説明

金属モール付きガラス及びその製造装置

【課題】モール付きガラス及びその製造装置の提供。
【解決手段】ガラス11及びこのガラス11の周囲を部分的に囲う金属モール12を型51に配置し、型51に形成されるキャビティ53内に溶融樹脂を流し込み、金属モール12、ガラス11及び樹脂が一体形成された金属モール部14と、ガラス11に樹脂だけが一体形成された樹脂モール部15とを備える金属モール付きガラス10において、この金属モール付きガラス10は、金属モール部14の一端と樹脂モール部15の一端とが交差している交差部17、18を含み、この交差部17、18において、金属モール12は、樹脂モール部15に臨む部分が切欠かれていることを特徴とする。
【効果】溶融樹脂が交差部を通過する際に、溶融樹脂は切欠きを通って金属モール部から樹脂モール部へ流れる。このため溶融樹脂を円滑に流し込むことができ、金属モールが溶融樹脂により動かされる心配はなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属モール、ガラス及び樹脂が一体形成された金属モール部と、ガラスに樹脂だけが一体形成された樹脂モール部とを備える金属モール付きガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の窓に用いられるガラスとして、ガラスの周縁を樹脂で支持し、この樹脂に装飾用の金属モールを配置したモール付きガラスが知られている。
このようなモール付きガラスを図9に基づいて説明する。
【0003】
図9は従来のモール付きガラスの基本構成を説明する図であり、モール付きガラス100は、ガラス101と、このガラス101の周囲に配置される金属モール102と、これらの金属モール102及びガラス101を支持する樹脂103とから構成される。
【0004】
このモール付きガラス100は、金属モール102、ガラス101及び樹脂103が一体形成された金属モール部104と、ガラス101に樹脂103だけが一体形成された樹脂モール部105と、金属モール部104の一端と樹脂モール部105の一端とが交差している交差部106、107とを有する。
【0005】
このような、金属モールが配置されたガラスを製造する型としてモール付きガラスの成形型が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−44921公報(図5)
【0006】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図10は従来のモール付きガラスの製造方法を説明する図であり、モール付きガラスの成形型110は、下型111及び上型112と、これらの下型111及び上型112の間に形成され溶融樹脂が流し込まれるキャビティ113と、下型111の上面に配置され金属モール114を支持するためのモール溝115とから構成される。ガラス116は上型112に支持される。
【0007】
モール付きガラスを製造する際には、キャビティ113内に矢印(1)で示されるように溶融された溶融樹脂を外部から流し込み、一定時間経過後に樹脂が固まった後に上型112を外し金属モール114、ガラス116及び図示しない樹脂が一体形成されたモール付きガラスをモール付きガラスの成形型から取り出す。
【0008】
ところで、このようなモール付きガラスの成形型110で、図9に示されるような金属モールが部分的に配置されるモール付きガラスを製造することがある。
この場合、図9の交差部106から交差部107へ向かって溶融樹脂が流れる際には、図10(b)の矢印(2)で示すように一部の溶融樹脂が金属モール114の端部に衝突する。
【0009】
溶融樹脂が金属モール114に衝突することにより、金属モール114がモール溝115から外れることがある。
モール溝115から金属モール114が外れた状態で溶融樹脂が固まると、モール付きガラスの外観を損なう。
【0010】
金属モールがずれないモール付きガラス又はモール付きガラスの製造装置の提供が望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、金属モールがずれないモール付きガラス及びモール付きガラスの製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、ガラス及びこのガラスの周囲を部分的に囲う金属モールを型に配置し、前記型に形成されるキャビティ内に溶融樹脂を流し込み、前記金属モール、前記ガラス及び樹脂が一体形成された金属モール部と、前記ガラスに樹脂だけが一体形成された樹脂モール部とを備える金属モール付きガラスにおいて、
この金属モール付きガラスは、前記金属モール部の一端と前記樹脂モール部の一端とが交差している交差部を含み、
この交差部において、前記金属モールは、前記樹脂モール部に臨む部分が切欠かれていることを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る発明は、溶融樹脂を流し込んだ際に発生するウェルドラインが、金属モールの下に配置されていることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る発明は、ガラスを上型で支持し、金属モールを下型で支持し、これらの上型及び下型の間に形成されるキャビティ内に前記上型に配置された溶融樹脂供給穴から溶融樹脂を流し込み、前記溶融樹脂を冷却することにより前記金属モール、前記ガラス及び樹脂が一体的に形成される金属モール付きガラスを得る金属モール付きガラス製造装置において、
前記溶融樹脂供給穴は、前記金属モールを臨むように配置されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、金属モールは、樹脂モール部に臨む部分が切欠かれている。溶融樹脂が交差部を通過する際に、溶融樹脂は切欠きを通って金属モール部から樹脂モール部へ又は樹脂モール部から金属モール部へ流れる。このため溶融樹脂を円滑に流し込むことができる。溶融樹脂を円滑に流し込むことができるため、金属モールが溶融樹脂により動かされる心配はなくなる。
【0016】
請求項2に係る発明によれば、ウェルドラインは金属モールで隠される。ウェルドラインが外から見えないため、金属モール付きガラスの外観を良好に保つことができる。
【0017】
請求項3に係る発明では、溶融樹脂供給穴は、金属モールの下面に溶融樹脂が流し込まれるよう配置される。溶融樹脂は金属モールの下面に向かって流し込まれる。この際、流し込みに伴う樹脂圧力が金属モールを下型へ押す作用を発揮する。この結果、金属モールの横ずれを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る金属モール付きガラスを説明する図であり、金属モール付きガラス10は、ガラス11と、このガラス11の周囲を部分的に囲う金属モール12と、これらの金属モール12及びガラス11を支持する樹脂13とから構成される。
【0019】
この金属モール付きガラス10は、金属モール12、ガラス11及び樹脂13が一体形成された金属モール部14と、ガラス11に樹脂13だけが一体形成された樹脂モール部15と、金属モール部14の一端と樹脂モール部15の一端とが交差している交差部17、18とを有する。
【0020】
図2は図1の2a部及び2b部拡大図であり、(a)に示すように、金属モール12の端部21に切欠かれた切欠き部22が形成されている。
また、(b)に示すように、金属モール12の端部23に切欠かれた切欠き部24が形成されている。
【0021】
図3は図2の3矢視図であり、切欠き部22は矩形に切欠かれている。
切欠き部22は端部21を矩形に切欠く他、端部21に金属モール12をわずかに残した上で矩形に切欠く等、交差部(図1の交差部17、18)に溶融樹脂が流れやすくなる形状のものであればよい。
【0022】
仮に、端部21に金属モール12をわずかに残した上で矩形に切欠いた場合には、金属モール12の強度を維持することができる。
このような金属モール付きガラスの製造方法を次図以降で説明する。
【0023】
図4は本発明に係る金属モール付きガラス製造装置を説明する図であり、(a)に示される下型31は、溶融樹脂が流し込まれる主溝32と、この主溝32の内部に配置され金属モールを支持するための副溝33と、この副溝33内に複数設けられ金属モールの位置を保持するための永久磁石等の位置保持手段34と、主溝32の内側に開けられガラスを抑えるための下部アーム(図示しない)が図面表裏方向に移動することができる下型窓35と、下型上面36の4隅に配置され上型(詳細は後述)に嵌合される際に上型の位置を決めるための位置決め穴38とから構成される。下型31は地面等に固定されている固定部材である。
【0024】
(b)に示されるのは上型41は、下面に配置され溶融樹脂が流し込まれる上型溝42と、この上型溝42から上型上面43まで図面表裏方向に延び溶融樹脂を注入するため副溝((a)の符号33)の上部に配置される溶融樹脂供給穴45、45と、この溶融樹脂供給穴45、45に繋げられ溶融樹脂供給穴45、45に溶融樹脂を供給するための溶融樹脂供給手段46、46と、上型溝42の内側に開けられガラスを抑えるための上部アーム(図示しない)が図面表裏方向に移動することができる上型窓47と、位置決め穴((a)の符号38)に嵌合されるよう下面の4隅に配置された位置決めピン48とから構成される。上型41は図示しない昇降アームにより、図面表裏方向に移動される。
【0025】
即ち、金属モール付きガラス製造装置50は、下型((a)の符号31)及び上型41からなる型51と、図示しない昇降アームから構成される。
【0026】
以上の構成からなる金属モール付きガラス製造装置の作用を次に述べる。
図5は本発明に係る金属モール付きガラス製造装置の作用を説明する図であり、金属モール付きガラスを製造する際には、(a)に示すように副溝33の上部に金属モール12を配置し、上型41の下部にガラス11を配置し、配置した後に上型41を下降させ下型31と合わせる。
【0027】
上型41を下降させ下型31と合わせると、(b)に示されるように下型31及び上型41の間にはキャビティ53が形成される。
このとき、金属モール12は白抜き矢印で示されるように位置保持手段34により下方へ引っ張られ、副溝33上からずれにくくされている。
キャビティ53が形成されたらキャビティ53内に溶融樹脂を流し込む。溶融樹脂を流す際の作用は次図で説明する。
【0028】
なお、位置保持手段34に永久磁石54を用いた場合には、磁力の低下を防ぐため永久磁石54の回りを絶縁体55で囲むことが望ましい。
位置保持手段34に空気穴及びこの空気穴から空気を吸い込む吸引機を用いた場合にはこのような絶縁体55を設ける必要がない。
【0029】
図6は本発明に係る金属モール付きガラス製造装置に溶融樹脂を注入する際の作用を説明する図であり、キャビティ(図5(b)の符号53)が形成されたら、(a)に示すように溶融樹脂供給手段46から矢印(3)で示されるように溶融樹脂供給穴45へ溶融樹脂を流し込む。
【0030】
溶融樹脂供給穴45へ流し込まれた溶融樹脂は、溶融樹脂供給穴45を通り矢印(4)で示されるように型51内部へ流し込まれる。
【0031】
溶融樹脂供給穴45は、金属モールに溶融樹脂が流し込まれるよう配置される。溶融樹脂は金属モールの下面に向かって流し込まれる。この際、流し込みに伴う樹脂圧力が金属モールを下型へ押す作用を発揮する。この結果、金属モールの横ずれを防止することができる。
【0032】
(b)は(a)のb−b線断面図であり、溶融樹脂が流し込まれると、矢印(5)で示すように溶融樹脂が金属モール12が配置されている場所から、金属モール12が配置されていない場所を通過する。金属モール12の端部には切欠き部22が形成されている。金属モール12の端部には切欠き部22が形成されているため、矢印(6)で示すように溶融樹脂は金属モール12を動かすことなく通過することができる。
【0033】
溶融樹脂を円滑に流し込むことができるため、金属モールが溶融樹脂により動かされる心配はなくなる。
【0034】
図7は本発明に係る金属モール付きガラス製造装置に溶融樹脂が注入された際の作用を説明する図であり、溶融樹脂を流し込み始めてから一定時間が経過すると、矢印(7)で示されるように流し込まれた溶融樹脂が、この溶融樹脂に対して逆方向から流し込まれる溶融樹脂と衝突する。
【0035】
溶融樹脂と溶融樹脂が衝突すると、その衝撃により縞状のウェルドライン57が衝突した場所を中心に発生する。
このウェルドライン57は、商品の外観性に影響を及ぼす。従って、商品の外観性に影響を及ぼしにくい場所、具体的には金属モールの下面にウェルドライン57を形成させることが望ましい。
【0036】
ウェルドライン57を金属モールの下面に配置するには溶融樹脂供給穴45の位置を調節したり、各々の溶融樹脂供給手段46から注入される単位時間あたりの溶融樹脂の量を調節する必要がある。
ウェルドライン57を金属モールの下面に配置するための方法の一例を次図において説明する。
【0037】
図8はウェルドラインを金属モールの下に配置するための方法を説明するフロー図であり、ステップ(以下STと記す)01で溶融樹脂供給穴p1、p2の位置を仮決めする。次に金属モール及び窓ガラスをセットし(ST02)、溶融樹脂を溶融樹脂供給穴から注入する(ST03)。溶融樹脂を注入し始めてから一定時間経過後に溶融樹脂が衝突しウェルドラインが発生する(ST04)。
【0038】
ウェルドラインが発生した際に、ウェルドラインが金属モールの下面に配置されている場合(ST05)には、ST01で仮決めされた溶融樹脂供給穴の位置p1及びp2がそのまま溶融樹脂供給穴の位置P1及びP2となる(ST06)。
【0039】
ウェルドラインが発生した際に、ウェルドラインが金属モールの下面に配置されていない場合(ST05)には、再度溶融樹脂供給穴の位置p3及びp4を仮決めし(ST07)、金属モールの下面にウェルドラインが配置されるまでST02〜ST04を繰り返す。
【0040】
上記の方法により溶融樹脂供給穴の位置を決めた場合、ウェルドラインは、金属モールの下部に配置される。金属モールの下部にウェルドラインが配置されるため、ウェルドラインが目立たない。ウェルドラインが目立たないため、金属モール付きガラスの外観を良好に保つことができる。
【0041】
また、仮決めする位置p1及びp2を副溝の上部にすることにより、溶融樹脂供給穴の位置P1及びP2が必ず副溝の上部に配置されることになる。
【0042】
溶融樹脂供給穴の位置P1及びP2が副溝の上部に配置されることにより、溶融樹脂の注入時には、溶融樹脂が金属モールを抑えることにより金属モールのずれを防止することができる。
【0043】
尚、本発明に係る金属モールは、金属モールの両端に切欠き部(図1の符号22)を配置したが、流し込む樹脂の量や交差部の角度により金属モールが動かされにくい場合に切欠き部を一端にのみ配置することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の金属モール付きガラスは、車輌用窓ガラスに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る金属モール付きガラスを説明する図である。
【図2】図1の2a部及び2b部拡大図である。
【図3】図2の3矢視図である。
【図4】本発明に係る金属モール付きガラス製造装置を説明する図である。
【図5】本発明に係る金属モール付きガラス製造装置の作用を説明する図である。
【図6】本発明に係る金属モール付きガラス製造装置に溶融樹脂を注入する際の作用を説明する図である。
【図7】本発明に係る金属モール付きガラス製造装置に溶融樹脂が注入された際の作用を説明する図である。
【図8】ウェルドラインを金属モールの下に配置するための方法を説明するフロー図である。
【図9】従来のモール付きガラスの基本構成を説明する図である。
【図10】従来のモール付きガラスの製造方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0046】
10…金属モール付きガラス、11…ガラス、12…金属モール、14…金属モール部、15…樹脂モール部、17、18…交差部、24…切欠き部、31…下型、41…上型、45…溶融樹脂供給穴、50…金属モール付きガラス製造装置、51…型、53…キャビティ、57…ウェルドライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス及びこのガラスの周囲を部分的に囲う金属モールを型に配置し、前記型に形成されるキャビティ内に溶融樹脂を流し込み、前記金属モール、前記ガラス及び樹脂が一体形成された金属モール部と、前記ガラスに樹脂だけが一体形成された樹脂モール部とを備える金属モール付きガラスにおいて、
この金属モール付きガラスは、前記金属モール部の一端と前記樹脂モール部の一端とが交差している交差部を含み、
この交差部において、前記金属モールは、前記樹脂モール部に臨む部分が切欠かれていることを特徴とする金属モール付きガラス。
【請求項2】
前記溶融樹脂を流し込んだ際に発生するウェルドラインが、前記金属モールの下に配置されていることを特徴とする請求項1記載の金属モール付きガラス。
【請求項3】
ガラスを上型で支持し、金属モールを下型で支持し、これらの上型及び下型の間に形成されるキャビティ内に前記上型に配置された溶融樹脂供給穴から溶融樹脂を流し込み、前記溶融樹脂を冷却することにより前記金属モール、前記ガラス及び樹脂が一体的に形成される金属モール付きガラスを得る金属モール付きガラス製造装置において、
前記溶融樹脂供給穴は、前記金属モールを臨むように配置されたことを特徴とする金属モール付きガラスの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−137187(P2009−137187A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316888(P2007−316888)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】