説明

部材固定用クリップ

【課題】ワイヤーハーネス等の取り外しが容易にできる部材固定用クリップを提供する。
【解決手段】台座10と結束バンド20を、結束バンド20側の円柱ロッド22を台座10側の円孔12に嵌めることで結合する。円孔12の内周面には係合突起15が設けられ、円柱ロッド22の外周面には係合突起15がスライドして係合する係合溝30が形成され、係合溝30の縦溝部23に挿入された係合突起15が、回転により横溝部24に誘導されることで、円孔12と円柱ロッド22とが係合される。従って、分解する場合は、台座10を90度回転させて、結束バンド20を上に引き上げるだけで、ワイヤーハーネスを車体パネル1から取り外すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーハーネス等の取付対象部材を車体パネルなどの固定対象部材に取付固定するための部材固定用クリップに係り、特に易解体を実現したクリップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の部材固定用クリップとしてバンドクリップがある。バンドクリップでワイヤーハーネスを車体に固定した場合、後からワイヤーハーネスを取り外したいという要望が出てくることがある。例えば、車両の解体時には、リサイクルのためにワイヤーハーネスを車体から引き剥がす必要があるが、その際、ワイヤーハーネスを車体から容易に取り外したいという要望がある。
【0003】
従来、そのような要望に応えるものとして、例えば、図9に示すようなバンドクリップが、特許文献1に記載されている。図9(a)は分解斜視図、(b)は組立状態の斜視図である。このバンドクリップ100は、車体パネルの取付孔に係止される係止クリップ本体110と、ワイヤハーネスに取り付けられる結束バンド120と、係止クリップ本体110と結束バンド120とを分解可能に結合するピン130とからなる。
【0004】
係止クリップ本体110には角柱ロッド112が設けられ、角柱ロッド112の一端側にはアンカー突起113が設けられ、角柱ロッド112の他端側には貫通孔114が設けられている。また、結束バンド120には、バンド部の基端と一体化されたベース部121が設けられ、ベース部121に、係止クリップ本体110の角柱ロッド112を嵌め込むことのできる角穴122が設けられ、角穴122の周壁をなすベース部121の側壁に貫通孔124が設けられている。
【0005】
そして、角柱ロッド112を角穴122に嵌め込み、その状態で結束バンド120側の貫通孔124と係止クリップ本体110の貫通孔114にピン130を挿通させることで、係止クリップ本体110と結束バンド120とを分解可能に結合している。
【0006】
このバンドクリップ100を使用してワイヤーハーネスを車体パネルに固定する場合は、結束バンド120をワイヤーハーネスの外周に巻き付けて固定すると共に、係止クリップ本体110のアンカー突起113を車体パネルの取付孔に係止させる。これにより、ワイヤーハーネスをバンドクリップ100を介して車体パネルに固定することができる。
【0007】
また、ワイヤーハーネスを車体パネルから取り外す場合は、係止クリップ本体110と結束バンド120を結合しているピン130を貫通孔124、114から抜く。そうすると、係止クリップ本体110から結束バンド120が外れるので、ワイヤーハーネスを結束バンド120が付いたまま、車体パネルから簡単に取り外すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−298836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記のバンドクリップ100では、ピン130を貫通孔124、114に差し込むことで、係止クリップ本体110と結束バンド120とを結合しているので、何らかの拍子に(車両走行中などの振動により)ピン130が貫通孔124、114から抜けて、係止クリップ本体110と結束バンド120の結合が外れてしまうおそれがある。また、小さいピン130が係止クリップ本体110や結束バンド120とは別部品として存在するため、部品点数が増えると共に、ピン130の紛失が起こりやすく、しかも、分解の際にピン130を抜く必要があるので、ワイヤーハーネスの取り外し作業に手間がかかるという問題があった。
【0010】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、部品の脱落や部品の紛失のおそれがなく、部品点数が最小で済むと共に、ワイヤーハーネス等の取り外しが容易にできる部材固定用クリップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するために、本発明に係る部材固定用クリップは、下記(1)〜(7)を特徴としている。
(1) ワイヤーハーネスに取り付けられる第1部材と、車体パネルに係止される第2部材とを分離可能に結合したものとして構成された、前記ワイヤーハーネスを前記車体パネルに取付固定するための部材固定用クリップであって、
前記第1部材および前記第2部材のうちの一方の部材に、他方の部材と結合するための円柱ロッドが突設されると共に、他方の部材に前記円柱ロッドが挿入される円孔が穿設され、
前記円柱ロッドが前記円孔に挿入された際に互いにスライドする前記円孔の内周面と前記円柱ロッドの外周面のうちの一方の周面に係合突起が設けられ、他方の周面に前記係合突起がスライド自在に嵌まる係合溝が設けられ、
前記係合溝は、前記円柱ロッドの先端または前記円孔の入口端に開口した入口から当該円柱ロッドまたは当該円孔の軸線方向に沿って延びる縦溝部と、該縦溝部の奥端から前記円柱ロッドまたは前記円孔の周方向に延びる横溝部とからなり、
前記横溝部の奥端またはその近傍には、該奥端に前記係合突起がスライドしてきたときに、該係合突起をその位置に留める係止手段が設けられている
こと。
(2) 上記(1)の構成の部材固定用クリップにおいて、
前記係合溝の内面に、前記円柱ロッドと前記円孔とが相対移動させられることで前記係合突起が前記係合溝内をスライドするときに前記係合突起の移動を止める抵抗力を与えるための第1〜第3の3つのリブが設けられ、
前記第1のリブは、前記縦溝部の奥端の手前に、前記入口から挿入された前記係合突起が前記縦溝部の奥端に到達したことを知らせるものとして設けられ、
前記第2のリブは、前記縦溝部の奥端から横溝部へ繋がる連通口の直後に、前記横溝部の奥端から前記係合突起が前記連通口に向けて戻ってきたときに、前記係合突起が横溝部を完全に通過して前記縦溝部の奥端に到達したことを知らせるものとして設けられ、
前記第3のリブは、前記横溝部の奥端の手前に、前記係合突起が前記横溝部の奥端に到達したことを知らせるものとして設けられると共に、該奥端に前記係合突起を留めておく前記係止手段として設けられている
こと。
(3) 上記(1)または(2)の構成の部材固定用クリップにおいて、
前記係合突起および前記係合溝の組が、前記円柱ロッドまたは円孔の周方向に間隔をおいて複数設けられていること。
(4) 上記(1)〜(3)のいずれかの構成の部材固定用クリップにおいて、
前記第1部材または前記第2部材のうち、前記円柱ロッドと前記円孔を互いに係合させる際に回転操作する側の部材に、回転操作する際に指を掛けるための摘み部が設けられていること。
(5) 上記(1)〜(4)のいずれかの構成の部材固定用クリップにおいて、
前記第1部材または前記第2部材の少なくとも一方に、前記第1部材または前記第2部材の相対回転位置を知らせるための目印が設けられていること。
(6) 上記(1)〜(5)のいずれかの構成の部材固定用クリップにおいて、
前記横溝部が、前記係合突起が前記横溝部の奥端に向けてスライドして行くほど、前記円柱ロッドと前記円孔の嵌り合いを深めていくように斜めに形成されており、
前記第1部材と前記第2部材には、前記係合突起が前記横溝部の奥端に到達したときに互いに突き当たり、それにより、前記係合溝と前記係合突起の嵌り合いに軸方向の締め付け力を与える突当面が設けられていること。
(7) 上記(1)〜(5)のいずれかの構成の部材固定用クリップにおいて、
前記第1部材が前記ワイヤーハーネスに巻回して取り付けられる結束バンド、前記第2部材が前記車体パネルに係止される台座であり、
前記台座には、
前記車体パネルに形成された取付孔に車体パネルの表側から裏側に向けて挿入可能であり、且つ、挿入状態で略90度回動させられることにより前記車体パネルの裏側に係合するベース板と、
前記ベース板を前記車体パネルの裏側に係合させたときに前記車体パネルの表側の面に押圧接触することで、前記車体パネルを前記ベース板と共に挟むスカート状の押圧皿部とが設けられており、
前記係合突起と前記係合溝を係合させ、また、その係合を解除させるのに必要な前記円柱ロッドと前記円孔の相対回転角度が、前記ベース板を前記車体パネルの裏側に係合させ、また、その係合を解除させるのに必要な回動角度とほぼ同等な略90度に設定されていること。
【0012】
上記(1)の構成の部材固定用クリップによれば、係合突起の嵌まる係合溝が、縦溝部と横溝部からなる鉤形の経路で設けられているので、係合突起を係合溝に挿入して回すだけで、第1部材と第2部材を連結することができ、反対方向に回して抜くだけで、第1部材と第2部材の結合を解除することができる。即ち、円柱ロッドと円孔の相対的な動き(軸方向の挿入動作と回転動作)により、係合突起を係合溝の縦溝部から横溝部の奥端に到達するまでスライドさせることによって、第1部材と第2部材を結合することができ、また、その逆の動き(反対方向の回転動作と軸方向の抜き動作)により、係合突起を係合溝から抜くことによって、第1部材と第2部材を分離することができる。従って、第1部材と第2部材を分離することにより、ワイヤーハーネス等の取付対象部材を車体パネルなどの固定対象部材から簡単に取り外すことができる。また、部品の数が分解できる最小個数であり、しかも、いったん第1部材と第2部材を結合すると、外れ難くなるので、部品の脱落や部品の紛失のおそれもない。
上記(2)の構成の部材固定用クリップによれば、係合溝にリブを3つ設けているので、係合溝上での係合突起の位置確認と、係合溝上での不用意な係合突起の移動防止とを図ることができる。即ち、第1のリブによれば、第1部材と第2部材を結合する過程において、係合溝の入口から挿入された係合突起が縦溝部の奥端に到達したことを、リブと係合突起の干渉により発生するクリック感によって確認することができ、そのままの位置で円柱ロッドと円孔を相対回転させることにより、係合突起を横溝部へスムーズに誘導することができる。そのため、第1のリブによって、第1部材と第2部材の相対回転操作が可能な位置の明確化を図ることができる。しかも、リブの存在によって係合突起がその位置で戻り方向に抵抗力を受けることになるために、不用意な係合突起の移動を止めることができる。
また、第2のリブによれば、第1部材と第2部材の結合を解除する過程において、係合突起と係合溝の相対回転操作に伴って、係合突起が横溝部を完全に通過して縦溝部の奥端に到達したことを、リブと係合突起の干渉により発生するクリック感によって確認することができる。そして、そのままの位置で円柱ロッドと円孔を抜き方向に移動操作することによって、係合突起を係合溝から抜くことができる。そのため、第2のリブによって、第1部材と第2部材の軸方向の相対移動操作が可能な位置の明確化を図ることができる。しかも、リブの存在によって係合突起がその位置で戻り方向に抵抗力を受けることになるために、不用意な係合突起の移動を止めることができる。
また、第3のリブによれば、第1部材と第2部材を結合する過程において、横溝部に誘導された係合突起が横溝部の奥端に到達して結合状態が完成したことを、リブと係合突起の干渉により発生するクリック感によって確認することができる。また、その位置で係合突起を留めることができるため、回転防止および抜け防止を図ることができる。
上記(3)の構成の部材固定用クリップによれば、係合突起および係合溝の組が周方向に間隔をおいて複数設けられているので、バランスよく第1部材と第2部材を結合しておくことができる。
上記(4)の構成の部材固定用クリップによれば、摘み部があることにより、第1部材と第2部材の相対回転操作が容易にできる。
上記(5)の構成の部材固定用クリップによれば、目印を確認することにより、第1部材と第2部材が適正な結合状態(ロック状態)にあるか非結合状態(アンロック状態)にあるかが容易に分かる。
上記(6)の構成の部材固定用クリップによれば、係合突起を係合溝の終端(横溝部の奥端)までスライドさせることにより、第1部材と第2部材をタイトに結合することができる。
上記(7)の構成の部材固定用クリップによれば、台座のベース板を車体パネルの取付孔に挿入して略90度回動させることにより、車体パネルの裏側に係合したベース板と表側の面に押圧接触する押圧皿部とで車体パネルを挟むことができ、それにより、車体パネルに台座を固定することができる。
また、その動作で同時に、ワイヤーハーネスに予め取り付けてある結束バンドと台座とを、円柱ロッドと円孔の嵌り合いにより結合することができる。従って、ワイヤーハーネスの取り外しの必要が生じた際には、反対方向に台座を略90度回転させた上で、ワイヤーハーネスを上に引っ張るだけで、台座を車体パネルから離脱させることができると共に、ワイヤーハーネスに取り付けてある結束バンドを台座から離脱させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、係合突起の嵌まる係合溝が、縦溝部と横溝部からなる鉤形の経路で設けられているので、係合突起を係合溝に挿入して回すだけで、第1部材と第2部材を連結することができ、反対方向に回して抜くだけで、第1部材と第2部材の結合を解除することができる。第1部材と第2部材を分離することにより、ワイヤーハーネス等の取付対象部材を車体パネルなどの固定対象部材から簡単に取り外すことができる。また、部品の数が分解できる最小個数であり、しかも、いったん第1部材と第2部材を結合すると、外れ難くなるので、部品の脱落や部品の紛失のおそれもない。
【0014】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態の分解図である。
【図2】同実施形態のクリップの結束バンド側に設けられている円柱ロッドの拡大図で、(a)は係合溝の縦溝部を正面から見た図、(b)は(a)の側面図である。
【図3】同実施形態の台座に設けられている円孔の開口側の構成を示す拡大斜視図である。
【図4】前記結束バンドのベース部の上面に設けられている表示(目印)と、台座の押圧皿部の上面に突設されている摘み部との関係を示す上面図である。
【図5】前記係合溝の縦溝部に係合突起を合わせながら、結束バンドの円柱ロッドを台座の円孔に挿入している状態を示す正面図である。
【図6】図5の次の段階として、前記台座を回転させることにより、台座と結束バンドを結合すると共に、台座を車体パネルに係止させた固定状態を示す正面図である。
【図7】(a)は実施形態のクリップを車体パネルに固定したときの状態を示す上面図、(b)はそのときの側面図である。
【図8】(a)は実施形態のクリップを車体パネルから取り外したときの状態を示す上面図、(b)はそのときの側面図である。
【図9】従来のバンドクリップの構成図で、(a)は分解状態を示す斜視図、(b)は組立状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は実施形態のクリップの分解図、図2は同クリップの結束バンド側に設けられている円柱ロッドの拡大図で、(a)は係合溝の縦溝部を正面から見た図、(b)は(a)の側面図、図3は同クリップの台座に設けられている円孔の開口側の構成を示す拡大斜視図、図4は結束バンドのベース部の上面に設けられている表示と、台座の押圧皿部の上面に突設されている摘み部との関係を示す上面図、図5は係合溝の縦溝部に係合突起を合わせながら、結束バンドの円柱ロッドを台座の円孔に挿入している状態を示す正面図、図6は図5の次の段階として、台座を回転させることにより、台座と結束バンドを結合すると共に、台座を車体パネルに係止させた固定状態を示す正面図、図7(a)はクリップを車体パネルに固定したときの状態を示す上面図、(b)はそのときの側面図、図8(a)はクリップを車体パネルから取り外したときの状態を示す上面図、(b)はそのときの側面図である。
【0017】
図1〜図8に示すように、実施形態のバンドクリップは、ワイヤーハーネスを車体パネルに固定するためのもので、車体パネル(固定対象部材)1の取付孔2に係止される合成樹脂製の台座10(第2部材)と、ワイヤーハーネス(図示略)に巻回して取り付けられる合成樹脂製の結束バンド20(第1部材)との2部品を分離可能に結合したものとして構成されている。
【0018】
図1に示すように、台座10は、円柱の支柱11と、支柱11の下端に一体形成された長方形のベース板14と、支柱11の上端外周に一体形成されたスカート状の押圧皿部13と、押圧皿部13の上面に突設された小板状の摘み部16とを有している。支柱11の内部には、上端が開放し下端が塞がった円孔12が設けられており、図3に示すように、その円孔12の上端開口(入口)側の内周面には、180度対向する位置に2つの係合突起15が設けられている。
【0019】
ベース板14は、車体パネル1に形成された長方形の取付孔2に車体パネル1の表側から裏側に向けて挿入可能な大きさのものであり、車体パネル1の裏側に挿入された状態で、図6に示すように略90度回動させられることにより、車体パネル1の裏側に係合する寸法に形成されている。つまり、短辺と長辺を有する長方形のベース板14の長辺の長さは、長方形の取付孔2の長辺の長さよりも短いが、短辺の長さよりも長く設定されている。また、スカート状の押圧皿部13は、ベース板14を車体パネル1の裏側に係合させたときに、車体パネル1の表側の面に押圧接触することで、車体パネル1をベース板14と共に挟み、それにより、台座10自身が車体パネル1に固定されるように設けられている。
【0020】
結束バンド20は、角箱形のベース部21と、基端がベース部21の側面に結合されたバンド部28と、ベース部21の下面に突設され、台座10の円孔12に嵌まる円柱ロッド22とを有している。ベース部20には、該ベース部20の一方の側面から他方の側面に貫通する挿入孔29が設けられ、その挿入孔29にワイヤーハーネスを結束するためにループ状に丸めたバンド28の先端側を通すことにより、挿通孔29の内部のロック手段(不図示)によって、バンド28が任意の位置で抜け止めロックされるようになっている。
【0021】
台座10の円孔12の中に円柱ロッド22を挿入したときに円孔12の内周面とスライドする円柱ロッド22の外周面には、円孔12側の係合突起15がスライド自在に嵌まる係合溝30が設けられている。係合溝30は、係合突起15と同様に180度対向する位置に2本設けられている。
【0022】
各係合溝30は、円柱ロッド22の先端に開口した入口から円柱ロッド22の軸線方向に沿って延びる縦溝部23と、縦溝部23の奥端から円柱ロッド22の周方向に延びる横溝部24とからなり、正面から見て鉤形の経路に形成されている。この場合の横溝部24は、図2に示すように、係合突起15が横溝部24の奥端に向けてスライドして行くほど、円柱ロッド22と円孔12の嵌り合いを深めていくように斜めのカム溝状に形成されている。また、台座10と結束バンド20には、係合突起15が横溝部24の奥端に到達したときに互いに突き当たり、突き当たることで係合溝30と係合突起15の嵌り合いに軸方向の締め付け力を与える突当面が設けられている。この場合の突当面としては、図示しないが、円孔12の内底面と、円柱ロッド22の先端面(下端面)とが相当する。
【0023】
また、この実施形態では、係合突起15と係合溝30を係合させ、また、その係合を解除させるのに必要な円柱ロッド22と円孔12の相対回転角度は略90度に設定されている。この相対回転角度は、台座10のベース板14を車体パネル1の裏側に係合させ、また、その係合を解除させるのに必要な回動角度(略90度)と同じ角度である。
【0024】
また、係合溝30の内底面には、円柱ロッド22と円孔12とが相対移動させられることで係合突起15が係合溝30内をスライドするときに、移動操作の位置確認のためのクリック感と不用意な係合突起15の移動を止める抵抗力とを与えるための第1〜第3の3つのリブ(小突起)25、26、27が設けられている。
【0025】
図2(a)、(b)に詳細を示すように、第1のリブ25は、縦溝部23の奥端の手前に、入口から挿入された係合突起15が縦溝部23の奥端に到達したことを知らせるものとして設けられている。また、第2のリブ26は、縦溝部23の奥端から横溝部24へ繋がる連通口の直後に、横溝部24の奥端から係合突起15が連通口に向けて戻ってきたときに、係合突起15が横溝部24を完全に通過して縦溝部23の奥端に到達したことを知らせるものとして設けられている。また、第3のリブ27は、横溝部24の奥端の手前に、係合突起15が横溝部24の奥端に到達したことを知らせるものとして設けられると共に、奥端に係合突起15を留めておくために係止手段として設けられている。
【0026】
図4に示すように、摘み部16は、台座10を矢印C方向やD方向に回転操作する際に、指等を掛けるために設けられており、この摘み部16の位置が、結束バンド20のベース部21のどこにあるかによって、係合突起15と係合溝30の位置関係が一目で分かるように、ベース部21の上面には「ON」と「OFF」の表示部(目印)21Aが設けられている。ここでは、横溝部24の奥端に係合突起15が位置するとき、つまり台座10と結束バンド20が完全に結合されているときに、「ON」の位置に摘み部16がくるように表示が付けられている。また、縦溝部23上に係合突起15が位置するとき、つまり台座10と結束バンド20を分離できる位置にあるときに、「OFF」の位置に摘み部16がくるように表示が付けられている。
【0027】
次に作用を説明する。
まず、このバンドクリップを単体で組み立てる場合について述べる。その場合は、図1および図5の矢印Aで示すように、係合突起15の位置と係合溝30の縦溝部23の入口を位置合わせしながら、結束バンド20の円柱ロッド22を台座10の円孔12に挿入する。
【0028】
挿入の際には、台座10の表示部21の「OFF」の位置を摘み部16の位置に合わせる。そうすると、係合溝30の位置と係合突起15の位置を直接見ないでも、上から摘み部16と表示部21Aを見るだけで、係合溝30と係合突起15の位置を合わせることができるので、容易に組立作業を進めることができる。
【0029】
円柱ロッド22を台座10の円孔12に挿入すると、係合突起15が縦溝部23に沿ってスライドする。縦溝部23の奥端に係合突起15が到達する位置まで挿入したら、その位置で台座10を、図6の矢印Cで示すように回転させる。そうすると、係合突起15が縦溝部23から横溝部24に移動し、横溝部24の奥端まで到達したところで止まる。この段階で、円柱ロッド22は円孔12の内部に抜けないように係合され、これにより台座10と結束バンド20が結合される。このとき、表示部21Aの「ON」の位置に摘み部16が位置するので、それを目視で確認することにより、台座10と結束バンド20が結合状態にあることを知ることができる。
【0030】
この場合、係合突起15が横溝部24の奥端までスライドする際に、円柱ロッド22に対して斜めに移動するので、円柱ロッド22の先端面が円孔12の内底部に突き当たるようになり、突き当たることで、係合溝30と係合突起15の嵌り合いに軸方向の締め付け力が加わるようになり、その結果、台座10と結束バンド20がガタつきなくタイトに結合される。
【0031】
また、係合溝30の内面に第1のリブ25があることにより、台座10と結束バンド20を結合する過程において、係合溝30の入口から挿入された係合突起15が縦溝部23の奥端に到達したことを、第1のリブ25と係合突起15の干渉により発生するクリック感によって確認することができる。従って、そのままの位置で、円柱ロッド22と円孔12を相対回転させることにより、係合突起15を横溝部24へスムーズに誘導することができる。そのため、第1のリブ25によって、台座10と結束バンド20の相対回転操作が可能な位置の明確化を図ることができる。しかも、第1のリブ25の存在によって係合突起15がその位置で戻り方向に抵抗力を受けることになるために、不用意な係合突起15の移動(戻り)を止めることができる。
【0032】
また、第3のリブ27があることにより、台座10と結束バンド20を結合する過程において、横溝部24に誘導された係合突起15が横溝部24の奥端に到達して結合状態が完成したことを、第3のリブ27と係合突起15の干渉により発生するクリック感によって確認することができる。また、その位置で係合突起15を留めることができるため、回転防止および抜け防止を図ることができる。
【0033】
一方、両者の結合を解く場合は、台座10を図8の矢印D方向に回転させる。そうすると、係合突起15が横溝部24から縦溝部23の奥端に移動し、その段階で円柱ロッド22と円孔12に引き抜き方向の力を加えることにより、図8(b)の矢印Eのように、円柱ロッド22を円孔12から抜くことができ、台座10と結束バンド20とを切り離すことができる。
【0034】
この場合も、係合溝30の内面に第2のリブ26があることによって、台座10と結束バンド20の結合を解除する過程において、係合突起15と係合溝30の相対回転操作により、係合突起15が横溝部24を完全に通過して縦溝部23の奥端に到達したことを、第2のリブ26と係合突起15の干渉により発生するクリック感によって確認することができる。そして、そのままの位置で円柱ロッド22と円孔12を抜き方向に移動操作することによって、係合突起15を係合溝30から抜くことができる。そのため、第2のリブ26によって、台座10と結束バンド20の軸方向の相対移動操作が可能な位置の明確化を図ることができる。しかも、第2のリブ26の存在によって係合突起15がその位置で戻り方向に抵抗力を受けることになるために、不用意な係合突起15の移動を止めることができる。
【0035】
以上のように、係合突起15の嵌まる係合溝30が、縦溝部23と横溝部24からなる鉤形の経路で形成されているので、係合突起15を係合溝30に挿入して回すだけで、台座10と結束バンド20を結合することができ、反対方向に回して抜くだけで、台座10と結束バンド20の結合を解除することができる。
【0036】
即ち、円柱ロッド22と円孔12の相対的な動き(軸方向の挿入動作と回転動作)により、係合突起15を係合溝30の縦溝部23から横溝部24の奥端に到達するまでスライドさせることによって、台座10と結束バンド20を結合することができ、また、その逆の動き(反対方向の回転動作と軸方向の抜き動作)により、係合突起15を係合溝30から抜くことによって、台座10と結束バンド20を分離することができる。
【0037】
また、上述のように係合溝30の内面にリブ25〜27を3つ設けているので、係合溝30上での係合突起15の位置確認と、係合溝30上での不用意な係合突起15の移動防止とを図ることができ、組立および分解作業の容易化を図ることができる。
【0038】
また、このバンドクリップでは、係合突起15および係合溝30の組が、円孔12および円柱ロッド22の周方向に間隔をおいて複数設けられているので、バランスよく台座10と結束バンド20を結合させることができる。
【0039】
また、台座10を回転させる際に、摘み部16に指を掛けて回転させることができるので、台座10の回転操作が容易にできる。
【0040】
また、表示部21Aと摘み部16の位置関係を確認することにより、台座10と結束バンド20が適正な結合状態(ロック状態)にあるか非結合状態(アンロック状態)にあるかを容易に確認することができるので、使い勝手がよくなる。
【0041】
次にワイヤーハーネスを車体パネル1に固定する際のバンドクリップの使い方について簡単に述べる。
このバンドクリップを使う場合は、例えば、最初にワイヤーハーネスに結束バンド20を取り付けておく。即ち、バンド部28をワイヤーハーネスの外周に巻き付けて、バンド部28の先端側を挿入孔29に挿入することにより、バンド部28を適当な位置でロックし、結束バンド20をワイヤーハーネスに取り付ける。その際、ワイヤーハーネス上の結束バンド20の取付位置を車体パネル1の取付孔2に位置決めしておく。
【0042】
次に、台座10を、車体パネル1の取付孔2と結束バンド20の間に位置させ、台座10の円孔12を結束バンド20の円柱ロッド22に位置決めすると共に、台座10のベース板14を長方形の取付孔2に位置決めする。そして、その位置で、図5の矢印Aで示すように、係合溝30の縦溝部23に係合突起15を導入しながら、円柱ロッド22を円孔12に挿入すると共に、矢印Bで示すように、台座10のベース板14を車体パネル1の取付孔2に挿入する。
【0043】
係合突起15が縦溝部23の奥端まで入ったら、その段階で図6の矢印Cで示すように、台座10を車体パネル1およびワイヤーハーネスに取り付けられた結束バンド20に対して略90度回転させる。そうすると、車体パネル1の裏側でベース板14が係合し、図7に示すように、車体パネル1の裏側に係合したベース板14と表側の面に押圧接触する押圧皿部13とで車体パネル1が挟まれ、それにより、車体パネル1に台座10を固定することができる。また、その動作と同時に、上述したような円柱ロッド22と円孔12の嵌り合いにより、ワイヤーハーネスに予め取り付けてある結束バンド20と台座10を結合することができる。従って、ワイヤーハーネスをバンドクリップを介して車体パネル1に固定することができる。
【0044】
一方、ワイヤーハーネスの取り外しの必要が生じた場合には、図8の矢印Dで示す反対方向に台座10を略90度回転させた上で、ワイヤーハーネスを上に引っ張る。そうすると、矢印Fで示すように台座10を車体パネル1から離脱させることができると共に、ワイヤーハーネスに取り付けてある結束バンド20を台座10から離脱させることができる。従って、容易にワイヤーハーネスを車体パネルから取り外すことができる。
【0045】
また、このバンドクリップによれば、従来例のものと比べ、部品の数が分解できる最小個数(台座10と結束バンド20の2個)であり、しかも、いったん台座10と結束バンド20を結合すると、外れ難くなっているので、部品の脱落や部品の紛失のおそれもない。
【0046】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0047】
例えば、上記実施形態では、係合溝30を円柱ロッド22の外周面に設け、係合突起15を円孔12の内周面に設けた場合を示したが、その逆に係合溝30と係合突起15を設けてもよい。即ち、係合溝30を円孔12の内周面に設けると共に、係合突起15を円柱ロッド22の外周に設けてもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、台座10側に円孔12を設け、結束バンド20側に円柱ロッド22を設けた場合を示したが、その逆に円孔12と円柱ロッド22を設けてもよい。即ち、円柱ロッド22を台座10側に設けると共に、円孔12を結束バンド20側に設けてもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、係合溝30と係合突起15の組を180度対向する位置に2組設けた場合を示したが、1組だけ設けてもよいし、3組以上を設けてもよい。
【0050】
また、上記実施形態では、第1部材として、車体パネル1の長方形の取付孔2に係合可能な長方形のベース板14を有した台座10を示したが、従来例のような弾性係止羽根を有するアンカー突起を有する部材を用いてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、第2部材として、結束バンドを使用した場合を示したが、その他のワイヤーハーネスに取り付けられる部材を用いてもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、第1部材の取付対象部材がワイヤーハーネスである場合、また、第2部材の固定対象部材が車体パネルである場合について示したが、その他の部材であっても構わない。
【符号の説明】
【0053】
1 車体パネル
2 取付孔
10 台座(第2部材)
12 円孔
13 押圧皿部
14 ベース板
15 係合突起
16 摘み部
20 結束バンド(第1部材)
22 円柱ロッド
23 縦溝部
24 横溝部
25 第1のリブ
26 第2のリブ
27 第3のリブ
30 係合溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーハーネスに取り付けられる第1部材と、車体パネルに係止される第2部材とを分離可能に結合したものとして構成された、前記ワイヤーハーネスを前記車体パネルに取付固定するための部材固定用クリップであって、
前記第1部材および前記第2部材のうちの一方の部材に、他方の部材と結合するための円柱ロッドが突設されると共に、他方の部材に前記円柱ロッドが挿入される円孔が穿設され、
前記円柱ロッドが前記円孔に挿入された際に互いにスライドする前記円孔の内周面と前記円柱ロッドの外周面のうちの一方の周面に係合突起が設けられ、他方の周面に前記係合突起がスライド自在に嵌まる係合溝が設けられ、
前記係合溝は、前記円柱ロッドの先端または前記円孔の入口端に開口した入口から当該円柱ロッドまたは当該円孔の軸線方向に沿って延びる縦溝部と、該縦溝部の奥端から前記円柱ロッドまたは前記円孔の周方向に延びる横溝部とからなり、
前記横溝部の奥端またはその近傍には、該奥端に前記係合突起がスライドしてきたときに、該係合突起をその位置に留める係止手段が設けられている
ことを特徴とする部材固定用クリップ。
【請求項2】
前記係合溝の内面に、前記円柱ロッドと前記円孔とが相対移動させられることで前記係合突起が前記係合溝内をスライドするときに前記係合突起の移動を止める抵抗力を与えるための第1〜第3の3つのリブが設けられ、
前記第1のリブは、前記縦溝部の奥端の手前に、前記入口から挿入された前記係合突起が前記縦溝部の奥端に到達したことを知らせるものとして設けられ、
前記第2のリブは、前記縦溝部の奥端から横溝部へ繋がる連通口の直後に、前記横溝部の奥端から前記係合突起が前記連通口に向けて戻ってきたときに、前記係合突起が横溝部を完全に通過して前記縦溝部の奥端に到達したことを知らせるものとして設けられ、
前記第3のリブは、前記横溝部の奥端の手前に、前記係合突起が前記横溝部の奥端に到達したことを知らせるものとして設けられると共に、該奥端に前記係合突起を留めておく前記係止手段として設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載した部材固定用クリップ。
【請求項3】
前記係合突起および前記係合溝の組が、前記円柱ロッドまたは円孔の周方向に間隔をおいて複数設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載した部材固定用クリップ。
【請求項4】
前記第1部材または前記第2部材のうち、前記円柱ロッドと前記円孔を互いに係合させる際に回転操作する側の部材に、回転操作する際に指を掛けるための摘み部が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載した部材固定用クリップ。
【請求項5】
前記第1部材または前記第2部材の少なくとも一方に、前記第1部材または前記第2部材の相対回転位置を知らせるための目印が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載した部材固定用クリップ。
【請求項6】
前記横溝部が、前記係合突起が前記横溝部の奥端に向けてスライドして行くほど、前記円柱ロッドと前記円孔の嵌り合いを深めていくように斜めに形成されており、
前記第1部材と前記第2部材には、前記係合突起が前記横溝部の奥端に到達したときに互いに突き当たり、それにより、前記係合溝と前記係合突起の嵌り合いに軸方向の締め付け力を与える突当面が設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載した部材固定用クリップ。
【請求項7】
前記第1部材が前記ワイヤーハーネスに巻回して取り付けられる結束バンド、前記第2部材が前記車体パネルに係止される台座であり、
前記台座には、
前記車体パネルに形成された取付孔に車体パネルの表側から裏側に向けて挿入可能であり、且つ、挿入状態で略90度回動させられることにより前記車体パネルの裏側に係合するベース板と、
前記ベース板を前記車体パネルの裏側に係合させたときに前記車体パネルの表側の面に押圧接触することで、前記車体パネルを前記ベース板と共に挟むスカート状の押圧皿部とが設けられており、
前記係合突起と前記係合溝を係合させ、また、その係合を解除させるのに必要な前記円柱ロッドと前記円孔の相対回転角度が、前記ベース板を前記車体パネルの裏側に係合させ、また、その係合を解除させるのに必要な回動角度とほぼ同等な略90度に設定されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載した部材固定用クリップ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−276040(P2010−276040A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126435(P2009−126435)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】