連続中空部を有するクランクシャフトの成形方法
【課題】据え込み時に連続中空部が閉塞しないようにした中空素材を用いることで、偏芯据え込み法で連続中空部を有したクランクシャフトを成形する方法を提案する。
【解決手段】中空素材2の中途部をフローティング治具6により保持し、上下型3・4にセットするセット工程と、上型3を下降させつつ、フローティング治具6により、中空素材2の中途部を偏芯させて据え込み成形を行う偏芯据え込み工程と、上型3を所定位置まで下降させて据え込み成形を行うことで、クランクシャフト5のアーム部9・9を形成する偏芯据え込み完了工程とを備え、中空素材2として、中空部7の内部に据え込み成形時に前記中空素材2に対して作用する応力を低減させることで、当該応力により前記アーム部9・9の内部に位置する中空部7が潰れて閉塞することを防止する閉塞防止手段が設けられたものを用いる。
【解決手段】中空素材2の中途部をフローティング治具6により保持し、上下型3・4にセットするセット工程と、上型3を下降させつつ、フローティング治具6により、中空素材2の中途部を偏芯させて据え込み成形を行う偏芯据え込み工程と、上型3を所定位置まで下降させて据え込み成形を行うことで、クランクシャフト5のアーム部9・9を形成する偏芯据え込み完了工程とを備え、中空素材2として、中空部7の内部に据え込み成形時に前記中空素材2に対して作用する応力を低減させることで、当該応力により前記アーム部9・9の内部に位置する中空部7が潰れて閉塞することを防止する閉塞防止手段が設けられたものを用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏芯据え込み法によって連続中空部を有するクランクシャフトを成形する成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、据え込み成形法の一種である偏芯据え込み法により内燃機関の構成部品であるクランクシャフトを製造する方法や連続した中空部が形成された中空クランク軸に関する技術は公知となっている(特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1に記載されているクランクシャフトの製造方法は、偏芯据え込み法にてクランクシャフトを冷間鍛造により成形する方法であり、予め曲げ加工されたオフセット材料を作製し、このオフセット材料を据え込み工程により軸方向へ加圧してクランク本体を圧縮成形する方法である。
【0004】
特許文献2に記載されている中空クランク軸は、その内部に油圧経路を兼ねる中空部が形成されたものである。この中空部の形成方法としては、鋳物として形成する場合、砂中子等の中子を用いることで中空部を有する鋳物クランクを形成する旨が記載されている。
【0005】
また、冷間鍛造で中空部(中空穴)を有するクランクシャフトを成形する技術として、図12に示すように、連続した中空部を有する円筒状の中空素材を用いて偏芯据え込み法によりクランクシャフトを成形することで、据え込み時の素材表面の引張応力を内部中空側に分散させて成形割れを抑制する技術があり、ピン部やジャーナル部を中空にすることができる。
【特許文献1】特開2005−9595号公報
【特許文献2】特開2004−340307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1、2のように、従来技術として、クランクシャフトを偏芯据え込み法により製造する技術、クランクシャフトが具備するピン部やジャーナル部の内部に設けられる中空部や油穴を鋳造(パイプ鋳包みや中子)で形成する技術、及び中空部や油穴を機械加工により形成する技術はそれぞれ公知となっているが、連続中空部(油穴)を有したクランクシャフトを鍛造かつ偏芯据え込み法により成形する技術は確立されていない。
【0007】
また、上述した中空部を有するクランクシャフトの成形技術(冷鍛成形法)においては、図12のように、中空素材を用いた偏芯据え込み法によりクランクシャフトを成形することでクランクシャフトのピン部やジャーナル部を中空化することができるが(図13参照)、クランクシャフトのアーム部における中空部は潰れてしまう。ピン部やジャーナル部に形成された中空部(中空穴)を潤滑用油を供給する油穴として用いる場合、ピン部とジャーナル部の穴を繋ぐ穴加工等の工程を追加する必要が有り(図14参照)、高い製造コストとなる。また、現行クランクシャフトでは、図14に示すように、油穴がそれぞれ独立に配置されており、各ジャーナル部に個別に給油を行う為、給油機構が複雑になる。
【0008】
上記中空部を有する成形技術は、具体的には、表面の引張応力を内径側に分散させることで成形割れを抑制する方法であり、偏芯量や据え込み量が大きい場合や鍛造性の悪い材料(カーボン量が多い材料)の場合、据え込み時の圧縮力や素材表面の応力が高くなるに伴い、内径中空部に分散させた応力も高くなり、その応力によりアーム部における中空部が潰されてしまい、成形前の状態において連続していた中空部が途中で閉塞してしまう。そのため、中空素材を用いて上述した偏芯据え込み法によりクランクシャフトを成形する場合に、据え込み時に発生する応力により据え込まれる部位であるアーム部の中空部が潰されて閉塞しないようにする技術が求められている。
【0009】
そこで、本発明では、据え込み時に連続中空部が閉塞しないようにした中空素材を用いることで、偏芯据え込み法で連続中空部を有したクランクシャフトを成形する方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、請求項1においては、
連続した中空部を有する中空素材を用いて冷間鍛造によって偏芯据え込み成形を行うことでクランクシャフトを成形する方法であって、
前記中空素材の中途部を偏芯治具により保持し、成形装置の上下型に前記中空素材の中心軸方向における両端をセットするセット工程と、
前記成形装置の上型を下降させつつ、前記偏芯治具を前記中空素材の中心軸方向に対して鉛直方向に移動させることで、前記偏芯治具が保持する前記中空素材の中途部を前記中空素材の中心軸に対して偏芯させて据え込み成形を行う偏芯据え込み工程と、
前記上型を所定位置まで下降させて据え込み成形を行うことで、前記偏芯治具に保持された前記中空素材の中途部の両端に前記クランクシャフトのアーム部を連続して形成する偏芯据え込み完了工程と、を備え、
前記中空素材として、前記中空部の内部に前記据え込み成形時に前記中空素材に対して作用する応力を低減させることで、当該応力により前記アーム部の内部に位置する中空部が潰れて閉塞することを防止する閉塞防止手段が設けられたものを用いるものである。
【0012】
請求項2においては、
前記閉塞防止手段は、
前記中空部の内壁面に前記中空素材の中心軸方向と略平行に設けられた複数の溝部であり、前記複数の溝部が前記据え込み成形時に前記中空素材に対して作用する応力の方向に対して意図的に潰れ易い方向に設けられた溝部と潰れ難い方向に設けられた溝部と、からなるものである。
【0013】
請求項3においては、
前記閉塞防止手段は、
前記中空部の中心軸方向と同方向に貫通する貫通孔を備え、前記中空素材よりも高硬度であり、かつ前記中空部の所定位置に支持される支持部材と、
前記支持部材の外周面と前記中空部の内壁面との間に形成され、前記据え込み成形時に前記中空素材に対して作用する応力により潰れて閉塞する隙間と、からなるものである。
【0014】
請求項4においては、
前記閉塞防止手段は、
前記中空部に鋳込み、冷却して固められて、前記据え込み成形時に前記中空素材に対して作用する応力により潰れて閉塞する貫通孔が設けられた低融点合金であり、前記据え込み成形後に、前記低融点合金を加熱融解して前記中空部から排出するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
請求項1においては、据え込み成形時に中空素材に対して作用する応力を低減することが可能となり、連続した中空部を有する中空クランクシャフトを成形することができる。
【0017】
請求項2においては、偏芯据え込み時に表面に発生する引張力を内部中空部に分散させる際に、その引張力や据え込み時の過大な圧縮力を低減させる為に潰れる溝と、座屈により引張力が働く方向に空けた溝(潰され難い溝)により、成形性を損ねることなく、連続中空部を有するクランクシャフトを偏芯据え込み法で冷鍛成形できる。
【0018】
請求項3においては、偏芯量(ストローク長)が大きいクランクシャフトの場合やカウンターウエイトを張り出させる為に据え込み量を高めた場合等中空部(内径部)に作用する荷重が高くなった時でも、高硬度の支持部材が成形荷重を支えることで、確実に連続中空部を有するクランクシャフトを偏芯据え込み法で冷鍛成形できる。
【0019】
請求項4においては、低融点合金に設けた貫通孔により、内部中空部に分散させた力を低減させることで成形性を確保し、且つ成形したクランクシャフトの内部に残った低融点合金を溶解して排出させることで、成形荷重が高い場合でも比較的低コストで連続中空部を有するクランクシャフトを偏芯据え込み法で冷鍛成形できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず、本発明に係る連続中空部を有するクランクシャフトの成形方法が適用される成形装置の構成について図1を用いて説明する。
なお、同様の用途及び機能を有する部材には同符号を付してその説明を省略する。
【0021】
成形装置1は、中空素材2を用いて冷間鍛造によりクランクシャフト5の偏芯据え込み成形を行う装置であり、図1(a)に示すように、主として上型3、下型4、及び偏芯治具であるフローティング治具6を具備する。上型3と下型4とは、上下に対向して配置され、上下型3・4の間にフローティング治具6が配置される。
【0022】
中空素材2は、丸棒状であり、軸方向の略中心部を貫通する中空部7を有する。中空素材2は、偏芯据え込み法により成形されるクランクシャフト5の素材である。
中空素材2は、該中空素材2が有する中空部7に後述する閉塞防止手段が設けられている。
閉塞防止手段は、据え込み成形時に中空素材2に対して作用する応力を低減する(緩和する)ことで、前記応力によりクランクシャフト5が有するアーム部9・9の内部に位置する中空部7が潰れて閉塞することを防止するものである。
【0023】
フローティング治具6は、扁平な形状であり、所定箇所に開口部6aが開口されており、該開口部6aに中空素材2を挿入して、中空素材2の中途部(本実施形態においてはクランクシャフト5のピン部8となる部分)を保持することが可能である。また、フローティング治具6は、中空素材2を成形装置1にセットする初期状態(図1(a))において、上下型3・4の間の略中間位置に配置されており、成形装置1の上型3が下降するに応じてフローティング治具6も下降し(図1(b))、常に上下型3・4の上下方向中間位置にフローティング治具6を保持可能であるフローティング機構(図示せず)を有している。また、フローティング治具6は、中空素材2の中途部(ピン部8)を保持した状態で、中空素材2の中心軸方向に対して鉛直方向に移動可能(スライド可能)である。
【0024】
このように成形装置1を構成することで、偏芯治具であるフローティング治具6の所定箇所に開口された開口部6aに中空素材2を挿通し、該中空素材2の一端(ジャーナル部10となる部分)を上型3の所定箇所に固定し、かつ、前記中空素材2の他端(ジャーナル部10となる部分)を下型4の所定箇所に固定した状態で、上型3を下降させて中空素材2を軸方向に圧縮しつつ、中空素材2の中途部を軸方向に対して鉛直方向に移動(偏芯)することで、上型3とフローティング治具6との間に位置する中空素材2と、下型4とフローティング治具6との間に位置する中空素材2とが、据え込まれてクランクシャフト5のアーム部9・9(図1(c))を形成することが可能となる。
【0025】
すなわち、図1(c)に示すように、本実施形態に係る成形装置1によって成形されるクランクシャフト5は、一対の扁平な形状であるアーム部9・9、アーム部9・9の間に配置されるピン部8、及び上下型3・4に固定されるジャーナル部10・10を具備する。
なお、本実施形態で示すクランクシャフト5は、ピン部8と該ピン部8の両側に配置されるアーム部9・9の例を示したものであるが、この形状に特に限定するものではなく、例えば、クランクシャフト5のジャーナル部と該ジャーナル部の両側に形成されるアーム部であってもかまわない。
【0026】
次に、上述した成形装置1を用いたクランクシャフトの成形方法について説明する。
【0027】
クランクシャフトの成形方法は、図2に示すように、セット工程S10、偏芯据え込み工程S20及び偏芯据え込み完了工程S30、を具備している。以下、各工程について説明する。
【0028】
セット工程S10は、中空素材2の中途部を偏芯治具であるフローティング治具6により保持し、成形装置1の上下型3・4に前記中空素材2の中心軸方向における両端をセットする工程である。
【0029】
すなわち、セット工程S10では、図1(a)に示すように、据え込み成形完了後にクランクシャフト5のピン部8となる中空素材2の中途部をフローティング治具6の開口部6aに挿入保持するとともに、据え込み成形完了後にクランクシャフト5のジャーナル部10となる中空素材2の一端を下型4の所定位置に固定し、同じくジャーナル部10となる中空素材2の他端を上型3の所定位置に固定して、中空素材2を成形装置1の上下型3・4にセットして、据え込み成形を開始する準備を行って、据え込み成形開始の初期状態とするものである。
セット工程S10が終了したら、偏芯据え込み工程S20に移行する。
【0030】
偏芯据え込み工程S20は、成形装置1の上型3を下降させつつ、フローティング治具6を中空素材2の中心軸方向に対して鉛直方向に移動させることで、フローティング治具6が保持する中空素材2の中途部を前記中空素材2の中心軸に対して偏芯させて据え込み成形を行う工程である。
【0031】
すなわち、偏芯据え込み工程S20では、成形装置1の上型3を下降しながら中空素材2を軸方向に圧縮しつつ、フローティング治具6により中空素材2の中途部を軸方向に対して鉛直方向に移動(偏芯)させることで、上型3とフローティング治具6との間に位置する中空素材2と、下型4とフローティング治具6との間に位置する中空素材2とが、据え込まれる。
偏芯据え込み工程S20が終了したら、偏芯据え込み完了工程S30に移行する。
【0032】
偏芯据え込み完了工程S30は、上型3を所定位置まで下降させて据え込み成形を行うことで、フローティング治具6に保持された中空素材2の中途部の両端にクランクシャフト5のアーム部9・9を連続して形成する工程である。
【0033】
すなわち、偏芯据え込み完了工程S30では、成形装置1の上型3の下面とフローティング治具6の上面との距離が形成されるアーム部9の所定の厚さ相当となる位置まで上型3を下降させて据え込み成形を行うと同時に、前述したようにフローティング治具6はフローティング機構により上下型3・4の間の上下方向中間位置に配置されるようになっており、成形装置1の下型4の上面とフローティング治具6の下面との距離も形成されるアーム部9の所定の厚さ相当となる。
【0034】
従来のクランクシャフトの成形方法によれば、図13に示すように中空素材2の中途部となるピン部8もしくはジャーナル部10の内部に中空部を形成することが可能であるが、据え込み成形時に中空素材2に対して作用する応力によりアーム部9・9の内部の中空部は潰れてしまいクランクシャフト5内に連続した中空部7を形成することができない。
これに対して、本実施形態に係る閉塞防止手段を予め設けた中空素材2を用いて、上述したクランクシャフトの成形方法において据え込み成形を行った場合、前記応力を低減する(逃がす)ことによりアーム部9・9の内部に位置する中空部が潰れて閉塞することを防止することが可能となる。そのため、据え込み成形時にアーム部9・9の内部に位置する中空部を残すことが可能となり、連続した中空部7を有するクランクシャフト5を成形することが可能となる。
つまり、閉塞防止手段を有した中空素材2を用いて成形装置1により成形を行うことで、冷間鍛造の偏芯据え込み成形法により丸棒状の中空素材2から一体型、かつ連続中空部を有するクランクシャフト5を成形することができる。
【0035】
このように、連続した中空部7を有する中空素材2を用いて冷間鍛造によって偏芯据え込み成形を行うことでクランクシャフト5を成形する方法であって、
前記中空素材2の中途部を偏芯治具であるフローティング治具6により保持し、成形装置1の上下型3・4に前記中空素材2の中心軸方向における両端をセットするセット工程S10と、
前記成形装置1の上型3を下降させつつ、前記フローティング治具6を前記中空素材2の中心軸方向に対して鉛直方向に移動させることで、前記フローティング治具6が保持する前記中空素材2の中途部を前記中空素材2の中心軸に対して偏芯させて据え込み成形を行う偏芯据え込み工程S20と、
前記上型3を所定位置まで下降させて据え込み成形を行うことで、前記フローティング治具6に保持された前記中空素材2の中途部の両端に前記クランクシャフト5のアーム部9・9を連続して形成する偏芯据え込み完了工程S30と、を備え、
前記中空素材2として、前記中空部7の内部に前記据え込み成形時に前記中空素材2に対して作用する応力を低減させることで、当該応力により前記アーム部9・9の内部に位置する中空部7が潰れて閉塞することを防止する閉塞防止手段が設けられたものを用いるクランクシャフト5の成形方法を適用することにより、据え込み成形時に中空素材2に対して作用する応力を低減することが可能となり、連続した中空部7を有する中空クランクシャフト5を成形することができる。
本実施形態に係る閉塞防止手段の具体的な実施例を、以下に説明する。
【実施例1】
【0036】
次に、前述した閉塞防止手段が設けられた中空素材2を用いたクランクシャフト5の成形方法について説明する。
本実施例に係るクランクシャフト5の成形方法は、上述した成形方法と同様であり、ここでは、この成形方法で用いられる閉塞防止手段が設けられた中空素材の例について具体的に説明する。
【0037】
中空素材12は、図3に示すように、丸棒状部材であり、その内部に一端から他端まで連続して貫通する断面視十字形状の中空部17を有する。
【0038】
中空素材12には、据え込み成形時に中空素材12に対して作用する応力を低減する(逃がす)ことで、前記応力によりアーム部9・9の内部に位置する中空部17が潰れて閉塞することを防止する閉塞防止手段が予め設けられている。
【0039】
閉塞防止手段は、図3に示すように、中空部17の内壁面に中空素材12の中心軸方向と略平行に設けられた複数の溝部であり、該複数の溝部が据え込み成形時に中空素材12に対して作用する応力の方向に対して意図的に潰れ易い方向(据え込みによる圧縮力が作用する方向)に設けられた第一溝部13・13と潰れ難い方向(座屈による引張力が作用する方向)に設けられた第二溝部14・14と、からなるものである。
なお、本実施例においては2つの第一溝部13・13と2つの第二溝部14・14とをそれぞれにおいて対向して配置して、断面視十字形状となるように構成したが、特に限定するものではなく、溝の形状や中空部17内における溝の配置構成等は適宜変更することが可能である。また、閉塞防止手段を構成する溝部としては、方向性を持った一体、もしくは別体となるように構成することが可能である。
【0040】
次に、閉塞防止手段として第一溝部13・13及び第二溝部14・14が形成された中空素材12を用いて上述したクランクシャフトの成形方法により偏芯据え込み成形を行った場合の成形方法について図1を用いて説明する。
【0041】
セット工程S10(成形初期状態)では、図1(a)に示すように、中空素材12が成形装置1にセットされる。この状態においては、中空素材12の断面視は、第一溝部13・13及び第二溝部14・14とから十字形状となっている(図4(a))。
【0042】
続いて、偏芯据え込み工程S20では、図1(b)に示すように、中空素材12に対して据え込みによる圧縮力と分散させた表面の引張力とが応力として作用し、意図的に潰す溝である第一溝部13・13が潰れ始める(図4(b))。
【0043】
続いて、偏芯据え込み完了工程S30では、図1(c)に示すように、据え込みによる圧縮力と分散させた表面の引張力とが応力として作用したことで、第一溝部13・13は完全に潰れてしまい(図4(c)点線矢印参照)、一方、第二溝部14・14は残る((図4(c))。このように、据え込み成形時に第一溝部13・13が潰れることで応力を低減する(応力を逃がす)ことが可能となり、第二溝部14・14を残すことが可能となる。これにより、クランクシャフト5の内部には、連続した中空部17が形成される。
【0044】
このように、前記閉塞防止手段は、前記中空部17の内壁面に前記中空素材12の中心軸方向と略平行に設けられた複数の溝部であり、前記複数の溝部が前記据え込み成形時に前記中空素材12に対して作用する応力の方向に対して意図的に潰れ易い方向に設けられた溝部である第一溝部13・13と潰れ難い方向に設けられた溝部である第二溝部14・14と、からなることにより、偏芯据え込み時に表面に発生する引張力を内部中空部17に分散させる際に、その引張力や据え込み時の過大な圧縮力を低減させる為に潰れる溝である第一溝部13・13と、座屈により引張力が働く方向に空けた溝(潰され難い溝)である第二溝部14・14により、成形性を損ねることなく、連続中空部17を有するクランクシャフト5を偏芯据え込み法で冷鍛成形できる。
また、中空部17を潤滑用の油穴として利用する場合、後工程(ドリル加工等)が不要となり低コスト化が図れる。
また、中空部17がクランクシャフト5の内部に多く形成されるため、通常の鍛造より軽量なクランクシャフトが成形できる。
【0045】
つまり、意図的に潰れ易い方向に空けた溝と潰れ難い方向に空けた溝が設けられた中空素材12を用いて、偏芯据え込み法により成形する構成としたことにより、潰れ難い部分である第二溝部14・14により形成される空間を油穴として利用するために残すことが可能となる。
【実施例2】
【0046】
次に、閉塞防止手段が設けられた中空素材を用いたクランクシャフトの成形方法の別実施例について説明する。
【0047】
中空素材22は、図5に示すように、丸棒状部材であり、その内部に一端から他端まで連続して貫通する断面視丸形状の中空部27を有する。
【0048】
中空素材22には、据え込み成形時に中空素材22に対して作用する応力を低減する(逃がす)ことで、前記応力によりアーム部9・9の内部に位置する中空部27が潰れて閉塞することを防止する閉塞防止手段が予め設けられている。
【0049】
閉塞防止手段は、図5に示すように、中空部27の中心軸方向と同方向に貫通する貫通孔23aを備え、中空素材22よりも高硬度であり、かつ中空部27の所定位置に支持される支持部材23と、前記支持部材23の外周面と前記中空部27の内壁面との間に形成され、前記据え込み成形時に前記中空素材22に対して作用する応力により潰れて閉塞する隙間24と、からなるものである。
また、本実施例における支持部材23は、図5(a)に示すように、アーム部9・9を形成する部位9a・部位9aにおける中空部27内に支持される。
なお、中空素材22よりも高硬度材の例としては、熱処理した高炭素鋼材、超硬合金、セラミック等の中空素材22よりも高硬度かつ高強度材を用いることが可能である。
また、本実施例においては、支持部材23を、中空部27内に4個挿入しているが、特に限定するものではなく、少なくとも1個以上挿入していればよい。
また、支持部材23には、貫通孔23aが少なくとも1つ以上設けられており、貫通孔23aが据え込み成形完了時に連続した中空部27を形成できればよい。
【0050】
次に、閉塞防止手段として支持部材23及び隙間24が形成された中空素材22を用いて上述したクランクシャフトの成形方法により偏芯据え込み成形を行った場合の成形方法について図6を用いて説明する。
【0051】
セット工程(成形初期状態)では、図6(a)に示すように、中空素材22が成形装置1にセットされる。この状態においては、中空素材22の断面視は、支持部材23が配置された部分では、支持部材23が中空部27内に挿入(圧入)されたことで、支持部材23の断面視長手方向の両端部が中空素材22の内壁に当接支持されている(図5(b)の符号25部分)。また、支持部材23の外周面と中空素材22の内壁面との間には隙間24が設けられた状態となっている。
【0052】
続いて、偏芯据え込み工程S20では、図6(b)に示すように、中空素材22に対して据え込みによる圧縮力と分散させた表面の引張力とが応力として作用し、意図的に潰す空間である隙間24が潰れ始める(図7(b))。
【0053】
続いて、偏芯据え込み完了工程S30では、図6(c)に示すように、据え込みによる圧縮力と分散させた表面の引張力とが応力として作用したことで、隙間24は完全に潰れて閉塞されてしまい(図7(c)点線矢印参照)、一方、支持部材23の貫通孔23aは残る。このように、据え込み成形時に隙間24が潰れることで応力を低減する(応力を逃がす)ことが可能となる。これにより、クランクシャフト5には、連続した中空部27が形成される。
【0054】
このように、前記閉塞防止手段は、前記中空部27の中心軸方向と同方向に貫通する貫通孔23aを備え、前記中空素材22よりも高硬度であり、かつ前記中空部27の所定位置に支持される支持部材23と、前記支持部材23の外周面と前記中空部27の内壁面との間に形成され、前記据え込み成形時に前記中空素材22に対して作用する応力により潰れて閉塞する隙間24と、からなることにより、偏芯量(ストローク長)が大きいクランクシャフトの場合やカウンターウエイトを張り出させる為に据え込み量を高めた場合等中空部27(内径部)に作用する荷重が高くなった時でも、高硬度の支持部材23が成形荷重を支えることで、確実に連続中空部27を有するクランクシャフト5を偏芯据え込み法で成形できる。
また、中空部27を潤滑用の油穴として利用する場合、後工程(ドリル加工等)が不要となり低コスト化が図れる。
また、中空部27がクランクシャフト5の内部に多く形成されるため、通常の鍛造より軽量なクランクシャフトが成形できる。
【0055】
つまり、据え込まれる部位(アーム部9成形部)に高硬度材で製作した貫通孔23aを有した支持部材23を少なくとも一個以上挿入し、前記貫通孔23aが少なくとも1つ以上は空けられており、かつ中空素材22と支持部材23との間に応力を逃がすための隙間24が設けられた状態となるように支持部材23を挿入した中空素材22を用いて、偏芯据え込み法により成形する構成としたことにより、潰れ難い部分である貫通孔23aを油穴として利用するために残すことが可能となる。
【実施例3】
【0056】
次に、閉塞防止手段が設けられた中空素材を用いたクランクシャフトの成形方法の別実施例について説明する。
【0057】
中空素材22は、図5に示すように、丸棒状部材であり、その内部に一端から他端まで連続して貫通する断面視丸形状の中空部27を有する。
【0058】
中空素材22には、据え込み成形時に中空素材22に対して作用する応力を低減する(逃がす)ことで、前記応力によりアーム部9・9の内部に位置する中空部27が潰れて閉塞することを防止する閉塞防止手段が予め設けられている。
【0059】
閉塞防止手段は、図8に示すように、中空部27に鋳込み、冷却して固められて、前記据え込み成形時に前記中空素材22に対して作用する応力により潰れて閉塞する貫通孔28が設けられた低融点合金29であり、据え込み成形後に、前記低融点合金29を加熱融解して中空部27から排出するものである。
なお、低融点合金としては、例えば、ロウ、ハンダ、スズ等が挙げられる。
【0060】
次に、閉塞防止手段として中空部27に貫通孔28を有する低融点合金29が設けられた中空素材22を用いて上述したクランクシャフトの成形方法により偏芯据え込み成形を行った場合の成形方法について図9を用いて説明する。
【0061】
セット工程(成形初期状態)では、図9(a)に示すように、中空素材22が成形装置1にセットされる。この状態においては、中空素材22の断面視は、低融点合金29が中空素材22の内壁面に沿って被装されており、中央部に貫通孔28を有している(図8(b))。
【0062】
続いて、偏芯据え込み工程S20では、図9(b)に示すように、中空素材22に対して据え込みによる圧縮力と分散させた表面の引張力とが応力として作用し、意図的に潰す孔である貫通孔28が潰れ始める(図10(b))。
【0063】
続いて、偏芯据え込み完了工程S30では、図9(c)に示すように、据え込みによる圧縮力と分散させた表面の引張力とが応力として作用したことで、貫通孔28は完全に潰れて閉塞されてしまう(図10(c)点線矢印参照)。このように、据え込み成形時に貫通孔28が潰れることで応力を低減する(応力を逃がす)ことが可能となる。そうして、据え込み成形後に、成形されたクランクシャフト5を所定温度にて加熱することで、中空部27内の低融点合金29を融解して中空部27から排出する(図9(d))。これにより、クランクシャフト5には、連続した中空部27が形成される。
【0064】
このように、前記閉塞防止手段は、前記中空部27に鋳込み、冷却して固められて、前記据え込み成形時に前記中空素材22に対して作用する応力により潰れて閉塞する貫通孔28が設けられた低融点合金29であり、前記据え込み成形後に、前記低融点合金29を加熱融解して前記中空部27から排出することにより、低融点合金29に設けた貫通孔28により、内部中空部27に分散させた力を低減させることで成形性を確保し、且つ成形したクランクシャフト5の内部に残った低融点合金29を溶解して排出させることで、成形荷重が高い場合でも比較的低コストで連続中空部27を有するクランクシャフト5を偏芯据え込み法で冷鍛成形できる。
また、中空部27を潤滑用の油穴として利用する場合、後工程(ドリル加工等)が不要となり低コスト化が図れる。
また、中空部27がクランクシャフト5の内部に多く形成されるため、通常の鍛造より軽量なクランクシャフトが成形できる。
【0065】
こうして、本発明を適用することで、図11に示すように、連続した中空孔を有するクランクシャフトを製造することができるため、この中空孔を利用してクランクシャフトへの集中給油が可能となり給油機構及びブロック構造そのものも簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施形態に係るクランクシャフトの成形方法を示す図であり、(a)はセット工程を示す模式側面断面図、(b)は偏芯据え込み工程を示す模式側面断面図、(c)は偏芯据え込み完了工程を示す模式側面断面図。
【図2】同じくクランクシャフトの成形フローを示す図。
【図3】中空素材を示す図であり、(a)は正面図、(b)は(a)におけるA−A矢視断面図。
【図4】図1に示す各工程における中空素材の断面視を示す図であり、(a)は図1(a)におけるA1−A1矢視断面図、(b)は図1(b)におけるA2−A2矢視断面図、(c)は図1(c)におけるA3−A3矢視断面図。
【図5】中空素材の別実施例を示す図であり、(a)は正面断面図、(b)は(a)におけるA−A矢視断面図。
【図6】クランクシャフトの成形方法の別実施例を示す図であり、(a)はセット工程を示す模式側面断面図、(b)は偏芯据え込み工程を示す模式側面断面図、(c)は偏芯据え込み完了工程を示す模式側面断面図。
【図7】図6における中空素材の断面視を示す図であり、(a)は図6(a)におけるA1−A1矢視断面図、(b)は図6(b)におけるA2−A2矢視断面図、(c)は図6(c)におけるA3−A3矢視断面図。
【図8】中空素材の別実施例を示す図であり、(a)は正面断面図、(b)は(a)におけるA−A矢視断面図。
【図9】クランクシャフトの成形方法の別実施例を示す図であり、(a)はセット工程を示す模式側面断面図、(b)は偏芯据え込み工程を示す模式側面断面図、(c)は偏芯据え込み完了工程を示す模式側面断面図、(d)は低融点合金の排出時を示す模式側面断面図。
【図10】図9における中空素材の断面視を示す図であり、(a)は図9(a)におけるA1−A1矢視断面図、(b)は図9(b)におけるA2−A2矢視断面図、(c)は図9(c)におけるA3−A3矢視断面図。
【図11】本発明に係るクランクシャフトの成形方法により成形されたクランクシャフトを示す説明図。
【図12】従来のクランクシャフトの成形方法(成形メカニズム)を示す図であり、(a)はセット工程を示す模式側面断面図、(b)は偏芯据え込み工程を示す模式側面断面図、(c)は偏芯据え込み完了工程を示す模式側面断面図。
【図13】従来法により成形されたクランクシャフトを示す図。
【図14】従来法により成形されたクランクシャフトの課題を説明する図。
【符号の説明】
【0067】
1 成形装置
2・12・22 中空素材
3 上型
4 下型
5 クランクシャフト
6 フローティング治具
7・17・27 中空部
9 アーム部
13 第一溝部
14 第二溝部
23 支持部材
24 隙間
28 貫通孔
29 低融点合金
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏芯据え込み法によって連続中空部を有するクランクシャフトを成形する成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、据え込み成形法の一種である偏芯据え込み法により内燃機関の構成部品であるクランクシャフトを製造する方法や連続した中空部が形成された中空クランク軸に関する技術は公知となっている(特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1に記載されているクランクシャフトの製造方法は、偏芯据え込み法にてクランクシャフトを冷間鍛造により成形する方法であり、予め曲げ加工されたオフセット材料を作製し、このオフセット材料を据え込み工程により軸方向へ加圧してクランク本体を圧縮成形する方法である。
【0004】
特許文献2に記載されている中空クランク軸は、その内部に油圧経路を兼ねる中空部が形成されたものである。この中空部の形成方法としては、鋳物として形成する場合、砂中子等の中子を用いることで中空部を有する鋳物クランクを形成する旨が記載されている。
【0005】
また、冷間鍛造で中空部(中空穴)を有するクランクシャフトを成形する技術として、図12に示すように、連続した中空部を有する円筒状の中空素材を用いて偏芯据え込み法によりクランクシャフトを成形することで、据え込み時の素材表面の引張応力を内部中空側に分散させて成形割れを抑制する技術があり、ピン部やジャーナル部を中空にすることができる。
【特許文献1】特開2005−9595号公報
【特許文献2】特開2004−340307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1、2のように、従来技術として、クランクシャフトを偏芯据え込み法により製造する技術、クランクシャフトが具備するピン部やジャーナル部の内部に設けられる中空部や油穴を鋳造(パイプ鋳包みや中子)で形成する技術、及び中空部や油穴を機械加工により形成する技術はそれぞれ公知となっているが、連続中空部(油穴)を有したクランクシャフトを鍛造かつ偏芯据え込み法により成形する技術は確立されていない。
【0007】
また、上述した中空部を有するクランクシャフトの成形技術(冷鍛成形法)においては、図12のように、中空素材を用いた偏芯据え込み法によりクランクシャフトを成形することでクランクシャフトのピン部やジャーナル部を中空化することができるが(図13参照)、クランクシャフトのアーム部における中空部は潰れてしまう。ピン部やジャーナル部に形成された中空部(中空穴)を潤滑用油を供給する油穴として用いる場合、ピン部とジャーナル部の穴を繋ぐ穴加工等の工程を追加する必要が有り(図14参照)、高い製造コストとなる。また、現行クランクシャフトでは、図14に示すように、油穴がそれぞれ独立に配置されており、各ジャーナル部に個別に給油を行う為、給油機構が複雑になる。
【0008】
上記中空部を有する成形技術は、具体的には、表面の引張応力を内径側に分散させることで成形割れを抑制する方法であり、偏芯量や据え込み量が大きい場合や鍛造性の悪い材料(カーボン量が多い材料)の場合、据え込み時の圧縮力や素材表面の応力が高くなるに伴い、内径中空部に分散させた応力も高くなり、その応力によりアーム部における中空部が潰されてしまい、成形前の状態において連続していた中空部が途中で閉塞してしまう。そのため、中空素材を用いて上述した偏芯据え込み法によりクランクシャフトを成形する場合に、据え込み時に発生する応力により据え込まれる部位であるアーム部の中空部が潰されて閉塞しないようにする技術が求められている。
【0009】
そこで、本発明では、据え込み時に連続中空部が閉塞しないようにした中空素材を用いることで、偏芯据え込み法で連続中空部を有したクランクシャフトを成形する方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、請求項1においては、
連続した中空部を有する中空素材を用いて冷間鍛造によって偏芯据え込み成形を行うことでクランクシャフトを成形する方法であって、
前記中空素材の中途部を偏芯治具により保持し、成形装置の上下型に前記中空素材の中心軸方向における両端をセットするセット工程と、
前記成形装置の上型を下降させつつ、前記偏芯治具を前記中空素材の中心軸方向に対して鉛直方向に移動させることで、前記偏芯治具が保持する前記中空素材の中途部を前記中空素材の中心軸に対して偏芯させて据え込み成形を行う偏芯据え込み工程と、
前記上型を所定位置まで下降させて据え込み成形を行うことで、前記偏芯治具に保持された前記中空素材の中途部の両端に前記クランクシャフトのアーム部を連続して形成する偏芯据え込み完了工程と、を備え、
前記中空素材として、前記中空部の内部に前記据え込み成形時に前記中空素材に対して作用する応力を低減させることで、当該応力により前記アーム部の内部に位置する中空部が潰れて閉塞することを防止する閉塞防止手段が設けられたものを用いるものである。
【0012】
請求項2においては、
前記閉塞防止手段は、
前記中空部の内壁面に前記中空素材の中心軸方向と略平行に設けられた複数の溝部であり、前記複数の溝部が前記据え込み成形時に前記中空素材に対して作用する応力の方向に対して意図的に潰れ易い方向に設けられた溝部と潰れ難い方向に設けられた溝部と、からなるものである。
【0013】
請求項3においては、
前記閉塞防止手段は、
前記中空部の中心軸方向と同方向に貫通する貫通孔を備え、前記中空素材よりも高硬度であり、かつ前記中空部の所定位置に支持される支持部材と、
前記支持部材の外周面と前記中空部の内壁面との間に形成され、前記据え込み成形時に前記中空素材に対して作用する応力により潰れて閉塞する隙間と、からなるものである。
【0014】
請求項4においては、
前記閉塞防止手段は、
前記中空部に鋳込み、冷却して固められて、前記据え込み成形時に前記中空素材に対して作用する応力により潰れて閉塞する貫通孔が設けられた低融点合金であり、前記据え込み成形後に、前記低融点合金を加熱融解して前記中空部から排出するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
請求項1においては、据え込み成形時に中空素材に対して作用する応力を低減することが可能となり、連続した中空部を有する中空クランクシャフトを成形することができる。
【0017】
請求項2においては、偏芯据え込み時に表面に発生する引張力を内部中空部に分散させる際に、その引張力や据え込み時の過大な圧縮力を低減させる為に潰れる溝と、座屈により引張力が働く方向に空けた溝(潰され難い溝)により、成形性を損ねることなく、連続中空部を有するクランクシャフトを偏芯据え込み法で冷鍛成形できる。
【0018】
請求項3においては、偏芯量(ストローク長)が大きいクランクシャフトの場合やカウンターウエイトを張り出させる為に据え込み量を高めた場合等中空部(内径部)に作用する荷重が高くなった時でも、高硬度の支持部材が成形荷重を支えることで、確実に連続中空部を有するクランクシャフトを偏芯据え込み法で冷鍛成形できる。
【0019】
請求項4においては、低融点合金に設けた貫通孔により、内部中空部に分散させた力を低減させることで成形性を確保し、且つ成形したクランクシャフトの内部に残った低融点合金を溶解して排出させることで、成形荷重が高い場合でも比較的低コストで連続中空部を有するクランクシャフトを偏芯据え込み法で冷鍛成形できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず、本発明に係る連続中空部を有するクランクシャフトの成形方法が適用される成形装置の構成について図1を用いて説明する。
なお、同様の用途及び機能を有する部材には同符号を付してその説明を省略する。
【0021】
成形装置1は、中空素材2を用いて冷間鍛造によりクランクシャフト5の偏芯据え込み成形を行う装置であり、図1(a)に示すように、主として上型3、下型4、及び偏芯治具であるフローティング治具6を具備する。上型3と下型4とは、上下に対向して配置され、上下型3・4の間にフローティング治具6が配置される。
【0022】
中空素材2は、丸棒状であり、軸方向の略中心部を貫通する中空部7を有する。中空素材2は、偏芯据え込み法により成形されるクランクシャフト5の素材である。
中空素材2は、該中空素材2が有する中空部7に後述する閉塞防止手段が設けられている。
閉塞防止手段は、据え込み成形時に中空素材2に対して作用する応力を低減する(緩和する)ことで、前記応力によりクランクシャフト5が有するアーム部9・9の内部に位置する中空部7が潰れて閉塞することを防止するものである。
【0023】
フローティング治具6は、扁平な形状であり、所定箇所に開口部6aが開口されており、該開口部6aに中空素材2を挿入して、中空素材2の中途部(本実施形態においてはクランクシャフト5のピン部8となる部分)を保持することが可能である。また、フローティング治具6は、中空素材2を成形装置1にセットする初期状態(図1(a))において、上下型3・4の間の略中間位置に配置されており、成形装置1の上型3が下降するに応じてフローティング治具6も下降し(図1(b))、常に上下型3・4の上下方向中間位置にフローティング治具6を保持可能であるフローティング機構(図示せず)を有している。また、フローティング治具6は、中空素材2の中途部(ピン部8)を保持した状態で、中空素材2の中心軸方向に対して鉛直方向に移動可能(スライド可能)である。
【0024】
このように成形装置1を構成することで、偏芯治具であるフローティング治具6の所定箇所に開口された開口部6aに中空素材2を挿通し、該中空素材2の一端(ジャーナル部10となる部分)を上型3の所定箇所に固定し、かつ、前記中空素材2の他端(ジャーナル部10となる部分)を下型4の所定箇所に固定した状態で、上型3を下降させて中空素材2を軸方向に圧縮しつつ、中空素材2の中途部を軸方向に対して鉛直方向に移動(偏芯)することで、上型3とフローティング治具6との間に位置する中空素材2と、下型4とフローティング治具6との間に位置する中空素材2とが、据え込まれてクランクシャフト5のアーム部9・9(図1(c))を形成することが可能となる。
【0025】
すなわち、図1(c)に示すように、本実施形態に係る成形装置1によって成形されるクランクシャフト5は、一対の扁平な形状であるアーム部9・9、アーム部9・9の間に配置されるピン部8、及び上下型3・4に固定されるジャーナル部10・10を具備する。
なお、本実施形態で示すクランクシャフト5は、ピン部8と該ピン部8の両側に配置されるアーム部9・9の例を示したものであるが、この形状に特に限定するものではなく、例えば、クランクシャフト5のジャーナル部と該ジャーナル部の両側に形成されるアーム部であってもかまわない。
【0026】
次に、上述した成形装置1を用いたクランクシャフトの成形方法について説明する。
【0027】
クランクシャフトの成形方法は、図2に示すように、セット工程S10、偏芯据え込み工程S20及び偏芯据え込み完了工程S30、を具備している。以下、各工程について説明する。
【0028】
セット工程S10は、中空素材2の中途部を偏芯治具であるフローティング治具6により保持し、成形装置1の上下型3・4に前記中空素材2の中心軸方向における両端をセットする工程である。
【0029】
すなわち、セット工程S10では、図1(a)に示すように、据え込み成形完了後にクランクシャフト5のピン部8となる中空素材2の中途部をフローティング治具6の開口部6aに挿入保持するとともに、据え込み成形完了後にクランクシャフト5のジャーナル部10となる中空素材2の一端を下型4の所定位置に固定し、同じくジャーナル部10となる中空素材2の他端を上型3の所定位置に固定して、中空素材2を成形装置1の上下型3・4にセットして、据え込み成形を開始する準備を行って、据え込み成形開始の初期状態とするものである。
セット工程S10が終了したら、偏芯据え込み工程S20に移行する。
【0030】
偏芯据え込み工程S20は、成形装置1の上型3を下降させつつ、フローティング治具6を中空素材2の中心軸方向に対して鉛直方向に移動させることで、フローティング治具6が保持する中空素材2の中途部を前記中空素材2の中心軸に対して偏芯させて据え込み成形を行う工程である。
【0031】
すなわち、偏芯据え込み工程S20では、成形装置1の上型3を下降しながら中空素材2を軸方向に圧縮しつつ、フローティング治具6により中空素材2の中途部を軸方向に対して鉛直方向に移動(偏芯)させることで、上型3とフローティング治具6との間に位置する中空素材2と、下型4とフローティング治具6との間に位置する中空素材2とが、据え込まれる。
偏芯据え込み工程S20が終了したら、偏芯据え込み完了工程S30に移行する。
【0032】
偏芯据え込み完了工程S30は、上型3を所定位置まで下降させて据え込み成形を行うことで、フローティング治具6に保持された中空素材2の中途部の両端にクランクシャフト5のアーム部9・9を連続して形成する工程である。
【0033】
すなわち、偏芯据え込み完了工程S30では、成形装置1の上型3の下面とフローティング治具6の上面との距離が形成されるアーム部9の所定の厚さ相当となる位置まで上型3を下降させて据え込み成形を行うと同時に、前述したようにフローティング治具6はフローティング機構により上下型3・4の間の上下方向中間位置に配置されるようになっており、成形装置1の下型4の上面とフローティング治具6の下面との距離も形成されるアーム部9の所定の厚さ相当となる。
【0034】
従来のクランクシャフトの成形方法によれば、図13に示すように中空素材2の中途部となるピン部8もしくはジャーナル部10の内部に中空部を形成することが可能であるが、据え込み成形時に中空素材2に対して作用する応力によりアーム部9・9の内部の中空部は潰れてしまいクランクシャフト5内に連続した中空部7を形成することができない。
これに対して、本実施形態に係る閉塞防止手段を予め設けた中空素材2を用いて、上述したクランクシャフトの成形方法において据え込み成形を行った場合、前記応力を低減する(逃がす)ことによりアーム部9・9の内部に位置する中空部が潰れて閉塞することを防止することが可能となる。そのため、据え込み成形時にアーム部9・9の内部に位置する中空部を残すことが可能となり、連続した中空部7を有するクランクシャフト5を成形することが可能となる。
つまり、閉塞防止手段を有した中空素材2を用いて成形装置1により成形を行うことで、冷間鍛造の偏芯据え込み成形法により丸棒状の中空素材2から一体型、かつ連続中空部を有するクランクシャフト5を成形することができる。
【0035】
このように、連続した中空部7を有する中空素材2を用いて冷間鍛造によって偏芯据え込み成形を行うことでクランクシャフト5を成形する方法であって、
前記中空素材2の中途部を偏芯治具であるフローティング治具6により保持し、成形装置1の上下型3・4に前記中空素材2の中心軸方向における両端をセットするセット工程S10と、
前記成形装置1の上型3を下降させつつ、前記フローティング治具6を前記中空素材2の中心軸方向に対して鉛直方向に移動させることで、前記フローティング治具6が保持する前記中空素材2の中途部を前記中空素材2の中心軸に対して偏芯させて据え込み成形を行う偏芯据え込み工程S20と、
前記上型3を所定位置まで下降させて据え込み成形を行うことで、前記フローティング治具6に保持された前記中空素材2の中途部の両端に前記クランクシャフト5のアーム部9・9を連続して形成する偏芯据え込み完了工程S30と、を備え、
前記中空素材2として、前記中空部7の内部に前記据え込み成形時に前記中空素材2に対して作用する応力を低減させることで、当該応力により前記アーム部9・9の内部に位置する中空部7が潰れて閉塞することを防止する閉塞防止手段が設けられたものを用いるクランクシャフト5の成形方法を適用することにより、据え込み成形時に中空素材2に対して作用する応力を低減することが可能となり、連続した中空部7を有する中空クランクシャフト5を成形することができる。
本実施形態に係る閉塞防止手段の具体的な実施例を、以下に説明する。
【実施例1】
【0036】
次に、前述した閉塞防止手段が設けられた中空素材2を用いたクランクシャフト5の成形方法について説明する。
本実施例に係るクランクシャフト5の成形方法は、上述した成形方法と同様であり、ここでは、この成形方法で用いられる閉塞防止手段が設けられた中空素材の例について具体的に説明する。
【0037】
中空素材12は、図3に示すように、丸棒状部材であり、その内部に一端から他端まで連続して貫通する断面視十字形状の中空部17を有する。
【0038】
中空素材12には、据え込み成形時に中空素材12に対して作用する応力を低減する(逃がす)ことで、前記応力によりアーム部9・9の内部に位置する中空部17が潰れて閉塞することを防止する閉塞防止手段が予め設けられている。
【0039】
閉塞防止手段は、図3に示すように、中空部17の内壁面に中空素材12の中心軸方向と略平行に設けられた複数の溝部であり、該複数の溝部が据え込み成形時に中空素材12に対して作用する応力の方向に対して意図的に潰れ易い方向(据え込みによる圧縮力が作用する方向)に設けられた第一溝部13・13と潰れ難い方向(座屈による引張力が作用する方向)に設けられた第二溝部14・14と、からなるものである。
なお、本実施例においては2つの第一溝部13・13と2つの第二溝部14・14とをそれぞれにおいて対向して配置して、断面視十字形状となるように構成したが、特に限定するものではなく、溝の形状や中空部17内における溝の配置構成等は適宜変更することが可能である。また、閉塞防止手段を構成する溝部としては、方向性を持った一体、もしくは別体となるように構成することが可能である。
【0040】
次に、閉塞防止手段として第一溝部13・13及び第二溝部14・14が形成された中空素材12を用いて上述したクランクシャフトの成形方法により偏芯据え込み成形を行った場合の成形方法について図1を用いて説明する。
【0041】
セット工程S10(成形初期状態)では、図1(a)に示すように、中空素材12が成形装置1にセットされる。この状態においては、中空素材12の断面視は、第一溝部13・13及び第二溝部14・14とから十字形状となっている(図4(a))。
【0042】
続いて、偏芯据え込み工程S20では、図1(b)に示すように、中空素材12に対して据え込みによる圧縮力と分散させた表面の引張力とが応力として作用し、意図的に潰す溝である第一溝部13・13が潰れ始める(図4(b))。
【0043】
続いて、偏芯据え込み完了工程S30では、図1(c)に示すように、据え込みによる圧縮力と分散させた表面の引張力とが応力として作用したことで、第一溝部13・13は完全に潰れてしまい(図4(c)点線矢印参照)、一方、第二溝部14・14は残る((図4(c))。このように、据え込み成形時に第一溝部13・13が潰れることで応力を低減する(応力を逃がす)ことが可能となり、第二溝部14・14を残すことが可能となる。これにより、クランクシャフト5の内部には、連続した中空部17が形成される。
【0044】
このように、前記閉塞防止手段は、前記中空部17の内壁面に前記中空素材12の中心軸方向と略平行に設けられた複数の溝部であり、前記複数の溝部が前記据え込み成形時に前記中空素材12に対して作用する応力の方向に対して意図的に潰れ易い方向に設けられた溝部である第一溝部13・13と潰れ難い方向に設けられた溝部である第二溝部14・14と、からなることにより、偏芯据え込み時に表面に発生する引張力を内部中空部17に分散させる際に、その引張力や据え込み時の過大な圧縮力を低減させる為に潰れる溝である第一溝部13・13と、座屈により引張力が働く方向に空けた溝(潰され難い溝)である第二溝部14・14により、成形性を損ねることなく、連続中空部17を有するクランクシャフト5を偏芯据え込み法で冷鍛成形できる。
また、中空部17を潤滑用の油穴として利用する場合、後工程(ドリル加工等)が不要となり低コスト化が図れる。
また、中空部17がクランクシャフト5の内部に多く形成されるため、通常の鍛造より軽量なクランクシャフトが成形できる。
【0045】
つまり、意図的に潰れ易い方向に空けた溝と潰れ難い方向に空けた溝が設けられた中空素材12を用いて、偏芯据え込み法により成形する構成としたことにより、潰れ難い部分である第二溝部14・14により形成される空間を油穴として利用するために残すことが可能となる。
【実施例2】
【0046】
次に、閉塞防止手段が設けられた中空素材を用いたクランクシャフトの成形方法の別実施例について説明する。
【0047】
中空素材22は、図5に示すように、丸棒状部材であり、その内部に一端から他端まで連続して貫通する断面視丸形状の中空部27を有する。
【0048】
中空素材22には、据え込み成形時に中空素材22に対して作用する応力を低減する(逃がす)ことで、前記応力によりアーム部9・9の内部に位置する中空部27が潰れて閉塞することを防止する閉塞防止手段が予め設けられている。
【0049】
閉塞防止手段は、図5に示すように、中空部27の中心軸方向と同方向に貫通する貫通孔23aを備え、中空素材22よりも高硬度であり、かつ中空部27の所定位置に支持される支持部材23と、前記支持部材23の外周面と前記中空部27の内壁面との間に形成され、前記据え込み成形時に前記中空素材22に対して作用する応力により潰れて閉塞する隙間24と、からなるものである。
また、本実施例における支持部材23は、図5(a)に示すように、アーム部9・9を形成する部位9a・部位9aにおける中空部27内に支持される。
なお、中空素材22よりも高硬度材の例としては、熱処理した高炭素鋼材、超硬合金、セラミック等の中空素材22よりも高硬度かつ高強度材を用いることが可能である。
また、本実施例においては、支持部材23を、中空部27内に4個挿入しているが、特に限定するものではなく、少なくとも1個以上挿入していればよい。
また、支持部材23には、貫通孔23aが少なくとも1つ以上設けられており、貫通孔23aが据え込み成形完了時に連続した中空部27を形成できればよい。
【0050】
次に、閉塞防止手段として支持部材23及び隙間24が形成された中空素材22を用いて上述したクランクシャフトの成形方法により偏芯据え込み成形を行った場合の成形方法について図6を用いて説明する。
【0051】
セット工程(成形初期状態)では、図6(a)に示すように、中空素材22が成形装置1にセットされる。この状態においては、中空素材22の断面視は、支持部材23が配置された部分では、支持部材23が中空部27内に挿入(圧入)されたことで、支持部材23の断面視長手方向の両端部が中空素材22の内壁に当接支持されている(図5(b)の符号25部分)。また、支持部材23の外周面と中空素材22の内壁面との間には隙間24が設けられた状態となっている。
【0052】
続いて、偏芯据え込み工程S20では、図6(b)に示すように、中空素材22に対して据え込みによる圧縮力と分散させた表面の引張力とが応力として作用し、意図的に潰す空間である隙間24が潰れ始める(図7(b))。
【0053】
続いて、偏芯据え込み完了工程S30では、図6(c)に示すように、据え込みによる圧縮力と分散させた表面の引張力とが応力として作用したことで、隙間24は完全に潰れて閉塞されてしまい(図7(c)点線矢印参照)、一方、支持部材23の貫通孔23aは残る。このように、据え込み成形時に隙間24が潰れることで応力を低減する(応力を逃がす)ことが可能となる。これにより、クランクシャフト5には、連続した中空部27が形成される。
【0054】
このように、前記閉塞防止手段は、前記中空部27の中心軸方向と同方向に貫通する貫通孔23aを備え、前記中空素材22よりも高硬度であり、かつ前記中空部27の所定位置に支持される支持部材23と、前記支持部材23の外周面と前記中空部27の内壁面との間に形成され、前記据え込み成形時に前記中空素材22に対して作用する応力により潰れて閉塞する隙間24と、からなることにより、偏芯量(ストローク長)が大きいクランクシャフトの場合やカウンターウエイトを張り出させる為に据え込み量を高めた場合等中空部27(内径部)に作用する荷重が高くなった時でも、高硬度の支持部材23が成形荷重を支えることで、確実に連続中空部27を有するクランクシャフト5を偏芯据え込み法で成形できる。
また、中空部27を潤滑用の油穴として利用する場合、後工程(ドリル加工等)が不要となり低コスト化が図れる。
また、中空部27がクランクシャフト5の内部に多く形成されるため、通常の鍛造より軽量なクランクシャフトが成形できる。
【0055】
つまり、据え込まれる部位(アーム部9成形部)に高硬度材で製作した貫通孔23aを有した支持部材23を少なくとも一個以上挿入し、前記貫通孔23aが少なくとも1つ以上は空けられており、かつ中空素材22と支持部材23との間に応力を逃がすための隙間24が設けられた状態となるように支持部材23を挿入した中空素材22を用いて、偏芯据え込み法により成形する構成としたことにより、潰れ難い部分である貫通孔23aを油穴として利用するために残すことが可能となる。
【実施例3】
【0056】
次に、閉塞防止手段が設けられた中空素材を用いたクランクシャフトの成形方法の別実施例について説明する。
【0057】
中空素材22は、図5に示すように、丸棒状部材であり、その内部に一端から他端まで連続して貫通する断面視丸形状の中空部27を有する。
【0058】
中空素材22には、据え込み成形時に中空素材22に対して作用する応力を低減する(逃がす)ことで、前記応力によりアーム部9・9の内部に位置する中空部27が潰れて閉塞することを防止する閉塞防止手段が予め設けられている。
【0059】
閉塞防止手段は、図8に示すように、中空部27に鋳込み、冷却して固められて、前記据え込み成形時に前記中空素材22に対して作用する応力により潰れて閉塞する貫通孔28が設けられた低融点合金29であり、据え込み成形後に、前記低融点合金29を加熱融解して中空部27から排出するものである。
なお、低融点合金としては、例えば、ロウ、ハンダ、スズ等が挙げられる。
【0060】
次に、閉塞防止手段として中空部27に貫通孔28を有する低融点合金29が設けられた中空素材22を用いて上述したクランクシャフトの成形方法により偏芯据え込み成形を行った場合の成形方法について図9を用いて説明する。
【0061】
セット工程(成形初期状態)では、図9(a)に示すように、中空素材22が成形装置1にセットされる。この状態においては、中空素材22の断面視は、低融点合金29が中空素材22の内壁面に沿って被装されており、中央部に貫通孔28を有している(図8(b))。
【0062】
続いて、偏芯据え込み工程S20では、図9(b)に示すように、中空素材22に対して据え込みによる圧縮力と分散させた表面の引張力とが応力として作用し、意図的に潰す孔である貫通孔28が潰れ始める(図10(b))。
【0063】
続いて、偏芯据え込み完了工程S30では、図9(c)に示すように、据え込みによる圧縮力と分散させた表面の引張力とが応力として作用したことで、貫通孔28は完全に潰れて閉塞されてしまう(図10(c)点線矢印参照)。このように、据え込み成形時に貫通孔28が潰れることで応力を低減する(応力を逃がす)ことが可能となる。そうして、据え込み成形後に、成形されたクランクシャフト5を所定温度にて加熱することで、中空部27内の低融点合金29を融解して中空部27から排出する(図9(d))。これにより、クランクシャフト5には、連続した中空部27が形成される。
【0064】
このように、前記閉塞防止手段は、前記中空部27に鋳込み、冷却して固められて、前記据え込み成形時に前記中空素材22に対して作用する応力により潰れて閉塞する貫通孔28が設けられた低融点合金29であり、前記据え込み成形後に、前記低融点合金29を加熱融解して前記中空部27から排出することにより、低融点合金29に設けた貫通孔28により、内部中空部27に分散させた力を低減させることで成形性を確保し、且つ成形したクランクシャフト5の内部に残った低融点合金29を溶解して排出させることで、成形荷重が高い場合でも比較的低コストで連続中空部27を有するクランクシャフト5を偏芯据え込み法で冷鍛成形できる。
また、中空部27を潤滑用の油穴として利用する場合、後工程(ドリル加工等)が不要となり低コスト化が図れる。
また、中空部27がクランクシャフト5の内部に多く形成されるため、通常の鍛造より軽量なクランクシャフトが成形できる。
【0065】
こうして、本発明を適用することで、図11に示すように、連続した中空孔を有するクランクシャフトを製造することができるため、この中空孔を利用してクランクシャフトへの集中給油が可能となり給油機構及びブロック構造そのものも簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施形態に係るクランクシャフトの成形方法を示す図であり、(a)はセット工程を示す模式側面断面図、(b)は偏芯据え込み工程を示す模式側面断面図、(c)は偏芯据え込み完了工程を示す模式側面断面図。
【図2】同じくクランクシャフトの成形フローを示す図。
【図3】中空素材を示す図であり、(a)は正面図、(b)は(a)におけるA−A矢視断面図。
【図4】図1に示す各工程における中空素材の断面視を示す図であり、(a)は図1(a)におけるA1−A1矢視断面図、(b)は図1(b)におけるA2−A2矢視断面図、(c)は図1(c)におけるA3−A3矢視断面図。
【図5】中空素材の別実施例を示す図であり、(a)は正面断面図、(b)は(a)におけるA−A矢視断面図。
【図6】クランクシャフトの成形方法の別実施例を示す図であり、(a)はセット工程を示す模式側面断面図、(b)は偏芯据え込み工程を示す模式側面断面図、(c)は偏芯据え込み完了工程を示す模式側面断面図。
【図7】図6における中空素材の断面視を示す図であり、(a)は図6(a)におけるA1−A1矢視断面図、(b)は図6(b)におけるA2−A2矢視断面図、(c)は図6(c)におけるA3−A3矢視断面図。
【図8】中空素材の別実施例を示す図であり、(a)は正面断面図、(b)は(a)におけるA−A矢視断面図。
【図9】クランクシャフトの成形方法の別実施例を示す図であり、(a)はセット工程を示す模式側面断面図、(b)は偏芯据え込み工程を示す模式側面断面図、(c)は偏芯据え込み完了工程を示す模式側面断面図、(d)は低融点合金の排出時を示す模式側面断面図。
【図10】図9における中空素材の断面視を示す図であり、(a)は図9(a)におけるA1−A1矢視断面図、(b)は図9(b)におけるA2−A2矢視断面図、(c)は図9(c)におけるA3−A3矢視断面図。
【図11】本発明に係るクランクシャフトの成形方法により成形されたクランクシャフトを示す説明図。
【図12】従来のクランクシャフトの成形方法(成形メカニズム)を示す図であり、(a)はセット工程を示す模式側面断面図、(b)は偏芯据え込み工程を示す模式側面断面図、(c)は偏芯据え込み完了工程を示す模式側面断面図。
【図13】従来法により成形されたクランクシャフトを示す図。
【図14】従来法により成形されたクランクシャフトの課題を説明する図。
【符号の説明】
【0067】
1 成形装置
2・12・22 中空素材
3 上型
4 下型
5 クランクシャフト
6 フローティング治具
7・17・27 中空部
9 アーム部
13 第一溝部
14 第二溝部
23 支持部材
24 隙間
28 貫通孔
29 低融点合金
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続した中空部を有する中空素材を用いて冷間鍛造によって偏芯据え込み成形を行うことでクランクシャフトを成形する方法であって、
前記中空素材の中途部を偏芯治具により保持し、成形装置の上下型に前記中空素材の中心軸方向における両端をセットするセット工程と、
前記成形装置の上型を下降させつつ、前記偏芯治具を前記中空素材の中心軸方向に対して鉛直方向に移動させることで、前記偏芯治具が保持する前記中空素材の中途部を前記中空素材の中心軸に対して偏芯させて据え込み成形を行う偏芯据え込み工程と、
前記上型を所定位置まで下降させて据え込み成形を行うことで、前記偏芯治具に保持された前記中空素材の中途部の両端に前記クランクシャフトのアーム部を連続して形成する偏芯据え込み完了工程と、を備え、
前記中空素材として、前記中空部の内部に前記据え込み成形時に前記中空素材に対して作用する応力を低減させることで、当該応力により前記アーム部の内部に位置する中空部が潰れて閉塞することを防止する閉塞防止手段が設けられたものを用いることを特徴とする連続中空部を有するクランクシャフトの成形方法。
【請求項2】
前記閉塞防止手段は、
前記中空部の内壁面に前記中空素材の中心軸方向と略平行に設けられた複数の溝部であり、前記複数の溝部が前記据え込み成形時に前記中空素材に対して作用する応力の方向に対して意図的に潰れ易い方向に設けられた溝部と潰れ難い方向に設けられた溝部と、からなることを特徴とする請求項1に記載の連続中空部を有するクランクシャフトの成形方法。
【請求項3】
前記閉塞防止手段は、
前記中空部の中心軸方向と同方向に貫通する貫通孔を備え、前記中空素材よりも高硬度であり、かつ前記中空部の所定位置に支持される支持部材と、
前記支持部材の外周面と前記中空部の内壁面との間に形成され、前記据え込み成形時に前記中空素材に対して作用する応力により潰れて閉塞する隙間と、からなることを特徴とする請求項1に記載の連続中空部を有するクランクシャフトの成形方法。
【請求項4】
前記閉塞防止手段は、
前記中空部に鋳込み、冷却して固められて、前記据え込み成形時に前記中空素材に対して作用する応力により潰れて閉塞する貫通孔が設けられた低融点合金であり、前記据え込み成形後に、前記低融点合金を加熱融解して前記中空部から排出することを特徴とする請求項1に記載の連続中空部を有するクランクシャフトの成形方法。
【請求項1】
連続した中空部を有する中空素材を用いて冷間鍛造によって偏芯据え込み成形を行うことでクランクシャフトを成形する方法であって、
前記中空素材の中途部を偏芯治具により保持し、成形装置の上下型に前記中空素材の中心軸方向における両端をセットするセット工程と、
前記成形装置の上型を下降させつつ、前記偏芯治具を前記中空素材の中心軸方向に対して鉛直方向に移動させることで、前記偏芯治具が保持する前記中空素材の中途部を前記中空素材の中心軸に対して偏芯させて据え込み成形を行う偏芯据え込み工程と、
前記上型を所定位置まで下降させて据え込み成形を行うことで、前記偏芯治具に保持された前記中空素材の中途部の両端に前記クランクシャフトのアーム部を連続して形成する偏芯据え込み完了工程と、を備え、
前記中空素材として、前記中空部の内部に前記据え込み成形時に前記中空素材に対して作用する応力を低減させることで、当該応力により前記アーム部の内部に位置する中空部が潰れて閉塞することを防止する閉塞防止手段が設けられたものを用いることを特徴とする連続中空部を有するクランクシャフトの成形方法。
【請求項2】
前記閉塞防止手段は、
前記中空部の内壁面に前記中空素材の中心軸方向と略平行に設けられた複数の溝部であり、前記複数の溝部が前記据え込み成形時に前記中空素材に対して作用する応力の方向に対して意図的に潰れ易い方向に設けられた溝部と潰れ難い方向に設けられた溝部と、からなることを特徴とする請求項1に記載の連続中空部を有するクランクシャフトの成形方法。
【請求項3】
前記閉塞防止手段は、
前記中空部の中心軸方向と同方向に貫通する貫通孔を備え、前記中空素材よりも高硬度であり、かつ前記中空部の所定位置に支持される支持部材と、
前記支持部材の外周面と前記中空部の内壁面との間に形成され、前記据え込み成形時に前記中空素材に対して作用する応力により潰れて閉塞する隙間と、からなることを特徴とする請求項1に記載の連続中空部を有するクランクシャフトの成形方法。
【請求項4】
前記閉塞防止手段は、
前記中空部に鋳込み、冷却して固められて、前記据え込み成形時に前記中空素材に対して作用する応力により潰れて閉塞する貫通孔が設けられた低融点合金であり、前記据え込み成形後に、前記低融点合金を加熱融解して前記中空部から排出することを特徴とする請求項1に記載の連続中空部を有するクランクシャフトの成形方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図13】
【公開番号】特開2010−131609(P2010−131609A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307881(P2008−307881)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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