説明

酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法

【課題】 酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチングにおいて、最適なエッチング速度でエッチング処理を施すことができ、配線パターンの粗密やパターン形状に依存せず、サイドエッチングや異方性エッチングを抑制し、且つエッチング残渣の発生を抑制するエッチング方法を提供すること。
【解決手段】 酸化亜鉛系結晶からなる薄膜を、エッチング液を用いてエッチングするエッチング方法であって、成膜基板上に前記薄膜を形成し、該薄膜の表面全体を亜鉛及び/又は亜鉛酸化物を構成成分とする炭化物系化合物からなる被膜によって被覆した後エッチング処理を施し、エッチング処理の途中から前記薄膜と前記エッチング液の相対関係を動的状態とすることを特徴とする酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法に関し、より詳しくは、酸化亜鉛系結晶薄膜のウェットエッチングにおいて、エッチング速度を制御するとともに、サイドエッチングや異方性エッチング、及びエッチング残渣の発生を抑制することのできるエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、タッチパネル、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ等に用いられる導電性薄膜において、その配線パターンは微細化する傾向にあり、ドライエッチング、ウェットエッチングのいずれにおいても高いアスペクト比でのエッチング処理が必要とされている。そのため、配線パターンの粗密やパターン形状に依存せずに、サイドエッチングやエッチング残渣の発生を抑制するエッチング方法が求められている。ウェットエッチングにおいては、更に、エッチング処理終了までエッチング速度が適度に保持されることが求められている。
【0003】
エッチング処理の過程で生じるエッチング残渣は、エッチング対象物やエッチングの対象物と反応種(例えば反応性ガスやエッチング液等の薬液)との反応生成物である。このエッチング残渣を効率的に除去するために、エッチングの対象物に垂直方向の振動を加える方法が特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献1に開示の方法では、エッチング対象物を保持する保持手段に高周波電力を印加し、この電力を周期的に変化させることで、エッチング対象物に振動が加えられる。そうすることで、配線パターン上のレジスト残存物をパターンから乖離することが可能となる。
しかしながら、この方法はドライエッチングにのみ適用されるものであって、配線パターン上のレジスト残存物を除くことは可能であるが、エッチング残渣の発生を抑制できるものではなかった。
【0005】
一方、エッチング処理を施す前にエッチング対象物をオゾン水に浸漬するとともに、
超音波振動による振動を加えてエッチング残渣の発生やサイドエッチングを防止する方法が特許文献2に開示されている。
この開示技術を用いると、ステンレス鋼(SUS)に対してはエッチング残渣の発生とサイドエッチングを抑制することが可能となる。しかしながら、オゾン水の酸化作用が強いため金属酸化物等の材料は腐食される虞があり、このような材料の前処理には適用できない方法である。
【0006】
金属酸化物の一例として酸化亜鉛が挙げられる。この酸化亜鉛やドーパントを含有する酸化亜鉛は酸化インジウムスズ(ITO)の代替材料として有望である。しかしながら、酸化亜鉛系結晶の最適なエッチング条件を決めることは困難であった。特に、エッチング速度が過剰に速くなるためサイドエッチングが生じやすく、エッチング処理に伴って生じる残渣が多い等の問題点があった。これらの問題を解決するための最適な前処理方法やエッチング方法は確立されておらず、エッチング速度が速くならずに適度に保持され、且つサイドエッチングや異方性エッチング、エッチング残渣の発生を抑制するエッチング方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−16585号公報
【特許文献2】特開2002−38282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した問題を解決すべくなされたものであって、酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチングにおいて、最適なエッチング速度でエッチング処理を施すことができ、配線パターンの粗密やパターン形状に依存せず、サイドエッチングや異方性エッチングを抑制し、且つエッチング残渣の発生を抑制するエッチング方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、酸化亜鉛系結晶からなる薄膜を、エッチング液を用いてエッチングするエッチング方法であって、成膜基板上に前記薄膜を形成し、該薄膜の表面全体を亜鉛及び/又は亜鉛酸化物を構成成分とする炭化物系化合物からなる被膜によって被覆した後エッチング処理を施し、エッチング処理の途中から前記薄膜と前記エッチング液の相対関係を動的状態とすることを特徴とする酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法に関する。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記薄膜を傾斜させて、該薄膜の表面に前記エッチング液を流して前記動的状態とすることを特徴とする請求項1記載の酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法に関する。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記薄膜の表面に、前記エッチング液を噴霧して前記動的状態とすることを特徴とする請求項1記載の酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法に関する。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記薄膜が形成された前記成膜基板を揺動して前記動的状態とすることを特徴とする請求項1記載の酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法に関する。
【0013】
請求項5に係る発明は、前記成膜基板の揺動が水平方向の揺動であることを特徴とする請求項4記載の酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法に関する。
【0014】
請求項6に係る発明は、前記薄膜及び前記エッチング液に超音波を印加して前記動的状態とすることを特徴とする請求項1記載の酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法に関する。
【0015】
請求項7に係る発明は、前記酸化亜鉛系結晶の結晶子が前記基板に対してc軸配向し、該c軸の傾きが基板垂直方向に対して45°未満の角度で配向してなることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法に関する。
【0016】
請求項8に係る発明は、前記酸化亜鉛系結晶からなる薄膜の厚さ方向の最表面が亜鉛原子面であることを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載の酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法に関する。
【0017】
請求項9に係る発明は、エッチング液がpH5〜7に調整した有機酸であることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載の酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法に関する。
【0018】
請求項10に係る発明は、前記酸化亜鉛系結晶が酸化亜鉛であることを特徴とする請求項1乃至9いずれかに記載の酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法に関する。
【0019】
請求項11に係る発明は、前記酸化亜鉛系結晶がアルミニウム、ガリウム、マグネシウム、マンガン、インジウムのうち1種以上を1〜6重量%含有することを特徴とする請求項1乃至9いずれかに記載の酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法に関する。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る発明によれば、酸化亜鉛系結晶からなる薄膜を、エッチング液を用いてエッチングするエッチング方法であって、成膜基板上に前記薄膜を形成し、該薄膜の表面全体を亜鉛及び/又は亜鉛酸化物を構成成分とする炭化物系化合物からなる被膜によって被覆した後エッチング処理を施し、エッチング処理の途中から前記薄膜と前記エッチング液の相対関係を動的状態とすることにより、エッチング速度が速くなることなく適度なエッチング速度を保持することができる。特に、膜平面方向のエッチング速度の加速が抑制されることとなる。そのため、膜厚方向及び膜平面方向のいずれにおいてもエッチング速度が速くなることがなく、サイドエッチングや異方性エッチングを防ぐことが可能となる。
更に、薄膜表面のパターン部分以外に残存する被膜が除去されるため、残渣のない良好なパターン形状とすることができる。従って、電気的短絡や電流漏洩の虞のない薄膜を得ることができる。
【0021】
請求項2に係る発明によれば、前記薄膜を傾斜させて、該薄膜の表面に前記エッチング液を流して前記動的状態とすることにより、十分なエッチング処理を施すことができるとともに、被膜を効率的に流して除去することができるため残渣の発生が防止される。
【0022】
請求項3に係る発明によれば、前記薄膜の表面に、前記エッチング液を噴霧して前記動的状態とすることにより、緻密なパターン形状であっても被膜を除去することが可能となる。つまり、パターン間の微細な部分での残渣の発生を確実に防ぐことができる。更に、少量のエッチング液で被膜の除去が可能であり、残渣の発生を防止できる。
【0023】
請求項4に係る発明によれば、前記薄膜が形成された前記成膜基板を揺動して前記動的状態とすることにより、被膜の乖離を促進して残渣の発生を防ぐことができる。
【0024】
請求項5に係る発明によれば、前記成膜基板の揺動が水平方向の揺動であることにより、成膜基板からの薄膜の剥離を防ぎつつ残渣の発生を防止することができる。
【0025】
請求項6に係る発明によれば、前記薄膜及び前記エッチング液に超音波を印加して前記動的状態とすることにより、微細な振動が薄膜に加えられるため、細部にわたって被膜の乖離を促進することができる。
【0026】
請求項7に係る発明によれば、酸化亜鉛系結晶の結晶子が基板に対してc軸配向し、該c軸の傾きが基板垂直方向に対して45°未満の角度で配向してなるため、エッチング処理を施した際にサイドエッチングが抑制されることとなり、成膜基板近傍における膜平面方向へのエッチングの進行を防止することができる。
【0027】
請求項8に係る発明によれば、酸化亜鉛系結晶からなる薄膜の厚さ方向の最表面が亜鉛原子面であるため、酸化亜鉛系結晶からなる薄膜表面への被膜形成が容易となる。そのため、エッチング処理を施した際にエッチング速度を適度に保持することができるとともに、エッチング後のエッチング処理面を平滑とすることができる。
【0028】
請求項9に係る発明によれば、エッチング液がpH5〜7に調整した有機酸であるため、酸化亜鉛系結晶からなる薄膜の表面全体にわたって膜厚の薄い被膜が形成され、エッチング速度が適度に保持される。そのため、薄膜の膜厚方向及び膜平面方向のエッチングを均一とすることが可能となる。
【0029】
請求項10に係る発明によれば、酸化亜鉛系結晶が酸化亜鉛であるため、電子デバイス等に汎用可能な薄膜とすることができる。
【0030】
請求項11に係る発明によれば、酸化亜鉛系結晶がアルミニウム、ガリウム、マグネシウム、マンガン、インジウムのうち1種以上を1〜6重量%含有するため、結晶性を損なうことなく導電性の向上した薄膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】薄膜が形成された成膜基板をエッチング処理槽に設置した状態を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態の一つを示す概略図であって、薄膜を傾斜させてエッチング処理を行う場合の図である。
【図3】ガリウム含有酸化亜鉛結晶からなる薄膜のc軸方向におけるエッチング速度のエッチング液酸性度依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る酸化亜鉛系結晶からなる薄膜(以下、薄膜と称す)のエッチング方法について詳述する。
本発明に係るエッチング方法は、先ず成膜基板(以下、基板と称す)に薄膜を成膜する。次いでエッチング対象となる薄膜の表面全体に、亜鉛及び/又は亜鉛酸化物を構成成分とする有機化合物からなる被膜(以下、被膜と称す)を形成する。その後、エッチング液を用いてエッチング処理(ウェットエッチング)を施す。エッチング処理の終了前に、表面が被膜により被覆された薄膜とエッチング液との相対関係を動的な状態とする。
【0033】
本発明において、薄膜を形成する材料としては酸化亜鉛系結晶が用いられる。酸化亜鉛系結晶の結晶構造は六方晶系ウルツァイト構造である。ウルツァイト構造は、結晶の単位格子内において亜鉛原子面、酸素原子面が存在し、結晶格子の垂直方向に対してこれらの面が交互に重なって結晶を構成している。
【0034】
酸化亜鉛系結晶は基板に対して垂直方向にc軸配向しやすい性質を有している。しかし、膜厚が薄い場合はc軸の傾きが大きくなる。
成膜初期では基板と結晶との界面近傍において結晶の核生成が優先的に起こり、次いで結晶が成長する。この核生成から結晶成長へ移行するときのc軸の垂直方向への配向性は低く、そのため、c軸の傾きが生じることとなる。
本発明では、単結晶、多結晶のいずれであってもよいが、結晶を構成する結晶子のc軸は成膜基板の垂直方向に対して45°未満の角度の傾きで形成することが好ましく、略垂直に形成することが最も好ましい。c軸の傾きが45°を超えるとエッチング処理を施した際にサイドエッチングを抑制することができず、基板近傍において膜平面方向へのエッチングが進行することとなる。
【0035】
酸化亜鉛結晶に亜鉛(Zn)、酸素(O)以外の元素を添加することなく成膜して電子デバイスに利用することができる。
しかし酸化亜鉛(ZnO)は3.4eVのワイドギャップ半導体であり、その抵抗率は10−2Ω・cm〜10Ω・cmである。導電性の向上、あるいはバンドギャップ制御のために周期律表の第2族、第4族、第7族、第13族、第14族元素などの種々の元素が添加される。
本発明においては酸化亜鉛にアルミニウム、ガリウム、マグネシウム、マンガン、インジウムのうち1種以上の元素が添加される。前記元素の添加量は1〜6重量%であることが好ましく、3〜5重量%であることがより好ましい。1重量%未満であると導電性付与の効果が顕著でない。一方、6重量%を超えると固溶体が形成されず異相が析出するため結晶性の低下や抵抗率の増大が生じる。更に、透明薄膜を得ようとする場合は低透過率となる。従って、1重量%未満及び6重量%超のいずれの場合も好ましくない。
【0036】
薄膜の成膜方法は公知の方法を用いることができ、その一つとしてスパッタリング法が挙げられる。
本発明における成膜方法としては、具体的には例えば、上記したスパッタリング法や、真空蒸着法、イオンプレーティング法(プラズマ蒸着法)、DCスパッタ法、DCマグネトロンスパッタ法、RF重畳DCスパッタ法、レーザーアブレーション法、分子線堆積法(MB)、原子線堆積法(ALD)、化学気相成長法(CVD)等が用いられる。
これらの中でもイオンプレーティング法、DCマグネトロンスパッタ法、RF重畳DCスパッタ法が好適に用いられ、結晶子が基板の垂直方向に対してc軸配向し、結晶子径の揃った薄膜を得ることができる。また、上記した方法で成膜することにより、表面が平滑な薄膜を得ることができる。つまり、酸化亜鉛系結晶(ウルツァイト構造)の(002)の結晶格子面(亜鉛原子面)が最表面となりやすいため、凹凸の略ない平滑な状態となる。表面が平滑な薄膜に対してエッチング処理を施すと、エッチング処理後においても薄膜表面を平滑な状態とすることができる。
【0037】
薄膜が形成される基板には、ガラス、単結晶、セラミックス、樹脂等を用いることができる。例えば、無アルカリガラス、シリコン単結晶(Si)、シリコン多結晶(Si)、サファイア単結晶(α−Al)、アルミナ(Al)、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、環状ポリオレフィン樹脂等が用いられるが、これらに限定されない。また、薄膜を形成する基板は1層に限らず、前記基板上に、例えばアモルファス層を形成し、その上に薄膜を形成することもできる。
【0038】
本発明に係るエッチング方法では、基板上に薄膜を形成した後、エッチング処理を施す前に形成された薄膜の表面全体にわたって被膜を形成する。
被膜を形成する方法としては、薄膜が形成された基板を有機酸又は無機酸の酸性薬液に浸漬する方法が挙げられる。薄膜が形成された基板を該酸性薬液に浸漬することで薄膜と酸性薬液が接触する界面が静的状態となるため、被膜が形成されやすくなる。
【0039】
また、スプレー等を用いて薄膜に酸性薬液を噴霧することも可能である。酸性薬液を噴霧する場合、噴霧した酸性薬液が、薄膜表面に滞留するあるいは擬似静的に流れることが好ましい。噴霧条件(例えば、スプレーノズルのノズル口径や噴霧量)、即ち酸性薬液の噴霧量は、薄膜の膜厚や薄膜表面の状態(凹凸)によって異なる。酸性薬液の噴霧量が少なすぎると被膜が形成されず、薄膜の表面全体が被覆されない。一方、噴霧量が多すぎる場合にも、薄膜と酸性薬液が接触する界面が動的状態となり、被膜が形成されにくくなる虞がある。
酸性薬液を噴霧する条件として、例えばノズルを介して噴霧する場合、ノズルの口径を比較的大きく(具体的には例えば、5〜20mm)し、噴霧量を少量に設定して噴霧する。また、薄膜表面に対して酸性薬液を噴射する勢いが強すぎると被膜が形成されず、薄膜(酸化亜鉛系結晶)が溶解する虞があるため好ましくない。
【0040】
薄膜表面への被膜形成に使用される酸性薬液としては、後述のエッチング液と同じpH範囲のものであることが好ましい。より好ましくは、エッチング液として具体的に示す後述の酸性薬液である。
【0041】
薄膜の表面全体を被覆する被膜は、亜鉛及び/又は亜鉛酸化物を構成成分とする炭化物系化合物である。被膜形成する際、薄膜の厚さ方向の最表面が亜鉛原子面((002)の結晶格子面)であると、炭化物系化合物を形成しやすくなり、薄膜の表面全体にわたって被膜を形成することが容易となる。
【0042】
上記した被膜は微小な孔を備えており、エッチング液を浸透させることができる。そのため、エッチング対象物である酸化亜鉛系結晶が過剰にエッチング液に曝されず、薄膜が全体にわたって均一にエッチングされ、サイドエッチングや異方性エッチングが抑制される。
また、エッチング速度が増すことなく適度な速度を保持しながらエッチング処理を施すことが可能となる。
エッチング処理を施すと、薄膜と薄膜表面に形成する被膜がともにエッチングされる。エッチング処理に伴って生じる残渣はこの被膜であり、後述の方法で処理することで被膜の残存、即ち残渣の発生を抑制することができる。
【0043】
上記した被膜の厚さは10nm以下であることが好ましい。薄すぎるとエッチング液が過剰に浸透することとなって、サイドエッチングや異方性エッチングが生じ、加えてエッチング残渣が発生する虞がある。一方、厚すぎるとエッチング液の浸透性が低下するとともに、エッチング終了前に被膜を除去できないこととなってエッチング残渣が生じる。従って、被膜の厚さは、薄すぎる場合、厚すぎる場合のいずれの場合も好ましくない。
【0044】
薄膜にエッチング処理(ウェットエッチング)を施す際に用いるエッチング液は、酸性液を用いることが望ましく、強酸、弱酸ともに使用することができるが、弱酸を用いることが好ましい。
弱酸を使用することで、均一で且つ上記した膜厚の範囲の被膜を薄膜の表面全体に形成することができる。
エッチング液の酸性度は、pH5〜7であることが好ましく、pH6〜7であることがより好ましい。pH5未満であると、被膜形成は可能であるが膜厚が厚くなりすぎる。一方、pH7を超えてアルカリ性寄りであると、炭化物系化合物からなる被膜を形成することが困難となる。そのため、pH5〜7の範囲以外の酸性寄り、アルカリ性寄りのいずれの場合も好ましくない。
【0045】
酸性のエッチング液であれば有機酸、無機酸のいずれであってもよいが、有機酸を用いることが好ましい。有機酸を用いることで、薄膜の表面全体に10nm以下の極薄の被膜を形成できるとともに、そのままエッチング処理に供することができる。無機酸を用いる場合は、薄膜の表面全体にわたって均一な被膜を形成するために、二酸化炭素等の炭素を含有する化合物を予め液に混合しておくとよい。
【0046】
エッチング液に用いられる有機酸としては、カルボキシル基を1乃至3有するカルボン酸又は多価カルボン酸が好適であり、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、マロン酸、酒石酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、クエン酸、アコニット酸、1,2,3−プロパントリカルボン酸等の有機酸を用いることができ、また無機酸としては、例えば硝酸を用いることができる。
上記の有機酸、無機酸のいずれの酸においてもpHを5〜7に調整したものが用いられる。pHを調整する際には、有機酸塩又は無機酸塩を用いることができ、例えばアンモニウム塩を用いることができる。
【0047】
本発明に係るエッチング方法では、酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング処理の途中から薄膜とエッチング液との相対関係を動的な状態とする。つまり、薄膜とエッチング液のいずれか一方、又は両方を静置(静的な)状態から動的な状態へと変化させる。
エッチング処理を開始した当初は、薄膜(基板上に形成され且つ表面全体が被膜により被覆された薄膜)をエッチング液中に静置する。即ち、エッチング開始当初は、薄膜、エッチング液の両方が静的な状態である。
この静的な状態でエッチングが進行し、エッチング処理の途中から終了時にかけて動的な状態とする。具体的には、薄膜を静的な状態のままとして、この薄膜に対してエッチング液を動的な状態に変化させたり、エッチング液を静的な状態のままとし、薄膜を動的な状態に変化させる。あるいは、薄膜、エッチング液の両方を静的な(静置)状態から動的な状態に変化させる。前述のいずれの場合においても、薄膜とエッチング液の相対的な関係は、静的な状態から動的な状態へと変化することとなる。
エッチング処理の途中から終了時にかけて薄膜とエッチング液の相対的な関係を動的な状態とすることで、残渣の発生を防止することができるとともに、残渣が発生した場合に効率的に除去することができる。
【0048】
図1は、薄膜(基板上に形成され且つ表面全体が被膜により被覆された薄膜)が形成された成膜基板をエッチング処理槽に設置した状態を示す模式図である。
薄膜(1)は、基板(2)上に形成される。薄膜(1)の表面全体は、上述したように亜鉛及び/又は亜鉛酸化物を構成成分とする炭化物系化合物からなる被膜(3)で被覆されている。基板(2)上に薄膜(1)、被膜(3)が形成された状態のものを、以下、薄膜形成体(100)と称す。
【0049】
図1に示すように、薄膜(1)は所望のパターン形状のパターンマスク(4)により被覆されている。薄膜(1)上にパターンマスク(4)を形成した状態でエッチング処理を施す。
薄膜形成体(100)はエッチング処理槽(5)内に図示の如く静置される。エッチング処理槽(5)内には、エッチング対象である薄膜形成体(100)をエッチングするエッチング液(6)が収容されている。薄膜形成体(100)は、図1に示すように薄膜(1)が液面上方に向くように全体がエッチング液(6)に浸った状態にある。
尚、図示例のエッチング処理槽(5)は、エッチング液(6)の液面上方が開放した状態であるが、閉鎖状態としてもよい。
【0050】
エッチング処理を開始した当初は、薄膜形成体(100)を静的な状態、つまり図1に示すようなエッチング液(6)に全体が浸るように水平状態で静置することが好ましい。静置した状態でエッチング処理を行った後に、薄膜(1)(薄膜形成体(100))及びエッチング液(6)を動的状態に変化させる。
上記した状態で薄膜(1)を例えば20〜30秒間静置することにより、十分なエッチング処理、つまりパターンマスク(4)で被覆された箇所以外の薄膜(1)及び被膜(3)をエッチングすることができる。この静置状態を経た後に、薄膜(1)(薄膜形成体(100))及びエッチング液(6)の相対的な関係を動的状態とすることで、残存する被膜(3)を効率的に除去することができて、残渣の発生を防止することができる。
【0051】
エッチングの進行過程において、薄膜(1)とエッチング液(6)の相対的な関係を静的な状態から動的な状態へ移行する最適な移行時期は、エッチング前の初期膜厚にかかわらず、パターンマスク(4)で被覆された箇所以外の薄膜(1)の膜厚(残存厚さ)が10〜30nmとなった時である。
具体的に例えば、薄膜(1)の初期の膜厚が100nmや150nmのいずれの場合も、エッチングされた箇所(パターンマスク(4)で被覆された箇所以外)の膜厚が10〜30nmとなった時に、後述の方法により薄膜(1)とエッチング液(6)の相対的な関係を動的な状態に変化させる。
エッチングされた箇所の膜厚が10nm未満となった時に、薄膜(1)とエッチング液(6)の相対的な関係を動的な状態に変化させると、被膜(3)が除去されないままエッチングが終了し、残渣の発生を防ぐことが困難となる。一方、30nm超の膜厚で動的な状態に変化させると、エッチングが不十分であるとともに被膜(3)も十分に除去することができず、残渣が発生する虞がある。
【0052】
薄膜(1)の膜厚にかかわらず、エッチング箇所の膜厚が上記した範囲の膜厚となった時に、薄膜(1)とエッチング液(6)の相対的な関係を動的な状態とすることにより、十分にエッチング処理を施すことができ且つ残渣の発生を防止できる。
しかしながら、初期の膜厚が比較的薄い場合、あるいは比較的厚い場合には、薄膜(1)とエッチング液(6)の相対的な関係を動的な状態に変化させる時期は、上記した条件と異なる。
具体的には、薄膜(1)の初期膜厚が50nm程度の比較的薄い場合には、50nmの厚さをエッチングするジャストエッチング時間の2分の1程度となった時であることが好ましい。また、300nm以上の比較的厚い場合には、エッチングされた箇所(パターンマスク(4)で被覆された箇所以外)の膜厚が50nm程度となった時であることが好ましい。
【0053】
薄膜(1)とエッチング液(6)の相対的な関係を動的な状態とする方法について、以下に具体的に説明する。
先ず、薄膜(1)(薄膜形成体(100))に対してエッチング液(6)を動的な状態とする方法について述べる。
図2は、薄膜を傾斜させてエッチング処理を行う場合の図である。
上記したように、エッチング処理を開始した当初は、図1に示すように薄膜形成体(100)はエッチング処理槽(5)内に水平状態に静置される。
エッチング処理の途中(例えば、初期の膜厚に対して上述の膜厚までエッチングされた時点)に薄膜形成体(100)をエッチング液(6)から取り出し、図2に示すように、薄膜形成体(100)(薄膜(1))の面(水平)方向を垂直に近づけるように傾斜させる。薄膜形成体(100)を傾斜させた後に、エッチング液(6)を薄膜(1)に流しかける。
【0054】
薄膜(1)(薄膜形成体(100))の傾斜角度(α)は、エッチング液(6)の液面に対して30〜60°程度とすることが好ましい。そうすることでエッチング液(6)を流しかけたときに適度な速度で薄膜(1)の表面を流れることとなり、マスクパターン(4)で被覆された箇所以外、つまり除去すべき薄膜(1)を効率的にエッチングすることができるとともに、被膜(3)を流して除去することができる。
傾斜角度(α)を、60°を超える急傾斜や、30°未満の緩傾斜としてもエッチング処理を施すことは可能である。しかし、急傾斜とするとエッチング液(6)の流速が速くなり過ぎてしまい、十分なエッチング処理を施すことができない。つまり、パターンマスク(4)以外の部分の薄膜(1)が残存する可能性がある。一方、緩傾斜とするとエッチング液(6)の流れが滞るため、エッチング処理は十分に行えるものの、生成した被膜(3)が残渣として薄膜(1)上に残存する可能性がある。
薄膜(1)に流しかけるエッチング液(6)の量は、膜厚によって適宜変更されるが、10〜15秒間流しかけることが好ましい。そうすることにより、十分なエッチング処理を施すことができるとともに、残渣の発生を防止することができる。
【0055】
薄膜(1)(薄膜形成体(100))に対してエッチング液(6)を動的な状態とする方法の他の実施形態について述べる。
図示しないが、エッチング処理の途中(例えば、初期の膜厚に対して上述の膜厚までエッチングされた時点)に薄膜形成体(100)をエッチング液(6)から取り出し、薄膜(1)の表面にエッチング液(6)を噴霧する。
エッチング液(6)を噴霧する際、図2に示すように薄膜(1)(薄膜形成体(100))を傾斜させてもよい。薄膜(1)(薄膜形成体(100))を傾斜する場合、傾斜角度(α)は30〜60°程度とすることが好ましい。
【0056】
エッチング液(6)を薄膜(1)の表面に噴霧する方法は特に限定されず、エッチング液(6)を微細な液滴、つまり霧状化できる手法であればよい。例えば、容器にエッチング液(6)を収容しノズルを介して噴霧する方法が採用できる。
スプレーによりエッチング液(6)を噴霧する場合、ノズルの口径は薄膜(1)の表面(薄膜形成体(100)の側面は除く)の面積によって適宜変更可能である。例えば、被膜(3)形成のために酸性薬液を噴霧する際のノズル口径よりも小さいことが好ましい。被膜(3)形成時のノズル口径が例えば5〜20mmである場合、0.1〜5mmに設定される。
上記した口径のノズルを、薄膜(1)(薄膜形成体(100))の幅方向に対して複数個配置し、必要に応じて薄膜(1)を走査することでエッチング処理が必要な面積を網羅することができる。
【0057】
エッチング液(6)の噴霧条件(例えば、スプレーノズルのノズル口径や噴霧量)は適宜変更可能であるが、液滴が勢いよく薄膜形成体(100)の表面に当たるように噴霧することが好ましい。例えば、エッチング液(6)と空気、窒素、酸素、二酸化炭素(炭酸ガス)等のいずれかもしくは複数種の気体を混入させるようにして噴霧することで、気泡とともにエッチング液(6)が薄膜形成体(100)の表面、即ち、パターンマスク(4)で被覆された薄膜(1)以外の箇所に衝突する。そのため、残渣が効果的に除去されてパターン上に残渣が発生することがない。
【0058】
上記した方法を採用すると、少ないエッチング液(6)で残渣の発生を防止することが可能となる。また、薄膜形成体(100)を浸漬する必要がないため、浸漬のための処理浴層が不要となる。従って、例えば3m四方のマザーボードのような大型の基板(薄膜形成体(100))であっても、確実に残渣の発生を防止することができる。つまり、上記した方法は、大型の基板(薄膜形成体(100))の処理方法として好適に利用できる。
【0059】
次に、エッチング液(6)に対して薄膜(1)(薄膜形成体(100))を動的な状態とする方法について述べる。
薄膜(1)(薄膜形成体(100))を揺動することでエッチング液(6)に対して動的な状態となる。
薄膜(1)を揺動する際、図1に示すように薄膜形成体(100)はエッチング液(6)中に浸漬したままで揺動する。
薄膜(1)(薄膜形成体(100))の揺動方向は、図1中の矢印(H)の水平方向であることが好ましい。基板(2)を水平方向(図1中矢印(H)の方向)に揺動することで、薄膜(1)と被膜(3)の界面を動的な状態にして被膜(3)の乖離を促進することができる。これにより、エッチング処理後の残渣の発生を防止することができる。
薄膜(1)の揺動は、エッチング処理の途中(例えば、初期の膜厚に対して上述の膜厚までエッチングされた時点)から行われる。そうすることで、より効果的に残渣の発生を防止することができる。
【0060】
揺動の方法は、例えば手動で薄膜(1)(薄膜形成体(100))を図1に示す矢印(H)の水平方向に揺動することが挙げられるが、この方法に限定されず、機械的に揺動してもよい。また、揺動の方向は、水平だけに限られず、垂直方向に揺動してもよいが、水平方向に揺動することが好ましい。
薄膜(1)(薄膜形成体(100))を揺動することで、薄膜(1)とマスクパターン(4)部分以外に残存する被膜(3)との界面を動的な状態とすることができるため、効果的に残渣の発生を防止することができる。
【0061】
薄膜(1)(薄膜形成体(100))とエッチング液(6)との両方を同時に動かすことによって両者の相対的な関係を動的な状態とすることもできる。
薄膜(1)とエッチング液(6)との両方を動的な状態とする方法としては、超音波振動を加えることが好ましい。超音波によって発生する微細な振動を加えることで、振動伝播の媒体となるエッチング液(6)の振動により被膜(3)を除去して残渣の発生を防止することができる。つまり、超音波による微細な振動は、細部にわたって被膜(3)の乖離を促進することができるため、被膜(3)がパターン以外の部分に残存することがない。
【0062】
超音波振動を発生させる方法は特に限定されないが、例えば超音波振動子を、図1に示すエッチング処理槽(5)の下部、薄膜形成体(100)を設置した箇所の下方に設置して振動を加えることが好ましい(図示せず)。
超音波振動を利用する場合、その周波数は例えば20〜100kHzに設定することができる。周波数を上記した範囲とすることで、エッチング残渣を効率的に除去することが可能となる。20kHz未満であると残渣の除去が困難となり、一方100kHzを超えると残渣が除去されるとともに薄膜の基板からの剥離を招くこととなり、いずれの場合も好ましくない。
上記の設定の他に、1MHzで200〜300Wに設定することができる。この場合、短時間での被膜(3)の除去が可能となる。
【0063】
超音波を印加する方法を採用することで、薄膜(1)とエッチング液(6)の相対的な関係を動的状態とするプロセスの制御を容易にすることができる。特に、上記した方法は、小型の基板(薄膜形成体(100))の処理に好適である。
【0064】
上述したような夫々の実施形態により薄膜(1)とエッチング液(6)の相対的な関係を動的な状態とすることで、残渣の発生を防止することができて良好なパターン形状とすることができるとともに、パターン間における電気的短絡や電流漏洩が生じる虞のない薄膜を得ることができる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明に係るエッチング方法に関する実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。
但し、本発明は下記実施例には限定されない。
【0066】
<酸化亜鉛系結晶からなる薄膜の成膜>
成膜方法1.イオンプレーティング法(プラズマ蒸着法)による成膜
ターゲットとして酸化ガリウム(Ga)を3.5〜4.5重量%含む酸化亜鉛結晶タブレットを用い、基板としてガラスを用いた。
成膜時の基板加熱温度を150〜200℃、導入ガス(アルゴン及び酸素)のガス圧を0.4〜0.6Pa、成膜速度を150〜170nm/min、プラズマ放電電流140〜150Aとして成膜し、膜厚100nmのガリウム含有酸化亜鉛結晶からなる薄膜(以下、GZO膜と称す)を得た。
【0067】
成膜方法2.DCマグネトロンスパッタ法による成膜
ターゲットとして酸化ガリウム(Ga)を5.0〜6.0重量%含む酸化亜鉛結晶を用い、基板としてガラスを用いた。
成膜時の基板加熱温度を150〜200℃、導入ガス(アルゴン)のガス圧を0.1〜0.3Pa、成膜速度を4〜6nm/min、投入電力1.0〜2.0kWとして成膜し、膜厚100nmのGZO膜を得た。
【0068】
成膜方法3.RF重畳DCスパッタ法による成膜
ターゲットとして酸化ガリウム(Ga)を5.0〜6.0重量%含む酸化亜鉛結晶を用い、基板としてガラスを用いた。
成膜時の基板加熱温度を150〜200℃、導入ガス(アルゴン)のガス圧を0.1〜0.3Pa、成膜速度を4〜6nm/min、高周波電力0.8〜1.5kW、直流電力0.8〜1.5kWとして成膜し、膜厚100nmのGZO膜を得た。
【0069】
<成膜方法1で得たGZO膜表面への被膜の形成及び被膜形成成分のオージェ電子分光(AES)分析>
上記の成膜方法1によりGZO膜を2試料作製した。
2試料夫々をpH2以下の有機酸及び無機酸に浸漬し、GZO膜の表面に被膜を形成した。形成した被膜に対して、AES分析を行った。
有機酸に浸漬した場合に形成する被膜の構成主成分は、亜鉛、酸素、炭素であり、その比はZn:O:C=8:52:31であった。一方、無機酸に浸漬した場合に形成する被膜の構成主成分は、有機酸を用いた場合と同様に亜鉛、酸素、炭素であり、その比はZn:O:C=28:30:39であった。
この結果より、GZO膜表面に形成される被膜は、亜鉛及び/又は亜鉛酸化物を構成成分とする炭化物系化合物であることが確認された。
【0070】
(実施例1)
<成膜方法1で得たGZO膜におけるエッチング速度のエッチング液酸性度依存性とエッチング残渣の残留評価>
上記の成膜方法1により、エッチング処理対象となるGZO膜を4試料作製した。
4試料夫々に対して、pH1.5、pH3.2、pH4.5、pH6.8に調整したエッチング液を用いてエッチング処理を施した。エッチング処理終了前に基板を手動にて水平方向に揺動した。
エッチング処理時間はいずれも100%オーバーエッチングとし、ライン幅2〜10μm、スペース幅2〜10μmのパターンマスクを用いた。
【0071】
(実施例2)
<成膜方法2で得たGZO膜におけるエッチング速度のエッチング液酸性度依存性とエッチング残渣の残留評価>
上記の成膜方法2により、エッチング処理対象となるGZO膜を4試料作製した。
4試料夫々に対して、実施例1と同様のエッチング液を用いてエッチング処理を施した。エッチング処理終了前に基板を手動にて水平方向に揺動した。
尚、エッチング処理時間及びパターンマスクは実施例1と同様とした。
【0072】
(実施例3)
<成膜方法3で得たGZO膜におけるエッチング速度のエッチング液酸性度依存性とエッチング残渣の残留評価>
上記の成膜方法3により、エッチング処理対象となるGZO膜を4試料作製した。
4試料夫々に対して、実施例1と同様のエッチング液を用いてエッチング処理を施した。エッチング処理終了前に基板を手動にて水平方向に揺動した。
尚、エッチング処理時間及びパターンマスクは実施例1と同様とした。
【0073】
図3は、実施例1〜3の薄膜のc軸方向におけるエッチング速度のエッチング液酸性度依存性を示す図であり、実施例1は丸(●)、実施例2は四角(■)、実施例3は三角(▲)のプロットである。
【0074】
GZO薄膜のc軸方向におけるエッチング速度は、実施例1では40〜45nm/min、実施例2では60〜72nm/min、実施例3では55〜72nm/minであった。
実施例1〜3のいずれにおいても、エッチング終了時までエッチング速度が速くなることなくエッチング処理することができた。これは、GZO薄膜の表面に被膜が形成されているためである。
エッチング液の酸性度が高い、つまり強酸の場合、エッチング処理後のパターン部分周辺の基板上に残渣が見られたが、比較的良好なパターン形状が得られた。
これに対して、エッチング液の酸性度が低い、つまり弱酸の場合、エッチング処理後のパターン上の残渣の残留がないことが確認され、また、エッチング処理中においても残渣の発生は見られないことがわかった。更に、サイドエッチングや異方性エッチングも生じず良好なパターン形状を得ることができた。
尚、実施例1と実施例2及び3とのエッチング速度の差は、GZO薄膜を形成する結晶子径の大小及び密度に由来するものであり、実施例1の方が実施例2及び3よりも結晶子径が小さく(実施例1では13.6nm、実施例2及び3では16.3〜38.4nm)、薄膜の密度が高いためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係るエッチング方法は、酸化亜鉛系結晶からなる薄膜において、液晶ディスプレイのTFT基板側の透明電極のような微細加工を要する電子デバイス、太陽電池や薄膜トランジスタ等に用いられる半導体及び電極、発光ダイオードのような発光素子等の微細加工に利用可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 酸化亜鉛系結晶からなる薄膜
2 成膜基板
3 炭化物系化合物からなる被膜
6 エッチング液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛系結晶からなる薄膜を、エッチング液を用いてエッチングするエッチング方法であって、成膜基板上に前記薄膜を形成し、該薄膜の表面全体を亜鉛及び/又は亜鉛酸化物を構成成分とする炭化物系化合物からなる被膜によって被覆した後エッチング処理を施し、エッチング処理の途中から前記薄膜と前記エッチング液の相対関係を動的状態とすることを特徴とする酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法。
【請求項2】
前記薄膜を傾斜させて、該薄膜の表面に前記エッチング液を流して前記動的状態とすることを特徴とする請求項1記載の酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法。
【請求項3】
前記薄膜の表面に、前記エッチング液を噴霧して前記動的状態とすることを特徴とする請求項1記載の酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法。
【請求項4】
前記薄膜が形成された前記成膜基板を揺動して前記動的状態とすることを特徴とする請求項1記載の酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法。
【請求項5】
前記成膜基板の揺動が水平方向の揺動であることを特徴とする請求項4記載の酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法。
【請求項6】
前記薄膜及び前記エッチング液に超音波を印加して前記動的状態とすることを特徴とする請求項1記載の酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法。
【請求項7】
前記酸化亜鉛系結晶の結晶子が前記基板に対してc軸配向し、該c軸の傾きが基板垂直方向に対して45°未満の角度で配向してなることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法。
【請求項8】
前記酸化亜鉛系結晶からなる薄膜の厚さ方向の最表面が亜鉛原子面であることを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載の酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法。
【請求項9】
エッチング液がpH5〜7に調整した有機酸であることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載の酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法。
【請求項10】
前記酸化亜鉛系結晶が酸化亜鉛であることを特徴とする請求項1乃至9いずれかに記載の酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法。
【請求項11】
前記酸化亜鉛系結晶がアルミニウム、ガリウム、マグネシウム、マンガン、インジウムのうち1種以上を1〜6重量%含有することを特徴とする請求項1乃至9いずれかに記載の酸化亜鉛系結晶からなる薄膜のエッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−119709(P2011−119709A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244553(P2010−244553)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(509093026)公立大学法人高知工科大学 (95)
【Fターム(参考)】