説明

過給機、及び過給機の設計方法

【課題】予期しない動作不良の発生が抑止される過給機、及び過給機の設計方法を提供する。
【解決手段】環状ガス流路10に流し込まれた排気ガスによりタービンインペラ5を駆動させるタービン2と、環状ガス流路10内に円周状に所定間隔で配列される複数のノズルベーン31を開閉することで排気ガスの流速を可変とする可変容量装置と、タービンインペラ5の回転力によりコンプレッサインペラ6を駆動させるコンプレッサ3と、を備える過給機1である。可変容量装置は、シュラウド12の外周面に設けられる駆動リング33と、スライドジョイント34と、ノズルベーン31を保持するとともに駆動リング33の回転駆動に伴ってスライドジョイント34に摺動してノズルベーン31の開閉を行うリンク部材35と、を有している。そして、スライドジョイント34及びリンク部材35の摺動領域における面積は予め設定された寿命に応じて規定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給機、及び過給機の設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の排気ガスと環境の問題が世界的にクローズアップされているなか、乗用車クラスの小型ディーゼルエンジン市場ではエミッション規制への対応と低燃費化、性能向上のため過給機の使用が必須となりつつある。このような背景から、タービンの排気ガス流入部のノズルベーンを可動にして流路面積を可変とする可変容量装置を過給機に備えることで低速から高速域まで広範囲での性能向上を可能とすることが注目されている(例えば、特許文献1参照)。このような可変容量装置は駆動機構を用いることでノズルベーンの開閉が行われる。
【特許文献1】特開2007−40251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記駆動機構では摺動箇所において磨耗が生じ、磨耗の進行によりガタつきが生じる可能性がある。このような駆動機構は、例えば回動可能に設けられるスライドジョイントと、該スライドジョイントを挟み込むとともに摺動可能とされるリンク部材とを組み合わせたものが用いられる。リンク部材及びスライドジョイントの摺動箇所に磨耗が生じ、磨耗の進行によりガタつきが生じ良好な動作が得られなくなる可能性がある。このようなガタつきが生じた状態は部材の寿命とみなされ、交換等のメンテナンスが必要となる。しかしながら、従来は、磨耗と寿命との関連性が考慮されていないため、磨耗の進行によって部材の寿命を迎えることにより可変容量装置における予期しない動作不良を招くおそれがあった。
【0004】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、予期しない動作不良の発生が抑止される過給機、及び過給機の設計方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
本発明の過給機は、内燃機関から環状ガス流路に流し込まれた排気ガスによりタービンインペラを駆動させるタービンと、前記環状ガス流路内に円周状に所定間隔で配列される複数のノズルベーンを開閉することにより前記排気ガスの流速を可変とする可変容量装置と、前記タービンインペラの回転力によりコンプレッサインペラを駆動させるコンプレッサと、を備える過給機において、前記可変容量装置は、前記タービンインペラを囲むシュラウドに揺動可能に設けられる駆動リングと、該駆動リングに対して回動可能に設けられるスライドジョイントと、前記ノズルベーンを保持するとともに前記駆動リングの回転動作に伴って前記スライドジョイントに摺動することで前記ノズルベーンの開閉を行うリンク部材と、を有しており、前記スライドジョイント及び前記リンク部材の摺動領域における面積は、予め設定された当該スライドジョイント及びリンク部材の寿命に応じて規定されることを特徴とする。
【0006】
本発明の過給機によれば、スライドジョイント及びリンク部材が所定の寿命に対応する接触面積を有した形状となっているので、例えばスライドジョイント及びリンク部材は所定の寿命を満足するものとなり、スライドジョイント及びリンク部材が予期せず寿命を迎えてしまい可変容量装置の動作不良を突然引き起こすといった不具合の発生を防止できる。このように磨耗と寿命との関連性が考慮されることで、過給機における信頼性を向上させることができる。ここで、スライドジョイント及びリンク部材の接触面積が相対的に大きくなると面圧の増加に伴って磨耗量が増加して寿命が短くなり、一方上記接触面積が相対的に小さくなると面圧の低下に伴って磨耗量が減少して寿命が長くなる。よって、例えば、必要とされる部品寿命が短い場合においては上記接触面積を小さくすることでスライドジョイント及びリンク部を小さくすることができ、結果的に過給機の小型化を図ることができる。
【0007】
また、上記過給機においては、前記スライドジョイントは、角部が面取りされているのが好ましい。
【0008】
また、上記過給機においては、前記リンク部材は、前記スライドジョイントを挟み込んだ状態に保持する挟み込み部を有しており、該挟み込み部の先端部が面取りされているのが好ましい。
【0009】
本発明の過給機の設計方法は、内燃機関から環状ガス流路に流し込まれた排気ガスによりタービンインペラを駆動させるタービンと、前記タービンインペラの外周を囲むシュラウドに揺動可能な駆動リングにスライドジョイントが回動可能とされ、前記駆動リングの回転動作時にスライドジョイントに対してリンク部材が摺動されることで該リンク部材に設けられたノズルベーンの開閉を行い前記環状ガス流路に流れ込む排気ガスの流速を可変する可変容量装置と、前記タービンインペラの回転力によりコンプレッサインペラを駆動させるコンプレッサと、を備える過給機の設計方法であって、前記可変容量装置を設計する際に、前記スライドジョイント及び前記リンク部材の接触面積を所望の寿命に応じて算出するステップと、算出した前記接触面積に基づいて前記スライドジョイント及び前記リンク部材の形状設計を行うステップと、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の過給機の設計方法によれば、スライドジョイント及びリンク部材が所定の部品寿命に対応する接触面積を有した形状に設計するステップを有しているので、例えばスライドジョイント及びリンク部材は所定の寿命を満足するものとなり、スライドジョイント及びリンク部材が予期せず寿命を迎えてしまい可変容量装置の動作不良を突然引き起こすといった不具合の発生を防止できる。このように磨耗と寿命との関連性を考慮することで、信頼性の高い過給機を提供することができる。ここで、スライドジョイント及びリンク部材の接触面積が相対的に小さくなると面圧の増加に伴って磨耗量が増加して寿命が短くなり、一方上記接触面積が相対的に大きくなると面圧の低下に伴って磨耗量が減少して寿命が長くなる。よって、例えば、必要とされる部品寿命が短い場合、上記接触面積を小さくすることでスライドジョイント及びリンク部が小さくなり、小型且つ所望の寿命を満足する過給機を設計することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
スライドジョイント及びリンク部材が所定の寿命に対応する接触面積を有した形状となっているので、磨耗と寿命との関連性が考慮されることで、過給機における信頼性を向上させることができる。また、所望の寿命が短い場合、接触面積を小さくすることでスライドジョイント及びリンク部を小型化でき、結果的に過給機の小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、後述する実施形態は一例であり、本発明はこれに限定されることはなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能であることはもちろんである。図1は、本実施形態に係る過給機の構成を示す模式図である。図2は過給機に設けられる可変容量装置の構成を示す模式図である。
【0013】
図1に示されるように、過給機1はタービン2と内燃機関(例えば、自動車用ディーゼルエンジン)に向けて圧縮気体を供給するコンプレッサ3と、これらの間に配置されて一体に連結されるベアリング部4とを備えている。
【0014】
タービン2は、タービンハウジング2aと、該タービンハウジング2a内に設けられるタービンインペラ5と、タービンインペラ5及びタービンハウジング2aの間に設けられた環状のシュラウド(タービンシュラウド)12と、タービンインペラ5を回転可能とするシャフト7と、を備えている。また、タービンハウジング2aは、一端に排気ガス入口(入口)8が設けられたスクロール流路9と、中心部に形成された排気ガス出口11とを備えている。
【0015】
排気ガス入口8は不図示の内燃機関の排気口に接続されて、内燃機関から排気ガスが導かれる。また、排気ガス出口11は、排気筒(図示せず)等に接続される。また、上記スクロール通路9の内周部には環状ガス流路10が設けられており、上記排気ガスをタービンインペラ5に導入するようになっている。そして、タービンインペラ5を駆動した後の排気ガスは上記排気ガス出口11から排出されるようになっている。
【0016】
上記コンプレッサ3は、上記シャフト7を介してタービンインペラ5に一体形成されるコンプレッサインペラ6と、該コンプレッサインペラ6を覆うコンプレッサハウジング3aとを備えている。コンプレッサハウジング3aにおけるシャフト7と同軸上には、吸気口25が形成されている。この吸気口25から外気が吸引されるようになっている。また、コンプレッサハウジング3aは、内燃機関の給気口に接続され、加圧空気を内燃機関へ導くための環状流路42が設けられている。
【0017】
上記ベアリング部4は、上記シャフト7を支持する軸受部21と該軸受部21を支持するベアリングハウジング22とを備えており、上記シャフト7はベアリングハウジング22に対して回転自在に設けられる。上記軸受部21としては、例えばボールベアリング等を例示できる。また、ベアリングハウジング22は、例えば螺子等により一端側が上記タービンハウジング2aに一体的に連結され、他端側が上記コンプレッサハウジング3aに一体的に連結されている。
【0018】
このような構成に基づき、過給機1は、スクロール通路9における排気ガス入口8を介して供給される排気ガスによってタービンインペラ5が回転駆動され、タービンインペラ5とシャフト7を介して連結されたコンプレッサインペラ6が連動して回転駆動される。そして、コンプレッサインペラ6の回転によって環状流路42に圧縮された空気が送り込まれ、この圧縮された空気が内燃機関に供給可能となる。
【0019】
ところで、本実施形態に係る過給機1は、図2に示されるようなマルチベーン方式の可変容量装置30を備えている。図2はタービン2内部から排気ガス出口11側を視た図であり、図2中においては可変容量装置30の構成を分かり易くするため、タービンハウジング2a等の図示を省略している。
【0020】
可変容量装置30は、複数のノズルベーン31と、駆動機構32とを備えている。ノズルベーン31は、タービンインペラ5を囲むように環状ガス流路10内に円周状に所定間隔で配列されている。すなわち、ノズルベーン31は、タービンインペラ5の回転軸周りに所定間隔で配列されている。
【0021】
駆動機構32は、タービン2のシュラウド12の円周方向に揺動可能に設けられる駆動リング33と、該駆動リング33の前記タービンインペラ5側に回動可能に設けられる複数のスライドジョイント34と、該各スライドジョイント34に対して摺動可能とされ、各ノズルベーン31をそれぞれ保持するリンク部材35とを備えている。
【0022】
以下、可変容量装置30の構成について詳しく説明する。図3は可変容量装置30の要部の構成を示す図である。図3に示されるように、駆動リング33には平面視略四角形状からなるスライドジョイント34をそれぞれ回動可能に支持する支持軸36が設けられている。この支持軸36は駆動リング33におけるノズルベーン31の配置間隔に対応する位置に設けられた連結孔33aに端部が嵌合されてカシメ等によって連結固定されている。なお、支持軸36は駆動リング33に、例えば精密プレス加工(ファインブランキング加工)を用いることで一体形成されていてもよい。
【0023】
上記リンク部材35は、略フォーク形状の部材から構成され、スライドジョイント34を挟み込むように保持する。具体的には、リンク部材35はスライドジョイント34を挟み込んだ状態に保持する挟み込み部35aを有している。なお、挟み込み部35aとスライドジョイント34との間にはガタツキが生じない程度の僅かな隙間が形成されており、これによってスライドジョイント34及びリンク部材35は摺動可能となっている。なお、上記スライドジョイント34の角部、及び上記挟み込み部35aの先端部は面取りがされており、摺動時に角部による偏磨耗が生じるのを防止している。
【0024】
さらにリンク部材35に設けられた連結孔内にノズルベーン保持軸31aの一端側が嵌合されてカシメ等によって連結固定され、このノズルベーン保持軸31aの他端側に各ノズルベーン31がそれぞれ固定(保持)されている。これにより、ノズルベーン31はリンク部材35と一体的に動作可能となっている。図1に示したようにノズルベーン保持軸31aはシュラウド12を外側から内側に貫通した状態に保持され、これによりノズルベーン31が環状ガス流路10に配列される。
【0025】
なお、駆動リング33には、リンク部材35に勘合してカシメられたノズルベーン保持軸31aの突出部との干渉を防止する貫通孔37が円弧状にノズルベーン31の数に対応して形成されている。
【0026】
さらに、駆動リング33には、図4に示されるように駆動リンク51及びアーム52を介してアクチュエータ53が設けられている。具体的には、駆動リング33に設けられた連結孔内に一端側が嵌合されてカシメ等によって連結固定された支持軸54に駆動用ジョイント55が回動可能に設けられ、該駆動用ジョイント55を挟み込むように駆動リンク51が設けられている。駆動用ジョイント55は上記スライドジョイント34と同様の構成からなるものであり、駆動リンク51は上記リンク部材35と同様の構成からなるものである。
【0027】
アーム52の一端側には支持軸52aが設けられており、この支持軸52aに上記駆動リンクが連結固定されている。支持軸52aは例えばタービンハウジング2aに回動可能に支持されている。また、アーム52の他端側には支持軸52bが設けられており、この支持軸52bにはアクチュエータ53が接続されている。
【0028】
さらにアクチュエータ53は、駆動リンク51及びアーム52を介して駆動リング33を所定の位置に保持するとともに円周方向に揺動させることで図2に示した支持軸36、スライドジョイント34を介してリンク部材35を揺動させることによってノズルベーン31に駆動力を伝達して各ノズルベーン31を連動して開閉可能となっている。
【0029】
次に、本実施形態に係る過給機1の動作について説明する。
過給機1は、不図示の自動車用エンジン等の内燃機関から排出された排気ガスによりタービンインペラ5を回転駆動し、この回転によりシャフト7を介して、コンプレッサインペラ6が回転駆動する。コンプレッサインペラ6が回転駆動することで、吸気口25から吸引した空気(外気)をコンプレッサ内に設けられた環状流路42で圧縮し、圧縮空気を得ることができる。圧縮空気は不図示の吹出口から内燃機関へ供給される。
【0030】
圧縮空気は内燃機関内において燃料の消費に供される。この燃焼によって内燃機関より排気ガスが排出され、排気ガス入口8から過給機1内に取り込まれる。排気ガスはタービン2内のスクロール通路9を経由して、タービンインペラ5が回転するという動作を継続する。
【0031】
ところで、エンジンの回転速度に応じてタービン2に供給される排気ガスの流速が変化する。そこで、本実施形態に係る過給機1は、可変容量装置30によってノズルベーン31の角度を調整することで環状ガス流路10を通ってタービンインペラ5に流れ込む排気ガスの流速を適宜調整することで低速回転から高速回転までの広範囲の過給によりエンジン性能向上を図ることができる。
【0032】
以下、可変容量装置30の動作について説明する。
【0033】
エンジン低速時の排気ガス流速が低い場合には、ノズルベーン31を回動して環状ガス流路10を絞る。
具体的には、アクチュエータ53を縮み方向(図4中D方向)に動作させる。すると、アクチュエータ53の動作がアーム52、駆動リンク51、及び駆動用ジョイント55を介して駆動リング33に伝達され、駆動リング33は図4中A方向に回転する。駆動リング33が図4中A方向に回転すると、前記スライドジョイント34は支持軸36を中心として回転し、このときリンク部材35とスライドジョイント34とは摺動する。これにより、スライドジョイント34及びリンク部材35を介してノズルベーン31はノズルベーン保持軸31aを中心として反時計回り(図4中F方向)に回転する。よって、ノズルベーン31は環状ガス流路10に流れ込む排気ガスの流路を開くことができる。
【0034】
一方、エンジン高速時の排気ガスの流速が高い場合には、ノズルベーン31を回動して環状ガス流路10を開く。
具体的には、図4に示したアクチュエータ53を伸び方向(図4中C方向)に動作させる。すると、アクチュエータ53の動作がアーム52、駆動リンク51、及び駆動用ジョイント55を介して駆動リング33に伝達され、駆動リング33は図4中B方向に回転する。駆動リング33が図4中B方向に回動すると、前記スライドジョイント34は支持軸36を中心として回転し、このときリンク部材35とスライドジョイント34とは摺動する。これにより、スライドジョイント34及びリンク部材35を介してノズルベーン31はノズルベーン保持軸31aを中心として時計回り(図4中E方向)に回転する。よって、ノズルベーン31は環状ガス流路10に流れ込む排気ガスの流路を絞ることができる。
【0035】
ところで、上述したようにノズルベーン31の開閉時には、スライドジョイント34及びリンク部材35は摺動する。よって、スライドジョイント34及びリンク部材35における接触面(摺動面)は、経時的に磨耗が生じる。磨耗量が所定値以上になると、スライドジョイント34とリンク部材35との間にガタつきが生じ、可変容量装置30を良好に動作させることができなくなり、過給機1において所望の性能を得ることが困難となる。すなわち、このようなガタつきが生じたスライドジョイント34及びリンク部材35は寿命とみなされる。
【0036】
そこで、本実施形態においては、スライドジョイント34及びリンク部材35の摺動部における面積が、予め設定された寿命(スライドジョイント34及びリンク部材35)に応じて規定されている。
【0037】
本実施形態では、可変容量装置30を設計する際に、前記スライドジョイント34及び前記リンク部材35の接触面積を所望の寿命に応じて算出するステップと、算出した前記接触面積に基づいて前記スライドジョイント34及び前記リンク部材35の形状設計を行うステップとを有している。
【0038】
本実施形態に係る過給機1は、上記スライドジョイント34及びリンク部材35が、互いが所定の寿命に応じて規定される面積(接触面積)だけ接触する形状となっている。具体的には、スライドジョイント34及びリンク部材35を相対的に大型化することで接触面積を増加させて長寿命化を図っている。
【0039】
これら摺動領域の面積が大きくなると面圧が低下する。この面圧は摺動領域に生じる磨耗量に影響を及ぼす。以下、図5に示すグラフを参照して、この理由について述べる。スライドジョイント34及びリンク部材35の磨耗量と接触面圧との間には、図5に示されるように比例関係がある。また、面圧と接触面積との間には、例えばスライドジョイント34及びリンク部材35における接触面積が大きくなると接触面圧が減少するといったように反比例関係がある。すなわち、本実施形態のように、例えばスライドジョイント34及びリンク部材35における接触面積を大きくすることで磨耗量が低減し、これら部材の寿命を延ばすことが可能となる。
【0040】
なお、本実施形態に係るスライドジョイント34及びリンク部材35は、予め設定された寿命に応じて接触面積が大きく設定されている。一般にノズルベーンを駆動させるためのアクチュエータは、スライドジョイント及びリンク部材の大きさに応じて適宜設定される。しかしながら、コスト削減の観点からはスライドジョイント34及びリンク部材35の大きさによらずアクチュエータを共通化できるのが望ましい。
【0041】
そこで、本実施形態に係る過給機1は後述する条件を満たすことでアクチュエータの共通化を実現している。以下、図6を参照しつつ過給機1の設計条件について説明する。
図6に示されるように、ノズルベーン31にかかるトルクをTとし、アーム52にかかる力(アクチュエータ53の駆動力)をFとする。また、アーム52における支持軸52a、52b間の距離をL1とし、前記支持軸52a及び駆動リング33に設けられる支持軸54間の距離をL2とし、駆動リング33の中心Cから前記支持軸54までの距離をL3とし、前記駆動リング33の中心Cからスライドジョイント34を回動可能に支持する支持軸36までの距離をL4とし、ノズルベーン保持軸31aと前記支持軸36との間の距離をL5とする。
【0042】
このとき、ノズルベーン31にかかるトルクTは下式を満たす。
【0043】
T=F×(L1/L2)×(L3/L4)×L5 (式1)
【0044】
ここで、トルクTとアクチュエータ53の駆動力Fが変化しないものとした場合、以下の条件が満たされる。
【0045】
(L1/L2)×(L3/L4)×L5=一定 (式2)
【0046】
本実施形態では、上述したようにスライドジョイント34及びリンク部材35における所定の寿命に応じて接触面積を変化させるべく、各部材の大きさが変化する。そのため、駆動リング33の中心C及び支持軸36間の距離L4、ノズルベーン保持軸31a及び支持軸36間の距離L5は変動する。また、アクチュエータ53を共通化すべく、アーム52の支持軸52a、52b間距離L1は一定とする必要がある。したがって、スライドジョイント34及びリンク部材35の大きさによらず、アクチュエータ53を共通化するためには、支持軸52a及び支持軸54間距離L2、及び駆動リング33の中心C及び支持軸54間距離L3は下式3に示す条件を満足するように設計すればよい。
【0047】
(L5/L2)×(L3/L4)=一定 (式3)
【0048】
このような条件に基づいて可変容量装置30は、所定の寿命に応じてスライドジョイント34及びリンク部材35の形状、及び大きさが変化した場合でも、ノズルベーン31を駆動させる機構として搭載されるアクチュエータ53を共通化することができる。このようにアクチュエータ53を共通化することで可変容量装置30のコストを削減することができ、結果的に過給機1の低コスト化を図ることができる。
【0049】
本実施形態に係る過給機1によれば、スライドジョイント34及びリンク部材35が所定の寿命に対応する接触面積を有した形状となっているので、例えばスライドジョイント34及びリンク部材35は所望の寿命を満足するものとなり、スライドジョイント34及びリンク部材35が予期せずに寿命を迎えてしまい、可変容量装置30が突然動作不良となるといった不具合の発生を防止できる。このように磨耗と寿命との関連性が考慮されることで、過給機1における信頼性を大きく向上することができる。
【0050】
上述したようにスライドジョイント34及びリンク部材35の接触面積が相対的に大きくなると面圧とともに磨耗量が増加することで寿命が短くなり、一方上記接触面積が相対的に小さくなると面圧とともに磨耗量が減少することで寿命が長くなる。
【0051】
例えば、必要とされる部品寿命が短い場合においては上記接触面積を小さくすることができ、これによりスライドジョイント34及びリンク部材35を小さくすることができ、結果的に過給機1の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】過給機の構成を示す模式図である。
【図2】過給機に設けられる可変容量装置の構成を示す模式図である。
【図3】可変容量装置の要部の構成を示す平面図である。
【図4】可変容量装置の分解斜視図である。
【図5】面圧と磨耗量との関係を示すグラフである。
【図6】過給機の設計条件を説明するための図である。
【符号の説明】
【0053】
1…過給機、2…タービン、3…コンプレッサ、5…タービンインペラ、6…コンプレッサインペラ、10…環状ガス流路、12…シュラウド、30…可変容量装置、31…ノズルベーン、33…駆動リング、34…スライドジョイント、35…リンク部材、35a…挟み込み部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から環状ガス流路に流し込まれた排気ガスによりタービンインペラを駆動させるタービンと、前記環状ガス流路内に円周状に所定間隔で配列される複数のノズルベーンを開閉することにより前記排気ガスの流速を可変とする可変容量装置と、前記タービンインペラの回転力によりコンプレッサインペラを駆動させるコンプレッサと、を備える過給機において、
前記可変容量装置は、前記タービンインペラを囲むシュラウドに揺動可能に設けられる駆動リングと、該駆動リングに対して回動可能に設けられるスライドジョイントと、前記ノズルベーンを保持するとともに前記駆動リングの回転動作に伴って前記スライドジョイントに摺動することで前記ノズルベーンの開閉を行うリンク部材と、を有しており、
前記スライドジョイント及び前記リンク部材の摺動領域における面積は、予め設定された当該スライドジョイント及びリンク部材の寿命に応じて規定されることを特徴とする過給機。
【請求項2】
前記スライドジョイントは、角部が面取りされていることを特徴とする請求項1に記載の過給機。
【請求項3】
前記リンク部材は、前記スライドジョイントを挟み込んだ状態に保持する挟み込み部を有しており、該挟み込み部の先端部が面取りされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の過給機。
【請求項4】
内燃機関から環状ガス流路に流し込まれた排気ガスによりタービンインペラを駆動させるタービンと、前記タービンインペラの外周を囲むシュラウドに揺動可能な駆動リングにスライドジョイントが回動可能とされ、前記駆動リングの回転動作時にスライドジョイントに対してリンク部材が摺動されることで該リンク部材に設けられたノズルベーンの開閉を行い前記環状ガス流路に流れ込む排気ガスの流速を可変する可変容量装置と、前記タービンインペラの回転力によりコンプレッサインペラを駆動させるコンプレッサと、を備える過給機の設計方法であって、
前記可変容量装置を設計する際に、
前記スライドジョイント及び前記リンク部材の接触面積を所望の寿命に応じて算出するステップと、
算出した前記接触面積に基づいて前記スライドジョイント及び前記リンク部材の形状設計を行うステップと、を備えることを特徴とする過給機の設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−114892(P2009−114892A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286478(P2007−286478)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】