサー105に供給される。
【0070】
ミキサー104は、ミキサー103の出力とNCO110が出力するcos成分を乗算することにより、トラッキング中の無線信号のキャリアのI成分を抽出する。このI成分は、トラッキング中の無線信号のキャリア周波数とNCO110が発生するキャリアの周波数の和および差を周波数成分として有する。また、ミキサー104において抽出されたI成分はLPF106に供給される。
【0071】
ミキサー105は、ミキサー103の出力とNCO110が出力するsin成分を乗算することにより、ミキサー103の出力からトラッキング中の無線信号のキャリアのQ成分を抽出する。このQ成分は、トラッキング中の無線信号のキャリア周波数とNCO110が発生するキャリアの周波数の和および差を周波数成分として有する。また、ミキサー105において抽出されたQ成分はLPF107に供給される。
【0072】
LPF106は、ミキサー104の出力に含まれる無線信号およびNCO110が発生するキャリアの周波数の和および差の周波数成分のうちで、差の周波数成分を抽出する。LPF106において抽出された周波数成分は位相検出器108に供給される。
【0073】
同様に、LPF107は、ミキサー105の出力に含まれる無線信号およびNCO110が発生するキャリアの周波数の和および差の周波数成分のうちで、差の周波数成分を抽出する。LPF107において抽出された周波数成分は位相検出器108に供給される。なお、このようなLPF106および107は、帯域外ノイズを除去する役割も有する。
【0074】
位相検出器108は、LPF106および107の出力に基づき、トラッキング中の無線信号のキャリアとNCO110が発生するキャリアの位相差を検出する。位相検出器108において検出された位相差を示す位相差情報はループフィルタ109に供給される。
【0075】
ループフィルタ109は、位相差情報から不要なノイズを取り除きつつ、所望のループの応答を実現するためのLPFである。ループフィルタ109の出力はNCO110に供給される。なお、ループフィルタ109におけるループの応答を特徴付けるパラメータはCPU260から与えられる。
【0076】
NCO110は、入力に応じた周波数に対応するキャリア信号を生成する。NCO110は、基準となるキャリア信号D101と90度位相が遅れた信号D102を生成する。NCO110において生成されたキャリア信号D101はミキサー104へ、キャリア信号D102はミキサー105へ供給される。
【0077】
<2.背景>
以上説明したように、同期保持部250は、人工衛星10から送信される無線信号のキャリアの同期保持を行うためのPLL254を備え、PLL254の特性はループフィルタ109に依存する。以下、図7および図8を参照し、2次PLL用のループフィルタの回路構成、および3次PLL用のループフィルタの回路構成について説明する。
【0078】
図7は、2次PLL用のループフィルタの回路構成の一例を示した説明図である。図7に示したように、2次PLL用のループフィルタの回路構成は、遅延素子131および132、加算器141〜143、乗算器121および122を備える。なお、乗算器121は入力をB倍し、乗算器122は入力をA倍する。このような回路構成を有する2次PLL用のループフィルタは、以下の数式1に示す差分方程式により表現される。
【0079】
【数1】

【0080】
ここで、位相検出器108からの最新の出力が入力xであり、位相検出器108からの1つ前の出力が入力xn−1である。また、図7に示したループフィルタからの最新の出力が出力yであり、図7に示したループフィルタからの1つ前の出力が出力yn−1である。また、AおよびBは乗算器122および乗算器121において乗算される係数であり、PLLの特性を決定するためのパラメータである。
【0081】
図8は、3次PLL用のループフィルタの回路構成の一例を示した説明図である。図8に示したように、3次PLL用のループフィルタの回路構成は、遅延素子133〜136と、加算器144〜150と、乗算器123〜125と、を備える。なお、乗算器123は入力をE倍し、乗算器124は入力をD倍し、乗算器125は入力をC倍する。このような回路構成を有する3次PLL用のループフィルタは、以下の数式2に示す差分方程式により表現される。
【0082】
【数2】

【0083】
ここで、2次のPLLは、加速度運動下において位相誤差が生じる(加速度追従性が悪い)が、ループとしての安定度が高い(ノイズに強い)。一方、3次のPLLは、加速度追従性が良いが、ループとしての安定度は2次のPLLと比較して低い(ノイズに弱い)。
【0084】
このように、2次のPLLと3次のPLLの利点は異なるため、状況に応じて使い分けることが望まれる。しかし、PLLにおいて2次PLL用のループフィルタの回路構成と3次PLL用のループフィルタの回路構成とを別個に設けると、回路規模が増大してしまうという問題があった。
【0085】
そこで、上記事情を一着眼点にして本発明の一実施形態にかかるPLL254を創作するに至った。本発明の一実施形態にかかるPLL254によれば、回路規模の増大を抑制しつつ、ループの次数を適宜切り替えることができる。以下、このようなPLL254を実現するためのループフィルタ109について詳細に説明する。
【0086】
<3.本発明の一実施形態にかかるループフィルタの構成>
図7および図8を参照すると、3次PLL用のループフィルタの回路構成は、2次PLL用のループフィルタの回路構成を包含していることが確認される。より具体的には、図8において点線で囲った領域内の回路構成は、2次PLL用のループフィルタの回路構成に対応している。そこで、本発明の一実施形態として、この点に着眼し、図9に示す回路構成を有するループフィルタを提案する。
【0087】
図9は、本発明の実施形態にかかるループフィルタ109の回路構成を示した説明図である。図9に示したように、本発明の実施形態にかかるループフィルタ109は、レジスタやRAMなどの記憶素子で構成される遅延素子301〜304と、加算器305〜311と、乗算器126〜128と、スイッチS01と、を備える。
【0088】
遅延素子301、および加算器305は、数式1および数式2におけるΔxを得るための構成である。具体的には、遅延素子301がxn−1を保持し、加算器305がxから遅延素子301に保持されているxn−1を減算することによりΔxが得られる。
【0089】
また、遅延素子302および加算器306は、数式2におけるδxを得るための構成である。具体的には、遅延素子302がΔxn−1を保持し、加算器306がΔxから遅延素子302に保持されているΔxn−1を減算することによりδxが得られる。
【0090】
また、遅延素子303は、数式1および数式2におけるyn−1を得るための構成である。具体的には、遅延素子303はyn−1を保持する。
【0091】
また、遅延素子304および加算器311は、数式2におけるΔyn−1を得るための構成である。具体的には、遅延素子304がyn−2を保持し、加算器311がyn−1から遅延素子304に保持されているyn−2を減算することによりΔyn−1が得られる。
【0092】
乗算器126は、数式1におけるBxまたは数式2におけるExを得るための構成である。具体的には、乗算器126は、xにパラメータBまたはEを乗算することにより数式1におけるBxまたは数式2におけるExを得ることができる。
【0093】
乗算器127は、数式1におけるAΔxまたは数式2におけるDΔxを得るための構成である。具体的には、乗算器127は、加算器305から出力されるΔxにパラメータAまたはDを乗算することにより数式1におけるAΔxまたは数式2におけるDΔxを得ることができる。
【0094】
乗算器128は、数式2におけるCδxを得るための構成である。具体的には、乗算器128は、加算器306から出力されるδxにパラメータCを乗算することにより数式2におけるCδxを得ることができる。
【0095】
なお、これら乗算器126〜128を、ビットシフタで構成してもよい。このような乗算器126〜128によれば、2のn乗倍(nは整数でn≧0)をnビット左シフトで実現し、2の−n乗倍をnビット右シフトで実現することができる。したがって、乗算器126〜128をビットシフタで構成することにより、回路規模を削減することが可能である。ただし、乗算器126〜128をビットシフタで構成する場合には、設定可能な乗数に制約が生じるため、事前の設計検討が重要である。
【0096】
加算器307は、数式1におけるAΔxとBxとの加算、および数式(2)におけるDΔxとExとの加算を行う。
【0097】
加算器308は、数式2におけるCδxと、加算器307により得られたDΔxおよびExの加算値との加算を行う。
【0098】
加算器309は、加算器311により得られた数式2におけるΔyn−1と、加算器308からの出力との加算を行う。
【0099】
加算器310は、スイッチS01が端子Aを介して加算器309と接続されている場合、遅延素子303に保持されているyn−1と、加算器309からの出力との加算を行う。一方、加算器310は、スイッチS01が端子Bを介して加算器307と接続されている場合、遅延素子303に保持されているyn−1と、加算器307からの出力との加算を行う。
【0100】
スイッチS01(切替部)は、一端が加算器310と接続されており、他端が端子Aを介して加算器309、または端子Bを介して加算器307と接続される。なお、スイッチS01と端子AまたはBとの接続は、詳細については後述するが、CPU260が無線信号の受信強度や受信機20の加速度などの受信機20の現在状態に基づいて制御する。
【0101】
以上説明したループフィルタ109は、図8に示した3次PLL用のループフィルタの回路構成に、スイッチS01、端子AおよびBが追加されたものである。このようなループフィルタ109は、スイッチS01が端子Aと接続されている場合、3次PLL用のループフィルタの回路構成の全体が有効化されるため、3次PLL用のループフィルタとして動作することができる。そして、PLL254のループ次数が3次となる。
【0102】
一方、スイッチS01が端子Bと接続されている場合、図9に示した回路構成のうちで、点線で囲った領域内の回路構成のみが有効化される。ここで、図9において点線で囲った領域内の回路構成は、図7に示したように、2次PLL用のループフィルタの回路構成に対応している。したがって、ループフィルタ109は、スイッチS01が端子Bと接続されている場合、2次PLL用のループフィルタの回路構成のみが有効化され、2次PLL用のループフィルタとして動作することができる。そして、PLL254のループ次数が2次となる。なお、有効化という語に関し、ループフィルタ109からの出力は、有効化された回路構成における処理に依存し、有効化されていない回路構成に依存しない。
【0103】
ここで、このPLL254は、ループ次数に応じ、同期保持の性能、すなわちトラッキング性能が変化する。例えば、PLL254のループ次数が2である場合(スイッチS01が端子Bと接続されている場合)、加速度追従性が悪いが、ノイズに強い。一方、PLL254の次数が3である場合(スイッチS01が端子Aと接続されている場合)、加速度追従性は良いが、ノイズに弱い。
【0104】
そこで、CPU260がスイッチS01の接続端子を適切に切り替えることにより、2次のPLL254の利点および3次のPLL254の利点を活かすことが可能である。なお、CPU260は、スイッチS01の切替えと併せて、乗算器126〜128が乗算するパラメータも切り替える。また、本発明の一実施形態においては上記切換えをソフトウェアにより行う例を説明するが、ハードウェアにより上記切換えを実現してもよい。
【0105】
また、本発明の一実施形態にかかるループフィルタ109は、2次PLL用および3次PLL用のループフィルタの回路構成を個別に組み合せる場合と比較して、回路規模の拡大量を抑制することができる。以下、2次PLL用の回路構成、3次PLL用の回路構成、双方を個別に組み合わせた回路構成、および本発明の実施形態による回路構成の規模を具体的に比較する。
【0106】
【表1】

【0107】
表に示したように、本発明の実施形態によれば、PLL254のループ次数を2次と3次とで切換えが可能なループフィルタ109を、3次PLL用のループフィルタの回路構成と同等の回路規模で実現することが可能である。さらに、2次PLL用の回路構成と3次PLL用の回路構成を個別に組み合せる場合には、双方の回路構成を接続するための配線領域も必要となるので、本発明の一実施形態によれば、演算器の個数削減以上の効果が得られる。
【0108】
<4.ループフィルタの制御方法>
以上説明したループフィルタ109におけるスイッチS01の切替えは、CPU260が受信機20の現在状態に応じて制御する。以下、CPU260によるループフィルタ109の制御方法について具体的に説明する。
【0109】
[4−1.第1の例]
第1の例においては、CPU260は、人工衛星10からの受信信号の信号強度に基づいてスイッチS01の切替えを制御する。以下、図10を参照し、第1の例にかかる制御方法を説明する。
【0110】
図10は、ループフィルタ109の第1の例にかかる制御方法の流れを示したフローチャートである。図10に示したように、まず、トラッキング中の受信信号の信号強度Lの測定が行われる(S404)。ここで、信号強度Lの測定は、例えばLPF106における処理に該当する。すなわち、本発明の実施形態においては、LPF106からの出力を受信信号の信号強度Lとして扱っても、LPF106からの出力の平均値を受信信号の信号強度Lとして扱ってもよい。さらに、本発明の実施形態においては、LPF106からの出力(I成分)およびLPF107からの出力(Q成分)の二乗和の平均値を受信信号の信号強度Lとして扱ってもよい。
【0111】
その後、ループフィルタ109においてスイッチS01が端子Aと接続されており、PLL254のループ次数が3次である場合(S408)、CPU260は、信号強度Lが閾値Mを下回っているか否かを判断する(S412)。そして、CPU260は、信号強度Lが閾値Mを下回っている場合、スイッチS01の接続先を端子Bに切り替えることにより、PLL254のループ次数を2次に切り替える(S416)。
【0112】
なお、閾値Mは、メモリ270のROMに保存されている。CPU260は、起動時にこのROMに保存されている閾値Mをメモリ270のRAMの特定領域にコピーし、この特定領域を信号強度Lと閾値Mの比較の際に参照する。また、CPU260は、トラッキング動作中に閾値Mの値を動的に変更することも可能である。
【0113】
一方、ループフィルタ109においてスイッチS01が端子Bと接続されており、PLL254のループ次数が2次である場合(S408)、CPU260は、信号強度Lが閾値M以上であるか否かを判断する(S420)。そして、CPU260は、信号強度Lが閾値M以上である場合、スイッチS01の接続先を端子Aに切り替えることにより、PLL254のループ次数を3次に切り替える(S424)。
【0114】
なお、CPU260は、上記のS412やS420に示した信号強度Lと閾値Mとの比較を、1msec間隔や20ms間隔など所定間隔で行ってもよい。
【0115】
以上説明したように、信号強度Lが閾値M以上である場合には、PLL254がCPU260による制御に基づき3次のPLLとして同期保持を行うので、加速度追従性の向上を図ることができる。一方、信号強度Lが閾値M未満である場合には、PLL254がCPU260による制御に基づき2次のPLLとして同期保持を行うので、受信感度の向上を図ることができる。
【0116】
なお、閾値Mが高いほどPLL254が3次のPLLとして動作する割合が減少し、2次のPLLとして動作する割合が増加するので、加速度追従性の改善される場合が減少する。一方、閾値Mを低くし過ぎると、PLL254が3次のPLLとして動作している間にノイズの影響によりトラッキングが失敗してしまうことが想定される。したがって、閾値Mは、3次のPLLとして動作するPLL254がトラッキング可能な信号強度の範囲でなるべく低く設定することが効果的である。
【0117】
[4−2.第2の例]
第2の例においては、CPU260は、加速度センサ280により測定される受信機20の加速度に基づいてスイッチS01の切替えを制御する。以下、図11を参照し、第2の例にかかる制御方法を説明する。
【0118】
図11は、ループフィルタ109の第2の例にかかる制御方法の流れを示したフローチャートである。図11に示したように、まず、加速度センサ280により受信機20の加速度aの測定が行われる(S504)。なお、加速度センサ280により測定される加速度の平均値を加速度aとして扱ってもよい。
【0119】
その後、ループフィルタ109においてスイッチS01が端子Aと接続されており、PLL254のループ次数が3次である場合(S508)、CPU260は、加速度aの絶対値が閾値Nを下回っているか否かを判断する(S512)。そして、CPU260は、加速度aの絶対値が閾値Nを下回っている場合、スイッチS01の接続先を端子Bに切り替えることにより、PLL254のループ次数を2次に切り替える(S516)。
【0120】
なお、閾値Nは、メモリ270のROMに保存されている。CPU260は、起動時にこのROMに保存されている閾値Nをメモリ270のRAMの特定領域にコピーし、この特定領域を加速度aの絶対値と閾値Nの比較の際に参照する。また、CPU260は、トラッキング動作中に閾値Nの値を動的に変更することも可能である。
【0121】
一方、ループフィルタ109においてスイッチS01が端子Bと接続されており、PLL254のループ次数が2次である場合(S508)、CPU260は、加速度aの絶対値が閾値N以上であるか否かを判断する(S520)。そして、CPU260は、加速度aの絶対値が閾値N以上である場合、スイッチS01の接続先を端子Aに切り替えることにより、PLL254のループ次数を3次に切り替える(S524)。
【0122】
なお、CPU260は、上記のS512やS520に示した信号強度Lと閾値Nとの比較を、1msec間隔や20ms間隔など所定間隔で行ってもよい。
【0123】
以上説明したように、加速度aの絶対値が閾値N以上である場合には、PLL254がCPU260による制御に基づき3次のPLLとして同期保持を行うので、加速度追従性の向上を図ることができる。より具体的には、受信機20を搭載する車両がカーブに入ると、加速度aの増加によりPLL254の次数が3次に切替えられ、加速度追従性を向上されることが期待される。一方、加速度aの絶対値が閾値N未満である場合には、PLL254がCPU260による制御に基づき2次のPLLとして同期保持を行うので、受信感度の向上を図ることができる。
【0124】
なお、閾値Nが高いほどPLL254が3次のPLLとして動作する割合が減少し、2次のPLLとして動作する割合が増加するので、加速度追従性の改善される場合が減少する。一方、閾値Nを低くし過ぎると、PLL254が3次のPLLとして動作している間にノイズの影響によりトラッキングが失敗してしまうことが想定される。したがって、閾値Mは、3次のPLLとして動作するPLL254がトラッキング可能な加速度aの絶対値の範囲でなるべく低く設定することが効果的である。
【0125】
<5.まとめ>
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、受信機20の現在状態に応じてPLL254のループ次数を切り替えることにより、2次のPLLの利点および3次のPLLの利点を活かすことができる。例えば、信号強度Lが閾値M以上である場合には、PLL254がCPU260による制御に基づき3次のPLLとして同期保持を行うので、加速度追従性の向上を図ることができる。一方、信号強度Lが閾値M未満である場合には、PLL254がCPU260による制御に基づき2次のPLLとして同期保持を行うので、受信感度の向上を図ることができる。
【0126】
また、本発明の実施形態によればPLL254のループ次数を2次と3次とで切換えが可能なループフィルタ109を、3次PLL用のループフィルタの回路構成と同等の回路規模で実現することが可能である。さらに、2次PLL用の回路構成と3次PLL用の回路構成を個別に組み合せる場合には、双方の回路構成を接続するための配線領域も必要となるので、本発明の実施形態によれば、演算器の個数削減以上の効果が得られる。さらに、本発明の実施形態によれば、消費電力の削減にも寄与することができる。
【0127】
また、本発明の実施形態によれば、高い加速度追従性を必要としない場面ほど、受信機20が搭載される機器において想定される加速度が低いほど、閾値MまたはNを高く設定してもよい。その結果、PLL254が2次PLLとして動作する場合が増加し、2次PLLの利点である安定性を活かすことができる。
【0128】
一方、弱信号下での同期保持を考慮する必要がない場面ほど、または受信機20が搭載される機器において弱信号下での同期保持を考慮する必要がないほど、閾値MまたはNを低く設定してもよい。その結果、PLL254が3次PLLとして動作する場合が増加し、3次PLLの利点である加速度追従性を活かすことが可能である。
【0129】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0130】
例えば、本明細書の受信機20の処理における各ステップは、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はない。例えば、受信機20の処理における各ステップは、並列的あるいは個別に実行される処理(例えば、並列処理あるいはオブジェクトによる処理)を含んでもよい。
【0131】
また、本明細書においては、PLL254のループ次数を2次と3次とで切替える例を説明したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、n次のPLL用の回路構成を包含するm次(m>n)のPLL用の回路構成をループフィルタ109に設け、スイッチS01によりいずれの回路構成を有効化するかを切替えることにより、PLL254のループ次数をn次とm次とで切替えることができる。
【0132】
また、上記ではPLL254のループ次数の切換えに信号強度Lまたは加速度aが利用される例を説明したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、PLL254のループ次数の切換えに信号強度Lおよび加速度aの双方を複合的に利用してもよい。
【符号の説明】
【0133】
10、10A、10B、10C、10D 人工衛星
108 位相検出器
109 ループフィルタ
110 NCO
20 受信機
240 同期捕捉部
250 同期保持部
252 同期保持チャンネル回路
254 PLL
256 DLL
258 PRN符号発生器
260 CPU
280 加速度センサ





【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号の同期保持を行うための位相同期ループを備え、
前記位相同期ループは、
n次の位相同期ループ用の回路構成nを包含する、m次の位相同期ループ用の回路構成m(m>n)、を有するループフィルタと、
前記ループフィルタにおいて有効化される回路構成を、前記回路構成nと前記回路構成mとで切替える切替部と、
を含む、通信装置。
【請求項2】
前記通信装置の現在状態の変化に応じて前記切替部による前記回路構成の切替えを制御する制御部をさらに備える、請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記受信信号の信号強度測定に基づいて得られる値と閾値とを比較し、
前記値が前記閾値以上になった場合、前記切替部に、前記ループフィルタにおいて有効化される回路構成を、前記回路構成nから前記回路構成mに切替えさせ、
前記値が前記閾値未満になった場合、前記切替部に、前記ループフィルタにおいて有効化される回路構成を、前記回路構成mから前記回路構成nに切替えさせる、請求項2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記受信信号の信号強度測定に基づいて得られる値と前記閾値との比較を周期的に行う、請求項3に記載の通信装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記通信装置の加速度測定に基づいて得られる値と閾値とを比較し、
前記値が前記閾値以上になった場合、前記切替部に、前記ループフィルタにおいて有効化される回路構成を、前記回路構成mから前記回路構成nに切替えさせ、
前記値が前記閾値未満になった場合、前記切替部に、前記ループフィルタにおいて有効化される回路構成を、前記回路構成nから前記回路構成mに切替えさせる、請求項2に記載の通信装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記受信信号の信号強度測定に基づいて得られる値と前記閾値との比較を周期的に行う、請求項5に記載の通信装置。
【請求項7】
n次の位相同期ループ用の回路構成nを包含する、m次の位相同期ループ用の回路構成m(m>n)、を有するループフィルタと、
前記ループフィルタにおいて有効化される回路構成を、前記回路構成nと前記回路構成mとで切替える切替部と、
を備える、位相同期ループ。
【請求項8】
受信信号の同期保持を行うための位相同期ループを備え、
前記位相同期ループは、
n次の位相同期ループ用の回路構成nを包含する、m次の位相同期ループ用の回路構成m(m>n)、を有するループフィルタと、
前記ループフィルタにおいて有効化される回路構成を、前記回路構成nと前記回路構成mとで切替える切替部と、
を含む通信装置が搭載された移動体。
【請求項9】
受信信号の同期保持を行うための位相同期ループに含まれる、n次の位相同期ループ用の回路構成nを包含するm次の位相同期ループ用の回路構成m(m>n)を有するループフィルタにおいて、
有効化される回路構成を、前記回路構成nと前記回路構成mとで切替えるステップ、
を含む、通信方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−245635(P2010−245635A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89395(P2009−89395)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】