説明

部分透明化金属薄膜を有する加飾シート

【課題】加飾層として、絵柄部分と絵柄背景部分の間に明確な段差が形成されていない金属薄膜を有する加飾シートを提供すること、及びそのような加飾シートを簡便な操作によって製造する方法を提供する。
【解決手段】被加飾物に固定可能な加飾層2を基体シート1の表面に有してなる加飾シートであって、該加飾層2は金属薄膜4を有し、該金属薄膜4は絵柄背景又は絵柄5として透明化部分41を有している、加飾シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加飾物、例えば、射出成形体の表面を加飾するのに適する加飾シートに関し、特に、絵柄背景又は絵柄として、部分的に透明化された金属薄膜を有する加飾シートに関する。
【背景技術】
【0002】
加飾シートを用いてプラスチック部品又は外装品のような物品の表面を保護又は装飾する方法は従来から知られている。例えば、特許文献1には支持体である基体シートの片面上に加飾層が設けられた加飾シート、及びこの加飾シートを射出成形金型内に挿入し、インモールド射出成形することで、加飾された射出成形体を得ること(射出成形同時加飾)が記載されている。
【0003】
加飾層は、一般に、絵柄、着色剤、接着剤等が層状に積層された積層体である。物品表面に貼着された後は、加飾層は装飾機能又は保護機能を奏する被覆を形成する。絵柄及び着色剤等の層は基体シート上にグラビアインキ等の印刷インキ又は塗料を順次印刷又は塗工して形成される。
【0004】
装飾の一種として物品の表面に金属光沢の外観を付与するために、加飾層に金属薄膜が用いられることがある。特に金属光沢の絵柄が要求される場合は、金属薄膜はシート面の一部にパターン化して形成される。つまり、金属薄膜そのものが平面的に成形され、そのために絵柄背景又は絵柄に相当する部分の金属薄膜が除去される。
【0005】
特許文献2には、絵柄の背景となる部分に水溶性樹脂のマスク層を予め形成しておき、シート面の全面に金属を蒸着させた後に、マスク層及びその上の金属薄膜を水洗除去することにより、金属薄膜を絵柄に応じた形状に成形する方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、金属薄膜は強靭性に乏しく、水洗過程で損傷したり、残留水分により腐食することがある。また、この方法は工程数が多く操作が複雑であり、パターンの精度の向上に限界がある。
【0007】
特許文献3には、物品の外表面に金属を蒸着させた後に、蒸着した金属層にレーザー光を照射して加熱、分解、蒸散、昇華させて、部分的に除去することにより、金属薄膜に絵柄を形成する方法が記載されている。
【0008】
しかしながら、レーザー光を用いる加熱蒸散は残渣が生じ易く、これらを除去するための工程が必要になる。また、この方法で用いられるレーザー光は金属薄膜以外の層又は部材に当たった場合に、これらも除去してしまうため、照射形態の自由度が小さく、取扱いが困難である。
【0009】
しかも、金属薄膜を一部除去すると、残存部分と下地との間に段差が生じるため、その上にインキ等を塗布した場合に空気層が生じやすい。加飾シートの層間に存在する空気層はピンホール等の外観不良又は水分の浸入による金属腐食の原因になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO01/92006
【特許文献2】特開平6−79997
【特許文献3】特開2009−6673
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、加飾層として、絵柄部分と絵柄背景部分の間に明確な段差が形成されていない金属薄膜を有する加飾シートを提供すること、及びそのような加飾シートを簡便な操作によって製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、被加飾物に固定可能な加飾層を基体シートの表面に有してなる加飾シートであって、
該加飾層は金属薄膜を有し、該金属薄膜は絵柄背景又は絵柄として透明化部分を有している、
加飾シートを提供する。
【0013】
ある実施形態においては、前記金属薄膜は真空蒸着法により形成されたものである。
【0014】
ある実施形態においては、前記金属薄膜は20〜70nmの厚みを有する。
【0015】
ある実施形態においては、前記金属はスズ、インジウム、アルミニウム、クロム、チタン、亜鉛、ニッケルから成る群から選択される少なくとも一種である。
【0016】
ある実施形態においては、前記金属薄膜の透明化部分は、金属薄膜にレーザー光を照射して形成されたものである。
【0017】
ある実施形態においては、前記レーザー光は波長532〜10600nm及びQスイッチ周波数50〜400kHzを有する。
【0018】
ある実施形態においては、前記レーザー光はピーク出力10〜150kWを有する。
【0019】
また、本発明は、基体シートの表面に、被加飾物に固定可能な加飾層を構成する層として金属薄膜を形成する工程;及び
該金属薄膜に、絵柄背景又は絵柄として透明化部分を形成する工程;
を包含する加飾シートの製造方法を提供する。
【0020】
ある実施形態においては、前記金属薄膜は蒸着法により形成されたものである。
【0021】
ある実施形態においては、前記金属薄膜の透明化部分は、金属薄膜にレーザー光を照射して形成される。
【0022】
ある実施形態においては、前記レーザー光はスキャン速度1mm/秒〜12000mm/秒を有する。
【0023】
また、本発明は、成形用金型内に、加飾シートの外側が金型キャビティ面を向くような向きに請求項1〜10のいずれか記載の加飾シートを送り込む工程;
加飾シートに存在する絵柄の位置を考慮して、被加飾物の所望の位置に絵柄が配置されるように加飾シートの位置を決定する工程;
金型を閉じ、溶融樹脂が加飾シートの内側の面に接するように、溶融樹脂を金型のキャビティ内に充填させる工程;及び
樹脂を冷却し、金型を開いて射出成形体を取り出す工程;
を包含する射出成形体の表面を加飾する方法を提供する。
【0024】
また、本発明は、被加飾物に固定された加飾層を有してなる加飾された物品であって、
該加飾層は金属薄膜を有し、該金属薄膜は絵柄背景又は絵柄として透明化部分を有している、
加飾された物品を提供する。
【0025】
本明細書では、文言を次に説明する定義に従って使用する。
「固定」とは、脱離することが実質的に不可能なように取り付けることをいう。加飾層は被加飾物に直接固定させてよく、接着層又は基体シート等を介在させることにより固定させてもよい。
「被加飾物」とは、本発明の加飾シートを用いて加飾する対象となる独立した物品をいう。例えば、射出成形体、射出成形された部品等は被加飾物に該当する。
「加飾された物品」とは、被加飾物の表面に本発明の加飾層を有してなる物品をいう。
【発明の効果】
【0026】
本発明の加飾シートは、金属光沢の絵柄を形成する金属薄膜が絵柄部分と絵柄背景部分の間に明確な段差を有しないために、層間の密着性に優れ、外観不良又は金属腐食が発生し難い。また、絵柄を形成するための操作は簡便であり、微細な絵柄を高精度で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態である加飾シートの構造を例示する断面図である。
【図2】金属薄膜に対してレーザー光を照射する形態を例示する断面図である。
【図3】本発明の一実施形態である加飾された物品の構造を例示する断面図である。
【図4】スズ蒸着層表面の外観を示す200倍拡大写真である。
【図5】スズ蒸着層についてXPS分析を行った結果得られたスペクトルである。
【図6】レーザー光を照射した後のスズ蒸着層表面の外観を示す200倍拡大写真である。
【図7】スズ蒸着層の透明化部分についてXPS分析を行った結果得られたスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
加飾シート
図1は本発明の一実施形態である加飾シートの構造を示す断面図である。基体シート1の片面に加飾層2が設けられている。加飾層2は基体シートの片面に積層された、アンカー層3、金属薄膜4、絵柄層5及び接着層6を有している。本明細書では、加飾シートの層構成について、被加飾物の側を内側といい、観者の側を外側という。
【0029】
加飾層を構成する層のうち各樹脂層の形成は、特に断らない限り、従来と同様の方法によって行うことができる。従来の層形成方法の例には、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法などがある。
【0030】
基体シート
基体シート1は、絵柄層又は着色層をシート上に支持する用途に従来から使用されるシート材料又はフィルム材料から構成される。フィルム材料は合成樹脂からなるシート材料をいう。合成樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などが使用できる。基体シートは光透過性であることが好ましく、透明であることがより好ましい。
【0031】
基体シートは、射出成形同時加飾を行った後に加飾層から剥離する場合、及び射出成形同時加飾を行った後も加飾層と接着して残存する場合がある。
【0032】
射出成形同時加飾を行った後に、加飾層を残して基体シートを射出成形体から剥離する場合は、基体シートは薄く強靭性に優れていることが好ましい。基体シートとしては、例えば延伸ポリエステル樹脂フィルムなどが好ましい。
【0033】
かかる材質の場合、基体シートの厚さは10〜100μmがよく、好ましくは20〜80μm、より好ましくは30〜70μm程度である。基体シートの厚さが10μm未満であると強度が不足して射出成形同時加飾を行う際に破損するおそれがあり、100μmを超えると加飾シートの立体形状に対する追随性が低下することがある。
【0034】
射出成形同時加飾を行った後も、基体シートが加飾層と接着して残存する場合は、基体シートは熱延伸性に優れていることが好ましい。加飾シートの立体形状に対する追随性が向上するからである。基体シートとしては、例えばアクリル樹脂フィルム、ポリカーボネート樹脂フィルム、ポリカーボネート樹脂/ポリエステル樹脂アロイフィルムなどが好ましい。
【0035】
かかる材質の場合、基体シートの厚さは70〜200μmがよく、好ましくは80〜160μm、より好ましくは90〜140μm程度である。基体シートの厚さが70μm未満であると強度が不足して射出成形同時加飾を行う際に破損するおそれがあり、200μmを超えると射出樹脂の熱が金型に逃げ難くインキ流れが発生し易くなる。
【0036】
加飾層
加飾層2は基体シートの表面に設けられる。加飾層は基体シートの片面に設けられても両面に設けられてもよい。加飾層は、少なくとも金属薄膜4を有する。加飾層に金属光沢の絵柄を提供するためである。金属薄膜4は複数積層して形成されてよく、シート面の全部に形成されることが好ましいが、一部に形成されてもよい。
【0037】
また、加飾層2は、要すれば、基体シート1と金属薄膜4の間に、離型層、ハードコート層を、また金属薄膜4の内側表面に隣接して、追加のアンカー層、追加の絵柄層を有してよい。
【0038】
例えば、射出成形同時加飾を行った後に、加飾層2を残して基体シート1が射出成形体から剥離される場合、加飾層2は基体シート1に対して離型性を有する必要がある。かかる場合は、基体シート1と金属薄膜4の間に、基体シート1に接するように離型層が形成される。
【0039】
金属薄膜
金属薄膜4は加飾層に金属光沢の絵柄又は外観を付与する金属層である。金属薄膜4は絵柄背景又は絵柄として、透明化部分41を有している。金属薄膜4のそれ以外の部分は金属光沢部分42である。
【0040】
金属薄膜に使用する金属には、表現したい金属光沢色に応じてアルミニウム、ニッケル、金、白金、クロム、鉄、銅、スズ、インジウム、銀、チタニウム、鉛、亜鉛など、これらの合金または化合物がある。金属薄膜を形成する金属は外部からエネルギーを印加して透明化する必要があり、好ましいものは、スズ、インジウム、アルミニウム、クロム、チタン、亜鉛、ニッケルである。
【0041】
ある一形態において、金属薄膜は金属光沢と絶縁性、電波透過性および静電スイッチと隣接しての使用適性を兼ね備えたものである。絶縁性金属薄膜は、島のサイズ1nm〜2μm、島の間隔2nm〜500nmである島状構造をなすものが好ましい。絶縁性金属薄膜に使用する金属としては、特に、絶縁性等の点から、スズ、又はインジウムが好ましい。
【0042】
金属薄膜は、加飾層を構成する層として、従来と同様の方法で形成することができる。具体的な形成方法としては、真空蒸着法、スパッターリング法、イオンプレーティング法、鍍金法などがある。金属薄膜の好ましい形成方法は真空蒸着法である。真空蒸着法は金属薄膜形成を高速に行うことができ、コストおよび生産性に優れるとともに、加飾シート基体や加飾層へのダメージを抑制できることから好ましい。
【0043】
金属薄膜の厚みは10〜300nm、好ましくは10〜100nm、より好ましくは30〜70nmである。金属薄膜の厚みが10nm未満であると形成される絵柄の金属光沢が不十分になり、300nmを超えると膜の透明化が困難になる。
【0044】
金属薄膜の透明化は外部からエネルギーを印加して行われる。エネルギーを印加する部分は、金属光沢の絵柄の絵柄背景に相当する部分である。金属薄膜のこの部分が透明化されれば、絵柄に相当する部分は金属光沢のまま残される。
【0045】
他方、透明な絵柄が望まれる場合は、金属薄膜の絵柄に相当する部分にエネルギーを印加すればよい。
【0046】
金属薄膜が透明化する機構は明確ではない。しかしながら、スズ、インジウム及びアルミニウムのような金属は、酸化することにより透明化することが知られている。そして、これら金属の金属薄膜は、空気中に放置すると、実際に徐々に金属光沢が低下する。従って、金属薄膜の金属が、薄膜に含まれているか又は周囲から侵入する酸素などの元素と反応する結果、酸化反応が生じている可能性が高い。
【0047】
印加するエネルギーの種類は金属薄膜の透明化を実現又は促進させるものであれば特に限定されない。例えば、熱エネルギー又は光エネルギーが例示される。熱エネルギーは、例えば、サーマルヘッド等を用いて部分的に印加することができる。金属薄膜以外の層に対する影響を考慮すると、好ましいエネルギーは光エネルギーである。光エネルギーは、例えば、パターンマスクを用いて部分的に印加することができる。
【0048】
光エネルギーの中でも特に好ましいエネルギーはレーザー光である。絵柄背景又は絵柄の形状に対応して正確に照射することが容易だからである。例えば、レーザー光を用いれば、サブミクロンの寸法の絵柄でも描画することができる。また、レーザー光は、透明な材料に影響を与えない照射条件を選択することができ、基体シート等の透明な層を透過させながら金属薄膜の照射を行うことも可能であり、照射形態の自由度が大きい。
【0049】
好ましいレーザー光は、Qスイッチ周波数が50〜400kHz、好ましくは100〜400kHz、より好ましくは300〜400KHzである。レーザー光のQスイッチ周波数が50kHz未満であると衝撃波で透明層が損傷する恐れがあり、400kHzを超えると金属の透明化が困難になる可能性がある。
【0050】
好ましいレーザー光は、波長が532〜10600nm、好ましくは532〜2000nm、より好ましくは532〜1064nmである。レーザー光の波長が532nm未満であるとスズの吸収域ではないため透明化せず、10600nmを超えると透明層の吸収域になるため、透明層が彫りこまれるだけで、スズの透明化は困難となる。
【0051】
上記条件を満足するレーザー光の具体例には、Nd:YAG、Nd:YVO、Nd:YLFなどの固体レーザー媒体やGaAsなどの半導体レーザー媒体、COやHe−Neなどの気体レーザー媒体などを励起して得られるレーザー光が挙げられる。中でもNd:YAG、Nd:YVOレーザーの基本波が好ましい。
【0052】
また、好ましいレーザー光は、ピーク出力が10kW〜150kW、好ましくは10kW〜100kW、より好ましくは20kW〜100kWである。レーザー光の出力が10kW未満であると金属の透明化が困難となり、100kWを超えると絵柄層や接着層が変色し意匠性が損なわれる可能性がある。
【0053】
更に、好ましいレーザー光は、スキャン速度が1mm/秒〜12000mm/秒、好ましくは2000mm/秒〜8000mm/秒、より好ましくは3000mm/秒〜5000mm/秒である。レーザー光のスキャン速度が1mm/秒未満であると透明化したパターンのシャープさが損なわれ、12000mm/秒を超えると透明層を削り飛ばしてしまう恐れがある。
【0054】
図2は金属薄膜に対してレーザー光を照射する形態を例示する断面図である。レーザー光の照射は、例えば、図2(a)に示す様に、金属薄膜4に対して直接行ってよい。又は、例えば、図2(b)に示す様に、例えば、基体シート及びアンカー層等の透明な層を透過させて行ってもよい。又は、例えば、不透明な絵柄層5が存在しない部分は、図2(c)に示す様に、接着層6を透過させて行ってもよい。
【0055】
レーザー光による金属薄膜の透明化は、金属層が空気中に露出していなくても機能する。それゆえ、レーザー光の照射は金属薄膜を形成した直後でなくても、例えば、加飾シートを構成する層を全て形成した後であっても行うことができる。
【0056】
離型層
離型層は転写時に基体シートと一緒になって加飾層から分離するものであってよく、基体シートから分離して加飾層の最外側表面を形成するものであってもよい。離型層の材質としては、メラミン系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、セルロース誘導体、尿素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、パラフィン系樹脂およびこれらの複合物などを用いることができる。
【0057】
アンカー層
アンカー層3は金属箔膜4を転写層に密着させる樹脂層である。アンカー層3はシート面の全体に形成され、転写層が物品に転写された後は、ハードコート層などとともに、金属薄膜4を傷等から保護して耐腐食性を向上させる役割も果たす。
【0058】
アンカー層に使用する樹脂には、二液性硬化ウレタン樹脂、熱硬化ウレタン樹脂、メラミン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、塩素含有ゴム系樹脂、塩素含有ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系共重合体樹脂などがある。
【0059】
絵柄層
絵柄層5は被加飾物を装飾するための層である。ここでいう絵柄層には、文字又は絵柄を形成する層の他、絵柄を有しない着色層も含まれる。
【0060】
絵柄層は、例えば、金属薄膜4等の絵柄層と隣接する層の表面に、バインダーである合成樹脂及び着色剤を含む着色インキ又は塗料を展着させて、形成される。インキ又は塗料を展着させる方法としては、例えば、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷等の印刷方式;及びグラビアコーター、グラビアリバースコーター、フレキソコーター、ブランケットコーター、ロールコーター、ナイフコーター、エアナイフコーター、キスタッチコーター、キスタッチリバースコーター、コンマコーター、コンマリバースコーター、マイクログラビアコーター等の塗工方式を用いることが出来る。
【0061】
絵柄層のバインダーとなる合成樹脂としては、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂、熱可塑ウレタン系樹脂、メタアクリル系樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、塩化ゴム系樹脂、塩化ポリエチレン系樹脂、及び、塩素化ポリプロピレン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の合成樹脂であることが好ましい。
【0062】
好ましい着色剤の具体例は、(1)インジゴ、アリザリン、カーサミン、アントシアニン、フラボノイド、シコニンなどの植物色素、(2)アゾ、キサンテン、トリフェニルメタンなどの食用色素、(3)黄土、緑土などの天然無機顔料、(4)アクリル系、ウレタン系などの無機顔料、(5)炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミニウムレーキ、マダーレーキ、コチニールレーキなどが挙げられる。
【0063】
絵柄層を形成するために、金属薄膜細片をバインダー樹脂中に分散した、鏡面状金属光沢を有するインキ(以下、高輝性インキと言う。)からなる高輝性インキ層を用いてもよい。金属薄膜細片のインキ中の不揮発分に対する含有量は、3〜60質量%の範囲であることが好ましい。顔料として金属薄膜細片を使用した高輝性インキは、該インキを印刷又は塗布した際に金属薄膜細片が被塗物表面に対して平行方向に配向する結果、高輝度の鏡面状金属光沢が得られる。
【0064】
接着層
接着層6は、射出成形同時加飾の時に、加飾層と射出成形体とを接着するための層である。接着層としては、射出成形体に適した感熱性あるいは感圧性の樹脂を適宜使用する。たとえば、射出成形体の材質がアクリル系樹脂の場合はアクリル系樹脂を用いるとよい。
、転写シートの内側表面のうち被装飾物品に接着させたい部分に形成する。すなわち、内側表面全体を被装飾物品に接着させたい場合に、その表面全体に接着層を形成する。また、内側表面のうちの一部分を被装飾物品に接着させたい場合には、そのうちの一部分に接着層を形成する。
【0065】
接着層の構成材料としては、被装飾物品に対する十分な接着性を得ることができれば特に限定されない。接着層を被装飾物品に加熱圧着する場合には、接着層の構成材料としては、感熱性、感圧性を有する合成樹脂を適宜選択すればよい。
【0066】
例えば、被装飾物品の表面部分の構成材料がポリアクリル系樹脂の場合には、接着層の構成材料としては、ポリアクリル系樹脂を用いることが好ましい。また、例えば、被装飾物品の表面部分の構成材料がポリフェニレンオキシド共重合体、ポリスチレン系共重合体樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合には、接着層の構成材料としては、これらの樹脂と親和性のあるポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを適宜選択して採用すればよい。
【0067】
更に、例えば、被装飾物品の表面部分の構成材料がポリプロピレン樹脂の場合は、接着層の構成材料としては、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂が使用可能である。
【0068】
ハードコート層
ハードコート層は、加飾層を被加飾物に固定した後に、転写層2の最外側になる層である。ハードコート層は装飾物を保護するために一定以上の硬度を有している。
【0069】
ハードコート層としては、熱、紫外線又は電子線等のエネルギーを印加すると架橋又は硬化するエネルギー架橋性樹脂を用いる。ハードコート層の材質としては、シアノアクリレート系やウレタンアクリレートなどの電離放射線硬化性樹脂や、アクリル系やウレタン系などの熱硬化性樹脂が挙げられるが、特に限定されない。好ましくは、エネルギー架橋性樹脂は紫外線又は電子線を印加して架橋する活性エネルギー線架橋性樹脂である。活性エネルギー線樹脂は、印加するエネルギーの量を増減することにより架橋の程度を容易に調整することができるからである。
【0070】
物品の加飾方法
本発明の加飾シートを使用して熱ロール転写又はインモールド成形などにより、物品を加飾することができる。例えば、熱ロール転写においては、まず、加飾シートに存在する絵柄の位置を考慮して、被加飾物の所望の位置に絵柄が配置されるように加飾シートの位置を決定する。次いで、加飾シートの内側(接着層側)の面を被加飾物の表面に重ね、ロール転写機、アップダウン転写機などの転写機を用いて、加飾シートの基体シート側から熱及び圧力をかける。こうすることにより、加飾シートが被加飾物の表面に接着し、物品の表面が加飾される。
【0071】
また、インモールド射出成形においては、まず、成形用金型内に、加飾シートを送り込む。その際、加飾シートの向きは、外側が金型キャビティ面を向くように合わせ、加飾シートの位置は、加飾シートに存在する絵柄の位置を考慮して、被加飾物の所望の位置に絵柄が配置されるように決定する。
【0072】
次いで、金型を閉じ、溶融樹脂が加飾シートの内側(即ち、接着層側)の面に接するように、即ち、加飾シートが溶融樹脂と金型キャビティ面に挟まれるように、溶融樹脂を金型のキャビティ内に充填させる。その結果、溶融樹脂は成形され、同時に加飾シートは射出成形体の表面に接着される。樹脂を冷却し、金型を開いて射出成形体を取り出すと、加飾層が射出成形体の表面に接着されて、射出成形体の表面が加飾される。
【0073】
基体シートと加飾層の間に離型層が形成されている場合は、最後に基体シートが剥離される。
【0074】
加飾された物品
上記物品の加飾方法によって、被加飾物に固定された本発明の加飾層を有してなる加飾された物品が得られる。図3は本発明の一実施形態である加飾された物品の構造を示す断面図である。加飾された物品は被加飾物8に加飾層2が固定されている。
【0075】
図3(a)は、加飾層2がアンカー層3、金属薄膜4、絵柄層5及び接着層6から構成され、また、最外側が基体シート1になっており、射出成形同時加飾を行った後に基体シートを剥離しない場合に形成される物品である。
【0076】
図3(b)は、加飾層2がハードコート層7、アンカー層3、金属薄膜4、絵柄層5及び接着層6から構成され、また、最外側がハードコート層7になっており、射出成形同時加飾を行った後に基体シートを剥離する場合に形成される物品である。
【0077】
図3(c)は、加飾層2がアンカー層3、金属薄膜4、絵柄層5及びハードコート層7から構成され、加飾層2が基体シート1及び接着層6を介して被加飾物8に固定された物品である。
【0078】
被加飾物は、インモールド射出成形法で製造される物品であれば特に制限されない。例えば、携帯電話の本体カバー、ノート型パソコンの本体カバー、メディアプレーヤーの本体カバー等が挙げられる。
【0079】
また、加飾された物品が部品である場合、その部品を組み立てることにより、完成品の表面に本発明の加飾層を有してなる加飾された製品が得られる。加飾された製品は、部品として本発明の加飾された物品を有する完成品であれば特に制限されない。例えば、携帯電話、ノート型パソコン、メディアプレーヤー等の携帯型情報端末等が挙げられる。
【0080】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、実施例中「部」又は「%」で表される量は特に断りなき限り質量を基準にして表す。
【実施例】
【0081】
参考例
スズ蒸着層にレーザー光を照射した場合に、照射部の物性がどのように変化するか調査した。
【0082】
蒸着法を用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に厚み70nmのスズ蒸着層を形成した。図4はスズ蒸着層表面の外観を示す200倍拡大写真である。照明の反射により中央部は明るく周辺部は暗く写っているが、実際は、スズ蒸着層表面は全面にわたって均質である。即ち、スズ蒸着層には未だレーザー光が照射されておらず、透明化部分は存在しない。
【0083】
このスズ蒸着層についてX線光電子分光分析(XPS分析)を行った。具体的には、まず、アルゴンを用いて電圧3kVで2分間スパッタを行うことにより、スズ蒸着層表面の酸化層を除去した。
【0084】
次いで、マグネシウムに対して出力400Wで電子線を照射してMgKα線を得、このMgKα線を出力58.7eV及び照射角45度にて、酸化層を除去したスズ蒸着層表面に照射した。その結果、スズ蒸着層から光電子が放出され、その光電子の運動エネルギーを測定した。光電子の運動エネルギーは光電子が放出される原子固有の値を有し、測定値から元素の化学結合状態に関する情報が得られる。
【0085】
図5はスズ蒸着層についてXPS分析を行った結果得られたスペクトルである。スペクトル中、485eVのピークはスズの存在を意味し、486〜487eVのショルダーは酸化スズの存在を意味する。
【0086】
次いで、このスズ蒸着層の露出面に対し、幅約10mmの格子を形成するようにレーザー光を照射した。照射条件は次の通りである。
【0087】
[表1]

【0088】
図6はレーザー光を照射した後のスズ蒸着層表面の外観を示す200倍拡大写真である。スズ蒸着層には、レーザー光が照射された部分に対応して、透明化部分が存在する。
【0089】
スズ蒸着層の透明化部分にMgKα線を照射すること以外は上記と同様にして、スズ蒸着層の透明化部分についてXPS分析を行った。図7はスズ蒸着層の透明化部分についてXPS分析を行った結果得られたスペクトルである。
【0090】
図6のスペクトルと対比すると、図7のスペクトルはスズに相当する485eVのピークは減少し、酸化スズに相当する486〜487eVのピークが成長している。
【0091】
これらの結果から、スズ蒸着層に対してレーザー光を照射することにより照射部分が透明化されること、及び透明化部分には酸化スズが形成されることが示された。
【0092】
実施例
基体シートとして厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフイルムを準備した。この基体シートの上に、メラミン樹脂系離型剤を塗布乾燥して離型層を形成した。その後、メラミン系樹脂を含む塗料を塗布乾燥してハードコート層を形成した。ハードコート層の上に、ウレタン樹脂を含む塗料を塗布し、前アンカー層を形成した。
【0093】
真空蒸着法を行って、前アンカー層表面の上に、島状構造で絶縁性を備えた厚さ50nmのスズ蒸着層を形成した。
【0094】
数平均分子量(Mn)70000、軟化点45℃、水酸基価1.7のポリウレタンポリオールを溶剤としてメチルエチルケトンに溶解して後アンカー層を形成するための塗料を調製した。
【0095】
スズ蒸着層の表面上に、得られた塗料を塗布乾燥してスズ蒸着層表面からの厚さ1.0μmの後アンカー層を形成した。更にアクリル系樹脂を含む塗料を塗布乾燥して接着層を形成して、転写フィルムを得た。上記工程において樹脂層の形成は全てグラビアコート法にて行った。
【0096】
得られた転写フィルムの表面の一部に、基体シートの側から、10mm×10mmの方形状にレーザー光を照射した。照射条件は次の通りとした。
【0097】
[表2]

【0098】
その結果、転写フィルムのスズ蒸着層には、10mm×10mmの透明化部分が形成され、部分的に透明化された金属薄膜を有する転写フィルムが得られた。
【0099】
得られた転写フィルムを金型に入れて、PMMA樹脂のインモールド成形を行い、10mm×10mmの透明な窓部分及びその窓部分を取り囲む金属色部分を有する厚さ2.0mmのPMMA樹脂の板を得た。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、射出成形品、及び部品が射出成形品である工業製品の外観を装飾するのに利用される。
【符号の説明】
【0101】
1…基体シート、
2…加飾層、
3…アンカー層、
4…金属薄膜、
5…絵柄層、
6…接着層、
7…ハードコート層、
8…被加飾物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加飾物に固定可能な加飾層を基体シートの表面に有してなる加飾シートであって、
該加飾層は金属薄膜を有し、該金属薄膜は絵柄背景又は絵柄として透明化部分を有している、
加飾シート。
【請求項2】
前記金属薄膜は真空蒸着法により形成されたものである請求項1記載の加飾シート。
【請求項3】
前記金属薄膜は10〜300nmの厚みを有する請求項1又は2記載の加飾シート。
【請求項4】
前記金属はスズ、インジウム、アルミニウム、クロム、チタン、亜鉛、ニッケルから成る群から選択される少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか記載の加飾シート。
【請求項5】
前記金属薄膜の透明化部分は、金属薄膜にレーザー光を照射して形成されたものである請求項1〜4のいずれか記載の加飾シート。
【請求項6】
前記レーザー光は波長532〜10600nm及びQスイッチ周波数50〜400kHzを有する請求項1〜5のいずれか記載の加飾シート。
【請求項7】
前記レーザー光はピーク出力10kW〜150kWを有する請求項1〜6のいずれか記載の加飾シート。
【請求項8】
基体シートの表面に、被加飾物に固定可能な加飾層を構成する層として金属薄膜を形成する工程;及び
該金属薄膜に、絵柄背景又は絵柄として透明化部分を形成する工程;
を包含する加飾シートの製造方法。
【請求項9】
前記金属薄膜は蒸着法により形成されたものである請求項8記載の加飾シートの製造方法。
【請求項10】
前記金属薄膜の透明化部分は、金属薄膜にレーザー光を照射して形成される請求項8又は9記載の加飾シートの製造方法。
【請求項11】
前記レーザー光はスキャン速度1mm/秒〜12000mm/秒を有する請求項10記載の加飾シートの製造方法。
【請求項12】
成形用金型内に、加飾シートの外側が金型キャビティ面を向くような向きに請求項1〜10のいずれか記載の加飾シートを送り込む工程;
加飾シートに存在する絵柄の位置を考慮して、被加飾物の所望の位置に絵柄が配置されるように加飾シートの位置を決定する工程;
金型を閉じ、溶融樹脂が加飾シートの内側の面に接するように、溶融樹脂を金型のキャビティ内に充填させる工程;及び
樹脂を冷却し、金型を開いて射出成形体を取り出す工程;
を包含する射出成形体の表面を加飾する方法。
【請求項13】
被加飾物に固定された加飾層を有してなる加飾された物品であって、
該加飾層は金属薄膜を有し、該金属薄膜は絵柄背景又は絵柄として透明化部分を有している、
加飾された物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−140126(P2011−140126A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−553(P2010−553)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】