説明

通信装置

【課題】DCキャリアリークを抑制することができる通信装置を提供することを課題とする。
【解決手段】通信装置は、無線信号を送信する送信回路(32)と、無線信号を受信する受信回路(33)と、DCキャリアリーク量を制御する制御部(31)とを有する。前記受信回路は、前記送信回路の出力信号を入力する場合には、受信信号を入力する場合に対して、周波数がシフトしたI信号及びQ信号を出力する。前記制御部は、前記受信回路が前記送信回路の出力信号を入力する場合には、前記受信回路により出力されるI信号及びQ信号を基にDCキャリアリーク量を検出し、前記検出されたDCキャリアリーク量に応じて前記送信回路が送信する信号のDCキャリアリーク量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通信方式として、直交周波数分割多重変調(OFDM;Orthogonal Frequency Division Multiplex)方式がある。OFDM方式を用いた移動体通信では、アナログ送受信機の直交変調に使用される局部発振器信号が、RFの送信信号中にリークすることがある。このリークは、主にアナログ素子の固体差及び経時変化等による不整合のために、アナログ送信機の乗算器の段において発生する。
【0003】
送信信号中にキャリアリークを有すると、無線通信システムにおいて、一般的に規定されている最大許容放射エネルギー(送信スペクトラムマスク)を満足しない可能性がある。この規定を満足しない場合は、他の送信信号及び受信信号又は他の無線通信システムを妨害する可能性がある。
【0004】
また、規定内であっても、特表2006−527530号公報に記載されているような送信信号を検波し、キャリアリークを抑制する機能へフィードバックする方法や、特開平9−83587号公報に記載されているような送信信号が送信されていない時間にキャリアリークを検出し、キャリアリークを抑制する機能へフィードバックする方法が開示されている。
【0005】
また、特開2000−196561号公報には、周波数オフセットが生じている直交周波数分割多重変調された信号から、簡単な構成で精度よく周波数オフセットを推定する方法及び受信機が開示されている。
【0006】
また、特開平10−322303号公報には、受信側と送信側の受信時の周波数ずれを補正する受信機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2006−527530号公報
【特許文献2】特開平9−83587号公報
【特許文献3】特開2000−196561号公報
【特許文献4】特開平10−322303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特表2006−527530号公報に記載されている方法は、マルチキャリア信号中のキャリアリーク以外の成分もまとめて検出するため、キャリアリーク量を正確に検出することはできない。また、特開平9−83587号公報に記載されている方法は、動作時において送信信号中に含まれるキャリアリーク成分を検出することはできない。
【0009】
本発明の目的は、DC(直流)キャリアリークを抑制することができる通信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一観点によれば、無線信号を送信する送信回路と、無線信号を受信する受信回路と、DCキャリアリーク量を制御する制御部とを有し、前記送信回路は、I信号に対して第1の搬送波信号を乗算する第1の乗算器と、Q信号に対して前記第1の搬送波信号を90度位相シフトした信号を乗算する第2の乗算器と、前記第1の乗算器及び前記第2の乗算器の出力信号を合成した信号を増幅して出力する送信アンプとを有し、前記受信回路は、前記送信回路の出力信号又は受信信号を入力し、前記入力した信号を増幅する受信アンプと、前記受信アンプにより増幅された信号に対して第2の搬送波信号を乗算することによりI信号を出力する第3の乗算器と、前記受信アンプにより増幅された信号に対して前記第2の搬送波信号を90度位相シフトした信号を乗算することによりQ信号を出力する第4の乗算器とを有し、前記受信回路は、前記送信回路の出力信号を入力する場合には、前記受信信号を入力する場合に対して、周波数がシフトしたI信号及びQ信号を出力し、前記制御部は、前記受信回路が前記送信回路の出力信号を入力する場合には、前記受信回路により出力されるI信号及びQ信号を基にDCキャリアリーク量を検出し、前記検出されたDCキャリアリーク量に応じて前記送信回路が送信する信号のDCキャリアリーク量を制御することを特徴とする通信装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
受信回路が送信回路の出力信号を入力する場合には、周波数がシフトしたI信号及びQ信号を出力するので、送信回路の出力信号のDCキャリアリーク量を検出することができ、そのDCキャリアリーク量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態による通信装置の構成例を示す図である。
【図2】図2(A)〜(C)は送信信号を中心周波数からずらしてダウンコンバートし、ベースバンド周波数スペクトラムに復調した図である。
【図3】図3(A)〜(D)は図1の通信装置における信号の周波数スペクトラムの変化を表した図である。
【図4】アナログ送信回路の一部の詳細な構成例を示す回路図である。
【図5】ベースバンドのI信号及びDCオフセットの関係を表した図である。
【図6】本発明の第2の実施形態による通信装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態による通信装置の構成例を示す図である。通信装置は、OFDM方式の移動体通信装置であり、制御部31、デジタルアナログ変換器2,5、アナログ送信回路32、送信アンテナ36、第5の乗算器11、受信アンテナ37、アナログ受信回路33、アナログデジタル変換器18,19、ハイパスフィルタ20,21、及び発振器27を有する。制御部31は、送信回路1、復調回路22、DC(直流)キャリアリーク制御回路23、シフト周波数信号生成部24及びN倍逓倍器25を有する。復調回路22は、ローパスフィルタ38及び高速フーリエ変換部39を有する。アナログ送信回路32は、ローパスフィルタ3,6、直交変調部34、送信用可変アンプ9及び送信用パワーアンプ10を有する。直交変調部34は、局部発振器26、90度シフタ7、第1の乗算器4及び第2の乗算器8を有する。アナログ受信回路33は、受信用低雑音アンプ12、受信用可変アンプ13、直交変調部35及びローパスフィルタ16,17を有する。直交変調部35は、第3の乗算器14及び第4の乗算器15を有する。
【0014】
制御部31は、送受信データを符号化及び変復調を行う。アナログ送信回路32は、ベースバンド帯域からRF帯へアップコンバートする。アナログ受信回路33は、RF帯からベースバンド帯域にダウンコンバートする。
【0015】
送信回路1は、デジタルのI信号及びQ信号を生成し、I信号をデジタルアナログ変換器2に出力し、Q信号をデジタルアナログ変換器5に出力する。デジタルアナログ変換器2は、I信号をデジタルからアナログに変換し、I信号の差動信号を出力する。デジタルアナログ変換器5は、Q信号をデジタルからアナログに変換し、Q信号の差動信号を出力する。
【0016】
ローパスフィルタ3は、I信号の差動信号の低域成分のみを通過させる。ローパスフィルタ6は、Q信号の差動信号の低域成分のみを通過させる。ローパスフィルタ3及び6は、シンボル間不連続等による高調波ノイズを除去する。
【0017】
局部発振器26は、送信回路1から指示された周波数fcの搬送波信号を生成する。90度シフタ7は、局部発振器26により生成された搬送波信号を90度シフトした信号を出力する。第1の乗算器4は、ローパスフィルタ3が出力するI信号に対して局部発振器26の搬送波信号を乗算する。第2の乗算器8は、ローパスフィルタ6が出力するQ信号に対して90度シフタ7によりシフトされた信号を乗算する。直交変調部34は、直交変調によりI信号及びQ信号をベースバンド帯域からRF帯へアップコンバートする。図3(A)に示すように、直交変調部34は、中心周波数fcの送信信号を出力する。中心周波数fcには、DCキャリアリーク301が存在する。
【0018】
可変アンプ9は、乗算器4及び8の出力信号の合成信号を増幅する。パワーアンプ10は、可変アンプ9の出力信号を増幅する。送信信号は、可変アンプ9及びパワーアンプ10により所望の電力に制御される。パワーアンプ10の出力信号は、送信アンテナ36を介して送信信号として無線送信される。
【0019】
このとき、デジタルアナログ変換器2及び5等によるアナログ素子の不整合又は局部発振器26の漏洩電力によって、送信信号の中にDCキャリアリーク301が含まれる。そこで、第5の乗算器11を設ける。第5の乗算器11は、パワーアンプ10の出力信号に対してシフト周波数fsubの信号を乗算し、アナログ受信回路33内の低雑音アンプ12に入力される。発振器27は、所定周波数の信号を生成する。シフト周波数信号生成部24は、発振器27により生成された信号を基にサブキャリア周波数f0の信号を生成する。逓倍器25は、サブキャリア周波数f0の信号を入力し、N×f0の周波数fsubの信号を第5の乗算器11に出力する。DCキャリアリーク制御回路23は、逓倍器25のN(正の整数)の値を制御することができる。シフト周波数fsubの信号は、サブキャリア信号f0のN(整数)倍の周波数を有する。図3(B)に示すように、第5の乗算器11は、送信信号に対してシフト周波数fsub(N×f0)の信号を乗算し、周波数スペクトラムを±fsubだけシフトさせる。
【0020】
低雑音アンプ12は、受信アンテナ37を介して無線の受信信号を入力、又は乗算器11から送信信号を入力し、増幅する。可変アンプ13は、低雑音アンプ12の出力信号を増幅する。低雑音アンプ12及び可変アンプ13は、入力信号を直交変調部35に対して適切な電力に調整する。
【0021】
第3の乗算器14は、可変アンプ13の出力信号に対して局部発振器26の搬送波信号を乗算することにより、I信号を出力する。第4の乗算器15は、可変アンプ13の出力信号に対して90度シフタ7によりシフトされた信号を乗算することにより、Q信号を出力する。直交変調部35は、直交変調によりI信号及びQ信号をRF帯からベースバンド帯域へダウンコンバートする。
【0022】
ローパスフィルタ16は、乗算器14が出力するI信号の低域成分のみを通過させることにより、I信号を整形する。ローパスフィルタ17は、乗算器15が出力するQ信号の低域成分のみを通過させることにより、Q信号を整形する。アナログデジタル変換器18は、ローパスフィルタ16が出力するI信号をアナログからデジタルに変換する。アナログデジタル変換器19は、ローパスフィルタ17が出力するQ信号をアナログからデジタルに変換する。ハイパスフィルタ20は、アナログデジタル変換器18が出力するI信号の高域成分のみを通過させることにより、I信号の直流成分を除去する。ハイパスフィルタ21は、アナログデジタル変換器19が出力するQ信号の高域成分のみを通過させることにより、Q信号の直流成分を除去する。
【0023】
アナログ受信回路33がアンテナ37から受信信号(図2(A))を入力すると、直交変調部35は図2(B)の信号をf0だけ左にシフトした信号を出力し、ローパスフィルタ16及び17は図2(C)の信号をf0だけ左にシフトした信号を出力する。すなわち、DCキャリアリーク301が0の周波数に存在する。ハイパスフィルタ20及び21は、受信信号のDCキャリアリーク301を除去することができる。
【0024】
また、アナログ受信回路33が第5の乗算器11から送信信号(図3(B))を入力すると、直交変調部35は図3(C)の信号を出力し、ローパスフィルタ16及び17は図3(D)の信号を出力する。DCキャリアリーク301は、シフト周波数fsub(=N×f0)に存在するので、ハイパスフィルタ20及び21により除去されない。
【0025】
復調回路22は、ローパスフィルタ38及び高速フーリエ変換部39を有する。ローパスフィルタ38は、ハイパスフィルタ20及び21が出力するI信号及びQ信号の高域成分を遮断し、低域成分のみを通過させる。高速フーリエ変換部39は、ローパスフィルタ38の出力信号を高速フーリエ変換し、I信号及びQ信号の周波数スペクトラムを生成する。復調回路22は、高速フーリエ変換された信号を基にローパスフィルタ38の遮断周波数を制御する。例えば、周波数スペクトラムを基に遮断周波数近傍の信号が不必要に遮断されている場合には、遮断周波数が低すぎると判断し、ローパスフィルタ38の遮断周波数が高くなるように制御する。
【0026】
DCキャリアリーク制御回路23は、復調回路22が出力するI信号及びQ信号の周波数スペクトラムを基に図3(D)のDCキャリアリーク301の量を検出し、その検出されたDCキャリアリーク301の量に応じてアナログ送信回路32が送信する信号のDCキャリアリーク量を制御する。アナログ送信回路32が出力する送信信号は、第5の乗算器11により周波数fsubだけシフトされているため、DCキャリアリーク301は周波数スペクトラム上の周波数fsubの振幅となる。DCキャリアリーク制御回路23は、DCキャリアリーク301の振幅の大きさを検出し、送信回路1に対してDCキャリアリークの抑制信号を出力する。
【0027】
なお、仮に第5の乗算器11が存在しない場合には、アナログ送信回路32の出力信号が直接、アナログ受信回路33に入力される。その場合、周波数fsubのシフトが行われないので、DCキャリアリーク301は0の周波数上に存在し、受信信号と同様に、ハイパスフィルタ20及び21により除去されてしまい、DCキャリアリーク301の量を検出することができなくなってしまう。本実施形態は、第5の乗算器11により周波数fsubだけシフトすることにより、DCキャリアリーク301の検出が可能になる。
【0028】
図2(A)〜(C)は、送信信号を中心周波数fcからf0だけずらしてダウンコンバートし、ベースバンド周波数スペクトラムに復調した図である。定量的な表現を以下に示す。
【0029】
図2(A)は、アナログ送信回路32が出力する送信信号又はアナログ受信回路33がアンテナ37を介して入力する受信信号を示す。搬送帯域の直交周波数分割多重ベースバンド信号s(t)は、次式(1)で表わされる。ここで、fcは搬送波信号の中心周波数、f0はサブキャリアの周波数である。
【0030】
【数1】

【0031】
図2(B)に示すように、搬送波信号の中心周波数fcからf0だけずらして信号s(t)を乗算器14によりダウンコンバートすると、次式(2)が成立する。
【0032】
【数2】

【0033】
図2(C)に示すように、ダウンコンバート後、ローパスフィルタ16を介して高周波成分を除去すると、次式(3)の所望のベースバンドI信号I(t)を得ることができる。
【0034】
【数3】

【0035】
同様に、ベースバンドQ信号について、信号s(t)を乗算器15によりダウンコンバートすると、次式(4)が成立する。
【0036】
【数4】

【0037】
ダウンコンバート後、ローパスフィルタ17を介して高周波成分を除去すると、次式(5)の所望のベースバンドQ信号Q(t)を得ることができる。
【0038】
【数5】

【0039】
上記I信号及びQ信号は、本来受信するベースバンド周波数スペクトラムに比べて、周波数がf0シフトした周波数スペクトラムである。
【0040】
DCキャリアリーク301は、n=0の成分(周波数f0の振幅)であるため、次式(6)のI成分Idc及びQ成分Qdcを有する。
【0041】
【数6】

【0042】
したがって、送信信号のDCキャリアリーク301は、次式(7)で表わされる。
【0043】
【数7】

【0044】
図3(A)〜(D)は、図1の通信装置における信号の周波数スペクトラムの変化を表した図である。図3(A)はアナログ送信回路32が出力する送信信号又はアナログ受信回路33がアンテナ37を介して入力する受信信号の周波数スペクトラムである。図3(B)は、第5の乗算器11によりサブキャリア周波数f0の整数倍の周波数fsub(N×f0)だけシフトされた周波数スペクトラムである。図3(C)は、直交変調部35によりダウンコンバートされた後の周波数スペクトラムである。図3(D)は、ローパスフィルタ16及び17により高域成分が除去された信号の周波数スペクトラムであり、高速フーリエ変換部39により高速フーリエ変換された後の周波数スペクトラムも同様である。この周波数スペクトラム上にてサブキャリア周波数f0の整数倍の周波数fsub(N×f0)の成分が送信信号におけるキャリアリーク301に相当する。キャリアリーク301は、ベースバンドのI信号及びQ信号のオフセットの誤差やI信号及びQ信号の振幅の誤差によって発生する。
【0045】
図4は、アナログ送信回路32の一部の詳細な構成例を示す回路図であり、ベースバンドのI信号及びQ信号からRFの送信信号へ変換する機能を示す。デジタルアナログ変換器2は、I信号をデジタルからアナログに変換し、I信号のアナログ差動信号を出力する。デジタルアナログ変換器5は、Q信号をデジタルからアナログに変換し、Q信号のアナログ差動信号を出力する。アンプ401は、デジタルアナログ変換器2が出力するI信号の差動信号を増幅する。アンプ402は、デジタルアナログ変換器5が出力するQ信号の差動信号を増幅する。ローパスフィルタ3は、アンプ401が出力するI信号の差動信号の低域成分のみを通過させる。ローパスフィルタ6は、アンプ402が出力するQ信号の差動信号の低域成分のみを通過させる。第1の乗算器3は、ローパスフィルタ3が出力するI信号の差動信号に対して局部発振器26の周波数fcの搬送波信号を乗算する。第2の乗算器8は、ローパスフィルタ6が出力するQ信号の差動信号に対して90度シフタ7の出力信号を乗算する。
【0046】
DCキャリアリーク301の発生する箇所は、主に、デジタルアナログ変換器2及び5の出力とアナログ送信回路32の入力との間の不整合や、搬送波信号の周波帯へアップコンバートする乗算器4及び8における位相のずれ及び局部発振器26からの漏れ電力等である。DCキャリアリーク制御回路23は、これらを制御することにより、DCキャリアリーク量を抑制することができる。
【0047】
図5は、ベースバンドのI信号I+,I−及びDCオフセットVp,Vnの関係を表した図である。I差動信号I+及びI−は、相互に符号が反転した信号である。DCオフセットVpは、I信号I+のDCオフセットである。DCオフセットVnは、I信号I−のDCオフセットである。DCオフセットVp及びVnは、一致していることが望ましい。DCオフセットVp及びVnのずれが、DCキャリアリーク301の発生原因になる。例えば、DCオフセットVnは電圧Icmであり、DCオフセットVpは電圧Icm+ΔI
cmである。制御部31は、デジタルアナログ変換器2又は5により変換されるアナログのDCオフセットVp又はVn等を制御することにより、DCキャリアリーク301の量を制御することができる。
【0048】
簡易的に、ベースバンドのI信号及びQ信号のDCオフセットの誤差ΔIcm及びΔQcmによるDCキャリアリーク301の発生を以下に示す。ベースバンドの信号I+,I−,Q+,Q−は、次式(8)で表される。ここで、ΔIcmはベースバンド信号I+及びI−間のDCオフセット、ΔQcmはベースバンド信号Q+及びQ−間のDCオフセットである。信号I(t)及びQ(t)は、それぞれベースバンド信号であり、上式(3)及び(5)で表わされる。
【0049】
【数8】

【0050】
したがって、DCオフセットを含むベースバンドのI信号及びQ信号は、次式(9)で表わされる。
【0051】
【数9】

【0052】
このI信号及びQ信号は、直交変調部34により、RF送信信号の周波数帯へアップコンバートされ、次式(10)で表わされる。
【0053】
【数10】

【0054】
式(10)の右辺第一項は、搬送波帯域のベースバンド信号である。右辺第二項は、ベースバンドのI信号及びQ信号のDCオフセットによるDCキャリアリーク301である。式(10)から明らかなように、DCキャリアリーク301を減らすためには、ベースバンドのI信号及びQ信号のDCオフセットΔIcm及びΔQcmを極力減らせばよいことが分かる。
【0055】
したがって、演算部31は、送信信号のDCキャリアリーク301を検出し、デジタルアナログ変換器2及び5のDCオフセットIcm及びQcmの電圧制御部へフィードバックし、ベースバンドのI信号及びQ信号のDCオフセットΔIcm及びΔQcmを減らすことにより、送信信号のDCキャリアリーク301を減らすことができる。
【0056】
(第2の実施形態)
図6は、本発明の第2の実施形態による通信装置の構成例を示す図である。図6の通信装置は、図1の通信装置に対して、送信回路1、第5の乗算器11、DCキャリアリーク制御回路23及び逓倍器25を削除し、局部発振器601、90度シフタ602、送信データ出力部611、キャリアリーク制御部612、エラーレート検出部613、DCキャリアリーク検出部614、周波数オフセット制御部615を追加したものである。以下、本実施形態が第1の実施形態と異なる点を説明する。
【0057】
低雑音アンプ12は、パワーアンプ10が出力する送信信号を直接、入力する。その場合、周波数オフセット制御部615は、シフト周波数信号生成部24が生成するシフト周波数fsubの信号を基に周波数fc−fsubの信号の発振を局部発振器601に指示する。周波数fcは、局部発振器26が生成する搬送波信号の周波数である。局部発振器601は、周波数fc−fsubの搬送波信号を生成する。90度シフタ602は、局部発振器601が生成する信号の位相を90度シフトする。第3の乗算器14は、可変アンプ13の出力信号に対して局部発振器601が生成する搬送波信号を乗算することにより、図3(C)のようにシフト周波数fsubだけシフトしたI信号を出力する。第4の乗算器15は、可変アンプ13の出力信号に対して90度シフタ602によりシフトされた信号を乗算することにより、図3(C)のようにシフト周波数fsubだけシフトしたQ信号を出力する。これ以降は、第1の実施形態と同様の処理を行うことができる。
【0058】
また、低雑音アンプ12は、アンテナ37を介して受信信号を入力する。その場合、周波数オフセット制御部615は、発振器27が生成する信号を基に周波数fcの発振を局部発振器601に指示する。局部発振器601は、周波数fcの搬送波信号を生成する。90度シフタ602は、局部発振器601が生成する信号の位相を90度シフトする。第3の乗算器14は、可変アンプ13の出力信号に対して局部発振器601が生成する搬送波信号を乗算することにより、シフト周波数fsubのシフトがないI信号を出力する。第4の乗算器15は、可変アンプ13の出力信号に対して90度シフタ602によりシフトされた信号を乗算することにより、シフト周波数fsubのシフトがないQ信号を出力する。すなわち、乗算器14及び15は、図3(C)の信号を左に周波数fsubだけシフトした信号を出力する。この場合の処理は、第1の実施形態と同じである。
【0059】
DCキャリアリーク検出部614は、第1の実施形態と同様に、復調回路22の出力信号を基にDCキャリアリーク301の量を検出する。キャリアリーク制御部612は、DCキャリアリーク検出部614により検出されたDCキャリアリーク301の量に応じて、第1の実施形態と同様に、アナログ送信回路32が送信する信号のDCキャリアリーク301の量を制御する。
【0060】
送信データ出力部611は、送信すべきI信号及びQ信号のデジタル信号をキャリアリーク制御部612を介してデジタルアナログ変換器2及び5に出力する。アナログ送信回路32は、送信データ出力部611が出力するI信号及びQ信号を基に送信信号を生成する。その送信信号は、アナログ受信回路33に入力され、復調回路22で復調される。エラーレート検出部613は、送信データ出力部611が出力したI信号及びQ信号DTと、復調回路22により復調されたI信号及びQ信号との間のエラーレートを検出する。DCキャリアリーク301がなければ、エラーレートが0になる。これに対して、DCキャリアリーク301の量が多ければ、エラーレートが高くなる。キャリアリーク制御部612は、DCキャリアリーク検出部614により検出されたDCキャリアリーク301の量及びエラーレート検出部613により検出されたエラーレートに応じて、第1の実施形態と同様に、アナログ送信回路32が送信する信号のDCキャリアリーク301の量を制御する。
【0061】
第1の実施形態では、第5の乗算器11により送信信号をシフト周波数fsubだけシフトさせているに対して、第2の実施形態では、アナログ受信回路33において、搬送波周波数fcからシフト周波数fsub(=N×f0)だけシフトさせた局部発振周波数fc−fsubにてダウンコンバートさせている。
【0062】
以上のように、第1及び第2の実施形態によれば、送信信号をアナログ受信回路33においてベースバンド周波数にダウンコンバートする際、送信信号の中心周波数fcからシフト周波数fsubだけずらした周波数でダウンコンバートさせ、ベースバンド周波数スペクトラムをシフト周波数fsubだけシフトさせる。そうすることにより、DCキャリアリーク301は、制御部31内の復調回路22において、ベースバンド周波数スペクトラムにおける周波数fsubの振幅値で復調することができるため、アナログ受信回路33にて除去されない。したがって、制御部31は、送信信号に含まれるDCキャリアリーク301の量を動作時に検出することが可能になる。
【0063】
第1及び第2の実施形態は、送信時間においてアナログ受信回路33をシフト周波数fsubだけずらして受信動作させることで実施可能なため、製品コストの削減に大きく寄与する。また、運営時に実施することが可能なため、連続稼動が求められる通信装置に対して、メンテナンスが容易になり、すなわち品質向上及びコスト削減に大きく寄与する。
【0064】
また、第1及び第2の実施形態は、受信信号を中心周波数(搬送波周波数)fcから占有帯域幅の半分の周波数だけ離れた周波数でダウンコンバートさせることにより、アナログ受信回路33にて受信信号に含まれるDCキャリアリーク301を除去することができ、アナログ受信回路33が持っているキャリアリーク除去機能(ハイパスフィルタ20,21)の削減に大きく寄与する。
【0065】
第1及び第2の実施形態の通信装置は、無線信号を送信する送信回路32と、無線信号を受信する受信回路33と、DCキャリアリーク量を制御する制御部31とを有する。送信回路32は、I信号に対して第1の搬送波信号を乗算する第1の乗算器4と、Q信号に対して第1の搬送波信号を90度位相シフトした信号を乗算する第2の乗算器8と、第1の乗算器4及び第2の乗算器8の出力信号を合成した信号を増幅して出力する送信アンプ9,10とを有する。受信回路33は、送信回路32の出力信号又は受信信号を入力し、その入力した信号を増幅する受信アンプ12,13と、受信アンプ12,13により増幅された信号に対して第2の搬送波信号を乗算することによりI信号を出力する第3の乗算器14と、受信アンプ12,13により増幅された信号に対して第2の搬送波信号を90度位相シフトした信号を乗算することによりQ信号を出力する第4の乗算器15とを有する。第1の実施形態では第1及び第2の搬送波信号は同じ信号であり、第2の実施形態では第1及び第2の搬送波信号は異なる信号である。受信回路33は、送信回路32の出力信号を入力する場合には、前記受信信号を入力する場合に対して、周波数がシフトしたI信号及びQ信号を出力する。制御部31は、受信回路33が送信回路32の出力信号を入力する場合には、受信回路33により出力されるI信号及びQ信号を基にDCキャリアリーク量を検出し、その検出されたDCキャリアリーク量に応じて送信回路32が送信する信号のDCキャリアリーク量を制御する。
【0066】
デジタルアナログ変換器2及び5は、I信号及びQ信号をデジタルからアナログに変換し、送信回路32に出力する。制御部31は、デジタルアナログ変換器2及び5により変換されるアナログのDCオフセットを制御することにより、DCキャリアリーク量を制御する。
【0067】
フィルタ20及び21は、受信回路33が受信信号を入力したときに出力するI信号及びQ信号のDCキャリアリーク301を除去し、制御部31に出力する。
【0068】
制御部31は、I信号及びQ信号をフーリエ変換するフーリエ変換部39を有し、そのフーリエ変換された信号を基にDCキャリアリーク量を検出する。
【0069】
また、制御部31は、I信号及びQ信号の低域成分のみを通過させるローパスフィルタ38と、ローパスフィルタ38の出力信号をフーリエ変換するフーリエ変換部39とを有し、フーリエ変換された信号を基にローパスフィルタ38の遮断周波数を制御する。
【0070】
第1の実施形態では、第5の乗算器11は、送信回路32の出力信号に対して周波数シフト量の周波数fsubの信号を乗算し、受信回路33に入力させる。その場合、第1の搬送波信号及び第2の搬送波信号は、同じ信号である。
【0071】
第2の実施形態では、受信回路33が受信信号を入力する場合には、第2の搬送波信号の周波数は第1の搬送波信号の周波数と同じである。また、受信回路33が送信回路32の出力信号を入力する場合には、第2の搬送波信号の周波数は第1の搬送波信号の周波数と異なる。
【0072】
第2の実施形態では、制御部31は、送信回路32が送信すべきI信号及びQ信号と、受信回路33が送信回路32の出力信号を入力したときに出力するI信号及びQ信号との間のエラーレートを検出し、その検出されたDCキャリアリーク量及びエラーレートに応じて送信回路32が送信する信号のDCキャリアリーク量を制御する。
【0073】
以上のように、第1及び第2の実施形態によれば、受信回路33が送信回路32の出力信号を入力する場合には、周波数がシフトしたI信号及びQ信号を出力するので、送信回路32の出力信号のDCキャリアリーク量を検出することができ、そのDCキャリアリーク量を抑制することができる。
【0074】
ハイパスフィルタ20及び21は、DCキャリアリークを除去することができるが、完全に除去することができずに一部のDCキャリアリークを残して出力することがある。復調回路22は、残っているDCキャリアリークが多い場合には、正しい復調を行うことができず、I信号及びQ信号の値が誤って復調されてしまう。第1及び第2の実施形態は、送信信号中のDCキャリアリークを抑制することにより、誤った復調を防止することができる。
【0075】
なお、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 送信回路
2,5 デジタルアナログ変換器
3,6,16,17 ローパスフィルタ
4,8,11,14,15 乗算器
7 90度シフタ
9,13 可変アンプ
10 パワーアンプ
12 低雑音アンプ
18,19 アナログデジタル変換器
20,21 ハイパスフィルタ
22 復調回路
23 DCキャリアリーク制御回路
24 シフト周波数信号生成部
25 逓倍器
26 局部発振器
27 発振器
31 制御部
32 アナログ送信回路
33 アナログ受信回路
34,35 直交変調部
36,37 アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線信号を送信する送信回路と、
無線信号を受信する受信回路と、
DCキャリアリーク量を制御する制御部とを有し、
前記送信回路は、
I信号に対して第1の搬送波信号を乗算する第1の乗算器と、
Q信号に対して前記第1の搬送波信号を90度位相シフトした信号を乗算する第2の乗算器と、
前記第1の乗算器及び前記第2の乗算器の出力信号を合成した信号を増幅して出力する送信アンプとを有し、
前記受信回路は、
前記送信回路の出力信号又は受信信号を入力し、前記入力した信号を増幅する受信アンプと、
前記受信アンプにより増幅された信号に対して第2の搬送波信号を乗算することによりI信号を出力する第3の乗算器と、
前記受信アンプにより増幅された信号に対して前記第2の搬送波信号を90度位相シフトした信号を乗算することによりQ信号を出力する第4の乗算器とを有し、
前記受信回路は、前記送信回路の出力信号を入力する場合には、前記受信信号を入力する場合に対して、周波数がシフトしたI信号及びQ信号を出力し、
前記制御部は、前記受信回路が前記送信回路の出力信号を入力する場合には、前記受信回路により出力されるI信号及びQ信号を基にDCキャリアリーク量を検出し、前記検出されたDCキャリアリーク量に応じて前記送信回路が送信する信号のDCキャリアリーク量を制御することを特徴とする通信装置。
【請求項2】
さらに、前記送信回路の出力信号に対して周波数シフト量の周波数の信号を乗算し、前記受信回路に入力させる第5の乗算器を有し、
前記第1の搬送波信号及び前記第2の搬送波信号は、同じ信号であることを特徴とする請求項1記載の通信装置。
【請求項3】
前記受信回路が前記受信信号を入力する場合には、前記第2の搬送波信号の周波数は前記第1の搬送波信号の周波数と同じであり、
前記受信回路が前記送信回路の出力信号を入力する場合には、前記第2の搬送波信号の周波数は前記第1の搬送波信号の周波数と異なることを特徴とする請求項1記載の通信装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記送信回路が送信すべきI信号及びQ信号と、前記受信回路が前記送信回路の出力信号を入力したときに出力するI信号及びQ信号との間のエラーレートを検出し、前記検出されたDCキャリアリーク量及びエラーレートに応じて前記送信回路が送信する信号のDCキャリアリーク量を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項5】
さらに、I信号及びQ信号をデジタルからアナログに変換し、前記送信回路に出力するデジタルアナログ変換器を有し、
前記制御部は、前記デジタルアナログ変換器により変換されるアナログのDCオフセットを制御することにより、前記DCキャリアリーク量を制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項6】
さらに、前記受信回路が前記受信信号を入力したときに出力するI信号及びQ信号のDCキャリアリークを除去し、前記制御部に出力するフィルタを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記I信号及び前記Q信号をフーリエ変換するフーリエ変換部を有し、前記フーリエ変換された信号を基にDCキャリアリーク量を検出することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記I信号及び前記Q信号の低域成分のみを通過させるローパスフィルタと、前記ローパスフィルタの出力信号をフーリエ変換するフーリエ変換部とを有し、前記フーリエ変換された信号を基に前記ローパスフィルタの遮断周波数を制御することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−213107(P2010−213107A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58541(P2009−58541)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(308014341)富士通セミコンダクター株式会社 (2,507)
【Fターム(参考)】