説明

量子ドット半導体レーザ

【課題】量子ドット半導体レーザにおいて、単一モード性に優れ、スペクトル線幅の狭い半導体レーザを実現できるようにする。
【解決手段】量子ドット半導体レーザを、半導体基板と、基底準位におけるTMモード利得がTEモード利得よりも大きい量子ドット24と、量子ドット24に連なるように形成され、量子ドット24と同一の材料・組成の半導体材料からなる半導体層21とを有する活性層6と、回折格子とを備えるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコヒーレント光通信に用いて好適の量子ドット半導体レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばコヒーレント光通信において光信号を多重化する場合、安定で波長純度の高い、すなわち単一モード性に優れ、スペクトル線幅の狭い半導体レーザが必要である。
特に、量子ドットを発光層(活性層)に用いる量子ドットDFBレーザ(Distributed Feed Back Laser)は、DFBレーザの特徴である優れた単一モード性を有し、さらに、量子ドットの3次元キャリア閉じ込めによってキャリア密度の変化に対する屈折率の変化が小さくなるため、スペクトル線幅の狭い発振光が得られると期待されている。なお、量子ドットDFBレーザに関しては例えば非特許文献1などがある。
【非特許文献1】Jin Soo Kim, et al., "InAs-InAlGaAs Quantum Dot DFB Lasers Based on InP(001)", IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS, VOL.18, NO.4, pp.595-597, FEBRUARY 15, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、このような量子ドットレーザは、半導体基板と格子定数の異なる半導体材料(歪み材料)を用い、半導体基板に格子整合するように歪んだまま成長することが可能な膜厚(2次元臨界膜厚)以上に成長させることによって3次元化するStranski-Krastanov(S−K)成長様式を利用した自己形成量子ドットを活性層に用いている。
なお、このようにして形成された自己形成量子ドット(S−K量子ドット)は、図8に示すように、下地に臨界膜厚以下(例えば1〜2原子層の膜厚)の2次元的に広がったウェッティングレイヤ(濡れ層;WL)101を伴っている。
【0004】
また、図8に示すように、このようにして形成された自己形成量子ドット(S−K量子ドット)100の形状は、横方向サイズが高さの5〜10倍程度になっており、扁平な形状をしている。
さらに、一般に、量子ドット100は、半導体基板102よりも長波側の組成波長を有する半導体材料が用いられるため、量子ドット100を形成する半導体材料の格子定数は、半導体基板102の格子定数よりも大きくなり、量子ドット内部には圧縮歪みがかかっている。
【0005】
このような量子ドット100の形状及び歪みの状態から、従来の量子ドットレーザは、全て光の電界が水平方向で振動するTEモードで発振するレーザとなっている。
しかしながら、このような量子ドットレーザでは、スペクトル線幅の狭い理想的なレーザが実現できなかった。
本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、単一モード性に優れ、スペクトル線幅の狭い半導体レーザを実現できるようにした、量子ドット半導体レーザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、本発明の量子ドット半導体レーザは、半導体基板と、基底準位におけるTMモード利得がTEモード利得よりも大きい量子ドットと、量子ドットに連なるように形成され、量子ドットと同一の材料・組成の半導体材料からなる半導体層とを有する活性層と、回折格子とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
したがって、本発明の量子ドット半導体レーザによれば、単一モード性に優れ、スペクトル線幅の狭い半導体レーザを実現できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面により、本発明の実施の形態にかかる量子ドット半導体レーザについて説明する。
[第1実施形態]
まず、本発明の第1実施形態にかかる量子ドット半導体レーザについて、図1〜図5を参照しながら説明する。
【0009】
本実施形態にかかる量子ドット半導体レーザは、基底準位におけるTMモード利得がTEモード利得よりも大きい量子ドットを活性層(発光層)に用い、内部(共振器内)に回折格子を備える量子ドット半導体レーザ[例えば分布帰還型(DFB;Distributed Feed-Back)レーザ]である。
つまり、本量子ドット半導体レーザは、例えば図1及び図4に示すように、n型InP基板[ここではn−InP(100)基板;半導体基板]1上に、n型InPバッファ層2と、回折格子3Aを有するn型InGaAsP回折格子層3と、n型InP下側クラッド層4と、SCH(Separate Confinement Heterostructure;分離閉じ込めヘテロ構造)層(下側バリア層;光閉じ込め層)5と、量子ドットを用いた活性層(量子ドット活性層)6と、SCH層(上側バリア層:光閉じ込め層)7と、p型InP上側クラッド層8と、p型InP埋込層(ブロック層;電流狭窄層)9と、n型InP埋込層(ブロック層;電流狭窄層)10と、p型InGaAsPコンタクト層11と、p側電極12と、n側電極13と、SiO2膜(絶縁膜)14とを備え、活性層6及び回折格子3Aを含むメサ構造15が埋込層9,10によって埋め込まれた埋込型量子ドット半導体レーザとして構成される。
【0010】
ここで、活性層6は、図3に示すように、半導体基板1の格子定数よりも大きな格子定数を有する半導体材料からなる量子ドット(圧縮歪み量子ドット)20と、ウェッティング層(量子ドット20に連なるように形成され、量子ドット20と同一の材料・組成の半導体材料からなる半導体層)21と、半導体基板1の格子定数よりも小さな格子定数を有する半導体材料からなるバリア層(引張歪みバリア層)22とを有する量子ドット層23を、複数積層させたものとして構成される。なお、図3では、簡略化して、活性層6は、6つの量子ドット20を積層したものを示しているが、実際には、後述するように、13個以上50個以下の量子ドット20を積層したものとしている。
【0011】
ここでは、活性層は、図3に示すように、複数のInAs量子ドット20を近接積層させてなるInAs複合量子ドット(コラムナ量子ドット)24と、InAsウェッティング層21と、複合量子ドット24の側面に接するように形成されたInGaAsPバリア層(サイドバリア層)22とを備えるものとして構成される。
本実施形態では、量子ドット20が上下に接合されて基底準位におけるTMモード利得がTEモード利得よりも大きい複合量子ドット24が形成されるように、量子ドット層23を複数積層させて活性層6を形成している。
【0012】
具体的には、複合量子ドット24のアスペクト比が1以上3.8以下になるようにしている。ここで、アスペクト比は、最下層の量子ドット20の底面から最上層の量子ドット20の頂点までの高さを、量子ドット20の横方向サイズで割ったものである。
また、量子ドット層23の平均歪み量が0.5%以上になるようにしている。ここで、量子ドット層23の平均歪み量は、下記式(1)で定義される。
((εba×tba)+(εQD×tQD))/(tba+tQD)・・・(1)
ここで、εbaはバリア層の歪み量(%)、tbaはバリア層の膜厚(原料供給量)(ML)、εQDは量子ドットの歪み量(%)、tQDは量子ドットの原料供給量(ML)である。なお、歪み量の符号は、引張歪みを+、圧縮歪みを−とする。
【0013】
以下、複合量子ドット24のアスペクト比や量子ドット層23の平均歪み量をこのように設定することでスペクトル線幅の狭い半導体レーザが得られる原理を説明する。
まず、半導体レーザのスペクトル線幅Δνは、下記式(2)の関係を満たす。
【0014】
【数1】

【0015】
ここで、αは線幅増大係数と呼ばれるもので、下記式(3)で与えられる。
【0016】
【数2】

【0017】
ここで、λは発振波長、neffは有効屈折率、gは利得、Nはキャリア密度である。
上記式(2)より、線幅増大係数αが小さいほどスペクトル線幅が狭くなることが分かる。上記式(3)より、プラズマ効果と呼ばれる、キャリア密度による有効屈折率の変化(∂neff/∂N)が小さくなれば、線幅増大係数αが小さくなることが分かる。したがって、有効屈折率の変化(∂neff/∂N)が小さいほど、スペクトル線幅が狭くなることが分かる。
【0018】
これまで、量子ドット内に蓄積したキャリアは3次元的に閉じ込められているため、発振光の電界によってキャリアが振動せず、∂neff/∂Nは0になると考えられるため、量子ドットレーザにおいては理論的に線幅増大係数αが0になり、スペクトル線幅が狭くなると考えられていた。
しかし、本発明者らが詳細に検討した結果、有効屈折率のキャリア密度による変化(∂neff/∂N)には、ウェッティング層(ウェッティングレイヤ;WL)に蓄積されたキャリアによる成分と、量子ドットに蓄積されたキャリアによる成分とが含まれていることがわかった。
【0019】
つまり、有効屈折率のキャリア密度による変化(∂neff/∂N)は、下記式(4)で与えられる。
【0020】
【数3】

【0021】
このため、量子ドットレーザにおいて0になるのは上記式(4)の右辺第2項だけであり、右辺第1項は必ずしも0にはならない。特に、TEモードで発振する従来の量子ドットレーザにおいては、全て、上記式(4)の右辺第1項は0になり得ないことがわかった。なぜなら、TEモードで発振する従来の量子ドットレーザにおいては、ウェッティング層(WL)に蓄積されたキャリアは、電界振動に追従するように水平方向に振動することが可能だからである。
【0022】
これに対し、TMモードで発振する量子ドットレーザであれば、発振光の電界振動が垂直方向であり、ウェッティング層(WL)に蓄積されたキャリアは、ウェッティング層(WL)の量子井戸的な性質によって垂直方向に動くことができないため、上記式(4)の右辺第1項のプラズマ効果[即ち、キャリア密度による有効屈折率の変化(∂neff/∂N)]を抑制することができ、この結果、線幅増大係数αを小さくすることができ、スペクトル線幅の狭い理想的な量子ドットレーザを実現することが可能となることを見出した。
【0023】
次に、本発明者らは、TMモードで発振する量子ドットレーザを実現すべく、特性を支配する量子ドット部分について検討を行なった。
そして、本発明者らは、複数の量子ドットを近接積層した複合量子ドット(柱状の結合量子ドット;コラムナ量子ドット)を用いて、実際にTMモードで発振させるのに必要とされる、基底準位におけるTMモード利得がTEモード利得よりも大きい量子ドットの形成に成功し、TMモード発振に必要な量子ドットに要求される条件を得た。その条件について、以下、具体的に説明する。
【0024】
TMモード利得がTEモード利得よりも大きい量子ドットを実現するには、コラムナ量子ドット24のアスペクト比と量子ドット層23の平均歪み量に下限が存在することが分かった。
ここで、図2は、量子ドット層23の平均歪み量とコラムナ量子ドット24のアスペクト比を変化させた場合[即ち、量子ドット層23を構成するバリア層22の膜厚(バリア層の原料供給量)と、量子ドット20の積層数(量子ドット層23の積層数)とを変化させた場合]のTE偏波とTM偏波の発光強度比(TE/TM)の変化をデシベル(dB)で示したものである。
【0025】
ここでは、n型InP(100)基板1上に、2次元膜厚換算で2MLに相当する原料を供給することによって形成されたInAs量子ドット20(圧縮歪み3.2%;量子ドット20を構成する半導体材料の格子定数が半導体基板1に対して3.2%大きい)及びInAsウェッティング層21と、引張歪み3.7%(バリア層22を構成する半導体材料の格子定数が半導体基板1に対して3.7%小さい)のInGaAsPバリア層(組成波長1μm)22とからなる量子ドット層23を複数積層することによってInAsコラムナ量子ドット24を形成している。この場合、1つの量子ドット20は、高さが1.2nm程度、横方向サイズが16nm程度になる。
【0026】
図2に示すように、TMモード利得がTEモード利得よりも大きくするためには、即ち、発光強度比(TE/TM)を0dB未満とするためには、コラムナ量子ドット24のアスペクト比を0.6以上(好ましくは1.0以上)にすることが必要であることが分かった。
これは、コラムナ量子ドット24の形状を高くして縦長にすることによって、面内の圧縮歪みよりも高さ方向の圧縮歪みを受けやすくなるため、面内方向で引張歪みを受けやすくなり、その結果、軽い正孔との遷移成分が増大することによると考えられる。
【0027】
一方、コラムナ量子ドット24のアスペクト比の上限は、量子ドット20が高さ方向に有効な量子閉じ込めを有する条件で決まり、高さ50nm以下であることが必要である。自己形成量子ドットの横方向サイズの平均値の範囲は13nm〜40nm程度であり、最小のものは13nm程度であるため、複合量子ドット24のアスペクト比の上限は3.8程度となる。なお、自己形成量子ドットの高さの平均値の範囲は1〜3nm程度である。
【0028】
具体的には、量子ドット20の横方向サイズが13nmで、高さが1nm(量子ドット層23の膜厚が1nm)の場合、量子ドット層23を8層以上(好ましくは13層以上)、50層以下の範囲内で積層させることによって、複合量子ドット24のアスペクト比を0.6以上(好ましくは1.0以上)、3.8以下の条件を満たすようにすることができる。
【0029】
また、図2に示すように、TMモード利得がTEモード利得よりも大きくするためには、即ち、発光強度比(TE/TM)を0dB未満とするためには、量子ドット層23の平均歪み量[上記式(1)参照]を0.5%以上(好ましくは0.6%以上)にすることが必要であることが分かった。
これは、量子ドット層23の平均歪み量を0.5%以上(好ましくは0.6%以上)にすることによって、量子ドット内部を面内方向で引張歪みを受けた状態にできるためであると考えられる。
【0030】
具体的には、上述のように、InGaAsPバリア層22の引張歪み量を3.7%とし、InAs量子ドット20の原料供給量を2MLとする場合(この場合、圧縮歪み3.2%のInAs量子ドットが形成される)、バリア層22の原料供給量を2.4ML以上にして成長させることによって、上記式(1)より、量子ドット層23の平均歪み量が0.5%以上の条件を満たすようにすることができる。
【0031】
特に、高効率のレーザを製造する観点からは、発光強度比(TE/TM)が−3dB以下にするのが好ましく、したがって、量子ドット層23の平均歪み量を1.0%以上にするのが好ましい。
具体的には、上述のように、InGaAsPバリア層22の引張歪み量を3.7%とし、InAs量子ドット20の原料供給量を2MLとする場合(この場合、圧縮歪み3.2%のInAs量子ドットが形成される)、バリア層22の原料供給量を3.2ML以上にして成長させることによって、上記式(1)より、量子ドット層23の平均歪み量が1.0%以上の条件を満たすようにすることができる。
【0032】
なお、ここでは、InGaAsPバリア層22を引張歪み3.7%、組成波長1μmとしているが、これに限られるものではない。例えば、光通信波長帯で発光するコラムナ量子ドット24を形成する場合、バリア層22の組成波長は0.9〜1.2μm程度になるようにすれば良いため、InxGa1-xAs1-yyバリア層22の組成は、例えば図5に示すように、組成波長(ここでは0.9μm,1.0μm,1.1μm,1.2μm)及び引張歪み量(ここでは3.2%,3.7%,4.2%)に応じて設定すれば良い。
【0033】
以下、本実施形態にかかる量子ドット半導体レーザ(コラムナ量子ドットを有する埋込型量子ドット半導体レーザ)の製造方法について説明する。
なお、各層の結晶成長には、例えば有機金属気相成長(Metalorganic Vapor-Phase Epitaxy:MOVPE)法を用いる。
まず、図4(A)に示すように、n−InP(100)基板(半導体基板)1を、例えば、反応室内の圧力を50Torrとし、ホスフィン(PH3)雰囲気で600〜650℃に加熱(昇温)する。
【0034】
温度が安定した後、PH3を供給したままの状態で、さらにトリメチルインジウム(TMIn)、ジシラン(Si26)を供給することによって、図4(A)に示すように、n−InP基板1上にn−InPバッファ層2を例えば100nm成長させ、次いで、TMIn、PH3、トリエチルガリウム(TEGa)、アルシン(AsH3)、Si26を供給することによってn−InGaAsP層(回折格子下地層)3Xを例えば30nm成長させ、その後、n−InPキャップ層4Aを例えば10nm成長させる。
【0035】
その後、例えばリソグラフィ及びエッチングなどの方法によって、図4(B)に示すように、n−InPキャップ層4A及びn−InGaAsP層3Xの一部又は全部を周期的に除去し、図1に示すように、その上にn−InPクラッド層4を例えば300〜500nmエピタキシャル成長させる。これにより、図1及び図4(B)に示すように、n−InPバッファ層2、回折格子3Aを有するn−InGaAsP回折格子層3、n−InPクラッド層4を順に積層した構造が形成される。なお、n−InPキャップ層4Aはn−InPクラッド層4の一部となる。
【0036】
ここでは、n−InPバッファ層2、n−InGaAsP回折格子層3、n−InPクラッド層4(n−InPキャップ層4Aを含む)のn型不純物濃度は、例えば5×1017cm-3である。
次に、図1に示すように、n−InPクラッド層4上に、InxGa1-xAs1-yyからなるSCH層(バリア層)5を例えば100nm成長させる。ここでは、InxGa1-xAs1-yyバリア層(SCH層)5の組成を例えばx=0.78、y=0.52とすることで、組成波長1.2μmで無歪みのバリア層を形成している。
【0037】
その後、PH3雰囲気で、例えば量子ドット成長温度である430〜450℃まで降温する。
温度が安定した後、以下のようにして、図3に示すように、InxGa1-xAs1-yyバリア層(SCH層)5上に、コラムナ量子ドット24を備える活性層(量子ドット活性層)6を形成する。
【0038】
まず、TMIn及びAsH3を供給することによって、InxGa1-xAs1-yyバリア層(SCH層)5上にInAs量子ドット(自己形成量子ドット)20を形成する。
この場合、成長初期には2次元成長によりウェッティング層(濡れ層)21が形成されるが、臨界膜厚を越えた時点で、ウェッティング層21上に3次元島状のInAs量子ドット20が形成されることになる。
【0039】
ここでは、V族原料(AsH3)とIII族原料(TMIn)との供給比(V/III比)が5〜20の範囲内になるように、III族原料(TMIn)を2次元膜厚(層厚)換算で1〜3MLに相当する流量(供給量;供給条件)で供給するようにしている。これより、高さ1〜3nm、横方向サイズ13〜40nmの量子ドット20が形成される。
このようにしてInAs量子ドット20を形成した後、TMIn、TEGa、AsH3、PH3を供給することによって、図3に示すように、引張歪みInxGa1-xAs1-yyバリア層22を成長させる。これにより、InAs量子ドット20及び引張歪みInxGa1-xAs1-yyバリア層22からなる量子ドット層23が形成される。
【0040】
ここで、InxGa1-xAs1-yyバリア層22の組成は、引張歪み量だけでは決まらず、組成波長との組み合わせで決まる。例えば、光通信波長帯で発光するコラムナ量子ドット24を形成する場合、InxGa1-xAs1-yyバリア層22の組成は、例えば図5に示すように、組成波長(ここでは0.9μm,1.0μm,1.1μm,1.2μm)及び引張歪み量(ここでは3.2%,3.7%,4.2%)に応じて設定すれば良い。
【0041】
一方、引張歪みInxGa1-xAs1-yyバリア層22の原料供給量(膜厚)は、量子ドット20の原料供給量とバリア層22の歪み量から決定することができる。
例えば、引張歪みInxGa1-xAs1-yyバリア層22の引張歪み量を3.7%とし、InAs量子ドット20の原料供給量を2MLとする場合(この場合、圧縮歪み3.2%のInAs量子ドットが形成される)、引張歪みInxGa1-xAs1-yyバリア層22を2.4ML以上にして成長させることによって、上記式(1)より、量子ドット層23の平均歪み量が0.5%以上の条件を満たすようにすることができる。
【0042】
特に、高効率のレーザを製造する観点からは、発光強度比(TE/TM)が−3dB以下にするのが好ましいが、この場合、引張歪みInxGa1-xAs1-yyバリア層22の引張歪み量を3.7%とし、InAs量子ドット20の原料供給量を2MLとする場合(この場合、圧縮歪み3.2%のInAs量子ドットが形成される)、バリア層22の原料供給量を3.2ML以上にして成長させることによって、上記式(1)より、量子ドット層23の平均歪み量が1.0%以上の条件を満たすようにすることができる。
【0043】
その後、図3に示すように、InAs量子ドット20と引張歪みInxGa1-xAs1-yyバリア層22とからなる量子ドット層23を繰り返して成長させることによって、複数のInAs量子ドット20を積層してなるコラムナ量子ドット24が形成される。
ここで、コラムナ量子ドット24の高さは、量子ドット層23の積層数(繰り返し回数)によって制御することができる。例えば、1つの量子ドット20の横方向サイズが13nmで、高さが1nm(量子ドット層の膜厚が1nm)の場合、量子ドット層23を8層以上(好ましくは13層以上)、50層以下の範囲内で積層させることによって、複合量子ドット24のアスペクト比を0.6以上(好ましくは1.0以上)、3.8以下の条件を満たすようにすることができる。
【0044】
このようにして、コラムナ量子ドット24を含む活性層(量子ドット活性層)6を形成した後、図1に示すように、InxGa1-xAs1-yyバリア層(SCH層)7を例えば100nm成長させ、さらに、p−InPクラッド層8の一部を例えば100nm成長させる。ここでは、InxGa1-xAs1-yyバリア層(SCH層)7の組成を例えばx=0.78、y=0.52とすることで、組成波長1.2μmで無歪みのバリア層を形成している。
【0045】
その後、SiO2マスクを施し、例えばリソグラフィ及びエッチングなどの方法によって、メサ構造15を形成する。
そして、メサ構造15を埋め込むようにp−InP埋込層(ブロック層)9を成長させた後、さらに、n−InP埋込層(ブロック層)10を成長させる。
次に、SiO2マスクを除去し、全面にp−InPクラッド層8の一部を例えば2〜3μm成長させる。なお、p−InPクラッド層8のp型不純物濃度は例えば1×1018cm-3である。
【0046】
次いで、p−InPクラッド層8上に、p−InGaAsPコンタクト層11を成長させる。なお、p−InGaAsPコンタクト層11のp型不純物濃度は例えば1×1019cm-3である。
その後、へき開によって光の出射する軸方向の端面が形成され、共振器構造(キャビティ)が形成される。なお、素子の両端面には反射防止膜を形成しても良い。このようにして量子ドット半導体レーザが製造される。
【0047】
したがって、本実施形態にかかる量子ドット半導体レーザによれば、単一モード性に優れ、スペクトル線幅の狭い半導体レーザを実現できるという利点がある。
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態にかかる量子ドット半導体レーザについて、図6を参照しながら説明する。
【0048】
本実施形態にかかる量子ドット半導体レーザは、上述の第1実施形態のものが埋込型量子ドット半導体レーザであるのに対し、リッジ型量子ドット半導体レーザである点で異なる。
つまり、本量子ドット半導体レーザは、基底準位におけるTMモード利得がTEモード利得よりも大きい量子ドットを活性層(発光層)に用い、回折格子を備える量子ドット半導体レーザ(例えばDFBレーザ)であり、例えば図6に示すように、n型InP基板(半導体基板)1上に、必要に応じてn型InPバッファ層(図示せず)と、n型InP下側クラッド層4と、SCH(Separate Confinement Heterostructure;分離閉じ込めヘテロ構造)層(下側バリア層;光閉じ込め層)5と、コラムナ量子ドットを用いた活性層(量子ドット活性層)6と、SCH層(上側バリア層:光閉じ込め層)7と、p型InP上側クラッド層8と、p型InGaAsコンタクト層32と、p側電極12と、n側電極13とを備え、p型InP上側クラッド層8、p型InGaAsコンタクト層32及びp側電極12を含むリッジ構造30を有し、このリッジ構造30の側面に回折格子31が形成されたリッジ型量子ドット半導体レーザとして構成される。なお、図6では、上述の第1実施形態(図1参照)と同一のものには同一の符号を付している。
【0049】
次に、本実施形態にかかる量子ドット半導体レーザ(コラムナ量子ドットを有する埋込型量子ドット半導体レーザ)の製造方法について、図6を参照しながら説明する。
まず、図6に示すように、n型InP基板1上に、例えばMOVPE法によって、必要に応じてn型InPバッファ層(図示せず)、n型InPクラッド層4、SCH層(下側バリア層)5、コラムナ量子ドットを用いた活性層6、SCH層(上側バリア層)7、p型InPクラッド層8、p型InGaAsコンタクト層32を成長させる。
【0050】
次に、図6に示すように、例えばリソグラフィ及びエッチングなどの方法によって、側面に回折格子31を有するリッジ構造30を形成する。
次いで、リッジ構造30の上面に、即ち、p型InGaAsコンタクト層32上にp側電極12を形成し、n型InP基板1の裏面にn側電極13を形成する。
その後、へき開によって光の出射する軸方向の端面が形成され、共振器構造(キャビティ)が形成される。なお、素子の両端面には反射防止膜を形成しても良い。このようにして量子ドット半導体レーザが製造される。
【0051】
なお、その他の構成及び動作は、上述の第1実施形態のものと同じであるため、ここでは説明を省略する。
したがって、本実施形態にかかる量子ドット半導体レーザによれば、単一モード性に優れ、スペクトル線幅の狭い半導体レーザを実現できるという利点がある。
[その他]
なお、上述の各実施形態では、コラムナ量子ドットによって、基底準位におけるTMモード利得がTEモード利得よりも大きい量子ドットを実現しているが、これに限られるものではなく、基底準位におけるTMモード利得がTEモード利得よりも大きい量子ドットは、以下のように、例えばリソグラフィを用いて作製することもできる。
【0052】
まず、図7(A)に示すように、半導体基板40上に、バッファ層41、量子ドット材料層42[所望の量子ドット高さに相当する膜厚(例えば20nm)]、無歪みバリアキャップ層43(例えば10nm)、SiO2膜44(例えば100nm)を順に成長させる。
次に、図7(B)に示すように、例えばリソグラフィ、ドライエッチングによって、SiO2膜44、無歪みバリアキャップ層43、量子ドット材料層42を除去して、箱型の量子ドット42Aを形成する。ここでは、量子ドット42Aに連なるように量子ドット材料層42の一部が残るようにしている。つまり、量子ドット42Aに連なるように、量子ドット42Aと同一の材料・組成の半導体材料からなる半導体層42Bが形成される。
【0053】
その後、図7(C)に示すように、半導体層42B上に、引張歪みバリア層45を、各量子ドット42A間の隙間が埋まる程度まで成長させる。
そして、図7(D)に示すように、SiO2膜44を除去した後、無歪みのバリア層46を全面に成長させ(これにより無歪みのバリアキャップ層43は無歪みバリア層46の一部となる)、最後に、量子ドット42Aの結晶性を回復させるために、例えば750℃程度の所定温度で例えば1分程度の所定時間だけアニールを行なう。
【0054】
このようにして、例えばリソグラフィを用いて、半導体基板上に、基底準位におけるTMモード利得がTEモード利得よりも大きい量子ドット42A、及び、量子ドット42Aに連なるように形成され、量子ドット42Aと同一の材料・組成の半導体材料からなる半導体層42Bを有する活性層47を備える量子ドット半導体レーザを作製することもできる。
【0055】
なお、半導体基板、量子ドット、バリアの具体的な構成については、上述の各実施形態と同様に設定すれば良い。また、ここでは、図示していないが、量子ドット半導体レーザは、上述の各実施形態と同様に、回折格子を備えるものとして構成される。
また、上述の各実施形態では、埋込型とリッジ型の代表的な量子ドット半導体レーザ(DFBレーザ)を例に挙げて説明しているが、これに限られるものではなく、本発明は、活性層が、基底準位におけるTMモード利得がTEモード利得よりも大きい量子ドットと、量子ドットに連なるように形成され、量子ドットと同一の材料・組成の半導体材料からなる半導体層とを有する量子ドット半導体レーザに広く適用することができ、例えば、活性層以外の構成及び製造方法は、他の構成及び製造方法であっても良い。
【0056】
また、上述の各実施形態では、本発明をDFBレーザに適用した場合を例に説明しているが、これに限られるものではなく、例えば、分布反射型(Distributed BraggReflector)レーザに本発明を適用することもできる。
また、上述の各実施形態では、n型InP基板(第1の導電型の半導体基板)上に形成した半導体レーザを例に説明しているが、これに限られるものはない。例えばp型InP基板(第2の導電型の半導体基板)上に形成しても良いし、高抵抗InP基板(SI−InP基板)上に形成しても良い。
【0057】
また、上述の各実施形態では、バリア層をInGaAsPからなる半導体結晶により構成した場合に本発明を適用した例を説明しているが、これに限られるものではなく、例えば、InGaAs,InAlGaAs,InAlGaP,GaInNAs等の他のIII−V族化合物半導体材料(III−V族化合物半導体混晶)により構成した場合にも本発明を適用することができる。
【0058】
また、上述の各実施形態では、量子ドットをInAs半導体結晶により構成した場合に本発明を適用した例を説明しているが、これに限られるものではなく、例えばInGaAs,InAsSb,InGaAsP,InAsP等の他のIII−V族化合物半導体材料(III−V族化合物半導体混晶)により構成した場合にも本発明を適用することができる。
【0059】
また、上述の第1実施形態では、埋込層をp型InP層及びn型InP層としているが、これに限られるものではなく、例えば、Fe−InP層などの半絶縁性InP埋込層(高抵抗半導体層)としても良い[SI−PBH(semi-insulating blocked planar buried heterostructure)構造又はSI−BH(Semi-Insulating Buried Heterostructure)構造]。
【0060】
また、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することができる。
以下、上述の各実施形態に関し、更に、付記を開示する。
(付記1)
半導体基板と、
基底準位におけるTMモード利得がTEモード利得よりも大きい量子ドットと、前記量子ドットに連なるように形成され、前記量子ドットと同一の材料・組成の半導体材料からなる半導体層とを有する活性層と、
回折格子とを備えることを特徴とする量子ドット半導体レーザ。
【0061】
(付記2)
前記活性層は、前記半導体基板の格子定数よりも大きな格子定数を有する半導体材料からなる量子ドットと、前記半導体層としてのウェッティング層と、前記半導体基板の格子定数よりも小さな格子定数を有する半導体材料からなるバリア層とを有する量子ドット層を、前記量子ドットが上下に接合されて基底準位におけるTMモード利得がTEモード利得よりも大きい複合量子ドットが形成されるように、複数積層させて構成されることを特徴とする、付記1記載の量子ドット半導体レーザ。
【0062】
(付記3)
前記複合量子ドットのアスペクト比は、1以上3.8以下であることを特徴とする、付記2記載の量子ドット半導体レーザ。
(付記4)
前記量子ドット層の平均歪み量は、0.5%以上であることを特徴とする、付記2又は3記載の量子ドット半導体レーザ。
【0063】
(付記5)
前記活性層及び前記回折格子を含むメサ構造と、
前記メサ構造を埋め込む埋込層とを備えることを特徴とする、付記1〜4のいずれか1項に記載の量子ドット半導体レーザ。
(付記6)
リッジ構造を備え、
前記リッジ構造の側面に前記回折格子が形成されていることを特徴とする、付記1〜4のいずれか1項に記載の量子ドット半導体レーザ。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる量子ドット半導体レーザ(埋込型量子ドット半導体レーザ)の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の第1実施形態にかかる量子ドット半導体レーザにおける量子ドット層の平均歪み量とコラムナ量子ドットのアスペクト比とを変化させた場合のTE偏波とTM偏波の発光強度比(TE/TM)の変化を示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態にかかる量子ドット半導体レーザを構成するコラムナ量子ドット及びバリア層からなる活性層の構成を示す模式的断面図である。
【図4】(A),(B)は、本発明の第1実施形態にかかる量子ドット半導体レーザを構成する回折格子部分の構成及びその作製方法を示す模式的断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態にかかる量子ドット半導体レーザを構成する引っ張り歪みInxGa1-xAs1-yyバリア層の歪み量及び組成波長との関係における組成例を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態にかかる量子ドット半導体レーザ(リッジ型量子ドット半導体レーザ)の構成を示す模式図である。
【図7】(A)〜(D)は、本発明の各実施形態の変形例にかかる量子ドット半導体レーザの構成及び製造方法を示す模式的断面図である。
【図8】従来の量子ドット半導体レーザに用いられているS−K量子ドット構造及び光の偏波方向の関係を示す模式図である。
【符号の説明】
【0065】
1 n型InP基板(半導体基板)
2 n型InPバッファ層
3 n型InGaAsP回折格子層
3A 回折格子
3X n型InGaAsP層
4 n型InP下側クラッド層
4A n型InPキャップ層
5 SCH層(下側バリア層)
6 活性層(量子ドット活性層)
7 SCH層(上側バリア層)
8 p型InP上側クラッド層
9 p型InP埋込層(ブロック層)
10 n型InP埋込層(ブロック層)
11 p型InGaAsPコンタクト層
12 p側電極
13 n側電極
14 SiO2膜(絶縁膜)
15 メサ構造
20 InAs量子ドット
21 InAsウェッティング層
22 InGaAsPバリア層
23 量子ドット層
24 InAs複合量子ドット(コラムナ量子ドット)
30 リッジ構造
31 回折格子
32 p型InGaAsコンタクト層
40 半導体基板
41 バッファ層
42 量子ドット材料層
42A 量子ドット
42B 半導体層
43 無歪みバリアキャップ層
44 SiO2
45 引張歪みバリア層
46 無歪みバリア層
47 活性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
基底準位におけるTMモード利得がTEモード利得よりも大きい量子ドットと、前記量子ドットに連なるように形成され、前記量子ドットと同一の材料・組成の半導体材料からなる半導体層とを有する活性層と、
回折格子とを備えることを特徴とする量子ドット半導体レーザ。
【請求項2】
前記活性層は、前記半導体基板の格子定数よりも大きな格子定数を有する半導体材料からなる量子ドットと、前記半導体層としてのウェッティング層と、前記半導体基板の格子定数よりも小さな格子定数を有する半導体材料からなるバリア層とを有する量子ドット層を、前記量子ドットが上下に接合されて基底準位におけるTMモード利得がTEモード利得よりも大きい複合量子ドットが形成されるように、複数積層させて構成されることを特徴とする、請求項1記載の量子ドット半導体レーザ。
【請求項3】
前記複合量子ドットのアスペクト比は、1以上3.8以下であることを特徴とする、請求項2記載の量子ドット半導体レーザ。
【請求項4】
前記量子ドット層の平均歪み量は、0.5%以上であることを特徴とする、請求項2又は3記載の量子ドット半導体レーザ。
【請求項5】
前記活性層及び前記回折格子を含むメサ構造と、
前記メサ構造を埋め込む埋込層とを備えることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の量子ドット半導体レーザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−38193(P2009−38193A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200763(P2007−200763)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、総務省、「ナノ技術を活用した超高機能ネットワーク技術の研究開発」委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】