説明

速度制御方法及び速度制御装置

【課題】物体の通過する軌跡上の各点における曲率に応じた速度で物体を移動させる速度制御方法の提供。
【解決手段】軌跡の座標データを入力、軌跡上の各点における曲率を計算、算出された各点での曲率から各点での物体の速度を(1)式に示される角速度を用いた(2)式にて計算、算出された各点での速度を物体に出力。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の速度(すなわち、軌跡の接線速度をいう)を制御する方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボットハンドの手先や搬送台車等の物体を移動させる場合、物体の移動の開始時及び終了時には、物体の速度が所定速度となるまで加速度を一定とし、物体が所定速度となった際には、加速度を0、すなわち、速度を一定とする台形型の速度制御が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平1−237806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来のような台形型の速度制御方法では、物体が移動する経路(軌跡)が曲線である場合や角部を有する場合等の物体の経路が大きく曲がっている場所、すなわち、曲率の大きい場所においても速度が一定であるため、物体が高速で移動すると、遠心力が大きくなり、決められた軌道からずれてしまうという問題があった。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、物体の通過する軌跡上の各点における曲率に応じた速度で物体を移動させる速度制御方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係る速度制御方法は、予め設定された軌跡を通過する物体の速度制御方法であって、
前記軌跡の座標データを入力する第1工程と、
前記軌跡上の各点における曲率を計算する第2工程と、
前記算出された前記各点での曲率から該各点での前記物体の速度を(1)式に示される角速度を用いた(2)式に従って計算する第3工程と、
前記算出された各点での速度を前記物体に出力する第4工程とを有する。
【0007】
【数1】

【0008】
ここで、αは、1未満であり、好ましくは、1/3を超えかつ4/5未満、より好ましくは、1/2を超えかつ3/4未満である。この範囲内において、αが1に近い場合では曲率の小さい場所と曲率の大きい場所での速度(すなわち、接線速度)の差が人間の動作で観察されるより小さくなり、人型ロボットに応用した際には動きが不自然となり、αが1の場合には、曲率cの大小に関わらず常に物体の速度vが一定となり、αが1を超える場合には、曲率が大きくなると、速度も大きくなる。また、αが1/3以下の場合には、曲率の変化に対して、速度の変化が大きくなり過ぎる。なお、本発明において、軌跡とは、物体(運動部品上の1点、一般には、機能点又は代表点)が運動中に空間に占める位置を連ねた線のことをいう。
【0009】
本発明に係る速度制御方法において、前記物体の前記軌跡上の各点での速度を算出して、該物体の軌道生成を行うことができる。
本発明に係る速度制御方法において、前記第1工程で前記物体の最大速度を入力し、前記第3工程で前記(2)式によって算出された前記各点での前記物体の速度のデータが前記最大速度を超える場合、該物体の速度を前記最大速度以下に補正するのが好ましい。
本発明に係る速度制御方法において、前記第3工程では、前記(2)式による前記物体の速度の変化率(すなわち、加速度)が所定値以下となるように、前記物体の速度を補正してもよい。
【0010】
本発明に係る速度制御方法において、前記第2工程では、前記曲率の変化率が所定値以下となるように、前記軌跡上の各点での曲率を補正した後、前記第3工程で該補正した曲率から前記物体の速度を計算してもよい。
本発明に係る速度制御方法において、前記(2)式では、αが2/3であるのが好ましい。ここで、αが2/3である場合、(1)式は、ビビアーニ(Viviani P.)らが人間の手先の動かし方の観察から見出した心理物理的な経験則である三分の二乗則(The 2/3 power low)に従うので、(1)式に示される角速度を用いた(2)式も三分の二乗則に従う。
本発明に係る速度制御方法を、ロボットアーム又は搬送車(物体の一例)の速度を制御するのに用いてもよい。
ここで、搬送車としては、搬送台車や、レール上を移動しない無軌道台車等がある。
【0011】
前記目的に沿う本発明に係る速度制御装置は、予め設定された軌跡を通過する物体の速度制御装置であって、
前記軌跡の座標データを入力する初期値入力部と、
前記軌跡上の各点における曲率を計算する曲率計算部と、
前記算出された前記各点での曲率から該各点での前記物体の速度を(1)式に示される角速度を用いた(2)式に従って計算する速度計算部と、
前記算出された各点での速度を前記物体に出力する出力部とを有する。
本発明に係る速度制御装置において、前記出力部はロボットアーム又は搬送車(物体の一例)に前記算出された各点での速度を出力してもよい。
【発明の効果】
【0012】
請求項1〜7に記載の速度制御方法においては、入力された軌跡の座標データから、軌跡上の各点における曲率を計算し、この算出された各点での曲率から各点での物体の速度を計算するので、曲率に応じた速度で物体を移動させることができ、特に軌跡が大きく曲がっている所では、物体の速度を遅くして、予め決められた軌跡からずれ難くなる。
特に、請求項2記載の速度制御方法においては、物体の軌跡上の各点での速度を算出して、物体の軌道生成を行うので、軌道上の各点での物体の速度を制御する軌道を作成することができる。
請求項3記載の速度制御方法においては、第3工程で算出された各点での物体の速度のデータが入力した最大速度を超える場合、物体の速度を最大速度以下に補正するので、特に、曲率が小さい場所で速度超過とならない。
【0013】
請求項4記載の速度制御方法においては、第3工程で物体の速度の変化率が所定値以下となるように物体の速度を補正するので、物体が急激に加減速しないように速度を調整することができる。
請求項5記載の速度制御方法においては、第2工程で曲率の変化率が所定値以下となるように軌跡上の各点での曲率を補正した後、第3工程で補正した曲率から物体の速度を計算するので、物体が急激に加減速しないように速度を調整することができる。
請求項6記載の速度制御方法においては、αが2/3であるので、物体の動きが、三分の二乗則に従って滑らかになり、特に人型のロボットでは人の動作に近づかせることができる。
【0014】
請求項8及び9に記載の速度制御装置においては、入力された軌跡の座標データから、軌跡上の各点における曲率を計算する曲率計算部と、算出された各点での曲率から各点での物体の速度を計算する速度計算部とを有するので、曲率に応じた速度で物体を移動させることができ、特に軌跡が大きく曲がっている所では、物体の速度を遅くして、予め決められた軌跡からずれ難くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係る速度制御装置のブロック図、図2は本発明の一実施の形態に係る速度制御方法での物体の軌跡を示す説明図、図3は同速度制御方法での物体の経路長と曲率の関係を示すグラフ、図4は同速度制御方法での物体の経路長と接線速度の関係を示すグラフ、図5(A)、(B)はそれぞれ同速度制御方法での接線速度を補正した場合の説明図、図6(A)〜(D)はそれぞれ同速度制御方法での曲率を補正した場合の説明図、図7(A)、(B)はそれぞれ同速度制御方法を適用したシミュレーションでの物体の概念図、二次系システムの説明図、図8は物体の速度制御装置に予め与えられた物体の軌道を示すグラフ、図9は曲率の計算結果を示すグラフ、図10は物体の速度の計算結果を示すグラフ、図11は物体を移動させた際の軌跡を示すグラフである。
【0016】
図1〜図4を参照して、本発明の一実施の形態に係る物体の速度制御装置10について説明する。
図1に示すように、速度制御装置10は、図示しない物体(例えば、ロボットハンドの手先)が通過する予め設定された軌跡A(図2参照)及び物体の最大速度vmaxを入力する初期値入力部11と、初期値入力部11に入力された軌跡A上の各点Xにおける曲率cを計算する曲率計算部12と、初期値入力部11に入力された最大速度vmax及び曲率計算部12で計算された曲率cに基づいて、各点Xでの物体の速度vを計算する速度計算部13と、速度計算部13で算出された速度vを物体の制御部(図示せず)に出力する出力部14とを有し、物体が軌跡Aに沿って速く、かつ、正確に移動するように物体の速度の制御を行っている。
【0017】
次に、速度制御装置10を使用した物体の速度制御方法について説明する。
(第1工程)
まず、初期値入力部11に、軌跡A及び物体の最大速度vmaxを入力する。ここで、図2に示すように、軌跡Aは、中間点Mで連結された2本の直線からなり、中間点Mで折れ曲がって角部が形成された構造となっている。なお、軌跡Aは、二次元であって、軌跡A上の始点X0(x0,y0)から終点X1(x1,y1)までの複数の点Xi(xi,yi)(但し、0≦i≦1である)によって、軌跡Aの座標データが構成されている。初期値入力部11には、これら軌跡A上の全ての点の座標のデータが入力される。なお、軌跡は、三次元で与えられてもよく、また、ベジエ曲線等のパラメトリック曲線等の数式で与えてもよい。初期値入力部11から曲率計算部12に軌跡A上の各点の座標を示す数値が送られ、速度計算部13に最大速度vmaxを示す数値が送られる。
【0018】
(第2工程)
次に、曲率計算部12で軌跡A上の各点Xにおける曲率をそれぞれ計算する。
まず、物体が軌跡A上を始点X0から終点X1まで一定速度で進むと仮定し、軌跡A上の点を微小な刻み時間δtでサンプリングした際の時刻tでの速度v(t)を(3)式によって求める。また、加速度も同様に計算できるので、各点での曲率c(t)は(4)式によって求められる。
【0019】
【数2】

【0020】
ここで、軌跡A上の任意の点Xの始点X0からの距離を経路長sとして、刻み時間δtの間に刻み幅δsで軌跡A上の点をサンプリングし、時刻tに経路長sの点Xに到達する場合、経路長sの位置での接線速度v(s)は、(5)式で示される。従って、軌跡Aのみが与えられた場合の経路長sの位置での曲率c(s)は(6)式で示され、軌跡Aの経路長sでの曲率c(s)は図3のように示される。求められた曲率c(s)のデータは、速度計算部13に送られる。
【0021】
【数3】

【0022】
(第3工程)
ここで、(5)式は、等速度運動であるので、各点Xでの曲率c(s)に応じた接線速度vd(s)を(7)式によって計算する(図4では、一点鎖線で示す)。なお、パラメータをuとした場合の物体の速度v(u)は、(1)式に示される角速度ωを用いた(2)式によって計算されており、(2)式のパラメータを経路長sに置き換えることにより、(7)式が得られる。また、曲率cが曲率半径rの逆数であるので、速度vd(s)を(8)式で表すこともできる。また、速度vd(s)の大きさは速度v(s)と異なるが、それらの方向は一致するので、速度vd(s)のx方向成分xd(s)及びy方向成分yd(s)は、(9)式及び(10)式で示される。
このように、物体の速度vd(s)は、曲率c(s)に応じて決定されるので、軌跡Aが大きく曲がっている、すなわち、曲率cが大きい所では、物体の接線速度を遅くして、物体が遠心力によって軌跡Aからずれるのを防止することができる。
【0023】
【数4】

【0024】
ここで、(7)式において、αは、1未満であり、好ましくは、1/3を超えかつ4/5未満、より好ましくは、1/2を超えかつ3/4未満である。また、αを2/3とした場合には、(1)式に示す角速度ωが、人の手先の動かし方の観察から得られた心理物理的な経験則である三分の二乗則に従うので、(1)式に示される角速度ωを用いた(2)式も三分の二乗則に従う。これによって、(2)式によって計算された速度vで物体を動かした場合、物体が人の動きに近づいて滑らかに動く。なお、αが1/3以下の場合には、曲率がさほど大きくない場所でも速度が小さくなり過ぎ、αが1である場合には、速度が曲率に依らず一定となり、αが1を超える場合には、曲率が大きくなる、すなわち、曲率半径rが小さくなるに従って速度が大きくなるので不適である。
【0025】
更に、速度計算部13では、速度vd(s)が初期値入力部11に入力した物体の最大速度vmaxを超えている場合、速度vd(s)を最大速度vmax以下(例えば、最大速度vmax)にする。これによって、物体が移動する速度を抑えることができ、特に、曲率cの大きい場所、すなわち、曲率半径の小さい場所での物体の速度を遅くして、遠心力による軌跡からのずれを防止することができる。このようにして、図4に示すように、経路長sと速度vd(s)のグラフが求められる。
【0026】
(第4工程)
速度計算部13で算出された速度を出力部14から物体の動きを制御する制御部に出力する。物体の制御部は、与えられた速度で物体を移動させるので、物体が軌跡Aに沿って速く、かつ、正確に移動することができる。以上のようにして、軌道生成を行なう。
【0027】
(第1の補正の方法)
図4に示すように、始点及び終点では、曲率の値に関わらず加減速が行われる。また、軌跡Aが急に折れ曲がっている、すなわち、曲率cが急峻に大きくなる場所(中間点M)でも、物体の速度の変化率(加速度)が大きくなり、急激な加減速を行わなければならない。ここで、物体の速度の変化率とは、加速度であって、図4においてグラフの傾きで示される。
【0028】
このように物体が急激に加減速する場所では、物体が軌道上を空回りして速度が遅くなったり、遠心力によって軌跡からずれることがあるので、軌跡上を移動する物体の速度の変化率を所定値(許容値)以下に(すなわち、図4においては、傾きを小さく)して、物体が軌跡上を速くかつ正確に移動できるように、速度の変化率の大きいところの前後の速度を補正する。なお、速度の変化率の所定値は、物体によっても、また、同じ物体でも設定する軌跡によっても異なる。この速度の変化率(加速度)の所定値は、工作機械などでは10G(Gは重力加速度を示す)を超えることも可能であるが、人間が乗車する車両等では数G以内が好ましい。
【0029】
そこで、第3工程では、速度計算部13において、速度vd(s)の変化率の大きいところ(図4において、傾きの大きい場所)の前後に加減速区間Bを設けて、急激な加減速が起きないようにする。加減速区間Bでは、例えば、図5(A)に示すように、速度vd(s)を多項式で変換してS字状に補正してもよく、図5(B)に示すように、速度vd(s)を直線的に補正し、物体の急激な加減速を防止する。これによって、物体は、軌跡上を速くかつ正確に移動することができる。
【0030】
(第2の補正の方法)
また、図3に示すように、軌跡A上の曲率cが急峻に大きくなっている中間点Mでは、軌跡Aの曲率の変化率、すなわち、グラフの傾きが大きくなる。このような場所では、前記したように、物体の速度vd(s)の変化率も大きくなって、物体が急激に加減速されるので、物体が軌道上を空回りしたり、軌跡からずれたりして、軌跡上を速くかつ正確に移動できない。そこで、第2工程において、曲率演算部12で曲率の変化率、すなわち、曲率cの傾きが緩やかになるように曲率cを補正した後、第3工程において、この補正した曲率cに基づいて、物体の速度を計算し、物体を急激に加減速させずに、軌跡上を速くかつ正確に移動できるようにする。なお、このような速度にする曲率の変化率の最大値を所定値という。ここで、速度の変化率と、曲率の変化率との間には、前記した(7)式の関係が成り立つので、前記した速度の変化率の所定値から曲率の変化率の所定値を求めることができる。
【0031】
更に、速度計算部13では、得られた曲率c(s)に基づいて、軌跡A上の各点Xでの接線速度vd(s)を(7)式によって計算すると共に、速度vd(s)が初期値入力部11に入力した物体の最大速度vmaxを超えている場合、速度vをvmax以下にする。この結果、図6(A)、(C)に示すように、曲率c(s)をS字状に補正した場合には、速度vd(s)がS字状となり、図6(B)、(D)に示すように、曲率c(s)を傾きを大きくした直線状に補正した場合には、速度vd(s)が直線状となり、物体の急激な加減速を防止して、物体を軌跡上で速くかつ正確に移動することができる。
【0032】
次に、本発明の作用効果を確認するためにシミュレーションを行った。
図7(A)に示すように、台車20と、台車20の上部に設けられたバネ21と、バネ21の先端部に取付けられた重り22とを有する物体23を使用し、物体23の重り22が、図8に示す軌跡Kに沿って通過するように軌跡K上の各点における接線速度Vd(s)を求め、更に、物体23を得られた速度Vd(s)で動かした際の軌跡K’を求めた。
【0033】
図7(B)に示すように、物体23は、質点、バネ、ダンパーの二次系システムに近似でき、その運動方程式は、(11)式及び(12)式で示される。ここで、例えば、台車20を工作機械とした場合、台車20の移動経路は予め設定された軌跡Kとし、重り22の移動経路が物体23が実際に移動する軌跡K’とすることができる。また、台車20を予め設定された軌跡Kを移動する車両とした場合、重り22を車両に乗っている人間とすることもでき、この際の人の移動経路は軌跡K’で表される。
【0034】
【数5】

【0035】
物体23の台車20が通過する軌跡Kは、ベジエ曲線(B-spline関数)として与えられている。ベジエ曲線は、端点x1、x3と、その中間の制御点x2とを指定して作成され、(13)式のように示される。軌跡Kは、ベジエ曲線を複数、例えば、3つ組み合わせて作成している。作成した軌跡K上の各点の座標は、始点からのx座標及びy座標の配列として、初期値入力部11に入力した。また、初期値入力部11に、動体23(すなわち、台車20)の最大速度vmaxを入力した。
【0036】
【数6】

【0037】
初期値入力部11で入力された軌跡Kの座標データ及び最大速度vmaxは、曲率計算部12、速度計算部13にそれぞれ送られる。まず、曲率計算部12では、台車20が軌跡K上を刻み時間毎に移動するものと仮定し、(3)式によって接線速度v(t)を、(4)式によって曲率c(t)を計算する。ここで、物体23が軌跡K上を一定速度で移動しているため、得られた曲率c(t)は経路長sの関数となっていると考えられる。従って、(6)式より曲率c(s)が求められ、その結果を図9に示す(図9では補正前として示した)。
【0038】
図9に示すように、得られた曲率c(s)には、急峻に大きくなっている場所が2カ所あり、ここでは軌跡Kの曲率の変化率が所定値以上となって、物体23の速度v(s)の変化が大きくなり、急激な加減速を行わなければならないので、以下のように補正を行った。まず、c1(i)を補正前の曲率データとする。ここで、iはデータのサンプル点を示し、1からサンプル数Nまでの範囲をとる。まず、c2(i)=c1(i)とし、iを2からNまで増加させながら、(14)式を計算する。
2(i)=βc2(i−1) ・・・(14)
ここで、βは減衰定数であり、0<β<1である。
【0039】
もし、c2(i)<c1(i)となった場合には、c2(i)=c1(i)とする。次に、c3(i)=c2(i)とし、iをN−1から1まで減少させながら、(15)式を計算する。
3(i)=βc2(i+1) ・・・(15)
もし、c3(i)<c2(i)となった場合には、c3(i)=c2(i)とする。このような処理を行うことで、βが大きいときには、曲率の変化率を緩やかにすることができ、図9に示すように、補正後の曲率c(s)は緩やかな裾野を形成することができた。
【0040】
補正後の曲率c(s)を速度計算部13に送り、曲率cに応じた接線速度vd(s)を(7)式によって計算する。その結果を図10に示す。ここで、初期値入力部11から送られた物体23の最大速度vmaxを参照して、最大速度vmaxを超えている部分を最大速度vmaxとする補正を行った。
更に、出力部14から補正した速度vd(s)を物体23の制御部(図示せず)に出力し、物体23の台車20を移動させた場合について、コンピュータによる計算を行った。図11に、その際の重り22の軌跡K’を示す。
【0041】
また、比較例として、従来の台形型の速度制御により求められた速度で物体を移動した場合の重りの通過する軌跡K”をコンピュータで計算した。比較例では、物体23が移動を開始する時及び終了する時に、物体23の速度は所定速度(最大速度vmax)となるまで加速度を一定とし、物体23が所定速度となった際に、加速度を0、すなわち、速度を一定とする(図10に比較例として示す)。図11に示すように、比較例によって物体23の速度を制御した場合には、物体23の重り22は軌跡K”上を通過する。
【0042】
図11に示すように、本発明の物体の速度制御方法を適用したシミュレーションでは、重り22の振動が少なく、最初に与えた軌跡Kに近くなったが、従来の台形型の速度制御方法を適用した場合には、重り22の振動が大きくなっている。
【0043】
本発明は、前記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能であり、例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明の速度制御方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、前記実施の形態の物体の速度制御方法において、適用する物体として、ロボットハンドの手先及びバネを介して重りを取付けた車台としたが、軌跡が曲線となるような動きを行うもの、例えば、搬送台車や、レール上を移動しない無軌道台車等の搬送車にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施の形態に係る速度制御装置のブロック図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る速度制御方法での物体の軌跡を示す説明図である。
【図3】同速度制御方法での物体の経路長と曲率の関係を示すグラフである。
【図4】同速度制御方法での物体の経路長と接線速度の関係を示すグラフである。
【図5】(A)、(B)はそれぞれ同速度制御方法での接線速度を補正した場合の説明図である。
【図6】(A)〜(D)はそれぞれ同速度制御方法での曲率を補正した場合の説明図である。
【図7】(A)、(B)はそれぞれ同速度制御方法を適用したシミュレーションでの物体の概念図、二次系システムの説明図である。
【図8】物体の速度制御装置に予め与えられた物体の軌道を示すグラフである。
【図9】曲率の計算結果を示すグラフである。
【図10】物体の速度の計算結果を示すグラフである。
【図11】物体を移動させた際の軌跡を示すグラフである。
【符号の説明】
【0045】
10:物体の速度制御装置、11:初期値入力部、12:曲率計算部、13:速度計算部、14:出力部、20:台車、21:バネ、22:重り、23:物体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された軌跡を通過する物体の速度制御方法であって、
前記軌跡の座標データを入力する第1工程と、
前記軌跡上の各点における曲率を計算する第2工程と、
前記算出された前記各点での曲率から該各点での前記物体の速度を(1)式に示される角速度を用いた(2)式に従って計算する第3工程と、
前記算出された各点での速度を前記物体に出力する第4工程とを有することを特徴とする速度制御方法。
【数1】

【請求項2】
請求項1記載の速度制御方法において、前記物体の前記軌跡上の各点での速度を算出して、該物体の軌道生成を行うことを特徴とする速度制御方法。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の速度制御方法において、前記第1工程で前記物体の最大速度を入力し、前記第3工程で前記(2)式によって算出された前記各点での前記物体の速度のデータが前記最大速度を超える場合、該物体の速度を前記最大速度以下に補正することを特徴とする速度制御方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の速度制御方法において、前記第3工程では、前記(2)式による前記物体の速度の変化率が所定値以下となるように、前記物体の速度を補正することを特徴とする速度制御方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の速度制御方法において、前記第2工程では、前記曲率の変化率が所定値以下となるように、前記軌跡上の各点での曲率を補正した後、前記第3工程で該補正した曲率から前記物体の速度を計算することを特徴とする速度制御方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の速度制御方法において、前記(2)式では、αが2/3であることを特徴とする速度制御方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の速度制御方法を、ロボットアーム又は搬送車の速度を制御するのに用いることを特徴とする速度制御方法。
【請求項8】
予め設定された軌跡を通過する物体の速度制御装置であって、
前記軌跡の座標データを入力する初期値入力部と、
前記軌跡上の各点における曲率を計算する曲率計算部と、
前記算出された前記各点での曲率から該各点での前記物体の速度を(1)式に示される角速度を用いた(2)式に従って計算する速度計算部と、
前記算出された各点での速度を前記物体に出力する出力部とを有することを特徴とする速度制御装置。
【数1】

【請求項9】
請求項8記載の速度制御装置において、前記出力部はロボットアーム又は搬送車に前記算出された各点での速度を出力することを特徴とする速度制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2007−233613(P2007−233613A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−53355(P2006−53355)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【出願人】(000196705)西部電機株式会社 (80)
【Fターム(参考)】