説明

配線ユニット、配線ユニットの製造方法、液体吐出ヘッド、および液体吐出ヘッドの製造方法

【課題】配線部材と圧電アクチュエータとを接合する際に、溶融した導電材料のはみ出しを少なくするとともに、圧電アクチュエータと配線部材との距離を設けることができる配線ユニットの接合構造を提供すること。
【解決手段】COF50の基材51の一方の面にはランド52が設けられ、ランド52に対応する位置で、第1突出部101aと、それよりも突出量が低い第2突出部101bとを有する突出部101が配置された板状部材を、基材51の他方の面側から一方の面側押圧させた状態で両者を接着接合させることにより、突出部に対応するランド部52には、第1凸状電極部52aとそれよりも突出量が低い第2凸状電極部52bとが形成され、この第2凸状電極部52b上に導電性材料46が塗布される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッドが備える圧電アクチュエータなどの基材と接合される配線ユニット、配線ユニットの製造方法、液滴吐出ヘッドおよび液滴ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出装置の一例としてインクジェットプリンタには、インクを吐出するインクジェットヘッドが備えられている。インクジェットヘッドは、インクを吐出する複数のノズルを備え、それに対応する複数の圧力室を有する流路ユニットと、圧電層が積層された積層型の圧電アクチュエータとを備えている。この圧電アクチュエータの表面には、圧力室と対応する複数の表面電極が形成されている。そして、この表面電極に圧電アクチュエータを駆動するための駆動電圧を供給する複数の配線と端子部を備えるプリント回路基板(FPC)が、圧電アクチュエータ上に重ねられて接合されて各表面電極と端子部とが電気的に接続されている。そして、インクジェットヘッドは、FPCを介して選択的に表面電極に駆動電圧が供給されて、その表面電極と対応する圧電層が変形し対応する圧力室内のインクに吐出圧が付与されてノズルからインクを吐出することができる。
【0003】
従来、特許文献1によると、端子部と表面電極との間にハンダ等の導電性ろう材のバンプ電極を介し、ハンダ溶融点まで高温に加熱して両者を圧着することにより溶融したハンダが、端子部と電極とに介在した状態で合金化されることによって電気的かつ機械的に接続される。このとき、ハンダの量のばらつきにより溶融したハンダが表面電極の周辺へ流れ出し、近接する隣の電極と電気的にショートを起こしたり、圧電層の活性部に対応する領域の表面でハンダが硬化することによりインクの吐出動作に影響を及ぼすことがあった。また、はみ出すことによって、圧電層とFPCとの間の距離が稼げないため、圧電層表面とFPCとが接触しやすい。このようなはみ出しは導電性ろう材だけでなく、溶融性の導電材料を用いることで同じ問題が生じる。
【0004】
また、特許文献2によると、溶融される導電性材料を必要としないFPCの接合構造が開示されている。FPCのベースフィルムの端子部が形成される領域には、配線および端子部とを覆って、熱硬化性で絶縁性を有する合成樹脂ペーストを塗布し、加熱して半硬化状態にさせた未硬化の合成樹脂層を形成している。そして圧電アクチュエータには、表面電極上に導電性を有する樹脂製のバンプ電極を設け、FPCを圧電ユニットに熱圧着して、FPCの端子部を圧電アクチュエータのバンプ電極に押し当てる。これによって、バンプが未硬化の合成樹脂層を貫通して対応する端子部に当接し、未硬化の合成樹脂材がバンプの表面を包囲するようその表面に沿って流動すると共に、加熱によって表面電極と接触した状態で硬化する。このように、合成樹脂はバンプを包囲すると共に表面電極と接触して一体となった状態で硬化して、端子部は対応するバンプと直接接触して電気的に接続される。特許文献2のような接合構造では、特許文献1のように溶融した導電性ろう材が表面電極と端子電極の間からはみ出したりすることがなく、圧電層とFPCとの距離をバンプにより稼ぎつつ、電気的ショートや活性部を阻害することを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−313335号公報
【特許文献2】特開2005−305847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2のようなFPCの接合部は、合成樹脂により表面電極と端子電極とが機械的に接合されている状態のため、ハンダなどの導電性ろう材により各電極と合金化された接合部と比べると接合強度が弱く、FPCが圧電アクチュエータから剥がれ易い。そして表面電極と端子部との導通状態はバンプと端子部とが直接接触している状態で確保されるため、このような剥離が生じると電気的な不具合が発生し易くなる。また、特許文献2のバンプ電極は、導電性を有する樹脂製のバンプ電極であり、FPCを圧電アクチュエータに熱圧着する際に、圧電層上に設けられたバンプ電極が未硬化の合成樹脂層を貫通して先端部が端子電極と直接接触して導通をとるため、特許文献1のような溶融状態のハンダを表面電極に加圧させて接合する場合よりも圧電層に生じる加圧力が大きい。(特許文献1では、ハンダがその表面電極を超えてはみ出さない程度に押圧させなければならいので大きな加圧力がかけられない。)そのため、圧電層のバンプ電極が設けられた位置周辺に微小なクラックや欠けが入りやすく、バンプ電極が設けられていない部分に比べて脆弱になってしまう。特に少ない枚数の圧電層を積層してなる圧電アクチュエータの場合、もとより圧電層の強度が弱いため圧電層が破損することも考えられインクの吐出特性に大きな影響を与えやすい。また、圧電アクチュエータ内の内部電極にまで破損が及び電気的に断線を生じさせることもある。
【0007】
そのため、FPCと圧電アクチュエータとの接合強度を確保して両者の剥離を防止しつつ、圧電層にクラック等を発生させないことを考えた場合、ハンダなどの導電性ろう材を用いた接合構造を用いることが好ましいが、前述した溶融したハンダのはみ出しによる電気的短絡や圧電層を阻害することが問題となる。
【0008】
よって、本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであり、配線部材と圧電アクチュエータなどの基材とをハンダなどの導電性ろう材で接合する場合において、導電性ろう材のはみだしを抑制し、基材と配線基板との距離を稼ぐことができる配線ユニット、配線ユニットの製造方法、液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る配線ユニットは、
一方の面に突出部を有する板状部材と、前記板状部材の前記一方の面に接合される絶縁性フレキシブル層とを備え、前記絶縁性フレキシブル層は、前記板状部材と反対側の面における前記突出部と対応する領域に導電層が形成されており、前記絶縁性フレキシブル層には、その前記導電層が形成された領域が前記板状部材の前記突出部により押圧されて前記板状部材と反対側に突出することで、少なくとも先端を前記導電層で覆われた凸状電極が形成されていることを特徴とする。
【0010】
このような配線ユニットは、凸状電極の内部に芯となる突出部を備えていることから、配線ユニットが接続対象物と接合するときの押圧によって、凸状電極がつぶされすぎることがないため、接合する基材との間に一定の距離を有した状態で接合されることができ、接続対象物を傷つけることを防止することができる。
【0011】
また、突出部が、第1の突出部と第1の突出部よりもその突出量が小さい第2の吐出部とを有し、凸状電極は、第1の突出部に対応する第1の凸状電極部と、第2の突出部に対応する第2の凸状電極部とを有していることが好ましい。
【0012】
これによると、第2の凸状電極部を有していることにより、基材側と接合されたときに、突出量の高い第1の突出部が基材側に接触したときに、第2の凸状電極部は、基材との間に空間を有することができる。この空間において導電性材料を保持収容させることができるため、導電性材料のはみ出しを抑制して接合させることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明は、配線部材と圧電アクチュエータなどの接続対象物を導通させるように接合する場合においても、凸状電極のつぶれを抑制し基材と配線基板との距離を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明における実施の形態に係るプリンタの概略構成図である。
【図2】図1のインクジェットヘッドの分解斜視図である。
【図3】図2の平面図である。
【図4】(a)が図3の部分拡大図であり、(b)〜(d)が、(a)の振動板及び各圧電層の表面の図である。
【図5】図4のV−V線断面図である。
【図6】図4のVI−VI線断面図である。
【図7】インクジェットヘッドの製造工程を示す工程図である。
【図8】図7(d)の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0016】
図1は、本実施の形態に係る圧電アクチュエータを有する液滴吐出装置としてのプリンタ1の概略構成図である。このプリンタ1は、単独のプリンタ装置に適用しても、あるいは、ファクシミリ機能やコピー機能等の複数の機能を備えた多機能装置のプリンタ装置に適用してもよい。図1に示すように、プリンタ1は、装置本体内にキャリッジ2、インクジェットヘッド3、用紙搬送ローラ4などを備えている。なお、以下の説明ではノズルから液体を吐出する方向を下方向とし、その反対方向を上方向としている。また、必要に応じて図中の方向を定める場合は、適宜説明を付与する。
【0017】
キャリッジ2は、その上面が開口された略箱状の樹脂製のケースで、図1の左右方向(走査方向)に延びるガイド軸5に移動可能に載置され、図示しない駆動ユニットによって走査方向(左右方向)に往復移動するように構成されている。装置本体内には、複数種類のインク(例えば、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタの4種類)を供給するための交換式のインクカートリッジ(図示せず)が静置されていて、各インクカートリッジはインクチューブ(図示せず)を介してキャリッジ2内に載置されたインクジェットヘッド3に接続されている。また、キャリッジ2の下方に対向して、用紙搬送ローラ4とプラテン6が配置されていて、その両者の間に記録用紙Pが図1の手前方向(紙送り方向)に搬送される。インクジェットヘッド3は、キャリッジ2の下面に配置されており、複数のノズルをキャリッジ2のした面に露出開口させて搭載している。そして、プリンタ1においては、用紙搬送ローラ4により紙送り方向に搬送される記録用紙Pに、キャリッジ2とともに走査方向に往復移動するインクジェットヘッド3からインクを吐出することにより、記録用紙Pに印刷を行う。
【0018】
次に、インクジェットヘッド3について図2〜図6を用いて説明する。 なお、図面を分かりやすくするため、図2においては、後述するランド52と配線53とを透過した状態で図示している。図3、図4においては、後述する流路ユニット31のインク流路の一部の図示を省略し、図3では剥がれ防止板100は点線で記し、圧電アクチュエータ32の下部電極43及び中間電極44の図示を省略している。また、図4(a)においては、ともに点線で図示すべき下部電極43及び中間電極44を、それぞれ二点鎖線及び一点鎖線で図示している。さらに、図4(b)〜(d)においては、圧力室10と後述する下部電極43、中間電極44及び上部電極45との平面視での位置関係を示していて、各電極43,44,45にハッチングを付している。
【0019】
図2〜図6に示すように、インクジェットヘッド3は、複数のノズル15や複数の圧力室10等の複数のインク流路が形成された流路ユニット31と、流路ユニット31の上面に配置され圧力室10内に充満されたインクにノズル16からの吐出のための圧力を付与する圧電アクチュエータ32と、圧電アクチュエータ32と電気的かつ機械的に接続され、圧電アクチュエータ32を駆動する駆動回路を備えたドライバIC54が実装されたCOF50(Chip On Film)(配線部材)とからなる。流路ユニット31は、インク流路となる複数の貫通孔が形成された複数のプレート21〜24が互いに積層されることによって、インク供給口9からインクが供給されるマニホールド流路11、及び、マニホールド流路11の出口から流路12を経て圧力室10に至り、さらに、圧力室10から流路13、14を経てノズル15に至る複数の個別インク流路を有するインク流路が形成されている。そして、圧電アクチュエータ32により、圧力室10内のインクに圧力が付与されると、圧力室10に連通するノズル15からインクが吐出される。ノズルプレート24を除く3枚のプレート21〜23はステンレス板やニッケル合金鋼板などの金属材料により構成されており、ノズルプレート24はポリイミド等の合成樹脂材料によって構成されている。
【0020】
流路ユニット31の最上層のプレート21には、複数のノズル15に対応して複数の圧力室10が板厚を貫通して形成され、圧力室10は、走査方向(図3の左右方向)を長手方向とする略楕円形の平面形状(図4も参照)を有し、その一端を流路12と、他端がノズル15と連通するように形成されており、複数の圧力室10は紙送り方向(図3の上下方向)に沿って配列されて1つの圧力室列8を構成しており、このような圧力室列8が、走査方向に2列に配列されることによって1つの圧力室群7を構成している。さらに、このような圧力室群7が走査方向に沿って5つ配列されている。ここで、1つの圧力室群7に含まれる2列の圧力室列8を構成する圧力室10同士は、紙送り方向に関して互いにずれて配置されている。また、流路ユニット31の最下層のノズルプレート24には、複数の圧力室10の長手方向の一端と連通する複数のノズル15が下方に開口して貫通形成されていて、図示しないが、複数の圧力室10と同様に送り方向に配列しているとともに、ノズル列群をなし、走査方向に5つのノズル列群をなしている。
【0021】
そして、5つの圧力室群7のうち、図3の右側の2つを構成する圧力室10に対応するノズル15からは使用頻度の高いインク(ブラックインクなど)が吐出され、図3の左側の3つの圧力室群7の圧力室10に対応するノズル15からは、図3の右側に配列されているものから順に、各インク種類ごとにインクが吐出される。また、プレート22には、平面視で圧力室10の長手方向の両端部に重なる位置にそれぞれ流路12、13となる貫通孔が形成され、プレート23には、マニホールド流路11となる貫通孔が圧力室10の列に対応して紙送り方向に延び、平面視で圧力室10の長手方向と重なるとともにインク供給口9と連通する位置まで延設されている
次に、圧電アクチュエータ32は、振動板40、圧電層41、42、下部電極43、中間電極44、上部電極45を備えている。振動板40は、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との混晶であるチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする圧電材料からなり、複数の圧力室10を覆うように、流路ユニット31の上面に配置されている。また、振動板40の厚みは20μm程度となっている。なお、この振動板40は必ずしも圧電材料からなる必要はない。圧電層41、42は、振動板40と同様の圧電材料からなり、互いに積層されて振動板40の上面に配置されている。また圧電層41、42の厚みは、それぞれ20μm程度となっている。
【0022】
下部電極43は、振動板40と圧電層41との間に配置されており、図4(b)のように各圧力室群7に対応して、各圧力室群7を構成する2列の圧力室列8に沿って紙送り方向に延びており、これら2列の圧力室列8を構成する複数の圧力室10と平面視で重なり合うように対向している。また、図示しないが、各圧力室群7に対応して上記紙送り方向に延びた部分同士は互いに接続され、図示しない接続端子が設けられている。接続端子は、COF50上の図示しない配線のランドに接続され、配線を介して下部電極43は、常にグランド電位に保持されている。
【0023】
中間電極44は、圧電層41と圧電層42との間に配置されており、図4(c)のように各圧力室群7毎に、それぞれ、複数の対向部44a及び接続部44b、44cを有している。複数の対向部44aは、紙送り方向に関する長さが圧力室10よりも短い略矩形の平面形状を有しており、複数の圧力室10の紙送り方向に関する略中央部と対向するように配置されている。
【0024】
接続部44bは、紙送り方向に延びて、各圧力室群7を構成する2列の圧力室列8のうち、図4の右側に配置された圧力室列8を構成する複数の圧力室10に対応する複数の対向部44aの図4右側の端同士を接続している。接続部44cは、紙送り方向に延びて、各圧力室群7を構成する2列の圧力室列8のうち、図4の左側に配置された圧力室列8を構成する複数の圧力室10に対応する複数の対向部44aの図4左側の端同士を接続している。また、中間電極44は、図示しない接続端子と、COF50上の中間電極用の配線のランドに接続されており、配線を介して常に所定の正の電位(例えば、20V程度)に保持されている。
【0025】
複数の上部電極45(表面電極)は、図3、図4(d)のように圧電層42の上面(圧電アクチュエータの表面)に、複数の圧力室10に対応して、複数の圧力室10のほぼ全域と対向するように配置されており、紙送り方向に配列しているとともに、上部電極列群をなし、走査方向1つの上部電極列群に含まれる2列の上部電極45の列を構成する上部電極45同士は、紙送り方向に関して互いにずれて配置されている。
また、上部電極45は、紙送り方向に関する長さが中間電極44の対向部44aよりも長い、略矩形の平面形状を有し、上部電極45は、圧力室10のほぼ全域と対向する主電極部45bと、主電極部45bから走査方向に関するノズル15と反対側の端における一部分が、走査方向に圧力室10と対向しない部分まで延びており、この部分がCOF50の後述する配線53のランド52に接続される接続端子部45aとなっている。各電極43,44,45および接続端子部45aは、薄厚(1〜2μm程度)に形成されたAg-Pd系の材料で印刷形成され、さらに、接続端子部45aの表面にはガラスフリットを含んだAgペースト材料からなる外部電極47が配置されている。
【0026】
外部電極47の表面には、COF50のランド52に設けられたハンダなどの導電性ろう材46(本実施形態ではハンダを用い、以降ハンダ46とする。)が接合される。外部電極47は、導電性ろう材46との接合強度を向上させるために設けられていて厚みが厚く(10〜20μm程度)なるよう印刷形成されている。ハンダ46が設けられる上部電極45および接続端子部45aは、ハンダ46となじみのよいAg−Pd系の材料からなるため、溶融状態のハンダ46内に銀が拡散されてしまう所謂「銀食われ」が起こることがあり電気的に断線を起こしてしまうことがある。そのため、外部電極47を接続端子部45a上に配置しておくことが好ましく、その表面においてハンダ46と接触するようにしておくことで、電気的断線を防止している。また、上部電極45は、ハンダ46を介してCOF50上の配線53と電気的に接続されドライバIC54に接続されており、グランド電位と上記所定の電位(例えば、20V)との間でその電位が切り替えられる。なお、前述した中間電極44と下部電極43の図示しない接続端子も上部電極43と同様にハンダ46を介して配線と電気的に接続されている。
【0027】
また、圧電層42表面には上部電極45、接続端子部45aおよび外部電極47の他に、COF50との位置合わせに用いる平面視円形の位置合わせ用マーク 48とが印刷形成されている。位置合わせ用マーク48は、圧電アクチュエータ23の走査方向に沿う両側縁の中央部に各々平面視円形に形成されている。この位置合わせ用マーク48は、各電極43,44、45と同じAg−Pd系の導電性材料で形成されているから圧電セラミックス素材のシートに印刷して各電極43、44、45を形成する工程で同時に印刷し焼成して形成される。位置合わせ用マーク48は上部電極45と所定の位置関係で配置されていて、同時に印刷する(同じマスクを用いる)ことで、高い精度で位置関係を確保することができる。
【0028】
また、前述した圧電層42は、予め上部電極45と中間電極44とに挟まれた部分が上向きに分極されており、圧電層41、42は、上部電極45と下部電極43とに挟まれた部分が、上部電極45から下部電極43に向かって下向きに分極されている。なお、圧電層41のうち、中間電極44と下部電極43とに挟まれた部分は、中間電極44から下部電極43に向かって下向きに分極されている。
ここで、圧電アクチュエータ32の動作について説明する。まず、圧電アクチュエータ32がインクを吐出させる動作を行う前の待機状態においては、前述したように、下部電極43及び中間電極44がそれぞれ常にグランド電位及び上記所定の電位(例えば20V)に保持されているとともに、上部電極45の電位が予めグランド電位に保持されている。この状態では上部電極45が中間電極44よりも低電位になっているとともに、下部電極43と同電位となっている。
【0029】
これにより、上部電極45と中間電極44との間の電位差が生じ、圧電層42のこれらの電極に挟まれた部分にその分極方向と同じ上向きの電界が発生し、圧電層42のこの部分がこの電界と直交する水平方向に収縮する。これによりいわゆるユニモルフ変形が生じ、圧電層41、42及び振動板40の圧力室10と対向する部分(活性部)が全体として圧力室10に向かって凸となるように変形する。この状態では、圧電層41、42及び振動板40が変形していない場合と比較して、圧力室10の容積が小さくなっている。
【0030】
そして、インクを吐出させるべく圧電アクチュエータ32を駆動させる際には、上部電極45の電位を、一旦、上記所定の電位に切り替えた後、グランド電位に戻す。上部電極45の電位を上記所定の電位に切り替えると、上部電極45が中間電極44と同電位となるとともに、下部電極43よりも高電位となる。これにより、圧電層42の上記収縮が元に戻る。そしてこれと同時に、上部電極45と下部電極43との間に電位差が生じ、圧電層41、42のこれらの電極に挟まれた部分にはその分極方向と同じ下向きの電界が発生し、圧電層41、42のこの部分が水平方向に収縮する。これにより、圧電層41、42及び振動板40の圧力室10と対向する部分が全体として、圧力室10と反対側に凸となるように変形し、圧力室10の容積が増加する。その結果、圧力室10内のインクの圧力が低下して、マニホールド流路11から圧力室10にインクが流れ込む。
【0031】
この後、上部電極45の電位をグランド電位に戻すと、前述したのと同様、圧電層41、42及び振動板40の圧力室10と対向する部分が全体として圧力室10に向かって凸となるように変形し、圧力室10の容積が小さくなる。これにより、圧力室10内のインクの圧力が上昇し、圧力室10に連通するノズル15からインクが吐出される。
【0032】
また、上述したようにして圧電アクチュエータ32を駆動させる場合、上部電極45の電位をグランド電位から所定の電位に切り替えたときには、圧電層42の上部電極45と中間電極44とに挟まれた部分が収縮した状態から収縮前の状態に伸長すると同時に、圧電層41、42の上部電極45と下部電極43とに挟まれた部分が収縮するため、圧電層 42の上記の伸長が、圧電層41、42の上記収縮に一部吸収される。
一方、上部電極45の電位を所定の電位からグランド電位に戻したときには、圧電層42の上部電極45と中間電極44とに挟まれた部分が収縮するとともに、圧電層41、42の上部電極45と下部電極43とに挟まれた部分が収縮前の状態まで伸長するため、圧電層42の上記収縮が圧電層41、42の上記伸長によって一部吸収される。
【0033】
以上のことから、圧電層41、42の圧力室10と対向する部分の変形が他の圧力室10と対向する部分に伝達して当該他の圧力室10に連通するノズル15からのインクの吐出特性が変動してしまう、いわゆるクロストークが抑制される。
【0034】
なお、上述した待機状態及び圧電アクチュエータ32が駆動されている間においては、圧電層41の中間電極44と下部電極43との間の部分には常に電位差が生じており、圧電層41のこの部分には、その分極方向と同じ方向の電界が発生している。これにより、圧電層41のこの部分は常に収縮した状態となっている。なお、アクチュエータの構成および駆動方式は、圧力室に充満されたインクをノズルから吐出させるための圧力が付与できれば、本発明に適用することが可能である。
【0035】
次に、圧電アクチュエータ32に電位を付与するCOF50(配線部材)について説明する。COF50は、基材(フレキシブル層)51、複数のランド52(導電層/接合部)、複数の配線53、53z、ドライバIC54及び保護層55を有し、圧電アクチュエータ32の上方に配置されて接続されており、走査方向に引き出されている。そして、基材51は後述する剥がれ防止板100に接着層59を介して接続される。
【0036】
基材51はポリイミドなどの透明性を有する樹脂材からなり絶縁性および可撓性を有した帯状で圧電材料よりも線膨張係数が大きい。配線53は銅などの導電性材料で基材51上に印刷などで形成され、基材51は配線53が形成された面(下面)が圧電層42と対向して圧電アクチュエータ32上に配置される。また、配線53を保護する保護層55が配線53が形成された面を覆っている。ドライバIC54は、圧電アクチュエータ32に印加する駆動信号を供給するための駆動回路を内蔵していて、COF50の引き出された部分の上面に配置されている。ドライバIC54には、本体側プリンタからの駆動信号が入力される入力用の配線53zと、ドライバIC54から各電極43に駆動信号が出力される出力用の配線53が接続されている。
【0037】
ランド52は、基材51の圧電層42との対向面の平面視で接続端子部45aと重なる部分に配置され、圧電アクチュエータ32とCOF50との接続時にハンダ46と接触して電気的接続点となる。また、ランド52は、ドライバIC54から延在する複数の出力用の配線53の端部に設けられていてドライバIC54と接続されている。なお、図示しないが、COF50には、中間電極44および下部電極43に接続される配線およびランドがドライバIC54を介さずに配線されている。なお、基材51の圧電層42と反対側の上面に形成されたドライバIC54と、基材51の下面に形成された配線53とは、基材51に形成された図示しないスルーホールなどを介して接続されている。
【0038】
また、COF50は、基材51のランド52および配線53が形成された面を圧電層42と対向させて配置するとともに、その面に配線53を覆うソルダーレジストなどの保護層55が形成されている。ランド52は、圧電層42上の外部電極47と対向した位置において保護層55をエッチングなどで圧電層42側に開口させることで、配線53が圧電層42側に露出されて構成される。なお、ランド52は外部電極47よりも平面視で広い面積で、後述する剥がれ防止板100の突出部101よりも平面視で広い面積を有するように保護層55を開口されて形成する。
【0039】
ランド52は、後述する製造工程において、圧電層42側に突出する凸状電極52に形成される。(以降の説明では、ランド52を凸状電極52とし、使い分ける必要があるときは適宜説明を補うこととする。) 凸状電極52は、図8に示すように、第1の凸状電極部52aとそれよりも突出量が少ない第2の凸状電極部52bとを有し、なだらかに連続した斜面を有した凹凸形状に形成されている。つまり、凸状電極52の先端部は、第1の凸状電極部52aとなる。そして断面視で第2の凸状電極部52b側に配置されたハンダ46が溶融して、圧電層42の外部電極47とを電気的かつ機械的に接合して、圧電アクチュエータ32とCOF50とが接合している。保護層55は、凸状電極部52が圧電層42側に開口されている部分以外では、圧電層42とCOF50の下面との距離が設けられ、配線53を保護するとともに、圧電層42には接触しない。
【0040】
また、図2に示すように、COF50には、圧電アクチュエータ32との位置合わせに使う位置合わせ用マーク58が、基材51が引き出される方向に平行な両側縁の中央部に設けられている。この位置合わせ用マーク58は、導電性材料を圧電アクチュエータ23の位置合わせ用マーク48の円形状よりもひと回り小さい円形状に形成しており、導線53の形成と同時にエッチング加工され、ランド52と所定の位置関係に配置されている。位置合わせ用マーク58が設けられた箇所では、圧電アクチュエータ23の位置合わせ用マーク548よりも僅かに大きな面積で、保護層55が除去され、位置合わせ用マーク58が上面に露出されている。
【0041】
また、インクジェットヘッド3は、COF50の基材51の上面に、剥がれ防止板100(板状体)が配置されている。圧電アクチュエータ32と接合されたCOF50は、後工程において、キャリッジ内にインクジェットヘッド3を搭載する作業など、作業者により機械的な力が加わりやすいため、圧電アクチュエータ32の外周縁のCOF50との接続部分が剥がれやすく、ハンダ46とランド52との接続部が剥がれて電気的断線を起す虞がある。そのため、COF50の剥がれ防止板100を基材51上に接合することにより、COF50の剥がれを抑制している。
剥がれ防止板100は圧電アクチュエータ32と平面視でほぼ同じ面積を有する紙送り方向に長い略矩形状のABS系の樹脂やPBT/ABS系のポリマーアロイなどの板材で、走査方向の平行な両辺の中央部には、COF50と圧電アクチュエータ32との位置合わせするために設けられた位置あわせ用の貫通部108が切欠形成されている。貫通部108は、切欠ではなく穴状に穿孔形成してもよい。
【0042】
本発明の剥がれ防止板100の下面(対向面)100cは、基材51の配線側面(一方の面)とは反対側の面(他方の面)と対向するように配置され、その対向面100cには、複数の突出部101が基材51側に突出するように形成されている。複数の突出部101は、剥がれ防止板100の対向面100cにおける、圧電アクチュエータ23の複数の外部電極47と対向する位置に配置されている。つまり、複数の突出部101は、剥がれ防止板100の基材51との接着面に、複数の外部電極47およびランド52位置と対応して同数設けられている(図5参照)。なお、剥がれ防止板100の貫通部108は、突出部101に対して所定の位置関係で形成されている。
【0043】
突出部101は、平面視で略円形状で、断面視で第1の突出部101aと第2突出部101bとが一体化され、なだらかに連続した斜面を有した凹凸形状となっている(図8参照)。第1突出部101aは、剥がれ防止板100の基材51側の平坦面から基材51側への突出量が第2突出部101bよりも高くなるように形成され、両者はなだらかに連続している。突出部101は同じくABS系の樹脂やPBT/ABS系のポリマーアロイ、導電性接着剤などで形成され、剥がれ防止板100にプレス加工などで一体成形または、剥がれ防止板100にディスペンサーなどによって位置あわせされて接着接合される。突出部56の幅W1は、外部電極の幅W2よりも小さく、外部電極の幅W2は、ランド52の幅W3よりも小さくなるようにランド52は平面視で広い面積を有している。
【0044】
また、突出部101は、図5に示すようにその突出量の大きい第1突出部101aを、圧電アクチュエータ23の接続端子部45aにおいて、断面視で圧電アクチュエータ32における、圧力室10と対向し、圧電層が変形する部分(活性部)側になるように配置され、第2突出部101bは活性部とは走査方向に反対側になるように配置される。
【0045】
剥がれ防止板100は、後述するインクジェットヘッド3の製造工程において、突出部101が突出している側の面を、基材51の上面と対向させて重ね、突出部101をその対向する基材51の上面側から押圧して直接接触させ、基材51の対向部分を撓ませて変形させるとともに、突出部101と対向しない平坦面においては、基材51の上面と剥がれ防止板58との間の隙間に充填された接着剤59によって接合された配線ユニット150が形成される。接着剤59は、例えば、接着剤シートなど汎用に使用される接着剤である。つまり、配線ユニット150は、剥がれ防止板100の平坦面が基材51の上面に接合固定され、基材51は剥がれ防止板100とは反対側(圧電層23側)に突出し、芯部として突出部101を有した凸状電極52を有している。
【0046】
凸状電極52は、突出部101の形状にならって形成されるものであるから、凸状電極52は、第1の突出部101aに対応する第1の凸状電極部52a、第2の突出部101bに対応する第2凸の状電極部52bを有していて、第1の凸状電極部52aは圧電層23側への突出量が第2の凸状電極52bよりも大きくなっている。そして、第1の凸状電極部52aは接続端子部45aにおける活性部側に配置され、第2の凸状電極部52bは、活性部とは走査方向に反対側に配置されている。また、図8に示すように、第2の凸状電極部52bが第1の凸状電極部52aよりも突出量が低いことにより、圧電層42と接合されたときに、第1凸状電極部52aが外部電欲47と接触したとき、第2の凸状電極部52bとの間に、そこにハンダ46を保持できるような空間Aを形成することができる。
【0047】
そして、このような凸状電極52を有した配線ユニット150と、圧電層42とが熱圧着されて接合し、第1の凸状電極部52aが外部電極47と接触するとともに、第2凸状のランド部52b上に配置された溶融状態のハンダ46がなだらかな斜面に沿って流動して空間Aにおいて保持されて硬化することで両者が接合される。
【0048】
配線ユニット150の凸状電極52は芯部101を備えていることから、凸状電極52は、圧電アクチュエータ23との接合時の押圧によってつぶされすぎることがないため、圧電層42と配線ユニット150との間に一定の距離を有した状態で接合されることができる。また、配線ユニット150は、基材51よりも剛性のある剥がれ防止板100が接合された状態で圧電アクチュエータ23と接合される。
【0049】
よって、例えば、従来であれば、COF50の基材51が熱圧着時の熱により圧電層42側に撓んで、圧電層42に接触して傷つけアクチュエータ32の駆動を阻害したりしてしまうのが防止されている。また、インクジェットヘッド3をキャリッジ2に搭載したりするときなどの組立工程において、予期しない衝撃や押圧力がインクジェットヘッド3に加わったりしても、圧電層42と基材51との間の空間が広くなっていることに加えて、剥がれ防止板100が基材51上に配置されているため、圧電層42を傷つけることを防止できる。
【0050】
次に、インクジェットヘッド3の製造方法について説明する。図7は、インクジェットヘッド3の製造工程を示す工程図である。図7においては、図面を分かりやすくするために、その上下方向に関する長さに対する左右方向に関する長さを縮めて描いている。なお、図7(a)に先立って、流路ユニット31と圧電アクチュエータ23の積層体が予め形成される。具体的には、流路ユニット31と圧電アクチュエータ23とは、圧電アクチュエータ23における下面(圧力室10と対面する広幅面)全体に、接着剤シート(図示せず)を貼着しておき、次いで、流路ユニット31に対して、圧電アクチュエータ23が、電極45を流路ユニット31における各圧力室10の各々に対応させて接着、固定される。これにより流路ユニット31と圧電アクチュエータ23との積層体が形成される。そして、以下図7に基づいて説明する製造方法は、この積層体に対してなされるものであるが、図7においては、流路ユニット31の記載は省略してある。
【0051】
まず、図7(a)に示すように、予め樹脂製の剥がれ防止板100に対し、突出部101を形成する。このとき、突出部101は、剥がれ防止板100の素材であるABS樹脂材料で形成された板状部材にプレスなどにより一体形成され、第1突出部101aとそれよりも高さの低い第2突出部101bを有した凹凸形状になるように形成される。なお、突出部101は、COF50の基材51に対して硬度が高い材料であればよい。また、突出部101を板状部材に対してディスペンサーや吐出装置などによって、位置合わせされて塗布させてやってもよい。また、剥がれ防止板100の両短辺における中央部には、COF50に積層するときの位置あわせ用の切欠50aを形成させる。(板状部材形成工程)
【0052】
一方、図7(b)では、COF50の基材51の配線を覆う保護層55が形成された側においては、外部電極47と対応する位置に外部電極47よりも幅が広い開口をエッチングにより形成して(導電層形成工程)、配線を露出させてランド部52を形成する。そして、マスクにより剥がれ防止板100の第2突出部101bに対応する領域においてハンダ46がメッキ工法により精度良く配置される。(導電性材料配置工程)
【0053】
そして、図7(c)に示すように、基材52の配線側の面とは反対側の面に接着シート59を接着させた後、突出部100が形成された剥がれ防止板100を、突出部100が形成された側の面を基材52の配線側の面とは反対側の面に重ね、位置あわせマーク58と貫通孔108が位置あわせされ、ランド52と突出部100とが互いに対向するように剥がれ防止板100とCOF50とを位置あわせしてから両者が積層される。このとき、図示しない押圧手段により、突出部101を基材51側に向かって押圧しながら、剥がれ防止板100の突出部101側の平坦面と、基材52の配線側とは反対側の平坦面とが接着されるように押圧すると、突出部101が可撓性の基材52よりも硬度があるため、配線側の面方向へ押圧され撓んで変形し配線側へ突出する。基材51のランド部52は、突出部101の幅W1よりも広いW3に形成されているため、基材51の変形に伴い、ランド部52が基材51の変形に沿う形で撓み変形し、変形部を確実に覆うため、裾野を有したなだらかな突起状に変形する。そして、このような状態で接着シート59が硬化されるため、少なくとも先端部がランド部52に覆われた状態で配線側に突出した凸状電極52が形成される。このとき、凸状電極52は、突出部101の形状に反って変形するため、第1凸状電極部52aと、第2凸状電極部52bとが、第1の突出部101a、第2の突出部101bに対応して形成される。(凸状電極形成工程)
【0054】
なお、ランド52は、凸状電極部52となったときに、後の工程で外部電極47と接触する先端部の第1凸状電極部52aが形成できる面積を少なくとも有していればよいが、図8のように、裾野からなだらかに突起されるような面積を有することが望ましい。また、ハンダ46は、第2突出部101bに対応する領域に配置されているため、第2凸状電極部52b上に配置された状態となっている。また、剥がれ防止板100をCOF50の背面側に接着固定され、配線側に凸状電極52を有した配線ユニット150が形成される。(図7(d)/配線ユニット形成工程)
【0055】
そして、図7(e)にあるように、流路ユニット31と圧電アクチュエータ23との積層体に対し、配線ユニット150の凸状電極52が突出した側と、圧電アクチュエータ23の外部電極47が配置されている側とを対向させ、凸状電極52と外部電極47とが互いに対向するように、貫通孔108、位置あわせマーク58と、位置合わせマーク48とを位置あわせして、圧電アクチュエータ23と配線ユニット150とを重ねる。
【0056】
このとき、COF50の位置合わせ用マーク58と、圧電アクチュエータ23の位置合わせ用マーク48とが位置合わせされるが、位置合わせ用マーク58を含む領域では、剥がれ防止板100に貫通部108が設けられていることと、COF50の保護層55が除去されていることと、基材51が透光性を有していることにより、図1、3にあるように、垂直方向上方から下方に向けてみたときに、COF50の位置合わせ用マーク58だけでなく、基材51を通して圧電アクチュエータ23の位置合わせ用マーク48も視認することができる。
【0057】
圧電アクチュエータ23の位置合わせ用マーク48は、上側に位置するCOF50の位置合わせ用マーク58よりも大きな円形であるから、これらの中心を容易に重ね合わせることができ、高い精度でCOF50のランド52と圧電アクチュエータ23の外部電極47とを位置合わせすることができる。よって、COF50に先に形成されている凸状電極52を外部電極47の位置に対応させることができる。なお、マーク48、55を、それぞれカメラで撮像し、画像表示装置の上で拡大表示して位置合わせしても良いし、マーク48、55を、それぞれ画像処理して位置合わせしても良い。
【0058】
図7(e)に戻り、配線ユニット150の剥がれ防止板100の上から圧電アクチュエータ23に向けて加熱押圧手段H(例えばバーヒーター)を当て、押圧と熱を加える。このときに、バーヒーターHの熱は、剥がれ防止板100の突出部101を介して、COF50の凸状電極52に伝わり、第2凸状電極部52b上に配置されたハンダ46が溶融する。このとき、第1凸状電極部52aは、外部電極47と直接接触しており、それよりも突出量の低い第2凸状電極部52bは、外部電極47との間に空間Aを形成している。溶融したハンダ46は、第2凸状電極部52aからなだらかな斜面に沿って、外部電極47上にまで到達し、空間A内に保持され、第1凸状電極52aと外部電極47との接触状態を溶融したハンダ46と合金化することで固定させることができる。よって、配線ユニット150と圧電アクチュエータ23とが電気的かつ機械的に接合される。(図7(f)(接続工程))
【0059】
なお、板状部材形成工程において、突出部100は、突出量の大きい第1の突出部101aを、圧電アクチュエータ23の接続端子部45aにおいて、断面視で活性部側になるように配置され、第2の突出部101bは活性部とは走査方向に反対側になるように配置させるが、この位置関係に対応して、凸状電極形成工程においては、突出量の大きい第1の凸状電極部52aが活性部側に形成され、それよりも小さい第2の凸状電極部52bが活性部とは走査方向に反対側に形成される。そして、第2の凸状電極部52b上にはハンダ46が配置される。
【0060】
なお、導電性配置工程は、凸状電極52を形成した後に、第2凸状電極部52に対して、ハンダペーストをディスペンサーにより塗布させてやることでハンダ46を配置してもよい。 よって、このような配線ユニット150と圧電アクチュエータ23との接合においては、ハンダ46は、活性部側とは反対側の第2凸状電極部に配置されることで、溶融したハンダ46が第1凸状電極部52aにさえぎられて、活性部側に回り込むことができない。接続端子部45aおよび上部電極45となじみのよいハンダ材料を用いて接合したとしても、活性部側には広がらないため活性部へのハンダによる阻害を抑制することができる。
【0061】
また、従来のように平坦なランド部に対してハンダバンプを形成する場合と比べて、ランド52が凸状電極52を形成しているため、ハンダバンプを形成するためのハンダ量よりも少なくすることができる。また、一般に一つの突起状に形成された電極と比べて、本発明の突起状電極は、第1凸状電極部52aとそれよりも突出量の低い第2凸状電極部52bとを有し、外部電極47との間に、圧電層42とCOFとの隙間よりも狭い空間Aを形成し、空間Aに発生する毛管力によって、第2凸状電極部52b上に配置されたハンダが溶融したときに、外部電極47との空間A内において保持される。よって、一般的な突起状の電極に対して、ハンダなどの溶融性の導電性材料を塗布して接合する場合と比べると、少ないハンダ量においても空間A内に保持されることができるため、外部電極と突起電極との接合が保障できるのである。また、凸部電極52は、芯部101を有しているため、接合時の押圧力がかかったとしても、その形状を保持することができるため、外部電極47との間に形成される空間Aもその領域を保持することができるため、接合時の押圧力が必要以上にかかったとしても、ハンダ46を空間A内にとどめておくことができる。
【0062】
さらには、本発明では、ハンダ46が配置されるのが、活性部とは走査方向に反対側にいる第2凸状電極側であるため、第1凸状電極部によってさえぎられることでハンダ量のばらつきなどによって活性部側に溶融したハンダ46が回りこむことがなく、活性部を阻害する危険性が少なくなる。
【0063】
特に圧電アクチュエータ12は、前述したように振動板40及び圧電層41、42がユニモルフ変形する圧電アクチュエータ32においては、通常のハンダバンプを用いると、その溶融したハンダにより、ハンダ流れが発生して圧電層上で硬化してしまうことで、圧電層の変形を阻害しノズル15からのインクの吐出駆動の阻害は大きなものとなるが、本発明によると、従来のようにランド部にたいしてハンダバンプを形成する場合と比べて、少ないハンダ量で接合することができ、また、活性部側に回りこんで活性部を阻害する危険性が少ないため、上述のような薄型の圧電アクチュエータに対しても電気的に機械的にも接合の安定性があるハンダ接合を施すことができる。さらにそのハンダ量が少なくて済むことから、ハンダ流れを防止するとともに、ハンダが硬化するときに圧電層側に与える応力も少ないため、薄厚のアクチュエータにおいても、クラック等の剥離をする危険性が少ない。
【0064】
また、芯を有した凸状電極がその形状を保持した形で接合するため、圧電層とCOFとの間に距離を稼ぐことができ、加えて、COFを圧電アクチュエータに位置合わせする前に、COFにこれよりも剛性の高い剥がれ防止板を固着しているから、圧電層を傷つける危険性を抑制することができる。また、COF単体では、薄いフィルム状で剛性が低いために、位置合わせ工程でのハンドリングや、作業性が悪いという欠点を有していたが、COFを圧電アクチュエータに位置合わせする前に、COFにこれよりも剛性の高い剥がれ防止板を固着しているから、COFを平坦な状態に保ったままで、容易に作業することができ、作業時間の短縮を図ることができる。
【0065】
なお、本実施形態では、突出部を有する剥がれ防止板100は、COF50のはがれを防止するための板材を例として説明をしたが、例えば、COFにさらに剛性を高めさせたいときには、この板状部材を金属製の剛性のある材料で形成するように機能を兼ねてもよく、また、均熱性を高めるためには、熱伝導性に優れた材料により形成することで局所的な発熱を分散させる均熱板としての機能をかねてもよい。他に、圧電アクチュエータ駆動時の振動によりクロストークが起こりやすくなることを抑えるための振動抑え板の機能を兼ねていてもよい。
【0066】
また、本発明においては、凸状電極は、圧電アクチュエータを駆動させるための複数の駆動電極となるように、複数の外部電極47と対応する位置に形成されているが、駆動電極としてだけでなく、例えば、駆動電極の外周縁に沿ってダミー凸状電極を形成してもよく、駆動電極部を保護するための補強ダミー凸状電極としてもよい。
【0067】
また、本実施の形態では、圧電アクチュエータ32がいわゆるユニモルフ変形により圧力室10内のインクに圧力を付与するものであったが、これには限られない。例えば、厚み方向に分極された複数の圧電層が圧力室上に積層されており、これらの圧電層にその厚み方向の電界を発生させることにより圧電層をその厚み方向に伸長させて、圧力室10内のインクに圧力を付与する圧電アクチュエータなど、ユニモルフ変形とは異なる変形によって圧力室10内のインクに圧力を付与する圧電アクチュエータに本発明を適用することも可能である。
【0068】
また、以上では、圧力室内のインクに圧力を付与することにより、ノズルからインクを吐出するインクジェットヘッド及び、インクジェットヘッドに用いられる圧電アクチュエータに本発明を適用した例について説明したが、これには限られず、インク以外の液体を吐出又は移送する液体吐出装置、及びこのような液体移送装置に用いられる圧電アクチュエータに本発明を適用することも可能である。また、圧力室内の液体に圧力を付与すること以外の目的に用いられる圧電アクチュエータに本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0069】
32 圧電アクチュエータ
41、42 圧電層
45 上部電極
45a 接続端子
46 導電性材料
52 ランド
52a 第1の凸状電極部
52b 第2の凸状電極部
55 接着剤
50 COF
51 基材
100 板状体
101 突出部
101a 第1の突出部
101b 第2の突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に突出部を有する板状部材と、
前記板状部材の前記一方の面に接合される絶縁性フレキシブル層とを備え、
前記絶縁性フレキシブル層は、前記板状部材と反対側の面における前記突出部と対応する領域に導電層が形成されており、
前記絶縁性フレキシブル層には、その前記導電層が形成された領域が前記板状部材の前記突出部により押圧されて前記板状部材と反対側に突出することで、少なくとも先端を前記導電層で覆われた凸状電極が形成されている、ことを特徴とする配線ユニット。
【請求項2】
前記突出部は、第1の突出部と前記第1の突出部よりもその突出量が小さい第2の吐出部とを有し、前記凸状電極は、前記第1の突出部に対応する第1の凸状電極部と、前記第2の突出部に対応する第2の凸状電極部とを有していることを特徴とする請求項1に記載の配線ユニット。
【請求項3】
一方の面に突出部を有する板状部材と、前記板状部材の前記一方の面に接合される絶縁性フレキシブル層とを備え、前記絶縁性フレキシブル層は、前記板状部材と反対側の面における前記突出部と対応する領域に導電層が形成されており、前記絶縁性フレキシブル層には、その導電性が形成された領域が前記板状部材の前記突出部により押圧されて前記板状部材と反対側に突出することで、少なくとも先端を前記導電層で覆われた凸状電極が形成されている配線ユニットと、
ノズルと連通した圧力室を含む液体流路が形成された流路ユニットと、
複数の圧電層を有し、前記圧力室と対向しその圧力室内の液体に吐出圧力を付与する活性部を有し、最外層にある前記圧電層の表面には、前記活性部に対応する表面電極を有した圧電アクチュエータとを備えており、
前記配線ユニットは、前記凸状電極の前記先端が前記圧電アクチュエータの前記表面電極と導電性材料を介して接合されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記突出部は、第1の突出部と前記第1の突出部よりもその突出量が小さい第2の突出部とを有し、前記凸状電極は、前記第1の突出部に対応する第1の凸状電極部と、前記第2の突出部に対応する第2の凸状電極部とを有し、
前記凸状電極は、少なくとも前記第2の凸状電極部が前記導電性材料を介して前記表面電極と接合されていることを特徴とする請求項3に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
前記表面電極は、前記活性部と対応する主電極部と、前記主電極部から延びて形成された接続端子部とを備え、
前記凸状電極は、前記接続端子部に対向する位置で、かつ、前記第1の凸状電極部を前記活性部側にして配置し、第2の突状電極部が前記活性部とは離れて配置されていることを特徴とする請求項4に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
その一方の面に導電層が形成された絶縁性フレキシブル層を形成する絶縁性フレキシブル層形成工程と、
その一方の面に突出部を有する前記絶縁性フレキシブル層よりも剛性の高い板状部材を形成する板状部材形成工程と、
前記導電層が形成された面を前記板状部材と反対側に向けるとともに、前記導電層と前記突出部と重なるように対応させた状態で、前記板状部材と前記絶縁性フレキシブル層とを重ねて接合し、これにより、前記導電層が形成された領域を前記突出部により突出変形させられた前記絶縁性フレキシブル層が前記板状部材に固定された状態とすることで、前記絶縁性フレキシブル層に少なくとも先端を前記導電層で覆われた凸状電極を形成する凸状電極形成工程と、
を備えることを特徴とする配線ユニットの製造方法。
【請求項7】
前記板状部材形成工程において、前記突出部は、第1の突出部と前記第1の突出部よりもその突出量が小さい第2の突出部とを有して形成され、
前記凸状電極形成工程において、前記凸状電極は、前記第1の突出部に対応する第1の凸状電極部と、前記第2の突出部に対応する第2の凸状電極とが形成されることを特徴とする請求項6に記載の配線ユニットの製造方法。
【請求項8】
ノズルと連通した圧力室を含む液体流路が形成された流路ユニットと、前記圧力室と対向し当該圧力室内の液体に吐出圧力を付与する活性部を有し、その表面には前記活性部に対応する表面電極を有する圧電アクチュエータを備えたヘッド本体と、前記圧電アクチュエータに対して接合される配線ユニットとを有する液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
前記配線ユニットを、
その一方の面に導電層が形成された絶縁性フレキシブル層を形成する絶縁性フレキシブル層形成工程と、
その一方の面に突出部を有する前記絶縁性フレキシブル層よりも剛性の高い板状部材を形成する板状部材形成工程と、
前記導電層が形成された面を前記板状部材と反対側に向けるとともに、前記導電層と前記突出部と重なるように対応させた状態で、前記板状部材と前記絶縁性フレキシブル層とを重ねて接合し、これにより、前記導電層が形成された領域を前記突出部により突出変形させられた前記絶縁性フレキシブル層が前記板状部材に固定された状態とすることで、前記絶縁性フレキシブル層に少なくとも先端を前記導電層で覆われた凸状電極を形成する凸状電極形成工程と、
によって形成し、
その後、前記凸状電極の前記先端を前記圧電アクチュエータの前記表面電極と導電性材料を介して接合する接続工程を行なう、ことを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記導電層形成工程の後で、前記凸状電極形成工程の前において、前記導電層に部には、前記凸状電極形成工程における、前記第2の凸状電極部となる領域に導電性材料を配置させる導電性材料配置工程とを有することを特徴とする請求項8に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記凸状電極形成工程の後で、前記接続工程の前において、前記第2の凸状電極部に導電性材料を配置させる導電性材料配置工程とを有することを特徴とする請求項8に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記表面電極は、前記活性部と対応する主電極部と、前記主電極部から延びて形成された接続端子部とを備え、前記接続工程において、前記凸状電極は、前記接続端子部に対向する位置で接続されていて、
前記板状部材形成工程において、前記第1の突出部を前記活性部側に、前記第2の突出部を活性部側と離れるように配置して形成されることを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−260187(P2010−260187A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110610(P2009−110610)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】