説明

道路画像中の道路車線数を決定するシステム及び方法

【課題】人工衛星あるいは航空機から地表を撮影して得られる地表画像において、道路部分の各車線を識別し車線数を決定するシステム及び方法を提供する。
【解決手段】人工衛星又は航空機から地表を撮影した地表画像に含まれる道路の車線数を決定するシステムであって、少なくとも地表画像データ及び道路ベクトルデータを有しており、各道路ベクトルに対応する地表画像データに含まれる車線境界線を検出する車線境界線検出手段と、道路ベクトル毎に、前記検出された車線境界線の情報に基づいて、車線数を決定する車線数決定手段とを備えていることを特徴とする道路車線数決定システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工衛星あるいは航空機から地表を撮影して得られる地表画像において、道路部分の各車線を識別し車線数を決定するシステム及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、人工衛星又は航空機(以下、「人工衛星等」と呼ぶ)により地表を高所から撮影して得られる人工衛星画像又は航空画像(以下、「地表画像」と呼ぶ)の利用が広まってきている。例えば、地図の作成や都市部での土地の利用状況の把握、あるいは森林等における樹木の存在状態や生育状態の分析とった目的に利用されている。撮像装置の解像度向上などに伴い、地表上の広大な領域の地表画像データを高速に取得することが可能になってきている。
【0003】
一方で、人工衛星(GPS衛星)からの電波を受信して、緯度経度を測定することにより現在位置を把握するGPS(Global Positioning System)を利用したカーナビゲーションシステムの利用がますます広まっている。近年のカーナビゲーションシステムでは、道路地図のみならず、道路標識や車線情報が表示されるものもあり、ドライバーの走行の補助となっている。
【0004】
従来、ある目的地へ到達するためのルートをチェックするために使われる道路地図データは、道路によってどの地点とどの地点がつながっているかを示す道路ベクトル情報からなる記号地図として構成されていた。ところが、近年カーナビ装置が発達するにつれて、出発地から目的地までの経路情報の表示に限られず、ドライバーの利便性を高めるための多様な機能の実現が望まれており、ベクトル情報だけを示す道路地図では情報不足となってきている。このような変化を受けて、多くの道路地図が従来のベクトル地図から、詳細な道路地図へと更新されている。また、情報の有用性を高めるためには、道路地図は高頻度で更新される必要性がある。
【0005】
従来、このような詳細な道路地図を作成するためには、既存のベクトル道路地図から道路の位置を読み出し、実際の車輌にカメラやセンサを積んでその道路を走行し、その走行中に得られた情報を元にして道路データを作成している。例えば、道路の車線や車線幅といった情報は、上記のようなカメラやセンサを積んだ車輌が道路上の各車線を走行することにより、詳細に把握することができるものである。特許文献1には、このような手法による道路地図作成システムが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−318533号公報。
【非特許文献1】平林雅英,「C言語による最新プログラム辞典 第2巻」,株式会社技術評論者,1992年11月27日,p.104−110
【非特許文献2】金子正美 外5名、「湿原植生分類のためのリモートセンシング手法の研究」
【非特許文献3】Zhao, T. and Nevatia, R. “Car detection in low resolution aerial image”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の従来技術によって詳細な道路データを作成するためには、詳細道路地図を作成/更新するために、地図上に存在する全ての道路を実際に車輌で走行する必要がある。これには、走行及び測定を行うための膨大なコストがかかる上に、全ての道路を網羅するために効率的に走行するルートを作成するスケジューリング(しかもこれは更新前の不完全な道路情報から行わなければならない)は非常に煩雑であり、さらには混雑したり通行料がかかったりする道路に対しては余計な時間的・経済的コストがかかってしまう。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、地表画像データから自動的に道路部分の各車線を識別し車線数を決定することができるシステム及び方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記解決課題に鑑みて鋭意研究の結果、本発明者は、道路上の車線を区切る車線境界線が規則的な形状で規則的に配置されていることを利用して、人工衛星等から得られる地表画像から車線境界線を自動的に識別し、これにより道路の車線数を推定することができることに想到した。
【0010】
すなわち、本発明は、人工衛星又は航空機から地表を撮影した地表画像に含まれる道路の車線数を決定するシステムであって、少なくとも地表画像データ及び道路ベクトルデータを有しており、各道路ベクトルに対応する地表画像データに含まれる車線境界線を検出する車線境界線検出手段と、道路ベクトル毎に、前記検出された車線境界線の情報に基づいて、車線数を決定する車線数決定手段とを備えていることを特徴とする道路車線数決定システムを提供するものである。
【0011】
本発明は、また、人工衛星又は航空機から地表を撮影した地表画像に含まれる道路の車線数を決定するシステムであって、少なくとも地表画像データ及び道路ベクトルデータを有しており、地表画像データにおいて車線境界線の検出を行わない除外領域を決定する除外領域決定手段と、各道路ベクトルに対応する地表画像データのうち、前記除外領域以外の領域に含まれる車線境界線を検出する車線境界線検出手段と、道路ベクトル毎に、前記検出された車線境界線の情報に基づいて、車線数を決定する車線数決定手段とを備えていることを特徴とする道路車線数決定システムを提供するものである。
【0012】
本発明は、また、人工衛星又は航空機から地表を撮影した地表画像に含まれる道路の車線数を決定するシステムであって、少なくとも地表画像データ及び道路ベクトルデータを有しており、地表画像データにおいて車線境界線の検出を行わない除外領域を決定する除外領域決定手段と、所定以上の長さを有する道路ベクトルに対応する地表画像データのうち、前記除外領域以外の領域に含まれる車線境界線を検出する車線境界線検出手段と、道路ベクトル毎に、前記検出された車線境界線の情報に基づいて、車線数を決定する車線数決定手段と、前記所定以上の長さを有さない道路ベクトルについて、当該道路ベクトル近傍の他の1以上の道路ベクトルについて決定された車線数に基づいて、当該道路ベクトルについての車線数を推定する車線数推定手段とを備えていることを特徴とする道路車線数決定システムを提供するものである。
【0013】
本発明の道路車線数を決定するシステムにおいて、本発明の道路車線数決定システムは、地表画像データをHLS形式及びRGB形式の相互に変換する色形式変換手段をさらに備えており、前記除外領域決定手段及び前記車線境界線検出手段は、HLS形式及びRGB形式の地表画像データのうち一方又は両方を用いて除外領域決定及び車線境界線検出を行うことを特徴とする。
【0014】
本発明の道路車線数を決定するシステムにおいて、前記車線境界線検出手段は、HLS形式の地表画像データの明度を2値化したデータを用いて、車線境界線検出を行うことを特徴とする。通常、車線境界線は目立つように道路面とは全く異なる色で着色されているため、両者の明度を比較すれば容易に区別することができる。
【0015】
本発明の道路車線数を決定するシステムにおいて、前記車線境界線検出手段は、地表画像データのうち前記除外領域については、前記除外領域の周囲において検出された車線境界線の情報に基づいて、車線境界線の存在を推定することを特徴とする。通常、車線境界線は道路の縦方向及び横方向に一定の間隔を置いて規則的に配置されているので、地表画像の一部に車線境界線の検出ができなかった領域があったとしても、上記の規則性を考慮して除外領域に存在すべき車線境界線を補間することが可能である。
【0016】
本発明の道路車線数を決定するシステムにおいて、前記車線境界線検出手段は、各道路ベクトルに対応する地表画像データを道路ベクトル長さ方向に沿って所定幅で分割し、それぞれの分割画像データが車線境界線を含んでいるかどうかを判定することにより、車線境界線を検出することを特徴とする。通常、車線境界線は、道路進行方向に細長い長方形状をしているので、このような画像分割によって検出が容易になる。分割幅は一般的な車線境界線と同程度の幅とするのが好ましい。
【0017】
本発明の道路車線数を決定するシステムにおいて、前記車線境界線検出手段は、前記分割画像データにおいて、他の領域とは画素値又は明度が異なる画像領域であって道路ベクトル長さ方向に所定以上の長さを有する領域を、車線境界線として検出することを特徴とする。通常、車線境界線は道路進行方向に一定の長さを有しているので、これに満たない長さの画像領域が車線境界線であるとは考えにくいためである。
【0018】
本発明の道路車線数を決定するシステムにおいて、前記除外領域決定手段は、地表画像データに含まれる交差点領域、車輌、植生、中央分離帯のうち少なくとも1つを除外領域として決定することを特徴とする。これらの他にも対象物の外観的特徴に基づいて道路領域と区別できるものであれば、これを検出して除外領域とすることができる。
【0019】
本発明の道路車線数を決定するシステムにおいて、車線数推定手段は、前記所定以上の長さを有さない道路ベクトルについて、当該道路ベクトルそれぞれの端から連なる他の道路ベクトルのうち、車線数が決定されている道路ベクトルであってそれぞれの端に最も近い2つの道路ベクトルを検出し、当該道路ベクトルについての車線数は、検出した2つの道路ベクトルそれぞれについて決定されている車線数を上限下限とする範囲内の数値であると推定することを特徴とする。通常、交差点付近を除けば、道路上の車線数は著しく変化するものではないため、このような推定を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
以上、説明したように、本発明によれば、多大な労力及びコストをかけて地図上に存在する全ての道路を実際に車輌で走行し測定する必要なく、人工衛星等から得られる地表画像データを用いて自動的に道路部分の各車線を識別し車線数を決定することができるシステム及び方法が提供される。
各々の道路ベクトルに対応する地表画像上の道路の車線数を認識可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の道路車線数を決定するシステム及び方法を実施するための最良の形態を詳細に説明する。図1〜図15は、本発明の実施の形態を例示する図であり、これらの図において、同一の符号を付した部分は同一物を表わし、基本的な構成及び動作は同様であるものとする。
【0022】
システム構成
図1は、本実施形態の道路車線数決定システムの構成を概略的に示す機能ブロック図である。図1において、本システムは、パソコン、ワークステーション等から構成される処理装置10と、メインメモリとして使用されるRAM(ランダムアクセスメモリ)、磁気ディスク記憶装置のような補助記憶装置などからなる記憶装置20と、入出力装置30とを備えている。
【0023】
入出力装置30は、キーボード及びマウス等のポインティングデバイスを含む入力装置31と、CRTディスプレイ装置等の表示装置32と、プリンタ33とを備えている。入力装置31は、ユーザによるパラメータの入力やコマンドの起動等に用いられる。表示装置32及びプリンタ33は、本システムによる道路車線数の決定結果をユーザに提示するために用いられる。尚、表示装置としては、表示装置32及びプリンタ33のいずれか一方のみを備える構成としてもよい。
【0024】
記憶装置20には、地表画像データ21、道路ベクトルデータ22、HLSデータ23、植生データ24、探索除外領域データ25、部分道路車線データ26、道路車線データ27が記憶されている。これらのうち地表画像データ21及び道路ベクトルデータ22は、本システムによる処理実行前に予め記憶されているデータである。この地表画像データ21は、人工衛星画像又は航空画像として得られるものであり、RGB,IR(近赤外)の4バンドの多値画像のデータである。道路ベクトルデータ22は、道路の始点及び終点の位置と道路の幅とを示すデータを含んでおり、従来道路地図データとして利用可能であったものである。道路ベクトルデータ22の具体的なデータ構成例は、図2に示すとおりである。
【0025】
記憶装置20に記憶されているHLSデータ23、植生データ24、探索除外領域データ25、部分道路車線データ26、道路車線データ27は、地表画像データ21及び道路ベクトルデータ22に対して所定の処理(後述)を行った結果、生成されるものである。
【0026】
道路車線数決定プログラム40は、色形式変換部100、探索除外領域検出部200、部分道路車線検出部300、未決定道路車線推定部400を含んでいる。これらは、記憶装置20に記憶されている各種データに対する処理を行うための手順を記載したプログラムモジュール等から構成されるものであり、それぞれの詳細な処理内容については、後述する。
【0027】
道路の車線数を決定する処理の詳細
次に、本システムにおいて地表画像に含まれる道路の車線数を決定する処理の詳細について説明する。現在、利用可能な地表画像の解像度は、最も高精度なものでも数十cmのオーダであり、一方、道路上の車線境界線は通常、幅が数十cmで長さが数m程度の大きさである。したがって、多くの場合、地表画像の解像度は車線境界線を認識するのに臨界的な解像度である。そこで、本システムでは、地表画像から微細な車線境界線を検出しやすいように、道路上の車線境界線に特有の形状、配置等を考慮して、適切な検出処理を行うことを特徴としている。
【0028】
本システムにおいて、道路車線数決定プログラム40が起動されると、色形式変換部100、探索除外領域検出部200、部分道路車線検出部300、未決定道路車線推定部400の順に処理が実行される。以下、それぞれによる処理の詳細を述べる。
【0029】
(1)色形式変換処理
色形式変換部100は、地表画像データ21を読み込み、色形式変換の変換を行う。人工衛星等により撮像された地表画像データ21は、通常、RGB,IRの4バンドの情報を持っているが、色形式変換部100は、このRGBカラー画像データを、色相(H:Hue)、明度(L:Lightness)、彩度(S:Saturation)からなるHLS空間の画像データに変換する。図3(a)にRGBのカラーモデルを示す。RGB空間とHLS空間とを対応させるモデルとしては、図3(b)に示す双六角錐カラーモデルを用いる。ここで、Hは色相角度であり、0〜360度の値で指定する。赤が0度、黄が60度、緑が120度、水色が180度、青が240度、紫が300度、そして360度で再び赤に戻る。Lは明度であり、0〜1の実数値で指定する。0側が暗く、1側が明るい。0.5が中間である。0〜0.5側は黒絵具を加えた状態、0.5〜1側は白絵具を加えた状態、0.5はどちらも加えない状態である。また、明度値はカラー画像の明るさの成分を表しており、カラー画像情報から生成されたモノクロ画像情報と一致する。尚、RGB→HLS変換、及びHLS→RGB変換の詳細なアルゴリズムについては、非特許文献1等を参照されたい。色形式変換部100により変換したHLS画像データは、HLSデータ23として記憶装置20に格納される。
【0030】
以降の処理で地表画像を扱う場合には、地表画像データ21、HLSデータ23のいずれかを適宜用いるものとする。各処理においていずれの形式のデータを利用するかは、検出精度や計算量の観点から決めればよい。
【0031】
また、色形式変換部100は、地表画像データ21のR及びIRの値から植生指数を計算し、植生データ24を作成する。植生データ24は、地表画像の道路が樹木等に覆われている部分を示すデータである。ここで、植生指数とは、植生のスペクトル反射特性から植生の量や活性度を表すために考案された指数である。これまでに種々の植生指数が提案されているが、本システムでは、最も一般的に用いられているNDVI(Normalized Difference Vegetation Index)(非特許文献2参照)を使用する。NDVIは、次式で定義される。
【0032】
【数1】

このようにして計算された植生指数NDVIが植生データ24となる。
【0033】
(2)探索除外領域検出処理
次に、探索除外領域検出部200は、地表画像中の道路部分においてノイズになる領域を計算し、当該領域を示す探索除外領域データ25を生成し記憶装置20に格納する。図4は、探索除外領域検出部200による処理の流れを示すフローチャートである。図4に示すように、探索除外領域検出部200は、交差点領域検出処理201、車輌ノイズ検出処理202、植生ノイズ検出処理203、探索除外領域決定処理204の各サブルーチンを順に実行する。以下、これらの処理の詳細を説明する。
【0034】
交差点領域検出処理201では、地表画像中の道路の交差点である領域を検出する。この交差点領域は、後述する探索除外領域決定処理204において、探索除外領域とされるべきものである。交差点付近では車線が交わるため通常の道路とは道路のパターンが異なっており、後述する部分道路車線検出部300により部分道路の車線検出を行うためには、このような画像データは除外しておく必要があるからである。例えば、図5に示すように、地表画像中の交差点領域と他の道路部分とを2値化した画像データを生成し一時的に格納しておけばよい。
【0035】
車輌ノイズ検出処理202では、地表画像の道路部分における車輌が占める領域を検出する(この検出方法については、非特許文献3参照)。この車輌が占める領域は、道路上の車線境界線のパターンを検出する際にノイズとなるため、後述する探索除外領域決定処理204において、探索除外領域とされるべきものである。例えば、図6(d)に示すように、地表画像中の道路部分における車輌が占める領域と他の道路部分とを2値化した画像データを生成し一時的に格納しておけばよい。
【0036】
植生ノイズ検出処理203では、地表画像中の道路部分における植生部分を検出する。この処理は、色形式変換部100により既に生成されている植生データ24を用いて行うことができる。道路上に存在する植生には、例えば、中央分離帯の植込みや、道路に上から覆い被さっている街路樹などがあるが、これらは車線に関する情報を持たないノイズであるため、後述する探索除外領域決定処理204において、探索除外領域とされるべきものである。例えば、図6(c)に示すように、地表画像中の道路部分における植生部分と他の道路部分とを2値化した画像データを生成し一時的に格納しておけばよい。
【0037】
探索除外領域決定処理204では、上記の各処理201〜203の結果に基づいて、地表画像中から除外されるべき交差点領域、車輌ノイズ、植生ノイズを探索除外領域データ25として記憶装置20に格納する。例えば、上記各処理により生成した2値画像データの論理和をとって、探索除外領域とすることができる。図6は、地表画像中の道路部分の画像(a)から各種ノイズ(c)〜(e)を検出する例を示す図である。上記以外にも、例えば、道路の中央付近に他の道路部分とは色又は明度がことなる一定幅の領域が検出される場合には、これを中央分離帯と判定して、探索除外領域とすることもできる。
【0038】
(3)部分道路車線検出処理
次に、部分道路車線検出部300は、地表画像に含まれる道路部分について道路ベクトル単位で車線境界線を検出し車線数を推定する処理を行う。図7は、部分道路車線検出部300による処理の流れを示すフローチャートである。図7において、部分道路車線検出部300は、まず、未処理の道路ベクトル1つをピックアップし(ステップ301)、その道路ベクトルの長さを、予め設定してある道路ベクトルの最低長と比較する(ステップ302)。道路ベクトルの長さが最低長よりも短ければ、処理に必要な情報が不足していると判断して、その道路ベクトルについては未決定道路ベクトルとして一時記憶する(ステップ310)。未決定道路ベクトルについては、後述する未決定道路車線推定部400で車線数の推定を行うことができる。
【0039】
長さが十分である道路ベクトルについては、これに対応する地表画像の道路部分を、道路ベクトル長さ方向に平行で予め設定してある車線境界線程度の幅を有する列に分割する(ステップ303)。分割した列を一ずつ選択し(ステップ304)、明度の2値化を行う(ステップ305)。但し、列内に含まれる探索除外領域はノイズとして2値化対象から除外する。2値化された列の画像の中に、車線境界線が含まれているかどうか判定を行う(ステップ306)。このステップ304〜306の処理を分割した各列に対して行う(ステップ307)。
【0040】
一般的に、道路面と車線境界線とは明度が異なるため、道路画像の2値化を行うことにより路面と車線境界線とを区別できる。画像の2値化には種々の周知技術が適用可能であるが、本システムでは判別分析法を使用する。判別分析法は、ある値ftにて、対象としている画像全体の明度のヒストグラムを2つのクラス(級)に分けた場合、級間分散÷(クラス1の級内分散+クラス2の級内分散)の算出結果が最大となるときのftを閾値として決定する手法である。
【0041】
画像に対して2値化を行う場合、画像全体に対して行うことが多いが、画像の部分ごとに対象物の明度の分布が異なると、適切に2値化ができない。例えば、アスファルトの道路とコンクリートの道路とでは明度の分布が異なるため、適切な明度の閾値が異なるし、車線境界線も色が異なれば適切な明度の閾値が異なってくる。そこで、本処理では、色の異なる道路面や車線境界線が混在する画像を判定対象としないために、道路画像をラインに平行な車線境界線程度の幅の列に区切ってから、各列に対して2値化を行い、車線境界線判定を行うこととしている。尚、この手法により、車線境界線を含んでいる列については、図8に示すように、明度のヒストグラムが2つのクラスにはっきりと分かれるため、画像の2値化により車線境界線と路面とを容易に判別することができる。
【0042】
図9は、ステップ306における車線境界線判定処理の詳細を示すフローチャートである。これまでの処理により、上記の分割した列の2値化画像は、図6(b)に示すように、明領域、暗領域、探索除外領域の3種類の領域に分類できるようになっている。図9において、部分道路車線検出部300は、列の画像から明領域を1つずつ選択し順にチェックを行う(ステップ501)。選択した明領域が探索除外領域と隣接しているかどうかを判定し(ステップ502)、隣接している場合には、当該領域は車線境界線であるかかどうか判定できない未決定明領域とする(ステップ506)。選択した明領域が探索除外領域と隣接していない場合には、その明領域の長さをチェックする(ステップ503)。明領域の長さが、予め設定してある車線境界線であるための最低長さ以上であるかどうかを判定する(ステップ503)。明領域の長さが上記の最低長さ以上である場合には、その明領域を車線境界線として一時記憶し(ステップ504)、明領域の長さが上記の最低長さに満たない場合には、その明領域を非車線境界線として一時記憶する(ステップ505)。以上のステップ501〜506における処理を列の画像に含まれる全ての明領域に対して行う(ステップ507)。こうして、ステップ306における車線境界線判定処理では、列の画像に含まれる明領域が車線境界線、非車線境界線、未決定明領域の3種類のいずれかに分類される。
【0043】
再び、図7において、選択されている道路ベクトルの対応画像の全列に対して上記の車線境界線判定処理を行った後、部分道路車線検出部300は、上記の未決定明領域に対して推定を行う処理をする(ステップ308)。ここで、例として、ステップ306における車線境界線判定処理によって得られた図11に示す判定結果において、未決定明領域の推定を行う場合について説明する。尚、図11において、道路ベクトルの長さ方向をY方向、これに垂直な方向をX方向としている。
【0044】
図10は、ステップ308における未決定明領域推定処理の詳細を示すフローチャートである。図10において、部分道路車線検出部300は、選択されている道路ベクトルの対応画像における未決定明領域を一つ選択し(ステップ601)、この未決定明領域と同一進行方向の道路中(道路ベクトル対応画像のうちセンターラインの同一側にある領域)で、この未決定明領域とX方向位置がほぼ同一な領域及びY方向位置がほぼ同一な領域において、所定数以上の車線境界線が存在するかどうかを判定する(ステップ602)。所定数以上の車線境界線が存在する場合には、この未決定明領域は車線境界線として一時記憶する(ステップ603)。所定数以上の車線境界線が存在しない場合には、この未決定明領域は非車線境界線として一時記憶する(ステップ604)。以上のステップ601〜604の処理を、選択されている道路ベクトルの対応画像に含まれる全ての未決定明領域に対して行う(ステップ605)。この未決定明領域推定処理は、図6(a)に示すように、車線境界線は、センターラインの同一側にある同じ進行方向の道路中では車線境界線が規則的に配置されていることが多いことを利用している。これにより、道路画像中に車輌や植込みなどのノイズが存在していても、車線境界線の存在を周囲の画像領域に基づいて推定することができる。未決定明領域推定処理による推定結果の例を図12に示す。
【0045】
再び、図7において、選択されている道路ベクトルの対応画像のセンターラインを隔てた両側の道路それぞれについて、検出された車線境界線の位置情報に基づいて車線数を計数し、部分道路車線データ26として記憶装置20に格納する(ステップ309)。部分道路車線検出部300は、上記のステップ301〜310の処理を全ての道路ベクトルの対応画像について行う(ステップ311)。
【0046】
(4)未決定道路車線推定処理
次に、未決定道路車線推定部400は、部分道路車線検出部300によって未決定道路ベクトルとされた道路ベクトルの対応画像の車線数を推定する。図13A及び図13Bは、未決定道路車線推定部による処理の流れを示すフローチャートである。この処理を図14に示す道路カーブ部分の道路ベクトル及びベクトル領域の例を参照しながら説明する。図14に示すように、カーブした道路は、複数の短い道路ベクトルが連結したものに近似して表現されている。ここで、道路ベクトルVa,Vdは車線数を決定済みであるが、ベクトルVb,Vc,Vxは道路ベクトルが最低長よりも短いため、部分道路車線検出部300により未決定道路ベクトルとされたものである。カーブした道路では、このように未決定道路ベクトルが発生しやすいが、未決定道路車線推定部400によって未決定道路ベクトルの車線数をも推定することが可能である。尚、図13に示すフローチャートでは、道路ベクトルVxの車線数推定を例に挙げている。
【0047】
図13Aにおいて、未決定道路車線推定部400は、まず、1つの未決定道路ベクトルVxを選択し(ステップ401)、Vxの始点から連結している他の道路ベクトルを、車線数決定済みの道路ベクトルが見つかるまで順に(所定本数先まで)チェックしていく(ステップ402)。図14に示す例では、Vaがこれに該当するので、変数NsにVaの車線数を格納する(ステップ404)。尚、未決定道路ベクトルVxから所定本数の範囲内に車線数決定済みの道路ベクトルが見つからない場合には(ステップ403)、Nsにデータ無しと格納する(ステップ405)。同様に、Vxの終点から連結している他の道路ベクトルを、車線数決定済みの道路ベクトルが見つかるまで順にチェックしていく(ステップ406)。図14に示す例では、Vdがこれに該当するので、変数NeにVdの車線数を格納する(ステップ408)。尚、車線数決定済みの道路ベクトルが見つからないと判断した場合には(ステップ407)、Neにデータ無しと格納する(ステップ409)。
【0048】
続いて図13Bにおいて、未決定道路車線推定部400は、Ns,Neのうちいずれか一方のみに車線数が格納されている場合には、その車線数を道路ベクトルVxの車線数として記憶装置20の部分道路車線データに格納し、Ns,Neのいずれも車線数が格納されていない場合には、Vxは車線数データ無しとして記憶装置20の部分道路車線データに格納する(ステップ410〜415)。また、Ns,Neの両方に車線数が格納されている場合には、両車線数が同じであるかどうかを判定し(ステップ416)、同じである場合には、その車線数を道路ベクトルVxの車線数として記憶装置20の部分道路車線データに格納する(ステップ417)。両データが同じでない場合には、道路ベクトルVxの車線数はNs本〜Ne本の間であるとして、記憶装置20の部分道路車線データに格納する(ステップ418)。
【0049】
以上の処理を、全ての未決定道路ベクトルに対して行う(ステップ419)。このように、部分道路車線検出部300によって車線数が決定できなかった道路ベクトルとされた道路ベクトルについても、道路中の車線数が急激に変化することは少ないとの考えに基づき、近傍の道路ベクトルについて決定された車線数から当該未決定道路ベクトルの車線数の推定を行う。図15は、上記した未決定道路ベクトルの車線数推定に用いられる決定表(a)と、これによる実際の車線数の推定結果(b)とを示す図である。
【0050】
以上の処理を経て得られた地表画像の各道路の車線数を、記憶装置20の道路車線データ27として格納し、処理装置10の道路車線数決定プログラム40は処理を終了する。道路車線データ27のデータ構成例を図16に示す。この道路車線データ27を、地表画像データとともに用いることにより、道路車線情報を提供可能な地図表示システム、カーナビゲーションシステム、道路情報提供システムなどを構成することができる。
【0051】
以上、本発明の道路車線数を決定するシステム及び方法について、具体的な実施の形態を示して説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。当業者であれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、上記各実施形態又は他の実施形態にかかる発明の構成及び機能に様々な変更・改良を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の道路車線数決定システムの構成を概略的に示す機能ブロック図である。
【図2】図1に示す記憶装置に記憶されている道路ベクトルデータのデータ構成例を示す図である。
【図3】RGBのカラーモデルとHLSのカラーモデルを示す図である。
【図4】探索除外領域検出部による処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】地表画像中の交差点領域を検出した結果データを示す図である。
【図6】地表画像中の道路部分の画像(a)から各種ノイズ(c)〜(e)を検出する例を示す図である。
【図7】部分道路車線検出部による処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】車線境界線を含んでいる列画像の明度ヒストグラムを例示する図である。
【図9】図7のステップ306における車線境界線判定処理の詳細を示すフローチャートである。
【図10】図7のステップ308における未決定明領域推定処理の詳細を示すフローチャートである。
【図11】図7のステップ306における車線境界線判定処理によって得られた判定結果の例を示す図である。
【図12】図7のステップ308における未決定明領域推定処理による推定結果の例を示す図である。
【図13A】未決定道路車線推定部による処理の流れの前半を示すフローチャートである。
【図13B】未決定道路車線推定部による処理の流れの後半を示すフローチャートである。
【図14】道路カーブ部分の道路ベクトル及びベクトル領域の例を示す図である。
【図15】未決定道路車線推定処理における未決定道路ベクトルの車線数推定に用いられる決定表(a)と、これによる実際の車線数の推定結果(b)とを示す図である。
【図16】図1に示す記憶装置20に格納される道路車線データのデータ構成例を示す図である
【符号の説明】
【0053】
10 処理装置
20 記憶装置
21 地表画像データ
22 道路ベクトルデータ
23 HLSデータ
24 植生データ
25 探索除外領域データ
26 部分道路車線データ
27 道路車線データ
30 入出力装置
31 入力装置
32 表示装置
33 プリンタ
40 道路車線数決定プログラム
100 色形式変換部
200 探索除外領域検出部
300 部分道路車線検出部
400 未決定道路車線推定部
Vx, Vb, Vc 未決定の道路ベクトル
Va, Vd 決定済の道路ベクトル
Ns 連結した道路ベクトルの始点側の道路ベクトルの車線数情報格納用変数
Ne 連結した道路ベクトルの終点側の道路ベクトルの車線数情報格納用変数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工衛星又は航空機から地表を撮影した地表画像に含まれる道路の車線数を決定するシステムであって、
少なくとも地表画像データ及び道路ベクトルデータを有しており、
各道路ベクトルに対応する地表画像データに含まれる車線境界線を検出する車線境界線検出手段と、
道路ベクトル毎に、前記検出された車線境界線の情報に基づいて、車線数を決定する車線数決定手段とを備えていることを特徴とする道路車線数決定システム。
【請求項2】
人工衛星又は航空機から地表を撮影した地表画像に含まれる道路の車線数を決定するシステムであって、
少なくとも地表画像データ及び道路ベクトルデータを有しており、
地表画像データにおいて車線境界線の検出を行わない除外領域を決定する除外領域決定手段と、
各道路ベクトルに対応する地表画像データのうち、前記除外領域以外の領域に含まれる車線境界線を検出する車線境界線検出手段と、
道路ベクトル毎に、前記検出された車線境界線の情報に基づいて、車線数を決定する車線数決定手段とを備えていることを特徴とする道路車線数決定システム。
【請求項3】
人工衛星又は航空機から地表を撮影した地表画像に含まれる道路の車線数を決定するシステムであって、
少なくとも地表画像データ及び道路ベクトルデータを有しており、
地表画像データにおいて車線境界線の検出を行わない除外領域を決定する除外領域決定手段と、
所定以上の長さを有する道路ベクトルに対応する地表画像データのうち、前記除外領域以外の領域に含まれる車線境界線を検出する車線境界線検出手段と、
道路ベクトル毎に、前記検出された車線境界線の情報に基づいて、車線数を決定する車線数決定手段と、
前記所定以上の長さを有さない道路ベクトルについて、当該道路ベクトル近傍の他の1以上の道路ベクトルについて決定された車線数に基づいて、当該道路ベクトルについての車線数を推定する車線数推定手段とを備えていることを特徴とする道路車線数決定システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の道路車線数決定システムにおいて、
地表画像データをHLS形式及びRGB形式の相互に変換する色形式変換手段をさらに備えており、
前記除外領域決定手段及び前記車線境界線検出手段は、HLS形式及びRGB形式の地表画像データのうち一方又は両方を用いて除外領域決定及び車線境界線検出を行うことを特徴とする道路車線数決定システム。
【請求項5】
前記車線境界線検出手段は、HLS形式の地表画像データの明度を2値化したデータを用いて、車線境界線検出を行うことを特徴とする請求項4に記載の道路車線数決定システム。
【請求項6】
前記車線境界線検出手段は、地表画像データのうち前記除外領域については、前記除外領域の周囲において検出された車線境界線の情報に基づいて、車線境界線の存在を推定することを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の道路車線数決定システム。
【請求項7】
前記車線境界線検出手段は、各道路ベクトルに対応する地表画像データを道路ベクトル長さ方向に沿って所定幅で分割し、それぞれの分割画像データが車線境界線を含んでいるかどうかを判定することにより、車線境界線を検出することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の道路車線数決定システム。
【請求項8】
前記車線境界線検出手段は、前記分割画像データにおいて、他の領域とは画素値又は明度が異なる画像領域であって道路ベクトル長さ方向に所定以上の長さを有する領域を、車線境界線として検出することを特徴とする請求項7に記載の道路車線数決定システム。
【請求項9】
前記除外領域決定手段は、地表画像データに含まれる交差点領域、車輌、植生、中央分離帯のうち少なくとも1つを除外領域として決定することを特徴とする請求項2から7のいずれか1項に記載の道路車線数決定システム。
【請求項10】
車線数推定手段は、前記所定以上の長さを有さない道路ベクトルについて、当該道路ベクトルそれぞれの端から連なる他の道路ベクトルのうち、車線数が決定されている道路ベクトルであってそれぞれの端に最も近い2つの道路ベクトルを検出し、当該道路ベクトルについての車線数は、検出した2つの道路ベクトルそれぞれについて決定されている車線数を上限下限とする範囲内の数値であると推定することを特徴とする請求項3から9のいずれか1項に記載の道路車線数決定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−128141(P2007−128141A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318170(P2005−318170)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000233055)日立ソフトウエアエンジニアリング株式会社 (1,610)
【Fターム(参考)】