部品の加飾装置及び加飾方法
【課題】適正な照射条件によってレーザを部品表面に照射して、描画不良のない正確な絵柄を加飾することができる部品の加飾装置を提供すること。
【解決手段】加飾装置10は、レーザ照射装置13とそのレーザ照射装置13を制御するための制御装置14とを備え、自動車用加飾部品1の表面に絵柄を加飾する。制御装置14のメモリ32には、クリアコート層の材料についてレーザ照射による状態変化を示す状態変化データが記憶されている。制御装置14のCPU31は、照射パラメータと柄データとに基づいて描画領域におけるレーザ積算熱量を算出する。CPU31は、状態変化データとレーザ積算熱量のデータとに基づいて、絵柄の描画不良が発生する不良部位を導き、その不良部位に対応する照射パラメータを補正する。
【解決手段】加飾装置10は、レーザ照射装置13とそのレーザ照射装置13を制御するための制御装置14とを備え、自動車用加飾部品1の表面に絵柄を加飾する。制御装置14のメモリ32には、クリアコート層の材料についてレーザ照射による状態変化を示す状態変化データが記憶されている。制御装置14のCPU31は、照射パラメータと柄データとに基づいて描画領域におけるレーザ積算熱量を算出する。CPU31は、状態変化データとレーザ積算熱量のデータとに基づいて、絵柄の描画不良が発生する不良部位を導き、その不良部位に対応する照射パラメータを補正する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品表面の描画領域に沿ってレーザを照射しその表面の状態を変化させて絵柄を描く部品の加飾装置及び加飾方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装部品などでは、デザイン性や品質を高めるために樹脂成形体の表面に装飾を加えるようにした加飾部品(例えば、コンソールボックス、インストルメントパネル、アームレストなど)が多く実用化されている。このような加飾部品に装飾を加える加飾方法としては、水圧転写が一般的に用いられている(例えば特許文献1参照)。水圧転写とは、水面上に特殊フィルムを浮かべ、そのフィルムに印刷された所定の絵柄(木目模様や幾何学模様などの絵柄)を水圧によって樹脂成形体の表面に転写する技術である。この技術によれば、三次元曲面への印刷を行うことができる。
【0003】
また、安価で手軽な加飾方法として、レーザ描画が知られている。レーザ描画は、部品表面の描画領域に沿ってレーザを照射し、レーザによって与えられた熱(以下、レーザ熱とする)により部品表面の状態を変化させて、絵柄を描くようにした加飾方法である。部品表面の状態変化とは、表面が溶ける、表面が焦げる、表面が変色する、表面層が剥離した状態へ変化することなどである。
【0004】
本発明者らは、水圧転写によって部品表面に印刷層を転写するとともに、その表面にレーザを照射して絵柄を描くようにした技術を開発している。この場合、部品表面において、絵柄の明るさや色彩の変化がつき、意匠性を向上させることが可能となる。
【0005】
因みに、特許文献2〜4等には、樹脂製成形体の表面にレーザを照射して文字をマーキングする技術が開示されている。これらの技術は、樹脂成形体の表面に複数色の文字や記号などをマーキングするための技術であり、複雑な絵柄を描くためのものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭54−33115号公報
【特許文献2】特開平06−297828号公報
【特許文献3】特開平07−165979号公報
【特許文献4】特開平08−127175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、一定の照射条件にてレーザを照射してレーザ描画を行うと、レーザ熱による描画不良が発生する場合がある。例えば、レーザ照射を行う描画領域が接近する場合や描画領域が重なる場合、レーザ照射によって部品表面に与えられる熱の積算量が増加し、表面の膨れや変形等の不具合を引き起こしてしまう。この場合、絵柄を正確に描くことができず、さらに表面の変色等によって意図しない絵柄になることから、意匠性が悪化してしまう。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、適正な照射条件によってレーザを部品表面に照射して、描画不良のない正確な絵柄を加飾することができる部品の加飾装置及び部品の加飾方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、手段1に記載の発明は、部品表面の描画領域に沿ってレーザを照射しその表面の状態を変化させて絵柄を描くレーザ照射装置と、前記レーザ照射装置を制御するための制御装置とを備えた部品の加飾装置であって、前記制御装置は、前記部品表面の形成材料についてレーザ照射による状態変化を示す状態変化データを記憶する記憶部と、前記レーザ照射装置が出力するレーザの照射条件を設定する照射パラメータと、前記絵柄を描画するためのレーザ照射点の距離及び密度の情報を含む柄データと、前記状態変化データとに基づいて、前記絵柄の描画不良が発生する不良部位を予測するための不良予測部と、前記不良部位に対応する前記照射パラメータ及び前記柄データのうちの少なくとも一方を補正するパラメータ補正部とを備えることを特徴とする部品の加飾装置をその要旨とする。
【0010】
手段1に記載の発明によると、制御装置において、不良予測部により、レーザの照射条件を設定する照射パラメータとレーザ照射点の距離及び密度の情報を含む柄データと状態変化データとに基づいて、絵柄の描画不良が発生する不良部位が予測される。そして、パラメータ補正部によって不良部位に対応する照射パラメータや絵柄データが補正され、補正後の照射パラメータや絵柄データに基づいてレーザ照射装置が制御されてレーザが照射される。このようにすると、レーザ照射を行う描画領域が接近する場合や描画領域が重なる場合などのように、レーザ照射による描画が困難な描画領域についても、状態変化に適した熱量をレーザ照射により与えることができる。この結果、表面の膨れや変形等の不具合を引き起こすことなく、部品表面に正確な絵柄を加飾することができる。
【0011】
手段2に記載の発明は、手段1において、前記部品の表面温度の上昇を抑えるための冷却装置をさらに備え、前記不良予測部は、前記冷却装置の駆動状態に応じて不良予測することをその要旨とする。
【0012】
手段2に記載の発明のように、部品の表面温度の上昇を抑えるための冷却装置を備える場合、レーザ照射時において部品表面に蓄積される熱量が冷却装置の駆動状態に応じて変化する。このため、不良予測部により、冷却装置の駆動状態に応じて不良部位が予測される。このようにすると、レーザ照射により、状態変化に適した熱量を与えることができるため、部品表面に正確な絵柄を加飾することができる。なお、冷却装置としては、冷却風を送風して部品表面を冷却する送風装置に加え、レーザ描画によって発生した煙を含む温風を排気して部品の表面温度を下げる排気装置などを挙げることができる。
【0013】
手段3に記載の発明は、手段1または2において、レーザ照射によって加飾された前記絵柄の画像を撮像して画像データを取得する画像取得装置をさらに備え、前記パラメータ補正部は、前記画像データに基づいて、前記絵柄の描画不良が発生している不良部位を検知し、前記不良部位に対応する前記照射パラメータ及び前記柄データのうちの少なくとも一方を補正することをその要旨とする。
【0014】
手段3に記載の発明によると、レーザ照射によって加飾された絵柄の画像データが画像取得装置によって取得され、その画像データに基づいて絵柄の描画不良が検知される。そして、描画不良が発生している不良部位については、照射パラメータや絵柄データが補正される。このようにすると、製造初期段階での部品の加飾時に描画不良が発生したとしても次の部品を加飾する際には、描画不良が発生しないようにレーザの照射条件を調整することができる。この結果、加飾部品の歩留まりを向上させることができる。
【0015】
手段4に記載の発明は、手段1乃至3のいずれかにおいて、前記部品は、その表面に水圧転写によって印刷層が転写されるとともに前記印刷層を保護するクリアコート層が形成された後、レーザ照射を行って前記印刷層及びクリアコート層の状態を変化させて前記絵柄が描かれるものであり、前記記憶部には、前記クリアコート層の材料及び前記印刷層に用いられる顔料の種類に応じた前記状態変化データを記憶するようにしたことをその要旨とする。
【0016】
手段4に記載の発明によると、部品表面には水圧転写によって印刷層が転写された後、クリアコート層が形成される。そして、クリアコート層の材料及び印刷層に用いられる顔料の種類に応じた状態変化データが記憶部に記憶されている。このようにすると、クリアコート層の材料や印刷層に含まれる顔料に応じた適切な照射パラメータを設定することができるため、絵柄に応じた熱量をレーザ照射によって過不足なく与えることができる。この結果、部品表面に正確な絵柄を加飾することができる。
【0017】
手段5に記載の発明は、手段1乃至3のいずれかにおいて、前記部品は、印刷層と前記印刷層を保護するクリアコート層とを有する加飾フィルムを用い、前記部品表面にドライ状態で前記加飾フィルムが貼り付けられた後、または前記部品表面にドライ状態で前記加飾フィルムの印刷層及びクリアコート層が転写された後、レーザ照射を行って前記印刷層及びクリアコート層の状態を変化させて前記絵柄が描かれるものであり、前記記憶部には、前記クリアコート層の材料及び前記印刷層に用いられる顔料の種類に応じた前記状態変化データを記憶するようにしたことをその要旨とする。
【0018】
手段5に記載の発明によれば、印刷層と印刷層を保護するクリアコート層とを有する加飾フィルムを用い、部品表面にドライ状態でクリアコート層及び印刷層を付加することができる。そして、クリアコート層の材料及び印刷層に用いられる顔料の種類に応じた状態変化データが記憶部に記憶されている。このようにしても、クリアコート層の材料や印刷層に含まれる顔料に応じた適切な照射パラメータを設定することができるため、絵柄に応じた熱量をレーザ照射によって過不足なく与えることができる。この結果、部品表面に正確な絵柄を加飾することができる。
【0019】
手段6に記載の発明は、部品表面の描画領域に沿ってレーザを照射してその表面の状態を変化させて絵柄を描く部品の加飾方法であって、前記レーザの照射条件を設定する照射パラメータと、前記絵柄を描画するためのレーザ照射点の距離や密度の情報を含む柄データと、前記部品表面の形成材料についてレーザによって与えられた熱による状態変化を示す状態変化データとに基づいて、前記絵柄の描画不良が発生する不良部位を予測するための不良予測ステップと、前記不良部位に対応する前記照射パラメータ及び前記柄データのうちの少なくとも一方を補正する補正ステップと、前記補正された照射パラメータ及び前記柄データのうちの少なくとも一方に応じて前記レーザを照射する照射ステップとを含むことを特徴とする部品の加飾方法をその要旨とする。
【0020】
手段6に記載の発明によると、照射パラメータと柄データと状態変化データとに基づいて、絵柄の描画不良が発生する不良部位が予測される。そして、その不良部位に対応する照射パラメータが補正され、補正された照射パラメータに応じてレーザが照射される。このようにすると、レーザ照射を行う描画領域が接近する場合や描画領域が重なる場合などのように、レーザ照射による描画が困難な描画領域についても、状態変化に適した熱量をレーザ照射により与えることができる。この結果、表面の膨れや変形等の不具合を引き起こすことなく、部品表面に正確な絵柄を加飾することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上詳述したように、手段1〜6に記載の発明によると、適正な照射条件によってレーザを部品表面に照射して、描画不良のない正確な絵柄を加飾することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一実施の形態の自動車用加飾部品を示す平面図。
【図2】一実施の形態の自動車用加飾部品を示す拡大断面図。
【図3】(a)〜(c)はレーザ照射による加飾パターンを示す説明図。
【図4】一実施の形態の部品の加飾装置を示す概略構成図。
【図5】自動車用加飾部品の製造方法を示す説明図。
【図6】自動車用加飾部品の製造方法を示す説明図。
【図7】2重交差パターンのレーザ描画状態を示す説明図。
【図8】3重交差パターンのレーザ描画状態を示す説明図。
【図9】2重交差パターンにおける不良部位を示す説明図。
【図10】補正前及び補正後のレーザ描画状態を示す説明図。
【図11】別の実施の形態の部品の加飾装置を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0024】
図1及び図2に示されるように、自動車用加飾部品1は、立体形状の樹脂成形体2を備えており、その樹脂成形体2の表面(部品表面)の描画領域に、印刷層3が形成されている。なお、本実施の形態の自動車用加飾部品1は、ドアのアームレストを構成する内装部品である。樹脂成形体2は、ABS樹脂(本実施の形態では、東レ株式会社製、材料名450Y−X10)を用いて成形された樹脂成形品である。また、印刷層3には、例えば木目模様の下地絵柄4が描画されている。印刷層3は、水圧転写法を用いて部品表面に転写されるものあり、複数の異なる顔料を含んで構成されている。
【0025】
さらに、自動車用加飾部品1の最上層となる印刷層3の上面には、印刷層3を保護するためのクリアコート層5が形成されている。クリアコート層は、クリア塗料(本実施の形態では、オリジン電気株式会社製、材料名プラネットTCクリヤ390)を噴霧して形成されるコート層であり、その膜厚は30μm程度である。
【0026】
クリアコート層5には、レーザ描画によって幾何学模様の絵柄6が加飾されている。本実施の形態において、レーザ描画による加飾パターンとしては、図3に示されるように、(a)の2重交差パターン7、(b)の3重交差パターン8、(c)の4重交差パターン9がある。これら各交差パターン7〜9の繰り返しによって幾何学模様の絵柄6が形成されている。なお、各交差パターン7〜9は、レーザ熱によってクリアコート層5の表面の一部が発泡により白濁して形成されるライン状の加工部であって、幅は200μm程度である。また、各交差パターン7〜9は、深さが15μm程度であり、印刷層3には達していない。
【0027】
このように、自動車用加飾部品1の表面に幾何学模様の絵柄6を加飾すると、見る角度によって下地絵柄4の明るさや色彩の変化がつき、意匠性が向上される。
【0028】
ここで、本実施の形態の自動車用加飾部品1を製造するための製造システムについて説明する。この製造システムは、図示しない水圧転写装置、塗装装置、及び図4に示す加飾装置10を備えている。水圧転写装置には、処理水を溜めておく転写槽が設けられている。水圧転写装置は、転写槽の処理水の水面において、基材上に印刷層3を形成してなる転写フィルム(図示しない大日本印刷株式会社製のフィルム)を浮かべ、その状態で転写フィルムの上方から樹脂成形体2を押し付けることにより、樹脂成形体2の表面上に印刷層3を水圧で転写する。また、塗装装置は、クリア塗料を噴霧することにより、印刷層3が転写された樹脂成形体2の表面にクリアコート層5を塗装する。
【0029】
図4に示されるように、本実施の形態の部品の加飾装置10は、搬送装置11、CCDカメラ12、レーザ照射装置13、及び制御装置14を備えている。搬送装置11は、自動車用加飾部品1を搬送するための装置であり、自動車用加飾部品1を支持する搬送テーブル16やそのテーブル16を移送する搬送コンベア17などを含んで構成されている。また、レーザ照射装置13よりも後方の搬送位置に対向してCCDカメラ12(画像取得装置)が配置されている。
【0030】
レーザ照射装置13は、例えばYVO4レーザの照射装置であって、波長が1064nmであるレーザLを発生させるレーザ発生部21と、レーザLを偏向させるレーザ偏向部22と、レーザ発生部21及びレーザ偏向部22を制御するレーザ制御部23とを備えている。レーザ偏向部22は、レンズ24と反射ミラー25とを複合させてなる光学系であり、これらレンズ24及び反射ミラー25の位置を変更することにより、レーザLの照射位置や焦点位置を調整するようになっている。レーザ制御部23は、レーザ発生部21及びレーザ偏向部22を制御することで、レーザLの照射強度、レーザLの走査速度などのレーザ照射条件を調整する。なお、レーザ照射装置13におけるレーザLの平均出力は13Wであり、繰り返し周波数は50kHzである。
【0031】
CCDカメラ12は、レーザ照射装置13によるレーザ加飾後の絵柄6の画像を撮影する。CCDカメラ12は、撮像した画像に基づいて絵柄画像データを生成して、その画像データを制御装置14に出力する。
【0032】
制御装置14は、CPU31、メモリ32(記憶部)及び入出力ポート33等からなる周知のコンピュータにより構成されている。制御装置14は、CCDカメラ12及びレーザ照射装置13に電気的に接続されており、各種の駆動信号によってそれらを制御する。
【0033】
制御装置14のメモリ32には、CCDカメラ12から取得した絵柄画像データが記憶される。また、メモリ32には、レーザ照射装置13のレーザ照射条件(レーザLの照射時間、レーザLの照射強度、レーザLのスポット径など)を示す照射パラメータが予め記憶される。さらに、メモリ32には、クリアコート層5の形成材料についてレーザ照射による状態変化を示す状態変化データや、絵柄6を描画するための柄データ(レーザ照射点の距離や密度の情報を含むデータ)が記憶される。
【0034】
次に、自動車用加飾部品1の製造方法を説明する。
【0035】
先ず、ABS樹脂を用いて所定の立体形状に成形した樹脂成形体2を準備する。そして、水圧転写装置を用い、樹脂成形体2の表面に印刷層3を水圧にて転写する(図5参照)。さらに、塗装装置を用いて、樹脂成形体2の表面にクリア塗料を塗装することで、印刷層3を保護するクリアコート層5を形成する(図6参照)。その後、表面に印刷層3及びクリアコート層5が形成された樹脂成形体2が、その表面を上に向けた状態で搬送装置11の搬送テーブル16上(図4参照)にセットされ、搬送コンベア17によってレーザ照射装置13と対向する位置に搬送される。
【0036】
そして、制御装置14において、CPU31は、照射パラメータと絵柄6の柄データとをメモリ32から読み出す。CPU31は、それら照射パラメータと絵柄6の柄データとに基づいて、絵柄6の描画領域におけるレーザによって与えられた熱の積算量(レーザ積算熱量)をレーザ照射点毎に算出する。
【0037】
さらに、不良予測部としてのCPU31は、状態変化データをメモリ32から読み出し、その状態変化データとレーザ積算熱量のデータとに基づいて、絵柄6の描画不良が発生する不良部位を予測する。その後、パラメータ補正部としてのCPU31は、不良部位に対応する照射パラメータを補正する。そして、CPU31は、それら補正した照射パラメータに応じた駆動信号を生成し、生成した駆動信号をレーザ照射装置13に出力する。レーザ照射装置13は、CPU31から出力された駆動信号に基づいて、樹脂成形体2表面のクリアコート層5にレーザLを照射する。この結果、クリアコート層5の表面において、図3に示されるような各交差パターン7〜9が形成され、それら交差パターン7〜9によって幾何学模様の絵柄6が形成される。この結果、図1に示す自動車用加飾部品1が製造される。
【0038】
その後、クリアコート層5の表面に絵柄6が描かれた自動車用加飾部品1が搬送コンベア17によってCCDカメラ12と対向する位置に搬送される。制御装置14のCPU31は、駆動信号を生成し、生成した駆動信号をCCDカメラ12に出力する。そして、CCDカメラ12は、その駆動信号に基づいて、クリアコート層5の絵柄6の画像を撮像する。さらに、CCDカメラ12は、撮像した絵柄6の画像に基づいて、絵柄6を示す絵柄画像データを生成する。その後、CCDカメラ12は、得た絵柄画像データを制御装置14に出力する。制御装置14のCPU31は、CCDカメラ12から取得した絵柄6の画像データをメモリ32に記憶する。
【0039】
パラメータ補正部としてのCPU31は、絵柄6の画像データに基づいて、絵柄6の描画不良が発生している不良部位の有無を判断する。ここで、不良部位を検知した場合には、CPU31は、メモリ32に記憶されている不良部位に対応する照射パラメータを読み出し、照射強度に関するデータを補正する。CPU32は、その補正後の照射パラメータをメモリ32に記憶する。そして、次の自動車用加飾部品1を加飾する際には、補正後の照射パラメータを利用してレーザ照射が行われる。
【0040】
上述したレーザ描画時においてレーザLの照射パラメータを補正する補正方法について、その具体例を以下に説明する。
【0041】
先ず、クリアコート層5にて描画不良が生じる積算熱量を把握するため、6.5W(50%)、7.8W(60%)、9.1W(70%)、10.4W(80%)、11.7W(90%)、13.0W(100%)のレーザ出力(照射強度)となるようレーザ照射装置13の照射パラメータを変更し、それぞれのレーザ出力で絵柄6を構成する各交差パターン7,8,9(図3参照)を形成した。なおここで、レーザLの走査速度は2000mm/s、描画線幅は100μmに設定した。
【0042】
図7には、レーザ出力を変更して形成された2重交差パターン7の各画像(描画跡の画像)、描画線幅、及び交点の大きさ(直径)を示している。6.5W(50%)の出力の場合、描画線幅は123μmであり、交点の大きさは193μmである。描画線幅及び交点の大きさは、レーザ出力の増加に伴い大きくなり、13.0W(100%)の出力では、描画線幅は206μm、交点の大きさは555μmとなる。
【0043】
図7に示されるように、2重交差パターン7の交点部分は、レーザ照射による積算熱量が2重に加わるため、描画跡が線幅よりも大きくなっている。また、レーザ出力が増大すると、その傾向は顕著になる。さらに、10.4W以上のレーザ出力では、交点部分に膨らみが生じており、外観不良の原因となっている。
【0044】
また、図8には、レーザ出力を変更して形成された3重交差パターン8の各画像(描画跡の画像)、描画線幅、及び交点の大きさ(直径)を示している。6.5W(50%)の出力の場合、描画線幅は128μmであり、交点の大きさは252μmである。描画線幅及び交点の大きさは、レーザ出力の増加に伴い大きくなり、13.0W(100%)の出力では、描画線幅は205μm、交点の大きさは1007μmとなる。3重交差パターン8の交点部分は、レーザ照射による積算熱量が3重に加わるため、交点部分の描画跡は2重交差パターン7よりもさらに大きくなっている。なお、図示を省略しているが、4重交差パターン9についても同様に描画線幅及び交点の大きさを確認した。
【0045】
本実施の形態では、ワーク材料(クリアコート層5の材料)に応じた状態変化データと柄データとの組み合わせによって、不良が生じるレーザ積算熱量の上限値を把握する。そして、照射パラメータと柄データとに基づいて、そのレーザ積算熱量の上限値に達する不良部位については、レーザLの照射パラメータを補正し、描画不良が生じないようにレーザ出力を調整している。
【0046】
具体的には、レーザ出力を13.0Wとして2重交差パターン7を描画する場合、図9に示されるように、2重交差パターン7の交点を中心に直径が555μmの領域R1において描画不良の発生が予測される。そして、この描画不良の発生が予測される領域R1(不良部位)についてレーザLの照射パラメータを補正する。図7に示されるように、6.5Wのレーザ出力でレーザ描画を行うと交点の大きさが193μmとなり、13.0Wのレーザ出力の場合の描画線幅(206μm)とぼほ等しくなる。このことから、2重交差パターン7の不良部位については、6.5Wのレーザ出力となるよう照射パラメータを補正する。
【0047】
そして、このように補正した照射パラメータを用いて2重交差パターン7のレーザ描画を行った。その結果、図10に示されるように、描画不良が発生することなく、均等な線幅を有する2重交差パターン7を描画することができた。なお、図示しないが、3重交差パターン8や4重交差パターン9についても、同様に照射パラメータを補正し、補正した照射パラメータを用いてレーザ描画を行った。これら交差パターン8,9についても、描画不良のないパターンを描画することができた。
【0048】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0049】
(1)本実施の形態では、照射パラメータと柄データとに基づいて描画領域におけるレーザ積算熱量がレーザ照射点毎に算出され、レーザ積算熱量とクリアコート層5の状態変化データとに基づいて、絵柄6の描画不良が発生する領域R1(不良部位)が予測される。そして、その領域R1に対応する照射パラメータが補正され、補正後の照射パラメータに基づいてレーザ照射装置13からレーザLが照射される。このようにすると、各交差パターン7〜9において描画領域が重なる交点部分についても、クリアコート層5の状態変化に適した熱量をレーザ照射により与えることができる。この結果、表面の膨れや変形等の不具合を引き起こすことなく、クリアコート層5の表面に正確な絵柄6を加飾することができる。
【0050】
(2)本実施の形態では、レーザ描画後における絵柄6の画像がCCDカメラ12によって撮像され、その絵柄6の画像データが取得される。そして、CPU31により、絵柄6の画像データに基づいて絵柄6の描画不良の有無が判断され、描画不良が発生している不良部位については、照射パラメータが補正される。このようにすると、製造初期段階での自動車用加飾部品1の加飾時に描画不良が発生したとしても次の部品1を加飾する際には、描画不良が発生しないようにレーザの照射条件を調整することができる。この結果、自動車用加飾部品1の歩留まりを向上させることができる。
【0051】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0052】
・上記実施の形態の加飾装置10において、レーザLの照射熱によって自動車用加飾部品1の表面温度が高くなり、描画不良が発生しやすくなる場合がある。この場合には、図11に示される加飾装置10のように、自動車用加飾部品1の表面温度の上昇を抑えるための冷却装置19(冷却ファン)を備えてもよい。この冷却装置19は、制御装置14に電気的に接続されており、制御装置14からの駆動信号によって制御されるようになっている。この場合、レーザ照射装置13によるレーザ描画時には、冷却装置19の駆動状態によって部品表面に蓄積されるレーザ熱が変化する。このため、不良予測部としてのCPU31は、冷却装置19の駆動状態に応じてレーザ積算熱量を算出して、その積算熱量に基づいて描画不良が発生する不良部位を予測する。そして、その不良部位に対応する照射パラメータを補正し、補正した照射パラメータに応じてレーザ描画を行う。このようにしても、レーザ照射により、状態変化に適した熱量をクリアコート層5の表面に与えることができるため、クリアコート層5の表面に正確な絵柄6を加飾することができる。
【0053】
また、加飾装置10において、レーザ描画時に発生した煙を排気するための排気装置が設けられる場合がある。この場合、排気装置の駆動状態によって部品の表面温度が下がるため、排気装置の駆動状態に応じてレーザ積算熱量を算出するよう構成してもよい。さらに、加飾装置10において、自動車用加飾部品1の周囲温度を検出するための温度センサ(温度取得部)を備え、温度センサが検出した周囲温度に応じてレーザ積算熱量を算出するよう構成してもよい。このようにしても、レーザ照射により、状態変化に適した熱量をクリアコート層5の表面に与えることができるため、クリアコート層5の表面に正確な絵柄6を加飾することができる。
【0054】
・上記実施の形態の加飾装置10では、照射パラメータとしてレーザ出力を補正してレーザ描画を行うものであったが、これに限定されるものではなく、例えば、レーザLの走査速度やレーザLのスポット径などの照射パラメータを変更してもよい。具体的には、レーザLの走査速度を変更する場合、描画不良が予測される不良部位について、他の部分よりもレーザLの走査速度を速めるように照射パラメータを設定する。さらに、照射パラメータ以外に、レーザ照射点の距離や密度などの柄データを補正してもよい。具体的には、各交差パターン7〜9の不良部位となる交点において、レーザ照射点の密度を低くしたり、照射点の距離を長くしたりする。また例えば、2重交差パターン7の場合、その交差パターン7を構成する2つの描画線のうちの一方の描画線について、交点に対応する照射点を省略したパターンに変更してもよい。さらに、この柄データの変更に加えて、交点近傍の不良部位については、照射パラメータを変更するように構成してもよい。このようにしても、レーザ照射により、状態変化に適した熱量を与えることができ、部品表面に正確な絵柄6を加飾することができる。
【0055】
・上記実施の形態では、描画領域が重なり合う交差パターン7〜9について、照射パラメータの補正を行うようにしていたが、これ以外に各パターンが近接する場合においてレーザ積算熱量が所定の上限値を超える描画領域では、交差パターン7〜9の場合と同様に照射パラメータや柄データの補正を行うように構成してもよい。
【0056】
・上記実施の形態では、樹脂成形体2の表面に水圧転写法にて印刷層3を転写するものであったが、これに限定されるものではなく、例えばインクジェット法等の他の手法で印刷層3を形成してもよい。インクジェット法で印刷層3を印刷する場合、樹脂成形体2の表面における所定の位置に絵柄4を形成することができる。また、水圧転写法のようなウエット状態ではなく、ドライ状態で樹脂成形体2の表面に印刷層3を付加してもよい。ドライ状態で印刷層3を樹脂成形体2の表面に付加する方法としては、印刷層3とクリアコート層5とを有する加飾フィルムを用い、樹脂成形体2の表面に接着層を介して加飾フィルムを貼り付ける手法を採用してもよい。さらに、印刷層3を有する加飾フィルムを金型内に配置し、樹脂成形体2の樹脂成形時に加わる熱及び圧力を利用して樹脂成形体2の表面に印刷層3を転写する手法(インモールド転写法)を採用してもよい。またここで、印刷層3とクリアコート層5とを有する加飾フィルムを用いてもよく、樹脂成形時にて、印刷層3とクリアコート層5とを樹脂成形体2表面に転写してもよい。さらに、印刷層3の転写後にクリア塗料を噴霧してクリアコート層5を形成してもよい。
【0057】
・上記実施の形態において、レーザ照射によりクリアコート層5の表面の状態を変化(具体的には、発泡による白濁)させて絵柄6を描画するものであったが、これに限定されるものではなく、レーザ照射によってクリアコート層5に加えて印刷層3の状態を変化(例えば、変色)させて絵柄を描くようにしてもよい。この場合、クリアコート層5の材料及び印刷層3に用いられる顔料の種類に応じた状態変化データがメモリ32に記憶される。また、クリアコート層5を形成する前において、印刷層3にレーザ照射してその印刷層3の状態を変化させて絵柄を描くようにしてもよい。なおこの場合、印刷層3に含まれる顔料の種類に応じた状態変化データがメモリ32に記憶される。
【0058】
・上記実施の形態の自動車用加飾部品1では、樹脂成形体2の表面に印刷層3及びクリアコート層5が形成されていたが、これに限定されるものではない。これら印刷層3及びクリアコート層5を省略し、レーザ描画によって樹脂成形体2の表面に絵柄6を加飾した加飾部品に本発明を具体化してもよい。なおこの場合、樹脂成形体2の形成材料に応じた状態変化データがメモリ32に記憶される。
【0059】
・上記実施形態は、自動車用加飾部品1をドアのアームレストに具体化するものであったが、これ以外に、コンソールボックス、インストルメントパネルなどの部品に具体化してもよい。
【0060】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0061】
(1)手段1乃至5のいずれかにおいて、前記部品の周囲温度を取得する温度取得部をさらに備え、前記不良予測部は、その周囲温度に応じて前記描画領域におけるレーザによって与えられた熱の積算量を算出し、その積算量に基づいて不良予測することを特徴とする部品の加飾装置。
【0062】
(2)手段1乃至5のいずれかにおいて、前記照射パラメータは、前記レーザの出力または走査速度を設定するためのパラメータであり、前記不良部位では、前記レーザの出力を抑える、または走査速度を速めるように前記照射パラメータが設定されることを特徴とする部品の加飾装置。
【0063】
(3)手段1乃至5のいずれかにおいて、2つの前記描画領域が重なり合う場合または隣り合う前記描画領域の距離が近い場合、前記描画領域におけるレーザによって与えられる熱の積算量が大きくなり、前記パラメータ補正部は、前記積算量が上限値を超えた描画領域について前記照射パラメータを補正することを特徴とする部品の加飾装置。
【0064】
(4)手段1乃至3のいずれかにおいて、前記部品は、その表面にドライ状態で印刷層が付加された後、レーザ照射を行って前記印刷層の状態を変化させて前記絵柄が描かれるものであり、前記記憶部には、前記印刷層に用いられる顔料の種類に応じた前記状態変化データを記憶するようにしたことを特徴とする部品の加飾装置。
【0065】
(5)技術的思想(4)において、前記部品表面に接着層を介して前記印刷層を有する加飾フィルムを貼り付けた後、前記レーザ照射を行うことを特徴とする部品の加飾装置。
【0066】
(6)技術的思想(4)において、前記部品は樹脂成形品であり、前記印刷層を有する加飾フィルムを金型内に配置し、前記部品の樹脂成形時に加わる熱及び圧力を利用して前記部品表面に印刷層を転写した後、前記レーザ照射を行うことを特徴とする部品の加飾装置。
【0067】
(7)技術的思想(6)において、前記加飾フィルムは、前記印刷層に加えてクリアコート層が形成されたフィルムであり、前記部品の樹脂成形時にて、前記印刷層と前記クリアコート層とを前記部品表面に転写するようにしたことを特徴とする部品の加飾装置。
【0068】
(8)技術的思想(6)において、前記部品表面にクリア塗料を噴霧して前記印刷層を保護するクリアコート層を形成する前、または前記クリアコート層を形成した後に前記レーザ照射を行うことを特徴とする部品の加飾装置。
【符号の説明】
【0069】
1…部品としての自動車用加飾部品
3…印刷層
5…クリアコート層
6…絵柄
10…加飾装置
12…画像取得装置としてのCCDカメラ
13…レーザ照射装置
14…制御装置
19…冷却装置
31…不良予測部、及びパラメータ補正部としてのCPU
32…記憶部としてのメモリ
L…レーザ
R1…不良部位としての領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品表面の描画領域に沿ってレーザを照射しその表面の状態を変化させて絵柄を描く部品の加飾装置及び加飾方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装部品などでは、デザイン性や品質を高めるために樹脂成形体の表面に装飾を加えるようにした加飾部品(例えば、コンソールボックス、インストルメントパネル、アームレストなど)が多く実用化されている。このような加飾部品に装飾を加える加飾方法としては、水圧転写が一般的に用いられている(例えば特許文献1参照)。水圧転写とは、水面上に特殊フィルムを浮かべ、そのフィルムに印刷された所定の絵柄(木目模様や幾何学模様などの絵柄)を水圧によって樹脂成形体の表面に転写する技術である。この技術によれば、三次元曲面への印刷を行うことができる。
【0003】
また、安価で手軽な加飾方法として、レーザ描画が知られている。レーザ描画は、部品表面の描画領域に沿ってレーザを照射し、レーザによって与えられた熱(以下、レーザ熱とする)により部品表面の状態を変化させて、絵柄を描くようにした加飾方法である。部品表面の状態変化とは、表面が溶ける、表面が焦げる、表面が変色する、表面層が剥離した状態へ変化することなどである。
【0004】
本発明者らは、水圧転写によって部品表面に印刷層を転写するとともに、その表面にレーザを照射して絵柄を描くようにした技術を開発している。この場合、部品表面において、絵柄の明るさや色彩の変化がつき、意匠性を向上させることが可能となる。
【0005】
因みに、特許文献2〜4等には、樹脂製成形体の表面にレーザを照射して文字をマーキングする技術が開示されている。これらの技術は、樹脂成形体の表面に複数色の文字や記号などをマーキングするための技術であり、複雑な絵柄を描くためのものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭54−33115号公報
【特許文献2】特開平06−297828号公報
【特許文献3】特開平07−165979号公報
【特許文献4】特開平08−127175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、一定の照射条件にてレーザを照射してレーザ描画を行うと、レーザ熱による描画不良が発生する場合がある。例えば、レーザ照射を行う描画領域が接近する場合や描画領域が重なる場合、レーザ照射によって部品表面に与えられる熱の積算量が増加し、表面の膨れや変形等の不具合を引き起こしてしまう。この場合、絵柄を正確に描くことができず、さらに表面の変色等によって意図しない絵柄になることから、意匠性が悪化してしまう。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、適正な照射条件によってレーザを部品表面に照射して、描画不良のない正確な絵柄を加飾することができる部品の加飾装置及び部品の加飾方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、手段1に記載の発明は、部品表面の描画領域に沿ってレーザを照射しその表面の状態を変化させて絵柄を描くレーザ照射装置と、前記レーザ照射装置を制御するための制御装置とを備えた部品の加飾装置であって、前記制御装置は、前記部品表面の形成材料についてレーザ照射による状態変化を示す状態変化データを記憶する記憶部と、前記レーザ照射装置が出力するレーザの照射条件を設定する照射パラメータと、前記絵柄を描画するためのレーザ照射点の距離及び密度の情報を含む柄データと、前記状態変化データとに基づいて、前記絵柄の描画不良が発生する不良部位を予測するための不良予測部と、前記不良部位に対応する前記照射パラメータ及び前記柄データのうちの少なくとも一方を補正するパラメータ補正部とを備えることを特徴とする部品の加飾装置をその要旨とする。
【0010】
手段1に記載の発明によると、制御装置において、不良予測部により、レーザの照射条件を設定する照射パラメータとレーザ照射点の距離及び密度の情報を含む柄データと状態変化データとに基づいて、絵柄の描画不良が発生する不良部位が予測される。そして、パラメータ補正部によって不良部位に対応する照射パラメータや絵柄データが補正され、補正後の照射パラメータや絵柄データに基づいてレーザ照射装置が制御されてレーザが照射される。このようにすると、レーザ照射を行う描画領域が接近する場合や描画領域が重なる場合などのように、レーザ照射による描画が困難な描画領域についても、状態変化に適した熱量をレーザ照射により与えることができる。この結果、表面の膨れや変形等の不具合を引き起こすことなく、部品表面に正確な絵柄を加飾することができる。
【0011】
手段2に記載の発明は、手段1において、前記部品の表面温度の上昇を抑えるための冷却装置をさらに備え、前記不良予測部は、前記冷却装置の駆動状態に応じて不良予測することをその要旨とする。
【0012】
手段2に記載の発明のように、部品の表面温度の上昇を抑えるための冷却装置を備える場合、レーザ照射時において部品表面に蓄積される熱量が冷却装置の駆動状態に応じて変化する。このため、不良予測部により、冷却装置の駆動状態に応じて不良部位が予測される。このようにすると、レーザ照射により、状態変化に適した熱量を与えることができるため、部品表面に正確な絵柄を加飾することができる。なお、冷却装置としては、冷却風を送風して部品表面を冷却する送風装置に加え、レーザ描画によって発生した煙を含む温風を排気して部品の表面温度を下げる排気装置などを挙げることができる。
【0013】
手段3に記載の発明は、手段1または2において、レーザ照射によって加飾された前記絵柄の画像を撮像して画像データを取得する画像取得装置をさらに備え、前記パラメータ補正部は、前記画像データに基づいて、前記絵柄の描画不良が発生している不良部位を検知し、前記不良部位に対応する前記照射パラメータ及び前記柄データのうちの少なくとも一方を補正することをその要旨とする。
【0014】
手段3に記載の発明によると、レーザ照射によって加飾された絵柄の画像データが画像取得装置によって取得され、その画像データに基づいて絵柄の描画不良が検知される。そして、描画不良が発生している不良部位については、照射パラメータや絵柄データが補正される。このようにすると、製造初期段階での部品の加飾時に描画不良が発生したとしても次の部品を加飾する際には、描画不良が発生しないようにレーザの照射条件を調整することができる。この結果、加飾部品の歩留まりを向上させることができる。
【0015】
手段4に記載の発明は、手段1乃至3のいずれかにおいて、前記部品は、その表面に水圧転写によって印刷層が転写されるとともに前記印刷層を保護するクリアコート層が形成された後、レーザ照射を行って前記印刷層及びクリアコート層の状態を変化させて前記絵柄が描かれるものであり、前記記憶部には、前記クリアコート層の材料及び前記印刷層に用いられる顔料の種類に応じた前記状態変化データを記憶するようにしたことをその要旨とする。
【0016】
手段4に記載の発明によると、部品表面には水圧転写によって印刷層が転写された後、クリアコート層が形成される。そして、クリアコート層の材料及び印刷層に用いられる顔料の種類に応じた状態変化データが記憶部に記憶されている。このようにすると、クリアコート層の材料や印刷層に含まれる顔料に応じた適切な照射パラメータを設定することができるため、絵柄に応じた熱量をレーザ照射によって過不足なく与えることができる。この結果、部品表面に正確な絵柄を加飾することができる。
【0017】
手段5に記載の発明は、手段1乃至3のいずれかにおいて、前記部品は、印刷層と前記印刷層を保護するクリアコート層とを有する加飾フィルムを用い、前記部品表面にドライ状態で前記加飾フィルムが貼り付けられた後、または前記部品表面にドライ状態で前記加飾フィルムの印刷層及びクリアコート層が転写された後、レーザ照射を行って前記印刷層及びクリアコート層の状態を変化させて前記絵柄が描かれるものであり、前記記憶部には、前記クリアコート層の材料及び前記印刷層に用いられる顔料の種類に応じた前記状態変化データを記憶するようにしたことをその要旨とする。
【0018】
手段5に記載の発明によれば、印刷層と印刷層を保護するクリアコート層とを有する加飾フィルムを用い、部品表面にドライ状態でクリアコート層及び印刷層を付加することができる。そして、クリアコート層の材料及び印刷層に用いられる顔料の種類に応じた状態変化データが記憶部に記憶されている。このようにしても、クリアコート層の材料や印刷層に含まれる顔料に応じた適切な照射パラメータを設定することができるため、絵柄に応じた熱量をレーザ照射によって過不足なく与えることができる。この結果、部品表面に正確な絵柄を加飾することができる。
【0019】
手段6に記載の発明は、部品表面の描画領域に沿ってレーザを照射してその表面の状態を変化させて絵柄を描く部品の加飾方法であって、前記レーザの照射条件を設定する照射パラメータと、前記絵柄を描画するためのレーザ照射点の距離や密度の情報を含む柄データと、前記部品表面の形成材料についてレーザによって与えられた熱による状態変化を示す状態変化データとに基づいて、前記絵柄の描画不良が発生する不良部位を予測するための不良予測ステップと、前記不良部位に対応する前記照射パラメータ及び前記柄データのうちの少なくとも一方を補正する補正ステップと、前記補正された照射パラメータ及び前記柄データのうちの少なくとも一方に応じて前記レーザを照射する照射ステップとを含むことを特徴とする部品の加飾方法をその要旨とする。
【0020】
手段6に記載の発明によると、照射パラメータと柄データと状態変化データとに基づいて、絵柄の描画不良が発生する不良部位が予測される。そして、その不良部位に対応する照射パラメータが補正され、補正された照射パラメータに応じてレーザが照射される。このようにすると、レーザ照射を行う描画領域が接近する場合や描画領域が重なる場合などのように、レーザ照射による描画が困難な描画領域についても、状態変化に適した熱量をレーザ照射により与えることができる。この結果、表面の膨れや変形等の不具合を引き起こすことなく、部品表面に正確な絵柄を加飾することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上詳述したように、手段1〜6に記載の発明によると、適正な照射条件によってレーザを部品表面に照射して、描画不良のない正確な絵柄を加飾することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一実施の形態の自動車用加飾部品を示す平面図。
【図2】一実施の形態の自動車用加飾部品を示す拡大断面図。
【図3】(a)〜(c)はレーザ照射による加飾パターンを示す説明図。
【図4】一実施の形態の部品の加飾装置を示す概略構成図。
【図5】自動車用加飾部品の製造方法を示す説明図。
【図6】自動車用加飾部品の製造方法を示す説明図。
【図7】2重交差パターンのレーザ描画状態を示す説明図。
【図8】3重交差パターンのレーザ描画状態を示す説明図。
【図9】2重交差パターンにおける不良部位を示す説明図。
【図10】補正前及び補正後のレーザ描画状態を示す説明図。
【図11】別の実施の形態の部品の加飾装置を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0024】
図1及び図2に示されるように、自動車用加飾部品1は、立体形状の樹脂成形体2を備えており、その樹脂成形体2の表面(部品表面)の描画領域に、印刷層3が形成されている。なお、本実施の形態の自動車用加飾部品1は、ドアのアームレストを構成する内装部品である。樹脂成形体2は、ABS樹脂(本実施の形態では、東レ株式会社製、材料名450Y−X10)を用いて成形された樹脂成形品である。また、印刷層3には、例えば木目模様の下地絵柄4が描画されている。印刷層3は、水圧転写法を用いて部品表面に転写されるものあり、複数の異なる顔料を含んで構成されている。
【0025】
さらに、自動車用加飾部品1の最上層となる印刷層3の上面には、印刷層3を保護するためのクリアコート層5が形成されている。クリアコート層は、クリア塗料(本実施の形態では、オリジン電気株式会社製、材料名プラネットTCクリヤ390)を噴霧して形成されるコート層であり、その膜厚は30μm程度である。
【0026】
クリアコート層5には、レーザ描画によって幾何学模様の絵柄6が加飾されている。本実施の形態において、レーザ描画による加飾パターンとしては、図3に示されるように、(a)の2重交差パターン7、(b)の3重交差パターン8、(c)の4重交差パターン9がある。これら各交差パターン7〜9の繰り返しによって幾何学模様の絵柄6が形成されている。なお、各交差パターン7〜9は、レーザ熱によってクリアコート層5の表面の一部が発泡により白濁して形成されるライン状の加工部であって、幅は200μm程度である。また、各交差パターン7〜9は、深さが15μm程度であり、印刷層3には達していない。
【0027】
このように、自動車用加飾部品1の表面に幾何学模様の絵柄6を加飾すると、見る角度によって下地絵柄4の明るさや色彩の変化がつき、意匠性が向上される。
【0028】
ここで、本実施の形態の自動車用加飾部品1を製造するための製造システムについて説明する。この製造システムは、図示しない水圧転写装置、塗装装置、及び図4に示す加飾装置10を備えている。水圧転写装置には、処理水を溜めておく転写槽が設けられている。水圧転写装置は、転写槽の処理水の水面において、基材上に印刷層3を形成してなる転写フィルム(図示しない大日本印刷株式会社製のフィルム)を浮かべ、その状態で転写フィルムの上方から樹脂成形体2を押し付けることにより、樹脂成形体2の表面上に印刷層3を水圧で転写する。また、塗装装置は、クリア塗料を噴霧することにより、印刷層3が転写された樹脂成形体2の表面にクリアコート層5を塗装する。
【0029】
図4に示されるように、本実施の形態の部品の加飾装置10は、搬送装置11、CCDカメラ12、レーザ照射装置13、及び制御装置14を備えている。搬送装置11は、自動車用加飾部品1を搬送するための装置であり、自動車用加飾部品1を支持する搬送テーブル16やそのテーブル16を移送する搬送コンベア17などを含んで構成されている。また、レーザ照射装置13よりも後方の搬送位置に対向してCCDカメラ12(画像取得装置)が配置されている。
【0030】
レーザ照射装置13は、例えばYVO4レーザの照射装置であって、波長が1064nmであるレーザLを発生させるレーザ発生部21と、レーザLを偏向させるレーザ偏向部22と、レーザ発生部21及びレーザ偏向部22を制御するレーザ制御部23とを備えている。レーザ偏向部22は、レンズ24と反射ミラー25とを複合させてなる光学系であり、これらレンズ24及び反射ミラー25の位置を変更することにより、レーザLの照射位置や焦点位置を調整するようになっている。レーザ制御部23は、レーザ発生部21及びレーザ偏向部22を制御することで、レーザLの照射強度、レーザLの走査速度などのレーザ照射条件を調整する。なお、レーザ照射装置13におけるレーザLの平均出力は13Wであり、繰り返し周波数は50kHzである。
【0031】
CCDカメラ12は、レーザ照射装置13によるレーザ加飾後の絵柄6の画像を撮影する。CCDカメラ12は、撮像した画像に基づいて絵柄画像データを生成して、その画像データを制御装置14に出力する。
【0032】
制御装置14は、CPU31、メモリ32(記憶部)及び入出力ポート33等からなる周知のコンピュータにより構成されている。制御装置14は、CCDカメラ12及びレーザ照射装置13に電気的に接続されており、各種の駆動信号によってそれらを制御する。
【0033】
制御装置14のメモリ32には、CCDカメラ12から取得した絵柄画像データが記憶される。また、メモリ32には、レーザ照射装置13のレーザ照射条件(レーザLの照射時間、レーザLの照射強度、レーザLのスポット径など)を示す照射パラメータが予め記憶される。さらに、メモリ32には、クリアコート層5の形成材料についてレーザ照射による状態変化を示す状態変化データや、絵柄6を描画するための柄データ(レーザ照射点の距離や密度の情報を含むデータ)が記憶される。
【0034】
次に、自動車用加飾部品1の製造方法を説明する。
【0035】
先ず、ABS樹脂を用いて所定の立体形状に成形した樹脂成形体2を準備する。そして、水圧転写装置を用い、樹脂成形体2の表面に印刷層3を水圧にて転写する(図5参照)。さらに、塗装装置を用いて、樹脂成形体2の表面にクリア塗料を塗装することで、印刷層3を保護するクリアコート層5を形成する(図6参照)。その後、表面に印刷層3及びクリアコート層5が形成された樹脂成形体2が、その表面を上に向けた状態で搬送装置11の搬送テーブル16上(図4参照)にセットされ、搬送コンベア17によってレーザ照射装置13と対向する位置に搬送される。
【0036】
そして、制御装置14において、CPU31は、照射パラメータと絵柄6の柄データとをメモリ32から読み出す。CPU31は、それら照射パラメータと絵柄6の柄データとに基づいて、絵柄6の描画領域におけるレーザによって与えられた熱の積算量(レーザ積算熱量)をレーザ照射点毎に算出する。
【0037】
さらに、不良予測部としてのCPU31は、状態変化データをメモリ32から読み出し、その状態変化データとレーザ積算熱量のデータとに基づいて、絵柄6の描画不良が発生する不良部位を予測する。その後、パラメータ補正部としてのCPU31は、不良部位に対応する照射パラメータを補正する。そして、CPU31は、それら補正した照射パラメータに応じた駆動信号を生成し、生成した駆動信号をレーザ照射装置13に出力する。レーザ照射装置13は、CPU31から出力された駆動信号に基づいて、樹脂成形体2表面のクリアコート層5にレーザLを照射する。この結果、クリアコート層5の表面において、図3に示されるような各交差パターン7〜9が形成され、それら交差パターン7〜9によって幾何学模様の絵柄6が形成される。この結果、図1に示す自動車用加飾部品1が製造される。
【0038】
その後、クリアコート層5の表面に絵柄6が描かれた自動車用加飾部品1が搬送コンベア17によってCCDカメラ12と対向する位置に搬送される。制御装置14のCPU31は、駆動信号を生成し、生成した駆動信号をCCDカメラ12に出力する。そして、CCDカメラ12は、その駆動信号に基づいて、クリアコート層5の絵柄6の画像を撮像する。さらに、CCDカメラ12は、撮像した絵柄6の画像に基づいて、絵柄6を示す絵柄画像データを生成する。その後、CCDカメラ12は、得た絵柄画像データを制御装置14に出力する。制御装置14のCPU31は、CCDカメラ12から取得した絵柄6の画像データをメモリ32に記憶する。
【0039】
パラメータ補正部としてのCPU31は、絵柄6の画像データに基づいて、絵柄6の描画不良が発生している不良部位の有無を判断する。ここで、不良部位を検知した場合には、CPU31は、メモリ32に記憶されている不良部位に対応する照射パラメータを読み出し、照射強度に関するデータを補正する。CPU32は、その補正後の照射パラメータをメモリ32に記憶する。そして、次の自動車用加飾部品1を加飾する際には、補正後の照射パラメータを利用してレーザ照射が行われる。
【0040】
上述したレーザ描画時においてレーザLの照射パラメータを補正する補正方法について、その具体例を以下に説明する。
【0041】
先ず、クリアコート層5にて描画不良が生じる積算熱量を把握するため、6.5W(50%)、7.8W(60%)、9.1W(70%)、10.4W(80%)、11.7W(90%)、13.0W(100%)のレーザ出力(照射強度)となるようレーザ照射装置13の照射パラメータを変更し、それぞれのレーザ出力で絵柄6を構成する各交差パターン7,8,9(図3参照)を形成した。なおここで、レーザLの走査速度は2000mm/s、描画線幅は100μmに設定した。
【0042】
図7には、レーザ出力を変更して形成された2重交差パターン7の各画像(描画跡の画像)、描画線幅、及び交点の大きさ(直径)を示している。6.5W(50%)の出力の場合、描画線幅は123μmであり、交点の大きさは193μmである。描画線幅及び交点の大きさは、レーザ出力の増加に伴い大きくなり、13.0W(100%)の出力では、描画線幅は206μm、交点の大きさは555μmとなる。
【0043】
図7に示されるように、2重交差パターン7の交点部分は、レーザ照射による積算熱量が2重に加わるため、描画跡が線幅よりも大きくなっている。また、レーザ出力が増大すると、その傾向は顕著になる。さらに、10.4W以上のレーザ出力では、交点部分に膨らみが生じており、外観不良の原因となっている。
【0044】
また、図8には、レーザ出力を変更して形成された3重交差パターン8の各画像(描画跡の画像)、描画線幅、及び交点の大きさ(直径)を示している。6.5W(50%)の出力の場合、描画線幅は128μmであり、交点の大きさは252μmである。描画線幅及び交点の大きさは、レーザ出力の増加に伴い大きくなり、13.0W(100%)の出力では、描画線幅は205μm、交点の大きさは1007μmとなる。3重交差パターン8の交点部分は、レーザ照射による積算熱量が3重に加わるため、交点部分の描画跡は2重交差パターン7よりもさらに大きくなっている。なお、図示を省略しているが、4重交差パターン9についても同様に描画線幅及び交点の大きさを確認した。
【0045】
本実施の形態では、ワーク材料(クリアコート層5の材料)に応じた状態変化データと柄データとの組み合わせによって、不良が生じるレーザ積算熱量の上限値を把握する。そして、照射パラメータと柄データとに基づいて、そのレーザ積算熱量の上限値に達する不良部位については、レーザLの照射パラメータを補正し、描画不良が生じないようにレーザ出力を調整している。
【0046】
具体的には、レーザ出力を13.0Wとして2重交差パターン7を描画する場合、図9に示されるように、2重交差パターン7の交点を中心に直径が555μmの領域R1において描画不良の発生が予測される。そして、この描画不良の発生が予測される領域R1(不良部位)についてレーザLの照射パラメータを補正する。図7に示されるように、6.5Wのレーザ出力でレーザ描画を行うと交点の大きさが193μmとなり、13.0Wのレーザ出力の場合の描画線幅(206μm)とぼほ等しくなる。このことから、2重交差パターン7の不良部位については、6.5Wのレーザ出力となるよう照射パラメータを補正する。
【0047】
そして、このように補正した照射パラメータを用いて2重交差パターン7のレーザ描画を行った。その結果、図10に示されるように、描画不良が発生することなく、均等な線幅を有する2重交差パターン7を描画することができた。なお、図示しないが、3重交差パターン8や4重交差パターン9についても、同様に照射パラメータを補正し、補正した照射パラメータを用いてレーザ描画を行った。これら交差パターン8,9についても、描画不良のないパターンを描画することができた。
【0048】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0049】
(1)本実施の形態では、照射パラメータと柄データとに基づいて描画領域におけるレーザ積算熱量がレーザ照射点毎に算出され、レーザ積算熱量とクリアコート層5の状態変化データとに基づいて、絵柄6の描画不良が発生する領域R1(不良部位)が予測される。そして、その領域R1に対応する照射パラメータが補正され、補正後の照射パラメータに基づいてレーザ照射装置13からレーザLが照射される。このようにすると、各交差パターン7〜9において描画領域が重なる交点部分についても、クリアコート層5の状態変化に適した熱量をレーザ照射により与えることができる。この結果、表面の膨れや変形等の不具合を引き起こすことなく、クリアコート層5の表面に正確な絵柄6を加飾することができる。
【0050】
(2)本実施の形態では、レーザ描画後における絵柄6の画像がCCDカメラ12によって撮像され、その絵柄6の画像データが取得される。そして、CPU31により、絵柄6の画像データに基づいて絵柄6の描画不良の有無が判断され、描画不良が発生している不良部位については、照射パラメータが補正される。このようにすると、製造初期段階での自動車用加飾部品1の加飾時に描画不良が発生したとしても次の部品1を加飾する際には、描画不良が発生しないようにレーザの照射条件を調整することができる。この結果、自動車用加飾部品1の歩留まりを向上させることができる。
【0051】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0052】
・上記実施の形態の加飾装置10において、レーザLの照射熱によって自動車用加飾部品1の表面温度が高くなり、描画不良が発生しやすくなる場合がある。この場合には、図11に示される加飾装置10のように、自動車用加飾部品1の表面温度の上昇を抑えるための冷却装置19(冷却ファン)を備えてもよい。この冷却装置19は、制御装置14に電気的に接続されており、制御装置14からの駆動信号によって制御されるようになっている。この場合、レーザ照射装置13によるレーザ描画時には、冷却装置19の駆動状態によって部品表面に蓄積されるレーザ熱が変化する。このため、不良予測部としてのCPU31は、冷却装置19の駆動状態に応じてレーザ積算熱量を算出して、その積算熱量に基づいて描画不良が発生する不良部位を予測する。そして、その不良部位に対応する照射パラメータを補正し、補正した照射パラメータに応じてレーザ描画を行う。このようにしても、レーザ照射により、状態変化に適した熱量をクリアコート層5の表面に与えることができるため、クリアコート層5の表面に正確な絵柄6を加飾することができる。
【0053】
また、加飾装置10において、レーザ描画時に発生した煙を排気するための排気装置が設けられる場合がある。この場合、排気装置の駆動状態によって部品の表面温度が下がるため、排気装置の駆動状態に応じてレーザ積算熱量を算出するよう構成してもよい。さらに、加飾装置10において、自動車用加飾部品1の周囲温度を検出するための温度センサ(温度取得部)を備え、温度センサが検出した周囲温度に応じてレーザ積算熱量を算出するよう構成してもよい。このようにしても、レーザ照射により、状態変化に適した熱量をクリアコート層5の表面に与えることができるため、クリアコート層5の表面に正確な絵柄6を加飾することができる。
【0054】
・上記実施の形態の加飾装置10では、照射パラメータとしてレーザ出力を補正してレーザ描画を行うものであったが、これに限定されるものではなく、例えば、レーザLの走査速度やレーザLのスポット径などの照射パラメータを変更してもよい。具体的には、レーザLの走査速度を変更する場合、描画不良が予測される不良部位について、他の部分よりもレーザLの走査速度を速めるように照射パラメータを設定する。さらに、照射パラメータ以外に、レーザ照射点の距離や密度などの柄データを補正してもよい。具体的には、各交差パターン7〜9の不良部位となる交点において、レーザ照射点の密度を低くしたり、照射点の距離を長くしたりする。また例えば、2重交差パターン7の場合、その交差パターン7を構成する2つの描画線のうちの一方の描画線について、交点に対応する照射点を省略したパターンに変更してもよい。さらに、この柄データの変更に加えて、交点近傍の不良部位については、照射パラメータを変更するように構成してもよい。このようにしても、レーザ照射により、状態変化に適した熱量を与えることができ、部品表面に正確な絵柄6を加飾することができる。
【0055】
・上記実施の形態では、描画領域が重なり合う交差パターン7〜9について、照射パラメータの補正を行うようにしていたが、これ以外に各パターンが近接する場合においてレーザ積算熱量が所定の上限値を超える描画領域では、交差パターン7〜9の場合と同様に照射パラメータや柄データの補正を行うように構成してもよい。
【0056】
・上記実施の形態では、樹脂成形体2の表面に水圧転写法にて印刷層3を転写するものであったが、これに限定されるものではなく、例えばインクジェット法等の他の手法で印刷層3を形成してもよい。インクジェット法で印刷層3を印刷する場合、樹脂成形体2の表面における所定の位置に絵柄4を形成することができる。また、水圧転写法のようなウエット状態ではなく、ドライ状態で樹脂成形体2の表面に印刷層3を付加してもよい。ドライ状態で印刷層3を樹脂成形体2の表面に付加する方法としては、印刷層3とクリアコート層5とを有する加飾フィルムを用い、樹脂成形体2の表面に接着層を介して加飾フィルムを貼り付ける手法を採用してもよい。さらに、印刷層3を有する加飾フィルムを金型内に配置し、樹脂成形体2の樹脂成形時に加わる熱及び圧力を利用して樹脂成形体2の表面に印刷層3を転写する手法(インモールド転写法)を採用してもよい。またここで、印刷層3とクリアコート層5とを有する加飾フィルムを用いてもよく、樹脂成形時にて、印刷層3とクリアコート層5とを樹脂成形体2表面に転写してもよい。さらに、印刷層3の転写後にクリア塗料を噴霧してクリアコート層5を形成してもよい。
【0057】
・上記実施の形態において、レーザ照射によりクリアコート層5の表面の状態を変化(具体的には、発泡による白濁)させて絵柄6を描画するものであったが、これに限定されるものではなく、レーザ照射によってクリアコート層5に加えて印刷層3の状態を変化(例えば、変色)させて絵柄を描くようにしてもよい。この場合、クリアコート層5の材料及び印刷層3に用いられる顔料の種類に応じた状態変化データがメモリ32に記憶される。また、クリアコート層5を形成する前において、印刷層3にレーザ照射してその印刷層3の状態を変化させて絵柄を描くようにしてもよい。なおこの場合、印刷層3に含まれる顔料の種類に応じた状態変化データがメモリ32に記憶される。
【0058】
・上記実施の形態の自動車用加飾部品1では、樹脂成形体2の表面に印刷層3及びクリアコート層5が形成されていたが、これに限定されるものではない。これら印刷層3及びクリアコート層5を省略し、レーザ描画によって樹脂成形体2の表面に絵柄6を加飾した加飾部品に本発明を具体化してもよい。なおこの場合、樹脂成形体2の形成材料に応じた状態変化データがメモリ32に記憶される。
【0059】
・上記実施形態は、自動車用加飾部品1をドアのアームレストに具体化するものであったが、これ以外に、コンソールボックス、インストルメントパネルなどの部品に具体化してもよい。
【0060】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0061】
(1)手段1乃至5のいずれかにおいて、前記部品の周囲温度を取得する温度取得部をさらに備え、前記不良予測部は、その周囲温度に応じて前記描画領域におけるレーザによって与えられた熱の積算量を算出し、その積算量に基づいて不良予測することを特徴とする部品の加飾装置。
【0062】
(2)手段1乃至5のいずれかにおいて、前記照射パラメータは、前記レーザの出力または走査速度を設定するためのパラメータであり、前記不良部位では、前記レーザの出力を抑える、または走査速度を速めるように前記照射パラメータが設定されることを特徴とする部品の加飾装置。
【0063】
(3)手段1乃至5のいずれかにおいて、2つの前記描画領域が重なり合う場合または隣り合う前記描画領域の距離が近い場合、前記描画領域におけるレーザによって与えられる熱の積算量が大きくなり、前記パラメータ補正部は、前記積算量が上限値を超えた描画領域について前記照射パラメータを補正することを特徴とする部品の加飾装置。
【0064】
(4)手段1乃至3のいずれかにおいて、前記部品は、その表面にドライ状態で印刷層が付加された後、レーザ照射を行って前記印刷層の状態を変化させて前記絵柄が描かれるものであり、前記記憶部には、前記印刷層に用いられる顔料の種類に応じた前記状態変化データを記憶するようにしたことを特徴とする部品の加飾装置。
【0065】
(5)技術的思想(4)において、前記部品表面に接着層を介して前記印刷層を有する加飾フィルムを貼り付けた後、前記レーザ照射を行うことを特徴とする部品の加飾装置。
【0066】
(6)技術的思想(4)において、前記部品は樹脂成形品であり、前記印刷層を有する加飾フィルムを金型内に配置し、前記部品の樹脂成形時に加わる熱及び圧力を利用して前記部品表面に印刷層を転写した後、前記レーザ照射を行うことを特徴とする部品の加飾装置。
【0067】
(7)技術的思想(6)において、前記加飾フィルムは、前記印刷層に加えてクリアコート層が形成されたフィルムであり、前記部品の樹脂成形時にて、前記印刷層と前記クリアコート層とを前記部品表面に転写するようにしたことを特徴とする部品の加飾装置。
【0068】
(8)技術的思想(6)において、前記部品表面にクリア塗料を噴霧して前記印刷層を保護するクリアコート層を形成する前、または前記クリアコート層を形成した後に前記レーザ照射を行うことを特徴とする部品の加飾装置。
【符号の説明】
【0069】
1…部品としての自動車用加飾部品
3…印刷層
5…クリアコート層
6…絵柄
10…加飾装置
12…画像取得装置としてのCCDカメラ
13…レーザ照射装置
14…制御装置
19…冷却装置
31…不良予測部、及びパラメータ補正部としてのCPU
32…記憶部としてのメモリ
L…レーザ
R1…不良部位としての領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品表面の描画領域に沿ってレーザを照射しその表面の状態を変化させて絵柄を描くレーザ照射装置と、前記レーザ照射装置を制御するための制御装置とを備えた部品の加飾装置であって、
前記制御装置は、
前記部品表面の形成材料についてレーザ照射による状態変化を示す状態変化データを記憶する記憶部と、
前記レーザ照射装置が出力するレーザの照射条件を設定する照射パラメータと、前記絵柄を描画するためのレーザ照射点の距離及び密度の情報を含む柄データと、前記状態変化データとに基づいて、前記絵柄の描画不良が発生する不良部位を予測するための不良予測部と、
前記不良部位に対応する前記照射パラメータ及び前記柄データのうちの少なくとも一方を補正するパラメータ補正部と
を備えることを特徴とする部品の加飾装置。
【請求項2】
前記部品の表面温度の上昇を抑えるための冷却装置をさらに備え、
前記不良予測部は、前記冷却装置の駆動状態に応じて不良予測する
ことを特徴とする請求項1に記載の部品の加飾装置。
【請求項3】
レーザ照射によって加飾された前記絵柄の画像を撮像して画像データを取得する画像取得装置をさらに備え、
前記パラメータ補正部は、前記画像データに基づいて、前記絵柄の描画不良が発生している不良部位を検知し、前記不良部位に対応する前記照射パラメータ及び前記柄データのうちの少なくとも一方を補正する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の部品の加飾装置。
【請求項4】
前記部品は、その表面に水圧転写によって印刷層が転写されるとともに前記印刷層を保護するクリアコート層が形成された後、レーザ照射を行って前記印刷層及びクリアコート層の状態を変化させて前記絵柄が描かれるものであり、
前記記憶部には、前記クリアコート層の材料及び前記印刷層に用いられる顔料の種類に応じた前記状態変化データを記憶するようにした
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の部品の加飾装置。
【請求項5】
前記部品は、印刷層と前記印刷層を保護するクリアコート層とを有する加飾フィルムを用い、前記部品表面にドライ状態で前記加飾フィルムが貼り付けられた後、または前記部品表面にドライ状態で前記加飾フィルムの印刷層及びクリアコート層が転写された後、レーザ照射を行って前記印刷層及びクリアコート層の状態を変化させて前記絵柄が描かれるものであり、
前記記憶部には、前記クリアコート層の材料及び前記印刷層に用いられる顔料の種類に応じた前記状態変化データを記憶するようにした
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の部品の加飾装置。
【請求項6】
部品表面の描画領域に沿ってレーザを照射してその表面の状態を変化させて絵柄を描く部品の加飾方法であって、
前記レーザの照射条件を設定する照射パラメータと、前記絵柄を描画するためのレーザ照射点の距離や密度の情報を含む柄データと、前記部品表面の形成材料についてレーザによって与えられた熱による状態変化を示す状態変化データとに基づいて、前記絵柄の描画不良が発生する不良部位を予測するための不良予測ステップと、
前記不良部位に対応する前記照射パラメータ及び前記柄データのうちの少なくとも一方を補正する補正ステップと、
前記補正された照射パラメータ及び前記柄データのうちの少なくとも一方に応じて前記レーザを照射する照射ステップと
を含むことを特徴とする部品の加飾方法。
【請求項1】
部品表面の描画領域に沿ってレーザを照射しその表面の状態を変化させて絵柄を描くレーザ照射装置と、前記レーザ照射装置を制御するための制御装置とを備えた部品の加飾装置であって、
前記制御装置は、
前記部品表面の形成材料についてレーザ照射による状態変化を示す状態変化データを記憶する記憶部と、
前記レーザ照射装置が出力するレーザの照射条件を設定する照射パラメータと、前記絵柄を描画するためのレーザ照射点の距離及び密度の情報を含む柄データと、前記状態変化データとに基づいて、前記絵柄の描画不良が発生する不良部位を予測するための不良予測部と、
前記不良部位に対応する前記照射パラメータ及び前記柄データのうちの少なくとも一方を補正するパラメータ補正部と
を備えることを特徴とする部品の加飾装置。
【請求項2】
前記部品の表面温度の上昇を抑えるための冷却装置をさらに備え、
前記不良予測部は、前記冷却装置の駆動状態に応じて不良予測する
ことを特徴とする請求項1に記載の部品の加飾装置。
【請求項3】
レーザ照射によって加飾された前記絵柄の画像を撮像して画像データを取得する画像取得装置をさらに備え、
前記パラメータ補正部は、前記画像データに基づいて、前記絵柄の描画不良が発生している不良部位を検知し、前記不良部位に対応する前記照射パラメータ及び前記柄データのうちの少なくとも一方を補正する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の部品の加飾装置。
【請求項4】
前記部品は、その表面に水圧転写によって印刷層が転写されるとともに前記印刷層を保護するクリアコート層が形成された後、レーザ照射を行って前記印刷層及びクリアコート層の状態を変化させて前記絵柄が描かれるものであり、
前記記憶部には、前記クリアコート層の材料及び前記印刷層に用いられる顔料の種類に応じた前記状態変化データを記憶するようにした
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の部品の加飾装置。
【請求項5】
前記部品は、印刷層と前記印刷層を保護するクリアコート層とを有する加飾フィルムを用い、前記部品表面にドライ状態で前記加飾フィルムが貼り付けられた後、または前記部品表面にドライ状態で前記加飾フィルムの印刷層及びクリアコート層が転写された後、レーザ照射を行って前記印刷層及びクリアコート層の状態を変化させて前記絵柄が描かれるものであり、
前記記憶部には、前記クリアコート層の材料及び前記印刷層に用いられる顔料の種類に応じた前記状態変化データを記憶するようにした
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の部品の加飾装置。
【請求項6】
部品表面の描画領域に沿ってレーザを照射してその表面の状態を変化させて絵柄を描く部品の加飾方法であって、
前記レーザの照射条件を設定する照射パラメータと、前記絵柄を描画するためのレーザ照射点の距離や密度の情報を含む柄データと、前記部品表面の形成材料についてレーザによって与えられた熱による状態変化を示す状態変化データとに基づいて、前記絵柄の描画不良が発生する不良部位を予測するための不良予測ステップと、
前記不良部位に対応する前記照射パラメータ及び前記柄データのうちの少なくとも一方を補正する補正ステップと、
前記補正された照射パラメータ及び前記柄データのうちの少なくとも一方に応じて前記レーザを照射する照射ステップと
を含むことを特徴とする部品の加飾方法。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図11】
【図1】
【図7】
【図8】
【図10】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図11】
【図1】
【図7】
【図8】
【図10】
【公開番号】特開2012−110916(P2012−110916A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260854(P2010−260854)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000110343)トリニティ工業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000110343)トリニティ工業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】
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