説明

過給機付きエンジンの排圧低減装置

【課題】過給時にウェイストゲートバルブのばたつきを防止しつつ、低負荷時の排圧を低減する。
【解決手段】本発明は、排気通路に配置された排気過給機をバイパスする通路を開閉するためのウェイストゲートバルブを備えるエンジンにおいて、排気過給機により過給されている高負荷走行時にウェイストゲートバルブを開閉させるためのアクチュエータのロッドをストロークさせないために、上室にはコンプレッサ上流側の圧力を導き、下室にはスロットルバルブ下流の圧力を導くことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気過給機付きエンジンの排気圧力抵抗を低減させるための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、排気過給機付きのエンジンでは、過給圧が過度に上昇した場合にエンジンが損傷するのを防止するため、タービンをバイパスするバイパス通路を設け、そこに通路を開閉するためのウェイストゲートバルブを設けている。このウェイストゲートバルブは、コンプレッサの出口圧力(過給圧)を導いたアクチュエータにより駆動されて、過給圧力が所定値以上(インターセプト回転以降の過過給運転状態)になった時に開かれるようになっている。従って、ウェイストゲートバルブはアクチュエータ内に設置されたばねの力によって通常閉じられている。
【0003】
また、下記特許文献1に記載されている発明では、スロットルバルブ下流の吸気圧力が負圧となるときに、ウェイストゲートバルブが開かれ、エンジンに過給機を搭載することによって生じた排気圧力上昇を解消するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭61−120036
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に示された発明では、排気過給機が本来その性能を発揮させる運転状態である、過給領域(高負荷状態)において、アクチュエータ内のダイヤフラム上下にかかる圧力差がほぼ0に等しいため、ウェイストゲートバルブはアクチュエータ内に配置したばねの力のみで閉じているに過ぎず、ウェイストゲートバルブがバタツキを発生するという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は上記問題に着目してなされたものであり、ウェイストゲートバルブが閉じる状況であっても、アクチュエータ内のダイヤフラム上下に作動圧力を導くことにより、ばね力を圧力でアシストし、ウェイストゲートバルブにバタツキを発生させないようにする過給機付きエンジンの排気圧力低減装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成させるため、本発明における過給機付きエンジンの排圧低減装置においては、吸気通路に配置されるコンプレッサと排気通路に配置されるタービンから成る排気過給機と、上記コンプレッサの下流に配置されたスロットルバルブと、上記タービンをバイパスして排気を流すバイパス通路と、上記バイパス通路を開閉するウェイストゲートバルブとを備えている。また、ダイヤフラムにより隔成された上室及び下室と、上記ダイヤフラムに連結されたロッドと、上記ロッドを上室側に付勢する手段とを有し、上記ロッドを介して上記ウェイストゲートバルブを開閉駆動するアクチュエータとを備えている。さらに、コンプレッサ上流側と上室とを接続する通路と、コンプレッサとスロットルバルブの間の吸気通路と上室とを接続する通路と、スロットルバルブ下流側と下室とを接続する通路と、コンプレッサ上流側と上室との連通と、コンプレッサとスロットルバルブ間の吸気通路と上室との連通と、を切替可能な上室制御弁とを備えている。そして、エンジン負荷に応じて上室制御弁を制御することで、上記ウェイストゲートバルブの開閉を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、ウェイストゲートバルブが閉じる状況であっても、アクチュエータ内に作動圧力を導くことによって、ウェイストゲートバルブにバタツキを発生させないようにする過給機付きエンジンの排気圧力低減装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例における過給機付きエンジンの装置概略図である。
【図2】実施例1におけるアクチュエータの構造図である。
【図3】ウェイストゲートバルブの制御マップ概略図である。
【図4】過過給領域におけるアクチュエータ作動圧力の導入図である。
【図5】低負荷領域におけるアクチュエータ作動圧力の導入図である。
【図6】高負荷領域におけるアクチュエータ作動圧力の導入図である。
【図7】遷移領域における作動圧力の導入図である。
【図8】実施例2におけるアクチュエータの構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態例を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【実施例】
【0011】
図1は、実施例における過給機付きエンジンの装置概略図である。
【0012】
エンジン2の吸気の流れは、矢印で示すように、図示せぬ外気導入ダクトより導入された空気が、同じく図示せぬエアークリーナーを通って、吸気通路3に流れ込み、排気過給機1のコンプレッサ5で圧縮され、インタークーラ6で冷却された上で、吸入空気量を調節するスロットルバルブ7へと到達し、エンジン2のインテークマニフォールド8へと流れていく。
【0013】
一方、エンジン2から排出された排気ガスは、矢印で示すように、エキゾーストマニフォールド18から排気過給機1のタービン9又はバイパス通路10を通って、排気通路4へ至り、図示せぬ3元触媒へと排出されていく。
【0014】
ここで、排気過給機1は、エンジン2の吸気通路3と排気通路4に跨って装着され、吸気通路3に配置されたコンプレッサ5と排気通路4に配置されたタービン9とからなり、これらコンプレッサ5とタービン9は、タービンシャフト11により連結されている。
【0015】
排気通路4には、タービン9をバイパスするバイパス通路10があり、ウェイストゲートバルブ12がバイパス通路10を開閉可能に配置される。
【0016】
ウェイストゲートバルブ12は、リンク13を介しアクチュエータ15のロッド14に連結される。
【0017】
アクチュエータ15は、ケース本体内にダイヤフラム21を配置した流体作動ダイヤフラム式アクチュエータである。
【0018】
ここで、図2に実施例1におけるアクチュエータ15の構造図を示す。これは、ダイヤフラム21が内部に1つ配置されたアクチュエータの例である。アクチュエータ15の本体には、ダイヤフラム21に連結されたロッド14の位相(伸び量)を検出するアクチュエータポジショニングセンサ16が配置されている。
【0019】
ダイヤフラム21は、アクチュエータ15のケース本体内においてその表裏すなわち、上下にそれぞれ、上室22と下室23を隔成している。下室内には圧縮ばねであるばね25が配置され、ばね25は、ダイヤフラム21と後述するロッド14を上室側に付勢している。
【0020】
ロッド14は、アクチュエータ15の下室側に配置され、下室側にてロッド14の伸縮が行われる。ばね25が最も伸びた状態、すなわち、ダイヤフラム21を最も上室側に付勢している状態において、ロッド14は最も引っ込んだ状態にあり、このとき、ロッド14にリンク13を介して連結されたウェイストゲートバルブ12は閉じた状態にある。一方、ダイヤフラム21が作動し、下室側に移動したときは、ロッド14は伸びた状態となり、ウェイストゲートバルブ12は開いた状態に変わる。
【0021】
なお、アクチュエータ15は、内部の上室22と下室23に、吸気通路3の異なる部位から異なる圧力の空気の導入が可能である。ばね25のばね力と、上室22と下室23の差圧によってロッド14を移動させウェイストゲートバルブ12の開閉を行うことができる。
【0022】
また、図1において、上記上室22は、上室と上室制御弁30を結ぶ配管31(以下、「配管A」とする)に接続されている。
【0023】
上室制御弁は30は、3方向電磁式ソレノイドバルブであり、コンプレッサ5の上流側の吸気通路から空気を導く配管32(以下「配管B」とする)及び、コンプレッサ5とスロットルバルブ7の間の吸気通路から空気を導く配管33(以下「配管C」とする)に接続され、配管Aと配管Bの連通と、配管Aと配管Cの連通とを切り換えることが可能である。また、本実施例では更に、後述するコントローラ50からの信号によって内部のソレノイド開度を変化させ、配管Bと配管Cからの空気を圧力自在に混合し、配管Aに流す機能を持っている。
【0024】
一方、下室23は、下室と下室制御弁40を結ぶ配管35(以下、「配管D」とする)に接続されている。
【0025】
下室制御弁40は、上室と同じく3方向電磁式ソレノイドバルブであり、コンプレッサ5の上流側の吸気通路から空気を導く配管36(以下「配管E」とする)及び、スロットルバルブ下流の吸気通路と下室制御弁40の間に配置されたバキュームタンク41とをつなぐ配管37(以下「配管F」とする)に接続され、配管Dと配管Eの連通と、配管Dと配管Fの連通とを切り換えることが可能である。また、本実施例では更に、後述するコントローラ50からの信号によって内部のソレノイド開度を変化させ、配管Eと配管Fからの空気を圧力自在に混合し、配管Dに流す機能を持っている。
【0026】
バキュームタンク41は、車両が低負荷での運転時などにスロットルバルブ7の下流で発達した負圧を貯蔵する機能を持つものである。また、バキュームタンク41とスロットルバルブ下流の吸気通路の圧力取り出し部との間には、バキュームタンク41の内圧を制御するための開閉弁42が配置されている。
【0027】
また、上室制御弁30、下室制御弁40、そして開閉弁42を制御するために、以下に記載の圧力センサが配置されている。インテークマニフォルド8にはインテークマニフォルド圧力センサ43が配置され、スロットルバルブ下流の圧力を検出している。コンプレッサとスロットルバルブ間の吸気通路3にはコンプレッサ下流圧力センサ44が配置され、コンプレッサ下流の圧力を検出している。バキュームタンク41にはバキュームタンク圧力センサ45が配置され、バキュームタンク内の圧力を検出している。そして、コンプレッサ上流側の吸気通路にはコンプレッサ上流圧力センサ49が配置され、コンプレッサ上流の圧力を検出している。
【0028】
ところで、コントローラ50は、中央演算装置、読み出し専用メモリ、ランダムアクセスメモリ、不揮発性メモリ、そして、入出力インターフェイスを備えたマイクロコンピュータで構成される。上述したように、アクチュエータポジションセンサ16、インテークマニフォルド圧力センサ43、コンプレッサ下流圧力センサ44、バキュームタンク圧力センサ45、そして、コンプレッサ上流圧力センサ49からの検出信号を受けている。また、コントローラ50は、上記センサの他にもエンジン2のクランク角に基づいてエンジンの回転速度を検出するエンジン回転速度センサ46、スロットルバルブの開度を検出するスロットルバルブ開度センサ47、車速を検出する車速センサ48等の信号を受けている。これらの信号を基にコントローラ50は、内部で処理を行い、上室圧力制御弁30、下室圧力制御弁40、そして開閉弁42の制御を行っている。
【0029】
以上の構成において、ウェイストゲートバルブ12は、図3に示されるマップに基づいて制御される。図3は、横軸をエンジン回転速度、縦軸をスロットルバルブ開度等に代表されるエンジン負荷を例に取ったウェイストゲートバルブの制御マップである。それぞれエンジンの回転速度やエンジン負荷によって、4つの領域、すなわち、(a)領域(過過給領域)、(b)領域(低負荷領域)、(c)領域(高負荷領域)、そして(d)領域(遷移領域)、に分かれる。
【0030】
(a)領域は、エンジン回転速度が、いわゆるインターセプト回転より高く、かつ、最大負荷曲線付近の領域である。(a)領域においては、ウェイストゲートバルブ12が閉じていると、コンプレッサ5が過過給状態になりノッキング等の問題が発生してしまう。そこで、この領域では、過給機の能力を落とすべく、ウェイストゲートバルブ12を開いた状態に制御するすることでタービン9の回転数を落とすようにする。
【0031】
(b)領域は、(a)領域〜(d)領域のこれら4領域の中で最も低負荷領域であり、日常運転者が多用する領域でもあるので、燃費向上に欠かせない領域である。また、運転者の意図からすると、排気過給機1による出力向上手段が不要な領域である。そのため、この領域では、エンジンのポンプ損失の原因である、排気抵抗をできるだけ低下させたい。そこで、排気抵抗を低減するために、ウェイストゲートバルブ12を開いた状態に制御することで排気抵抗の原因となるタービン9をバイパスさせるようにする。
【0032】
(c)領域は、ブースト圧すなわち、インテークマニフォルド圧力センサ43のゲージ圧力が0kPaの線より正の値側で、かつ、最大負荷曲線付近の(a)領域を除く領域である。(c)領域は、運転者が強くアクセルペダルを踏み込んだ状況であり、レスポンス良く車両を加速させたい運転者の意図がある領域である。そこで、排気過給機1の能力をフルに発揮させるために、ウェイストゲートバルブ12を閉じる状態に制御することでタービン9を十分に回転させるようにする。
【0033】
最後に、(d)領域は、(b)領域と(c)領域との間にある、ブースト圧が0kPaよりやや下側の領域である。この領域は、一般に低負荷領域である(b)領域で走行していた運転者が、加速を行う意図をもってアクセルペダルを踏み込んだ際に、ウェイストゲートバルブ12が開状態から、(c)領域の閉状態に切り換わる際の途中にある、過渡状態の領域(遷移領域)である。この領域では、ウェイストゲートバルブ12を中間開度の状態に制御することで、閉にすることによる排気抵抗の急激な上昇を抑えつつタービン9を徐々に回しはじめることにより吸入空気量を増やすことができ、その後に続く(c)領域での本格的な過給に備えることができる。
【0034】
以下、上記4領域について、図4〜図7を用いて、本実施例における、ばね24のばね力と上室・下室間の差圧によるロッド14の移動、およびウェイストゲートバルブ12の開閉と、その作用効果を説明する。
【0035】
図4は、(a)領域(過過給領域)におけるアクチュエータ作動圧力の導入図である。図中の太線は連通状態を示す。上述したように、この領域では過過給を防止するために、ウェイストゲートバルブ12を開状態に制御する。そこで、ダイヤフラム21は上室・下室間の差圧によって、ばね24を圧縮している状態、すなわち、ロッド14が伸びている状態にする必要がある。
【0036】
そこで本実施例では、(a)領域のような過過給領域では、コンプレッサ下流側の吸気通路内が正圧になり、逆にコンプレッサにより吸い上げられる側であるコンプレッサ上流側の吸気通路内が、吸気経路内で最も低く大気圧より若干低い圧力になる点に着目した。そこで、配管Aと配管Cを連通させるとともに、配管Dと配管Eを連通させることにより、上室22には下室23より高い圧力を導入し、下室23には上室22より低い圧力を導入することで、上室22と下室23間の差圧(上室内圧力>下室内圧力)を与えることにした。
【0037】
すなわち、上室22に、コンプレッサ5によって加圧された正圧を導入するために、上室制御弁30は、配管Aと配管Cを連通させるように制御される。また、下室23に、大気圧より若干低い圧力を導入するために、下室制御弁40は、配管Dと配管Eを連通させるように制御される。これにより、ばね力に勝るダイヤフラム前後差圧をかけることができるので、ロッド14を好適に押し出すことができる。
【0038】
図5は、(b)領域(低負荷領域)におけるアクチュエータ作動圧力の導入図である。図中の太線は連通状態を示す。上述したように、この領域においては排気抵抗を低減するために、ウェイストゲートバルブ12を開状態に制御する。そこで、ダイヤフラム21は圧力により作動している状態、すなわち、ロッド14が伸びている状態にする必要がある。
【0039】
そこで本実施例では、(b)領域のような低負荷領域では、スロットルバルブ下流側の吸気通路内に負圧が発達している点に着目した。そこで、配管Dと配管Fを連通させるとともに、配管Aと配管Cを連通させることにより、上室22には下室23より高い圧力を導入し、下室23には上室22より低い圧力を導入することにより、上室22と下室23間の差圧(上室内圧力>下室内圧力)を与えることにした。
【0040】
すなわち、下室23には、吸気経路内の圧力でより低い、スロットルバルブ下流側の圧力を導入するために、下室制御弁40は、配管Dと配管Fを連通させるように制御される。また、上室22には、コンプレッサ5によって加圧された正圧を導入するために、上室制御弁30は、配管Aと配管Cを連通させるように制御される。これにより、ばね力に勝るダイヤフラム前後差圧をかけることができるので、ロッド14を好適に押し出すことができる。なお、(b)領域においては、上室22はコンプレッサ上流側、すなわち、配管Aと配管Bを連通させても、ロッド14を押し出すことができる。
【0041】
図6は、(c)領域(高負荷領域)におけるアクチュエータ作動圧力の導入図である。図中の太線は連通状態を示す。この領域では、排気過給機1の能力をフルに発揮させるためウェイストゲートバルブ12を閉状態に制御する。そこで、ダイヤフラム21は中立位置、すなわち、ロッド14が伸びていない状態にする必要がある。
【0042】
従来、この(c)領域においては、もっぱらアクチュエータに内蔵されたばね等の付勢手段である弾性部材によりロッド14が伸びない状況を作り出すため、(a)領域と(b)領域で用いた配管Cを介して上室22に導入されるコンプレッサ下流圧力とバランスさせるため、配管Fを介してコンプレッサ下流圧力を下室23に導入し、ウェイストゲートバルブ21を閉じた状態にしていた。しかし、(b)領域にて排気抵抗を低減するためにウェイストゲートバルブ12を負圧にて開くようにさせるために、下室23に導入可能な吸気負圧でも圧縮が可能なばねを用いると、しばしば、この(c)領域において、ばね力がアクチュエータを押す力に反抗できなくなり、ウェイストゲートバルブ12が微小な開閉を繰り返す、いわゆるバルブのバタツキが発生するという問題があった。
【0043】
そこで本実施例では、(c)領域のような過給領域では、スロットルバルブ下流側の吸気通路内が正圧になることや、コンプレッサ上流側の吸気通路内が吸気経路内で最も低く大気圧より若干低い圧力になることに着目した。そこで、配管Dと配管Fを連通させるとともに、コンプレッサ上流側と上室との連通が可能な配管Bおよび、配管Bと配管Cを切り替えて連通させることができる上室制御弁30を新たに設けた。これによって、下室23には上室22より高い圧力を導入し、上室22には下室23より低い圧力を導入することにより、ダイヤフラム21が作動するのを妨げるための上室22と下室23間の逆の差圧(上室内圧力<下室内圧力)を与えることを可能とした。
【0044】
すなわち、下室23に、コンプレッサ5によって加圧され正圧となった圧力をスロットバルブ下流側から導入するために、下室制御弁40は、配管Dと配管Fを連通させるように制御される。また、上室22に、吸気経路内の圧力でより低い、大気圧付近のコンプレッサ上流側圧力を導入するために、上室制御弁30は、配管Aと配管Bを連通させるように制御される。これによって、ばね力に付加する形で、ロッド14をストロークさせない側に圧力アシストするため、ウェストゲートバルブ12のばたつきを好適に防止することができるようになる。
【0045】
図7は、(d)領域(遷移領域)におけるアクチュエータ作動圧力の導入図である。図中の太線は連通状態を示す。上述したように、この領域においては、排気抵抗の急激な上昇を抑えつつタービン9を徐々に回しはじめることにより吸入空気量を増やすため、ウェイストゲートバルブ12を中間開度状態に制御する。そこで、ダイヤフラム21は上室圧力と下室圧力によって、中間で作動している状態、すなわち、ロッド14が中間状態で伸びている状態にする必要がある。
【0046】
そこで本実施例では、(d)領域のような遷移領域では、過給領域に入る前であるため、コンプレッサ5により加圧されコンプレッサとスロットルバルブ間の吸気通路内が大気圧よりやや高い正圧になっている点や、スロットルバルブ下流側負圧が小さくなっている点に着目した。そこで、配管Aと配管Cの連通と、配管Aと配管Bの連通割合を任意に変化させるとともに、配管Dと配管Fの連通と、配管Dと配管Eの連通割合を任意に変化させることにより、上室22には下室23より高い圧力を導入し、また下室23には上室22より低い圧力を導入することにより、上室22と下室23間の差圧(上室内圧力>下室内圧力)を与えることで、ダイヤフラム21を中間位相に作動させ、ロッド14を中間位相にストロークさせることができる。
【0047】
すなわち、上室22には、コンプレッサ5によって加圧された大気圧よりやや高い正圧とコンプレッサ上流側の大気圧にやや低い圧力を、上室制御弁30で任意に連通比率を変えつつ供給される。その際には、吸気通路に配置したコンプレッサ下流圧力センサ44とコンプレッサ上流側圧力センサ49により、上室圧力弁のデューティーを変化させることにより行う。他方、下室23には、バキュームタンク41の圧力とコンプレッサ上流側の大気圧に近い空気を、下室制御弁で任意に連通比率を変えつつ供給される。その際、バキュームタンク圧力センサ45とコンプレッサ上流側圧力センサ49により、下室制御弁40のデューティーを変化させることにより行う。
【0048】
ところで、前述したように(d)領域においては、スロットルバルブ下流側に発達した負圧が小さいことで、アクチュエータ15の下室側の圧力が、十分な負圧にならないことがある。そして、これが原因で、下室制御弁40の制御自由度が小さくなり、好適な制御をできなくなることがある。そこで、本実施例ではアクチュエータ15の下室に供給する負圧を貯蔵するために、下室制御弁40とスロットルバルブ下流部の吸気通路の取り出し部の間にバキュームタンク41を配置し、さらに、貯蔵した負圧を吸気通路側へ逃さないようにするために、開閉弁42を設置する。これにより、(b)領域走行中に貯蔵した負圧を、(d)領域での下室制御弁40の制御に用いることができ、ウェイストゲートバルブ12の中間開度設定が可能となる。
【0049】
上記開閉弁42は、(b)領域走行中には開状態にしておき(d)領域に入ったと同時に閉状態にする。また、バキュームタンク圧力センサを45の値が所定値を上回ったときに閉状態にしてもよい。
【0050】
図8に、実施例2におけるアクチュエータの構造図概略を示す。図8のアクチュエータは、2段作動のダイヤフラム式アクチュエータ60である。アクチュエータ60の内部は第一の作動部と第二の作動部に分かれており、第一の作動部には、ダイヤフラム61、上室62、下室63、ばね64を、第二の作動部には、ダイヤフラム71、上室72、下室73、そしてばね74を備えている。また、第二の作動部のダイヤフラム71はロッド14と連結されている。さらに、第一の作動部のダイヤフラム61にはロッド65が連結されており、ダイヤフラム61が作動することで、ロッド65を介してロッド14を押し出す形となる。すなわち、ロッド65とロッド14は独立して移動させることが可能である。第一の作動部上室62は、配管Aと接続され、下室63は大気に開放されている。一方、第2の作動部上室72は大気に開放され、下室73は配管Dと接続されている。以上の構成により、実施例1におけるアクチュエータ15と同様な機能を得ることができ、さらには、ばねが2種内蔵できることにより、ばね定数のセッティングの幅が増えることで好適にロッド14のストロークを調節することが可能になる。
【0051】
上記実施例では、上室制御弁30及び下室制御弁40においては、電磁式のソレノイドバルブを用いたが、単に3方向の流れを切換えられる弁体であれば、その構造は問わないことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0052】
1 排気過給機
2 エンジン
3 吸気通路
5 コンプレッサ
7 スロットルバルブ
9 タービン
10 バイパス通路
12 ウェイストゲートバルブ
14 ロッド
15 アクチュエータ
21 ダイヤフラム
30 上室制御弁
40 下室制御弁
41 バキュームタンク
42 開閉弁
50 コントローラ
60 2段作動ダイヤフラム式アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気通路に配置されるコンプレッサと排気通路に配置されるタービンから成る排気過給機と、
上記コンプレッサの下流に配置されたスロットルバルブと、
上記タービンをバイパスして排気を流すバイパス通路と、
上記バイパス通路を開閉するウェイストゲートバルブと、
ダイヤフラムにより隔成された上室及び下室と、上記ダイヤフラムに連結されたロッドと、上記ロッドを上室側に付勢する手段と、を有し、上記ロッドを介して上記ウェイストゲートバルブを開閉駆動するアクチュエータと、
コンプレッサ上流側と上室と、を接続する通路と、コンプレッサとスロットルバルブの間の吸気通路と上室と、を接続する通路と、
スロットルバルブ下流側と下室と、を接続する通路と、
コンプレッサ上流側と上室と、の連通と、コンプレッサとスロットルバルブ間の吸気通路と上室と、の連通と、を切替可能な上室制御弁と、を備え、
エンジン負荷に応じて上室制御弁を制御することで、上記ウェイストゲートバルブの開閉を行うことを特徴とする過給機付きエンジンの排圧低減装置。
【請求項2】
エンジン高負荷運転時に、コンプレッサ上流側と上室と、を連通させることにより、上記ウェイストゲートバルブを閉状態にすることを特徴とする請求項1に記載の過給機付きエンジンの排圧低減装置。
【請求項3】
エンジン低負荷運転時に、上室にはコンプレッサ上流側又はコンプレッサとスロットルバルブ間の吸気通路のどちらか一方を連通させ、下室に発達した負圧により上記ウェイストゲートバルブを開状態にすることを特徴とする請求項1又は2に記載の過給機付きエンジンの排圧低減装置。
【請求項4】
上記過給機付きエンジンの排圧低減装置は、さらに、
コンプレッサ上流側と下室と、を接続する通路と、
コンプレッサ上流側と下室と、の連通と、スロットルバルブ下流側と下室と、の連通とを切替可能な下室制御弁と、を備え、
エンジン負荷に応じて上記2つの制御弁を制御することで、上記ウェイストゲートバルブの開閉を行うことを特徴とする請求項1〜3に記載の過給機付きエンジンの排圧低減装置。
【請求項5】
エンジン過過給運転時に、コンプレッサとスロットルバルブ間の吸気通路と上室と、を連通させ、コンプレッサ上流と下室と、を連通させることにより、上記ウェイストゲートバルブを開状態にすることを特徴とする請求項4に記載の過給機付きエンジンの排圧低減装置。
【請求項6】
上記下室制御弁とスロットルバルブ下流部の吸気通路の圧力取り出し部の間に、負圧を貯蔵するためのバキュームタンクを備え、上記バキュームタンクと上記圧力取り出し部の間に、開閉弁を備えることを特徴とする請求項4又は5に記載の過給機付きエンジンの排圧低減装置。
【請求項7】
エンジン負荷に応じて、上記2つの制御弁及び開閉弁を制御することにより、上室圧力と下室圧力の差圧を制御することで、上記ウェイストゲートバルブの開度を中間開度に設定することを特徴とする請求項6に記載の過給機付きエンジンの排圧低減装置。
【請求項8】
上記アクチュエータは、それぞれ一つのダイヤフラムとその両側に形成された上室及び下室から成る第一と第二の作動部を備える2段作動のダイヤフラム式アクチュエータであって、
第一の作動部上室はコンプレッサ上流側又はコンプレッサとスロットルバルブ間の吸気通路と接続され、下室は大気に開放される一方で、
第二の作動部上室は大気に開放され、下室はスロットルバルブ下流側又はコンプレッサ上流側の吸気通路と接続されることを特徴とする請求項1〜7に記載の過給機付きエンジンの排圧低減装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−285872(P2010−285872A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137942(P2009−137942)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】