説明

配管検査方法及び装置

【課題】配管の減肉状態を、軸方向及び周方向の位置を同定した上で高精度に測定する方法及び装置を提供すること。
【解決手段】弾性波送信器5で弾性波送信素子1に非分散性弾性波を励起する。弾性波受信器7で弾性波送信素子3からの非分散性弾性波信号を受信し、A/D変換器9で受信信号をデジタル信号に変換する。デジタル信号に変換された弾性波信号を複数の信号要素に分割する。次に、信号要素の伝播径路を決定し、特定の信号要素Aの出現時間TAを測定し、信号要素Aと同一の伝播径路を経由した分散性の信号要素Bの出現時間TBを測定する。そして、出現時間TAと出現時間TBとの差を肉厚データに変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管検査方法及び装置に係り、特に、超音波を用い、広域の配管の肉厚検査を一括して検査することを可能とした配管検査方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラントや化学プラントに用いられる配管構造物は、建設から長期間が経過すると、配管の内外面からの腐食や侵食が顕在化してくる。これらの劣化が進行して配管の肉厚の低減が管壁を貫通するまでに至ると、液体や蒸気等の内部流体の漏洩につながる恐れがある。このため、配管の肉厚の状態を、非破壊的な手段により定量的に評価し、漏洩に至る以前に、配管の交換や補修といった対策を講じる必要がある。
【0003】
非破壊的に配管の肉厚を測定する手段の1つとして、その代表的なものに、超音波厚み計を用いる検査方法が知られている。超音波厚み計は、一般に、電気−音響を相互に変換する圧電素子からなる超音波センサを用いて、対象配管中にバルク波(縦波や横波等の弾性波)を励起し、配管底面で反射した弾性波を同一あるいは別の超音波センサで受信して、配管の肉厚を測定する装置である。この装置は、受信波の受信時間を肉厚に換算するという測定原理上、高い精度で配管の肉厚を測定することができる。一方、この超音波厚み計は、検査範囲が、センサの大きさとほぼ同等程度に限られ、長尺の配管のように検査要求範囲が広くなると、測定点を増加させなければならず、多大な検査時間を要するという欠点を有している。また、この超音波厚み計は、保温材が巻かれた配管や、埋設配管、垂直配管等のアクセス性に問題のある配管を検査する場合、検査の準備、片付けに要する時間も多大であるという問題も有している。
【0004】
前述したような問題を解決するための手法として、ガイド波を用いて配管の長距離区間を一括して検査する方法が知られている。この種の検査方法に関する従来技術として、例えば、非特許文献1等に記載された技術が知られている。この従来技術に示される方法は、ガイド波が配管の周方向断面積が変化する位置で反射する特徴を利用するものである。そして、その方法は、配管の軸方向に、配管の中心軸に対して対称の単一モードのガイド波を伝播させて、その反射波の波高値や出現時間から減肉あるいは欠陥の大きさと軸方向位置とを測定するというものである。この方法は、減肉あるいは欠陥以外に、溶接線からの反射波も得られるが、減肉あるいは欠陥からの反射波が、配管の中心軸に対して非軸対称であるのに対して、溶接線からの反射波が軸対称モードのままであることから、これらの識別を行うことができる。
【0005】
前述した従来技術の方法は、バルク波のパルスエコー法に相当する技術であるが、板の肉厚を検査する場合、ガイド波(ラム波)の特徴である音速の分散性を利用する技術もある。音速の分散性を利用する技術に関する従来技術として、例えば、非特許文献2等に記載された技術が知られている。この従来技術による方法は、肉厚変化部位を通過するラム波が、肉厚に依存して音速が変化するという特徴に着目し、その伝播時間から伝播径路の平均肉厚を求め、さらに、複数の径路の伝播時間をトモグラフィー処理することにより、肉厚の二次元的な分布を算定するというものである。
【非特許文献1】Ultrasonics(Vol.36, pp.147-154, 1998)の「Defect detection in pipes using guided waves」
【非特許文献2】NASA Conference Publicationの「Lamb wave tomography for corrosion mapping」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した前者の従来技術は、配管の周方向断面積の変化が小さい減肉や、配管の周方向断面積の変化が軸方向になだらかな減肉に対して感度が低いという問題点を有しており、また、断面積の変化が正なのか負なのか、すなわち、溶接等による肉盛なのか減肉なのかを区別することが原理的に困難であるという問題点を有している。
【0007】
一方、前述した後者の従来技術は、比較的距離の長い配管の検査に適用しようとする場合、配管を最短距離で伝播するラム波以外に、配管壁を複数回のらせん径路で伝播する複数のラム波が観測されることになる。そして、この従来技術は、伝播距離がさらに長くなると、最短径路のラム波と複数のらせん径路のラム波が干渉し、分離困難な状況になる。従って、最短距離で到達する直達波のみを考慮する板の肉厚測定方法である後者の従来技術は、配管の肉厚測定に応用することができないという問題点を有している。
【0008】
本発明の目的は、前述したような従来技術の問題点を解決し、配管断面積の変化が小さい減肉や、断面積の変化が軸方向になだらかな減肉に対して、高い検出性能を有し、配管の減肉状態を長距離で一括して検査することを可能にした配管検査方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば前記目的は、弾性波を用いて配管の肉厚を測定する配管検査方法において、配管の円周方向に分割された第1の位置から、配管の軸方向または斜め方向に伝播する非分散性弾性波を励起するステップと、前記第1の位置と軸方向の位置が異なる位置であって、配管の円周方向に分割された第2の位置で、前記配管の軸方向または斜め方向から伝播してくる該非分散性弾性波を該非分散性弾性波信号として受信するステップと、受信された非分散性弾性波信号を複数の非分散性信号要素に分割するステップと、分割された非分散性信号要素の出現順番を参照し、非分散性信号要素に相当する非分散性弾性波の伝播径路を決定するステップと、非分散性信号要素の出現時間を測定するステップと、前記信号要素の出現時間を前記伝播径路における肉厚データに変換するステップとからなり、前記信号要素の出現時間を前記伝播径路における肉厚データに変換するステップは、非分散性信号要素の出現時間と前記信号要素の出現時間との時間差を肉厚データに変換するステップを含んでなることにより達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、配管断面積の変化が小さい減肉や、断面積の変化が軸方向になだらかな減肉に対して、高い検出性能を得ることができ、配管の減肉状態を長距離で一括して検査することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明による配管検査方法及び装置の実施形態を図面により詳細に説明する。
【0012】
図1は本発明の第1の実施形態による配管検査装置のブロック図である。図1において、1は弾性波送信素子、2は送信素子リング、3は弾性波受信素子、4は受信素子リング、5は弾性波送信器、6は送信素子切替器、7は弾性波受信器、8は受信素子切替器、9はA/D変換器、10はコンピュータ、11は弾性波、12は配管である。
【0013】
本発明の第1の実施形態による配管検査装置は、図1に示すように、配管12の一端に配置された複数の弾性波送信素子1と、弾性波送信素子1に対する駆動用弾性波を発生送信する弾性波送信器5と、複数の弾性波送信素子1の選択と駆動タイミングとを制御する送信素子切替器6と、配管12の他端に配置された複数の弾性波受信素子3と、弾性波送信素子1からの受信弾性波を受信する弾性波受信器7と、複数の弾性波受信素子3の選択と受信タイミングとを制御する受信素子切替器8と、弾性波受信器7の受信信号をアナログ/デジタル(A/D)変換するA/D変換器9と、送信信号の制御、受信信号の処理を含む装置全体の制御を行うコンピュータ10とにより構成される。
【0014】
前述において、弾性波送信素子1は、弾性波送信器5から送信素子切替器6を経て印加される駆動信号を機械的変位に変換する素子であり、例えば、圧電素子により構成される。送信素子リング2は、円周方向に配置した複数の弾性波送信素子1と、弾性波送信素子1を把持する円環状の治具とにより構成される。このとき、好ましくは、弾性波送信素子1は、円周方向に等間隔に配置され、また、円環状の治具により、弾性波送信素子1の面と配管12の面との間に所定の角度が付けられるように配置される。この角度は、後述で説明する配管に伝播する超音波の振動モードを希望するモードに設定するためのものである。
【0015】
弾性波受信素子3は、配管12を伝播してきた弾性波による変位を電気的エネルギーに変換する素子であり、例えば、圧電素子により構成される。受信素子リング4は、円周方向に配置した複数の弾性波受信素子3と、弾性波受信素子3を把持する円環状の治具とにより構成される。このとき、好ましくは、弾性波受信素子3は、円周方向に等間隔に配置され、また、円環状の治具により、弾性波受信素子3の面と配管12の面との間に所定の角度が付けられるように配置される。この角度は、後述で説明する配管に伝播してくる超音波の希望の振動モードのものを効率的に受信できるようにするためのものである。
【0016】
弾性波送信器5は、送信信号の周波数を任意に設定できるシンセサイザ、あるいは、任意波形発生器と、それらの信号を増幅するパワーアンプとから構成され、コンピュータ10からの制御信号により、発生する信号が制御される。この弾性波送信器5は、発生する信号が送信素子切替器6に送られるように接続される。送信素子切替器6と受信素子切替器8とは、例えば、市販のマルチプレクサで構成され、コンピュータ10からの制御信号により、チャンネル切り替えが可能である。弾性波受信器7は、市販の超音波レシーバ、あるいは、広帯域アンプにより構成され、弾性波受信素子3からの受信信号が、受信素子切替器8を経て入力され、受信処理をA/D変換器9に出力するように接続される。A/D変換器9は、市販のオシロスコープやコンピュータ組み込み式のボードタイプを利用することができる。
【0017】
図2は外径114.3mm、肉厚6mmの配管に、中心周波数500kHzのガイド波を励起して、距離毎に波形の変化を示したガイド波の分散特性を説明する図である。
【0018】
一般に、配管を伝播するガイド波は、周波数によって音速が異なる性質である分散特性を有している。図2には、500kHzを4波含むガイド波を励起し、100mm、2000mm、5200mmの点で受信したときの受信波形を示している。励起に使用する500kHzを4波含むガイド波は、500kHzを中心として多くの周波数成分を含むものであり、周波数によって音速が異なるという性質により、受信点が励起点から遠くなると、周波数によって到達時間がずれることになる。
【0019】
図2(a)に示す伝播距離100mmにおいては、周波数による到達時間のずれが小さいため、信号の持続時間が短いのに対して、伝播距離が2000mm、5200mmと長くなるに従い、図2(b)、図2(c)に示すように、周波数による到達時間のずれが大きくなるため、波形の持続時間が長くなっている。このように、配管を伝播するガイド波は、周波数によって音速が異なる性質を有している。
【0020】
図3はラム波の複数の振動モードでの超音波の速度(位相速度)が周波数に依存して変化する分散特性を有し、かつ、各モードの位相速度が肉厚と周波数との積によって一意に決まることを説明する図である。
【0021】
図3に示すように、ラム波は、複数の振動モード(反対称モード:A0、A1…、対称モード:S0、S1…)を有し、各モードの音速(位相速度)は、周波数に依存して変化する。また、各モードの位相速度は、図3に示す各モードでの特性曲線に示すように、肉厚と周波数との積によって一意に決定される。
【0022】
この性質を利用することにより、伝播させるラム波の周波数が既知で、特定のモードでの音速(伝播時間)を測定することができれば、伝播径路上での平均肉厚を求めることができる。
【0023】
一方、配管においては、課題の欄ですでに説明したように、最短径路を伝播するものと、複数のらせん径路を伝播するものとを生じる。次に、この例について説明する。
【0024】
図4はある特定の弾性波送信素子で弾性波を励起し、特定の弾性波受信素子で弾性波を受信した場合の伝播経路を示す図である。図4から判るように、ある特定の弾性波送信素子1a(周方向角度位置0°に配置されている)で弾性波を励起し、特定の弾性波受信素子3a(周方向角度位置90°に配置されている)で弾性波を受信した場合、その伝播径路は、最も伝播径路の短い11aを初めとして、配管上をらせん状の経路を通る11b、11c、11dなどが存在する。これらの経路は、それぞれ、経路長が異なっており、これらの異なる伝播径路を経たラム波の受信素子への到着時間の差により、受信したラム波を分離することができ、この結果から伝播径路上の平均肉厚を求めることができ、さらに、トモグラフィー処理を施すことにより、肉厚の二次元的な分布を算定することができる。
【0025】
本発明は、図2により説明したようなガイド波が周波数によって音速が異なるという性質に対して、送信ラム波を、周波数の低い成分を先に送信し、次第に周波数を上げていくチャープ信号に類似した送信信号として、受信素子に到達したときに全周波数の信号が1つの塊になるようにし、図4により説明したような異なる経路長の経路を伝播するラム波を分離可能とし、図3により説明したようなラム波の位相速度が肉厚と周波数との積によって決まるという性質を利用することにより、ラム波の伝播経路上の平均肉厚を求め、さらに、トモグラフィー処理を施すことにより、肉厚の二次元的な分布を算定するようにしたものである。
【0026】
図5は本発明の第1の実施形態により、ラム波の伝播径路上の平均肉厚を求め、二次元肉厚分布を求める手順を説明するフローチャート、図6は分散を予測して波動を励起する場合の送信信号と受信信号との例を示す図、図7はトモグラフィーによる配管の減肉マップの出力例を示す図であり、次に、これについて説明する。
【0027】
(1)まず、弾性波送信素子1と弾性波受信素子3との間の伝播径路の距離を算定する。伝播距離は、予めスケール等を用いて測定した送信素子リング2と受信素子リング4との間の直線距離と、弾性波送信素子1aと弾性波受信素子3aとの円周方向の設置位置及び伝播径路のらせん回転数から幾何学的に複数算定される。なお、算定のための計算式は、省略する(ステップS101)。
【0028】
(2)次に、図3により説明したラム波の分散曲線を参照する。このラム波の分散曲線は、波動モード毎に離散的数値データとしてコンピュータ10の中に保持されており、保有データ以外の部分では、直線あるいは曲線により内挿して近似される(ステップS102)。
【0029】
(3)次に、送信信号を決定する。送信信号は、通常の超音波探傷に用いるパルス波でも良いが、その場合、伝播距離が長くなるにつれて、図2により説明したように、異なる伝播径路を経由した複数のラム波を分離することが困難となる。このため、ステップS101で算定した複数の伝播距離の中の特定の伝播距離と、図3により説明した分散曲線を参照し、伝播距離を速度で除することにより、周波数成分毎の伝播時間を算定し、弾性波受信素子3aに到達する時間が、各周波数成分で同一になるように遅延をかけた信号として送信信号を形成する。この送信信号は、例えば、分散曲線で、周波数の低い成分の方が、周波数の高い成分よりも速度が遅い場合、図6(a)に示すように、周波数の低い成分を先に送信し、次第に周波数を上げていくチャープ信号に類似した送信信号となる(ステップS103)。
【0030】
(4)次に、ステップS103で生成した送信信号を弾性波送信器5から弾性波送信素子1に送信して弾性波11を励起する。そして、弾性波受信器7で弾性波受信素子3からの弾性波11の弾性波信号を受信する。弾性波信号は、ステップS103で決定した送信信号が、図6(a)に示すようなチャープ信号に類似した信号であれば、弾性波受信素子3aに到達した時点では、波動の持続時間の短い(インパルスに近い)信号として形成されており、伝播径路ごとに時間軸上で明確に分離することができる図6(b)に示すようなものとなる(ステップS104、S105)。
【0031】
(5)弾性波受信器7で受信した弾性波信号をA/D変換器9でデジタル信号に変換し、次に、弾性波信号を複数の信号要素に分割する。受信された弾性波信号は、図6(b)に示すとおり時間軸上で明確に分離できるような形態となっているので、時間窓で抜き出す等の簡単な処理で分割可能である(ステップS106、S107)。
【0032】
(6)次に、ステップS107で分離した各信号要素の伝播径路を決定する。この処理は、基本的には、距離の短いものから順に到達時間の早い弾性波要素を割り当てる処理である。すなわち、図6(b)に示す信号Waは、図4に示す伝播径路11aを伝播した弾性波に相当し、同様に、信号Wbは、伝播径路11bを伝播した弾性波に相当し、信号Wcは、伝播径路11cを伝播した弾性波に相当する(ステップS108)。
【0033】
(7)次に、ステップS107で分離した各信号要素の出現時間を測定する。この処理は、超音波の到達時間を測定する技術と同等でであり、簡単には、信号のピーク位置を検出する方法や、ゼロクロス点を検出する方法等を用いて信号要素の出現時間を測定する処理でよい(ステップS109)。
【0034】
(8)次に、ステップS109で求めた出現時間に基づいて、弾性波の経路毎の平均肉厚データを求める。すでに、各伝播径路に対して、伝播距離と周波数毎の伝播時間とが判っているので、周波数毎の音速を算定でき、この音速を図3に示した分散曲線と照合することにより平均肉厚が求まる(ステップS110)。
【0035】
(9)最後に、ステップS110で求めた肉厚データに公知のトモグラフィー処理を施し、二次元肉厚分布を算定する。トモグラフィーを実施した場合、例えば、図7に示すような二次元肉厚分布を得ることができ、最終的に二次元等高線図等により、コンピュータ10に付属した画面に出力させる。なお、トモグラフィー処理を施す場合、できるだけ多くの伝播径路に対して平均の肉厚を求めておくことがよい(ステップS111)。
【0036】
前述した本発明の第1の実施形態は、伝播径路を特定し、その径路を伝播する弾性波の伝播時間から、その伝播径路の平均肉厚を求めているので、配管の周方向断面積の変化が小さい減肉や、周方向断面積の変化が軸方向になだらかな減肉が伝播径路の途中に存在した場合等でも、高い検出性能で配管の減肉の状態を検出することができる。
【0037】
また、本発明の第1の実施形態は、分散曲線を参照して周波数成分毎の伝播時間を算定し、弾性波が弾性波受信素子に到達する時間が、各周波数成分で同一になるように遅延をかけた信号として、送信信号を形成しているので、受信した弾性波信号が、波動の持続時間の短い(インパルスに近い)信号として形成されたものとなり、受信した弾性波信号を伝播径路毎に時間軸上で明確に分離できるようになり、弾性波送信素子と弾性波受信素子との間の距離が長い場合にも、高い検出性能で配管の減肉の状態を検出することができる。
【0038】
また、本発明の第1の実施形態は、最終工程で、トモグラフィー処理を実施することにより、配管を展開したときの二次元の肉厚分布を求めることができ、減肉位置や減肉量を局所的に求めることが可能となる。
【0039】
前述した本発明の実施形態は、分散曲線を参照して周波数成分毎の伝播時間を算定し、弾性波が弾性波受信素子に到達する時間が、各周波数成分で同一になるように遅延をかけた信号として送信信号を形成するとして説明したが、検査しようとする配管の長さが短く、送信信号に対して前述のような処理を施さなくても、受信側で、受信した弾性波信号を伝播径路毎に時間軸上で明確に分離できるような場合、前述した送信信号に対する処理を省略することができる。
【0040】
また、前述した本発明の実施形態は、周方向角度位置0°に配置されている弾性波送信素子1aで弾性波を励起し、周方向角度位置90°に配置されている弾性波受信素子3aで弾性波を受信するとして説明したが、弾性波を励起する弾性波送信素子の周方向角度位置と、弾性波を受信する弾性波受信素子の周方向角度位置との関係は、任意に設定することができる。
【0041】
図8は本発明の第2の実施形態による配管検査装置のブロック図である。図示例は、送信側の構成を示しており、受信側を含む図示しない部分は第1の実施形態の場合と同一である。図8において、1a〜1cは弾性波送信素子、5aはタイマーモジュール、5bは送信器モジュールであり、他の符号は図1の場合と同一である。
【0042】
前述までに説明した本発明の第1の実施形態は、図4に示すように周方向角度位置0°にある弾性波送信素子1aで弾性波を送信し、周方向角度位置90°にある弾性波受信素子3aで弾性波を受信するとして説明したが、弾性波送信素子1aと弾性波受信素子3aとが、いずれも同じ周方向位置である場合や、周方向位置が近い場合、図4に示す11bと11cとに相当する伝播径路の伝播距離が同一であったり差が小さかったりする。このような場合、時間軸上で両者で受信された信号を分離することが困難となる。
【0043】
本発明の第2の実施形態は、このような課題を解決することを可能にしたものである。図8に示す本発明の第2の実施形態において、弾性波送信器5は、タイマーモジュール5aと、複数の送信器モジュール5b(ここでは、3個のモジュール)を備えて構成されている。タイマーモジュール5aは、複数の送信器モジュール5bに、送信タイミングをトリガ信号などで指示する機器であり、コンピュータ10からの指示により、そのタイミングを制御可能に構成されている。送信素子切替器6は、複数の送信器モジュール5bからの各送信信号を、任意の弾性波送信素子1a〜1cに接続するように切り替える機器であり、例えば、市販のマルチプレクサで構成することができる。本発明の第2の実施形態は、予め受信信号を解析する弾性波受信素子と伝播径路とを決めておき、その伝播径路方向に対して送信強度か高くなるように、複数の弾性波送信素子1a〜1cに対する送信タイミングに遅延を与えるようにして、各弾性波送信素子を駆動する。なお、遅延時間の算定のための計算式は、省略する。
【0044】
前述した本発明の第2の実施形態によれば、特定の伝播径路の弾性波の励起強度を選択的に高めることができるので、伝播距離が同じまたは近い場合でも、特定径路の平均肉厚を、選択的に求めることが可能となる。
【0045】
図9は本発明の第3の実施形態としての弾性波受信素子の受信信号の処理動作を説明するフローチャートであり、次に、これについて説明する。なお、この実施形態での装置構成は、前述で説明した本発明の第1の実施形態または第2の実施形態と同一である。
【0046】
この実施形態は、図9に示すように、初めに、ステップS201において、弾性波受信素子3の隣接する2つの弾性波受信素子で弾性波信号を受信し、次に、ステップS202において、特定の伝播経路からの信号の受信強度を高めるように開口合成処理を実施するものである。
【0047】
この本発明の第3の実施形態によれば、特定の伝播径路の弾性波の受信強度を選択的に高めることができるので、伝播距離が同じまたは近い場合でも、特定径路の平均肉厚を選択的に求めることが可能となる。
【0048】
図10は板を伝播するSHモードのガイド波の分散特性について説明する図、図11はSHモードのガイド波の分散特性を利用して配管の検査を行う本発明の第4の実施形態での処理動作を説明するフローチャートであり、次に、図10、図11を参照して本発明の第4の実施形態を説明する。なお、この実施形態での装置構成は、前述で説明した本発明の第1の実施形態または第2の実施形態と同一である。
【0049】
板を伝播するSHモードのガイド波は、図10に示すような分散曲線で示される分散特性を有している。この図から判るように、SHモードのガイド波は、0次モード(m=0)の音速が、周波数や板厚によらず、一定であるという特徴を有している。本発明の第4の実施形態は、SHモードのガイド波のこのような特徴を用いるもので、この方法の手順を図11に示すフローを参照して説明する。
【0050】
(1)まず、弾性波送信器5で弾性波送信素子1に非分散性弾性波を励起する。この場合、励起する弾性波は、波動の持続時間の短い(インパルスに近い)ものが望ましい(ステップS301)。
【0051】
(2)次に、弾性波受信器7で弾性波送信素子3からの非分散性弾性波信号を受信し、A/D変換器9で受信信号をデジタル信号に変換する(ステップS302、S303)。
【0052】
(3)A/D変換器9でデジタル信号に変換された弾性波信号を複数の信号要素に分割する。この実施形態で使用する弾性波信号は、非分散性波動であるので、ステップS301で励起した弾性波がインパルス状であれば、受信した弾性波信号もインパルス状であり、時間軸上で明確に分離することができるので、時間窓で抜き出す等の簡単な処理で分割可能である(ステップS304)。
【0053】
(4)次に、信号要素の伝播径路を決定し、特定の信号要素Aの出現時間TAを測定する(ステップS305、S306)。
【0054】
(5)その後、図5により説明したフローのステップS101からステップS109の処理を実施し、信号要素Aと同一の伝播径路を経由した分散性の信号要素Bの出現時間TBを測定する。ステップS101からステップS109の処理は、ラム波の測定手順として説明しているが、ここでの例では、SHモードのガイド波の高次のモードを利用してもよい。最後に、出現時間TAと出現時間TBとの差を肉厚データに変換する(ステップS307、S308)。
【0055】
前述した本発明の第4の実施形態によれば、0次のSHモードのガイド波の伝播時間を基準として、1次以上のSHモードのガイド波の伝播時間を測定するので、相対的な時間差評価となり、減肉の評価精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1の実施形態による配管検査装置のブロック図である。
【図2】外径114.3mm、肉厚6mmの配管に、中心周波数500kHzのガイド波を励起して、距離毎の波形の変化を示したガイド波の分散特性を説明する図である。
【図3】ラム波の複数の振動モードでの超音波の速度(位相速度)が周波数に依存して変化する分散特性を有し、かつ、各モードの位相速度が肉厚と周波数との積によって一意に決まることを説明する図である。
【図4】ある特定の弾性波送信素子で弾性波を励起し、特定の弾性波受信素子で弾性波を受信した場合の伝播経路を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態により、ラム波の伝播径路上の平均肉厚を求め、二次元肉厚分布を求める手順を説明するフローチャートである。
【図6】分散を予測して波動を励起する場合の送信信号と受信信号との例を示す図である。
【図7】トモグラフィーによる配管の減肉マップの出力例を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施形態による配管検査装置のブロック図である。
【図9】本発明の第3の実施形態としての弾性波受信素子の受信信号の処理動作を説明するフローチャートである。
【図10】板を伝播するSHモードのガイド波の分散特性について説明する図である。
【図11】SHモードのガイド波の分散特性を利用して配管の検査を行う本発明の第4の実施形態での処理動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0057】
1、1a〜1c 弾性波送信素子
2 送信素子リング
3 弾性波受信素子
4 受信素子リング
5 弾性波送信器
5a タイマーモジュール
5b 送信器モジュール
6 送信素子切替器
7 弾性波受信器
8 受信素子切替器
9 A/D変換器
10 コンピュータ
11 弾性波
12 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性波を用いて配管の肉厚を測定する配管検査方法において、
配管の円周方向に分割された第1の位置から、配管の軸方向または斜め方向に伝播する非分散性弾性波を励起するステップと、
前記第1の位置と軸方向の位置が異なる位置であって、配管の円周方向に分割された第2の位置で、前記配管の軸方向または斜め方向から伝播してくる該非分散性弾性波を該非分散性弾性波信号として受信するステップと、
受信された非分散性弾性波信号を複数の非分散性信号要素に分割するステップと、
分割された非分散性信号要素の出現順番を参照し、非分散性信号要素に相当する非分散性弾性波の伝播径路を決定するステップと、
非分散性信号要素の出現時間を測定するステップと、
前記信号要素の出現時間を前記伝播径路における肉厚データに変換するステップとからなり、
前記信号要素の出現時間を前記伝播径路における肉厚データに変換するステップは、非分散性信号要素の出現時間と前記信号要素の出現時間との時間差を肉厚データに変換するステップを含んでなることを特徴とする配管検査方法。
【請求項2】
弾性波を用いて配管の肉厚を測定する配管検査装置において、
配管の円周方向に分割された第1の位置から、配管の軸方向または斜め方向に伝播する非分散性弾性波を励起する手段と、
前記第1の位置と軸方向の位置が異なる位置であって、配管の円周方向に分割された第2の位置で、前記配管の軸方向または斜め方向から伝播してくる該非分散性弾性波を該非分散性弾性波信号として受信する手段と、
受信された非分散性弾性波信号を複数の非分散性信号要素に分割する手段と、
分割された非分散性信号要素の出現順番を参照し、非分散性信号要素に相当する非分散性弾性波の伝播径路を決定する手段と、
非分散性信号要素の出現時間を測定する手段と、
前記信号要素の出現時間を前記伝播径路における肉厚データに変換する手段とからなり、
前記信号要素の出現時間を前記伝播径路における肉厚データに変換する手段は、非分散性信号要素の出現時間と前記信号要素の出現時間との時間差を肉厚データに変換する手段を含んでなることを特徴とする配管検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−3537(P2007−3537A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226683(P2006−226683)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【分割の表示】特願2002−247068(P2002−247068)の分割
【原出願日】平成14年8月27日(2002.8.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】