説明

重合体およびそれを用いた光学材料

【課題】単一でありながら逆波長依存性を有するフィルムを作製できる重合体、該重合体により作製したフィルム、およびその他の光学材料を提供すること。
【解決手段】エチレンまたは炭素原子数が3〜20のα−オレフィンから導かれる構成単位(A)を30〜70モル%、
所定の化学式で表される環状オレフィンから導かれる構成単位(B)を20〜50モル%、
芳香族ビニル化合物から導かれる構成単位(C)を0.1〜20モル%含み、
下記要件[1]〜[3]を同時に満たすことを特徴とする、環状オレフィン系重合体。
[1]移動粘度計によりASTM J1601に準じた測定方法にて測定を行った場合の135℃のデカリン中での極限粘度[η]が0.4〜5.0dl/gの範囲にある。
[2]H−NMRにおいて6.0〜6.8ppmの範囲にピークが存在する。
[3]示差走査熱量計(DSC)より求められるガラス転移温度が100℃〜200℃の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体およびそれを用いた光学材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン(共)重合体等の脂環式構造を有するポリマーからなるフィルムは、光弾性係数が小さく複屈折が安定していること、吸湿率が低いこと、目的との関係において十分な耐熱性を有することなど、光学フィルムとして使用する場合に優れた特性を有しており、各種の用途において光学フィルムとして使用されている。
【0003】
ところで、光学部品、とりわけ液晶表示素子等の視野角を拡げるための偏光板の軸補正などの用途において、複屈折の波長依存性が逆波長依存性であることが好ましい。
【0004】
逆波長依存性とは、長波長ほど位相差が大きいことをいう。逆波長依存性のフィルムを用いると光漏れの抑制効果が大きくなり、高画質の画像が得られるようになる。
【0005】
従来、逆波長依存性を有する材料は、特許文献1に記載されるような、正・負の位相差フィルムの貼合わせによる積層板が挙げられる。しかし、このような積層板は、製造工程が煩雑であり、さらに、積層する際にゴミが混入する懸念がある等の問題点があった。
また、逆波長依存性を有する材料として、フルオレン系ポリガーボネートが知られている。しかし、逆波長依存性を安定的に得ることが困難であり、改善の必要性がある等の問題点があった。
【0006】
また、特許文献2には、特定の構造のメタロセン錯体を含む新規な触媒組成物、それを用いたポリマーの新規な製法、このような新規なポリマーに関する発明が記載されている。同特許文献の実施例にはガラス転移温度が60℃程度のエチレン、スチレン、ノルボルネンの三元共重合反応によるポリマーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−047361号公報
【特許文献2】国際公開第2006/004068号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した実情に鑑みてなされたものであり、単一でありながら逆波長依存性を有するフィルムを作製できる重合体、該重合体により作製したフィルムおよびその他の光学材料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の(1)〜(14)に示したとおりである。
(1)エチレンまたは炭素原子数が3〜20のα−オレフィンから導かれる構成単位(A)を30〜70モル%、
下記化学式[I]または化学式[II]で表される環状オレフィンから導かれる構成単位(B)を20〜50モル%、
【0010】
【化1】

(化学式[I]中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R1〜R18ならびにRaおよびRbは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基であり、R15〜R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、またはR17とR18とで、アルキリデン基を形成していてもよい。)
【0011】
【化2】

(化学式[II]中、pおよびqは0または正の整数であり、mおよびnは0,1または2であり、R1〜R19はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基またはアルコキシ基であり、R9およびR10が結合している炭素原子と、R13が結合している炭素原子またはR11が結合している炭素原子とは直接あるいは炭素数1〜3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またn=m=0のときR15とR12またはR15とR19とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。)、
芳香族ビニル化合物から導かれる構成単位(C)を0.1〜20モル%含み、
下記要件[1]〜[3]を同時に満たすことを特徴とする、環状オレフィン系重合体。
[1]移動粘度計によりASTM J1601に準じた測定方法にて測定を行った場合の135℃のデカリン中での極限粘度[η]が0.4〜5.0dl/gの範囲にあること。
[2]H−NMRにおいて6.0〜6.8ppmの範囲にピークが存在すること。
[3]示差走査熱量計(DSC)より求められるガラス転移温度が100℃〜200℃の範囲にあること。
(2)前記芳香族ビニル化合物から導かれる構成単位(C)を2〜10モル%含む(1)項に記載の環状オレフィン系重合体。
(3)前記H−NMRにおける6.0〜6.8ppmの範囲のピークが前記芳香族ビニル化合物から導かれる構成単位(C)の連鎖構造由来のピークである(1)項または(2)項に記載の環状オレフィン系重合体。
(4)Mw/Mnが2.1〜4.0である(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載の環状オレフィン系重合体。
(5)(1)項〜(4)項のいずれか1項に記載の環状オレフィン系重合体を含んでなるフィルムであり、溶融押出形成法によって形成された後延伸配向させることによって得られるフィルム。
(6)(5)項に記載のフィルムを用いた位相差フィルム。
(7)フィルム厚さ50μmあたりの波長590nmにおける位相差R50(590)が以下の条件を満たす(6)項に記載の位相差フィルム。
50(590)≧6nm
(8)(6)項または(7)項に記載の位相差フィルムであって、以下の条件を満たす位相差フィルム。
50(450)/R50(550)<1.0
(上記式中、R50(450)およびR50(550)は、それぞれフィルム厚さ50μmあたりの波長450nmおよび550nmにおける前記位相差フィルムの位相差を示す。)
(9)(5)項〜(8)項のいずれか1項に記載のフィルムを用いた光学補償フィルム。
(10)偏光板の軸補償に用いる(9)項に記載の光学補償フィルム。
(11)少なくとも1層の偏光版、および少なくとも1層の(10)項に記載の光学補償フィルムを有する積層偏光素子。
(12)(9)項または(10)項に記載の光学補償フィルムを有する液晶表示素子、
(13)(a)第3族金属原子またはランタノイド金属原子である中心金属M、該中心金属に結合した置換もしくは無置換のシクロペンタジエニル誘導体を含む配位子Cp、モノアニオン配位子QおよびQ、ならびにW個の中性ルイス塩基Lを含む化学式[III]で表されるメタロセン錯体、および
(b)非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物、
を含む重合触媒組成物の存在下に、エチレンまたは炭素原子数が3〜20のα−オレフィン、環状オレフィン、および芳香族ビニル化合物を共重合させることにより得られる(1)項に記載の環状オレフィン系重合体。
【0012】
【化3】

(化学式[III]中、Wは0〜3の整数を表す。)
(14)(a)第3族金属原子またはランタノイド金属原子である中心金属M、該中心金属に結合した置換もしくは無置換のシクロペンタジエニル誘導体を含む配位子Cp、モノアニオン配位子QおよびQ、ならびにW個の中性ルイス塩基Lを含む化学式[III]で表されるメタロセン錯体、および
(b)非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物、
を含む重合触媒組成物の存在下に、エチレンまたは炭素原子数が3〜20のα−オレフィン、環状オレフィン、および芳香族ビニル化合物を共重合させることにより得られる(1)項に記載の環状オレフィン系重合体の製造方法。
【0013】
【化4】

(化学式[III]中、Wは0〜3の整数を表す。)
【発明の効果】
【0014】
単一でありながら逆波長依存性を有するフィルムを作製できる重合体、該重合体により作製したフィルムおよびその他の光学材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は実施例1〜3、比較例2で得られた重合体のH−NMRスペクトルを示す。
【図2】図2は実施例1〜2、および比較例1〜2で得られた重合体により作製されたフィルムの位相差の波長依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施形態について説明する。
本発明の第1の実施形態は重合体である。本発明の重合体は、構成単位(A)〜(C)をその構成に含む。
[構成単位(A)]
構成単位(A)は、エチレンまたは炭素数3〜20のα−オレフィン化合物由来の構成単位である。ここで炭素数3〜20のα−オレフィン化合物としては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンのような炭素原子数3〜20の直鎖状α−オレフィンや、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテンのような炭素原子数4〜20の分岐状α−オレフィンなどが挙げられる。これらの中では、炭素原子数が2のエチレンや、炭素原子数が3または4の直鎖状α−オレフィンであるプロピレンまたは1−ブテンが、本発明の重合体をフィルム状に成形した際の柔軟性の点で好ましく、特にエチレンが同様の理由で好ましい。前記のエチレン及びα−オレフィンは、それぞれ単独で用いても、また2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0017】
[構成単位(B)]
本実施形態の重合体を構成する構成単位(B)は、脂環式構造を有し、下記化学式[I]、または化学式[II]で表される環状オレフィン由来の構成単位である。
【0018】
構成単位(B)は、下記化学式[I]、または化学式[II]で表される環状オレフィンから導かれる。
【0019】
【化5】

【0020】
上記化学式[I]中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1である。なおqが1の場合には、Ra およびRb は、それぞれ独立に、下記の原子または炭化水素基であり、qが0の場合には、それぞれの結合手が結合して5員環を形成する。
【0021】
1 〜R18ならびにRa およびRb は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基である。ここでハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。
【0022】
また炭化水素基としては、それぞれ独立に、通常炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数3〜15のシクロアルキル基、芳香族炭化水素基が挙げられる。より具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基が挙げられ、シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基が挙げられ、芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。これらの炭化水素基は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
さらに上記化学式[I]において、R15〜R18がそれぞれ結合して(互いに共同して)単環または多環を形成していてもよく、しかもこのようにして形成された単環または多環は二重結合を有していてもよい。ここで形成される単環または多環の具体例を下記に示す。
【0023】
【化6】

【0024】
なお上記例示において、1または2の番号が付された炭素原子は、化学式[I]においてそれぞれR15(R16)またはR17(R18)が結合している炭素原子を示している。またR15とR16とで、またはR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。このようなアルキリデン基は、通常は炭素原子数2〜20のアルキリデン基であり、このようなアルキリデン基の具体的な例としては、エチリデン基、プロピリデン基およびイソプロピリデン基を挙げることができる。
【0025】
【化7】

【0026】
上記化学式[II]中、pおよびqは0または正の整数であり、mおよびnは0、1または2である。またR1 〜R19は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基またはアルコキシ基である。
【0027】
ハロゲン原子は、上記化学式[I]におけるハロゲン原子と同じ意味である。また炭化水素基としては、それぞれ独立に炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数1〜20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3〜15のシクロアルキル基または芳香族炭化水素基が挙げられる。より具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基が挙げられ、シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基が挙げられ、芳香族炭化水素基としては、アリール基およびアラルキル基、具体的には、フェニル基、トリル基、ナフチル基、ベンジル基およびフェニルエチル基などが挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基およびプロポキシ基などを挙げることができる。これらの炭化水素基およびアルコキシ基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子で置換されていてもよい。
【0028】
ここで、R9 およびR10が結合している炭素原子と、R13が結合している炭素原子またはR11が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1〜3のアルキレン基を介して結合していてもよい。すなわち上記二個の炭素原子がアルキレン基を介して結合している場合には、R9 およびR13で示される基が、またはR10およびR11で示される基が互いに共同して、メチレン基(-CH2-) 、エチレン基(-CH2CH2-) またはプロピレン基(-CH2CH2CH2-) のうちのいずれかのアルキレン基を形成している。さらに、n=m=0のとき、R15とR12またはR15とR19とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。この場合の単環または多環の芳香族環として、たとえば下記のようなn=m=0のときR15とR12とまたはR15とR19とがさらに芳香族環を形成している基が挙げられる。
【0029】
【化8】

【0030】
ここでqは化学式[II]におけるqと同じ意味である。
【0031】
上記のような化学式[I]、または[II]で表される環状オレフィンを、より具体的に下記に例示する。
【0032】
【化9】

【0033】
で示されるビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名ノルボルネン;上記化学式中、1〜7の数字は炭素の位置番号を示す。)、または、炭素1〜7のいずれかが水素以外の置換基、例えばハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基が置換したその誘導体が挙げられる。このハロゲン原子としては、上記化学式[I]におけるハロゲン原子と同じ意味であり、炭化水素基としては、たとえば、5-メチル、5,6-ジメチル、1-メチル、5-エチル、5-n-ブチル、5-イソブチル、7-メチル、5-フェニル、5-メチル-5-フェニル、5-ベンジル、5-トリル、5-(エチルフェニル) 、5-(イソプロピルフェニル) 、5-(ビフェニル)、5-(β-ナフチル)、5-(α-ナフチル) 、5-(アントラセニル) 、5,6-ジフェニルなどが挙げられる。これらの炭化水素基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子で置換されていてもよい。
【0034】
さらに他の誘導体として、シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物、1,4-メタノ-1,4,4a,9a- テトラヒドロフルオレン、1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-ヘキサヒドロアントラセンなどのビシクロ[2.2.1 ]-2-ヘプテン誘導体などが挙げられる。
【0035】
また、トリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセン、2-メチルトリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセン、5-メチルトリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセンなどのトリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセン誘導体、トリシクロ[4.4.0.12,5]-3-ウンデセン、10-メチルトリシクロ[4.4.0.12,5]-3-ウンデセンなどのトリシクロ[4.4.0.12,5]-3-ウンデセン誘導体などが挙げられる。
【0036】
【化10】

【0037】
で示されるテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(上記化学式中、1〜12の数字は炭素の位置番号を示す。)およびこれに、炭化水素基が置換した誘導体などが挙げられる。この炭化水素基としては、たとえば、8-メチル、8-エチル、8-プロピル、8-ブチル、 8- イソブチル、8-ヘキシル、8-シクロヘキシル、8-ステアリル、5,10-ジメチル、2,10-ジメチル、8,9-ジメチル、8-エチル-9-メチル、11,12-ジメチル、2,7,9-トリメチル、2,7-ジメチル-9-エチル、9-イソブチル-2,7-ジメチル、9,11,12-トリメチル、9-エチル-11,12-ジメチル、9-イソブチル-11,12-ジメチル、5,8,9,10-テトラメチル、8-エチリデン、8-エチリデン-9-メチル、8-エチリデン-9-エチル、8-エチリデン-9-イソプロピル、8-エチリデン-9-ブチル、8-n-プロピリデン、8-n-プロピリデン-9-メチル、8-n-プロピリデン-9-エチル、8-n-プロピリデン-9-イソプロピル、8-n-プロピリデン-9-ブチル、8-イソプロピリデン、8-イソプロピリデン-9-メチル、8-イソプロピリデン-9-エチル、8-イソプロピリデン-9-イソプロピル、8-イソプロピリデン-9-ブチル、8-クロロ、8-ブロモ、8-フルオロ、8,9-ジクロロ、8-フェニル、8-メチル-8-フェニル、8-ベンジル、8-トリル、8-(エチルフェニル)、8-(イソプロピルフェニル)、8,9-ジフェニル、8-(ビフェニル)、8-(β-ナフチル)、8-(α-ナフチル) 、8-(アントラセニル) 、5,6-ジフェニルなどが挙げられる。
【0038】
さらに他の誘導体として、(シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物)とシクロペンタジエンとの付加物などが挙げられる。また、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]-4-ペンタデセン、およびその誘導体、ペンタシクロ[7.4.0.12,5.19,12.08,13]-3-ペンタデセン、およびその誘導体、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13 ]-4,10-ペンタデカジエンなどのペンタシクロペンタデカジエン化合物、ペンタシクロ[8.4.0.12,5.19,12.08,13]-3-ヘキサデセン、およびその誘導体、ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14 ]-4-ヘキサデセン、およびその誘導体、ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]-4-ヘプタデセン、およびその誘導体、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]-5- エイコセン、およびその誘導体、ヘプタシクロ[8.8.0.12,9.14,7.111,18.03,8.012,17]-5-ヘンエイコセン、およびその誘導体、オクタシクロ[8.8.0.12,9.14,7.111,18.113,16.03,8.012,17 ]-5-ドコセン、およびその誘導体、ノナシクロ[10.9.1.14,7.113,20.115,18.02,10.03,8.012,21.014,19]-5-ペンタコセン、およびその誘導体、ノナシクロ[10.10.1.15,8.114,21.116,19.02,11.04,9.013,22.015,20]-6-ヘキサコセン、およびその誘導体などが挙げられる。
【0039】
なお化学式[I]、または[II]で表される環状オレフィンの具体例を上記に示したが、これら化合物のより具体的な構造例としては、特開平6−228380号の段落番号[0038]〜[0058]に示された環状オレフィンの構造例や、特開2005−330465号の段落番号[0027]〜[0029]に示された環状オレフィンの構造例を挙げることができる。本発明で用いられる環状オレフィン系重合体は、上記環状オレフィンから導かれる単位を2種以上含有していてもよい。
【0040】
上記のような化学式[I]、または[II]で表される環状オレフィンは、シクロペンタジエンと対応する構造を有するオレフィン類とを、ディールス・アルダー反応させることによって製造することができる。なお、このようなディールズ・アルダー反応によって得られる環状モノマーは、通常エンド体とエキソ体との異性体混合物として得られるが、エンド体が主に生成する。但し、従来公知、例えば特開平5−86131号に記載の方法で異性体混合物中のエキソ体の濃度を増加させることができる。これに従って、本発明の目的を損なわない範囲で環状モノマーのエンド体/エキソ体の比を調整して使用することができる。
また、例えばベンゾノルボルナジエン(以下BNBDと呼ぶことがある)やその誘導体は従来公知、例えばGB2244276号に記載の方法で製造することができる。例えばBNBDは、1,2−ジメトキシエタンの存在下でシクロペンタジエンと2−アミノ安息香酸を反応させることにより得ることができる。
【0041】
[構成単位(C)]
構成単位(C)は、芳香族ビニル化合物、すなわち構成単位(A)および構成単位(B)との共重合により主鎖を形成するビニル基に芳香族基が結合した化合物、から導かれる。具体的な芳香族基としては、炭素数6〜14程度の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0042】
芳香族ビニル化合物には、スチレン及びその誘導体が包含される。スチレン誘導体とは、スチレンに他の基が結合した化合物であって、例えば、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレンのようなアルキルスチレンや、ヒドロキシスチレン、t−ブトキシスチレン、ビニル安息香酸、ビニルベンジルアセテート、o−クロロスチレン、p−クロロスチレンの如き、スチレンのベンゼン核に水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基、アシルオキシ基、ハロゲンなどが導入された置換スチレン、また4−ビニルビフェニル、4−ヒドロキシ−4′−ビニルビフェニルのようなビニルビフェニル系化合物などが挙げられる。
【0043】
また、芳香族ビニル化合物には、ビニルナフタレン及びその誘導体が包含される。ビニルナフタレン誘導体とは、ビニルナフタレンに他の基が結合した化合物である。
【0044】
ここで、構成単位(A)は重合体全体の30〜70モル%含まれる。このうち、35モル%以上含まれることが好ましく、40モル%以上含まれることがさらに好ましく、45モル%以上含まれることが特に好ましい。また、65モル%以下含まれることが好ましく、60モル%以下含まれることがさらに好ましく、55モル%以下含まれることが特に好ましい。
【0045】
構成単位(B)は重合体全体の20〜50モル%含まれる。このうち、25モル%以上含まれることが好ましく、30モル%以上含まれることがさらに好ましい。また、48モル%以下含まれることが好ましく、46モル%以下含まれることがさらに好ましい。
【0046】
構成単位(C)は重合体全体の0.1〜20モル%含まれる。このうち、1モル%以上含まれることが好ましく、2モル%以上含まれることがさらに好ましく、3モル%以上含まれることが特に好ましい。また、15モル%以下含まれることが好ましく、12モル%以下含まれることがさらに好ましく10モル%以下含まれることが特に好ましい。
構成単位(C)が上述の範囲にあることで、単一でありながら逆波長依存性を有する優れたフィルムを作製することができる重合体が得られる。
【0047】
本願発明の重合体は、さらに以下の要件[1]〜[3]を同時に満たすことを要件とする。
要件[1]移動粘度計によりASTM J1601に準じた測定方法にて測定を行った場合の135℃のデカリン中での極限粘度[η]が0.4〜5.0dl/gの範囲にあること。
要件[2]H−NMRにおいて6.0〜6.8ppmの範囲にピークが存在すること。
要件[3]示差走査熱量計(DSC)より求められるガラス転移温度が100℃〜200℃の範囲にあること。
【0048】
[要件[1]]
要件[1]は移動粘度計によりASTM J1601に準じた測定方法にて測定を行った場合の135℃のデカリン中での極限粘度[η]が0.4〜5.0dl/gの範囲にあることである。このうち、極限粘度が0.5dl/g以上であることが好ましく、0.6dl/g以上であることがさらに好ましい。また、4.0dl/g以下であることが好ましく、3.0dl/g以下であるがさらに好ましい。
極限粘度[η]が、低すぎる場合には、フィルムを作製した際の機械強度が十分でなく、高すぎる場合には作業性が悪くなる。上述の範囲にあることで十分な機械強度を有し、かつフィルム作製時に作業性に優れるフィルムを作製することができる重合体となる。
【0049】
[要件[2]]
H−NMRにおいて6.0〜6.8ppmの範囲にピークが存在することである。この範囲にピークが存在することにより、位相差の波長依存性を幅広く制御することが可能であり、さらに逆波長依存性を有するフィルムが得られることが分かっている。
【0050】
このピークは複数のピークであってもよい。また、芳香族ビニル化合物から導かれる構成単位(C)に由来のピークであると考えられる。例えば、スチレンを芳香族ビニル化合物から導かれる構成単位(C)として使用した場合には、当該ピークはシンジオタクチックなスチレンの連鎖構造に由来のピークであると考えられる。なお、6.0ppmより小さい範囲、6.8ppmより大きい範囲にビニル化合物から導かれる構成単位(C)に由来のピークが存在していてもよい。
【0051】
[要件[3]]
要件[3]は示差走査熱量計(DSC)より求められるガラス転移温度が100℃〜200℃の範囲にあることである。このうち、ガラス転移温度が105℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがさらに好ましい。また、190℃以下であることが好ましく、180℃以下であるがさらに好ましい。
ガラス転移温度が、低すぎる場合にはフィルムを作製した際の耐熱性が十分でなく、高すぎる場合には溶解成形性が悪くなる。上述の範囲にあることで十分に耐熱性に優れるフィルムを作製することができ、かつフィルム作製時に溶解成形性に優れる重合体となる。
【0052】
また、本発明の重合体の分子量分布Mw/Mnは任意であるが、ゲルパーミッションクロマトグラフィーにより求められる分子量分布Mw/Mnが2.1以上であることが好ましく、2.2以上であることがさらに好ましい。また、4.0以下であることが好ましく、3.0以下であるがさらに好ましい。
【0053】
本発明の第2の実施形態は、第1の実施形態の重合体を用いた光学材料である。本実施形態のうち、フィルムは、第1の実施形態の重合体を公知の成形方法により成形して得られる。たとえば、第1の実施形態の重合体を射出成形法、Tダイ押出法、インフレーション法、プレス法などの成形方法により、フィルム状に成形することができる。なお、フィルムは、未延伸の状態で用いることもでき、また用途や目的に合わせて、延伸処理、例えば一軸延伸、二軸延伸して用いることもできる。
【0054】
また、本実施形態のフィルムは、第1の実施形態の重合体の他に、本発明の目的を損なわない範囲で、各種添加剤たとえば染料、顔料、安定剤、可塑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、充填剤などが必要に応じて含有されていてもよい。
【0055】
このようなフィルムのうち、フィルム厚さ50μmあたりの波長590nmにおける位相差R50(590)が以下の条件を満たす位相差フィルムが好ましく用いられる。
50(590)≧6nm
ここで、R50(590)はより好ましくは7nm以上であり、さらに好ましくは8nm以上である。
なお、フィルム厚さ50μmあたりの波長590nmにおける位相差R50(590)は、
50(590)=S(nx−ny)×50×103(nm)で表される。この場合、Sは前記フィルムの複屈折の正負を区別するための符号を表し、nxはフィルムの面内における最大の屈折率を示し、nyはフィルムの面内における最大屈折率を示す方向に直交する方位の屈折率を示す。
【0056】
また、R50(450)/R50(550)は1.0よりも小さい(R50(450)/R50(550)<1.0)ことが好ましい。該フィルムを位相差板として使用することにより、偏光板の優れた軸補正を可能とする。
50(450)/R50(550)は0.98以下であることがより好ましく、0.96以下であることがさらに好ましい。下限には特に制限はないが、0.65以上が好ましく、0.78以上がさらに好ましい。
【0057】
このような観点から、本発明は、光学補償フィルム、特に液晶表示素子等の視野角を拡げるための偏光板の軸補償の用途に好適な光学補償フィルム、およびこのような光学補償フィルムを用いて偏光板の軸補償を行う方法も提供することができる。加えて、本発明は、少なくとも1層の偏光板、および少なくとも1層の光学補償フィルムを有する積層偏光素子を提供することができ、このような積層偏光素子は、液晶表示素子等の視野角を拡げるために好適に用いることができる。さらに、本発明は、このような光学補償フィルムを備える液晶表示素子を提供する。
【0058】
本発明の第3の実施形態は、(a)第3族金属原子またはランタノイド金属原子である中心金属M、該中心金属に結合した置換もしくは無置換のシクロペンタジエニル誘導体を含む配位子Cp、モノアニオン配位子QおよびQ、ならびにW個の中性ルイス塩基Lを含む化学式[III]で表されるメタロセン錯体、および(b)非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物、を含む重合触媒組成物の存在下に、エチレンまたは炭素原子数が3〜20のα−オレフィン、環状オレフィン、および芳香族ビニル化合物を共重合させることにより得られる上述の実施態様1に記載の環状オレフィン系共重合体、およびその製造方法である。
【0059】
【化11】

(化学式[III]中、Wは0〜3の整数を表す。)
【0060】
上記(a)、および(b)を含む重合触媒組成物を以下に具体的に説明する。
【0061】
<本発明に用いる重合触媒組成物>
本発明に用いる重合触媒組成物は、メタロセン錯体とイオン性化合物を含む。また、その他の任意の成分を含んでいてもよい。
【0062】
1. 本発明に用いる重合触媒組成物に含まれるメタロセン錯体(上記(a))
本発明に用いる重合触媒組成物に含まれるメタロセン錯体は、以下の化学式[III]で表される錯体である。該錯体は、好ましくはハーフメタロセン錯体である。
【0063】
【化12】

(化学式[III]中、Wは0〜3の整数を表す。)
【0064】
化学式[III]において、Mはメタロセン錯体における中心金属である。中心金属Mは第3族金属またはランタノイド金属であり、特に限定されない。本発明で用いるメタロセン錯体は、重合触媒組成物の一構成成分として用いることができるので、中心金属Mは、重合させようとするモノマーの種類などによって適宜選択される。
例えば、エチレンを重合する場合は、いずれの第3族金属またはランタノイド金属を用いてもよいが、例えば下記する実施例において示されているように、スカンジウムSc、ガドリニウムGd、イットリウムY、ホルミウムHo、ルテチウムLu、エルビウムEr、ジスプロシウムDy、テルビウムTb、ツリウムTmを選択することができる。
また、スチレンを重合する場合は、いずれの第3族金属またはランタノイド金属を用いてもよいが、例えば下記する実施例において示されているように、Sc、Gd、Y、Luを選択することができる。
【0065】
化学式[III]においてCp*は、シクロペンタジエニル誘導体を含む配位子であり、中心金属Mにπ結合している。該配位子は、好ましくは非架橋型配位子である。ここで非架橋型配位子とは、シクロペンタジエニル誘導体が中心金属にπ結合して、シクロペンタジエニル誘導体以外の配位原子または配位基を有さない配位子を意味する。
Cp*に含まれるシクロペンタジエニル誘導体とは、シクロペンタジエニル環のほか、シクロペンタジエニルを含む縮合環(インデニル環、フルオレニル環を含むがこれらに限定されない)などが挙げられる。最も好ましいシクロペンタジエニル誘導体は、シクロペンタジエニル環である。
【0066】
シクロペンタジエニル環は、組成式C5−Xで表される。ここでxは0〜5の整数を表す。Rはそれぞれ独立して、ヒドロカルビル基、置換ヒドロカルビル基、またはヒドロカルビル基が置換したメタロイド基である。
【0067】
前記ヒドロカルビル基は、好ましくは炭素数1〜20のヒドロカルビル基であるが、より好ましくはC1〜20(好ましくはC1〜10、さらに好ましくはC1〜6)のアルキル基、フェニル基、ベンジル基などであり、最も好ましくはメチル基である。
【0068】
前記置換ヒドロカルビル基におけるヒドロカルビル基は、前記したヒドロカルビル基と同様である。置換ヒドロカルビル基とは、ヒドロカルビル基の少なくとも1の水素原子が、ハロゲン原子、アミド基、ホスフィド基、アルコキシ基、またはアリールオキシ基などで置換されたヒドロカルビル基である。
【0069】
前記ヒドロカルビル基が置換したメタロイド基におけるメタロイドは、ゲルミルGe、スタニルSn、シリルSiなどが挙げられる。また、メタロイド基に置換したヒドロカルビル基は前記したヒドロカルビル基と同様であり、その置換数は、メタロイドの種類によって決定される(例えばシリル基の場合は、ヒドロカルビル基の置換数は3である)。
【0070】
好ましくは、シクロペンタジエニル環のRの少なくとも一つが、ヒドロカルビル基が置換したメタロイド基(好ましくはシリル基)であり、より好ましくはトリメチルシリル基である。
【0071】
好ましいシクロペンタジエニル環としては、以下の構造式で表されるものが具体的に例示されるが、これらに限定されることはない。
【0072】
【化13】

【0073】
配位子Cp*に含まれるシクロペンタジエニル誘導体は、インデニル環(組成式:C7−x)またはテトラヒドロインデニル環(組成式:C11−x)などでもよい。ここでRは前記したシクロペンタジエニル環のRと同様であり、Xは0〜7または0〜11の整数である。
【0074】
配位子Cp*に含まれるシクロペンタジエニル誘導体は、フルオレニル環(組成式:C139−x)またはオクタヒドロフルオレニル環(組成式:C1317−x)などでもよい。ここでRは前記したシクロペンタジエニル環のRと同様であり、Xは0〜9または0〜17の整数である。
【0075】
本発明で用いる化学式[III]で表される錯体において、Q及びQは、同一または異なるモノアニオン配位子である。モノアニオン配位子としては、1)ヒドリド、2)ハライド、3)置換もしくは無置換の、炭素数1〜20のヒドロカルビル基、4)アルコキシ基もしくはアリールオキシ基、5)アミド基、または6)ホスフィノ基などが挙げられるがこれらに限定されない。
また、Q及びQは互いに結合するか、あるいは一緒になって、いわゆるジアニオン性の配位子となっていてもよい。ジアニオン性の配位子としては、アルキリデン、ジエン、シクロメタル化されたヒドロカルビル基、または二座のキレート配位子などが挙げられる。
【0076】
前記ハライドは、クロリド、ブロミド、フルオリド及びアイオダイドのいずれもでもよい。
前記炭素数1〜20のヒドロカルビル基は、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、イソブチル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、セチル基、2−エチルヘキシル基などのアルキル基、フェニル基、ベンジル基などの無置換ヒドロカルビル基のほか、置換ベンジル基やトリアルキルシリルメチル基、ビス(トリアルキルシリル)メチル基などの置換ヒドロカルビル基でもよい。好ましいヒドロカルビル基の例には、置換または無置換ベンジル基やトリアルキルシリルメチル基が含まれ、より好ましい例にはオルト−ジメチルアミノベンジル基やトリメチルシリルメチル基が含まれる。
【0077】
前記炭素数1〜20のヒドロカルビル基として、さらに好ましくは、
1)η3−C315(式中、R1は、それぞれ独立に水素またはアルキル基を示す。また、η3はハプト数が3であることを示す。)で示される基、または、
2)CH2624ER3n−o(式中、R2は、それぞれ独立に水素またはアルキル基を示し;EはN、P、As、O、またはSを示し;R3は、それぞれ独立にアルキル基またはアリール基を示し;nは1または2である。)で示される基である。
【0078】
前記η3−C315におけるR1が示すアルキル基は、好ましくはC1〜C12(好ましくはC1〜C8、さらに好ましくはC1〜C4)のアルキル基などであり、最も好ましくはメチル基である。
前記CH2624ER3n−oにおけるR2が示すアルキル基は、好ましくはC1〜C10(好ましくはC1〜8、さらに好ましくはC1〜C4)のアルキル基などであり、最も好ましくはメチル基である。R3が示すアルキル基は、R2が示すアルキル基と同様である。R3が示すアリール基は、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基などである。
前記CH2624ER3n−oにおけるEはN、P、As、O、またはSを示し、好ましくはNである。
【0079】
前記アルコキシ基またはアリールオキシ基は、好ましくはメトキシ基、置換または無置換のフェノキシ基などである。
前記アミド基は、好ましくはジメチルアミド基、ジエチルアミド基、メチルエチルアミド基、ジ−t−ブチルアミド基、ジイソプロピルアミド基、無置換または置換ジフェニルアミド基などである。
前記ホスフィノ基は、好ましくはジフェニルホスフィノ基、ジシクロヘキシルホスフィノ基、ジエチルホスフィノ基、ジメチルホスフィノ基などである。
【0080】
前記アルキリデンは、好ましくはメチリデン、エチリデン、プロピリデンなどである。
前記シクロメタル化されたヒドロカルビル基は、好ましくはプロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、オクチレンなどである。
前記ジエンは、好ましくは1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,4−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエンなどである。
【0081】
本発明で用いる化学式[III]で表される錯体において、Lは中性ルイス塩基である。中性ルイス塩基としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメチルアニリン、トリメチルホスフィン、塩化リチウムなどが挙げられる。
また、LはQ及び/又はQと結合して、いわゆる多座配位子となっていてもよい。
【0082】
化学式[III]におけるLのwは、中性ルイス塩基Lの個数を表す。wは0〜3の整数であり、好ましくは0〜1である。
【0083】
本発明で用いるメタロセン錯体は、既知の方法、例えば(1)Tardif, O.; Nishiura, M.; Hou, Z. M. Organometallics 22, 1171, (2003). や、(2)Hultzsch, K. C.; Spaniol, T. P.; Okuda, J. Angew. Chem. Int. Ed, 38, 227, (1999). に記載された方法に従って合成することができる。
また、後述の参考例にも、これらの錯体の製造方法の具体例が記載されている。
【0084】
2.本発明に用いる重合触媒組成物に含まれるイオン性化合物(上記(b))
前記したように、本発明に用いる重合触媒組成物はイオン性化合物を含む。ここでイオン性化合物とは、非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物を含む。該イオン性化合物は、前記したメタロセン錯体と組み合わされることにより、前記メタロセン錯体に重合触媒としての活性を発揮させる。そのメカニズムとして、イオン性化合物が、メタロセン錯体と反応し、カチオン性の錯体(活性種)を生成させると考えることができる。
【0085】
イオン性化合物の構成成分である非配位性アニオンとしては、例えば、4価のホウ素アニオンが好ましく、テトラ(フェニル)ボレート、テトラキス(モノフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ジフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(トリフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(テトラフルオロメチルフェニル)ボレート、テトラ(トリル)ボレート、テトラ(キシリル)ボレート、(トリフェニル,ペンタフルオロフェニル)ボレート、[トリス(ペンタフルオロフェニル),フェニル]ボレート、トリデカハイドライド-7,8-ジカルバウンデカボレートなどが挙げられる。
【0086】
これらの非配位性アニオンのうち、好ましくはテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートである。
【0087】
イオン性化合物の構成成分であるカチオンの例には、カルボニウムカチオン、オキソニウムカチオン、アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、シクロヘプタトリエニルカチオン、遷移金属を有するフェロセニウムカチオンなどが含まれる。
カルボニウムカチオンの具体例には、トリフェニルカルボニウムカチオン、トリ置換フェニルカルボニウムカチオンなどの三置換カルボニウムカチオンが含まれる。トリ置換フェニルカルボニウムカチオンの具体例には、トリ(メチルフェニル)カルボニウムカチオン、トリ(ジメチルフェニル)カルボニウムカチオンが含まれる。
アンモニウムカチオンの具体例には、トリメチルアンモニウムカチオン、トリエチルアンモニウムカチオン、トリプロピルアンモニウムカチオン、トリブチルアンモニウムカチオン、トリ(n-ブチル)アンモニウムカチオンなどのトリアルキルアンモニウムカチオン、N,N-ジメチルアニリニウムカチオン、N,N-ジエチルアニリニウムカチオン、N,N-2,4,6-ペンタメチルアニリニウムカチオンなどのN,N-ジアルキルアニリニウムカチオン、ジ(イソプロピル)アンモニウムカチオン、ジシクロヘキシルアンモニウムカチオンなどのジアルキルアンモニウムカチオンが含まれる。
ホスホニウムカチオンの具体例には、トリフェニルホスホニウムカチオン、トリ(メチルフェニル)ホスホニウムカチオン、トリ(ジメチルフェニル)ホスホニウムカチオンなどのトリアリールホスホニウムカチオンが含まれる。
【0088】
これらのカチオンのうち、好ましくはアニリニウムカチオンまたはカルボニウムカチオンであり、さらに好ましくはトリフェニルカルボニウムカチオンが挙げられる。
【0089】
すなわち、本発明に用いる重合触媒組成物に含まれるイオン性化合物は、前記した非配位性アニオンおよびカチオンからそれぞれ選ばれるものを組み合わせたものであり得る。
好ましくは、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルボニウムテトラキス(テトラフルオロフェニル)ボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、1,1'-ジメチルフェロセニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどが例示される。イオン性化合物は1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0090】
これらのイオン性化合物のうち、特に好ましいものは、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどが挙げられる。
【0091】
また、遷移金属化合物と反応してカチオン性遷移金属化合物を生成させることができるルイス酸である、B(C6F5)3、Al(C6F5)3などをイオン性化合物として用いてもよく、これらを前記のイオン性化合物と組み合わせて用いてもよい。
さらに、アルキルアルミ化合物(アルミノオキサン、好ましくはMAOまたはMMAO)、またはアルキルアルミ化合物とボレート化合物の組み合わせも、イオン性化合物として用いることができ、また他のイオン性化合物と組み合わせて用いてもよい。特に、前記した本発明で用いる錯体(化学式[III])のモノアニオン配位子Qが、アルキルまたはヒドリド以外である場合(例えばハロゲンである場合)は、アルキルアルミ化合物、またはアルキルアルミ化合物とボレート化合物の組み合わせを用いることが好ましいと考えられる。
【0092】
3.本発明に用いる重合触媒組成物に含まれるその他の任意成分
本発明に用いる重合触媒組成物は、メタロセン錯体及びイオン性化合物以外にも、任意の成分を含むことができる。任意の成分とは、アルキルアルミ化合物、シラン化合物、水素などが挙げられる。
アルキルアルミ化合物とは、通常、メタロセン重合触媒で用いられるアルミノオキサン(アルモキサン)と称される有機アルミニウム化合物を含む。例えば、メチルアルミノキサン(MAO)などが挙げられる。
シラン化合物とは、フェニルシランなどが挙げられる。
【0093】
4.本発明に用いる重合触媒組成物
前記の通り、本発明に用いる重合触媒組成物は前記メタロセン錯体(上記(a))とイオン性化合物(上記(b))を含む。本発明に用いる重合触媒組成物において、イオン性化合物のメタロセン錯体に対するモル比率は、錯体とイオン性化合物の種類によって異なる。
前記モル比率は、例えば、イオン性化合物がカルボニウムカチオンとホウ素アニオンからなるもの(例えば[Ph3C][B(C6F5)4])である場合は0.5〜5、さらに0.5〜1であることが好ましく、MAOなどである場合は300〜4000程度であることが好ましい。
イオン性化合物は、メタロセン錯体をイオン化、即ちカチオン化させて、触媒活性種とすると考えられるため、上記した比率以下であると、十分にメタロセン錯体を活性化することができないと考えられる。
一方、カルボニウムカチオンとホウ素アニオンからなるイオン性化合物が過剰に存在すると、重合反応させるべきモノマーとそれらが反応してしまう恐れがある場合もある。
【0094】
通常、ルイス酸Lがオレフィンモノマーの活性中心への配位を阻害するおそれがあると考えられるので、w=0である化学式[III]で表される錯体が、本発明で用いる錯体として好ましいと考えることもできる。
【0095】
本発明に用いる重合触媒組成物(特に付加重合触媒組成物)は、以下のように用いることができる。
例えば、1)各構成成分(メタロセン錯体およびイオン性化合物など)を含む組成物を重合反応系中に提供する、あるいは2)各構成成分を別個に重合反応系中に提供し、反応系中において組成物を構成させることにより、重合触媒組成物として用いることができる。
上記1)において、「組成物として提供する」とは、イオン性化合物との反応により活性化されたメタロセン錯体(活性種)を提供することを含む。
【0096】
前記の通り、本発明に用いる重合触媒組成物を、種々のモノマーの重合反応における重合触媒組成物として用いることができる。本発明に用いる重合触媒組成物が触媒として作用しうる重合反応は、付加重合性を有することが知られている任意のモノマー化合物の重合反応が挙げられるが、例えばオレフィン系モノマー、エポキシ系モノマー、イソシアネート系モノマー、ラクトン系モノマー、ラクチド系モノマー、環状カーボネート系モノマー、アルキン系モノマーなどの重合反応が挙げられる。好ましくは、オレフィン系モノマーの重合反応、特に好ましくはα−オレフィン、スチレン、エチレン、ジエン、環状オレフィン(2−ノルボルネンやジシクロペンタジエンなどのノルボルネン類やシクロヘキサジエンを含む)などの重合反応が挙げられる。
ここでオレフィン系モノマーであるジエンの例には、1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,4−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエンや、シクロヘキサジエンなどの環状ジエンなどが含まれる。
【0097】
また、本発明の重合触媒組成物は、ホモ重合反応だけでなく、共重合反応における重合触媒組成物として用いることもできる。共重合されるモノマーは付加重合性があればよく、好ましくは2以上のオレフィン系モノマーであり、特に好ましくはα−オレフィン、置換および無置換スチレン、エチレン、ジエン、ならびに環状オレフィンから選ばれる2以上のモノマーである。
【0098】
以上のような重合触媒組成物を用いた場合、スチレン等の芳香族ビニル化合物から導かれる構成単位(C)の取り込まれ方が従来触媒を用いた場合とは異なっており、このことが、フィルム等を作製した場合における光学性能に大きく影響を及ぼしているものと考えられる。
【0099】
以上、本発明の実施形態について説明したが、発明の目的を損なわない範囲で適宜変更を加えた態様も、本発明の実施形態に含まれる。
【実施例】
【0100】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。本実施例において、各種物性は下記の方法によって測定または評価した。
【0101】
(1)環状オレフィンおよびスチレン含量(mol%)
環状オレフィン、スチレン含量の定量化は、日本電子社製「ECA500型」核磁気共鳴装置を用い、下記条件で測定することにより行った。
溶媒:重ベンセン/オルトジクロロベンゼン混合溶媒
サンプル濃度:50〜100g/l−solvent
パルス繰り返し時間:5.5秒
積算回数:6000〜16000回
測定温度:120℃
上記のような条件で測定した13C−NMRスペクトルにより、環状オレフィンおよびスチレンの組成を定量した。
H−NMRスペクトルにより、スチレンの連鎖構造の有無の確認を行った。測定条件は以下の通りである。ここで、ピークが確認できた場合を「有り」、ピークが確認できなかった場合を「無し」とした。
パルスシーケンス: シングルパルス
パルスアングル:6.50μsec(45°)
POINT:32768
積算回数:512 回
繰り返し時間:7.0sec
溶媒: 重水素化テトラクロロエタン(TCE−d2)
試料濃度:15.0mg/0.5mL溶媒
測定温度:120℃
ケミカルシフト基準:TCEシグナル=5.91ppm
【0102】
(2)極限粘度[η]
移動粘度計(離合社製、タイプVNR053U型)を用い、重合体0.25〜0.30gを25mlのデカリンに溶解させたものを試料とし、ASTM J1601に準じ135℃にて比粘度を測定し、これと濃度との比を濃度0に外挿して極限粘度[η]を求めた。
【0103】
(3)ガラス転移温度Tg(℃)
セイコー電子社製、DSC−220Cを用いてN2(窒素)雰囲気下で測定した。常温から50℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した後に5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で0℃まで降温した後に5分間保持した。そして10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する際の吸熱曲線からガラス転移点(Tg)を求めた。
【0104】
(4)レターデーション値R50
大塚電子(株)製測定装置RETS−100を用いて測定した。同装置では、偏光光学系を用いて、サンプル通過後の偏光解析を行うことで、サンプルの位相差(傾斜角0°時の位相差)を求めている。
【0105】
(実施例1)
エチレン・ノルボルネン・スチレン共重合体[A−1]
エチレンと、下記式で表されるビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)と、スチレンの共重合反応を以下のように行った。
【0106】
【化14】

【0107】
攪拌装置を備えた容積500mlのガラス製反応容器に不活性ガスとして窒素を50Nl/hrの流量で30分間流通させた後、トルエン200ml、環状オレフィンのノルボルネンを15g、スチレンを0.92ml加えた後に、トリイソブチルアルミニウムのデカン溶液(濃度1.000mM/ml)を0.30ml加えた。次いで回転数1200rpmで重合溶媒を攪拌しながら溶媒温度を40℃になるよう調節した。溶媒温度が40℃に達したら、窒素の他にさらにエチレンを25Nl/hrの供給速度で反応容器に流通させ、10分経過した後に、トリフェニルカルベニウム(テトラキスペンタフルオロフェニル)ボレートのトルエン溶液(濃度0.005mM/ml)を7ml反応容器に添加し、次いで反応容器上部の滴下ロートに、予め調製しておいた(η−CMeSiMe)Sc(CHNMe−o)のトルエン溶液(濃度0.005mM/ml)7mlをガラス製反応容器に添加し、重合を開始させた。ここで、Meはメチル基を示し、ηはハプト数が5であることを示す。
【0108】
15分間経過した後メタノールを5ml添加して重合を停止させ、エチレン、ノルボルネン、およびスチレンの共重合体を含む重合溶液を得た。その後、重合溶液を別に用意した容積1Lのビーカーに移液し、さらに濃塩酸5mlと攪拌子を加え、強攪拌下で2時間接触させ脱灰操作を行った。この重合液に対して体積で約3倍のアセトンを入れたビーカーに脱灰後の重合溶液を攪拌下加えて共重合体を析出させ、さらに析出した共重合体を濾過により濾液と分離した。得られた溶媒を含む重合体を130℃で12時間減圧乾燥を行ったところ、エチレン・ノルボルネン・スチレン共重合体2.4gが得られた。得られた重合体のH−NMRスペクトルを図1に示す。
【0109】
得られたエチレン・ノルボルネン・スチレン共重合体を、プレス成形機にて、溶融温度260℃、プレス圧100kg/cm、溶融プレス後の冷却温度20℃、冷却時のプレス圧100kg・cmにて溶融プレス成形を行い、膜厚100μmのフィルムを作成した。続いてこのフィルムを延伸機にて、温度140℃にて約2.5倍延伸し、一軸延伸フィルムを作製した。
【0110】
得られた一軸延伸フィルムの光学特性の評価結果を共重合体(A−1)の基本特性と併せて表1に示す。また、このフィルムの分子量分布Mw/Mnは2.39であった。
得られたフィルムの位相差の波長依存性について、理想的な波長依存性を示すλ/4波長板の例とともに図2に記載する。
【0111】
(実施例2)
エチレンとノルボルネンとスチレンとの共重合反応を、実施例1と同様な重合条件にて実施し、エチレン・ノルボルネン・スチレン共重合体(A−2)を得た。得られた重合体のH−NMRスペクトルを図1に示す。さらに実施例1の成形条件に準じて約2.5倍延伸し、一軸延伸フィルムを作製した。得られた一軸延伸フィルムの光学特性の評価結果を共重合体(A−2)の基本特性と併せて表1に示す。また、得られたフィルムの位相差の波長依存性について、図2に記載する。
【0112】
(実施例3)
エチレンとノルボルネンとスチレンとの共重合反応を、実施例1と同様な重合条件にて実施し、エチレン・ノルボルネン・スチレン共重合体(A−3)を得た。得られた重合体のH−NMRスペクトルを図1に示す。さらに実施例1の成形条件に準じて約4.0倍延伸し、一軸延伸フィルムを作製した。得られた一軸延伸フィルムの光学特性の評価結果を共重合体(A−3)の基本特性と併せて表1に示す。
【0113】
(比較例1)
エチレンとノルボルネンとの共重合反応を、実施例1と同様の重合条件にて実施し、エチレン・ノルボルネン共重合体(A−4)を得た。さらに実施例1の成形条件に準じて約2.5倍延伸し、一軸延伸フィルムを作製した。得られた一軸延伸フィルムの光学特性の評価結果を共重合体(A−4)の基本特性と併せて表1に示す。また、得られたフィルムの位相差の波長依存性について、図2に記載する。
【0114】
(比較例2)
エチレンとノルボルネンとスチレンとの共重合反応を、触媒としてイソプロピリデン−ビス(インデニル)ジルコニウムジクロリドとトリフェニルカルベニウム(テトラキスペンタフルオロフェニル)ボレートを使用した以外は、実施例1と同様の重合条件にて実施し、エチレン・ノルボルネン・スチレン共重合体(A−5)を得た。得られた重合体のH−NMRスペクトルを図1に示す。さらに実施例1の成形条件に準じて約2.5倍延伸し、一軸延伸フィルムを作製した。得られた一軸延伸フィルムの光学特性の評価結果を共重合体(A−5)の基本特性と併せて表1に示す。また、得られたフィルムの位相差の波長依存性について、図2に記載する。
【0115】
(実施例4)
実施例1のノルボルネンの代わりに、下記式で表されるテトラシクロ[4.4.0.12.5.17.10]−3−ドデセン(慣用名:テトラシクロドデセン)を用い、エチレンとテトラシクロドデセンとスチレンとの共重合反応を実施例1と同様の重合条件にて実施し、エチレン・テトラシクロドデセン・スチレン共重合体(A−6)を得た。さらに実施例1の成形条件に準じて約2.5倍延伸し、一軸延伸フィルムを作製した。得られた一軸延伸フィルムの光学特性の評価結果を共重合体(A−6)の基本特性と併せて表1に示す。
【0116】
【化15】

【0117】
(比較例3)
エチレンとテトラシクロドデセンとの共重合反応を、実施例1と同様の重合条件にて実施し、エチレン・テトラシクロドデセン共重合体(A−7)を得た。さらに実施例1の成形条件に準じて約2.5倍延伸を行い、一軸延伸フィルムを作製した。得られた一軸延伸フィルムの光学特性の評価結果を共重合体(A−7)の基本特性と併せて表1に示す。
【0118】
【表1】

【0119】
表1より、実施例1〜4のフィルムは、いずれもR50(450)/R50(550)が1より小さく、逆波長依存性を有していることを示している。一方、比較例1〜3のフィルムは、いずれもR50(450)/R50(550)が1以上であり、逆波長依存性を示していない。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明によれば、単一でありながら逆波長依存性を有するフィルムを作製できる重合体、該重合体により作製したフィルム、およびその他の光学材料が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンまたは炭素原子数が3〜20のα−オレフィンから導かれる構成単位(A)を30〜70モル%、
下記化学式[I]または化学式[II]で表される環状オレフィンから導かれる構成単位(B)を20〜50モル%、
【化1】

(化学式[I]中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R1〜R18ならびにRaおよびRbは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基であり、R15〜R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、またはR17とR18とで、アルキリデン基を形成していてもよい。)
【化2】

(化学式[II]中、pおよびqは0または正の整数であり、mおよびnは0,1または2であり、R1〜R19はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基またはアルコキシ基であり、R9およびR10が結合している炭素原子と、R13が結合している炭素原子またはR11が結合している炭素原子とは直接あるいは炭素数1〜3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またn=m=0のときR15とR12またはR15とR19とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。)、
芳香族ビニル化合物から導かれる構成単位(C)を0.1〜20モル%含み、
下記要件[1]〜[3]を同時に満たすことを特徴とする、環状オレフィン系重合体。
[1]移動粘度計によりASTM J1601に準じた測定方法にて測定を行った場合の135℃のデカリン中での極限粘度[η]が0.4〜5.0dl/gの範囲にあること。
[2]H−NMRにおいて6.0〜6.8ppmの範囲にピークが存在すること。
[3]示差走査熱量計(DSC)より求められるガラス転移温度が100℃〜200℃の範囲にあること。
【請求項2】
前記芳香族ビニル化合物から導かれる構成単位(C)を2〜10モル%含む請求項1に記載の環状オレフィン系重合体。
【請求項3】
前記H−NMRにおける6.0〜6.8ppmの範囲のピークが前記芳香族ビニル化合物から導かれる構成単位(C)の連鎖構造由来のピークである請求項1または2に記載の環状オレフィン系重合体。
【請求項4】
Mw/Mnが2.1〜4.0である請求項1〜3のいずれか1項に記載の環状オレフィン系重合体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の環状オレフィン系重合体を含んでなるフィルムであり、溶融押出形成法によって形成された後延伸配向させることによって得られるフィルム。
【請求項6】
請求項5に記載のフィルムを用いた位相差フィルム。
【請求項7】
フィルム厚さ50μmあたりの波長590nmにおける位相差R50(590)が以下の条件を満たす請求項6に記載の位相差フィルム。
50(590)≧6nm
【請求項8】
請求項6または7に記載の位相差フィルムであって、以下の条件を満たす位相差フィルム。
50(450)/R50(550)<1.0
(上記式中、R50(450)およびR50(550)は、それぞれフィルム厚さ50μmあたりの波長450nmおよび550nmにおける前記位相差フィルムの位相差を示す。)
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項に記載のフィルムを用いた光学補償フィルム。
【請求項10】
偏光板の軸補償に用いる請求項9に記載の光学補償フィルム。
【請求項11】
少なくとも1層の偏光版、および少なくとも1層の請求項10に記載の光学補償フィルムを有する積層偏光素子。
【請求項12】
請求項9または10に記載の光学補償フィルムを有する液晶表示素子。
【請求項13】
(a)第3族金属原子またはランタノイド金属原子である中心金属M、該中心金属に結合した置換もしくは無置換のシクロペンタジエニル誘導体を含む配位子Cp、モノアニオン配位子QおよびQ、ならびにW個の中性ルイス塩基Lを含む化学式[III]で表されるメタロセン錯体、および
(b)非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物、
を含む重合触媒組成物の存在下に、エチレンまたは炭素原子数が3〜20のα−オレフィン、環状オレフィン、および芳香族ビニル化合物を共重合させることにより得られる請求項1に記載の環状オレフィン系重合体。
【化3】

(化学式[III]中、Wは0〜3の整数を表す。)
【請求項14】
(a)第3族金属原子またはランタノイド金属原子である中心金属M、該中心金属に結合した置換もしくは無置換のシクロペンタジエニル誘導体を含む配位子Cp、モノアニオン配位子QおよびQ、ならびにW個の中性ルイス塩基Lを含む化学式[III]で表されるメタロセン錯体、および
(b)非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物、
を含む重合触媒組成物の存在下に、エチレンまたは炭素原子数が3〜20のα−オレフィン、環状オレフィン、および芳香族ビニル化合物を共重合させることにより得られる請求項1に記載の環状オレフィン系重合体の製造方法。
【化4】

(化学式[III]中、Wは0〜3の整数を表す。)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−235719(P2010−235719A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83795(P2009−83795)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】