説明

重合体微粒子、その製造方法および導電性微粒子並びに異方導電性材料

【課題】耐熱性及び機械的強度に優れ、且つ、熱履歴後も機械的強度が劣化し難い重合体微粒子、その製造方法、及び該重合体微粒子より得られる導電性微粒子並びに異方導電性材料を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される圧縮破壊強度指数Pが0.77以上であり、且つ、P2が2.9(mN)以上である重合体微粒子。
P=P1/P2 (1)
P1:空気中200℃で1時間熱処理後の圧縮破壊強度(mN)
P2:熱処理前の圧縮破壊強度(mN)
また、この重合体微粒子の製造方法には、単量体成分を重合させてシード粒子を製造する工程、ビニル系単量体と、一次酸化防止剤及び二次酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤とを混合した単量体組成物を前記シード粒子に吸収させる工程とが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体微粒子に関するもので、より詳しくは、耐熱性及び機械的強度に優れ、且つ、熱履歴後も機械的強度が劣化し難い重合体微粒子、その製造方法、及び該重合体微粒子より得られる導電性微粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
重合体微粒子は、樹脂成形品の光拡散性、耐ブロッキング性および滑り性などの物性の向上や更なる特性の付与を目的として、また、電子機器類の微小部位間のスペーサーや電気的接続を担う導電性微粒子の基材粒子として用いられている。
【0003】
近年、生産性向上のため、高温で成形加工が行われることが多く、加熱により重合体微粒子が分解して成形品が変色したり、また、導電性微粒子として用いた場合には、基材粒子の分解により、素子間の間隔が一定に保たれなかったり、電気的短絡が生じるなどの問題があった。この観点から、成形加工時の加熱により分解し難い、耐熱性が高められた重合体微粒子への要求が高まっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、熱分解開始温度が280℃以上に高められた架橋球状粒子、特許文献2には、熱分解開始温度が260℃以上のアクリル系架橋微粒子導電性微粒子、特許文献3には、熱分解開始温度が250℃〜300℃のメタクリレート系樹脂粒子が開示されており、特許文献4には、熱分解開始温度が300℃以上の基材粒子表面に金属層を設けた導電性微粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−220290号公報
【特許文献2】特開2003−171426号公報
【特許文献3】特開平11−12327号公報
【特許文献4】WO2002/013205号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、重合体微粒子の熱分解開始温度を高める技術は多数提案されているが、このように高い耐熱性を有する重合体微粒子を使用しても、重合体微粒子の熱分解温度より低い加熱温度を採用する成形加工において重合体微粒子が分解し、成形品に不良が生じたり、また、導通安定性が得られ難いといった場合があった。
【0007】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、耐熱性及び機械的強度に優れ、且つ、熱履歴後も機械的強度が劣化し難い重合体微粒子、その製造方法、及び該重合体微粒子より得られる導電性微粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決し得た本発明の重合体微粒子とは、下記式(1)で表される圧縮破壊強度指数Pが0.77以上であり、且つ、P2が2.9(mN)以上であるところに要旨を有する。
P=P1/P2 (1)
P1:空気中200℃で1時間熱処理後の圧縮破壊強度(mN)
P2:熱処理前の圧縮破壊強度(mN)
上記構成を有する本発明の重合体微粒子は、熱処理後も圧縮破壊強度の低下が小さく、機械的強度が劣化し難いものである。
【0009】
また、本発明の重合体微粒子は、窒素気流下における熱分解開始温度をT1、空気気流下における熱分解開始温度をT2としたときに、T2が280℃より高く、且つ、T2/T1が0.95以上であるのが好ましい。
【0010】
さらに、本発明の重合体微粒子は、一次酸化防止剤および二次酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤、および/または、酸化防止剤由来の成分を含有するものであるのが好ましく、また、スチレン系単量体に由来する成分を重合体微粒子構成成分中0.5質量%以上含むものであるのが望ましい。加えて、本発明の重合体微粒子は、個数平均粒子径が0.5μm〜100μmであり、粒子径の変動係数が20%以下であるのが好ましい。
【0011】
本発明には上記重合体微粒子を製造する方法も含まれる。その製造方法とは、上記重合体微粒子の製造方法であって単量体成分を重合させてシード粒子を製造する工程、ビニル系単量体と、一次酸化防止剤及び二次酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤とを混合した単量体組成物を前記シード粒子に吸収させる工程、を含むところに特徴を有する。
【0012】
また、上記重合体微粒子の表面に金属被覆層を有する導電性微粒子も本発明に含まれ、前記金属被覆層は、無電解メッキ法により形成された層であるのが望ましい。さらに、本発明の導電性微粒子は、はんだリフロー加工に好適に用いられる。
【0013】
上記導電性微粒子を用いてなる異方性導電材料も本発明の好ましい実施態様である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐熱性および機械的強度に優れ、且つ、熱処理後も機械的強度が劣化し難い重合体微粒子、並びに、該重合体微粒子より得られる導電性微粒子が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[重合体微粒子]
本発明の重合体微粒子とは、下記式(1)で表される圧縮破壊強度指数Pが0.77以上であり、且つ、P2が2.9(mN)以上であるところに特徴を有するものである。
P=P1/P2 (1)
P1:空気中200℃で1時間熱処理した後の重合体微粒子の圧縮破壊強度(mN)
P2:熱処理前の重合体微粒子の圧縮破壊強度(mN)
【0016】
上記圧縮破壊強度指数Pとは、空気中200℃で1時間熱処理した後の圧縮破壊強度P1(mN)と、熱処理前の重合体微粒子の圧縮破壊強度P2(mN)とを、上記式(1)に代入して算出される値であり、空気中における熱処理後の重合体微粒子の機械的強度の低下の程度を示す指標となる。すなわち、圧縮破壊強度指数Pの値が大きいほど、重合体微粒子熱処理後の機械的強度の低下が小さいことを示している。一方、圧縮破壊強度指数Pが小さい場合は、熱処理後の重合体微粒子の機械的強度の低下が大きいことを意味しており、このような場合には、熱分解開始温度に至るまでに重合体微粒子の粒子骨格に切断(分解)が生じ易くなる。したがって、上記P値が小さい重合体微粒子を導電性微粒子の基材粒子として用いた場合には、電気的接合時やはんだリフローなどの熱履歴を受けた後の導通信頼性が著しく低下したり、成形品に不良を生じる虞がある。圧縮破壊強度指数Pは0.83以上であるのが好ましく、より好ましくは0.87以上である。
【0017】
本発明の重合体微粒子の熱処理前の圧縮破壊強度P2は2.9mN以上であるのが好ましい。より好ましくは3.9mN以上であり、さらに好ましくは4.9mN以上であり、特に好ましくは9.8mN以上である。P2が小さすぎると、粒子の機械的強度が低すぎるのはもちろんのこと、加工時の加熱により粒子の機械的強度が一層低下するため、これを導電性微粒子の基材粒子として用いると、微小な荷重で粒子が破壊してしまい、導通信頼性が低下する。なお、圧縮破壊強度は、圧縮を強めて破壊に至ったときの荷重(mN)であり、後記実施例に記載の方法により測定される値である。
【0018】
本発明の重合体微粒子は、窒素気流下における熱分解開始温度をT1、空気気流下における熱分解開始温度をT2としたときに、T2が280℃より高く(280℃は含まない)、且つ、T2/T1が0.95以上であるのが好ましい。なお、T2/T1は1以下である。
【0019】
重合体微粒子の熱分解は、窒素気流下に比較して、空気気流下で生じ易く、特に、空気気流下においては、より低い温度で重合体微粒子の分解が生じる。ここで、T2/T1が0.95以上とは、本発明の重合体微粒子が空気気流下でも、窒素気流下と同等の熱分解開始温度を有するか、あるいは、空気気流下における熱分解開始温度と、窒素気流下における熱分解開始温度の差が小さいことを意味する。
【0020】
より好ましくはT2/T1は0.96以上であり、さらに好ましくは0.97以上である。T2は、290℃以上であるのがより好ましく、さらに好ましくは300℃以上であり、より一層好ましくは310℃以上である。T2が280℃より低く、且つ、T2/T1が0.95より小さい重合体微粒子は、酸素存在下での酸化反応が起こり易いため、熱分解開始温度より十分低い温度域においても酸化により粒子骨格の劣化が進行する。このような重合体微粒子を導電性微粒子の基材粒子として用いた場合には、電気的接合時やはんだリフローなどの熱履歴を受けた後の導通信頼性が著しく低下する虞がある。
【0021】
尚、本発明においては上記熱分解開始温度として、熱分析装置(例えば、Bruker AXS社製の「TG−DTA2000SA」等)を使用して、後述する実施例に記載の条件下で重合体微粒子を熱分解させ、このとき得られたTG曲線のベースラインをもとに、質量減少が開始する温度を読みとった値を熱分解開始温度として採用する。
【0022】
本発明の重合体微粒子は、その内部に、一次酸化防止剤および二次酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤、および/または、酸化防止剤に由来する成分を含有しているのが好ましい。重合体微粒子中にこれらの酸化防止剤が含まれている場合には、熱分解開始温度よりも低い温度で重合体微粒子が分解してしまうのを防止できるからである。
【0023】
一次酸化防止剤としては、パーオキシラジカルに対する水素ラジカル供与能を有する一次酸化防止剤が効果的である。本発明において「パーオキシラジカルに対する水素ラジカル供与能を有する一次酸化防止剤」とは、パーオキシラジカルによって速やかに引き抜かれる水素原子を分子内に少なくとも1つ以上有する化合物であり、水酸基あるいは、1級または2級のアミノ基によって置換された芳香族化合物が好ましいものとして挙げられる。より好ましくは、オルト位にアルキル基を有するフェノール誘導体、あるいは、ジアリールアミン誘導体である。ポリアリレートなどアミン系酸化防止剤の求核性が問題になる場合には、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いればよい。
【0024】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(商品名:IRGANOX 1330)、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 1010)、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(商品名:Sumilizer GM)、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート(商品名:Sumilizer GS)、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナムアミド)(商品名:IRGANOX 1098)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 259)、3,9−ビス[2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]1,1−ジメチルエチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(商品名:SumilizerGA−80)、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート(商品名:IRGANOX 3114)、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(商品名:IRGANOX 1135)、4,4’−チオビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)(商品名:Sumilizer WX−R)、6−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン(商品名:Sumilizer GP)、及び、下記(I−1)〜(I−7)で表される化合物が挙げられる。
【0025】
【化1】


【0026】
アミン系酸化防止剤としては、下記式(II−1)〜(II−3)で表されるものが挙げられる。
【0027】
【化2】

【0028】
二次酸化防止剤としては、パーオキサイドに対して還元作用を有する二次酸化防止剤が好ましい。本発明において「パーオキサイドに対して還元作用を有する二次酸化防止剤」とは、パーオキサイドを速やかに還元して水酸基に変換することのできる還元剤を意味する。パーオキサイドに対する還元能を有する二次酸化防止剤としては、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が好ましい。
【0029】
硫黄系酸化防止剤としては、芳香環を有するものとして、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、4,6−ビス(ドデシルチオメチル)−o−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール(商品名:IRGANOX 1520)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、2−メルカプトベンズイミダゾール(商品名:Sumilizer MB)、1,3,5−トリス−β−ステアリルチオプロピオニルオキシエチルイソシアヌレート、4,4’−チオビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)(商品名:Sumilizer WX−R)」、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール(商品名:IRGANOX 1520)、及び、下記化学式(III−1)で表される化合物等が挙げられる。
【0030】
【化3】

【0031】
また、下記化学式(1)で表される構造単位を有する化合物(IV)も、本発明に係る硫黄系酸化防止剤として好ましく使用できる。
【0032】
【化4】

尚、化学式(1)中、nは1〜5の整数(好ましくは、n=2)を意味する。
【0033】
化合物(IV)の中でも、上記化学式(1)で表される構造単位を分子内に2個以上有する化合物が好ましい。より好ましくは、上記化学式(1)で表される構造単位を分子内に2〜4個有する化合物であり、特に好ましいのは、上記化学式(1)で表される構造単位を分子内に4個有する化合物である。
【0034】
より具体的には、上記化合物(IV)の中でも、下記化学式(2)で表される構造単位を有する化合物(V)が好ましい。化合物(V)としてより好ましいのは、分子中に下記化学式(2)で示される構造単位を2〜4個有する化合物であり、さらに好ましくは、下記化学式(2)で示される構造単位を4個有する化合物である。
【0035】
【化5】

【0036】
ここで、nは1〜5の整数(好ましくはn=2)であり、Rはアルキル基、アリール基、アラルキル基およびアルケニル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基であり、Rは置換基を有していてもよい。
【0037】
上記アルキル基としては、耐熱性の向上効果が高い点で、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数3〜20アルキル基であり、さらに好ましくは炭素数6〜18のアルキル基である。具体的には、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基(ラウリル基)、トリデシル基、ミリスチル基、オクタデシル基(ステアリル基)等のアルキル基が挙げられる。
【0038】
アリール基としては、フェニル基、ヒドロキシフェニル基、トリル基、o−キシリル基などが挙げられる。これらの中でも、フェニル基、ヒドロキシフェニル基が好ましい。
【0039】
アラルキル基としては、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基、フェニルベンジル基、ナフチルメチル基などが挙げられ、アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基などが挙げられる。これらの中でも、アルキル基、アリール基が好ましく、特に好ましいのはアルキル基である。
【0040】
上記Rが有する置換基としては、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基などが例示される。
【0041】
上記化学式(2)で表される構造単位を4個有する化合物(V)としては、例えば、ペンタエリスリチルテトラキス(3−アルキルチオプロピオネート)が好ましく挙げられる。具体的には、ペンタエリスリチルテトラキス(3−メチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリチルテトラキス(3−エチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリチルテトラキス(3−プロピルチオプロピオネート)、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ブチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ヘキシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリチルテトラキス(3−オクチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)(商品名:Sumilizer TP−D)、ペンタエリスリチルテトラキス(3−トリデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ミリスチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ステアリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリチルテトラキス(3−フェニルチオプロピオネート)などが例示される。中でも、炭素数3〜20のアルキル基を有するものが好ましく、さらに好ましくはアルキル基の炭素数が6〜18、特に好ましくはアルキル基の炭素数が12〜18の化合物である。
【0042】
特に、炭素数12のアルキル基を有する、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)は工業的に入手し易く好ましい。
【0043】
また、化合物(IV)の中でも、下記化学式(3)で示される構造単位を有する化合物(VI)も、本発明に係る硫黄系酸化防止剤として好ましく用いられる。
【0044】
【化6】

【0045】
化学式(3)中、nは1〜5の整数(好ましくはn=2)である。
上記化学式(3)で示される構造単位を有する化合物(VI)の中でも、下記化学式(4)で示される化合物はより好ましい。
【0046】
【化7】

nは1〜5の整数(好ましくはn=2)である。
【0047】
化学式(4)中、R2およびR3は、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基、アラルキル基およびアルケニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基であり、また、R2およびR3は置換基を有していてもよい。なお、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基としては、上記化合物(V)におけるR1の場合と同様のものが好ましく例示できる。尚、R2およびR3として好ましいのは、アルキル基、アリール基であり、特に好ましいのは、アルキル基である。
【0048】
上記R2およびR3が有する置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基などが例示される。
【0049】
化学式(4)で表される化合物(VI)としては、例えば、ジアルキル−3,3’−チオジプロピオネートが好ましく挙げられる。具体的には、ジメチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジエチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジプロピル−3,3’−チオジプロピオネート、ジブチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジヘキシル−3,3’−チオジプロピオネート、ジオクチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジドデシル−3,3’−チオジプロピオネート(ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート)(商品名:Sumilizer TPL−R、または、商品名:IRGANOX PS 800FL)、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオネート(商品名:Sumilizer TL、または、商品名:アデカスタブAO−503A)、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート(商品名:Sumilizer TPM)、ジヘキサデシル−3,3’−チオジプロピオネート、ジオクタデシル−3,3’−チオジプロピオネート(ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート)(商品名:IRGANOX PS 802FL、または、商品名:Sumilizer TPS)等が例示される。これらの中でも、炭素数3〜20のアルキル基を有するものが好ましく、より好ましくはアルキル基の炭素数が6〜18の化合物、さらに好ましくはアルキル基の炭素数が12〜18の化合物である。
【0050】
特に、炭素数12〜18のアルキル基を有するジドデシル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオネート、ジオクタデシル−3,3’−チオジプロピオネートは工業的に入手が容易であるので好ましい。
【0051】
上記リン系酸化防止剤は、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(商品名:SANKOHCA)、トリエチルホスファイト(商品名:JP302)、トリ−n−ブチルホスファイト(商品名:JP304)、トリフェニルホスファイト(商品名:アデカスタブTPP)、ジフェニルモノオクチルホスファイト(商品名:アデカスタブC)、トリ(p−クレジル)ホスファイト(商品名:Chelex−PC)、ジフェニルモノデシルホスファイト(商品名:アデカスタブ135A)、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト(商品名:JPM313)、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト(商品名:JP308)、フェニルジデシルホスファイト(アデカスタブ517)、トリデシルホスファイト(商品名:アデカスタブ3010)、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト(商品名:JPP100)、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(商品名:アデカスタブPEP−24G)、トリス(トリデシル)ホスファイト(商品名:JP333E)、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(商品名:アデカスタブPEP−4C)、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(商品名:アデカスタブPEP−36)、ビス[2,4−ジ(1−フェニルイソプロピル)フェニル]ペンタエリスリトールジホスファイト(商品名:アデカスタブPEP−45)、トリラウリルトリチオホスファイト(商品名:JPS312)、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(商品名IRGAFOS 168)、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト(商品名:アデカスタブ1178)、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト(商品名:アデカスタブPEP−8)、トリス(モノ,ジノニルフェニル)ホスファイト(商品名:アデカスタブ329K)、トリオレイルホスファイト(商品名:Chelex−OL)、トリステアリルホスファイト(商品名:JP318E)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト(商品名:JPH1200)、テトラ(C12−C15混合アルキル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト(商品名:アデカスタブ1500)、テトラ(トリデシル)−4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)ジホスファイト(商品名:アデカスタブ260)、ヘキサ(トリデシル)−1,1,3−トリス(2−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン−トリホスファイト(商品名:アデカスタブ522A)、水添ビスフェノールAホスファイトポリマー(HBP)、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニルオキシ)−4,4’−ビフェニレン−ジ−ホスフィン(商品名:IRGAFOS P−EPQ)、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニルオキシ)−4,4’−ビフェニレン−ジ−ホスフィン(商品名:GSY−101P)、2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1−ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン−6−イル]オキシ]−N,N−ビス[2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1−ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン−6−イル]オキシ]−エチル]エタナミン(商品名:IRGAFOS 12)、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト(商品名:アデカスタブHP−10)、トリス[2−[[2,4,8,10−テトラ−tert−ブチルジベンゾ[d、f][1,3,2]ジオキサフォスフェフィン−6−イル]オキシ]エチル]アミン、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスフォナイト、及び、下記(VII−1)〜(VII−12)で表される化合物が挙げられる。
【0052】
【化8】

【0053】
【化9】

【0054】
上記二次酸化防止剤の中でもリン系酸化防止剤が好ましい。硫黄系酸化防止剤を用いた場合には、重合体微粒子中に硫黄成分が取り込まれるため、硫黄特有の臭気が敬遠される場合があるからである。
【0055】
上記酸化防止剤はそれぞれ単独で用いてもよいが、複数種を組み合わせて用いてもよい。また、一次酸化防止剤と二次酸化防止剤とを組み合わせてもよく、もちろん、一次酸化防止剤のみを組み合わせて用いても、また、二次酸化防止剤のみを組み合わせて用いてもよい。
【0056】
酸化防止剤の分子量(Mw)は2000以下であるのが好ましく、より好ましくは1500以下、さらに好ましくは1300以下である。酸化防止剤の分子量が2000を超えると、重合体微粒子の原料である重合性単量体への酸化防止剤の溶解度が低下して、酸化防止剤が重合体微粒子中に取り込まれ難くなる虞がある。また、後述するシード重合法やゾルゲルシード重合法により本発明の重合体微粒子を製造する場合には、酸化防止剤がシード粒子中に吸収され難くなり、その結果、重合体微粒子中への酸化防止剤の導入が不十分となる虞があるからである。
【0057】
上記酸化防止剤は、本発明の重合体微粒子中に0.05質量%〜5質量%含まれているのが好ましい。より好ましくは0.1質量%〜4質量%であり、さらに好ましくは0.5質量%〜3質量%である。酸化防止剤が少なすぎると、耐熱性や、加熱後の機械的強度が確保され難い場合がある。一方、多すぎる場合には、特に、シード重合法、ゾルゲルシード重合法を採用する場合に、酸化防止剤がシード粒子中に吸収され難くなり、その結果、重合反応段階で粒子間に凝集が発生し易くなることがある。その原因は定かではないが、反応系内では、粒子中に吸収されていない酸化防止剤が、重合体媒体(水系媒体)中に一部溶解、若しくは、分散した状態となっており、重合反応段階で粒子間の安定化に寄与している界面活性剤や分散剤などが、酸化防止剤の溶解や分散に使用されてしまい、粒子の分散、安定化が不十分になるためと推測される。なお、酸化防止剤の中には、重合体微粒子合成時にラジカル捕捉剤として消費されてしまうものも存在するが、本発明の重合体微粒子中には、重合体微粒子製造時に用いたのと同程度の量の酸化防止剤が含まれているのが好ましい。
【0058】
また、本発明の重合体微粒子は、スチレン系単量体に由来する成分を重合体微粒子構成成分中0.5質量%以上含むものであるのが好ましい。これにより、耐熱性の向上効果、加熱処理後の重合体微粒子の圧縮破壊強度の低下抑制効果が期待されるからである。より好ましくは1質量%以上である。なお、重合体微粒子中のスチレン系単量体に由来する成分の量はGC−MS等でも確認できるが、本発明においては、実質的に使用した単量体成分の全てが重合体微粒子中に取り込まれるとみなせるため、重合体微粒子の合成に用いた全単量体に対するスチレン系単量体の仕込比率(使用質量%)をスチレン系単量体に由来する成分の量として採用する。
【0059】
本発明の重合体微粒子の形状は特に限定されるものではなく、例えば球状、回転楕円体状、金平糖状、薄板状、針状、まゆ状のいずれでも良く、粒子表面の形状も平滑状、襞状、多孔状のいずれでも良い。中でも、導電性微粒子として使用するに際し、粒子が電極間で変形したときに良好な面接触状態を形成する点で球状が好ましい。
【0060】
重合体微粒子の大きさは、個数平均粒子径で0.5μm〜100μmであるのが好ましい。100μmを越える重合体微粒子は導電性微粒子に加工した際の用途が限られ、工業上の利用分野が少ないためである。個数平均粒子径は1.0μm〜30μmであるのがより好ましく、さらに好ましくは2.0μm〜10μmである。重合体微粒子の個数平均粒子径が小さすぎる場合には、無電解めっきなどの導電性金属層を被覆する際に粒子が凝集し易く、均一な導電性金属層を形成し難い場合がある。なお、個数平均粒子径は、従来公知の粒度分布測定法において、個数平均粒子径として求められる値を意味し、具体的には、コールター原理を使用した精密粒度分布測定装置(例えば、商品名「コールターマルチサイザーIII型」、ベックマン・コールター株式会社製)により測定される値とする。
【0061】
また本発明の重合体微粒子の粒子径の変動係数(CV値)は、20%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましい。CV値が小さいほど、粒度分布が小さいからである。なお、CV値は、コールター原理を使用した精密粒度分布測定装置により測定される重合体微粒子の個数平均粒子径と、重合体微粒子の粒子径の標準偏差とを下記式に当てはめて求められる値である。
重合体微粒子の粒子径の変動係数(%)=100×粒子径の標準偏差/個数平均粒子径
【0062】
本発明の重合体微粒子の機械的特性は、例えば、圧縮弾性率、圧縮変形回復率及び上述の圧縮破壊強度等で評価できる。本発明における圧縮弾性率は、粒子に負荷を加え10%変形したときの弾性率(N/mm2:MPa)であり、回復率は圧縮後の回復率(%)である。重合体微粒子および導電性微粒子のいずれにおいても、圧縮弾性率は、1000N/mm2以上が好ましく、2000N/mm2以上がより好ましく、3000N/mm2以上がさらに好ましく、30000N/mm2以下であるのが好ましく、より好ましくは25000N/mm2以下であり、さらに好ましくは20000N/mm2以下である。また、圧縮変形回復率は、0.5%以上が好ましく、1.0%以上がより好ましく、2.0%以上がさらに好ましく、95%以下であるのが好ましく、より好ましくは90%以下であり、さらに好ましくは85%以下である。
【0063】
[重合体微粒子]
本発明の重合体微粒子は、ビニル系重合体のみからなる有機質重合体微粒子や、有機質と無機質とが複合された材料からなる有機無機複合粒子のいずれであってもよい。なお、本発明で使用する「ビニル」との文言には、(メタ)アクリロイルも含まれる。重合体微粒子としては、具体的には、(メタ)アクリル系(共)重合体、(メタ)アクリル系−スチレン系共重合体等のビニル系重合体のみからなる粒子や、重合性(ビニル基含有の意味;以下同じ)アルコキシシランのラジカル重合体および/または縮重合体、重合性アルコキシシランとビニル系モノマーとの共重合体等の有機無機複合粒子が挙げられる。以下の説明で「ビニル重合体」というときは、ビニル系モノマーが重合した有機質のみの重合体を意味する。また、本発明でいう「ビニル系重合体」は、「ビニル重合体」からなる成分や骨格を含むことを意味する。なお、微粒子の組成は、GC−MS等で確認することができる。
【0064】
本発明の重合体微粒子の製造方法の詳細は後述するが、乳化重合、懸濁重合、分散重合、シード重合、ゾルゲルシード重合法等が採用できるが、シード重合やゾルゲルシード重合法は粒度分布を小さくすることができるため好ましい。また、酸化防止剤による粒子強度の低下抑制効果が得られ易い点でもシード重合やゾルゲルシード重合法は好ましい。なお、上記ゾルゲルシード重合法とは、シード重合の一態様であって、特に、シード粒子がゾルゲル法により合成される場合を意味する。例えば、アルコキシシランの加水分解縮合反応により得られたポリシロキサンをシード粒子とする場合などが挙げられる。したがって、シード重合には、シード粒子が、有機質重合体からなる場合と、有機質と無機質とが複合された材料からなる場合(ゾルゲルシード重合法の場合)とが存在する。
【0065】
[有機質重合体微粒子]
有機質重合体微粒子は、ビニル系単量体を含有する単量体混合物を含む単量体組成物を重合して得られる。単量体混合物に含有させるビニル系単量体としては、1分子中に1個のビニル基を有する非架橋性単量体、1分子中に2個以上のビニル基を有する架橋性単量体のいずれも使用することができる。
【0066】
前記非架橋性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類等の(メタ)アクリル系単量体;スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−フェニルスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、パラヒドロキシスチレン等のスチレン系単量体;2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル等の水酸基含有ビニルエーテル類;2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、4−ヒドロキシブチルアリルエーテル等の水酸基含有アリルエーテル類等が挙げられる。尚、前記非架橋性単量体として(メタ)アクリル酸を用いる場合は、部分的にアルカリ金属で中和してもよい。上述の非架橋性単量体は単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。これらの非架橋性単量体の中でも、スチレンは耐熱性の向上効果、加熱処理後の重合体微粒子の圧縮破壊強度の低下抑制効果が高い点で好ましい。
【0067】
架橋性単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、デカエチレングリコールジメタクリレート、ペンタデカエチレングリコールジメタクリレート、ペンタコンタヘクタエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレンジメタクリレート、アリルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能(メタ)アクリレート;1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、および、これらの誘導体等の芳香族ジビニル化合物;N,N−ジビニルアニリン、ジビニルエーテル、ジビニルサルファイド、ジビニルスルホン酸等の架橋剤;ポリブタジエン、ポリイソプレン不飽和ポリエステル等が挙げられる。これらの架橋性単量体は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの架橋性単量体の中でも、スチレン系単量体であるジビニルベンゼンは耐熱性の向上効果、加熱処理後の重合体微粒子の圧縮破壊強度の低下抑制効果が高い点で好ましい。なお、スチレン系単量体は、単量体混合物中0.5質量%以上であるのが好ましく、より好ましくは1質量%以上であり、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下である。
【0068】
前記単量体混合物中の架橋性単量体の含有率は1質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。前記単量体混合物中の架橋性単量体の含有率を1質量%以上とすることにより、ビニル重合体微粒子の耐溶剤性や耐熱性が高まり、機械的特性を適正に制御することができる。
【0069】
上記単量体組成物の重合は、上述の一次酸化防止剤及び二次酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤の存在下で行うのが好ましい。これにより、重合体微粒子中に酸化防止剤を存在させられるからである。したがって、酸化防止剤は、単量体成分や重合溶媒に溶解するものであるのが好ましい。酸化防止剤の配合量は、単量体成分総量(シード重合においては、シード粒子の合成に用いる単量体成分も含む)を100質量%とした場合に0.05質量%〜5質量%であるのが好ましく、より好ましくは0.1質量%〜4質量%であり、さらに好ましくは0.5質量%〜3質量%である。
【0070】
また単量体組成物を重合する際には、必要に応じて、重合開始剤や分散安定剤を用いてもよい。重合開始剤としては、通常、重合に用いられるものはいずれも使用可能であり、例えば、過酸化物系開始剤や、アゾ系開始剤等が使用可能である。前記過酸化物系開始剤としては、過酸化水素、過酢酸、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化オクタノイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、キュメンハイドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
【0071】
アゾ系開始剤としては、ジメチル−2,2−アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサカルボニトリル、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,3−ジメチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,3,3−トリメチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−イソプロピルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)・二塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリン酸)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート等が挙げられる。
【0072】
これらの重合開始剤は、単独でも、2種以上を併用してもよい。なお、これらの重合開始剤の添加量は、単量体混合物100質量部に対して0.1質量部以上とすることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以上であり、5質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは3質量部以下である。
【0073】
分散安定剤は、重合反応前における単量体組成物の液滴の安定化、また、重合反応段階においては、生成した粒子の安定化を図るために使用されるものである。分散安定剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれを用いても良い。分散安定剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、オレイン酸ナトリウム、ヒマシ油カリ等の脂肪酸油;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム塩等のポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤が好適である。
【0074】
分散安定剤の使用量は、単量体成分総量(シード重合においては、シード粒子の合成に用いた単量体成分も含む)100質量部に対して0.1質量部以上とすることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上であり、10質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下である。
【0075】
また、単量体組成物には、顔料、可塑剤、重合安定剤、蛍光増白剤、磁性粉、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤等を添加しても良い。これらの添加剤の使用量は、単量体混合物100質量部に対して0.01質量部以上とすることが好ましく、10質量部以下とすることが好ましい。
【0076】
[有機質重合体微粒子の製造方法]
有機質重合体微粒子の製造方法は、前記したような単量体混合物を含む単量体組成物を重合させるものである。なお、重合方法としては、懸濁重合、シード重合、乳化重合、分散重合等の公知の重合方法を採用することができ、これらの中でも懸濁重合、シード重合が好ましく、特にシード重合は、粒度分布の狭い重合体微粒子が合成でき、且つ、酸化防止剤による粒子強度の低下を効果的に抑制できるため好ましい。なお、粒子強度の低下が効果的に抑制されている理由は定かではないが、おそらく、前記酸化防止剤を溶解させた単量体組成物がシード粒子に吸収されることにより、重合体微粒子中で酸化防止剤が偏析することなく均一に存在するためではないかと推測される。
【0077】
懸濁重合法を採用する場合、用いられる溶媒としては、単量体組成物を完全に溶解しないものであれば特に限定されないが、好ましくは水系媒体が用いられる。これらの溶媒は、単量体組成物100質量部に対して、通常300質量部以上10000質量部以下の範囲内で適宜使用することができる。懸濁重合法による有機質重合体微粒子の製造方法としては、重合開始剤、並びに、酸化防止剤を溶解させた単量体混合物を上記分散安定剤を溶解させた水系溶媒中に懸濁させた後、重合させる方法が好適である。
【0078】
懸濁重合の重合温度は50℃以上とすることが好ましく、より好ましくは55℃以上、さらに好ましくは60℃以上であり、95℃以下とすることが好ましく、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは85℃以下である。また、重合反応時間は1時間以上とすることが好ましく、より好ましくは2時間以上であり、10時間以下とすることが好ましく、より好ましくは8時間以下、さらに好ましくは5時間以下である。また、生成するビニル重合体の粒子径をコントロールするため、重合反応は単量体組成物の液滴径の規制を行った後あるいは液滴径の規制を行いながら反応を行うことが好ましい。この単量体組成物の液滴径の規制は、例えば、単量体組成物を水性媒体に分散させた懸濁液を、T.K.ホモミキサー、ラインミキサー等の高速撹拌機によって撹拌することにより行うことができる。そして、重合反応により生成した有機質重合体微粒子は、乾燥、さらに必要により分級等の工程に供してもよい。なお、乾燥は150℃以下で行うのが好ましく、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。
【0079】
シード重合は、シード粒子の存在下、シード粒子に単量体混合物を吸収させ、シード粒子を膨張させて、シード粒子内で単量体混合物のラジカル重合を行う方法である。本発明においては、酸化防止剤の存在下でシード粒子を合成する工程、あるいは、ビニル系単量体と酸化防止剤とを溶解、分散させた単量体組成物をシード粒子に吸収させる工程を含むことが好ましい。なお、酸化防止剤による重合体微粒子の強度低下抑制作用を効果的に得るためには、ビニル系単量体に上記酸化防止剤を溶解、分散させた単量体組成物をシード粒子に吸収させる工程を採用することが推奨される。
【0080】
シード重合法を採用する場合は、シード粒子としては、スチレン系、(メタ)アクリレート系の重合体を用いることが好ましく、非架橋型または架橋度の小さい微粒子であることがより好ましい。またシード粒子の個数平均粒子径は0.1μm〜10μmが好ましく、且つ、重合体微粒子の粒子径の変動係数が10%以下であることが好ましい。また、シード粒子を合成する際には、後述の好ましい分子量、分子量分布にするため、連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤としては、炭素数が1〜10のアルキルメルカプタン系連鎖移動剤や、α−メチルスチレンダイマーなどが好ましく用いられる。このようなシード粒子の製造方法は、従来用いられる方法を採用することができ、例えば、ソープフリー乳化重合、分散重合等が挙げられる。
【0081】
シード粒子を構成する重合体の重量平均分子量は、500〜20000であるのが好ましく、分子量分布(Mw/Mn)は2.5以下であるのが好ましい。シード粒子の重量平均分子量、あるいは、分子量分布が上述の範囲から外れると、酸化防止剤が重合体微粒子に吸収され難くなる虞があるからである。シード粒子の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した後(基準物質:ポリスチレン)、得られた値を基に、重量平均分子量及び分子量分布(Mw/Mn)を算出すればよい。
【0082】
得られたシード粒子は、単量体組成物をシード粒子に吸収させる工程へと供される。この際、合成されたシード粒子は、当該シード粒子を溶媒に分散させたシード粒子分散液として続く吸収工程へと供してもよく、また、シード粒子を合成し、反応系内からシード粒子を単離した後、改めて吸収工程用の溶媒に分散させた上で吸収工程へと供しても良い。
【0083】
シード重合における単量体組成物の仕込み量は、シード粒子1質量部に対して0.5質量部〜50質量部とすることが好ましい。単量体組成物の仕込み量が、少なすぎると重合による粒子径の増加が小さくなり、また、多すぎると単量体組成物が完全にシード粒子に吸収されず、媒体中で独自に重合して異常粒子を生成するおそれがある。また、酸化防止剤の配合量は、単量体成分総量(シード粒子合成に用いた単量体成分も含む)を100質量%とした場合に、0.05質量%〜5質量%とするのが好ましい。より好ましくは0.1質量%〜4質量%であり、さらに好ましくは0.5質量%〜3質量%である。
【0084】
また、酸化防止剤の分子量(Mw)は2000以下が好ましく、より好ましくは1500以下、さらに好ましくは1300以下である。酸化防止剤の分子量が2000を超えると重合体微粒子の原料である重合性単量体への酸化防止剤の溶解度が低下して、重合体微粒子中への酸化防止剤の導入が不十分となる虞があり、また、シード粒子へ重合性単量体を吸収させる際に、酸化防止剤がシード粒子内へ吸収され難くなる虞があり、このような場合には、重合体微粒子中への酸化防止剤の導入が不十分となる虞があるからである。
【0085】
吸収工程は、0℃以上60℃以下の温度範囲で、5分間以上720分間以下、撹拌しながら行うのが好ましい。これらの条件は、用いるシード粒子や単量体の種類等によって、適宜設定すればよく、これらの条件は1種のみ、あるいは2種以上を合わせて採用してもよい。
【0086】
吸収工程において、単量体組成物がシード粒子に吸収されたかどうかの判断については、例えば、単量体組成物を加える前および吸収段階終了後に、顕微鏡により粒子を観察し、単量体組成物の吸収により粒子径が大きくなっていることを確認することで容易に判断できる。
【0087】
なお、重合温度や得られた粒子の乾燥条件については、前記懸濁重合と同様の条件が適用できる。
【0088】
[有機無機複合粒子及びその製造方法]
有機無機複合粒子は、ビニル重合体に由来する有機質部分と、無機質部分とを含んでなる粒子である。前記有機無機複合粒子の態様としては、シリカ、アルミナ、チタニア等の金属酸化物、金属窒化物、金属硫化物、金属炭化物等の無機質微粒子が、ビニル重合体中に分散含有されてなる態様;(オルガノ)ポリシロキサン、ポリチタノキサン等のメタロキサン鎖(「金属−酸素−金属」結合を含む分子鎖)と有機分子が分子レベルで複合してなる態様;ビニルトリメトキシシラン等のビニル系重合体を形成し得るビニル基を有するオルガノアルコキシシランが加水分解縮合反応やビニル基の重合反応を起こすことで得られる粒子や、加水分解性シリル基を有するシラン化合物を原料とするポリシロキサンとビニル基を有する重合性単量体等と反応させて得られる粒子のように、ビニル重合体骨格とポリシロキサン骨格とを含む有機無機複合粒子からなる態様等が挙げられる。これらの中でも、シード重合、特に、ゾルゲルシード重合法により得られるビニル重合体骨格とポリシロキサン骨格とを含む有機無機複合粒子からなる態様が好ましい。
【0089】
以下、ゾルゲルシード重合法により得られるビニル重合体骨格とポリシロキサン骨格とを含む有機無機複合粒子について詳述する。
【0090】
前記ビニル重合体骨格は、下記化学式(5)で表される繰り返し単位により構成される主鎖を有するビニル重合体であり、側鎖を有するもの、分岐構造を有するもの、さらには架橋構造を有するものであってもよい。有機無機複合粒子の硬度を適度に制御できる。
【0091】
【化10】

【0092】
また、ポリシロキサン骨格は、下記化学式(6)で表されるシロキサン単位が連続的に化学結合して、網目構造のネットワークを構成した部分と定義される。
【0093】
【化11】

【0094】
ポリシロキサン骨格を構成するSiO2の量は、有機無機複合粒子の質量に対して0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは1質量%以上であり、80質量%以下であることが好ましく、より好ましくは60質量%以下である。ポリシロキサン骨格中のSiO2の量が上記範囲であれば、有機無機複合粒子の硬度の制御が容易となる。なお、ポリシロキサン骨格を構成するSiO2の量は、粒子を空気等の酸化性雰囲気中で800℃以上の温度で焼成した前後の質量を測定することにより求めた質量百分率である。
【0095】
有機無機複合粒子は、その硬度や破壊強度等といった機械的特性それぞれについて、ポリシロキサン骨格部分やビニル重合体骨格部分の割合を適宜変化させることにより任意に調節することができる。有機無機複合粒子におけるポリシロキサン骨格は、加水分解性基を有するシラン化合物を加水分解縮合反応させて得ることが好ましい。
【0096】
加水分解性を有するシラン化合物としては、特に限定はされないが、例えば、下記化学式(7)で表されるシラン化合物およびその誘導体等が挙げられる。
R’mSiX4-m (7)
(式中、R’は置換基を有していてもよく、アルキル基、アリール基、アラルキル基および不飽和脂肪族基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、Xは水酸基、アルコキシ基およびアシロキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、mは0から3までの整数である。)
【0097】
化学式(7)で表されるシラン化合物としては、特に限定はされないが、例えば、m=0のものとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等の4官能性シラン;m=1のものとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ベンジルトリメトキシシラン、ナフチルトリメトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等の3官能性シラン;m=2のものとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジアセトキシジメチルシラン、ジフェニルシランジオール等の2官能性シラン;m=3のものとしては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルシラノール等の1官能性シラン等が挙げられる。
【0098】
化学式(7)で表されるシラン化合物の誘導体としては、特に限定はされないが、例えば、Xの一部がカルボキシル基、β−ジカルボニル基等のキレート化合物を形成し得る基で置換された化合物や、前記シラン化合物を部分的に加水分解して得られる低縮合物等が挙げられる。
【0099】
加水分解性を有するシラン化合物は、1種のみ用いても2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。なお、化学式(7)において、m=3であるシラン化合物およびその誘導体のみを原料として使用する場合は、有機無機複合粒子は得られない。
【0100】
有機無機複合粒子のポリシロキサン骨格が、ビニル系重合体骨格中の少なくとも1個の炭素原子にケイ素原子が直接結合した有機ケイ素原子を分子内に有する形態の場合は、前記加水分解性を有するシラン化合物としては、ビニル結合を含有する有機基を有するものを用いる必要がある。
【0101】
ビニル結合を含有する有機基としては、例えば、下記化学式(8)、(9)および(10)で表される有機基等を挙げることができる。
CH2=C(−Ra)−COORb− (8)
(式中、Raは水素原子またはメチル基を表し、Rbは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の2価の有機基を表す。)
CH2=C(−Rc)− (9)
(式中、Rcは水素原子またはメチル基を表す。)
CH2=C(−Rd)−Re− (10)
(式中、Rdは水素原子またはメチル基を表し、Reは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の2価の有機基を表す。)
【0102】
化学式(8)の有機基としては、例えば、(メタ)アクリロキシ基等が挙げられ、(メタ)アクリロキシ基を有する一般式(7)のシラン化合物としては、例えば、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリアセトキシシラン、γ−メタクリロキシエトキシプロピルトリメトキシシラン(または、γ−トリメトキシシリルプロピル−β−メタクリロキシエチルエーテルともいう)、γ−(メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等を挙げることができる。これらは1種のみ用いても2種以上を併用してもよい。
【0103】
前記化学式(9)の有機基としては、例えば、ビニル基、イソプロペニル基等が挙げられ、これらの有機基を有する前記化学式(7)のシラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン等を挙げることができる。これらは1種のみ用いても2種以上を併用してもよい。
【0104】
前記化学式(10)の有機基としては、例えば、1−アルケニル基もしくはビニルフェニル基、イソアルケニル基もしくはイソプロペニルフェニル基等が挙げられ、これらの有機基を有する前記一般式(7)のシラン化合物としては、例えば、1−ヘキセニルトリメトキシシラン、1−ヘキセニルトリエトキシシラン、1−オクテニルトリメトキシシラン、1−デセニルトリメトキシシラン、γ−トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル、ω−トリメトキシシリルウンデカン酸ビニルエステル、p−トリメトキシシリルスチレン、1−ヘキセニルメチルジメトキシシラン、1−ヘキセニルメチルジエトキシシラン等を挙げることができる。これらは1種のみ用いても2種以上を併用してもよい。
【0105】
有機無機複合粒子に含まれるビニル重合体骨格は、シラン化合物の加水分解縮合反応により得られたポリシロキサン骨格を有する粒子(シード粒子)に、ビニル系単量体成分を吸収させた後、重合させることで得ることができる。
【0106】
前記有機無機複合粒子は、(i)ポリシロキサン骨格がビニル系重合体骨格中の少なくとも1個の炭素原子にケイ素原子が直接化学結合した有機ケイ素原子を分子内に有している形態(化学結合タイプ)であってもよいし、(ii)このような有機ケイ素原子を分子内に有していない形態(IPNタイプ)であってもよく、特に限定はされないが、(i)の形態が好ましい。
【0107】
ポリシロキサン骨格を有するシード粒子に吸収させることのできる単量体としては、前記したビニル系単量体が挙げられ、所望する有機無機複合粒子の物性に応じて適宜選択することができる。これらは1種のみ用いても2種以上を併用してもよい。
【0108】
例えば、疎水性のビニル系単量体は、ポリシロキサン骨格を有する粒子に単量体成分を吸収させる際に、単量体成分を乳化分散させた安定なエマルションを生成させ得るので好ましい。また、前記した架橋性単量体を使用すれば、得られる有機無機複合粒子の機械的特性の調節が容易にでき、また、有機無機複合粒子の耐溶剤性を向上させることもできる。架橋性単量体としては、前記有機質重合体微粒子に用いられるものとして例示したものを用いることができる。
【0109】
有機無機複合粒子の製造方法は、加水分解縮合工程と、重合工程とを含むことが好ましく、本発明においては、加水分解、縮合工程後、重合工程前に、重合性単量体と酸化防止剤とを含む単量体組成物を吸収させる吸収工程を含める。吸収工程を含めることにより、有機無機複合粒子中に酸化防止剤を取り込ませることができ、且つ、有機無機複合粒子中のビニル重合体骨格成分の含有量を調整できる。
【0110】
前記加水分解縮合工程とは、シラン化合物を、水を含む溶媒中で加水分解して縮重合させる反応を行う工程である。加水分解縮合工程により、ポリシロキサン骨格を有する粒子(ポリシロキサン粒子)を得ることができる。加水分解と縮重合は、一括、分割、連続等、任意の方法を採用できる。加水分解し、縮重合させるにあたっては、触媒としてアンモニア、尿素、エタノールアミン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物等の塩基性触媒を好ましく用いることができる。
【0111】
前記水を含む溶媒中には、水や触媒以外に有機溶剤を含めることができる。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類;イソオクタン、シクロへキサン等の(シクロ)パラフィン類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類等を挙げることができる。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0112】
加水分解縮合工程ではまた、アニオン性、カチオン性、非イオン性の界面活性剤や、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の高分子分散剤を併用することもできる。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0113】
加水分解縮合は、原料となる前記シラン化合物と、触媒や水および有機溶剤を含む溶媒を混合した後、温度0℃以上100℃以下、好ましくは0℃以上70℃以下で、30分以上100時間以下撹拌することにより行うことができる。これによりポリシロキサン粒子が得られる。また、所望の程度まで加水分解縮合反応を行って粒子を製造した後、これを種粒子として、反応系にさらにシラン化合物を添加して種粒子を成長させてもよい。
【0114】
吸収工程は、ポリシロキサン粒子(シード粒子)の存在下に、単量体組成物を存在させた状態で進行するものであれば特に限定されない。したがって、ポリシロキサン粒子を分散させた溶媒中に単量体組成物を加えてもよいし、単量体組成物を含む溶媒中にポリシロキサン粒子を加えてもよい。なかでも、前者のように、予めポリシロキサン粒子を分散させた溶媒中に、単量体組成物を乳化分散させた状態で加えるのが好ましい。乳化分散の際に用いる乳化剤としては、従来公知の乳化剤が使用可能であるが、中でも、アニオン性乳化剤が好ましく用いられる。また、加水分解、縮合工程で得られたポリシロキサン粒子を反応液(ポリシロキサン粒子分散液)から取り出すことなく、この反応液に単量体成分を加える方法は、工程が複雑にならず、生産性に優れるため好ましい。
【0115】
なお、吸収工程においては、ポリシロキサン粒子の構造中に単量体成分及び酸化防止剤を吸収させるが、単量体成分及び酸化防止剤の吸収が速やかに進行するように、ポリシロキサン粒子および単量体成分それぞれの濃度や、ポリシロキサンと単量体成分の混合比、混合の処理方法、手段、混合時の温度や時間、混合後の処理方法、手段等を適宜設定し、その条件のもとで行うのが好ましい。
【0116】
また、酸化防止剤についても、ポリシロキサン粒子(シード粒子)への吸収効率を高める観点からは、上述した有機質重合体微粒子の場合と同様の分子量を有する酸化防止剤を用いるのが好ましい。
【0117】
これらの条件は、用いるポリシロキサン粒子や単量体成分の種類等によって、適宜その必要性を考慮すればよい。また、これらの条件は1種のみ適用しても2種以上を合わせて適用してもよい。
【0118】
前記吸収工程における、単量体成分の添加量は、ポリシロキサン粒子の原料として使用したシラン化合物の質量に対して、0.5質量部〜50質量部とするのが好ましい。単量体組成物の仕込量が少なすぎると、重合による粒子径の増加が小さくなり、一方、多すぎると、単量体組成物が完全にシード粒子に吸収されず、媒体中で独自に重合して異常粒子を生成する虞がある。また、酸化防止剤の量は、単量体成分総量(シード粒子の合成に用いた単量体成分も含む)を100質量%としたときに0.05質量%〜5質量%とするのが好ましく、より好ましくは0.1質量%〜4質量%であり、さらに好ましくは0.5質量%〜3質量%である。
【0119】
吸収工程の反応条件(温度、時間)は、有機質重合体微粒子と同様の条件を採用できる。また、吸収工程において、単量体組成物がポリシロキサン粒子に吸収されたかどうかの判断についても、有機質重合体微粒子の場合と同様の方法で確認すればよい。
【0120】
重合工程は、単量体成分を重合反応させて、ビニル重合体骨格を有する粒子を得る工程である。具体的には、シラン化合物としてビニル結合を有する有機基を持つものを用いた場合は、該有機基のビニル結合を重合させてビニル重合体骨格を形成する工程であり、吸収工程を経た場合は、吸収させた単量体成分、または吸収させた単量体成分とポリシロキサン骨格が有するビニル結合とを重合させてビニル(系)重合体骨格を形成する工程であるが、両方に該当する場合はどちらの反応によってもビニル(系)重合体骨格を形成する工程となり得る。
【0121】
重合反応は、加水分解縮合工程や吸収工程の途中で行ってもよいし、いずれかまたは両方の工程後に行ってもよく、特に限定はされないが、通常は、加水分解縮合工程後(吸収工程を行った場合はもちろん吸収工程後)に開始するようにする。
【0122】
重合反応は特に限定されないが、例えば、ラジカル重合開始剤を用いる方法、紫外線や放射線を照射する方法、熱を加える方法等、いずれも採用可能である。前記ラジカル重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、前記有機質重合体微粒子の重合に使用されるものを挙げることができる。これらラジカル重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0123】
ラジカル重合開始剤の使用量は、単量体成分の総質量100質量部に対して、0.001質量部以上とすることが好ましく、より好ましくは0.01質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上であり、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。ラジカル重合開始剤の使用量が、0.001質量部未満の場合は、単量体成分の重合度が上がらない場合がある。ラジカル重合開始剤の溶媒に対する仕込み方については、特に限定はなく、最初(反応開始前)に全量仕込む方法(ラジカル重合開始剤を単量体成分と共に乳化分散させておく態様、単量体成分が吸収された後にラジカル重合開始剤を仕込む態様);最初に一部を仕込んでおき、残りを連続フィード添加する方法、または、断続的にパルス添加する方法、あるいは、これらを組み合わせた手法等、従来公知の手法はいずれも採用することができる。
【0124】
ラジカル重合を行う際の反応温度は40℃以上が好ましく、より好ましくは50℃以上であり、100℃以下が好ましく、より好ましくは80℃以下である。反応温度が低すぎる場合には、重合度が十分に上がらず有機無機複合粒子の機械的特性が不充分となる傾向があり、一方、反応温度が高すぎる場合には、重合中に粒子間の凝集が起こりやすくなる傾向がある。なお、ラジカル重合を行う際の反応時間は、用いる重合開始剤の種類に応じて適宜変更すればよいが、通常、15分〜600分が好ましく、より好ましくは60分〜300分である。反応時間が短すぎる場合には、重合度が十分に上がらない場合があり、反応時間が長すぎる場合には、粒子間で凝集が起こり易くなる傾向がある。
【0125】
上述した製法によれば、上述した好ましい特性(機械的特性や粒度分布特性等)を有するビニル系重合体微粒子が得られる。
【0126】
[導電性微粒子]
本発明の導電性微粒子は、上記重合体微粒子の表面を被覆する導電性金属層を有するものである。したがって、本発明の導電性微粒子は、上述の重合体微粒子の特性を備えたものである。上記導電性金属層を構成する金属としては特に限定されないが、例えば、金、銀、銅、白金、鉄、鉛、アルミニウム、クロム、パラジウム、ニッケル、ロジウム、ルテニウム、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、スズ、コバルト、インジウムおよびニッケル−リン、ニッケル−ホウ素等などの金属や金属化合物、および、これらの合金などが挙げられる。これらの中でも、ニッケル、金、銀および銅が導電性に優れており、工業的にも安価であるため好ましい。
【0127】
上記導電性金属層の厚みは、10nm〜500nmであるのが好ましい。より好ましくは20nm〜400nmであり、さらに好ましくは50nm〜300nmである。導電性金属層の厚みが薄すぎる場合には、導電性微粒子を異方性導電材料として用いる際に、安定した電気的接続を維持し難くなる傾向がある。一方、導電性金属層が厚すぎる場合には、導電性微粒子の表面の硬度が高くなりすぎ、回復率等の基材粒子の機械的特性を十分に生かせない虞がある。
【0128】
なお、導電性金属層は、その表面に、実質的な割れや、導電性金属層が形成されない面が存在しないものであるのが好ましい。ここで、「実質的な割れや、導電性金属層が形成されない面」とは、電子顕微鏡(倍率1000倍)を用いて任意の10000個の導電性微粒子の表面を観察した場合に、導電性金属層の割れ、および、基材粒子面の露出が実質的に目視で観察されないことを意味する。詳細な評価方法は後述する。
【0129】
本発明の導電性微粒子は、導電性金属層の表面に、さらに絶縁性樹脂層を有するものであってもよい。上記絶縁性樹脂層としては、導電性微粒子の粒子間における絶縁性が確保でき、一定の圧力および/または加熱により容易にその絶縁性樹脂層が崩壊あるいは剥離するものであれば特に限定されず、例えば、後述するビニル系重合体微粒子と同様の樹脂の他、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体などのポリオレフィン類;ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート重合体および共重合体;ポリスチレン、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、SB型スチレン−ブタジエンブロック共重合体、SBS型スチレン−ブタジエンブロック共重合体およびこれらの水添化合物等のブロックポリマー;ビニル系重合体および共重合体などの熱可塑性樹脂や特にその架橋物;エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂;ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、メチルセルロースなどの水溶性樹脂およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0130】
但し、重合体微粒子に比べて絶縁性樹脂層が硬過ぎる場合には、絶縁性樹脂層の破壊よりも先に重合体微粒子自体が破壊してしまう虞がある。したがって、絶縁性樹脂層には、未架橋または比較的架橋度の低い樹脂を用いることが好ましい。
【0131】
上記絶縁性樹脂層は、単層であっても、複数の層からなるものであってもよい。例えば、単一又は複数の皮膜状の層が形成されていてもよく、又は、絶縁性を有する粒状、球状、塊状、鱗片状その他の形状の粒子を、導電性微粒子の表面に付着したもの、さらに、導電性微粒子の表面を化学修飾することにより形成されたものであってもよく、また、これらが組み合わされたものであってもよい。
【0132】
上記樹脂絶縁層の厚みは0.01μm〜1μmであるのが好ましい。より好ましくは0.1μm〜0.5μmである。樹脂絶縁層の厚みが薄すぎると、電気絶縁性が不十分となり、一方、厚すぎると、導通特性が低下する虞がある。
【0133】
本発明の導電性微粒子は、導電性微粒子を組み込んだ材料(例えば後述する異方導電性材料など)がはんだリフロー加工を受ける場合にも好適に用いられる。
【0134】
一般的に、回路基板には、はんだ付けや導電性微粒子を導電材料とする異方性導電性膜(ACF:Anisotropic Conductive Film)を組み合わせて電子部品が実装される。はんだ付けによって、抵抗、コンデンサ等の部品を実装する場合、はんだペーストを印刷した回路基板上に前記部品を配置した後、回路基板をリフロー炉に通すことによってはんだ接続を行う実装技術が用いられている。この実装技術は、通常、表面実装技術と呼ばれており、部品の小型化、高密度実装化の進展に伴い、回路基板の製造においてはこの方式が主流となってきている。
【0135】
前記はんだを用いた表面実装技術では、まず、はんだの溶融に先立って、部品への急激な熱衝撃の緩和や、有機溶剤の揮発等を目的として、リフロー炉内で、回路基板と部品とを予熱する(一般的には150℃〜170℃程度)プリヒートと呼ばれる工程を行い、その後、本加熱と呼ばれる工程で短時間高温処理して、はんだに熱を加えて溶融させており(リフロー工程、一般的には220℃〜260℃)、リフロー炉内では、回路基板全体が高温、例えば260℃程度に加熱される場合がある。したがって、ACFを用いた実装の後に、回路基板のはんだリフロー処理を行うと、はんだリフロー処理の際にACFが高温にさらされて、その接続信頼性が低下するといった問題があった。しかしながら、本発明の導電性微粒子は、耐熱性に優れ、且つ、加熱による強度低下が生じ難いものであるため、当該導電性微粒子を組み込んだ材料(例えば後述する異方導電性材料など)が、水平搬送式の連続炉などではんだ接合を一括して行うはんだリフロー加工を受ける場合にも好適に用いられる。
【0136】
[導電性微粒子の製造方法]
本発明の導電性微粒子は、上記重合体微粒子の表面に導電性金属層を形成することにより得られる。重合体微粒子表面に導電性金属層を被覆する方法は特に限定されず、例えば、無電解めっき、置換めっきなどめっきによる方法;金属微粉を単独、または、バインダーに混ぜ合わせて得られるペーストを基材粒子にコーティングする方法;真空蒸着、イオンプレーティング、イオンスパッタリング等の物理的蒸着方法が挙げられる。これらの中でも、無電解めっき法は、大掛かりな装置を必要とせず、容易に導電性金属層を形成できるため好ましい。
【0137】
無電解めっき法では、まず、重合体微粒子の表面に、無電解めっきの起点となる触媒層を形成した後((i)触媒化工程)、触媒層を形成した重合体微粒子表面に導電性金属層を形成する((ii)無電解めっき工程)。以下、それぞれの工程について詳細に説明する。
【0138】
[(i)触媒化工程]
触媒化工程では、重合体微粒子の表面に、次工程で行う無電解めっきの基点となる触媒層を形成する。触媒層を形成する方法は特に限定されず、無電解めっき用として市販されている触媒化試薬を用いて行えばよい。例えば、触媒化試薬として塩化パラジウムと塩化スズとを含む溶液に、重合体微粒子を浸漬させて、重合体微粒子表面にパラジウムイオンを吸着させた後、硫酸、塩酸などの酸や水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液で上記パラジウムイオンを還元して、重合体微粒子表面にパラジウムを析出させる方法;硫酸パラジウム溶液に重合体微粒子を浸漬し、重合体微粒子表面にパラジウムイオンを吸着させた後、ジメチルアミンボランなどの還元剤を含む溶液でパラジウムウイオンを還元して重合体微粒子表面にパラジウムを析出させる方法などが挙げられる。
【0139】
上記触媒化試薬としては、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、塩化スズ及びこれらの混合物などが挙げられる。触媒化試薬は、塩酸などに溶解させて用いる。上記還元剤としては、ジメチルアミンボラン、次亜リン酸などが挙げられる。
【0140】
[(ii)無電解めっき工程]
次いで、触媒層を形成した重合体微粒子表面に導電性金属層を形成する無電解めっき処理を行う。この工程では、還元剤と所望の金属塩を溶解しためっき液中に触媒層を形成した重合体微粒子を浸漬し、触媒を起点として、めっき液中の金属イオンを還元剤で還元して、重合体微粒子表面に所望の金属を析出させ導電性金属層を形成する。
【0141】
まず、触媒化処理を施した重合体微粒子を水に十分に分散させ、重合体微粒子の水性スラリーを調製する。ここで、重合体微粒子はめっき処理を行う水性媒体に十分分散させておく必要がある。重合体微粒子が凝集した状態で無電解めっき処理を行うと、重合体微粒子同士の接触面に未処理面(導電性金属層が存在しない面)が生じ、このような場合には、安定した導電特性が得られないからである。重合体微粒子の分散に際しては、公知の分散手段を使用しても良い。従来公知の分散手段としては、通常攪拌、高速攪拌、あるいは、コロイドミルまたはホモジナイザーのような剪断分散装置を用いることができる。また、分散操作には超音波を併用してもよく、さらに、必要に応じて界面活性剤などの分散剤を添加してもよい。
【0142】
次いで、所望の導電性金属の塩、還元剤、錯化剤および各種添加剤などを含んだ無電解めっき液に重合体微粒子の水性スラリーを添加し、無電解めっき処理を行う。
【0143】
導電性金属塩としては、導電性金属層として先に例示した金属の塩化物、硫酸塩、酢酸塩などが挙げられる。例えば、導電性金属層として、ニッケル層を形成したい場合であれば、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、酢酸ニッケル等のニッケル塩等が挙げられる。無電解めっき液中における導電性金属塩の濃度は、所望の膜厚の導電性金属層が形成されるように、基材粒子のサイズ(表面積)に応じて適宜決定すればよい。
【0144】
還元剤としては、次亜リン酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ヒドラジン等が用いられる。
【0145】
上記錯化剤としては、用いる導電性金属のイオンに対して錯化作用のある化合物が使用できる。例えば、ニッケルに対して錯化作用のある化合物としては、クエン酸、ヒドロキシ酢酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸またはそのアルカリ金属塩やアンモニウム塩などのカルボン酸(塩)、グリシン等のアミノ酸、エチレンジアミン、アルキルアミン等のアミン酸、その他のアンモニウム、EDTA、ピロリン酸(塩)等、が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて使用してもよい。無電解めっき処理工程における好ましい無電解めっき液のpHは4〜14である。
【0146】
無電解めっき反応は、重合体微粒子スラリーを添加すると速やかに開始する。また、この反応には水素ガスの発生を伴う。したがって、無電解めっき処理工程は、水素ガスの発生が完全に認められなくなった時点をもって終了とする。反応終了後、反応系内から導電性金属層が形成された導電性微粒子を取り出し、必要に応じて洗浄、乾燥する。
【0147】
本発明の導電性微粒子は、上述のようにして得られるが、上記無電解めっき処理工程を繰返すことで、導電性微粒子の表面に、異種金属を幾層にも被覆することもできる。例えば、基材粒子にニッケルめっきを施した後(ニッケル被覆粒子)、さらに、無電解金めっき液にニッケル被覆粒子を投入して金置換めっきを行うことにより、最外層に金の被覆層を有する導電性微粒子が得られる。
【0148】
[(iii)その他の工程]
本発明の導電性微粒子が絶縁性樹脂層を有するものである場合、上記無電解めっき工程の後に、導電性金属層の表面に樹脂などによる絶縁処理を行う。
【0149】
絶縁性樹脂層を形成する方法としては特に限定されず、例えば、無電解めっき処理後の導電性微粒子の存在下で、絶縁性樹脂層の原料の界面重合、懸濁重合、乳化重合を行い、絶縁性樹脂により導電性微粒子をマイクロカプセル化する方法;絶縁性樹脂を有機溶媒に溶解した絶縁性樹脂溶液中に導電性微粒子を分散させた後、乾燥させるディッピング法;スプレードライ法、ハイブリダイゼーションによる方法など、従来公知の方法はいずれも用いることができる。
【0150】
[異方性導電材料]
本発明の導電性微粒子は、異方性導電材料の構成材料としても好適であり、本発明の導電性微粒子を用いてなる異方性導電材料もまた、本発明の好ましい実施態様の1つである。上記異方性導電材料は、本発明の導電性微粒子を用いてなるものであればその形態は特に限定されず、例えば、異方性導電フィルム、異方性導電ペースト、異方性導電接着剤、異方性導電インク等、様々な形態が挙げられる。すなわち、これらの異方性導電材料を相対向する基材同士や電極端子間に設けることで、電気的に接続することができる。
【0151】
上記異方性導電フィルムは、例えば、本発明の導電性微粒子とバインダー樹脂等を含むフィルム形成用組成物に溶媒を加えて溶液状にし、この溶液をポリエチレンテレフタレート製のフィルム上に塗布した後、溶媒を蒸発させることにより得ることができる。得られた異方性導電フィルムは、例えば、電極上に配置され、この異方性導電フィルム上に対向電極を重ね合わせ、加熱圧縮することにより電極間の接続に使用される。
【0152】
上記異方性導電ペーストは、例えば、本発明の導電性微粒子とバインダー樹脂等を含む樹脂組成物をペースト状にすることにより得られる。得られた異方性導電ペーストは、例えば、適当なディスペンサーに入れられ、接続すべき電極上に所望の厚さで塗工され、塗工された異方性導電ペースト上に対向電極を重ね合わせ、加熱するとともに加圧して樹脂を硬化させることにより、電極間の接続に使用される。
【0153】
上記異方性導電接着剤は、例えば、本発明の導電性微粒子とバインダー樹脂などを含む樹脂組成物を所望の粘度に調整することにより得られる。得られた異方性導電接着剤は、異方性導電ペーストと同様、電極上に所望の厚さで塗工した後、対向電極を重ね合わせ、両者を接着することにより電極間の接続に使用される。
【0154】
上記異方性導電インクは、例えば、本発明の導電性微粒子とバインダー樹脂等を含む樹脂組成物に溶媒を加えて印刷に適した粘度に調整することにより得られる。得られた異方性導電インクは、例えば、接着すべき電極上にスクリーン印刷し、溶媒を蒸発させた後、異方性導電インクによる印刷面に対向電極を重ね合わせ、加熱圧縮することにより電極間の接続に使用される。
【0155】
上記異方性導電材料は、絶縁性のバインダー樹脂中に、本発明の導電性微粒子を分散させ、所望の形態とすることで製造されるが、もちろん、絶縁性のバインダー樹脂と導電性微粒子とを別々に使用して、基材間あるいは電極端子間を接続してもかまわない。
【0156】
上記バインダー樹脂としては、特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、スチレン−ブタジエンブロック共重合体などの熱可塑性樹脂;グリシジル基を有するモノマーやオリゴマーおよびイソシアネートなどの硬化剤との反応により硬化する硬化性樹脂組成物や、光や熱により硬化する硬化性樹脂組成物などが挙げられる。
【0157】
本発明の異方性導電材料中における上記導電性微粒子の含有割合は、用途に応じて適宜決定すればよいが、例えば、異方導電性材料中に占める導電性微粒子の割合は2体積%〜70体積%が好ましく用いられ、5体積%〜50体積%がより好ましく、10体積%〜40体積%がさらに好ましい。導電性微粒子の含有量が少なすぎると、十分な電気的導通が得られ難い場合があり、一方、導電性微粒子の含有量が多過ぎると、導電性微粒子同士が接触してしまい、異方性導電材料としての機能が発揮され難い場合がある。
【0158】
上記異方性導電材料におけるフィルム膜厚、ペーストおよび接着剤の塗工膜厚および印刷膜厚は、使用する導電性微粒子の平均粒子径と、接続すべき電極の仕様とから計算し、接続すべき電極間に導電性微粒子が狭持され、接続すべき電極が形成された接合基板同士の空隙がバインダー樹脂層により十分に満たされるよう設定することが好ましい。
【0159】
本発明の異方性導電材料は、高い導電性を示すばかりでなく、加重圧縮した際にも導電性金属層に剥離や破壊が生じず、相対向する電極基板間の電気的な接続を確保することができる。また、経時安定性にも優れるので、長期間の使用においてもめっき割れなどによる導電性の低下をきたすことなく、電極基板間の電気的な接続を堅持し信頼性の向上を図ることができる。
【実施例】
【0160】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0161】
[平均粒子径、粒子径の変動係数(CV値)]
粒子の平均粒子径は、コールターマルチサイザーIII型(ベックマンコールター社製)により、30000個の粒子の粒子径を測定し、個数平均粒子径を求めた。粒子径のCV値(変動係数)は、下記式に従って求めた。
【0162】
【数1】

【0163】
[圧縮破壊荷重]
島津微小圧縮試験機(島津製作所社製,「MCTW‐500」)により、室温(25℃)において、試料台(材質:SKS平板)上に散布した試料粒子1個について、直径50μmの円形平板圧子(材質:ダイヤモンド)を用いて、粒子の中心方向へ一定の負荷速度(2.275mN/秒)で荷重をかけて、粒子が変形により破壊したときの荷重(mN)を圧縮破壊荷重とした。
【0164】
尚、熱処理前の圧縮破壊荷重値をP2(mN)、空気中200℃で1時間熱処理後の圧縮破壊荷重値をP1(mN)とし、前記前熱処理は、熱分析装置(「TG-DTA2000SA」、Bruker AXS社製)を使用して、空気気流下、流量50ml/分の条件で、昇温速度10℃/分で200℃まで昇温させた後、200℃で1時間保持することにより行った。
【0165】
[10%圧縮弾性率(10%K値:硬度)]
圧縮破壊荷重値の測定と同様にして粒子に荷重をかけ、圧縮変位が粒子径の10%となるまで粒子を変形させたときの荷重と変位量(mm)を測定する。測定した圧縮荷重、粒子の圧縮変位、粒子の半径を、下記式:
【0166】
【数2】


【0167】
(ここで、K:10%圧縮弾性率(N/mm2)、F:圧縮荷重(N)、S:圧縮変位(mm)、R:粒子の半径(mm)である。)に代入し、値を算出する。この操作を、異なる3個の粒子について行い、その平均値を基材粒子の10%圧縮弾性率(N/mm2)とした。
【0168】
[圧縮変形回復率(回復率)]
微小圧縮試験機(島津製作所製:「MCTW‐500」)を用いて、試料粒子を反転荷重9.8mNまで圧縮した後、荷重を減らしていくときの荷重値と圧縮変位との関係を測定して得られる値であり、荷重を除く際の終点を原点荷重値0.098mNとし、負荷および除負荷における圧縮(回復)速度を1.486mN/秒として測定したときに、反転の点までの変位(L1)と、反転の点から原点荷重値をとる点までの変位(L2)との比(L1/L2)(%)として表した値である。
【0169】
[熱分解開始温度]
重合体微粒子の熱分解開始温度は、熱分析装置(「TG-DTA2000SA」、Bruker AXS社製)を使用して、試料量10mg〜20mg、昇温温度10℃/分の条件で測定した。なお、T1は、窒素気流下、流量50ml/分、T2は、空気気流下、流量50ml/分の条件で測定した。
【0170】
まず、規定のアルミカップに試料を計り取り、このアルミカップを熱分析装置の所定の位置にセットし、窒素又は空気が規定流量(50ml/分)流れるように調整し、装置が安定した後、昇温を開始した。このとき得られたTG曲線のベースライン(水平線部)をもとに、質量減少が開始する温度を読み取り、これを重合体微粒子の熱分解開始温度(℃)とした。
【0171】
実施例1
<重合体微粒子の作成>
冷却管、温度計、滴下口を備えた四つ口フラスコに、界面活性剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬製、「ハイテノール(登録商標)NF−08」)を2部溶解したイオン交換水の水溶液150部を仕込んだ。そこへ、予め、調製しておいたスチレン50部、ジビニルベンゼン960(新日鉄化学製)50部に、Irganox(登録商標)1010(ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、分子量:1177.7、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)1部を溶解させた混合物、および重合開始剤として、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬製)2部を仕込み、TKホモミキサー(特殊機化工業製)により5000rpmで5分間乳化分散させて、懸濁液を調整した。この懸濁液に、イオン交換水250部を加え、窒素雰囲気下で65℃に昇温させて、65℃で2時間保持し、モノマーのラジカル重合を行った。ラジカル重合後、生成した乳濁液を固液分離し、得られたケーキをイオン交換水、次いで、メタノールで洗浄した。その後、分級を行い、窒素雰囲気下40℃で2時間真空乾燥を行い、重合体微粒子(1)を得た。重合体微粒子(1)の粒子径をコールターマルチサイザーIII型(ベックマン・コールター社製)により測定したところ、個数平均粒子径は3.5μm、変動係数は4.7%であった。
【0172】
<導電性微粒子の作成>
ビーカーに「ピンクシューマー(日本カニゼン株式会社製)」50部と、イオン交換水400部を入れ混合した。別途、イオン交換水50部に重合体微粒子(1)10部を超音波分散させたものを準備し、これを前記混合液に投入し30℃で10分間攪拌して懸濁液とし、これを固液分離して得られたケーキを、イオン交換水、メタノールの順で洗浄し、窒素雰囲気下100℃で2時間真空乾燥を行った。
【0173】
次に、イオン交換水50部に、前記乾燥粒子10部を超音波分散させ、これを、「レッドシューマー(日本カニゼン株式会社製)」100部とイオン交換水350部とを混合した溶液に投入し、30℃で10分間攪拌して懸濁液とした。この懸濁液を固液分離し、得られたケーキをイオン交換水、メタノールの順で洗浄し、窒素雰囲気下100℃で2時間真空乾燥を行い、重合体微粒子(1)の表面にパラジウムを吸着させた。
【0174】
パラジウムにより活性化された重合体微粒子(1)をイオン交換水500部に添加し、超音波処理を30分間行い、粒子を十分分散させて微粒子懸濁液を得た。この微粒子懸濁液を50℃で攪拌しながら、硫酸ニッケル6水和物50g/L、次亜リン酸ナトリウム1水和物20g/L、ジメチルアミンボラン2.5g/L、クエン酸50g/Lからなる無電解めっき液(pH7.5)を徐々に微粒子懸濁液に添加して、重合体微粒子(1)の無電解ニッケルめっきを行った。めっき処理中の粒子を経時的にサンプリングして走査電子顕微鏡(SEM、HITACHI社製:「S-3500N」)による観察を行いながら、任意の10個の粒子径を測定し、めっき処理前の重合体微粒子(1)の測定結果との差からめっき厚みを算出し、めっき厚みが0.1μmになった時点で無電解めっき液の添加をやめた。得られた導電性微粒子を濾別し、イオン交換水で洗浄した後、さらにメタノールで洗浄し、60℃で12時間真空乾燥を行い、導電性微粒子(1)を得た。
【0175】
実施例2
実施例1において、Irganox1010をIrgafos168(トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、分子量:646、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、重合体微粒子(2)、導電性微粒子(2)を得た。
【0176】
実施例3
<重合体微粒子の作製>
冷却管、温度計、滴下口を備えた四つ口フラスコに、イオン交換水800部と、25%アンモニア水1.2部、メタノール330部を入れ、攪拌下、滴下口から3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン50部及びメタノール60部の混合液を添加して、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの加水分解、縮合反応を行って、オルガノポリシロキサン粒子の乳濁液を調製した。
【0177】
次いで、乳化剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬社製:「ハイテノール(登録商標)NF−08」)の20%水溶液3.85部をイオン交換水150部で溶解した溶液に、スチレン120部、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート30部、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製:「V−65」)2部、Irganox10102部を溶解した溶液を加え、TKホモミキサーにより6000rpmで5分間、乳化分散させて単量体成分の乳化液を調整した。
【0178】
反応開始から2時間後、得られた乳化液を、ポリシロキサン粒子の乳濁液中に添加して、さらに攪拌を行った。乳化液の添加から2時間後、混合液をサンプリングして顕微鏡で観察を行ったところ、ポリシロキサン粒子が単量体を吸収して肥大化していることが確認された。
【0179】
次いで、窒素雰囲気下で反応液を65℃まで昇温させて、65℃で2時間保持し、単量体成分のラジカル重合を行った。ラジカル重合後の乳濁液を固液分離し、得られたケーキをイオン交換水、メタノールで洗浄した後、80℃で12時間真空乾燥させて重合体微粒子(3)を得た。この重合体微粒子(3)の粒子径をコールターマルチサイザーIII型(ベックマンコールター社製)で測定したところ、個数平均粒子径は3.6μm、変動係数(CV値)は3.3%であった。
【0180】
<導電性微粒子の作製>
重合体微粒子(3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、導電性微粒子(3)を得た。
【0181】
実施例4
Irganox1010の使用量を6部に変更したこと以外は、実施例3と同様の方法により、重合体微粒子(4)、導電性微粒子(4)を得た。
【0182】
実施例5
Irganox1010をIrgafos168に変更したこと以外は、実施例3と同様の方法により、重合体微粒子(5)、導電性微粒子(5)を得た。
【0183】
実施例6
Irganox1010をアデカスタブ(登録商標)522A(分子量:1832)に変更したこと以外は、実施例3と同様の方法により、重合体微粒子(6)、導電性微粒子(6)を得た。
【0184】
実施例7
スチレンを2部、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレートを148部に変更したこと以外は、実施例3と同様にして、重合体微粒子(7)、導電性微粒子(7)を得た。
【0185】
実施例8
スチレンを0.6部、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレートを149.4部に変更したこと以外は、実施例3と同様にして、重合体微粒子(8)、導電性微粒子(8)を得た。
【0186】
実施例9
冷却管、温度計、滴下口を備えた四つ口フラスコに、イオン交換水90部とスチレン10部、n−デシルメルカプタン0.5部、塩化ナトリウム0.1部を加え、反応容器内に1時間窒素を流して、反応容器内の窒素置換を行った。その後、混合溶液を70℃まで昇温させた後、少量のイオン交換水に溶かした0.1部の過硫酸カリウムを注射器により反応系中に加えた。その後70℃で24時間反応を行った。反応終了後、得られた乳濁液を固液分離し、得られたケーキをイオン交換水、次いでメタノールで洗浄した。得られた重合体シード粒子の粒子径をコールターマルチサイザー(ベックマン・コールター社製)により測定したところ、個数平均粒子径は0.7μm、変動係数は3.0%であった。
【0187】
冷却管、温度計、滴下口を備えた四つ口フラスコに、得られた重合体シード粒子0.5部、イオン交換水50部、ラウリル硫酸ナトリウム0.05部を加え、均一に分散させて重合体シード粒子分散液を調整し、ここにポリビニルアルコールの3質量%水溶液を20部加えた。次いで、乳化剤として、ラウリル硫酸ナトリウム0.1部をイオン交換水50部で溶解した溶液に、スチレン4部、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート1部に、Irganox1010を0.05部、過酸化ベンゾイル0.10部を溶解した溶液を加え、ホモジナイザーにより攪拌してモノマーエマルションを調製した。得られたモノマーエマルションを、上記重合体シード粒子分散液中に添加し、さらに攪拌を行った。次いで、窒素雰囲気下、反応液を70℃まで昇温させ、70℃で24時間保持し、モノマー成分のラジカル重合を行った。ラジカル重合反応後、得られた乳濁液を固液分離し、得られたケーキをイオン交換水、メタノールで順に洗浄した後、80℃で12時間真空乾燥させて、重合体微粒子(9)を得た。また、実施例1と同様の方法で、重合体微粒子(9)の表面に金属被覆層を形成し、導電性微粒子(9)を作製した。
【0188】
比較例1
酸化防止剤であるIrganox1010を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較重合体微粒子(1)及び比較導電性微粒子(1)を得た。
【0189】
比較例2
酸化防止剤であるIrganox1010を用いなかったこと以外は、実施例5と同様にして、比較重合体微粒子(2)及び比較導電性微粒子(2)を得た。
【0190】
比較例3
酸化防止剤であるIrganox1010を用いなかったこと以外は、実施例7と同様にして、比較重合体微粒子(3)及び比較導電性微粒子(3)を得た。
【0191】
比較例4
攪拌器、滴下口及び温度計を備えたフラスコに、25%アンモニア水10部、水400部、及び、ポリビニルアルコール(クラレ社製、「PVA−205」)の10質量%水溶液6部を投入し、攪拌、混合した。この混合液を20±0.5℃の温度に調整して、攪拌しながら、フェニルトリメトキシシラン55部、スチリルトリメトキシシラン5部、及び、2,2−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)0.05部をメタノール150部に溶解した混合液を滴下口より投入した後、さらに、2時間攪拌を続けて、加水分解、縮合反応を行うことにより、ビニル基のラジカル重合を行った。
【0192】
次いで、ラジカル重合後の反応生成物を、100メッシュの金網でろ過後、円心分離により脱水してケーキ状にし、このケーキ層を40℃の乾燥機中で乾燥し、ラボジェットミル(日本ニューマチック工業株式会社製)を用いて解砕して比較重合体微粒子(4)を得た。また、得られた比較微粒子(4)を用いて、比較例(3)と同様の手法により、比較導電性微粒子(4)を得た。
【0193】
[異方性導電材料の評価]
実施例1〜9および比較例1〜4で得られた導電性微粒子を用いて、異方性導電材料を作製し、電極間の抵抗値を評価した。
【0194】
導電性微粒子2gをエポキシ樹脂(三井化学製:「ストラクトボンド(登録商標)XN−5A」)100gに混ぜて分散させ、導電性接着ペーストを製作した。その後、このペースト0.1mgを、内面にITO透明電極膜が形成された2枚のガラス基板で挟み、プレス機により13.7MPaの圧力を掛けつつ、150℃で30分間熱圧着して、試験片を作製した。
【0195】
作製した試験片に対して耐熱接続信頼性試験を実施した。耐熱接続信頼性試験は、到達温度260℃/5分の熱処理を試験片に対して行い、4回の熱処理後における接続抵抗値を測定し、下記式により算出される変化率が10%未満であった場合を○(良好)、10%以上15%未満の場合を△(可)、15%以上の場合を×(劣る)と評価した。結果を表2に示す。
変化率(%)=[(熱処理後の接続抵抗値−熱処理前の接続抵抗値)/熱処理前の接続抵抗値]×100
【0196】
【表1】

【0197】
表1より、圧縮破壊指数Pが0.77以上である実施例1〜9の重合体微粒子は、圧縮破壊指数Pが0.77に満たない比較例1〜3の重合体微粒子に比べて、高い耐熱性および機械的強度を有していることが分かる。特に、シード重合法、及び、ゾルゲルシード重合法により得られた重合体微粒子は(実施例3〜7および9)、実施例1,2の重合体微粒子に比べても高い耐熱性および機械的強度を有していた。なお、実施例8の重合体微粒子は、重合体微粒子中に存在するスチレン系単量体に由来する成分量が少なかったため、他の重合体微粒子に比べて、やや熱分解開始温度が低かった。また、比較例4の重合体微粒子は、圧縮破壊指数Pが0.96であるものの、熱処理前後の圧縮破壊強度P1,P2が低く、機械的強度に劣るものであった。
【0198】
【表2】

【0199】
表2より、本発明の導電性微粒子は、熱処理後も導通信頼性が低下し難いものであることが分かる。また、実施例6(P:0.77)と比較例3(P:0.76)との比較より、基材粒子(重合体微粒子)の圧縮破壊強度指数Pが0.77以上の場合には、熱処理後における接続抵抗値の変化率が顕著に低減されていることが分かる。特に、シード重合法、または、ゾルゲルシード重合法により製造された重合体粒子(実施例3〜9)、中でも、酸化防止剤を含み、単量体成分としてスチレンを0.5質量%以上用いた重合体粒子を基材粒子とする導電性微粒子は(実施例3〜7および9)、熱処理後も接続抵抗値が低く、高い導通信頼性を有するものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0200】
本発明の重合体微粒子は、優れた耐熱性、機械的強度を有し、また、加熱処理後の機械的強度の低下が生じ難いものである。したがって、本発明の重合体微粒子を基材粒子とする導電性微粒子は、電気的接合時やはんだリフローなどの熱履歴を受けた後の導通信頼性が低下し難いものである。本発明の導電性微粒子は、電極基板間の電気的な接続を堅持できる信頼性の高いものであり、異方導電性フィルム、異方導電性ペースト、導電性接着剤及び導電性粘着剤など、電極間を接続する導電性材料として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される圧縮破壊強度指数Pが0.77以上であり、且つ、P2が2.9(mN)以上であることを特徴とする重合体微粒子。
P=P1/P2 (1)
P1:空気中200℃で1時間熱処理後の圧縮破壊強度(mN)
P2:熱処理前の圧縮破壊強度(mN)
【請求項2】
窒素気流下における熱分解開始温度をT1、空気気流下における熱分解開始温度をT2としたときに、T2が280℃より高く、且つ、T2/T1が0.95以上である請求項1に記載の重合体微粒子。
【請求項3】
一次酸化防止剤および二次酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤、および/または、酸化防止剤由来の成分を含有する請求項1または2に記載の重合体微粒子。
【請求項4】
重合体微粒子が、スチレン系単量体に由来する成分を重合体微粒子構成成分中0.5質量%以上含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の重合体微粒子。
【請求項5】
個数平均粒子径が0.5μm〜100μmであり、粒子径の変動係数が20%以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の重合体微粒子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の重合体微粒子の製造方法であって、
単量体成分を重合させてシード粒子を製造する工程、
ビニル系単量体と、一次酸化防止剤及び二次酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤とを混合した単量体組成物を前記シード粒子に吸収させる工程、
を含むことを特徴とする重合体微粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の重合体微粒子の表面に金属被覆層を有する導電性微粒子。
【請求項8】
前記金属被覆層が、無電解メッキ法により形成された層である請求項7に記載の導電性微粒子。
【請求項9】
はんだリフロー加工に用いられるものである請求項8に記載の導電性微粒子。
【請求項10】
請求項7または8に記載の導電性微粒子を用いてなることを特徴とする異方性導電材料。

【公開番号】特開2010−195992(P2010−195992A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44837(P2009−44837)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】